説明

キーレスエントリー装置

【課題】車両の電源出力が変動しても携帯機の位置を受信した信号強度に基づいて精度よく測定することのできるキーレスエントリー装置を提供する。
【解決手段】車両側装置2は、送信アンテナ15に対して車両1の電源部4からの電力を供給し、車両側制御部12からの信号を送信するように駆動する車両側送信部11に設けられる駆動回路17と、駆動回路17が送信アンテナ15に送信させる信号の出力レベルを測定する出力測定回路18とを備え、車両側制御部12は、携帯機制御部22が検出した強度データに基づく各送信アンテナ15と携帯機3間の距離データと、出力測定回路18により測定された駆動回路17における信号の出力レベルデータとから、各送信アンテナ15と携帯機3間の実際の距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側装置と携帯機の間で無線通信を行うことで車両のドアを施錠・解錠するキーレスエントリー装置に関し、特に車両側装置の送信アンテナと携帯機との距離を信号強度の検出により算出するキーレスエントリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられる車両側装置と使用者が携帯する携帯機の間で無線通信を行い、車両のドアを施錠・解錠するキーレスエントリー装置が知られている。また近年、携帯機が車両に近づくと、車両側装置と携帯機の間で自動的に通信が行われ、個々の携帯機に固有に設定されているIDの認証がなされれば車両のドアの施錠・解錠動作を行うパッシブ・キーレスエントリー装置も知られている。
【0003】
ところで、パッシブ・キーレスエントリー装置においては、携帯機が車両の外側にあるか内側にあるかを判別できることが重要である。このために、車両側装置には、車両の各所に複数の送信アンテナが設けられ、各送信アンテナ毎に携帯機で受信した信号強度を検出し、この信号強度から各送信アンテナと携帯機との距離を算出して、携帯機の位置を測定するようにしていた。このように、携帯機のような無線端末装置の位置を複数の送信アンテナから受信した信号強度に基づいて位置を測定する技術としては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【特許文献1】特開平5−11039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
受信した信号強度に基づいた位置測定の技術をキーレスエントリー装置に用いた場合、以下のような問題があった。車両に設けられる電源は、バッテリーであるため、その充電度合などによって出力が変動する。このため、送信アンテナから送信される信号の出力レベルが変動することとなっていた。携帯機の位置を精度よく測定するためには、送信アンテナから送信する信号の出力レベルが高い精度で一定である必要があり、このためレギュレータが設けられることもあるが、充分な水準を得ることは困難であった。したがって、携帯機の位置を充分な精度で測定することができなかった。
【0005】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、車両の電源出力が変動しても携帯機の位置を受信した信号強度に基づいて精度よく測定することのできるキーレスエントリー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係るキーレスエントリー装置は、車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部と、前記送信アンテナに対して車両の電源部からの電力を供給し、前記車両側制御部からの信号を送信するように駆動する前記車両側送信部に設けられる駆動回路と、該駆動回路が前記送信アンテナに送信させる信号の出力レベルを測定する出力測定回路と、該出力測定回路で測定した出力レベルを保管するメモリを備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備えて前記車両側受信部に該強度に応じた信号を送信し、
前記車両側制御部は、前記メモリに保管されている出力測定回路により測定された前記駆動回路における信号の出力レベルデータと、前記携帯機制御部が検出した強度データに基づく前記各送信アンテナと携帯機間の距離データとを用いて、前記各送信アンテナと携帯機間の距離を算出することを特徴として構成されている。
【0007】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記駆動回路は前記送信アンテナに送信させる信号を増幅するアンプ部を備え、前記出力測定回路は前記アンプ部からの出力レベルを測定することを特徴として構成されている。
【0008】
さらに、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記携帯機制御部は検出した信号の強度に基づいて該信号を送信した送信アンテナとの距離を算出し、該距離データを前記アンサー信号に含めて送信することを特徴として構成されている。
【0009】
さらにまた、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記複数の送信アンテナはいずれも1つの駆動回路に接続され、該駆動回路に前記出力測定回路を接続してなることを特徴として構成されている。
【0010】
そして、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記車両側制御部は前記送信アンテナ毎の固有の特性を予め記憶した記憶部を備え、前記各送信アンテナと携帯機間の実際の距離を算出する際に前記記憶部に記憶された特性データも用いることを特徴として構成されている。
【0011】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置は、前記メモリが保管する出力レベルデータは、前記携帯機制御部が各送信アンテナと携帯機間の距離データを求めるために受信した信号を送信する際または送信直前あるいは送信直後のデータであることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、車両側装置は送信アンテナに対して車両の電源部からの電力を供給し、車両側制御部からの信号を送信するように駆動する駆動回路と、駆動回路が送信アンテナに送信させる信号の出力レベルを測定する出力測定回路とを備え、車両側制御部は、携帯機制御部が検出した強度データに基づく各送信アンテナと携帯機間の距離データと、出力測定回路により測定された駆動回路における信号の出力レベルデータとから、各送信アンテナと携帯機間の実際の距離を算出することにより、車両の電源出力が変動しても、信号強度を測定することによる携帯機と送信アンテナの距離測定の精度を高くすることができるので、携帯機の位置判別の精度を高めることができる。また車両の送信アンテナから送信させる信号の出力レベルは外部に送信信号として送信する必要が無く、精度を高められた距離の測定は、車両側で完結するので簡単である。
【0013】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、駆動回路は送信アンテナに送信させる信号を増幅するアンプ部を備え、出力測定回路はアンプ部からの出力レベルを測定することにより、送信アンテナから送信される信号の強度をより直接的に測定できるので、精度をより向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、携帯機制御部は検出した信号の強度に基づいて該信号を送信した送信アンテナとの距離を算出し、距離データをアンサー信号に含めて送信することにより、信号の強度データは三軸方向の各数値データからなるのに対し距離データは単一の数値データからなるので、携帯機から車両側制御部に送信するデータ量を小さくすることができる。
【0015】
さらにまた、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、複数の送信アンテナはいずれも1つの駆動回路に接続され、該駆動回路に前記出力測定回路を接続してなることにより、送信アンテナ毎に駆動回路や出力測定回路を設ける必要がなく、回路を簡易にしてコストダウンを図ることができる。
【0016】
そして、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、車両側制御部は送信アンテナ毎の固有の特性を予め記憶した記憶部を備え、各送信アンテナと携帯機間の実際の距離を算出する際に記憶部に記憶された特性データも用いることにより、送信アンテナ毎の特性のばらつきを考慮して精度をより向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係るキーレスエントリー装置によれば、携帯機がアンテナからの距離を計算するために信号を送信する際の値と同じ、或いは短時間の時間のずれしかなく同じとみなして良い値を用いているので、より精度が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態におけるキーレスエントリー装置の概要図を示している。本実施形態におけるキーレスエントリー装置は、車両1のドア1aを施錠または解錠するものであり、車両1側には車両側装置2が設けられ、使用者は携帯機3を携帯し、車両側装置2と携帯機3の間で無線通信を行って認証や施錠・解錠の指令等をなすものである。なお、本実施例においては1台の車両を所定の複数の携帯機で施錠または解錠できるようになっている。車両側装置2は、車両1の各所に複数の送信アンテナ15を有しており、各送信アンテナ15から携帯機3に対してリクエスト信号が送信される。なお、リクエスト信号は低周波信号からなっている。
【0019】
以下、使用者が車両1に近づいて、ドア1aを解錠する場合について主に説明する。本実施形態では、携帯機3を持った使用者がドア1aを解錠するには、ドア1aのドアノブ1b近傍に設けられたリクエストスイッチ16を押すことを必要としている。リクエストスイッチ16が押されると、車両側装置2と携帯機3との間で認証等の通信が行われ、認証がなされた場合に車両側装置2はドア1aを解錠する。
【0020】
次に、車両側装置2及び携帯機3の構成について説明する。図2にはキーレスエントリー装置のブロック図を示している。この図に示すように、車両側装置2は、携帯機3からのアンサー信号を受信する車両側受信部10と、携帯機3に対してリクエスト信号を送信する車両側送信部11と、アンサー信号を受信した際やリクエストスイッチ16が押された際に各種制御を行う車両側制御部12とを有している。
【0021】
また、車両側制御部12には、車固有の識別符号でありビット数の少ない2値データから構成されるV−ID(Vhicle−ID)や1台の車両を操作可能な複数の携帯機のそれぞれのID、及び各送信アンテナ15固有の出力特性など制御に必要な情報等を記憶するメモリ13と、上述したリクエストスイッチ16が接続されている。さらに、車両側受信部10にはアンサー信号を受信するための受信アンテナ14が接続され、車両側送信部11にはリクエスト信号を送信するための複数の送信アンテナ15、15が接続される。複数の送信アンテナ15、15は、それぞれ車両1の内外各所に設けられる。
【0022】
車両側送信部11には、各送信アンテナ15を駆動する駆動回路17が設けられる。駆動回路17は、全ての送信アンテナ15が接続されており、車両側制御部12からの信号が送信アンテナ15から送信されるように、各送信アンテナ15に電力を供給する。そのため、駆動回路17は車両1に設けられる電源部4と接続されると共に、車両側制御部12からの信号を増幅するアンプ部17aを備えている。
【0023】
車両1の電源部4は、バッテリーからなるため、オーディオ、エアコンディショナー等のバッテリーによって駆動されている他の負荷の状況、充電状況等によってその出力は変動する。このため、駆動回路17には、アンプ部17aから出力される信号の出力レベルを測定する出力測定回路18が接続されている。出力測定回路18は、測定した信号の出力レベルを車両側制御部12に送信し、メモリ13に保管する。車両側制御部12はこのメモリ13に保管した出力レベルデータと携帯機3から受信したデータに基づいて、各送信アンテナ15と携帯機3間の距離を精度良く算出する。
【0024】
携帯機3は、車両側装置2からのリクエスト信号を受信する携帯機受信部20と、車両側装置2に対してアンサー信号を送信する携帯機送信部21と、リクエスト信号を受信した際に各種制御を行う携帯機制御部22と、自機に設定されているID及びV−ID等を記憶したメモリ24とを有している。また、携帯機受信部20と携帯機送信部21には、リクエスト信号やアンサー信号の送受信を行う互いに直行する方向の指向特性を有する三軸アンテナ23が接続される。
【0025】
携帯機制御部22は、携帯機受信部20で受信する車両側装置2からのリクエスト信号に含まれるウェークアップ信号によって、消費電力が略ゼロの状態であるスリープ状態から通常状態に切り替わる。また、携帯機制御部22は、リクエスト信号に含まれるコマンドに基づいて各種動作を行う。さらに、携帯機制御部22は、三軸アンテナ23によって受信した信号の強度を検出すると共に、その強度データを基に信号を送信した送信アンテナ15と携帯機3との距離を算出することができる。
【0026】
次に、キーレスエントリー装置の動作について説明する。図3には、ドアを解錠する際の動作についてのフローチャートを示している。また、図4には、図3のフローにおいて車両側装置2と携帯機3からそれぞれ送信される信号のチャート図を示している。本実施形態のキーレスエントリー装置は、車両1に設けられたリクエストスイッチ16が押されることで、車両側装置2と携帯機3との間で無線通信がなされ、ドアの解錠がされるものである。したがって、まず使用者が車両1のリクエストスイッチ16を押すことでフローが開始する(S1)。
【0027】
リクエストスイッチ16が押されると、まず、車両の周囲に、携帯機の有無と、あった場合には複数の携帯機のうちのどれがあるかをS1〜S7において判断する。具体的には車両側制御部12は車両側送信部11に制御信号を出力し、1つの送信アンテナ15からリクエスト信号LF1を送信させる(S2)。図7に示すように、リクエスト信号LF1は、ウェークアップ信号を含む信号Aと、コマンド信号CMDとからなっている。コマンド信号CMDには、車固有の識別符号であるV−ID(Vhicle−ID)の情報が含まれている。
【0028】
携帯機3は、携帯機受信部20でリクエスト信号LF1を受信すると(S3)、携帯機制御部22がウェークアップ信号によりスリープ状態から通常状態となり、リクエスト信号LF1に含まれるV−IDが、自機が保持するV−IDと一致するか否かを判定する(S4)。ここでV−IDが一致しなければ、そこでフローは終了する。V−IDが一致すれば、携帯機制御部22は携帯機送信部21にV−IDを含むアンサー信号RF1を送信させる(S5)。なお、複数の携帯機3においては信号の受信後、それぞれの携帯機に予め設定された所定の時間の後にRF1を送信するようにしている。
【0029】
車両側制御部12は、送信アンテナ15でLF1を送信してから所定の時間内に、所定のV−IDを含むアンサー信号RF1を車両側受信部10で受信したか否かを判断する(S6)。なお、ここでの所定の時間は、複数の携帯機3に設定されている時間の最大の時間に多少の余裕を加えた時間であり、該所定の時間内にアンサー信号RF1が返信されていない場合は、操作可能な所定の携帯機3のいずれもが、検知はできなかったとみなす。S6において、受信していないと判断した場合には、LF1の信号を送信する送信アンテナ15を変更し(S7)、同様の動作を行う。S6において受信したと判定した場合には、LF1の送信時間とRF1の受信時間から、複数の携帯機3のうちのどれであるかを特定する。また、RF1が返信されたLF1は、どの送信アンテナ15から送信されたものであるかも特定する。なお、V−IDは数ビットの2値データからなっているので、該交信の時間は短時間で可能である。
【0030】
次いで、S8以降で、厳密に携帯機の認証と距離の測定を行う。具体的には、まず車両側制御部12は車両側送信部11に、第2リクエスト信号を送信する(S9)。第2リクエスト信号LF2は、図4に示すように、前記RF1が返信されたLF1を送信した送信アンテナ15から送信され、リクエスト信号LF1と同様にウェークアップ信号を含むと共に、前記で特定した所定の携帯機3のIDを含む信号Bと、コマンド信号CMDを含む信号及び、各送信アンテナ15から順に送信される複数のRssi測定用信号とからなっている。
【0031】
各送信アンテナ15から送信されるRssi測定用信号は、図4に示すように所定強度を有し所定時間に渡って継続するパルス状の信号であり、携帯機3側で受信強度を測定するために用いられる。各Rssi測定用信号は、携帯機からのRF1信号を受信後に所定の時間経過して後、車両側送信部11によって各送信アンテナ15から所定の順序かつ所定の時間間隔で送信される。携帯機3は、車両側でRF1の信号受信からどのタイミングでどの送信アンテナ15からの信号が送信されるかの情報を記憶しており、また、RF1の信号を受信した時間からタイマーを起動させて受信時間を測定する。そして、両者を比較することでどの送信アンテナ15からのRssi測定用信号であるかを識別することができる。
【0032】
S9において第2リクエスト信号LF2を送信する際、車両側装置2に設けられた出力測定回路18は、駆動回路17のアンプ部17aから出力される信号の出力レベルを測定し、その出力レベルデータを車両側制御部12に送信する。車両側制御部12は、出力レベルデータをメモリ13に一旦記憶させる(S8)。なお、実際には図4のCの時間にお いて測定し、全ての送信アンテナ15からの信号を送信するのには数msecの時間がかかる。
【0033】
各送信アンテナ15から送信された第2リクエスト信号LF2は、携帯機3の携帯機受信部20によって受信される(S10)。携帯機制御部22は、上述のように各Rssi測定用信号の強度を三軸アンテナ23で測定し、その三軸アンテナ23から求めた各送信アンテナ15毎の強度データから、各送信アンテナ15と携帯機3との距離をそれぞれ算出した、距離データの情報、すなわちこの例においては3つの送信アンテナ15と携帯機3の距離をそれぞれ示す3つのデータを第2アンサー信号RF2として車両側装置2に送信する(S11)。またこの際、アンサー信号RF2には、個々の携帯機に一義的に設定されているIDであるHU−ID(Hand Unit−ID)も含めて送信される。なお、信号の強度測定は、車両1側からRssi測定用信号を送信して、携帯機3側でその強度を測定するものには限られず、Rssi信号の送信を省略して、車両1側の複数の送信アンテナ15からそれぞれ第2リクエスト信号の携帯機のIDを含む信号B、あるいはコマンド信号CMDを送信し、それ自体の信号強度を測定するものであってもよい。
【0034】
車両側装置2の車両側送信部11は、携帯機3からのアンサー信号RF2を受信する(S12)。アンサー信号RF2を受信したら、車両側制御部12はそれに含まれるHU−IDについて、車両に登録されたものと一致するか否かを判別する(S13)。ここでHU−IDが車両に登録されたものと一致しない場合には、そこでフローを終了する。一方、HU−IDが車両に登録されたものと一致する場合には、次に携帯機3と送信アンテナ15との距離の検出を行う(S13)。
【0035】
上述したようにリクエスト信号LF1の送受信時においては、当該リクエスト信号LF1を送信してから各携帯機3毎に異なる時間の後にアンサー信号RF1を送信し、この時間を測定することによって複数の携帯機3のうちどれから応答があるかによって迅速かつ簡易に携帯機3を特定する。第2リクエスト信号LF2の送受信時には、最初に、リクエスト信号LF1において検出した携帯機3に対してより情報量の大きい携帯機の個別ID(HU−ID)を用いた正確な認証と各送信アンテナ15までの距離の測定を行う。そして、その詳細は上述においては省略したが、認証ができなかった場合にはそれぞれの携帯機3に対して同様の動作を行う。なお、リクエスト信号LF1での携帯機3の特定を省略して、個々の携帯機3の個別ID(HU−ID)を用いた認証のみを行う、あるいは個別ID(HU−ID)を用いた個々の携帯機3の認証をRssi測定信号の送信の後に行うようにすることもできる。
【0036】
携帯機3の位置の検出は、以下のフローに沿ってなされる。図5には、携帯機3の位置判別のフローチャートを示している。また、図6には車両1の模式的な平面図であって送信アンテナ15の設置位置を表した図を示している。まず車両側制御部12は、携帯機3から送信されたアンサー信号RF2に含まれる識別情報及び各送信アンテナ15と携帯機3の距離データを抽出する(S14−1)。
【0037】
また、車両側制御部12は、メモリ13から各送信アンテナ15の特性値及び信号送信時に出力測定回路18で測定された出力データを読み出す(S14−2)。これらのデータは、携帯機3が受信したRssi測定用信号の強度から算出した各送信アンテナ15との距離データを実際の距離とするために用いられる。なお、ここで携帯機3が計算する距離データは、基準の強度の電波を送信アンテナ15から出力したものとして、Rssi信号の強度から計算している。
【0038】
続いて、車両側制御部12が携帯機3で算出された距離データに送信アンテナ15の特性値及び出力データを適用し、精度の高い距離を算出する(S14−3)。すなわち、上述のように携帯機3は、基準の強度の電波を送信アンテナ15から出力したものとして距離を計算しているが、実際には電源電圧などの変動に伴い送信部のアンプ17aに供給される電力が変動するし、更には送信アンテナ15の特性のバラツキによって所定の電力を供給しても所定の電界強度の信号を出力しない場合があり、これらの影響を無くして精度よく距離を算出する。
【0039】
メモリ13に記憶された前述の特性値は、送信アンテナ15毎に設定されており、これは車両1の製造時等において予め測定されたものである。具体的には、基準となる値の出力を送信アンテナ15に加えた場合に、実際に送信アンテナ15から出力される電波の強度を、送信アンテナ15毎に測定しておく。携帯機3で算出された各送信アンテナ15との距離の実測値と、この送信アンテナ15毎の特性値によって値を求めることによって、送信アンテナ15毎の固有のばらつきの影響を小さくすることができる。なお、距離は1/(信号強度の3乗)に比例するので、製造時に測定した電波の強度を基準の強度で割った値を3乗し、これの逆数を距離の実測値に乗ずる、あるいは換算テーブルで補正することで送信アンテナ15の特性値の影響を少なくした精度の高い距離が求められる。
【0040】
また、出力測定回路18で測定された出力データは、電源部4から供給される電力の電圧値あるいは電流値である。このため、車両側制御部12は出力データの定格値に対する比を、距離の比、すなわち前述と同様に比の3乗の逆数を実測値に乗じることによって、精度の高い距離を算出することができる。ここでの精度の高い距離の算出は、このように計算値で求めるだけでなく、試験的に出力データの範囲毎に対応する乗数を求めて設定しておき、それを実測値に乗じるようにしてもよいし、出力データをパラメータとした乗数の関数を設定しておき、それに基づいて乗数を算出し実測値に乗じるようにしてもよい。なお、上記においては、送信アンテナ15の特性値の影響が少なくなるようにして距離を求めた後、その距離に対して出力値の影響を少なくするよう距離を求めているが、逆の順番で行なっても良く、あるいは、両方を同時に考慮して、精度の高い距離を求めても良い。更には送信アンテナ15の特性値が無視しても良いレベルであればこれを考慮せずに距離を求めても良い。
【0041】
このように、車両側装置2に出力測定回路18を設けて、駆動回路17が送信アンテナ15に送信させる信号の出力レベルを測定し、この出力レベルデータと携帯機3が検出した信号の強度データに基づく距離データとから送信アンテナ15と携帯機3間の精度の高い距離を算出することにより、車両1の電源出力が変動しても、信号強度を測定することによる携帯機3と送信アンテナ15の距離測定の精度を高くすることができるので、携帯機3の位置判別の精度を高くすることができる。また、出力レベルは、駆動回路17のアンプ部17aからの出力値を測定しているので、例えば電源部4の電圧を測定するのに比べて、送信アンテナ15から送信される信号の強度を直接的に測定でき、精度をより向上させることができる。
【0042】
携帯機3と各送信アンテナ15との距離を算出したら、この距離データから携帯機3の位置を判別する(S14−4)。図6に示すように、車両1には3か所に送信アンテナ15が設けられており、各送信アンテナ15と携帯機3との距離が得られている。図6では、3つの送信アンテナにそれぞれ符号15a、15b、15cを付しており、送信アンテナ15aと携帯機3との距離はL1、送信アンテナ15bと携帯機3との距離はL2、送信アンテナ15cと携帯機3との距離はL3である。
【0043】
図6に表わされているC1は、送信アンテナ15aの位置を中心とした半径L1の円弧であり、C2は送信アンテナ15bの位置を中心とした半径L2の円弧、C3は送信アンテナ15cの位置を中心とした半径L3の円弧である。なお、これらの円弧は実際には球面の一部であるが、図6では簡略化して所定高さにおける平面図として表している。そして、これらの円弧が一点で交わる位置が携帯機3の位置であり、これが車両1の内外いずれの領域であるかによって携帯機3が車内に位置しているか、あるいは車外に位置しているかを判別する。
【0044】
車両側制御部12は、携帯機3が車両1内にあるか、車両1外にあるかによってその後、異なる制御を行う(S15)。携帯機3の位置が車両1外にない、すなわち携帯機3が車両1内にあると判別した場合には、そのままフローを終了する。
【0045】
リクエストスイッチ16を押してドアを解錠させる際には、携帯機3は車両1外にあるはずであって、使用者と共に携帯機3が車両1内にある場合にドアを解錠させると、携帯機3を持っていない人でもリクエストスイッチ16を押してドアを解錠させることができてしまう。これを防ぐために、携帯機3が車両1内にある場合には、ドアを解錠しないようにしている。一方、携帯機3の位置が車両1外にあると判別した場合には、ドアの施錠装置(図示しない)に対して解錠の指令信号を出力し、ドアを解錠する(S16)。
【0046】
ここではリクエストスイッチ16を押してドアを解錠する動作について示したが、ドアを施錠する動作についても同様に携帯機3の位置判別を行って、その結果に応じた制御を行うことができる。また、ドアの施錠・解錠動作に限らず、携帯機3の位置に応じてエンジンを起動させるなどの動作についても、同様に携帯機3の位置判別を行って、その結果に応じて動作させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用はこれら実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。例えば、本実施形態では、車両側制御部12で、出力測定回路18の出力値のメモリ13への送信と、送信アンテナ15の信号の送信の制御を行っているので、出力測定回路18の出力値の測定と異なる時間において送信出力を測定しているが、出力測定回路18にメモリを設けてデータを保管する、あるいは車両側制御部12として同時に複数の処理が可能なものを用いれば、送信した際の出力電圧を測定する事ができる。但し、送信の直前あるいは直後、具体的には1秒以下であれば、殆ど出力電圧が変わっていることは無いので、問題はない。
【0048】
また、本実施形態においては、第2リクエスト信号LF2の送信時に出力値を測定しているので、携帯機3と送信アンテナ15の距離の測定に用いる信号の送信時と、出力の測定時間との差が少なく出来るが、第2リクエスト信号LF2における携帯機3での距離の測定は同様として、リクエスト信号LF1の送信時において出力測定回路18で出力値を測定し、この測定出力値とこの基準出力値から求めても良い。すなわち、このタイプのキーレスエントリー装置においては、リクエストスイッチ16を押してからドアの解錠がされるまでの時間は短く設定されており、よってこの場合には時間間隔も短いからである。
【0049】
また、本実施形態においては、3本の送信アンテナ15から信号を送信する前に1回、出力測定回路18で出力値を測定しているが、各送信アンテナ15から信号を送信する前に都度測定して、各送信アンテナ15毎に、携帯機3から送信されてくる送信アンテナ15と携帯機3の距離を再度求める、或いは信号送信の中間の時間で測定し前後の送信アンテナ15から送信する信号の出力値とする等、可能である。
【0050】
また、本実施形態においては、携帯機3から携帯機3と各送信アンテナ15の距離のデータを送ることとしているが、これは距離自体に限定されるものではなく距離に対応するデータであれば良い。また本実施形態においては、携帯機3側で信号の強度データに基づいて携帯機3と送信アンテナ15間の距離を算出し、その距離データを車両側装置2に送信するようにしているが、携帯機3から三軸アンテナ23のそれぞれの強度データを、送信アンテナ15毎にそれぞれ送信し、車両側装置2において各送信アンテナ15と携帯機3の距離を算出し、出力測定回路18の出力値で再度精度良く距離を求めるようにしてもよい。また、この場合には車両側装置2で、三軸アンテナ23のそれぞれの強度データを該出力測定回路18の出力値で再度求め、その値から距離を求めても良い。すなわち携帯機3から送信するのは強度に応じたデータであれば良く、距離を求めるのは携帯機3で行なっても良いし、車両1側で行なっても良い。ただし、三軸アンテナ23のそれぞれの強度データを送信する場合には、携帯機3から送信するデータ量が多くなる。距離データで送信する場合には1つの送信アンテナ15に対して1つのデータのみであるため、本実施形態のように構成することで、携帯機3から車両側装置2に送信するデータ量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態におけるキーレスエントリー装置の概要図である。
【図2】キーレスエントリー装置のブロック図である。
【図3】解錠動作の際のフローチャートである。
【図4】車両側装置と携帯機からの信号のチャート図である。
【図5】携帯機の位置判別のフローチャートである。
【図6】車両の模式的な平面図であって送信アンテナの設置位置を表した図である。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 車両側装置
3 携帯機
4 電源部
10 車両側受信部
11 車両側送信部
12 車両側制御部
13 メモリ
14 受信アンテナ
15 送信アンテナ
16 リクエストスイッチ
20 携帯機受信部
21 携帯機送信部
22 携帯機制御部
23 三軸アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられリクエスト信号を送信する複数の送信アンテナに接続される車両側送信部と、アンサー信号を受信する車両側受信部とを備えた車両側装置と、前記リクエスト信号を受信する携帯機受信部と、アンサー信号を送信する携帯機送信部とを備えた携帯機とを有したキーレスエントリー装置において、
前記車両側装置は前記携帯機からのアンサー信号を認証すると所定の制御を行う車両側制御部と、前記送信アンテナに対して車両の電源部からの電力を供給し、前記車両側制御部からの信号を送信するように駆動する前記車両側送信部に設けられる駆動回路と、該駆動回路が前記送信アンテナに送信させる信号の出力レベルを測定する出力測定回路と、該出力測定回路で測定した出力レベルを保管するメモリを備え、前記携帯機は前記車両側装置の複数の送信アンテナから送信される信号の各強度を検出する携帯機制御部を備えて前記車両側受信部に該強度に応じた信号を送信し、
前記車両側制御部は、前記メモリに保管されている出力測定回路により測定された前記駆動回路における信号の出力レベルデータと、前記携帯機制御部が検出した強度データに基づく前記各送信アンテナと携帯機間の距離データとを用いて、前記各送信アンテナと携帯機間の距離を算出することを特徴とするキーレスエントリー装置。
【請求項2】
前記駆動回路は前記送信アンテナに送信させる信号を増幅するアンプ部を備え、前記出力測定回路は前記アンプ部からの出力レベルを測定することを特徴とする請求項1記載のキーレスエントリー装置。
【請求項3】
前記携帯機制御部は検出した信号の強度に基づいて該信号を送信した送信アンテナとの距離を算出し、該距離データを前記アンサー信号に含めて送信することを特徴とする請求項1または2記載のキーレスエントリー装置。
【請求項4】
前記複数の送信アンテナはいずれも1つの駆動回路に接続され、該駆動回路に前記出力測定回路を接続してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のキーレスエントリー装置。
【請求項5】
前記車両側制御部は前記送信アンテナ毎の固有の特性を予め記憶した記憶部を備え、前記各送信アンテナと携帯機間の実際の距離を算出する際に前記記憶部に記憶された特性データも用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のキーレスエントリー装置。
【請求項6】
前記メモリが保管する出力レベルデータは、前記携帯機制御部が各送信アンテナと携帯機間の距離データを求めるために受信した信号を送信する際または送信直前あるいは送信直後のデータであることを特徴とする請求項1記載のキーレスエントリー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−62736(P2010−62736A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224850(P2008−224850)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】