説明

ガルバノミラーの位置制御装置

【課題】使用状況によらず安定した制振特性を得ることができるガルバノミラーの位置制御装置を提供する。
【解決手段】ガルバノミラーの制御装置20は、揺動ミラーの目標角度に応じて指令電圧V0を出力するとき、角度検出部24で揺動ミラーの角度θを検出し、検出された角度を角速度検出部23で微分することにより角速度ωを検出し、フィルタ部25で移動平均を求め、フィルタリング後の角速度に所定の比例ゲインGを乗算することで補正電圧V1を算出し、補正電圧生成部26で指令電圧V0から補正電圧V1を減算することにより、揺動ミラーの角速度ωに応じて補正された指令電圧V2をインバータ部22に出力し、揺動ミラーの角速度ωの変化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに通電することにより揺動ミラーの角度を制御するガルバノミラーの位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガルバノミラーは、反射鏡とこの反射鏡に一体に取り付けられたコイルとを有する揺動ミラーが板バネなどの弾性支持部材により揺動自在に支持された構成を備えている。コイルの内周側には磁石が配置されている。磁界の中でコイルに通電するとローレンツ力が発生し、そのローレンツ力と板バネの復元力との釣り合いにより揺動ミラーの角度が定まる。具体的には、コイルに印加する電圧によって揺動ミラーの角度、即ちガルバノミラーの位置が定まるため、例えば角度・電圧変換テーブルなどを用いて、目標とする角度に応じた一定の電圧を出力する制御が行われている。
【0003】
上述したように揺動ミラーは弾性的に支持されているので、揺動ミラーが目標角度を中心として振動することがある。そのため、例えば特許文献1に開示されているガルバノミラーでは、揺動ミラー(可動部)とミラーホルダ(固定部)との間にシリコンゲルなどの減衰部材を設け、揺動ミラーの振動を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−043385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の構成の場合、減衰部材の特性が温度により変化し、使用状況によっては所望の振動抑制効果(制振特性)を得ることができないという問題があった。また、減衰部材を設けることで組み立て工数や検査工数などが増加し、製造コストが増加するという問題もあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用状況によらず安定した制振特性を得ることができるガルバノミラーの位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のガルバノミラーの位置制御装置は、反射鏡とコイルを有し弾性支持部材によって支持された揺動ミラーと、前記コイルに磁界が及ぶように固定配置された磁石とを備えたガルバノミラーの位置制御装置において、前記揺動ミラーの目標角度と前記コイルに印加する指令電圧との関係を予め規定しており、入力された目標角度に対応した指令電圧を出力する指令電圧生成手段と、前記揺動ミラーの角速度を検出する角速度検出手段と、前記検出された角速度にゲインを乗じることにより前記角速度に応じた補正電圧を生成する補正電圧生成手段と、前記指令電圧生成手段から出力された指令電圧から前記補正電圧を減じることにより補正された指令電圧を得る電圧補正手段と、前記補正された指令電圧に従って前記コイルに電圧を印加する電圧出力手段と、を備えていることを特徴とする(第1の手段)。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明のガルバノミラーの位置制御装置は、反射鏡とコイルを有し弾性支持部材によって支持された揺動ミラーと、前記コイルに磁界が及ぶように固定配置された磁石とを備えたガルバノミラーの位置制御装置において、前記揺動ミラーの目標角度と前記コイルに印加する指令電圧との関係を予め規定しており、入力された目標角度に対応した指令電圧を出力する指令電圧生成手段と、前記指令電圧に基づいてスイッチング動作をすることにより、前記コイルに対し前記指令電圧に応じた電圧を出力する電圧出力手段と、前記揺動ミラーの角速度を検出する角速度検出手段と、前記揺動ミラーの角度を検出する角度検出手段と、前記揺動ミラーに対し新たな目標角度が設定された場合に、前記指令電圧に基づいて前記新たな目標角度に向かって回転する前記揺動ミラーを減速させるための制動電圧を設定し、前記検出された角度が前記新たな目標角度に対して所定の範囲内に達したときに前記指令電圧に替えて前記制動電圧を前記電圧出力手段に出力し、前記検出された角速度が所定の閾値以下になったときに前記制動電圧に替えて前記指令電圧を前記電圧出力手段に出力する電圧指令切替手段と、を備えていることを特徴とする(第2の手段)。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の手段によれば、指令電圧から揺動ミラーの角速度に応じた補正電圧が減算され、補正された指令電圧がコイルに印加されるので、目標角度に達する前に揺動ミラーが減速され、振動を抑制することができる。
【0010】
上記第2の手段によれば、揺動ミラーの角度が目標角度に対して所定の範囲内に達したときにコイルに対し指令電圧に替えて制動電圧を出力し、揺動ミラーの角速度が所定の閾値以下になったときに制動電圧に替えて指令電圧を出力するので、目標角度に達する前に揺動ミラーが減速され、振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態による制御装置のブロック構成図
【図2】ガルバノミラーの断面図及び断面斜視図
【図3】インバータ部の電気的構成図
【図4】揺動ミラーの角度の時間変化を示す図
【図5】本発明の第2実施形態による制御装置のブロック構成図
【図6】図4相当図
【図7】本発明の第3実施形態による制御装置のブロック構成図
【図8】角速度検出部のブロック構成図
【図9】図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるガルバノミラーの位置制御装置について、図1から図4を参照して説明する。
【0013】
図2は、ガルバノミラー1の構成を示す図であり、(A)は縦断断面図、(B)は後述する上部メインミラーと反射鏡とを取り除いた状態でやや上方から見た断面斜視図である。ガルバノミラー1は、下部メインミラー2、上部メインミラー3、ヨーク4、磁石5及び揺動ミラー6から構成されている。下部メインミラー2は、ガラスなどにより円盤状に形成されており、上部メインミラー3は、ガラスなどにより円環状に形成されている。下部メインミラー2の上面には、上部メインミラー3とほぼ同じ内径を有する円環状のヨーク4と、ヨーク4の中心部に位置した円柱状の磁石5が配置されている。ヨーク4は、炭素鋼などで形成されている。磁石5は、例えばネオジムなどの希土類磁石、或いはフェライト磁石などである。これら下部メインミラー2、上部メインミラー3、ヨーク4及び磁石5は、固定部を形成している。
【0014】
上部メインミラー3の内周側とヨーク4の内周側とで形成される円形凹部には、揺動ミラー6が収容されている。揺動ミラー6は、反射鏡7、板バネ8、コイル9及びコイル9を保持するボビン10から構成されている。反射鏡7は、ガラスなどにより円盤状に形成されている。板バネ8は、ステンレスなどにより扁平に形成されており、反射鏡7及びボビン10の外径と略等しい環状の保持部8aを有している。この保持部8aの上面には反射鏡7が接着剤などで固定されている。保持部8aの下側にはボビン10がネジ止めなどにより固定されている。
【0015】
保持部8aには、互いに180°離間した位置において径方向外側に延びる2本のトーションバー11が設けられている。トーションバー11は、例えばステンレスなどで形成されており、ねじれによる反発力を利用した弾性支持部材として機能する。各トーションバー11の保持部8aと反対側の端部には、矩形状の支持部8bが設けられている。この支持部8bは、ヨーク4の上面と上部メインミラー3の下面との間に挟み込まれており、トーションバー11を介して揺動ミラー6を支持している。これにより、揺動ミラー6は、固定部に対して、2本のトーションバー11を回転軸として揺動可能になっている。
【0016】
ボビン10は、下方に開口する有底円筒状に形成されており、その側壁内周側に沿ってコイル9が環状に巻装されている。コイル9の中央部には磁石5が位置しており、コイル9は、ヨーク4と磁石5との間に形成された磁界作用空間に位置している。
【0017】
磁石5は、一対のトーションバー11により形成される回転軸に対して線対称に磁極(N極、S極)が形成されている。揺動ミラー6のコイル9に電圧が印加されると、コイル9には磁石5から発生する磁界の中でローレンツ力が働く。具体的には、コイル9に電圧を印加すると、例えば磁石5のN極側と対向する側に上向き(反射鏡7を持ち上げる方向)のローレンツ力が働き、S極側と対向する側に下向き(反射鏡7を下げる方向)のローレンツ力が働く。その結果、揺動ミラー6は、トーションバー11を回転軸として回転し、ローレンツ力とトーションバー11の復元力とが釣り合う角度に保持される。つまり、揺動ミラー6は、コイル9への通電によりその角度を制御することができる。
【0018】
図1は、ガルバノミラー1の位置制御装置(以下、単に制御装置という。)20のブロック構成図である。制御装置20は、指令電圧発生部21、インバータ部22、角速度検出部23、角度検出部24、フィルタ部25、補正電圧生成部26及び電圧補正部27を備えている。
【0019】
指令電圧発生部21、角速度検出部23、フィルタ部25、補正電圧生成部26、電圧補正部27は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oなどを有するマイクロコンピュータで構成されており、ROMに記憶されている制御プログラムに従って制御装置20全体を制御する。指令電圧発生部21は、図示しない入力部から揺動ミラー6の目標角度が入力されると、揺動ミラー6を当該目標角度に位置決めするために必要な指令電圧V0を出力する。この目標角度と指令電圧V0との関係は予め規定されており、変換テーブル(以下、データテーブルという。)としてROMなどに記憶されている。尚、目標角度と指令電圧V0との関係を関数として記憶しておき、目標角度が設定される毎に対応する指令電圧V0を算出する構成としてもよい。
【0020】
図3は、インバータ部22の電気的構成図である。インバータ部22は、MOSFETやIGBT等の4個のスイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4がコイル9に対してHブリッジの形態に接続されているインバータ主回路22a、各スイッチング素子Q1〜Q4のオン/オフを制御するインバータ制御回路22bから構成されている。インバータ主回路22aは直流電源から直流電圧Vdc(本実施形態では5V)が供給される。つまり、インバータ部22は、コイル9に印加する電圧を出力する電圧出力手段として機能する。
【0021】
インバータ制御回路22bは、指令電圧の電圧値に基づいたPWM制御信号を出力し、インバータ主回路22aをPWM制御してコイル9に印加する電圧を制御している。例えば、指令電圧が0Vの場合には、スイッチング素子Q1〜Q4に与えるパルス状の制御信号のデューティ比を0%にし、5Vの場合にはデューティ比を100%にした制御信号を出力する。
【0022】
インバータ制御回路22bは、図2(A)に矢印Yで示す方向から視た場合に、揺動ミラー6を時計回り(以下、正転側という。)に回転させる場合には、スイッチング素子Q2、Q3をオフし、スイッチング素子Q1、Q4をPWM制御する。この場合、コイル9には実線で示す方向に電流が流れ、揺動ミラー6は正転側に回転する。一方、揺動ミラー6を正転側とは逆の方向(以下、逆転側という。)に回転させる場合には、スイッチング素子Q1、Q4をオフし、スイッチング素子Q2、Q3をPWM制御する。この場合には、コイル9には破線で示す方向に電流が流れ、揺動ミラー6は逆転側に回転する。
【0023】
ガルバノミラー1が実際に使用される場合には、例えばガルバノミラー1本体(上部メインミラー3などの固定部)の向きが一定角度毎に変化し、揺動ミラー6(可動部)の角度もそれに追従するように変化する。そのため、図2(A)の上方から入射した光が上部メインミラー3及び揺動ミラー6の反射鏡7で反射することにより、一定範囲の測量などを行うことが可能になる。その場合、揺動ミラー6の角度は、上記したようにコイル9に働くローレンツ力と弾性を有するトーションバー11の反力との釣り合いにより定められる。このとき、目標角度に向かって回転する揺動ミラー6は、目標角度を行き過ぎたり(オーバーシュート)、或いは行き過ぎた後にまた戻ったり(アンダーシュート)する振動が発生し易い。そこで、制御装置20は、揺動ミラー6の振動を抑制する制振制御を行っている。
【0024】
角度検出部24は、変位センサなどの周知の検出手段により揺動ミラー6の角度θを検出する。角速度検出部23は、角度検出部24で検出された角度θを微分して角速度ωを検出する。フィルタ部25は、角速度ωの移動平均を求めるローパスフィルタであって、検出された角速度ωから高周波成分(ノイズ成分)を除去する。補正電圧生成部26は、乗算器で構成されており、ノイズ成分が除去された角速度ωに所定の比例ゲインGを乗算することにより、角速度ωに応じた補正電圧V1を算出する。尚、比例ゲインGは、その大きさを調整可能に構成されている。
【0025】
電圧補正部27は、減算器で構成されており、指令電圧V0から補正電圧V1を減算し、インバータ部22のインバータ制御回路22bに補正された指令電圧V2を出力する。即ち、インバータ部22には、データテーブルから読み出された指令電圧V0がそのまま出力されるのではなく、揺動ミラー6の角速度ωに応じて補正された指令電圧V2が出力される。
【0026】
このように、制御装置20は、インバータ部22に出力される(コイル9に印加される)電圧を、揺動ミラー6の角速度ωに応じて可変する制御(制振制御)を行っている。
図4は、揺動ミラー6の角度と時間との関係を示す図である。同図に破線で示すグラフG1は、上記した制振制御を行わない場合、つまりデータテーブルから読み出した指令電圧V0をそのままインバータ部22に出力した場合の角度を示している。一方、実線で示すグラフG2は、制振制御を行った場合、つまり補正した指令電圧V2をインバータ部22に出力した場合の角度を示している。
【0027】
制振制御を行わなかった場合(G1)には、目標角度に対するオーバーシュート及びアンダーシュートの大きさが揺動ミラー6に許容されている上限値(許容上限)と下限値(許容下限)とを大きく逸脱しているとともに、許容値に収まるまでに約0.016secの時間がかかっている。これに対して、制振制御を行った場合(G2)には、振動量のピークがほぼ半減しているとともに、許容値に収まるまでの時間(ほぼ目標角度に収束する時間)が約0.004secとなり、制振制御を行わない場合に比べて約1/4程度になっている。このように、制振制御を行うことにより、振動を抑制する制振特性が大幅に改善されている。
【0028】
この制振制御においては、揺動ミラー6のオーバーシュート及びアンダーシュートは、比例ゲインGの値を大きくするにしたがって小さくなる。即ち、比例ゲインGを大きくするほど揺動ミラー6の角速度ωに対する指令電圧V0の低減効果が大きくなり、揺動ミラー6の角速度ωを抑制する効果が生じ、目標角度に到達したときの振動が抑制される。ただし、その場合には、目標角度に整定するまでの時間が長くなるなどの不都合が生じるおそれがある。そのため、比例ゲインGの値は、使用目的に応じて、許容される振動と整定時間との兼ね合いにより、最適な値に調整すればよい。例えばガルバノミラー1を測量装置などに用いる場合には、振動が許容範囲に収まった時点で測量が可能となるため、整定時間が測量にかかる時間に直接影響する。この場合、測量時間を短くするためには、整定時間が短くなるように比例ゲインGを設定すればよい。
【0029】
以上説明した第1実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
電圧補正部27は、指令電圧V0の代わりに揺動ミラー6の角速度ωに応じて補正された指令電圧V2をインバータ部22に出力する。これにより、揺動ミラー6の角速度ωが大きい場合には補正された指令電圧V2が小さくなり、揺動ミラー6の角速度ωが低下する。つまり、揺動ミラー6は、目標角度に到達する前に十分に減速され、目標角度を大きく超えることがなくなる。従って、揺動ミラー6の振動を抑えることができる。
【0030】
また、角速度ωが小さい場合には、補正電圧V1の値が小さくなる。そのため、補正後の指令電圧V2は、元の指令電圧V0に近い値となる。これにより、角速度ωが過度に低下することが防止され、目標角度に到達するまでに要する時間が必要以上に長くなることがない。
【0031】
制振制御をマイクロコンピュータで行っているので、温度により特性が変化するシリコンゲルなどの減衰部材を設ける必要がない。従って、使用状況(温度、湿度など)によらず安定した制振特性を得ることができるとともに、コストを抑制することができる。
【0032】
角速度検出部23と補正電圧生成部26との間に、角速度ωの移動平均を求めるフィルタ部25を設けたので、ノイズの混入などに伴う角速度検出時の誤差が制振制御に与える影響を抑えることができる。
補正電圧生成部26のゲインを調整可能にしたので、使用目的に応じて最適なゲインを設定することができ、制振制御を効率良く実施することができる。
【0033】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるガルバノミラーの位置制御装置を、図5及び図6を参照して説明する。第2実施形態は、指令電圧を補正電圧により変化させるのではなく、揺動ミラーの角度及び角速度に応じてインバータ部(電圧出力手段)に出力する電圧を切り替えることにより振動を抑制する。尚、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。また、揺動ミラー6と上部メインミラー3とが水平になる角度を0°とし、0°から正転する方向を正の角度範囲とし、0°から逆転する方向を負の角度範囲として角度に符号「−」を付す。
【0034】
図5は、制御装置30を示すブロック構成図である。制御装置30は、指令電圧発生部21、インバータ部22、角度検出部24、角速度検出部23及び電圧指令切替部31を備えている。電圧指令切替部31は、指令電圧発生部21とともにマイクロコンピュータにより構成されており、静止状態(前回設定された角度で安定している状態)における揺動ミラー6の角度を初期角度θ1として記憶している。また、電圧指令切替部31には、角速度検出部23から揺動ミラーの角速度ωが、角度検出部24から揺動ミラーの角度θが入力される。
【0035】
初期角度θ1で静止している状態から新たな目標角度θ2が設定されて揺動ミラー6が回転を開始すると、電圧指令切替部31は、角度検出部24で検出される現在の角度θが、初期角度θ1から目標角度θ2までの間において所定の角度範囲内(例えば、目標角度θ2に対して±|θ2―θ1|/2の角度範囲内)に達したか否かを判定している。
【0036】
電圧指令切替部31は、現在の角度θが上記所定の角度範囲内に達すると、目標角度θ2に向かって回転する揺動ミラー6を減速させるための制動電圧を出力する。
この制動電圧の設定方法について詳細に説明する。電圧指令切替部31は、まず揺動ミラー6の回転方向を検出する。目標角度θ2に対応して指令電圧発生部21から出力された指令電圧が、初期角度θ1に対応する指令電圧よりも大きい場合には、目標角度θ2>初期角度θ1であると判断して、正転であると判定する。また、指令電圧が初期角度θ1に対応する指令電圧よりも小さい場合には、目標角度θ2<初期角度θ1であると判断して、逆転であると判定する。尚、電圧指令切替部31は、角度検出部24で検出した揺動ミラー6の角度θの変化から、或いは角度指令値そのものから揺動ミラー6の回転方向を検出してもよい。
【0037】
電圧指令切替部31は、揺動ミラー6の回転方向を検出すると、新たな目標角度θ2に向かって回転している揺動ミラー6を減速させるための電圧、即ち回転方向の発生トルクを低減させる電圧または回転方向とは逆のトルクを発生させる電圧を制動電圧として設定する。例えば、静止状態の角度(初期角度θ1)が0°(0°に対応する指令電圧は0Vと仮定する。)、新たな目標角度θ2が1°(1°に対応する指令電圧は1Vと仮定する。)の場合、目標角度θ2よりも初期角度θ1側の角度に対応する電圧(一例として0V)を制動電圧として設定すればよい。
【0038】
指令電圧(1V)に替えて制動電圧(0V)がインバータ部22に出力されると、インバータ制御回路22b(図3参照)は、PWM制御信号のデューティ比を0%にする(スイッチング素子Q1〜Q4全てのスイッチング動作を停止する)。その場合、揺動ミラー6は、それまでの回転運動の慣性により目標角度θ2に向かって回転を続けるものの、制動電圧により発生するトルク及びトーションバー11の反力により、制動電圧の印加前よりも大きい割合で角速度が低下する。このように、電圧指令切替部31は、揺動ミラー6の角度θに応じて、指令電圧に替えて制動電圧をインバータ部22に出力し、PWM制御信号の出力を停止(オフ)する(制動電圧として0Vを設定した場合)。
【0039】
電圧指令切替部31は、制動電圧を出力すると、角速度検出部23で検出される角速度ωが所定の閾値以下になったか否かを判定する。本実施形態では、閾値として0.00065rad/sを設定してある。電圧指令切替部31は、揺動ミラー6の角速度が所定の閾値以下になったと判定すると、制動電圧に替えて再び指令電圧V0を出力する。尚、閾値は、初期角度θ1や目標角度θ2、或いは移動量|θ2―θ1|の大きさになどに基づいて、角速度ωと制動電圧による減速割合との兼ね合いにより適宜設定すればよい。
【0040】
インバータ部22に再び指令電圧V0が出力されると、揺動ミラー6は、角速度が十分に小さい状態で目標角度θ2に向かって回転する。この場合、揺動ミラー6は、慣性により目標角度θ2近くまで回転していることから、揺動ミラー6の角速度の変化はごく僅かに抑えられる。即ち、揺動ミラー6は、角速度が0rad/sに近い状態で目標角度θ2に到達し、揺動ミラー6が目標角度θ2を大きく行き過ぎたりする振動が抑制される。
【0041】
このように、揺動ミラー6の角度及び角速度に応じて指令電圧V0と制動電圧とを切り替えて出力することにより、揺動ミラー6のオーバーシュートやアンダーシュートが抑制され、制振制御が可能となる。
【0042】
また、上記した0°から1°のような正の角度領域への回転だけでなく、0°から負の角度領域への回転の場合も同様な制御を行うことが可能である。さらに、揺動ミラー6が正の角度範囲において逆転する場合、例えばθ1からθ2(θ1>θ2)へ回転する場合などには、電圧指令切替部31は、制動電圧として、少なくともθ2に対応する指令電圧よりも高い電圧(一例として初期角度θ1に対応する指令電圧である5V)を設定すればよい。これにより、逆転する揺動ミラー6にその回転を妨げる向きの力が発生し、目標角度θ2に達する前に角速度を低下させることができる。勿論、負の角度領域において正転する場合(例えば、−5°から−3°への回転する場合)であっても、同様に揺動ミラー6の角速度を低下させることができる。
【0043】
図6は、揺動ミラー6の角度の変化を示す図である。破線のグラフG3は、制振制御を行わない場合の角度の変化を示し、実線のグラフG4は制振制御を行った場合の角度の変化を示している。制御装置30により上記した制振制御を行った場合には、グラフG4に示すように、揺動ミラー6の角度は、オーバーシュート及びアンダーシュートが小さくなるとともに、許容範囲内に迅速に収束している。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、揺動ミラー6の角度θが目標角度θ2までの範囲のうち所定の角度範囲に達したときに指令電圧V0に替えて制動電圧を出力し、揺動ミラー6の角速度が閾値以下になったときに制動電圧に替えて再び指令電圧V0を出力する。これにより、揺動ミラー6は目標角度θ2に到達する前に十分に減速され、目標角度θ2を大きく行き過ぎたりすることがない。従って、揺動ミラー6の振動を抑制することができる。
【0045】
電圧指令切替部31を指令電圧V0と制動電圧とを切り替える簡単な構成とすることにより、コストの増加を招くことなく、振動抑制効果を得ることができる。また、電圧指令切替部31を指令電圧発生部21とともにマイクロコンピュータで構成したので、追加の回路部品も必要としない。
制振制御をマイクロコンピュータで行っているので、温度により特性が変化するシリコンゲルなどの減衰部材を設ける必要がない。従って、第1実施形態と同様に、使用状況(温度、湿度など)によらず安定した制振特性を得ることができる。また、
【0046】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態によるガルバノミラーの位置制御装置を、図7から図9を参照して説明する。第3実施形態は、揺動ミラーの角度をコイルに流れる電流から算出している点が第1実施形態と異なっている。尚、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0047】
図7は、制御装置40のブロック構成図である。制御装置40は、電圧指令発生部21、インバータ部22、フィルタ部25、補正電圧生成部26、電圧補正部27、電流検出部41、角速度検出部42を備えている。電流検出部41は、抵抗値Rのシャント抵抗41aとマイクロコンピュータに設けられた演算器41bとを備えている。電流検出部41は、コイル9に電流Iが流れたときにシャント抵抗41aに生じる電位差Eから、電流I=E/Rを検出し、角速度検出部42に出力する。
【0048】
図8は、角速度検出部42の詳細な構成を示すブロック構成図である。角速度検出部42は、トルク算出器43、反力算出器44、粘性力算出器45を備えている。トルク算出器43は、電流Iに揺動ミラー6のトルク定数Ktを乗算することにより発生トルクTを算出する。反力算出器44は、前回算出した角度θ0にトーションバー11のばね定数Krを乗算することにより反力Frを算出する。粘性力算出器45は、前回演算した角速度ω0に揺動ミラー6を含む可動部の粘性係数Kvを乗算することにより粘性力Fvを算出する。ここで、「前回算出した角度」と「前回算出した角速度」は、直前の演算周期において算出された角度と角速度を意味している。
【0049】
各算出器43〜45で算出された発生トルクT、反力Fr、粘性力Fvの関係は、揺動ミラー6の慣性モーメントをJ、角加速度をαをとした場合、以下の運動方程式で表される。
J・α=T−Fr−Fv
角速度検出部42は、加減算器46及び除算器47を備えており、上記の運動方程式から揺動ミラー6の角加速度αをα=(T−Fr−Fv)/Jとして算出する。この角加速度αを積分器48で積分することにより、揺動ミラー6の角速度ωが算出される。角速度検出部42は、算出した角速度ωをフィルタ部25に出力するとともに、角速度ωを積分器49で積分することにより角度θを算出する。
【0050】
制御装置40は、角速度ωが検出されると、フィルタ部25で移動平均を求め、比例ゲインGを乗算して補正電圧V1を算出し、電圧補正部27で指令電圧V0から補正電圧V1を減算して、インバータ部22に補正された指令電圧V2を出力する制振制御を行う。
【0051】
図9は、電流Iから算出された角速度ωに基づいた制振制御を行った場合の角度の変化を示す図である。破線のグラフG5は、制振制御を行わない場合の角度の変化を示し、実線のグラフG6は制振制御を行った場合の角度の変化を示している。制御装置40により上記した制振制御を行った場合には、グラフG6に示すように、揺動ミラー6の角度は、オーバーシュート及びアンダーシュートが抑制されるとともに、許容範囲内に収束するまでにかかる時間(整定時間)も短縮されている。
【0052】
このように、コイル9に流れる電流Iによって算出された角速度ωに基づいた場合でも、第1実施形態と同様に揺動ミラー6の振動を低減することができる。
特に、本実施形態では、揺動ミラー6の角速度ωの検出を、外部の角度検出部ではなく、指令電圧発生部21等を構成するマイクロコンピュータで行っているので、検出時の演算或いは信号伝達経路による遅延などが抑制される。そのため、揺動ミラー6の実際の角度と検出された角度(演算後の角度)との誤差が低減され、揺動ミラー6の正確な検出角度及び角速度に基づいて制御を行うことができる。また、角度検出部を設ける必要がないので、コストの増加を招くことがない。
【0053】
(その他の実施形態)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば以下のように変形または拡張することができる。
【0054】
トーションバー11、保持部8a及び支持部8bを一体に形成してもよい。
インバータ部22は、PWM制御ではなく、例えばPAM制御によりコイル9に印加する電圧を制御するなど、他の制御方法で構成してもよい。また、Hブリッジ回路に限らず、揺動ミラー6を正転側/逆転側に回転させることができる回路構成としてもよい。
【0055】
インバータ制御回路22bを、指令電圧発生部21などを構成するマイクロコンピュータで兼用してもよい。
角速度検出部23、フィルタ部25、補正電圧生成部26、電圧補正部27は、オペアンプなどのハードウェアで構成してもよい。
【0056】
第1実施形態において、固定された比例ゲインGに限らず、角速度ωの大きさに応じてその値が変化するような種々のゲインを乗算するようにしてもよい。
第1及び第3実施形態において、フィルタ部25(ローパスフィルタ)は必須ではない。
【0057】
第2実施形態において、制御装置30に電流検出部を設け、コイル9に流れる電流Iから揺動ミラー6の角度θを算出する構成としてもよい。
第2実施形態において、制動電圧は0Vや5Vに限定されない。例えば、揺動ミラー6の角度と指令電圧との対応が、0°のとき0V、3°のとき3V、5°のとき5Vのような関係である場合、例えば0°から3°への回転であれば1Vを制動電圧として出力してもよい。或いは、5°から2°への回転であれば4Vを制動電圧として出力してもよい。即ち、制動電圧としては、揺動ミラー6の回転の方向に応じて、揺動ミラー6の現在の角度θよりも回転方向に対して逆方向に位置する角度に対応した指令電圧値などの他の電圧を適宜設定してもよい。
【0058】
第2実施形態において、所定の角度範囲の境界値として設定する角度は、目標角度θ2までの1/2の角度に限らず、回転量Δθ(θ2−θ1)のうち所定割合移動した角度、或いは目標角度θ2までの残りが所定の角度などに設定してもよい。また、境界値を固定ではなく可変とする構成としてもよい。例えば、角度0°から1°に回転する場合と、角度4°から角度5°に回転する場合とでは、回転量Δθは同じ1°であるものの、トーションバー11による反力が異なる。そのため、初期角度θ1の値に応じて、或いは回転量Δθの大きさに応じて、境界値として設定する角度を変化させるようにしてもよい。
【0059】
第3実施形態において、電流検出部41を電流センサなどで電流値を直接検出する構成としてもよい。尚、反力Frを算出する場合には、板バネ8のばね定数も考慮することが望ましい。
【0060】
シャント抵抗41aをコイル9に直列に接続したが、シャント抵抗41aをHブリッジ回路の下アームのスイッチング素子Q2、Q4のソース端子側に直列に接続するなどの構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
図面中、1はガルバノミラー、5は磁石、6は揺動ミラー、7は反射鏡、8は板バネ(弾性支持部材)、9はコイル、11はトーションバー(弾性支持部材)、20、30、40は制御装置(位置制御装置)、21は指令電圧発生部(指令電圧生成手段)、22はインバータ部(電圧出力手段)、23、42は角速度検出部(角速度検出手段)、24は角度検出部(角度検出手段)、25はフィルタ部(ローパスフィルタ)、26は補正電圧生成部(補正電圧生成手段)、27は電圧補正部(電圧補正手段)、31は電圧指令切替部(電圧指令切替手段)、41は電流検出部(電流検出手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射鏡とコイルを有し弾性支持部材によって支持された揺動ミラーと、前記コイルに磁界が及ぶように固定配置された磁石とを備えたガルバノミラーの位置制御装置において、
前記揺動ミラーの目標角度と前記コイルに印加する指令電圧との関係を予め規定しており、入力された目標角度に対応した指令電圧を出力する指令電圧生成手段と、
前記揺動ミラーの角速度を検出する角速度検出手段と、
前記検出された角速度にゲインを乗じることにより前記角速度に応じた補正電圧を生成する補正電圧生成手段と、
前記指令電圧生成手段から出力された指令電圧から前記補正電圧を減じることにより補正された指令電圧を得る電圧補正手段と、
前記補正された指令電圧に従って前記コイルに電圧を印加する電圧出力手段と、
を備えていることを特徴とするガルバノミラーの位置制御装置。
【請求項2】
前記角速度検出手段と前記補正電圧生成手段との間に前記検出された角速度に対するローパスフィルタを備えていることを特徴とする請求項1記載のガルバノミラーの位置制御装置。
【請求項3】
前記揺動ミラーの角度を検出する角度検出手段を備え、
前記角速度検出手段は、前記検出された角度を微分することにより前記揺動ミラーの角速度を検出することを特徴とする請求項1又は2記載のガルバノミラーの位置制御装置。
【請求項4】
反射鏡とコイルを有し弾性支持部材によって支持された揺動ミラーと、前記コイルに磁界が及ぶように固定配置された磁石とを備えたガルバノミラーの位置制御装置において、
前記揺動ミラーの目標角度と前記コイルに印加する指令電圧との関係を予め規定しており、入力された目標角度に対応した指令電圧を出力する指令電圧生成手段と、
前記指令電圧に基づいてスイッチング動作をすることにより、前記コイルに対し前記指令電圧に応じた電圧を出力する電圧出力手段と、
前記揺動ミラーの角速度を検出する角速度検出手段と、
前記揺動ミラーの角度を検出する角度検出手段と、
前記揺動ミラーに対し新たな目標角度が設定された場合に、前記指令電圧に基づいて前記新たな目標角度に向かって回転する前記揺動ミラーを減速させるための制動電圧を設定し、前記検出された角度が前記新たな目標角度に対して所定の範囲内に達したときに前記指令電圧に替えて前記制動電圧を前記電圧出力手段に出力し、前記検出された角速度が所定の閾値以下になったときに前記制動電圧に替えて前記指令電圧を前記電圧出力手段に出力する電圧指令切替手段と、
を備えていることを特徴とするガルバノミラーの位置制御装置。
【請求項5】
前記コイルに流れる電流を検出する電流検出手段を備え、
前記角速度検出手段は、前記電流検出手段により検出された電流に前記揺動ミラーのトルク定数を乗算することにより現在の発生トルクを算出し、前回算出した角度に前記弾性支持部材のばね定数を乗算することにより反力を算出し、前回算出した角速度に前記揺動ミラーを含む可動部の粘性係数を乗算することにより粘性力を算出し、前記現在の発生トルクから前記反力及び前記粘性力を減算した値を前記揺動ミラーの慣性モーメントで除することにより現在の角加速度を算出し、前記現在の角加速度を積分することにより現在の角速度を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のガルバノミラーの位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−224369(P2010−224369A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73655(P2009−73655)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】