説明

ガラス組成物及びガラスセラミックの製造方法

【課題】Liの結晶の生成を抑制しつつ、Li及びLiPSの結晶含有率を向上できるガラスセラミックの製造方法を提供する。
【解決手段】Liを主成分とするガラスと、LiPSを主成分とするガラスとを含有し、LiとLiPSの含有率比がLi/LiPS
=30/70〜70/30(モル比)であるガラス組成物。このガラス組成物を熱処理するガラスセラミックの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、ガラスセラミック及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、リチウムイオン二次電池に使用する固体電解質として好適なガラスセラミックを与えるガラス組成物、ガラスセラミック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム電池等二次電池の需要が増加している。
使用される用途が広がるのに伴い、二次電池の更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
リチウム電池の安全性を確保する方法としては、有機溶媒電解質に代えて無機固体電解質を用いることが有効である。
【0003】
無機固体電解質としては、リチウム元素、リン元素及びイオウ元素を主成分とする硫化物系ガラスを熱処理したものが高いイオン伝導性を有することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、特許文献2には固体電解質として、リチウム(Li)、リン(P)及び硫黄(S)元素を含有し、X線回折(CuKα:λ=1.5418Å)において、2θ=17.8±0.3deg,18.2±0.3deg,19.8±0.3deg,21.8±0.3deg,23.8±0.3deg,25.9±0.3deg,29.5±0.3deg,30.0±0.3degに回折ピークを有するリチウムイオン伝導性硫化物系結晶化ガラスが開示されている。これらのX線回折ピークを示すものが特に高いイオン伝導性を示している。
これら硫化物系固体電解質においては、LiやLiPSの結晶構造が、固体電解質のLiイオン伝導性の向上に寄与していることが知られている。
【0005】
ところで、硫化物系固体電解質は、硫化リチウム(LiS)と、五硫化二燐(P)を出発原料とし、これらの混合物からメカニカルミリング法や溶融急冷法により硫化物ガラスを作製し、これを加熱処理することで製造されている。
しかしながら、この製造方法では、固体電解質中のLi及びLiPSの結晶含有率を高めると、Liの結晶も生成するという問題があった。Liの結晶は、固体電解質のイオン伝導性において好ましくない結晶である。
そのため、Liの結晶の生成を抑制しつつ、Li及びLiPSの結晶含有率を向上できる硫化物系固体電解質の製造方法が要求されていた。
【特許文献1】特開2002−109955号公報
【特許文献2】特開2005−228570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、Liの結晶の生成を抑制しつつ、Li及びLiPSの結晶含有率を向上できるガラスセラミックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のガラス組成物、ガラスセラミック及びその製造方法が提供できる。
1.Liを主成分とするガラスと、LiPSを主成分とするガラスとを含有し、LiとLiPSの含有率比がLi/LiPS=30/70〜70/30(モル比)であるガラス組成物。
2.上記1に記載のガラス組成物を熱処理するガラスセラミックの製造方法。
3.上記2に記載のガラス組成物の製造方法により得られるガラスセラミック。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオン伝導性の高いガラスセラミックが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガラス組成物は、本発明のガラスセラミックの製造方法で使用する原料に相当し、以下のガラスを含む混合物である。
(1)Liを主成分とするガラス
(2)LiPSを主成分とするガラス
【0010】
Liを主成分とするガラスとは、ガラス中にLiを80〜100mol%、好ましくは約100mol%含有しているものである。このガラスは、例えば、Chem.Mater.2,273(1990);H.E.Eckert,Z.Zhang,and J.H.Kennedyを参照して製造できる。具体的には、硫化リチウム(LiS)と五硫化二燐(P)を66:34(モル比)の比率で混合した材料を、真空中石英ガラス内に封管し、800℃で30分間加熱し溶融させた後、氷水で急冷することにより製造できる。この製法で得られるガラスは、ほぼLi単体からなる。
【0011】
LiPSを主成分とするガラスとは、ガラス中にLiPSを70〜100mol%、好ましくは80〜100mol%、含有しているものである。このガラスは、硫化リチウム(LiS)と五硫化二燐(P)を80:20のモル比で仕込み、遊星ミルを用いたメカニカルミリングなどの粉砕手段により製造できる。この製法で得られるガラスは、ガラス中にLiPSを約83mol%含んでいる。
尚、上記(1)で作製したガラスがほぼLi単体からなることは、その固体31PNMRスペクトルが上記のEckertらの論文に記載されたLiのスペクトルと一致することで確認できる。また、(2)のガラスにおけるLi又はLiPSの含有率は、固体31PNMRスペクトルのピークの積分値(面積比)から算出した値である。
【0012】
本発明のガラス組成物は、上述した2種のガラスの混合物であり、そのLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)は30:70〜70:30であり、好ましくは、40:60〜60:40である。この比率の組成物を使用したときに、イオン伝導性の高いガラスセラミックが得られる。
【0013】
上記(1)及び(2)のガラスの原料であるLiSは、特に制限なく工業的に入手可能なものが使用できるが、以下に説明するように高純度のものが好ましい。
硫化リチウムは、少なくとも硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であり、かつN−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。硫黄酸化物のリチウム塩の総含有量が0.15質量%以下であると、高イオン伝導度の固体電解質を得ることはできないおそれがある。
【0014】
また、N−メチルアミノ酪酸リチウムの含有量が0.15質量%以下であると、N−メチルアミノ酪酸リチウムの劣化物がリチウム電池のサイクル性能を低下させることがない。
従って、高イオン伝導性電解質を得るためには、不純物が低減された硫化リチウムを用いる必要がある。
【0015】
この固体物質で用いられる硫化リチウムの製造法としては、少なくとも上記不純物を低減できる方法であれば特に制限はない。
例えば、以下の方法で製造された硫化リチウムを精製することにより得ることもできる。
以下の製造法の中では、特にa又はbの方法が好ましい。
a.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを0〜150℃で反応させて水硫化リチウムを生成し、次いでこの反応液を150〜200℃で脱硫化水素化する方法(特開平7−330312号公報)。
b.非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを150〜200℃で反応させ、直接硫化リチウムを生成する方法(特開平7−330312号公報)。
c.水酸化リチウムとガス状硫黄源を130〜445℃の温度で反応させる方法(特開平9−283156号公報)。
【0016】
上記のようにして得られた硫化リチウムの精製方法としては、特に制限はない。好ましい精製法としては、例えば、国際公開WO2005/40039号等が挙げられる。
具体的には、上記のようにして得られた硫化リチウムを、有機溶媒を用い、100℃以上の温度で洗浄する。
洗浄に用いる有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、さらに、硫化リチウム製造に使用する非プロトン性有機溶媒と洗浄に用いる非プロトン性極性有機溶媒とが同一であることがより好ましい。
洗浄に好ましく用いられる非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、アミド化合物、ラクタム化合物、尿素化合物、有機硫黄化合物、環式有機リン化合物等の非プロトン性の極性有機化合物が挙げられ、単独溶媒、又は混合溶媒として好適に使用することができる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、良好な溶媒に選択される。
【0017】
洗浄に使用する有機溶媒の量は特に限定されず、また、洗浄の回数も特に限定されないが、2回以上であることが好ましい。洗浄は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
洗浄された硫化リチウムを、洗浄に使用した有機溶媒の沸点以上の温度で、窒素等の不活性ガス気流下、常圧又は減圧下で、5分以上、好ましくは約2〜3時間以上乾燥することにより、本発明で用いられる硫化リチウムを得ることができる。
【0018】
は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0019】
次に、本発明のガラスセラミックの製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、上述したガラス組成物を加熱処理することを特徴とする。
従来の製造方法では、硫化リチウム(LiS)と五硫化二燐(P)を出発原料とし、これらの混合物からメカニカルミリング法や溶融急冷法により硫化物ガラスを作製し、これを熱処理していた。この方法では、ガラスセラミックにおけるLi及びLiPSの含有率が50mol%程度であれば、Liの生成はほとんどなく問題はなかった。しかしながら、Li及びLiPSの含有率をさらに高めるように、熱処理条件や時間を調整すると、Liの生成が顕著になるということがあった。
【0020】
一方、本発明では、予め、上述したLi及びLiPSの含有率が極めて高いガラス組成物を作製し、これを原料として使用する。これにより、硫化物ガラスの製造段階、即ち、メカニカルミリング法や溶融急冷法による処理工程や、硫化物ガラスの熱処理中におけるLiの生成を抑制している。
【0021】
ガラスセラミックの製造方法において、ガラス組成物の熱処理温度は、好ましくは190℃〜340℃、より好ましくは、195℃〜335℃、特に好ましくは、200℃〜330℃である。190℃より低いと高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、340℃より高いとイオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
熱処理時間は、190℃以上220℃以下の温度の場合は、3〜240時間が好ましく、特に4〜230時間が好ましい。また、220℃より高く340℃以下の温度の場合は、0.1〜240時間が好ましく、特に0.2〜235時間が好ましく、さらに、0.3〜230時間が好ましい。熱処理時間が0.1時間より短いと、高イオン伝導性の結晶が得られにくい場合があり、240時間より長いと、イオン伝導性の低い結晶が生じる恐れがある。
【0022】
本発明のガラスセラミックの製造方法では、固体31PNMRスペクトルが、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に起因する結晶の比率(Xc)が50mol〜100mol%であり、Liの含有率を10mol%以下にすることができる。このため、イオン伝導性の高いガラスセラミックが得られる。
尚、各結晶の含有率の測定方法は、固体31P−NMRスペクトルについて、70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いてガウス曲線に分離し、各曲線の面積比から算出する。固体31P−NMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmのピークが、結晶中のP4−とPS3−に起因するピークであり、108.5±0.6ppmのピークが、結晶中のP4−に起因するピークである。詳細は特願2005−356889を参照すればよい。
【実施例】
【0023】
製造例1
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法にしたがって製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0024】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP 100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP 100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0025】
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0026】
実施例1
(1)Liを主成分とするガラス(ガラスA)の製造
製造例1で得た硫化リチウム(LiS)と五硫化二燐(P、アルドリッチ製)を66:34(モル比)の比率で混合した。この混合材料を、真空中にて石英ガラス内に封管し、800℃で30分間加熱し溶融させた。その後、氷水で急冷することによりガラスAを製造した。
このガラスAについて、固体31PNMRを測定した結果、H. E. Eckert, Z. Zhang, and J. H. Kennedy, Chem. Mater. 2, 273(1990)の論文と同じスペクトルが得られた。
【0027】
(2)LiPSを主成分とするガラス(ガラスB)の製造
製造例1で得た硫化リチウムと五硫化二リン(アルドリッチ製)を原料に用いた。これらを80:20のモル比となるように秤量し、遊星ボールミルにてメカニカルミリングを行いガラスBを得た。得られたガラスBを固体31PNMRを測定した結果、LiPSがピークの面積比から83mol%含まれていることがわかった。
【0028】
(3)ガラス組成物の調製
上記(1)及び(2)で作製したガラスA(2.00g)とガラスB(2.22g)を混合し、乳鉢で粉砕混合した。尚、この混合物におけるLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)は50:50である。
【0029】
(4)ガラスセラミックの製造
上記(3)で調製したガラス組成物の粉末を、300℃にて2時間熱処理を行いガラスセラミックとした。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度(25℃、以下同様)を測定したところ5×10−3S/cmであった。
【0030】
実施例2
実施例1(3)において、ガラスAの配合量を2.00g、ガラスBの配合量を1.48gとした。即ち、ガラス組成物におけるLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)を60:40とした。その他は実施例1と同様にしてガラスセラミックを製造した。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ2×10−3S/cmであった。
【0031】
実施例3
実施例1(3)において、ガラスAの配合量を2.00g、ガラスBの配合量を3.33gとした。即ち、ガラス組成物におけるLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)を40:60とした。その他は実施例1と同様にしてガラスセラミックを製造した。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ2×10−3S/cmであった。
【0032】
比較例1
実施例1(3)において、ガラスAのみを乳鉢で粉砕した。即ち、ガラス組成物におけるLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)を100:0とした。その他は実施例1と同様にしてガラスセラミックを製造した。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ2×10−4S/cmであった。
【0033】
比較例2
実施例1(3)において、ガラスBのみを乳鉢で粉砕した。即ち、ガラス組成物におけるLiとLiPSの含有率比(Li:LiPS、モル比)を0:100とした。その他は実施例1と同様にしてガラスセラミックを製造した。
このガラスセラミックをペレット状に賦形し、イオン伝導度を測定したところ7×10−4S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のガラス組成物は、イオン伝導性の高いガラスセラミックの原料として好適に使用できる。
また、製造方法で得られるガラスセラミックは、高いイオン伝導性を有するため、リチウム電池の固体電解質として適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを主成分とするガラスと、
LiPSを主成分とするガラスとを含有し、
LiとLiPSの含有率比がLi/LiPS=30/70〜70/30(モル比)であるガラス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス組成物を熱処理するガラスセラミックの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガラス組成物の製造方法により得られるガラスセラミック。



【公開番号】特開2008−103096(P2008−103096A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282394(P2006−282394)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】