説明

クレーンの安全確認装置

【課題】安全性と実用性に優れたクレーンの安全確認装置を提供する。
【解決手段】吊荷10の下方領域を含むクレーン周辺領域を上方から撮像するためのカメラ9a〜9eと、カメラ9a〜9eによって撮像されたクレーン周辺領域の画像を表示するために運転室に設けられたモニターと、カメラ9a〜9eによって撮像されたクレーン周辺領域の画像から作業者WのヘルメットHを認識する認識部を備える。認識部によって認識されたヘルメットHの画像を、モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの周囲で作業する作業者の安全を確認するためのクレーンの安全確認装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンを使用して作業を行う建築現場などでは、地上の作業者の安全性を確保するために、監視員を配置し、その監視員の合図によってクレーンの運転者が操作を行うようにしている。しかしながら、監視員と運転者との間で合図による安全確認が確実に行われるという保証は無く、作業者が吊荷の下方などの危険領域に立ち入っているにもかかわらず運転者がクレーンの操作を行う危険性がある。
【0003】
従来、上記クレーン作業における安全確認方法として、例えば、クレーンのブームの先端から地表に向けて光を照射して、危険領域を光の輪として地表に描くことにより、作業者に危険範囲を知らしめる方法が提案されている(下記特許文献1参照)。また、別の安全確認方法として、クレーンのブームの先端に設けた発信機から下方の危険領域内に限定して警戒信号を発し、作業者がその危険領域に立ち入った場合に、作業者のヘルメット等に取り付けられた受信機が警戒信号を受信して警報を発する技術が提案されている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−7384号公報
【特許文献2】特開2002−327330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1や上記特許文献2等によって提案されている安全確認方法は、実現性に乏しく実用化が困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑み、安全性と実用性に優れたクレーンの安全確認装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、吊荷の下方領域を含むクレーン周辺領域を上方から撮像するためのカメラと、前記カメラによって撮像されたクレーン周辺領域の画像を表示するために運転室に設けられたモニターと、前記カメラによって撮像されたクレーン周辺領域の画像から作業者のヘルメットを認識する認識部を備え、前記認識部によって認識されたヘルメットの画像を、前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するように構成したクレーンの安全確認装置である。
【0008】
本発明に係るクレーンの安全確認装置は、認識部によって認識されたヘルメットの画像を、モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するようにしているので、運転者が作業者の位置や動きを容易に把握することが可能である。これにより、運転者自身が容易に安全確認を行うことができ、クレーン作業における安全性を向上させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のクレーンの安全確認装置において、クレーン周辺領域における危険領域を設定する危険領域設定部を備え、前記危険領域設定部によって設定された危険領域を、前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するように構成したものである。
【0010】
危険領域設定部によって危険領域を設定し、その危険領域をモニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示することにより、作業者が危険領域内に存在するか否かについて運転者が容易に把握することができ、安全性が向上する。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のクレーンの安全確認装置において、作業者のヘルメットが前記危険領域内にあるか否かを判定する判定部を備え、前記判定部によって前記危険領域内にあると判定されたヘルメットを、その他のヘルメットと異なる色で前記モニターに表示するように構成したものである。
【0012】
判定部によって作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定された場合、危険領域内のヘルメットをモニターの画像上で異なる色で表示することによって、運転者に注意喚起を行うことができ、運転者が危険を察知しやすくなる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3に記載のクレーンの安全確認装置において、前記判定部によってヘルメットが前記危険領域内にあると判定された場合に警告を発する警告手段を備えたものである。
【0014】
判定部によって作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定された場合、警告を発することによって、運転者に注意喚起を行うことができ、運転者が危険を察知しやすくなる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項3又は4に記載のクレーンの安全確認装置において、前記判定部によってヘルメットが前記危険領域内にあると判定された後、所定時間内に運転者が危険回避操作を行わない場合にクレーンの駆動を強制的に停止させる駆動停止手段を備えたものである。
【0016】
運転者が危険回避操作を行わない場合に、クレーンの駆動を強制的に停止させることによって、事故の発生を防止することができ、安全を確保することが可能である。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5に記載のクレーンの安全確認装置において、前記駆動停止手段によってクレーンの駆動を強制的に停止させる際、クレーンの駆動速度を漸減的に又は段階的に減速させて駆動を停止させるように構成したものである。
【0018】
駆動停止手段によってクレーンの駆動を強制的に停止させる際、クレーンの動作を急激に停止させると、荷振れなどの問題が生じる。そこで、クレーンの駆動を強制的に停止させる際に、クレーンの駆動速度を漸減的に又は段階的に減速させて駆動を停止させることにより、荷振れなどの発生を抑制することができる。
【0019】
請求項7の発明は、請求項2から6のいずれか1項に記載のクレーンの安全確認装置において、前記危険領域設定部によって設定される前記危険領域は、現在の状況により設定された現在の危険領域と、運転者によるクレーンの操作状況から予測して設定された将来の危険領域を含むこととした。
【0020】
前記危険範囲が、現在の状況により設定された現在の危険領域だけでなく、運転者によるクレーンの操作状況から予測して設定された将来の危険領域も含めることで、将来の安全性も確保することが可能となる。
【0021】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれか1項に記載のクレーンの安全確認装置において、前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に、所定時間内に移動した前記ヘルメットの画像の軌跡を表示するように構成したものである。
【0022】
所定時間内に移動したヘルメットの軌跡を、モニターに表示することによって、運転者は作業者の移動方向や移動速度を推測することができ、未然に危険を回避しやすくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、作業者のヘルメットの画像を運転室に設けられたモニターに表示することによって、運転者が作業者の位置や動きを容易に把握できるようにしている。本発明によれば、このようなシンプルな構成によって、運転者自身が容易に安全確認を行うことができ、安全性と実用性に優れたクレーンの安全確認装置を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るクレーンの安全確認装置を備えた移動式クレーンの概略構成図である。
【図2】前記安全確認装置のブロック図である。
【図3】前記安全確認装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】モニターに表示される画像の一例を示す図である。
【図5】クレーンが停止している状態で、作業者が危険領域内に存在する状態を示す画像の図である。
【図6】クレーンがブームを左旋回させようとしている状態で、作業者が危険領域内に存在する状態を示す画像の図である。
【図7】クレーンが前後方向に移動しようとしている状態で、作業者が危険領域内に存在する状態を示す画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面に基づいて、本発明のクレーンの安全確認装置について説明する。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明に係る安全確認装置を備えた移動式クレーンの概略構成図である。図1に示すように、クレーン1は、走行可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3を備える。上部旋回体3の上部には、基端ブーム41と中間ブーム42と先端ブーム43とから成る多段伸縮式のブーム4が配設されている。また、上部旋回体3の上部に、ブーム4を起伏させるための伸縮可能な起伏シリンダ5が配設してある。ブーム4の先端からは、ワイヤ6を介してフック7が吊り下げられている。ワイヤ6の一端は、上部旋回体3に搭載されたウインチ8に巻き付けられ、このウインチ8を駆動させてワイヤ6を巻き取り・繰り出すことにより、フック7を昇降可能に構成されている。
【0027】
なお、図1において、符号Wで示すのは、クレーン1の周囲で作業する作業者である。これら作業者Wは、それぞれヘルメットHを装着している。
【0028】
また、クレーン1は複数のカメラを備えている。詳しくは、クレーン1は、ブーム4の先端に取り付けられた第1カメラ9a、ブーム4の中間位置に取り付けられた第2カメラ9b、上部旋回体3の後部に取り付けられた第3カメラ9c、上部旋回体3の両側面に取り付けられた第4カメラ9d及び第5カメラ9e(図示省略)を備える。図1において、各カメラ9a〜9dから延びる二本の一点鎖線で挟まれた範囲は、各カメラ9a〜9dの撮像範囲を示す。
【0029】
ブーム4の先端に取り付けられた第1カメラ9aは、クレーン1の周辺領域全体を撮像する。しかし、図1に示すように、フック7に吊荷10を吊り下げている場合、第1カメラ9aによって吊荷10の下方領域を撮像することができない。そこで、この吊荷10の下方領域を、ブーム4の中間位置に取り付けられた第2カメラ9bによって撮像するようにしている。また、第2カメラ9bは、図の矢印に示す方向に回動して角度を変更可能に構成されている。これにより、第2カメラ9bは撮像範囲を変化させることができるようになっている。
【0030】
また、クレーン1の後方や側方における車体周辺領域には、第1カメラ9aによって撮像することができない箇所がある。そのため、クレーン1の後方や側方の車体周辺領域を、クレーン1の後部及び両側面に取り付けられた第3カメラ9c、第4カメラ9d、第5カメラ9eによって撮像するようにしている。このように、クレーン1に複数のカメラ9a〜9eを取り付けることによって、吊荷の下方領域を含むクレーン周辺領域を死角のない状態で撮像することができるようにしている。
【0031】
図2は、本発明に係るクレーンの安全確認装置のブロック図である。図2に示すように、本発明に係る安全確認装置は、上記複数のカメラ9a〜9eと、各種センサ11a〜11fと、手入力部12と、コンピュータ13と、モニター14と、警告手段15と、駆動停止手段16を備える。
【0032】
上記各種センサ11a〜11fは、ブーム4の長さを検知するブーム長さ検知センサ11aと、ブーム4の仰角を検知するブーム仰角検知センサ11bと、ブーム4の方位を検知するブーム方位検知センサ11cと、ワイヤ6に生じる張力を検知するワイヤ張力検知センサ11dと、ワイヤ6の繰り出し長さを検知するワイヤ繰り出し長さ検知センサ11eと、風向と風速を検知する風向・風速検知センサ11fとから構成されている。これらのセンサ11a〜11fは、クレーン1の所定の箇所に適宜取り付けられている。
【0033】
手入力部12、モニター14、警告手段15は、上部旋回体3に設けた運転室3a(図1参照)内に配設されている。手入力部12は、運転者が吊荷10の形状や品名等の情報をコンピュータ13へ入力するために設けられている。また、モニター14は、上記各カメラ9a〜9eによって撮像された画像をコンピュータ13で処理して表示するためのものである。警告手段15は、例えば、警告音を発生させる警報装置である。ただし、警告手段15は、音声によって警告を発する装置以外に、シグナルライトを点滅させるなどの光によって警告を発する装置や、モニターに警告メッセージを表示するなどの映像によって警告を発する装置、あるいはこれらの手段を複合して警告を発する装置によって構成することも可能である。
【0034】
上記駆動停止手段16は、クレーン1の駆動を強制的に停止させるインタロック機構である。また、駆動停止手段16によって強制的に停止させる駆動は、クレーン1の移動や旋回、ブーム4の起伏や伸縮、ワイヤ6を巻き取りや繰り出し等から適宜設定すればよい。
【0035】
上記コンピュータ13は、クレーン1の駆動及びクレーン1に搭載された各種装置を制御する制御部として機能するものである。具体的には、コンピュータ13は、複数のカメラ9a〜9e、各種センサ11a〜11f、手入力部12等から入手した情報を処理して、その処理した情報をモニター14に出力したり、処理した情報に基づいて警告手段15や駆動停止手段16を作動させたりするように構成されている。
【0036】
詳しくは、コンピュータ13は、俯瞰画像作成部17と、認識部18と、危険領域設定部19と、合成画像作成部20と、判定部21と、タイマー22を有している。俯瞰画像作成部17は、各カメラ9a〜9eによって撮像した画像情報を得て1つの俯瞰画像(上方から地表を見下ろした画像)を作成する機能を有する。認識部18は、各カメラ9a〜9eによって撮像された画像(俯瞰画像)からターゲットとしての作業者のヘルメットを認識する機能を有する。認識部18によるヘルメットの認識感度は、適宜設定可能となっている。認識感度が高過ぎると誤認識が増え、作業効率の低下を招く虞があるからである。
【0037】
また、危険領域設定部19は、各種センサ11a〜11fによって得た情報と入力部12によって入力された情報に基づいて、クレーン周辺領域おける危険領域を設定する。さらに、危険領域設定部19は、クレーン1の運転者による操作レバーの操作やその操作量等に基づいて運転者の操作意図を予測して危険領域を設定するようにも構成されている。すなわち、危険領域設定部19によって設定される危険領域は、現在の状況により設定された現在の危険領域と、運転者によるクレーン1の操作状況から予測して設定された将来の危険領域を含む。なお、危険領域設定部19による計算処理は、運転者等のユーザーのノウハウを反映させるために適宜設定されたルールに基づいて実行可能に構成することが望ましい。
【0038】
合成画像作成部20は、俯瞰画像作成部17によって作成された俯瞰画像に危険領域設定部19によって設定された危険領域の情報を反映させた合成画像を作成するものである。合成画像作成部20によって作成された合成画像は、モニター14に表示されるようになっている。
【0039】
判定部21は、合成画像作成部20によって形成された合成画像から、作業者のヘルメットが危険領域内に有るか否かを判定する。この判定部21による判定結果は、モニター14に表示された合成画像に反映されるようになっている。具体的には、判定部21によって危険領域内にあると判定されたヘルメットを、その他のヘルメット(危険領域外のヘルメット)と異なる色でモニター14に表示するようにしている。また、判定部21によってヘルメットが危険領域内にあると判定された場合は、警告手段15が警告を発するようになっている。
【0040】
タイマー21は、判定部21によってヘルメットが危険領域内にあると判定した直後、あるいはその後に警告手段15が警告を発した直後から、駆動停止手段16を作動させるまでの所定時間(猶予時間)をカウントするものである。ただし、タイマー21がカウントする所定時間(猶予時間)内に、運転者が危険回避操作を行った場合は、駆動停止手段16は作動しないようになっている。
【0041】
以下、本発明に係るクレーンの安全確認装置の動作について、図1及び図2と、図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。クレーンによる作業を開始した場合、複数のカメラ9a〜9eによってクレーン周辺領域の様子が撮像されると共に(図3のS1参照)、各種センサ11a〜11fによってブーム長さ等のクレーン操作状況や風向等の周辺環境の情報が検知される(図3のS2参照)。複数のカメラ9a〜9eと各種センサ11a〜11fによって入手された情報は、それぞれコンピュータ13へ入力される。また、必要に応じて、運転者は手入力部12を操作して、吊荷の形状や品名等の情報をコンピュータ13へ入力する(図3のS3参照)。
【0042】
上記各情報が入力されたコンピュータ13では、俯瞰画像作成部17によって、上記複数のカメラ9a〜9eが撮像した画像から1つの俯瞰画像が作成される(図3のS4参照)。さらに、認識部18によって、俯瞰画像が解析され、ターゲットとしての作業者のヘルメットが認識される(図3のS6参照)。また、危険領域設定部19によって、上記各種センサ11a〜11fが検知した情報と、運転者が手入力部12を操作して入力した情報から、危険領域が設定される(図3のS5参照)。そして、合成画像作成部20によって、俯瞰画像に危険領域の情報を反映させた合成画像が作成され(図3のS7参照)、作成された合成画像は、運転室内に設けられたモニター14に表示される(図3のS8参照)。
【0043】
図4にモニター14に表示される画像の一例を示す。図4に示すように、上記複数のカメラ9a〜9eで撮像されたクレーンの周辺領域の各画像は、上記俯瞰画像作成部17によって画像処理され、簡略化された1つの俯瞰画像として表示される。図4において、符号1はクレーンを示し、点線Bで囲まれた領域は吊荷の下方領域を示す。この場合、クレーン1は吊荷10を吊り上げて停止した状態にある。
【0044】
図4において、複数の白丸は、上記認識部18によって認識された作業者のヘルメットHを示す。また、ヘルメットHを表示する白丸から延びた実線は、所定時間(例えば過去10秒間)内に移動したヘルメットHの軌跡を表している。また、図4において、点線Cで囲まれた領域は、上記危険領域設定部19によって設定された危険領域である。この危険領域Cは、吊荷が落下した場合又は吊荷を降下させた場合に、作業者に危険が及ぶ虞のある領域を設定しているが、具体的には以下のようにして設定される。
【0045】
上記センサによって検知されたブーム長さ、ブーム仰角、ブーム方位の情報から、吊荷位置を算出し、算出した吊荷位置に基づいて危険領域Cの位置を設定する。また、上記センサによって検知されたワイヤ張力とワイヤ繰り出し長さから、吊荷重量及び吊荷高さを算出して吊荷が落下したときに生じる衝撃を予測し、危険領域Cの広さを設定する。また、上記センサによって検知された風向・風速から、吊荷が落下したときの風の影響による落下位置のずれを予測し、危険領域Cの位置を補正する。また、運転者によって、吊荷形状や吊荷品名(吊荷密度・吊荷容積)等が入力されている場合は、これらの情報も考慮して危険領域Cの設定を行う。
【0046】
上記のように作成された合成画像に基づいて、判定部21が作業者のヘルメットが危険領域内に有るか否かを判定する(図3のS9参照)。図4に示すように、ヘルメットHが危険領域C内に無い場合は、運転者は作業を続行する(図3のS10参照)。また、複数のカメラ9a〜9eによる撮像、及び各種センサ11a〜11fによる検知は、作業が終了するまで所定のルーチンに従って連続的に繰り返し行われ、最新の情報によって作成された合成画像がモニター14に表示される。また、判定部21は更新された合成画像に基づいてヘルメットが危険領域内に有るか否かの判定を繰り返し行う。一方、判定部21によって、作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定した場合は、警告手段15によって警告を発すると共に、危険領域内にあるヘルメットをその他のヘルメット(危険領域外のヘルメット)と異なる色でモニター14に識別表示する(図3のS11参照)。また、判定部21によって、作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定した場合、タイマー21が所定時間(猶予時間)のカウントを開始する(図3のS11参照)。なお、タイマー21は、警告手段15が警告を発した直後にカウントを開始するようにしてもよい。
【0047】
図5に示すように、モニター14の表示画面の危険領域C内にヘルメットHが存在する場合は、その危険領域C内のヘルメットHを黒色で示し、危険領域C外のヘルメットH(白色で表示されたヘルメットH)と異なる色で表示する。なお、ここでは危険領域C内のヘルメットとその他のヘルメットを、便宜的に黒色と白色によって区別して表示しているが、これら以外の色によってヘルメットを区別してもよい。
【0048】
このように危険領域C内のヘルメットHをモニター14の画像上で異なる色で表示したり、警告手段15によって警告を発したりすることにより、運転者に危険回避操作を促す。そして、タイマー21が所定時間をカウントしている間に、運転者によって危険回避操作が行われた場合、運転者は操作を続行し、以後、上記と同様に判定部21によって危険領域内にヘルメットがあるか否かの判定が繰り返し行われる。一方、所定時間内に運転者による危険回避操作が行われなかった場合は、駆動停止手段16によってクレーンの駆動が強制的に停止させられる(図3のS12参照)。
【0049】
なお、駆動停止手段16によってクレーンの駆動を強制的に停止させる際、クレーンの動作を急激に停止させると、荷振れなどの問題が生じる。このような問題を解消するため、タイマー21によるカウント中に、クレーンの駆動速度を漸減的に又は段階的に減速させて駆動を停止させることが望ましい。
【0050】
図6は、モニター14に表示された別の合成画像を示す。この合成画像は、図4又は図5と異なり、クレーンが吊荷を吊り上げた状態でブームを左旋回させようとしている状態を示している。ブームを左旋回させる際、クレーンや吊荷の移動先にいる作業者にも危険が及ぶ虞がある。そこで、この場合は、クレーンが吊荷を吊り上げて停止した現在の状況から判断される現在の危険領域だけでなく、ブームを左旋回させたときに予測される将来の危険領域も設定するようにしている。現在の危険領域と将来の危険領域は、上記危険領域設定部19によって設定される。なお、図6において、点線で表示された危険領域Cは、現在の危険領域であり、将来の危険領域は特に図示していない。そして、判定部21によって、それらの危険領域の少なくとも一方にヘルメットがあると判定された場合は、図6に示すように、危険領域に含まれるヘルメットをその他のヘルメットと異なる色で表示したり、警告手段15によって警告を発したりするなど、上記と同様の危険回避措置が行われる。
【0051】
また、図7は、モニター14に表示されたさらに別の合成画像を示す。この合成画像は、上記各合成画像と異なり、クレーンが吊荷を吊り上げた状態で前後に移動しようとしている状態を示す。クレーンを前方又は後方に移動させる際、クレーンや吊荷の移動先にいる作業者にも危険が及ぶ虞がある。そこで、この場合、クレーンが吊荷を吊り上げて停止した現在の状況から判断される現在の危険領域だけでなく、クレーンを前方又は後方に移動させたときに予測される将来の危険領域も設定するようにしている。また、図6の場合と同様に、図7において、現在の危険領域Cは図示しているが、将来の危険領域は図示していない。また、図7に示す場合も、現在の危険領域と将来の危険領域は、上記危険領域設定部19によって設定され、上記と同様に危険回避措置が行われる。
【0052】
以上のように、本発明に係るクレーンの安全確認装置は、作業者がヘルメットを装着している点に着目し、クレーン周辺領域で作業する作業者のヘルメットの画像を運転室に設けられたモニターに表示することによって、運転者が作業者の位置や動きを容易に把握できるようにしている。さらに、モニターにヘルメットの画像を表示する際、所定時間内に移動したヘルメットの軌跡も表示することによって、運転者は作業者の移動方向や移動速度を推測することができ、未然に危険を回避しやすくなる。本発明は、このようにシンプルな構成によって、運転者自身が容易に安全確認を行うことを可能にしている。
【0053】
また、本発明は、コンピュータ(危険領域設定部)によって危険領域を設定し、その危険領域をモニターに表示するようにしているので、作業者が危険領域内に存在するか否かについて運転者が容易に把握することができ、安全性が向上する。しかも、コンピュータによって設定される危険範囲が、現在の状況により設定された現在の危険領域だけでなく、運転者によるクレーンの操作状況から予測して設定された将来の危険領域も含めることで、将来の安全性も確保することが可能となる。
【0054】
さらに、本発明は、コンピュータ(判定部)によって作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定された場合、危険領域内のヘルメットをモニターの画像上で異なる色で表示したり、警告を発したりして、運転者に注意喚起を行うようにしているので、運転者が危険を察知しやすくなる。
【0055】
また、本発明は、作業者のヘルメットが危険領域内にあると判定された後、所定時間内に運転者が危険回避操作を行わない場合は、クレーンの駆動を強制的に停止させるようにしている。これにより、事故の発生を防止することができ、安全を確保することが可能である。
【0056】
なお、本発明に係る安全確認装置と、従来の監視員による人的安全確認を併用することも可能である。この場合、クレーン作業の安全性を一層向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。また、本発明に係る安全確認装置は、図1に示す移動式クレーンに限らず、タワークレーン等の固定式クレーンについても適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 クレーン
9a〜9e カメラ
10 吊荷
14 モニター
15 警告手段
16 駆動停止手段
18 認識部
19 危険領域設定部
21 判定部
B 吊荷の下方領域
C 危険領域
H ヘルメット
W 作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷の下方領域を含むクレーン周辺領域を上方から撮像するためのカメラと、
前記カメラによって撮像されたクレーン周辺領域の画像を表示するために運転室に設けられたモニターと、
前記カメラによって撮像されたクレーン周辺領域の画像から作業者のヘルメットを認識する認識部を備え、
前記認識部によって認識されたヘルメットの画像を、前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するように構成したことを特徴とするクレーンの安全確認装置。
【請求項2】
クレーン周辺領域における危険領域を設定する危険領域設定部を備え、
前記危険領域設定部によって設定された危険領域を、前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に表示するように構成した請求項1に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項3】
作業者のヘルメットが前記危険領域内にあるか否かを判定する判定部を備え、
前記判定部によって前記危険領域内にあると判定されたヘルメットを、その他のヘルメットと異なる色で前記モニターに表示するように構成した請求項2に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項4】
前記判定部によってヘルメットが前記危険領域内にあると判定された場合に警告を発する警告手段を備えた請求項3に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項5】
前記判定部によってヘルメットが前記危険領域内にあると判定された後、所定時間内に運転者が危険回避操作を行わない場合にクレーンの駆動を強制的に停止させる駆動停止手段を備えた請求項3又は4に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項6】
前記駆動停止手段によってクレーンの駆動を強制的に停止させる際、クレーンの駆動速度を漸減的に又は段階的に減速させて駆動を停止させるように構成した請求項5に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項7】
前記危険領域設定部によって設定される前記危険領域は、現在の状況により設定された現在の危険領域と、運転者によるクレーンの操作状況から予測して設定された将来の危険領域を含む請求項2から6のいずれか1項に記載のクレーンの安全確認装置。
【請求項8】
前記モニターに表示されたクレーン周辺領域の画像に、所定時間内に移動した前記ヘルメットの画像の軌跡を表示するように構成した請求項1から7のいずれか1項に記載のクレーンの安全確認装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−241548(P2010−241548A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91457(P2009−91457)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】