説明

クラッドシートの製造装置

【課題】原料粉末の劣化を防止する。
【解決手段】板状の基材Yと該基材Yの少なくとも一方の面に固着されたクラッド層Zとを備えるクラッドシートの製造装置であって、溶融された金属原料を粉末化することにより原料粉末Xとする粉末製造手段1と、上記基材Yの少なくとも一方の面に上記粉末製造手段1によって製造された上記原料粉末Xを供給する供給手段2,3と、該供給手段2,3によって上記基材Yの少なくとも一方の面に供給された上記原料粉末Xを上記基材に対して圧着する圧着手段3と、該圧着手段3によって圧着された上記原料粉末Xを熱処理によって上記クラッド層とする熱処理手段4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の基材と該基材の少なくとも一方側に固着されたクラッド層とを備えるクラッドシートの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、板状の基材と該基材の少なくとも一方側に固着されたクラッド層とを備えるクラッドシートが知られている。
このようなクラッドシートを製造する場合には、一般的にクラッド層のみからなるシートを形成し、このクラッド層のみからなるシートと基材とを圧延処理によって貼り合わせる方法が用いられる。
【0003】
ところが、クラッド層のみからなるシートと基材とは、異なる材料によって形成されているため、貼り合わせには困難が伴う。例えば、クラッド層のみからなるシートと基材との延性が大きく異なる場合には、圧延処理による貼り合わせが困難となる。
よって従来のクラッドシートの製造方法においては、クラッド層の成分比率を調節することによって、クラッド層のみからなるシートと基材との延性を近づける等の圧延処理が可能な条件合わせを行う必要が生じ、クラッド層の選択の幅が狭まる等の問題が生じていた。
【0004】
このため、近年においては、原料粉末を基材に対して圧着させた後に熱処理することによってクラッド層とするクラッドシートの製造方法が提案されている。このような原料粉末を用いたクラッドシートの製造方法によれば、従来のクラッドシートの製造方法が抱える問題を解消することができる。
【特許文献1】特開2004−25251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料粉末を基材に対して圧着させるクラッドシートの製造方法においては、クラッドシートの製造装置の外部において原料粉末を製造する必要がある。
このため、原料粉末がクラッドシートの製造装置に供給されるまでの間に相当の時間を必要とし、当該間に原料粉末が酸化等により劣化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、原料粉末の劣化を防止することが可能なクラッドシートの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、板状の基材と該基材の少なくとも一方の面に固着されたクラッド層とを備えるクラッドシートの製造装置であって、溶融された金属原料を粉末化することにより原料粉末とする粉末製造手段と、上記基材の少なくとも一方の面に上記粉末製造手段によって製造された上記原料粉末を供給する供給手段と、該供給手段によって上記基材の少なくとも一方の面に供給された上記原料粉末を上記基材に対して圧着する圧着手段と、該圧着手段によって圧着された上記原料粉末を熱処理によって上記クラッド層とする熱処理手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような特徴を有する本発明によれば、粉末製造手段を備えており、粉末製造手段において製造された原料粉末が供給手段によって基材に対して供給される。
【0009】
また、本発明においては、上記供給手段は、上記粉末製造手段によって製造された上記原料粉末の粒度分布を調節する粒度分布調節手段を備え、粒度分布が調節された上記原料粉末を上記基材の少なくとも一方の面に供給するという構成を採用する。
【0010】
また、本発明においては、上記粒度分布調節手段は、上記粉末製造手段によって製造された上記原料粉末が内部に供給される筐体と、該筐体の内部に配置される単一あるいは複数の篩と、上記筐体を振動させる振動手段とを備えるという構成を採用する。
【0011】
また、本発明においては、異なる原料粉末を製造する上記粉末製造手段を備えるという構成を採用する。
【0012】
また、本発明においては、上記供給手段以降における上記原料粉末の成分を分析する分析手段と、該分析手段の検出結果に基づいて各粉末製造手段における上記原料粉末の製造量を制御する制御手段とを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉末製造手段を備えており、粉末製造手段において製造された原料粉末が供給手段によって基材に対して供給される。
すなわち、本発明によれば、クラッドシートの製造装置の内部において原料粉末が製造され、当該原料粉末がすぐに基材に対して供給される。
このため、本発明によれば、原料粉末の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るクラッドシートの製造装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のクラッドシートの製造装置の概略構成を示す模式図である。
この図に示すように、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1は、粉末製造装置1と、振動篩装置2(粒度分布調節手段)と、コールドスプレー装置3(圧着手段)と、加熱炉4(熱処理手段)と、回収ローラ5とを備えている。
【0016】
粉末製造装置1は、原料粉末の原料となる溶融した金属原料を貯蓄する容器11と、容器11から溶融した金属原料を線流状に落下するためのノズル12と、該ノズル12から落下する金属原料に対してガスをジェット噴射する噴射装置13とを備えている。
このような粉末製造装置1においては、容器11からノズル12を介して流出した溶融金属原料に対して噴射装置13からガスをジェット噴射することによって、溶融した金属原料が粉末化され、これによって原料粉末Xが製造される。
【0017】
振動篩装置2は、粉末製造装置1によって製造された原料粉末Xが内部に供給される筐体21と、筐体21の内部において上下に配列される2つの篩22と、筐体21を震動させるための振動装置23とを備えている。
篩22は、上方に配置される篩22aと下方に配置される篩22bとによって構成されている。篩22aと篩22bとは、目の粗さで異なっており、篩22aが粒度の粗い粉末を分離する目の粗さを有しており、篩22bが粒度の細かい粉末を分離する目の粗さを有している。
そして、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1において、振動篩装置2は、篩22aと篩22bとの間に形成された排出口21aを介して、基材Yに対して圧着する原料粉末Xを排出する。
このように、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1においては、粉末製造装置1から供給された原料粉末Xが篩22を介することによって、原料粉末Xの粒度分布が調節される。
なお、篩22aによって取り除かれた粒度の粗い原料粉末X1は、篩22aの上方に形成された排出口21bを介して外部に排出される。また、篩22bから落下した粒度の細かい原料粉末X2は、篩22bの下方に形成された排出口21cを介して外部に排出される。このように排出口21b及び排出口21cから外部に排出された原料粉末X1,X2は、所定の処理を施した後に容器11に戻されることによって再利用することができる。
【0018】
コールドスプレー装置3は、原料粉末Xを溶融あるいはガス化させることなく作動ガスと共に音速〜超音速流で固相状態のまま基材Yに衝突させるものであり、振動篩装置2の排出口21aに一端が接続されるフレキシブルホース31と、該フレキシブルホース31の他端に接続されると共に原料粉末Xを噴射することによって基材Yに対して圧着させるスプレーノズル32とを備えている。
このようなコールドスプレー装置3によって原料粉末Xが衝突されることによって基材Yの一方側に原料粉末Xが圧着される。
また、スプレーノズル32は、フレキシブルホース31を介して振動篩装置2と接続されている。このため作業者あるいは移動装置がスプレーノズル32を容易に移動させることができ、このようにスプレーノズル32を移動させることによって基材Yの面全体に均一な厚みで原料粉末Xを配置することができる。
【0019】
なお、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1においては、振動篩装置2及びコールドスプレー装置3によって原料粉末Xが基材Yの一方側の表面に対して供給される。すなわち、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1においては、本発明における供給手段が、振動篩装置2及びコールドスプレー装置3によって構成されている。つまり、コールドスプレー装置3は、本発明における圧着手段を構成すると共に供給手段の一部を構成している。
【0020】
加熱炉4は、原料粉末Xが配置された基材Yごと、原料粉末Xの融点近傍まで加熱することによって、これによって、基材Y原料粉末Xが溶融あるいは焼結し、その後冷却されることによってクラッド層Zとされる。
【0021】
回収ローラ5は、加熱炉4から排出された基材Y(すなわちクラッドシート)を巻き取ることによって回収するものである。
【0022】
このような構成を有する本実施形態のクラッドシートの製造装置D1においては、粉末製造装置1によって原料粉末Xが製造され、この製造された原料粉末Xの粒度分布が振動篩装置2によって調節される。そして、粒度分布が調節された原料粉末Xがコールドスプレー装置3によって基材Yの一方側の表面に対して噴射され、当該原料粉末Xが加熱炉4によって加熱された後に冷却されることによってクラッド層Zとされる。
そして、クラッド層Zが形成された基材Y(すなわちクラッドシート)が回収ローラ5によって巻き取られることによって回収される。
【0023】
以上のような本実施形態のクラッドシートの製造装置D1によれば、粉末製造装置1を備えており、粉末製造装置1において製造された原料粉末Xが振動篩装置2及びコールドスプレー装置3によって基材Yに対して供給される。
すなわち、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1によれば、クラッドシートの製造装置の内部において原料粉末Xが製造され、当該原料粉末Xがすぐに基材Yに対して供給される。
このため、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1によれば、原料粉末Xの劣化を防止することができる。
【0024】
また、本実施形態のクラッドシートの製造装置D1によれば、振動篩装置2によって原料粉末Xの粒度分布が調節される。このため、基材Yに圧着される原料粉末Xの粒度分布を所望の範囲とすることができ、加熱炉4において均一に溶融及び焼結が行われ、これによって均一な性質のクラッド層Zを形成することができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0026】
図2は、本実施形態のクラッドシートの製造装置D2の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態のクラッドシートの製造装置D2は、2つの粉末製造装置1A,1Bを備えている。また、本実施形態のクラッドシートの製造装置D2は、振動篩装置2の排出口21aから排出された原料粉末Xの成分を分析する分析装置6と、該分析装置6(分析装置)の分析結果に基づいて粉末製造装置1A,1Bの制御を行う制御装置7(制御手段)とを備える。
【0027】
粉末製造装置1A,1Bは、異なる成分の原料粉末を製造するものである。このため、本実施形態における原料粉末Xは、粉末製造装置1Aによって製造された原料粉末と、粉末製造装置1Bによって製造された原料粉末との混合粉末となる。
【0028】
分析装置6は、粉末製造装置1Aによって製造された原料粉末と、粉末製造装置1Bによって製造された原料粉末との混合粉末である原料粉末Xの成分(すなわち粉末製造装置1Aによって製造された原料粉末と、粉末製造装置1Bによって製造された原料粉末との割合)を分析してその分析結果を出力するものである。
なお、分析装置6は、振動篩装置2とコールドスプレー装置3との間に設置されており、基材Yに対して供給される原料粉末Xの成分を分析する。
【0029】
制御装置7は、粉末製造装置1A,1B及び分析装置6と電気的に接続されており、分析装置6から入力される分析結果に基づいて、粉末製造装置1Aにおける原料粉末の製造量及び粉末製造装置1Bにおける原料粉末の製造量を制御するものである。
なお、制御装置7は、予め基材Yに対して供給すべき原料粉末の成分割合を記憶しており、記憶した成分割合と分析装置6から入力される分析結果とを比較し、この比較結果に基づいて粉末製造装置1Aにおける原料粉末の製造量と、粉末製造装置1Bにおける原料粉末の製造量とを制御する。
【0030】
このような構成を有する本実施形態のクラッドシートの製造装置D2においては、基材Yに対して供給される原料粉末Xの成分が分析装置6によって分析され、基材Yに対して供給される原料粉末Xの成分割合が予め設定された成分割合からずれた場合には、制御装置7によって粉末製造装置1A,1Bにおける粉末の製造量が調節される。
したがって、本実施形態のクラッドシートの製造装置D2によれば、基材Yに対して供給される原料粉末Xの成分割合を安定させることができ、品質の安定したクラッドシートを製造することが可能となる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係るクラッドシートの製造装置の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。

例えば、上記実施形態においては、基材Yの一方側の表面のみに原料粉末Xを供給する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、基材Yの両側の表面に原料粉末Xを供給しても良い。
このように基材Yの両側の表面に対して原料粉末Xを供給する場合には、基材Yの両側に対して粉末製造装置1、振動篩装置2及びコールドスプレー装置3を各々設置しても良いし、コールドスプレー装置3を振動篩装置2に対して2つ接続しても良いし、上記実施形態と同一の構成にてコールドスプレー装置3のスプレーノズル32を移動させても良い。
【0032】
また、上記実施形態においては、コールドスプレー装置3によって原料粉末Xを基材Yに対して圧着させる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、一対の圧延ローラ間において原料粉末Xを基材Yに対して圧着させても良い。
また、圧延ローラを用いて原料粉末Xを基材Yに圧着させる場合には、ベルトフィーダ等を用いて原料粉末Xを圧延ローラの周面上に供給することができる。
【0033】
また、上記実施形態においては、2つの篩22を備える振動篩装置2を用いて原料粉末Xの粒度分布を調節する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、粒度分布を調節する必要がない場合には、振動篩装置2を設置しなくても良い。また、粗い原料粉末あるいは細かい原料粉末のみを排除すれば足りる場合には、篩22を1つにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態であるクラッドシートの製造装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態であるクラッドシートの製造装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0035】
D1,D2……クラッドシートの製造装置、1,1A,1B……粉末製造装置(粉末製造手段)、2……振動篩装置(粒度分布調節手段)、22(22a,22b)……篩、3……コールドスプレー装置(圧着手段)、4……加熱炉(熱処理手段)、6……分析装置(分析手段)、7……制御装置(制御手段)、X……原料粉末、Y……基材、Z……クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基材と該基材の少なくとも一方の面に固着されたクラッド層とを備えるクラッドシートの製造装置であって、
溶融された金属原料を粉末化することにより原料粉末とする粉末製造手段と、
前記基材の少なくとも一方の面に前記粉末製造手段によって製造された前記原料粉末を供給する供給手段と、
該供給手段によって前記基材の少なくとも一方の面に供給された前記原料粉末を前記基材に対して圧着する圧着手段と、
該圧着手段によって圧着された前記原料粉末を熱処理によって前記クラッド層とする熱処理手段と
を備えることを特徴とするクラッドシートの製造装置。
【請求項2】
前記供給手段は、前記粉末製造手段によって製造された前記原料粉末の粒度分布を調節する粒度分布調節手段を備え、粒度分布が調節された前記原料粉末を前記基材の少なくとも一方の面に供給することを特徴とする請求項1記載のクラッドシートの製造装置。
【請求項3】
前記粒度分布調節手段は、前記粉末製造手段によって製造された前記原料粉末が内部に供給される筐体と、該筐体の内部に配置される単一あるいは複数の篩と、前記筐体を振動させる振動手段とを備えることを特徴とする請求項2記載のクラッドシートの製造装置。
【請求項4】
異なる原料粉末を製造する前記粉末製造手段を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のクラッドシートの製造装置。
【請求項5】
前記供給手段以降における前記原料粉末の成分を分析する分析手段と、
該分析手段の検出結果に基づいて各粉末製造手段における前記原料粉末の製造量を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする請求項4記載のクラッドシートの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−270168(P2009−270168A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122620(P2008−122620)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】