説明

キラルなイリジウムアクア錯体およびそれを用いた光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法

【課題】保存安定性が良好で、容易に製造でき、また不斉移動水素化反応においてより高い収率や立体選択性が達成できる、新規なキラルなイリジウムアクア錯体を提供する。
【解決手段】


(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはフェニル基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示す。)で表されるイリジウムアクア錯体及びそれを用いた光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキラルなイリジウムアクア錯体、その製造方法およびそれを用いた不斉移動水素化反応(Asymmetric Transfer Hydrogenation)による光学活性ヒドロキシ化合物および光学活性ニトロアルカン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属錯体触媒を使用する不斉移動水素化反応により、カルボニル化合物から光学活性ヒドロキシ化合物を製造する方法が多く提案されている。例えば、非特許文献1には、Ru(II)-TsDPEN (TsDPEN = N−(p−トルエンスルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン)を用いて、アセトフェノン誘導体から光学活性アルコールを製造することが記載されている。非特許文献2には、蟻酸イオン存在下でhydride種を形成する[Cp*Ir(bpy)(H2O)]SO4(Cp*= h−ペンタメチルシクロペンタジエニルアニオン, bpy =2,2’−ビピリジン)錯体を用いて、pH依存プロセスによりケトンを還元することが記載されている。また、最近ではキラルなイリジウム錯体を用いる方法も提案されている。例えば、非特許文献3には、CsDPEN (CsDPEN = N−(カンファースルホニル)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン) やTsDPENを[Cp*IrCl2]2と反応させることにより得た錯体を用いて、ケトンを還元することが記載されている。また、特許文献1にはキラルなN-置換スルホニル−エチレンジアミンを[Cp*IrCl2]2と反応させることにより得た錯体を用いて、ケトンを還元することが記載されている。
【0003】
一方、非特許文献4には、キラルなイリジウムアクア錯体の水溶液中における配位子交換の速度論およびメカニズムが記載されており、ここでは、[Cp*Ir(R,R-DACH)(H2O)](ClO4)2(DACH = 1,2−ジアミノシクロヘキサン)や[Cp*Ir(R,R-DPEN)(H2O)](ClO4)2(DPEN = 1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジアミン)が例示されている。
【0004】
また、特許文献2および非特許文献5には、有機ケイ素化合物やチオウレア触媒を使用して、ニトロオレフィン化合物の二重結合を還元して光学活性なニトロアルカン化合物を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−335385号公報
【特許文献2】特表2006−524189
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1996,118,2521−2522
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.2004,126,3020−3021
【非特許文献3】Synllet,2006,1155−1160
【非特許文献4】Eur.J.Inorg.Chem.2001,1361−1369
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.2007,129,8976−8977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の文献に記載の錯体には、次のような問題点がある。非特許文献1、3および特許文献1の錯体は、アクア錯体でなく、アミンによっては、水に溶解し難いため、近年、望まれているグリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での反応が困難である。加えて、非特許文献1のルテニウム錯体は、イリジウム触媒と比べて反応の進行が遅いという問題もある。非特許文献2の錯体は、配位子がキラルではないため不斉反応に適用できないという問題がある。非特許文献4の錯体は過塩素酸塩であるため、爆発性を有し、取り扱いに注意を要する。また、非特許文献4には、どのような反応に使用するかは何ら記載されていない。しかし、不斉移動水素化反応は、通常、水素源である蟻酸またはその塩の存在下で行うが、過塩素酸塩との接触は危険が予測され、このような反応に適用できないと推測される。
【0008】
このように、不斉移動水素化反応に好適なキラルなイリジウムアクア錯体は、今までに何ら提案されていないのが現状である。
【0009】
本発明は、容易に製造でき、水系溶媒中でかつ安全に不斉移動水素化反応を実施できるキラルなイリジウムアクア錯体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に対して鋭意検討した結果、下記式(1A)および(1)のキラルなイリジウムアクア錯体が、容易に製造でき、水系溶媒中でかつ安全に不斉移動水素化反応を実施できること、加えて、保存安定性が良好で、かつ不斉移動水素化反応において、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性が達成できることを見出し、発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
[1] 式(1A):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはフェニル基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)ともいう)。
[2] 式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体(以下、キラルなイリジウムアクア錯体(1)ともいう)。
[3] RおよびRが、同一または異なって、それぞれ、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[4] RおよびRが、同一または異なって、それぞれ、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[5] RおよびRが、同一または異なって、それぞれ、フッ素原子を有していてもよいフェニルである、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[6] Rが、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基;またはハロゲン原子を有していてもよいC1−6アルキルスルホニル基である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[7] Rが、フッ素原子、トリフルオロメチルおよびニトロから選ばれる置換基を有するフェニルスルホニル;またはフッ素原子を有するC1−4アルキルスルホニル基である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[8] Rが、水素原子;またはC1−6アルキル基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[9] Rが、水素原子である、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[10] Xが硫酸イオンである、上記[1]または[2]に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
[11] 式:
【0016】
【化3】

【0017】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
[12] 式:
【0018】
【化4】

【0019】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
[13] 式:
【0020】
【化5】

【0021】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
[14] 式:
【0022】
【化6】

【0023】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
[15] 式:
【0024】
【化7】

【0025】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
[16] 式:
【0026】
【化8】

【0027】
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【0028】
[17] 式(2)で表されるイリジウム錯体(以下、イリジウム錯体(2)ともいう)を式(3)で表されるキラルなジアミン(以下、キラルなジアミン(3)ともいう)と反応させることを特徴とする、式(1A)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の製造方法。
【0029】
【化9】

【0030】
(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはフェニル基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
【0031】
[18] 式(4)で表されるカルボニル化合物(以下、カルボニル化合物(4)ともいう)を、上記[1]〜[16]のいずれかのキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(5)で表される光学活性ヒドロキシ化合物(以下、光学活性ヒドロキシ化合物(5)ともいう)の製造方法。
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、Rは、カルボキシル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基または置換基を有していてもよいアルキル基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
[19] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0034】
【化11】

【0035】
である、上記[18]に記載の製造方法。
[20] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0036】
【化12】

【0037】
である、上記[18]に記載の製造方法。
[21] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0038】
【化13】

【0039】
である、上記[18]に記載の製造方法。
[22] Rが、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;C3−8シクロアルキル基;またはC1−6アルキル基を有していてもよい5または6員のヘテロアリール基である、上記[18]に記載の製造方法。
[23] Rが、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基およびアジド基から選ばれる置換基を有していてもよいC1−6アルキル基である、上記[18]に記載の製造方法。
[24] 不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、上記[18]に記載の製造方法。
[25] 不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、上記[18]に記載の製造方法。
[26] 不斉移動水素化反応が、pH2〜5の条件下で行われる、上記[18]に記載の製造方法。
【0040】
[27] 式(6)で表されるニトロオレフィン化合物(以下、ニトロオレフィン化合物(6)ともいう)を、上記[1]〜[16]のいずれかのキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(7)で表される光学活性ニトロアルカン化合物(以下、光学活性ニトロアルカン化合物(7)ともいう)の製造方法。
【0041】
【化14】

【0042】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
[28] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0043】
【化15】

【0044】
である、上記[27]に記載の製造方法。
[29] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0045】
【化16】

【0046】
である、上記[27]に記載の製造方法。
[30] キラルなイリジウムアクア錯体が、
【0047】
【化17】

【0048】
である、上記[27]に記載の製造方法。
[31] Rが、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびC1−6アルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基である、上記[27]に記載の製造方法。
[32] Rが、C1−6アルキル基である、上記[27]に記載の製造方法。
[33] 不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、上記[27]に記載の製造方法。
[34] 不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、上記[27]に記載の製造方法。
[35] 不斉移動水素化反応が、pH2〜5の条件下で行われる、上記[27]に記載の製造方法。
【0049】
[36] 式:
【0050】
【化18】

【0051】
で表されるキラルなジアミン。
[37] 式:
【0052】
【化19】

【0053】
で表されるキラルなジアミン。
[38] 式:
【0054】
【化20】

【0055】
で表されるキラルなジアミン。
【発明の効果】
【0056】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は容易に製造できる。また、水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応が可能である。さらには、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全である。
加えて、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、空気や水に対する安定性が良好である。また本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を用いて不斉移動水素化反応を行うと、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明について詳細に説明する。
、R、R、RおよびRは、好ましくは、同一または異なって、それぞれ水素原子またはメチル基である。より好ましくは、R、R、R、RおよびRのうちの3ないし5がメチル基であり、かつ残りが水素原子である。特に好ましくは、R、R、R、RおよびRが全てメチル基である(即ち、キラルなイリジウムアクア錯体(1))。
【0058】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、C6−14アリール基が好ましく、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル、ビフェニリル等が挙げられ、中でも、C6−10アリール基が好ましく、フェニル、ナフチルがより好ましく、フェニルが特に好ましい。
当該「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ハロアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、シアノ基、アジド基等が挙げられる。
【0059】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
1−6アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
1−6ハロアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、3−フルオロプロピル、4−フルオロブチル、5−フルオロペンチル、6−フルオロヘキシル等が挙げられる。
1−6アルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられる。
1−6ハロアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、2−フルオロエトキシ、2,2−ジフルオロエトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、3−フルオロプロポキシ、4−フルオロブトキシ、5−フルオロペンチルオキシ、6−フルオロヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0060】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ハロアルコキシ基が好ましく、フッ素原子、メチル、トリフルオロメチル、メトキシ、トリフルオロメトキシがより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0061】
およびRが一緒になって環を形成する「置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基」における「C3−4直鎖アルキレン基」としては、トリメチレン、テトラメチレンが挙げられる。このようなC3−4直鎖アルキレン基により形成される環としては、シクロペンタン、シクロヘキサンが挙げられる。当該「置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基」における「置換基」としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0062】
好ましくは、RおよびRが、同一または異なって、それぞれハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基であり、
より好ましくは、同一または異なって、それぞれハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基であり、
さらに好ましくは、フッ素原子、メチル、トリフルオロメチル、メトキシおよびトリフルオロメトキシから選ばれる置換基をそれぞれ有していてもよいフェニルまたはナフチルであり、
さらにより好ましくは、フッ素原子、メチル、トリフルオロメチル、メトキシおよびトリフルオロメトキシから選ばれる置換基を有していてもよいフェニルであり、
特に好ましくは、フッ素原子を有していてもよいフェニルである。
最も好ましくは、RおよびRが、共に無置換フェニルであるか、あるいは3,5−ジフルオロフェニルである。
【0063】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基」における「アルキルスルホニル基」は、直鎖または分枝のC1−10アルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、tert−ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、イソペンチルスルホニル、ネオペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル、2−エチルブチルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、ノニルスルホニル、デシルスルホニル等が挙げられ、中でも、C1−6アルキルスルホニル基が好ましく、C1−4アルキルスルホニル基が特に好ましい。
【0064】
当該「置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ハロアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、シアノ基、アジド基等が挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0065】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基」における「置換基」としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0066】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリールスルホニル基」における「アリールスルホニル基」のアリール部としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」と同様のものが挙げられる。当該「アリールスルホニル基」の具体例としては、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル、アントリルスルホニル、フェナントリルスルホニル、アセナフチレニルスルホニル、ビフェニリルスルホニル等が挙げられ、中でも、C6−10アリールスルホニル基が好ましく、フェニルスルホニルおよびナフチルスルホニルがより好ましく、フェニルスルホニルが特に好ましい。当該「置換基を有していてもよいアリールスルホニル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0067】
またはRで示される「置換基を有していてもよいアリールスルホニル基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、ニトロ基が好ましく、フッ素原子、塩素原子、C1−4アルキル基、トリフルオロメチル、ニトロが好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル、ニトロがより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0068】
は、好ましくは、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基;またはハロゲン原子を有していてもよいC1−6アルキルスルホニル基であり、
より好ましくは、フッ素原子、塩素原子、C1−4アルキル基、トリフルオロメチルおよびニトロから選ばれる置換基をそれぞれ有していてもよいフェニルスルホニルまたはナフチルスルホニル;またはフッ素原子を有していてもよいC1−4アルキルスルホニル基であり、
さらに好ましくは、フッ素原子、トリフルオロメチルおよびニトロから選ばれる置換基を有するフェニルスルホニル;またはフッ素原子を有するC1−4アルキルスルホニル基であり、
さらにより好ましくは、ペンタフルオロフェニルスルホニル、4−(トリフルオロメチル)フェニルスルホニル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルスルホニル、4−ニトロフェニルスルホニル;またはパーフルオロ置換C1−4アルキルスルホニル基であり、
特に好ましくは、ペンタフルオロフェニルスルホニルである。
【0069】
は、好ましくは、水素原子;またはC1−6アルキル基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基であり、
より好ましくは、水素原子;またはメチルを有していてもよいフェニルスルホニルであり、
さらにより好ましくは、水素原子;またはp−トルエンスルホニルであり、
特に好ましくは、水素原子である。
【0070】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0071】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、フェニル、ナフチルが好ましい。当該「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基が好ましく、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基がより好ましい。
【0072】
で示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「ヘテロアリール基」としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピリジル、ベンゾフラニル、インドリル、ベンゾチオフェニル、ピリミジル、ピラジニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、シンノリニル等が挙げられ、中でも、フリル、チエニルが好ましい。当該「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0073】
当該「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「置換基」としては、C1−6アルキル基が好ましく、C1−4アルキル基がより好ましい。
【0074】
で示される「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」における「シクロアルキル基」としては、C3−8シクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等が挙げられ、中でも、C5−6シクロアルキル基が好ましく、シクロへキシルが特に好ましい。当該「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0075】
で示される「置換基を有していてもよいアラルキル基」における「アラルキル基」のアリール部としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」と同様のものが挙げられ、アルキル部としては、C1−10直鎖または分枝のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。当該「アラルキル基」の具体例としては、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−(1−ナフチル)エチル、1−(2−ナフチル)エチル、2−(1−ナフチル)エチル、2−(2−ナフチル)エチル、1−フェニルプロピル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、1−フェニルブチル、2−フェニルブチル、3−フェニルブチル、4−フェニルブチル等が挙げられる。当該「置換基を有していてもよいアラルキル基」における「置換基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0076】
は、好ましくは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基または置換基を有していてもよいシクロアルキル基であり、より好ましくは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基またはシクロアルキル基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;C3−8シクロアルキル基;またはC1−6アルキル基を有していてもよい5または6員のヘテロアリール基であり、さらにより好ましくは、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;C5−6シクロアルキル基;またはC1−4アルキル基を有していてもよい5または6員のヘテロアリール基であり、さらにより好ましくは、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;またはC1−4アルキル基を有していてもよい5または6員のヘテロアリール基であり、特に好ましくは、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基である。
【0077】
で示される「置換基を有していてもよいカルバモイル基」における「置換基としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基等が挙げられる。
【0078】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」における「アルキル基」としては、C1−10直鎖または分枝のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。中でも、C1−6アルキル基が好ましく、C1−4アルキル基がさらに好ましく、メチルが特に好ましい。当該「置換基を有していてもよいアルキル基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6ハロアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、シアノ基、アジド基等が挙げられる。好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アジド基である。
【0079】
は、好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基およびアジド基から選ばれる置換基を有していてもよいC1−6アルキル基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基およびアジド基から選ばれる置換基を有していてもよいC1−4アルキル基である。
【0080】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0081】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、フェニル、ナフチルが好ましい。当該「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基が好ましく、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4ハロアルキル基、C1−4アルコキシ基がより好ましい。
【0082】
で示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」としては、Rで示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0083】
は、好ましくは、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびC1−6アルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4ハロアルキル基およびC1−4アルコキシ基から選ばれる置換基をそれぞれ有していてもよいフェニルまたはナフチルである。
【0084】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」としては、Rで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0085】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」における「アルキル基」としては、C1−6アルキル基が好ましく、C1−4アルキル基がさらに好ましく、メチルが特に好ましい。
【0086】
で示される「置換基を有していてもよいアリール基」としては、RまたはRで示される「置換基を有していてもよいアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0087】
で示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」としては、Rで示される「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」と同様のものが挙げられる。なお、置換基が2個以上である場合、これらの置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0088】
は、好ましくは、C1−6アルキル基であり、より好ましくは、C1−4アルキル基であり、特に好ましくは、メチルである。
【0089】
Xで示される「陰イオン」としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アセチルアセトナートイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられ、中でも、硫酸イオンが好ましい。
【0090】
*は、それで示した炭素原子が不斉炭素原子であることを示し、当該不斉炭素原子上の置換基がR配置であるものとS配置であるものの割合が、50:50を除く、0:100〜100:0まで任意の割合を意味する。
【0091】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)のうち、キラルなイリジウムアクア錯体(1)が好ましく、その好適な具体例としては、以下のキラルなイリジウムアクア錯体(1−a)−(1−h):
【0092】
【化21】

【0093】
が挙げられる。
【0094】
即ち、以下のキラルなイリジウムアクア錯体(1−a−R)−(1−h−R):
【0095】
【化22】

【0096】
および(1−a−S)−(1−h−S):
【0097】
【化23】

【0098】
である。
【0099】
また、不斉移動水素化反応における立体選択性が非常に高い点から、(1−a)、(1−b)および(1−h):
【0100】
【化24】

【0101】
が好ましい。即ち、キラルなイリジウムアクア錯体(1−a−R)、(1−b−R)および(1−h−R):
【0102】
【化25】

【0103】
並びに、キラルなイリジウムアクア錯体(1−a−S)、(1−b−S)および(1−h−S):
【0104】
【化26】

【0105】
である。
【0106】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、イリジウム錯体(2)をキラルなジアミン(3)と反応させることにより、製造することができる。
【0107】
イリジウム錯体(2)は、Organometallics 1999, 18, 5470-5474に記載の方法に従い製造することができる。
【0108】
キラルなジアミン(3)の好適な具体例としては、
【0109】
【化27】

【0110】
【化28】

【0111】
【化29】

【0112】
【化30】

【0113】
等が挙げられる。即ち、以下のR体
【0114】
【化31】

【0115】
【化32】

【0116】
【化33】

【0117】
【化34】

【0118】
および、以下のS体
【0119】
【化35】

【0120】
【化36】

【0121】
【化37】

【0122】
【化38】

【0123】
等である。中でも、不斉移動水素化反応における立体選択性が高いキラルなイリジウムアクア錯体が得られる点から、
【0124】
【化39】

【0125】
が好ましい。即ち、以下のR体
【0126】
【化40】

【0127】
および、以下のS体
【0128】
【化41】

【0129】
である。特に、
【0130】
【化42】

【0131】
が好ましい。即ち、以下のR体
【0132】
【化43】

【0133】
および、以下のS体
【0134】
【化44】

【0135】
である。
【0136】
なお、上記のキラルなジアミンのうち、
【0137】
【化45】

【0138】
即ち、以下のR体
【0139】
【化46】

【0140】
および、以下のS体
【0141】
【化47】

【0142】
は新規である。
【0143】
上記のキラルなジアミン(3)は、入手したもの、あるいは公知の方法(例えば、Chem.Commun.,2001,2572−2573;J.Org.Chem.2004,69,5187−5195)またはその類似の方法にて製造したものを用いてもよい。
【0144】
上記のキラルなジアミン(3)は、ラセミ体(トランス体の1:1混合物)でなく、その鏡像体過剰率は0%eeより大きいが、100%eeまでの任意の値であり、90%ee以上、特に95%ee以上であることが好ましい。
【0145】
上記反応において、キラルなジアミン(3)の使用量は、イリジウム錯体(2)1モルに対して、通常0.8〜2.0モルであり、経済性の観点から、好ましくは0.9〜1.2モルである。
【0146】
反応は、Organometallics,2001,20,4903に記載の方法に従って行われる。即ち、以下に示すように、イリジウム錯体(2)およびキラルなジアミン(3)を溶媒中で混合することにより行われる。
【0147】
【化48】

【0148】
溶媒としては、水、メタノール等のアルコール、およびこれらの混合物等が挙げられ、中でも、水または水−アルコールの混合溶媒が好ましい。混合溶媒の場合、水とアルコールの含有比(容量比)は、キラルなジアミンの種類にもよるが、通常1:1〜10:1であり、好ましくは1:1〜5:1である。溶媒の使用量は、イリジウム錯体(2)1gに対して、通常3〜100mLであり、操作性と経済性の両立の観点から、好ましくは10〜65mLである。
【0149】
反応温度は、通常0〜110℃、好ましくは5〜50℃であり、反応時間は、キラルなジアミン(3)の種類にもよるが、通常1〜50時間、好ましくは1〜24時間である。
反応終了後、反応混合物を濃縮することにより、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)が得られる。なお、必要に応じて、再結晶等の操作により精製してもよい。
【0150】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、空気や水に対する安定性が良好である。
【0151】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、不斉移動水素化反応、特に、カルボニル化合物(4)の不斉移動水素化反応の触媒として好適であり、例えば、カルボニル化合物(4)を不斉移動水素化反応に供して光学活性ヒドロキシ化合物(5)を製造するのに好適に使用できる。また、ニトロオレフィン化合物(6)の不斉移動水素化反応の触媒としても好適であり、例えば、ニトロオレフィン化合物(6)を不斉移動水素化反応に供して光学活性ニトロアルカン化合物(7)を製造するのに好適に使用できる。
【0152】
カルボニル化合物(4)の不斉移動水素化反応
【0153】
【化49】

【0154】
当該反応においては、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の使用量は、カルボニル化合物(4)1モルに対して、通常0.001〜0.1モルであり、反応性と経済性の観点から、好ましくは0.002〜0.05モルである。
当該反応は、通常溶媒中、水素供与性化合物の存在下で行われ、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の溶液にカルボニル化合物(4)を添加して攪拌することにより行われる。
水素供与性化合物としては、例えば、蟻酸またはその塩が好ましく、転換率が良好である観点から、蟻酸が特に好ましい。水素供与性化合物の使用量は、カルボニル化合物(4)1モルに対して、通常1〜100モルであり、経済性の観点から、好ましくは2〜10モルである。
なお、水素供与性化合物として蟻酸を使用する場合、この蟻酸は溶媒を兼ねていてもよい。
溶媒としては、水、メタノール等のアルコール、およびそれらの混合物等が挙げられ、中でも、水または水−アルコールの混合溶媒が好ましい。混合溶媒の場合、水とアルコールの含有比(容量比)は、原料のカルボニル化合物(4)およびキラルなイリジウムアクア錯体(1A)の種類や量にもよるが、通常10:1〜1:10であり、好ましくは3:1〜1:3である。溶媒の使用量は、カルボニル化合物(4)1gに対して、通常1〜100mLであり、操作性と経済性の観点から、好ましくは3〜50mLである。
【0155】
当該反応は、反応性の点から、好ましくはpH2〜5、より好ましくはpH2.0〜4.5、特に好ましくはpH2.0〜3.5の条件下で行われる。当該pHの最適な範囲はカルボニル化合物(4)の種類(特にR)により異なり、例えば、Rがシアノメチル、アジドメチル、クロロメチル基等であるカルボニル化合物(4)の場合の最適pHは3.5であり、Rがニトロメチル基等であるカルボニル化合物(4)の場合の最適pHは2である。なお、pHの調整は、主に塩基(例えば、水酸化ナトリウム等)の添加により行われる。
【0156】
反応温度は、通常30〜100℃、好ましくは40〜85℃であり、反応時間は、カルボニル化合物(4)の種類にもよるが、通常1〜50時間、好ましくは1〜24時間である。
【0157】
当該反応に特に好適なキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、
【0158】
【化50】

【0159】
即ち、
【0160】
【化51】

【0161】
または
【0162】
【化52】

【0163】
である。
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を使用した不斉移動水素化反応では、光学活性ヒドロキシ化合物(5)が得られるが、当該光学活性ヒドロキシ化合物(5)立体配置は、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の立体配置に依存し、R配置であるかS配置であるかはキラルなイリジウムアクア錯体(1A)の種類に依存する。
【0164】
このようにして得られた光学活性ヒドロキシ化合物(5)の単離は、反応液を常法による後処理(例えば、中和、抽出、水洗、蒸留、結晶化等)に付すことにより行うことができる。またその精製は、光学活性ヒドロキシ化合物(5)を再結晶、抽出精製、蒸留、活性炭、シリカ、アルミナ等の吸着処理、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法により精製することができるが、特に精製を加えずそのまま、例えば、抽出溶液をそのまま、あるいは溶媒留去後の残渣をそのまま、次工程に付すことができる。
【0165】
当該反応において、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を触媒として使用すると、従来のイリジウム錯体と比較して、立体選択性(80ee%以上、特に95ee%以上)と高い収率を達成することができる。特に、Rが、フェニル、ハロゲン置換フェニル、C1−6アルキル置換フェニル、C1−6アルコキシ置換フェニル、シアノ置換フェニル、ナフチル、フリルまたはチエニルであり、かつRが、シアノメチル、ニトロメチル、クロロメチルまたはアジドメチルであるカルボニル化合物(4)に対して、立体選択性がより高く(80ee%以上、特に95ee%以上)、収率よく還元反応を行うことができる。
【0166】
ニトロオレフィン化合物(6)の不斉移動水素化反応
【0167】
【化53】

【0168】
当該反応においては、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の使用量は、ニトロオレフィン化合物(6)1モルに対して、通常0.001〜0.1モルであり、反応性と経済性の観点から、好ましくは0.003〜0.01モルである。
当該反応は、通常溶媒中、水素供与性化合物の存在下で行われ、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の溶液にニトロオレフィン化合物(6)を添加して攪拌することにより行われる。
水素供与性化合物としては、例えば、蟻酸またはその塩が好ましく、転換率が良好である観点から、蟻酸が特に好ましい。水素供与性化合物の使用量は、ニトロオレフィン化合物(6)1モルに対して、通常1〜100モルであり、経済性の観点から、好ましくは2〜10モルである。
なお、水素供与性化合物として蟻酸を使用する場合、この蟻酸は溶媒を兼ねていてもよい。
溶媒としては、水、メタノール等のアルコール、およびそれらの混合物等が挙げられ、中でも、水または水−アルコールの混合溶媒が好ましい。混合溶媒の場合、水とアルコールの含有比(容量比)は、原料のニトロオレフィン化合物(6)およびキラルなイリジウムアクア錯体(1A)の種類や量にもよるが、通常10:1〜1:10であり、好ましくは3:1〜1:3である。溶媒の使用量は、ニトロオレフィン化合物(6)1gに対して、通常1〜100mLであり、操作性と経済性の観点から、好ましくは3〜50mLである。
【0169】
当該反応は、反応性および選択性の点から、好ましくはpH2〜5、より好ましくはpH2.0〜4.5、特に好ましくはpH2.0〜3.5の条件下で行われる。pHの調整は、主に塩基(例えば、水酸化ナトリウム等)の添加により行われる。
【0170】
反応温度は、通常30〜100℃、好ましくは40〜85℃であり、反応時間は、ニトロオレフィン化合物(6)の種類にもよるが、通常1〜50時間、好ましくは1〜24時間である。
【0171】
当該反応に特に好適なキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、
【0172】
【化54】

【0173】
即ち、
【0174】
【化55】

【0175】
または
【0176】
【化56】

【0177】
である。
【0178】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を使用した不斉移動水素化反応では、光学活性ニトロアルカン化合物(7)が得られるが、当該光学活性ニトロアルカン化合物(7)の立体配置は、キラルなイリジウムアクア錯体(1A)の立体配置に依存し、R配置であるかS配置であるかはキラルなイリジウムアクア錯体(1A)の種類に依存する。
【0179】
このようにして得られた光学活性ニトロアルカン化合物(7)の単離は、反応液を常法による後処理(例えば、中和、抽出、水洗、蒸留、結晶化等)に付すことにより行うことができる。またその精製は、光学活性ニトロアルカン化合物(7)を再結晶、抽出精製、蒸留、活性炭、シリカ、アルミナ等の吸着処理、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法により精製することができるが、特に精製を加えずそのまま、例えば、抽出溶液をそのまま、あるいは溶媒留去後の残渣をそのまま、次工程に付すことができる。
【0180】
当該反応において、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を触媒として使用すると、従来のイリジウム錯体と比較して、立体選択性(80ee%以上、特に95ee%以上)と高い収率を達成することができる。特に、Rがフェニルであり、かつRがメチルであるニトロオレフィン化合物(6)に対して、立体選択性がより高く(70ee%以上、中でも80ee%以上、特に95ee%以上)、収率よく還元反応を行うことができる。
【0181】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応となる。また、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全に行うことができる。
【実施例】
【0182】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、Cpはη−ペンタメチルシクロペンタジエニル アニオンを表わす。
【0183】
参考例1 [CpIr(HO)](SO)の製造
Organometallics 1999, 18, 5470に記載の方法に従って、水(12mL)中AgSO(3.36mmol,1.05g)および[CpIrCl(1.68mmol,1.34g)の混合物を室温で12時間攪拌し、次いで、濾過してAgClを除去した。溶媒を減圧留去して、黄色固体の目的物(1.55g,97%)を得た。
1H NMR (300 MHz, D2O) δ: 1.59 (s, 15 H).
【0184】
実施例1 イリジウムアクア錯体(1−a−R)の製造
【0185】
[CpIr(HO)](SO)(0.11mmol,53mg)およびジアミン(3−a−R)(0.11mmol,49mg)の水:メタノールの混合溶媒(1:1(容量比),2mL)の溶液を室温で1時間攪拌した。溶媒を減圧留去して、赤色粉末の目的物を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ: 1.89 (s, 15H), 4.22 (d, J = 3.9 Hz, 1H), 4.66 (d, d, J = 4.2 Hz, 1H), 7.16-7.31 (m, 10H).
13C-NMR (75 MHz, CD3OD) δ: 10.4, 69.2, 76.2, 92.2, 127.5, 128.3, 129.1, 129.2, 138.4, 140.2.
HR-MALDI calcd for C30H29IrN2O2S [M-SO4-H2O]+ 769.1499, found 769.1479.
[α]D26 -242.22 (c 1.0, CHCl3).
【0186】
実施例1と同様の方法により、対応するキラルなジアミンを用いて、イリジウムアクア錯体(1−b−S)、イリジウムアクア錯体(1−c−R)、イリジウムアクア錯体(1−d−R)、イリジウムアクア錯体(1−e−R)、イリジウムアクア錯体(1−f−R)、イリジウムアクア錯体(1−g−R)およびイリジウムアクア錯体(1−h−S)を得た。
【0187】
イリジウムアクア錯体(1−b−S)
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ: 1.87 (s, 15H), 4.27-4.31 (m, 1H), 4.64-4.66 (m, 1H), 6.87-6.98 (m, 6H).
HR-MALDI calcd for C30H25IrN2O2S [M-SO4-H2O]+ 841.1122, found 841.1102.
[α]D26 -206.25 (c 0.50, CHCl3).
【0188】
イリジウムアクア錯体(1−c−R)
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ: 1.80 (s, 15H), 4.15 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.74 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.06-7.27 (m, 10H).
13C-NMR (75 MHz, CD3OD) δ: 9.86, 71.0, 71.2, 90.5, 127.8, 128.2, 129.0, 129.3, 130.1.
HR-MALDI calcd for C25H29IrN2O2S [M-SO4-H2O]+ 671.1531, found 671.1514.
[α]D28 -293.16 (c 0.25, CH3OH).
【0189】
イリジウムアクア錯体(1−h−S)
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ: 1.82 (s, 15H), 4.38 (d, J = 4.8 Hz), 4.86 (d, J = 4.8 Hz), 6.89-6.98 (m, 5H), 6.99-7.03 (m, 2H).
HR-MALDI calcd for C25H25IrN2O2S [M-SO4-H2O]+ 743.1154, found 743.1147.
[α]D26 18.8 (c 0.25, CH3OH).
【0190】
実施例2 2−シアノアセトフェノンの不斉移動水素化反応
表1に示すイリジウムアクア錯体(2−シアノアセトフェノンに対して表1に示す量(mol%))、2−シアノアセトフェノン(0.5mmol)および1.0M蟻酸水溶液(2.5mL,5当量,4M水酸化ナトリウムでpH=3.5に調整)を室温で混合し攪拌した。TLCにて2−シアノアセトフェノンの消失を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、(S)−3−フェニル−3−ヒドロキシプロピオニトリルを得た。変換率、eeを表1に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
実施例3
イリジウムアクア錯体(1−a−R)を用いて以下の反応を行った。
【0193】
【化57】

【0194】
表2に示すイリジウムアクア錯体(1−a−R)(化合物(a)に対して表2に示す量(mol%))、化合物(a)(0.5mmol)および1.0M蟻酸水溶液(2.5mL,5当量,4M水酸化ナトリウムでpH=3.5に調整)を室温で混合し攪拌した。TLCにて化合物(a)の消失を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応する化合物(b)を得た。変換率、eeを表2に示す。
【0195】
【表2】

【0196】
実施例4
イリジウムアクア錯体(1−a−R)を用いて以下の反応を行った。
【0197】
【化58】

【0198】
表3に示すイリジウムアクア錯体(1−a−R)(化合物(c)に対して表3に示す量(mol%))、化合物(c)(0.5mmol)および1.0M蟻酸水溶液(2.5mL,5当量,pH=3.5の場合は4M水酸化ナトリウムで調整、pH=2.0の場合は調整なし)を室温で混合し攪拌した。TLCにて化合物(c)の消失を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応する化合物(d)を得た。pH、変換率、eeを表3に示す。
【0199】
【表3】

【0200】
実施例5 ニトロオレフィン化合物の不斉移動水素化反応
【0201】
【化59】

【0202】
表4に示すイリジウムアクア錯体(ニトロオレフィン化合物(e)に対して1mol%)、ニトロオレフィン化合物(e)(0.5mmol)および1.0M蟻酸水溶液(2.5mL,5当量,pH=3.5の場合は4M水酸化ナトリウムで調整、pH=2.0の場合は調整なし)を室温で混合し攪拌した。TLCにてニトロオレフィン化合物(e)の消失を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、光学活性なニトロアルカン化合物(f)を得た。変換率、eeを表4に示す。なお、実施例5−1〜5−7では、(S)−ニトロアルカン化合物(f)が、実施例5−8では(R)−ニトロアルカン化合物(f)が得られた。
【0203】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、水に対する溶解性が良好であるため、グリーンケミストリーに適した環境にやさしい水系溶媒中での不斉移動水素化反応が可能である。さらには、蟻酸またはその塩の存在下で不斉移動水素化反応を行っても、水素の発生等の危険はなく安全である。
加えて、本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)は、空気や水に対する安定性が良好である。また本発明のキラルなイリジウムアクア錯体(1A)を用いて不斉移動水素化反応を行うと、従来のイリジウム錯体と比較して、より高い収率や立体選択性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1A):
【化1】


(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはフェニル基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項2】
式(1):
【化2】


(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項3】
およびRが、同一または異なって、それぞれ、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項4】
およびRが、同一または異なって、それぞれ、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C1−6アルコキシ基およびC1−6ハロアルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項5】
およびRが、同一または異なって、それぞれ、フッ素原子を有していてもよいフェニルである、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項6】
が、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基;またはハロゲン原子を有していてもよいC1−6アルキルスルホニル基である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項7】
が、フッ素原子、トリフルオロメチルおよびニトロから選ばれる置換基を有するフェニルスルホニル;またはフッ素原子を有するC1−4アルキルスルホニル基である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項8】
が、水素原子;またはC1−6アルキル基を有していてもよいC6−10アリールスルホニル基である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項9】
が、水素原子である、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項10】
Xが硫酸イオンである、請求項1または2に記載のキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項11】
式:
【化3】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項12】
式:
【化4】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項13】
式:
【化5】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項14】
式:
【化6】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項15】
式:
【化7】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項16】
式:
【化8】


で表されるキラルなイリジウムアクア錯体。
【請求項17】
式(2)で表されるイリジウム錯体を式(3)で表されるキラルなジアミンと反応させることを特徴とする、式(1A)で表されるキラルなイリジウムアクア錯体の製造方法。
【化9】


(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基またはフェニル基を示し、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基であるか、またはRおよびRが一緒になって環を形成する置換基を有していてもよいC3−4直鎖アルキレン基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基または置換基を有していてもよいアリールスルホニル基を示し、Xは1価または2価の陰イオンを示し、Xが1価の陰イオンのとき、nは2を示し、Xが2価の陰イオンのとき、nは1を示す。)
【請求項18】
式(4)で表されるカルボニル化合物を、請求項1〜16のいずれかのキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(5)で表される光学活性ヒドロキシ化合物の製造方法。
【化10】


(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基または置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、Rは、カルボキシル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基または置換基を有していてもよいアルキル基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【請求項19】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化11】


である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化12】


である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化13】


である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項22】
が、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、シアノ基およびニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基;C3−8シクロアルキル基;またはC1−6アルキル基を有していてもよい5または6員のヘテロアリール基である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項23】
が、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基およびアジド基から選ばれる置換基を有していてもよいC1−6アルキル基である、請求項18に記載の製造方法。
【請求項24】
不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項25】
不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項26】
不斉移動水素化反応が、pH2〜5の条件下で行われる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項27】
式(6)で表されるニトロオレフィン化合物を、請求項1〜16のいずれかのキラルなイリジウムアクア錯体の存在下で不斉移動水素化反応に供することを特徴とする、式(7)で表される光学活性ニトロアルカン化合物の製造方法。
【化14】


(式中、Rは、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し、*で示した炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【請求項28】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化15】


である、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化16】


である、請求項27に記載の製造方法。
【請求項30】
キラルなイリジウムアクア錯体が、
【化17】


である、請求項27に記載の製造方法。
【請求項31】
が、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基およびC1−6アルコキシ基から選ばれる置換基を有していてもよいC6−10アリール基である、請求項27に記載の製造方法。
【請求項32】
が、C1−6アルキル基である、請求項27に記載の製造方法。
【請求項33】
不斉移動水素化反応が、蟻酸またはその塩の存在下で行われる、請求項27に記載の製造方法。
【請求項34】
不斉移動水素化反応が、蟻酸存在下で行われる、請求項27に記載の製造方法。
【請求項35】
不斉移動水素化反応が、pH2〜5の条件下で行われる、請求項27に記載の製造方法。
【請求項36】
式:
【化18】


で表されるキラルなジアミン。
【請求項37】
式:
【化19】


で表されるキラルなジアミン。
【請求項38】
式:
【化20】


で表されるキラルなジアミン。

【公開番号】特開2010−37332(P2010−37332A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159617(P2009−159617)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(502079801)
【氏名又は名称原語表記】ERICK M. CARREIRA
【住所又は居所原語表記】LABORATORY OF ORGANIC CHEMISTRY ETH HOENGGERBERG, ZUERICH, SWITZERLAND
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】