説明

ガラス繊維加工用樹脂組成物及びガラスペーパー

【課題】耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性に優れたガラスペーパーを得るためのガラス繊維加工用樹脂組成物及びその製造方法とガラスペーパーを提供すること。
【解決手段】水性媒体中に分散する重合体[X]と、1分子中にエポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]から構成されるガラス繊維加工用樹脂組成物であって、重合体[X]が、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位2〜20重量%と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下であるの疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位80〜98重量%とから成る単量体類を重合した重合体であることを特徴とするガラス繊維加工用樹脂組成物、該ガラス繊維加工用樹脂組成物により繊維間を接着したことを特徴とするガラスペーパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基盤等の電気絶縁積層板の基材、或いは塩化ビニル系床材の基材、屋根材、壁材等の基材として好適なガラスペーパー及びその処理に好適なガラス繊維加工用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湿式製造法におけるプリント配線基板等の電気絶縁積層板用ガラスペーパー、或いは塩化ビニル系床材の基材、屋根材、壁材等の基材として好適なガラスペーパーの接着剤には、アクリル系樹脂(アクリル系樹脂エマルジョン)、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、水溶性シリコーン系樹脂等の接着剤を湿潤ウェブに含浸する方法が実施されてきた。
【0003】
これらの接着剤の中で、樹脂原料が安価であり、且つ溶剤を使用しなくても樹脂を製造できるアクリル系樹脂エマルジョンは、接着剤として広く利用されている。
しかしながら、アクリル系樹脂エマルジョンを用いて製造されたガラスペーパーは、耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性等に劣るという問題があった。クッションフロア等の床材の基材用ガラスペーパーや、屋根材の基材用ガラスペーパーの場合、ガラスペーパーが施工面と直接接触する場合が多く、施工面とガラスペーパーの間に存在する湿度や水分に対する耐水性が求められる。また、産業用途におけるエアフィルター用ガラスペーパーや、バッテリーセパレーター用ガラスペーパーの場合にも高度な耐水性が求められる。
【0004】
一方、電気絶縁積層板用ガラスペーパーの場合、耐溶剤性が劣ると、ガラスペーパーに樹脂を含浸してプリプレグを製造する工程でガラスペーパーが切断し、耐熱性が劣ればプリプレグを積層し熱プレスする工程でガラスペーパーが切断して積層板製造の生産性を低下させるという問題がある。また、塩化ビニル系床材の基材用ガラスペーパーの場合にも、耐熱性が劣ると、ガラスペーパーに溶融した塩化ビニルゾルを加工する際の加工性が悪化し、床材の生産性を低下させるという問題がある。さらに、化粧板用ガラスペーパーの場合には、耐熱水性が劣ると、ガラスペーパーにメラミン樹脂やフェノール樹脂を含浸して表面材層や芯材層を製造する工程でガラスペーパーが切断するという問題や、ガラスペーパーが伸びることによって形状保持性が悪化し、加工品に皺が発生する等の不具合が生じるという問題がある。さらに、高度な特性が要求される用途にガラスペーパーを使用する場合には、耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性に加え、耐酸性、耐アルカリ性、電気特性等が要求されている。
【0005】
これらの欠点を改良するために、アクリル系ポリマーを架橋させて3次元化し、耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性を向上させる方法として、(1)アクリルエマルジョンを自己架橋型とする方法、(2)アクリル系樹脂エマルジョンに架橋剤を配合する方法が挙げられる。一方、アクリル系ポリマーとガラス繊維の接着性を向上して耐溶剤性を向上させる方法として、(3)アクリル系樹脂エマルジョンにシランカップリング剤等のガラス繊維との接着力を向上させる添加剤を配合する方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、前記方法(1)または(2)では、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性がまだ不十分であり、また、前記方法(1)または(2)に、方法(3)のシランカップリング剤等のガラス繊維との接着力を向上させる添加剤を併用する方法や、方法(3)のシランカップリング剤を、方法(2)の架橋剤として利用する方法が提案され、耐水性、耐溶剤性、力学的強度に優れた硬化性重合体水性分散液が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、耐熱水性という点がまだ不十分であり、実用上問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−235332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性に優れたガラスペーパーを得るためのガラス繊維加工用樹脂組成物及びその製造方法とガラスペーパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記の課題を解決すべく、鋭意検討の結果、以下の知見を得た。
即ち、ガラスペーパーの繊維間の接着剤として、水性媒体中に分散する重合体[X]と、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]から構成されるガラス繊維加工用樹脂組成物であって、重合体[X]が、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位2〜20重量%と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位80〜98重量%、その他のエチレン性不飽和単量体(c)単位0〜28重量%から成る重合体であることを特徴とするガラス繊維加工用樹脂組成物をガラスペーパーに用いると耐水性、耐熱水性、耐溶剤性、耐熱性に優れたガラスペーパーが得られることを見いだした。
【0010】
即ち、本発明は、水性媒体中に分散する重合体[X]と、1分子中にエポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]から構成されるガラス繊維加工用樹脂組成物であって、重合体[X]が、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位2〜20重量%と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下であるの疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位80〜98重量%とから成る単量体類を重合した重合体であることを特徴とするガラス繊維加工用樹脂組成物、これにより繊維間を接着したことを特徴とするガラスペーパーを提供する
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物における重合体[X]は、上記(a)、(b)成分を必須成分とした単量体類を重合して得ることができるものであり、各成分に由来する繰り返し単位で構成されるものである。
【0012】
重合体[X]は、カルボキシル基を含有する重合体から構成されている。即ち、重合体[X]は、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位2〜20重量%を必須の成分として含有するものであり、カルボキシル基は、重合体[X]を水性媒体中で安定に分散させるために使用するものである。
また、重合体[X]のカルボキシル基は、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]との架橋性反応基として使用される。
【0013】
重合体[X]のカルボキシル基の含有量は、特に制限を受けるものではないが、カルボキシル基は、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]との架橋性反応基として使用するため、該架橋反応によって耐溶剤性、耐熱性を向上させるためには、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)からなる単位が2重量%以上含まれることが好ましい。
【0014】
一方、得られるガラスペーパーの耐水性や耐熱水性の面から、親水性を付与しているカルボキシル基を必要最低限の使用量に抑制することが好ましく、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)からなる単位が20重量%以下とすることが好ましい。よって、これらのバランスからカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)からなる単位は2〜20重量%であることが好ましい。
【0015】
ここで用いるカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)成分としては、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するものであれば特に限定されず、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、もしくはこれらの半エステルまたはこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0016】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)成分は、必要に応じて適宜選択して使用することができるが、(a)成分として、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を用いると、ガラスペーパーの強度を高めることができる傾向にあり、好ましい。中でも、アクリル酸を用いると、ガラスペーパーの強度がより高くなる傾向にあるため、特に好ましい。
【0017】
次に、本発明者らは、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下であるの疎水性エチレン性不飽和単量体(b)である特定の疎水性単量体(b)成分(以下、疎水性単量体(b)と記す。)を特定量使用して重合した重合体[X]が、ガラス繊維加工用樹脂組成物の耐水性、耐熱水性を著しく向上することを見いだした。
【0018】
即ち、本発明の重合体[X]は、20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位80〜98重量%を必須の成分として含有するものであり、該疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位は、重合体[X]に疎水性を付与して、ガラス繊維加工用樹脂組成物の耐水性、耐熱水性を向上する目的で使用されるものである。
【0019】
一方、20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%を越えるエチレン性不飽和単量体を単量体単位80〜98重量%使用した場合には、ガラス繊維加工用樹脂組成物の耐水性、耐熱水性が低位となる傾向があり、好ましくない。
【0020】
また、20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)成分からなる単位が80重量%未満であると、耐水性が低位となる傾向にあり、98重量%を越えると、前述のカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位の含有量が少なくなり、耐溶剤性、耐熱性等が低位となる傾向にあるため、疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位の好ましい下限値は80重量%であり、好ましい上限値は98重量%である。
【0021】
本発明で用いられる前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)成分としては、特に制限を受けるものではないが、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸iso−オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸iso−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸iso−オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。
【0022】
疎水性エチレン性不飽和単量体(b)成分は、必要に応じて適宜選択して使用することができるが、中でも、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸iso−オクチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸iso−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸iso−オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレンが、単量体(a)成分との共重合性に優れ、且つ耐水性、耐熱水性を向上させる傾向にあるため好ましい。これらの中でも特に、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸iso−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレンが、耐熱水性が大きく向上する傾向にあるため好ましい。
【0023】
本発明の重合体[X]は、必要に応じて、前記単量体(a)、(b)以外のその他のエチレン性不飽和単量体(c)からなる単位を、単量体(a)単位と単量体(b)単位の合計100重量部に対して、0.1重量部以上、20重量部以下の比率で含有させることができる。その他のエチレン性不飽和単量体(c)からなる単位は、20重量部を越えると耐水性、耐熱水性が低位になる傾向があるため、特に、耐熱水性を向上させる必要がある場合は、その他のエチレン性不飽和単量体(c)からなる単位を10重量部以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明で使用できるその他のエチレン性不飽和単量体(c)成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸ジメルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル・メチルクロライド塩、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸アリル、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジメタクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジメタクリル酸ポリブチレングリコール、アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0025】
これらは、必要に応じて適宜選択して使用することができるが、その他のエチレン性不飽和単量体(c)成分として、メタクリル酸グリシジル、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−メチロールアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の架橋性反応基を含有する単量体を使用して、重合体間を架橋させることができ、耐水性、体熱水性、耐溶剤性、耐熱性をさらに向上させることができることから好ましい。
【0026】
特に、その他のエチレン性不飽和単量体(c)成分として、重合体[X]中のカルボキシル基と反応する架橋性反応基となり得るメタクリル酸グリシジルを使用すると、耐水性、耐熱水性、耐熱性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0027】
重合体[X]の分子量は、特に制限を受けるものではないが、親水性成分として低分子量の物質が残留することによるガラスペーパーの耐水性や耐溶剤性の悪化を防止するという点から、重量平均分子量で100,000以上であることが好ましい。
【0028】
重合体[X]のガラス転移温度(Tg)は、ガラス繊維加工用樹脂組成物をガラス繊維に加工する温度条件(乾燥条件)により、ポリマー粒子が融着して造膜することが必要であり、重合体[X]のガラス転移温度(Tg)が10〜80℃の範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物は、分散液中の重合体[X]がカルボキシル基によって分散安定化されている為、該カルボキシル基は、後述する塩基性物質で中和されていることが重合体[X]の分散安定性の点から好ましい。
【0030】
ガラス繊維加工用樹脂組成物中に分散する重合体[X]から成る重合体粒子の粒子径は、特に制限されるものではないが、数平均粒子径が10〜500nmであることが、ガラス繊維加工用樹脂組成物のガラス繊維に対する浸透性や造膜性の点から好ましい。
【0031】
本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物は、重合体[X]と1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]を構成成分として含むが、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]は、重合体[X]のカルボキシル基と反応し、ガラス繊維加工用樹脂組成物を硬化させるために使用し、耐水性、耐溶剤性、力学的強度等の諸物性を向上させる。
また、同時に本発明の1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]は、ガラス繊維加工用樹脂組成物中のポリマーとガラス繊維とを化学的に結びつけてガラスペーパーの強度や耐久性を著しく向上させることを目的として使用される。
【0032】
1分子中にそれぞれ、エポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基とを併有する化合物[Y]としては、これらの両種の反応性基を併有するエチレン性重合体や、エポキシ基を有するシランカップリング剤、あるいはエポキシ基を有するシリコーン樹脂などが特に代表的なものとして挙げられる。
【0033】
ここにおいて、斯かる加水分解性シリル基とは、例えば、アルコキシ基、置換アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、イソプロペニルオキシ基、アシロキシ基またはイミノオキシなどが結合した珪素原子を含む原子団であって、容易に加水分解されて、シラノール基を生成するものを指称するが、それらのうちでも特に代表的なものとして、例えば、アルコキシシリル基、フェノキシシリル基、ハロシリル基、イソプロペニルオキシシリル基、アシロキシシリル基またはイミノオキシシリル基などが挙げられる。
【0034】
これらの上記した如きエポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を併有するエチレン性重合体を調製するには、種々の方法がいずれも適用できるが、推奨し得る方法としては、(1)各種の加水分解性シリル基含有重合性単量体類と、各種のエポキシ基含有重合性単量体類とを、溶液ラジカル共重合せしめる方法、(2)前記した如き、加水分解性シリル基含有重合性単量体類と、各種のエポキシ基含有重合性単量体類と、これらと共重合可能なるその他の重合性単量体とを溶液ラジカル共重合せしめる方法、(3)γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランまたはγ−メルカプトプロピルトリイソプロペニルオキシシランの如き、加水分解性シリル基を含有する各種の連鎖移動剤の存在下に、前掲した如き、各種のエポキシ基含有重合性単量体類を必須の単量体成分とする単量体混合物を、溶液ラジカル(共)重合せしめるか、あるいは、(4)前記(1)もしくは(2)の方法と前記(3)の方法を組み合わせた方法等の種々の方法が挙げられる。
【0035】
また、前記したエポキシ基含有シランカップリング剤として特に代表的なものとして、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシランもしくはγ−グリシドキシプロピルトリイソプロぺニルオキシシランの如き、各種のエポキシシラン化合物;γ−イソシアネ−トプロピルトリイソプロぺニルオキシシランもしくはγ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシランの如き、各種のイソシアネートシラン化合物と、グリシド−ルとの付加物;またはγ−アミノプロピルトリメトキシシランの如き、各種のアミノシラン化合物と、ジエポキシ化合物との付加物;あるいは、前掲の如き各種のエポキシシラン化合物を部分加水分解縮合せしめて得られる、一分子中に2個以上のエポキシ基と加水分解性シリル基とを併有する化合物等が挙げれる。
【0036】
更に、エポキシ基を有するシリコーン樹脂の代表的なものとしては、環状のテトラシロキサンであって、下記の式[I]で表されるような化合物が挙げられる。(、下記式[I]において、Glyは3−グリシドキシプロピル基を表すものとする。)
【0037】
【化1】

【0038】
ガラス繊維加工用樹脂組成物中の1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]の量は、特に制限されるものではないが、ガラス繊維加工用樹脂組成物の硬化性、硬化後の性能と、ガラス繊維加工用樹脂組成物の貯蔵安定性の面から、重合体[X]中に含まれるカルボキシル基1モルに対して、0.3〜3.0モルの範囲で使用することが好ましい。
【0039】
更に、本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒を併用することが、より一層の硬化性を向上することができる点から好ましい。
【0040】
斯かる触媒として特に代表的なものとして、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウムメチラート等の各種の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート等の各種の含金属化合物類;p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等の各種の酸性化合物などが挙げられる。
【0041】
次に、本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物の製造方法について述べる。本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物の製造方法は、例えば、(1)重合体[X]を製造し、これを水性媒体中に溶解、或いは分散させた後、次いで該水性分散液に加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]を添加する方法、(2)重合体[X]を水性媒体中で重合して製造し、次いで該水性分散液に加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]を添加する方法、(3)1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]の存在下で重合体[X]を製造し、これを水性媒体中に溶解、或いは分散させる方法、(4)1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]の存在する水性媒体中で、重合体[X]を重合して製造する方法が挙げられる。
【0042】
重合体[X]を製造する方法としては、特定されるものではないが、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)を必須の成分とする単量体成分を、その性状に応じて懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合いずれの方法でも製造することができるが、特に、所望とするガラスペーパーの耐溶剤性、耐熱性、耐水性、耐アルカリ性を発現するためには、重合体[X]の分子量を高めることが好ましく、重合体[X]の分子量を高めることが容易である点から、水性媒体中で行う懸濁重合または乳化重合で実施することが好ましい。また、重合体[X]を水性媒体中で製造した場合、重合体[X]を水性媒体中に分散させる工程が省略でき、製造工程を簡素化できる点からも好ましい。
【0043】
本発明における最も好ましい製造方法としては、水性媒体中で、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)から成る単量体成分を乳化重合して重合体[X]の水性分散液を製造し、そこに1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]を添加混合する方法が、製造方法が簡便であり、且つ貯蔵安定性を高めることができるため好ましい。
【0044】
重合体[X]を重合する際の水性媒体としては、特に限定されるものではないが、水のみを使用してもよいし、或いは、水と水溶性溶剤の混合溶液として使用してもよい。ここで用いる水溶性溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の極性溶剤が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。水と水溶性溶剤の混合物を使用する場合の水溶性溶剤の使用量は、重合時の安定性の点から任意に選択することができるが、得られる重合体水性分散液の引火の危険性、安全衛生性等の面から水溶性溶剤の使用量は極力少なくすることが好ましい。これらの理由から、なかでも水単独で使用することが好ましい。
【0045】
重合体[X]を水性媒体中で製造する方法としては、水、単量体(a)、単量体(b)を必須の成分とする単量体成分、重合触媒、(必要に応じて乳化剤及び分散安定剤)を一括で仕込んで重合する方法や、単量体成分を滴下するモノマー滴下法や、水、単量体成分、乳化剤を予め混合したものを滴下するいわゆるプレエマルジョン法等の方法により製造することができる。
【0046】
また、重合の際、親水性溶剤、疎水性溶剤を加えること及び公知の添加剤を加えることも可能であるが、使用量は最終的に得られる硬化物に悪影響を及ぼさない範囲に抑えることが好ましい。
【0047】
重合体[X]を重合する際の乳化剤としては、公知のものほとんどが使用できる。
例えば、陰イオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩等が挙げられ、非イオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0048】
一般的に反応性乳化剤と称される、重合性不飽和基を分子内に有し、且つ、界面活性能を有する乳化剤を使用することもでき、例えばスルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS−180」、「ラテムルPD−104」(花王(株)製)、「エレミノールJS−2」、「エレミノールRS−30」(三洋化成工業(株)製)、硫酸基及びその塩を有する「アクアロンHS−10」、「アクアロンHS−20」、「アクアロンKH−05、KH−10、KH−20」「(第一工業製薬(株)製)、「アデカリアソープSE−10N」、「アデカリアソープSR−10N、SR−20N」(旭電化工業(株)製)、リン酸基を有する「ニューフロンティアA−229E」(第一工業製薬(株)製)等、非イオン性親水基を有する「ニューフロンティアN−177E」(第一工業製薬(株)製)、「アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、ER−10、ER−20、ER−30、ER−40」(第一工業製薬(株)製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0049】
また、乳化剤以外のその他の分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0050】
上記乳化剤及び分散安定剤は、重合時の安定性及び貯蔵安定性を向上させる目的で使用されるが、ガラスペーパーの耐水性等の面からその使用量を極力少なくする必要があり、その使用量は重合体[X]の固型分に対して2重量%以下とすることが好ましい。
【0051】
また、乳化重合時の安定性、重合体[X]の水性分散液の貯蔵安定性を向上させることを目的として、得られるガラスペーパーの耐水性を低下しない範囲で、スルホン酸基及び/またはサルフェート基(及び/またはその塩)を含有するエチレン性不飽和単量体、リン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体や、非イオン性親水性基含有エチレン性不飽和単量体等を少量併用することができる。
【0052】
具体的には例えば、スルホン酸基及び/またはサルフェート基(及び/またはその塩)を含有するエチレン性不飽和単量体として、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のビニルスルホン酸類またはその塩、アリルスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸等のアリル基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリル酸2−スルホエチル、(メタ)アクリル酸2−スルホプロピル等の(メタ)アクリレート基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド基含有スルホン酸類またはその塩等が挙げられ、リン酸エステル基含有エチレン性不飽和単量体として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート、非イオン性親水性基含有エチレン性不飽和単量体として、ヒドロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0053】
重合体[X]の重合の際に用いる重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩類、有機過酸化物類、過酸化水素等が挙げられる。これら過酸化物のみを用いてラジカル重合するか、或いは上記過酸化物に還元剤を併用したレドックス系重合開始剤によっても、得ることができる。
【0054】
また、さらに重合開始剤として、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することもできる。前記重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩類及び/または有機過酸化物類と還元剤とを併用したレドックス系重合開始剤が、低い温度でも乳化重合を円滑に進行させることができ、ガラスペーパーの耐熱性等の諸物性を向上させるため、重合体[X]を高分子量化する場合には、10〜50℃の範囲内の温度から乳化重合を開始することができるため好ましい。
【0055】
過硫酸塩類として、具体的には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、有機過酸化物類として、具体的には、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0056】
また、上記のレドックス重合開始剤系に使用する還元剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等が挙げられる。
【0057】
これらの重合開始剤の使用量は、重合が円滑に進行する量を使用すれば良いが、得られるガラスペーパーの耐水性、耐熱性等の点から、その使用量を極力少なくすることが好ましく、その使用量は単量体成分の重量に対して、0.3重量%以下(還元剤を併用するレドックス系重合開始剤の場合は酸化剤と還元剤の合計量)とすることが好ましい。
【0058】
また、重合体[X]の分子量を調整する必要がある場合は、重合体[X]を合成する際に分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物、例えばラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を添加してもよい。
【0059】
重合体[X]を重合する際の重合温度は、使用する単量体の種類、重合開始剤の種類等によって異なるが、水性媒体中で重合する場合は通常10〜90℃の温度範囲が好ましい。また、前述の如く、ガラスペーパーの耐熱性等の諸物性を向上させるため、重合体[X]を高分子量化する場合には、30〜70℃の範囲内の温度から乳化重合を開始することが好ましい。
【0060】
重合体[X]のカルボキシル基は、中和せずにそのままガラス繊維加工用樹脂組成物に用いてもよいが、重合体[X]の機械的安定性や貯蔵安定性の面からカルボキシル基の一部を塩基性物質で中和して使用する方法が好ましい。
【0061】
カルボキシル基の中和度は、特に限定されないが、塩基性物質の使用量を重合体[X]中の全カルボキシル基に対して10モル%以上とすることが機械的安定性に優れるため好ましい。
【0062】
中和剤として使用する塩基性物質としては、通常のものが使用でき、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性有機アミン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0063】
ガラスペーパーの耐水性をより向上させたい場合は、常温或いは加熱により飛散する、例えばアンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等の低沸点アミン類を使用することが好ましい。
本発明の好ましい製造方法は、以上の様にして得られた重合体[X]の水性分散液を得、次いで該水性分散液に加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]を添加する方法である。
【0064】
本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物には、必要に応じて水溶性、或いは水分散性の架橋剤を添加して使用することができる。この場合、架橋剤としては、例えば、多官能性メラミン化合物、多官能性ポリアミン化合物、多官能性ポリエチレンイミン化合物、多官能性(ブロック)イソシアネート化合物、金属塩化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として使用することができる他に、水溶性または水分散性の熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を混和して使用することもできる。また、必要に応じてシランカップリング剤として、1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]以外の化合物を併用することもできる。
【0065】
また、必要に応じて、充填剤、顔料、pH調整剤、皮膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤等の種々のものを適宜添加して使用することができる。
【0066】
本発明のガラスペーパーは、ガラス繊維が全体の構成要素として75〜97重量%含有、ガラス繊維加工用樹脂組成物が全体の構成要素として25〜3重量%含有するように配合することが好ましい。ガラス繊維加工用樹脂組成物が3重量%に満たない場合、ガラスペーパーの強度が低下して、例えばプリプレグを製造する工程でガラスペーパーが切断する不具合が発生する場合や、ガラスペーパー表面にケバが発生する場合がある。また、ガラス繊維加工用樹脂組成物が20重量%を超えると、ガラスペーパーのしなやかさが失われるため、後工程での工程上の不具合が発生する場合がある。
【0067】
本発明のガラスペーパーは、公知の方法で製造することができる。即ち、湿式法、乾式法の何れの方法を用いてもよいが、より高密度のガラスペーパーとするためには湿式法を採用することが好ましい。具体的には、水分散性のガラス繊維チョップドストランドを、分散剤を溶解した水中に分散せしめた後、抄紙機で抄紙し、本発明のガラス繊維加工用樹脂組成物をスプレーして散布、或いは、ガラス繊維加工用樹脂組成物液に含浸、或いは、ガラス繊維加工用樹脂組成物液をコート、或いはこれらの方法を組み合わせて加工した後に、熱風乾燥機、或いはドラムドライヤー等で乾燥し、硬化させる方法が挙げられる。
【0068】
乾燥硬化工程は、通常、熱風乾燥機、或いはドラムドライヤー等で100〜250℃、より好ましくは150〜200℃で数秒〜数分間かけて行われるが、赤外線、遠赤外線、或いは高周波加熱によって、またはそれらの組み合わせによって実施することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は重量%、「部」は重量部をそれぞれ示すものとする。
【0070】
本発明で用いた評価方法について以下に述べる。
[ガラスペーパーのガラス繊維加工用樹脂組成物での処理]
市販の坪量60g/mのガラスペーパーを電気炉にて550℃、5分間でバインダーを焼去し、後記実施例及び比較例のガラス繊維加工用樹脂組成物をガラスペーパーに対して18重量%(固型分比)含浸させ、160℃で15分間乾燥して硬化させた。
[ガラスペーパーの常温(25℃)での引張試験における強度の測定方法]
前記ガラスペーパーを15mm幅に裁断して試料とした。この試料を用いて、オリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード50mm/分で引張試験を実施した時の最大点強度を測定した。
[ガラスペーパーの高温(200℃)での引張試験における強度の測定方法]
前記ガラスペーパーを15mm幅に裁断して試料とした。この試料を用いて、オリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、200℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード50mm/分で引張試験を実施した時の最大点強度を測定した。
[ガラスペーパーの水浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度の測定方法]
前記ガラスペーパーを15mm幅に裁断して試料とした。この試料を水に30分間浸漬した後、直ちにオリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード50mm/分で引張試験を実施した時の最大点強度を測定した。
[ガラスペーパーの80℃熱水浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度の測定方法]
前記ガラスペーパーを15mm幅に裁断して試料とした。この試料を80℃の熱水に10分間浸漬した後、直ちにオリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード50mm/分で引張試験を実施した時の最大点強度を測定した。
[ガラスペーパーの溶剤浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度の測定方法]
前記ガラスペーパーを15mm幅に裁断して試料とした。この試料をアセトンに30分間浸漬した後、直ちにオリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード50mm/分で引張試験を実施した時の最大点強度を測定した。
参考例1<重合体[X]の水性分散液[X−1]の製造>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水75部を入れ、窒素を吹き込みながら70℃まで昇温した。撹拌下、過硫酸カリウム0.02部を添加し、続いてカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)としてメタクリル酸3部、20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下である疎水性エチレン性不飽和単量体(b)としてアクリル酸n−ブチル40部とスチレン57部からなる単量体を混合し、この単量体混合物にアクアロンKH−1025(第一工業製薬(株)製:有効成分25%)4部と脱イオン水15部を加えて乳化させたモノマープレエマルジョン(前記単量体混合物と乳化剤と水でモノマーを乳化状態にしたものを云う)の一部(3部)を添加し、反応容器内温度を70℃に保ちながら60分間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を70℃に保ちながら、残りのモノマープレエマルジョン(116部)と、過硫酸カリウムの水溶液(有効成分0.5%)30部を、各々別の滴下漏斗を使用して、反応容器内温度を70℃に保ちながら180分間かけて滴下して重合せしめた。滴下終了後、同温度にて120分間撹拌した。
その後、内容物を冷却し、pHが5.5になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。さらに、固形分濃度が45.0%になるように脱イオン水で調整した後、100メッシュ金網で濾過し、本発明の重合体[X]の水性分散液[X−1]を得た。
【0071】
参考例2〜5<重合体[X]の水性分散液[X−2]〜[X−5]の製造>
参考例1において単量体の組成を表1の組成に代えた以外は参考例1と全く同様にして、重合体[X]の水性分散液[X−2]〜[X−5]を得た。
【0072】
比較参考例1、2<比較用重合体水性分散液の製造>
参考例1において単量体の組成を表1の組成に代えた以外は参考例1と全く同様にして、重合体水性分散液[C−1]、[C−2]を得た。
【0073】
実施例1
攪拌機、温度計を備えた混合用容器に、参考例1で得られた重合体水性分散液[X−1]222部(重合体[X]を固型分100部として)を入れ、25℃でSH−6040(東レ・ダウコーニング(株)製;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)3部(1分子中にエポキシ基と、加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]として)を添加して30分間攪拌し、ガラス繊維加工用樹脂組成物を得た。このガラス繊維加工用樹脂組成物を固型分濃度が5%になるように脱イオン水で調整して、前記の方法にてガラスペーパーに加工してガラス繊維加工用樹脂組成物で処理したガラスペーパーを得た。得られたガラスペーパーに関し、ガラスペーパーの常温(25℃)での引張試験における強度、ガラスペーパーの高温(200℃)での引張試験における強度、ガラスペーパーの水浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度、ガラスペーパーの80℃熱水浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度ガラスペーパーの溶剤浸漬後の常温(25℃)での引張試験における強度を前記方法で測定して評価した。
【0074】
実施例2〜4、及び参考例1、2
実施例1において、重合体水性分散液の種類(参考例2〜4、及び比較参考例C−1、C−2)を下記第1表に示したとおりとする以外は、実施例1と同様にしてガラス繊維加工用樹脂組成物を得、ガラスペーパーに加工し、該ガラスペーパーの性能を実施例1と同様に評価した。
第1表中の略号の正式名称を下記に示す。
MAA ;メタクリル酸
AA ;アクリル酸
n−BA ;アクリル酸n−ブチル
2−EHA ;アクリル酸2−エチルヘキシル
ST ;スチレン
CHMA ;メタクリル酸シクロヘキシル
MMA ;メタクリル酸メチル
GMA ;メタクリル酸グリシジル
SH−6040;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(東レ・ダウコーニング(株)製)
【0075】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に分散する重合体[X]と、1分子中にエポキシ基と加水分解性シリル基もしくはシラノール基を含有する化合物[Y]から構成されるガラス繊維加工用樹脂組成物であって、重合体[X]が、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位2〜20重量%と、前記エチレン性不飽和単量体(a)以外の単量体であり且つ20℃における水の単量体への溶解度が0.6重量%以下であるの疎水性エチレン性不飽和単量体(b)単位80〜98重量%とから成る単量体類を重合した重合体であることを特徴とするガラス繊維加工用樹脂組成物。
【請求項2】
重合体[X]を構成するカルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(a)単位が、アクリル酸である請求項1に記載のガラス繊維加工用樹脂組成物。
【請求項3】
重合体[X]が、単量体(a)単位と単量体(b)単位の合計100重量部に対して、更に、前記単量体(a)、(b)以外のその他のエチレン性不飽和単量体(c)単位を0.1〜20重量部の範囲で加えた単量体類を重合した重合体である請求項1または請求項2に記載のガラス繊維加工用樹脂組成物。
【請求項4】
重合体[X]を構成するその他のエチレン性不飽和単量体(c)単位が、グリシジルメタクリレートである請求項3に記載のガラス繊維加工用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のガラス繊維加工用樹脂組成物により繊維間を接着したことを特徴とするガラスペーパー。


【公開番号】特開2007−31894(P2007−31894A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218744(P2005−218744)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】