説明

ガラス製マイクロチップベースプレート、ガラス製マイクロチップベースプレートの製造方法及びマイクロチップ

【課題】研磨加工の手間の負担が小さく、平滑で長寿命の非晶質マイクロチップベースプレート及びマイクロチップ、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】球状の石英ガラス粉末にアクリル樹脂系バインダーを加え、石英ガラス粉末を77重量%として混合し、加熱ニーダーを用いて140℃で1時間混練した。混練物をシート化し、粉砕してフレーク状とし、射出成形機で表面に流路となる溝2を形成した成形体10を形成した。この成形体10を大気中で500℃まで10℃/hで昇温し、500℃に2時間保持して脱脂し、脱脂体を、真空雰囲気で1300℃まで200℃/hで昇温し、1300℃に2時間保持して透光性のマイクロチップベースプレート1を得、石英ガラス製のカバー3を密着させ、1300℃で熱融着してマイクロチップ4を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形・焼結技術を応用して作成したマイクロチップベースプレート、マイクロチップ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ化技術はコンピューターなどの電子分野のみならず医療分野などいろいろな分野にて用いられてきている。マイクロ化による利点としては効率化、省資源、省エネルギー化が図れること等があるが、こうしたさまざまな分野への浸透は近年の微細加工技術の飛躍的な進歩による面が大きい。
最近の技術としては特願2002−209396のように測定サンプルの少量化に対応して分析機器のマイクロ化が進められ、微量試料であっても検出感度が低下することのないように分析用フローセルをマイクロ化した技術等があるが、従来のこうした分析装置でのマイクロ化から発展して、今後は食品分野、環境分野などにおいてもマイクロ化が期待されてきており、生物化学の分野においてもDNAマイクロチップなどの利用が活発に研究されてきている。
分析機器のマイクロ化に対応したフローセル等の製造においては、鏡面研磨したガラス表面に流路となる任意形状・長さの溝を形成し、その上に鏡面研磨した石英ガラス板をカバーとして融着して組み立てている。
ガラス製のマイクロチップの溝は、ガラス表面を機械加工やウェットエッチング、ドライエッチング、ショットブラスト等によって形成され、その後に同質のガラスを準備して熱融着により上面を覆う方法が一般的であった。
また、ガラス製品は、プレス成形、鋳込み成形、或いは射出成形(特許文献1及び2)等で成形して製造することが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−48623号公報
【特許文献2】特開2004−203639号公報
【特許文献3】特開2005−139018号公報
【特許文献4】特開2005−145767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石英ガラスインゴットを機械加工によって板を切り出し、精密に研磨加工して鏡面を有する板を得ることは時間を要し、コストを上げる原因であった。
また、プレス成形や鋳込み成形、さらには射出成形によって製造することができるが、これらの方法で得られる製品は、表面が粗いものであり、更に研磨を必要とするため、研磨加工に手間、コスト、時間がかかるという問題を有していた。研磨加工工程において、欠陥、割れ、ひずみ、応力が発生しやすいため、研磨加工製品の歩留まりが低く、得られた研磨加工製品が壊れやすく、寿命が短いという問題を有していた。さらにプレス成形や鋳込み成形ではマイクロ化の精度上も問題がある。
【0005】
射出成形法によるガラス製品の製法としては、特許文献1で粒径が0.1〜20μmの範囲で、かつアルカリ金属含有率が100ppm以下である石英ガラス粉末100重量部に対して、アルカリ金属含有率が100ppm以下であるバインダー10〜70重量部を配合した混練物を射出成形し、得られた射出成形体からバインダーを加熱脱脂し、1000〜1800℃の範囲で焼結する方法が提案されている。この方法を更に改善した方法が特許文献2に記載されている。これは、粒径が0.01〜20μmの球状粒子からなり、粒径分布が0.1〜0.5μmの小径側と、1〜5μmの大径側に極大分布ピークを有し、大径側ピーク粒径/小径側ピーク粒径比が5〜10である石英ガラス粉末を用い、温度1200〜1400℃で真空焼結するものである。
また、同様の方法で、得られるガラスを不透明でありながら平滑な表面を有するものが特許文献3に、ガラスを黒色とする方法が特許文献4に開示されている。
そこで、本発明は、研磨加工の手間の負担が小さく、少なくとも1面が平滑で長寿命の非晶質マイクロチップベースプレート及びマイクロチップ、並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ガラス粉末とバインダーの混練物を表面に流路となる所望形状の溝が形成されるように射出成形し、加熱脱脂してバインダーを除去し、更に焼結してマイクロチップベースプレートを得るものである。
石英ガラス粉末の粒径が0.01〜20μmの球状粒子であり、粒径分布が0.1〜0.5μmの小径側と、1〜5μmの大径側に極大分布ピークを有し、大径側ピーク粒径/小径側ピーク粒径比が5〜10であり、焼結温度1200〜1400℃であり、焼結雰囲気を真空としたものである。
【0007】
ベースプレートとなるガラスの材質は、光透過性を有する透明ガラスが一般的には好ましく、石英ガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス等が挙げられるが、遠紫外線、紫外線、可視光線、赤外線及び遠赤外線の全域、または、その一部帯域においても光透過性に優れている石英ガラスがより好ましく、このためガラス粉末をシリカガラス粉末としてバインダーと混練したものを表面に流路となる所望形状の溝が形成されるように射出成形するのが望ましい。
本方法による溝を形成したガラス製ベースプレートは表面性状も滑らかであり、必要とされるマイクロメートルオーダーの精度も得られることから、ガラス製マイクロチップベースプレートの作製方法として本願の射出成形方法が適していることが知見された。
マイクロチップを得るための接合方法は、射出成形・焼結ガラスと透明ガラスの接合面とを予め鏡面状態とし、双方の接合面を合わせ、石英ガラスの軟化点(約1300℃)に加熱して一体接合するものである。
このとき、両者を加圧すると融着温度を下げることができると共に、強固な接合状態を得ることができる。
【0008】
また、マイクロチップベースプレートとカバーの接合は、加熱融着方法を使用せず、表面の不純物、異物を除去するための洗浄をおこなったのち、純水等の流水の下でガラスの接合面が近接した状態で相対的に動かして気泡、異物を界面間から除去し、真空状態で接合面間の余剰水を乾燥除去することによっても強固に接合することができる。
このとき、接合面の間には水膜が介在して防護膜となり、ガラスの接合面同士の接触、異物によるキズの発生は極めて低く抑えられる。また、清浄な流水を用いているので、異物の除去効果が高くなると共に治具等からの再汚染を防ぐ効果がある。
【0009】
流水は、純水を使用するのが好ましい。ガラス表面の汚れを取り除くために、有機物、無機物、金属不純物など汚れの種類、程度に応じて純水のほか、除去効果の高い水素水、オゾン水、アンモニア添加純水、HF添加純水を適宜選択して用いることが有効である。
【0010】
純水が接合面に介在し、接合面が直接接触していない状態で位置合わせをおこない、真空状態として接合面間の余剰水を乾燥させて除去すると、接合面の鏡面同士が接触して接合される。
真空状態における温度を上げると、接合面間の余剰水の蒸発が促進され効率があがるが、当初から水の沸点以上の温度とすると水分の急激な膨張が生じるため、接合面積、残余水量に応じて真空度、昇温パターンを設定してガラスの剥がれ、位置ずれを起こすことがないようにする。
【0011】
真空度及び温度については予め真空度と昇温パターンをプログラムした多段制御、または、真空度と温度を個別に制御しても良い。
真空状態で加熱乾燥する場合は、真空度と昇温パターンのプログラムを組んで自動制御するが、水分の急激な膨張を防ぐために最初は比較的低温状態として乾燥させ、その後、温度を上げてよりしっかりとした接合状態を得ることが好ましい。
【0012】
真空状態とすることと加熱は同時におこなう必要はなく、真空状態として水分を蒸発させやすい環境にして蒸発を開始後、加熱処理して水分の蒸発を促進させる2段階方式でも構わない。または、石英ガラスの場合、真空状態で例えば常温〜900℃程度の温度に昇温加熱して乾燥させ余剰水の除去をおこなった後に、より強固な接合状態を得るために、更に1000〜1300℃程度の高温に加熱する処理をおこなっても構わない。
【0013】
接合のプロセスは、以下のようであると考えられる。
常温または低温での真空雰囲気により接合面間の余剰水が脱水され、該接合面が余剰水のOH基により表面活性化され、清浄な接合界面の下でOH基による水素結合が生じ、更に加熱処理によりH2Oの蒸発に伴い、水素結合から共有結合への進行が起こり、接合面が密着、結合される。このように真空加熱乾燥で接合界面の余剰水を除去すると共に、清浄面を保ち、ガラスの接合界面のH2O膜の拡散過程を経ることで接合力が発生、強化されていくものと考えられる。
【0014】
本発明のマイクロチップベースプレートは、その表面粗さRaが0.05〜0.5μmであり、特に0.05〜0.3μmであることが好ましい。表面粗さが0.5μmを超えると、研磨して鏡面を得るための時間がかかると共に、研磨加工工程で欠陥、割れ、歪み、応力等が発生して製品の寿命が短くなる。
【0015】
本発明のマイクロチップベースプレートは、非晶質である。石英ガラスは、焼結条件によって結晶質のクリストバライトが析出するが、結晶相が析出すると、製品表面が粗くなり、好ましくない。また、結晶化相が生成すると、それを起点として割れが発生しやすくなって好ましくない。
【0016】
シリカガラス粉末の最大径が20μmを超えると、脱脂或いは焼結時に結晶質であるクリストバライトに転移しやすいので好ましくない。また、最大径が20μmを超えると、射出成形機や金型の表面を摩耗し、金属カスが異物となって成形体に混入する恐れがある。金属カスなどの異物は、不純物としてだけでなく、脱脂体の焼成において結晶化の起点となるため好ましくない。一方、最小径が0.01μm未満の原料粉末は、バインダーとの混練が困難であり、実質的に射出できる混練物は得られず、また、焼結活性が高すぎるため、内部応力の高い焼結体となるので好ましくない。
【0017】
シリカガラス粉末の形状は球状である。ガラスインゴットを破砕して得られる粉末は角を有する粒子であり、このような角を有する粉末を射出成形に用いると、射出成形機内の加熱シリンダー、及びスクリューなどの直接混練物が接触する金属製部品の表面を削り、それらが異物として射出成形体に取り込まれてしまう。このような異物は、脱脂時或いは焼結時に結晶化の起点となるため好ましくない。
【0018】
シリカガラスの球状粒子の調製方法としては、石英或いはシリカ粉末を酸水素火炎中に噴霧したり、或いは金属シリコン粉末を酸素気流中で燃焼させることによって得られる。本発明でいう球状粒子は、真球を意味するものでなく、角を有する形状でなければ良いという意味での球状であり、丸みをおびた饅頭型、へちま型等の変形したものも含む概念である。
【0019】
シリカガラス粉末は、粒径分布が0.1〜0.5μmの小径側と、1〜5μmの大径側に極大分布ピークを有する。1つの極大ピークのみを有する粒子径分布のシリカガラス粉末を用いた場合、脱脂、焼結時に内部応力が発生し、変形しやすい。また1つの極大ピークのみからなる粒度分布のシリカ粉では、焼結時に緻密化が進行し難い上に、クリストバライト結晶質に転移しやすく、非晶質の石英ガラスが得られない。
【0020】
シリカガラス粉末は、0.1〜20μmの粒度を有する粉末で、特に小径側の0.1〜0.5μmの範囲と、大径側の1〜5μmの限定された範囲における極大ピークの粒子径比(大径側ピーク径/小径側ピーク径)が5〜10の範囲であることが必要である。2つの極大ピークを有しても、ピーク粒子径比がこの範囲にないものでは、1つの極大ピークを示す粒子径分布を有する石英ガラス粉末と同様に、脱脂、或いは焼結時に応力変形、結晶化、多孔質化が生じやすく、また焼結後の表面が粗くなり、好ましくない。
【0021】
シリカガラス粉末は、高純度であることが好ましく、特に、焼結中の結晶化を回避するために、結晶化の起点となるアルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄の含有率が50ppm以下であることが望ましい。
【0022】
射出成形は、シリカガラス粉末と樹脂製バインダーを混練して混練物を作成する。混練物は、シリカガラス粉末の含有量が60〜90重量%とする。シリカガラス粉末の比率が60重量%未満の場合、射出成形体を脱脂する際に脱脂体の強度低下を引き起こしてハンドリングのときに壊れやすく、一方、シリカガラス粉末が90重量%を超えると混練が困難であり、射出成形に使用できる混練物を得ることができない。
【0023】
バインダーは、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体等のオレフィン系樹脂、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、蜜ロウ等のワックス類など広範囲の熱可塑性樹脂を使用することができる。また、シリカガラス粉末の有機バインダー中での分散性を上げると共に、混練物の流動性を向上させるためにステアリン酸などの脂肪酸、ステアリルアルコール等の高級アルコール類等を添加して用いても良い。
シリカガラス粉末とバインダーは、汎用の加熱ニーダー等を用いて混練りする。
混練物をフレーク状あるいはペレットの粒状とし、射出成形機で所望の形状に成形する。射出成形機は、通常のプラスチック等の射出成形に使用するものでよく、例えば、インラインスクリュー式の射出成形機を使用する。
【0024】
射出成形機の混練物と直接接触する箇所は、成形体への金属異物混入を抑制するために、窒化鋼など耐摩耗仕様とする。更に、射出成形に用いる金型表面は仕上げ磨きをし、表面平滑性を高めたものとする。
【0025】
射出成形で得られた成形体は脱脂、すなわち成形体を加熱してバインダーを分解、揮発除去する。脱脂は、例えば、汎用の加熱炉(電気炉)でおこなう。脱脂の加熱条件は、バインダーによっても異なるが、一般的には、400〜1000℃で1〜10時間加熱する。脱脂中の成形体の割れを防止するため、昇温速度は2〜50℃/hとする。脱脂の加熱雰囲気は大気、もしくは窒素等の不活性雰囲気とし、脱脂効率を高めるためには、換気しながら脱脂する。
【0026】
脱脂後の成形体に鉄やアルカリ金属等の異物が混入していると、焼結時に異物が起点となってシリカ粉の結晶化が進行しやすい。異物が存在する場合には、脱脂体を塩素気流中にて500〜1000℃で0.5〜5時間加熱して異物を除去して純化する。
脱脂後の成形体を真空雰囲気下で1200〜1400℃で焼結し、マイクロチップベースプレートを得る。大気中で焼結すると、成形体の緻密化よりも結晶化の方が進行しやすいので避ける。
真空焼結の圧力は、0.1torr以下であることが好ましく、減圧状態とすることにより、石英ガラス体中の残留気孔を効率的に除去でき、表面が平滑になりやすくなると共に、結晶化を抑制する。
焼結温度及び保持時間は、非晶質維持のために非常に重要であり、1200〜1400℃の範囲が必須である。
1200℃未満では、石英ガラス粒子は十分に焼結せず、一方、1400℃を超えると結晶化が進みやすく、非晶質のブランクが得られない。
焼結の保持時間は5分〜5時間であることが好ましい。保持時間が5分未満の場合、緻密化が十分でなく、5時間を超える場合には、結晶化しやすい。
【0027】
1200〜1400℃で真空焼結する前に、800〜1000℃の酸化雰囲気中で予備焼結することが好ましい。予備焼結することにより、真空焼結でのハンドリングが容易になるだけでなく、脱脂成形体の中に微量残存するバインダーに起因する異物(例えばカーボン等)がほぼ完全に除去され、焼結における結晶化が抑制される。予備焼結は、常圧もしくは、若干の加圧下でおこなう。
【0028】
焼結体の少なくとも1つの面を研磨して表面粗さRaを0.05μm未満とする。研磨は、酸化セリウムを砥粒としたブラシ、研磨布を用いた研磨等の公知の方法でおこなう。
【0029】
マイクロチップベースプレートとカバーの接合を、両ガラスの接合面を流水中で近接した状態で相対的に動かして接合面の異物を洗浄除去すると共に接合面における気泡の発生を防止し、更に、真空状態として接合面に残存する水分を除去する接合方法でおこなうことによって、接合面が気泡や不純物が介在しない強固な接合状態が得られる。接合面から除去された異物及び気泡は、流水により運び去られるため、再汚染の恐れがなく、高い除去効率が得られると共に洗浄後の清浄度が維持される。また、接合面間に水膜が介在した状態で異物の除去が行なわれるため、接合面のキズの発生を極めて小さいものに抑えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のマイクロチップベースプレートは、射出成形によるものであり、簡易な方法によって表面が滑らかなものが得られ、マイクロチップ組み立てに必要な鏡面を容易に得ることができ、高歩留まりで、長寿命の製品を低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
製造例1
最大径8μm、最小径が0.2μmであり、0.3μm及び2.2μmにおいて体積百分率の極大ピークを有する(ピーク粒径比2.2/0.3=7.33)粒子径分布からなり、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄の含有率がICP分析でいずれも50ppm以下の球状石英ガラス粉末にアクリル樹脂系バインダーを加え、石英ガラス粉末を77重量%として混合し、加熱ニーダーを用いて140℃で1時間混練した。
【0032】
得られた混練物をシート化し、粉砕してフレーク状とした。このフレーク状の混練物を射出成形機で図1(1)に示すように、表面に流路となる幅200μm、深さ200μmの溝2を形成した10mm×20mm×0.5mmの成形体10を形成した。流路となる溝2に必要に応じて、貫通穴(図示しない)を形成し、この成形体10を大気中で500℃まで10℃/hで昇温し、500℃に2時間保持して脱脂し、成形体10から樹脂成分を除去して脱脂した。
得られた脱脂体を、真空雰囲気で1300℃まで200℃/hで昇温し、1300℃に2時間保持して図1(2)に示す透光性のマイクロチップベースプレート1を得た。
【0033】
このマイクロチップベースプレート1の溝2を形成した表面を更に必要に応じて研磨して鏡面とし、厚さ0.5mmの石英ガラス製のカバー3を密着させ、1300℃で熱融着して図1(3)に示すマイクロチップ4を得た。
マイクロチップベースプレートを白色不透明なものとする場合は、特許文献3に開示された方法を採用する。すなわち、最大径と最小径が0.01〜20μmの範囲の球状粒子であって、0.2μm以下の粒子が全体の5〜70重量%である石英ガラス粉末を、有機バインダーと混練し、混練物を射出成形した後、脱脂し、次いで温度1100〜1400℃で真空焼結することによって白色不透明石英ガラス成形体を製造することができる。
また、黒色とする場合は、特許文献4に開示された方法を採用する。すなわち、粒径が0.01〜20μmの球状粒子であって、0.2μm以下の粒子が5〜70重量%である石英ガラス粉末と有機バインダーとを重量比で70:30〜90:10の割合で混練し、射出成形した後、0.1〜5気圧の非酸化性ガス雰囲気で加熱脱脂し、次いで1200〜1400℃で真空焼結することにより黒色石英ガラス体を得ることができる。この黒色石英ガラス体は、厚さ1mmでの光直線透過率が200〜5000nmで5%以下、見掛密度が2.10〜2.20g/cm3、Na,K,Mg及びCa元素の合計が200ppm以下であって、少なくとも1面の表面粗さRaが0.05〜1μmである。
【0034】
製造例2
製造例1と同様の射出成形・焼結で得たマイクロチップベースプレート1と鏡面研磨された石英ガラス板のカバー3を純水の流水中で、接合面を近接させて相対的に動かして気泡、異物を接合面間から除去して位置合わせをおこなう。位置合わせをした状態の石英ガラス板を0.01MPa、500℃で一昼夜真空加熱乾燥して接合した。
この接合状態の石英ガラス板を手で左右にずらして剥がそうとしたが、強力に接合しており、剥がれなかった。また、光学顕微鏡で接合面を観察したところ、泡・異物の存在は認められなかった。
【0035】
製造例3
製造例1と同様の射出成形・焼結で得たマイクロチップベースプレート1と鏡面研磨された石英ガラス板を純水の流水中で、接合面を近接させて相対的に動かして気泡、異物を接合面間から除去して位置合わせをおこなう。流水を順次水素水、オゾン水、アンモニア添加純水、HF添加純水として、夫々の流水中でマイクロチップベースプレート1とカバーの石英ガラス板の接合面を相対的に動かして気泡、異物を接合面間から除去したのち、位置合わせをおこない、0.01MPa、500℃で一昼夜真空加熱乾燥して両者を接合した。
このケースにおいてもカバー3は強力に接合されており、手でずらして剥がすことはできず、また、接合面間に泡・異物等は観察されなかった。
なお、製造例として、マイクロチップの製造例を上記に掲げたが、本願の射出成形・焼結ガラスを用い、また、本願の接合技術等を組合わせてマイクロリアクターを製造することも可能である。
近年は高分子合成や有機合成の分野でのマイクロ化も研究されてきており、この中でも化学反応を行うためのものはマイクロリアクターと呼ばれているが、このマイクロリアクターは、マイクロ加工技術を用いて製作された幅が数マイクロメーターから数百マイクロメートルといったマイクロメートルオーダーの微細流路を持つ反応容器、反応装置であり、マイクロ化による化学反応試料の高速混合、温度や試料流量・流速などの精密制御により化学反応の高速化、精密制御が可能となるため、不安定な活性種の反応制御においても極めて有効であるとともに、実験室から工業生産への移行の高速化、効率化が図れるものと期待されており、本発明もこうしたマイクロ化製品群への応用性も高い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法は、特にマイクロチップに対して、その微細構造のため有利であるといえるが、電気泳動チップ、DNAチップ、タンパク質分析チップなどにも応用できる。
射出成形・焼結で得たガラスを用い、前記の接合技術等を組み合わせることによって、光学部品や、鏡面研磨した平面ガラス部材の表面に凹部加工を施したもの同士を組み立て接合して、任意形状の空間を有するガラス治工具類の作製、更には、マイクロリアクターなどのガラス部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】マイクロチップベースプレート及びマイクロチップの製造工程説明図。
【符号の説明】
【0038】
1 マイクロチップベースプレート
2 流路(溝)
3 カバー
4 マイクロチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末とバインダーの混練物を表面に流路となる所望形状の溝が形成されるように射出成形し、加熱脱脂し、更に焼結したマイクロチップベースプレート。
【請求項2】
請求項1において、ガラス粉末がシリカガラス粉末であるマイクロチップベースプレート。
【請求項3】
請求項2において、シリカガラス粉末の粒径が0.01〜20μmの球状粒子であり、粒径分布が0.1〜0.5μmの小径側と、1〜5μmの大径側に極大分布ピークを有し、大径側ピーク粒径/小径側ピーク粒径比が5〜10であり、焼結温度1200〜1400℃であり、焼結雰囲気が真空であるマイクロチップベースプレート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、流路となる溝に貫通穴が形成してあるマイクロチップベースプレート。
【請求項5】
請求項3〜4のいずれかにおいて、焼結条件をコントロールすることにより黒色ガラスもしくは白色不透明ガラスとしたマイクロチップベースプレート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかのベースプレートにガラスをカバーとして熱融着で接着したマイクロチップ。
【請求項7】
請求項6のベースプレート及びガラス製カバーの接合面を各々鏡面とし、次いで双方の接合面を合わせて組み立てた後、ガラスの軟化点以下の温度で接着したマイクロチップ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかのベースプレートと鏡面を有するガラス製カバーを流水中で、接合面を近接した状態で相対的に動かして気泡、異物を接合面間から除去し、真空状態で接合面間の余剰水を乾燥除去して接着したマイクロチップ。
【請求項9】
請求項6〜8において、ガラス製カバーはガラス粉末とバインダーの混練物を板状に射出成形し、加熱脱脂し、更に焼結したものであるマイクロチップ。
【請求項10】
ガラス粉末とバインダーの混練物を表面に流路となる所望形状の溝が形成されるように射出成形し、加熱脱脂し、更に焼結したマイクロチップベースプレートの製造方法。
【請求項11】
請求項10において、ガラス粉末がシリカガラス粉末であるマイクロチップベースプレートの製造方法。
【請求項12】
請求項11において、シリカガラス粉末の粒径が0.01〜20μmの球状粒子であり、粒径分布が0.1〜0.5μmの小径側と、1〜5μmの大径側に極大分布ピークを有し、大径側ピーク粒径/小径側ピーク粒径比が5〜10であり、焼結温度1200〜1400℃であり、焼結雰囲気が真空であるマイクロチップベースプレートの製造方法。
【請求項13】
請求項12において、焼結条件をコントロールすることにより黒色ガラスもしくは白色不透明ガラスとしたマイクロチップベースプレートの製造方法。
【請求項14】
請求項13において、0.01〜20μmの球状粒子からなり、かつ、0.2μm以下の粒子が全体の5〜70重量%であるシリカガラス粉末と、有機バインダーを重量比で70:30〜90:10の割合で混練し、当該混練物を射出成形した後、0.1〜5気圧(ゲージ圧)に加圧した非酸化性ガス雰囲気にて加熱脱脂し、次いで温度1200〜1400℃で真空焼結することによって黒色石英ガラスとしたマイクロチップベースプレートの製造方法。
【請求項15】
請求項13において、最大径と最小径が0.01〜20μmの範囲の球状粒子であって、0.2μm以下の粒子が全体の5〜70重量%であるシリカガラス粉末を、有機バインダーと混練し、混練物を射出成形した後、脱脂し、次いで温度1100〜1400℃で真空焼結することによって白色不透明石英ガラスとしたマイクロチップベースプレートの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−132704(P2007−132704A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323679(P2005−323679)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(390005072)東ソー・クォーツ株式会社 (46)
【Fターム(参考)】