ガラス溶着方法
【課題】 歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができるガラス溶着方法を提供する。
【解決手段】 ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40,50を重ね合わせ、ガラス基板40,50間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。ここで、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40,50間に配置される。これにより、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、例えば有効部分42,52同士の溶着でクラック発生等の不具合が起こっても、不具合が起こった部分領域P2以外の部分領域P1,P3では、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。
【解決手段】 ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40,50を重ね合わせ、ガラス基板40,50間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。ここで、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40,50間に配置される。これにより、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、例えば有効部分42,52同士の溶着でクラック発生等の不具合が起こっても、不具合が起こった部分領域P2以外の部分領域P1,P3では、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、ガラス部材同士が溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のガラス溶着方法として、次のようなものが知られている。すなわち、ガラス溶着体を構成するガラス部材に対応する有効部分を複数含むガラス基板を準備し、一方のガラス基板に対し、有効部分ごとに溶着予定領域に沿うようにガラス層を配置する。続いて、ガラス層を介して一方のガラス基板に他方のガラス基板を重ね合わせ、各溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、有効部分同士を溶着する。そして、ガラス基板から、溶着された有効部分同士を切り出し、複数のガラス溶着体を得る。
【0003】
ところで、上記ガラス溶着体が例えば有機ELディスプレイ等である場合には、その製造工程において、溶着予定領域に包囲された発光素子領域に水分等が進入するのを防止する必要がある。そこで、ガラス層を介してガラス基板同士を重ね合わせるに際し、全てのガラス層を包囲するようにガラス基板間に接着層を配置することにより、ガラス基板間の空間を外部雰囲気から封止することが提案されている(例えば特許文献1,2参照)。これによれば、発光素子領域に水分等が進入するのを防止しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−113830号公報
【特許文献2】特開2007−115491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス層ごとにレーザ光の照射を実施している際に、ガラス基板へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層で起こると、溶着未実施のガラス層の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念されることから、溶着未実施の部分が全て無駄になるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができるガラス溶着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のガラス溶着方法は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、第1の部分ごとに溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、第1の部分のそれぞれと第2の部分のそれぞれとがガラス層を介して対向するように第1のガラス基板に重ね合わせ、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置された接着層によって、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、対向する第1の部分と第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、接着層は、対向する第1の部分及び第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する第1の部分及び第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置されることを特徴とする。
【0008】
このガラス溶着方法では、ガラス層を介して対向するように第1のガラス基板と第2のガラス基板とを重ね合わせ、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を接着層によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。更に、接着層は、対向する第1の部分及び第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する第1の部分及び第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置される。これにより、ガラス層ごとにレーザ光の照射を実施している際に、ガラス基板へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層で起こっても、不具合が起こったガラス層が存在する部分領域以外の部分領域においては、溶着未実施のガラス層の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。よって、このガラス溶着方法によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0009】
ここで、接着層は、所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び第1の接着層パターンの内側において部分領域ごとに部分領域を包囲する第2の接着層パターンを有することが好ましい。これによれば、所定領域の外周及び隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光の照射を実施する前に、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0010】
或いは、接着層は、所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び隣り合う部分領域の境界に沿う第2の接着層パターンを有することが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間(すなわち、対向する第1の部分及び第2の部分の一組間)のピッチを小さくすることができる。
【0011】
これらの場合、第1の接着層パターンの幅は、第2の接着層パターンの幅よりも広くされることが好ましい。これによれば、所定領域の外周において第1の接着層パターンの幅が第2の接着層パターンの幅よりも広くされるので、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのをより確実に防止することができる。更に、隣り合う部分領域の境界において第2の接着層パターンの幅が第1の接着層パターンの幅よりも狭くされるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間のピッチをより小さくすることができる。
【0012】
また、接着層は、部分領域ごとに部分領域を包囲する接着層パターンを有し、所定領域は、接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光の照射を実施する前に、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0013】
或いは、接着層は、隣り合う部分領域の一方を包囲する第1の接着層パターン、及び第1の接着層パターンのうち当該隣り合う部分領域の境界に沿う部分とで当該隣り合う部分領域の他方を包囲する第2の接着層パターンを有し、所定領域は、第1の接着層パターンの一部及び第2の接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間のピッチを小さくすることができる。
【0014】
また、本発明のガラス溶着方法は、第1のガラス基板及び第2のガラス基板から、溶着された第1の部分及び第2の部分を切り出し、複数のガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることが好ましい。これにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を複数得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法における隙間情報の取得方法を説明するための一部断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法を説明するための一部断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法における隙間情報の他の取得方法を説明するための概念図である。
【図10】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図12】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0018】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿うように配置されたガラス層3を介して、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる層であり、溶着予定領域Rに沿うように矩形環状に配置されている。このガラス溶着体1は、有機ELディスプレイであり、溶着予定領域Rの内側に形成された発光素子領域が、ガラス部材4,5及びガラス層3によって外部雰囲気から封止されている。
【0019】
次に、環状の溶着予定領域Rに沿った溶着用レーザ光Lの照射によって、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法について説明する。まず、図2に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第1の部分)41〜46を含むガラス基板40を準備する。各有効部分41〜46は、ガラス部材4に対応している。そして、有効部分41〜46ごとに環状の溶着予定領域Rを設定する。
【0020】
続いて、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、有効部分41〜46ごとに溶着予定領域Rに沿うようにガラス基板40の表面40aにペースト層6を配置する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラスからなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤、及びアクリル等の樹脂成分であるバインダが混練されたものである。続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させる。更に、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させる。
【0021】
続いて、ディスペンサ等によって例えば紫外線硬化樹脂等の接着剤を塗布することにより、ガラス基板40の表面40aに接着層70を配置する。接着層70は、全体領域(所定領域)Wを包囲する接着層パターン7、及び接着層パターン7の内側において各部分領域P1〜P3を包囲する(すなわち、部分領域P1〜P3ごとに部分領域P1〜P3を包囲する)接着層パターン71〜73を有している。ここでは、全体領域Wは、全ての有効部分41〜46に対応する領域である。また、部分領域P1,P2,P3は、それぞれ、有効部分41,44、有効部分42,45、有効部分43,46に対応する領域である。接着層パターン71と接着層パターン72とは、隣り合う部分領域P1,P2の境界線において接触しており、接着層パターン72と接着層パターン73とは、隣り合う部分領域P2,P3の境界線において接触している。また、接着層パターン7の幅は、各接着層パターン71〜73の幅よりも広くされている。なお、接着層70は単純なパターンによって構成されているため、接着層70をパターニングするためのディスペンサの走査、及び接着材の塗布のタイミングのコントロールが容易となり、不良が生じ難い。
【0022】
続いて、図3に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第2の部分)51〜56を含むガラス基板50を準備する。各有効部分51〜56は、ガラス部材5に対応しており、各有効部分51〜56には、発光素子領域が形成されている。そして、有効部分41〜46のそれぞれと有効部分51〜56のそれぞれとがガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる。続いて、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置された接着層70を紫外線の照射によって硬化させ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間(全体領域Wに対応する空間、各部分領域P1〜P3に対応する空間)を接着層70によって外部雰囲気から封止する。なお、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、及び接着層70による封止は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、或いは減圧条件下で実施される。
【0023】
これにより、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。ここでは、全体領域Wは、対向する有効部分41,51同士、有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士の全組に対応する領域である。また、部分領域P1,P2,P3は、それぞれ、対向する有効部分41,51同士及び有効部分44,54同士の二組、対向する有効部分42,52同士及び有効部分45,55同士の二組、対向する有効部分43,53同士及び有効部分46,56同士の二組に対応する領域である。
【0024】
続いて、図4に示されるように、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分42,52間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3、有効部分45,55間のガラス層3、有効部分46,56間のガラス層3という順序で、レーザ光Lの照射を実施する。まず、溶着予定領域Rに沿って有効部分41,51間のガラス層3にレーザ光Lが照射されると、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス基板40,50の表面40a,50a)が同程度に溶融・再固化し、対向する有効部分41,51同士が溶着される(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス基板40,50の少なくとも一方が溶融しない場合もある)。以降、上述した順序でのレーザ光Lの照射によって、対向する有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士が溶着される。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層70によって外部雰囲気から封止されているので、レーザ光Lの照射は、大気雰囲気中で実施される。
【0025】
続いて、図5に示されるように、ガラス基板40,50から、溶着された有効部分41,51同士、有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士を切り出し、複数(ここでは6セット)のガラス溶着体1を得る。
【0026】
第1の実施形態のガラス溶着方法によれば、以下のように、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0027】
すなわち、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域Rに沿ったレーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。
【0028】
更に、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、接着層70が、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置される。これにより、図4に示されるように、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が例えば有効部分42,52同士の溶着で起こっても、不具合が起こった部分領域P2以外の部分領域P1,P3においては、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。
【0029】
具体例を挙げて説明する。ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層3で起こると、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念される。そのため、例えば、接着層70が接着層パターン71〜73を有さず、接着層パターン7のみからなる場合には、溶着未実施の部分が全て無駄になるおそれがある。つまり、有効部分41,51同士の溶着の次に、有効部分42,52同士の溶着を実施し、ここで不具合が生じると、溶着未実施の有効部分43,53、有効部分44,54、有効部分45,55及び有効部分46,56が全て無駄になるおそれがある。
【0030】
これに対し、第1の実施形態のガラス溶着方法では、全体領域Wだけでなく各部分領域P1〜P3も接着層70によって包囲されて閉じられる。従って、有効部分42,52同士の溶着で不具合が生じても、外部雰囲気の進入の懸念により無駄になるおそれがあるのは、不具合が起こった部分領域P2内に存在する有効部分45,55のみということになる。このように、第1の実施形態のガラス溶着方法によれば、無駄を減らして、歩留まりの向上を図ることができる。
【0031】
また、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、接着層70が、全体領域Wを包囲する接着層パターン7、及び接着層パターン7の内側において各部分領域P1〜P3を包囲する接着層パターン71〜73を有している。つまり、全体領域Wの外周、並びに、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において、接着層パターンが2列になっている。これにより、レーザ光Lの照射を実施する前に、重ね合わせられたガラス基板40,50が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0032】
また、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、全体領域Wを包囲する接着層パターン7の幅が、各部分領域P1〜P3を包囲する接着層パターン71〜73の幅よりも広くされている。このことも、重ね合わせられたガラス基板40,50におけるずれや破損の発生の防止に寄与する。更に、換言すれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターン71〜73の幅が接着層パターン7の幅よりも狭くされている。これにより、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。
[第2の実施形態]
【0033】
第2の実施形態のガラス溶着方法は、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様にガラス溶着体1を製造するためのものであり、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報に基づいて溶着用レーザ光Lの照射順序を決定する点で、第1の実施形態のガラス溶着方法と相違している。以下、この相違点について主に説明する。
【0034】
まず、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様の手順で、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。続いて、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報を取得する。具体的には、図6に示されるように、分光干渉式膜厚計8を用いて、全てのガラス層3について、ガラス層3の側方における隙間を隙間情報として取得する。分光干渉式膜厚計8による測定光の投光及び受光は、図7に示されるように、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方に沿って実施され、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方における隙間Gが測定される。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層70によって外部雰囲気から封止されているので、隙間情報の取得は、大気雰囲気中で実施される。
【0035】
続いて、ガラス層3ごとに取得した隙間情報に基づいて、部分領域P1〜P3ごとに溶着用レーザ光Lの照射順序を決定する。具体的には、部分領域P1〜P3ごとに隙間Gの小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定する。ただし、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断した場合には、そのガラス層3を、レーザ光Lを照射する対象から除く。なお、所定値は、ガラス層3の厚さの0.5倍〜1倍以内であることが好ましい。つまり、ガラス層3の厚さが20μmであれば、所定値は10μ〜20μm以内(このとき、隙間Gは30μ〜40μm以内)となる。
【0036】
ここで、レーザ光Lの照射順序を決定する理由について説明する。すなわち、図8の(a)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が十分な部分では(このとき、隙間Gは小さくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40及びガラス基板50の両方に分散して伝わることになる。これにより、隙間Gが小さいガラス層3では、溶着に不具合が生じるおそれが低くなる。
【0037】
一方、図8の(b)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が不十分な部分では(このとき、隙間Gは大きくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40のみに伝わることになり、その結果、ガラス基板40が入熱過多の状態となる。これにより、隙間Gが大きいガラス層3では、ガラス基板40にクラックが発生するなど、溶着に不具合が生じるおそれが高くなる。
【0038】
つまり、レーザ光Lの照射順序を決定するのは、溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためである。なお、隙間Gは、ガラス層3ごとに取得した測定値の平均値でもよいし、代表値(測定値の最大値や、所定の箇所の測定値等)でもよい。
【0039】
続いて、部分領域P1〜P3ごとに決定したレーザ光Lの照射順序に従って、部分領域P1〜P3ごとにレーザ光Lの照射を実施する(図4参照)。ここでは、レーザ光Lの照射順序が、部分領域P1においては、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3の順序に決定され、部分領域P3においては、有効部分46,56間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3の順序に決定されたとする。また、部分領域P2においては、有効部分42,52間のガラス層3がレーザ光Lの照射対象から除かれ、有効部分45,55間のガラス層3のみがレーザ光Lの照射対象とされたとする。
【0040】
その場合、部分領域P1においては、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3の順序でレーザ光Lの照射を実施し、有効部分41,51同士、有効部分44,54同士を順次溶着する。部分領域P2においては、有効部分45,55間のガラス層3についてのみレーザ光Lの照射を実施し、有効部分45,55同士を溶着し、有効部分42,52同士は溶着しない。部分領域P3においては、有効部分46,56間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3の順序でレーザ光Lの照射を実施し、有効部分46,56同士、有効部分43,53同士を順次溶着する。なお、レーザ光Lとして、例えば部分領域P1〜P3ごとに別々のレーザヘッドから出射される複数のレーザ光を使用すれば、タクトタイムの向上を図ることができる。
【0041】
続いて、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様の手順で、ガラス基板40,50から、溶着された有効部分41,51同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士、有効部分46,56同士、及び有効部分43,53同士を切り出し、複数(ここでは5セット)のガラス溶着体1を得る。
【0042】
第2の実施形態のガラス溶着方法によれば、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様に、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0043】
更に、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間Gを示す隙間情報を取得し、その隙間情報に基づいてレーザ光Lの照射順序を決定する。これにより、ガラス層3に対するガラス基板50の接触不良に起因して溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施することが可能となる。
【0044】
また、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、隙間情報に基づいて、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいか否かを判断し、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断したガラス層3を、レーザ光Lを照射する対象から除く。これにより、溶着に不具合が生じるおそれが極めて高いガラス層3の溶着を実施せずに、より一層の製造の効率化を図ることができる。
【0045】
また、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3の側方における隙間Gを隙間情報として取得する。ガラス層3の側方における隙間Gは、ガラス層3にガラス基板50が接触しているか否かを直接的に示すため、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためのレーザ光Lの照射順序を適切に決定することができる。
【0046】
なお、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、CCDカメラ等を用いて、図6に示されるように、接着層70の幅Wを隙間情報として取得してもよい。接着層70の幅Wが広い部分は、ガラス基板40側にガラス基板50が押圧された部分と想定される。従って、接着層70の幅Wが広い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0047】
また、図9に示されるように、レーザ距離計9を用いて、ガラス基板50におけるガラス基板40と反対側の表面50bの高さを隙間情報として取得してもよい。ガラス層3に対するガラス基板50の接触状態は、ガラス基板50のうねり(図9の(a)の場合)やガラス基板50の傾き(図9の(b)の場合)等に起因して変化する。そこで、例えば、ガラス基板40におけるガラス基板50と反対側の表面40bを平坦面に真空吸着させる。このとき、ガラス基板40に対するガラス基板50の表面50bの高さが低い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0048】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0049】
例えば、図10に示されるように、接着層70は、全体領域Wを包囲する接着層パターン7、並びに隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界に沿う接着層パターン71,72を有するものであってもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。
【0050】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。更に、接着層パターン71,72の幅が接着層パターン7の幅よりも狭くされることも、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすること寄与する。また、ここでは、接着層パターン71,72が直線であるため、それらをパターニングするためのディスペンサの走査速度を高速化することができる。
【0051】
また、図11に示されるように、接着層70は、各部分領域P1〜P3を包囲する(すなわち、部分領域P1〜P3ごとに部分領域P1〜P3を包囲する)接着層パターン71〜73を有するものであり、接着層パターン71〜73の一部が集合することにより全体領域Wが包囲されていてもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。なお、接着層パターン71と接着層パターン72とは、隣り合う部分領域P1,P2の境界線において接触しており、接着層パターン72と接着層パターン73とは、隣り合う部分領域P2,P3の境界線において接触している。
【0052】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光Lの照射を実施する前に、重ね合わせられたガラス基板40,50が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。また、接着層70が単純なパターンによって構成されているため、接着層70をパターニングするためのディスペンサの走査、及び接着材の塗布のタイミングのコントロールが容易となり、不良が生じ難い。
【0053】
また、図12に示されるように、接着層70は、部分領域P1を包囲する環状の接着層パターン71、接着層パターン71のうち隣り合う部分領域P1,P2の境界に沿う部分とで部分領域P2を包囲する接着層パターン72、及び接着層パターン72のうち隣り合う部分領域P2,P3の境界に沿う部分とで部分領域P3を包囲する接着層パターン73を有するものであり、接着層パターン71〜73の一部が集合することにより全体領域Wが包囲されていてもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。
【0054】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。
【0055】
なお、以上説明してきた全ての接着層70(第1の実施形態及び第2の実施形態の接着層70も含む)においては、ディスペンサ等によって接着剤を塗布する際に、接着層パターンの終始部や連結部を、全体領域Wを包囲する接着層パターン上に集中させることが好ましい。これによれば、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせた際に、盛り上がった接着層パターンの終始部や連結部がつぶれても、ガラス層3に影響が及ぶのを防止することができる。また、ディスペンサ等によって接着剤を塗布する際に糸引き不良が起こっても、ガラス層3やガラス基板40の有効部分等を横切るような事態を防止することができる。
【0056】
また、以上説明してきた全ての全体領域W(第1の実施形態及び第2の実施形態の全体領域Wも含む)、すなわち、対向する有効部分同士の全組に対応する全体領域Wに代えて、対向する有効部分同士の複数組(全組から少なくとも一組(ダミーの組等)を除いた複数組)に対応する所定領域を適用してもよい。このとき、接着層70は、所定領域を複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置される。また、部分領域は、対向する有効部分同士の二組に対応するものに限定されず、対向する有効部分同士の少なくとも一組に対応するものであればよい。例えば、対向する有効部分同士の一組ごとに当該一組に対応するように複数の部分領域を設定すれば、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層3で起こっても、不良となるのは当該ガラス層3に対応する有効部分のみとなる。
【0057】
また、上記実施形態では、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させたが、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、これに限定されない。一例として、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させるだけでもよい。また、レーザ光Lの照射は、ガラス基板40側から実施してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板40に接着層70を配置したが、これに限定されない。例えば、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板50に接着層70を配置してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…ガラス溶着体、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、7,71〜73…接着層パターン、70…接着層、40…ガラス基板(第1のガラス基板)、41〜46…有効部分(第1の部分)、50…ガラス基板(第2のガラス基板)、51〜56…有効部分(第2の部分)、R…溶着予定領域、W…全体領域、P1〜P3…部分領域、L…レーザ光。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、ガラス部材同士が溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のガラス溶着方法として、次のようなものが知られている。すなわち、ガラス溶着体を構成するガラス部材に対応する有効部分を複数含むガラス基板を準備し、一方のガラス基板に対し、有効部分ごとに溶着予定領域に沿うようにガラス層を配置する。続いて、ガラス層を介して一方のガラス基板に他方のガラス基板を重ね合わせ、各溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、有効部分同士を溶着する。そして、ガラス基板から、溶着された有効部分同士を切り出し、複数のガラス溶着体を得る。
【0003】
ところで、上記ガラス溶着体が例えば有機ELディスプレイ等である場合には、その製造工程において、溶着予定領域に包囲された発光素子領域に水分等が進入するのを防止する必要がある。そこで、ガラス層を介してガラス基板同士を重ね合わせるに際し、全てのガラス層を包囲するようにガラス基板間に接着層を配置することにより、ガラス基板間の空間を外部雰囲気から封止することが提案されている(例えば特許文献1,2参照)。これによれば、発光素子領域に水分等が進入するのを防止しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−113830号公報
【特許文献2】特開2007−115491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス層ごとにレーザ光の照射を実施している際に、ガラス基板へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層で起こると、溶着未実施のガラス層の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念されることから、溶着未実施の部分が全て無駄になるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができるガラス溶着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のガラス溶着方法は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、第1の部分ごとに溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、第1の部分のそれぞれと第2の部分のそれぞれとがガラス層を介して対向するように第1のガラス基板に重ね合わせ、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置された接着層によって、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、対向する第1の部分と第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、接着層は、対向する第1の部分及び第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する第1の部分及び第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置されることを特徴とする。
【0008】
このガラス溶着方法では、ガラス層を介して対向するように第1のガラス基板と第2のガラス基板とを重ね合わせ、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を接着層によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。更に、接着層は、対向する第1の部分及び第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する第1の部分及び第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に配置される。これにより、ガラス層ごとにレーザ光の照射を実施している際に、ガラス基板へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層で起こっても、不具合が起こったガラス層が存在する部分領域以外の部分領域においては、溶着未実施のガラス層の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。よって、このガラス溶着方法によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0009】
ここで、接着層は、所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び第1の接着層パターンの内側において部分領域ごとに部分領域を包囲する第2の接着層パターンを有することが好ましい。これによれば、所定領域の外周及び隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光の照射を実施する前に、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0010】
或いは、接着層は、所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び隣り合う部分領域の境界に沿う第2の接着層パターンを有することが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間(すなわち、対向する第1の部分及び第2の部分の一組間)のピッチを小さくすることができる。
【0011】
これらの場合、第1の接着層パターンの幅は、第2の接着層パターンの幅よりも広くされることが好ましい。これによれば、所定領域の外周において第1の接着層パターンの幅が第2の接着層パターンの幅よりも広くされるので、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのをより確実に防止することができる。更に、隣り合う部分領域の境界において第2の接着層パターンの幅が第1の接着層パターンの幅よりも狭くされるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間のピッチをより小さくすることができる。
【0012】
また、接着層は、部分領域ごとに部分領域を包囲する接着層パターンを有し、所定領域は、接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光の照射を実施する前に、重ね合わせられた第1のガラス基板及び第2のガラス基板が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0013】
或いは、接着層は、隣り合う部分領域の一方を包囲する第1の接着層パターン、及び第1の接着層パターンのうち当該隣り合う部分領域の境界に沿う部分とで当該隣り合う部分領域の他方を包囲する第2の接着層パターンを有し、所定領域は、第1の接着層パターンの一部及び第2の接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることが好ましい。これによれば、隣り合う部分領域の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層間のピッチを小さくすることができる。
【0014】
また、本発明のガラス溶着方法は、第1のガラス基板及び第2のガラス基板から、溶着された第1の部分及び第2の部分を切り出し、複数のガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることが好ましい。これにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を複数得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態のガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法における隙間情報の取得方法を説明するための一部断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法を説明するための一部断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態のガラス溶着方法における隙間情報の他の取得方法を説明するための概念図である。
【図10】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図12】本発明の他の実施形態のガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0018】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿うように配置されたガラス層3を介して、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる層であり、溶着予定領域Rに沿うように矩形環状に配置されている。このガラス溶着体1は、有機ELディスプレイであり、溶着予定領域Rの内側に形成された発光素子領域が、ガラス部材4,5及びガラス層3によって外部雰囲気から封止されている。
【0019】
次に、環状の溶着予定領域Rに沿った溶着用レーザ光Lの照射によって、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法について説明する。まず、図2に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第1の部分)41〜46を含むガラス基板40を準備する。各有効部分41〜46は、ガラス部材4に対応している。そして、有効部分41〜46ごとに環状の溶着予定領域Rを設定する。
【0020】
続いて、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、有効部分41〜46ごとに溶着予定領域Rに沿うようにガラス基板40の表面40aにペースト層6を配置する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラスからなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤、及びアクリル等の樹脂成分であるバインダが混練されたものである。続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させる。更に、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させる。
【0021】
続いて、ディスペンサ等によって例えば紫外線硬化樹脂等の接着剤を塗布することにより、ガラス基板40の表面40aに接着層70を配置する。接着層70は、全体領域(所定領域)Wを包囲する接着層パターン7、及び接着層パターン7の内側において各部分領域P1〜P3を包囲する(すなわち、部分領域P1〜P3ごとに部分領域P1〜P3を包囲する)接着層パターン71〜73を有している。ここでは、全体領域Wは、全ての有効部分41〜46に対応する領域である。また、部分領域P1,P2,P3は、それぞれ、有効部分41,44、有効部分42,45、有効部分43,46に対応する領域である。接着層パターン71と接着層パターン72とは、隣り合う部分領域P1,P2の境界線において接触しており、接着層パターン72と接着層パターン73とは、隣り合う部分領域P2,P3の境界線において接触している。また、接着層パターン7の幅は、各接着層パターン71〜73の幅よりも広くされている。なお、接着層70は単純なパターンによって構成されているため、接着層70をパターニングするためのディスペンサの走査、及び接着材の塗布のタイミングのコントロールが容易となり、不良が生じ難い。
【0022】
続いて、図3に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第2の部分)51〜56を含むガラス基板50を準備する。各有効部分51〜56は、ガラス部材5に対応しており、各有効部分51〜56には、発光素子領域が形成されている。そして、有効部分41〜46のそれぞれと有効部分51〜56のそれぞれとがガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる。続いて、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置された接着層70を紫外線の照射によって硬化させ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間(全体領域Wに対応する空間、各部分領域P1〜P3に対応する空間)を接着層70によって外部雰囲気から封止する。なお、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、及び接着層70による封止は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、或いは減圧条件下で実施される。
【0023】
これにより、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。ここでは、全体領域Wは、対向する有効部分41,51同士、有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士の全組に対応する領域である。また、部分領域P1,P2,P3は、それぞれ、対向する有効部分41,51同士及び有効部分44,54同士の二組、対向する有効部分42,52同士及び有効部分45,55同士の二組、対向する有効部分43,53同士及び有効部分46,56同士の二組に対応する領域である。
【0024】
続いて、図4に示されるように、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分42,52間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3、有効部分45,55間のガラス層3、有効部分46,56間のガラス層3という順序で、レーザ光Lの照射を実施する。まず、溶着予定領域Rに沿って有効部分41,51間のガラス層3にレーザ光Lが照射されると、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス基板40,50の表面40a,50a)が同程度に溶融・再固化し、対向する有効部分41,51同士が溶着される(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス基板40,50の少なくとも一方が溶融しない場合もある)。以降、上述した順序でのレーザ光Lの照射によって、対向する有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士が溶着される。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層70によって外部雰囲気から封止されているので、レーザ光Lの照射は、大気雰囲気中で実施される。
【0025】
続いて、図5に示されるように、ガラス基板40,50から、溶着された有効部分41,51同士、有効部分42,52同士、有効部分43,53同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士を切り出し、複数(ここでは6セット)のガラス溶着体1を得る。
【0026】
第1の実施形態のガラス溶着方法によれば、以下のように、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0027】
すなわち、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域Rに沿ったレーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。
【0028】
更に、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、接着層70が、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置される。これにより、図4に示されるように、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が例えば有効部分42,52同士の溶着で起こっても、不具合が起こった部分領域P2以外の部分領域P1,P3においては、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が防止される。
【0029】
具体例を挙げて説明する。ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層3で起こると、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念される。そのため、例えば、接着層70が接着層パターン71〜73を有さず、接着層パターン7のみからなる場合には、溶着未実施の部分が全て無駄になるおそれがある。つまり、有効部分41,51同士の溶着の次に、有効部分42,52同士の溶着を実施し、ここで不具合が生じると、溶着未実施の有効部分43,53、有効部分44,54、有効部分45,55及び有効部分46,56が全て無駄になるおそれがある。
【0030】
これに対し、第1の実施形態のガラス溶着方法では、全体領域Wだけでなく各部分領域P1〜P3も接着層70によって包囲されて閉じられる。従って、有効部分42,52同士の溶着で不具合が生じても、外部雰囲気の進入の懸念により無駄になるおそれがあるのは、不具合が起こった部分領域P2内に存在する有効部分45,55のみということになる。このように、第1の実施形態のガラス溶着方法によれば、無駄を減らして、歩留まりの向上を図ることができる。
【0031】
また、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、接着層70が、全体領域Wを包囲する接着層パターン7、及び接着層パターン7の内側において各部分領域P1〜P3を包囲する接着層パターン71〜73を有している。つまり、全体領域Wの外周、並びに、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において、接着層パターンが2列になっている。これにより、レーザ光Lの照射を実施する前に、重ね合わせられたガラス基板40,50が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。
【0032】
また、第1の実施形態のガラス溶着方法においては、全体領域Wを包囲する接着層パターン7の幅が、各部分領域P1〜P3を包囲する接着層パターン71〜73の幅よりも広くされている。このことも、重ね合わせられたガラス基板40,50におけるずれや破損の発生の防止に寄与する。更に、換言すれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターン71〜73の幅が接着層パターン7の幅よりも狭くされている。これにより、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。
[第2の実施形態]
【0033】
第2の実施形態のガラス溶着方法は、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様にガラス溶着体1を製造するためのものであり、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報に基づいて溶着用レーザ光Lの照射順序を決定する点で、第1の実施形態のガラス溶着方法と相違している。以下、この相違点について主に説明する。
【0034】
まず、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様の手順で、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層70によって外部雰囲気から封止する。続いて、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報を取得する。具体的には、図6に示されるように、分光干渉式膜厚計8を用いて、全てのガラス層3について、ガラス層3の側方における隙間を隙間情報として取得する。分光干渉式膜厚計8による測定光の投光及び受光は、図7に示されるように、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方に沿って実施され、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方における隙間Gが測定される。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層70によって外部雰囲気から封止されているので、隙間情報の取得は、大気雰囲気中で実施される。
【0035】
続いて、ガラス層3ごとに取得した隙間情報に基づいて、部分領域P1〜P3ごとに溶着用レーザ光Lの照射順序を決定する。具体的には、部分領域P1〜P3ごとに隙間Gの小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定する。ただし、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断した場合には、そのガラス層3を、レーザ光Lを照射する対象から除く。なお、所定値は、ガラス層3の厚さの0.5倍〜1倍以内であることが好ましい。つまり、ガラス層3の厚さが20μmであれば、所定値は10μ〜20μm以内(このとき、隙間Gは30μ〜40μm以内)となる。
【0036】
ここで、レーザ光Lの照射順序を決定する理由について説明する。すなわち、図8の(a)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が十分な部分では(このとき、隙間Gは小さくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40及びガラス基板50の両方に分散して伝わることになる。これにより、隙間Gが小さいガラス層3では、溶着に不具合が生じるおそれが低くなる。
【0037】
一方、図8の(b)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が不十分な部分では(このとき、隙間Gは大きくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40のみに伝わることになり、その結果、ガラス基板40が入熱過多の状態となる。これにより、隙間Gが大きいガラス層3では、ガラス基板40にクラックが発生するなど、溶着に不具合が生じるおそれが高くなる。
【0038】
つまり、レーザ光Lの照射順序を決定するのは、溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためである。なお、隙間Gは、ガラス層3ごとに取得した測定値の平均値でもよいし、代表値(測定値の最大値や、所定の箇所の測定値等)でもよい。
【0039】
続いて、部分領域P1〜P3ごとに決定したレーザ光Lの照射順序に従って、部分領域P1〜P3ごとにレーザ光Lの照射を実施する(図4参照)。ここでは、レーザ光Lの照射順序が、部分領域P1においては、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3の順序に決定され、部分領域P3においては、有効部分46,56間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3の順序に決定されたとする。また、部分領域P2においては、有効部分42,52間のガラス層3がレーザ光Lの照射対象から除かれ、有効部分45,55間のガラス層3のみがレーザ光Lの照射対象とされたとする。
【0040】
その場合、部分領域P1においては、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3の順序でレーザ光Lの照射を実施し、有効部分41,51同士、有効部分44,54同士を順次溶着する。部分領域P2においては、有効部分45,55間のガラス層3についてのみレーザ光Lの照射を実施し、有効部分45,55同士を溶着し、有効部分42,52同士は溶着しない。部分領域P3においては、有効部分46,56間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3の順序でレーザ光Lの照射を実施し、有効部分46,56同士、有効部分43,53同士を順次溶着する。なお、レーザ光Lとして、例えば部分領域P1〜P3ごとに別々のレーザヘッドから出射される複数のレーザ光を使用すれば、タクトタイムの向上を図ることができる。
【0041】
続いて、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様の手順で、ガラス基板40,50から、溶着された有効部分41,51同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士、有効部分46,56同士、及び有効部分43,53同士を切り出し、複数(ここでは5セット)のガラス溶着体1を得る。
【0042】
第2の実施形態のガラス溶着方法によれば、第1の実施形態のガラス溶着方法と同様に、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0043】
更に、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間Gを示す隙間情報を取得し、その隙間情報に基づいてレーザ光Lの照射順序を決定する。これにより、ガラス層3に対するガラス基板50の接触不良に起因して溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施することが可能となる。
【0044】
また、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、隙間情報に基づいて、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいか否かを判断し、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断したガラス層3を、レーザ光Lを照射する対象から除く。これにより、溶着に不具合が生じるおそれが極めて高いガラス層3の溶着を実施せずに、より一層の製造の効率化を図ることができる。
【0045】
また、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、ガラス層3の側方における隙間Gを隙間情報として取得する。ガラス層3の側方における隙間Gは、ガラス層3にガラス基板50が接触しているか否かを直接的に示すため、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためのレーザ光Lの照射順序を適切に決定することができる。
【0046】
なお、第2の実施形態のガラス溶着方法においては、CCDカメラ等を用いて、図6に示されるように、接着層70の幅Wを隙間情報として取得してもよい。接着層70の幅Wが広い部分は、ガラス基板40側にガラス基板50が押圧された部分と想定される。従って、接着層70の幅Wが広い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0047】
また、図9に示されるように、レーザ距離計9を用いて、ガラス基板50におけるガラス基板40と反対側の表面50bの高さを隙間情報として取得してもよい。ガラス層3に対するガラス基板50の接触状態は、ガラス基板50のうねり(図9の(a)の場合)やガラス基板50の傾き(図9の(b)の場合)等に起因して変化する。そこで、例えば、ガラス基板40におけるガラス基板50と反対側の表面40bを平坦面に真空吸着させる。このとき、ガラス基板40に対するガラス基板50の表面50bの高さが低い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0048】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0049】
例えば、図10に示されるように、接着層70は、全体領域Wを包囲する接着層パターン7、並びに隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界に沿う接着層パターン71,72を有するものであってもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。
【0050】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。更に、接着層パターン71,72の幅が接着層パターン7の幅よりも狭くされることも、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすること寄与する。また、ここでは、接着層パターン71,72が直線であるため、それらをパターニングするためのディスペンサの走査速度を高速化することができる。
【0051】
また、図11に示されるように、接着層70は、各部分領域P1〜P3を包囲する(すなわち、部分領域P1〜P3ごとに部分領域P1〜P3を包囲する)接着層パターン71〜73を有するものであり、接着層パターン71〜73の一部が集合することにより全体領域Wが包囲されていてもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。なお、接着層パターン71と接着層パターン72とは、隣り合う部分領域P1,P2の境界線において接触しており、接着層パターン72と接着層パターン73とは、隣り合う部分領域P2,P3の境界線において接触している。
【0052】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが2列になるので、レーザ光Lの照射を実施する前に、重ね合わせられたガラス基板40,50が互いにずれたり破損したりするのを確実に防止することができる。また、接着層70が単純なパターンによって構成されているため、接着層70をパターニングするためのディスペンサの走査、及び接着材の塗布のタイミングのコントロールが容易となり、不良が生じ難い。
【0053】
また、図12に示されるように、接着層70は、部分領域P1を包囲する環状の接着層パターン71、接着層パターン71のうち隣り合う部分領域P1,P2の境界に沿う部分とで部分領域P2を包囲する接着層パターン72、及び接着層パターン72のうち隣り合う部分領域P2,P3の境界に沿う部分とで部分領域P3を包囲する接着層パターン73を有するものであり、接着層パターン71〜73の一部が集合することにより全体領域Wが包囲されていてもよい。この場合にも、接着層70は、全体領域Wを複数の部分領域P1〜P3に分割するように、かつ、全体領域Wを包囲すると共に各部分領域P1〜P3を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置されることになる。
【0054】
この接着層70によれば、隣り合う部分領域P1,P2の境界及び部分領域P2,P3の境界において接着層パターンが1列になるので、当該境界を挟んで隣り合うガラス層3,3間のピッチを小さくすることができる。
【0055】
なお、以上説明してきた全ての接着層70(第1の実施形態及び第2の実施形態の接着層70も含む)においては、ディスペンサ等によって接着剤を塗布する際に、接着層パターンの終始部や連結部を、全体領域Wを包囲する接着層パターン上に集中させることが好ましい。これによれば、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせた際に、盛り上がった接着層パターンの終始部や連結部がつぶれても、ガラス層3に影響が及ぶのを防止することができる。また、ディスペンサ等によって接着剤を塗布する際に糸引き不良が起こっても、ガラス層3やガラス基板40の有効部分等を横切るような事態を防止することができる。
【0056】
また、以上説明してきた全ての全体領域W(第1の実施形態及び第2の実施形態の全体領域Wも含む)、すなわち、対向する有効部分同士の全組に対応する全体領域Wに代えて、対向する有効部分同士の複数組(全組から少なくとも一組(ダミーの組等)を除いた複数組)に対応する所定領域を適用してもよい。このとき、接着層70は、所定領域を複数の部分領域に分割するように、かつ、所定領域を包囲すると共に部分領域ごとに部分領域を包囲するように、ガラス基板40とガラス基板50との間に配置される。また、部分領域は、対向する有効部分同士の二組に対応するものに限定されず、対向する有効部分同士の少なくとも一組に対応するものであればよい。例えば、対向する有効部分同士の一組ごとに当該一組に対応するように複数の部分領域を設定すれば、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、ガラス基板40,50へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層3で起こっても、不良となるのは当該ガラス層3に対応する有効部分のみとなる。
【0057】
また、上記実施形態では、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させたが、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、これに限定されない。一例として、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させるだけでもよい。また、レーザ光Lの照射は、ガラス基板40側から実施してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板40に接着層70を配置したが、これに限定されない。例えば、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板50に接着層70を配置してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…ガラス溶着体、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、7,71〜73…接着層パターン、70…接着層、40…ガラス基板(第1のガラス基板)、41〜46…有効部分(第1の部分)、50…ガラス基板(第2のガラス基板)、51〜56…有効部分(第2の部分)、R…溶着予定領域、W…全体領域、P1〜P3…部分領域、L…レーザ光。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、前記第1の部分ごとに前記溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、
前記第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、前記第1の部分のそれぞれと前記第2の部分のそれぞれとが前記ガラス層を介して対向するように前記第1のガラス基板に重ね合わせ、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に配置された接着層によって、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、
前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に前記レーザ光を照射することにより、対向する前記第1の部分と前記第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、
前記接着層は、対向する前記第1の部分及び前記第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する前記第1の部分及び前記第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、前記所定領域を包囲すると共に前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲するように、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に配置されることを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記接着層は、前記所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び前記第1の接着層パターンの内側において前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲する第2の接着層パターンを有することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記接着層は、前記所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び隣り合う前記部分領域の境界に沿う第2の接着層パターンを有することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記第1の接着層パターンの幅は、前記第2の接着層パターンの幅よりも広くされることを特徴とする請求項2又は3記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記接着層は、前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲する接着層パターンを有し、
前記所定領域は、前記接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記接着層は、隣り合う前記部分領域の一方を包囲する第1の接着層パターン、及び前記第1の接着層パターンのうち当該隣り合う前記部分領域の境界に沿う部分とで当該隣り合う前記部分領域の他方を包囲する第2の接着層パターンを有し、
前記所定領域は、前記第1の接着層パターンの一部及び前記第2の接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記第1のガラス基板及び前記第2のガラス基板から、溶着された前記第1の部分及び前記第2の部分を切り出し、複数の前記ガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項1】
環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、前記第1の部分ごとに前記溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、
前記第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、前記第1の部分のそれぞれと前記第2の部分のそれぞれとが前記ガラス層を介して対向するように前記第1のガラス基板に重ね合わせ、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に配置された接着層によって、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、
前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に前記レーザ光を照射することにより、対向する前記第1の部分と前記第2の部分とを溶着する第3の工程と、を備え、
前記接着層は、対向する前記第1の部分及び前記第2の部分の複数組に対応する所定領域を、対向する前記第1の部分及び前記第2の部分の少なくとも一組に対応する複数の部分領域に分割するように、かつ、前記所定領域を包囲すると共に前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲するように、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に配置されることを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記接着層は、前記所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び前記第1の接着層パターンの内側において前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲する第2の接着層パターンを有することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記接着層は、前記所定領域を包囲する第1の接着層パターン、及び隣り合う前記部分領域の境界に沿う第2の接着層パターンを有することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記第1の接着層パターンの幅は、前記第2の接着層パターンの幅よりも広くされることを特徴とする請求項2又は3記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記接着層は、前記部分領域ごとに前記部分領域を包囲する接着層パターンを有し、
前記所定領域は、前記接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記接着層は、隣り合う前記部分領域の一方を包囲する第1の接着層パターン、及び前記第1の接着層パターンのうち当該隣り合う前記部分領域の境界に沿う部分とで当該隣り合う前記部分領域の他方を包囲する第2の接着層パターンを有し、
前記所定領域は、前記第1の接着層パターンの一部及び前記第2の接着層パターンの一部が集合することにより包囲されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記第1のガラス基板及び前記第2のガラス基板から、溶着された前記第1の部分及び前記第2の部分を切り出し、複数の前記ガラス溶着体を得る第4の工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−96930(P2012−96930A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243142(P2010−243142)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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