説明

クプレドキシンによって癌を予防する組成物および方法

本発明は、哺乳類細胞、組織および動物における前癌病変の発生を阻害するクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体であってよいペプチドを含む組成物に関する。具体的に、これらの組成物は、シュードモナス・アエルギノサ由来のアズリン、および/または、アズリンの50−77残基の領域(p28)を含んでよい。本発明は、さらに、哺乳類細胞、組織または動物における前癌病変の発生を阻害する能力を保持する、クプレドキシン、および/またはクプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体を含んでよい組成物に関する。これらの組成物は、とりわけ、ペプチドまたは医薬組成物であってよい。本発明の組成物は、哺乳類細胞、組織および動物における前癌病変の発生を予防し、それにより癌を予防するために使用されてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類細胞、組織および動物において、前癌病変(premalignant lesions)の発生を抑制するクプレドキシン(Cupredoxins)の変種、誘導体および構造的等価体を含む組成物に関する。本発明は、また、哺乳類における前癌病変および最終的に癌の発生を阻害するための、クプレドキシンおよびクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体の化学予防的薬剤(chemopreventive agents)としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願に対する相互参照
本願は、アメリカ合衆国法典第35巻第119条および第120条の下、2006年9月14日出願の米国仮出願第60/844,358号の優先権を主張し、当該出願は、2005年10月6日出願の米国特許出願第11/244,105号の優先権を主張し、当該出願は、2004年10月7日出願の米国特許出願第60/616,782号および2005年5月13日出願の米国仮出願第60/680,500号の優先権を主張し、2003年11月11日出願の米国部分継続特許出願第10/720,603号であり、当該出願は、2003年8月15日出願の米国仮特許出願第60/414,550号の優先権を主張し、2002年1月15日出願の米国部分継続特許出願第10/047,710号であり、当該出願は、2001年2月15日出願の米国仮特許出願第60/269,133号の優先権を主張する。
【0003】
政府の利益についての記載
本出願の内容は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)(米国メリーランド州ベセズダ)からの研究助成金により支援されている(助成番号AI16790−21、ES04050−16、AI45541、CA09432およびN01−CM97567)。
【0004】
癌の化学的予防は、浸潤癌への発癌性進行を後退、抑制または阻止するための、天然、合成または生物学的化学剤の使用である。高リスク集団での癌の阻止における近年の臨床試験から、化学予防的療法が高リスク患者のための現実的な治療であることが示唆される。化学予防的療法は、多病巣性領域発癌(multifocal field carcinogenesis)および多段階発癌(multistep carcinogenesis)の概念に基づく。領域発癌において、組織領域全体に及ぶ全身性の発癌物質の曝露は、組織における拡散した上皮性の傷害および変異細胞のクローンの増殖をもたらす。領域全体に及ぶこれらの遺伝子突然変異は、1以上の前癌または悪性病変が領域にて発生する可能性を増大させる。これらの遺伝型および表現型の変化の段階的蓄積における多段階発癌。多段階発癌における1以上の段階の抑止は、癌の発生を妨げ、または阻止する可能性がある。一般にTsaoらの文献(CA Cancer J Clin 54:150−180 (2004))が参照される。
【0005】
アズリンおよびその他のクプレドキシンは、具体的には癌細胞に対して細胞障害性である。アズリンは、J774肺癌細胞にてアポトーシスを誘導する(Yamadaら、PNAS 99(22): 14098−14103 (2002))。J774肺癌細胞内に入ると、アズリンは、細胞基質および核画分に局在し、および、癌抑制タンパク質p53と複合体を形成し、それによって、安定化して細胞内濃度が増大する(同著)。アズリン仲介アポトーシスの誘導は、J774細胞に限られない。アズリンはまた、例えばヒトメラノーマUISO−Mel−2またはヒト乳癌MCF−7細胞といった癌細胞に入ることができる(Yamadaら、Infect Immun. 70:7054−7062 (2002); Punjら、Oncogene. 23:2367−2378 (2004))。両方の場合において、アズリンは、細胞内のp53レベルを上昇させ、Bax形成の増強およびそのような細胞におけるアポトーシスの誘導をもたらす。最も興味深いことに、異種移植されたMel−2またはMCF−7ヒト癌を有するヌードマウスにおける、アズリンの腹腔内注入は、そのような癌の統計学的に有意な退行をもたらした(同著)。
【0006】
マウス乳腺臓器培養(mouse mammary gland organ culture)(MMOC)アッセイは、乳腺のホルモン誘導性構造的分化に対する、および、腺におけるDMBA誘導性新生物発生前過形成胞巣状結節様病変(DMBA−induced preneoplastic hyperplastic alveolar nodule−like lesions)の発生に対する、潜在的な化学予防的薬剤の抑制効果を評価するために使用してよい。若い、処女の動物由来の乳腺は、インスリン(I)+プロラクチン(P)+アルドステロン(A)の存在下、6日間インキュベートした場合、完全に成熟した腺に分化することができる。これらの腺は、形態学的に、妊娠したマウスから得た腺に似ている。アルドステロンは、エストロゲン(E)+プロゲステロン(pg)と取り替えることができる。培地へのヒドロコルチゾン(H)の包含は、乳腺の機能的な分化を刺激する(MehtaおよびBanerjee、Acta Endocrinol. 80:501 (1975); MehtaおよびMoon、Breast Cancer: Treatment and Prognosis 300, 300 (Basil A Stoll ed., Blackwell Press 1986))。従って、この培養システムで観察される、ホルモン誘導性の構造的および機能的な分化は、動物の様々な生理的段階の間に観察されるホルモンに対する応答を模倣する。
【0007】
マウスは、MMOCにおいて、癌形成に先立ち、異なった新生物発生前段階を示す。C3Hマウスのそのような新生物発生前病変は、マウス乳癌ウイルスによって、またはBALB/cマウスにおいてDMBAによって誘導される。増殖期の3日から4日の間における2μg/mlのDMBAに対する腺の曝露、その後のインスリンのみを含む培地における2−3週間の腺の退行は、乳房胞巣状病変(mammary alveolar lesions)(MAL)の形成をもたらす(Hawthorneら、Pharmaceutical Biology 40:70−74 (2002); Mehtaら、Methods in Cell Science 19:19−24 (1997))。その上、DMBA誘導性乳房病変を含む腺から作製した上皮細胞の同系の宿主への移植は、乳腺の腺癌の発生をもたらした(Telangら、PNAS 76:5886−5890 (1979))。病理学的に、これらの腫瘍は、同じ株のマウスにDMBAを投与した場合にインビボで観察されるそれらと同様であった(同著)。
【0008】
MMOCにおけるDMBA誘導性乳房病変の形成は、レチノイドといった、様々なクラスの化学予防的薬剤によって抑制することができる。これらの薬剤は、天然物に由来する化学予防的薬剤、例えばブラシニン(brassinin)およびレスベラトロール(resveretrol)、チオール、抗酸化剤、オルニチンデカルボキシラーゼの阻害剤、例えばOFMOおよびデグエリン(deguelin)、プロスタグランジン合成の阻害剤、Ca制御因子等を含む(Jangら、Science 275:218−220 (1997); Mehta、Eur. J. Cancer 36:1275−1282 (2000); Methaら、J. Natl. Cancer Inst. 89:212−219 (1997))。これらの研究は、この臓器培養システムが、乳腺の発癌に対する化合物の効果を測定するためのユニークなモデルを提供することを明確に実証する。結果は、そのような化合物のインビボ投与によって得られる阻害と密接に相関することが予想できる。
【0009】
MMOCはまた、乳管病変(mammary ductal lesions)(MDL)を形成するよう誘導されてもよい。アルドステロンおよびヒドロコルチゾンの代わりにエストロゲンおよびプロゲステロンが培地に含まれた場合に、MDLは誘導され得る。卵巣ステロイドの存在下、胞巣状構造は非常に小さいものの、組織病理学的切片において管内の病変が観察される(Mehtaら(J. Natl. Cancer Inst. 93:1103−1106 (2001))。タモキシフェンといったような、ER+乳癌に依存的に卵巣ホルモンに選択的に作用する抗エストロゲン剤は、抑制されたMDL形成を阻害するが、MALを阻害しない。この為、従来のMAL誘導プロトコールに加えて、この修飾された培養モデルは、現在、MALおよびMOLの両者に対する化学予防的薬剤の効果を評価するために使用できる。
【0010】
必要なこととは、前癌病変の発生を阻害する化学予防的薬剤である。そのような化学予防的薬剤は、前癌病変の初期の発生の阻止、形成する前癌病変における細胞死の誘導、および/または前癌病変の悪性病変への発展の阻止の何れかを行い得るはずである。そのような化学予防的薬剤は、特に、高いリスクの特徴の存在、前癌病変の存在、または、癌または前癌病変に先立つものの何れかが原因で、癌が発生する高いリスクを有する患者の治療に、大きな有用性があるだろう。
【実施態様の概要】
【0011】
本発明は、哺乳類細胞、組織および動物における前癌病変の発生を阻害する、クプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体であってよいペプチドを含む組成物に関する。具体的には、これらの組成物は、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)由来のアズリンおよび/またはアズリンの50−77残基領域(p28)を含んでよい。本発明は、更に、哺乳動物細胞、組織または動物における前癌病変の発生を阻害する能力を保持する、クプレドキシンおよび/またはクプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体を含んでよい組成物に関する。これらの組成物は、とりわけ、単離されたペプチドまたは医薬組成物であってよい。本発明の組成物が、哺乳類の患者において癌の発生を阻止するための方法に使用されてよい。
【0012】
本発明の一側面は、クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体であってよく、哺乳類組織において前癌病変の発生を阻害してもよい単離されたペプチドである。クプレドキシンは、アズリン、シュードアズリン(pseudoazurin)、プラストシアニン、ラスチシアニン(rusticyanin)、Laz、オーラシアニン(auracyanin)、ステラシアニン(stellacyanin)およびキュウリ基本タンパク質(cucumber basic protein)であってよく、特にアズリンであってよい。クプレドキシンは、例えば、シュードモナス・アエルギノサ、アルカリゲネス・フェカリス、ウルバ・ペルツシス(Ulva pertussis)、アクロモバクター・キシロソキシダン(Achromobacter xylosoxidan)、ボルデテラ・ブロンキセプチカ、メチロモナス種、ナイセリア・メニンギティディス、ナイセリア・ゴノレア、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、キシレラ・ファスティディオサ(Xylella fastidiosa)およびビブリオ・パラヘモリチカスといった生物由来であってよく、特にシュードモナス・アエルギノサ由来であってよい。一部の実施態様において、ペプチドは、配列番号1、3−19の部分であってよく、または、配列番号1、3−19に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0013】
一部の実施態様において、単離されたペプチドは、クプレドキシンの切断物(truncation)であってもよい。単離されたペプチドは、約10残基より大きく約100残基以下であってよい。単離されたペプチドは、シュードモナス・アエルギノサのアズリン残基50−77、シュードモナス・アエルギノサのアズリン残基50−67、シュードモナス・アエルギノサのアズリン残基36−88、または配列番号20−24を含んでよく、あるいは、これらから構成されてよい。
【0014】
本発明の別の側面は、医薬的に許容可能な担体中に少なくとも1または2のクプレドキシンまたは本発明の単離されたペプチドを含んでよい医薬組成物である。医薬組成物は、静脈内投与のために処方されてよい。一部の実施態様において、医薬組成物中のクプレドキシンは、シュードモナス・アエルギノサ、ウルバ・ペルツシス、アルカリゲネス・フェカリス、アクロモバクター・キシロソキシダン、ボルデテラ・ブロンキセプチカ、メチロモナス種、ナイセリア・メニンギティディス、ナイセリア・ゴノレア、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・クロロラフィス、キシレラ・ファスティディオサおよびビブリオ・パラヘモリチカスといった生物由来であってよく、特にシュードモナス・アエルギノサ由来であってよい。クプレドキシンは、配列番号1、3−19であってよい。
【0015】
本発明の別の側面は、哺乳類患者を治療する方法であって、前記患者に本発明の治療的有効量の医薬組成物を投与することによる方法である。患者は、ヒトであってよく、一般的集団よりも癌の発生のリスクが高くてよい。一部の実施態様において、癌は、メラノーマ、乳癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、星細胞腫、肺癌、結腸直腸癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、皮膚癌および子宮頚癌であってもよい。一部の実施態様において、患者は、少なくとも1つの高リスクの特徴、前癌病変を有してよく、または、癌または前癌病変が治療されていてよい。
【0016】
医薬組成物は、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、吸入、局所投与、経皮パッチ、坐剤、硝子体注入(vitreous injection)または経口によって投与してよく、特に静脈内注射によって投与されてよい。医薬組成物は、少なくとも1つのその他の化学予防薬とともに、および特に別の化学予防薬とほぼ同時に投与されてよい。
【0017】
本発明の別の側面は、バイアル中に本発明の医薬組成物を含むキットである。キットは、静脈内投与のために設計されてよい。
【0018】
本発明の別の側面は、哺乳動物細胞をクプレドキシンまたは本発明のペプチドと接触させ、前癌および悪性細胞の発生を測定することを含む、癌の発生の研究方法である。一部の実施態様において、細胞はヒトおよび/または乳腺細胞であってよい。一部の実施態様において、細胞は前癌病変への発生が誘導される。
【0019】
本発明の別の側面は、本発明のペプチドをコード化する発現ベクターである。
【0020】
本発明のこれらおよびその他の側面、利点および特徴は、続く図面および特定の実施態様の詳細な説明から明らかとなるだろう。
【配列の簡単な説明】
【0021】
配列番号:1 シュードモナス・アエルギノサ由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0022】
配列番号:2 p28(シュードモナス・アエルギノサのアズリン残基50−77)のアミノ酸配列。
【0023】
配列番号:3 ホルミジウム・ラミノサム(Phormidium laminosum)由来のプラストシアニンのアミノ酸配列。
【0024】
配列番号:4 チオバシルス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)由来のラスチシアニンのアミノ酸配列。
【0025】
配列番号:5 アクロモバクター・サイクロクラステス由来のシュードアズリンのアミノ酸配列。
【0026】
配列番号:6 アルカリゲネス・フェカリス由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0027】
配列番号:7 アクロモバクター・キシロソキシダンス亜種デニトリフィカンスI由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0028】
配列番号:8 ボルデテラ・ブロンキセプチカ由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0029】
配列番号:9 メチロモナス種J.由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0030】
配列番号:10 ナイセリア・メニンギティディスZ2491由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0031】
配列番号:11 シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescen)由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0032】
配列番号:12 シュードモナス・クロロラフィス由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0033】
配列番号:13 キシレラ・ファスティディオサ9a5c由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0034】
配列番号:14 ククミス・サティバス(Cucumis sativus)由来のステラシアニンのアミノ酸配列。
【0035】
配列番号:15 クロロフレクサス・オーランティアカス(Chloroflexus aurantiacus)由来のオーラシアニンAのアミノ酸配列。
【0036】
配列番号:16 クロロフレクサス・オーランティアカス由来のオーラシアニンBのアミノ酸配列。
【0037】
配列番号:17 ククミス・サティバス由来のキュウリ基本タンパク質のアミノ酸配列。
【0038】
配列番号:18 ナイセリア・ゴノレアF62由来のLazのアミノ酸配列。
【0039】
配列番号:19 ビブリオ・パラヘモリチカス由来のアズリンのアミノ酸配列。
【0040】
配列番号:20 クロロフレクサス・オーランティアカスのオーラシアニンBのアミノ酸57から89のアミノ酸配列。
【0041】
配列番号:21 シュードモナス・シリンゲのアズリンのアミノ酸51−77のアミノ酸配列。
【0042】
配列番号:22 ナイセリア・メニンギティディスのLazのアミノ酸89−115のアミノ酸配列。
【0043】
配列番号:23 ビブリオ・パラヘモリチカスのアズリンのアミノ酸52−78のアミノ酸配列。
【0044】
配列番号:24 ボルデテラ・ブロンキセプチカのアズリンのアミノ酸51−77のアミノ酸配列。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1A】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1B】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1C】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1D】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1E】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1F】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図1G】図1は、p28およびアズリンの有効性について評価した全ての腺の写真を示す。図1Aは、DMBA処理した腺の胞巣状病変(alveolar lesions)、および化学予防的薬剤とともにDMBAで処理された腺によるその比較の代表的な写真を示す。図1B−1Gは、胞巣状病変の発生に対するp28の効果の代表的な写真を示す。
【図2】図2は、DMBA誘導性乳腺胞巣状病変に対するp28の有効性を示すグラフを示す。
【図3】図3は、管病変の代表的な切片およびp28の効果の写真を示す。
【図4】図4は、DMBA誘導性管病変に対するp28の有効性を示しているグラフを示す。
【発明の詳細な説明】
【0046】
定義
本願で使用される、「細胞」という用語は、特に「単一細胞」と記述しない限り、当該用語の単数または複数のものの何れかを含む。
【0047】
本願で使用される、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的にアミノ酸残基のポリマーを意味するよう使用される。当該用語は、1以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的化学的類似体である、アミノ酸ポリマーに適用される。当該用語はまた、天然アミノ酸ポリマーに適用される。「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」といった用語はまた、グリコシル化、脂質付加、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ−カルボキシル化、水酸化およびADP−リボシル化を含むが、これらに限定されない修飾を包含する。ポリペプチドは必ずしも完全に直鎖状であるわけではないと解される。例えば、ポリペプチドは、ユビキチン結合の結果として枝分かれしていてもよく、天然のプロセッシングの事象および天然では生じないヒトの操作によってもたらされる事象を含む、一般に翻訳後の事象の結果として、(分岐を有するまたは有しない)環状であってよい。環状の、分岐した、および、分岐して環状のポリペプチドは、非翻訳的な天然の工程によっておよび完全に合成的な方法によっても合成してよい。
【0048】
本願で使用される、「薬理活性」という用語は、生物系に対する薬剤またはその他の化学薬品の効果を意味する。化学薬品の効果は、有益(治療的な)または有害(有毒な)であってよい。純粋な化学薬品または混合物は、天然の起源(植物、動物または無機物)であってよく、または、合成化合物であってよい。
【0049】
本願で使用される「前癌」という用語は、前癌性(precancerous)、または、制御を失った異常な細胞分裂の前であることを意味する。
【0050】
本願で使用される「病変」という用語は、異常な組織の領域を意味する。
【0051】
本願で使用される「病理学的状況」という用語は、正常からの解剖学的および生理的な逸脱であって、生命ある動物またはその一部の正常な状態の機能障害を構成するものを含み、身体機能のパフォーマンスを妨げまたは改変し、且つ、さまざまな因子(栄養失調、工業的災害または気候)、特定の感染体(虫、寄生的な原生動物、細菌またはウイルス)、生物の本来の異常(遺伝的異常)、または、これらの因子の組合せに対する応答である。
【0052】
本願で使用される「症状」という用語は、正常からの解剖学的および生理的な逸脱であって、生命ある動物またはその一部の正常な状態の機能障害を構成するものを含み、身体機能のパフォーマンスを妨げまたは改変する。
【0053】
本願で使用される「患う」という用語は、病理学的状況の症状を現実に示していること、観察できる病徴がない場合であっても病理学的状況を有すること、病理学的状況から回復する状態にあること、または病理学的状況から回復したことを含む。
【0054】
本願で使用される「化学的予防」という用語は、癌のリスクを減少するあるいは癌の発生または再発を遅らせようとする、薬物、ビタミンまたはその他の薬剤の使用である。
【0055】
本願で使用される「治療」は、症状または治療される症状に関する病徴の進行または重症度を予防し、低下させ、停止させ、または逆転させることを含む。そのため、「治療」という用語は、適切に、医学的、治療的および/または予防的投与管理を含む。治療はさらに、癌といった症状の発生を予防または減少させることを含んでよい。
【0056】
本願で使用される「細胞増殖を阻害する」という用語は、細胞分裂および/または細胞増殖を減速させまたは停止させることを意味する。この用語は、また、細胞死における細胞発生または増加の阻害を含む。
【0057】
「治療的有効量」とは、対象にて治療される特定の症状の既存の病徴の、発生の予防、低下、停止または逆転のために、あるいは、部分的なまたは完全な緩和のために有効な量である。治療的有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0058】
本願で使用される「実質的に純粋」という用語は、本発明のタンパク質またはその他の細胞の生成物を修飾するために使用される場合、例えば、その他のタンパク質および/またはその他の化合物を実質的に含まないまたはそれらを混合していない形態における、増殖培地または細胞の内容物から分離されたタンパク質を意味する。「実質的に純粋」という用語は、単離された画分中乾重量にて少なくとも約75%の化合物のことを意味し、または少なくとも「75%実質的に純粋」を意味する。より具体的には、「実質的に純粋」という用語は、単離された画分中乾重量にて少なくとも約85%の化合物のことを意味し、または少なくとも「85%実質的に純粋」を意味する。最も具体的には、「実質的に純粋」という用語は、単離された画分中乾重量にて少なくとも約95%の化合物のことを意味し、または少なくとも「95%実質的に純粋」を意味する。「実質的に純粋」という用語はまた、本発明の合成的に作られたタンパク質または化合物を修飾するために使用されてよく、例えば、合成タンパク質が合成反応の試薬および副産物から単離される場合に使用されてよい。
【0059】
本願で使用される「医薬的等級」という用語は、本発明のペプチドまたは化合物について言及される場合、それが本来の状態で見出される材料を通常伴う構成成分(合成試薬および副産物を含む)から実質的にまたは本質的に単離された、および、医薬としてのその使用を害する構成成分から実質的にまたは本質的に単離された、ペプチドまたは化合物である。例えば、「医薬的等級」ペプチドは、何れかの発癌物質から単離されてよい。一部の例において、「医薬的等級」は、静脈内投与に適さない組成物を患者に与える任意の物質から実質的にまたは本質的に単離されたペプチドまたは化合物を特定するために、「静脈内医薬的等級」といったように、意図された投与方法によって修飾されてよい。
【0060】
「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋な」という用語は、それが本来の状態で見出されるように材料が通常伴う構成成分を実質的にまたは本質的に含まない材料を意味する。従って、本発明に関する単離されたペプチドは、インサイチューの環境にてペプチドが通常関与しない材料を含まない。ポリペプチドの「単離された」領域は、その領域の由来となるポリペプチド全体の配列を含まない領域を意味する。「単離された」核酸、タンパク質またはそれぞれの断片は、そのインビボの環境から実質的に除去され、それにより、当業者により、例えばヌクレオチド配列決定、制限消化、部位特異的突然変異誘発および核酸断片用発現ベクターへのサブクローン化(これらに限定されない)といった操作に供され、ならびに、実質的に純粋な量にてタンパク質またはタンパク質断片が得られる。
【0061】
ペプチドに関して本願で使用される「変種」という用語は、野生型のポリペプチドと比較してアミノ酸が置換され、欠失されまたは挿入されてよい、アミノ酸配列の変種を意味する。変種は野生型ペプチドの切断物(truncation)であってよい。「欠失」は、ポリペプチドの内部からの1以上のアミノ酸の除去であり、「切断(truncation)」は、ポリペプチドの一端または両端からの1以上のアミノ酸の除去である。したがって、変種ペプチドはポリペプチドをコードする遺伝子の操作によって作られてよい。変種は、少なくともその薬理活性を変更せずに、ポリペプチドの基礎的な組成または特性を変更して作られてよい。例えば、アズリンの「変種」は、前癌哺乳類細胞の発生を阻害するその能力を保持する、変異したアズリンでありうる。ある場合において変種ペプチドは、ε−(3、5−ジニトロベンゾイル) −Lys残基といった非自然的なアミノ酸によって合成される(Ghadiri & Fernholz, J. Am. Chem. Soc., 112:9633−9635 (1990))。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高20アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高15アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高10アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高6アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高5アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。一部の実施態様において、変種は、野生型ペプチドまたはその一部と比較して、最高3アミノ酸が置換、欠失または挿入されている。
【0062】
本願で使用される「アミノ酸」という用語は、任意の天然または非天然合成アミノ酸残基を含むアミノ酸成分、すなわち、1、2、3またはそれ以上の炭素原子(典型的には1つ(α)の炭素原子)に直接つながった少なくとも1つのカルボキシルおよび少なくとも1つのアミノ残基を含む任意の成分を意味する。
【0063】
ペプチドに関して本願で使用される「誘導体」という用語は対象ペプチドに由来するペプチドを意味する。誘導は、ペプチドがまだその基本的活性の一部を保持するような、ペプチドの化学的修飾を含む。例えば、アズリンの「誘導体」は、哺乳類細胞における血管形成を阻害するその能力を保持する、化学的に修飾されたアズリンでありうる。関心の対象となる化学的修飾は、ペプチドのアミド化、アセチル化、硫酸化、ポリエチレングリコール(PEG)修飾、リン酸化または糖鎖形成を含むが、これらに限定されない。さらに、誘導体ペプチドは、ポリペプチドまたはその断片の、化合物(例えば、その他のペプチド、薬剤分子、またはその他の治療剤または医薬品、または検出プローブを含むが、これらに限定されない)への融合であってよい。
【0064】
「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」という用語は、2つの配列が整列されたとき、候補配列のアミノ酸残基と同一のポリペプチド中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。%アミノ酸同一性の決定のために、配列が整列され、必要に応じて最大の%配列同一性を達成するためにギャップが導入される;保存的置換は配列同一性の一部として考慮されない。パーセント同一性を決定するためのアミノ酸配列の整列方法は当業者に周知である。しばしば、BLAST、BLAST2、ALIGN2またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアといった公に利用可能なコンピューターソフトウェアが、ペプチド配列の整列のるために使用される。特定の実施態様において、Blastp(全米バイオテクノロジー情報センター(ベテスダMD)から利用可能)は、ロングコンプレキィシティフィルター(long complexity filter)、予測(expect)10、ワードサイズ3、存在(existence)11および伸張(extension)1のデフォルト・パラメーターを使用して用いられる。
【0065】
アミノ酸配列を整列する場合、所与のアミノ酸配列Bへの、それとのまたはそれに対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、それとのまたはそれに対する特定の%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む、所与のアミノ酸配列Aとして表すこともできる)は、次の式により算出できる:
%アミノ酸配列同一性=X/Y*100
ここにおいて、
Xは、AおよびBの配列アラインメントのプログラムまたはアルゴリズムの整列によって同一と評価されたアミノ酸残基の数であり、および、
Yは、Bのアミノ酸残基の総数である。
【0066】
アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、BへのAの%アミノ酸配列同一性は、AへのBの%アミノ酸配列同一性と等しくないだろう。より長い配列をより短い配列と比較する時、より短い配列は「B」配列となるだろう。例えば、切断型ペプチドと対応する野生型ポリペプチドとを比較する場合、切断型ペプチドは「B」配列となるだろう。
【0067】
一般
本発明は、クプレドキシンおよびクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体を含む組成物、および、哺乳動物の癌の発生を予防する方法を提供する。本発明は、さらに、哺乳動物の癌の発生または癌の再発を予防する能力を保持するクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体を提供する。最も特に、本発明は、シュードモナス・アエルギノサのアズリンおよびアズリンの変種、誘導体および構造的等価体を含む組成物、および、患者、特に一般的集団よりも癌の発生の高いリスクを有する患者を治療するそれらの使用を提供する。最後に、本発明は、前癌病変の誘導の前または後において、細胞をクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体と接触させ、且つ、前癌および/または悪性細胞の発生を観察することによる、哺乳類細胞、組織および動物における癌の発生を研究する方法を提供する。
【0068】
従来、シュードモナス・アエルギノサに産生された酸化還元タンパク質、クプレドキシン アズリンが、正常細胞ではなくJ774肺癌細胞に選択的に入り、アポトーシスを誘導することが知られている(Zaborina et al., Microbiology 146:2521−2530 (2000))。アズリンはまた、ヒトメラノーマUISO−Mel−2またはヒト乳癌MCF−7細胞に選択的に入り殺すことができる(Yamada et al., PNAS 99:14098−14103 (2002); Punj et al., Oncogene 23:2367−2378 (2004))。P.アエルギノサ由来のアズリンは、優先的に、J774マウス細網細胞肉腫細胞に入り、腫瘍抑制タンパク質p53と複合体を形成して安定化し、p53の細胞内の濃度を増強し、および、アポトーシスを誘導する(Yamada et al., Infection and Immunity 70:7054−7062 (2002))。アズリン分子の様々な領域に関する詳細な研究から、アミノ酸50−77(p28)(配列番号:2)は、内部移行および続くアポトーシス活性にとって重要なタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を意味することが示された(Yamada et al., Cell. Microbial. 7:1418−1431 (2005))。
【0069】
アズリンおよびp28のようなアズリンに由来するペプチドが化学予防的特性を有することが現在知られている。アズリンおよびp28が、マウス乳腺臓器培養において前癌新生物発生前病変の形成を予防することが現在知られている。マウス乳腺臓器培養モデルにおいて、50μg/mlのアズリンは、胞巣状病変の形成を67%阻害することが分かった。同様に、25μg/mlのp28は、胞巣状病変の形成を67%阻害することが分かった(例1を参照)。さらに、50μg/mlのアズリンは、管病変の形成を79%阻害することがわかり、25μg/mlのp28は、管病変の形成を71%阻害することがわかった(例1を参照)。共焦点顕微鏡観察およびFACにより、アズリンおよびp28が、正常なマウス乳房上皮細胞(MM3MG)および乳房癌細胞(4T1)に入ることが示された。P28はさらに、温度、時間および濃度依存的な様式で、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)に入り、用量依存的な様式でMatrigel(登録商標)上のHUVECの毛管形成を阻害した。それゆえ、アズリンおよびアズリンの変種は、哺乳類患者における前癌新生物発生前病変の形成、それによる癌(特に乳癌)の発生を阻害するために使用してよいことが既知である。
【0070】
クプレドキシン間の高度な構造的類似性により、その他のクプレドキシンは、アズリンと同様に、哺乳動物中の前癌病変の形成を阻害するようである。そのようなクプレドキシンは、例えば細菌または植物にて見出される可能性がある。いくつかのクプレドキシンは、シュードモナス・アエルギノサ由来のアズリンに類似する薬物動態学的活性を有することが既知である。例えば、チオバシルス・フェロオキシダンス由来のラスチシアニンはまた、マクロファージに入り、アポトーシスを誘導できる(Yamada et al., Cell Cycle 3:1182−1187 (2004); Yamada et al., Cell. Micro. 7:1418−1431 (2005))。ホルミジウム・ラミノサム由来のプラストシアニンおよびアクロモバクター・サイクロクラステス由来のシュードアズリンはまた、マクロファージに対して細胞毒性を示す(米国公開特許第20060040269号、2006年2月23日公開)。したがって、その他のクプレドキシンを、本発明の組成物および方法に使用してもよいと考えられる。さらに、哺乳動物における癌の形成を阻害する能力を保持するクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体もまた、本発明の組成物および方法に使用してよい。これらの変種および誘導体は、クプレドキシンの切断物、アミノ酸の保存的置換およびPEG化(PEGylation)といったタンパク質修飾およびα−ヘリックスの全炭化水素安定化(all−hydrocarbon stabling)を含むがこれらに限定されない。
【0071】
本発明の組成物
本発明は、哺乳類細胞、組織および動物における前癌病変の発生を阻害するクプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体であるペプチを提供する。本発明はさらに、哺乳類細胞、組織および動物における癌の発生を阻害するクプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体であるペプチドを提供する。いくつかの実施態様において、ペプチドは単離されている。いくつかの実施態様において、ペプチドは実質的に純粋または医薬的等級である。その他の実施態様において、ペプチドは当該ペプチドを含むまたは本質的に当該ペプチドから成る組成物である。別の特定の実施態様において、ペプチドは、非抗原性であり、哺乳動物(より明確にはヒト)における免疫反応を生じさせない。いくつかの実施態様において、ペプチドは、全長クプレドキシンより短いものであり、且つ、クプレドキシンの薬理活性の一部を保持している。具体的には、いくつかの実施態様において、ペプチドは、マウス乳腺臓器培養における前癌病変の発生を阻害する能力を保持してよい。
【0072】
本発明は、さらに、特に医薬組成物において、クプレドキシンまたはクプレドキシンの変種、誘導体もしくは構造的等価体である少なくとも1つのペプチドを含む組成物を提供する。特定の実施態様において、医薬組成物は、投与の特定の様式、例えば経口、腹腔内または静脈内投与(これらに限定されない)のために設計される。そのような組成物は、水中で水和されてよく、または後の水和のために乾燥(例えば凍結乾燥)されてよい。そのような組成物は、水以外の溶剤(例えばアルコール、但しこれに限定されない)中に存在していてよい。
【0073】
クプレドキシン間の高い構造的相同性のために、クプレドキシンは、アズリンおよびp28と同様の化学予防的特性を有すると考えられる。いくつかの実施態様において、クプレドキシンは、アズリン、シュードアズリン、プラストシアニン、ラスチシアニン、オーラシアニン、ステラシアニン、キュウリ基本タンパク質またはLazであるが、これらに限定されない。特に特定の実施態様において、アズリンは、シュードモナス・アエルギノサ、アルカリゲネス・フェカリス、アクロモバクター・キシロソキシダンス亜種デニトリフィカンスI、ボルデテラ・ブロンキセプチカ、メチロモナス種、ナイセリア・メニンギティディス、ナイセリア・ゴノレア、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・クロロラフィス、キシレラ・ファスティディオサ、ウルバ・ペルツシスまたはビブリオ・パラヘモリチカスに由来する。非常に特別の実施態様において、アズリンはシュードモナス・アエルギノサ由来である。その他の特定の実施態様において、クプレドキシンは、配列番号:1、3−19であるアミノ酸配列を含む。
【0074】
本発明は、野生型クプレドキシンと比較して、アミノ酸が置換、欠失または挿入された、アミノ酸配列変種を提供する。本発明の変種は、野生型クプレドキシンの切断物であってよい。いくつかの実施態様において、本発明のペプチドは、全長の野生型ポリペプチドより短いクプレドキシンの領域を含む。いくつかの実施態様において、本発明のペプチドは、約10を超える残基、約15を超える残基または約20を超える残基の切断型クプレドキシンを含む。いくつかの実施態様において、ペプチドは、最高約100の残基、最高約50の残基、最高約40の残基、最高約30の残基または最高約20の残基の切断型クプレドキシンを含む。いくつかの実施態様において、クプレドキシンは、ペプチドに対して、およびより明確には本発明のペプチドに関する配列番号1、3−19に対して、少なくとも約70%のアミノ酸配列同一性、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性または少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0075】
特定の実施態様において、クプレドキシンの変種はP.アエルギノサのアズリン残基50−77(p28、配列番号:2)、アズリン残基50−67またはアズリン残基36−88を含む。その他の実施態様において、クプレドキシンの変種は、P.アエルギノサのアズリン残基50−77、アズリン残基50−67またはアズリン残基36−88から成る。その他の特定の実施態様において、変種は、アズリン以外のクプレドキシンの等価な残基から成る。また、アズリン残基50−77またはアズリン残基36−88と同様の薬理学的活性を有するその他のクプレドキシン変種を設計することができると考えられる。これを行うために、対象クプレドキシンのアミノ酸配列は、BLAST、BLAST2、ALIGN2またはMegalign(DNASTAR)を使用して、シュードモナス・アエルギノサのアズリン配列、P.アエルギノサのアズリンのアミノ酸配列に位置する関連する残基、および対象クプレドキシン配列上で見つかる等価な残基、およびこのように設計された等価なペプチドに対して整列されるだろう。
【0076】
本発明の一実施態様において、クプレドキシン変種は、少なくとも、クロロフレクサス・オーランティアカスのオーラシアニンBのアミノ酸57−89(配列番号:20)を含む。本発明の別の実施態様において、クプレドキシン変種は、少なくとも、シュードモナス・シリンゲのアズリンのアミノ酸51−77(配列番号:21)を含む。本発明の別の実施態様において、クプレドキシン変種は、少なくとも、ナイセリア・メニンギティディスのLazのアミノ酸89−115(配列番号:22)を含む。本発明の別の実施態様において、クプレドキシン変種は、少なくとも、ビブリオ・パラヘモリチカスのアズリンのアミノ酸52−78(配列番号:23)を含む。本発明の別の実施態様において、クプレドキシン変種は、少なくとも、ボルデテラ・ブロンキセプチカのアズリンのアミノ酸51−77(配列番号:24)を含む。
【0077】
変種はまた、天然ではない合成アミノ酸で作られたペプチドを含んでよい。例えば、非天然アミノ酸は、血流中での組成物の半減期を延長または最適化するために、変種ペプチに取り込まれてよい。そのような変種は、D、L−ペプチド(ジアステレオマー)(例えば、Futaki et al., J. Biol. Chem. 276(8):5836−40 (2001); Papo et al., Cancer Res. 64(16):5779−86 (2004); Miller et al, Biochem. Pharmacol. 36(1):169−76, (1987));異常なアミノ酸を含むペプチド(例えば、Lee et al., J. Pept. Res. 63(2):69−84 (2004))、炭化水素安定化(hydrocarbon stapling)によるオレフィン含有非天然アミノ酸(例えば、Schafmeister et al., J. Am. Chem. Soc. 122:5891−5892 (2000); Walenski et al., Science 305:1466−1470 (2004))、およびε−(3,5−ジニトロベンゾイル)−Lys残基を含むが、これらに限定されない。
【0078】
その他の実施態様において、本発明のペプチドはクプレドキシンの誘導体である。クプレドキシンの誘導体は、ペプチドがその基本の活性の一部をなお保持するペプチドの化学的修飾体である。例えば、アズリンの「誘導体」は、哺乳類細胞、組織または動物における前癌病変の発生を阻害する能力を保持する、化学的修飾を受けたアズリンでありうる。関心ある対象の化学的修飾は、炭化水素安定化、アミド化、アセチル化、硫酸化、ポリエチレングリコール(PEG)修飾、ペプチドのリン酸化および糖鎖形成を含むが、これらに限定されない。さらに、誘導体ペプチドは、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の、別のペプチド、薬剤分子またはその他の治療剤もしくは医薬品または検出プローブといった(これらに限定されない)化合物への融合体であってよい。関心の対象となる誘導体は、本発明のペプチドおよび組成物の血流における半減期が、環状化ペプチド(例えばMonk et al., BioDrugs 19(4):261−78, (2005); DeFreest et al., J. Pept. Res. 63(5):409−19 (2004))、N−およびC−端末の修飾(例えばLabrie et al., Clin. Invest. Med. 13(5):275−8, (1990))、オレフィンを含む非天然アミノ酸、その後の炭化水素安定化(例えばSchafmeister et al., J. Am. Chem. Soc. 122:5891−5892 (2000); Walenski et al., Science 305:1466−1470 (2004))を含むがこれらに限定されない幾つかの既知の方法により、延長または最適化され得る化学的修飾を含む。
【0079】
別の実施態様において、ペプチドはクプレドキシンの構造的等価体である。クプレドキシンとその他のタンパク質との間の重要な構造的相同性を決定する研究の例は、Tothらの文献(Developmental Cell 1:82−92 (2001))に含まれる。具体的には、クプレドキシンと構造的等価体との間の重要な構造的相同性は、VASTアルゴリズムの使用により決定されてよい(Gibrat et al., Curr Opin Struct Biol 6:377−385 (1996); Madej et al., Proteins 23:356−3690 (1995))。特定の実施態様において、クプレドキシンと構造的等価体との間の構造的比較によるVASTp値は、約10−3未満、約10−5未満、または約10−7未満であってよい。その他の実施態様において、クプレドキシンと構造的等価体との間の重要な構造的相同性は、DALIアルゴリズムの使用によって決定してよい(Holm & Sander, J. Mol. Biol. 233:123−138 (1993))。特定の実施態様において、対を成す(pairwise)構造的比較のためのDALI Zスコアは、少なくとも約3.5、少なくとも約7.0、または少なくとも約10.0である。
【0080】
本発明の組成物のペプチドは、1以上のクプレドキシンの変種、誘導体および/または構造的等価体であってよいと考えられる。例えば、ペプチドは、PEG化され、それによってそれを変種および誘導体の両者にしたアズリンの切断物であってよい。1つの実施態様において、本発明のペプチドは、オレフィンを有するテザー(tethers)を含むα,α−2置換非天然アミノ酸を用い、その後のルテニウム触媒オレフィンメタセシスによる全炭化水素「安定化」によって合成される(Scharmeister et al., J. Am. Chem. Soc. 122:5891−5892 (2000); Walensky et al., Science 305:1466−1470 (2004))。さらに、アズリンの構造的等価体であるペプチドは、その他のペプチドに融合され、それにより、構造的等価体および誘導体の両者であるペプチドが作られてよい。これらの例は単なる例示であり、本発明を限定するものではない。クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体は、銅に結合してよく、または銅に結合しなくてよい。
【0081】
いくつかの実施態様において、クプレドキシン、またはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、P.アエルギノサのアズリンおよび特にp28の一定の薬理活性を有する。特定の実施態様において、阻害してよいクプレドキシンおよびクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体は、哺乳類細胞、組織または動物、特に(しかし限定を意味せず)乳腺細胞における、前癌病変の発生を予防する。本発明はさらに、哺乳類前癌病変に、および特に(しかし限定を意味せず)メラノーマ、乳癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、星細胞腫、肺癌、結腸直腸癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、皮膚癌および子宮頚癌細胞の発生を阻害する能力を有する可能性のあるクプレドキシンおよびクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体を提供する。癌細胞の発生の阻害は、コントロール処理と比較して統計的に有意な、前癌病変の発生の任意の減少またはその上昇率の減少である。
【0082】
現在、クプレドキシンは、哺乳類の細胞、組織または動物および特に乳腺細胞、およびより具体的にはマウス乳腺細胞における前癌病変および究極的に癌の発生を阻害できることが既知であるため、現在、化学予防的活性を保持するクプレドキシンの変種および誘導体を設計することができる。そのような変種、誘導体および構造的等価体は、例えば、様々なクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体およびクプレドキシン由来のペプチドの「ライブラリー」を作り、その後、それぞれについて、例1における典型的な方法といった当業者に既知の多くの方法のうちの1つを用いて、化学予防的活性、および特にマウス乳腺臓器培養における化学予防的活性を試験することで、作製されてよい。化学予防的活性を有した、得られたクプレドキシンの変種、誘導体および構造的等価体は、アズリンまたはp28の代わりに、またはそれらに加えて、本発明の方法にて使用してよい。
【0083】
いくつかの特定の実施態様において、クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体は、マウス乳腺臓器培養(MMOC)における7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセン(DMBA)に誘導された前癌病変の発生を、非処理コントロールから統計的に異なる程度となるまで阻害するかもしれない。ペプチドは、例1に記述されるMMOCモデル系を使用して、または、Mehtaらの文献(J Natl Cancer Inst 93:1103−1106 (2001))およびMehtaらの文献(Meth Cell Sci 19:19−24 (1997))に記載されるように、この活性に関して試験できる。癌の発生が阻害されたかどうかを判断するその他の方法は、当該分野において周知であり、同様に使用してよい。
【0084】
いくつかの特定の実施態様において、クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体は、MMOCモデルにおいて、乳房胞巣状病変(MAL)の発生を、非処理コントロールに対して統計的に異なる程度まで阻害する。いくつかの特定の実施態様において、クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体は、MMOCモデル乳管における病変(MDL)の発生を、非処理コントロールから統計的に異なる程度まで阻害する。ペプチドは、例1に記述されるように、DMBAによって前癌病変を形成するよう誘導されたMMOCモデル系の使用により、これらの活性に関して試験することができる。MMOCモデル系における前癌病変の発生の評価は、例1において提供されるように、形態計測的分析(morphometic analysis)、または組織病理学的分析によって決定されてよい。
【0085】
クプレドキシン
これらの小さなブルー銅タンパク質(クプレドキシン)は、バクテリアの電子伝達鎖に関与する、または、機能が未知の電子伝達タンパク質(10−20kDa)である。銅のイオンは、タンパク質基質に単独で結合する。銅周辺の2つのヒスチジンおよび1つのシステインリガンドへの特別なゆがんだ三角形的平面の配置は、金属部位および極度に青い色のまさに特有の電子特性を生じさせる。多くのクプレドキシンは、中程度から高度の分解能において、結晶学的に特徴づけられた。
【0086】
一般にクプレドキシンは、配列相同性が低いものの構造的相同性は高い(Gough & Clothia, Structure 12:917−925 (2004); De Rienzo et al., Protein Science 9:1439−1454 (2000))。例えば、アズリンのアミノ酸配列は、オーラシアニンBとは31%、ラスチシアニンとは16.3%、プラストシアニンとは20.3%、およびシュードアズリンとは17.3%同一である(表1参照)。しかしながら、これらのタンパク質の構造的類似性はより明白である。アズリンとオーラシアニンBとの間の構造比較のVASTp価値は10−7.4であり、アズリンとラスチシアニンとでは10−5であり、アズリンとプラストシアニンとでは10−5.6であり、および、アズリンとシュードアズリンとでは10−4.1である。
【0087】
全てのクプレドキシンは、8本鎖グリークキーベータ−バレル(eight−stranded Greek key beta−barrel)またはベータ−サンドイッチ折り畳み(beta−sandwich fold)を有し、および、高度に保存された部位構造を有する(De Rienzo et al., Protein Science 9:1439−1454 (2000))。メチオニンおよびロイシンといった長鎖脂肪族残基の存在により、顕著な疎水性パッチがアズリン、アミシアニン(amicyanins)、シアノバクテリアプラストシアニン、キュウリ基本タンパク質の銅部位周辺に存在し、およびより低い程度でシュードアズリンにおける銅のサイトおよび真核生物プラストシアニン周辺に存在する(同著)。疎水性パッチは、また、ステラシアニンおよびラスチシアニン銅部位により低い程度で見出だされるものの、異なる特徴を有する(同著)。
【表1】

【0088】
アズリン
アズリンは、128のアミノ酸残基の銅を含むタンパク質であり、特定の細菌における電子伝達に関与するクプレドキシンのファミリーに属す。アズリンは、P.アエルギノサ(PA)(配列番号:1)、A.キシロソキシダンスおよびA.デニトリフィカンス由来のものを含む(Murphy et al., J. Mol. Biol. 315:859−871 (2002))。アズリン間のアミノ酸配列同一性は60−90%の間で変わり、これらのタンパク質は強い構造的相同性を示した。すべてのアズリンは、グリークキーモチーフを備えた特徴あるβ−サンドイッチを有し、単一の銅原子が、タンパク質の同じ領域に常に位置する。さらに、アズリンは、銅部位を囲む本質的に中性の疎水性パッチ有する(同著)。
【0089】
プラストシアニン
プラストシアニンは、シアノバクテリア、藻類および植物の可溶性タンパク質であり、1分子あたり銅1分子を有し、酸化状態では青色を示す。それらは葉緑体において生じ、そこで電子伝達体として機能する。1978年のポプラのプラストシアニンの構造決定以来、藻類(セネデスムス、エンテロモルファ(Enteromorpha)、クラミドモナス)および、植物(サヤエンドウ)のプラストシアニンの構造が、結晶学的方法またはNMR方法の何れかによって決定され、また、ポプラの構造は1.33Å分解能までリファインされた(refined)。配列番号:3は、ホルミジウム・ラミノサム、好熱性シアノバクテリア由来のプラストシアニンのアミノ酸配列を示す。別の関心あるプラストシアニンはウルバ・ペルツシス由来のものである。
【0090】
藻類および維管束植物のプラストシアニンの間の配列多様性にもかかわらず(例えば、クラミドモナスとポプラタンパク質との間の62%の配列同一性)、三次元構造は保存される(例えばクラミドモナスとポプラタンパク質との間のCアルファ位置における0.76Årmsの偏向)。構造的特徴は、8本鎖逆平行ベータ−バレルの一端における歪んだ四面体状銅結合部位、顕著な陰性パッチ、および平らな疎水性表面を含む。銅部位は、その電子伝達機能に最適化されており、陰性の疎水性パッチは、生理的反応の相手の認識に関与すると提案されている。化学的修飾、架橋および部位特異的突然変異誘発の実験によって、シトクロムfとの結合相互作用における陰性の疎水性パッチの重要性が確認され、および、プラストシアニンに関する2つの機能的に意味ある電子伝達経路のモデルが確実なものとされた。推定上の電子伝達経路の1つは、比較的短く(およそ4Å)、疎水性パッチに溶剤露出性銅リガンドHis−87を含み、他方は、より長く(およそ12−15Å)、陰性パッチにほぼ保存された残基Tyr−83を含む(Redinbo et al., J. Bioenerg. Biomembr. 26:49−66 (1994))。
【0091】
ラスチシアニン
ラスチシアニンは、チオバチルス(現在、アシディチオバシルス(Acidithiobacillus)と呼ばれる)から得られた、ブルー銅を含む単一の鎖状ポリペプチドである。チオバシルス・フェロオキシダンス由来の、非常に安定して、高度に酸化されたクプレドキシン ラスチシアニン(配列番号:4)の酸化した形態のX線結晶構造は、多波長の変則的回析によって決定され、1.9Å分解能まで改良された。ラスチシアニンは、6および7本鎖b−シートから成るコアベータサンドイッチ折り畳み(core beta−sandwich fold)から成る。その他のクプレドキシンのように、銅イオンは、歪んだ四面体にて整列された、4つの保存された残基のクラスタ(His 85, Cys138, His143, Met148)によって配位される(Walter, R.L. et al., J. Mol. Biol. 263:730−51 (1996))。
【0092】
シュードアズリン
シュードアズリンは、ブルー銅を含む一本鎖ポリペプチドのファミリーである。アクロモバクター・サイクロクラステスから得られたシュードアズリンのアミノ酸配列は配列番号:5に示される。シュードアズリンのX線構造分析から、それらのタンパク質間の配列相同性は低いものの、アズリンと同様の構造を有すことが示された。2つの主要な違いは、シュードアズリンとアズリンとの全体的構造間に存在する。シュードアズリンには、アズリンに比べて、2つのアルファ・ヘリックスから成る、カルボキシ終点伸張がある。中央のペプチドの領域において、アズリンは、拡張されたループ(シュードアズリンでは短い)を含み、短いα−ヘリックス−を含むフラップを形成する。銅原子部位での唯一の主要な違いは、MET側鎖およびMet−S銅結合距離の構成であり、これは、アズリンよりもシュードアズリンのほうが著しく短い。
【0093】
フィトシアニン(Phytocyanins)
フィトシアニンとして識別可能なタンパク質は、キュウリ基本タンパク質、ステラシアニン、マビシアニン(mavicyanin)、ウメシアニン(umecyanin)、キュウリ皮クプレドキシン、エンドウ鞘(pea pods)における推定ブルー銅タンパク質およびアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)由来のブルー銅タンパク質を含むが、これらに限定されない。キュウリ基本タンパク質およびエンドウ鞘タンパク質以外のすべてにおいて、ブルー銅部位にて通常見出される、軸を成すメチオニンリガンド(axial methionine ligand)は、グルタミンと置換される。
【0094】
オーラシアニン
オーラシアニンA、オーラシアニンB−1およびオーラシアニンBー2と称される、3つの小さなブルー銅タンパク質は、好熱性緑色滑走光合成細菌であるクロロフレクサス・オーランティアカスから単離された。2つのB体は糖タンパク質であり、互いにほとんど同一の特性を有するが、A体とは異なる。ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動から、みかけの単量体分子量が14(A)、18(Bー2)および22(B−1)kDaであることが示される。
【0095】
オーラシアニンAのアミノ酸配列が決定され、オーラシアニンAが139残基のポリペプチドであることが示された(Van Dreissche et al., Protein Science 8:947−957 (1999))。既知の小さな銅タンパク質プラストシアニンおよびアズリンの場合のように、進化的に保存された金属リガンドであることが期待されるように、His58、Cys123、His128およびMet132が配置されている。2次構造予測から、さらに、オーラシアニンが、シュードモナス・アエルギノサ由来のアズリンおよびポプラ葉由来のプラストシアニンと同様な一般的なベータ−バレル構造を有することが示される。しかしながら、オーラシアニンは、両者の小さな銅タンパク質配列クラスの配列特徴を有するように見える。アズリンの共通配列との全体的な類似点は、プラストシアニンの共通配列を備えたそれとほぼ同じ(すなわち30.5%)である。オーラシアニンのN−端末配列領域1−18は、グリシンおよびヒドロキシアミノ酸に著しく富む(同著)。アミノ酸配列、クロロフレクサス・オーランティアカス由来のオーラシアニンの鎖A(配列番号:15)が例として参照される(NCBIタンパク質データバンク・アクセション番号AAM12874)。
【0096】
オーラシアニンB分子は、標準的なクプレドキシの折りたたみを有する。クロロフレクサス・オーランティアカス由来のオーラシアニンBの結晶構造が研究された(Bond et al., J. Mol. Biol. 306:47−67 (2001))。付加的なN−端末鎖を除き、分子は、細菌のクプレドキシン、アズリンのそれと非常に類似している。その他のクプレドキシンのように、Cuリガンドのうちの1つはポリペプチドの鎖4に存在し、その他の3つは、鎖7と8との間の大きなループに沿って存在する。Cu部位の形状は、後の3つのリガンド間のアミノ酸間隔に関して議論される。オーラシアニンBの結晶学的に特徴づけられたCu結合ドメインは、恐らく、N−端末テールによって細胞膜の周辺質側に繋がれ、これは、その他のいくつかの膜関連電子伝達タンパク質における既知の繋ぎ止めとの有意な配列同一性を示すB体のアミノ酸配列はMcManusらによって示される(J. Biol. Chem. 267:6531−6540 (1992))。アミノ酸配列クロロフレクサス・オーランティアカス由来のオーラシアニンの鎖B(配列番号:16)が例として参照される(NCBIタンパク質データバンク・アクセション番号1QHQA)。
【0097】
ステラシアニン
ステラシアニンは、フィトシアニン、植物クプレドキシンの遍在性のファミリーのサブクラスである。ステラシアニンの典型的な配列は、配列番号:14として本願に含まれる。ウメシアニン、セイヨウワサビの根由来のステラシアニン(Koch et al., J. Am. Chem. Soc. 127:158−166 (2005))およびキュウリ・ステラシアニン (Hart el al., Protein Science 5:2175−2183 (1996))の結晶構造も既知である。タンパク質はその他のフィトシアニンに類似する全体的折りたたみを有する。エフリンB2タンパク質の外部ドメイン三次構造は、ステラシアニンとの重要な類似点を有する(Toth et al., developmental Cell 1:83−92 (2001))。ステラシアニンの典型的なアミノ酸配列は、全米バイオテクノロジー情報センターのタンパク質データバンクにて、アクセション番号1JERとして見つかる(配列番号:14)。
【0098】
キュウリ基本タンパク質
キュウリ基本タンパク質由来の典型的なアミノ酸配列は、配列番号:17として本願に含まれる。キュウリ基本タンパク質(CBP)(タイプ1ブルー銅タンパク質)の結晶構造は、1.8Å分解能に改良された。分子は、グリークキーベータ−バレル構造を有する点で、その他のブルー銅タンパク質と類似するが、バレルは一方で開いており、「ベータ−サンドイッチ」または「ベータ−タコス(beta−taco)」として記述される(Guss et al., J. Mol. Biol. 262:686−705 (1996))。エフリンB2タンパク質の外部ドメイン三次構造は、キュウリ基本タンパク質との高い類似性(50α炭素についてrms偏向1.5Å)を有する(Toth et al., developmental Cell 1:83−92 (2001))。
【0099】
Cu原子は、CuN(His39)=1.93A、Cu−S(Cys79)=2.16A、Cu−N(His84)=1.95A、Cu−S(Met89)=2.61Aの結合距離で、通常のブルー銅NNSS’配位を有する。ジスルフィドリンク(Cys52)―S−S―(Cys85)は、分子構造を安定化する重要な役割を果たすようである。ポリペプチドの折りたたみは、ブルー銅タンパク質(フィトシアニン)、並びに非金属タンパク質、ブタクサ・アレルゲンRa3のサブファミリーに典型的であり、CBPは高い程度の配列同一性を有する。フィトシアニンとして現在識別可能なタンパク質は、CBP、ステラシアニン、マビシアニン、ウメシアニン、キュウリ皮クプレドキシン、エンドウ鞘における推定ブルー銅タンパク質およびアラビドプシス・タリアナ由来のブルー銅タンパク質である。CBPおよびエンドウ鞘タンパク質以外のすべてにおいて、ブルー銅部位にて通常見出される軸性(axial)メチオニンリガンドは、グルタミンと取り替えられる。キュウリ基本タンパク質のための典型的な配列は、NCBIタンパク質データバンクにてアクセション番号2CBPとして見つかる(配列番号:17)。
【0100】
使用の方法
本発明は、さもなければ健康な患者における新規の悪性腫瘍を予防する方法であって、前記患者に、上記のようなクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体である少なくとも1つのペプチドを投与することを含む方法を提供する。化学予防的療法は、癌発生(cancergenesis)に関する経過の中断が癌の発生を予防するだろうという仮定に基づく。クプレドキシン シュードモナス・アエルギノサ アズリンおよび切断型アズリンペプチドp28は、現在、前癌病変の初期形成を阻害することまたは既存の前癌病変を殺すもしくはその増殖を阻害することの何れかによって前癌病変の発生を阻害することが知られている。それ故、前癌病変の発生を阻害する能力を有した、上記のようなクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、さもなければ健康な患者における化学予防的療法にて使用されてよいと考えられる。そのようなさもなければ健康な患者は、一定の実施態様において、一般集団よりも癌の発生のリスクが高い患者である。本発明の組成物による治療によって予防してよい癌は、メラノーマ、乳癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、星細胞腫、肺癌、結腸直腸癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、皮膚癌および子宮頚癌を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、患者はヒトであってよい。その他の実施態様において、患者はヒトではない。
【0101】
本発明は、さらに、発癌物質による誘導の前または後に、哺乳類細胞を、クプレドキシンまたはその変種、誘導体または構造的等価体を含む組成物と接触させること、および細胞の発生を観察することを含む、癌の発生を研究する方法を含む。いくつかの実施態様において、細胞はマウス乳腺細胞であり、他方、それらは、哺乳動物において悪性となる可能性あるその他の細胞である。
【0102】
一般集団よりも癌の発生のリスクが高い患者は、リスクの高い特徴を有した患者、前癌病変を有した患者、および初期の癌が治癒したまたは最終的に前癌病変が治療された患者であってよい。一般的に、Tsaoらの文献(CA Cancer J Clin 54:150−180 (2004))が参照される。リスクの高い特徴は、患者の行動的、遺伝的、環境的または生理学的要因であってよい。患者に様々な形態の癌の傾向を与える行動的要因は、喫煙、食事、アルコール消費、ホルモン補充療法、より高い肥満度指数、未経産、ビンロウ(betal nut)の使用、頻繁な口内洗浄液の使用、ヒトパピローマウイルスへの曝露、幼年期のおよび慢性的な日光曝露、若齢期の最初の性交、複数のセックスパートナーおよび経口避妊薬の使用を含むが、これらに限定されない。患者に様々な形態の癌の傾向を与える遺伝的因子は、癌の家系、BRCA1およびBRCA2の遺伝子キャリアの状態、以前の乳房腫瘍形成の病歴、家族性大腸腺腫症(FAP)、遺伝的非ポリープ性結腸直腸癌(HNPCC)、赤毛または金髪および肌の白い表現型、色素性乾皮症および民族性を含むが、これらに限定されない。患者に様々な形態の癌の傾向を与える環境的特徴は、ラドン、多環式芳香族炭化水素、ニッケル、クロム酸塩、ヒ素、石綿、クロロメチルエーテル、ベンゾ[a]ピレン、放射線およびゴム由来の芳香族アミンへの曝露、または、塗料職業曝露を含むがこれらに限定されない。患者に様々な形態の癌の傾向を与えるその他の様々な要因は、気流閉塞を伴う慢性閉塞性肺疾患、慢性膀胱感染症、住血吸虫症、老齢および免疫無防備状態を含むが、これらに限定されない。
【0103】
さらに、癌の発生のより高いリスクを有する患者は、ある種類の癌が発生した、様々なリスクモデルの使用によって決定してよい。例えば、乳癌の患者は、とりわけ、ガイル(Gail)リスクモデル、オルテ・クラウス(orthe Claus)モデルを使用して決定してよい。文献が参照される(Gail et al., J Natl Cancer Inst 81:1879−1886 (1989); Cuzick, Breast 12:405−411 (2003); Huang et al., Am J Epidemiol 151:703−714 (2000))。
【0104】
前癌病変を有する患者は、一般集団よりも癌の発生のリスクが高い。患者における前癌病変の存在は、当該分野にて周知の多くの方法によって決定してよい。前癌病変から生じる中間マーカーまたはバイオマーカーは、患者が前癌病変を有するかどうかを判断するために患者にて測定してよい。染色体異常は、腫瘍細胞にて、および、大多数の癌患者において、隣接する組織学的に正常な組織において生じる。染色体異常の進行は、前癌病変から侵襲性癌までの表現型の進行と平行する(Thiberville et al., Cancer Res. 55:5133−5139 (1995))。それ故、癌に関連した染色体異常は、患者における前癌病変を発見するための中間マーカーとして使用してよい。癌に関係する共通した染色体異常は、3p(FHIT等)、9p(p16INK4、p15INK4Bおよびp19ARFについて9p21)、17p(p53遺伝子について17p13等)および13q(網膜芽細胞腫遺伝子Rbについて13q14等)といった、がん抑制遺伝子における対立形質の欠失または異型接合性の減少(LOH)を含むが、これらに限定されない。3pおよび9pにおける欠失は、喫煙および肺癌の初期段階に関係する(Mao et al., J. Natl. Cancer Inst. 89:857−862 (1997))。3p、5q、8p、17pおよび18qに影響する欠失は、上皮癌における共通の変化である。Tsaoらの論文(CA Clin. Cancer J. Clin. 54:153 (2004))が一般に参照される。癌に関連したその他の染色体突然変異は、癌遺伝子を活性化するものを含む。その存在が中間マーカーとして使用されてよい癌遺伝子は、Ras、c−mycおよび上皮成長因子、erb−B2およびサイクリンE、D1およびB1を含むが、これらに限定されない(一般に同著154参照)。
【0105】
その他の中間マーカーは、前癌細胞および癌細胞にてアップレギュレートされる遺伝子の生成物であってよい。前癌細胞にてアップレギュレートされてよい遺伝子は、シクロオキシゲナーゼCOX−1およびCOX−2、テロメラーゼを含むが、これらに限定されない。癌細胞およびいくつかの前癌細胞のその他のバイオマーカーは、p53、上皮成長因子受容体(GFR)、増殖細胞核抗原(PCNA)、RAS、COX−2、Ki−67 DNA異数性、DNAポリメラーゼ−α、ER、Her2neu、e−カドヘリン、RARβ、hTERT、p16INK4a、FHIT(3p14)、Bcl−2、VEGF−R HPV伝染、LOH9p21、LOH17p、p−AKT、hnRNP A2/B1、RAF、Myc、c−KIT、サイクリンD1、EおよびB1、IGF1、bcl−2、p16、LOH3p21.3、LOH3p25、LOH9p21、LOH17p13、LOH13q、LOH8p、hMSH2、APC、DCC、DPC4、JV18、BAX、PSA、GSTP1、NF−kB、AP1、D3S2、HPV伝染、LOH3p14、LOH4q、LOH5p、膀胱腫瘍抗原(BTA)、BTK TRAK(Alidex, Inc., Redmond WA)、尿路マトリックスタンパク質22、フィブリン分解産物、オートドリン(autodrine)運動性因子受容体、BCLA−4、サイトケラチン20、ヒアルロン酸、CYFRA21−1、BCA、ベータ−ヒト絨毛性ゴナドトロピン、および組織ポリペプチド抗原(TPA)を含むが、これらに限定されない(一般に同著155−157参照)。
【0106】
初期の癌が治癒した、または、最終的に前癌病変が治療された患者はまた、一般集団よりも癌を発生するリスクが高い。第2の一次腫瘍は、癌の病歴のある人における新規の原発性癌を指す。第2の一次腫瘍は頭頚部癌における死の主要原因である(同著150)。第2の一次腫瘍は、転移とは異なり、前者は新たに生じ、一方、後者は既存の腫瘍から生じる。乳癌、頭頚部癌、肺癌および皮膚がんの癌または前癌病変が治癒した患者は、第2の一次腫瘍が発生する特に高いリスクを有する。
【0107】
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む組成物は、当該分野にて周知であるような多くの経路および多くの投与計画によって患者に投与することができる。特定の実施態様において、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、静脈内に、筋肉内に、皮下に、局所的に、経口的にまたは吸入によって投与される。組成物は、癌を発生する高いリスクを有する患者における部位にペプチドを送達する任意の手段によって、患者に投与されてよい。特定の実施態様において、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、静脈内に投与される。
【0108】
一実施態様において、方法は、1単位用量のクプレドキシンまたはクプレドキシンの変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む組成物および1単位用量の別の化学予防薬を含む組成物の患者に対する共投与であって、ほぼ同時に投与される、または、他方の投与後所定の時間内での投与、例えば、他方の薬剤の投与後約1分から約60分後もしくは他方の薬剤の投与後約1分から約60分後に投与される、共投与を含んでよい。関心の対象となる化学予防薬は、タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬、例えばレトロゾールおよびアナストロゾール(Arimidex(登録商標))、レチノイド、例えばN−[4−ヒドロキシフェニル]レチナミド(retinamide)(4−HPR、フェンレチニド)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えばアスピリンおよびスリンダク、セレコキシブ(celecoxib)(COX−2阻害薬)、デフルオロメチルオルニチン(defluoromethylornithing)(DFMO)、ウルソデオキシコール酸、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A還元酵素阻害剤、EKI−785(EGFR阻害剤)、ベバシズマブ(bevacizumab)(VEGF受容体の抗体)、セツキシマブ(EGFRの抗体)、レチノール、例えばビタミンA、ベータカロチンおよび13−シスレチノイン酸、イソトレチノインおよびパルミチン酸レチノール(retinyl palmitate)、α−トコフェロール、インターフェロン、腫瘍崩壊性アデノウイルスdl1520(ONYX−015)、ゲフィニチブ、エトレチネート、フィナステリド、インドール−3−カルビノール、レスベラトロール、クロロゲン酸、ラロキシフェンおよびオルチプラズ(oltipraz)を含むが、これらに限定されない。
【0109】
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む医薬組成物
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む医薬組成物は、例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、ドラジェ形成、乳化、カプセル化、封入(entrapping)または凍結乾燥工程による、任意の従来の方法で製造することができる。実質的に純粋なまたは医薬的等級のクプレドキシンまたはその変種、誘導体および構造的等価体は、当該分野にて周知の医薬的に許容可能な担体と容易に組み合わせることができる。そのような担体は、製剤が、錠剤、ピル、ドラジェ、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤等として処方されることを可能にする。適切な担体または賦形剤はまた、例えば、充填剤およびセルロース製剤を含むことができる。その他の賦形剤は、例えば、香料、着色剤、粘着防止剤、増粘剤およびその他の許容可能な添加物、アジュバントまたは結合剤を含むことができる。一定の実施態様において、医薬製剤は、防腐剤を実質的に含まない。一定の実施態様において、医薬製剤は、少なくとも1つの防腐剤を含んでよい。医薬剤形における一般的な方法論は、Anselらによる文献(Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(Lippencott Williams & Wilkins, Baltimore MD (1999)))に見ることができる。
【0110】
本発明にて使用されるクプレドキシンまたはクプレドキシンの変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む組成物は、注射(例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内等)、吸入、局所投与、坐剤、経皮パッチの使用または経口的方法を含む、様々な方法にて投与してよい。薬剤送達システムについての一般的情報は、Anselらの文献(同著)に見ることができる。一定の実施態様において、クプレドキシンまたはクプレドキシンの変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む組成物は、特に皮下および静脈内注射のために、処方でき、および、注入物質(injectibles)として直接使用できる。注射可能な製剤は、特に、化学予防的療法に適した患者を治療するために有利に使用することができる。クプレドキシンまたはクプレドキシンの変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む組成物はまた、ポリプロピレングリコールまたは同様のコーティング剤といった保護剤と混合した後、経口摂取することができる。
【0111】
投与が注射による場合、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、水溶液、特に、ハンクス液、リンガー溶液または生理的食塩緩衝液といった生理学的に適合性の緩衝液中にて、処方されてよい。その溶液は、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤といった処方化剤を含んでよい。あるいは、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、使用前に、適切なビヒクル(例えば無菌的なパイロジェンフリー水)で構成された粉末の形態であってよい。一定の実施態様において、医薬組成物は、アジュバント、またはペプチドによって刺激された免疫反応を増強するために添加される任意のその他の物質を含まない。一定の実施態様において、医薬組成物は、ペプチドに対する免疫反応を阻害する物質を含む。
【0112】
投与が静脈内液(intravenous fluids)による場合、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を投与する使用のための静脈内液は、クリスタロイドまたはコロイドを含んでよい。本願で使用されるクリスタロイドは、ミネラル塩またはその他の水溶性分子の水溶液である。本願で使用されるコロイドは、ゼラチンといったより大きな不溶性分子を含む。静脈内液は無菌的であってよい。
【0113】
静脈内投与に使用されてよいクリスタロイド液は、表2に示されるように、生理食塩液(0.9%濃度の塩化ナトリウム溶液)、リンガーラクテート(Ringer’s lactate)またはリンガー溶液、および5%ブドウ糖水溶液(しばしばD5Wと呼ばれる)を含むが、これらに限定されない。
【表2】

【0114】
投与が吸入による場合、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、適切な噴霧剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、二酸化炭素またはその他の適切なガス)を使用した加圧パックまたは噴霧器からエアロゾルスプレーの形態で送達されてよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を送達するためのバルブの提供により決定されてよい。吸入器または通気器での使用のための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、タンパク質の粉末混合物およびラクトースまたはデンプンといった適切な粉末ベースを含んで処方されてよい。
【0115】
投与が局所投与による場合、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、当該分野にて周知のような、溶液、ゲル、軟膏、クリーム、ゼリー、懸濁剤等として処方されてよい。一定の実施態様において、投与は経皮パッチによって行われる。投与が坐剤(例えば直腸経路または膣経路)による場合、クプレドキシンまたはその変種および誘導体組成物は、また、従来の坐剤ベースを含む組成物に処方されてよい。
【0116】
投与が経口の場合、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体と、当該分野にて周知の医薬的に許容可能な担体とを組み合わせることにより容易に処方することができる。マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム等といった固体の担体が使用されてよい;そのような担体は、クプレドキシンおよびその変種、誘導体または構造的等価体が治療される対象による経口摂取のための、錠剤、ピル、ドラジェ、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤等として処方されることを可能にする。例えば粉末、カプセルおよび錠剤といった経口固体製剤のための適切な賦形剤は、糖、セルロース製剤、顆粒化剤および結合剤といった充填剤を含む。
【0117】
当該分野において周知のその他の好都合な担体は、さらに、細菌の莢膜多糖、デキストランまたは遺伝子的に操作されたベクターといった多価の担体を含む。さらに、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む徐放性製剤は、長期間にわたるクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の放出を可能にし、徐放性製剤でなければ、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、治療効果の誘発または増強の前に、対象の体から除去され、および/または、プロテアーゼおよび単純な加水分解によって分解されるだろう。
【0118】
本発明のペプチドの血流における半減期は、当該分野にて周知のいくつかの方法によって延長または最適化できる。本発明のペプチド変種は、哺乳類細胞、組織および動物における前癌病変の発生を阻害するペプチドの能力を保持しつつ、それらの安定性、特異的活性、血流における寿命を増大してよく、および/または、クプレドキシンの免疫原性を減少させてよい様々な変種を含むが、これらに限定されない。そのような変種は、ペプチドの加水分解を減少させるもの、ペプチドの脱アミドを減少させるもの、酸化を減少させるもの、免疫原性を減少させるもの、ペプチドの構造的安定性を増加させるもの、またはペプチドのサイズを増加させるものを含むが、これらに限定されない。そのようなペプチドは、また、環状化ペプチド(Monk et al., BioDrugs 19(4):261−78, (2005); DeFreest et al., J. Pept. Res. 63(5):409−19 (2004)参照)、D,L−ペプチド(ジアステレオマー)、(Futaki et al., J. Biol. Chem.Feb 23;276(8):5836−40 (2001); Papo et al., Cancer Res. 64(16):5779−86 (2004); Miller et al., Biochem. Pharmacol. 36(1):169−76, (1987))、異常なアミノ酸を含むペプチド(Lee et al., J. Pept. Res. 63(2):69−84 (2004)参照)、N−およびC−端末修飾(Labrie et al., Clin. Invest. Med. 13(5):275−8, (1990)参照)、炭化水素安定化(Schafmeister et al., J. Am. Chem. Soc. 122:5891−5892 (2000); Walenski et al., Science 305:1466−1470 (2004)参照)、およびPEG化を含む。
【0119】
様々な実施態様において、医薬組成物は、担体および賦形剤(緩衝剤、炭水化物、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンといったアミノ酸、酸化防止剤、静菌剤、キレート試薬、懸濁化剤、増粘剤および/または防腐剤を含むが、これらに限定されない)、水、油、食塩水、水性デキストロースおよびグリセリン溶液、予想される生理学的症状にて必要となるその他の医薬的に許容可能な補助的物質、例えば緩衝剤、張度調節剤、湿潤剤等を含む。当業者に既知の任意の適切な担体が、本発明の組成物の投与のために使用されてよい一方で、担体のタイプは投与の様式に依存して変化するだろう。化合物は、また、周知の技術を使用して、リポソーム内に封入されてよい。生物分解性ミクロスフェアはまた、本発明の医薬組成物のための担体として使用してよい。適切な生物分解性ミクロスフェアは、例えば米国特許第4,897,268号;第5,075,109号;第5,928,647号;第5,811,128号;第5,820,883号;第5,853,763号;第5,814,344号および第5,942,252号に開示される。
【0120】
医薬組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌されてよく、または、ろ過滅菌されてよい。得られた水溶液は、そのままの使用するために包装されてよく、または、凍結乾燥されてよく、当該凍結乾燥製剤は、投与に先立ち無菌溶液と組み合わされる。
【0121】
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の投与
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、医薬組成物として処方し投与することができ、任意の適切な経路により、例えば、経口、経頬(buccal)、吸入、舌下、直腸、膣、経尿道、経鼻、局所、経皮的、すなわち経皮の投与により、または、非経口投与(静脈内、筋肉内、皮下および冠状動脈内)または硝子体投与により投与できる。その医薬製剤は、その意図された目的を達成するのに有効な任意の量で投与することができる。より具体的には、組成物は治療的有効量で投与される。特定の実施態様において、治療的有効量は、一般に約0.01−20mg/日/kg体重からである。
【0122】
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む化合物は、単独またはその他の活性ある薬剤との組み合わせによって、癌の予防に有用である。適した用量は、当然、例えば、使用するクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の化合物、宿主、投与の様式ならびに潜在的な癌の性質および重症度に依存して変化するだろう。しかしながら、一般に、ヒトにおける十分な結果は、約0.01−20mg/kg体重からの1日量にて得られることが示される。ヒトにおける示される1日量は、例えば、1日量で、1週量で、1月量で、および/または、連続的用量で、好都合に投与されるクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の約0.7mgから約1400mgの化合物の範囲である。1日量は、1日当たり1から12回まで個々の用量とすることができる。1日おき、3日目おき、4日目おき、5日目おき、6日目おき、週ごと、および、同様に31日以上まで日数を増大させて投与することができる。あるいは投与は、パッチ、静脈内投与等を使用した連続的なものとできる。
【0123】
厳密な製剤、投与経路および用量は、患者の症状を考慮して主治医によって決定される。投与量および間隔は、治療効果を維持するのに十分な、活性のあるクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体の血漿濃度を提供するために個々に調節できる。一般に、所望のクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、意図された投与経路および標準的な製薬の慣習に関して選択された医薬的担体との混合で投与される。
【0124】
一側面において、クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、ポリペプチドがインサイチューで生成されるDNAとして送達される。一実施態様において、DNAは、例えばUlmerら(Science 259:1745−1749 (1993))にて記述され、Cohen(Science 259:1691−1692 (1993))が概説するように、「ネイキッド(naked)」である。ネイキッドDNAの取り込みは、担体(例えば生物分解性ビーズ)をDNAでコーティングし、細胞に効率よく輸送することにより増大させてよい。そのような方法において、DNAは、当該分野にて既知の様々な送達システム(核酸発現システム、細菌およびウイルスの発現システムを含む)の何れかの中に存在してよい。そのような発現システムにDNAを組み入れるための技術は当該分野にて周知である。例えば、WO90/11092、WO93/24640、WO93/17706および米国特許第5,736,524号が参照される。
【0125】
生物から生物へ遺伝物質を移動させるために使用されるベクターは、2つの一般的なクラスに分類することができる:クローニングベクターは、適した宿主細胞における増殖にとって不可欠であり、外来性DNAが挿入可能な領域を有する複製プラスミドまたはファージである;外来性DNAは、それがあたかもベクターの構成成分かのように、複製され増幅する。発現ベクター(例えば、プラスミド、酵母または動物ウィルスゲノム)は、クプレドキシンのDNAのような外来性DNAを転写および翻訳するために、宿主細胞または組織へ外来性遺伝物質を導入するために使用される。発現ベクターにおいて、導入されたDNAは、挿入されたDNAを高度に転写するよう宿主細胞に対してシグナルを送るプロモーターといった要素に実施可能なようにつなげられる。特定の因子に応じた遺伝子転写を制御する誘導性プロモーターといった一定のプロモーターは非常に有用である。クプレドキシンおよびその変種および誘導体のポリヌクレオチドを誘導性プロモーターに実施可能につなぐことで、特定の因子に応じてクプレドキシンおよびその変種および誘導体の発現を制御できる。古典的な誘導可能なプロモーターの例は、α−インターフェロン、ヒートショック、重金属イオンおよびステロイド、例えばグルココルチコイド(Kaufman, Methods Enzymol. 185:487−511 (1990))およびテトラサイクリンに反応性のあるものを含む。その他の望ましい誘導可能なプロモーターは、構築物が導入される細胞にとって内在性でないが、導入剤を外的に供給した場合にその細胞にて応答を示すものを含む。一般に、有用な発現ベクターは多くの場合プラスミドである。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルス)といったその他の形態の発現ベクターが意図される。
【0126】
ベクターの選択は、使用される生物または細胞およびベクターの所望の成り行きによって決定される。一般に、ベクターは、シグナル配列、複製起点、マーカー遺伝子、ポリリンカー部位、エンハンサー要素、プロモーターおよび転写終始配列を含む。
【0127】
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含むキット
一側面において、本発明は、パッケージまたは容器にて、下記の1以上を含む投与計画またはキットを提供する:(1)少なくとも1つのクプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体を含む医薬的に活性のある組成物;(2)付加的な化学予防薬、(3)注射器、ネビュライザーといった、生物学的活性組成物を患者に投与するための装置。
【0128】
キットが供給される場合、組成物の異なる構成成分は、個別の容器にパッケージされてよく、ふさわしい場合は、使用直前に混合されてよい。構成成分のそのようなパッケージングは、個々に、活性構成成分の機能を失うことのない長期的保存を可能としてよい。
【0129】
キットに含まれる試薬は、異なる構成成分の寿命が維持されおよび容器の材料による吸着または変質を受けない任意の種類の容器にて供給することができる。例えば、密閉ガラスアンプルは、凍結乾燥されたクプレドキシンおよびその変種、誘導体および構造的等価体を含んでよく、または、窒素のような中性で非反応性のガスの下でパッケージにされた緩衝剤を含んでよい。アンプルは、任意の適切な材料、例えばガラス、有機ポリマー、例えばポリカーボネート、ポリスチレン等、セラミック、金属または同様の試薬の維持のために典型的に使用されるその他の材料から成ってよい。適切な容器のその他の例は、アンプルと同様の物質から作られていてよい単純なボトル、および金属箔(例えばアルミニウムまたは合金)で裏打ちされた内部を含んでよい包み(envelopes)を含む。その他の容器は、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、注射器等を含む。容器は、皮下注射針によって貫通することができる栓を有するボトルといった、無菌的なアクセスポートを有してよい。その他の容器は、除去することで構成成分の混合を可能にする、容易に除去可能な膜によって分離される2つの区画を有してよい。除去可能な膜は、ガラス、プラスチック、ゴム等であってよい。
【0130】
キットは、指示材料とともに提供されてもよい。指示は、紙またはその他の基板上に印刷されてよく、および/または電子的に読み取り可能な媒体(例えばフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープ、フラッシュメモリー装置等)として提供されてよい。詳細な指示は、キットに物理的に関連付けられてよく;あるいは、ユーザーは、キットの製造者または販売者によって指定されるインターネットウェブサイトに誘導されてよく、または、電子メールとして提供されてよい。
【0131】
クプレドキシンおよびその変種、誘導体および構造的等価体の修飾
クプレドキシンまたはその変種、誘導体もしくは構造的等価体は、化学的に修飾されまたは遺伝子的に修飾され、上述したような変種および誘導体が製造されてよい。そのような変種および誘導体は、標準的技術によって合成されてよい。
【0132】
クプレドキシンの自然に発生する対立形質の変種に加えて、変異によってクプレドキシンをコードする配列に変化を導入することができ、それは、コードされたクプレドキシンのアミノ酸配列において、前癌病変の発生を阻害するクプレドキシンの能力を著しく変更させない変化をもたらす。「非必須」アミノ酸残基は、薬理活性を変更することなく、クプレドキシンの野生型配列から変更することができる残基であり、「必須」アミノ酸残基は、そのような薬理活性に必要である。例えば、クプレドキシン中に保存されるアミノ酸残基は、特に変更することができないと予想され、すなわち「必須」である。
【0133】
ポリペプチドの薬理活性を変更しない保存的置換を行うことができるアミノ酸は、当該分野において周知である。有用な保存的置換は表3「好ましい置換」に示される。1つのクラスのアミノ酸が同種の別のアミノ酸と置換される保存的置換は、当該置換が実質的に化合物の薬理活性を変更しない限り、本願発明の範囲内である。
【表3】

【0134】
(1)ポリペプチド骨格の構造、例えば、β−シートまたはα−ヘリカル構造(2)チャージ、(3)疎水性、または(4)標的部位の側鎖の容積に影響を与える非保存的置換は、薬理活性を改変し得る。残基は、表4に示されるような共通の側鎖特性に基づいてグループに分類される。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーのその他のクラスへの変更をもたらす。置換は、保存的置換部位またはより明確には非保存的部位に導入してよい。
【表4】

【0135】
変種ポリペプチドは、オリゴヌクレオチドを介した(部位特異的)突然変異誘発、アラニンスキャニン、およびPCR突然変異誘発といった当該分野で既知の方法を用いて作製することができる。部位特異的突然変異誘発(Carter, Biochem J. 237:1−7 (1986); Zoller and Smith, Methods Enzymol. 154:329−350 (1987))、カセット式変異誘発、制限選択突然変異誘発(Wells et al., Gene 34:315−323 (1985))またはその他の既知の技術が、クプレドキシン変種DNAの製造のために、クローン化DNAにて行なうことができる。
【0136】
クプレドキシンの既知の変異もまた、本発明の方法にて使用される変種クプレドキシンを作製するために使用できる。例えば、アズリンのC112DおよびM44KM64Eの突然変異体は、本来のアズリンとは異なる細胞毒素および増殖抑制活性を有することが知られており、そのような変更された活性は、本発明の治療方法に有用であり得る。
【0137】
本発明のより完全な理解は、次の特定の例を参照することによって得ることができる。その例は、もっぱら例証の目的のために記述され、本発明の範囲を制限するようには意図されない。状況が好都合であることを示唆または示す場合、形式の変化および等価物への置換が考慮される。特定の用語がここに使用されたが、そのような用語は制限の目的ではなく記述的意味に意図される。上文に述べられるような本発明の修飾および変化は、その精神および範囲から外れることなく行うことができる。
【0138】
実施例
例1.MMOCモデルにおけるDMBA誘導性乳房病変に対するペプチドP−28の効果
マウス乳腺臓器培養(MMOC)モデルは、DMBAに応じた乳房胞巣状病変(MAL)または乳管病変(MDL)の発生に対する、潜在的な化学予防的薬剤の効果の評価を可能にする。適したインキュベーション条件下のDMBAは、培地におけるホルモン環境に基づいたMALまたはMDLのいずれかを形成する(Hawthorne et al., Pharmaceutical Biology 40: 70−74 (2002); Mehta et al., J. Natl. Cancer Inst. 93: 1103−1106 (2001))。培養物におけるエストロゲンおよびプロゲステロン処理した腺は、管病変を発生する一方で、アルドステロンおよびヒドロコーチゾン処理した腺は、エストロゲンおよびプロゲステロン非依存性の胞巣状病変を形成する。発癌物質または化学予防的薬剤に暴露されない乳腺は、成長促進ホルモンの非存在下で構造的退化を起こし、一方、3から4日間の24時間のDMBAによる処理は、ホルモンの喪失に起因する構造の退化を予防する。これは、腺が通常のホルモン応答性を失い、発生の経過を変更したことが原因であると仮定される。同系ハツカネズミへの形質転換細胞の移植による乳腺癌の形成は、これらの抑制されない領域の前癌新生物発生前の性質を証明する。
【0139】
乳腺の胸部ペアを各Balb/cマウスから無菌的に切除し、腺をいくつかのグループに分類した。p28の効果は、培地における4つの異なる稀釈度にて評価した。試験薬剤を与えず発癌物質にて処理した腺は、化学予防的薬剤がない状態におけるパーセント発生率を決定する手段として役立った。付加的なコントロールは、化学的予防用のポジティブコントロールとして含めた。アズリンは50μg/ml濃度で培地に含めた。胞巣状病変(MAL)のために、染色された腺は、病変の発生率のために評価された(所与の治療群における腺の総数と比較した、何れかの病変を含む腺)。管病変(MDL)のために、同様のプロトコールを適用したが、下に示されるように、方法において、ホルモンの組み合わせは、胞巣状および管病変にて異なる。腺はホルマリン中に固定され、その後、組織病理学のために処理された。切片はエオシンおよびヘマトキシリン(hematoxelene)で染色し、顕微鏡で評価した。ここで、コントロールと治療群との間の管病変の多様性が比較される。
【0140】
[臓器培養方法] 研究に使用した実験動物は、Charles River(Wilmington, MA)から入手される、3から4週齢の、若く、処女のBALB/cのメスのマウスであった。マウスは、1μgのエストラジオール−17β+1mgのプロゲステロンを、皮下注射にて9日間毎日治療した。ステロイドで前処理されない動物が、インビトロでホルモンに応答しない限り、この治療は必要条件である。全体的な培養方法の詳細は、文献に記載される(Jang et al., Science 275:218−220 (1997); Mehta, Eu. J. Cancer 36:1275−1282 (2000); Mehta et al., J. Natl. Cancer Inst. 89:212−219 (1997); Mehta et al., J. Natl. Cancer Inst. 93:1103−1106 (2001))。
【0141】
簡潔に、動物は頚部の脱臼によって屠殺し、胸部ペアの乳腺を切除してシルクラフト(silk rafts)に取り出し、および無血清Waymouth MB752/1培地(5−腺/5ml/ディッシュ)にて10日間インキュベートした。培地は、乳房胞巣状病変(MAL)を誘導するプロトコールのために、培地1mlあたり、グルタミン、抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン100ユニット/ml培地)、増殖−促進するホルモン、5μgインスリン(I)、5μgプロラクチン(P)、1μgアルドステロン(A)、1μgヒドロコーチゾン(H)を添加した。管病変(MDL)の誘導のために、培地は、5μg/ml、5μg/mlのP、0.001μg/mlエストラジオール17βおよび1μg/mlプロゲステロン(Pg)を含んだ(Mehta et al., J. Natl. Cancer Inst. 93:1103−1106 (2001))。発癌物質、DMBA(2μg/ml)は、3日目から4日目の間に培地に添加された。本研究のために、DMBAは、終濃度4mg/mlでDMSOに溶解し、50μgのIを100mlの培地に添加し、終濃度2μg/mlとした。コントロールディッシュはビヒクルとしてDMSOを含んだ。
【0142】
4日目において、新鮮な培地で腺をすすぎ、DMBAを含まない新鮮な培地を含む新たなディッシュに移すことで、DMBAを培地から除去した。10日間のインキュベーションの後、腺はI(5μg/ml)のみを含む培地にて、さらに14日間維持した。全培養期間中、腺は、95%のOおよび5%のCO環境下の37℃にて維持された。化学予防的薬剤は、増殖−促進段階の最初の10日間、培地に含めた。試験ペプチドp28は、12.5μg/mlから100μg/mlまでに及ぶ4つの濃度で評価した。アズリンは、培地にて50μg/mlで評価した。ペプチドは滅菌水に溶解し、使用に先立ってろ過した。培地は1週当たり3回変更した(月曜、水曜および金曜)。暴露の終わりに、腺はホルマリンで固定した。
【0143】
結果はカイ2乗分析およびフィッシャーの直接法によって分析した。
【0144】
[MALの形態計測的分析]MALの試験について、腺はミョウバンカーミン(alum carmine)にて染色し、病変の存在を評価した。腺は、乳房病変の存在または非存在、腺あたりの病変の重症度および薬剤の毒性について採点した。キシレンに貯蔵した腺は、解剖顕微鏡下、各腺の乳房病変の存在または非存在、発生率および重症度を評価した。乳腺は、乳房病変について陽性または陰性として採点し、パーセント発生率は、病変を示す腺とその群中の腺の総数との比として決定した。化学予防的薬剤の治療による、管の拡大または乳房の構造の崩壊は、毒作用と考えた。データは発生率の統計分析に供し、潜在的な化学予防的薬剤の有効性を決定した。
【0145】
図1Aは、DMBAで処理した腺における胞巣状病変の代表的な写真、および化学予防的薬剤と共にDMBAで処理した腺とのその比較を示す。胞巣状病変の発生に対するp28の効果は、図1B−1Gに示され、図2に要約される。ペプチドp28は、25μg/mlの濃度で、MAL形成を67%阻害した。さらに100μg/mlまで濃度をさらに増加させても、ペプチドの効果は増強しなかった。ペプチドとアズリンとの比較から、p28がMAL発生についてアズリンと同様に有効であることが示唆された。50μg/ml濃度のアズリンは67%の阻害をもたらした。統計分析により、p28の効果は、DMBAコントロールと比較して、12.5μg/mlを超える濃度で統計的に有意だったことが示された(p<0.01、フィッシャーの直接法;Chi正方形分析)。
【0146】
[MDLの組織病理学的評価]MDLのために、腺を組織病理学的評価に供した。腺は、縦に切断して5ミクロンの切片とし、エオシンヘマトキシリンで染色した。各腺の縦切片は、いくつかの領域に分類し、各々の領域を管病変について評価した(Mehta et al., J. Natl. Cancer Inst. 93:1103−1106 (2001))。簡潔に、腺全体が視野の下で評価される;より大きな腺と比較して、より小さな腺はより少数の全体領域を有するだろう。したがって、各々の腺は、不定数の領域を有するだろう。しばしば、管を通った切片の数もまた、腺ごとに非常に異なる。これは、群ごとの不定数をもたらす。管の過形成または異型性を含む領域が決定され、各腺のために評価された領域の総数と比較された。過形成または異型性と著しく閉塞された腺との間で区別はなされない。何らかのこれらの組織学的パターンを含む何れかの領域は、病変について陽性であると考えた。治療群は重症度についてコントロールと比較し、パーセント阻害を計算した。
【0147】
図3は代表的な管病変を示す。DMBAは、過形成、異型性から、管の完全な閉塞にまで異なる管病変を誘導する。管病変/管の切片の総数の比率を決定した。再び、12.5μg/ml濃度のp28は、わずか15%のMDL形成しか抑制しなかった。しかしながら、25μg/mlでは、50μg/mlアズリンで観察される場合に匹敵する病変の有意な阻害があった。12.5μg/mlを超える濃度でのp28の効果は、統計的に有意だった(p<0.01、フィッシャーの直接法)。これらの結果は図4に要約される。しばしば、化学予防的薬剤の効果は、MALとMDLとの間で区別することができる。例えば、タモキシフェンは、MALではなくMDLの発生を阻害した。アズリンおよびp28が、エストロゲンおよびプロゲステロンに依存的な管病変ならびに非依存的な胞巣状病変の両方を阻害したことに注目することは興味深い。
【0148】
[0001]この例は、p28およびアズリンの両方が乳房組織における前癌性の病変の発生を予防できることを示す。したがって、p28およびアズリンは、哺乳類患者において化学予防的薬剤として使用されてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クプレドキシンの変種、誘導体または構造的等価体であり、哺乳類組織において前癌病変の発生を阻害することができる単離されたペプチド。
【請求項2】
前記クプレドキシンが、アズリン、シュードアズリン、プラストシアニン、ラスチシアニン、Laz、オーラシアニン、ステラシアニンおよびキュウリ基本タンパク質から成る群から選択される、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項3】
前記クプレドキシンがアズリンである、請求項2に記載の単離されたペプチド。
【請求項4】
前記クプレドキシンが、シュードモナス・アエルギノサ、アルカリゲネス・フェカリス、アクロモバクター・キシロソキシダン、ボルデテラ・ブロンキセプチカ、メチロモナス種、ナイセリア・メニンギティディス、ナイセリア・ゴノレア、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・クロロラフィス、キシレラ・ファスティディオサおよびビブリオ・パラヘモリチカスから成る群から選択される生物由来である、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項5】
シュードモナス・アエルギノサ由来である、請求項4に記載の単離されたペプチド。
【請求項6】
配列番号1、3−19から成る群から選択されるペプチドの部分である、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項7】
配列番号1、3−19から成る群から選択される配列が少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項8】
前記クプレドキシンの切断物である、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドが約10残基より大きく且つ約100残基以下である、請求項8に記載の単離されたペプチド。
【請求項10】
前記ペプチドが、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基50−77、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基50−67、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基36−88および配列番号20−24から成る群から選択される配列を含む、請求項8に記載の単離されたペプチド。
【請求項11】
前記ペプチドが、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基50−77、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基50−67、シュードモナス・アエルギノサのアズリンの残基36−88および配列番号20−24から成る群から選択される配列から成る、請求項10に記載の単離されたペプチド。
【請求項12】
前記ペプチドが、残基50−77、残基50−67および残基36−88から成る群から選択されるシュードモナス・アエルギノサのアズリンの領域と等価なクプレドキシンの残基を含む、請求項1に記載の単離されたペプチド。
【請求項13】
医薬的に許容可能な担体中に少なくとも1つのクプレドキシンまたは請求項1に記載のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項14】
少なくとも2つのクプレドキシンまたはペプチドを含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物が静脈内投与のために処方される、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記クプレドキシンが、シュードモナス・アエルギノサ、アルカリゲネス・フェカリス、アクロモバクター・キシロソキシダン、ボルデテラ・ブロンキセプチカ、メチロモナス種、ナイセリア・メニンギティディス、ナイセリア・ゴノレア、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・クロロラフィス、キシレラ・ファスティディオサおよびビブリオ・パラヘモリチカスから成る群から選択される生物由来である、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記クプレドキシンがシュードモナス・アエルギノサ由来である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記クプレドキシンが配列番号1、3−19から成る群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
哺乳類患者を治療する方法であって、前記患者に治療的有効量の請求項13に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項20】
前記患者がヒトである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者が一般集団よりも癌の発生のリスクが高い、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記癌が、メラノーマ、乳癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、星細胞腫、肺癌、結腸直腸癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、皮膚癌および子宮頚癌から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記患者が少なくとも1つの高いリスクの特徴を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が前癌病変を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が癌または前癌病変を治療されている、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記医薬組成物が、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、吸入、局所投与、経皮パッチ、坐剤、硝子体注入および経口から成る群から選択される様式で投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記投与の様式が静脈内注射による、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記医薬組成物が、少なくとも1つのその他の化学予防薬と共に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記医薬組成物がその他の化学予防薬とほぼ同時に投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
バイアル中に請求項13に記載の組成物を含むキット。
【請求項31】
前記キットが静脈内投与のために設計される、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
哺乳動物細胞をクプレドキシンまたは請求項1に記載のペプチドと接触させ、前癌細胞および悪性細胞の発生を測定することを含む、癌の発生の研究方法。
【請求項33】
前記細胞がヒト細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が乳腺細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞が癌の発生を誘導される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項1に記載のペプチドをコードする発現ベクター。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−503409(P2010−503409A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528468(P2009−528468)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/078371
【国際公開番号】WO2008/033987
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(500106802)ザ・ボード・オブ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・イリノイ (15)
【Fターム(参考)】