説明

クレーンの強風時旋回補助装置

【課題】クレーン周辺に存在する干渉物との接触を回避しつつ、ジブを風下側へ確実に向け、クレーンの風に対する受圧面積を減らして風荷重を低減し得るクレーンの強風時旋回補助装置を提供する。
【解決手段】基準方向に対するジブの旋回角度θを含むクレーンの状態を監視するクレーン状態監視手段20と、
前記基準方向に対する風向α及び風速Vを検出する風検出手段30と、
前記クレーン状態監視手段20で監視されるジブの旋回角度θと、前記風検出手段30で検出された風向α及び風速Vとに基づき、風速Vが風速設定値以上である場合に、前記ジブの旋回角度θと風向αとを比較し、その偏差が偏差設定値以下になるよう、旋回体の旋回手段としての旋回モータ4aへ旋回指令βを出力する制御手段40と
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの強風時旋回補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビル等の構築物を建設する際にはクライミングクレーンが用いられている。
【0003】
図6は従来のクライミングクレーンの一例を示す概略図であって、クライミングクレーン1は、上方へマストブロック2aを順次継ぎ足し可能なマスト2の頂部に、該マスト2に沿って昇降可能な昇降ユニット3を介して旋回体4を旋回自在に配置し、該旋回体4上にジブ5を起伏自在に取り付け、前記旋回体4に、後方へ延びるカウンタフレーム6を一体に設け、該カウンタフレーム6上に、吊荷用フック7を吊り下げるワイヤロープ8を巻上げ下げするための巻上装置9と、ジブ5の起伏用のワイヤロープ10を巻上げ下げするための起伏装置11とを設置してなる構成を有している。
【0004】
一方、図6に示されるようなマスト2を地上から自立させるタイプのクライミングクレーン1の他に、超高層ビル等の構築物建設予定地の内側に所要高さのクライミングクレーンを設置し、該クライミングクレーンにより建築資材を吊上げて複数のフロアを構築し、該構築したフロアの梁にクライミングクレーンのマストを支持せしめ、クライミングクレーンを上昇させて再び上部にフロアを構築する作業を繰り返すことにより、順次上方に工事を行って超高層ビル等の構築物を建設するようにしたタイプのクライミングクレーンもある。
【0005】
前述の如きクライミングクレーン1では、台風の接近等で強風が予想される場合、作業を休止した状態において、前記旋回体4のブレーキ装置(図示せず)を解放し、いわゆる風見鶏のように、ジブ5が風向に応じて自由に回動し、風下側へ向くようにすることにより、クライミングクレーン1の風に対する受圧面積を減らし、風荷重を低減することが行われていた。
【0006】
尚、前述の如きクレーンと関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2004−59163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年のビル等の構築物の建設現場においては、クライミングクレーン1の周辺に他のクレーンや建造物等の干渉物が存在していることが多く、クライミングクレーン1が旋回しても前記干渉物に接触しないようにしなければならないが、このように干渉物との接触を回避するためには、前記ジブ5を起立させ、該ジブ5の休止時における旋回半径を小さくする必要があった。
【0008】
ところが、前述の如くジブ5を起立させると、風によるクライミングクレーン1の旋回力が小さくなり、ジブ5が風下側へ向きにくくなってしまい、結果的に、クライミングクレーン1の風に対する受圧面積を減らして風荷重を低減することが困難となっていた。
【0009】
そこで、従来は、クライミングクレーン1の吊荷用フック7を旋回体4に固縛し、ジブ5の煽りを防止したり、ジブ5を倒伏させて固定部に固縛したりすることも考えられているが、どれも十分な対策となっていなかった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、クレーン周辺に存在する干渉物との接触を回避しつつ、ジブを風下側へ確実に向け、クレーンの風に対する受圧面積を減らして風荷重を低減し得るクレーンの強風時旋回補助装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、旋回手段の作動により旋回自在に配置された旋回体上にジブを起伏自在に取り付けてなるクレーンの強風時旋回補助装置であって、
基準方向に対するジブの旋回角度を含むクレーンの状態を監視するクレーン状態監視手段と、
前記基準方向に対する風向及び風速を検出する風検出手段と、
前記クレーン状態監視手段で監視されるジブの旋回角度と、前記風検出手段で検出された風向及び風速とに基づき、風速が風速設定値以上である場合に、前記ジブの旋回角度と風向とを比較し、その偏差が偏差設定値以下になるよう、前記旋回手段へ旋回指令を出力する制御手段と
を備えたことを特徴とするクレーンの強風時旋回補助装置にかかるものである。
【0012】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0013】
クレーンの休止時、クレーン状態監視手段において、基準方向に対するジブの旋回角度を含むクレーンの状態が監視されており、風検出手段にて前記基準方向に対する風向及び風速が検出されると、制御手段において、前記クレーン状態監視手段で監視されるジブの旋回角度と、前記風検出手段で検出された風向及び風速とに基づき、風速が風速設定値以上である場合に、前記ジブの旋回角度と風向とが比較され、その偏差が偏差設定値以下になるよう、旋回体の旋回手段へ旋回指令が出力される。
【0014】
これにより、近年のビル等の構築物の建設現場において、クレーンの周辺に他のクレーンや建造物等の干渉物が存在している場合に、クレーンが旋回しても前記干渉物に接触しないように、前記ジブを起立させ、該ジブの休止時における旋回半径を小さくしたとしても、ジブは風向に応じて確実に回動し、風下側へ向くようになり、クレーンの風に対する受圧面積が減り、風荷重を低減することが可能となる。
【0015】
前記クレーンの強風時旋回補助装置においては、複数基のクレーンが配置されている場合に、基準となる一つの風検出手段で検出された風向及び風速に基づいて複数基のクレーンのジブの旋回角度を制御するよう構成することができる。
【0016】
又、前記クレーンの強風時旋回補助装置においては、複数基のクレーンが配置されている場合に、各クレーン毎に風検出手段を設け、該各風検出手段で検出された風向の平均値及び風速の平均値に基づいて複数基のクレーンのジブの旋回角度を制御するよう構成することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクレーンの強風時旋回補助装置によれば、クレーン周辺に存在する干渉物との接触を回避しつつ、ジブを風下側へ確実に向け、クレーンの風に対する受圧面積を減らして風荷重を低減し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、基準方向に対するジブ5の旋回角度θを含むクライミングクレーン1の状態を監視するクレーン状態監視手段20と、
前記基準方向に対する風向α及び風速Vを検出する風検出手段30と、
前記クレーン状態監視手段20で監視されるジブ5の旋回角度θと、前記風検出手段30で検出された風向α及び風速Vとに基づき、風速Vが風速設定値以上(例えば、V≧16[m/sec])である場合に、前記ジブ5の旋回角度θと風向αとを比較し、その偏差が偏差設定値以下になるよう、旋回体4の旋回手段としての旋回モータ4aへ旋回指令βを出力する制御手段40と
を備えた点にある。
【0020】
本図示例の場合、前記風検出手段30としては、例えば、図1に示す如く、台座30a上に、前端にプロペラ30bを有し且つ後端に尾翼30cを有する流線型胴体30dを水平方向に旋回自在に取り付けることにより、プロペラ30bを常に風上に向け、風向αを検出すると同時に、プロペラ30bの回転数により風速Vを検出できる風向風速計30eを用い、該風向風速計30eを旋回体4から後方へ延びるカウンタフレーム6上に設置するようにしてある。
【0021】
尚、前記クレーン状態監視手段20は、図2に示す例では制御手段40から分離させているが、その機能を制御手段40の内部に組み込み、前記風検出手段30で検出される風向α及び風速Vという情報をも、基準方向に対するジブ5の旋回角度θと共にクライミングクレーン1の状態として監視するようにし、制御手段40の内部で処理を行うようにしても良いことは言うまでもない。
【0022】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0023】
クライミングクレーン1の休止時、クレーン状態監視手段20において、基準方向に対するジブ5の旋回角度θを含むクライミングクレーン1の状態が監視されており、風検出手段30にて前記基準方向に対する風向α及び風速Vが検出されると、制御手段40において、前記クレーン状態監視手段20で監視されるジブ5の旋回角度θと、前記風検出手段30で検出された風向α及び風速Vとに基づき、風速Vが風速設定値以上である場合に、前記ジブ5の旋回角度θと風向αとが比較され、その偏差が偏差設定値以下になるよう、旋回体4の旋回手段としての旋回モータ4aへ旋回指令βが出力される。
【0024】
ここで、例えば、前記ジブ5の基準方向を北とし、右旋回方向をプラス、左旋回方向をマイナスとすると、図3(a)に示す如く、ジブ5が東を向き、風が北西から南東へ吹いている場合には、基準方向に対するジブ5の旋回角度θは90°、風向αは135°であって、該ジブ5の旋回角度θと風向αとの偏差は45°となるため、ジブ5を右旋回させる旋回指令βが旋回モータ4aへ出力される一方、図3(b)に示す如く、ジブ5が北西を向き、風が北東から南西へ吹いている場合には、基準方向に対するジブ5の旋回角度θは−45°(315°)、風向αは−135°(225°)であって、該ジブ5の旋回角度θと風向αとの偏差は−90°となるため、ジブ5を左旋回させる旋回指令βが旋回モータ4aへ出力される形となる。
【0025】
尚、前記ジブ5の旋回角度θと風向αとはその偏差が完全に0となるのが理想ではあるが、実際の風向αは時々刻々変化し、これに完全に追従させようとすると、ジブ5が常時小刻みに旋回動作を繰り返してしまうため、本図示例の場合には、前記偏差が完全に0とならなくてもある範囲なら許容されるように、偏差設定値を決めており、該偏差設定値は、およそ10〜20°の範囲で状況に応じて設定すれば良い。
【0026】
これにより、近年のビル等の構築物の建設現場において、クライミングクレーン1の周辺に他のクレーンや建造物等の干渉物が存在している場合に、クライミングクレーン1が旋回しても前記干渉物に接触しないように、前記ジブ5を起立させ、該ジブ5の休止時における旋回半径を小さくしたとしても、ジブ5は風向αに応じて確実に回動し、風下側へ向くようになり、クライミングクレーン1の風に対する受圧面積が減り、風荷重を低減することが可能となる。
【0027】
こうして、クライミングクレーン1周辺に存在する干渉物との接触を回避しつつ、ジブ5を風下側へ確実に向け、クライミングクレーン1の風に対する受圧面積を減らして風荷重を低減し得る。
【0028】
前述の如きクライミングクレーン1が複数基(図4、図5の例では第一、第二、第三の三基)配置されている場合、各々のクライミングクレーン1を個別に制御することは勿論可能であるが、例えば、図4に示す如く、基準となる第一のクライミングクレーン1に設けられた制御手段40において、第一、第二、第三のクレーン状態監視手段20にそれぞれ監視されるジブ5の旋回角度θと、前記基準となる第一のクライミングクレーン1に設けられた一つの風検出手段30で検出された風向α及び風速Vとに基づき、風速Vが風速設定値以上である場合に、第一、第二、第三のジブ5の旋回角度θと風向αとを比較し、その偏差がそれぞれ偏差設定値以下になるよう、第一、第二、第三の旋回体4の旋回手段としての旋回モータ4aへそれぞれ旋回指令βを出力することによって、第一、第二、第三のクライミングクレーン1のジブ5の旋回角度θをそれぞれ制御するよう構成することができる。
【0029】
又、例えば、図5に示す如く、第一、第二、第三のクライミングクレーン1毎に風検出手段30を設け、該各風検出手段30で検出された風向αの平均値及び風速Vの平均値を制御手段40で求め、該制御手段40において、第一、第二、第三のクレーン状態監視手段20にそれぞれ監視されるジブ5の旋回角度θと、前記風向αの平均値及び風速Vの平均値とに基づき、風速Vの平均値が風速設定値以上である場合に、第一、第二、第三のジブ5の旋回角度θと風向αの平均値とを比較し、その偏差がそれぞれ偏差設定値以下になるよう、第一、第二、第三の旋回体4の旋回手段としての旋回モータ4aへそれぞれ旋回指令βを出力することによって、第一、第二、第三のクライミングクレーン1のジブ5の旋回角度θをそれぞれ制御するよう構成することもできる。
【0030】
図4や図5に示すように構成すれば、複数基のクライミングクレーン1が近接して設置されている場合に、各クライミングクレーン1同士の接触をより確実に回避する上できわめて有効となる。
【0031】
尚、本発明のクレーンの強風時旋回補助装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、クライミングクレーンに限らず、ジブを有するクレーンであればどのようなクレーンにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す全体概略図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例における制御系を示すブロック図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例におけるジブと風の向きを示す図であって、(a)はジブが東を向き、風が北西から南東へ吹いている場合を示す図、(b)はジブが北西を向き、風が北東から南西へ吹いている場合を示す図である。
【図4】本発明を実施する形態の一例において、クライミングクレーンが複数基配置されている場合における制御系の例を示すブロック図である。
【図5】本発明を実施する形態の一例において、クライミングクレーンが複数基配置されている場合における制御系の他の例を示すブロック図である。
【図6】従来のクライミングクレーンの一例を示す全体概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1 クライミングクレーン(クレーン)
2 マスト
4 旋回体
4a 旋回モータ(旋回手段)
5 ジブ
20 クレーン状態監視手段
30 風検出手段
30e 風向風速計
40 制御手段
α 風向
V 風速
θ 旋回角度
β 旋回指令

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回手段の作動により旋回自在に配置された旋回体上にジブを起伏自在に取り付けてなるクレーンの強風時旋回補助装置であって、
基準方向に対するジブの旋回角度を含むクレーンの状態を監視するクレーン状態監視手段と、
前記基準方向に対する風向及び風速を検出する風検出手段と、
前記クレーン状態監視手段で監視されるジブの旋回角度と、前記風検出手段で検出された風向及び風速とに基づき、風速が風速設定値以上である場合に、前記ジブの旋回角度と風向とを比較し、その偏差が偏差設定値以下になるよう、前記旋回手段へ旋回指令を出力する制御手段と
を備えたことを特徴とするクレーンの強風時旋回補助装置。
【請求項2】
複数基のクレーンが配置されている場合に、基準となる一つの風検出手段で検出された風向及び風速に基づいて複数基のクレーンのジブの旋回角度を制御するよう構成した請求項1記載のクレーンの強風時旋回補助装置。
【請求項3】
複数基のクレーンが配置されている場合に、各クレーン毎に風検出手段を設け、該各風検出手段で検出された風向の平均値及び風速の平均値に基づいて複数基のクレーンのジブの旋回角度を制御するよう構成した請求項1記載のクレーンの強風時旋回補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−83659(P2010−83659A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257258(P2008−257258)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】