説明

ガラス組成物

【課題】鉛成分を含有せず、希土類酸化物とフッ素を同時に含有するガラス系において、鉛ガラスに匹敵する遮蔽能力を有し、しかも表面硬度が高く可視域での透明性が極めて高いガラス組成物を提供すること。
【解決手段】酸化物基準の質量%で、Ln(LnはLa、Y、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)を1〜85%、フッ素を0.1〜20%含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.03mmPb/mm以上であるガラス組成物である。また、SiO及び/又はB及び/又はGeO及び/又はPの合計量を10〜70%含有させることで、失透に対して安定で、表面硬度が高く透明性も放射線遮蔽能力も優れたガラス組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、更に詳しくは、多量な希土類酸化物とフッ素を含有するガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
X線、γ線などの放射線を取り扱う施設において、仕事をし易くするため、及び業務に携わる人々を放射線から守るために、放射線遮蔽性を有するガラス組成物が使用されている。このようなガラスとしては、可視域での高い透明性と、放射線に対して優れた遮蔽能力(吸収能力)が要求される。遮蔽能力はガラスの質量吸収係数と密度に比例するので、昔から密度の大きい鉛ガラスが使われている。
【0003】
しかし、鉛成分は有害物質であるため、鉛成分を多量に含むガラス組成物は、その製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなるという問題を有していた。また、鉛成分を多量に含むガラス組成物は、ガラス表面の汚れを落とすための表面クリーニング後、ガラス表面に「ヤケ」が発生し、この「ヤケ」により、ガラスの透明性が著しく低下することも問題となっていた。
【0004】
また、表面硬度が低いため、研磨や切断などの加工工程において、表面にキズがつき易く、そのキズが原因となってガラスが割れることがあった。
【0005】
従って、鉛成分を含まないガラス組成物が開発されており、特許文献1には、本質的に鉛成分を含有せず、SiO−BaO系のガラスであって、密度が3.01g/cm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。また、特許文献2には、本質的には、鉛成分を含有せず、SiOとAlを含有し、100kVのX線に対する鉛当量が、0.03mmPb/mm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平6−127973号公報
【特許文献2】特開2003−315489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の放射線遮蔽ガラスは、遮蔽能力が鉛ガラスに比べてかなり低いため、主にエネルギーの低い放射線を取り扱う場所に使用が限定されていた。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、鉛成分を含有せず希土類酸化物とフッ素を含むガラス系において、高い放射線遮蔽性能力を有するガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化物ガラスにフッ素を導入することにより希土類酸化物を多く含有するガラスを作製でき、そのガラスは優れた放射線遮蔽能力を有すると共に高い透明性と表面硬度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) Ln(LnはY、La、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)を酸化物基準の質量%で1〜85%、酸化物基準で表わされた成分の合計に対してフッ素を質量%で0.1〜20%含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.03mmPb/mm以上であるガラス組成物。
【0011】
X線などのような高エネルギーの放射線に対する遮蔽能力は、密度に比例することが知られている。この態様によれば、Ln(LnはY、La、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)とフッ素を同時に含有させることにより、Ln成分を多くガラスに含有させることが可能となり、ガラスの密度を大きくすることができるため、高い放射線遮蔽能力を容易に得ることが容易となる。また、150kVのX線に対する鉛当量が0.03mmPb/mm以上であるため、高エネルギーの放射線を取り扱う場合においても、好適に用いることができる。
【0012】
(2) 酸化物基準の質量%で、SiO及び/又はB及び/又はGeO及び/又はPの合計量を10〜70%、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜35%、BaOを0〜10%、RO(RはZn、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜30%、RnO(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜15%、TiOを0〜15%、Sb及びAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有する(1)に記載のガラス組成物。
【0013】
この態様によれば、SiO、GeO、B、P、M、RO、RnO、TiOなどの成分の中から選ばれる少なくとも一種以上を含有しているので、失透がなく、表面硬度が高く透明性の高い安定なガラスを容易に作ることができる。
【0014】
(3) 酸化物基準の質量%で、ZrO、SnO、Nb、Ta、WOの1種又は2種以上を合計量で0〜40%含有する(1)又は(2)に記載のガラス組成物。
【0015】
この態様によれば、上記成分は放射線遮蔽能力、及びガラスの表面硬さの向上に効果があるため、上記成分を含有したガラスは、ガラス組成物として好適に用いられる。
【0016】
(4) 酸化物基準の質量%で、Ceを0〜5%含有する(1)から(3)いずれかに記載のガラス組成物。
【0017】
この態様によれば、Ceは、放射線遮蔽能力の向上に寄与する成分であり、特に、放射線の照射による着色を防ぐ効果を有する成分である。従って、長期間の使用においても、ガラスに透明性を有するガラス組成物を提供することができる。
【0018】
(5) 前記フッ素は、AlF及び/又はLnF(LnはLa、Y、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)により含有される(1)から(4)いずれかに記載のガラス組成物。
【0019】
この態様によれば、AlF及び/又はLnF(LnはLa、Y、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)によりフッ素を含有させると、ガラスが失透せず、より多量の希土類酸化物を含有させることが可能となり易いので、より高い放射線遮蔽能力と透明性のガラスを容易に得ることができる。
【0020】
(6) 密度が3.2g/cm以上である(1)から(5)いずれかに記載のガラス組成物。
【0021】
この態様によれば、密度が3.2g/cm以上であるため、高い遮蔽能力を有する。
【0022】
(7) 厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である(1)から(6)いずれかに記載のガラス組成物。
【0023】
この態様によれば、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上であるため、可視域での透明性が高いガラス組成物を提供することが容易となる。
【0024】
(8) ガラスのヌープ硬さが420N/mm以上である(1)から(7)いずれかに記載のガラス組成物。
【0025】
この様態によれば、ヌープ硬さ(HK)が420N/mm以上であるため、ガラスの表面硬度が高くなり、表面に傷がつき難く機械的強度の高いガラス組成物を容易に提供することができる。
【0026】
(9) (1)から(8)いずれかに記載のガラス組成物である放射線遮蔽用ガラス。
【0027】
(1)〜(8)に記載のガラス組成物は、放射線を遮蔽する能力に優れるので、放射線遮蔽用ガラスとして有用である。
【発明の効果】
【0028】
本発明のガラス組成物は、ガラス成分としてLnとフッ素を同時に含有することにより、多くのLn成分をガラスに含有させることが可能となるので、ガラスの密度が大きくなり、鉛当量を大きくすることができる。また、鉛成分を含有しなくても、鉛成分を含有するガラスに匹敵する放射線遮蔽能力を有するガラス組成物を容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明のガラス組成物において、具体的な実施態様について説明する。
【0030】
[ガラス成分]
本発明のガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本発明において、各成分の含有率は特に断りがない場合は全て質量%で記載されるものとする。尚、本発明において、質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準の質量%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0031】
<必須成分、任意成分について>
Ln成分(LnはY、La、Gd、Dy、Tb、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの密度を大きくし、ガラスに高い放射線遮蔽能力を付与するため、本発明の目的を達成するのに欠かせない成分である。しかし、Lnを過剰に含有するとガラスの安定性が損なわれ易く、少なすぎると本発明の目的を満たすことが困難となる。よって、Ln量は1%以上、より好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上を下限とし、上限としては好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下、最も好ましくは75%以下である。Lnの内、特にGdがより効果的であるので、含有させるのが好ましい。
【0032】
フッ素成分は、ガラスの溶解温度を下げ、ガラスの透明性を向上させる効果がある。更に、フッ素成分を含有することにより、より多くの希土類酸化物を含有させることが可能となり、その結果、ガラスの密度が向上し、放射線遮蔽能力が高くなる。しかしながらフッ素の過剰量はガラスの安定性が低下するので、良好な効果を得るには、フッ素成分の含有量の上限を20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下、下限を0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1%以上とするのが好ましい。尚、フッ素成分は、AlF及び/又はLnF(LnはY、La、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)として含有するのが好ましい。
【0033】
SiO及び/又はB及び/又はGeO及び/又はPの成分はガラス形成酸化物で、安定したガラスを得るのに少なくともいずれか1種以上を含むのが好ましい。安定したガラスを得るためには、これら成分含量の合計量の下限値は好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、最も好ましくは15%以上とする。また、これらの成分の含有量が多すぎると、放射線遮蔽能力が減少するので、高い放射線遮蔽能力を得るためには、含有量の上限を70%以下とすることが好ましく、60%以下とすることがより好ましく、50%以下とすることが最も好ましい。
【0034】
SiO及びB成分は、単独でガラス中に導入しても本発明の目的を達成することができるが、同時に使用することにより、ガラスの溶融性、安定性及び化学的耐久性が向上するので、同時に使用することが好ましい。
【0035】
GeO成分は、SiO成分と同様な働きをするので、SiO成分の一部又は全部を置換することが可能であるが、高価であるため、上限値を20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0036】
成分は、SiO又はB成分と同様な働きをするので、SiO又はB成分の一部又は全部を置換することが可能である。しかしその量が多すぎるとガラスの分相傾向が強くなり易い。従って、上限値を20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0037】
成分(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)は必須ではないが、ガラスの溶融性と安定性を改善するために添加できる。しかし、その量が多すぎると、ガラスの溶融性と安定性がかえって低下し易くなる。従って、合計量で上限値として35%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましく、20%以下とすることが最も好ましい。
【0038】
Al成分は必須ではないが、ガラスの溶融性と安定性の改善、更に表面硬度の向上に効果があるので、添加できる成分である。しかし、その量が30%を超えると、溶解温度が上昇し、ガラスの安定性も低下し易い。好ましい添加量は25%以下、特に好ましい添加量は20%以下である。
【0039】
Ga成分は必須ではないが、ガラスの溶融性と安定性の改善、更に密度の向上に効果があるので、添加できる成分である。しかし、その量が20%を超えると、溶解温度が上昇し、ガラスの安定性も低下し易い。好ましい添加量は15%以下である。
【0040】
In成分は必須ではないが、ガラスの溶融性と安定性の改善、更に密度の向上に効果があるので、添加できる成分である。しかし、高価であるため、10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましい。
【0041】
BaO成分はガラスの溶融性、安定性及び放射線遮蔽能力の向上に効果があるが、その量が多すぎるとガラスの安定性がかえって低くなり易い。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、8%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0042】
RO成分(RはZn、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの安定性を低下させ易い。従って、合計量で上限値を30%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。また、RO成分の内、特にSrO、ZnO成分は上記の効果以外に、本発明の目的である放射線の遮蔽能力の向上にも効果があるので、特に重要である。
【0043】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性及び放射線遮蔽能力の向上には効果的な任意成分であるが、その量が多すぎると失透が発生し易くなる。従って、上限値を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。
【0044】
SrO成分はガラスの溶融性、安定性及び放射線遮蔽能力の向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性がかえって低くなり易い。従って、上限値を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0045】
CaO成分は、ガラスの溶融性を改善させるのには効果的な任意成分であるが、その量が多すぎると失透が発生し易くなり、放射線遮蔽能力も低下し易い。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0046】
MgO成分は、ガラスの溶融性の改善には効果的な任意成分であるが、その量が多すぎると失透が発生し易くなり、放射線遮蔽能力も低下し易い。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0047】
RnO成分(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果があると共に、放射線照射による着色の防止にも効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、放射線遮蔽能力も大きく低下し易い。従って、合計量の上限値を15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。また、RnO成分を2種以上組み合わせると、放射線照射による着色の防止により大きな効果が得られる。
【0048】
LiO成分は、ガラスの溶融性を改善する任意成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生し易くなり、放射線遮蔽能力も低下し易い。従って、上限値を8%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0049】
NaO成分は、ガラスの溶融性を改善する任意成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生し易くなり、放射線遮蔽能力も低下し易い。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0050】
O成分は、ガラスの溶融性を改善する任意成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生し易くなり、放射線遮蔽能力も低下し易い。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0051】
Ce成分は、放射線の照射による着色を防ぐ効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの吸収端が長波長側にシフトし、可視域での透明性の低下を招くことがある。従って、上限値を5%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましく、1%以下とすることが最も好ましい。
【0052】
TiO成分は、ガラスの安定性と表面の硬さの向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低くなる傾向になり易い。従って、15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0053】
ガラスの安定性を低下させないため、ZrO、SnO、Nb、Ta、WOの1種又は2種以上の合計量の上限値を40%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0054】
Nb成分は、ガラスの遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下し易いので、30%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0055】
WO成分は、ガラスの遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下し易いので、30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。
【0056】
Ta成分は、ガラスの遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させ易くする。従って、上限値を30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。
【0057】
ZrO成分は、ガラスの遮蔽能力とガラスの表面硬さの向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させ易くする。従って、上限値を20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0058】
SnO成分は、ガラスの遮蔽能力の向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させ易くする。従って、上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0059】
Sb、As成分は、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができる成分である。Sb及びAsの合計量で、5%以下で十分に効果を有する。また、Asは、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要がある。従って、Sb及びAsの合計量で、上限値を5%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましく、1%以下とすることが最も好ましい。
【0060】
<含有させるべきでない成分について>
他の成分を本発明のガラス組成物の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。従って、本発明のガラス組成物においては、実質的に含まないことが好ましい。
【0061】
Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0062】
本発明のガラス組成物は、可視域での透明性が高く、厚み10mmのガラスにおいて400nmにおける透過率が40%以上で、550nmにおける透過率が80%以上である。
【0063】
また、本発明のガラス組成物は、密度が3.2g/cm以上のものを容易に得ることができる。更に好ましい密度の範囲は3.8g/cm以上である。
【0064】
本発明のガラス組成物のヌープ硬さ(HK)は420N/mm以上とすることが好ましく、550N/mm以上とすることがより好ましく、600N/mm以上とすることが最も好ましい。
【0065】
本発明において、放射線遮蔽能力は鉛当量で表される。鉛当量とはX線の遮蔽能力が等しい鉛板の厚みで表され、この値が大きいほど放射線遮蔽能力が優れることを意味する。本発明のガラスについて150kVのX線に対する鉛当量は、JIS4501に準じた方法で測定した鉛当量を厚み1mmに換算して求めた。本発明のガラス組成物の鉛当量は0.03mmPb/mm以上とすることが好ましく、0.10mmPb/mm以上とすることがより好ましい。
【0066】
以上に述べた通り、本発明のガラス組成物は放射線遮蔽能力に優れ、可視域での透明性が高く、透過性にも優れ、更には、表面硬さにも優れるので、放射線を遮蔽する放射線遮蔽ガラスとして有用に適用することができる。
【0067】
[製造方法]
本発明のガラス組成物は、通常のガラスを製造する方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0068】
各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩など)を所定量秤量し、均一に混合する。混合した原料を石英坩堝、アルミナ坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で1100〜1500℃で1〜10時間熔解する。その後、攪拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラスを製造する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1〜14]
表1、2に示す実施例1〜14の組成(単位は質量%)で出発原料を秤量し、均一に混合した後、白金坩堝に入れて1250〜1450℃で2〜4時間熔解する。その後、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0071】
[比較例1]
比較例1として放射線遮蔽用ガラスとして使われている鉛含有ガラスを以下のようにして作製した。
【0072】
表2に示した比較例1の組成になるように出発原料を秤量し、均一に混合した後、先ず石英坩堝を使って1300℃で1時間20分間溶解し、カレットを作製した。その後、カレットを白金坩堝に入れて1320℃で2時間30分間溶解してから、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0073】
表1、2に実施例1〜14と比較例1の密度、ヌープ硬さ(HK)、透明性、鉛当量を示した。密度は、アルキメデス法により測定を行った。透過率測定については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて行った。尚、本発明においては、着色度ではなく透過率を示した。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定した。波長400nmと550nmにおける透過率を求めて本発明の透明性を表す指標とした。ヌープ硬さ(HK)の測定は日本光学硝子工業会規格JOGIS09に準じて行った。鉛当量は、JIS4501に準じて、管電圧150kVで測定した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
また、図1に実施例1のガラスにおける分光透過率曲線を示す。横軸に波長(nm)、縦軸に分光透過率(%)を示す。尚、これらの透過率には反射損失が含まれている。
【0077】
図1に示すように、本発明のガラスは全可視域にわたって極めて高い透明性を有することがわかる。また、表1に見られるように本発明のガラスは既存の鉛ガラスを遥かに上回る透明性を有することがわかる。
【0078】
表1、2によると、本発明のガラスのヌープ硬さ(HK)は鉛ガラスより1.5倍以上高いことがわかる。
【0079】
また、表1、2によると、本発明のガラスは鉛当量が高く、鉛ガラスと同等又はそれ以上の放射線遮蔽能力を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1のガラスにおける分光透過率曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ln(LnはY、La、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)を酸化物基準の質量%で1〜85%、酸化物基準で表わされた成分の合計に対してフッ素を質量%で0.1〜20%含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.03mmPb/mm以上であるガラス組成物。
【請求項2】
酸化物基準の質量%で、SiO及び/又はB及び/又はGeO及び/又はPの合計量を10〜70%、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜35%、BaOを0〜10%、RO(RはZn、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜30%、RnO(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜15%、TiOを0〜15%、Sb及びAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有する請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、ZrO、SnO、Nb、Ta、WOの1種又は2種以上を合計量で0〜40%含有する請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で、Ceを0〜5%含有する請求項1から3いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記フッ素は、AlF及び/又はLnF(LnはLa、Y、Gd、Tb、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)により含有される請求項1から4いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
密度が3.2g/cm以上である請求項1から5いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である請求項1から6いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項8】
ガラスのヌープ硬さが420N/mm以上である請求項1から7いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項9】
請求項1から8いずれかに記載のガラス組成物である放射線遮蔽用ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2007−290899(P2007−290899A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119656(P2006−119656)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】