説明

ガラス板折割方法及びガラス板折割装置

【課題】折割時にスクライブが入れられたガラス板に作用する外力と、ガラス板を支持する支持手段と、ガラス板を支持手段に固定する固定手段との位置関係を適切なものとすることにより、切断端部に不当な欠点が生じないガラス板折割方法を提供する。
【解決手段】ガラス板1の表面側にスクライブSを入れ、スクライブSが支持手段2の一端2X周辺に位置するようにガラス板1を支持手段2の一端2Xから突出させて支持手段2に支持させ、固定手段3によりガラス板1を支持手段2に固定させた状態で、ガラス板1の突出部に外力を加えて、ガラス板1をスクライブSを起点として分断する際に、ガラス板1に外力を加える位置を力点4Xとし、支持手段2の一端2X側に存する固定手段3の一端を固定端3Xとして、力点4Xから支持手段2の一端2Xまでの距離Aと、固定端3Xから支持手段2の一端2Xまでの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板折割方法及びガラス板折割装置に係り、詳しくは、ガラス板の表面にスクライブを入れると共に、該ガラス板の一方側領域を支持手段の平坦な表面に支持させた状態で、その他方側領域に外力を加えて、該ガラス板を前記スクライブを起点として分断するガラス板折割方法及び折割装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、及びフィールドエミッションディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用のガラス基板に代表される各種のガラス板は、成形後に用途に応じた所要のサイズに切断されるのが通例である。そのための切断手法としては、ガラス板の表面にダイヤモンドカッターやレーザーなどにより所要サイズに対応させてスクライブ(罫書き線)を刻設し、そのスクライブに沿って当該ガラス板を折り割るようにした折割方法が多用されるに至っている。
【0003】
この折割方法を採用する場合におけるガラス板の表面に刻設されるスクライブの変化態様について考察すると、先ずスクライブを刻設した段階では、その刻設部位に、ガラス板の表面に略垂直なメディアンクラックと、ガラス板の表面に沿うようなラテラルクラックとが存在している。そして、ガラス板にスクライブを境界として両側に引き裂くような力が作用すると、図6(a)、(b)に示すように、スクライブのメディアンクラックSmの先端部Xに左右両側への引張応力が集中するため、メディアンクラックSmが厚み方向に伸展し、それが進行してメディアンクラックSmがガラス板10の裏面に到達した時点で、そのガラス板10が切断される。
【0004】
この折割方法は、ガラス板を将来製品となる二つの領域(二つの必要部分)に分断する場合のみならず、ガラス板を一つの必要部分とその端部に存する幅の小さな不要部分とに分断する場合にも採用される。後者を例に挙げて説明すると、基本的には、図7に示すように、表面側にスクライブS1が入れられた(刻設された)ガラス板10について、その必要部分(第一領域)10Aを、支持部材20aと支持治具20bとからなる支持手段20によって裏面側から支持させ、支持手段20の一端20X(支持治具20bのガラス板10への当接端20bx)から突出する不要部分(第二領域)10Bを、その表面側から押込治具40により押し下げることにより、スクライブS1を起点として分断が行われる。この場合、ガラス板10の表面におけるスクライブS1の刻設位置は、支持手段20の一端20Xと合致していることが好ましい。
【0005】
このような折割方法の具体例として、下記の特許文献1によれば、上面に切線(スクライブ)が罫書きされたガラス板を、載置台または搬送手段(支持部材)上にその一部を突出させて水平に載置し、そのガラス板の突出部の下方から下部支持手段(支持治具)を上昇させてスクライブに沿うようにガラス板の下面に接触させると共に、該ガラス板のスクライブよりも突出端側に上方から上部押圧手段(押込治具)を下降させて接触させ且つ押圧させることにより、スクライブに沿ってガラス板を折割切断する方法が開示されている。
【0006】
また、下記の特許文献2によれば、上面に切筋線(スクライブ)が付与されたガラス板の端縁を、搬送コンベア(支持部材)の端部から突出させると共に、ガラス板のスクライブよりも反端縁側を下部押圧部材(支持治具)により下方から支持させた状態で、スクライブの斜め上方から上部押圧部材(押込治具)を円弧状に下降させてガラス板のスクライブよりも端縁側を押し下げることにより、ガラス板を折割切断する方法が開示されている。
【0007】
更に、下記の特許文献3によれば、上面に切筋線(スクライブ)が付与されたガラス板の端縁を、テーブル(支持部材)の端縁から突出させると共に、テーブル上でガラス板をスクライブと平行に押圧固定した状態で、ガラス板のスクライブよりも端縁側をテーブル上よりも上昇させることにより、ガラス板を折割切断する方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−321695号公報
【特許文献2】特開平8−253336号公報
【特許文献3】特開平7−237929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ガラス板を折割により切断する手法を採用した場合に、従来においては、その切断端部に、「はま欠け」、「欠け」、「角」、「逃げ」、「そげ」などの欠点が多発する状況下にあった。これらの欠点のうち「そげ」は、図8に示すように、切断後における一方のガラス板10Aの切断端部に不当な突起部10AXが残存するのに対して、他方のガラス板10Bの切断端部には、不当な欠落部10BXが存在するという欠点である。
【0010】
その場合に、上記の特許文献1、2、3に開示された折割方法は、ガラス板にスクライブを入れ、そのスクライブのメディアンクラックに引張応力による応力集中を作用させるという基本的原理に基づくものであるから、上記の各欠点のうちの「はま欠け」の発生を回避する点については期待できるものと推認される。
【0011】
しかしながら、これらの各文献に開示された折割方法によるにしても、「欠け」、「角」、「逃げ」、「そげ」については、その発生を依然として回避できないことを、本発明者は確認するに至った。特に、上記の「そげ」が発生した場合には、一方のガラス板10Aの突起部10AXは、端面研磨工程において切除ができるものの、端面研磨に長時間を要するという難点があり、また他方のガラス板10Bの欠落部10BXは、端面研磨工程を行っても全てをなくすことができず、一部が残存するという品質面での致命的な問題が生じる。
【0012】
この「そげ」の発生原因は、支持手段によりその一端から突出して支持されているガラス板の当該突出部に対して押込治具等からの外力の作用する位置が適切でないため、ガラス板のスクライブの両側近傍に曲げモーメントが均等に作用しないことに由来するものであることを、本発明者は知見するに至った。すなわち、曲げモーメントによりスクライブのメディアンクラックがガラス板の厚み方向に進行する際に、そのメディアンクラックの両側にそれぞれ作用する応力のバランスに狂いが生じ、メディアンクラックの厚み方向直進性が阻害されるものとの知見を得るに至った。
【0013】
このような事項を勘案すれば、折割時に支持手段からのガラス板突出部に対する外力の作用点が重要となるが、現状においては、そのような事項について何ら検討がなされていないのが実情である。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み、折割時にスクライブが入れられたガラス板に作用する外力と、ガラス板を支持する支持手段と、ガラス板を支持手段に固定する固定手段との位置関係を適切なものとすることにより、切断端部に不当な欠点が生じないガラス板折割方法及びガラス板折割装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意努力を重ねた結果、スクライブが入れられたガラス板を支持する支持手段の一端と、そのガラス板を支持手段に固定する固定手段の一端と、支持手段の一端から突出しているガラス板部分への外力の作用点との位置関係が、特定の条件を満たせば、折割後における当該ガラス板の切断端部に不当な欠点が発生しなくなることを見出すに至り、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
このような観点から、上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、ガラス板の第一領域と第二領域との境界部の表面側にスクライブを入れ、該ガラス板の第一領域の一部または全部を支持手段に支持させ、その支持をさせた際に該ガラス板の第二領域の一部または全部を前記支持手段の一端から突出させると共に前記スクライブを前記支持手段の一端周辺に位置させ、且つ、固定手段により前記ガラス板の第一領域を前記支持手段に固定させた状態で、前記ガラス板の第二領域に表面側から外力を加えて、該ガラス板を前記スクライブを起点として分断するガラス板折割方法において、前記ガラス板の第二領域に外力を加える位置を力点とし、前記支持手段の一端側に存する前記固定手段の一端を固定端とした場合に、前記力点から前記支持手段の一端までの距離Aと、前記固定端から前記支持手段の一端までの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすことに特徴づけられる。
【0017】
このような構成によれば、支持手段の一端を基準として、上記の距離Bが距離Aよりも所定長さ分だけ長くなるが、そのように支持手段の一端を、固定端と力点との中央位置から力点側に偏倚させることにより、支持手段の一端を中心としてガラス板の固定端側と力点側とに均等に応力が発生するという現象が生じる。そして、支持手段の一端周辺にはガラス板のスクライブが存在していることから、このスクライブの両側にそれぞれ生じる応力(または曲げモーメント)も均等になり、折割後におけるガラス板の切断端部に、不当な欠点、特に既述の「そげ」が生じ難くなる。すなわち、従来においては、上記の支持手段の一端を固定端と力点との中央位置近傍に配置させておけば、ガラス板のスクライブの両側にはそれぞれ均等な応力が生じると考えられがちであったが、本発明者は、そのような考えそのものが誤解に基づくものであることを認識した上で、上記の数値範囲を見出すに至ったものである。したがって、上記B/Aが1.3未満であると、従来の位置関係に近づくことになるため、ガラス板のスクライブの両側に発生する応力は不均一となる一方、上記B/Aが1.7を超えると、逆に従来の位置関係から掛け離れ過ぎて適正な範囲を超えて逸脱し、スクライブの両側の応力が不均一となる。このような事情から、ガラス板支持手段の一端を、固定端と力点との中央位置から敢えて適正量だけ偏倚させることにより、「そげ」に代表される切断端部の不当な欠点が生じ難くなり、端面研磨工程で切断端部の処理を円滑且つ正確に行い得ることになる。
【0018】
この場合、前記支持手段は、支持面を有する支持部材であり、且つ前記支持手段の一端は、該支持面を有する支持部材の一端であってもよい。
【0019】
このようにすれば、支持手段を、支持テーブルや搬送コンベア等の支持面を有する支持部材のみで構成することができ、折割装置の部品点数の削減、ひいては構成の簡略化をも図ることが可能となる。
【0020】
また、前記支持手段は、支持面を有する支持部材と、該支持部材から離隔して配置された支持治具とからなり、且つ前記支持手段の一端は、該支持治具のガラス板への当接端であってもよい。
【0021】
このようにすれば、支持面を有する支持部材とは別体として設けられた支持治具の当接端を有効利用して円滑に折割を行うことが可能となる。
【0022】
一方、前記スクライブが前記支持手段の一端から、前記力点側に偏倚する距離と、前記固定端側に偏倚する距離とは、何れも前記距離Aの40%以内に収まっていることが好ましい。
【0023】
すなわち、ガラス板のスクライブは、支持手段の一端と位置を一致させなくても、切断端部に上述の「そげ」等の不当な欠点を生じさせることなく折割をすることができ、ガラス板の位置決めを厳格に行う必要がなくなり、作業の簡単化が図られる。その場合、スクライブの力点側及び固定端側への偏倚距離は、上述の距離Aの40%以内に収めておかなければ、円滑に折割を行う上で支障が生じるばかりでなく、切断端部に不当な欠点が生じるおそれがある。
【0024】
また、前記ガラス板の第一領域が必要部分であり、第二領域が不要部分であることが好ましい。ここで、「必要部分」とは、将来製品となるべき部位を意味し、「不要部分」とは、廃棄処分される部位を意味する。
【0025】
このようにすれば、必要部分に比して不要部分は領域が狭いため、上記の1.3≦B/A≦1.7の数値限定が効果を発揮し、必要部分の領域を無駄なく最大限に確保することが可能となる。
【0026】
更に、前記ガラス板は、直交する二つの辺がそれぞれ1000mm以上で且つ厚みが3mm以下であって、前記不要部分が一つの辺に沿う20〜50mm幅の領域であることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、上記の1.3≦B/A≦1.7の数値限定が、より有効に活用されることになる。
【0028】
また、前記固定手段は、前記支持手段の表面側に負圧吸引力を発生させる負圧吸引手段であってもよく、或いは、前記ガラス板の表面側に配置されて該ガラス板を前記支持手段に押え付け且つ前記スクライブと平行な方向に延びる押え治具であってもよい。
【0029】
すなわち、ガラス板を支持手段に対して固定させる固定手段は、その役割を果たすものであれば、特に限定されるものではないが、上記の二種のものであれば、確実な固定を行う上で有利となる。
【0030】
また、前記ガラス板の第二領域に外力を加える手段は、該ガラス板の表面側に配置されて前記スクライブと平行な方向に延びる押込治具であってもよい。
【0031】
この場合にも、ガラス板の第二領域に外力を加える手段は、その外力が加わる方向性も含めて特に限定されるものではないが、上記のものであれば、より確実な折割を行う上で有利となる。
【0032】
以上の構成を備えた折割方法の対象となるガラス板は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板とすることができる。
【0033】
このようにすれば、近年におけるフラットパネルディスプレイ用のガラス基板の薄肉大型化に適切に対処した上で、既に述べた効果を確実且つ顕著に得ることが可能となる。
【0034】
一方、上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、ガラス板の第一領域と第二領域との境界部の表面側にスクライブを入れ、該ガラス板の第一領域の一部または全部を支持手段に支持させ、その支持をさせた際に該ガラス板の第二領域の一部または全部を前記支持手段の一端から突出させると共に前記スクライブを前記支持手段の一端周辺に位置させ、且つ、固定手段により前記ガラス板の第一領域を前記支持手段の一部に固定させた状態で、前記ガラス板の第二領域に表面側から外力を加えることにより、該ガラス板を前記スクライブを起点として分断するように構成したガラス板折割装置において、前記ガラス板の第二領域に外力を加える位置を力点とし、前記支持手段の一端側に存する前記固定手段の一端を固定端とした場合に、前記力点から前記支持手段の一端までの距離Aと、前記固定端から前記支持手段の一端までの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように構成したことに特徴づけられる。
【0035】
このような構成によれば、上述のガラス板折割方法の基本構成に関して既に説明した内容と同様の利点を享受することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように本発明によれば、支持手段の一端を、固定端と力点との中央位置から適正な方向に偏倚させることにより、支持手段の一端を中心としてガラス板の固定端側と力点側とに均等に応力が発生すると共に、支持手段の一端周辺に存在しているガラス板のスクライブの両側にそれぞれ生じる応力も均等になり、折割後におけるガラス板の切断端部に、不当な欠点、特に「そげ」が生じ難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、ガラス板が、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板、特に液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに用いられるガラス基板である場合を例示する。
【0038】
図1は、本発明の第一実施形態に係るガラス板折割装置(ガラス板折割方法の実施状況)を示す概略縦断側面図であり、図2は、その概略斜視図であって、この実施形態では、ガラス板1の必要部分である第一領域1Aと不要部分である第二領域1Bとの境界部の表面側にスクライブSが入れられている。ガラス板1の第一領域1Aは、支持プレート或いは搬送コンベア等からなる支持面を有する支持部材(支持手段)2の表面に支持され、その支持された状態では、ガラス板1の第二領域1Bが、支持部材2の一端(右端)2Xから突出しており、且つ、スクライブSが支持部材2の一端2Xの直上方に位置している。また、支持部材2の表面側には、ガラス板1の第一領域1Aの一部を支持部材2に対して固定させる固定手段としての押え治具3が配設されると共に、ガラス板1の第二領域1Bの表面側には、その第二領域1Bに対して裏面側への外力を付与する押込治具(折割治具)4が配設されている。
【0039】
この場合、ガラス板1は、略矩形状を呈し、直交する二つの辺がそれぞれ1000mm以上で且つ厚みが3mm以下であって、第二領域1Bが一つの辺(スクライブSと平行な辺)に沿う20〜50mm幅の領域とされている。また、押え治具3は、スクライブSと平行な方向に延びてガラス板1の第一領域1Aを同方向全長に亘って押え付けるものであると共に、押込治具4は、スクライブSと平行な方向に延びてガラス板1の第二領域1Bに対して同方向全長に亘って外力を加えるものである。
【0040】
ここで、図1に示すように、支持部材2の表面にガラス板1の第一領域1Aを押え治具3により固定した状態で、そのガラス板1の第二領域1Bに対して押込治具4により外力を加えて、スクライブSを起点としてガラス板1を折割る際には、以下に示すような位置設定がなされている。すなわち、ガラス板1の第二領域1Bに押込治具4が外力を加える位置を力点4Xとし、支持部材3の一端2X側に存する押え治具3の一端(右端)を固定端3Xとした場合に、力点4Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Aと、固定端3Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように設定されている。
【0041】
したがって、支持部材2の一端2Xは、固定端3Xと力点4Xとの中央位置から力点4X側に偏倚していることになるが、そのように偏倚させたことに由来して、支持部材2の一端2Xを中心としてガラス板1の固定端3X側と力点4X側とに均等に応力が発生することになる。そして、支持部材2の一端2Xの直上方にスクライブSが存在していることから、このスクライブSの両側にそれぞれ生じる応力も均等になり、押込治具4を下方(垂直下方)に押し下げることに伴う折割後におけるガラス板1の切断端部に、不当な欠点、特に既述の「そげ」が生じ難くなる。
【0042】
この場合、ガラス板1に刻設されているスクライブSは、図示のように支持部材2の一端2Xの直上方に必ずしも位置している必要はなく、上記の距離Aの40%の範囲内であれば、支持部材2の一端2Xから固定端3X側もしくは力点4X側に偏倚していても、折割後にガラス板1の切断端部に不当な欠点が生じない程度となるように、スクライブSの両側に均等に応力が発生する。
【0043】
図3は、本発明の第二実施形態に係るガラス板折割装置(ガラス板折割方法の実施状況)を示す概略縦断側面図である。この第二実施形態に係るガラス板折割装置が上述の第一実施形態と相違する点は、ガラス板1を支持部材2に固定する固定手段が、支持部材2の表面側に負圧吸引力を発生させる負圧吸引手段5で構成されている点である。この負圧吸引手段5は、支持部材2に形成された多数の貫通孔5aと、これらの貫通孔5aを通じて真空引きを行う負圧源装置(図示略)とから主として構成されている。そして、この場合には、支持部材2の一端2X側に存する負圧吸引手段5の一端(右端)が固定端5Xとなり、力点4Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Aと、固定端5Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように設定されている。その他の構成は、上述の第一実施形態と同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図4は、本発明の第三実施形態に係るガラス板折割装置(ガラス板折割方法の実施状況)を示す概略縦断側面図である。この第三実施形態に係るガラス板折割装置が上述の第一実施形態と相違する点は、ガラス板1の第二領域1Bに外力を加える押込治具(折割治具)4が、その第二領域1Bの端縁部(右端縁部)を挟持する断面コ字形の治具とされ、この押込治具4が支持部材2の一端2Xを支点として下方に回転動する構成(押込治具4が垂直下方に下降する構成でもよい)とされている点である。そして、この場合には、押込治具4の左端部とガラス板1の第二領域1Bの表面との接触点が力点4Xとしての役割を果たすことになり、この力点4Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Aと、固定端3Xから支持部材2の一端2Xまでの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように設定されている。その他の構成は、上述の第一実施形態と同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。なお、この第三実施形態についても、上述の第二実施形態と同様に固定手段を負圧吸引手段としてもよい。
【0045】
図5は、本発明の第四実施形態に係るガラス板折割装置(ガラス板折割方法の実施状況)を示す概略縦断側面図である。この第四実施形態に係るガラス板折割装置が上述の第一実施形態と相違する点は、ガラス板1を裏面側より支持する支持手段2が、支持プレート或いは搬送コンベア等でなる支持面を有する支持部材2aと、この支持部材2aの一端2axから右方に離隔して配置され且つガラス板1の裏面に先端が当接する支持治具2bとから構成されている点である。そして、この場合には、支持治具2bのガラス板1裏面への当接端2bxが、支持手段2の一端2Xに相当することになり、力点4Xから支持手段2の一端2Xまでの距離Aと、固定端3Xから支持手段2の一端2Xまでの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように設定されている。その他の構成は、上述の第一実施形態と同一であるので、両者に共通の構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。なお、この第四実施形態についても、上述の第二実施形態と同様に固定手段を負圧吸引手段としてもよい。
【0046】
次に、本発明者が、上記の1.3≦B/A≦1.7の関係を満たせば、ガラス板1の折割後に切断端部に不当な欠点が生じなくなるという事項を見出すに至った実験について、その概略を説明する。
【0047】
すなわち、図1に示す態様で、距離Aを50mmに維持し、距離Bを変化させることにより、B/Aの値を変化させ、押込治具4を下降させて、ガラス板1の折割を行った後、その切断端部に不当な欠点が発生しているか否かを検査した。それらの実験結果を、実験1〜7として下記の表1に示す。なお、下記の表1中、そげの発生状況の欄における「◎」は、そげの発生が殆ど観察されなかったことを表わし、「○」は、端面研磨工程などの端面処理を行うことにより問題が生じない程度のそげが観察されたことを表わし、「×」は、端面処理を実行した後も異形として残存するそげが観察されたことを表わしている。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の表1によれば、B/Aの値が1.3以上で且つ1.7以下であれば、ガラス板1の折割後に端面処理を実行することにより問題とならない程度のそげが切断端部に発生するに過ぎないことが把握できた。
【0050】
次に、同じく図1に示す態様で、距離Aを変化させると共に、距離Bも変化させることにより、B/Aの値が1.3以上で且つ1.7以下の範囲内に収まるように(略1.5になるように)して、押込治具4を下降させて、ガラス板1の折割を行った後、その切断端部に不当な欠点が発生しているか否かを検査した。それらの実験結果を、実験8〜12として下記の表2に示す。なお、下記の表2中、そげの発生状況の欄における「◎」は、上記の表1と同様の事項を表わしている。
【0051】
【表2】

【0052】
上記の表2によれば、距離Aを変化させた場合であっても、B/Aの値が1.3以上で且つ1.7以下であれば、折割後のガラス板1の切断端部におけるそげの発生状況が悪化することはないことを把握できた。
【0053】
ここで、ガラス板1のスクライブSを支持部材(支持手段)2の一端2Xの直上方に位置させることは、所定の位置決め装置によりまたは手動により行われるが、その位置合わせを確実に行わせることは極めて困難であるばかりでなく、位置決め精度を高めようとすれば、装置の複雑化や高コスト化或いは作業の煩雑化を招き、却って不都合が生じる。そこで、図1に示す態様で、固定端3Xと、支持部材2の一端2Xと、力点4Xとを、上記の数値限定を満たす一定の位置に維持しておき、スクライブSの位置を支持部材2の一端2Xから固定端3X側及び力点4X側に偏倚させる実験を行った。この場合、距離Aは50mmとし、距離Bは75mmとし、ガラス板1の厚みは0.7mmとした。それらの実験結果を、実験13〜17として下記の表3に示す。なお、下記の表3中、支持部材端からのズレ量(支持部材2の一端2Xからの偏倚量)の欄における符号「+」はスクライブSが力点4X側に偏倚している状態、符号「−」は固定端3X側に偏倚している状態を示すと共に、そげの発生状況の欄における「○」及び「◎」は、上記の表1と同様の事項を表わしている。
【0054】
【表3】

【0055】
上記の表3によれば、ガラス板1のスクライブSが支持部材2の一端から、距離Aの30%に相当する長さ分だけ力点4X側及び固定端3X側に偏倚しても、そげの発生が殆ど観察されず、またその偏倚量が距離Aの40%であっても、端面研磨工程などの端面処理を行うことにより問題が生じない程度のそげが観察されるに過ぎないことを把握した。
【0056】
なお、上記の表1、表2、表3に示す実験結果は、図1に示す態様のみならず、図3、図4及び図5に示す態様においても、同様に得られた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第一実施形態に係るガラス板折割装置の概略縦断側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るガラス板折割装置の概略斜視図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係るガラス板折割装置の概略縦断側面図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係るガラス板折割装置の概略縦断側面図である。
【図5】本発明の第四実施形態に係るガラス板折割装置の概略縦断側面図である。
【図6】図6(a)、(b)はそれぞれ、従来の問題点を説明するためのガラス板の要部拡大縦断側面図である。
【図7】従来の一般的なガラス板折割装置の概略縦断側面図である。
【図8】従来の問題点を説明するためのガラス板の要部拡大縦断側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ガラス板
1A 第一領域
1B 第二領域
2 支持手段(支持部材)
2X 支持手段の一端
3 固定手段(押え治具)
3X 固定端
4 押込治具(折割治具)
4X 力点
5 固定手段(負圧吸引手段)
5X 固定端
A 力点から支持手段の一端までの距離
B 固定端から支持手段の一端までの距離
S スクライブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の第一領域と第二領域との境界部の表面側にスクライブを入れ、該ガラス板の第一領域の一部または全部を支持手段に支持させ、その支持をさせた際に該ガラス板の第二領域の一部または全部を前記支持手段の一端から突出させると共に前記スクライブを前記支持手段の一端周辺に位置させ、且つ、固定手段により前記ガラス板の第一領域を前記支持手段の一部に固定させた状態で、前記ガラス板の第二領域に表面側から外力を加えることにより、該ガラス板を前記スクライブを起点として分断するガラス板折割方法において、
前記ガラス板の第二領域に外力を加える位置を力点とし、前記支持手段の一端側に存する前記固定手段の一端を固定端とした場合に、前記力点から前記支持手段の一端までの距離Aと、前記固定端から前記支持手段の一端までの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすことを特徴とするガラス板折割方法。
【請求項2】
前記支持手段は、支持面を有する支持部材であり、且つ前記支持手段の一端は、該支持面を有する支持部材の一端であることを特徴とする請求項1に記載のガラス板折割方法。
【請求項3】
前記支持手段は、支持面を有する支持部材と、該支持部材から離隔して配置された支持治具とからなり、且つ前記支持手段の一端は、該支持治具のガラス板への当接端であることを特徴とする請求項1に記載のガラス板折割方法。
【請求項4】
前記スクライブが前記支持手段の一端から、前記力点側に偏倚する距離と、前記固定端側に偏倚する距離とが、何れも前記距離Aの40%以内に収まっていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラス板の折割方法。
【請求項5】
前記ガラス板の第一領域が必要部分であり、第二領域が不要部分であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガラス板折割方法。
【請求項6】
前記ガラス板は、直交する二つの辺がそれぞれ1000mm以上で且つ厚みが3mm以下であって、前記不要部分が一つの辺に沿う20〜50mm幅の領域であることを特徴とする請求項5に記載のガラス板折割方法。
【請求項7】
前記固定手段は、前記支持手段の表面側に負圧吸引力を発生させる負圧吸引手段であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス板折割方法。
【請求項8】
前記固定手段は、前記ガラス板の表面側に配置されて該ガラス板を前記支持手段に押え付け且つ前記スクライブと平行な方向に延びる押え治具であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス板折割方法。
【請求項9】
前記ガラス板の第二領域に外力を加える手段は、該ガラス板の表面側に配置されて前記スクライブと平行な方向に延びる押込治具であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のガラス板折割方法。
【請求項10】
前記ガラス板は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のガラス板折割方法。
【請求項11】
ガラス板の第一領域と第二領域との境界部の表面側にスクライブを入れ、該ガラス板の第一領域の一部または全部を支持手段に支持させ、その支持をさせた際に該ガラス板の第二領域の一部または全部を前記支持手段の一端から突出させると共に前記スクライブを前記支持手段の一端周辺に位置させ、且つ、固定手段により前記ガラス板の第一領域を前記支持手段の一部に固定させた状態で、前記ガラス板の第二領域に表面側から外力を加えることにより、該ガラス板を前記スクライブを起点として分断するように構成したガラス板折割装置において、
前記ガラス板の第二領域に外力を加える位置を力点とし、前記支持手段の一端側に存する前記固定手段の一端を固定端とした場合に、前記力点から前記支持手段の一端までの距離Aと、前記固定端から前記支持手段の一端までの距離Bとが、1.3≦B/A≦1.7の関係を満たすように構成したことを特徴とするガラス板折割装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227550(P2009−227550A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78231(P2008−78231)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】