説明

キナーゼカスケードを調節するための組成物および方法

本発明は、N‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド(KX2‐391)の組成物と、キナーゼカスケードの1つ以上の構成要素を調節するための方法とに関する。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素のモジュレーションにおいて有用である。いくつかの化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの2つ以上の構成要素のモジュレーションにおいて有用であり得る。本発明の化合物は、医薬品として有用である。本発明の化合物は、正常な細胞シグナル伝達経路(例、細胞増殖、分化、生存、接着、移動等)に関与する可能性があるキナーゼ、または病気もしくは疾患に関与するキナーゼの調節を調節するのに有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2006年12月28日に出願された米国仮特許出願第60/877,762号に対する優先権を主張する。この開示は、その全体が参考として援用される。
本発明は、実質的に純粋なN‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド(KX2‐391)、およびその塩の合成のための組成物およびプロセスに関する。本発明は、そのような組成物の使用の方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
シグナル伝達は、それによって、ある細胞が1種類のシグナルまたは刺激を別のものに変換するあらゆるプロセスである。シグナル伝達と呼ばれるプロセスは、酵素によって行われセカンドメッセンジャーを介してつながる、細胞内部の一連の生化学的反応を伴うことが多い。多くの伝達プロセスでは、最初の刺激から生じるイベントに関与するようになる酵素および他の分子の数は増加している。そのような場合、一連のステップは「シグナル伝達カスケード」または「セカンドメッセンジャー経路」と呼ばれ、大きな反応を誘発する小さな刺激をもたらすことが多い。シグナル伝達に関与する分子の1つのクラスは、酵素のキナーゼファミリーである。キナーゼの最も大きなグループはプロテインキナーゼであり、これらは特異的なタンパク質の活性に対して作用し、これを修飾する。これらは細胞内において、シグナルを伝達し、複雑なプロセスを制御するために広く用いられる。
【0003】
プロテインキナーゼは、酵素の大きなクラスであり、タンパク質およびペプチド中のSer/ThrまたはTyrの側鎖上でのATPからヒドロキシル基へのγ‐リン酸の転移を触媒し、各種の重要な細胞機能、恐らく最も注目に値するものとして:シグナル伝達、分化、および増殖の制御に深く関与する。人体には約2,000種類のプロテインキナーゼが存在すると推定され、これらはそれぞれ特定のタンパク質/ペプチド基質をリン酸化するものの、それらは全て高度に保存されたポケット内で同じ二次基質、ATPと結合する。プロテインホスファターゼは、リン酸の反対方向の移動を触媒する。
【0004】
チロシンキナーゼは、リン酸基をATPからタンパク質中のチロシン残基に転移することができる酵素である。キナーゼによるタンパク質のリン酸化は、酵素活性の調節に関するシグナル伝達における重要な機構である。チロシンキナーゼは2つのグループに分けられる:細胞質タンパク質であるグループおよび膜貫通受容体連結型キナーゼである。ヒトにおいては、32種類の細胞質タンパク質チロシンキナーゼと58種類の受容体連結型タンパク質チロシンキナーゼが存在する。細胞表面のチロシンキナーゼ連結型受容体に対して作用するホルモンおよび成長因子は、通常は成長促進性であり、細胞分裂を刺激するように働く(例、インスリン、インスリン様成長因子1、上皮増殖因子)。
【0005】
各種の既知のプロテインキナーゼまたはプロテインホスファターゼの阻害剤は、様々な治療用途がある。プロテインキナーゼまたはプロテインホスファターゼ阻害剤の有望な治療上の利用の可能性の1つは、抗癌剤としてのものである。既知の癌遺伝子産物の約50%はプロテインチロシンキナーゼ(PTK)であり、それらのキナーゼ活性が細胞形質転換をもたらすことが示されている。
【0006】
PTKは、2つのカテゴリー、膜受容体型PTK(例、成長因子受容体PTK)および非受容体型PTK(例、プロトオンコジーン産物のSrcファミリー)に分類可能である。非受容体型PTKのSrcファミリーの少なくとも9種類のメンバーが存在し、pp60c‐src(以後、単純に「Src」と呼ぶ)はファミリーのプロトタイプPTKであり、およそ300のアミノ酸触媒ドメインが高度に保存されている。Srcの過剰な活性化は、大腸、乳房、肺、膀胱、および皮膚の癌をはじめとする多くのヒトの癌だけでなく、胃癌、有毛細胞白血病、および神経芽細胞種において報告されている。膜貫通受容体(例、EGFRおよびp185HER2/Neu)から細胞内部への過剰に刺激された細胞増殖シグナルも、Srcを通るようである。結果として、多くの重要なヒトの腫瘍型で、腫瘍の発生、進行、および転移に過剰活性化(変異なし)が関わっていることから、Srcが癌治療の普遍的なターゲットであると近年提唱されている。
【0007】
幅広い種類の正常な細胞シグナル伝達経路(例、細胞増殖、分化、生存、接着、移動等)の調節にキナーゼが関与することから、キナーゼは様々な病気および疾患において役割を担うものと考えられる。故に、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションは、そのような病気および疾患を治療するまたは予防するための重要な手段であり得る。
【0008】
KX2‐391のスモールスケール合成は発表されている(特許文献1)。しかし、多量の化合物の産生にはこの合成は非実用的であり、得られる産物は、弱いアルキル化剤として知られる塩化エチルのコンタミネーションを被る。故に、塩化エチルが十分に高いレベルで存在すると、KX2‐391組成物の薬学的な有効性が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,300,931号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、安全かつ容易な、ラージスケールでKX2‐391を高収率で産生し、塩化エチルを実質的に含まない、高純度KX2‐391の合成のための組成物およびプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素のモジュレーションにおいて有用である。いくつかの化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの2つ以上の構成要素のモジュレーションにおいて有用であり得る。本発明の化合物は、医薬品として有用である。本発明の化合物は、正常な細胞シグナル伝達経路(例、細胞増殖、分化、生存、接着、移動等)に関与する可能性があるキナーゼ、または病気もしくは疾患に関与するキナーゼの調節を調節するのに有用であり得る。
【0012】
例えば、本発明の化合物によって調節されるキナーゼカスケードの構成要素(1つまたは複数)は、病気または疾患、例えば、過剰増殖性疾患、癌、前癌状態、骨粗しょう症、心臓血管疾患、免疫系機能障害、2型糖尿病、肥満、眼疾患、黄斑浮腫、慢性神経因性疼痛、聴力損失、および移植拒絶反応の発現に関与する。
【0013】
本発明の化合物は、チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気および疾患の治療において有用である。例えば、本発明の化合物は、Srcキナーゼによって調節される病気および疾患の治療において有用である。本発明の化合物は、焦点接着キナーゼ(FAK)によって調節される病気および疾患の治療においても有用であり得る。
【0014】
例えば、化合物は、哺乳類の治療、例えばヒトおよび動物の治療のための抗増殖剤として有用であってよい。化合物は、例えば、抗癌剤、抗血管新生剤、抗転移剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、および/または抗ウイルス剤として限定されずに使用されてよい。本発明の化合物は、例えば肺癌の治療において有用である。本発明の化合物は、例えば大腸癌の治療においても有用である。本発明の化合物は、例えば乳癌の治療においても有用である。
【0015】
本発明は、実質的に純粋なN‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド(化合物1)、およびその塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグに関する:
【0016】
【化1】

【0017】
本発明は、安全かつ容易で、ラージスケール(>100g)でKX2‐391を高収率(>80%)で産生し、限られた塩化エチルを有する(ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残存溶媒解析による判定で<250ppm)、高純度KX2‐391(HPLCによる判定で>98.0%)の合成のための組成物およびプロセスに関する。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の組成物中の化合物1は、98%を超える純度を持つ。例えば、本発明の組成物中の化合物1の純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%である。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および製剤は、2%未満の不純物を含有する。例えば、本発明の組成物および製剤は、2%未満の下記の不純物のいずれか1つ、またはそれらの組み合わせを含有する:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウム。
【0020】
他の好ましい実施形態では、組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残存溶媒解析によって判定される、250ppm未満の塩化エチルを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約250ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の塩化エチルを含有する。例えば、組成物は、200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満の塩化エチルを含有する。
【0021】
本発明の化合物および製剤は、約100ppm未満のパラジウムを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約100ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のパラジウムを含有する。例えば、組成物は、75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満のパラジウムを含有する。
【0022】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の溶媒和物を含む組成物に関する。
【0023】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の水和物を含む組成物にも関する。
【0024】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の酸付加塩も含む。例えば、塩酸塩である。酸付加塩は、例えば二塩酸塩でありうる。
【0025】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の酸付加塩を含む組成物に関する。
【0026】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の塩酸塩を含む組成物に関する。
【0027】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の二塩酸塩を含む組成物に関する。
【0028】
本発明は、化合物1のプロドラッグも含む。
【0029】
本発明は、実質的に純粋な、化合物1の薬学的に許容される塩も含む。
【0030】
本発明は、実質的に純粋な化合物1、またはその溶媒和物、水和物、もしくは塩と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物にも関する。
【0031】
本発明は、キナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素を調節するための、そのような実質的に純粋な化合物および組成物の使用にも関する。いくつかの化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの2つ以上の構成要素のモジュレーションに有用であってよい。本発明の化合物は医薬品として有用である。
【0032】
本発明の特定の化合物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤である。
【0033】
本発明は、細胞増殖性疾患を治療するための化合物と化合物を使用する方法とに関する。
【0034】
本発明は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することによって、細胞増殖性疾患を予防または治療する方法も含む。
【0035】
例えば、細胞増殖性疾患は前癌状態または癌である。本発明の化合物によって治療または予防される細胞増殖性疾患は、癌、例えば大腸癌または肺癌であってよい。
【0036】
本発明の化合物によって治療または予防される細胞増殖性疾患は、過剰増殖性疾患であってよい。
【0037】
本発明の化合物によって治療または予防される細胞増殖性疾患は、乾癬であってよい。
【0038】
例えば、増殖性疾患の治療または予防は、チロシンキナーゼの阻害を通じて生じてよい。例えば、チロシンキナーゼはSrcキナーゼまたは焦点接着キナーゼ(FAK)でありうる。
【0039】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気または疾患を、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を投与することによって治療または予防する方法に関する。例えば、チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気または疾患は、癌、前癌状態、過剰増殖性疾患、または微生物感染である。
【0040】
本発明の医薬組成物は、キナーゼ経路を調節してよい。例えば、キナーゼ経路は、Srcキナーゼ経路、または焦点接着キナーゼ経路である。
【0041】
本発明の医薬組成物は、キナーゼを直接調節してよい。例えば、キナーゼは、Srcキナーゼ、または焦点接着キナーゼである。
【0042】
本発明の特定の医薬組成物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤である。
【0043】
本発明の化合物は、微生物感染、例えば細菌、真菌、寄生虫、またはウイルス感染を治療または予防するのにも有用である。
【0044】
本発明の化合物は医薬品として使用されてよい。例えば、本発明の化合物は、抗増殖剤として、ヒトおよび/または動物の治療、例えばヒトおよび/または他の哺乳類の治療のために用いられる。化合物は、例えば、抗癌剤、抗血管新生剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、および/または抗ウイルス剤として限定されずに使用されてよい。さらに、化合物は、その他の細胞増殖関連疾患、例えば糖尿病性網膜症、黄斑変性、および乾癬に使用されてよい。抗癌剤には、抗転移剤が含まれる。
【0045】
医薬品として使用される本発明の化合物には、実質的に純粋な化合物1、およびその塩、溶媒和物、水和物が含まれる。
【0046】
本発明の一態様では、本発明の化合物、例えば本発明の化合物はキナーゼカスケードを調節するために使用される。例えば、化合物は、病気または疾患の発現の原因となるキナーゼカスケードの構成要素を調節するために使用される。
【0047】
そのような病気および疾患には、癌、骨粗しょう症、心臓血管疾患、免疫系機能障害、2型糖尿病、肥満、および移植拒絶反応が含まれる。
【0048】
例えば、本発明の化合物は、対象における細胞増殖性疾患を治療または予防するために使用されてよい。本実施形態の一態様では、細胞増殖性疾患は、前癌状態または癌である。本実施形態の別の態様では、細胞増殖性疾患は過剰増殖性疾患である。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、キナーゼの阻害を通じて生じる。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、チロシンキナーゼの阻害を通じて生じる。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、Srcキナーゼまたは焦点接着キナーゼ(FAK)の阻害を通じて生じる。別の実施形態では、対象は哺乳類である。一実施形態では、対象はヒトである。
【0049】
本発明は、対象における癌または増殖性疾患を治療または予防する方法にも関し、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む効果的な量の組成物の投与を含む。例えば、本発明の化合物はキナーゼ阻害剤であってよい。本発明の化合物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤であってよい。本発明の化合物は、キナーゼを直接阻害してよい、または本発明の化合物はキナーゼ経路に作用してよい。
【0050】
本発明の別の態様は、対象における聴力損失を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。一実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼに結合しているATPを阻害しない。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。一実施形態では、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0051】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、例えば、点耳剤を耳の中に投与することによって、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。別の実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0052】
一実施形態では、化合物は、聴力損失発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は聴力損失発症後に投与される。
【0053】
一実施形態では、化合物は、聴力損失を引き起こす薬、例えばシスプラチンまたはアミノグリコシド系抗生物質と組み合わせて投与される。別の実施形態では、化合物は、有毛細胞を標的する薬と組み合わせて投与される。
【0054】
本発明の別の態様は、対象における骨粗しょう症を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0055】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、骨粗しょう症発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は骨粗しょう症発症後に投与される。
【0056】
本発明の別の態様は、対象における眼疾患、例えば黄斑変性症、網膜症、黄斑浮腫等を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。別の実施形態では、化合物はVEGF経路における1つ以上の構成要素を阻害する。
【0057】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に(例、点眼薬を眼に投与することによって)、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、眼疾患発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は眼疾患発症後に投与される。
【0058】
本発明の別の態様は、対象における糖尿病を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0059】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、糖尿病発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は糖尿病発症後に投与される。
【0060】
本発明の別の態様は、対象における肥満を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0061】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、対象が肥満になる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、対照が肥満になった後に投与される。
【0062】
本発明の別の態様は、対象における脳卒中を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0063】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、脳卒中が起こる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、脳卒中が起こった後に投与される。
【0064】
本発明の別の態様は、対象におけるアテローム性動脈硬化症を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0065】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0066】
本発明の別の態様は、対象における免疫系の活性を調節する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0067】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0068】
本発明の別の態様は、対象における慢性神経因性疼痛を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0069】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、慢性神経因性疼痛発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は、慢性神経因性疼痛発症後に投与される。
【0070】
本発明の別の態様は、対象におけるB型肝炎を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0071】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、B型肝炎発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は、B型肝炎発症後に投与される。
【0072】
本発明の別の態様は、細胞増殖性疾患を予防するまたは治療する方法であり、この方法は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグを含む組成物の、それを必要とする対象への投与を含む。一実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。別の実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。別の実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼに結合しているATPを阻害しない。一実施形態では、化合物はSrcファミリープロテインキナーゼを阻害する。別の実施形態では、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0073】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気または疾患を治療または予防する方法に関し、増殖性疾患は、癌、前癌状態、過剰増殖性疾患、および微生物感染から選択される。
【0074】
例えば、微生物感染は、細菌、真菌、寄生虫、またはウイルス感染である。別の例では、増殖性疾患は、乾癬、糖尿病性網膜症、および黄斑変性症から選択される過剰増殖性疾患である。特定の例では、増殖性疾患は癌である。例えば、癌は、固形腫瘍、例えば肺、乳房、大腸、卵巣、脳、肝臓、膵臓、または前立腺の癌、悪性黒色腫、または黒色腫以外の皮膚癌でありうる。特定の例では、癌は、乳癌、大腸癌、または肺癌である。特定の例では、癌は血液腫瘍、血液悪性疾患、小児白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ球または皮膚起源のリンパ腫、急性または慢性白血病、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、形質細胞腫、リンパ系腫瘍、またはAIDSに併う癌である。
【0075】
いくつかの例では、増殖性疾患は、表皮嚢腫、皮様嚢腫、脂肪腫、腺腫、毛細血管腫、皮膚血管腫、リンパ管腫、母斑病変、奇形腫、腎腫、筋線維腫症、骨形成性腫瘍、または異形成腫瘤である。
【0076】
本発明の特定の方法では、本発明の化合物で治療される対象はヒトである。
【0077】
上記の記述は、下記に続くその詳細な記述が理解されるように、また当該技術分野への今回の貢献がさらに認識されるように、本発明のより重要な特徴を広く説明するものである。本発明のその他の目的および特徴は、実施例とともに考慮される下記の詳細な記述から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】KX2‐391・2HClロット02BP111FのDSCを示すグラフである。
【図2】KX2‐391・2HClロット02BP111EのDSCを示すグラフである。
【図3】KX2‐391・2HClロット02BP111EのXRPDを示すグラフである。
【図4】KX2‐391・2HClロット02BP111FのXRPDを示すグラフである。
【図5】KX2‐391(ロット02BP096K)のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、下記に添付する記述において説明する。本明細書で説明するものと類似するまたは同等のあらゆる方法および材料を本発明の実施または検査において使用できるが、好ましい方法および材料をここで説明する。本発明のその他の特徴、目的、および利点は記述から明らかになるであろう。本明細書では、文脈による明らかな別段の指示がない限り、単数形には複数形も含まれる。別段の定めがない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持つ。疑義が生じた場合は、本明細書が優先される。本明細書で言及する全ての出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その開示内容全体が参考として本明細書で援用される。
【0080】
幅広い種類の正常な細胞シグナル伝達経路(例、細胞増殖、分化、生存、接着、移動等)の調節にキナーゼが関与することから、キナーゼは様々な病気および疾患において役割を担うと考えられる。故に、キナーゼシグナル伝達カスケードのモジュレーションは、そのような病気および疾患を治療または予防するための重要な手段であり得る。そのような病気および疾患には、例えば、癌、骨粗しょう症、心臓血管疾患、免疫系機能障害、2型糖尿病、肥満、および移植拒絶反応が含まれる。
【0081】
本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素のモジュレーションにおいて有用である。いくつかの化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの2つ以上の構成要素のモジュレーションに有用であってよい。用語「プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を調節する」は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素が、細胞の機能が変化するように影響を受けることを意味する。プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素には、セカンドメッセンジャーならびに上流および下流の標的を含む、キナーゼシグナル伝達経路に直接または間接的に関与するあらゆるタンパク質が含まれる。
【0082】
多くのプロテインキナーゼおよびホスファターゼが知られており、治療薬開発のターゲットである。例えば、それぞれ参考として本明細書で援用される、Hidaka and Kobayashi,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol,1992,32:377‐397、Davies et al.,Biochem.J.,2000,351:95‐105を参照されたい。
【0083】
キナーゼの1つのファミリーであるプロテインチロシンキナーゼは、2つの大きなファミリー:受容体型チロシンキナーゼ、すなわちRTK(例、インスリン受容体キナーゼ(IRK)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、塩基性線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR‐2またはFlk1/KDR)、および神経成長因子受容体(NGFR))および非受容体型チロシンキナーゼ、すなわちNRTK(例、Srcファミリー(Src、Fyn、Yes、Blk、Yrk、Fgr、Hck、Lck、およびLyn)、Fak、Jak、Abl、およびZap70)に分けられる。例えば、参考として本明細書で援用される、Parang and Sun,Expert Opin.Ther.Patents,2005,15:1183‐1207を参照されたい。
【0084】
様々な癌におけるSrcキナーゼの役割のため、これらのキナーゼは、高転移性の癌細胞増殖をはじめとする、癌治療薬としてのSrc阻害剤の開発に関する数多くの研究の対象となっている。例えば大腸癌、前癌性大腸病変、卵巣癌、乳癌、上皮性癌、食道癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、等の様々な癌に対する治療薬として、Src阻害剤が求められている。例えば、Frame,Biochim.Biophys.Acta,2002,1602:114‐130およびParang and Sun,Expert Opin.Ther.Patents,2005,15:1183‐1207を参照されたい。
【0085】
その他のキナーゼの阻害は、その他の種類の病気および疾患の治療およびモジュレーションに有用であり得る。例えば、各種の眼疾患は、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤の投与によって抑制または予防されるかもしれない。チロシンホスファターゼPTP‐1Bおよび/またはグリコーゲンホスホリラーゼの阻害剤は、2型糖尿病または肥満の治療をもたらすかもしれない。p56lckの阻害剤は、免疫系疾患の治療に有用であり得る。その他の標的には、HIV逆転写酵素、トロンボキサンシンターゼ、EGFRTK、p55 fyn等が含まれる。
【0086】
本発明の化合物は、Srcペプチド基質部位内で結合するSrcシグナル伝達阻害剤であってよい。本発明の各種化合物の活性は、c‐Src(527F、恒常的に活性で形質転換能を持つ)で形質転換したNIH3T3細胞およびヒト大腸癌細胞(HT29)において研究されている。例えば、これらの細胞株においては、KX2‐391が、用量依存的に、増殖阻害効果とよく相関して、既知のSrcタンパク質基質のリン酸化レベルを低下させることが示された。故に、いくつかの実施形態では、本発明の化合物は、直接Srcを阻害してよく、ペプチド結合部位中に結合することによって(アロステリック部位における結合とは対照的に)それを行ってもよい。
【0087】
本発明の化合物がモデルSrc基質部位に適合することを示す分子モデリング実験が実施されている(例えば、米国特許第7005445号および同第7070936号を参照)。その他のキナーゼを標的するために、分子上に存在する異なる側鎖のセットを単純に使用することによっておよび/または骨格そのものを修飾することによって、Srcキナーゼ阻害剤の骨格を再構成する目的でもモデリングが用いられる。
【0088】
理論に拘束されることなく、細胞内では多くのキナーゼが多タンパク質シグナル伝達複合体中に埋まっているため、細胞外でのいくつかのキナーゼ(例、Src)の配座は、細胞内での配座と比べて著しく異なると考えられている。故に、分離されたキナーゼ内ではペプチド基質結合部位がきちんと形成されないため(SrcのX線構造で示されるように)、ペプチド基質結合阻害剤の、分離されたキナーゼに対する活性は弱くなるであろうと考えられている。分離キナーゼのアッセイにおけるこの部位への結合では、細胞内部に存在する配座と同じ、分離酵素アッセイ中に存在する全タンパク質の非常に少ない割合を阻害剤が捕らえる必要がある。これは、検出可能となるために、アッセイ中の触媒サイクルから著しい量の酵素を除くための大過剰量の阻害剤を必要とする。
【0089】
しかし、細胞ベースのアッセイでは、ペプチド結合部位が形成されることが予想されるため過剰量の阻害剤は必要ではない。細胞ベースのSrcアッセイでは、ペプチド基質結合部位が完全に形成されるように、SH2&SH3ドメイン結合タンパク質によってSrcコンホメーションがすでにシフトされている。故に、全ての酵素が堅固な結合配座状態にあるため、低濃度の阻害剤で触媒サイクルから酵素を除くことができる。
【0090】
大部分の既知のキナーゼ阻害剤はATP競合型であり、分離キナーゼアッセイのパネルにおいて低い選択性を示す。しかし、本発明の化合物の多くはペプチド基質結合阻害剤であると考えられる。故に、分離酵素、例えばSrcに対する化合物の伝統的なハイスループットスクリーニングは、本発明の化合物の発見にはつながらないであろう。
【0091】
重篤な毒性を引き起こすことなく、癌治療に対する広く有用なアプローチとしてpp60c‐src(Src)を標的することは、最近の多くの文献によって裏付けられている。例えば、EGF受容体PTKシグナル伝達の上昇を示す腫瘍、または関連するHer‐2/neu受容体を過剰発現する腫瘍は、恒常的にSrcを活性化し、腫瘍浸潤性を高めている。これらの細胞におけるSrcの阻害は、増殖の停止を誘導し、アポトーシスを誘発し、形質転換された表現型を元に戻す(Karni et al.(1999)Oncogene 18(33):4654‐4662)。異常なSrc活性の上昇が、足場非依存的に形質転換細胞を増殖させることが知られている。これは明らかに、FAK/Src経路中のSrc活性を細胞外マトリックスシグナル伝達が細胞増殖シグナル伝達と協調して上昇させ、これによって、通常であれば活性化されているはずのアポトーシス機序をブロックするという事実に起因している。結果として、細胞外マトリックスからの遊離の際に通常であれば活性化されているはずのアポトーシス機序が誘発されるであろうことから、腫瘍細胞中のFAK/Src阻害は、アポトーシスを誘導する可能性がある(Hisano,et al.,Proc.Annu.Meet.Am.Assoc.Cancer Res.38:A1925(1997))。さらに、Src阻害の際にVEGFmRNA発現の低下が認められ、これらのSrc阻害細胞株由来の腫瘍は血管新生の発達の低下を示した(Ellis et al.,Journal of Biological Chemistry 273(2):1052‐1057(1998))。
【0092】
例えば、マウスにおいてSrc遺伝子をノックアウトすると、わずか1つの欠陥、つまり、波状縁を形成できず、結果的に骨を吸収しない破骨細胞がもたらされる。しかし、これらのマウスにおける破骨細胞の骨吸収機能は、キナーゼ欠損Src遺伝子を挿入することによって回復した(Schwartzberg et al.,(1997)Genes&Development 11:2835‐2844)。これは、Srcタンパク質の存在が、破骨細胞の必須シグナル伝達複合体中の他のPTK(破骨細胞機能の維持に不可欠である)を動員し活性化させるのに明らかに十分であるために、唯一知られている毒性を引き起こすことなく、in vivoにおいてSrcキナーゼ活性が阻害されうることを示唆していた。
【0093】
Srcは、ますます多くのヒトの腫瘍において過剰に活性化されていることが見出されて以来、癌治療の「普遍的な」標的であると提唱されている(Levitzki,Current Opinion in Cell Biology,8,239‐244(1996)、Levitzki,Anti‐Cancer Drug Design,11、175‐182(1996))。癌治療にとってのSrc阻害の利点の可能性としては、自己分泌増殖因子のループ効果によって生じる無制限の細胞増殖の4倍の阻害、細胞マトリックスからの遊離の際のアポトーシスの誘発による転移の阻害、VEGFレベルの低下を介した腫瘍血管形成の阻害、および低い毒性であるように思われる。
【0094】
前立腺癌細胞は、パキシリンおよびp130cas両方の過剰発現があると報告されており、高度にリン酸化されており(Tremblay et al.,Int.J.Cancer,68,164‐171,1996)、故にSrc阻害の第1の標的であってよい。
【0095】
故に、本発明は、細胞増殖性疾患を治療するための化合物と化合物を使用する方法とに関する。
【0096】
本発明の化合物は、医薬品として、例えばヒトおよび動物を治療するための医薬品として有用である。化合物は、例えば、抗癌剤、抗血管新生剤、抗転移剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、および/または抗ウイルス剤として制限なく使用されてよい。化合物は、その他の細胞増殖関連疾患、例えば乾癬に用いられてよい。
【0097】
本明細書で説明されるように、本発明の化合物は、対象における聴力損失を防ぐまたは予防するために使用されてよい。聴力損失を防ぐために、化合物は、騒音暴露または聴力損失を誘発する薬物への暴露の前に投与されてよい。そのような薬物には、化学療法薬(例、有毛細胞を標的する白金ベースの薬剤)およびアミノグリコシド系抗生物質が含まれてよい。本発明の化合物は、特定の癌治療薬との協力効果をもたらしてよい。例えば、特に、その他既知の抗癌薬との協力効果を探索するために、有望な阻害剤がヒト原発腫瘍組織アッセイにおいてスクリーニングされうる。さらに、プロテインキナーゼ阻害剤は、特定の癌治療薬(例、蝸牛および腎臓に対して毒性を有する白金ベースの薬剤)の毒性を低下させ、それによって投与量の増加が可能となるかもしれない。
【0098】
あるいは、本発明の化合物は、対象における聴力損失を治療するために使用されてよい。この実施形態では、化合物は、聴力損失のレベルを低下させるため、聴力損失発症後に対象に投与される。本発明の化合物は、キナーゼカスケード、例えば、キナーゼ阻害剤、非ATP競合型阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、Src阻害剤、または焦点接着キナーゼ(FAK)モジュレーターの調節に関与してよい。理論に拘束されるものではないが、キナーゼ阻害剤の投与が、蝸牛有毛細胞のアポトーシスを阻止し、それによって聴力損失を防ぐと考えられている。一実施形態では、本発明の化合物の投与は、さらなる聴力損失を防ぐために、聴力損失に罹患している対象に対して行われる。別の実施形態では、本発明の化合物の投与は、失われた聴力を回復させるために聴力損失に罹患している対象に対して行われる。特に、騒音暴露後、蝸牛有毛細胞間の堅固な細胞接合だけでなく、細胞‐細胞外マトリックス相互作用も損傷およびストレスを受ける。これらの堅固な細胞接合にストレスが加わると、チロシンキナーゼが分子スイッチとして働く複雑なシグナル伝達経路を介して細胞におけるアポトーシスが始まり、焦点接着キナーゼと相互作用して細胞‐マトリックス破壊のシグナルを核に伝える。キナーゼ阻害剤の投与が、このカスケードにおけるアポトーシスの開始を防ぐと考えられている。
【0099】
騒音に暴露された蝸牛におけるアポトーシスの確認は、騒音性聴力損失(NIHL)の予防に対して数多くの新たな可能性を生みだした(Hu,et al.;2000,Acta.Otolaryngol.,120,19‐24)。例えば、耳の正円窓への抗酸化薬の投与によって、耳がNIHLから保護されうる(Hight,et al.;2003,Hear.Res.,179,21‐32、Hu,et al.;Hear.Res.113,198‐206)。具体的には、FDAに認可された抗酸化化合物(N‐L‐アセチルシステイン(L‐NAC)およびサリチル酸塩)のチンチラへの投与によってNIHLが低下している(Kopke,et al.;2000,Hear.Res.,149,138‐146)。さらに、最近ではHarrisらが、Src‐PTK阻害剤によるNIHLの予防を述べている(Harris,et al.;2005,Hear.Res.,208,14‐25)。故に、キナーゼの活性を調節する本発明の化合物の投与が、聴力損失の治療に有用であるとの仮説が立つ。
【0100】
細胞接着の変化または細胞ストレスは、インテグリンの活性化を通じて、およびチロシンキナーゼのSrcファミリーをはじめとするPTKのリン酸化を通じて様々なシグナルを活性化しうる。Srcの相互作用は、細胞骨格を修飾し、細胞の生存および遺伝子転写を調節する様々なプロテインキナーゼカスケードを活性化する、シグナル伝達経路と関連付けられている(Giancotti and Ruoslahti;1999,Science,285,1028‐1032でレビューされている)。実際、激しい騒音暴露後に細胞基底部で剥離した外有毛細胞(OHC)が、アポトーシス性の細胞死に至ったことを最近の結果は示している。具体的には、蝸牛の感覚細胞において代謝的および機械的に誘発されたアポトーシスの開始に、Src PTKシグナル伝達カスケードが関与すると考えられている。最近の研究では、Src阻害剤は、4時間にわたる106dBでの4kHzオクターブ帯域の騒音からの保護をもたらし、これは、騒音暴露後の外有毛細胞においてSrc‐PTKが活性化される可能性を示唆している(Harris,et al.;2005,Hear.Res.,208,14‐25)。故に、Srcの活性を調節する本発明の化合物は、聴力損失の治療において有用である。
【0101】
本発明は、対象における骨粗しょう症を防ぐまたは治療するための方法に関する。この方法は、骨粗しょう症を防ぐまたは治療するために、効果的な量の本発明の化合物を対象に投与するステップを伴う。骨粗しょう症を防ぐために、化合物は、骨粗しょう症の進行前に投与されてよい。あるいは化合物は、対象における骨粗しょう症を治療するために使用されてよい。この実施形態では、骨粗しょう症のレベルを低下させるため、骨粗しょう症発症後に対象に化合物が投与される。
【0102】
本発明の化合物は、例えば非ATP競合型阻害剤でありうる。本発明の化合物は、選択される特定の側鎖および足場修飾に応じて、キナーゼシグナル伝達カスケードを調節できる。本発明の化合物は、キナーゼ阻害剤でありうる。例えば、化合物は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)阻害剤でありうる。プロリンリッチチロシンキナーゼ(PYK2、細胞接着キナーゼβ、関連接着斑チロシンキナーゼ、またはカルシウム依存性チロシンキナーゼとしても知られる)および焦点接着キナーゼ(FAK)は、様々な細胞外刺激によって調節される非受容体型プロテインチロシンキナーゼの異なるファミリーのメンバーである(Avraham,et al.;2000,Cell Signal.,12,123‐133、Schlaepfer,et al.;1999,Prog.Biophys.Mol.Biol.,71,435‐478)。本発明の化合物はSrc阻害剤でありうる。破骨細胞機能の欠如のために、Src欠損がマウスにおける骨粗しょう症と関連があることが示されている(Soriano,et al.;1991,Cell,64,693‐702)。あるいは、本発明の化合物は、インターロイキン‐1受容体関連キナーゼM(IRAK‐M)の発現を調節できる。IRAK‐Mを欠くマウスは、重篤な骨粗しょう症を発症し、これは破骨細胞の分化の促進、破骨細胞の半減期の増加、およびそれらの活性化と関連がある(Hongmei,et al.;2005,J.Exp.Med.,201,1169‐1177)。
【0103】
多核化破骨細胞は、単核食細胞が融合することで生じ、骨の吸収を介して骨の成長およびリモデリングにおいて主要な役割を担う。破骨細胞は石灰化マトリックスを分解する、多核の最終分化細胞である。正常な骨組織では、骨芽細胞による骨の形成と破骨細胞による骨の吸収の間にバランスが存在する。この動的な高度に調節されたプロセスのバランスが崩れるとき、骨の吸収が骨の形成を上回り、骨の量的な損失をもたらしうる。骨の成長およびリモデリングに破骨細胞が欠かせないことから、それらの数および/または活性の増加は、全身の骨の損失を伴う病気(例、骨粗しょう症)および局所的な骨の損失を伴うその他もの(例、関節リウマチ、歯周病)につながる。
【0104】
破骨細胞および骨芽細胞はともに、プロテインキナーゼが関わる数多くの細胞シグナル伝達経路に指令を出す。破骨細胞の活性化は、骨への接着、細胞骨格再構築、明帯の形成、および極性化した波状の膜の形成によって始まる。プロテイン‐チロシンキナーゼ2(PYK2)は、それが破骨細胞内の接着で開始されたシグナル伝達によってチロシンリン酸化され、活性化されることから、細胞表面から細胞骨格へのシグナルの伝達に参加すると考えられている(Duong,et al.;1998,J.Clin.Invest.,102,881‐892)。最近のエビデンスでは、PYK2タンパク質レベルの低下が、in vitroでの破骨細胞形成および骨の吸収の阻害をもたらすことが示唆されている(Duong,et al.;2001,J.Bio.Chem.,276,7484‐7492)。従って、PYK2またはその他のプロテインチロシンキナーゼの阻害は、破骨細胞の形成および骨の吸収を低下させることによって、骨粗しょう症のレベルを低下させる可能性がある。故に、理論に拘束されることなく、本発明の化合物の投与が、キナーゼ(例、PTK)活性を調節し、従って破骨細胞の形成および/または骨の吸収の阻害をもたらし、これによって骨粗しょう症を治療するとの仮説が立つ。
【0105】
Srcチロシンキナーゼは、Srcノックアウトマウス研究およびin vitro細胞実験によって確認されているように、骨疾患に対する有望な治療標的として注目されており、破骨細胞(ポジティブ)および骨芽細胞(ネガティブ)両方におけるSrcに対する調節的役割が示唆されている。破骨細胞では、Srcは、各種のシグナル伝達経路、特にサイトカインおよびインテグリンシグナル伝達を仲介することによって、運動性、極性化、生存、活性化(波状縁形成)、および接着において重要な役割を果たしている(Parang and Sun;2005,Expert Opin.Ther.Patents,15,1183‐1207)。さらに、マウスにおけるsrc遺伝子の標的破壊は、他の組織または細胞に明らかな形態学的または機能的異常を示すことなく、骨の吸収の低下を特徴とする疾患である大理石骨病を誘発する(Soriano,et al.;1991,Cell,64,693‐702)。src−/−マウスの大理石骨病の表現型は、細胞自律的であり、正常では高レベルのSrcタンパク質を発現する成熟破骨細胞の異常に起因する(Horne,et al.;1991,Cell,119,1003‐1013)。破骨細胞の活動を誘発し骨芽細胞を抑制するSrcチロシンキナーゼの有効性を制限することによって、Src阻害剤が骨の分解を減らし、骨の形成を促進すると考えられる。破骨細胞は正常では高レベルのSrcを発現することから、Srcキナーゼ活性の阻害は骨粗しょう症の治療において有用である可能性がある(Missbach,et al.;1999,Bone,24,437‐449)。故に、Srcの活性を調節する本発明のPTK阻害剤は、骨粗しょう症の治療に有用である。
【0106】
本明細書で説明されるように、本発明の化合物は、対象における肥満を防ぐまたは予防するために使用されてよい。肥満を防ぐために、化合物は、対象において肥満が進行する前に投与されてよい。あるいは、化合物は、対象における肥満を治療するために使用されてよい。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケード、例えば、キナーゼ阻害剤、非ATP競合型阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインチロシンホスファターゼ阻害剤、またはプロテインチロシンホスファターゼ1B阻害剤のモジュレーションに関与していてよい。
【0107】
肥満は、糖尿病およびインスリン応答性組織、例えば骨格筋、肝臓、および白色脂肪組織中のインスリン抵抗性の増加と関連がある(Klaman,et al.;2000,Mol.Cell.Biol.,20,5479‐5489)。インスリンは、グルコース恒常性、脂質代謝、およびエネルギーバランスの調節において重要な役割を担っている。インスリンシグナル伝達は、受容体型チロシンキナーゼであるインスリン受容体(IR)にインスリンが結合することによって始まる。インスリンの結合は、多数のチロシン残基上のIRの自己リン酸化で始まるリン酸化イベントのカスケードを惹起する。自己リン酸化は、IRキナーゼ活性を高め、下流のシグナル伝達イベントを誘発する。プロテインチロシンキナーゼの刺激作用およびプロテインチロシンホスファターゼの阻害作用が、インスリンの作用を主に定める。適切なインスリンシグナル伝達は、血中グルコース濃度の大きな変動を最小限に抑え、細胞へのグルコースの十分な送達を確実なものにする。インスリン刺激が多様なチロシンリン酸化イベントにつながることから、1つ以上のプロテイン‐チロシンホスファターゼ(PTP)の活性の増強がインスリン抵抗性をもたらす可能性があり、これが肥満につながるかもしれない。実際に、PTP活性の上昇は、肥満をはじめとするいくつかのインスリン抵抗状態で報告されている(Ahmad,et al.;1997,Metabolism,46,1140‐1145)。故に、理論に拘束されることなく、本発明の化合物の投与は、キナーゼ(例、PTP)活性を調節し、それによって対象における肥満を治療する。
【0108】
インスリンシグナル伝達は、チロシンリン酸化を介するIRの活性化とともに始まり、グルコース輸送体、GLUT4によるグルコースの細胞への取り込みによって終わる(Saltiel and Kahn;2001,Nature,414,799‐806)。次に、活性化されたIRは不活性化されて基礎的状態に戻らなくてはならず、これはプロテイン‐チロシンホスファターゼ‐1B(PTP‐1B)が関与すると考えられているプロセスである(Ahmad,et al.;1997,J.Biol.Chem.,270,20503‐20508)。マウスにおけるPTP‐1Bをコードする遺伝子の破壊は、インスリンへの感受性および食餌性肥満に対する抵抗性の増加をもたらす(Elchebly,et al.;1999,Science,283,1544‐1548、Klaman,et al.;2000,Mol.Cell.Biol.,20,5479‐5489)。PTP‐1B欠損マウスにおける脂肪蓄積の低下は、脂肪細胞の数の減少を伴わない脂肪細胞量の著しい減少によるものであった(Klaman,et al.;2000,Mol.Cell.Biol.,20,5479‐5489)。さらに、PTP‐1B欠損マウスにおける痩せは、基礎代謝率と総エネルギー消費量の増加を伴うものであり、脱共役タンパク質mRNA発現の著しい変化はなかった。PTP‐1B遺伝子の破壊は、PTP‐1Bの活性を変化させることで、インスリンシグナル伝達およびin vivoにおける食餌性肥満を調節できることを示した。故に、理論に拘束されることなく、インスリンシグナル伝達(例、PTP‐1B活性)を調節する本発明の化合物の投与は、対象における肥満の治療において有用である。
【0109】
本明細書で説明されるように、本発明の化合物は、対象における糖尿病を防ぐまたは予防するために使用されてよい。糖尿病を防ぐため、化合物は、対象における糖尿病の発症前に投与されてよい。あるいは、化合物は、対象における糖尿病を治療するために使用されてよい。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケード、例えばキナーゼ阻害剤、非ATP競合型阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、PTEN(第10染色体から欠失しているフォスファターゼ・テンシンホモログ)阻害剤、またはSHIP2(SH2含有イノシトール5‘−フォスファターゼ)阻害剤のモジュレーションに関与していてよい。
【0110】
2型糖尿病(T2DM)は、エネルギー代謝の調節異常の疾患である。タンパク質、炭水化物、および脂質の合成と貯蔵を促進し、それらが分解され、放出されて循環血液中に戻るのを抑制する、強力なタンパク質同化剤であるホルモンインスリンによってエネルギー代謝が主に制御される。インスリンの作用は、そのチロシンキナーゼ受容体への結合によって始まり、これが自己リン酸化およびキナーゼの触媒活性の増加をもたらす(Patti,et al.;1998,J.Basic Clin.Physiol.Pharmacol.9,89‐109)。チロシンリン酸化は、インスリン受容体基質(IRS)タンパク質をホスファチジルイノシトール3‐キナーゼ(PI3K)のp85調節性サブユニットと相互作用させ、細胞種に応じて、酵素の活性化および特異的な細胞内部位へのその標的化をもたらす。酵素は、脂質産物ホスファチジルイノシトール‐3,4,5‐トリスリン酸(PtdIns(3,4,5)P)を生成し、これが多くのタンパク質の局在化および活性を調節する(Kido,et al.;2001,J.Clin.Endocrinol.Metab.,86,972‐979)。PI3Kは、インスリン刺激性のグルコース取り込みおよび貯蔵、脂肪分解の阻害、および肝臓での遺伝子発現の調節において重要な役割を担う(Saltiel,et al.;2001,Nature,414,799‐806)。優性阻害型のPI3Kの過剰発現は、グルコースの取り込みおよびグルタミン酸輸送体4、GLUT4の原形質膜への移行をブロックしうる(Quon,et al.;1995,Mol.Cell.Biol.,15,5403‐5411)。故に、キナーゼ(例、PI3K)活性を調節し、従ってグルコース取り込みの増加をもたらす本発明の化合物の投与は、糖尿病の治療において有用である。
【0111】
PTENは、多くの細胞種におけるPI3Kシグナル伝達の主要な調節物質であり、PI3K経路の抗アポトーシス、増殖、および肥大活性の拮抗作用のため、腫瘍抑制因子として働く(Goberdhan,et al.;2003,Hum.Mol.Genet.,12,R239‐R248、Leslie,et al.;2004,J.Biochem.,382,1‐11)。理論に拘束されるものではないが、PTENは、PtdIns(3,4,5)P分子の脱リン酸化によってPI3K経路を減衰させ、この重要な脂質セカンドメッセンジャーをPtdIns(4,5)Pに分解すると考えられている。最近の研究では、低分子干渉RNA(siRNA)を使用した内因性PTENタンパク質の50%の減少が、PtdIns(3,4,5)Pレベルのインスリン依存性の増加およびグルコースの取り込みを促進した(Tang,et al.;2005,J.Biol.Chem.,280,22523‐22529)。故に、理論に拘束されることなく、PTEN活性を調節し、従ってグルコース取り込みの増加をもたらす本発明の化合物の投与が、糖尿病の治療に有用であるとの仮説が立つ。
【0112】
PtdIns(3,4,5)Pレベルは、SRC homology2(SH2)‐containing inositol 5’‐phosphatase(SHIP)タンパク質のファミリー、SHIP1およびSHIP2によっても制御される(Lazar and Saltiel;2006,Nature Reviews,5,333‐342)。インスリン感受性組織の中でも特に骨格筋に発現するSHIP2は、PtdIns(3,4,5)PのPtdIns(3,4)Pへの変換を触媒する(Pesesse,et al.;1997;Biochem Biophys.Res.Commun.,239,697‐700、Backers,et al.;2003,Adv.Enzyme Regul.,43,15‐28、Chi,et al.;2004,J.Biol.Chem.,279,44987‐44995、Sleeman,et al.;2005,Nature Med.,11,199‐205)。SHIP2の過剰発現は、インスリン刺激性のPtdIns(3,4,5)Pレベルを著しく低下させ、これは、PI3Kの下流のエフェクターの活性化を減弱化すると提唱されているSHIPの能力と一致する(Ishihara,et al.;1999,Biochem.Biophys.Res.Commun.,260,265‐272)。故に、理論に拘束されることなく、SHIP2活性を調節し、従ってグルコース取り込みの増加をもたらす本発明の化合物の投与は、糖尿病の治療において有用である。
【0113】
本明細書で説明するように、本発明の化合物は、対象における眼疾患を防ぐまたは予防するために使用されてよい。眼疾患を防ぐために、化合物は対象における眼疾患発症前に投与されてよい。あるいは、化合物は、対象における眼疾患、例えば黄斑変性症、網膜症、および黄斑浮腫を治療するために使用されてよい。本発明の化合物は、キナーゼカスケード、例えばキナーゼ阻害剤、非ATP競合型阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体チロシンキナーゼ阻害剤のモジュレーションに関与していてよい。
【0114】
生理学的に無血管性である、角膜の視力を脅かす血管新生が発生しうる。増殖性網膜症、主に糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性症は、網膜浮腫および網膜下液貯留につながる血管透過性の増加および易出血性の新血管増殖を特徴とする。既存の毛細血管からの新たな血管の形成である血管形成は、正常な発達および多くの病的プロセス両者の不可欠な要素である。血管形成の複雑なカスケードの中心的な仲介物質であり、強力な透過性因子であるVEGFは、新規の治療薬の魅力的なターゲットである。VEGFは、2つの膜結合チロシンキナーゼ受容体、VEGFR‐1およびVEGFR‐2に対するリガンドである。リガンド結合は、VEGFRの二量体化およびトランスリン酸化を誘発し、続いて細胞内チロシンキナーゼドメインが活性化される。続いて起こる細胞内シグナル伝達軸は、血管内皮細胞の増殖、移動、および生存をもたらす。故に、理論に拘束されることなく、キナーゼ活性、例えばチロシンキナーゼ活性を調節し、血管形成および/または血管新生の阻害をもたらす本発明の化合物の投与は、眼疾患、例えば黄斑変性症、網膜症、および/または黄斑浮腫の治療に有用であるとの仮説が立つ。
【0115】
黄斑変性症は、VEGFによって仲介される網膜漏出(血管透過性の増加)および眼底小血管の異常な成長(血管形成)を特徴とする。VEGFは、糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性症両者の新生血管膜中に同定されており、この因子の眼内レベルは、糖尿病性網膜症における血管新生の重篤度と相関関係がある(Kvanta,et al.;1996,Invest.Ophthal.Vis.Sci.,37,1929‐1934.、Aiello et al.,1994,N.Engl.J.Med.,331,1480‐1487)。これらのモデルにおけるVEGFの治療上の拮抗作用は、網膜血管新生および脈絡膜血管新生の著しい阻害だけでなく、血管透過性の低下をもたらす(Aiello et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,92,10457‐10461、Krzystolik,et al.;2002,Arch.Ophthal.,120,338‐346、Quam,et al.;2001,Invest.Ophthal.Vis.Sci.,42,2408‐2413)。故に、理論に拘束されることなく、VEGF活性を調節し、血管形成および/または血管新生の阻害をもたらす本発明の化合物の投与は、眼疾患、例えば黄斑変性症、網膜症、および/または黄斑浮腫の治療に有用であるとの仮説が立つ。
【0116】
本発明の化合物は、脳卒中に罹患するリスクがある対象、脳卒中に罹患している対象、または脳卒中に罹患したことがある対象において、脳卒中を治療、予防、軽減する方法において使用される。本発明の化合物は、脳卒中後のリハビリテーションを行っている患者の治療方法において有用である。
【0117】
脳卒中は、脳血管障害(CVA)としても知られている、動脈閉塞または血管破裂のいずれかのために脳の一部への血液供給が妨げられる急性の神経系の損傷である。血液供給が妨げられている脳の部分は、血液によって運ばれる酸素および/または栄養素をもはや受け取ることができない。脳細胞は損傷を受け、または壊死に陥り、これによって脳のその部分の内部のまたはその部分からの機能が障害される。脳組織は、60〜90秒を超える時間酸素を奪われると機能を停止し、数分後には、組織の死、すなわち梗塞につながる可能性がある不可逆的損傷を受けることになる。
【0118】
脳卒中は、2つの主要な種類に分類される:虚血性のもの、すなわち脳に供給する血管の閉塞、および出血性のもの、すなわち脳内また脳周囲への出血である。全ての脳卒中の大部分は虚血性脳卒中である。虚血性脳卒中は一般的に、血栓性脳卒中、塞栓性脳卒中、全身の低灌流(Watershed stroke)、または静脈血栓症に分けられる。血栓性脳卒中では、罹患した動脈内で血栓形成プロセスが進行し、血栓、すなわち凝血塊が動脈の内腔を徐々に狭めていき、これによって遠位組織への血流を妨げる。これらの凝血塊は通常、アテローム性動脈硬化プラークの周囲に形成される。2種類の血栓性脳卒中が存在し、これらは血栓が形成される血管の種類に応じて分類される。大血管血栓性脳卒中は、総頸動脈および内頸動脈、椎骨動脈、およびウィリス輪に関わる。小血管血栓性脳卒中は、脳内動脈、ウィリス輪の分枝、中大脳動脈基部、および椎骨動脈遠位部および脳底動脈から生じる動脈に関わる。
【0119】
血栓はたとえ閉塞性でなかったとしても、この血栓が剥離し、その時点でこの血栓が塞栓となれば塞栓性脳卒中を引き起こしうる。塞栓は、他の箇所から発生して、動脈血流内を移動する粒子または残屑を意味する。塞栓性脳卒中は、脳の一部分への動脈アクセスが塞栓によって閉塞することを意味する。塞栓は多くの場合凝血塊であるが、アテローム性動脈硬化血管から剥離したプラークまたは脂肪、空気、場合によっては癌細胞をはじめとする多くの他の物質でもありうる。塞栓は他の箇所で発生するため、局所治療は一時的な問題の解決にしかならない。故に、塞栓の源を特定しなくてはならない。塞栓性脳卒中の4つのカテゴリー:既知の心臓起源のもの、心臓または大動脈起源の可能性があるもの(経胸郭または経食道心エコーによる)、動脈起源のもの、および起源が不明のものが存在する。
【0120】
全身の低灌流は、身体の全ての部位への血流量の低下である。これは最も一般的には、心停止もしくは心不整脈に起因する、または心筋梗塞、肺塞栓症、心嚢液貯留、もしくは出血の結果として心拍出量が低下することに起因する心拍出不全によるものである。低酸素血症(すなわち、低血中酸素含有量)は、低灌流を引き起こす可能性がある。血流量の低下は広範囲にわたるため、脳の全ての部位に影響が出る可能性があり、特に主要な脳動脈から供給を受ける境界領域である「watershed」領域が影響を受ける。これらの領域への血流は必ずしも止まってはいないが、そのかわり脳障害が生じる程度まで低下している可能性がある。
【0121】
脳内の静脈は、血液を体に送り返す働きをする。血栓症のために静脈が閉塞すると血液の排出は妨げられ、血液が逆流し、脳浮腫を引き起こす。この脳浮腫は、虚血性および出血性両方の脳卒中をもたらしうる。これは一般に、珍しい病気である静脈洞血栓症において生じる。
【0122】
脳卒中は、当該技術分野で知られる様々なテクニック、例えば神経学的検査、血液検査、CTスキャン(コントラスト促進なし)、MRIスキャン、ドップラー超音波検査、および動脈造影(すなわち、血流に放射線不透過物質を注入した後の動脈のX線撮影)のうちの1つ以上を用いて、対象または患者において診断される。画像化で脳卒中が確認されると、周囲に塞栓源が存在するかどうかを判定するためにその他各種の検査が行われる。これらの検査には、例えば、頸動脈の超音波/ドップラー検査(頸動脈狭窄症を検出するため)、心電図(ECG)および心エコー検査(不整脈と、その結果として生じる、血流を介して脳血管に広がる可能性がある心臓内の凝血塊を確認するため)、間欠性不整脈を確認するためのホルター心電図検査および脳血管系の血管造影(出血が動脈瘤または動静脈奇形に起因するものと考えられる場合)が含まれる。
【0123】
脳卒中または脳卒中に伴う症状を治療、予防、または軽減するこれらの方法において有用な化合物は、脳卒中の最中に、または脳卒中後に進行するキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。いくつかの実施形態では、化合物はキナーゼ阻害剤である。例えば、化合物はチロシンキナーゼ阻害剤である。一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrc阻害剤である。例えば、本明細書で説明される、脳卒中または脳卒中に伴う症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、脳卒中の最中に、または脳卒中後に進行するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリック阻害剤である。好ましくは、本明細書で説明される、脳卒中または脳卒中に伴う症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、脳卒中の最中に、または脳卒中後に進行するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合型阻害剤である。
【0124】
Src活性の阻害は、脳卒中の最中の脳の保護をもたらすことが示されている(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Paul et al.,Nature Medicine,vol.7(2):222‐227(2001)を参照)。虚血性傷害に応えて産生される血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管透過性を促進することが示されている。Srcキナーゼが、脳卒中後の脳においてVEGF仲介性のVPを調節することが研究で示されており、脳卒中前後のSrc阻害剤の投与は、浮腫を減少させ、脳かん流を改善し、傷害発生後の梗塞量を減少させた。(Paul et al.,2001)。故に、Src阻害は、脳卒中後の二次障害の予防、治療、または軽減において有用であり得る。
【0125】
本発明の化合物は、脳卒中または脳卒中に伴う症状を予防、治療、または軽減する。脳卒中の症状には、突然のしびれまたは衰弱、特に体の片側のもの、突然の錯乱もしくは発話困難もしくは言語理解障害、突然の片目もしくは両目の視力低下、突然の歩行困難、めまい、または平衡感覚もしくは協調の喪失、あるいは原因不明の突然の激しい頭痛が含まれる。
【0126】
通常、脳卒中には3つの治療段階がある:予防、脳卒中直後の治療、および脳卒中後のリハビリテーションである。初めてのまたは再発性の脳卒中を予防するための治療は、脳卒中の基礎的なリスク因子、例えば、高血圧、高コレステロール、心房細動、および糖尿病の治療に基づく。急性脳卒中治療は、虚血性脳卒中の原因となっている凝血塊を直ちに溶解することによって、または出血性脳卒中の出血を止めることによって、脳卒中をそれが生じている間に抑えようと試みる。脳卒中後のリハビリテーションは、脳卒中のダメージによって生じた障害を個人が克服する手助けをする。投薬または薬物療法は、脳卒中に対する最も一般的な治療法である。脳卒中を予防するまたは治療するために使用される最も一般的なクラスの薬は、抗血栓薬(例えば、抗血小板薬および抗凝固薬)および血栓溶解薬である。化合物は、脳卒中に罹患するリスクがある患者、脳卒中に罹患している患者、または脳卒中に罹患したことがある患者に、脳卒中が発生する前、最中、後の時点で、またはこれらの任意の組み合わせで投与される。本発明の化合物は、医薬組成物の状態で単独で投与される、または様々な既知の治療薬、例えば抗血小板薬(例、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール)、抗凝固薬、(例、ワルファリン)、または血栓溶解薬(例、組織プラスミノゲン活性化因子(t‐PA)、レテプラーゼ、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、ラノテプラーゼ、またはアニストレプラーゼ)のいずれかとの組み合わせで投与される。
【0127】
本発明の化合物は、アテローム性動脈硬化症のリスクがある対象、またはアテローム性動脈硬化症に罹患している対象において、アテローム性動脈硬化症またはその症状を治療、予防、軽減する方法において使用される。
【0128】
アテローム性動脈硬化症は、動脈血管を侵す病気であり、一般に動脈の「硬化」と呼ばれる。これは動脈内における多数のプラーク形成が原因となる。アテローム性動脈硬化性プラークは動脈の拡張によって代償されるものの、最終的にはプラークの破裂および動脈の狭窄(すなわち、狭くなる)に至り、これが今度はその動脈が栄養を供給している臓器への不十分な血液供給につながる。あるいは、代償的な動脈拡張プロセスが過剰であると、網動脈瘤が生じる。これらの合併症は慢性的なものであり、ゆっくりと進行し、蓄積される。最も一般的には、軟らかいプラークが突然破裂し、血流を急速に遅延させるまたは止める凝血塊(すなわち血栓)の形成をもたらし、続いてその動脈によって栄養が供給されている組織の死につながる。この重篤なイベントは梗塞と呼ばれる。例えば、冠動脈の冠動脈血栓症は、一般に心臓発作として知られる心筋梗塞を引き起こす。心筋梗塞は、冠動脈の内層にアテローム性動脈硬化性プラークがゆっくりと形成され、その後突然破裂し、動脈を完全に閉塞し、下流の血流を妨げた場合に発生する。
【0129】
アテローム性動脈硬化症および急性心筋梗塞は、様々な臨床的および/または検査室検査、例えば、理学的検査、放射線または超音波検査、および血液分析のいずれかを使用して、患者において診断される。例えば、医師または臨床医は、対象の動脈を聴診し、雑音と呼ばれる、異常なヒューヒューという音を検出することができる。雑音は、罹患している動脈上に聴診器を当てると聞くことができる。あるいは、またはこれに加えて、臨床医または内科医は、微弱化または消失といった異常について、例えば脚または足の脈拍を確認することができる。内科医または臨床医は、異常を発見するために、コレステロール値をチェックするための、または心筋酵素、例えばクレアチンキナーゼ、トロポニン、および乳酸脱水素酵素のレベルをチェックするための血液検査を行ってもよい。例えば、心筋に非常に特異的なトロポニンサブユニットIまたはTは、恒久的な傷害が進行する前に上昇する。胸痛の状況においてトロポニンが陽性であるということは、近い将来心筋梗塞が発生する可能性が高いことを正確に予測している可能性がある。アテローム性動脈硬化症および/または心筋梗塞を診断するためのその他の検査には、例えば、対象の心拍の速さと規則性を測定するためのEKG(心エコー検査)、足首の血圧を腕の血圧と比較する、足関節・上腕血圧比を測定する胸部X線撮影、動脈の超音波検査、関心領域のCTスキャン、血管造影、運動負荷検査、心臓核医学検査、および心臓の磁気共鳴画像法(MRI)およびポジトロン放出断層撮影(PET)スキャンが含まれる。
【0130】
アテローム性動脈硬化症またはその症状を治療、予防、または軽減するこれらの方法において有用な化合物は、アテローム性動脈硬化症のリスクがある患者、またはアテローム性動脈硬化症に罹患している患者におけるキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。いくつかの実施形態では、化合物はキナーゼ阻害剤である。例えば、化合物はチロシンキナーゼ阻害剤である。一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrc阻害剤である。好ましくは、本明細書で説明される、アテローム性動脈硬化症またはその症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、アテローム性動脈硬化症に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリック阻害剤である。好ましくは、本明細書で説明される、アテローム性動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化症に伴う症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、アテローム性動脈硬化症に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合型阻害剤である。
【0131】
Srcによる細胞シグナル伝達は、血管透過性(VP)として知られる、血管の透過性の増加において重要な役割を担うと考えられている。例えば、心筋梗塞をはじめとする虚血性傷害に応えて産生される、血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管透過性を促進することが示されている。Srcキナーゼの阻害が、VEGF仲介性のVPを減少させることが研究で示されている(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Parang and Sun,Expert Opin.Ther.Patents,vol.15(9):1183‐1206(2005)を参照)。Src阻害剤で治療されたマウスは、未治療のマウスと比べて、心筋梗塞後の血管に対する外傷または傷害に伴う組織障害が低下することを示した(例えば、その開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Chereshらによる米国特許出願公開第20040214836号および同第20030130209号を参照)。故に、Src阻害は、アテローム性動脈硬化症に起因する傷害、例えば心筋梗塞に続いて起こる二次損傷の予防、治療、または軽減において有用であり得る。
【0132】
本発明の化合物は、脳卒中またはアテローム性動脈硬化症に伴う症状を予防、治療、または軽減する。アテローム性動脈硬化症は通常、それによって著しく動脈が狭窄し、血流を妨げられるまで、またはそれによって突然の閉塞が生じるまでは症状を呈さない。症状は、プラークおよび狭窄が発生する場所、例えば心臓内、脳内、その他の重要な臓器内、および脚または体内のほぼあらゆる場所に応じて変わる。アテローム性動脈硬化症の初期症状は、体が多くの酸素を必要とする場合、例えば運動の最中における疼痛またはけいれんの可能性があり、心臓への酸素が不足するために胸痛を感じる(狭心症)または脚への酸素が不足するために脚のけいれんを感じる可能性がある。脳へ血液を供給する動脈の狭窄は、めまいまたは一過性虚血性発作(TIA)の原因となりえ、脳卒中の症状および徴候は24時間未満継続する。典型的には、これらの症状は徐々に進行する。
【0133】
心筋梗塞の症状は、様々な程度の胸痛、不快感、発汗、衰弱、悪心、嘔吐、および不整脈を特徴とし、時に意識消失を来たす。胸痛は急性心筋梗塞に最もよく見られる症状であり、締め付けられるような、圧迫されるような、または絞られるような感覚と説明されることが多い。疼痛は、顎、首、腕、背中、および上腹部まで、最も多くは左腕または首まで広がりうる。胸痛は、30分以上にわたって続く場合心筋梗塞が原因である可能性が高い。心筋梗塞患者は、梗塞に起因する心筋収縮能の低下が、肺うっ血または場合によっては肺水腫を伴う左室不全を引き起こすのに十分である場合は特に、息切れ(呼吸困難)を示す可能性がある。
【0134】
本発明の化合物は、医薬組成物の状態で単独で投与される、またはアテローム性動脈硬化のための様々な既知の治療薬、例えば、コレステロール降下薬(例、スタチン)、抗血小板薬、または抗凝固薬のいずれかとの組み合わせで投与される。
【0135】
本発明の化合物は、神経因性疼痛に罹患するリスクがある対象、神経因性疼痛に罹患している対象、または神経因性疼痛に罹患したことがある対象において、神経因性疼痛、例えば慢性神経因性疼痛、またはその症状を治療、予防、軽減する方法において使用される。
【0136】
神経因性疼痛は神経痛としても知られ、通常の侵害受容性疼痛とは質的に異なるものである。神経因性疼痛は通常、一定の焼けるような感覚および/または「しびれてピリピリする」感覚および/または「電気ショック」の感覚として現れる。侵害受容性疼痛と神経因性疼痛との違いは、「通常の」侵害受容性疼痛が、痛覚神経だけを刺激するのに対し、ニューロパシーは多くの場合、同じ部位にある痛覚神経および非痛覚神経(例えば、接触、温覚、冷感に反応する神経)両方の刺激をもたらし、これによって脊髄および脳が正常では受け取ると予想されないシグナルが生成されるという事実に起因する。
【0137】
神経因性疼痛は、通常組織傷害を伴う、複合的な慢性疼痛状態である。神経因性疼痛があると、神経線維それ自体が損傷を受ける、機能不全となる、または傷害される可能性がある。これらの損傷神経線維は、他の疼痛の中枢へ正しくないシグナルを送る。神経線維傷害の影響には、傷害の部位および傷害周辺領域両方における神経機能の変化が含まれる。
【0138】
神経因性疼痛は、当該技術分野で知られている様々な検査室および/または臨床技術、例えば理学的検査の1つ以上を使用して対象または患者において診断される。
【0139】
神経因性疼痛、例えば慢性神経因性疼痛、または神経因性疼痛に伴う症状を治療、予防、または軽減するこれらの方法において有用な化合物は、神経因性疼痛に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。いくつかの実施形態では、化合物はキナーゼ阻害剤である。例えば、化合物はチロシンキナーゼ阻害剤である。一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrc阻害剤である。好ましくは、神経因性疼痛またはその症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、神経因性疼痛に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリック阻害剤である。好ましくは、神経因性疼痛またはその症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、神経因性疼痛に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合型阻害剤である。
【0140】
c‐Srcは、N‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)受容体の活性を調節することが示されている(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Yu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.96:7697‐7704(1999)を参照)。低分子量のSrcキナーゼ阻害剤であるPP2が、NMDA受容体NM2サブユニットのリン酸化を低下させることが研究で示されている(その開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Guo et al.,J.Neuro.,vol.22:6208‐6217(2002)を参照)。故に、続いてNMDA受容体の活性を阻害するSrcの阻害は、神経因性疼痛、例えば慢性神経因性疼痛の予防、治療、または軽減において有用であり得る。
【0141】
本発明の化合物は、神経因性疼痛、例えば慢性神経因性疼痛、または神経因性疼痛に伴う症状を予防、治療、または軽減する。神経因性疼痛の症状には、刺すような痛みおよび焼けるような痛み、うずき、ならびにしびれが含まれる。
【0142】
本発明の化合物は、医薬組成物の状態で単独で投与される、または様々な既知の治療薬、例えば鎮痛薬、オピオイド、三環系抗うつ薬、抗けいれん薬、およびセロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害剤のいずれかとの組み合わせで投与される。
【0143】
本発明の化合物は、B型肝炎のリスクがある対象またはB型肝炎に罹患している対象において、B型肝炎またはその症状を治療、予防、軽減する方法において使用される。
【0144】
B型肝炎ウイルスはヘパドナウイルス科のメンバーであり、一本鎖領域を持つ二本鎖DNAの形態のウイルスゲノムを含むタンパク質性のコア粒子と、タンパク質が埋めこまれた外側の脂質ベースのエンベロープからなる。エンベロープタンパク質は、ウイルス結合と感受性細胞への放出に関与する。内側のカプシドは、ウイルスmRNAが転写される場所である細胞の核にDNAゲノムを移す。エンベロープタンパク質をコードする3つのサブゲノム転写体が、Xタンパク質をコードする転写体とともに作られる。4つ目のプレゲノムRNAが転写され、これが細胞質ゾルにエクスポートされ、ウイルスポリメラーゼおよびコアタンパク質を翻訳する。ポリメラーゼおよびプレゲノムRNAは、自己集合するコア粒子内へとカプシドで包まれ、ここでポリメラーゼタンパク質によってプレゲノムRNAのゲノムDNAへの逆転写が起こる。次に、成熟したコア粒子は正常の分泌経路を介して細胞を脱出し、途中でエンベロープを獲得する。
【0145】
B型肝炎は、複製プロセスの一部として逆転写を用いる、数少ない既知の非レトロウイルス型ウイルスの1つである。逆転写を用いるその他のウイルスには、例えばHTLVまたはHIVが含まれる。
【0146】
HBV感染の際、宿主の免疫応答が、肝細胞の損傷およびウイルス排除の両方に関与する。先天性免疫応答はこれらのプロセスにおいて重要な役割を持たない一方で、適応的免疫応答、特にウイルス特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、HBV感染に付随する肝臓傷害のほぼ全ての一因となる。感染細胞を死滅させることによって、またHBVを生存幹細胞から排除する能力を持つ抗ウイルス性サイトカインを産生することによって、CTLはウイルスも排除する。肝臓障害はCTLによって始まり、これによって仲介されるが、抗原非特異的炎症細胞がCTL誘発性の免疫病理反応を悪化させる可能性があり、肝臓内のCTLの蓄積を血小板が促進するかもしれない。
【0147】
B型肝炎は、様々な臨床的および/または検査室検査、例えば理学的検査、および血液または血清分析のいずれかを使用して患者において診断される。例えば、血液または血清を、ウイルス抗原および/または宿主によって産生された抗体の存在について解析する。B型肝炎の一般的な検査では、感染の存在をスクリーニングするためにB型肝炎表面抗原(HBsAg)の検出が使用される。これは、このウイルスの感染の際に出現する最初の検出可能なウイルス抗原であるが、感染の初期段階では、この抗原は存在しない可能性があり、またこの抗原は、宿主によって排除されて感染の後期では検出不能となる可能性がある。この、宿主が依然として感染しているものの、ウイルスの排除に成功している「ウインドウ」期では、B型肝炎コア抗原に対するIgM抗体(抗HBc IGM)が、病気の唯一の血清学的エビデンスとなるかもしれない。
【0148】
HBsAgの出現のすぐ後に、B型肝炎e抗原(HBeAg)の名を持つ別の抗原が出現する。伝統的に、宿主血清中のHBeAgの存在は、非常に高いウイルスの複製率と関係があるが、B型肝炎ウイルスのいくつかのバリアントは「e」抗原を全く産生しない。感染の自然経過中にHBeAgが排除される可能性があり、「e」抗原に対する抗体(抗HBe)がその直後に上昇する。この変換は通常、ウイルス複製の劇的な低下と関係がある。宿主が感染を除去できるならば、最終的にはHBsAgは検出不能となり、B型肝炎表面抗原に対する抗体(抗HBs)が続いて現れる。HBsAgが陰性であるが抗HBsが陽性の人は、感染が除去されたか、以前にワクチン接種を受けているかのどちらかである。HBsAgが陽性である多くの人々ではウイルス増殖がほとんどない可能性があり、故に長期的な合併症のリスクまたは他人に感染を伝播するリスクは少ないかもしれない。
【0149】
B型肝炎またはその症状を治療、予防、または軽減するこれらの方法において有用な化合物は、B型肝炎のリスクがある患者、またはB型肝炎に罹患している患者において、キナーゼシグナル伝達カスケードを調節する化合物である。いくつかの実施形態では、化合物はキナーゼ阻害剤である。例えば、化合物はチロシンキナーゼ阻害剤である。一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はSrc阻害剤である。好ましくは、本明細書で説明されるB型肝炎またはその症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、B型肝炎に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードのアロステリック阻害剤である。好ましくは、本明細書で説明されるB型肝炎またはB型肝炎に伴う症状を治療、予防、または軽減する方法において使用される化合物は、B型肝炎に関与するキナーゼシグナル伝達カスケードの非ATP競合型阻害剤である。
【0150】
Srcは、B型肝炎ウイルスの複製において役割を担う。ウイルスによってコードされた転写因子HBxは、HBVウイルスの増殖で必要とされるステップにおいてSrcを活性化する。(例えば、それぞれその開示内容全体が参考として本明細書で援用される、Klein et al.,EMBO J.,vol.18:5019‐5027(1999)、Klein et al.,Mol.Cell.Biol.,vol.17:6427‐6436(1997)を参照)。故に、続いてHBVウイルスのSrc仲介性増殖を阻害するSrc阻害は、B型肝炎またはその症状の予防、治療、または軽減において有用であり得る。
【0151】
本発明の化合物は、B型肝炎またはB型肝炎に伴う症状を予防、治療、または軽減する。B型肝炎の症状は典型的に、ウイルスへの暴露の30日〜180日以内に発現する。しかし、B型肝炎ウイルスに感染した全ての人のうち、最大で半数が症状を示さない。B型肝炎の症状はインフルエンザと比較されることが多く、例えば食欲不振、倦怠感、悪心および嘔吐、全身の痒み、肝臓上部の痛み(例、腹部の右側、下部胸郭)黄疸、および排せつ機能の変化が含まれる。
【0152】
本発明の化合物は、医薬組成物の状態で単独で投与される、またはB型肝炎に対する様々な既知の治療薬、例えばインターフェロンα、ラミブジン(Epivir‐HBV)、およびバラクルード(エンテカビル)のいずれかとの組み合わせで投与される。
【0153】
本明細書で説明するように、本発明の化合物は、対象における免疫系の活性を調節し、それによって自己免疫疾患、例えば関節リウマチ、多発性硬化症、敗血症、および狼瘡だけでなく、移植拒絶反応およびアレルギー疾患を防ぐまたは予防するために使用されてよい。あるいは、化合物は、対象において自己免疫疾患を治療するために使用されてよい。例えば、化合物は、対象において、自己免疫疾患の症状の重症度を低下し、または近い将来の進行を抑制しうる。本発明の化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケード、例えばキナーゼ阻害剤、非ATP競合型阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、例えばSrc阻害剤、p59fyn(Fyn)阻害剤、またはp56lck(Lck)阻害剤のモジュレーションに関与するかもしれない。
【0154】
自己免疫疾患は、自己免疫寛容が破綻し、適合的免疫系が自己抗原に反応して細胞および組織の損傷を仲介することによって生じる病気である。自己免疫疾患は、臓器特異的(例、甲状腺炎または糖尿病)でありうる、または全身性(例、全身性エリテマトーデス腎炎)でありうる。T細胞は、適合的免疫系において細胞性免疫応答を調節する。正常な条件下では、T細胞は、自己の主要組織適合複合体分子に結合した異種タンパク質のペプチド断片を認識する抗原受容体(T細胞受容体)を発現する。T細胞受容体(TCR)刺激後の初期の認識可能なイベントは、LckおよびFynの活性化であり、これは免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ内のチロシン残基上のTCRリン酸化をもたらす(Zamoyska,et al.;2003,Immunol.Rev.,191,107‐118)。チロシンキナーゼ、例えばLck(プロテインチロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバーである)は、ペプチドおよびタンパク質のチロシン残基をリン酸化することによって、細胞シグナル伝達および細胞増殖の調節において重要な役割を担う(Levitzki;2001,Top.Curr.Chem.,211,1‐15、Longati,et al.;2001,Curr.Drug Targets,2,41‐55、Qian,and Weiss;1997,Curr.Opin.Cell Biol.,9,205‐211)。故に、理論に拘束されるものではないが、チロシンキナーゼ(例、Src)活性を調節する本発明の化合物の投与は、自己免疫疾患の治療において有用であるとの仮説が立つ。
【0155】
チロシンキナーゼlckおよびfynは共にTCR経路において活性化されるため、lckおよび/またはfynの阻害剤は、自己免疫薬としての利用可能性を有している(Palacios and Weiss;2004,Oncogene,23,7990‐8000)。LckおよびFynは、主にT細胞によって、その寿命の大部分にわたって発現される。T細胞成長、恒常性、および活性化におけるLckおよびFynの役割は、動物および細胞株研究によって示されている(Parang and Sun;2005,Expert Opin.The.Patents,15,1183‐1207)。Lck活性化は、自己免疫疾患および移植拒絶反応に関与する(Kamens,et al.;2001,Curr.Opin.Investig.Drugs,2,1213‐1219)。lck(−)Jurkat細胞株が、T細胞受容体刺激に応えて、増殖できず、サイトカインを産生できず、細胞内カルシウム、リン酸イノシトール、およびチロシンリン酸化の増加をもたらすことができないことを結果は示している(Straus and Weiss;1992,Cell.,70,585‐593、Yamasaki,et al.;1996,Mol.Cell.Biol.,16,7151−7160)。従って、lckを阻害する物質は、T細胞の機能を効果的にブロックし、免疫抑制剤として作用し、自己免疫疾患、例えば関節リウマチ、多発性硬化症、および狼瘡だけでなく移植拒絶反応およびアレルギー疾患の領域においても利用可能性を有するであろう(Hanke and Pollok;1995,Inflammation Res.,44,357‐371)。故に、理論に拘束されるものではないが、プロテインチロシンキナーゼのSrcファミリーの1つ以上のメンバー(例、lckおよび/またはfyn)を調節する本発明の化合物の投与は、自己免疫疾患の治療において有用であるとの仮説が立つ。
【0156】
本発明は、実質的に純粋なN‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド(化合物1)、およびその塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグに関する:
【0157】
【化2】

本発明は、安全かつ容易で、ラージスケール(>100g)でKX2‐391を産生する、高純度KX2‐391(HPLCによる判定で>98.0%)の合成のための組成物およびプロセスに関する。好ましくは、合成によって、限られた不純物を有する化合物が高収率(>80%)で産生される。
【0158】
好ましい実施形態では、本発明の組成物中の化合物1は、98%を超える純度を持つ。例えば、本発明の組成物中の化合物1の純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%である。
【0159】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および製剤は、2%未満の不純物を含有する。例えば、本発明の組成物および製剤は、2%未満の下記の不純物のいずれか、またはこれらの組み合わせを含有する:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウム。
【0160】
いくつかの不純物は、溶質の重量/溶液の重量×1,000,000、例えば塩化エチルの重量/KX2‐391 di‐HClサンプルの重量×1,000,000と等しい、相対的な重量の測定値であるパーツ・パー・ミリオンで測定される。
【0161】
他の好ましい実施形態では、組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーの残存溶媒解析によって判定される250ppm未満の塩化エチルを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約250ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の塩化エチルを含有する。例えば、組成物は、200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満の塩化エチルを含有する。
【0162】
本発明の化合物および製剤は、約100ppm未満のパラジウムを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約100ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のパラジウムを含有する。例えば、組成物は、75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満のパラジウムを含有する。
【0163】
ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約5000ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のエタノールを含有する。例えば、組成物は、4500ppm未満、4000ppm未満、3500ppm未満、3000ppm未満、2500ppm未満、または2000ppm未満のエタノールを含有する。
【0164】
ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約50,000ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の酢酸エチルを含有する。例えば、組成物は、48,000ppm未満、45,000ppm未満、40,000ppm未満、35,000ppm未満、30,000ppm未満、または25,000ppm未満の酢酸エチルを含有する。
【0165】
ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約7,500ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のヘプタンを含有する。例えば、組成物は、7,000ppm未満、6,500ppm未満、6,000ppm未満、5,000ppm未満、3,000ppm未満、または1,000ppm未満のヘプタンを含有する。
【0166】
ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約100ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のアニソールを含有する。例えば、組成物は、80ppm未満、75ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満のアニソールを含有する。
【0167】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の溶媒和物を含む組成物に関する。
【0168】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の水和物を含む組成物にも関する。
【0169】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の酸付加塩も含む。例えば、塩酸塩である。酸付加塩は、例えば二塩酸塩でありうる。
【0170】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の酸付加塩を含む組成物に関する。
【0171】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の塩酸塩を含む組成物に関する。
【0172】
本発明は、実質的に純粋な化合物1の二塩酸塩を含む組成物に関する。
【0173】
本発明は、化合物1のプロドラッグも含む。
【0174】
本発明は、実質的に純粋な、化合物1の薬学的に許容される塩も含む。
【0175】
本発明は、実質的に純粋な化合物1またはその溶媒和物、水和物、もしくは塩と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物にも関する。
【0176】
本発明は、実質的に純粋なN‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド二塩酸塩にも関する:
【0177】
【化3】

本発明は、安全かつ容易で、ラージスケール(>100g)でKX2‐391.2HClを高収率(>80%)で産生し、限られた塩化エチル(ヘッドスペースガスクロマトグラフィー残存溶媒解析で判定される<250ppmの塩化エチル)を有する、高純度KX2‐391.2HCl(HPLCによる判定で>98.0%)の合成のための組成物およびプロセスに関する。
【0178】
好ましい実施形態では、本発明の組成物中のKX2‐391.2HClは、98%を超える純度を持つ。例えば、本発明の組成物中のKX2‐391.2HClの純度は、98.5%、99.0%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%である。
【0179】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および製剤は、2%未満の不純物を含有する。例えば本発明の組成物および製剤は、2%未満の下記の不純物のいずれか、またはこれらの組み合わせを含有する:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウム。
【0180】
他の好ましい実施形態では、組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーの残存溶媒解析によって判定される250ppm未満の塩化エチルを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約250ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の塩化エチルを含有する。例えば、組成物は、200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満の塩化エチルを含有する。
【0181】
本発明の化合物および製剤は、約100ppm未満のパラジウムを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約100ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のパラジウムを含有する。例えば、組成物は、75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満のパラジウムを含有する。
【0182】
本発明は、実質的に純粋なKX2‐391.2HClと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物にも関する。
【0183】
本発明の特定の化合物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤である。
【0184】
本発明は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することによって、細胞増殖性疾患を予防または治療する方法も含む。
【0185】
例えば、細胞増殖性疾患は前癌状態または癌である。本発明の化合物によって治療されるまたは予防される細胞増殖性疾患は、癌、例えば大腸癌または肺癌であってよい。
【0186】
本発明の化合物によって治療されるまたは予防される細胞増殖性疾患は、過剰増殖性疾患であってよい。
【0187】
本発明の化合物によって治療されるまたは予防される細胞増殖性疾患は、乾癬であってよい。
【0188】
例えば、増殖性疾患の治療または予防は、チロシンキナーゼの阻害を通じて生じてよい。例えば、チロシンキナーゼは、Srcキナーゼまたは焦点接着キナーゼ(FAK)でありうる。
【0189】
本発明は、実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を投与することによって、キナーゼ阻害によって調節される病気または疾患を治療するまたは予防する方法に関する。例えば、チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気または疾患は、癌、前癌状態、過剰増殖性疾患、または微生物感染である。
【0190】
本発明の医薬組成物は、キナーゼ経路を調節してよい。例えば、キナーゼ経路は、Srcキナーゼ経路、または焦点接着キナーゼ経路である。
【0191】
本発明の医薬組成物は、キナーゼを直接調節してよい。例えば、キナーゼは、Srcキナーゼ、または焦点接着キナーゼである。
【0192】
本発明の特定の医薬組成物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤である。
【0193】
例えば、本発明の化合物は、微生物感染、例えば細菌、真菌、寄生虫、またはウイルス感染を治療するまたは予防するのに有用である。
【0194】
本発明の特定の医薬組成物には、実質的に純粋なKX2‐391.2HClが含まれる。
【0195】
本発明の化合物は医薬品として使用されてよい。例えば、本発明の化合物は、抗増殖剤として、ヒトおよび/または動物の治療、例えばヒトおよび/または他の哺乳類の治療のために使用される。化合物は、例えば、抗癌剤、抗血管新生剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、および/または抗ウイルス剤として限定されずに使用されてよい。さらに、化合物は、その他の細胞増殖関連疾患、例えば糖尿病性網膜症、黄斑変性症、および乾癬のために使用されてよい。抗癌剤には、抗転移剤が含まれる。
【0196】
医薬品として使用される本発明の化合物は、例えば、実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClであってよい。
【0197】
本発明の一態様では、本発明の組成物、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物は、対象における細胞増殖性疾患を治療または予防するために使用される。本実施形態の一態様では、細胞増殖性疾患は、前癌状態または癌である。本実施形態の別の態様では、細胞増殖性疾患は過剰増殖性疾患である。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、キナーゼの阻害を通じて生じる。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、チロシンキナーゼの阻害を通じて生じる。別の実施形態では、細胞増殖性疾患、癌、または過剰増殖性疾患の予防または治療は、Srcキナーゼまたは焦点接着キナーゼ(FAK)の阻害を通じて生じる。別の実施形態では、対象は哺乳類である。一実施形態では、対象はヒトである。
【0198】
本発明は、対象における癌または増殖性疾患を治療または予防する方法にも関し、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。例えば、本発明の化合物はキナーゼ阻害剤であってよい。本発明の化合物は、非ATP競合型キナーゼ阻害剤であってよい。本発明の化合物はキナーゼを直接阻害してよい、または本発明の化合物はキナーゼ経路に影響を与えてよい。
【0199】
本発明の別の態様は、対象における聴力損失を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。一実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼに結合しているATPを阻害しない。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。一実施形態では、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0200】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、例えば、点耳剤を耳の中に投与することによって、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。別の実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0201】
一実施形態では、化合物は、聴力損失発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は聴力損失発症後に投与される。
【0202】
一実施形態では、化合物は、聴力損失を引き起こす薬、例えばシスプラチンまたはアミノグリコシド系抗生物質と組み合わせて投与される。別の実施形態では、化合物は、有毛細胞を標的する薬と組み合わせて投与される。
【0203】
本発明の別の態様は、対象における骨粗しょう症を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0204】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、骨粗しょう症発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は骨粗しょう症発症後に投与される。
【0205】
本発明の別の態様は、対象における眼疾患、例えば黄斑変性症、網膜症、黄斑浮腫等を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。別の実施形態では、化合物はVEGF経路における1つ以上の構成要素を阻害する。
【0206】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に(例、点眼薬を眼に投与することによって)、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、眼疾患発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は眼疾患発症後に投与される。
【0207】
本発明の別の態様は、対象における糖尿病を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0208】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、糖尿病発症前に投与される。別の実施形態では、化合物は糖尿病発症後に投与される。
【0209】
本発明の別の態様は、対象における肥満を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0210】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、対象が肥満になる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、対照が肥満になった後に投与される。
【0211】
本発明の別の態様は、対象における脳卒中を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0212】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、脳卒中が起こる前に投与される。別の実施形態では、化合物は、脳卒中が起こった後に投与される。
【0213】
本発明の別の態様は、対象におけるアテローム性動脈硬化症を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0214】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0215】
本発明の別の態様は、対象における免疫系の活性を調節する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0216】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。
【0217】
本発明の別の態様は、対象におけるB型肝炎を防ぐまたは治療する方法を含み、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の投与を含む。一実施形態では、化合物は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。一実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。一実施形態では、化合物は、Srcファミリープロテインキナーゼを阻害する。例えば、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0218】
一実施形態では、化合物の投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内注入によって、腔内もしくは膀胱内注入によって、局所的に、動脈内に、病巣内に、定量ポンプによって、または粘膜に塗布することによって行われる。一実施形態では、化合物は薬学的に許容される担体とともに投与される。一実施形態では、化合物は、対象がB型肝炎に罹患する前に投与される。別の実施形態では、化合物は、対象がB型肝炎に罹患した後に投与される。
【0219】
本発明の別の態様は、細胞増殖性疾患を予防するまたは治療する方法であり、この方法は、効果的な量の実質的に純粋な化合物1、またはその塩、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、例えば実質的に純粋なKX2‐391またはKX2‐391.2HClを有する組成物の、それを必要とする対象への投与を含む。一実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する。別の実施形態では、化合物はアロステリック阻害剤である。別の実施形態では、化合物はペプチド基質阻害剤である。別の実施形態では、化合物は、プロテインキナーゼに結合しているATPを阻害しない。一実施形態では、化合物はSrcファミリープロテインキナーゼを阻害する。別の実施形態では、Srcファミリープロテインキナーゼはpp60c‐srcチロシンキナーゼである。
【0220】
本発明は、限られた不純物を含有する組成物および製剤を提供する。本発明の化合物および製剤は、当該技術分野で既知の方法、例えばHPLCで決定されるように約98.0%を超える純度を有する。一実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約99.0%〜約100%の範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の純度を有する。例えば、そのような化合物、組成物、または製剤は、98.1%、98.2%、98.3%、98.4%、98.5%、98.6%、98.7%、98.8%、98.9%、99.0%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の純度を有しうる。
【0221】
本発明の組成物および製剤の最大の薬力学的効果および治療効果を発揮するために、塩化エチルおよびパラジウムのような不純物のレベルを制限することが有益である。これらの不純物は、望ましくない毒性をもたらしうる。
【0222】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および製剤は、2%未満の不純物を含有する。例えば、本発明の組成物および製剤は、2%未満の下記の不純物のいずれか、またはこれらの組み合わせを含有する:塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、およびパラジウム。
【0223】
他の好ましい実施形態では、組成物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーの残存溶媒解析によって判定されるように250ppm未満の塩化エチルを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約250ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の塩化エチルを含有する。例えば、組成物は、200ppm未満、200ppm未満、150ppm未満、100ppm未満、または50ppm未満の塩化エチルを含有する。
【0224】
本発明の化合物および製剤は、約100ppm未満のパラジウムを含有する。ある実施形態では、本発明の化合物および製剤は、約0ppm〜約100ppmの範囲(または前述の範囲内にあるあらゆる値)のパラジウムを含有する。例えば、組成物は、75ppm未満、50ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、または5ppm未満のパラジウムを含有する。
【0225】
定義
便宜上、明細書、実施例、および付属の請求項において使用される特定の用語をここにまとめる。
【0226】
プロテインキナーゼは、酵素の大きなクラスであり、タンパク質およびペプチド中のSer/ThrまたはTyrの側鎖上のヒドロキシル基へのATPからのγ‐リン酸の転移を触媒し、各種の重要な細胞機能、恐らく最も注目に値するものとして:シグナル伝達、分化、および増殖の制御に深く関与する。人体には約2,000種類のプロテインキナーゼが存在すると推定され、これらはそれぞれ特定のタンパク質/ペプチド基質をリン酸化する一方で、それらは全て高度に保存されたポケット内で同じ二次基質、ATPと結合する。既知の癌遺伝子産物の約50%はプロテインチロシンキナーゼ(PTK)であり、それらのキナーゼ活性が細胞の形質転換をもたらすことが示されている。
【0227】
PTKは、2つのカテゴリー、膜受容体型PTK(例、成長因子受容体PTK)および非受容体型PTK(例、プロトオンコジーン産物のSrcファミリー)に分類可能である。Srcの過剰な活性化は、大腸、乳房、肺、膀胱、および皮膚の癌をはじめとする多くのヒトの癌だけでなく、胃癌、有毛細胞白血病、および神経芽細胞種でも報告されている。
【0228】
「プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を阻害する」は、キナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素が、細胞の機能が変化するように影響を受けることを意味する。プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの構成要素には、セカンドメッセンジャーならびに上流および下流の標的を含むキナーゼシグナル伝達経路に直接的または間接的に関与するあらゆるタンパク質が含まれる。
【0229】
「治療すること」には、状態、病気、疾患等の改善をもたらすあらゆる効果、例えば低下させること、減少させること、調節すること、または排除することが含まれる。病的状態の「治療すること」または「治療」には、病的状態を抑制すること、すなわち病的状態またはその臨床症状の進行を抑えること、あるいは病的状態を回復させること、すなわち、病的状態またはその臨床症状の一時的なまたは恒久的な退行をもたらすことが含まれる。
【0230】
病的状態を「予防すること」には、その病的状態に暴露される可能性がある、またはその病的状態に罹患しやすい可能性があるが、その病的状態の臨床症状をまだ経験していないまたは呈していない対象において、病的状態の臨床症状を発症させないようにすることが含まれる。
【0231】
「病的状態」は、あらゆる病気、疾患、状態、症状、または徴候を意味する。
【0232】
本明細書で使用されるように、用語「細胞増殖性疾患」は、細胞の未制御のおよび/または異常な増殖が、癌性または非癌性でありうる望ましくない状態または病気、例えば乾癬状態の発症をもたらしうる状態を意味する。本明細書で使用されるように、用語「乾癬状態」または「乾癬」は、ケラチノサイトの過剰増殖、炎症細胞浸潤、およびサイトカインの変化を伴う疾患を意味する。
【0233】
一実施形態では、細胞増殖性疾患は癌である。本明細書で使用されるように、用語「癌」には、固形癌、例えば肺癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、肝臓癌、膵臓癌、前立腺癌、悪性黒色腫、黒色腫以外の皮膚癌だけでなく、血液の腫瘍および/または悪性疾患、例えば小児白血病およびリンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ球および皮膚起源のリンパ腫、急性および慢性白血病、例えば急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、または慢性骨髄性白血病、形質細胞腫、リンパ系腫瘍、およびAIDSに伴う癌が含まれる。
【0234】
乾癬状態のほかに、本発明の組成物を使用して治療されてよい増殖性疾患の種類は、表皮嚢腫および皮様嚢腫、脂肪腫、腺腫、毛細血管腫および皮膚血管腫、リンパ管腫、母斑病変、奇形腫、腎腫、筋線維腫症、骨形成性腫瘍およびその他の異形成腫瘤などである。増殖性疾患は、異形成および同様のものの疾患を含みうる。
【0235】
開示される発明の化合物の「効果的な量」は、病気または疾患に罹患している対象に投与されたときに、その対象においてその病気または疾患の退行をもたらす量である。故に、開示される発明の化合物の効果的な量は、細胞増殖性疾患に罹患している対象に投与されたときに、その対象において細胞増殖の退行をもたらす量である。ある対象に投与される開示される化合物の量は、特定の疾患、投与方式、あるとすれば同時投与される化合物、およびその対象の特性、例えば全身状態、その他の病気、年齢、性別、遺伝子型、体重、および薬剤への耐性によって変化する。これらの因子およびその他の因子に応じて、当業者は適切な投与量を決定することができるだろう。
【0236】
本明細書で使用されるように、用語「効果的な量」は、単独で、または組み合わせで抗増殖薬として投与されたときに効果的な本発明の化合物、または本発明の化合物の組み合わせの量を意味する。例えば、効果的な量は、生物学的活性、例えば抗増殖活性、例えば抗癌活性または抗腫瘍活性を発揮するのに十分な、レシピエントである患者または対象に与えられる製剤中にまたは医療器具に存在する化合物の量を意味する。化合物の組み合わせは、場合により、協力作用のある組み合わせである。例えばChou and Talalay,Adv.Enzyme Regul.vol.22,pp.27‐55(1984)によって説明されるような協力作用は、組み合わせで投与されたときの化合物の効果が、単剤として単独で投与されたときの化合物の相加効果を上回るときに生じる。一般に、協力作用は、化合物の次善最適濃度において最もはっきりと現れる。協力作用は、個々の成分と比較した、低い細胞毒性度、または抗増殖効果の上昇、または併用のその他いくつかの有益な効果でありうる。
【0237】
「治療上効果的な量」は、ある病気を治療するために哺乳類に投与されたときに、その病気に対してそのような治療を効かせるのに十分な化合物の量を意味する。「治療上効果的な量」は、化合物、病気とその重症度、および治療される哺乳類の年齢、体重等に応じて変化する。
【0238】
治療上効果的な量の1つ以上の化合物は、ヒトまたは動物への投与用に、薬学的に許容される担体とともに製剤化されうる。従って、化合物または製剤は、効果的な量の化合物を提供するために、例えば経口的に、非経口的に、または局所経路で投与されうる。他の実施形態では、本発明に従って調製される化合物は、医療用器具、例えばステントをコーティングするため、または含漬させるために使用されうる。
【0239】
用語「予防上効果的な量」は、望ましくない細胞増殖のリスクを防ぐまたは低下させるために投与される、本発明の化合物(1つまたは複数)の効果的な量を意味する。
【0240】
本明細書で使用されるような「薬理効果」は、意図された治療目的を達成する、対象において生み出される効果を包含する。一実施形態では、薬理効果は、治療されている対象の最初の徴候が防がれる、軽減される、または低下することを意味する。例えば、薬理効果は、治療される対象における最初の徴候の予防、軽減、または低下をもたらす効果であろう。別の実施形態では、薬理効果は、治療されている対象の疾患または最初の徴候の症状が防がれる、軽減される、または低下することを意味する。例えば、薬理効果は、治療される対象における最初の徴候の予防または低下をもたらす効果であろう。
【0241】
窒素を含有する本発明の化合物は、酸化剤(例、3‐クロロペルオキシ安息香酸(m‐CPBA)および/または過酸化水素)での処理によってN‐オキシドに変換されて、本発明の他の化合物を生成できる。故に、全ての示される、また請求される窒素含有化合物は、原子価と構造が許す場合に、示されるような化合物とそのN‐オキシド誘導体(N→OまたはN‐Oと表すことができる)の両方を含むと考えられる。さらに、他の例では、本発明の化合物中の窒素は、N‐ヒドロキシまたはN‐アルコキシ化合物に変換されうる。例えば、N‐ヒドロキシ化合物は、m‐CPBAのような酸化剤による親アミンの酸化によって調製されうる。全ての示される、また請求される窒素含有化合物は、原子価と構造が許す場合に、示されるような化合物とそのN‐ヒドロキシ(すなわちN‐OH)およびN‐アルコキシ(すなわちN‐OR、Rは置換または未置換のC1‐6アルキル、C1‐6アルケニル、C1‐6アルキニル、C3‐14炭素環、または3〜14員のヘテロ環)誘導体の両方を含むとも考えられる。
【0242】
「対イオン」は、小さな、負に荷電した種、例えばクロリド、ブロミド、ヒドロキシド、アセタート、およびスルファートを表すために使用される。
【0243】
本明細書で用いられるような「陰性基」は、生理学的pHにおいて負に荷電する基を意味する。陰性基には、カルボキシラート、スルファート、スルホナート、スルフィナート、スルファマート、テトラゾリル、ホスファート、ホスホナート、ホスフィナート、もしくはホスホロチオアート、またはこれらの機能的等価体が含まれる。陰性基の「機能的等価体」は、生物学的等価体、例えばカルボキシラート基の生物学的等価体を含むことを意図する。生物学的等価体は、古典的な生物学的に等価な等価体および非古典的な生物学的に等価な等価体の両方を包含する。古典的および非古典的な生物学的等価体は当該技術分野で既知である(例えば、Silverman,R.B.The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action,Academic Press,Inc.:San Diego,Calif.,1992,pp.19‐23を参照)。一実施形態では、陰性基はカルボキシラートである。
【0244】
本発明は、本化合物中に生じる全ての原子の同位元素を含むことを意図する。同位元素には、同じ原子番号を持つが、異なる質量数を持つ原子が含まれる。限定するものではないが一般的な例として、水素の同位元素には、三重水素および重水素が含まれ、炭素の同位元素にはC‐13およびC‐14が含まれる。
【0245】
本明細書で説明される化合物は、不斉中心を有していてよい。非対称に置換された原子を含有する本発明の化合物は、光学活性体またはラセミ体として単離されてよい。光学活性体の調製のしかた、例えばラセミ体の分割によるもの、または光学的に活性な出発材料からの合成によるものは当該技術分野で周知である。オレフィン、C=N二重結合などの多くの幾何異性体も本明細書で説明される化合物中に存在でき、全てのそのような安定した異性体が本発明において意図される。本発明の化合物のシスおよびトランス幾何異性体が説明され、異性体の混合物として、または別々の異性体として単離されてよい。特定の立体化学または異性体が具体的に示されない限り、ある構造の全てのキラル型、ジアステレオマー体、ラセミ体、および幾何異性体が意図される。示されるまたは説明される化合物の全ての互変異性体も、本発明の一部であると考えられる。
【0246】
本明細書では、化合物の構造式は一部の例では便宜上特定の異性体を表すが、本発明には、全ての異性体、例えば、構造的に生じる、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体など、ならびに異性体の混合物が含まれ、便宜上の式の説明に限定されず、異性体または混合物のいずれかであってよい。従って、不斉炭素原子は分子中に存在していてよく、光学的に活性な化合物およびラセミ化合物が本化合物中に存在していてよいが、本発明はそれらに限定されるものではなく、あらゆるものを含む。さらに、結晶多形は存在してよいが限定するものではなく、あらゆる結晶形は単独のものもしくは結晶形の混合物、または無水物または水和物であってよい。さらに、in vivoでの本化合物の分解によって生じるいわゆる代謝産物は本発明の範囲に含まれる。
【0247】
「異性」は、全く同じ分子式を持つが、性質またはそれらの原子の結合の順序、または空間におけるそれらの原子の配置が異なる化合物を意味する。空間におけるそれらの原子の配置が異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いに鏡像ではない立体異性体は「ジアステレオ異性体」と呼ばれ、重ね合わせることができない鏡像である立体異性体は「鏡像異性体」、または時に光学異性体と呼ばれる。同一でない4つの置換基と結合する炭素原子を「キラル中心」と呼ぶ。
【0248】
「キラル異性体」は、少なくとも1つのキラル中心を持つ化合物を意味する。これは、反対のキラリティーの2つの鏡像異性体を持ち、個々の鏡像異性体または鏡像異性体の混合物のいずれかとして存在していてよい。等量の反対のキラリティーの個々の鏡像異性体を含む混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。2つ以上のキラル中心を持つ化合物は、2n−1の鏡像異性ペアを有し、nはキラル中心の数である。2つ以上のキラル中心を持つ化合物は、個々のジアステレオマーまたは「ジアステレオマー混合物」と呼ばれるジアステレオマーの混合物のいずれかとして存在していてよい。1つのキラル中心が存在するとき、立体異性体は、そのキラル中心の絶対配置(RまたはS)によって特徴付けられてよい。絶対配置は、キラル中心に結合した置換基の空間における配置を意味する。検討中のキラル中心に結合した置換基は、Sequence Rule of Cahn,Ingold and Prelog.(Cahn et al,Angew.Chem.Inter.Edit.1966,5,385;errata 511、Cahn et al.,Angew.Chem.1966,78,413、Cahn and Ingold,J.Chem.Soc.1951(London),612、Cahn et al.,Experientia 1956,12,81、Chan,J.,Chem.Educ.1964,41,116)に従って順位付けされる。
【0249】
「幾何異性体」は、それらの存在が、二重結合周囲の回転に妨げられていることによるジアステレオマーを意味する。これらの構造は、カーン・インゴルド・プレローグ順位則によると、分子中の二重結合の同一側または反対側に基があることを示す、接頭辞シスおよびトランス、またはZおよびEによって、それらの名前において識別される。
【0250】
さらに、本願で取り上げる構造およびその他の化合物には、それらの全てのアトロプ異性体が含まれる。「アトロプ異性体」は、2つの異性体の原子が空間において異なって配置されている立体異性体の1種である。アトロプ異性体の存在は、中心の結合の周囲の大型基の回転が妨げられることで回転が制限されることによる。そのようなアトロプ異性体は典型的に混合物として存在するが、近年のクロマトグラフィー技術の向上の結果、特定の例においては、2つのアトロプ異性体の混合物を分離することが可能となっている。
【0251】
用語「結晶多形」または「多形」または「結晶形」は、ある化合物(またはその塩もしくは溶媒和物)が、異なる結晶充填配置で結晶化でき、その全てが同じ元素組成を持つ結晶構造を意味する。異なる結晶形は通常、異なるX線回折パターン、赤外スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学的および電気的特性、安定性、および溶解性を持つ。再結晶溶媒、結晶化速度、保存温度、および他の因子によって、1つの結晶形が優勢になる可能性がある。化合物の結晶多形は、異なる条件下での結晶化によって調製されうる。
【0252】
さらに、本発明の化合物、例えば化合物の塩は、水和物または非水和(無水)物のいずれか、またはその他の溶媒分子との溶媒和物として存在できる。水和物の非限定例には、一水和物、二水和物等が含まれる。溶媒和物の非限定例には、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物等が含まれる。
【0253】
「溶媒和物」は、化学量論的なまたは非化学量論的な量のいずれかの溶媒を含有する溶媒付加形態を意味する。いくつかの化合物は、一定のモル比の溶媒分子を結晶性固体状態中に閉じ込める傾向があり、そのように溶媒和物を形成する。溶媒が水であれば、形成される溶媒和物は水和物であり、溶媒がアルコールであれば、形成される溶媒和物はアルコラートである。水和物は、1つ以上の水の分子と、その内部において水がその分子状態をHOとして保持する物質のうちの1つとの組み合わせによって形成され、そのような組み合わせは1つ以上の水和物を形成することができる。
【0254】
「互変異性体」は、その構造が原子の配置において著しく異なるが、容易かつ速い平衡にある化合物を意味する。本発明の化合物が異なる互変異性体として表示されてよいことが理解される。化合物が互変異性体形態を持つとき、全ての互変異性体形態が本発明の範囲内に含まれることが意図され、化合物の名称はいずれの互変異性体形態も除外するものではないことも理解される必要がある。
【0255】
本発明のいくつかの化合物は、互変異性体形態で存在することができる。互変異性体も、本発明の範囲内に包含されるように意図されている。
【0256】
本発明の化合物、塩、およびプロドラッグは、複数の互変異性体形態で存在でき、エノールおよびイミン形態、ならびにケトおよびエナミン形態、ならびにそれらの幾何異性体および混合物が含まれる。全てのそのような互変異性体は、本発明の範囲内に含まれる。互変異性体は、溶液中で互変異性セットの混合物として存在する。固体形態では、通常は1つの互変異性体が優勢である。たとえ1つの互変異性体が説明される可能性があるとしても、本発明は本化合物の全ての互変異性体を含む。
【0257】
互変異性体は、平衡状態にあり、1つの異性体から別のものへと容易に変換される2つ以上の構造異性体のうちの1つである。この反応は、水素原子の形式の移動をもたらし、隣接する共役二重結合の入れ替わりを伴う。互変異性化が可能である溶液中では、互変異性体の化学平衡に達する。互変異性体の正確な比は複数の因子に依存し、これには、温度、溶媒、およびpHが含まれる。互変異性化によって相互交換が可能である互変異性体の概念は、互変異性と呼ばれる。
【0258】
各種タイプの可能な互変異性の中で、2つが一般的に観察される。ケト‐エノール互変異性では、電子と水素原子の同時シフトが起こる。環‐鎖互変異性は、グルコースによって表される。これは、糖鎖分子中のアルデヒド基(‐CHO)が、同じ分子中のヒドロキシ基(‐OH)の1つと反応して、これに環(リング形状)の形態を与えた結果として生じる。
【0259】
互変異性化は、塩基:1.脱プロトン化、2.非局在化アニオン(例、エノラート)の形成、3.異なる位置でのアニオンのプロトン化、酸:1.プロトン化、2.非局在化カチオンの形成、3.カチオンに隣接する異なる位置での脱プロトン化、によって触媒される。
【0260】
一般的な互変異性ペアは:ケトン‐エノール、アミド‐ニトリル、ラクタム‐ラクチム、ヘテロ環中のアミド‐イミド酸互変異性(核酸塩基グアニン、チミン、およびシトシン中)、アミン‐エナミン、ならびにエナミン‐エナミンである。
【0261】
従って、別段の記載がない限り、不斉炭素原子から生じる異性体(例、全ての鏡像異性体およびジアステレオマー)が本発明の範囲内に含まれることが理解されるものである。そのような異性体は、古典的な分離テクニックによって、また立体化学的にコントロールされた合成によって実質的に純粋な形態で得ることができる。さらに、本出願においてとりあげる構造ならびに他の化合物および部分は、それらの全ての互変異性体も含む。アルケンは、適切な場合、E‐またはZ形状のいずれかを含みうる。本発明の化合物は立体異性形態で存在してよく、従って、個々の立体異性体または混合物として産生されうる。
【0262】
「医薬組成物」は、対象への投与に適した形態の開示される化合物を含有する製剤である。一実施形態では、医薬組成物はバルクの状態か、単位剤形の状態である。投与を簡単にし、投与量を均一にするのに、組成物を単位剤形に製することは有利でありうる。本明細書で使用されるような単位剤形は、治療される対象用の単一の投与量として適している物理的に個別の単位を意味し、各単位は、必要な医薬担体と協同して所望の治療効果をもたらすように計算された、既定量の活性試薬を含有する。本発明の単位剤形の規格は、活性試薬特有の特性および達成される特定の治療効果、ならびにそのような活性物質を個人の治療のために化合する分野に内在する制限によって決まり、これらに直接的に依存する。
【0263】
単位剤形は、例えば、カプセル剤、IVバッグ、錠剤、エアゾール吸入器のシングルポンプ、またはバイアルをはじめとする様々な形態のいずれかである。組成物の単位用量中の活性成分(例、開示される化合物、またはその塩、水和物、溶媒和物、もしくは異性体の製剤)の量は、効果的な量であり、関与する特定の治療法に従って変化する。患者の年齢および状態に応じて、投与量に日常的な変化をつけることが必要な場合があることを当業者は理解するであろう。投与量は、投与の経路にも依存する。様々な経路が意図され、経口的、肺内、直腸内、非経口的、経皮的、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、頬側、舌下、胸膜内、髄腔内、鼻腔内などが含まれる。本発明の化合物の局所または経皮的投与用の剤形には、散剤、スプレー剤、軟膏、ペースト、クリーム、ローション剤、ゲル、液剤、パッチ、および吸入剤が含まれる。一実施形態では、活性化合物は、滅菌条件下において薬学的に許容される担体、および必要なあらゆる保存剤、緩衝剤、または噴射剤と混合される。
【0264】
用語「フラッシュ用量」は、急速に分散する剤形である化合物製剤を意味する。
【0265】
用語「即時放出」は、比較的短い時間、通常は最大約60分間の剤形からの化合物の放出として定められる。用語「調節放出」は、遅延放出、延長放出、およびパルス放出を含むものと定められる。用語「パルス放出」は、剤形からの薬の一連の放出として定められる。用語「持続放出」または「延長放出」は、長期間にわたる剤形からの化合物の継続的な放出として定められる。
【0266】
「対象」には、哺乳類、例えばヒト、コンパニオンアニマル(例、犬、猫、鳥など)、家畜動物(例、牛、羊、豚、馬、家禽など)、および実験動物(例、ラット、マウス、モルモット、トリなど)が含まれる。一実施形態では、対象はヒトである。
【0267】
本明細書で用いられるように、表現「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内において、理にかなった利益/リスク比に見合った、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題あるいは合併症を引き起こすことなくヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適した、化合物、材料、組成物、担体、および/または剤形を意味する。
【0268】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全で、毒性を持たず、生物学的またはその他の点でも望ましくないものでない、医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、家畜への使用だけでなくヒトへの薬学的使用に許容される賦形剤が含まれる。明細書および請求項で使用されるような「薬学的に許容される賦形剤」には、1つのおよび2つ以上のそのような賦形剤がともに含まれる。
【0269】
本発明の化合物は、さらに塩を形成することができる。これらの形態の全ても、請求される発明の範囲内に含まれるように意図される。
【0270】
化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の医薬活性を有する塩を意味する。
【0271】
本明細書で用いられるように、「薬学的に許容される塩」は、開示される化合物の誘導体を意味し、その酸性塩または塩基性塩を作ることで親化合物が修飾される。薬学的に許容される塩の例には、塩基性残基、例えばアミンの鉱酸塩または有機酸塩、酸性残基、例えばカルボン酸等の酸性残基のアルカリ塩または有機塩などが含まれるがこれらに限定されない。薬学的に許容される塩には、例えば、非毒性の無機酸または有機酸から形成される親化合物の伝統的な非毒性塩または4級アンモニウム塩が含まれる。例えば、そのような伝統的な非毒性塩には、2‐アセトキシ安息香酸、2‐ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2‐エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコールリアルサニン酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバム酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシリン酸、硝酸、シュウ酸、パモン酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、スバセチン酸、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、および一般に生じるアミン酸、例えばグリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン等から選択される無機酸および有機酸由来のものが含まれるがこれらに限定されない。
【0272】
その他の例には、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3‐(4‐ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、4‐クロロベンゼンスルホン酸、2‐ナフタレンスルホンサン、4‐トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4‐メチルビシクロ‐[2.2.2]‐オクト‐2‐エン‐1‐カルボン酸、3‐フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert‐ブチル酢酸、ムコン酸などが含まれる。本発明は、親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンによって置換されているか、または有機塩基、例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N‐メチルグルカミンなどと配位しているかのいずれかである場合に形成される塩も包含する。
【0273】
薬学的に許容される塩への全ての言及が、同一の塩の、本明細書で定められるような溶媒付加形態(溶媒和物)または結晶形(多形)を含むことが理解される必要がある。
【0274】

本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性部分または酸性部分を含む親化合物から合成されうる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸形態または遊離塩基形態を化学量論的な量の適切な塩基または酸と、水または有機溶媒中、あるいはこれら2つの混合物中で反応させることによって調製可能であり、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が使用されうる。適当な塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.(Mack Publishing Company,1990)に認められる。例えば、塩には、本発明の脂肪族アミン含有化合物、ヒドロキシルアミン含有化合物、およびイミン含有化合物の塩酸塩および酢酸塩が含まれうるがこれらに限定されない。
【0275】
本発明の化合物は、プロドラッグ、例えば薬学的に許容されるプロドラッグとして調製されうる。用語「プロ‐ドラッグ」および「プロドラッグ」は、本明細書において互換可能に用いられ、in vivoにおいて活性な親薬剤を放出するあらゆる化合物を意味する。プロドラッグは医薬品の多くの望ましい品質(例、溶解性、バイオアベイラビリティ、製造等)を高めることが知られているため、本発明の化合物はプロドラッグ形態で送達されうる。故に、本発明は、ここで請求されている化合物、そのようなものおよびそのようなものを含有する組成物を送達する方法を含むことを目的とする。「プロドラッグ」は、そのようなプロドラッグが対象に投与されたときに、in vivoにおいて本発明の活性な親薬剤を放出する、あらゆる共有結合した担体を含むことを目的とする。本発明のプロドラッグは、ルーチンの操作、またはin vivoのいずれかにおいて修飾が切断されて親化合物になるようなやり方で、化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグには、本発明の化合物が含まれ、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシ基、またはカルボニル基は、in vivoにおいて切断されて、それぞれ遊離ヒドロキシル基、遊離アミノ基、遊離スルフヒドリル基、遊離カルボキシ基、または遊離カルボニル基を形成してよい、あらゆる基と結合している。
【0276】
プロドラッグの例には、化合物中のヒドロキシ官能基のエステル(例、アセタート、ジアルキルアミノアセタート、ホルマート、ホスファート、スルファート、およびベンゾアート誘導体)ならびにカルバマート(例、N,N‐ジメチルアミノカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル基(例、エチルエステル、モルホリノエタノールエステル)、アミノ官能基のN‐アシル誘導体(例、N‐アセチル)N‐マンニッヒ塩基、シッフ塩基、およびエナミノン、ケトンおよびアルデヒド官能基のオキシム、アセタール、ケタール、およびエノールエステルなど含まれるがこれらに限定されず、例えば、Bundegaard,H.「Design of Prodrugs」p1‐92,Elesevier,New York‐Oxford(1985)を参照されたい。
【0277】
「保護基」は、分子中の反応基と結合したとき、その反応性をマスクする、低下させる、または妨げる原子の集団を意味する。保護基の例は、Green and Wuts,Protective Groups in Organic Chemistry,(Wiley,2nd ed.1991)、Hrrison and Harrison et al.,Compendium of Synthetic Organic Methods,Vols.1‐8(John Wiley and Sons,1971‐1996)、およびKocienski,Protecting Groups,(Verlag,3rd ed.2003)に見つけることができる。
【0278】
「安定した化合物」および「安定した構造」は、反応混合物からの有用な純度までの単離、および有効な治療薬への製剤化に耐えるよう十分堅固な化合物を示すものである。
【0279】
本明細書では、文脈による明らかな別段の記載がない限り、単数形は複数形も含む。別段の定めがない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、本明細書が属する分野の業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持つ。疑義が生じた場合には、本明細書が優先される。
【0280】
本明細書で使用される全ての割合および比は、別段の記載がない限り、重量によるものである。
【0281】
「併用療法」(またはco‐therapy)には、本発明の化合物と少なくとも1つの第2の物質の、これらの治療薬の相互作用から有益な効果をもたらすことを目的とする特定の治療レジメンの一部としての投与が含まれる。組み合わせの有益な効果には、治療薬の組み合わせから生じる薬物動態学的または薬物力学的相互作用が含まれるがこれらに限定されない。これらの治療薬の組み合わせでの投与は典型的に、定められた時間(通常は、選択される組み合わせに応じて数分間、数時間、数日、または数週)にわたって行われる。通常はそうではないが、「併用療法」は、本発明の組み合わせを偶発的におよび任意にもたらす個別の単剤療法レジメンの一部としての、これらの治療薬の2つ以上の投与を包含することを目的としてよい。
【0282】
「併用療法」は、これらの治療薬の連続での投与、すなわち、各治療薬が異なる時点で投与されるものだけでなく、これらの治療薬または治療薬の少なくとも2つの実質的に同時の投与を包含することを目的とする。実質的に同時の投与は、例えば、一定の比率の各治療薬を有する単一のカプセルを、または治療薬のそれぞれについて多数の単一のカプセルを対象に投与することで達成されうる。各治療薬の連続投与または実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を介した直接吸収を含むがこれらに限定されないあらゆる適切な経路によって行われうる。治療薬は、同じ経路によって、または異なる経路によって投与されうる。例えば、選択された組み合わせの第1の治療薬が静脈内注入によって投与されてよい一方で、組み合わせのもう1つの治療薬は経口的に投与されてよい。あるいは、例えば、全ての治療薬は経口的に投与されてよい、または全ての治療薬は静脈内注入によって投与されてよい。治療薬が投与される順番は、狭義において重要ではない。
【0283】
「併用療法」は、その他の生物学的に活性な成分および非薬剤療法(例、外科手術または放射線治療)とさらに組み合わされた、上述のような治療薬の投与も包含する。併用療法が非薬剤療法をさらに含む場合、治療薬と非薬剤療法の組み合わせの相互作用から有益な効果が達成される限りは、非薬剤療法は任意の適当な時点において実施されてよい。例えば、適切な例では、恐らくは数日間または場合によっては数週間、治療薬の投与から非薬剤療法が一時的に取り除かれた場合、それでも有益な効果が達成される。
【0284】
説明全体を通して、組成物が特定の成分を持つ、含む、または有するものとして説明される場合、組成物が言及された成分のみから実質的になる、または言及された成分のみからなることも意図される。同様に、プロセスが特定のプロセスステップを持つ、含む、または有するものとして説明される場合、そのプロセスはさらに、言及されたプロセスステップのみから実質的になる、または言及されたプロセスステップのみからなる。さらに、本発明が実施可能である限りは、ステップの順番または特定の行為を行う順番は重要でないことが理解される必要がある。さらに、2つ以上のステップまたは行為は同時に行われてよい。
【0285】
化合物、またはその薬学的に許容される塩は、経口的に、鼻腔内に、経皮的に、肺内に、吸入で、頬側に、舌下に、腹腔内に、皮下に、筋肉内に、静脈内に、直腸内に、胸膜内に、髄腔内に、および非経口的に投与される。一実施形態では、化合物は経口的に投与される。当業者は、特定の投与経路の利点を理解するであろう。
【0286】
化合物を利用する投与レジメンは、患者の種別、種、年齢、体重、性別、および医学的状態、治療される状態の重症度、投与経路、患者の腎臓および肝臓機能、用いられる特定の化合物またはその塩をはじめとする様々な因子に従って選択される。通常の技術を持つ内科医または獣医は、状態の進行を防ぐ、歯止めをかける、または抑えるのに必要な、薬物の効果的な量を容易に決定し処方することができる。
【0287】
開示される本発明の化合物の製剤化および投与のための技術は、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,19th edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1995)に認められる。ある実施形態では、本明細書で説明される化合物、およびその薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせた医薬製剤として使用される。適当な薬学的に許容される担体には、不活性な固形充填剤または希釈剤および滅菌済み水溶液または有機溶液が含まれる。化合物は、本明細書で説明される範囲にある所望の投与量をもたらすのに十分な量で、そのような医薬組成物中に存在するであろう。
【0288】
一実施形態では、化合物は経口投与用に調製され、開示される化合物またはその塩は、適当な固形もしくは液体担体または希釈剤と混合されて、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤などを形成する。
【0289】
錠剤、丸剤、カプセル剤などは、約1〜約99重量%の活性成分と、結合剤、例えばトラガカントガム、アカシア、トウモロコシデンプン、またはゼラチン、賦形剤、例えば第二リン酸カルシウム、崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、またはアルギン酸、潤沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、および/または甘味剤、例えば白糖、乳糖、サッカリン、キシリトールなどを含有する。単位剤形がカプセル剤である場合、それは、上記の種類の材料のほかに、液体担体、例えば脂肪油を含むことが多い。
【0290】
いくつかの実施形態では、各種他の材料は、コーティングとして、または剤形の物理的形態を修飾するために存在する。例えば、いくつかの実施形態では、錠剤は、セラック、糖、または両方でコーティングされる。いくつかの実施形態では、シロップ剤またはエリキシル剤は、活性成分の他に白糖を甘味剤として、メチルおよびプロピルパラベンを保存剤として、色素および着香剤、例えばチェリーまたはオレンジフレーバーなどを含有する。
【0291】
非経口投与に関するいくつかの実施形態については、開示される化合物、またはその塩、溶媒和物、互変異性体、もしくは多形は、注射用溶液または懸濁液を形成するために滅菌済み水性媒体または有機媒体と混合されうる。一実施形態では、注射用組成物は、水性等張液または懸濁液である。組成物は滅菌されてよい、および/またはアジュバント、例えば保存剤、安定化剤、湿潤剤、または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧の調節のための塩類および/または緩衝剤を含有する。さらに、それらは、その他の治療上有用な物質も含有してよい。組成物はそれぞれ、従来の混合、造粒、またはコーティング方法に従って調製され、約0.1〜75%の活性成分を含有する、別の実施形態では組成物は約1〜50%の活性成分を含有する。
【0292】
例えば、注射用溶液は、溶媒、例えばゴマ油もしくはラッカセイ油または水性プロピレングリコールだけでなく、水溶性の化合物の薬学的に許容される塩の水溶液を使用して作製される。いくつかの実施形態では、分散液は、油に含まれるグリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物に調製される。通常の保存および使用の条件下では、これらの製剤は微生物の増殖を防ぐために保存剤を含有する。本明細書で使用されるような用語「非経口投与」および「非経口的に投与される」は、腸内および局所投与以外の投与の形式、通常は注射によるものを意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内注射および注入が限定されずに含まれる。
【0293】
直腸内投与では、適当な医薬組成物は、例えば局所用製剤、坐剤、または浣腸である。坐剤は、脂肪エマルションまたは懸濁液から有利に調製される。組成物は、滅菌されてよい、および/またはアジュバント、例えば保存剤、安定化剤、湿潤剤、または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧の調節のための塩類および/または緩衝剤を含有する。さらに、それらは、その他の治療上有用な物質も含有してよい。組成物はそれぞれ、従来の混合、造粒、またはコーティング方法に従って調製され、約0.1〜75%の活性成分を含有する、別の実施形態では組成物は約1〜50%の活性成分を含有する。
【0294】
いくつかの実施形態では、組成物は、肺内投与、例えば活性物質を含有するエアゾール製剤の、例えば手動式ポンプスプレー、ネブライザー、または高圧定量噴霧式吸入器からの投与によって活性物質を送達するために製剤化される。いくつかの実施形態では、この種の適当な製剤は、開示される化合物を効果的なエアゾール剤として保つために、その他の物質、例えば帯電防止剤も含む。
【0295】
エアゾール剤を送達するための薬物送達器具は、説明されるような医薬用エアゾール製剤を含有する、定量バルブを備える適当なエアゾール缶と、缶を保持し、薬物送達を可能にするために適合されたアクチュエーターハウジングを有する。薬物送達器具内のキャニスターは、キャニスターの全容積の約15%を超える量に相当するヘッドスペースを有する。多くの場合、肺内投与用のポリマーは、溶媒、界面活性剤、および噴射剤の混合物に溶解、懸濁、または乳化される。混合物は、定量バルブでシールされた缶内に圧力下で維持される。
【0296】
鼻腔内投与では、固形または液体担体のいずれかが使用されうる。固形担体には、例えば約20〜約500ミクロンの範囲にある粒子径を持つ粗末が含まれ、そのような製剤は、鼻腔経路を介した急速な吸入によって投与される。いくつかの実施形態では、液体担体が使用される場合、製剤は鼻腔内スプレーまたは点鼻剤として投与され、活性成分の油性または水性溶液を含む。
【0297】
活性試薬は、体内からの急速な排出を防ぐ担体と一緒に調製されうる。例えば、制御放出製剤が使用可能であり、これにはインプラントおよびマイクロカプセル化送達システムが含まれる。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセタート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸が使用されうる。そのような製剤の調製のための方法は、当業者には明らかであろう。材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的にも入手可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を持つ、感染細胞を標的するリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用されうる。これらは、例えば米国特許第4522811号で説明されているような、当業者に既知の方法に従って調製されうる。
【0298】
本発明の組成物および製剤は、1つ以上の乾燥剤も有しうる。本発明で使用されうる適当な乾燥剤は薬学的に安全なものであり、例えば医薬品グレードのシリカゲル、結晶ナトリウム、カリウム、またはカルシウムアルミノケイ酸塩、コロイド状シリカ、無水硫酸カルシウムなどが含まれる。乾燥剤は、約1.0%〜20.0%、または約2%〜15%w/w(または前述の範囲内にあるあらゆる値)の量で存在してよい。
【0299】
「フラッシュドーズ」形態としても知られる、急速に分散する剤形である製剤も意図される。特に、本発明のいくつかの実施形態は、それらの活性成分を短時間のうちに、例えば典型的には約5分未満、別の実施形態では、約90秒未満、別の実施形態では約30秒未満、および別の実施形態では約10または15秒未満のうちに放出する組成物として製される。そのような製剤は、様々な経路、例えば体腔への挿入による、または湿潤性の体表面または開放性創傷への塗布による対象への投与に適している。
【0300】
典型的には、「フラッシュドセージ」は、口腔内で急速に分散する、経口的に投与される固形剤形であり、故に飲み込むのに多大な労力は必要ではなく、口腔粘膜を介して化合物が急速に摂取されるまたは吸収される。いくつかの実施形態では、適当な急速に分散する剤形は他の応用でも使用され、これには、外部から供給される水分による薬剤の放出が可能でない、創傷および他の身体の損傷ならびに病的状態の治療が含まれる。
【0301】
「フラッシュドーズ」形態は当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許第5578322号および同5607697号の発泡性の剤形および不溶性ミクロ粒子の迅速放出コーティング、米国特許第4642903号および同5631023号の凍結乾燥発泡体および液体、米国特許第4855326号、同5380473号、および同5518730号の剤形の溶融紡糸、米国特許第6471992号の固体、遊離形態作製、米国特許第5587172号、同5616344号、同6277406号、および同5622719号のサッカライドベースの担体マトリックスおよび液体結合剤、ならびに当該技術分野に既知のその他の形態を参照されたい。
【0302】
本発明の化合物は、一連の放出(すなわち、パルス)において化合物が医薬組成物から放出される「パルス放出」製剤としても製される。化合物は、長時間にわたって化合物が医薬組成物から継続的に放出される「持続性放出」製剤としても製される。
【0303】
製剤、例えば、環状または非環状カプセル化剤または溶媒和化剤、例えばシクロデキストリン、ポリエーテル、またはポリサッカライド(例、メチルセルロース)、または別の実施形態では、アルキルエーテルスペーサー基またはポリサッカライドによって親油性の空孔から分離されるスルホン酸ナトリウム塩基を有するポリアニオン系βシクロデキストリン誘導体を含む、液体製剤も意図される。一実施形態では、物質はメチルセルロースである。別の実施形態では、物質は、ブチルエーテルスペーサー基によって親油性の空孔から分離されるスルホン酸ナトリウム塩を有するポリアニオン系のβ‐シクロデキストリン誘導体、例えばCAPTISOL(登録商標)(CyDex、カンザス州オーバーランド)である。当業者は、物質を含む水の溶液、例えば重量で40%の溶液を調製することによって、例えば、20%、10、5%、2.5%、0%(コントロール)などの溶液を作製するために連続希釈を行うことによって、過剰な(物質によって溶解されうる量と比べて)開示される化合物を添加することによって、適当な条件、例えば、加熱、攪拌、超音波処理などの下で混合することによって、得られる混合物を遠心分離またはろ過して、透明な溶液を得ることによって、開示される化合物の濃度について溶液を解析することによって、適当な物質/開示される化合物製剤比を評価できる。
【0304】
本明細書で言及される全ての出版物および特許文書は、あたかもそのような出版物または文書のそれぞれが参考として本明細書に具体的かつ個別に援用されることが示されるかのように、参考として本明細書で援用される。出版物および特許文書の引用は、任意のものを関連する先行技術であると認めることを意図するものではなく、またそうしたものの内容または日付に関していずれを認めるものでもない。記述による説明によって本発明を説明したが、本発明は様々な実施形態において実施可能であり、これまでの説明および下記の実施例は説明のためのものであって、下記に続く請求項を限定するものではないことを当業者は理解するであろう。
【実施例】
【0305】
実施例1:KX2‐391のスモールスケール合成
【0306】
【化4】

下記で説明する予備合成は、米国特許第7300931号で説明されている。この手順は、スモールスケールの反応、例えば最大50gの生成物を産生する反応に有用である。この合成は、例えば研究グレードの材料を産生するのに有用である。
【0307】
下記の合成では、別段の記載がない限り、試薬および溶媒は、商業的供給業者から受け取った状態で使用した。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは、Bruker AC300またはBruker AV300スペクトロメーターで、プロトンは300MHz、カーボンは75MHzで得た。スペクトルは、ppm(δ)で与えられ、カップリング定数Jはヘルツで報告される。プロトンスペクトル用の内部標準としてテトラメチルシランを使用し、溶媒ピークを、カーボンスペクトル用の基準ピークとして使用した。質量スペクトルおよびLC‐MS質量データを、Perkin Elmer Sciex100大気圧イオン化(APCI)マススペクトロメーター上で取得した。LC‐MS解析は、Luna C8(2)カラム(100×4.6mm、Phenomenex)を使用して、標準的な溶媒グラジエントプログラム(方法B)を使用した254nmにおけるUV検出で取得した。薄層クロマトグラフィー(TLC)を、Analtechシリカゲルプレートを使用して実施し、紫外線(UV)光、ヨウ素、または20wt%リンモリブデン酸を含むエタノールによって可視化した。HPLC解析を、Prevail C18カラム(53×7mm、Alltech)を使用して、標準的な溶媒グラジエントプログラム(方法AまたはB)を使用した254nmにおけるUV検出によって取得した。
【0308】
【化5】

N‐ベンジル‐2‐(5‐ブロモピリジン‐2‐イル)アセトアミドの合成:
【0309】
【化6】

フラスコに5‐(5‐ブロモピリジン‐2(1H)‐イリデン)‐2,2‐ジメチル‐1,3‐ジオキサン‐4,6‐ジオン(1.039g、3.46ミリモル)、ベンジルアミン(0.50mL、4.58ミリモル)、およびトルエン(20mL)を入れた。窒素雰囲気下で反応物を18時間還流させ、冷却し、冷えるまで冷凍庫内に静置した。ろ過によって生成物を集め、ヘキサンで洗浄して明るい白色の結晶の塊を得た(1.018g、96%)。
4‐(2‐(4‐(4,4,5,5‐テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン‐2‐イル)‐フェノキシ)エチル)モルホリンの合成:
【0310】
【化7】

0℃の4‐(4,4,5,5‐テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン‐2‐イル)‐フェノール(2.55g、11.58ミリモル)、2‐モルホリン‐4‐イルエタノール(1.60mL、1.73g、13.2ミリモル)、およびトリフェニルホスフィン(3.64g、13.9ミリモル)を含む塩化メチレン(60mL)の攪拌溶液に、DIAD(2.82g、13.9ミリモル)を滴下しながら加えた。反応物を室温まで昇温し、一晩攪拌した。18時間後、追加のポーションのトリフェニルホスフィン(1.51g、5.8ミリモル)、2‐モルホリン‐4‐イルエタノール(0.70mL、5.8ミリモル)、およびDIAD(1.17g、5.8ミリモル)を加えた。室温でさらに2時間で攪拌した後、反応物を濃縮し、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(5%〜25%EtOAcを含むCHCl)で精製して、生成物を白色固体として得た(2.855g、74%)。
【0311】
セプタム栓と攪拌子を備える10mLの反応チューブに、N‐ベンジル‐2‐(5‐ブロモピリジン‐2‐イル)アセトアミド(123mg、0.403ミリモル)、4‐(2‐(4‐(4,4,5,5‐テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン‐2‐イル)‐フェノキシ)エチル)モルホリン(171mg、0.513ミリモル)、およびFibreCat1007(30mg、0.015ミリモル)を入れた。エタノール(3mL)を加えた後、炭酸カリウム水溶液(0.60mL、1.0M、0.60ミリモル)を加えた。チューブを密封し、マイクロ波条件下で150℃、10分間加熱した。反応物を冷却し、濃縮して大部分のエタノールを除去し、10mLの酢酸エチルに取り、水および飽和塩化ナトリウム溶液で相次いで洗浄した。有機層をMgSOで乾燥し、ろ過し、濃縮して白色固体とした。この白色固体をエチルエーテルでトリチュレートし、KX2‐391を白色固体として得た(137mg、79%):mp135‐137℃。
【0312】
【化8】

ポリマー結合ジ(アセタト)ジシクロヘキシルフェニルホスフィンパラジウム(II)、Johnson Matthey,Inc.製造、Aldrichから入手可能(カタログ♯590231)。
【0313】
実施例2:KX2‐391の中間スケール合成
この実施例で概説する合成は、中間スケール反応で使用されうる。少なくとも50gのバッチのKX2‐391の二塩酸塩の調製をスキーム1に示す。線形合成は6ステップで構成され、7番目のステップは試薬の1つである6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸(商業的にも入手可能である)の調製である。シークエンスの総収率は35%で、平均収率は83%、最も低い収率ステップの収率は68%であった。7つのステップのうち、クロマトグラフィーを必要としたものは1つだけであった。下記に示す手順は、70gスケールで実施した。
【0314】
【化9】

第1のステップは、KCO粉末(3〜3.5当量)を塩基として使用し、アセトニトリルを溶媒として有する、4‐ブロモフェノール(131g)およびN‐クロロエチルモルホリン(HCl塩としての、141g)の間のウィリアムソンエーテル合成である。材料を混合し、一晩還流しながら攪拌したが、変換率は高かった(96.3〜99.1%)。ジクロロメタンおよびヘプタンで希釈後、反応混合物をろ過し、蒸発させて、所望の生成物を実質的に定量的収率で得た(216g)。類似の基質(例、4‐ブロモ‐3‐フルオロフェノール)を用いると、変換(かなり加熱しても)は必ずしもそれほど高くはなかった(例、59.9〜98.3%)ことに注目されたい。塩化アルキルおよびKCOはともに、好ましくはAldrichから購入する。加熱を続けても反応が完了しない場合は、粗製の反応混合物を4分注量のトルエンに溶解し、4分注量の15%NaOH水溶液でフェノールを洗い出すことで、未反応のブロモフェノールを容易に除去できる。
【0315】
第2のステップ(鈴木カップリング)に必要な試薬の1つは、6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸()であった。商業的にも入手可能であるが、この試薬は、低温(<−60℃)においてTBME中においてn‐ブチルリチウム(1.2当量)で5‐ブロモ‐2‐フルオロピリジン(、102g)のリチウム‐ブロミド変換を行い、続いてトリイソプロピルボラート(1.65当量)を添加することによって容易に調製された。反応の両ステージは短く、総反応時間(添加時間を含む)は約3時間である。クエンチは24%NaOH水溶液で行われ、これは有機層に不純物を残し生成物も抽出する。水層を除去したら、HClでこれを中性とし、EtOAcで抽出する。有機物質を乾燥させていくらかのヘプタンで希釈した後、濃縮すると生成物の沈殿/結晶化が起こる。ろ過によって、ボロン酸を比較的高純度(96.4%AUC)かつ良好な収率(69g、79〜90%、実験セクションの収率の概算に関する注記参照)で得、これはさらなる精製を行わずに使用可能であった。
【0316】
線形シークエンスにおける第2の反応ステップ(鈴木カップリング)は設定が単純な反応であり、全ての試薬[(111g)、NaCO水溶液、DME、およびPd(PPh(0.04当量)]を反応フラスコに入れ、混合物を還流加熱したが、酸素を除去するために反応混合物を脱気したことに留意されたい。反応が完了したら(7時間以内)、ワークアップとしてフラスコの側面上の有機塩から反応溶液をデカンテーション(または吸引する)し(目に見える水層はなかった)、フラスコをリンスし、乾燥し、集めた有機物質から溶媒を除去した。イソプロパノール/ヘプタンからの粗生成物の結晶化によって、粗生成物と比較すると純度が高い材料を得たが、十分な純度(>98%)の材料を得るにはやはりクロマトグラフィー(粗生成物に対するシリカゲルの割合は約8.5:1であった)が必要であり、収率は68%(79.5g)であった。他の物質が混入していないを使用することで、次のステップであるフッ素原子のアセトニトリル置換においてクロマトグラフィーを使用する必要がなくなった。
【0317】
アセトニトリルでのフッ化物の置換も単純な反応であり、粗生成物の室温での単純な結晶化によって、他の物質が混入していないが高い収率および純度で得られた。この反応では、−10℃においてカリウムヘキサメチルジシランKHMDS(8当量)/THFを使用してアセトニトリル(6.5当量)から「エノラート」を最初に形成し、直後にフッ化物(79g)を添加した。反応は迅速で、1時間後に飽和食塩水でクエンチを行った。乾燥し、有機物質の溶媒を蒸発させた後、得られた粗製混合物は、2つの成分、所望の生成物とアセトニトリルの明らかな自己縮合に由来する極性が非常に低い生成物のみで構成されていた。粗製混合物を、イソプロパノール/ヘプタン中で振り混ぜ、一晩静置すると、生成物の完全な結晶化がもたらされ、これをろ別し洗浄して、高純度の(99.3%AUC)を良好な収率(64g、76%)で得た。
【0318】
(64g)の加メタノール分解を、反応が完了するまで(25時間)40%のHSO(MeOH中)中で加熱することによって行った。次に反応物を冷却し、MgSOとともに攪拌して少量の加水分解産物(ArCH‐COMe)を変換して生成物に再度戻し、その後、冷却したKCO水溶液に加えて、同時にジクロロメタンへ抽出した。大部分のDCMを乾燥し蒸発させた後、5%のEtOAc(ヘプタン中)を添加し、さらに濃縮すると生成物の結晶化がもたらされた。固体のろ過と洗浄によって、高純度(98.9%AUC)のを良好な収率(82%)で得、さらなる高純度の生成物(4g)を母液から得、総収率は61.7g(87%)となった。
【0319】
アミド化ステップも、反応容器に材料((61g)、ベンジルアミン(3当量)、および高沸点アニソール)を入れ、反応が完了するまで還流加熱するステップを伴うものであった。反応混合物の冷却によって、高純度(98.9%)および良好な収率(81%)で標的化合物の完全な結晶化がもたらされた。
【0320】
最終ステップは、標的化合物の二塩酸塩の形成であった。両塩基性部位における完全なプロトン化を確実にするために無水エタノール中で反応を行ったが、これは自由に二塩酸塩を溶解した。ほぼ乾燥するまで蒸発させた後、反応混合物をエタノールで2回「チェーシング」して過剰な塩化水素を除去した。得られた粘調性の油をエタノール(2分注量)に溶解し、急速に攪拌しながら多量(20分注量)のEtOAc(酢酸エチル)に加えた。ろ過、酢酸エチル(ヘプタンなし)での洗浄、および真空乾燥によって、KX2‐391の二塩酸塩を乳白色の粉末として得た。合計68g(収率97%)が最終的な塩として高純度(99.6%AUC)で得られ、これは少量のEtOAc(4.8%w/w)、EtOH(0.3w/w)、およびヘプタン(0.6%w/w、真空乾燥前のヘプタンでの最終洗浄から)を含んでいた。さらにこの塩を加熱EtOH/EtOAcから結晶化させて(上述の沈殿法の代わりに)、取り込まれる溶媒のレベルがかなり低く(わずか0.26%w/wのEtOAcと0.45%w/wのEtOH)、自由に流動する結晶ビーズを得た。
【0321】
実験
【0322】
【化10】

4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン()の調製:
機械式攪拌装置、アダプター付き温度計、冷却器、および窒素流入口(冷却器の上部)を備えた5L容量の三つ口丸底フラスコに、(140.7g、0.756モル)、4‐ブロモフェノール(130.6g、0.755モル)、無水KCO粉末(367.6g、2.66モル、3.5当量)、およびアセトニトリル(1.3L)を入れた。混合物を80℃で(一晩)激しく攪拌し(フラスコの底にブレードが触れるように)、その後DCM(500mL)およびヘプタン(200mL)で希釈して、セライトでろ過した。蒸発乾固(回転エバポレーター後、高真空)して、を淡黄色の油として得た(216.00g、100%の収率、96.3%AUC、3.7%の未反応のブロモフェノールを含有)。この材料を、さらなる精製を行わずに使用することができた。
【0323】
【化11】

まずサンプルをトルエン(8g)に溶解し、8gの15%NaOH水溶液で洗浄することによって、ブロモフェノールが容易に除去されうることが2gのサンプルで示された。液体クロマトグラフィーは、回収された生成物(1.97g、98.5%回収)中に未反応のブロモフェノールの痕跡を示さなかった。
【0324】
【化12】

6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸()の調製:
攪拌し冷却(ドライアイス‐アセトン浴)した無水[TBME](620mL、機械式攪拌装置、アダプター付き温度プローブ、および窒素流入口を備えた3L容量の三つ口丸底フラスコ中の)に、2MのBuLi(352mL、0.704モル、1.2当量)を(シリンジで)加えた。この急速に攪拌し冷却(<−75℃)した混合物に、(102.2g、0.581モル)を含む無水TBME(100mL)の溶液を13分間にわたって加え、この間内部温度は−62℃に上昇した。反応物をさらに45分間攪拌し(温度を−62℃から−80℃の間に維持した)、その後、4ポーションのトリイソプロピルボラート(全量180g、0.957モル、1.65当量)を急速に連続添加した。添加終了時、内部温度は−33℃に上昇した。冷水浴でさらに45分間攪拌した後(内部温度は−33℃から−65℃に低下)、冷水浴を取り除き、50分間の間に攪拌混合物は自然に−22℃まで上昇した。15分間にわたって6℃まで昇温した(水浴で)後で、攪拌反応混合物を氷水浴内に静置し、窒素雰囲気下でNaOH(160g)を含む冷却水溶液(500mL)でクエンチした。添加が終了すると、内部温度は20℃であった。この混合物を室温で1.5時間攪拌した。水層を除去し、約350mLの濃HClでpH7の中性とした後、EtOAcで抽出した(3×1L)。ここでpHは8〜9であるため、約15mLの濃HClを使用して水層をpH7に調節し、酢酸エチルでさらに抽出した(2×1L)。集めたEtOAc抽出物を乾燥し(NaSO)、ろ過し、濃縮して約150mLの量にした。濃縮物を振り混ぜながら、ヘプタンをポーションで加え(全量は300mL)、生成物の沈殿/結晶化がもたらされた。ろ過、ヘプタンでの固体の洗浄(100mL、300mL、その後さらに300mL)、風乾によって、オフホワイトの固体として表題化合物を得て(68.6g、収率79〜90%、LC純度96.4%、NMRでは、およそ5.5%w/wのヘプタンが示された)、これをさらなる精製を行わずに使用した。LC/MSは、これが下記の2つの構成要素の混合物であることを示しており、分子量が大きい構成成分の強度が大きかった(注:反応物の収率は、ボロン酸が唯一の構成成分であると仮定すれば79%であり、環状ホウ酸塩が唯一の成分であると仮定すれば90%である)。
【0325】
【化13】

4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリン()の調製:
機械式攪拌装置、温度計およびアダプター、冷却器、ならびに窒素流入口(冷却器の上部に)を備えた2L容量の三つ口丸底フラスコに、(110.7g、0.387モル)、(71.05g、0.477モル、1.23当量)、およびDME(700mL)を入れた。得られた攪拌溶液を、攪拌溶液に窒素の急速気流を5分間通すことによって脱気し、その後、NaCO(121.06g、1.142モル、3当量)を含むHOの脱気溶液(250mL)および固形Pd(PPh(19.8g、0.044当量)を加えた。最後の添加の直後に、反応混合物上部のヘッドスペースを窒素でパージし、その後混合物を80〜85℃(内部温度)で7時間攪拌し、次いで室温まで冷却した。水層がないため、上清をデカンテーションし、無機塩が残った(吸着水とともに)。無機塩が入った反応フラスコを50%のジクロロメタン/酢酸エチル(2×250mL)で洗浄し、洗浄液をデカンテーションした上清に加えた。これらの集めた有機物質を乾燥し(NaSO)、ろ過し、蒸発乾固して暗褐色の油とした(148g)。この油に、150gの50%ヘプタン/イソプロピルアルコール(IPA)を加え、振り混ぜて冷却した(氷水浴で)後、結晶化が始まった。さらなるヘプタン(50g)を加えて、得られた固体をろ過し、洗浄し、風乾して48gの淡褐色の固体を得た。ろ液を蒸発乾固した後、得られた混合物を100mLの50%ヘプタン/IPA中で振り混ぜ、その後さらにヘプタン(約100mL)を添加し、栓をして冷凍庫内に静置して結晶化させた。得られた固体を濾過し、ヘプタンで洗浄し、風乾して61gの粘着性の固体を得た。得られたろ液を蒸発させて油(34g)を得たが、これは、PhP=Oをはじめとする著しく極性の低い不純物を含有していたため、2NのHCl(240mL)およびEtOAc(220mL)の間にこれを分配した。底部の水層を除去して、KCOでpH7〜8に中性化しながらEtOAcとともに攪拌した。EtOAc層を乾燥し、ろ過し、蒸発乾固した(22g)。48g、61g、および22gのポーションについて、DCMに充填したシリカゲル(1.1Kg)でクロマトグラフィーを行った。DCM(400mL)、50%DCM/EtOAc(5L)、次いで漸増する量のMeOH/EtN(1.5%MeOH/1%EtNから始まり、5%MeOH/3%EtNで終了)を含む50%DCM/EtOAc(8L)で溶出して、77.68gの粘調性の油(純度98.0%)を得て、これをヘプタン(300mL)中で振り混ぜるとすぐに結晶化した。ろ過、ヘプタンでの洗浄、および風乾によって75.55g(98.7%AUC)の固体を得た。上記の34gのサンプルについて行ったようにそれらを洗浄し、その後蒸発結晶化することによって、PhP=Oを含む初期のクロマトグラフィー画分からさらなる純粋な(全量で3.9g、98.6〜99.3%AUC)を得た。の総収率は79.5g(68%)であった。
【0326】
【化14】

【0327】
【化15】

2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトニトリル()の調製:
3L容量の三つ口丸底フラスコに、機械式攪拌装置、温度計およびアダプター、追加の漏斗、および窒素流入口(追加の漏斗の上部、バブラーで陽圧に)を取り付けた。バブラーを通過する窒素の急速気流で、ストッパーを取り除き、フラスコにKHMDS(415.8g、2.08モル)、次いで無水THF(1L)を入れた。攪拌し冷却した(氷/メタノール浴、溶液の内部温度は−8℃であった)KHMDS/THF溶液に、MeCN(70g)を含むTHF(110mL)の溶液を22分間にわたって滴下しながら加え、その直後に(79.06g、0.262モル)を含むTHF(400mL)の溶液を比較的急速(4分間)に加え、その後、反応混合物の内部温度は10℃に達した。引き続き冷却すると(1時間)、内部温度は−6℃となり、TLCでは、反応は完了したようであった。さらに30分後(内部温度は−3℃)、反応混合物を飽和食塩水(1L)でクエンチし、EtOAc(500mL)で希釈した。水層を除去した後、有機溶液を乾燥し(NaSO)、ろ過し、蒸発乾固(油になる)に続いて、IPA(150mL)に完全に溶解し、ヘプタン(300mL)で希釈し、種結晶(約100mgの粗製油をIPA(約150mg)に溶解することで調製した)を加え、ヘプタン(約2.5mL)で希釈し、一晩静置した。結晶固体を崩すように攪拌した後、固体をろ過し、250mLの2:1ヘプタン/IPAで洗浄した後ヘプタンで複数回洗浄し、風乾して64.38g(収率76%)の表題化合物を結晶性褐色固体として得た(LC純度は99.3%)。純度が低い別の5.88gの材料をろ液から得た。
【0328】
【化16】

2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセタート()の調製:
2L容量の1つ口の丸底フラスコに、(64.00g、0.198モル)およびMeOH(360g)を入れた後で、ゆっくりと注意深くHSO(240g)を滴下しながら加え、得られた均一な溶液を反応が完了するまで(25時間で未反応の出発原料は0.8%)、3.5%のArCHCOHとともに還流しながら(115℃の油浴)攪拌した。短時間の冷却後、MgSO(75g)を加えて混合物を振り混ぜ、さらに45分間静置した(この時点の組成は、96.3%の生成物、0.8%の未反応の出発原料、および2.5%のArCHCOH)。次いで反応混合物を、急速に攪拌して冷却した(氷水浴)DCM(2L)およびKCO(450g)を含む水(600mL)の溶液の混合物にゆっくりと加えた。得られたエマルションを一晩静置した。有機溶液の透明部分を吸引し、残りの部分を水とDCMで繰り返し処理し、透明な有機物質を吸引したもとの部分と合わせる。集めた有機物質を乾燥し(NaSO)、ろ過し、約1.2Lの量に濃縮し、続いて300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)、次にヘプタン(300mL)を加え、混合物を再度濃縮(回転エバポレーターで加熱して)してDCMを除去した。この時点で15mLのEtOAcを加えて、結晶化が始まるまで熱い混合物を振り混ぜ、結晶化がほぼ完了するまでひきつづき振り混ぜた後、静置して室温まで冷却して完全に結晶化させた。次に固体をろ過し、300mLの5%EtOAc(ヘプタン中)およびヘプタン(100mL)で洗浄した後で完全に風乾して、57.74g(82%収率)のを淡黄色の固体として得た(98.9%AUC)。別の3.94gの他の物質が混入していない生成物(97.9%AUC)をろ液から得た(合計収率87%)。
【0329】
【化17】

2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトアミド(KX2‐391遊離塩基)の調製:
1L容量の1つ口の丸底フラスコに、7(61.4g、0.172モル)、ベンジルアミン(55.6g、0.519モル、3当量)、および無水アニソール(300g)を入れ、反応が実質的に完了するまで還流しながら攪拌し(23時間、165℃油浴温度、内部温度は147℃であった)、ほぼ室温まで冷却した。反応混合物の1ポーション(1mL)をトルエン(1mL)で希釈すると、そのポーションの完全な結晶化がもたらされた。次にこの種を反応混合物に加え、反応混合物全体が単一のブロックに結晶化するまで静置した。トルエン(150mL)を加えて、混合物を振り混ぜて固体を崩した。ヘプタン/トルエン(1:1、100mL)を加えて、固体混合物をさらに崩した。最後に、ヘプタン(50mL、次に25mL)を加えて、より一層混合物を崩し、固体をろ過する前にさらに30分間静置した。固体のろ過、2:1トルエン/ヘプタン(300mL)、1:2トルエン/ヘプタン(300mL)、次いでヘプタン(2×300mL)での洗浄、その後乾燥(風乾、次に高真空)して、60.16g(収率81%)の表題生成物を白色固体として得た(≧98.9%AUC)。別の2.5gの純度が低い(97.4%)材料を母液から得た。
【0330】
【化18】

4‐(2‐(4‐(6‐(2‐(ベンジルアミノ)‐2‐オキソエチル)ピリジニウム‐3‐イル)フェノキシ)エチル)‐モルホリン‐4‐イウムクロリド(KX2‐391、diHCl塩)の調製:
KX2‐391(遊離塩基、60.00g)を含む無水EtOH(600mL)の攪拌懸濁液に、170mLの2.5M HCl(エタノール中)を加えて、フラスコの側面を洗い流すために25mLのEtOHを加えた。得られた均一な溶液を室温で攪拌した後(20分間)、ほぼ乾燥するまで蒸発させた(泡立つまで)。EtOHでchaseした後(2×150mL)、残渣を再びEtOH(150mL)に取り、混合物が飽和したように見えるまでヘプタンをゆっくりと加えた(濁りが残るためには33mLが必要であった)。一晩攪拌後、2つの層が形成された。さらなるヘプタン(250mL)を添加後、やはり結晶化を誘発できなかったため、反応混合物を約200mLの量に濃縮したが、この時点で混合物は均一であった。この濃縮した均一な溶液を、非常に急速に攪拌した(機械的に)EtOAc(2L)に滴下しながら加えた。添加完了後、元のフラスコの25mLのEtOHすすぎ液と、添加用漏斗を急速に攪拌した混合物に加えた。急速な攪拌をさらに約1時間継続した後、混合物をろ過し、固体(部分的に粘着性)をEtOAc(300mL)で、次いでヘプタンで洗浄した。ヘプタンで洗浄を始めた途端に、固体の粘着性が増した。フリット付きブフナー漏斗とその内容物を覆い(ペーパータオル/ゴムバンド)、すばやく真空オーブン内に静置した。約45℃、真空で一晩置いた後、窒素雰囲気下で真空を開放し、生成物(泡状の固体)が入ったブフナー漏斗をただちにジップロックバックに入れ、窒素雰囲気下(グローブバッグ)で瓶に移し、泡状固体を粉末に崩した(へら)。高真空下(約45℃)における2晩目では、わずか1.3gのさらなる重量減少が起こった。高真空(約45℃)の3晩目でも一定の重量が実質的に得られ、重量のわずか0.2gが失われただけであった。材料の最終的な重量は68.05g(収率97%)で、0.29当量(4.8%w/w)のEtOAc、0.035当量(0.3%w/w)のEtOH、および0.03当量(0.6%w/w)のヘプタンを含有していた。純度は99.6%であった。
【0331】
【化19】

元素分析(C2629・2HCl・0.035EtOH・0.29EtOAc・0.03ヘプタン・0.8HOについて):
a.計算されたもの(%):C,60.03、H,6.54、N,7.65、Cl,12.91
b.観察されたもの(%):C,59.85/59.97、H,6.54/6.47、N,7.67/7.67、Cl,13.10/13.24
計算されたFW:534.63(H NMRではHOのエビデンスが示されていないため、非常に吸湿性の高いこの粉末の取り扱い中に恐らく上昇した0.8HOを考慮していない)。
【0332】
この材料中の塩化エチルレベルを測定し、98ppmであることがわかった。サンプルも解析し、5,800ppmのヘプタンを含有することがわかった。
【0333】
このサンプルの別のポーションの解析によって下記の結果が得られた:99.6%AUC、1640ppmエタノール、41,480ppm酢酸エチル、5600ppmヘプタン、アニソール未検出、および120ppm塩化エチル。
【0334】
上記の乾燥塩を使用して、塩を再結晶させるための手順も開発した。この手順は、HCl塩形成反応混合物の濃縮から得られた高純度の粗製塩(残存EtOHを含有)に対してと同じように良好に機能するであろう。
【0335】
塩(575mg)を、2倍の質量の無水EtOH(1.157g)に溶解後、窒素雰囲気下で加熱した。この加熱溶液(攪拌したもの)に、1.6gの25%EtOH(EtOAc中)を加え、続いてEtOAc(0.25mL)を加えると濁りが生じ、これは残存した。混濁した加熱溶液を室温まで冷却し、この間に結晶化が起こった。結晶化が完了した後(2時間)、結晶性固体をろ過し、無水EtOAc(約40mL)で洗浄し、真空乾燥して、わずか0.05当量(0.45%w/w)のEtOHおよび0.015当量(0.26%w/w)のEtOAcを含有する、424mgのKX2‐391の二塩酸塩を自由に流動する固体として得た(小さなビーズ、99.8%AUC)。イソプロパノール/EtOAcを使用すると回収は若干改善した(586mgから460mg)が、溶媒取り込みのレベルは高くなった[0.085当量(1.0%w/w)のイソプロパノールおよび0.023当量(0.4%w/w)のEtOAc]。
【0336】
実施例3:KX2‐391のラージスケール合成
この実施例では、KX2‐391.2HClの少なくとも100gスケールでの調製のための合成経路の開発を説明する。この手順は、例えばキログラム量の材料を産生するために使用されうる。最終経路をスキーム1に示す。この経路は6つのステップであり、エーテル形成、鈴木カップリング、フッ化物置換、および酸触媒溶媒化が含まれる。この手順を、105gのデモンストレーションバッチスケールでテストした。
【0337】
スキーム2.KX2‐391.2HClの調製
【0338】
【化20】

ステップ1:4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製
実施例2でエーテル合成について説明した手順に対するいくつかの変更を開発した。アセトニトリル溶媒中でエーテル合成を行うとき、反応混合物は非常に濃いスラリーであり、攪拌が困難であった。従って、溶媒をジメチルホルムアミド(DMF)に変更し、これによってより扱いやすい白色の薄いスラリーが生成した。厳密な乾燥条件が不可欠でないことも決定した。例えば、0.3容の脱イオン(DI)水は、反応の純度または収率に不利な影響を与えない。反応溶媒をDMFに変えたため、ワークアップも変更した。変更したワークアップは、DI水での希釈およびMTBEでの抽出を伴うものとなった。残存する4‐ブロモフェノールを除去するために、水酸化ナトリウム水溶液で基本的な洗浄を行うのも好都合であった。
【0339】
3435gの4‐(3‐クロロプロピル)モルホリン塩酸塩を4800gの4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)に変換するためにエーテル合成をスケールアップした。HPLCによる純度(AUC%)は99.9%であった。
【0340】
ステップ2:6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸(4)の調製
ボロン酸4の形成を、添加の順番および溶媒を変更することによっていくつかのやり方において改善した。最初の手順は、n‐BuLi溶液を含むヘキサンの冷MTBE溶液への添加を必要とした。次にアニオン性溶液を−75℃未満まで冷却し、5‐ブロモ‐2‐フルオロピリジンを含むMTBEの第2溶液をゆっくりと加えた。得られた混合物に、トリイソプロピルボラートをポーションで立て続けに加えた。このプロセスは、トリイソプロピルボラートを急速に加えるため、スケールアップに修正することはできなかった。この手順の開発は、発表済みの手順(Li,et al.,J.Org.Chem.2002,67,5394‐5397)に従うことによって先行していた。1つの改善は、5‐ブロモ‐2‐フルオロピリジンとトリイソプロピルボラートを、トルエンとTHFの溶液に予め混ぜておくことであった。混合物を−50〜−35℃に冷却し、次にn‐BuLi溶液を添加してアリールアニオンを形成した後で、これをトリイソプロピルボラートによってin situでクエンチして、アリールボラートを形成した。この手順は、発熱イベントを制御しただけでなく、前述のように−75℃未満よりも高い温度で実施された。反応の最中により高い温度が得られれば、ブロモブタンからのHBrの排除の競合的反応が認められると考えられた。n‐BuLiまたはアリールアニオンが副反応中の塩基であるかどうかは探索しなかった。単なる塩酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液での抽出を加えることによってワークアップを変更した。水性抽出物を注意深く集め、これによって若干のpH調節が必要となったのみであった。
【0341】
6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸(4)の調製は良好に進行し、5050gの5‐ブロモ‐2‐フルオロピリジンを変換して、3515gのボロン酸4を3バッチで得た。詳細は表3に認められる。
【0342】
ステップ3:4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製
より小さいスケールのパラジウムカップリング反応の実施において、固体が反応装置のガラス壁上に形成されることに気付いた。固体は絶縁体として機能するであろうから、この反応をスケールアップすると反応装置の異常加熱をもたらす可能性がある。異常加熱を防ぐために2種類のアプローチを行った。反応物に加える水の量を2.3〜4.0容に増やし、反応をキログラムスケールで実施した場合には、閾値温度に達すれば加熱を制御するために、反応装置とマントルヒーターの間に追加の熱電対を使用した。カップリング反応は2バッチで完了し、合計5269gの4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリンが5735gの4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリンに変換され、バッチのHPLCによる純度は94.9および90.3(AUC%)であった。
【0343】
ステップ3a:4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の精製
パラジウムカップリング由来の粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した。材料(5735g)を7つのカラムで精製して、化合物5を淡褐色の固体(4220g、HPLCで97.6AUC)として得て、パラジウムレベルは0.2wt%であった。毒性学のバッチでは、精製された化合物5の段階において、7および11ppmのパラジウムレベルが観察された。
【0344】
ステップ4:2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトニトリル(6)の調製
スケールアップ可能なフッ化物置換反応の開発においていくつかの変更を行った。置換反応には、THFに含まれる溶液として商業的に入手できない、カリウムヘキサメチルシラン(KHMDS)が必要であった。従って、反応には、固体から混合物を調製するステップが必要であった。この操作は、ラージスケール反応には望ましくないものであろう。3種類のカチオン(LiHMDS、KHMDS、およびNaHMDS)を評価した。LiHMDSは暗褐色の反応混合物をもたらし、変換は認められなかった。NaHMDSは、KHMDSと等しく機能した。NaHMDSのTHF溶液は容易に入手可能である。
【0345】
より小さいスケールの反応における大過剰量の塩基(KHMDS、8当量)および求核試薬(アセトニトリル、6.5当量)の使用は、同様の系に関する文献において報告されているものと一致しなかった(2当量の塩基および1当量の求核試薬:Klapars,et al.,J.Org.Chem.2005,70,10186‐10189を参照)。NaHMDSとアセトニトリルの当量を比例して減らすと、不完全な変換につながった。しかし、さらなる当量の塩基およびアセトニトリルを添加した場合、反応を完了させることが可能であることがわかった。開発の初期段階では、THFに含まれる化合物5をアセトニトリルおよび塩基の溶液に急速に加えた。スケール上での急速な添加は許容できないまたは妥当ではないであろう。より大きなスケールで必要となる保持時間および添加時間をシミュレートするために、スモールスケールでの保持時間および添加時間を延長した。添加時間および保持時間を延長すると変換は大幅に妨げられ、それぞれ43から5%となった。5の溶液を急速に添加する前に、塩基およびアセトニトリルの溶液を2時間保持すると、変換は不良となった(5%)。塩基とアセトニトリルは適合せず、試薬の分解をもたらす。従って、塩基および化合物5を予め混合し、アセトニトリルをゆっくりと加えられるように試薬の添加の順番を変更した。新たな手順を使用して実施した反応は、90台後半の変換が常にもたらされた。使用に成功したNaHMDSおよびアセトニトリルの最小の当量は、それぞれ5当量および4当量であった。塩基およびアセトニトリル両者の当量の40%の低下が達成された。
【0346】
ステップ5:2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセタート(7)の調製
ニトリル6の酸触媒加メタノール分解は典型的に、少量のカルボン酸7aをもたらした。恐らくは7aのソースである好都合な水を除去するために採ったアプローチは、メタノールと濃硫酸の反応混合物に発煙硫酸を加えることであった。濃硫酸は、通常は95〜98%溶液として供給される。発煙硫酸は、硫酸に含まれる2〜5%の水を除去する。濃硫酸と発煙硫酸の混合物を使用することで、6%未満のカルボン酸7aが副産物として常に生じ、これは水性ワークアップで容易に除去可能であった。
【0347】
水性条件下で反応をクエンチするステップは、カルボン酸7aの生成を避けるのに細心の注意を払う必要があった。メタノールおよび水の中でそれぞれ18時間攪拌することで、pH1、9、および13〜14においてエステル7の安定性を判定した。18時間後、pH1では7aへの19%の変換、pH9では37%の変換、pH13〜14では100%の変換であった。温度を20℃未満に必ず保つ、飽和重炭酸ナトリウムとジクロロメタンの攪拌混合物への添加によって反応をクエンチした。
【0348】
注目点は、不注意によってメタノールが蒸発してしまったスモールスケール反応の最中に、LC/MSデータによってアミド7bと決定された新たな不純物が形成されたことである。ニトリルからアミドを調製するための先行手順は、濃硫酸で処理することである(Sarel,S.,J.Am.Chem.Soc.,1956,79,5416)。
【0349】
【化21】

ステップ6:KX2‐391の調製
中間スケール反応で説明したアミド形成のための手順は、ラージスケールでも良好に機能した。メチルエステル7およびベンジルアミン(3当量)をアニソールに溶解し、150℃でほぼ2日間加熱した。しかし、中間スケールの手順を使用した生成物の単離は、固体の塊の生成物をもたらしうる。この問題を回避するため、抗溶媒を添加する前に、反応混合物を室温まで冷却せず、45〜50℃に冷却した。元の手順では抗溶媒としてトルエンおよびヘプタンを使用した。n‐ヘプタンを単独で使用すると、純分な純度が得られ、収率は81〜90%に増加した。さらに、ヘプタンの単一異性体の使用は、残存溶媒を十分に定量するのに不可欠であった。
【0350】
ステップ7:KX2‐391.2HClの調製
KX2‐391.2HClが吸湿性であることから、再現性よくビス‐HCl塩を調整するためにさらなる注意を払った。無水エタノールに塩化アセチルを添加することにより、無水HCl溶液を含むエタノールを作製した。次に、窒素雰囲気下で、KX2‐391遊離塩基をこの溶液で処理した。続いて濃縮および共沸乾燥を用いた。しかし、KX2‐391.2HClの結晶化を再現性よく得ることはできなかった。複数種類の溶媒、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、酢酸エチル/IPA、エタノール、プロパノール、およびブチルアルコール(表1)を使用した。表1の実験は、様々な結晶化および沈殿条件を探索するための最初の試みであった。報告した2つのロット(EおよびF)をもたらした最後の実験条件は、この情報に基づいて選択された。
【0351】
【表1−1】

【0352】
【表1−2】

KX2‐391.2HClを含むエタノールの濃縮溶液を、多量の急速に攪拌する酢酸エチルに逆に添加することによって沈殿が成功した。この沈殿手順はデモンストレーションバッチ用に行われ、2つの識別可能な固体の種類が形成された。2つの識別可能な固体の種類を物理的に分離し、別々にろ過した。密度の低い褐色固体(ロット02BP111E、74g、HPLCで99.1%AUC)が最初にろ過され、続いてより密度の高いさらに色の濃い固体(ロット02BP111F、43g、HPLCで99.1%AUC)がろ過された。真空オーブン内で乾燥した後、2つの固体をブレンドする前にそれぞれのサンプルを解析用に確保した。目的とするデータは、示差走査熱量測定(DSC、図1および2)およびX線粉末回折(XRPD、図3および4)であった。2つのサンプルのHPLCデータは類似していたが、DSCおよびXRPDは異なっていた。
【0353】
両HPLC試料とも、99.0%の純度(エリア%で)より高く、ロット02BP111Eサンプルはおよそ198℃における単一の吸熱イベントを示したが、ロット02BP111Fサンプルは、117℃および189℃における2つの吸熱イベントを示した。2つのサンプルに関するXRPDデータも異なり、ロット02BP111Eサンプルは結晶性のようであったが、ロット02BP111Fサンプルはアモルファスのようであった。HPLCデータ、XRPDデータ、およびDSCデータは、2つのサンプルが同一材料の異なる形態であることを裏付けるものであった。
【0354】
KX2‐391.2HClの2つのロット(ロット02BP111Eおよび02BP111F)を乾式ブレンドし、KX2‐391.2HClの新たなロット(ロット02BP111G)を得た。KX2‐391.2HCl(ロット02BP111G)は170ppmの塩化エチルを含有していた。
【0355】
実験
試薬および溶媒は、商業的供給業者から受領した状態で使用した。反応の進行は、HPLC、GC/MS、またはH NMRでモニタリングした。薄層クロマトグラフィー(TLC)を、Analtechシリカゲルプレートを使用して行い、UV光(254nm)で可視化した。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を、Agilent1100シリーズ機器で実施した。プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルを、プロトンでは300MHzで、カーボンでは75MHzにおいてBruker AV300を使用して得た。プロトンおよびカーボンスペクトルでは、溶媒ピークを基準ピークとして使用した。
【0356】
4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(2)の調製
還流用冷却器および温度プローブを備えた50L容量のジャケット付き反応容器に、4‐(3‐クロロプロピル)モルホリン(2.44kg、0.54モル)、4‐ブロモフェノール(2.27kg、0.54モル、1.0当量)、粉末状炭酸カリウム(6.331kg、1.88モル、3.50当量)、およびDMF(12.2L)を入れて攪拌した。次に反応混合物を60〜65℃に加熱し、一晩攪拌した。17.5時間後、反応混合物を20〜25℃に冷却した。ワークアップ用の底部バルブを備えた別の反応容器に反応混合物を入れた。温度を20〜30℃の間に保ちながら、DI水(48.7L)を反応容器に入れた。相が分離した。水層をMTBEで抽出した(3×24.4L)。集めた有機物質に、DI水(18.3L)、次いで6Mの水酸化ナトリウム(18.2L)を加えた。2〜5分間混合物を攪拌し、相が分離した。有機相を水(24.4L)および食塩水(24.4L)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、濃縮して、3770gの黄色い油(89%粗収率、HPLCで99.4%AUC)を得た。
【0357】
6‐フルオロピリジン‐3‐イルボロン酸(4)の調製
還流用冷却器および温度プローブを備えた72L容量の反応容器。反応容器に、5‐ブロモ−2‐フルオロピリジン(1.17L、0.568モル)、トルエン(18.2L)、およびトリイソプロピルボラート(3.13L、0.68モル、1.2当量)を入れて攪拌した。テトラヒドロフラン(4.4L)を反応容器に加えて、反応混合物を−35〜−50℃の間に冷却した。−35〜−45℃の温度を保ちながら、n‐ブチルリチウム(ヘキサンの2.5M溶液、5.44L、0.68モル、1.2当量)を慎重に反応容器に加えた。5時間後、反応が完了したと判断し、反応混合物を−15〜−20℃に昇温した。−15℃〜0℃の温度を保ちながら、反応物に2MのHCl(11.80L)を反応容器に加えた。18〜23℃で反応混合物を16時間攪拌し、相が分離した。次に有機物質を6Mの水酸化ナトリウム(6.0L)で抽出した。酸性および塩基性の水相を反応容器内で混合し、pHが7.5になるまで6MのHCl(2.5L)を加えた。次に塩化ナトリウム(6.0kg)を水相に加えた。次いで水相をTHFで抽出した(3×20L)。集めた有機物質を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮して1300gの褐色固体(81%粗収率)を得た。
【0358】
4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の調製
還流用冷却器、スパージチューブ、バブラー、および温度プローブを備えた72L容量の反応容器に、6‐フルオロピリジン−3‐イルホウ酸(2.84kg、1.24当量)、4‐(2‐(4‐ブロモフェノキシ)エチル)モルホリン(4.27kg、1.0当量)、およびDME(27L)を入れた。攪拌を始め、次に、炭酸ナトリウム(4.74kg、3.0当量)をDI水(17.1L)中の溶液として反応混合物に加えた。アルゴンを気泡化して反応混合物に50分間通した。アルゴン雰囲気下で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(750g、0.04当量)を、DME(1.0L)中のスラリーとして反応混合物に加えた。反応混合物を75〜85℃に加熱し、一晩(17時間)加熱した。反応混合物を18〜22℃に冷却した。DI水(26.681kg)およびMTBE(26.681L)を反応容器に入れ、5分間攪拌した。相が分離し、水相をMTBE(2×26.7L)で抽出した。集めた有機物質を2MのHClで抽出した(1×15.0L、3×21.8L)。次に水相を反応容器に戻して、酢酸エチル(26.7L)を加えた。15〜25℃の温度を保ちながら、6M水酸化ナトリウム(26.7L)を使用してpHを6.2に調整した。相が分離し、水相を酢酸エチルで抽出した(2×26.7L)。集めた有機物質を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮して4555gの残渣を得た(101%粗収率、HPLCで67.1%AUC)。
【0359】
4‐(2‐(4‐(6‐フルオロピリジン‐3‐イル)フェノキシ)エチル)モルホリン(5)の精製
粗生成物(575g)を、メタノール/酢酸エチル/ヘプタン(30%酢酸エチル/ヘプタン、50%酢酸エチル/ヘプタン、75%酢酸エチル/ヘプタン、100%酢酸エチル、および5%メタノール/酢酸エチル)で溶離することによって、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した。TLC(10%メタノール/ジクロロメタン、R=0.3)による純粋な画分の濃縮によって、420gの淡褐色の固体(73%回収、HPLCで>99.9%AUC)を得た。
【0360】
2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)アセトニトリル(6)の調製
5L容量のフラスコに、THF中のNaHMDS(2.0L、5.0当量)の1M溶液を入れ、−20〜−15℃に冷却した。−10℃未満の温度を保ちながら、フッ化物(119.7g、1.0当量)を含むTHF(500mL)を、20分間にわたってフラスコに入れた。−10℃未満の温度を保ちながら、アセトニトリル(82.5mL、4.0当量)を含むTHF(170mL)を20分間にわたってフラスコに加えた。次に反応混合物を1時間攪拌した。反応物に、食塩水(1.5L、12.6vol)を、10℃未満の温度を保てる速さで加えた。次に、溶液を室温まで昇温し、層を分離させた。混合物をセライトでろ過し、THFで洗浄した(1×200mL、1×100mL)。水相をトルエン(750mL)で抽出した。集めた有機物質を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、トルエンで洗浄し(2×250mL)、乾燥するまで濃縮した。トルエン(1L)を加え、乾燥するまで溶液を再度濃縮して、169.8gの油を得た。MTBE(1190mL、7vol)を50℃で油に加え、15分間攪拌した。ヘプタン(850mL、5vol)を50℃で10分間にわたって加えた。次に、1.5時間で混合物を室温まで冷却し、2時間攪拌した。スラリーをろ過し、1:4MBTE/ヘプタン(2×100mL)で洗浄し、45℃のオーブン内で一晩乾燥して、102.3gのオフホワイトの固体を得た(80%収率、HPLCで98.8%AUC)。
【0361】
2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン‐2‐イル)メチルアセテート(7)の調製
攪拌子および熱電対を備えた3L容量のフラスコに、ニトリル6(101g)およびメタノール(1.01L、10vol)を入れた。60℃未満の温度を保ちながら、濃HSO(175mL、10.0当量)を15分間にわたって溶液に滴下しながら加えた。次いで、60℃未満の温度を保ちながら、30%発煙硫酸(124mL)を溶液に滴下しながら加えた。次に、マントルヒーターで溶液を還流加熱し、一晩攪拌した。反応が終了したと判断されたら、これを20℃に冷却した。2つめのフラスコ(22L容量)に、飽和重炭酸ナトリウム(10.7L)およびジクロロメタン(1.1L)を入れ、15℃に冷却した。20℃未満の温度を保ちながら、反応混合物を重炭酸ナトリウム/ジクロロメタン混合物に加えた。クエンチを15分間攪拌し、相が分離した。水相をジクロロメタンで抽出した(1×550mL、1×300mL)。集めた有機物質を硫酸マグネシウムで乾燥し、乾燥するまで濃縮して105gの橙色の固体を得た(94%粗収量、HPLCで97.7%AUC)。
【0362】
N‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2‐イル)アセトアミド(KX2‐391)の調製
エステル7(103g)、アニソール(513mL、5vol)、およびベンジルアミン(94mL、3.0当量)を、熱電対および攪拌翼を備えた3L容量のフラスコに入れた。次に、反応混合物を142℃に加熱し、2日間攪拌した。反応混合物を45〜50℃に冷却し、2時間攪拌した。混合物に、n‐ヘプタン(1.5L)を1時間にわたって滴下しながら加えた。3時間で溶液を室温に冷却した後、一晩攪拌した。得られたスラリーをろ過し、4:1アニソール/n‐ヘプタン(200mL)およびn‐ヘプタン(3×100mL)で洗浄した。オーブン内で一晩乾燥すると、得られた生成物は112.1gの褐色固体であった(90%収率、HPLCで99.6%AUC)。KX2‐391のH NMRについては図5を参照されたい。
【0363】
N‐ベンジル‐2‐(5‐(4‐(2‐モルホリノエトキシ)フェニル)ピリジン−2‐イル)アセトアミド二塩酸塩(KX2‐391.2HCl)の調製
EtOH(1.0L)を2L容量のフラスコに入れ、塩化アセチル(62.5mL、3.0当量)をフラスコにゆっくりと加えて40分間攪拌した。温度を30℃に保ちながら、得られた溶液を30分間にわたってKX2‐391(100g)に加えた。溶液を質量270gまで濃縮した。急速に攪拌しながら、濃縮溶液を20分間にわたって酢酸エチル(2L)に加えた。混合物を一晩攪拌した後、窒素雰囲気下でろ過して、2つの識別可能な固体生成物、褐色固体(73.5g)および色の濃い固体(42.2g)を得た。固体を乾式ブレンドして、合計収率99%を得た。HPLC解析は99.0%の純度(AUC)を示していた。
【0364】
解析は、エタノールが2530ppmで、酢酸エチルが48,110ppmで、塩化エチルが170ppmで存在していたことを示し、ヘプタンおよびアニソールは検出されなかった。パラジウム含有量を3回分析し、29ppm、2ppm、および1ppm未満と測定された。
【0365】
その他の実施形態
本発明を、その詳細な説明とともに説明したが、これまでの説明は例示を目的とするものであって、添付の請求項の範囲によって定められる本発明の範囲を限定するものではない。その他の態様、利点、および変更は、下記の請求項の範囲内に含まれる。添付の請求項によって包含される本発明の範囲から逸脱せずに、その形態および詳細に各種の修正が加えられてよいことが当業者に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPLCによって判定される場合に98.0%を超える純度を持つ、KX2‐391、その塩、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグを有する組成物。
【請求項2】
前記KX2‐391は、99.0%の純度を持つ、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記KX2‐391は、99.5%の純度を持つ、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記KX2‐391は、99.6%の純度を持つ、請求項1の組成物。
【請求項5】
前記KX2‐391は、99.7%の純度を持つ、請求項1の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、塩化エチル、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、アニソール、パラジウム、およびこれらの組み合わせから選択される、2%未満の不純物を含有する、請求項1の組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体または賦形剤をさらに有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
プロテインキナーゼシグナル伝達カスケードの1つ以上の構成要素を調節するための薬剤の製造における、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項9】
キナーゼは、セリンキナーゼ、焦点接着キナーゼ、およびチロシンキナーゼから選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記チロシンキナーゼは、Srcファミリープロテインキナーゼである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記化合物は、経口的に投与されるものである、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
前記化合物は、局所的に投与されるものである、請求項8に記載の使用。
【請求項13】
前記キナーゼカスケードの前記構成要素は、過剰増殖性疾患、癌、前癌状態、骨粗しょう症、心臓血管疾患、免疫系機能障害、2型糖尿病、肥満、眼疾患、黄斑浮腫、慢性神経因性疼痛、聴力損失、および移植拒絶反応から選択される病気または疾患の発現に関与する、請求項8に記載の使用。
【請求項14】
チロシンキナーゼ阻害によって調節される病気または疾患の治療または予防のための薬剤の製造における、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、請求項1に記載の化合物、またはその塩、溶媒和物、水和物、あるいはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを有する医薬組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、該治療または予防は、請求項1に記載の化合物、またはその塩、溶媒和物、水和物、あるいはプロドラッグと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを有する医薬組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを含むことを特徴とする、使用。
【請求項15】
チロシンキナーゼ阻害によって調節される前記病気または疾患は、癌、前癌状態、過剰増殖性疾患、および微生物感染から選択される細胞増殖性疾患である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記微生物感染は、細菌、真菌、寄生虫、またはウイルス感染である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記細胞増殖性疾患は、乾癬、糖尿病性網膜症、および黄斑変性症から選択される過剰増殖性疾患である、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記細胞増殖性疾患は癌である、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
前記癌は固形腫瘍である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記癌は、肺、乳房、大腸、卵巣、脳、肝臓、膵臓、もしくは前立腺の癌、または悪性黒色腫、または黒色腫以外の皮膚癌である、請求項18の使用。
【請求項21】
前記癌は、乳癌、大腸癌、または肺癌である、請求項20の使用。
【請求項22】
前記癌は、血液腫瘍、血液悪性疾患、小児白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキン病、リンパ球または皮膚起源のリンパ腫、急性もしくは慢性白血病、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、形質細胞腫、リンパ系腫瘍、またはAIDSに併う癌である、請求項18の使用。
【請求項23】
前記細胞増殖性疾患は、表皮嚢腫、皮様嚢腫、脂肪腫、腺腫、毛細血管腫、皮膚血管腫、リンパ管腫、母斑病変、奇形腫、腎腫、筋線維腫症、骨形成性腫瘍、または異形成腫瘤である、請求項15の使用。
【請求項24】
HPLCによって判定される場合98.0%を超える純度を持つ、KX2‐391.2HClを有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−514771(P2010−514771A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544112(P2009−544112)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/026457
【国際公開番号】WO2008/082637
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509002648)キネックス ファーマシューティカルズ, エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】