説明

クラッチ機構

【課題】従動側ギア体に主動側ギア体の回転力が伝達されないクラッチOFF状態を、簡素な構造を持って規則的に作り出せるようにする。
【解決手段】主動側ギア体1とこれに噛み合う従動側ギア体2とを備える。両ギア体1、2共に外周の一部を無歯部分13b、22としていると共に、両ギア体1、2の接点箇所Sに、主動側ギア体1の無歯部分13bにおけるその回転先頭端xが至ったときにこの接点箇所Sに従動側ギア体2の無歯部分22が位置され、かつ、両ギア体1、2の接点箇所Sに、主動側ギア体1の無歯部分13bにおけるその回転後尾端yの次ぎに位置される主動側ギア体1の歯が至ったときに、この主動側ギア体1の歯が従動側ギア体2の無歯部分22に隣り合う歯に噛み合うように、両ギア体1、2を組み合わせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッチOFF状態を、主動側ギア体の回転中心と従動側ギア体の回転中心との間の距離を変化させることなく、適切に作り出すことができるようにしたクラッチ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
原車と従車とを備えてなるクラッチ機構にあっては、従車への回転力の伝達の解除、すなわちクラッチOFF状態は、従車を移動させて原車との接触を解くことでなされるのが一般的である。
【0003】
従車を欠け歯ギアとし、この歯のない部分を原車(相手方ギア)と対向する位置に位置づけさせることによりクラッチOFF状態を作り出すものとして特許文献1に示されるものがあるが、このように従車を位置づけるために別段の回転規制手段(ソレノイド)を要するものであった。
【特許文献1】特開平11−106069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、主動側ギア体と従動側ギア体とを組み合わせてなるクラッチ機構において、従動側ギア体に主動側ギア体の回転力が伝達されないクラッチOFF状態を、簡素な構造を持って規則的に作り出せるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための、この発明では、クラッチ機構を、以下の(1)〜(3)の構成を備えたものとした。
(1)主動側ギア体とこれに噛み合う従動側ギア体とを備え、
(2)両ギア体共に外周の一部を無歯部分としていると共に、
(3)両ギア体の接点箇所に、主動側ギア体の無歯部分におけるその回転先頭端が至ったときにこの接点箇所に従動側ギア体の無歯部分が位置され、
かつ、両ギア体の接点箇所に、主動側ギア体の無歯部分におけるその回転後尾端の次ぎに位置される主動側ギア体の歯が至ったときに、この主動側ギア体の歯が従動側ギア体の無歯部分に隣り合う歯に噛み合うように、両ギア体を組み合わせている。
【0006】
かかる構成によれば、主動側ギア体の回転力を、この主動側ギア体の回転中心と従動側ギア体の回転中心との距離を一定に保った状態で、前記無歯部分によって従動側ギア体に一時的に伝達されないようにすることができる。すなわち、従動側ギア体と主動側ギア体との噛み合わせを解くように従動側ギア体を移動させることなく、簡素な構造をもってクラッチOFF状態を規則的に作り出すことができる。
【0007】
前記主動側ギア体の無歯部分及び従動側ギア体の無歯部分のいずれもが、この主動側ギア体のピッチ円に略沿った弧状面となるようにしておけば、両ギア体の歯先円はかかるピッチ円よりも外方に位置されることから、前記接点箇所に従動側ギア体の無歯部分が位置されたクラッチOFF状態から主動側ギア体が回転されてその無歯部分の回転後尾端がこの接点箇所に至るとこの回転後尾端の次ぎに位置される主動側ギア体の歯を従動側ギア体の無歯部分の側部に突き当てさせると共にこの従動側ギア体の無歯部分に隣り合う従動側ギア体の歯に噛み合わせて、従動側ギア体の連れ回りを再開させることができる。
【0008】
また、主動側ギア体の無歯部分が接点箇所に位置されるときに、この主動側ギア体の無歯部分と従動側ギア体の無歯部分とが接し合わないようにしておけば、前記接点箇所に従動側ギア体の無歯部分が位置されたクラッチOFF状態において、従動側ギア体の無歯部分が主動側ギア体の無歯部分に摺接して連れ回りしてしまうことがないようにすることができる。
【0009】
クラッチ機構を構成する従動側ギア体を、ローター体とステーター体とを備えると共にローター体の回転への抵抗付与手段を備えてなるダンパー装置のこのローター体に備えさせるようにしておけば、クラッチON時には、主動側ギア体の回転にダンパー装置による制動を付与させることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明にかかるクラッチ機構によれば、従動側ギア体に主動側ギア体の回転力が伝達されないクラッチOFF状態を、主動側ギア体と従動側ギア体のそれぞれに両者の接点箇所において主動側ギア体の所定の回転位置で向き合う無歯部分を形成させることのみをもって、規則的に作り出すことができる。また、クラッチ機構の構成部品点数をできるだけ減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1〜図5に基づいて、この発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
なお、ここで図1〜図4は、クラッチ機構を構成する主動側ギア体1と従動側ギア体2を表しており、これらが取り付けなどされる対象物の記載を省略している。また、図5は、従動側ギア体2が備えられるダンパー装置3の構成を断面にして示している。
【0013】
この実施の形態にかかるクラッチ機構は、クラッチOFF状態を、主動側ギア体1(原車体)の回転中心10と従動側ギア体2(従車体)の回転中心20との間の距離を変化させることなく、適切に作り出すことができるようにしたものである。
【0014】
かかるクラッチ機構は、典型的には、各種の動力伝達機構の全部又は一部として利用することができる。こうした場合には、主動側ギア体1が駆動側とされ、クラッチOFF時にはこの主動側ギア体1の駆動力が従動側ギア体2側に伝達されないように機能される。また、かかるクラッチ機構は、主動側ギア体1に連係される可動体や従動側ギア体2に連係される可動体の動作を制御するものとして利用することができる。こうした場合には、例えば、クラッチOFF時には、主動側ギア体1に連係する可動体の移動により主動側ギア体1が回転されても従動側ギア体2が連れ回りしないようにすることができ、また、クラッチON時には、主動側ギア体1に連係する可動体の移動による主動側ギア体1の回転に従動側ギア体2を連れ回りさせて例えば従動側ギア体2に連係された可動体を移動させるようにすることができる。
【0015】
図示の例では、クラッチ機構を構成する従動側ギア体2を、ローター体30とステーター体31とを備えると共にローター体30の回転への抵抗付与手段32を備えてなるダンパー装置3のこのローター体30に備えさせている。これにより、図示の例では、クラッチON時には、主動側ギア体1の回転にダンパー装置3による制動を付与させることができるようになっている。
【0016】
後述するように、この実施の形態にかかるクラッチ機構にあっては、 主動側ギア体1及び従動側ギア体2の一部を無歯部分13b、22とすることで、主動側ギア体1の回転に従動側ギア体2が連れ回りするクラッチON状態と、連れ回りしないクラッチOFF状態とを、この無歯部分13b、22の位置などを調整することで必要に応じたタイミングで、交互に(いずれかの状態に着目すれば断続的に)作り出すことができる。
【0017】
図示の例のように、従動側ギア体2をダンパー装置3のローター体30に備えさせた場合には、主動側ギア体1の回転に必要に応じたタイミングで制動を付与させることができる。例えば、回動軸を中心に閉じ位置と開きだし終了位置との間に亘る回動可能に本体に組み合わされたリッドなどの回動体に駆動側ギアを連係させるようにした場合、リッドの開き終わりや、閉じ終わりなど、リッドが特定の動作位置にあるときにのみダンパー装置3による制動がこのリッドに作用されるようにすることができる。このようにしておけば、リッドを例えばバネなどにより開き終わりまで強制的に回動させるようにした場合、このリッドの回動を開き終わりにおいて抑制して衝撃音の発生などを防止すると共に、その動きに節度感ないしは高級感を付与させることができる。
【0018】
かかるダンパー装置3は、例えば、図5に示されるように構成することができる。ステーター体31は、ローター体30の軸部30aの軸穴31aをステーターケース31bの一方側に備え、また、内部に抵抗付与手段32としてのシリコンオイルなどの粘性流体32aを封入させている。ローター体30は軸部30aの内端30bにローター体30内で旋回される翼体30cを備えており、この翼体30cの旋回に粘性流体32aの抵抗が作用されこの抵抗がローター体30を通じて従動側ギア体2に対する制動力となるようになっている。従動側ギア体2は中心部にローター体30の外端30dの止着穴21を備えており、この止着穴21にローター体30の外端30dを入れ込み固定させることで従動側ギア体2はローター体30の軸部30aを中心に回転されるようになっている。ステーター体31には外側に突き出す耳部31cが形成されており、この耳部31cをもってダンパー装置3すなわち従動側ギア体2を動作に制動を付与させるべき可動体を備えた機器の例えば本体側に取り付けることができるようになっている。
【0019】
かかるクラッチ機構は、主動側ギア体1とこれに噛み合う従動側ギア体2とを備えてなる。図示の例では、主動側ギア体1は、その支持軸11の固定穴12aを備えた基部12に対し、その回転中心10を円心とする円の略90度分の円弧に沿った弧状端13aを有する扇状部13の要側を一体に連接させるようにして構成されている。
【0020】
また、両ギア体1、2共に外周の一部を無歯部分13b、22としている。図示の例では、主動側ギア体1にあっては、扇状部13の弧状端13aの中央部が無歯部分13bとされ、その両側には歯列13cが備えられている。また、従動側ギア体2にあっては、その外周におけるこの従動側ギア体2を構成する歯の二つ分に相当する範囲が無歯部分22とされている。
【0021】
そして、かかるクラッチ機構にあっては、かかる両ギア体1、2を、
両ギア体1、2の接点箇所Sに、主動側ギア体1の無歯部分13bにおけるその回転先頭端xが至ったときにこの接点箇所Sに従動側ギア体2の無歯部分22が位置され、(図2)
かつ、両ギア体1、2の接点箇所Sに、主動側ギア体1の無歯部分13bにおけるその回転後尾端yの次ぎに位置される主動側ギア体1の歯が至ったときに、この主動側ギア体1の歯が従動側ギア体2の無歯部分22に隣り合う歯に噛み合うように、(図3)組み合わせている。
【0022】
図示の例では、主動側ギア体1の扇状部13の弧状端13aの一方端と従動側ギア体2とが接点箇所Sで噛み合わされている状態から図1における反時計回りの向きに約30度主動側ギア体1が回転されるとこの主動側ギア体1の無歯部分13bの回転先頭端xと従動側ギア体2の無歯部分22とが接点箇所Sにおいて向き合い、(図2)さらに反時計回りの向きに約30度主動側ギア体1が回転されるとこの主動側ギア体1の無歯部分13bの回転後尾端yと従動側ギア体2の無歯部分22とが接点箇所Sにおいて向き合い、(図3)さらに反時計回りの向きに約30度主動側ギア体1が回転されると主動側ギア体1の扇状部13の弧状端13aの他方端と従動側ギア体2とが接点箇所Sで噛み合わされている状態となるようになっている。(図4)この図4の状態から主動側ギア体1が図4における時計回りの向きに回転されると、再び図1の状態に戻るようになっている。このときは図1の位置から図4の位置に向けた回転時の無歯部分13bの回転先頭端xが回転後尾端yとなる。(したがってまた、図1の位置から図4の位置に向けた回転時の無歯部分13bの回転後尾端yが回転先頭端xとなる。)図示の例では、主動側ギア体1が正逆いずれの向きに回転される場合にも、回転開始位置から30度〜60度の回転範囲においては従動側ギア体2が連れ回りしないように、つまりクラッチOFF状態となるようになっており、ダンパー装置3の制動はかかる回転開始位置から30度までの回転範囲と、60度から90度までの回転範囲とにおいてのみ作用されるようになっている。
【0023】
これにより、この例にあっては、主動側ギア体1の回転力を、この主動側ギア体1の回転中心10と従動側ギア体2の回転中心20との距離を一定に保った状態で、前記無歯部分13b、22によって従動側ギア体2に一時的に伝達されないようにすることができる。すなわち、従動側ギア体2と主動側ギア体1との噛み合わせを解くように従動側ギア体2を移動させることなく、簡素な構造をもってクラッチOFF状態を規則的に作り出すことができる。
【0024】
この実施の形態にあってはまた、主動側ギア体1の無歯部分13b及び従動側ギア体2の無歯部分22のいずれもが、この主動側ギア体1のピッチ円に略沿った弧状面となっている。
【0025】
両ギア体1、2の歯先円はかかるピッチ円よりも外方に位置されることから、前記接点箇所Sに従動側ギア体2の無歯部分22が位置されたクラッチOFF状態から主動側ギア体1が回転されてその無歯部分13b、22の回転後尾端yがこの接点箇所Sに至るとこの回転後尾端yの次ぎに位置される主動側ギア体1の歯を従動側ギア体2の無歯部分22の側部に突き当てさせると共にこの従動側ギア体2の無歯部分22に隣り合う従動側ギア体2の歯に噛み合わせて、従動側ギア体2の連れ回りを再開させることができる。(図2から図3または図3から図2)
【0026】
この実施の形態にあってはまた、主動側ギア体1の無歯部分13bが接点箇所Sに位置されるときに、この主動側ギア体1の無歯部分13bと従動側ギア体2の無歯部分22とが接し合わないようになっている。具体的には、主動側ギア体1の無歯部分13bが接点箇所Sに位置されるときに、この主動側ギア体1の無歯部分13bと従動側ギア体2の無歯部分22との間に、主動側ギア体1のピッチ円と歯先円との寸法差以下のクリアランスが形成されるようになっている。これにより、この例にあっては、前記接点箇所Sに従動側ギア体2の無歯部分22が位置されたクラッチOFF状態において、従動側ギア体2の無歯部分22が主動側ギア体1の無歯部分13bに摺接して連れ回りしてしまうことがないようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】クラッチ装置の正面構成図
【図2】クラッチ装置の正面構成図
【図3】クラッチ装置の正面構成図
【図4】クラッチ装置の正面構成図
【図5】クラッチ装置の断面構成図
【符号の説明】
【0028】
1 主動側ギア体
13b 無歯部分
2 従動側ギア体
22 無歯部分
S 接点箇所
x 回転先頭端
y 回転後尾端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主動側ギア体とこれに噛み合う従動側ギア体とを備え、
両ギア体共に外周の一部を無歯部分としていると共に、
両ギア体の接点箇所に、主動側ギア体の無歯部分におけるその回転先頭端が至ったときにこの接点箇所に従動側ギア体の無歯部分が位置され、
かつ、両ギア体の接点箇所に、主動側ギア体の無歯部分におけるその回転後尾端の次ぎに位置される主動側ギア体の歯が至ったときに、この主動側ギア体の歯が従動側ギア体の無歯部分に隣り合う歯に噛み合うように、
両ギア体を組み合わせていることを特徴とするクラッチ機構。
【請求項2】
主動側ギア体の無歯部分及び従動側ギア体の無歯部分のいずれもが、この主動側ギア体のピッチ円に略沿った弧状面となっていることを特徴とする請求項1記載のクラッチ機構。
【請求項3】
主動側ギア体の無歯部分が接点箇所に位置されるときに、この主動側ギア体の無歯部分と従動側ギア体の無歯部分とが接し合わないようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のクラッチ機構。
【請求項4】
従動側ギア体を、ローター体とステーター体とを備えると共にローター体の回転への抵抗付与手段を備えてなるダンパー装置のこのローター体に備えさせて構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のクラッチ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−240854(P2008−240854A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80923(P2007−80923)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】