説明

ガラス基板装填治具及びガラス基板の製造方法

【課題】ガラス基板を二重に挿入防止することでガラス基板の外周端部にキズや欠けなどの欠陥を生じさせないガラス基板装填治具及びガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板装填治具10は、収納容器本体20の上端に装着され、二重挿入防止機構30を有する。二重挿入防止機構30は、ガラス基板が挿入部より一の収納部40に挿入される過程でガラス基板の外周縁部に接触すると共に、当該挿入部50の一部を塞ぐ位置に変位する複数の変位部材90を有する。変位部材90は、下端側の第1の端部92が第2のガイド溝72より中心側に突出し、上端側の第2の端部94が第2のガイド溝72の外側に退避した待機位置にある。また、ガラス基板Wが挿入部50を通過する過程で下端側の第1の端部92がガラス基板Wの外周縁部に押圧されて回動することで、上端側の第2の端部94が第2のガイド溝72より中心側に突出する挿入防止位置に変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス基板をガラス収納容器の複数の収納部の夫々に挿入するガラス基板装填治具及びガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気記録媒体用として使用されるガラス基板の製造ラインは、少なくとも以下の工程1〜工程7を含む。
(工程1)フロート法、フュージョン法、またはプレス成形法により成形されたガラス素基板を、中央部に円形孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面を面取り加工する(形状付与工程)。
(工程2)ガラス基板の内周または外周の少なくとも一方の側面部と面取り部に端面研磨する(研磨工程)。
(工程3)ガラス基板の上下主平面を研磨加工する(研磨工程)。
(工程4)ガラス基板を精密洗浄する(洗浄工程)。
(工程5)洗浄されたガラス基板を乾燥させる(乾燥工程)。
(工程6)乾燥したガラス基板の欠陥を目視又は光学方式表面観察機により検査する(検査工程)。
(工程7)検査したガラス基板をガラス基板収納容器に収納して包装する(出荷工程)。
【0003】
少なくとも上記工程1〜工程7を含むガラス基板の製造ラインにより製造されたガラス基板は製品として出荷される。
【0004】
このようなガラス基板の製造ライン各工程間においては、ガラス基板を搬送する手段として、複数のガラス基板を垂直状態の収納するガラス基板収納容器を用いている。
【0005】
このガラス基板収納容器は、各ガラス基板同士が接触しないように所定間隔毎に整列された状態に収納するように構成されているため、収納容器本体の上部開口にガラス基板の
挿入をガイドする挿入ガイド治具を装着して収納容器本体の内壁に形成された溝からなる各収納部にガラス基板を一枚ずつ容易に挿入できる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−95200号公報
【特許文献2】特開2009−76830号公報
【特許文献3】特開2007−261594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように収納容器本体の上部開口に挿入ガイド治具を装着した場合、各工程の作業が終了したガラス基板を一枚ずつ収納容器本体内の各収納部に挿入する際に挿入ガイド治具によってガラス基板の挿入位置がガイドされて挿入作業が容易に行えるが、同じ収納部に二枚目のガラス基板を誤って挿入して一枚目のガラス基板の外周端部に二枚目のガラス基板を接触させて、ガラス基板の外周端部にキズや欠けなどの欠陥を生じさせるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、二枚目のガラス基板の挿入を防止することでガラス基板の外周端部にキズや欠けなどの欠陥を生じさせる課題を解決したガラス基板装填治具及びガラス基板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1)本発明は、複数のガラス基板が整列された状態で一枚ずつ収納される複数の収納部を有する収納容器本体の上部開口に装着されるガラス基板装填治具であって、
前記複数の収納部に対向する位置に配され、前記ガラス基板が挿入される複数の挿入部と、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記ガラス基板が前記挿入部より前記収納部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、当該挿入部の一部を塞ぐ二重挿入防止機構と、
を備えたことを特徴とする。
(2)本発明の前記二重挿入防止機構は、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記各挿入部の前記ガラス基板の外周縁部が通過する位置に設けられた複数の変位部材を有する。
(3)本発明の前記変位部材は、
前記ガラス基板が前記挿入部を通過する際に当該ガラス基板の外周縁部に接触する第1の端部と、
前記ガラス基板の外周縁部が前記第1の端部に接触した後、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位する第2の端部と、
を有する。
(4)本発明の前記変位部材は、
前記挿入部の内部に回動可能に支持され、
前記第1の端部が当該挿入部を通過する前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、前記第2の端部が前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位するように設けられる。
(5)本発明の前記変位部材は、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部を有する。
(6)本発明の前記二重挿入防止機構は、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記各挿入部の前記ガラス基板の外周縁部が通過する位置に設けられた複数のスライド部材と、
前記複数のスライド部材の夫々を前記挿入部の一部を塞ぐ位置に付勢する複数の付勢部材と、
前記複数のスライド部材の夫々を前記挿入部から退避した位置に掛止する複数の掛止部材と、
を有する。
(7)本発明の前記掛止部材は、前記挿入部の内部に回動可能に支持され、
前記ガラス基板が前記挿入部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触する被接触部と、
前記スライド部材を前記挿入部から退避した位置に掛止する掛止部と、を有し、
前記被接触部は、前記挿入部に挿入される前記ガラス基板の外周縁部に接触して下方に押圧されると共に、前記掛止部は前記スライド部材に対する掛止を解除する。
(8)本発明の前記スライド部材は、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部を有する。
(9)本発明は、板形状を有するガラス基板の形状付与工程と、前記ガラス基板の研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程と、前記ガラス基板の乾燥工程と、前記ガラス基板の検査工程とを少なくとも有するガラス基板の製造方法において、
複数のガラス基板が整列された状態に収納される複数の収納部、及び当該複数の収納部に連通された上部開口を有する収納容器本体と、
前記収納容器本体の前記上部開口に装着される請求項1〜7の何れかに記載のガラス基板装填治具と、
前記ガラス基板装填治具の挿入部に設けられ、前記ガラス基板が前記挿入部より前記一の収納部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位する二重挿入防止機構と、を用いる。
(10)本発明の前記ガラス基板は、磁気記録媒体用ガラス基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス基板が挿入部より収納部に挿入される過程でガラス基板の外周縁部に接触すると共に、当該挿入部の一部を塞ぐ二重挿入防止機構を備えたため、既にガラス基板が挿入された収納部に別のガラス基板を挿入しようとしても当該挿入部からの2枚目のガラス基板の挿入が阻止されて収納部に挿入された1枚目のガラス基板に接触することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるガラス基板装填治具の実施例1の装着状態を示す斜視図である。
【図2A】ガラス基板装填治具の装着前の状態を示す斜視図である。
【図2B】ガラス基板装填治具の側面図である。
【図2C】二重挿入防止機構の変位部材を拡大して示す斜視図である。
【図3A】二重挿入防止機構の変位部材の変位を示す側面図である。
【図3B】ガラス基板が挿入された際の変位部材の状態を示す斜視図である。
【図4A】ガラス基板挿入前の二重挿入防止機構を示す側面図である。
【図4B】ガラス基板挿入時の二重挿入防止機構を示す側面図である。
【図4C】ガラス基板挿入後の二重挿入防止機構を示す側面図である。
【図5】本発明によるガラス基板装填治具の実施例2の装着状態を示す側断面図である。
【図6】実施例2の二重挿入防止機構を示す平面図である。
【図7A】実施例2の二重挿入防止機構を示す正面図である。
【図7B】実施例2の二重挿入防止機構を示す背面図である。
【図8A】実施例2のガラス基板挿入時の二重挿入防止機構を示す側面図である。
【図8B】実施例2のガラス基板挿入後の二重挿入防止機構を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明によるガラス基板装填治具の実施例1の装着状態を示す斜視図である。図1に示されるように、ガラス基板装填治具10は、各工程での処理が終了したガラス基板が挿入される収納容器本体20の上端に装着される。
【0014】
収納容器本体20は、上部開口22及び側面開口24を有する。尚、側面開口24は、収納容器本体20の種類によって設けられていない場合がある。また、収納容器本体20は、内部に上部開口22を通してガラス基板が一枚ずつ収納される複数の収納部40が形成されており、複数の収納部40に所定枚数のガラス基板が挿入されると、ガラス基板装填治具10が外される。その後、ガラス基板が挿入された収納容器本体20は、次工程に搬送され、又は蓋部材(図示は省略)によって上部開口22及び側面開口24が閉塞される。尚、複数の収納部40は、収納容器本体20の内壁から突出する仕切り壁によって仕切られており、夫々の上部が上部開口22に連通され、仕切り壁の無い中央部分が側面開口24に連通されている。
【0015】
本実施例のガラス基板としては、磁気記録媒体用のガラス基板が適用される。
【0016】
ガラス基板装填治具10は、長方形の枠体からなり、中央部分には上下方向に貫通する開口12が形成されている。そして、ガラス基板装填治具10が収納容器本体20の上部に装着されると、上記開口12が収納容器本体20の上部開口22と連通され、開口12を通してガラス基板の挿入が行える。
【0017】
さらに、ガラス基板装填治具10は、開口12の内部に上部開口22を通して複数の収納部40に連通される各挿入部50が設けられており、各挿入部50には二重挿入防止機構30が設けられている。二重挿入防止機構30は、ガラス基板を各収納部40に1枚ずつ収納できるように構成されており、同じ収納部40に2枚目のガラス基板が挿入されることを規制する。
【0018】
そのため、収納容器本体20の複数の収納部40のうち二重挿入防止機構30により塞がれていない挿入部50を通して、一の収納部40に各工程での作業が終了したガラス基板を一枚ずつ挿入できる。
【0019】
尚、納容器本体20の複数の収納部40の数と、ガラス基板装填治具10の挿入部50数は、同一又は非同一のどちらでも良い。納容器本体20の複数の収納部40の数とガラス基板装填治具10の挿入部50数を非同一とする場合、挿入部50のX方向のピッチは、収納部40のX方向のピッチの整数倍とすることが好ましい。
〔ガラス基板装填治具10の構成〕
図2Aはガラス基板装填治具10の装着前の状態を示す斜視図である。図2Bはガラス基板装填治具10の側面図である。
【0020】
図2A及び図2Bに示されるように、ガラス基板装填治具10は、収納容器本体20の長手方向(X方向)に延在する背面側(Yb方向)の第1のガイド部60と、第1のガイド部60と対向するように平行に配された正面側(Ya方向)の第2のガイド部70と、第1のガイド部60及び第2のガイド部70の両端を連結する一対の連結部80とを有する。
【0021】
第1のガイド部60は、収納容器本体20の上端縁部に載置され、内側壁面にはガラス基板の挿入位置をガイドする複数の第1のガイド溝62が上下方向に延在形成されている。また、各第1のガイド溝62は、X方向のピッチ(間隔)が収納容器本体20の複数の収納部40と対向するように形成されている。
【0022】
さらに、第1のガイド部60の底部には、一対の位置決めピン64(図4A参照)と位置決め孔(図示は省略)が形成されている。この一対の位置決めピン64と位置決め孔は、収納容器本体20の上面に形成された位置決め孔21と位置決めピン(図示は省略)に嵌合されて収納容器本体20とガラス基板装填治具10との相対位置を位置決めする。このように、ガラス基板装填治具10の角部底面には、一対の位置決めピン64及び一対の位置決め孔が設けられ、収納容器本体20の上面にも位置決めピン64と位置決め孔21が設けられている。従って、ガラス基板装填治具10の底面と収納容器本体20の上面との相対位置が各位置決めピン64と位置決め孔との嵌合位置によって適宜変更される。
【0023】
第2のガイド部70は、収納容器本体20の上端縁部に載置され、内側壁面にはガラス基板の挿入位置をガイドする複数の第2のガイド溝72と、各ガイド溝72に設けられた複数の二重挿入防止機構30とを有する。また、各第2のガイド溝72は、上記各第1のガイド溝62と対向し、且つX方向のピッチ(間隔)が収納容器本体20の収納部40と対向するように形成されている。
【0024】
各挿入部50は、上記第1のガイド部60の各ガイド溝62と第2のガイド部70の各ガイド溝72によって形成される。
【0025】
また、一対の連結部80は、夫々第1のガイド部60及び第2のガイド部70の長手方向(X方向)の端部にボルト82により固定されている。
【0026】
尚、ガラス基板装填治具10の第1のガイド溝62及び第2のガイド溝72の数と、収納容器本体20の収納部40の数とは、一致していても良いし、あるいは収納部40のピッチが小さい場合には、第1のガイド溝62及び第2のガイド溝72の数を収納部40の数より少なくして(第1のガイド溝62及び第2のガイド溝72のピッチを広くして)、挿入操作が容易に行えるように適宜調整しても良い。
〔二重挿入防止機構30の構成〕
図2Cは二重挿入防止機構30の変位部材90を拡大して示す斜視図である。図2Cに示されるように、二重挿入防止機構30は、ガラス基板が挿入部より一の収納部40に挿入される過程でガラス基板の外周縁部に接触すると共に、当該挿入部50の一部を塞ぐ位置に変位する変位部材90を有する。
【0027】
各変位部材90は、ガラス基板の外周縁部が通過する位置に設けられ、ガラス基板が挿入部50を通過する際に当該ガラス基板の外周縁部に接触する下端側の第1の端部92と、ガラス基板の外周縁部が第1の端部92に接触した後、挿入部50の一部を塞ぐ位置に変位する上端側の第2の端部94とを有する。第2の端部94は、先端部94aが挿入部50の中心側に向けてL字状に曲げられ、且つガラス基板を傷つけないように曲面に形成されている。
【0028】
また、変位部材90は、収納容器本体20の長手方向(X方向)に延在する軸100に挿通される挿通孔96を有しており、上下方向に回動可能に支持されている。尚、挿通孔96の位置は、重量バランスによって回動しないような位置に設けられている。さらに、第2の端部94の先端部94aは、周囲を囲む第2のガイド部70とは異なる色に着色または異なる色のテープが貼着されており、挿入部50の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部として機能する。
【0029】
図3Aは二重挿入防止機構30の変位部材90の変位を示す側面図である。図3Aに示されるように、ガラス基板Wが挿入される前の変位部材90は、下端側の第1の端部92が第2のガイド溝72より中心側に突出し、上端側の第2の端部94が第2のガイド溝72の外側に退避した待機位置(実線で示す)にある。そして、変位部材90は、ガラス基板Wが挿入部50を通過する過程で下端側の第1の端部92がガラス基板Wの外周縁部に押圧されて回動することで、上端側の第2の端部94が第2のガイド溝72より中心側に突出する挿入防止位置(一点鎖線で示す)に変位する。
【0030】
尚、第2のガイド溝72の内部には、変位部材90が待機位置のとき下端側の第1の端部92を係止する第1のストッパ74と、変位部材90が挿入防止位置のとき第2の端部94を係止する第2のストッパ76とが設けられている。
【0031】
図3Bはガラス基板Wが挿入される際の変位部材90の状態を示す斜視図である。図3Bに示されるように、ガラス基板Wがガラス基板装填治具10のガイド溝62、72にガイドされて挿入部50に挿入されると、変位部材90は下端側の第1の端部92がガラス基板Wの外周縁部に押圧されて待機位置から挿入防止位置に回動するため、上端側の第2の端部94の先端部94aが第2のガイド溝72よりガラス基板挿入側(中心側)に突出し、当該第2のガイド溝72の上部空間を閉塞する。
〔二重挿入防止機構30の動作〕
図4Aはガラス基板挿入前の二重挿入防止機構30の変位部材90を示す側面図である。図4Aに示されるように、ガラス基板Wが挿入される前は、変位部材90が待機位置にあるため、上端側の第2の端部94が第2のガイド溝72の外側(Ya方向)に退避し、下端側の第1の端部92が当該第2のガイド溝72の中心側(Yb方向)に突出している。
【0032】
図4Bはガラス基板挿入時の二重挿入防止機構30の変位部材90を示す側面図である。図4Bに示されるように、ガラス基板Wが垂直状態のまま挿入部50に挿入されると、当該ガラス基板Wの外周縁部が第1の端部92に当接する。そのため、変位部材90は、下端側の第1の端部92が当該第2のガイド溝72の外側(Ya方向)に変位すると共に、軸100を中心に回動する。
【0033】
図4Cはガラス基板挿入後の二重挿入防止機構30の変位部材90を示す側面図である。図4Cに示されるように、ガラス基板Wがガイド溝62、72にガイドされて収納容器本体20の収納部40に挿入されると、変位部材90は、上端側の第2の端部94の先端部94aが第2のガイド溝72より中心側(Yb方向)に突出する挿入防止位置に回動する。このように、変位部材90が時計方向に回動すると共に、第2の端部94の先端部94aによってガラス基板装填治具10の第2のガイド溝72の上部空間が閉塞される。そのため、先端部94aと当該先端部94aに対向するガイド溝62とY方向距離がガラス基板Wの直径よりも小さくなる。
【0034】
そのため、既に一枚目のガラス基板Wが挿入された同じ収納部40に二枚目のガラス基板Wを挿入しようとした場合、二枚目のガラス基板Wの外周縁部が第2の端部94の先端部94aに当接して下方への挿入操作が阻止される。
【0035】
これにより、既にガラス基板Wが挿入された収納部40に別のガラス基板Wを挿入しようとしても、二枚目のガラス基板Wは第2の端部94の先端部94aに当接して一枚目のガラス基板Wに接触することが防止される。よって、収納部40に挿入された一枚目のガラス基板Wが後から誤って挿入されるガラス基板Wによって損傷するといった事故が防止される。
【0036】
収納容器本体20の各収納部40の全てにガラス基板Wが一枚ずつ挿入され、収納容器本体20に所定枚数のガラス基板Wが挿入完了すると、ガラス基板装填治具10は、収納容器本体20から分離される。そして、各変位部材90は、上端側の第2の端部94が外側(Ya方向)に押し戻されて待機位置(図3A中実線で示す)に復帰される。
【実施例2】
【0037】
図5は本発明によるガラス基板装填治具の実施例2の装着状態を示す側断面図である。図6は実施例2の二重挿入防止機構を示す平面図である。図5及び図6に示されるように、実施例2のガラス基板装填治具200は、収納容器本体20の上部に装着される治具本体210と、収納容器本体20の上部開口22に連通する複数の挿入部220と、各挿入部220に設けられた二重挿入防止機構230とを有する。尚、各挿入部220はガラス基板Wの直径よりもY方向に長いスリットであり、X方向の横幅はガラス基板Wの厚さよりも大きい。また、各挿入部220は、ガラス基板Wが挿入される挿入ガイド孔222と、後述する付勢部材250が装架されるバネ用孔224とが交互に配されている。
【0038】
各挿入ガイド孔222は、収納容器本体20の各収納部40と対向するように設けられている。
【0039】
また、治具本体210は、底面に収納容器本体20の上部に対する位置決めを行なう位置決めピン64と複数の位置決め孔(図示せず)を有する。そして、収納容器本体20の上面角部には、それぞれ複数の位置決め孔21a、21bと一対の位置決めピン64が設けられている。このように、ガラス基板装填治具200の角部底面には、一対の位置決めピン64及び一対の位置決め孔が設けられ、収納容器本体20の上面にも位置決めピン64と位置決め孔21が設けられているので、ガラス基板装填治具10の底面と収納容器本体20の上面との相対位置が各位置決めピン64と位置決め孔との嵌合位置によって適宜変更される。
【0040】
尚、ガラス基板装填治具200の挿入部220の数と、収納容器本体20の収納部40の数とは、一致していても良いし、あるいは収納部40のピッチが小さい場合には、挿入部220の数を収納部40の数より少なくして(第1のガイド溝62及び第2のガイド溝72のピッチを広くして)、挿入操作が容易に行えるように適宜調整しても良い。
〔二重挿入防止機構230の構成〕
二重挿入防止機構230は、各挿入部220のガラス基板Wの外周縁部が通過する位置に設けられた複数のスライド部材240と、各スライド部材240を挿入防止位置(Yb方向)に付勢する複数の付勢部材250と、各スライド部材240を挿入部220から退避した位置に掛止する複数の掛止部材260とを有する。
【0041】
各スライド部材240は、下側のスライド部242と、上側のシャッタ部244とをL字状に組み合わせた構成であり、下側のスライド部242が各挿入部220の内壁と掛止部材260との間でYa、Yb方向に摺動可能に支持されている。また、上側のシャッタ部244は、スライド部242がYa,Yb方向に摺動すると共に、挿入部220の上側を開または閉とするように平板状に形成されている。
【0042】
スライド部材240のシャッタ部244は、周囲を囲む治具本体210とは異なる色に着色または異なる色のテープが貼着されており、挿入部220の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部として機能する。また、各スライド部材240は、シャッタ部244より上方に起立する復帰操作用レバー246が設けられている。
【0043】
各付勢部材250は、例えば、コイルバネからなり、一端がスライド部材240に掛止され、他端が挿入部220の内壁に掛止されている。また、各付勢部材250は、各スライド部材240がYa方向の退避位置にあるとき、Yb方向に引張り力を発生するように配されている。
【0044】
各掛止部材260は、スライド部材240のスライド部242と挿入部220の内壁との間に装架された軸261により上下方向に回動可能に支持された第1の端部262と、第1の端部262よりYb方向に延在形成された延在部264と、延在部264の先端に設けられた第2の端部(被接触部)266と、第2の端部266に設けられスライド部材240を掛止する鉤部268を有する。また、第2の端部266は、ガラス基板Wの挿入時にガラス基板Wの外周縁部に接触するように傾斜した形状に形成されており、ガラス基板Wに損傷を与えない形状とされている。
【0045】
また、各掛止部材260は、バネ部材270のバネ力により反時計方向に付勢されており、ガラス基板Wが挿入されるまで鉤部268がスライド部材240を退避位置に掛止する掛止状態に保持される。各スライド部材240は、後述するように、各掛止部材260の第2の端部266がガラス基板Wの外周縁部に当接して下方に押下されると共に、鉤部268がスライド部材240から離間して掛止解除すると、付勢部材250の付勢力によってYb方向に移動し、挿入部220の中心側(Yb方向)を閉塞する。
【0046】
そして、各収納部40の挿入が完了してガラス基板装填治具200が収納容器本体20から分離されると、各スライド部材240の復帰操作用レバー246をYa方向にスライドさせる。各スライド部材240は、復帰操作用レバー246の復帰操作により退避位置に復帰すると共に、各掛止部材260の鉤部268がバネ部材270のバネ力によりスライド部材240を掛止する状態に保持される。
【0047】
尚、図5に示すように、各挿入部220は、各掛止部材260を回動可能に支持する軸261と、スライド部242を支持する軸263とが横架されている。各スライド部材240のスライド部242は、一対の軸261、263が貫通する長孔269を有し、Ya方向またはYb方向にスライドする際に長孔269が軸261、263を摺動する。
【0048】
図7Aは実施例2の二重挿入防止機構を示す正面図である。図7Bは実施例2の二重挿入防止機構を示す背面図である。
【0049】
図7A及び図7Bに示されるように、各スライド部材240は、スライド部242が挿入部220の内壁及び各掛止部材260の側面によりYa、Yb方向への移動をガイドされる。また、各掛止部材260の上方に対向するようにY方向に延在形成されたシャッタ部244は、スライド部242のスライド動作と共に、挿入部220の挿入ガイド孔222の一部(Ya側端部)を開または閉とする位置に移動する。
〔二重挿入防止機構230の動作〕
図8Aは実施例2のガラス基板挿入時の二重挿入防止機構を示す側面図である。図8Aに示されるように、ガラス基板Wが垂直状態のままガラス基板装填治具200の挿入部220に挿入されると、当該挿入部220の下方に対向する収納容器本体20の収納部40が空の状態であるときは、二重挿入防止機構230のスライド部材240がYa方向に移動した退避位置に保持されている。そのため、ガラス基板Wは、垂直状態のまま挿入部220を通過して下方の収納部40に挿入される。
【0050】
この挿入過程において、ガラス基板Wの外周縁部が掛止部材260の第2の端部266に当接し、第2の端部266を押し下げて掛止部材260を反時計方向に回動させる。これにより、掛止部材260の鉤部268がスライド部材240の端部から下方に離間して当該スライド部材240に対する掛止を解除する。
【0051】
図8Bは実施例2のガラス基板挿入後の二重挿入防止機構を示す側面図である。図8Bに示されるように、ガラス基板Wが挿入部50を通過して収納容器本体20の収納部40に挿入されると、上記スライド部材240が付勢部材250の付勢力によってYb方向にスライドするため、スライド部材240のシャッタ部244が挿入部220のYa方向側を閉塞する。
【0052】
このように、既にガラス基板Wが挿入された収納部40の上方に対向する挿入部220では、スライド部材240のシャッタ部244がYb方向にスライドして閉塞位置に移動する。これにより、当該挿入部220は、Ya方向側がシャッタ部244により閉塞されることで、ガラス基板Wの直径よりも横幅が狭くなる。
【0053】
そのため、既にガラス基板Wが挿入された収納部40に別のガラス基板Wを挿入しようとした場合、二枚目のガラス基板Wはスライド部材240のシャッタ部244に当接して一枚目のガラス基板Wに接触することが防止される。よって、収納部40に挿入されたガラス基板Wが後から誤って挿入されるガラス基板Wによって損傷するといった事故が防止される。
【0054】
そして、ガラス基板装填治具200の各挿入部220を通して収納容器本体20の各収納部40にガラス基板Wが一枚ずつ挿入されると、収納容器本体20の全ての各収納部40にガラス基板Wが正確に挿入完了する。この後、ガラス基板装填治具200は、当該収納容器本体20から分離され、ガラス基板Wが未挿入の別の収納容器本体20に装着される。また、ガラス基板装填治具200の挿入部220の数が、収納容器本体20の収納部40の半分に設定されている場合は、各挿入部220が未挿入の各収納部40と対向するように収納容器本体20に対するガラス基板装填治具200の相対位置を調整して未挿入の各収納部40への挿入操作を行なう。その際は、各挿入部220の復帰操作用レバー246をYa方向にスライド操作して掛止部材260を挿入操作前の状態(図5を参照)に戻す。
〔磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法について〕
一般に、磁気記録媒体用ガラス基板及び磁気ディスクの製造工程は、以下の工程を含む。(工程1)フロート法、フュージョン法またはプレス成形法で成形されたガラス素基板を、中央部に円孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面を面取り加工する。
(工程2)ガラス基板の側面部と面取り部を端面研磨する。
(工程3)ガラス基板の主平面を研磨する。研磨工程は、1次研磨のみでもよく、1次研磨と2次研磨を行ってもよく、2次研磨の後に3次研磨を行ってもよい。
(工程4)ガラス基板の精密洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板を得る。
(工程5)磁気記録媒体用ガラス基板の上に磁性層などの薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【0055】
上記磁気記録媒体用ガラス基板及び磁気ディスクの製造工程において、(工程2)端面研磨工程の前後のうち少なくとも一方で主平面のラップ(例えば、遊離砥粒ラップ、固定砥粒ラップなど)を実施してもよく、各工程間にガラス基板の洗浄(工程間洗浄)やガラス基板表面のエッチング(工程間エッチング)を実施してもよい。なお、主平面のラップ(例えば、遊離砥粒ラップ、固定砥粒ラップなど)は広義の主平面の研磨である。
【0056】
さらに、磁気ディスク用ガラス基板に高い機械的強度が求められる場合、ガラス基板の表層に強化層を形成する強化工程(例えば、化学強化工程)を研磨工程前、または研磨工程後、あるいは研磨工程間で実施してもよい。
【0057】
本発明において、磁気記録媒体用ガラス基板は、アモルファスガラスでもよく、結晶化ガラスでもよく、ガラス基板の表層に強化層を有する強化ガラス(例えば、化学強化ガラス)でもよい。また、本発明のガラス基板のガラス素基板は、フロート法で造られたものでもよく、フュージョン法で造られたものでもよく、プレス成形法で造られたものでもよい。
【0058】
本発明のガラス基板装填治具は、磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程において、各工程で処理されたガラス基板を収納容器本体に収納して、搬送又は保管する際に適用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記実施例では、磁気記録媒体用のガラス基板を製造する工程を例に挙げて説明したが、これに限らず、これ以外の用途で使用されるガラス基板を加工する各工程にも本発明を適用できるのは勿論である。
【0060】
また、本発明が適用できるガラス基板としては、磁気記録媒体用、フォトマスク用、液晶や有機EL等のディスプレイ用、光ピックアップ素子や光学フィルタ等の光学部品用などのガラス基板が具体的なものとして挙げられる。
【符号の説明】
【0061】
10、200 ガラス基板装填治具
12 開口
20 収納容器本体
21、21a、21b 位置決め孔
22 上部開口
24 側面開口
30、230 二重挿入防止機構
40 収納部
50、220 挿入部
60 第1のガイド部
62 第1のガイド溝
64 位置決めピン
70 第2のガイド部
72 第2のガイド溝
74 第1のストッパ
76 第2のストッパ
80 連結部
82 ボルト
90 変位部材
92 第1の端部
92a 先端部
94 第2の端部
96 挿通孔
100 軸
210 治具本体
64 位置決めピン
220 挿入部
222 挿入ガイド孔
224 バネ用孔
240 スライド部材
242 スライド部
244 シャッタ部
246 復帰操作用レバー
250 付勢部材
260 掛止部材
261、263 軸
262 第1の端部
264 延在部
266 第2の端部
268 鉤部
269 長孔
270 バネ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス基板が整列された状態で一枚ずつ収納される複数の収納部を有する収納容器本体の上部開口に装着されるガラス基板装填治具であって、
前記複数の収納部に対向する位置に配され、前記ガラス基板が挿入される複数の挿入部と、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記ガラス基板が前記挿入部より前記収納部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、当該挿入部の一部を塞ぐ二重挿入防止機構と、
を備えたことを特徴とするガラス基板装填治具。
【請求項2】
前記二重挿入防止機構は、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記各挿入部の前記ガラス基板の外周縁部が通過する位置に設けられた複数の変位部材を有する請求項1に記載のガラス基板装填治具。
【請求項3】
前記変位部材は、
前記ガラス基板が前記挿入部を通過する際に当該ガラス基板の外周縁部に接触する第1の端部と、
前記ガラス基板の外周縁部が前記第1の端部に接触した後、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位する第2の端部と、
を有する請求項2に記載のガラス基板装填治具。
【請求項4】
前記変位部材は、
前記挿入部の内部に回動可能に支持され、
前記第1の端部が前記挿入部を通過する前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、前記第2の端部が前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位するように設けられた請求項3に記載のガラス基板装填治具。
【請求項5】
前記変位部材は、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部を有する請求項2〜4の何れかに記載のガラス基板装填治具。
【請求項6】
前記二重挿入防止機構は、
前記複数の挿入部の夫々に設けられ、前記各挿入部の前記ガラス基板の外周縁部が通過する位置に設けられた複数のスライド部材と、
前記複数のスライド部材の夫々を前記挿入部の一部を塞ぐ位置に付勢する複数の付勢部材と、
前記複数のスライド部材の夫々を前記挿入部から退避した位置に掛止する複数の掛止部材と、
を有する請求項1に記載のガラス基板装填治具。
【請求項7】
前記掛止部材は、前記挿入部の内部に回動可能に支持され、
前記ガラス基板が前記挿入部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触する被接触部と、
前記スライド部材を前記挿入部から退避した位置に掛止する掛止部と、を有し、
前記被接触部は、前記挿入部に挿入される前記ガラス基板の外周縁部に接触して下方に押圧されると共に、前記掛止部は前記スライド部材に対する掛止を解除する請求項6に記載のガラス基板装填治具。
【請求項8】
前記スライド部材は、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位したことを視覚的に表示する表示部を有する請求項6又は7の何れかに記載のガラス基板装填治具。
【請求項9】
板形状を有するガラス基板の形状付与工程と、前記ガラス基板の研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程と、前記ガラス基板の乾燥工程と、前記ガラス基板の検査工程とを少なくとも有するガラス基板の製造方法において、
複数のガラス基板が整列された状態に収納される複数の収納部、及び当該複数の収納部に連通された上部開口を有する収納容器本体と、
前記収納容器本体の前記上部開口に装着される請求項1〜8の何れかに記載のガラス基板装填治具と、
前記ガラス基板装填治具の挿入部に設けられ、前記ガラス基板が前記挿入部より前記一の収納部に挿入される過程で前記ガラス基板の外周縁部に接触すると共に、前記挿入部の一部を塞ぐ位置に変位する二重挿入防止機構と、を用いることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス基板は、磁気記録媒体用ガラス基板である請求項1〜8の何れかに記載のガラス基板装填治具。
【請求項11】
前記ガラス基板は、磁気記録媒体用ガラス基板である請求項9に記載のガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2012−101799(P2012−101799A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249106(P2010−249106)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】