説明

クリンチエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上できるクリンチエイペックス用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いて作製したクリンチエイペックスを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】シリカと、熱伝導率が100W/mK以上の炭素繊維とを含むクリンチエイペックス用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンチエイペックス用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの低燃費性の要求が高まっており、クリンチエイペックスゴムについても、低燃費性の向上のために、低発熱性充填剤としてシリカ等のカーボンブラック以外の充填剤の使用が検討されている。
【0003】
しかし、従来から使用されているカーボンブラックをシリカに置き換えると、硬度が低下し、操縦安定性が低下するという問題があった。また、カーボンブラックを繊維状充填剤に置き換え、繊維長方向の剛性を向上させ、操縦安定性を向上させる検討も行われているが、機械強度が低下して耐久性が低下するという問題があった。このように、低燃費性の向上のために、カーボンブラックをシリカや繊維状充填剤に置き換えると、操縦安定性や耐久性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1には、繊維状充填剤を含むチェーファー用ゴム組成物について開示されているが、繊維状充填剤について詳細に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−137437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上できるクリンチエイペックス用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いて作製したクリンチエイペックスを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術では、カーボンブラックと炭素繊維を併用することで、耐久性と操縦安定性が向上している。本発明者は、シリカと炭素繊維を併用した場合には、低燃費性と操縦安定性は向上するが、補強性が低下することにより耐久性は低下するものと考えていた。しかし、本発明者は、鋭意検討の結果、シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維とを併用することにより、低燃費性、操縦安定性だけではなく、耐久性をも向上できることを見出した。
本発明は、シリカと、熱伝導率が100W/mK以上の炭素繊維とを含むクリンチエイペックス用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記ゴム組成物は、熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。上記ゴム組成物は、ブタジエンゴムを30質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、前記シリカの含有量が15〜80質量部、前記炭素繊維の含有量が2〜25質量部、前記熱硬化性樹脂の含有量が2〜10質量部であることが好ましい。
【0009】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したクリンチエイペックスを有する空気入りタイヤに関する。
【0010】
上記クリンチエイペックスの、タイヤ周方向の複素弾性率Eaとタイヤラジアル方向の複素弾性率Ebとの比Ea/Ebが1.5以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維とを含むクリンチエイペックス用ゴム組成物であるので、該ゴム組成物をクリンチエイペックスに適用することにより、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上できる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維とを含む。
【0013】
本発明で使用できるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、スチレンイソプレンゴム、イソプレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性(リムとの耐摩耗性)に優れるという理由から、NR、BR、SBRが好ましく、NR及びBRを併用することがより好ましい。
【0014】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。
【0015】
NRの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。20質量%未満であると、加工性が悪化する傾向がある。該NRの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。80質量%を超えると、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0016】
BRの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。20質量%未満であると、耐摩耗性が低下するおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。80質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0017】
NR及びBRの合計含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。80質量%未満であると、SBR等の他のゴム成分を配合することになり、転がり抵抗が不利になる傾向がある。
【0018】
本発明では、シリカが使用される。シリカを配合することにより、転がり抵抗を低減でき、低燃費性を向上できる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0019】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、60m/g以上がより好ましく、70m/g以上が更に好ましい。50m/g未満では、耐久性が低下するおそれがある。また、シリカのNSAは、240m/g以下が好ましく、220m/g以下がより好ましく、200m/g以下が更に好ましく、150m/g以下が特に好ましく、100m/g以下が最も好ましい。240m/gを超えると、加工性が悪化するおそれがある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0020】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上である。15質量部未満であると、シリカ配合による充分な効果が得られない傾向がある。上記シリカの含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。80質量部を超えると、転がり抵抗が大きくなり、シリカを配合するメリットが小さくなる。
【0021】
シリカと共に、シランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、耐久性が向上する。
本発明で使用されるシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、加工性が良好であるという理由からビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが好ましい。
【0022】
本発明では、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維が使用される。これにより、低燃費性、操縦安定性だけではなく、耐久性が大幅に向上する。
【0023】
炭素繊維の熱伝導率は、100W/mK以上であり、好ましくは300W/mK以上、より好ましくは400W/mK以上である。100W/mK未満であると、充分な耐久性が得られないおそれがある。一方、炭素繊維の熱伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば、2000W/mK以下である。
ここで、炭素繊維の熱伝導率は、JIS R1611−1997「ファインセラミックスのレーザフラッシュ法による、熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法」の熱伝導率試験方法に準じて測定される値である。
【0024】
炭素繊維は、ゴム中への分散、低発熱性向上の観点から、平均繊維径が1〜80μmであることが好ましい。平均繊維径の下限は、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。また、平均繊維径の上限は、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0025】
また、炭素繊維は、ゴム中への分散、低発熱性向上の観点から、平均繊維長が20〜500μmであることが好ましい。平均繊維長の下限は、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは50μm以上である。また、平均繊維長の上限は、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。
なお、上記平均繊維径、平均繊維長は、例えば、電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0026】
上記熱伝導率が特定値以上の炭素繊維としては、例えば、帝人(株)製のラヒーマR−A201、R−A301等が挙げられる。
【0027】
炭素繊維の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは8質量部以上である。2質量部未満では、耐久性が向上しないおそれがある。また、該炭素繊維の含有量は、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。25質量部を超えると、配合量に見合った耐久性の向上効果が得られなくなる傾向がある。
【0028】
本発明のゴム組成物には、熱硬化性樹脂を配合してもよい。熱硬化性樹脂を配合することにより、ゴム成分と炭素繊維との接着性が向上するため、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上しつつ、更に耐摩耗性(リムとの耐摩耗性)を向上できる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、クレゾール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。なかでも、耐久性の向上効果が高いという理由から、フェノール系樹脂が好ましい。
【0029】
フェノール系樹脂としては、例えば、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるフェノール樹脂;カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどを用いて変性した変性フェノール樹脂等が挙げられる。フェノール系樹脂のなかでも、ゴム成分との相溶性が高いという理由から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂又はロジン変性フェノール樹脂が好ましい。
【0030】
本発明のゴム組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合、熱硬化性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。2質量部未満では、耐久性向上効果が充分に得られないおそれがある。また、該熱硬化性樹脂の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。10質量部を超えると、ゴムが硬くなりすぎるおそれがある。
【0031】
本発明では、カーボンブラックを配合してもよい。これにより、耐久性が向上する。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、カーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。30m/g未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、100m/g以下が更に好ましい。200m/gを超えると、未加硫時の粘度が非常に高くなり、加工性が悪化する傾向、または、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0033】
本発明のゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。3質量部未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。30質量部を超えると、発熱が大きくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0034】
炭素繊維、シリカ、カーボンブラックの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは45質量部以上である。40質量部未満では、充分な補強性が得られず、ゴムが柔らかくなるおそれがある。また、該合計含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。100質量部を超えると、発熱が高く、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0035】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、クレー等の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0036】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0037】
本発明のゴム組成物は、タイヤのクリンチエイペックスとして用いられる。クリンチエイペックスとは、サイドウォールの内方端に配されるゴム部であり、具体的には、例えば、特開2008−75066号公報の図1、特開2004−106796号公報の図1等に示される部材である。
【0038】
本発明の空気入りタイヤ(空気入りラジアルタイヤ)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのクリンチエイペックスの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0039】
また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、バス用タイヤ、トラック用タイヤ等として好適に用いられる。
【0040】
クリンチエイペックスの、タイヤ周方向の複素弾性率Eaとタイヤラジアル方向の複素弾性率Ebとの比Ea/Ebは、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.55以上、更に好ましくは1.60以上である。1.50未満であると、操縦安定性が低下するおそれがある。
該比は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.9以下である。2.0を超えると、加工性が悪化するおそれがある。なお、タイヤラジアル方向とは、タイヤ周方向に対して直角となる方向をいう。
【0041】
aは、好ましくは4.5MPa以上、より好ましくは5.0MPa以上である。4.5MPa未満であると、操縦安定性が低下するおそれがある。Eaの上限は、特に限定されないが、Ea/Ebを上記範囲に設定することができる値であることが好ましい。
【0042】
bは、好ましくは6.0MPa以下、より好ましくは5.6MPa以下である。6.0MPaを超えると、乗り心地性能が悪化するおそれがある。Ebの下限は、特に限定されないが、Ea/Ebを上記範囲に設定することができる値であることが好ましい。
【0043】
ここで、本発明において複素弾性率とは、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2%の条件で粘弾性スペクトロメーターを用いて測定し求められる値をいう。
【0044】
本発明において、上記のようなクリンチエイペックスにおけるタイヤ周方向とタイヤラジアル方向との複素弾性率の異方性の付与は、Ea/Ebを上記範囲に設定することができれば特に限定されるものではないが、例えば、クリンチエイペックス用ゴム組成物をシート状に押出し成形する際の押出し条件の調整によりクリンチエイペックス用ゴム組成物に配合された炭素繊維の配向性を制御する方法などにより行なうことができる。具体的には、例えば、炭素繊維をタイヤ周方向に配向させることにより、タイヤ周方向がタイヤラジアル方向に比べてより高剛性となるように異方性を制御することができる。
【実施例】
【0045】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0046】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR:宇部興産社製のBR130B
紙繊維:三共精粉社製のミルファイブ100(クラフト紙粉砕品(熱伝導率:10W/mK、平均繊維径:0.1μm、平均繊維長:10μm))
炭素繊維1:東レ社製のMLD−300(熱伝導率:10W/mK、平均繊維径:
7μm、平均繊維長:130μm)
炭素繊維2:帝人社製のラヒーマR−A301(熱伝導率:600W/mK、平均繊維径:8μm、平均繊維長:200μm)
熱硬化性樹脂:住友ベークライト社製のフェノール系硬化レジン「スミライトレジンPR12686」(カシューオイル変性フェノール樹脂)
カーボンブラック:三菱化学社製のダイヤブラックH(N330)(NSA:79m/g)
シリカ:ローディア社製のZeosil 115Gr(NSA:86m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
老化防止剤:精工化学社製のオゾノン6C
ワックス:大内新興化学工業社製のサンノックワックス
オイル:出光興産社製のダイアナプロセスNH60
ステアリン酸:日油社製の桐
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製の銀嶺R
硫黄:鶴見化学社製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製のノクセラ−NS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0047】
実施例1〜10及び比較例1〜8
表1、2に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が58%になるように充填し、回転数80rpmで150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0048】
得られた未加硫ゴム組成物をクリンチエイペックス部の形状に成形後、これを他の部材とともに貼り合わせ、150℃で35分間、25kgfでプレス加硫することにより、試験用空気入りラジアルタイヤ(サイズ:195/65R15)を作製した。なお、クリンチエイペックスでは、繊維状充填剤である炭素繊維をタイヤ周方向に配向させた。
【0049】
得られた試験用空気入りラジアルタイヤの詳細は、以下の通りである。
<空気入りラジアルタイヤの構造>
カーカス:材料 ポリエステル(1500デニール)
構成 1500デニール/2(1670dtex/2)
エンズ 50コード/50mm
ブレーカー:材料 スチールコード、
構造 1×4×0.27、エンズ40コード/50mm
角度 22°×22°
【0050】
得られた試験用空気入りラジアルタイヤについて下記の評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0051】
<複素弾性率>
得られた試験用空気入りラジアルタイヤのクリンチエイペックス部から短冊状試料(幅4mm×長さ30mm×厚み1.5mm)を作製し、この試料を用いて岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターにより、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2%の条件でタイヤ周方向の複素弾性率Eaとタイヤラジアル方向の複素弾性率Eb、これらの比Ea/Ebを求めた。また同条件でtanδを測定した。Eaが大きいほど、タイヤ周方向の剛性に優れ、Ebが大きいほど、タイヤラジアル方向の剛性に優れることを示す。Ea/Ebが1.5未満であると、操縦安定性と乗り心地性能の両立に劣ることを示す。また、tanδが小さいほど、低燃費性に優れることを示す。
【0052】
<引張強度>
JIS−K6251に従って、得られた試験用空気入りラジアルタイヤのクリンチエイペックス部から引張り方向がタイヤ周方向に対して平行となるように7号ダンベルを用いてサンプルを打ち抜き、引張り試験を実施して、破断時の引張強度を測定した。
【0053】
<操縦安定性および乗り心地性能>
得られた試験用空気入りラジアルタイヤを車に装着し、テストコースにて40〜100km/hで走行し、操縦安定性(ハンドル応答性、剛性感、グリップ性)および乗り心地性能についてテストドライバーによる官能試験を実施した。評価は10点満点法で行ない、3人のドライバーの平均値を、比較例1の結果を100として指数表示した。指数が大きいほど操縦安定性および乗り心地性能に優れることを示す。
【0054】
<耐久性>
空気圧を230kPaにした試験用空気入りラジアルタイヤに対して6.86kNの荷重を加えながらドラム上を80km/hの一定速度で走行させ、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定し、比較例1の結果を100として指数表示した。指数が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0055】
<リムとの耐摩耗性>
空気圧を230kPaにした試験用空気入りラジアルタイヤに対して6.86kNの荷重を加えながらドラム上を80km/hの一定速度で10000km走行させた。走行後のタイヤをリムより外し、リムと接触しているクリンチエイペックスゴム部分の摩耗外観を目視により観察した。比較例1の結果を「△」とし、評価した(○は△よりも優れ、×は△よりも劣る)。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維とを含む実施例は、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上できた。さらに、シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維と、熱硬化性樹脂とを含む実施例6〜10(特に実施例7〜10)は、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上しつつ、更に耐摩耗性(リムとの耐摩耗性)を向上できた。一方、シリカと、熱伝導率が特定値以上の炭素繊維とを含まない比較例は、低燃費性、操縦安定性、耐久性をバランスよく向上できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、熱伝導率が100W/mK以上の炭素繊維とを含むクリンチエイペックス用ゴム組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂を含む請求項1記載のクリンチエイペックス用ゴム組成物。
【請求項3】
ブタジエンゴムを30質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、前記シリカの含有量が15〜80質量部、前記炭素繊維の含有量が2〜25質量部、前記熱硬化性樹脂の含有量が2〜10質量部である請求項2記載のクリンチエイペックス用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したクリンチエイペックスを有する空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記クリンチエイペックスの、タイヤ周方向の複素弾性率Eaとタイヤラジアル方向の複素弾性率Ebとの比Ea/Ebが1.5以上である請求項4記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−140548(P2011−140548A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1371(P2010−1371)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】