説明

ギヤ支持構造

【課題】減速ギヤ対の幾何学的な噛み合い誤差に起因して生じるギヤノイズを低減すべく、慣性質量の大きな回転体を軸装する回転軸とギヤ対の一方とをフローティング状態でスプライン嵌合させるに際し、当該ギヤの支持構造を複雑にすることなく当該ギヤの傾きを有効に防止することができるようにする。
【解決手段】セカンダリプーリ軸9bに減速ギヤ機構31の減速ドライブギヤ32に設けたハブ32aの歯幅方向中央部を軸径方向にフローティング状態でスプライン嵌合(43a,44a)させると共に、両端部をセカンダリプーリ軸9bに対してインロー嵌合(43b,43c,44b,44c)させる。ハブ32aの軸方向両端がセカンダリプーリ軸9bに対してインロー嵌合されているため、この減速ドライブギヤ32の傾きを有効に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に対してギヤを軸径方向にフローティング状でスプライン嵌合させて、振動荷重の伝達を低減させるようにしたギヤ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の高性能エンジンでは、当該エンジンの性能を維持しつつ、多段変速機や無変速機等の変速機で所定に変速した出力を駆動輪に伝達するために、変速機からの出力を、大きな減速比を有する減速ギヤ機構で減速させた後、終減速ギヤに伝達するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、変速機の出力軸に設けた出力ギヤを終減速ギヤに直接噛合させ、出力ギヤと終減速ギヤとの減速比を大きく設定することで、減速ギヤ機構を兼用させる技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、変速機として多く採用されている巻掛け式無段変速機は、回転体としてのプライマリプーリとセカンダリプーリとを対向配設し、この両プーリ間に掛け渡されたベルトやチェーン等の伝達部材の巻掛径を連続的に相対変化させることで変速比を無段階に変化させるようにしたものである。このセカンダリプーリの軸(セカンダリプーリ軸)と平行にドライブピニオン軸が配設されており、ドライブピニオン軸が駆動輪側の終減速ギヤに噛合され、又、セカンダリプーリ軸とドライブピニオン軸とに減速ギヤ対が軸装されている。
【0005】
セカンダリプーリと減速ドリブンギヤとに作用する回転慣性力は共に大きく、大きな回転慣性力が伝達されている減速ギヤ対には、減速ギヤ対の幾何学的な噛み合い誤差に起因して、大きな振動荷重が発生し、この振動荷重によりギヤノイズが発生する。
【0006】
このギヤノイズはセカンダリプーリ軸の剛性を高めたり、セカンダリプーリ軸を多点支持したりすることで、ある程度低減させることができるが、最近の軽量化の要請に反することになるため現実的ではない。
【0007】
一方、セカンダリプーリ軸に対して、減速ドライブギヤを軸径方向にフローティング状にスプライン嵌合させると共に、この減速ドライブギヤをセカンダリプーリ軸に対して軸心を同一にした状態で支持させることで、振動の低減を図ることができる。
【0008】
しかし、減速ドライブギヤをセカンダリプーリ軸に対して軸径方向にフローティング状態でスプライン嵌合させただけでは、減速ドライブギヤの姿勢が安定せず傾いてしまう。そのため、上述した特許文献1では、その図2に示すように、減速ドライブギヤの歯幅側両端部分をセカンダリプーリ軸に対してタイトフィット状態で嵌入させると共に、その外周をベアリングで支持させることで、減速ドライブギヤの傾きを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4096370号公報
【特許文献2】特開2010−121696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した特許文献1に開示されている技術では、減速ドライブギヤの歯幅方向両端外周をベアリングで支持する構造であるため、各ベアリングを支持するための壁面をケースに形成する必要がある。この場合、セカンダリプーリ軸の軸端側に位置するベアリングは、ケースの内面に突設するボスによって比較的容易に支持することができるが、反対側、すなわちセカンダリプーリ側のベアリングを支持する保持部は、変速機ケース内に配設されている種々の構成部品との干渉を回避しながら変速機ケース内面から延出させなければならないため支持構造が複雑化する問題がある。
【0011】
しかも、セカンダリプーリ軸の端部側のベアリングを支持するボスはケース内面に円筒状に形成すればよいが、セカンダリプーリ側のベアリングを支持する支持部は、半割状にしなければ組立てることができず、設計上の制約が多くなり、製造、組立がより複雑化し、製品コストが高くなる問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、減速ギヤ対の幾何学的な噛み合い誤差に起因して生じるギヤノイズを低減すべく、慣性質量の大きな回転体を軸装する回転軸とギヤ対の一方とをフローティング状態でスプライン嵌合させるに際し、当該ギヤの支持構造を複雑にすることなくギヤの傾きを有効に防止することができて、設計の自由度が増し、製造、組立が容易となり、製品コストの低減を図ることのできるギヤ支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、ギヤ対を介して互いに連設する2つの回転軸の少なくとも一方の回転軸に慣性質量の大きな回転体が設けられ、該回転体を有する回転軸に前記ギヤ対の一方のギヤに設けたハブが軸径方向にフローティング状態でスプライン嵌合されていると共に、該ハブの歯幅方向両端が支持されているギヤ支持構造において、前記ハブの歯幅方向両端部が該ハブを支持する前記回転軸に対してインロー嵌合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ギヤ対の一方のギヤのハブを回転軸に対して軸径方向にフローティング状態でスプライン嵌合させるに際し、このハブの歯幅方向両端部を、このハブを支持する回転軸に対してインロー嵌合させるようにしたので、当該ギヤの支持構造を複雑にすることなくギヤの傾きを有効に防止することができ、設計の自由度が増し、製造、組立が容易となり、製品コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】無段変速機のスケルトーン図
【図2】図1のII部拡大断面図
【図3】図2のIII部拡大図
【図4】図3のIV-IV断面図
【図5】(a)は図3のV-V断面図、(b)は(a)の他の態様を示す断面図、(c)は(a)の別の態様を示す説明図
【図6】図4のVI-VI断面図
【図7】図3のVII−VII断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、無段変速機のセカンダリプーリ軸に設けた減速ドライブギヤの支持構造に、本発明を適用した場合を例示する。
【0017】
先ず、無段変速機を内装する自動変速装置の構成について簡単に説明する。符号1は駆動源としてのエンジンで、このエンジン1の出力軸2が、自動変速装置3、デファレンシャル装置4を介して、駆動輪5を支承する駆動軸6に連設されている。
【0018】
自動変速装置3は、入力側からトルクコンバータ7、前後進切換装置8、巻掛け式無段変速機9を有しており、エンジン1の出力軸2がトルクコンバータ7のインペラ7aに連設され、このトルクコンバータ7のタービン7bが前後進切換装置8のプラネタリ入力軸8aに連設されている。
【0019】
前後進切換装置8は、プラネタリギヤ10が内装されており、フォワードクラッチ11とリバースブレーキ12とが共に開放状態のとき、ニュートラル状態となる。又、フォワードクラッチ11のみを係合させると、プラネタリギヤ10が一体回転して、トルクコンバータ7のタービン7bからの動力を巻掛け式無段変速機9へそのまま伝達する。一方、フォワードクラッチ11を開放し、リバースブレーキ12を係合させると、プラネタリギヤ10を介してトルクコンバータ7のタービン7bからの動力を逆転させた状態で巻掛け式無段変速機9へ伝達する。
【0020】
巻掛け式無段変速機9のプライマリプーリ軸9aには、プライマリプーリ13の固定シーブ13aが一体形成されていると共に可動シーブ13bが軸装されている。又、このプライマリプーリ軸9aと平行に配設されている回転軸としてのセカンダリプーリ軸9bに回転体としてのセカンダリプーリ14を構成する固定シーブ14aが一体形成されていると共に可動シーブ14bが軸装されている。更に、この両プーリ13,14間に、ベルト、チェーン等の動力伝達部材15が巻装されている。
【0021】
更に、各可動シーブ13b,14b側に、プライマリシリンダ13c、セカンダリシリンダ14cが形成されており、これら各シリンダ13c,14cに供給されるプライマリ油圧、セカンダリ油圧により、両プーリ13,14の溝幅が可変されて変速制御が行われる。
【0022】
一方、上述した自動変速装置3の各構成部品を収容する変速機ケース16は、メインケース16aと、このメインケース16aのエンジン1側を閉塞すると共にトルクコンバータ7を収容するコンバータケース16bと、メインケース16aの反エンジン1側を閉塞するサイドケース16cとに三分割されている。
【0023】
又、セカンダリプーリ軸9bは、エンジン1側の軸端部がベアリング(図においてはボールベアリング)21を介してメインケース16aに支持され、反エンジン1側の軸端部がベアリング(図においてはボールベアリング)22を介してサイドケース16cに支持されている。更に、このセカンダリプーリ軸9bと平行に、回転軸としてのドライブピニオン軸23が配設されており、このドライブピニオン軸23に設けられているドライブピニオン24が、デファレンシャル装置4に設けられている終減速ギヤ25に噛合されている。
【0024】
上述したセカンダリプーリ軸9bとドライブピニオン軸23とが減速ギヤ機構31を介して連設されている。この減速ギヤ機構31は、ドライブピニオン軸23に軸装されている減速ドライブギヤ32とドライブピニオン軸23に軸装されている減速ドリブンギヤ33とでギヤ対をなしている。
【0025】
図2に示すように、セカンダリプーリ軸9bの反エンジン1側の軸端部を支持するベアリング22のアウタレース22aが、サイドケース16cの内面に突設されている支持体としてのボス16dの内周にタイトフィット状態で嵌入されている。一方、このベアリング22のインナレース22bはセカンダリプーリ軸9bの軸端部にルーズフィット状態で嵌入されており、このルーズフィット状態での嵌入により、セカンダリプーリ軸9bの熱膨張等に伴うスラスト方向への移動が許容されるばかりでなく、例えばセカンダリプーリ軸9bが鉄製で、ベアリング22の両レース22a,22bがアルミニュウム製の場合の膨張係数の違いにより生じる冷態時のベアリング22によるセカンダリプーリ軸9bに対する必要以上の締付けが防止される。又、ボス16dの上部背面にオイル溜り室16eが形成されている。
【0026】
更に、セカンダリプーリ軸9bの軸端部の固定シーブ14a側に段部9cが形成され、インナレース22bと段部9cとの間に、減速ドライブギヤ32の中心に形成されているハブ32aが軸装されて、このハブ32aのスラスト方向への移動が段部9cとインナレース22bとで規制されている。又、セカンダリプーリ軸9bの軸芯に軸孔9dが貫通されていると共に、ベアリング22が嵌合されている軸端側に、軸孔9dと同心状の凹部9eが形成されている。
【0027】
一方、ボス16dの中心部にガイドシールパイプ34の基端が圧入され、このガイドシールパイプ34の先端が、セカンダリプーリ軸9bを貫通して軸孔9dの開口端部に挿通され、その外周と軸孔9dとの間がシールリング35を介してシールされている。このガイドシールパイプ34の外周と凹部9eの内周とセカンダリプーリ軸9bの軸端とベアリング22とボス16dとで潤滑通路36が区画形成されている。
【0028】
更に、潤滑通路36内のボス16dとベアリング22との間にオイルガイド板37が介装され、このオイルガイド板37の外周縁部がベアリング22のアウタレース22aの側面とボス16dの底面との間に挟持されている。又、このオイルガイド板37の中心に、その先端がセカンダリプーリ軸9bの凹部9eにオーバラップされている円筒部37aが曲げ形成されている。更に、ボス16dの上部に、オイル溜り室16eと潤滑通路36とを連通するオイル導入口38が穿設されている。更に、セカンダリプーリ軸9bの軸端部であって、減速ドライブギヤ32の軸芯に形成されているハブ32aの内周に開口する位置に、潤滑通路36に連通するオイル吐出口39が穿設されている。
【0029】
次に、図3〜図7を用いて、セカンダリプーリ軸9bの軸端部と減速ドライブギヤ32のハブ32aとの嵌合構造について詳細に説明する。
【0030】
減速ドライブギヤ32のハブ32aはセカンダリプーリ軸9bの軸端部にスプライン嵌合されている。セカンダリプーリ軸9bの軸端部には、ベアリング22のインナレース22bがルーズフィット状態で嵌入される軸端42が形成されていると共に、この軸端42と段部9cとの間にスプライン外嵌合部43が形成されている。一方、減速ドライブギヤ32のハブ32aの内周には、スプライン外嵌合部43に嵌合するスプライン内嵌合部44が形成されている。
【0031】
スプライン外嵌合部43は、歯幅方向中央に形成されたフローティングスプライン外歯43aと、その両側に形成された丸軸部43b,43cとを有し、一方、スプライン内嵌合部44は、歯幅方向中央に形成されたフローティングスプライン内歯44aと、その両側に形成されたルーズスプライン内歯44b,44cとを有している。尚、フローティングスプライン内歯44aとルーズスプライン内歯44b,44cとは、それぞれ同一の円ピッチ上に同列をなして形成されている。
【0032】
図4に示すように、フローティングスプライン外歯43aとフローティングスプライン内歯44aとの歯面が、高い寸法精度(例えば歯山部の歯厚が−5〜15[μm]の嵌め合い公差、歯谷部の歯厚が+5〜15[μm]の嵌め合い公差)で嵌合されている。更に、歯先面と歯底面との間に所定丈(例えば1〜1.5[mm])の間隙部45が形成されている。
【0033】
従って、フローティングスプライン外歯43aとフローティングスプライン内歯44aとは、回転方向に対してはガタが殆ど発生しないが、径方向に対しては間隙部45を有しているため噛み合わされることがない。そのため、この径方向の間隙部45により、減速ドライブギヤ32と減速ドリブンギヤ33との噛み合い誤差によって径方向に生じる振動荷重が緩衝される。
【0034】
一方、図5(a)、図7に示すように、スプライン外嵌合部43の丸軸部43b,43cの外周に対して、スプライン内嵌合部44のルーズスプライン内歯44b,44cの歯先面が、高い精度の嵌め合い公差(例えば+0〜30[μm])で嵌合されている。従って、この丸軸部43b,43cとルーズスプライン内歯44b,44cとは、回転方向に対しては摺動可能であるが、径方向は、いわゆるインロー嵌合となって移動が規制されている。そのため、減速ドライブギヤ32と減速ドリブンギヤ33との噛み合いによってトルク伝達を行う際に生じる減速ドライブギヤ32の傾きを有効に防止することができる。尚、減速ドリブンギヤ33のドライブピニオン軸23に対する軸装構造については従来と同様であるため説明を省略する。
【0035】
次に、このような構成による自動変速装置3の動作について説明する。エンジン1からトルクコンバータ7を介して伝達されるトルクは、前後進切換装置8でその回転方向が前進、或いは後進に設定された状態で無段変速機9のプライマリプーリ軸9aに伝達される。
【0036】
無段変速機9では、プライマリプーリ13に設けられているプライマリシリンダ13cとセカンダリプーリ14のセカンダリシリンダ14cとに供給する油圧をエンジン運転状態に応じて制御し、両プーリ13,14に巻き掛けられている動力伝達部材15の巻掛け半径を連続的に相対移動させて、両プーリ軸9a,9b間の変速比を設定する。
【0037】
そして、セカンダリプーリ軸9bの回転数が減速ギヤ機構31により更に減速された後、ドライブピニオン軸23に伝達され、このドライブピニオン軸23の回転がドライブピニオン24に噛合する終減速ギヤ25で所定に減速された後、デファレンシャル装置4から駆動軸6を介して駆動輪5に伝達されて、車両が走行する。
【0038】
減速ギヤ機構31の減速ドライブギヤ32が軸装されているセカンダリプーリ軸9bには慣性質量の大きなセカンダリプーリ14が設けられている。一方、この減速ドライブギヤ32に噛合する減速ドリブンギヤ33が軸装されているドライブピニオン軸23には、駆動輪5から走行による慣性力が伝達されている。そのため、車両の走行時においては、減速ギヤ機構31の両ギヤ32,33の噛合歯面間に、幾何学的な噛み合い誤差に起因して、大きな振動荷重が発生する。
【0039】
本実施形態では、セカンダリプーリ軸9bと減速ドライブギヤ32間のトルク伝達は、セカンダリプーリ軸9bに形成されているフローティングスプライン外歯43aと、これに嵌合する減速ドライブギヤ32のフローティングスプライン内歯44aとの間で行われる。図3、図4、図6に示すように、このフローティングスプライン外歯43aとこれに嵌合する減速ドライブギヤ32のハブ32aに形成されているフローティングスプライン内歯44aとは、その歯先面と歯底面との間に、所定丈の間隙部45が形成されているため、この間隙部45により上述した振動荷重が緩衝される。その結果、両ギヤ32,33間の噛合による騒音(ギヤノイズ)が低減される。
【0040】
一方、フローティングスプライン外歯43aとフローティングスプライン内歯44aとに形成されている歯先面と歯底面との間に間隙部45を形成するフローティング状態では、減速ドライブギヤ32の歯幅方向の姿勢が不安定となり、減速ギヤ機構31の両ギヤ32,33間の噛み合いによるトルク伝達の際に、減速ドライブギヤ32が歯幅方向へ傾きやすくなる。
【0041】
しかし、本実施形態では、図3、図5(a)、図6に示すように、互いに噛合するフローティングスプライン外歯43aとフローティングスプライン内歯44aとの両側に、丸軸部43b,43cとルーズスプライン内歯44b,44cとが各々形成され、ルーズスプライン内歯44b,44cの歯先面が、丸軸部43b,43cの外周に対して、高い精度の嵌め合い公差で嵌合(インロー嵌合)されているため、これにより減速ドライブギヤ32の傾きが防止される。
【0042】
更に、丸軸部43b,43cとルーズスプライン内歯44b,44cとがインロー嵌合されているため、セカンダリプーリ軸9bの軸芯に対して減速ドライブギヤ32の軸芯を高精度に芯出しさせることができ、ギヤノイズの発生をより一層抑制することができる。又、減速ドライブギヤ32に形成されているハブ32aの両端が、セカンダリプーリ軸9bに形成した段部9cとベアリング22のインナレース22bとの間に介装されているため、減速ドライブギヤ32のスラスト方向への移動が規制される。更に、ベアリング22のアウタレース22aがボス16dにタイトフィット状態で嵌入されているため、ベアリング22を、ロックナット等を介してセカンダリプーリ軸9bに抜け止めする必要がなく、部品点数の削減を図ることができる。尚、減速ドライブギヤ32のスラスト方向の位置は、例えばベアリング22のインナレース22bとこれに対向するハブ32aの端面との間にシムを介装することで調整することができる。
【0043】
又、この減速ドライブギヤ32の傾きを、ハブ32aの歯幅方向両端に形成したルーズスプライン内歯44bと、これを支持するセカンダリプーリ軸9b側に形成した丸軸部43bとのインロー嵌合によって防止するようにしたため、ハブ32aの両端部外周を、ベアリングを介して変速機ケース16に支持させる必要がなくなる。その結果、変速機ケース16に、ハブ32aを軸支するベアリングを支持するための壁面を特別に形成する必要がなくなり、構造の簡素化、製造組立の容易化が図れ、更に、設計の自由度が増し、製品コストの低減が図れるばかりでなく、自動変速装置3のコンパクト化を実現することができる。
【0044】
ところで、図5(a)では、スプライン外嵌合部43の丸軸部43bと、スプライン内嵌合部44のルーズスプライン内歯44bとをインロー嵌合させる構造であるが、当該部位のインロー構造は、同図(b),(c)のような態様であっても良い。
【0045】
すなわち、同図(b)では、減速ドライブギヤ32のハブ32aの内周が、フローティングスプライン内歯44a(図7参照)の歯底面と同じ内径に形成されている。そして、このハブ32aの内周に、セカンダリプーリ軸9bに形成した丸軸部43bの外周をインロー嵌合させる。従って、この態様では、丸軸部43bの外径がフローティングスプライン内歯44aの歯底面とほぼ同じとなる。
【0046】
又、図5(c)では、減速ドライブギヤ32のハブ32aの内周が、上述した(b)と同じ内径に形成されている。一方、セカンダリプーリ軸9bの軸部には、フローティングスプライン外歯43aと同一の円ピッチ上に同列をなして形成したスプライン外歯43dが形成され、このスプライン外歯43dの歯先面を、減速ドライブギヤ32のハブ32aの内周にインロー嵌合させたものである。尚、図5(b),(c)の構造による作用効果は、図5(a)の場合と同じであるため、説明を省略する。
【0047】
ところで、セカンダリプーリ軸9bに対して減速ドライブギヤ32をスプライン嵌合させると、当然スプライン嵌合されている歯面間に摩擦が生じ、摩耗し易くなる。そのため、本実施形態による自動変速装置3には、スプライン嵌合部に対して潤滑油(オイル)を供給する潤滑構造が備えられている。以下、この潤滑油の潤滑動作について説明する。
【0048】
図2に示すように、セカンダリプーリ軸9bと減速ドライブギヤ32とのスプライン嵌合部に供給する潤滑油は、サイドケース16cとボス16dとの間に形成されているオイル溜まり室16eに貯留されている。尚、変速機ケース16内はプライマリ油圧やセカンダリ油圧を発生させるオイルポンプからの余剰オイルが吐出されており、この余剰オイルの一部がオイル溜り室16eに流れ込んで滞留されている。或いは、変速機ケース16内のオイルミストが捕捉されて滞留される。
【0049】
セカンダリプーリ軸9bが回転すると、潤滑通路36内に滞留する潤滑油が遠心力により、セカンダリプーリ軸9bの軸端部に穿設されているオイル吐出口39から外方へ放出されて、セカンダリプーリ軸9bと減速ドライブギヤ32とのスプライン嵌合部に潤滑油が供給されて潤滑される。更に、潤滑通路36に臨まされているオイルガイド板37の円筒部37aとセカンダリプーリ軸9bの軸端に開口されている凹部9eの内周との間に沿ってベアリング22方向へ導かれて、これを潤滑する。
【0050】
一方、潤滑通路36内の潤滑油がオイル吐出口39、及びベアリング22を介して外部に放出されると、この潤滑通路36にはオイル溜まり室16eに貯留されている潤滑油が、ボス16dに穿設されているオイル導入口38を経て流入される。
【0051】
この潤滑通路36のセカンダリプーリ軸9bの端部及びこれを支持するベアリング22とボス16dの底面との間にオイルガイド板37が介装されており、このオイルガイド板37の外周縁がアウタレース22a側に挟持されて固定されていると共に、中心に形成された円筒部37aの先端が、セカンダリプーリ軸9bの軸端に形成されている凹部9eの内周にオーバラップされている。そのため、オイル導入口38から潤滑通路36に流入した潤滑油はセカンダリプーリ軸9bの回転により遠心力が発生しても、オイル導入口38側へ逆流することなく凹部9e側に滞留し、そこからに遠心油圧によってオイル吐出口39側、及びベアリング22側へ導かれる。
【0052】
その結果、セカンダリプーリ軸9bに形成されているスプライン外嵌合部43、これに嵌合する減速ドライブギヤ32のハブ32aに形成されているスプライン内嵌合部44との間、及びベアリング22は、セカンダリプーリ軸9bの回転によって、潤滑油が供給されて摩耗が予防される。
【0053】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えばドライブピニオン軸23に慣性質量の大きな回転体が設けられている場合には、このドライブピニオン軸23と減速ドリブンギヤ33との間を、上述した実施形態と同様のギヤ支持構造としても良い。すなわち、ギヤを支持する回転軸に慣性質量の大きな回転体が軸装されている場合、本発明のギヤ支持構造を適用すれば、より高い制振効果を得ることができるばかりでなく、構造の簡素化を実現することができる。
【符号の説明】
【0054】
3…自動変速装置、
9…巻掛け式無段変速機、
9b…セカンダリプーリ軸、
9c…段部、
9e…凹部、
14…セカンダリプーリ、
14a…固定シーブ、
14b…可動シーブ、
16…変速機ケース、
16d…ボス、
16e…オイル溜まり室、
22…ベアリング、
23…ドライブピニオン軸、
25…終減速ギヤ、
31…減速ギヤ機構、
32…減速ドライブギヤ、
32a…ハブ、
33…減速ドリブンギヤ、
43…スプライン外嵌合部、
43a…フローティングスプライン外歯、
43b,43c…丸軸部、
44…スプライン内嵌合部、
44a…フローティングスプライン内歯、
44b,44c…ルーズスプライン内歯、
45…間隙部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ対を介して互いに連設する2つの回転軸の少なくとも一方の回転軸に慣性質量の大きな回転体が設けられ、該回転体を有する回転軸に前記ギヤ対の一方のギヤに設けたハブが軸径方向にフローティング状態でスプライン嵌合されていると共に、該ハブの歯幅方向両端が支持されているギヤ支持構造において、
前記ハブの歯幅方向両端部が該ハブを支持する前記回転軸に対してインロー嵌合されている
ことを特徴とするギヤ支持構造。
【請求項2】
前記ハブが前記回転軸の軸端部に嵌合され、
前記ハブを嵌合する前記回転軸の端部側がベアリングを介して支持体に支持されており、
前記回転軸の前記軸端部の前記端部に対して前記ハブを挟んで反対側の部位に段部が形成され、
前記ハブの歯幅方向両端が前記ベアリングと前記段部とに挟持されて、該バブの軸方向への移動が規制されている
ことを特徴とする請求項1記載のギヤ支持構造。
【請求項3】
前記ベアリングの外周が前記支持体にタイトフィット状態で嵌入されており、
前記ベアリングの内周に前記回転軸がルーズフィット状態で嵌入されている
ことを特徴とする請求項2記載のギヤ支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77798(P2012−77798A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221787(P2010−221787)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】