説明

ガラス基板のレーザ加工装置

【課題】円弧等の任意の形状に沿ったガラス基板の切断が容易であり、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができ、更にゴミの発生が防止されたガラス基板のレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】例えば、波長が250〜400nmのパルスレーザ光2を、結像レンズ5により切断対象のガラス基板10に結像させ、X−Yテーブル11によりガラス基板10を移動させて、切断予定線に沿ってレーザ加工痕20を形成する。この場合に、スリット部材3の横長の開口4の長手方向が切断予定線の方向に向かうようにスリット部材3を回転させる。これにより、ガラス基板10に照射されるレーザ光のビーム形状は横長の方向性を有すると共に、形成されたレーザ加工痕20は切断予定線の方向を向く方向性を有するものとなり、ガラス基板10が不規則に割れることはなく、切断予定線に沿って割れが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面強化ガラス基板をダイシングするのに好適のガラス基板のレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの製造に際し、ガラス基板上に露光及び現像を繰り返して、所定の画素及び回路からなるパターンを形成する。この場合に、1枚のガラス基板に対し、複数枚のパネル分のパターンを同時に形成し、その後、ガラス基板を分割することにより、個々のパネルを製造している。従来、このガラス基板の分割は、切断予定線を回転刃で線状に研削する機械的なダイシング加工により行っている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この機械的ダイシング加工においては、ダイシングブレードを低速度で切断予定線に沿って移動させる必要があり、1個のガラス基板当たりの処理時間が長くかかり、製造タクトが悪いという問題点がある。また、ダイシング工程の途中でガラス基板が割れやすく、歩留が低いと共に、回転刃による切削に際し、切削屑が発生するという問題点もある。特に、表面強化ガラスの場合は、上記問題点が更に著しくなる。
【0004】
よって、例えばレーザ加工によりガラスに加工痕を形成する技術が提案されている。即ち、ガラスの表面又は深さ方向の内部にレーザ光を点状又は線状に集光することにより、エネルギ密度の高いレーザ光をガラスに照射して、ガラスの切断予定線に沿って加工痕を形成し、加工痕に沿って機械的に力を印加することにより、ガラスを切断予定線で容易に切断することができる。レーザ光によるガラス基板の加工は、機械的ダイシング加工に比して、製造タクトを短縮できるだけではなく、ガラス基板が加工の途中で割れにくく、切削屑も発生しにくいため、特に、表面強化ガラスの加工に好適である。
【0005】
例えば、特許文献2には、YAGレーザ発振装置によりガラス基板にレーザ光を照射した後、ガラス基板表面のレーザ光が照射された位置をホイールカッターで走査することにより、例えば合わせガラス等の表面にクラックを発生させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献3においては、ガラスに照射するビームスポット形状を30mm以上の最大寸法を有する細長いものにし、これをガラス上で線状に走査することにより、ガラスに部分的にクラックを生じさせている。
【0007】
特許文献4においては、レーザ加工装置において、ガラス等の切断対象物への加工速度を向上させるために、切断対象物の厚さ方向及び厚さ方向に直交する方向に延びるように1対の線状焦点を形成し、ガラス等の切断対象物の内部を改質する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−229831号公報
【特許文献2】特開2005−104819号公報
【特許文献3】特開2008−273837号公報
【特許文献4】特開2008−36641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献2乃至4の技術は、いずれも、切断予定線が直線状であり、円形又は曲線状の切断予定線については、これらの技術を適用することは困難であり、又は円形又は曲線状の切断予定線に沿うきれいな割断を行うことは困難である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、円弧等の任意の形状に沿ったガラス基板の切断が容易であり、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができ、更にゴミの発生が防止されたガラス基板のレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るガラス基板のレーザ加工装置は、
パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記パルスレーザ光を切断対象のガラス基板に対して結像させる光学レンズ系と、
前記光学レンズ系の入射側の光軸に設けられた横長の開口を有し、前記光軸を回転中心として回転可能のスリット部材と、
前記ガラス基板を、前記光学レンズ系及び前記スリット部材に相対的に移動させることにより、前記ガラス基板における前記レーザ光の結像位置を切断予定線に沿って相対的に移動させる移動駆動部材と、
前記スリット部材を前記光軸を回転中心として回転させて前記開口の長手方向を前記切断予定線の方向に向ける回転駆動部材と、
前記レーザ光源のパルスレーザ光の出射を制御すると共に、前記移動駆動部材及び前記回転駆動部材に対し、前記結像位置の移動に連動して、前記スリット部材の回転を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする。
【0012】
このガラス基板のレーザ加工装置において、前記スリット部材は、一方向に対向して離隔する2枚の第1スリット板と、この第1スリット板に対して光軸方向に重なるように設けられ前記一方向に交差する方向に対向して離隔する2枚の第2スリット板とを有し、
前記第1スリット板が横長の前記開口の対向する端縁を規定し、前記第2スリット板が前記開口の他の対向する端縁を規定するように構成することができる。
【0013】
また、前記切断予定線が湾曲している場合、前記制御装置は、前記回転駆動部材により、前記スリット部材を前記パルスレーザ光のガラス基板における横長の照射パターンの長手方向が前記切断予定線の接線方向を向くように回転させることが好ましい。
【0014】
この場合に、前記制御装置は、前記切断予定線上で、前記パルスレーザ光を所定の間隔をおいて照射して、所定間隔で連なるレーザ加工痕を形成し、その後、適宜の2個のレーザ加工痕の間に、パルスレーザ光を照射するように、レーザ光の照射を制御することができる。
【0015】
本発明においては、前記光学レンズ系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とすると共に、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定することが好ましい。
【0016】
また、前記ガラス基板が、表面強化ガラス基板である場合、前記光学レンズ系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば、波長が250〜400nmのレーザ光を使用し、このレーザ光を光学レンズ系により切断対象のガラス基板に結像させ、移動駆動部材により前記ガラス基板を前記光学レンズ系及び前記スリット部材に相対的に移動させて、切断予定線に沿ってレーザ加工痕を形成する。この場合に、スリット部材の横長の開口の長手方向が前記切断予定線の方向に向かうように回転駆動部材が前記スリット部材を回転させるので、ガラス基板に照射されるレーザ光のビーム形状は横長の方向性を有すると共に、形成されたレーザ加工痕は切断予定線の方向を向く方向性を有するものとなる。従って、本発明においては、レーザ光の照射で、ガラス基板が不規則に割れることはなく、切断予定線に沿って割れが発生する。従って、本発明により、高精度で切断予定線に沿って、ガラス基板を割断することができる。
【0018】
また、スリット部材として、一方向に対向して離隔する2枚の第1スリット板と、この第1スリット板に対して光軸方向に重なるように設けられ前記一方向に交差する方向に対向して離隔する2枚の第2スリット板とを有するものを使用すれば、容易に横長の開口を形成することができる。そして、切断予定線が湾曲している場合は、スリット部材をその開口の長手方向が前記切断予定線の接線方向を向くように回転させるだけで、容易に、開口の長手方向を切断予定線の方向に向けることができる。
【0019】
そして、切断予定線が円弧のように閉じている場合、レーザ照射により割れが直ちには生じない条件で、1周にわたって適宜の間隔で複数個のレーザ加工痕を形成し、その後、適宜の2個のレーザ加工痕の間にパルスレーザ光を照射すると、このパルスレーザ光の照射により円弧に沿ってガラス基板を割断することができる。
【0020】
また、本発明のガラス基板のレーザ加工装置は、表面強化ガラス基板に適用すると、有益である。表面強化ガラス基板は、表面の性質が硬いため、ダイシング刃を使用した機械的ダイシングにおいてはなおさらのこと、レーザダイシングでもその焦点位置がガラス基板の表面である場合は、加工中に割れてしまう。本発明は、光学レンズ系によるレーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定しているので、表面強化ガラス基板でも、加工中に割れることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態のレーザ加工装置を示す斜視図である。
【図2】同じくその動作を示す斜視図である。
【図3】同じくそのレーザ加工方法を示す模式図である。
【図4】スリット部材の構成を示す平面図である。
【図5】表面強化ガラス基板の透過特性を示すグラフ図である。
【図6】本発明の比較例のレーザ加工方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置を示す斜視図である。X−Yテーブル11の上に、被加工物である露光現像処理後の表面強化ガラス基板等のガラス基板10が載置される。そして、このガラス基板10の上方にスリット部材3と結像レンズ5(光学レンズ系)が配置されている。そして、スリット部材3には、パルスレーザ発振器1からパルスレーザ光2が入力されるようになっている。
【0023】
スリット部材3には、横長の例えば矩形の開口4が形成されており、パルスレーザ発振器1からのレーザ光2は、この開口4の形状に整形されて結像レンズ5に入射する。このスリット部材3の開口4と結像レンズ5はレーザ光2の光軸上に配置されている。この開口4を透過したレーザ光2は結像レンズ5によりガラス基板10に結像する。このレーザ光2は、ガラス基板10の表面において、開口4の形状の相似形である横長の例えば矩形のビームパターンで照射され、加工痕20が形成される。この加工痕20は開口4の相似形とはならないが、開口4の長手方向と同一の方向に延びて、開口4と同一の方向性を有している。
【0024】
スリット部材3には、開口4の中心とレーザ光2の光軸とを一致させた状態で、スリット部材3をレーザ光2の光軸を回転中心として回転させる回転駆動部材(図示せず)が設置されており、スリット部材3、従って、開口4は、この回転駆動部材により光軸の周りに回転駆動されるようになっている。これにより、開口4は、その長手方向を回転させることができる。
【0025】
スリット部材3は、図4に示すように、2個の適長間隔をおいて対向するように配置された第1スリット板31と、第1スリット板31の対向方向に直交する方向に適長間隔をおいて対向するように配置された2個の第2スリット板32とから構成され、各第1スリット板31及び第2スリット板32の対向縁により、矩形の開口4が形成される。これにより、第1スリット板31の間隔及び第2スリット板32の間隔を適宜調整することにより、開口4の大きさを調整することができる。
【0026】
X−Yテーブル11は、X方向及びこのX方向に直交するY方向に移動することにより、その上に載置されたガラス基板10を、平面内で、任意の軌跡で移動させることができる。本実施形態においては、このX−Yテーブル11が、ガラス基板10を、結像レンズ5及びスリット部材3に対して相対的に移動させる移動駆動部材として機能する。
【0027】
このレーザ加工装置においては、X−Yテーブル11の移動、パルスレーザ発振器1のパルスレーザ光の出射、及びスリット板4の回転は、制御装置12により制御される。X−Yテーブル11上に表面強化ガラス基板等のガラス基板10が載置された後、制御装置12は、パルスレーザ発振器1からパルスレーザ光を間欠的に出射させ、パルスレーザ光2を結像レンズ5によりガラス基板10上に集光させると共に、X−Yテーブル11を駆動して、パルスレーザ光のガラス基板上の照射位置を、切断予定線に沿って移動させる。このとき、制御装置12は、図2に示すように、ガラス基板11におけるレーザ光の横長の照射パターンが、切断予定線の接線方向を向くように、スリット部材3を回転させる。なお、ガラス基板10が移動している間に、パルスレーザ発振器1からレーザ光2を照射しても良いし、ガラス基板10を移動させた後一旦停止させた状態で、パルスレーザ発振器1からレーザ光2を照射しても良い。また、結像レンズ5は、焦点距離が異なるものを交換できるようにすることができる。これにより、加工対象のガラス基板10の表面性状等に応じて焦点深度が最適の結像レンズ5を選択して、レーザ加工を行うことができる。パルスレーザ光2は、通常、波長が250〜400nmであり、結像レンズ5は、その焦点位置が、ガラス基板10の厚さ方向の内部であり、焦点深度がガラス基板10の厚さよりも短く設定され、好ましくはガラス基板10の厚さの1/100以下の範囲に設定されている。
【0028】
パルスレーザ光42の波長は、上述のように、通常、250〜400nmである。図5は、横軸に波長をとり、縦軸にレーザ光の透過率をとって、表面強化ガラスの透過特性を示すグラフ図である。波長が532nmのレーザ光の場合、ガラス基板に対する透過率が高く、即ち、ガラス基板におけるエネルギの吸収率が悪く、ガラス基板に加工痕を形成しにくい。これに対し、水銀ランプでいうi線(波長365nm)付近で、エネルギの吸収が始まり、加工痕を形成できるようになる。また、波長が266nmのレーザ光を使用することにより、極めて高いエネルギ吸収率を得ることができる。よって、250〜400nmの波長域において、ガラス基板に加工痕を形成することができる。
【0029】
次に、本実施形態の動作について説明する。図3に示すように、切断予定線22が円弧である場合、制御装置12は、結像レンズ5によるパルスレーザ光2のガラス基板上の結像位置がこの切断予定線に沿って移動するように、X−Yテーブル11を駆動する。そして、制御装置12は、パルスレーザ発信器1から間欠的にパルスレーザ光2を出射させ、図2及び図3に示すように、ガラス基板10に対して、適宜の間隔で加工痕20を形成する。このとき、スリット部材3の開口4は横長の矩形であるので、ガラス基板上のパルスレーザ光2の照射パターンも横長の矩形になるが、制御装置12は、パルスレーザ光2のガラス基板上の横長の照射パターンが切断予定線22の接線方向を向くように、スリット部材3を回転させる。従って、パルスレーザ光2の照射により形成されるガラス基板10上の加工痕20は、その輪郭は矩形から若干崩れたものとなるが、開口4により規定される横長の方向性を有するものとなり、その加工痕20の長手方向が切断予定線22の接線方向を向いたものとなる。
【0030】
そして、図3に示すように、先ず、パルスレーザ光の照射エネルギ及び加工痕20の間隔を、1回のパルスレーザ光の照射ではガラス基板10に割れが生起しない程度のものにして、円弧の切断予定線22に沿って、複数個の加工痕20を形成する。このようにして、一旦、円弧の切断予定線22の全域に、加工痕20を適長間隔で形成した後、任意の2個の加工痕20の間に、1個の加工痕21を形成する。これにより、この加工痕21を基点として、加工痕20を連絡するように、ガラス基板10に割れが入り、ガラス基板10を円形に割断することができる。このとき、複数個の加工痕20は、横長の方向性を有しており、更に、この加工痕20の長手方向が、切断予定線22の接線方向を向いているので、各加工痕20から発生する割れは、加工痕20の長手方向に進行し、この割れの方向が切断予定線22の接線方向となる。隣接する加工痕20も、同様に、長手方向が切断予定線22の接線方向を向いているので、隣接する2個の加工痕20から発生する割れは、相互に相手方に向かって伝搬する。これにより、各加工痕20から発生する割れは乱雑な方向に向かうことなく、切断予定線22の円弧に沿って伝搬し、この円弧に沿って割れが連結され、確実に、円形のガラス基板を割断することができる。
【0031】
例えば、波長が532nmのレーザ光を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を25J/cmとして、表面強化ガラス基板の内部にレーザ光を照射した場合、1ショットでガラス基板にクラックが進展し、ガラス基板全体が乱雑に割れてしまう。これに対し、波長が355nmのレーザ光を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を10J/cmとして、表面強化ガラス基板の内部にレーザ光を照射した場合、ガラス基板の内部に加工痕が形成されるが、その1ショットではガラス基板に割れが発生することはない。
【0032】
なお、パルスレーザ光2の焦点位置は、ガラス基板の表面でも良い。パルスレーザ光2を相互に近傍の位置に照射していくと、即ち、パルスレーザ光2の照射位置の間隔が短いと、複数回のパルスレーザ光の照射によりガラス基板には乱雑な方向に亀裂が進展し、不規則な割れが発生してしまう。しかし、パルスレーザ光2の照射位置を、十分に大きな間隔に設定すれば、焦点位置がガラス基板の表面であっても、パルスレーザ光2の照射により不規則な割れが発生することはない。
【0033】
しかし、このパルスレーザ光2の焦点位置を、ガラス基板10の内部とすることにより、このガラス基板の乱雑な割れ発生をより一層確実に防止することができる。即ち、パルスレーザ光2の焦点位置を、ガラス基板10の厚さ方向の内部とし、焦点深度をガラス基板10の厚さよりも短く設定し、好ましくはガラス基板10の厚さの1/100以下に設定することにより、表面強化ガラス基板であっても、その表面の改質部を避けて、その内部にレーザ光のエネルギを集中することができる。ガラス基板10が表面強化ガラス基板である場合は、レーザビームの焦点位置がガラス基板10の内部でなく、表面強化ガラス基板の表面の改質部にレーザエネルギが集中すると、ガラス基板10に乱雑なクラックが発生して乱雑に割れやすくなる。また、このパルスレーザ光の焦点深度が、ガラス基板の厚さ以上であると、パルスレーザ光がガラス基板の裏面にまで到達して、ガラス基板が割れてしまう。このため、パルスレーザ光の焦点深度は、ガラス基板の厚さよりも短くし、好ましくは、ガラス基板の厚さの1/100以下の範囲とすることが望ましい。
【0034】
複数個の加工痕20のうち、一部の加工痕20を形成するパルスレーザ光2の焦点位置と、他の加工痕20を形成するパルスレーザ光2の焦点位置とを、ガラス基板10の厚さ方向について異ならせても良いことは勿論である。例えば、一部の加工痕20を形成するためのレーザ光2として、波長が266nmのパルスレーザ光を使用し、他の加工痕20を形成するためのレーザ光2として、波長が355nmのパルスレーザ光を使用し、その焦点位置を前記一部の加工痕用のレーザ光の方が浅く、他の加工痕用のレーザ光の方が深くなるように設定することができる。このように、照射位置の相違により、パルスレーザ光2の焦点位置を、ガラス基板10の深さ方向に異ならせることにより、エネルギを集中させる位置がガラス基板10の深さ方向に異なり、エネルギを集中させる領域が重なってしまうことを防止できる。
【0035】
本実施形態においては、横長の加工痕20の長手方向が、図3に示すように、切断予定線22の接線方向をなすように、切断予定線22に対するパルスレーザ光2の結像位置に応じて、スリット部材3の回転位置を調整する。このため、前述のごとく、加工痕20から割れが伝搬する場合、加工痕20の方向性により切断予定線22が延びる方向に先ず微小な割れが生起され、隣接する加工痕20からも同様に切断予定線22が延びる方向に微小な割れが生起されるので、双方の加工痕20からの微小な割れが接続され、切断予定線22に沿って割れが発生する。このような効果を得るために、切断予定線22に対するパルスレーザ光2の結像位置に応じて、スリット部材3の回転位置を調整することが必要である。一方、このスリット部材30を回転させないと、図6に示すように、ガラス基板10上の加工痕23は、その長手方向が、切断予定線22上の位置に拘わらず、常に同一の方向、即ち、固定されたスリットの開口の長手方向に揃ってしまう。このように、加工痕23の方向性が一定の方向に揃うと、各加工痕23から微小な割れが発生した場合に、その微小な割れは接続されず、また、各加工痕23から発生する微小な割れは、乱雑な方向を向いてしまい、円形の切断予定線22に沿う割断ができなくなってしまう。従って、本発明においては、スリット部材3の開口4により規定されるガラス基板10上の横長のレーザビームのパターンが、切断予定線22の接線方向になるように、スリット部材3をガラス基板10上のパルスレーザ光2の結像位置に応じて回転させる。なお、スリット部材3の回転は、必ずしも、ガラス基板10上の横長のレーザビームのパターンが、切断予定線22の接線方向になるようにする場合に限らない。ガラス基板10上の横長のレーザビームのパターンは、切断予定線22の形状に応じて、切断予定線22の接線方向を基に、それから適宜修正した方向とすることができる。
【0036】
なお、パルスレーザ光2のビーム形状は、上記実施形態のように、横長の矩形に限らず、例えば、横長の楕円形等、種々の形状を使用することができる。また、切断予定線22の形状は、円形に限らず、楕円形、矩形等種々の任意の形状のものに、本発明は適用可能である。また、切断予定線は、円形のように、閉じた形状でなくてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:レーザ光源
2:パルスレーザ光
3:スリット部材
4:開口
5:結像レンズ
10:ガラス基板
11:X−Yテーブル
12:制御装置
20,21,22:加工痕
22:切断予定線
31,32:スリット板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記パルスレーザ光を切断対象のガラス基板に対して結像させる光学レンズ系と、
前記光学レンズ系の入射側の光軸に設けられた横長の開口を有し、前記光軸を回転中心として回転可能のスリット部材と、
前記ガラス基板を、前記光学レンズ系及び前記スリット部材に相対的に移動させることにより、前記ガラス基板における前記レーザ光の結像位置を切断予定線に沿って相対的に移動させる移動駆動部材と、
前記スリット部材を前記光軸を回転中心として回転させて前記開口の長手方向を前記切断予定線の方向に向ける回転駆動部材と、
前記レーザ光源のパルスレーザ光の出射を制御すると共に、前記移動駆動部材及び前記回転駆動部材に対し、前記結像位置の移動に連動して、前記スリット部材の回転を制御する制御装置と、
を有することを特徴とするガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項2】
前記スリット部材は、一方向に対向して離隔する2枚の第1スリット板と、この第1スリット板に対して光軸方向に重なるように設けられ前記一方向に交差する方向に対向して離隔する2枚の第2スリット板とを有し、
前記第1スリット板が横長の前記開口の対向する端縁を規定し、前記第2スリット板が前記開口の他の対向する端縁を規定することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記切断予定線が湾曲しており、前記制御装置は、前記回転駆動部材により、前記スリット部材を前記パルスレーザ光のガラス基板における横長の照射パターンの長手方向が前記切断予定線の接線方向を向くように回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記切断予定線上で、前記パルスレーザ光を所定の間隔をおいて照射して、所定間隔で連なるレーザ加工痕を形成し、その後、適宜の2個のレーザ加工痕の間に、パルスレーザ光を照射することを特徴とする請求項3に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記光学レンズ系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とすると共に、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記ガラス基板は、表面強化ガラス基板であり、前記光学レンズ系は、前記レーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定することを特徴とする請求項5に記載のガラス基板のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−82589(P2013−82589A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224381(P2011−224381)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】