説明

キャスター用車輪及びそのインサート成形方法並びにインサート成形用金型

【課題】 軸受孔に、軸方向に複数のシェル形針状軸受がインサート成形されたキャスター用車輪、その成形方法及び金型を提供する。
【解決手段】 キャスター用車輪1は、樹脂製本体2の軸受孔3に、複数のシェル形針状軸受4が相隣接してインサート成形により固定されている。相隣接する2つのシェル形針状軸受4の隣接端面間には、圧縮されたリング状の弾性シール部材5が介在する。キャスター用車輪1は、は、金型11のキャビティ14内に、複数のシェル形針状軸受4を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させ軸方向に隣接させてインサートし、このシェル形針状軸受4の外周部をキャビティ14内に露出させ、キャビティ14内に溶融樹脂材料を射出して固化させ、シェル形針状軸受14の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化することにより成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受孔に、軸方向に複数のシェル形針状軸受が相隣接してインサート成形されている合成樹脂製のキャスター用車輪とそのインサート成形方法並びにインサート成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャスターの車輪を合成樹脂で射出成形法により成形することが行われている(例えば特許文献1参照)。
従来から、射出成形法により形成されたキャスター用車輪の車軸挿通孔にベアリングを装着することが行われている。ベアリングとして、シェル形針状軸受を用いる場合には、車軸挿通孔にこれを圧入することによって車輪に固定している。
【特許文献1】特開平8−188001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のキャスター用車輪の車軸挿通孔へのシェル形針状軸受の固定方法にあっては、緩みが生じやすい欠点がある。そこで、車輪と一体にシェル形針状軸受をインサート成形することが考えられる。しかしながら、車輪幅の比較的大きい車輪に、複数のシェル形針状軸受を軸方向に並べてインサート成形しようとすると、隣接軸受間に樹脂が進入して軸受の潤滑を阻害するという問題点があるため、従来はこの方法が採用されていない。
したがって、この出願に係る発明は、軸受孔に、軸方向に複数のシェル形針状軸受が相隣接してインサート成形されている合成樹脂製のキャスター用車輪と、そのインサート成形方法及びインサート成形用金型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、この出願に係る発明においては、軸受孔3に、軸方向に複数のシェル形針状軸受4が相隣接してインサート成形により固定されている合成樹脂製のキャスター用車輪1を提供する。
また、この出願に係る発明は、上記キャスター用車輪1における相隣接する2つのシェル形針状軸受4の隣接端面間に、圧縮されたリング状の弾性シール部材5を介在させる構成を採用する。
また、この出願に係る発明は、金型のキャビティ14内に、複数のシェル形針状軸受4を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させ軸方向に隣接させてインサートし、このシェル形針状軸受4の外周部をキャビティ14内に露出させ、キャビティ14内に溶融樹脂材料を射出して固化させ、シェル形針状軸受14の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化することにより、上記キャスター用車輪1を構成する。
また、この出願に係る発明は、溶融樹脂を射出して、上記キャスター用車輪1を成形するためのキャビティ14と、複数のシェル形針状軸受14を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させ軸方向に相隣接させ、このシェル形針状軸受4の外周部をキャビティ14内に露出させた状態で保持するための保持部15とを具備させてキャスター用車輪1のインサート成形用金型11を提供する。
また、この出願に係る発明は、上記金型11における保持部15を、複数のシェル形針状軸受4を軸方向に相互に圧接させることにより弾性シール部材5を圧縮して保持することができるように構成する。
また、この出願に係る発明における上記金型は、キャビティを形成するための一対の金型部を備え、保持部は、一対の保持駒を備える。これら一対の保持駒の少なくとも一方は、一対の金型部の型締め方向に弾性的に移動可能に支持され、一対の金型部に対して複数のシェル形針状軸受と弾性シール部材を弾性的に圧接させて保持する。
また、この出願に係る発明における上記金型11は、キャビティ14を形成する固定型12及び移動型13と、固定駒17及び移動駒16を備える。固定駒17と移動駒16は、複数のシェル形針状軸受4を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させて軸方向に相隣接させ、その外周部をキャビティ14内に露出させた状態で保持するために、両端に位置するシェル形針状軸受4の外側端面を、その軸線方向に圧搾保持するように構成する。移動駒16は、複数のシェル形針状軸受及び弾性シール部材4を貫通する支持ピン16aと、一端側に位置するシェル形針状軸受4の外側端面に当接する環状端面16cを有するストッパ16bとを具備し、固定型12に型締め方向に弾性的に移動可能に支持される。固定駒17は、型締め時に移動駒16の支持ピン16aの先端部を嵌合させる凹部17aと、他端側に位置するシェル形針状軸受4の外側端面に弾性的に圧接される環状端面17cを有するストッパ17bとを具備し、移動型13に固定される。
また、この出願に係る発明は、上記インサート成形用金型11を用いることにより、キャスター用車輪1をインサート成形する方法を提供する。
また、この出願に係る発明は、上記インサート成形用金型11を用いて成形されたキャスター用車輪1を提供する。
また、この出願に係る発明は、移動駒16の支持ピン16aの外周に、複数のシェル形針状軸受4と弾性シール部材5を嵌め込んで、一端側に位置するシェル形針状軸受4の外側端面を移動駒16のストッパ16bに当接させる工程と、固定型12と移動型13とを型締めして移動駒16の支持ピン16aの先端部を固定駒17の凹部17aに嵌合させ、他端側に位置するシェル形針状軸受4の外側端面に固定駒17のストッパ17bを弾性的に圧接させると共に、弾性シール部材5を圧縮する工程と、型締めされた固定型12と移動型13との間に形成されたキャビティ14に溶融した樹脂材料を注入する工程とを含むキャスター用車輪のインサート成形方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
この出願に係る発明によれば、軸受孔3に、軸方向に複数のシェル形針状軸受4が相隣接して確固に固着された合成樹脂製のキャスター用車輪1を低コストで提供することができる。
この出願に係る発明によれば、金型キャビティ14内で隣接するシェル形針状軸受4,4間に圧縮状態で保持されたリング状の弾性シール部材5により、射出成形時に溶融した樹脂材料が隣接するシェル形針状軸受4,4間に進入することが阻止され、成形不良が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は本発明に係るキャスター用車輪の断面図、図2は本発明に係るキャスター用車輪の成形用金型の断面図、図3は成形過程を示す金型の断面図、図4は成形過程を示す斜視図、図5は成形過程を示す金型の断面図である。
【0007】
合成樹脂製のキャスター用車輪1は、樹脂製本体2の軸受孔3に、軸方向に2つのシェル形針状軸受4が相隣接してインサート成形により固定されている。シェル形針状軸受4は、当該軸受よりも小径となった軸受孔3の段部3aにより、両端部において軸方向に確実に抜け止めされる。2つのシェル形針状軸受4の隣接端面間には、圧縮されたリング状の弾性シール部材5が介設される。弾性シール部材5は、例えば不織布、紙等の安価に得られる素材で構成されるが、これに限定されるものではない。6はブッシュである。
【0008】
キャスター用車輪1は、金型11のキャビティ14内に、2つのシェル形針状軸受4を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させ、軸方向に隣接させてインサートし、このシェル形針状軸受4の外周部をキャビティ14内に露出させ、キャビティ14に溶融樹脂材料を射出して固化させることにより、シェル形針状軸受4の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化することにより製作される。
【0009】
図2に示すように、金型11は、固定型12と移動型13とからなり、溶融樹脂を射出して、キャスター用車輪1を成形するためのキャビティ14と、インサートする2つのシェル形針状軸受4と弾性シール部材5とをキャビティ14内に支持する保持部15を具備する。
【0010】
保持部15は、一対の保持駒16,17を備え、2つのシェル形針状軸受4を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材5を介在させて軸方向に相隣接させ、かつこのシェル形針状軸受4の外周部をキャビティ14内に露出させた状態で保持する。また、保持部15は、2つのシェル形針状軸受4を軸方向に相互に圧接させることにより、弾性シール部材5を圧縮して保持する。
【0011】
保持部15を構成する一対のうち一方の保持駒16は、金型11の型締め方向に弾性的に移動可能に支持される移動駒であり、固定型12と移動型13に対して2つのシェル形針状軸受4と弾性シール部材5を弾性的に圧接させて保持する。
【0012】
移動駒16は、ばね18により付勢されて固定型12に保持される。移動駒16は、2つのシェル形針状軸受4及び弾性シール部材5を貫通する円柱状の支持ピン16aと、一方のシェル形針状軸受4の外側端面に当接する環状端面16cを有するストッパ16bとを具備する。ストッパ16bは、支持ピン16aより大径の円柱形状で、キャビティ14内に突出するように支持ピン16aの基端側に設けられる。ストッパ16bの外径は、シェル形針状軸受4の外径より小さく、したがって、図3,5に示すように、ストッパ16bとシェル形針状軸受4との間に、キャビティ14内に露出する段部19が形成される。
【0013】
円柱形状の固定駒17は、キャビティ14内に突出するように移動型13に固定される。固定駒17は、型締め時に移動駒16の支持ピン16aの先端部を嵌合させる凹部17aと、他方のシェル形針状軸受4の外側端面に弾性的に圧接される環状端面17cを有する円筒状のストッパ17bとを具備する。ストッパ17bの外径は、シェル形針状軸受4の外径より小さく、したがって、図5に示すように、ストッパ17bとシェル形針状軸受4との間に、キャビティ14内に露出する段部20が形成される。
【0014】
車輪1は、上記金型11を用いて、以下のように成形される。まず、図3,4に示すように、移動駒16の支持ピン16aの外周に、2つのシェル形針状軸受4と弾性シール部材5を嵌め込んで、一方のシェル形針状軸受4の外側端面を移動駒16のストッパ16bに当接させる。
【0015】
次いで、図5に示すように、固定型12と移動型13とを型締めして、移動駒16の支持ピン16aの先端部を固定駒17の凹部17aに嵌合させ、他方のシェル形針状軸受4の外側端面を固定駒17のストッパ17bに弾性的に圧接させる。型締めにより、弾性シール部材5が圧縮される。
【0016】
型締めされた固定型12と移動型13との間に形成されたキャビティ14に、溶融した樹脂材料を射出して固化させ、シェル形針状軸受4の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化する。溶融した樹脂材料を射出する際、弾性シール部材5がシェル形針状軸受4の隣接端面間へ進入するのを阻止する。シェル形針状軸受4の両端部は、キャビティ14内に露出する段部19,20に対応して形成される充填樹脂の段部3a(図1における軸受孔3の段部3a)により軸方向に移動不可能に樹脂材料と一体化される。
【0017】
なお、この出願に係る発明は、図示の実施形態に限定されるものではなく、例えば、シェル形針状軸受4を3つ以上インサート成形したキャスター用車輪、及びそのインサート成形方法並びにインサート成形用金型を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明は、市販のシェル形針状軸受を複数装着する必要がある幅広の重荷重用キャスターの車輪及びそのインサート成形方法並びにインサート成形用金型に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るキャスター用車輪の断面図である。
【図2】本発明に係るキャスター用車輪の成形用金型の断面図である。
【図3】本発明に係るキャスター用車輪の成形過程を示す金型の断面図である。
【図4】本発明に係るキャスター用車輪の成形過程を示す斜視図である。
【図5】本発明に係るキャスター用車輪の成形過程を示す金型の断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 キャスター用車輪
2 樹脂製本体
3 軸受孔
3a 段部
4 シェル形針状軸受
5 弾性シール部材5
6 ブッシュ
11 金型
12 固定型
13 移動型
14 キャビティ
15 保持部
16 移動駒
16a 支持ピン
16b ストッパ
16c 環状端面
17 固定駒
17a 凹部
17b ストッパ
17c 環状端面
18 ばね
19 段部
20 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受孔に、軸方向に複数のシェル形針状軸受が相隣接してインサート成形により固定されていることを特徴とする合成樹脂製のキャスター用車輪。
【請求項2】
相隣接する2つの前記シェル形針状軸受の隣接端面間に、圧縮されたリング状の弾性シール部材が介在することを特徴とする請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項3】
金型のキャビティ内に、複数のシェル形針状軸受を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材を介在させ軸方向に隣接させてインサートし、このシェル形針状軸受の外周部を前記キャビティ内に露出させ、前記キャビティ内に溶融樹脂材料を射出して固化させ、前記シェル形針状軸受の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化したことを特徴とするキャスター用車輪。
【請求項4】
溶融樹脂を射出して、キャスター用車輪を成形するためのキャビティと、
複数のシェル形針状軸受を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材を介在させ軸方向に相隣接させ、このシェル形針状軸受の外周部を前記キャビティ内に露出させた状態で保持するための保持部と、
を具備することを特徴とするキャスター用車輪のインサート成形用金型。
【請求項5】
前記保持部は、前記複数のシェル形針状軸受を軸方向に相互に圧接させることにより前記弾性シール部材を圧縮して保持することを特徴とする請求項4に記載のキャスター用車輪のインサート成形用金型。
【請求項6】
前記キャビティを形成するための一対の金型部を備え、
前記保持部は、一対の保持駒を備え、これら一対の保持駒の少なくとも一方は、前記一対の金型部の型締め方向に弾性的に移動可能に支持され、前記一対の金型部に対して前記複数のシェル形針状軸受と前記弾性シール部材を弾性的に圧接させて保持することを特徴とする請求項4に記載のインサート成形用金型。
【請求項7】
溶融樹脂を射出して、キャスター用車輪を成形するためのキャビティを形成する固定型及び移動型と、
相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材を介在させ軸方向に相隣接させた複数のシェル形針状軸受を、その外周部を前記キャビティ内に露出させた状態で保持するために、両端に位置するシェル形針状軸受の外側端面を、その軸線方向に圧搾保持する固定駒と移動駒とを具備し、
前記移動駒は、前記複数のシェル形針状軸受及び弾性シール部材を貫通する支持ピンと、一端側に位置するシェル形針状軸受の外側端面に当接する環状端面を有するストッパとを具備し、前記固定型に型締め方向に弾性的に移動可能に支持され、
前記固定駒は、型締め時に前記移動駒の支持ピンの先端部を嵌合させる凹部と、他端側に位置するシェル形針状軸受の外側端面に弾性的に圧接される環状端面を有するストッパとを具備し、前記移動型に固定されることを特徴とするキャスター用車輪のインサート成形用金型。
【請求項8】
金型のキャビティ内に、複数のシェル形針状軸受を、相互隣接端面間にリング状の弾性シール部材を介在させ軸方向に隣接させてインサートし、このシェル形針状軸受の外周部を前記キャビティ内に露出させ、前記キャビティ内に溶融樹脂材料を射出して固化させ、前記シェル形針状軸受の外周部と樹脂材料とを結合させて一体化することを特徴とするキャスター用車輪のインサート成形方法
【請求項9】
請求項4乃至7のいずれかに記載のインサート成形用金型を用いることを特徴とするキャスター用車輪のインサート成形方法。
【請求項10】
請求項4乃至7のいずれかに記載のインサート成形用金型を用いて成形されたことを特徴とするキャスター用車輪。
【請求項11】
前記移動駒の支持ピンの外周に、前記複数のシェル形針状軸受と弾性シール部材を嵌め込んで、一端側に位置するシェル形針状軸受の外側端面を前記移動駒のストッパに当接させる工程と、
固定型と移動型とを型締めして前記移動駒の支持ピンの先端部を前記固定駒の凹部に嵌合させ、他端側に位置する前記シェル形針状軸受の外側端面に前記固定駒のストッパを弾性的に圧接させると共に、前記弾性シール部材を圧縮する工程と、
型締めされた前記固定型と移動型との間に形成されたキャビティに溶融した樹脂材料を注入する工程と、
を含むことを特徴とする請求項7に記載のインサート成形用金型を用いたキャスター用車輪のインサート成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−276639(P2007−276639A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105804(P2006−105804)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(396017187)株式会社内村製作所 (1)
【Fターム(参考)】