説明

ギヤハウジング

【課題】単純な構造でありながらもギヤハウジングの内圧を大気圧に維持できるギヤハウジングを提供する。
【解決手段】グリスが注入されるギヤハウジングにおいて、グリスGが注入される空間を有するギヤハウジング本体1と、前記ギヤハウジング本体1の側方に形成されて縦長形状の空間を有するリザーバ部2と、前記ギヤハウジング本体1の前記側方の上下位置に形成されて前記ギヤハウジング本体1と前記リザーバ部2とのそれぞれの空間をつなぐ二つの通路であって前記グリスが前記ギヤハウジング本体内に注入されたとき前記グリスが下方の通路3aを流れ前記グリス又は空気が上方の通路3bを流れる二つの通路と、前記リザーバ部で前記二つの通路よりも上方に形成されて外気とつながる通気孔4と、を備えたことを特徴とするギヤハウジング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットの回転軸に配置されたグリス潤滑のギヤハウジングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの回転軸は、モータの回転力を減速機で減速して伝達させることによって回転駆動される。一般的に減速機はギヤハウジングに内蔵されており、このギヤハウジング内部の空間には、減速機を潤滑させるためのグリスが注入されている。ギヤハウジングを密封すると、気温の上昇、減速機の作動によるグリス温度の上昇等の要因によってギヤハウジングの内圧が上昇するために、ギヤハウジングのシール部が破壊されてグリスが漏れ出す等の問題が発生する。従来、この問題を解決するために、ギヤハウジング本体に通気孔を設けることによって、ギヤハウジングの内圧が大気圧に保たれるように工夫を行っている。
【0003】
図3は、産業用ロボットの回転軸に用いられているギヤハウジングの内部構造を説明するための図である。同図は、例として、6自由度を有する産業用ロボットの第2軸目の回転軸近傍を示している。
【0004】
同図において、斜線で示したギヤハウジング本体1は、減速機13を内蔵している。モータ12は、回転力を出力軸14に出力する。出力軸14は、減速機13の入力軸(図示せず)に連結されている。減速機13は、アーム11にボルト等によって固定されている。この構造によって、モータ12の回転力が減速機13によって減速されてアーム11に伝達される。また、ギヤハウジング本体1内には、潤滑のためのグリスGが注入されている。
【0005】
図4は、図3に示したギヤハウジングのA−A断面図である。同図において、ギヤハウジング本体1、出力軸14、グリスGは、図3と同符号を付与したものと同一であるので説明を省略する。
【0006】
通気孔4は、ギヤハウジング本体1の内部の空間と外気とを通気するための小孔であり、グリス表面GSよりも上方の位置に設けている。この通気孔4によって、ギヤハウジング本体1の内圧を大気圧に維持することが可能になっている。
【0007】
しかしながら、減速機が駆動することによってグリスGが攪拌されると、グリスGが飛沫して通気孔4に侵入する恐れがある。この結果、通気孔4の目詰まりが発生したり、目詰まりした状態からの更なる内圧上昇によってグリスGが通気孔4から漏れ出たりするという問題があった。この問題が起きないように、通気孔4の直径を目詰まりが起きない程度の大きさにしておくことも考えられるが、通気孔4を大きくすると飛沫したグリスが直接、ギヤハウジングの外部に漏れ出てくるという問題があった。
【0008】
これらの問題を解決するために、ギヤハウジング垂直方向に対する側壁部中央に通気孔を設け、側壁部内側に閉鎖板で閉じた空間を設け、その空間の上側及び下側に弾性体からなる板状の弁を設ける提案がなされている。空間の下側はグリスの圧力で弁が閉じられ、空間の上側の弁は内圧変化によって解放されるので、グリスが流出することなくギヤボックス内を大気圧に維持できるというものである(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平5−236696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1で提案されている発明は、ギヤハウジングの構造が非常に複雑であるために、コストがかかるという課題を有している。さらに、飛沫したグリスが上側の弁で完全には遮断されないために、グリスが閉鎖板で閉じた空間内に溜まってしまう可能性がある。この結果、長時間の駆動が行われると、グリスが閉鎖板で閉じた空間内に蓄積されていき、グリスが通気孔に侵入したり外部に漏れ出たりする恐れがあるという課題を有している。
【0011】
本発明は、グリスが通気孔に侵入したり外部に漏れ出たりすることなく、ギヤハウジングの内圧を大気圧に維持できるギヤハウジングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
グリスが注入されるギヤハウジングにおいて、
グリスが注入される空間を有するギヤハウジング本体と、
前記ギヤハウジング本体の側方に形成されて縦長形状の空間を有するリザーバ部と、
前記ギヤハウジング本体の前記側方の上下位置に形成されて前記ギヤハウジング本体と前記リザーバ部とのそれぞれの空間をつなぐ二つの通路であって前記グリスが前記ギヤハウジング本体内に注入されたとき前記グリスが下方の通路を流れ前記グリス又は空気が上方の通路を流れる二つの通路と、
前記リザーバ部で前記二つの通路よりも上方に形成されて外気とつながる通気孔と、
を備えたことを特徴とするギヤハウジングである。
【0013】
第2の発明は、前記リザーバ部に両端部が前記ギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設け、
前記ギヤハウジング本体を逆さ状態で使用するとき、前記カバーがその両端部を入れ換えて前記ギヤハウジング本体に取り付けられることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載のギヤハウジングである。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、リザーバ部と、このリザーバ部とギヤハウジング本体と空間をつなぐ二つの通路と、二つの通路よりも上方の位置に通気孔を設けている。このために、内圧変化が起きてもグリスはリザーバ部とギヤハウジング本体との間を流動し、空気は通気孔を通して外気と流動するので、ギヤハウジングの内圧を大気圧に維持することができる。また、グリスが拡散されて飛沫しても通気孔付近に付着することがないためにグリス漏れを防止することができる。
【0015】
第2の発明によれば、リザーバ部に、両端部がギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設けている。このために、産業用ロボットを通常の床置きで使用する場合であっても天井に吊り下げて逆さ状態にして使用する場合であっても、カバーの両端部を入れ替えて使用することができる。すなわち、産業用ロボットを天井に吊り下げて逆さ状態にして使用するような特殊な形態であってもギヤハウジングに特別な加工を施す必要がなく、工数を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明のギヤハウジングの構造を説明するための図である。同図において、ギヤハウジング本体1、グリスG、出力軸14は、図4と同符号を付与した同一のものであるので説明を省略する。
【0018】
リザーバ部2は、ギヤハウジング本体1の側方に形成された縦長形状の空間である。通路3は、ギヤハウジング本体1の側方の上下位置に形成されたギヤハウジング本体1とリザーバ部2とのそれぞれの空間をつなぐ二つの通路である。この二つの通路の直径は、グリスGが付着しても詰まることのない程度の大きさであることが望ましい。
【0019】
通路3aは、二つの通路のうちの下方の通路であり、グリスGを流動させるために設けている。より詳細には、グリスGがギヤハウジング本体1内に注入されたとき、減速機の駆動によってグリスが攪拌されたとき等に、グリスGがギヤハウジング本体1とリザーバ部2との間を流動する。
【0020】
通路3bは、二つの通路のうちの上方の通路であり、ギヤハウジング本体の内部の空気を流動させるために設けている。なお、減速機の駆動によってグリスGが攪拌された場合、グリスGが通路3bに飛沫して付着する場合があるが、上述したように、通路3bの直径はグリスGが付着しても詰まることのない程度の大きさである。すなわち、グリスGが付着しても通路3bでは空気の通路が確保される。
【0021】
通気孔4は、リザーバ部2で二つの通路よりも上方の位置に形成した外気と連通させるための孔である。この通気孔4はグリスGの注入口としても利用してもよいので、通気孔4の直径は、グリスを注入可能な程度の大きさにしておくことが望ましい。
【0022】
このように、リザーバ部と、このリザーバ部とギヤハウジング本体と空間をつなぐ二つの通路と、二つの通路よりも上方の位置に通気孔を設けている。このために、内圧変化が起きてもグリスはリザーバ部とギヤハウジング本体との間を流動し、空気は通気孔を通して外気と流動するので、ギヤハウジングの内圧を大気圧に維持することができる。また、グリスが拡散されて飛沫しても通気孔付近に付着することがないためにグリス漏れを防止することができる。また、単純な構造であるためにコストを低く抑えることができる。
【0023】
なお、上述したリザーバ部2は、両端部がギヤハウジング本体1に着脱可能に形成されたカバー20を設けた構造としても良い。図2は、リザーバ部に両端部がギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設けたギヤハウジングの構造を説明するための図である。同図において、ギヤハウジング本体1、グリスGは、図4と同符号を付与した同一のものであるので説明を省略する。
【0024】
同図(a)において、カバー20は片端部に通気孔4を備え、両端部にねじ穴(図示せず)を備えている。パッキン21は、端部21a、21b及び周囲縁部21cを有し、カバー20の内側の周囲を取り巻くように備えられている。カバー取付部22は、リザーバ部2の周囲に設けられており、フランジ部22a、22b及び周囲縁部22cを有している。フランジ部22a及び22bは、カバー20を取り付けるためのねじ穴(図示せず)を備えている。そして、カバー20は、カバー取付部22との間にパッキン21を介在させてフランジ部22a及び22bにねじ止めされることによって取り付けられる。
【0025】
通気孔4は、カバー20の片端部に備えているから、ロボットを天井に吊り下げて逆さ状態にして使用する場合は、カバー20の両端部を入れ換えてギヤハウジング本体1に取り付ければ良い。より具体的には、ロボットを床置きで使用する場合は同図(b)のようにカバー20を取り付け、ロボットを逆さ状態にして使用する場合は、同図(c)のようにカバー20を取り付ければよい。
【0026】
このように、リザーバ部に、両端部がギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設けている。このために、産業用ロボットを通常の床置きで使用する場合であっても天井に吊り下げて逆さ状態にして使用する場合であっても、カバーの両端部を入れ替えて使用することができる。すなわち、産業用ロボットを天井に吊り下げて逆さ状態にして使用するような特殊な形態であってもギヤハウジングに特別な加工を施す必要がなく、工数を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のギヤハウジングの構造を説明するための図である。
【図2】ザーバ部に両端部がギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設けたギヤハウジングの構造を説明するための図である。
【図3】産業用ロボットの回転軸に用いられているギヤハウジングの内部構造を説明するための図である。
【図4】図3に示したギヤハウジングのA−A断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ギヤハウジング本体
2 リザーバ部
3 通路
3a、3b 通路
4 通気孔
11 アーム
12 モータ
13 減速機
14 出力軸
20 カバー
21a、21b パッキン
22a、22b フランジ部
G グリス
GS グリス表面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリスが注入されるギヤハウジングにおいて、
グリスが注入される空間を有するギヤハウジング本体と、
前記ギヤハウジング本体の側方に形成されて縦長形状の空間を有するリザーバ部と、
前記ギヤハウジング本体の前記側方の上下位置に形成されて前記ギヤハウジング本体と前記リザーバ部とのそれぞれの空間をつなぐ二つの通路であって前記グリスが前記ギヤハウジング本体内に注入されたとき前記グリスが下方の通路を流れ前記グリス又は空気が上方の通路を流れる二つの通路と、
前記リザーバ部で前記二つの通路よりも上方に形成されて外気とつながる通気孔と、
を備えたことを特徴とするギヤハウジング。
【請求項2】
前記リザーバ部に両端部が前記ギヤハウジング本体に着脱可能に形成されたカバーを設け、
前記ギヤハウジング本体を逆さ状態で使用するとき、前記カバーがその両端部を入れ換えて前記ギヤハウジング本体に取り付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のギヤハウジング。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−232003(P2007−232003A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51964(P2006−51964)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】