説明

キャスポファンギンおよびその中間体の調製方法

本発明は、Rが−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、R=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、このN原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、化学式(VII)の新規中間体、またはその酸付加塩もしくは溶媒和物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記化学式Iにより示されるキャスポファンギン(caspofungin)の改良調製方法に関する。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
キャスポファンギンはエキノキャンディン(echinocandin)類のクラスに属する半合成抗真菌剤の新しいクラスの最初の薬剤である。この薬剤は、真菌Glarea lozoyensis(グラレア・ロゾエンシス)の発酵によって得られる、ニューモキャンディン(Pneumocandin)Bの合成誘導体化により調製される。キャスポファンギンは真菌細胞壁に不可欠な構成要素であるβ−(1,3)−D−グルカンの生合成を阻害し、他の治療では効果がない、または他の治療に耐えられない患者における侵襲性アスペルギルス症の治療、および発熱性好中球減少症患者に推定される真菌感染症の経験的療法に適応とされる。キャスポファンギンはCancidas(登録商標)の商標でメルク社(Merck & Co.)により二酢酸塩として市販されている。
【0004】
化合物としてのキャスポファンギンは、特許文献1にクレームされている。この薬剤は、非常に長い合成手順でニューモキャンディンBから全体収量0.7%で調製された。最初の2つの合成ステップは特許文献2の対象であった。2つのステップにおいて一級アミドの還元、すなわち、塩化コバルト(II)の存在下で水素化ホウ素ナトリウムにより還元される中間体ニトリルを提供する塩化シアヌルによる脱水がもたらされる。アミナール側鎖は、ヘミアミナールのヒドロキシ官能基の2−アミノエタンチオールによる置換、スルホンの酸化、それに続く1,2−ジアミノエタンによる置換を介して導入された。
【0005】
スキーム1の化学式IIIの化合物であるニューモキャンディンB還元生成物は、特許文献3に化合物としてクレームされている。
ジュルネ(Journet)と共同研究者らは、エキノキャンディンに非常に類似したアナログにおける一級アミドの改良2段階還元について記載している(非特許文献1)。水分含量を注意深く管理しながら−30℃で塩化シアヌル脱水が実施された場合、非常に
効率的な反応が得られた。結果として生じるニトリル官能基は、後に接触水素化条件下にて高収量で還元された。
【0006】
ボラン錯体による一級アミドの1段階での対応するアミンへの直接的な還元は、特許文献4に記載されている。ニューモキャンディンBが乾燥THF中で過剰のボラン−ジメチルスルフィド錯体で0℃にて処理される場合、還元生成物は43%の収量で得られた。この方法は、2−アミノエタンチオールがチオフェノールで置き換えられた場合にさらに改良された。チオフェノール基は事前のスルフィドのスルホンへの酸化なしに直接1,2−ジアミノエタンで置換されても良いため、1段階の反応ステップが省略される。しかし、チオフェノールは非常に悪臭が強く、毒性が高い。
【0007】
キャスポファンギンの合成におけるボロン酸エステル保護の利用は、特許文献5に記載されている。一級アミドのボラン還元の前に、2つの隣接ジオール系はフェニルボロン酸エステルとして保護される。次に、この反応混合物の酸処理は61%の収量で還元されたニューモキャンディンBを放出する。この特許は、ニューモキャンディンBのビス(フェニルボロン酸)誘導体をクレームしている。
【0008】
ニューモキャンディンBを酸触媒下でチオフェノール処理する前にフェニルボロン酸と反応させる場合、特定の工程不純物を最小限にすることができる(特許文献6を参照)。ベンジルアルコールがボロン酸エステルとして誘導体化される場合、ベンジル位のエピマー化だけでなくベンジルヒドロキシ官能基の置換も抑制される。
【0009】
また特許文献7には、キャスポファンギン合成のためのさらに別の方法が開示されている。この方法は、対応するニトリルを介する一級アミドのアミンへの2段階還元に依存しており、新たな中間体を含む。メルク研究所(Merck Research Laboratories)のレナード(Leonard)と共同研究者らはキャスポファンギン合成開発の詳細な説明を提供しており、公開されたこの方法は実際の製造方法であると言われている(非特許文献2)。フェニルボロン酸エステル保護は、一級アミド還元だけでなく酸触媒下でのチオフェノール挿入時にも含まれている。ニューモキャンディンBからのキャスポファンギンの全体的収量は、45%であると報告されている。この方法は3段階の化学反応ステップおよび2段階のクロマトグラフィー精製で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,378,804号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0535967(A2)号明細書
【特許文献3】米国特許第5,939,384号明細書
【特許文献4】米国特許第5,552,521号明細書
【特許文献5】米国特許第5,936,062号明細書
【特許文献6】米国特許第7,214,768号明細書
【特許文献7】国際公開第2007/057141号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ジュルネ(Journet)ら、J.Org.Chem.、1999年、第64巻、2411〜2417ページ
【非特許文献2】レナード(Leonard)ら、J.Org.Chem.、2007年、第72巻、2335〜2343ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
1,2−ジアミノエタンによるヘミアミナールのヒドロキシ官能基の直接的な置換は困難であることが明らかになったため(非特許文献2)、エチレンジアミン側鎖の導入に2段階の手順が必要とされている。先行技術に開示される一般的な方法によると、ヘミアミナールのヒドロキシ官能基に代わって容易に置換され、また第2の求核剤(すなわち、1,2−ジアミノエタン)により直接的に、または酸化後に除去できることから、補助基(helping group)としてチオフェノールなどの硫黄求核剤が用いられている。特に、チオフェノールはキャスポファンギン合成における補助基として受け入れられてきた。しかし、チオフェノールは、悪臭と毒性が非常に強く、また生産規模で使用するには特別な設備を必要とする。したがって、チオフェノールの使用に依らない方法が、経済上および環境上の両観点から有利である。
【0013】
キャスポファンギン製造の一般的な方法は数多くの合成および精製のステップを伴い、かなりの量の原料が製造工程中に失われるため、依然としてキャスポファンギンの製造方法は改良の必要がある。また、利用可能な最も効果的な方法は、補助基として悪臭と毒性が非常に強いチオフェノールの使用に依存している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者らは、適切な補助基の導入のためのチオフェノールなどのチオール類の使用を避けることを可能にする、以下に示されるような、
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、
Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、このN原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、
化学式VII
【0015】
【化2】

【0016】
の新規中間体、またはその酸付加塩もしくは溶媒和物を用いてキャスポファンギンを調製できることを見出した。
本発明の一態様によると、化学式IIIのニューモキャンディンB還元生成物は補助
基X導入のための薬剤と反応し、ヘミアミナールのヒドロキシ官能基の置換後に、中間体IVを提供する。スキーム1を参照。
【0017】
【化3】

【0018】
化学式IVの化合物が1,2−ジアミノエタンにより処理されると、補助基Xの置換および潜在的な保護基の除去の後に、キャスポファンギンが放出される。
その結果、本発明は、
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、
Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、このN原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、
化学式VII
【0019】
【化4】

【0020】
の化合物またはその酸付加塩もしくは溶媒和物を提供する。
化学式VIIの化合物は、キャスポファンギンおよび関連化合物の合成における中間体として特に有用である。
【0021】
さらに別の態様によると、
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNである化学式
【0022】
【化5】

【0023】
またはその酸付加塩もしくは溶媒和物を有する、キャスポファンギンおよび関連化合物の調製に有用な中間体が提供される。
別の態様によると、Rが−CHNHである化学式(VII)、(V)、(V’)および(VI)の化合物が提供される。
【0024】
本発明は、化学式VIII
【0025】
【化6】

【0026】
の化合物またはその製薬上許容できる塩を製造する方法であって、
a)Rが−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、
Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、このN原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、
化学式VII
【0027】
【化7】

【0028】
の化合物またはその酸付加塩を1,2−ジアミノエタンと反応させて化学式VIIIの化合物またはその製薬上許容できる塩を得るステップと、
b)a)のステップで得られるような化学式VIIIの化合物またはその製薬上許容できる塩を任意で分離するステップと
を含む方法も提供する。
【0029】
さらに別の態様によると、キャスポファンギン(I)またはその製薬上許容できる塩を製造する方法であって、
a)Rが−(CO)NH、−CHNHまたは−CNである化学式IX
【0030】
【化8】

【0031】
の化合物またはその酸付加塩をi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含む
五または六員環の複素環式芳香族化合物およびその誘導体、またはii)テトラゾールおよびその誘導体と反応させ、
とXが上記のように定義され、かつ
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成する、
化学式VII
【0032】
【化9】

【0033】
の化合物を形成するステップと、
b)それに続く、化学式VIII
【0034】
【化10】

【0035】
の化合物またはその製薬上許容できる塩を生じさせるためにXを1,2−ジアミノエタンで置換するステップと、
c)化学式Iの化合物を最終産物として提供するために、もし化学式IXのRが−(CO)NHまたは−CNである場合にはa)またはb)のステップの前または後に還元がそれぞれ行われる、化学式Iの化合物またはその製薬上許容できる塩を任意で分離するステップと
を含む方法が提供される。
【0036】
別の態様によると、本発明による方法は、キャスポファンギンが中間体の分離なしにニューモキャンディンBから合成される、ワンポット短縮プロセスとして行うことができる。
【0037】
本発明の方法の一態様によると、Xはピリジンとの反応に導入され、化学式VIIの化合物は
【0038】
【化11】

【0039】
またはその酸付加塩もしくは溶媒和物である。
本発明の方法のさらに別の一態様によると、Xはテトラゾールとの反応に導入され、化学式VIIの化合物は
【0040】
【化12】

【0041】
またはその酸付加塩もしくは溶媒和物である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、図および実施例を参照しながら、ここでさらに詳細に述べられる。以下の説明および実施例は、本発明の説明を意図するものであり、決して限定と見なされるべきではない。また、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を導入すること
ができることを認識するだろう。したがって、当業者の能力の範囲内である本発明の他の実施形態が、添付の特許請求の範囲内であることが理解される。
【0043】
我々は、キャスポファンギンのアミナール側鎖の導入において、特定の窒素求核剤が補助基としてチオフェノールと置き換えられることを見いだした。化学式VIIにおいてXと示される「補助基」という用語は、i)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、このN原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される。
【0044】
本明細書で用いられる場合、「シクロヘキサペプチド環」という用語は、エキノキャンディン・ファミリーに属する化合物、具体的にはキャスポファンギンのペプチド骨格を構成する21員環の大環状環を意味する。
【0045】
本発明によると、補助基Xの使用は、先行技術で報告されたキャスポファンギン調製のための合成方法におけるチオフェノール使用の問題を解決する。
一部の窒素含有芳香族複素環式化合物は、ニューモキャンディンBからキャスポファンギンへの転換において効率的であることが見いだされている。補助基導入に有用な窒素求核剤の非限定的な例は、テトラゾールおよびピリジンである。テトラゾールはトリフリン酸などの酸の存在下で−10℃でヘミアミナールのヒドロキシ官能基に対して置換することもできるが、一方、ピリジンは、例えばトリフリン酸またはピリジニウムトリフラートなどの存在下で高温を必要とする。ヘミアミナールのヒドロキシ官能基に対してテトラゾールで置換する場合、中性化合物であるVまたはV’が生じると同時に、ピリジンが補助基として導入される際にカチオン中間体VIが形成される。スキーム2を参照。
【0046】
【化13】

【0047】
テトラゾールおよびピリジンに由来する補助基は、直接的に短縮プロセスにおいて、または中間体分離後の別のステップとして、キャスポファンギンのアミナール側鎖の導入により1,2−ジアミノエタンと容易に置換され、キャスポファンギンが生じる。
【0048】
他の1,2−ジアミノエタン以外の置換基も、本発明による化学式VIIの中間体を用いてXと置換してもよいことが理解される。他の有用な置換基の非限定的な例は、例えば特許文献7および特許文献4に見いだすことができる。
【0049】
本発明の別の利点は、キャスポファンギンの合成におけるバッチプロセスの数が先行技術と比較して減っている点である。本発明の方法は、キャスポファンギンのニューモキャンディンBからのワンポット短縮合成にも適している。ワンポット合成は、多くの場合、化学製品製造工場の効率向上および一層経済的な操業をもたらすことから一般に有利である。したがって、中間体の非常に長い分離プロセスおよび精製ステップが回避される。その結果、ワンポット合成は時間、コストおよび設備の節約をもたらすことからも好まし
い。したがって、本発明によると、フェニルボロン酸との反応とそれに続くTHF中のボランによる一級アミドの還元とによってニューモキャンディンBを保護することもできる。反応の完了後、ピリジンを加え、THFを蒸留して除くこともできる。ピリジンによるヘミアミナールのヒドロキシ官能基の置換および補助基の導入はトリフリン酸を添加する場合に達成され、最終的に、反応混合物への1,2−ジアミノエタンの添加により目的の側鎖を導入することもできる。キャスポファンギンの調製は本発明によるワンポット短縮プロセスにおいてこのように達成される。
【0050】
処理と精製方法によっては、生成物を遊離塩基または酸付加塩として分離することもできる。本発明によると、製薬上許容できる任意の酸付加塩を用いることもできる。本発明の教示および当業者の一般的知識に基づいて、当業者は適切な製薬用の塩を選択できることが認識される。以下に記載される実施例の一部では、トリフリン酸の存在下で二重置換手順が行われ、反応混合物は酢酸水溶液でクエンチされる。クロマトグラフィー精製の諸条件の変化は、酢酸付加塩もしくはトリフリン酸塩として、または混合物として生成物の分離を可能にする。別の化学操作として、塩の変更も行うこともできる。
(実施例)
本発明は、本発明の範囲および添付の特許請求の範囲を制限または限定するものとは見なされない実施例を参照しながら、ここでさらに詳細に述べられる。
【0051】
HPLC分析は、ウォーターズ(Waters)社のSymmetry C18カラム、250×4.6mm、100Å、5μmを用い、カラム温度:45℃;移動相:溶液A:0.1%v/v過塩素酸水溶液、溶液B:アセトニトリル、A:Bが67/33から35/65までのグラディエント溶出;流速:1.5mL/分;検出:205nm;積分器設定:ピーク面積%;溶媒溶液:アセトニトリル/水1:1で行われた。マススペクトルはエレクトロスプレーイオン化によって得て、機器をポジティブモードで作動させた。分析物は、プロトン化形態で検出されている。
【0052】
実施例1
化学式VIII、R=−(CO)NH、R=R=Hの化合物
ニューモキャンディンB(2.02g、1.90mmol)およびトリフリン酸(3.0mL、5.09g、33.9mmol)を室温でピリジン(30mL)に溶解した。混合物を80℃まで加熱し、12時間不活性雰囲気にて攪拌した。0℃まで冷却後、1,2−ジアミノエタン(1.00mL、0.90g、15.0mmol)を加え、混合物を1晩攪拌した。反応混合液に水(100mL)と酢酸(21mL、22.0g、0.37mol)の混合液を加えて溶液をpH5.0にすることで反応をクエンチした。溶液を10mmのC18クロマトグラフィーカラム上に添加し、20%アセトニトリル/80%水から25%アセトニトリル/75%水までのグラディエントで溶出した。有機溶媒の蒸発およびリッチカット(rich cut)の凍結乾燥により534mg(収量22%)の表題化合物がトリフリン酸付加塩として得られた。HPLC純度:87.8%。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例2
化学式VIII、R=−(CO)NH、R=R=Hの化合物
ニューモキャンディンB(100mg、0.094mmol)をピリジン(2mL)に溶解し、トリエチルシリルトリフラート(107μL、125mg、0.47mmol)を加えた。混合物を80℃で攪拌すると同時に、反応の進行をHPLCでモニターした。1晩攪拌後、HPLCは新しい化合物(R=−(CO)NHを有する化合物VI)への72%の変換を示した。LC−MSは主生成物の質量m/z 1126.4を示し、ピリジン置換が確認された。混合物を室温まで冷却し、1,2−ジアミノエタン(2mL)を加えた。15分後、HPLCはピリジン付加物の別の新しい生成物への完全な変換を示し、LC−MSは表題化合物の期待される質量である質量m/z 1107.6を示した。生成物の分離は行わなかった。
【0055】
実施例3
化学式IIIの化合物
ニューモキャンディンB(1.80g、1.69mmol)、フェニルボロン酸(0.433g、3.55mmol)およびTHF(20mL)の混合物を16時間、室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残留物をTHF(50mL)に溶解した。このプロセスを2回反復し、粉末化した残渣を減圧下にて50℃で19時間乾燥した。粉末を無水THF(75mL)に溶解し、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)(1.3mL、4.89mmol)を加えた。混合物を周囲温度で1時間攪拌し、0℃まで冷却した。ボラン−THF錯体の溶液(THF中に1.0M、10mL、10mmol)を5分の間に加え、混合物をこの温度で16時間攪拌した。塩酸水溶液(2.0M、9mL、18mmol)を加え、反応混合物を0℃で2時間攪拌した。水(100mL)を加え、21mmのC18カラムで、試料添加後に15%アセトニトリル/85%0.014M HClでカラムを洗浄した後、26%アセトニトリル/74%水を溶出剤として用いて、クロマトグラフィーにより生成物を分離した。リッチカットをプールし、有機溶媒の除去後に凍結乾燥した。収量:HCL塩として、1.0g(57%)の表題化合物。HPLC純度:96.4%。
【0056】
実施例4
化学式VまたはV’の化合物
ニューモキャンディンB(1.07g、1.00mmol)、フェニルボロン酸(0.244g、2.00mmol)および0.45Mテトラゾールのアセトニトリル溶液(10mL、4.5mmol)の混合物を−10℃まで冷却した。トリフリン酸(0.453g、3.00mmol)のアセトニトリル溶液(1.5mL)を15分の間に加えた。澄んだ反応混合物をこの温度で40時間、静かに振り混ぜ、その後アセトニトリル(15mL)で希釈した。酢酸ナトリウム三水和物(0.408g、3.00mmol)の水溶液をゆっくりと加え、沈殿を吸引濾過により回収し、冷たいアセトニトリル(2×5mL)で洗浄した。減圧下で乾燥し、1.07g(収量96%)の目的化合物を白い固体として得た。HPLC純度:69.3%。テトラゾール置換は、主生成物についてm/z 1117.59を示したLC−MS分析により確認した。
【0057】
実施例5
キャスポファンギントリフリン酸塩
実施例3に従って塩酸塩として調製した化学式IIIの化合物(100mg、0.095mmol)を室温でピリジン(2mL)に溶解した。ピリジニウムトリフラート(640mg、2.86mmol)を加え、反応混合物を80℃まで加熱し、8時間攪拌した。混合物を0℃まで冷却し、1,2−ジアミノエタン(51μL、0.76mmol)を加えた。反応が完了(HPLC)した時に、水(15mL)を加え、溶媒を減圧下で除去した。さらに別量の水(15mL)を加え、pHを約5に調整した。生成物を溶解させておくために、少量のメタノールを加えた。溶液を10mmのC18カラムに添加し、溶出液として25%アセトニトリル/0.15%酢酸を用いて生成物を溶出した。リッチカットをプールし、有機溶媒を除去した。その結果得られた水溶液の凍結乾燥により、41mg(収量32%)のキャスポファンギンのトリフリン酸付加塩を得た。HPLC純度:96.2%。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例6
化学式IIIの化合物
フェニルボロン酸(2.30g、18.9mmol)をニューモキャンディンB(10.0g、9.39mmol)のTHF(500mL)懸濁液に加えた。混合物を還流温
度で1晩加熱し、還流物(refluxate)を分子篩(3Å、55g)が入ったソックスレー抽出器に通して乾燥させた。温度を20℃に下げ、BSTFA(5.0mL、18.8mmol)を加えた。混合物を20℃で1時間攪拌し、0℃に冷却した。ボラン−THF錯体(THF中に1.0M、75.0mL、75.0mmol)を30分にわたって滴加し、混合物を0℃で19時間攪拌した。塩酸水溶液(2.0M、50mL、100mmol)を15分にわたって加え、温度を5℃まで上昇させた。水(550mL)を一度に加え、混合物を30分間攪拌した。生成物を21mmのC18カラムのクロマトグラフィーにより26%アセトニトリル/水で溶出して分離し、次いで20%アセトニトリル/0.014M HClで洗浄した。リッチカットをプールし、有機溶媒を除去した。水溶液の凍結乾燥により、3.89g(収量38%)の表題化合物を塩酸塩として得た。HPLC純度:87.9%。LC−MS:主生成物m/z 1052.10、[M+H]に一致。
【0060】
実施例7
キャスポファンギン酢酸塩
実施例6に従って塩酸塩として調製した化学式IIIの化合物(10.0g、9.20mmol)、フェニルボロン酸(2.48g、20.3mmol)、テトラゾールのアセトニトリル溶液(0.45M、92mL、41.4mmol)、およびTHF(40mL)の混合物を−10℃に冷却した。トリフリン酸(4.14g、27.6mmol)のアセトニトリル(20mL)溶液を0.5mL/分の速度で反応混合液に加えた。混合物を23時間攪拌し、メタノール(75mL)を加えた。1,2−ジアミノエタン(46mL、0.69mol)を30分にわたって滴加した。温度を30℃に上げ、混合物を減圧下でおよそ120mLまで濃縮した。反応混合物を20℃で17時間攪拌した。反応混合物と酢酸(64mL、1.12mol)を酢酸(20mL、0.35mol)と水(600mL)を入れた第2の反応器にpHを3.8〜5.2の間に維持するために適切な添加速度で同時に加えることによって、混合物をクエンチした。混合物をC18カラムに添加し、10%アセトニトリル/0.1M酢酸、次いで10%アセトニトリル/0.15%酢酸でカラムを洗浄した。生成物は22%アセトニトリル/0.15%酢酸で溶出した。リッチカットをプールし、有機溶媒を除去した。凍結乾燥により3.62g(収量32%)のキャスポファンギンを酢酸付加塩として得た。HPLC純度:97.9%。LC−MS:主生成物m/z 1094.09、[M+H]に一致。
【0061】
実施例8
キャスポファンギン、ワンポット法
ニューモキャンディンB(200mg、0.19mmol)をTHF(3.0mL)に懸濁し、フェニルボロン酸(23mg、0.19mmol)を加えた。反応混合物を室温で1晩攪拌した。THFのフラスコからの蒸留、無水THFの添加、および乾燥するまで蒸留を継続することにより、共沸して水を除去した。混合物を室温まで冷却し、無水THF(3.0mL)、次いでBSTFA(15μL、0.56mmol)を加えた。混合物を室温で1時間攪拌し、0℃に冷却した。ボラン−DMS錯体(0.11mL、1.13mmol)をゆっくりと加え、混合物を3時間攪拌した。追加のボラン−DMS錯体(0.06mL、0.62mmol)を加え、反応混合物を更に4時間攪拌した。THF(5.0mL)を加え、混合物を0℃で1晩攪拌した。ピリジン(10mL)および塩酸水溶液(2.0M、100μL、0.2mmol)を加え、混合物を減圧下で約3mLまで濃縮した。トリフリン酸(0.3mL、3.38mmol)を加え、反応混合物を80℃で5時間攪拌した。混合物を0℃に冷却し、1,2−ジアミノエタン(0.40mL、6.0mmol)を加えた。混合物を0℃で1晩攪拌した。キャスポファンギンによるHPLCスパイク実験により、反応混合物中の目的化合物の存在を確認した。反応混合物中のキャスポファンギンの純度は18%だった。
実施例9
キャスポファンギン二酢酸の結晶化
実施例7で得られた凍結乾燥した物質の一部(413mg、0.34mmol)をエタノール(5.5mL)、水(0.52mL)および酢酸(26μL、0.46mmol)の混合物に室温で溶解した。安定な懸濁液が形成されるまで、酢酸エチルを6.5mL滴加した。混合物を1時間攪拌し、別量の酢酸エチル(3.5mL)を加え、混合物をさらに1時間熟成させた。吸引濾過により固体物質を回収し、ろ紙上で30分間乾燥させ、さらに30℃の減圧下で2時間乾燥させた。収量:236mg(57%)。LC−MS:主生成物m/z 1093.97、[M+H]に一致。
【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、
Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、前記N原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、
化学式VII
【化1】

の化合物またはその酸付加塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
が−CHNHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNである、化学式VまたはV’
【化2】

の化合物またはその酸付加塩もしくは溶媒和物。
【請求項4】
が−CHNHである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
が−(CO)NH、−CHNHまたは−CNである、化学式(VI)
【化3】

の化合物またはその酸付加塩もしくは溶媒和物。
【請求項6】
が−CHNHまたはその酸付加塩もしくは溶媒和物である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
化学式VIII
【化4】

の化合物またはその製薬上許容できる塩を製造する方法であって、
a)Rが−(CO)NH、−CHNHまたは−CNであり、
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成し、
Xがi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含み、前記N原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成する、五または六員環の複素環式芳香族環およびその誘導体と、ii)窒素原子がシクロヘキサペプチド環への結合点を形成するテトラゾリルおよびその誘導体とからなる群から選択される補助基である、
化学式VII
【化5】

の化合物またはその酸付加塩を1,2−ジアミノエタンと反応させて化学式VIIIの化合物またはその製薬上許容できる塩を得るステップと、
b)a)のステップで得られるような化学式VIIIの前記化合物またはその製薬上許容できる塩を任意で分離するステップと
を含む方法。
【請求項8】
キャスポファンギン(I)
【化6】

またはその製薬上許容できる塩を製造する方法であって、
a)Rが−(CO)NH、−CHNHまたは−CNである化学式IX
【化7】

の化合物またはその酸付加塩をi)イミン基の一部である少なくとも一つのN原子を含む五または六員環の複素環式芳香族化合物およびその誘導体、またはii)テトラゾールおよびその誘導体と反応させ、
とXが上記のように定義され、かつ
=R=HまたはRおよびRが共に環状ボロン酸またはホウ酸エステルを形成する、
化学式VII
【化8】

の化合物を形成するステップと、
b)それに続く、化学式VIII
【化9】

の化合物またはその製薬上許容できる塩を生じさせるためのXを1,2−ジアミノエタンで置換するステップと、
c)化学式Iの前記化合物を最終産物として提供するために、もし化学式IXのRが−(CO)NHまたは−CNである場合にはa)またはb)のステップの前または後に還元がそれぞれ行われる、化学式Iの前記化合物またはその製薬上許容できる塩を任意で分離するステップと
を含む方法。
【請求項9】
の前記還元を含む、a)からc)のステップがワンポット短縮プロセスで行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Xがピリジンとの反応に導入され、化学式VIIの前記化合物が
【化10】

またはその酸付加塩もしくは溶媒和物である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
Xがテトラゾールとの反応に導入され、化学式VIIの前記化合物が
【化11】

またはその酸付加塩もしくは溶媒和物である、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2011−524871(P2011−524871A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513444(P2011−513444)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際出願番号】PCT/NO2009/000218
【国際公開番号】WO2009/151341
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(505371232)クセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス (13)
【氏名又は名称原語表記】Xellia Pharmaceuticals ApS
【住所又は居所原語表記】11 Dalslandsgade,DK−2300 Copenhagen S,DENMARK
【Fターム(参考)】