説明

クラッチレス可変容量圧縮機

【課題】急激な高速回転を伴う最小容量運転において液圧縮が発生しても斜板の異常復帰を防止することができるクラッチレス可変容量圧縮機の提供。
【解決手段】回転軸の軸方向へ傾動可能であって、かつ、回転軸16と一体的に回転する斜板と、斜板を収容するクランク室15と、圧縮室から吐出された冷媒が通過する吐出圧領域と、圧縮室35に吸入される冷媒が通過する吸入圧領域と、吐出圧領域における逆流を防止する逆止弁58と、吐出圧領域とクランク室15とを連通する給気路と、給気路の途中に設置され、クランク室15内の圧力を制御する容量制御弁40と、吸入圧領域とクランク室15を連通する抽気路43と、を有するクラッチレス可変容量圧縮機である。逆止弁58と圧縮室35との間の吐出圧領域に電磁弁59が備えられ、電磁弁59は、容量制御弁40が通電されていない時、閉じられ、通電されている時、開かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッチレス可変容量圧縮機に関し、特に、圧縮室に連通する吐出圧領域と外部冷媒回路との間に逆止弁を有するクラッチレス可変容量圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクラッチレス式可変容量圧縮機(以下、単に「圧縮機」と表記する。)としては、例えば、特許文献1に開示された可変容量圧縮機が知られている。
この種の圧縮機には、回転軸の回転をピストンの往復運動に変換する斜板が備えられ、この斜板を収容するクランク室が形成されている。
圧縮機は、圧縮室に吸入される冷媒が通過する吸入通路や吸入室等の吸入圧領域と、圧縮室から吐出された冷媒が通過する吐出室や吐出通路(マフラ)等の吐出圧領域とを有する。
吸入圧領域は外部冷媒回路の低圧側と接続され、吐出圧領域は外部冷媒回路の高圧側と接続されている。
外部冷媒回路と吐出室との間の吐出通路には冷媒の逆流を防止する逆止弁が設けられている。
圧縮機内には吐出室とクランク室を連通する給気路が形成されており、クランク室内の圧力を制御する容量制御弁がこの給気路の途中に設置されているほか、吸入室とクランク室とを連通する抽気路が形成されている。
容量制御弁は、通電時に給気路を閉じ、非通電時には給気路を開く機能を有する。
【0003】
この圧縮機では、逆止弁の上流側の領域と下流側の領域との流量差圧の多寡により、逆止弁が開く。
例えば、吐出容量が最大となる最大容量運転時には、回転軸の軸方向に対する直角方向と斜板の傾斜面との傾斜角度が最大になる。
このとき、逆止弁の上流側の領域と下流側の領域との流量差圧が大きくなるため、逆止弁が開き、高圧の冷媒は吐出圧領域から外部冷媒回路へ供給される。
一方、吐出容量が最小となる最小容量運転時には、回転軸の軸方向に対する直角方向と斜板の傾斜面との傾斜角度が最小となる。
従って、逆止弁の上流側の領域と下流側の領域との流量差圧が小さくなり、逆止弁は閉じられる。
逆止弁が閉じられる最小容量運転時には、外部冷媒回路の冷媒が圧縮室へ逆流することが防止され、最小容量運転時に逆止弁の閉弁により、圧縮機内に貯留されている潤滑油の外部冷媒回路への供給が防止される。
【0004】
この種の圧縮機では、運転停止状態のとき、圧縮機内において冷媒が存在するクランク室、吸入圧領域及び吐出圧領域における圧力と外部冷媒回路における圧力とはほぼ均圧となっている。
この状態における斜板は、最小容量運転時の斜板の状態と同じように、回転軸の軸方向に対する直角方向と斜板の傾斜面との傾斜角度が最小になる。
【0005】
ところで、特許文献2には、ガイドピンレス方式のヒンジ機構を有する圧縮機が開示されている。
この種の圧縮機では、回転軸と一体回転するロータが設けられているほか、ロータへ向けて突設されたアームが斜板に形成されている。
ロータにはアームの当接と、アームのロータに対する回転軸の軸方向への摺動を可能とする軸方向荷重受圧面が形成されている。
このヒンジ機構では、ロータと斜板との関係だけについてみると、ロータからの斜板の回転軸の軸方向への隔離が可能である。
【特許文献1】特開2007−120408号公報
【特許文献2】特開2006−220051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された圧縮機では、以下の問題が発生する。
圧縮機の周囲の温度が低く、吸入室や吸入通路に冷媒が液体として貯留される条件下において、圧縮機が運転停止の状態から、斜板は最小容量の状態で回転軸を急激に高速回転(例えば、毎秒1万回転以上)させると、ピストンが液体の冷媒を圧縮する現象(以降「液圧縮」と表記する。)が発生する。
液圧縮が発生すると、液圧縮による発生圧は吐出容量を増大させ、最小の傾斜角度を維持すべき斜板を異常に復帰させる現象(以降「異常復帰」と表記する)が発生する。
斜板の異常復帰が生じると液圧縮の発生がさらに助長され、液圧縮と異常復帰が交互に繰り返される。
【0007】
液圧縮による発生圧は吐出容量を増大させるため、逆止弁の上流側の領域と下流側の領域との流量差圧を拡大させて逆止弁を開くという現象を招く。
逆止弁が開かれると、吐出圧領域の圧力が外部冷媒回路へ抜けてしまい、斜板の復帰を規制するために必要な冷媒が吐出圧領域から給気路を通じてクランク室へ供給されず、その結果、斜板の異常復帰がさらに助長される。
【0008】
特に、特許文献2に開示されているガイドピンレス方式のヒンジ機構を有する圧縮機では、斜板の急激な異常復帰は、ピストンの上死点越えや、ピストンの特定部位やピストン近傍のシリンダブロックに対する過度の応力の発生を招くという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、急激な高速回転を伴う最小容量運転において液圧縮が発生しても斜板の異常復帰を防止することができるクラッチレス可変容量圧縮機の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明は、回転軸の軸方向へ傾動可能であって、かつ、該回転軸と一体的に回転する斜板と、前記斜板を収容するクランク室と、圧縮室から吐出された冷媒が通過する吐出圧領域と、前記圧縮室に吸入される冷媒が通過する吸入圧領域と、前記吐出圧領域における逆流を防止する逆止弁と、前記吐出圧領域とクランク室とを連通する給気路と、該給気路の途中に設置され、前記クランク室内の圧力を制御する容量制御弁と、前記吸入圧領域とクランク室を連通する抽気路と、を有するクラッチレス可変容量圧縮機において、前記逆止弁と前記圧縮室との間の前記吐出圧領域に電磁弁が備えられ、前記電磁弁は、前記容量制御弁が前記クラッチレス可変容量圧縮機の最小容量運転時に対応して前記給気路を開くとき、閉じられ、前記クラッチレス可変容量圧縮機の最小容量運転時以外の運転時に対応して給気路を閉じるとき、開かれることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、クラッチレス可変容量圧縮機の最小容量運転時には容量制御弁が開かれ、給気路を通じてクランク室へ吐出圧領域の冷媒が供給される。
このとき、電磁弁は容量制御弁の開状態に対応して閉じられる。
電磁弁が閉じられることにより、吐出圧領域における冷媒の吐出圧領域の通過が電磁弁により遮断される。
従って、圧縮室と電磁弁との間の吐出圧領域の冷媒は、逆止弁へ達することなく、給気路を通じてクランク室へ導入される。
吐出圧領域の冷媒がクランク室へ導入されることにより、クランク室内の圧力が最小容量運転に適した圧力に保たれ、斜板の復帰が防止される。
【0012】
吸入圧領域に冷媒が液体として貯留され、圧縮機が運転停止の状態にある条件下において、最小容量運転により回転軸を急激に高速回転させた結果、液圧縮が発生しても、閉弁状態の電磁弁により冷媒の逆止弁への供給は遮られるから、逆止弁の上流側の領域と下流側の領域との流量差圧が大きくなることはない。
このため、液圧縮による発生圧が逆止弁を開くことはなく、斜板の異常復帰が防止される。
【0013】
また、本発明では、上記のクラッチレス可変容量圧縮機において、前記斜板と一体的に回転する回転体が備えられ、前記斜板は前記回転体へ向けて突出されたアームを有し、前記回転体は前記アーム部と当接するガイド部を備え、前記斜板は前記回転軸の軸方向へ離隔可能に該回転軸に支持されてもよい。
【0014】
この場合、圧縮室と電磁弁との間の吐出圧領域の冷媒がクランク室へ供給されることにより斜板の復帰を妨げるから、斜板が回転体に対して回転軸の軸方向へ離隔可能であっても、斜板が異常復帰により最大容量運転時の傾斜角度以上に傾斜することはない。
【0015】
さらに、本発明では、上記のクラッチレス可変容量圧縮機において、前記容量制御弁は外部信号に基づく通電の有無に応じて開閉されてもよい。
【0016】
この場合、容量制御弁が外部信号に基づく通電の有無により給気路の開閉を行ない、電磁弁は容量制御弁の通電の有無に対応して吐出圧領域を開閉させることができる。
【0017】
また、本発明では、前記容量制御弁は吸入圧領域の圧力に応じて開閉されてもよい。
【0018】
この場合、容量制御弁は吸入圧領域の圧力に応じて給気路の開閉を行ない、電磁弁は容量制御による給気路の開閉に対応して吐出圧領域を開閉させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、急激な高速回転を伴う最小容量運転において液圧縮が発生しても斜板の異常復帰を防止することができるクラッチレス可変容量圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るクラッチレス可変容量圧縮機(以下、単に「圧縮機」と表記する)を図面に基づいて説明する。
この実施形態に係る圧縮機は車室の空調を行う車両用空調装置が備える圧縮機である。
図1は第1の実施形態に係る圧縮機の概要を示す断面図であり、図2は第1の実施形態に係る圧縮機の概念図である。
なお、図1において、左方を圧縮機の前方とし、右方を圧縮機の後方とする。
【0021】
図1に示す圧縮機は、円周方向に複数のシリンダボア11bが互いに等間隔を保って形成されたシリンダブロック11と、そのシリンダブロック11の前部側に接合されてクランク室15を形成するフロントハウジング12と、弁形成機構28を介してシリンダブロック11の後部側に接合されるリヤハウジング13とを有する。
フロントハウジング12、シリンダブロック11及びリヤハウジング13は、フロントハウジング12からリヤハウジング13まで通される通しボルト14の前後方向の締め付けにより、一体的に固定される。
【0022】
シリンダブロック11の中心には貫通孔11aが形成されており、この貫通孔11aと軸心を同じとする貫通孔12aがフロントハウジング12の中心に形成されている。
クランク室15を貫通するように回転軸16が両貫通孔11a、12aに挿通され、回転軸16はラジアル軸受17、18を介して回転自在となっている。
回転軸16の前端はフロントハウジング12から突出しており、図示しない動力伝達機構を介して外部駆動源に連結されている。
動力伝達機構は図示しないベルト及びプーリを含み、外部駆動源が駆動される場合、外部駆動源からの動力は回転軸16へ常に伝達される。
【0023】
クランク室15内には、回転軸16に固定された回転体としてのラグプレート19と、回転軸16及びラグプレート19を一体回転し、回転軸16の軸方向に傾斜可能な斜板20とが設けられている。
斜板20とラグプレート19との間にはヒンジ機構21が介在している。
ヒンジ機構21は、ガイドピンレス方式のヒンジ機構であり、ラグプレート19側へ突出するように斜板20に形成された斜板側アーム20aと、斜板20側へ突出するようにラグプレート19に形成されたラグ側アーム19aと、から構成されている。
【0024】
斜板側アーム20aとラグ側アーム19aは互いに当接してラグプレート19の回転力が斜板20に伝達される関係を有する。
具体的には、ラグプレート19の幅方向に一対のラグ側アーム19aが備えられ、ラグ側アーム19aの間に一対の斜板側アーム20aが位置するように斜板20に形成され、斜板側アーム20aはラグ側アーム19aを介して回転力が伝達される。
なお、図1においては、一方の斜板側アーム20aとラグ側アーム19aのみが図示されており、他方は図示されない。
【0025】
ラグ側アーム19aの基部には、斜板側アーム20aの突出端部と当接するガイド部19bが形成されている。
ガイド部19bは、斜板20の回転軸16の軸方向への傾動を許容する傾斜面を有し、ガイド部19bに対する斜板側アーム20aの当接位置は、回転軸16の軸方向への斜板20の傾動に応じて変わる。
ラグプレート19と斜板20との関係では、斜板20がラグプレート19から回転軸16の軸方向へ離隔可能に回転軸16に支持されていると言える。
【0026】
このヒンジ機構21を介して、斜板20がラグプレート19および回転軸16に対して、同期回転可能及び傾動可能に連結されている。
斜板20の前部にはストッパ部20bが突設されている。
図1に示すように、このストッパ部20bがラグプレート19に当接することにより、斜板20の最大傾斜位置が規制される。
なお、図1において、実線で示されている斜板22は、斜板22の最大傾斜位置を示している。
ラグプレート19と斜板20との間における回転軸16には、コイルスプリング22と、コイルスプリング22の押圧により後方へ付勢される摺動自在の筒状体23が配設されている。
斜板20は、コイルスプリング22の付勢力を受けた筒状体23により後方、すなわち、斜板20の傾斜角度が減少する方向へ向けて押圧される。
なお、斜板20の傾斜角度とは、ここでは回転軸16と直交する面と斜板20の面により成す角度を意味している。
【0027】
斜板20の後方における回転軸16には、止め輪24が取り付けられている。
この止め輪24の前方においてコイルスプリング25が回転軸16に巻装されている。
このコイルスプリング25の前部に斜板20が当接することにより、斜板20の最小傾斜位置が規制されるようになっている。
なお、図1において、二点鎖線で示されている斜板22は、斜板22の最小傾斜位置を示している。
【0028】
シリンダブロック11の各シリンダボア11bには、片頭型のピストン26が夫々往復移動可能に収容されている。
これらのピストン26の首部はクランク室15を臨み、この首部に設けたシュー27を介して斜板20の外周に係留されている。
回転軸16の回転に伴って斜板20が回転運動されるとき、シュー27を介して各ピストン26が各シリンダボア11b内を往復移動する。
【0029】
一方、図1に示されるように、リヤハウジング13の前部側とシリンダブロック11の後部側との間には弁形成機構28が介在されている。
弁形成機構28は、弁板29と、吸入弁形成板30、吐出弁形成板31及びリテーナ形成板32と、を有する。
弁板29、吸入弁形成板30、吐出弁形成板31及びリテーナ形成板32は、吸入室33と連通する吸入ポート34と、吐出室36と連通する吐出ポート37を有している。
【0030】
弁形成機構28はシリンダボア11bにおいてピストン26とともに圧縮室35を形成する。
吸入弁形成板30は、圧縮室35及び吸入室33との間に介在されるリード式の吸入弁を形成する。
吐出弁形成板31は、吐出ポート37及び吐出室36との間に介在されるリード式の吐出弁を形成する。
リテーナ形成板32は吐出弁の最大開度を規定するリテーナを形成する。
【0031】
このリヤハウジング13内の中心側には、吸入室33が形成されている。
吸入室33は弁板29に設けられる吸入ポート34により、シリンダボア11b内の圧縮室35と連通されている。
リヤハウジング13の外周側には、吐出室36が形成されており、この吐出室36と吸入室33は隔壁13aにより隔絶されている。
【0032】
吸入室33の冷媒は、ピストン26の上死点位置から下死点位置への移動により、吸入ポート34及び吸入弁を介して圧縮室35内に吸入される。
圧縮室35内に吸入された冷媒は、ピストン26の下死点位置から上死点位置への移動により所定の圧力にまで圧縮され、吐出ポート37及び吐出弁を介して吐出室36へ吐出される。
斜板20の傾斜角度は、斜板20の遠心力に起因する回転運動のモーメント、ピストン26の往復慣性力によるモーメント、冷媒の圧力によるモーメント等の各モーメントとの相互バランスに基づき決定される。
冷媒の圧力によるモーメントとは圧縮室35内の圧力と、ピストン26の背面に作用するクランク室15内の圧力との相関に基づいて発生するモーメントであり、クランク室15の圧力変動に応じて傾斜角度の増大方向又は減少方向に作用する。
【0033】
この圧縮機は、リヤハウジング13に備えられる容量制御弁40を用いてクランク室15内の圧力を調節し、冷媒の圧力によるモーメントを適宜変更することで、斜板20の傾斜角度を最小傾斜角度から最大傾斜角度の間の任意の角度に設定することを可能としている。
容量制御弁40と吐出室36とを連絡する通路41と、容量制御弁40とクランク室15とを連絡する通路42とにより給気路が構成される。
他方、クランク室15と吸入室33とを連絡する抽気路43が設けられている。
【0034】
容量制御弁40は、図1に示すように、主に、略筒状であって複数の室を持つバルブハウジング44と、バルブハウジング44に接続されるソレノイドと、弁体を有しソレノイドにより付勢される軸部材45と、を有する。
バルブハウジング44の端部に接続されているソレノイドは、固定鉄芯46と、固定鉄芯46に対向する可動鉄芯47と、固定鉄芯46と可動鉄芯47の回りを覆うように設けた電磁コイル48を有している。
固定鉄芯46は電磁コイル48へ対する通電による励磁により可動鉄芯47を引き付ける。
【0035】
ところで、容量制御弁40に対する電流供給制御は図1及び図2に示す制御部50が行う。
具体的には、空調装置を作動させるスイッチ51の操作により行なうが、スイッチ51のオンにより容量制御弁40への通電制御を行い、スイッチ51のオフにより電流の供給を停止する。
制御部50には室温設定器52と室温センサ53が電気的に接続されている。
室温設定器52は目標室温を予め設定しておくことができる設定器であり、室温センサ53は室温を検出するセンサである。
制御部50は、空調装置が運転されている場合に、設定された目標室温と検出室温との温度差により容量制御弁40に対する通電の制御を行う。
つまり、容量制御弁40は各センサ52、53の外部信号に基づく通電の有無に応じて開閉される。
【0036】
次に、外部冷媒回路54について説明する。
この実施形態では、図1及び図2に示すように、圧縮機と外部冷媒回路54とにより冷媒が循環する冷凍回路が構成されている。
外部冷媒回路54は、冷媒から熱を奪う熱交換器55と、膨張弁56と、熱を冷媒に移す熱交換器57を含む。
膨張弁56は、熱交換器55の出口側における冷媒温度の変動に対応して冷媒流量を制御する温度感知式自動膨張弁である。
外部冷媒回路54における熱交換器55の上流側は高圧側であり、熱交換器57の下流側は低圧側である。
吸入室33はリヤハウジング13に形成された吸入通路38を介して外部冷媒回路54の低圧側と接続されており、外部冷媒回路54からの冷媒は吸入通路38を通過して吸入室33へ供給することができる。
この実施形態では、吸入室33及び吸入通路38は吸入圧領域に含まれる。
【0037】
吐出室36はリヤハウジング13に形成された吐出通路39を介して外部冷媒回路54の高圧側と接続されている。
吐出室36の冷媒は吐出通路39を介して外部冷媒回路54へ供給される。
この実施形態では、吐出室36及び吐出通路39は、いずれも吐出圧領域に含まれる。
圧縮機には、吐出通路39の出口と外部冷媒回路54との間に逆止弁58が設けられている。
逆止弁58は、逆止弁58の上流側である吐出通路39と、下流側である外部冷媒回路54の高圧側との流量差圧の多寡に応じて開閉される弁である。
逆止弁58は低容量運転時において外部冷媒回路54から冷媒の逆流を防止するほか、低容量運転時における潤滑油の外部冷媒回路54への流出を防止する機能を有する。
【0038】
逆止弁58と吐出室36との間に設けた吐出通路39の途中には、電磁弁59が備えられている。
電磁弁59は開閉により吐出通路39における冷媒の通過を許容したり遮断したりする弁である。
電磁弁59は容量制御弁40の開閉に対応して開閉される。
具体的には、通電されていない容量制御弁40が開弁状態で給気路における冷媒の通過を許容する最小容量運転時には、電磁弁59は閉じて、吐出通路39における冷媒の逆止弁58側への通過を遮断する。
最小容量運転時以外の運転時である最大容量運転時、又は、中間容量運転(最大容量運転と最小容量運転の間の容量における運転)時には、圧縮機の運転時の容量に対応して容量制御弁40が閉じられる。
この時、電磁弁59は開かれ、逆止弁58は、逆止弁58の上流側である吐出通路39と、下流側である外部冷媒回路54の高圧側との流量差圧の多寡に応じて開閉される。
電磁弁59は公知の電磁弁でよく、外部信号に基づく容量制御弁40の通電の有無により制御器50の制御を受け、弁体が開閉される構造の電磁弁であればよい。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係る圧縮機の動作について説明する。
回転軸16の回転運動に伴うピストン26の往復運動に基づき、吸入室33の冷媒は弁形成機構28の吸入ポート34から吸入弁の開弁によりシリンダボア11b内へ導かれ、シリンダボア11b内の冷媒は圧縮され、吐出弁を開弁させて吐出室36へ吐出される。
吐出室36へ吐出された高圧の冷媒の大部分は外部冷媒回路54へ導かれる。
【0040】
容量制御弁40の開度が変更されることにより、通路41、42を通じた吐出室36からクランク室15への冷媒の導入量と、抽気路43を通じたクランク室15から吸入室33への冷媒の導出量とのバランスが制御される。
クランク室15への冷媒の導入量とクランク室15からの冷媒の導出量のバランスが制御されることにより、クランク室15のクランク圧が決定される。
容量制御弁40の開度を変更してクランク室15のクランク圧が変わると、ピストン26を介したクランク室15内とシリンダボア11b内の差圧が変更され、斜板20の傾斜角度が変動する。
斜板20の傾斜角度が変動することによりピストン26のストロークが変更され、ピストン26のストロークの変更に応じて圧縮機の吐出容量が変化する。
【0041】
例えば、クランク圧が下げられると、斜板20の傾斜角度が増加してピストン26のストロークが大きくなる。
ピストン26のストロークが大きくなることにより圧縮機の吐出容量は増大する。
逆に、クランク圧が上げられると、斜板20の傾斜角度が減少してピストン26のストロークは小さくなり、吐出容量は減少する。
【0042】
ところで、車両用空調装置が備える圧縮機の場合、エンジンの空ぶかし等により圧縮機が停止状態から急激に高速回転の運転状況となることがある。
例えば、圧縮機の周囲の温度が低く、吸入室33や吸入通路38に冷媒が液体として貯留され、圧縮機が運転停止の状態から、斜板20は最小の傾斜角度を維持しつつ、回転軸16を急激に高速回転(例えば、毎秒1万回転以上)させる場合である。
この場合の圧縮機における回転軸16の急激な高速回転は液圧縮を発生させる可能性が高い。
このとき、容量制御弁40は最小容量運転に対応するため通電されず通路41、42から構成される給気路を開くように開弁状態にある。
容量制御弁40が通電されない場合、電磁弁59は閉弁状態にあり吐出通路39を遮断する。
【0043】
回転軸16を急激に高速回転させることにより液圧縮が発生し、液圧縮による発生圧は吐出容量を増大させるが、電磁弁59が吐出通路における冷媒の通過を遮断するから、吐出室36や吐出通路39の冷媒は逆止弁58に達することはない。
さらに、吐出室36と電磁弁59との間の吐出通路39の冷媒が通路41、42を通じてクランク室15へ供給される。
これにより、圧縮機は斜板20の復帰を妨げるクランク圧を維持することができ、斜板20が異常復帰することを防止できる。
【0044】
第1の実施形態に係る圧縮機によれば以下の効果を奏する。
(1)圧縮機の最小容量運転に対応するために容量制御弁40へ通電されず給気路が開く状態、すなわち、容量制御弁40に通電されない状態の場合、電磁弁59は閉じて吐出通路39を遮断する。これにより最小容量運転の高速回転時に液圧縮が発生しても、吐出通路39の冷媒が逆止弁58へ導入されず、吐出通路39の冷媒が逆止弁58を通じて外部冷媒回路54へ抜けることがないから、給気路を通じて吐出室36の冷媒がクランク室15へ供給され、圧縮機は斜板20の異常復帰を抑制するクランク圧を維持することができる。従って、最小容量運転の高速回転時に液圧縮が発生しても斜板20の異常復帰を防止することができる。
【0045】
(2)急激な高速回転を伴う最小容量運転において液圧縮が発生しても斜板20の異常復帰を防止することができるから、斜板20がラグプレート19から回転軸16の軸方向へ離隔することが可能なガイドピンレス方式のヒンジ機構21を有する圧縮機であっても、ピストン26の上死点越えや、ピストン26の特定部位やピストン26近傍のシリンダブロック11に対する過度の応力の作用を防止することができる。
【0046】
(3)圧縮機の最大容量運転時、又は、中間容量運転時では、容量制御弁40へ通電されるから給気路が閉じる状態にあり、この場合、電磁弁59は吐出通路39を開くから、吐出通路39の冷媒は逆止弁58へ導入され、逆止弁58は吐出通路39と外部冷媒回路54との流量差圧により開閉される。
【0047】
(4)容量制御弁40の通電の有無による給気路の開閉に対応させて電磁弁59を開閉する制御であることから、制御の仕組みが比較的容易である。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る圧縮機について図3及び図4に基づいて説明する。
図3は、第2の実施形態に係るクラッチレス式可変容量圧縮機を示す縦断面図であり、図4は第2の実施形態に係る可変容量圧縮機の要部を示す縦断面図である。
この実施形態の圧縮機は、吸入圧の圧力に応じて容量制御弁が給気路を開閉する内部制御式の容量制御弁が用いられている点で第1の実施形態と異なる。
この実施形態では、第1の実施形態と共通又は類似する要素については第1の実施形態の説明を援用し、共通又は類似する要素は共通の符号を使用する。
【0049】
図3に示すように、リヤハウジング61には吸入室62と吐出室63が形成されている。
吸入室62と外部冷媒回路54とを連通する吸入通路64と、吐出室63と外部冷媒回路54とを連通する吐出通路65がリヤハウジング61に形成されている。
吐出通路65と外部冷媒回路54との間には逆止弁66が設けられている。
吐出室63と逆止弁66との間の吐出通路65には電磁弁67が設置されている。
電磁弁67は、第1の実施形態と同様に制御部70の制御を受けて吐出通路65を開閉する弁体を備えている。
【0050】
リヤハウジング61には、吐出室63からクランク室15へ連通する通路68、42が設けられており容量制御弁75が設けられている。
容量制御弁75は、主に、略筒状であって複数の室を持つバルブハウジング76と、球状の弁体77と、ベローズを備える感圧部材78と、ベローズの伸縮により往復動する軸体79と、を有する。
バルブハウジング76内の一方の端部には弁室80が形成され、他方の端部には感圧室81が形成され、弁室80と感圧室81との間には中間室82が形成されている。
弁室80には付勢部材により付勢された弁体77が配置され、弁室80と中間室82との間に設けられている弁孔を開閉する。
弁室80は通路68により吐出室63と連通し、中間室82は別の通路42によりクランク室15と連通する。
通路42、68及び容量制御弁75により吐出室63の冷媒をクランク室15へ供給する給気路が構成されている。
【0051】
感圧室81には感圧部材78が配置されている。
感圧部材78が有するベローズは感圧室81の圧力の変動に応じて伸縮する。
感圧室81と中間室82を貫通する貫通孔が備えられており、貫通孔に軸体79が挿通されている。
軸体79はベローズの伸縮によりバルブハウジング76内を往復動する。
最大にベローズが伸長したとき、軸体79は弁室80と中間室82が完全に連通するように弁体77を押圧する。
なお、ベローズが最も縮小するとき、弁体77は付勢部材の付勢力を受けて弁孔を閉じ、弁室80と中間室82とを連通させないようにする。
【0052】
感圧室81は、感圧路83により吸入室62と連通する。
感圧路83の途中には感圧路開閉弁85が設置されている。
感圧路開閉弁85は、通電の有無により弁体86が制御される電磁弁である。
感圧路開閉弁85は、制御部70の制御により開閉される電磁弁である。
制御部70は車両の速度又は加速度に関する情報や車両のオートマチックトランスミッション(AT)の走行モード(変速制御モード)に関する情報等の車両の走行状態に関する情報を外部信号71、72として電気的に入力する。
制御部70はこれらの外部信号71、72に基づいて感圧路開閉弁85の開閉状況を最適制御する。
【0053】
この実施形態では、感圧路開閉弁85の通電の有無に対応させて、吐出通路65に設けた電磁弁67を開閉させるようにしている。
具体的には、感圧路開閉弁85が通電されず感圧路83を開く状態では、制御部70は電磁弁67を閉じ、感圧路開閉弁85が感圧路83を閉じる状態では電磁弁67を開く制御を行う。
感圧路開閉弁85が感圧路83を開く状態では、吸入室62の圧力に応じてベローズが伸長しやすい状態にあり、ベローズが伸長すると容量制御弁75は給気路を開く。
クランク室15へ吐出室63の冷媒が供給され、圧縮機が低容量運転状態となる。
一方、電磁弁67は、通電されず感圧路開閉弁85が感圧路83を開く状態に対応して、吐出通路65を閉じる。
逆に、感圧路開閉弁85が通電されて感圧路83を閉じるとき、電磁弁67は吐出通路65を開く。
【0054】
第2の実施形態に係る圧縮機によれば、感圧路開閉弁85へ通電されず感圧路83が開く状態、すなわち、容量制御弁75により給気路が開かれ易い状態にあり、この場合、電磁弁67は吐出通路65を遮断する。
これにより圧縮機の最小容量運転時における高速回転時に液圧縮が発生しても、吐出通路65の冷媒が逆止弁66へ導入されることはなく、斜板20の異常復帰を防止することができる。
【0055】
圧縮機の最大容量運転時、又は、中間容量運転時では、感圧路開閉弁85へ通電されるから感圧路83が閉じる状態にあり、この場合、電磁弁67は吐出通路65を開くから、吐出通路65の冷媒は逆止弁66へ導入され、逆止弁66は吐出通路65と外部冷媒回路54との流量差圧により開閉される。
【0056】
感圧路開閉弁85の通電の有無による給気路の開閉に対応させて電磁弁67を通電に開閉する制御であることから、電気的制御の仕組みが比較的容易である。
さらに言うと、第2の実施形態では、第1の実施形態の作用効果(2)と同等の作用効果を奏する。
【0057】
本発明は、上記の第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1の実施形態に係るクラッチレス式可変容量圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る可変容量圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図3】第2の実施形態に係るクラッチレス式可変容量圧縮機を示す縦断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る可変容量圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0059】
11 シリンダブロック
12 フロントハウジング
13、64 リヤハウジング
15 クランク室
16 回転軸
19 ラグプレート(回転体としての)
20 斜板
21 ヒンジ機構
26 ピストン
33、92 吸入室
35 圧縮室
36、63 吐出室
38、64 吸入通路
39、65 吐出通路
40、75 容量制御弁
43 抽気路
50、70 制御部
51 スイッチ
52 室温設定器
53 室温センサ
54 外部冷媒回路
58、66 逆止弁
59、67 電磁弁
85 感圧路開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向へ傾動可能であって、かつ、該回転軸と一体的に回転する斜板と、前記斜板を収容するクランク室と、圧縮室から吐出された冷媒が通過する吐出圧領域と、前記圧縮室に吸入される冷媒が通過する吸入圧領域と、前記吐出圧領域における逆流を防止する逆止弁と、前記吐出圧領域とクランク室とを連通する給気路と、該給気路の途中に設置され、前記クランク室内の圧力を制御する容量制御弁と、前記吸入圧領域とクランク室を連通する抽気路と、を有するクラッチレス可変容量圧縮機において、
前記逆止弁と前記圧縮室との間の前記吐出圧領域に電磁弁が備えられ、
前記電磁弁は、前記容量制御弁が前記クラッチレス可変容量圧縮機の最小容量運転時に対応して前記給気路を開くとき、閉じられ、前記容量制御弁が前記クラッチレス可変容量圧縮機の最小容量運転時以外の運転時に対応して前記給気路を閉じるとき、開かれることを特徴とするクラッチレス可変容量圧縮機。
【請求項2】
前記斜板と一体的に回転する回転体が備えられ、前記斜板は前記回転体へ向けて突出されたアームを有し、前記回転体は前記アーム部と当接するガイド部を備え、前記斜板は前記回転軸の軸方向へ離隔可能に該回転軸に支持されることを特徴とする請求項1記載のクラッチレス可変容量圧縮機。
【請求項3】
前記容量制御弁は外部信号に基づく通電の有無に応じて開閉されることを特徴とする請求項1又は2記載のクラッチレス可変容量圧縮機。
【請求項4】
前記容量制御弁は吸入圧領域の圧力に応じて開閉されることを特徴とする請求項1又は2記載のクラッチレス可変容量圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−133251(P2009−133251A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309710(P2007−309710)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】