クラスターハライド及びその製造方法
【課題】 新規なDNAチップ用発光体の材料として、安価で無毒な最適サイズの発光材料を提供することは、実用化に向けて必要である。本発明の課題は、バイオセンサを初めとする発光体として使用が可能なクラスターハライドを、サイズをコントロールし、簡便にかつ安価に製造できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】透明高分子マトリクス中で、クラスターハライドをイオン交換することによって結晶成長を制御させる。特に、クラスターハライドと交換するイオン溶液の濃度を選択することで、クラスターハライドのサイズを自由にコントロールすることが可能となる。
【解決手段】透明高分子マトリクス中で、クラスターハライドをイオン交換することによって結晶成長を制御させる。特に、クラスターハライドと交換するイオン溶液の濃度を選択することで、クラスターハライドのサイズを自由にコントロールすることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップで用いられる発光体及びその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAチップは、最近の医療分野における遺伝(DNA)診断技術の一つであり、そのニーズが急速に高まっている。DNAチップに用いられる主な要素技術として、ナノサイズ発光体がある。この発光体をチップ内にある検出DNAの先端に付着させることでDNAチップ用検出材料として用いる。発光体の実用サイズは数ナノメートルから数十ナノメートルであり、材質は有機あるいは無機半導体が用いられている。
【0003】
有機発光体は、発光体のエネルギー変換能の指標である量子効率が高い。しかし、耐久性に問題があり、繰り返し使用に不向きである。その結果、量子効率の減退による退色を生ずる欠点を持つ。一方、無機半導体は量子効率が有機発光体より低い欠点を持つ一方、耐久性があり、繰り返し使用による退色がほとんど無いという利点を持つ。
【0004】
非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3には、実用化されている無機半導体の発光体としては、カドミウム−セレンを硫化亜鉛でコーティングした微粒子などがある。
【0005】
これに対して金属クラスターという化合物が昔から存在しており、最近話題を呼んでいる。金属クラスターとは、金属―金属の結合を有する化合物であるが、バルクでもなく量子ドットでもない。量子ドットとは無機化合物の集合体であるが、いままでの粉末状のバルクとは違い、数nmオーダーの凝集体を指す。このオーダーの大きさに電子などが閉じ込められると、電子の量子的な性質からバルク状態とは違った性質を示すことが知られている。例えば発光性能に関しては、同じ化合物でありながら、粒子径をコントロールするだけで発光色を変化することができ、粒子の構造を制御することにより、その発光量子効率をあげることも可能である。しかし、量子ドットは量産化することが非常に難しいといわれており、マイクロリアクターの分野でそのプロセスの検討がなされているところである。
【0006】
金属クラスターは有機分子くらいの大きさを有する金属の化合物であり、その電子的な性質も原子と量子ドットの中間に位置する化合物と考えられる。つまり、無機化合物の耐久性を維持しながら、有機分子の有する構造制御の行いやすさをあわせ持つ化合物ということができる。
【0007】
例えば、非特許文献4及び非特許文献5には、カリウムもしくはテトラブチルアンモニウムとの塩を形成した塩化モリブデンクラスター(クラスターハライドの一種)は、固体状態または溶液中において極大波長800nmを中心とする赤色の発光を示すことがHarry B.Grayらによって示されている。この論文で報告されている塩化モリブデンクラスターの特徴として、発光の量子収率はアセトニトリル中で0.19、りん光が室温で観測されるというものである。
【0008】
現在、りん光が室温で観察される化合物はあまり発見されていない。りん光は重元素の効果で発光効率があがると考えられている。酸素センサーや有機ELの発光材料としては、重金属として白金系やイリジウム系金属錯体が有名であり、塩化モリブデンクラスターも有機ELなどの発光体として利用することも可能である。
【0009】
また、非特許文献6には、塩化モリブデンクラスターの赤色発光を化学発光として利用する研究がDupontのElsayedらのグループによって行われている。
【0010】
しかし、カリウムもしくはテトラブチルアンモニウムとの塩を形成した塩化モリブデンクラスターの赤色発光は寿命が非常に長く(約180μm)、励起状態において周りの環境からの攻撃を受けやすいために空気中における発光の量子収率は0.001から0.008程度のものでしかない。塩化モリブデンクラスターの発光を溶液中で利用する場合には、アルゴンや窒素などの不活性ガスによる置換雰囲気下で行うしかない。
【0011】
非特許文献7及び非特許文献8には、塩化モリブデンクラスターの発光機構について、T. AzumiらやK. Saitoらのグループによって報告されている。彼らによると塩化モリブデンクラスターの発光は三重項励起状態からの発光であり、励起寿命が長く、周りからの影響を受けやすいために空気中では発光量子収率が低くなっている。特に、励起状態においては、モリブデンと塩素の結合が弱まり、溶媒の攻撃を受けやすくなる。特に、溶媒の種類によって影響が変化し、DMSO中では光分解が早く進む。
【0012】
DMSOなどに比べるとアセトニトリル中で塩化モリブデンクラスターは安定に発光し、発光の量子収率はアルゴン雰囲気中で0.2ほどになる。この発光をDNAチップの発光体として利用することも可能である。しかし、アルゴン雰囲気中による発光の安定化は装置としては、煩雑になってしまう。また、塩化モリブデンクラスターをDNAチップ用発光体として使用した例はない。
【0013】
【非特許文献1】Science, 1996, 271, 933-937
【非特許文献2】J.Phys.Chem., 1996, 100, 468-471
【非特許文献3】J.Phys.Chem., 1997, 101, 9463-9475
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc. 1983, 105, 1878
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. 1981, 103, 1298
【非特許文献6】Inorgchimacta 1987、132、105
【非特許文献7】Inorganica chimica acta 1989、161、63
【非特許文献8】J. Phys. Chem. 1985、21、4413
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
塩化モリブデンクラスターは毒性が無く、かつ安価であることから、人体に適用しやすく、高価で毒性の心配のある従来の無機半導体に比べて有望な材料となりうる。
【0015】
塩化モリブデンクラスターをDNAチップ用発光体の用途に用いるためには、微粉状の粒子を得る必要がある。
しかし、従来の製造方法では、塩化モリブデンクラスターの粒子径をコントロールすることができず、結晶が成長してしまう。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、空気中においても効率よく発光し、かつDNAチップ用発光体として用いるためにサイズを制御した、安価で毒性の無い塩化モリブデンクラスターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、イオン交換した塩化モリブデンクラスターを、その濃度を変えて、高分子溶液中で結晶成長をコントロールする方法に関する。
【0018】
塩化モリブデンクラスターは、カリウムをはじめとするアルカリ金属イオンによるイオン交換クラスターに関する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明により、イオン交換した塩化モリブデンクラスター発光体のサイズを自由にコントロールできる技術を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における金属クラスターハライドとしては、例えば周期律表第3A金属から7A金属あるいはその化合物のハロゲン化物であり、特に、非分子性クラスターハライドを形成するものが好ましい。周期律表第3A金属から7A金属の具体例としては、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ランタノイド、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウムおよびこれら化合物などが挙げられる。
【0021】
ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。中でも、塩素が好ましい。
【0022】
非分子性クラスターハライドの種類としては、希土類元素型クラスターハライド、ジルコニウム・ハフニウム型クラスターハライド、ニオブ・タンタル型クラスターハライド、モリブデン・タングステン・レニウム型クラスターハライドなどがある。
【0023】
具体的には、(Sc7Cl10)n、(ScCl)n、(YCl)n、(Li0.2YCl)n、(NbCl4)n、(α-NbI4)n、(Nb6Cl14)n、(Nb6I11)n、(CeNb6I11)n、(Nb3Cl8)n、(Nb3Br8)n、(Nb3I8)n、(Nb2Se2Br6)n、(Nb2Se2I6)n、(Nb2Te2Br6)n、(Nb2Te2I6)n、(Nb2S4Cl4)n、(Nb2S4Br4)n、(Nb2Se4Cl4)n、(Nb2Se4Br4)n、(Nb3Se5Cl7)n、(Nb3Se5Br7)n、(HNb4Cl11)n、(KNb4Cl11)n、(NaNb4Cl11)n、(RbNb4Cl11)n、(HNb4Br11)n、(LiNb4Br11)n、(KNb4Br11)n、(NaNb4Br11)n、(RbNb4Br11)n、(NbSBr)n、(NbSI)n、(NbSeBr)n、(NbSeI)n、(Nb6HI11)n、(CsNb6HI11)n、(Nb6F15)n、(Nb6Cl14)n、(LaCl)n、(GaCl)n、(Ga2Cl3)n、(Ga10C4Cl18)n、(Ta6Cl15)n、(Zr6Cl12)n、(ZrCl)n、(Zr6HCl12)n、(Zr6BeCl12)n、(Zr6BCl12)n、(Zr6CrCl12)n、(Zr6MnCl12)n、(Zr6FeI14)n、(Zr6CoI14)n、(HZr6CCl14)n、(LiZr6CCl14)n、(KZr6CCl14)n、(NaZr6CCl14)n、(RbZr6CCl14)n、(HZr6CBr14)n、(LiZr6CBr14)n、(KZr6CBr14)n、(NaZr6CBr14)n、(RbZr6CBr14)n、(CsZr6MnCl14)n、(Zr6NCl15)n、(HZr6CCl15)n、(LiZr6CCl15)n、(KZr6CCl15)n、(NaZr6CCl15)n、(RbZr6CCl15)n、(HZr6NCl15)n、(LiZr6NCl15)n、(KZr6NCl15)n、(NaZr6NCl15)n、(RbZr6NCl15)n、(H2Zr6BCl15)n、(Li2Zr6BCl15)n、(K2Zr6BCl15)n、(Na2Zr6BCl15)n、(Rb2Zr6BCl15)n、(H3Zr6BeCl15)n、(Li3Zr6BeCl15)n、(K3Zr6BeCl15)n、(Na3Zr6BeCl15)n、(Rb3Zr6BeCl15)n、(Cs3Zr6BCl16)n、(Cs3Zr6CCl16)n、(Na4Zr6BeCl16)n、(Tb6Br7)n、(MoCl3)n、(MoSCl)n、(MoSBr)n、(MoSI)n、(Mo2S4Cl6)n、(Mo3S7Cl4)n、(Mo3S7Br4)n、(FeMo4S8)n、(AlMo4S8)n、(RuMo4S8)n、(OsMo4S8)n、(RhMo4S8)n、(TiMo4S8)n、(ZrMo4S8)n、(CrMo4S8)n、(FeMo4Se8)n、(AlMo4Se8)n、(RuMo4Se8)n、(OsMo4Se8)n、(RhMo4Se8)n、(TiMo4Se8)n、(ZrMo4Se8)n、(CrMo4Se8)n、(Mo6Cl12)n、(Mo6S6F2)n、(Mo6S6Cl2)n、(Mo6S6Br2)n、(Mo6S6I2)n、(Mo4Re2Te8)n、(Mo6SCl10)n、(Mo6SBr10)n、(Mo6SI10)n、(Mo6SeCl10)n、(Mo6SeBr10)n、(Mo6SeI10)n、(HMo6Cl13)n、(LiMo6Cl13)n、(KMo6Cl13)n、(NaMo6Cl13)n、(RbMo6Cl13)n、(W3S7Br4)n、(W6Cl12)n、(W6Cl16)n、(W6Cl18)n、(β-ReCl4)n、(Re3Cl9)n、(Re3I9)n、(Li4Re6S11)n、(H4Re6S12)n、(Li4Re6S12)n、(K4Re6S12)n、(Na4Re6S12)n、(Rb4Re6S12)n、(H4Re6Se12)n、(Li4Re6Se12)n、(K4Re6Se12)n、(Na4Re6Se12)n、(Rb4Re6Se12)n、(Cs4Re6S13)n、(H4Re6S13)n、(Li4Re6S13)n、(K4Re6S13)n、(Na4Re6S13)n、(Rb4Re6S13)n、(H4Re6Se13)n、(Li4Re6Se13)n、(K4Re6Se13)n、(Na4Re6Se13)n、(Rb4Re6Se13)n、(Re6Se8Cl2)n、(Tl4Re6Se12)n、(Mo2Re4Se8)n、(Re6Se5Cl8)n、(Re6Se6Cl6)n、(Re6S7Br4)n、(Re6Se7Br4)n、(Ta6I14)n、(Ta6Cl15)n、(Ta6Br15)n、(Sc7BF12)n、(Sc7BCl12)n、(Sc7BBr12)n、(Sc7BI12)n、(Sc7CF12)n、(Sc7CCl12)n、(Sc7CBr12)n、(Sc7CI12)n、(Sc7NF12)n、(Sc7NCl12)n、(Sc7NBr12)n、(Sc7NI12)n、(Sc7MnI12)n、(Sc7FeI12)n、(Sc7CoI12)n、(Sc7NiI12)n、(Y7MnI12)n、(Y7FeI12)n、(Y7CoI12)n、(Y7NiI12)n、(Pr7MnI12)n、(Pr7FeI12)n、(Pr7CoI12)n、(Pr7NiI12)n、(Gd7MnI12)n、(Gd7FeI12)n、(Gd7CoI12)n、(Gd7NiI12)n、(但し、nは2〜100万である。)などが挙げられる。
【0024】
塩を形成するアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、特にカリウムが好ましい。
【0025】
本発明のクラスターハライドのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、クラスターハライド溶液とアルカリ金属またはアルカリ土類金属ハライド塩溶液を混合することにより調製することができる。
【0026】
クラスターハライド溶媒の溶媒としては、ハロゲン化水素溶液との混合溶媒が必要である。ハロゲン化水素溶液と混合すべき溶媒としては水、メタノール、エタノール等のプロトン溶媒、さらにはアセトニトリルやジメチルホルムアミド等の極性の強い非プロトン溶媒がある。特に、水、メタノールが好ましい。
【0027】
クラスターハライド溶媒としては、塩酸などのハロゲン化水素水溶液が好ましい。
【0028】
ハロゲン化水素水溶液の濃度は、0.1mol/l〜10mol/l、特に1mol/l〜6mol/lが好ましい。
【0029】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、水あるいはアルコール溶液であることが好ましい。
【0030】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩の量は、反応させるクラスターハライド1gに対し、0.001mol〜1mol、特に0.005〜0.5molが好ましい。
【0031】
本発明のクラスターハライドの発光体は、エレクトロニクス分野、オプティクス分野、バイオテクノロジー分野、ディスプレー分野などの各分野で用いることができる。特に蛍光灯、ブラウン管、無機EL、有機EL、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などの発光体、DNAチップや生体観察用の染色剤としての発光多体として最適である。
【0032】
結晶成長をコントロールするための溶媒としては、溶媒に溶解する高分子が良い。
【0033】
当該高分子としては、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、PMMA−ポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、これらの共重合体および混合物が良い。特に、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体とポリアクリル酸の混合物が好ましい。
【0034】
高分子の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)としては、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体は、Mn=152000、Mw=329000。PMMA−ポリアクリル酸共重合体は、Mn=249000、Mw=590000である。ポリエチレンイミンは、Mw=10000、ポリアクリル酸は、Mw=25000である。
【0035】
当該高分子を溶かす溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、クロロホルムジメチルスルホキシドが良い。特にメタノールが好ましい。
【0036】
当該高分子の濃度としては、0.1wt%〜20wt%が良く、特に1〜15wt%が好ましい。
【0037】
結晶化反応の温度は、30℃〜80℃が良く、特に35〜75℃が好ましい。
【0038】
結晶サイズをコントロールしたモリブデンクラスターのサイズは、1nm〜500nmであり、特に5〜100nmが好ましい。
【実施例】
【0039】
実施例において、吸収スペクトル測定は日本分光製V−500を使用し、発光のスペクトルは日本分光製FP−6300を使用し、塩化モリブデンクラスターを溶媒中に溶解し、OD=0.02程度になる濃度にて測定を行う。
【0040】
蛍光スペクトルはローダミン6Gエタノール溶液を使って、スペクトル補正を行った。
発光の量子収率は330nm励起の標準試料硫酸キニーネ1N硫酸水溶液中における発光の量子収率(0.55)に対する相対的な量子収率として算出している。
【0041】
実施例において、高分子マトリクス中にて製造したイオン交換クラスターハライドの粒子サイズの測定は、日立製H−7100FAの透過型電子顕微鏡を用いて行う。測定倍率は15万〜30万である。
平均粒子径は、TEM写真中の撮影粒子の平均をとることで求める。
【0042】
(実施例1)
(クラスターハイライドの調製)
塩化モリブテンクラスターの調製は、先ずモリブデン粉末6gを200℃にて2時間真空加熱排気(1.0×10−3Pa以下)して脱水した後、アルゴン雰囲気下で、石英反応管(管径3cm、長さ1m)に入れる。次に、塩素ガスを流量20ml/mimにて反応管に導入し、温度を300℃に保ちながらモリブデンと塩素を反応させる。反応が完了すると黒緑色の塩化モリブデン結晶が生成する。反応管を室温に戻し、アルゴンガスで置換した後、ガラス棒で塩化モリブデンを粉砕する。次に前述の操作と同様に真空加熱排気したモリブデン粉末30gを手早く反応管に入れ、ガラス棒にて塩化モリブデンと良く混合する。アルゴン流量を5ml/minにし、反応管の温度を680℃にする。680℃に達したら1時間放置し、その後室温に戻して塩化モリブデンクラスターの黄色い粗結晶を回収する。
【0043】
(クラスターハイライドの精製)
クラスターハイライドの調製で得た塩化モリブデン粗結晶を、沸騰した塩酸水溶液(濃度3規定)500mlに入れ、攪拌して溶かす。黄色い上澄み液が生じるので、それを濾過して、黄色い液を1リットルのナスフラスコに回収する。液を冷蔵庫に一晩入れて冷やすことで、黄色い針状の結晶を得る。
【0044】
(実施例2)
クラスターハイライドの精製で得た黄色い針状の結晶を0.5g秤量し、100mlのナスフラスコに入れる。そこへ濃度3規定の塩酸水溶液5mlをいれ、温度50℃にて攪拌溶解させ、反応溶液Aを調製する。
次いで濃度3mol/lの塩化カリウム水溶液5mlを調製し、これを反応溶液Bとする。
【0045】
100mlのビーカーにメタノール溶媒を50ml入れ、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体とポリアクリル酸(重量比が1:1)の混合物を濃度が5wt%になるようにして、攪拌しつつ溶解させる。
【0046】
その溶液を容積30mlのサンプル瓶に、5ml秤量し、攪拌させながら温度50℃に保つ。ついで、反応溶液A、0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下する。さらに、反応溶液Bを0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下して、カリウム置換モリブデンクラスター分散溶液を得る。
【0047】
(実施例3)
実施例2で得たカリウム置換モリブデンクラスター分散溶液をサイズが縦、横が2cm、厚さ0.5mmのポリエチレンシートに数滴を滴下する。そのシートをスピンコーティングすることで、ポリエチレンシート上に薄膜を形成させる。その薄膜を、室温、空気中で放置して、乾燥させる。
【0048】
(実施例4)
実施例3で得たポリエチレンシート上に薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって、カリウム置換モリブデンクラスターのサイズを測定する。得られたカリウム置換クラスターハライドのサイズは、17nmであった。図1に、TEM写真を示す。
【0049】
(実施例5)
実施例2で使用したカリウム置換モリブデンクラスター溶液数滴をアセトニトリル中に溶解し、436nmにおける吸光度がOD=0.02程度の濃度にして、436nmの波長で励起して、その発光スペクトルを測定した。発光は800nmを中心とする赤色の発光であった。アルゴン雰囲気下での発光の量子収率は0.002であった。
【0050】
(実施例6)
100mlのビーカーにメタノール溶媒を50ml入れ、ポリエチレンイミンを濃度が5wt%になるようにして、攪拌しつつ溶解させる。
【0051】
その溶液を容積30mlのサンプル瓶に、5ml秤量し、攪拌させながら温度50℃に保つ。ついで、実施例3で調製した反応溶液A、0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下する。さらに、実施例3で調製した反応溶液Bを0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下して、カリウム置換モリブデンクラスター分散溶液を得る。
【0052】
(実施例7)
得られたカリウム置換モリブデンクラスター分散溶液をサイズが縦、横が2cm、厚さ0.5mmのポリエチレンシートに数滴を滴下する。そのシートをスピンコーティングすることで、ポリエチレンシート上に薄膜を形成させる。その薄膜を、室温、空気中で放置して、乾燥させる。
【0053】
(実施例8)
実施例7で得たポリエチレンシート上に薄膜をTEMで観察することによって、カリウム置換モリブデンクラスターのサイズを測定する。得られたカリウム置換クラスターハライドのサイズは、30nmであった。図2に、TEM写真を示す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例6について、高分子マトリクス中で調製したカリウム置換クラスターハライドの透過型電子顕微鏡写真を示す。なお、倍率は300000倍である。
【図2】実施例10について、高分子マトリクス中で調製したカリウム置換クラスターハライドの透過型電子顕微鏡写真を示す。なお、倍率は150000倍である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップで用いられる発光体及びその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAチップは、最近の医療分野における遺伝(DNA)診断技術の一つであり、そのニーズが急速に高まっている。DNAチップに用いられる主な要素技術として、ナノサイズ発光体がある。この発光体をチップ内にある検出DNAの先端に付着させることでDNAチップ用検出材料として用いる。発光体の実用サイズは数ナノメートルから数十ナノメートルであり、材質は有機あるいは無機半導体が用いられている。
【0003】
有機発光体は、発光体のエネルギー変換能の指標である量子効率が高い。しかし、耐久性に問題があり、繰り返し使用に不向きである。その結果、量子効率の減退による退色を生ずる欠点を持つ。一方、無機半導体は量子効率が有機発光体より低い欠点を持つ一方、耐久性があり、繰り返し使用による退色がほとんど無いという利点を持つ。
【0004】
非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3には、実用化されている無機半導体の発光体としては、カドミウム−セレンを硫化亜鉛でコーティングした微粒子などがある。
【0005】
これに対して金属クラスターという化合物が昔から存在しており、最近話題を呼んでいる。金属クラスターとは、金属―金属の結合を有する化合物であるが、バルクでもなく量子ドットでもない。量子ドットとは無機化合物の集合体であるが、いままでの粉末状のバルクとは違い、数nmオーダーの凝集体を指す。このオーダーの大きさに電子などが閉じ込められると、電子の量子的な性質からバルク状態とは違った性質を示すことが知られている。例えば発光性能に関しては、同じ化合物でありながら、粒子径をコントロールするだけで発光色を変化することができ、粒子の構造を制御することにより、その発光量子効率をあげることも可能である。しかし、量子ドットは量産化することが非常に難しいといわれており、マイクロリアクターの分野でそのプロセスの検討がなされているところである。
【0006】
金属クラスターは有機分子くらいの大きさを有する金属の化合物であり、その電子的な性質も原子と量子ドットの中間に位置する化合物と考えられる。つまり、無機化合物の耐久性を維持しながら、有機分子の有する構造制御の行いやすさをあわせ持つ化合物ということができる。
【0007】
例えば、非特許文献4及び非特許文献5には、カリウムもしくはテトラブチルアンモニウムとの塩を形成した塩化モリブデンクラスター(クラスターハライドの一種)は、固体状態または溶液中において極大波長800nmを中心とする赤色の発光を示すことがHarry B.Grayらによって示されている。この論文で報告されている塩化モリブデンクラスターの特徴として、発光の量子収率はアセトニトリル中で0.19、りん光が室温で観測されるというものである。
【0008】
現在、りん光が室温で観察される化合物はあまり発見されていない。りん光は重元素の効果で発光効率があがると考えられている。酸素センサーや有機ELの発光材料としては、重金属として白金系やイリジウム系金属錯体が有名であり、塩化モリブデンクラスターも有機ELなどの発光体として利用することも可能である。
【0009】
また、非特許文献6には、塩化モリブデンクラスターの赤色発光を化学発光として利用する研究がDupontのElsayedらのグループによって行われている。
【0010】
しかし、カリウムもしくはテトラブチルアンモニウムとの塩を形成した塩化モリブデンクラスターの赤色発光は寿命が非常に長く(約180μm)、励起状態において周りの環境からの攻撃を受けやすいために空気中における発光の量子収率は0.001から0.008程度のものでしかない。塩化モリブデンクラスターの発光を溶液中で利用する場合には、アルゴンや窒素などの不活性ガスによる置換雰囲気下で行うしかない。
【0011】
非特許文献7及び非特許文献8には、塩化モリブデンクラスターの発光機構について、T. AzumiらやK. Saitoらのグループによって報告されている。彼らによると塩化モリブデンクラスターの発光は三重項励起状態からの発光であり、励起寿命が長く、周りからの影響を受けやすいために空気中では発光量子収率が低くなっている。特に、励起状態においては、モリブデンと塩素の結合が弱まり、溶媒の攻撃を受けやすくなる。特に、溶媒の種類によって影響が変化し、DMSO中では光分解が早く進む。
【0012】
DMSOなどに比べるとアセトニトリル中で塩化モリブデンクラスターは安定に発光し、発光の量子収率はアルゴン雰囲気中で0.2ほどになる。この発光をDNAチップの発光体として利用することも可能である。しかし、アルゴン雰囲気中による発光の安定化は装置としては、煩雑になってしまう。また、塩化モリブデンクラスターをDNAチップ用発光体として使用した例はない。
【0013】
【非特許文献1】Science, 1996, 271, 933-937
【非特許文献2】J.Phys.Chem., 1996, 100, 468-471
【非特許文献3】J.Phys.Chem., 1997, 101, 9463-9475
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc. 1983, 105, 1878
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. 1981, 103, 1298
【非特許文献6】Inorgchimacta 1987、132、105
【非特許文献7】Inorganica chimica acta 1989、161、63
【非特許文献8】J. Phys. Chem. 1985、21、4413
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
塩化モリブデンクラスターは毒性が無く、かつ安価であることから、人体に適用しやすく、高価で毒性の心配のある従来の無機半導体に比べて有望な材料となりうる。
【0015】
塩化モリブデンクラスターをDNAチップ用発光体の用途に用いるためには、微粉状の粒子を得る必要がある。
しかし、従来の製造方法では、塩化モリブデンクラスターの粒子径をコントロールすることができず、結晶が成長してしまう。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、空気中においても効率よく発光し、かつDNAチップ用発光体として用いるためにサイズを制御した、安価で毒性の無い塩化モリブデンクラスターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、イオン交換した塩化モリブデンクラスターを、その濃度を変えて、高分子溶液中で結晶成長をコントロールする方法に関する。
【0018】
塩化モリブデンクラスターは、カリウムをはじめとするアルカリ金属イオンによるイオン交換クラスターに関する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明により、イオン交換した塩化モリブデンクラスター発光体のサイズを自由にコントロールできる技術を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における金属クラスターハライドとしては、例えば周期律表第3A金属から7A金属あるいはその化合物のハロゲン化物であり、特に、非分子性クラスターハライドを形成するものが好ましい。周期律表第3A金属から7A金属の具体例としては、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ランタノイド、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウムおよびこれら化合物などが挙げられる。
【0021】
ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。中でも、塩素が好ましい。
【0022】
非分子性クラスターハライドの種類としては、希土類元素型クラスターハライド、ジルコニウム・ハフニウム型クラスターハライド、ニオブ・タンタル型クラスターハライド、モリブデン・タングステン・レニウム型クラスターハライドなどがある。
【0023】
具体的には、(Sc7Cl10)n、(ScCl)n、(YCl)n、(Li0.2YCl)n、(NbCl4)n、(α-NbI4)n、(Nb6Cl14)n、(Nb6I11)n、(CeNb6I11)n、(Nb3Cl8)n、(Nb3Br8)n、(Nb3I8)n、(Nb2Se2Br6)n、(Nb2Se2I6)n、(Nb2Te2Br6)n、(Nb2Te2I6)n、(Nb2S4Cl4)n、(Nb2S4Br4)n、(Nb2Se4Cl4)n、(Nb2Se4Br4)n、(Nb3Se5Cl7)n、(Nb3Se5Br7)n、(HNb4Cl11)n、(KNb4Cl11)n、(NaNb4Cl11)n、(RbNb4Cl11)n、(HNb4Br11)n、(LiNb4Br11)n、(KNb4Br11)n、(NaNb4Br11)n、(RbNb4Br11)n、(NbSBr)n、(NbSI)n、(NbSeBr)n、(NbSeI)n、(Nb6HI11)n、(CsNb6HI11)n、(Nb6F15)n、(Nb6Cl14)n、(LaCl)n、(GaCl)n、(Ga2Cl3)n、(Ga10C4Cl18)n、(Ta6Cl15)n、(Zr6Cl12)n、(ZrCl)n、(Zr6HCl12)n、(Zr6BeCl12)n、(Zr6BCl12)n、(Zr6CrCl12)n、(Zr6MnCl12)n、(Zr6FeI14)n、(Zr6CoI14)n、(HZr6CCl14)n、(LiZr6CCl14)n、(KZr6CCl14)n、(NaZr6CCl14)n、(RbZr6CCl14)n、(HZr6CBr14)n、(LiZr6CBr14)n、(KZr6CBr14)n、(NaZr6CBr14)n、(RbZr6CBr14)n、(CsZr6MnCl14)n、(Zr6NCl15)n、(HZr6CCl15)n、(LiZr6CCl15)n、(KZr6CCl15)n、(NaZr6CCl15)n、(RbZr6CCl15)n、(HZr6NCl15)n、(LiZr6NCl15)n、(KZr6NCl15)n、(NaZr6NCl15)n、(RbZr6NCl15)n、(H2Zr6BCl15)n、(Li2Zr6BCl15)n、(K2Zr6BCl15)n、(Na2Zr6BCl15)n、(Rb2Zr6BCl15)n、(H3Zr6BeCl15)n、(Li3Zr6BeCl15)n、(K3Zr6BeCl15)n、(Na3Zr6BeCl15)n、(Rb3Zr6BeCl15)n、(Cs3Zr6BCl16)n、(Cs3Zr6CCl16)n、(Na4Zr6BeCl16)n、(Tb6Br7)n、(MoCl3)n、(MoSCl)n、(MoSBr)n、(MoSI)n、(Mo2S4Cl6)n、(Mo3S7Cl4)n、(Mo3S7Br4)n、(FeMo4S8)n、(AlMo4S8)n、(RuMo4S8)n、(OsMo4S8)n、(RhMo4S8)n、(TiMo4S8)n、(ZrMo4S8)n、(CrMo4S8)n、(FeMo4Se8)n、(AlMo4Se8)n、(RuMo4Se8)n、(OsMo4Se8)n、(RhMo4Se8)n、(TiMo4Se8)n、(ZrMo4Se8)n、(CrMo4Se8)n、(Mo6Cl12)n、(Mo6S6F2)n、(Mo6S6Cl2)n、(Mo6S6Br2)n、(Mo6S6I2)n、(Mo4Re2Te8)n、(Mo6SCl10)n、(Mo6SBr10)n、(Mo6SI10)n、(Mo6SeCl10)n、(Mo6SeBr10)n、(Mo6SeI10)n、(HMo6Cl13)n、(LiMo6Cl13)n、(KMo6Cl13)n、(NaMo6Cl13)n、(RbMo6Cl13)n、(W3S7Br4)n、(W6Cl12)n、(W6Cl16)n、(W6Cl18)n、(β-ReCl4)n、(Re3Cl9)n、(Re3I9)n、(Li4Re6S11)n、(H4Re6S12)n、(Li4Re6S12)n、(K4Re6S12)n、(Na4Re6S12)n、(Rb4Re6S12)n、(H4Re6Se12)n、(Li4Re6Se12)n、(K4Re6Se12)n、(Na4Re6Se12)n、(Rb4Re6Se12)n、(Cs4Re6S13)n、(H4Re6S13)n、(Li4Re6S13)n、(K4Re6S13)n、(Na4Re6S13)n、(Rb4Re6S13)n、(H4Re6Se13)n、(Li4Re6Se13)n、(K4Re6Se13)n、(Na4Re6Se13)n、(Rb4Re6Se13)n、(Re6Se8Cl2)n、(Tl4Re6Se12)n、(Mo2Re4Se8)n、(Re6Se5Cl8)n、(Re6Se6Cl6)n、(Re6S7Br4)n、(Re6Se7Br4)n、(Ta6I14)n、(Ta6Cl15)n、(Ta6Br15)n、(Sc7BF12)n、(Sc7BCl12)n、(Sc7BBr12)n、(Sc7BI12)n、(Sc7CF12)n、(Sc7CCl12)n、(Sc7CBr12)n、(Sc7CI12)n、(Sc7NF12)n、(Sc7NCl12)n、(Sc7NBr12)n、(Sc7NI12)n、(Sc7MnI12)n、(Sc7FeI12)n、(Sc7CoI12)n、(Sc7NiI12)n、(Y7MnI12)n、(Y7FeI12)n、(Y7CoI12)n、(Y7NiI12)n、(Pr7MnI12)n、(Pr7FeI12)n、(Pr7CoI12)n、(Pr7NiI12)n、(Gd7MnI12)n、(Gd7FeI12)n、(Gd7CoI12)n、(Gd7NiI12)n、(但し、nは2〜100万である。)などが挙げられる。
【0024】
塩を形成するアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、特にカリウムが好ましい。
【0025】
本発明のクラスターハライドのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、クラスターハライド溶液とアルカリ金属またはアルカリ土類金属ハライド塩溶液を混合することにより調製することができる。
【0026】
クラスターハライド溶媒の溶媒としては、ハロゲン化水素溶液との混合溶媒が必要である。ハロゲン化水素溶液と混合すべき溶媒としては水、メタノール、エタノール等のプロトン溶媒、さらにはアセトニトリルやジメチルホルムアミド等の極性の強い非プロトン溶媒がある。特に、水、メタノールが好ましい。
【0027】
クラスターハライド溶媒としては、塩酸などのハロゲン化水素水溶液が好ましい。
【0028】
ハロゲン化水素水溶液の濃度は、0.1mol/l〜10mol/l、特に1mol/l〜6mol/lが好ましい。
【0029】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、水あるいはアルコール溶液であることが好ましい。
【0030】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩の量は、反応させるクラスターハライド1gに対し、0.001mol〜1mol、特に0.005〜0.5molが好ましい。
【0031】
本発明のクラスターハライドの発光体は、エレクトロニクス分野、オプティクス分野、バイオテクノロジー分野、ディスプレー分野などの各分野で用いることができる。特に蛍光灯、ブラウン管、無機EL、有機EL、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などの発光体、DNAチップや生体観察用の染色剤としての発光多体として最適である。
【0032】
結晶成長をコントロールするための溶媒としては、溶媒に溶解する高分子が良い。
【0033】
当該高分子としては、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、PMMA−ポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、これらの共重合体および混合物が良い。特に、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体とポリアクリル酸の混合物が好ましい。
【0034】
高分子の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)としては、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体は、Mn=152000、Mw=329000。PMMA−ポリアクリル酸共重合体は、Mn=249000、Mw=590000である。ポリエチレンイミンは、Mw=10000、ポリアクリル酸は、Mw=25000である。
【0035】
当該高分子を溶かす溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、クロロホルムジメチルスルホキシドが良い。特にメタノールが好ましい。
【0036】
当該高分子の濃度としては、0.1wt%〜20wt%が良く、特に1〜15wt%が好ましい。
【0037】
結晶化反応の温度は、30℃〜80℃が良く、特に35〜75℃が好ましい。
【0038】
結晶サイズをコントロールしたモリブデンクラスターのサイズは、1nm〜500nmであり、特に5〜100nmが好ましい。
【実施例】
【0039】
実施例において、吸収スペクトル測定は日本分光製V−500を使用し、発光のスペクトルは日本分光製FP−6300を使用し、塩化モリブデンクラスターを溶媒中に溶解し、OD=0.02程度になる濃度にて測定を行う。
【0040】
蛍光スペクトルはローダミン6Gエタノール溶液を使って、スペクトル補正を行った。
発光の量子収率は330nm励起の標準試料硫酸キニーネ1N硫酸水溶液中における発光の量子収率(0.55)に対する相対的な量子収率として算出している。
【0041】
実施例において、高分子マトリクス中にて製造したイオン交換クラスターハライドの粒子サイズの測定は、日立製H−7100FAの透過型電子顕微鏡を用いて行う。測定倍率は15万〜30万である。
平均粒子径は、TEM写真中の撮影粒子の平均をとることで求める。
【0042】
(実施例1)
(クラスターハイライドの調製)
塩化モリブテンクラスターの調製は、先ずモリブデン粉末6gを200℃にて2時間真空加熱排気(1.0×10−3Pa以下)して脱水した後、アルゴン雰囲気下で、石英反応管(管径3cm、長さ1m)に入れる。次に、塩素ガスを流量20ml/mimにて反応管に導入し、温度を300℃に保ちながらモリブデンと塩素を反応させる。反応が完了すると黒緑色の塩化モリブデン結晶が生成する。反応管を室温に戻し、アルゴンガスで置換した後、ガラス棒で塩化モリブデンを粉砕する。次に前述の操作と同様に真空加熱排気したモリブデン粉末30gを手早く反応管に入れ、ガラス棒にて塩化モリブデンと良く混合する。アルゴン流量を5ml/minにし、反応管の温度を680℃にする。680℃に達したら1時間放置し、その後室温に戻して塩化モリブデンクラスターの黄色い粗結晶を回収する。
【0043】
(クラスターハイライドの精製)
クラスターハイライドの調製で得た塩化モリブデン粗結晶を、沸騰した塩酸水溶液(濃度3規定)500mlに入れ、攪拌して溶かす。黄色い上澄み液が生じるので、それを濾過して、黄色い液を1リットルのナスフラスコに回収する。液を冷蔵庫に一晩入れて冷やすことで、黄色い針状の結晶を得る。
【0044】
(実施例2)
クラスターハイライドの精製で得た黄色い針状の結晶を0.5g秤量し、100mlのナスフラスコに入れる。そこへ濃度3規定の塩酸水溶液5mlをいれ、温度50℃にて攪拌溶解させ、反応溶液Aを調製する。
次いで濃度3mol/lの塩化カリウム水溶液5mlを調製し、これを反応溶液Bとする。
【0045】
100mlのビーカーにメタノール溶媒を50ml入れ、ポリスチレン−ポリアクリル酸共重合体とポリアクリル酸(重量比が1:1)の混合物を濃度が5wt%になるようにして、攪拌しつつ溶解させる。
【0046】
その溶液を容積30mlのサンプル瓶に、5ml秤量し、攪拌させながら温度50℃に保つ。ついで、反応溶液A、0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下する。さらに、反応溶液Bを0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下して、カリウム置換モリブデンクラスター分散溶液を得る。
【0047】
(実施例3)
実施例2で得たカリウム置換モリブデンクラスター分散溶液をサイズが縦、横が2cm、厚さ0.5mmのポリエチレンシートに数滴を滴下する。そのシートをスピンコーティングすることで、ポリエチレンシート上に薄膜を形成させる。その薄膜を、室温、空気中で放置して、乾燥させる。
【0048】
(実施例4)
実施例3で得たポリエチレンシート上に薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって、カリウム置換モリブデンクラスターのサイズを測定する。得られたカリウム置換クラスターハライドのサイズは、17nmであった。図1に、TEM写真を示す。
【0049】
(実施例5)
実施例2で使用したカリウム置換モリブデンクラスター溶液数滴をアセトニトリル中に溶解し、436nmにおける吸光度がOD=0.02程度の濃度にして、436nmの波長で励起して、その発光スペクトルを測定した。発光は800nmを中心とする赤色の発光であった。アルゴン雰囲気下での発光の量子収率は0.002であった。
【0050】
(実施例6)
100mlのビーカーにメタノール溶媒を50ml入れ、ポリエチレンイミンを濃度が5wt%になるようにして、攪拌しつつ溶解させる。
【0051】
その溶液を容積30mlのサンプル瓶に、5ml秤量し、攪拌させながら温度50℃に保つ。ついで、実施例3で調製した反応溶液A、0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下する。さらに、実施例3で調製した反応溶液Bを0.1mlを当該サンプル瓶に温度の低下を抑えるようにして滴下して、カリウム置換モリブデンクラスター分散溶液を得る。
【0052】
(実施例7)
得られたカリウム置換モリブデンクラスター分散溶液をサイズが縦、横が2cm、厚さ0.5mmのポリエチレンシートに数滴を滴下する。そのシートをスピンコーティングすることで、ポリエチレンシート上に薄膜を形成させる。その薄膜を、室温、空気中で放置して、乾燥させる。
【0053】
(実施例8)
実施例7で得たポリエチレンシート上に薄膜をTEMで観察することによって、カリウム置換モリブデンクラスターのサイズを測定する。得られたカリウム置換クラスターハライドのサイズは、30nmであった。図2に、TEM写真を示す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例6について、高分子マトリクス中で調製したカリウム置換クラスターハライドの透過型電子顕微鏡写真を示す。なお、倍率は300000倍である。
【図2】実施例10について、高分子マトリクス中で調製したカリウム置換クラスターハライドの透過型電子顕微鏡写真を示す。なお、倍率は150000倍である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスターハライドの平均粒径が5nm〜100nmであり、かつイオンで交換していることを特徴とするクラスターハライド。
【請求項2】
クラスターハライドの金属成分が、モリブデンであることを特徴とする請求項3に記載のクラスターハライド
【請求項3】
該重合体がプロトン性溶媒に溶解することを特徴とする請求項1に記載のクラスターハライド
【請求項4】
微粉状のクラスターハライドの製造方法であり、
1)クラスターハライドの溶解溶液と
2)イオン交換溶液、及び
3)重合体の溶解溶液とを、
同時に混合し、イオン交換されたクラスターハライドを析出させて得られることを特徴とするクラスターハライドの製造方法
【請求項5】
クラスターハライド1gに対して、0.001mol〜1molの金属イオン量であるイオン交換溶液であることを特徴とする請求項4に記載のクラスターハライドの製造方法
【請求項1】
クラスターハライドの平均粒径が5nm〜100nmであり、かつイオンで交換していることを特徴とするクラスターハライド。
【請求項2】
クラスターハライドの金属成分が、モリブデンであることを特徴とする請求項3に記載のクラスターハライド
【請求項3】
該重合体がプロトン性溶媒に溶解することを特徴とする請求項1に記載のクラスターハライド
【請求項4】
微粉状のクラスターハライドの製造方法であり、
1)クラスターハライドの溶解溶液と
2)イオン交換溶液、及び
3)重合体の溶解溶液とを、
同時に混合し、イオン交換されたクラスターハライドを析出させて得られることを特徴とするクラスターハライドの製造方法
【請求項5】
クラスターハライド1gに対して、0.001mol〜1molの金属イオン量であるイオン交換溶液であることを特徴とする請求項4に記載のクラスターハライドの製造方法
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−45427(P2006−45427A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230946(P2004−230946)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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