説明

クロスフロー型膜による濾過方法及びそれを用いたアクリルアミドの製造方法

このクロスフロー型膜による濾過方法は、原料液もしくは該原料液が濃縮された濃縮液を循環供給するための、貯槽と循環ポンプとを備えたクロスフロー型膜による濾過方法であって、前記貯槽内における液面のレベルが一定になるように、前記貯槽に新たな前記原料液を供給しながら、前記クロスフロー型膜により前記原料液もしくは濃縮液を連続的に濾過する濾過工程と、前記貯槽への新たな原料液の供給を止めた状態で、更に、濾過を継続して前記貯槽内における液面のレベルを下げながら濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程後に、残存する濃縮液を排出する排出工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、懸濁物を含有する原料液もしくは濃縮液を循環供給するための貯槽と循環ポンプとを有したクロスフロー型膜装置による濾過方法、さらには、それを用いたアクリルアミドの製造方法に関する。
本願は、2003年4月4日に出願された特願2003−101832号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
クロスフロー型膜は、その膜と平行に原料液を連続的に供給し、膜の一次側(原料液が供給される側)と二次側(一次側の反対側)との差圧を利用して濾過するものである。このような濾過では、膜と平行に原料液を流動させることで生じる剪断力の作用により、膜表面に堆積したケーキを引き剥がすことができるので、堆積したケーキの厚みを薄くすることができ、膜の閉塞を抑制できる。したがって、長時間に渡って高い濾過速度が得られるという特徴を有する。
そして、クロスフロー型膜による濾過は、上記の特徴を生かして、食品分野における飲料水などの最終濾過、化学工業分野における濾過精製、生化学分野における微生物と培養液の分離や濃縮など非常に幅広く採用されている。
図1は、クロスフロー型膜を備えた濾過装置を模式的に示す図である。
この濾過装置1は、懸濁物を含む原料液が供給ポンプ2を介して供給される貯槽3と、原料液を濾過するクロスフロー型膜4と、貯槽3からクロスフロー型膜4に原料液を移送するための送り管5と、クロスフロー型膜4の一次側から排出された濃縮液を貯槽3に移送するための戻り管6と、送り管5に備えられた循環ポンプ7と、クロスフロー型膜4で濾過された濾液を移送するための濾液移送管8とを有して概略構成される。
この濾過装置1において、供給ポンプ2は貯槽3に設けられた液面調節計9により制御可能になっている。送り管5には、流量計10と、圧力に応じて循環ポンプ7を制御する循環圧力調節計11とが設置されている。濾液移送管8には濾液出口圧力計12が設置されており、さらに、濾液移送管8は、第1の濾液出口弁13と流量指示調節計14により制御される抜出しポンプ15とが設置された第1の濾液排出管16と、第2の濾液出口弁17が設置された第2の濾液排出管18とに分かれている。
この濾過装置1を用いた従来の濾過方法としては、バッチプロセスと連続プロセスが知られている。バッチプロセスでは、循環ポンプ7により濃縮液を貯槽3からクロスフロー型膜4に供給して連続的に濾過し、クロスフロー型膜4で濾過された濾液を、濾液移送管8を介して回収する。それとともに、クロスフロー型膜4の一次側を通過して懸濁物が濃縮された濃縮液を、戻り管6を介して貯槽3に戻して循環する。すなわち、バッチプロセスは、これらの操作を貯槽3の液量が任意の量にまで低下するまで実施し、濾液と濃縮液を得る方法である。
連続プロセスでは、バッチプロセスと同様に循環ポンプ7により濃縮液を貯槽3からクロスフロー型膜4に供給して連続的に濾過し、クロスフロー型膜4で濾過された濾液を、濾液移送管8を介して回収する。それとともに、クロスフロー型膜4の一次側を通過して懸濁物が濃縮された濃縮液を、戻り管6を介して貯槽3に戻して循環する。連続プロセスは、その際、貯槽3に設置された液面調節計9を作動させて供給ポンプ2を制御して、貯槽3の液レベルが一定になるように新たな原料液を供給することで、濾液と濃縮液を得る方法である。
これまでは、連続プロセスの後にバッチプロセスを組み合わせた複合的な濾過方法の試みについては、全く提唱されていなかった。
このような濾過装置では、濾過時間が長くなるにつれて、クロスフロー型膜に形成された細孔が閉塞していく。この細孔の閉塞の程度は、懸濁物の粒径や分子量分布などの特性により異なるので、通常では、閉塞を抑制することを目的として、懸濁物や原料液に適した細孔径を有する膜が選定されている。さらに、濾過初期の濾過膜細孔の閉塞を抑制し、高い濾過速度を得る濾過方法として、例えば、特許第3312964号には、濾過工程開始前に膜の二次側を液体で封止する方法が示されている。
また、微生物触媒を用いて製造された反応液からの微生物菌体の除去方法については、特公平05−49273号公報にはデッドエンド濾過方法が、また、特開2001−78749号公報には気泡を用いた除去方法がそれぞれ示されている。
ところで、従来技術のように、原料液もしくは濃縮液を単に循環させながらクロスフロー型膜で濾過を継続する方法では、濾過が進行するにつれて濃縮液中の懸濁物濃度が大幅に上昇する。ここで、懸濁物濃度が上昇すると、循環する濃縮液の粘度が上昇し、その結果、濃縮液を循環させる際の圧力損失が増大する。圧力損失が増大した際に循環速度を一定にするためには、循環ポンプの吐出圧力を高める必要があるが、膜には使用最大耐圧差があり、通常、その耐圧差を超えないように圧力が制限されている。したがって、圧力損失が増大した場合には、濃縮液の循環速度が低下し、濾過時間が長くなるのが実情である。循環速度が低下した場合には、膜上の濃縮液の流動速度が遅くなるので、クロスフロー型膜の特徴である膜面への懸濁物粒子の堆積防止効果が生かせなくなり、益々循環速度が低下する悪循環に陥る。したがって、長時間に渡って高い濾過速度を得ることが困難になる。
そのため、上記濾過方法では、濃縮液中の懸濁物濃度が所定の条件に達したときに、図1の排出弁19を開放して循環している懸濁物濃度が高い濃縮液を排出管20から排出し、次いで膜を洗浄するなどして再生した後、改めて濾過操作を再開する方法が採用されている。ここで、排出された懸濁物濃度が高い濃縮液は回収されて再利用あるいは廃棄されるが、エネルギー使用量あるいは廃棄物量を削減するため、いずれの場合であっても、懸濁物をできるだけ高濃度に濃縮することで排出する液量を低減することが求められていた。要求されている濃度にまで懸濁物を高濃度化するためには、連続濾過時間をさらに長くすることが考えられるが、その場合には濾過速度が極めて遅くなるという経済効率上の問題点があった。更に、懸濁物が微生物菌体などのように、物理的な破砕や、化学的もしくは生物学的な変成を受けやすいものの場合は、濃縮液あるいは濾過液に破砕物、変成物などの混入をまねき、着色や純度低下などの品質上の問題を引き起こすこともある。
また、環境面から、廃棄される濃縮液の量や、濾過器内の洗浄や液置換する場合には洗浄液、置換液の使用量、液置換後の懸濁物濃度の高い濃縮液の量などの削減をはかることが求められている。このことからも廃棄する濃縮液中の懸濁物をできるだけ高濃度化し廃棄濃縮液の量を削減する必要がある。しかし、これまでには、特許第3312964号のように、濾過速度を高くする方法は開示されていたものの、連続濾過時の濾過速度を落とすことなく即ち必要な濾過液を得るための時間を増大させること無く、濾過後の濃縮液中の懸濁物を高濃度化する濾過方法は開示されていなかった。
【発明の開示】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、濾過時間を増大させることなく、濾過後の濃縮液中の懸濁物を高濃度化するクロスフロー型膜による濾過方法及びそれを用いたアクリルアミドの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、連続的に原料液を供給しながら循環濾過を行う濾過工程と原料液の供給を止め濾過工程後の濃縮液中の懸濁物を更に濃縮する濃縮工程とを分けると、上記課題の解決に対して非常に有効であることを見出し、本発明に到達した。
本発明の第1の態様は、原料液もしくは該原料液が濃縮された濃縮液を循環供給するための、貯槽と循環ポンプとを備えたクロスフロー型膜による濾過方法であって、前記貯槽内における液面のレベルが一定になるように、前記貯槽に新たな前記原料液を供給しながら、前記クロスフロー型膜により前記原料液もしくは濃縮液を連続的に濾過する濾過工程と、前記貯槽への新たな原料液の供給を止めた状態で、更に、濾過を継続して前記貯槽内における液面のレベルを下げながら濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程後に、残存する濃縮液を排出する排出工程とを有する。
この態様によれば、濾過時間を短縮しつつ、濾過後の濃縮液を高濃度化できる。さらに、濃縮液を高濃度化できることから、より小型の濾過装置にて長時間連続的に濾過できる。
本発明のクロスフロー型膜による濾過方法においては、前記濃縮工程と前記排出工程との間に、貯槽のレベルを一定に保つように、置換液を貯槽に供給しつつ濾過する液置換工程を有してもよい。
また、本発明のクロスフロー型膜による濾過方法においては、クロスフロー型膜が中空糸膜であることが好ましい。
本発明のクロスフロー型膜による濾過方法は、クロスフロー型膜で濾過される原料液中の懸濁物が微生物である場合、更には原料液が微生物菌体を含むアクリルアミド水溶液である場合にとりわけ適している。
本発明の第2の態様は、アクリルアミドの製造方法であって、上記のクロスフロー型膜による濾過方法を含む分離工程を有するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、クロスフロー型膜を備えた濾過装置の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のクロスフロー型膜による濾過方法(以下、濾過方法と略す)の一実施形態例について図面を参照して説明する。なお、この実施形態例で使用される濾過装置は、前述の図1に示されるものであり、ここではその説明を省略する。
ここでいう「原料液」とは、懸濁物を含んだ液体であり、「濃縮液」とは、濾過操作により原料液よりも懸濁物濃度が増加した液である。また、「濾液」とは、クロスフロー膜より流出した懸濁物を含まない液体をさす。
この濾過方法では、まず、濾過工程において、クロスフロー型膜4へ原料液もしくは濃縮液を循環供給するための貯槽3のレベルが一定になるように、供給ポンプ2を作動させて貯槽3に新たな原料液を供給する。それと同時に、送り管5に設置された循環ポンプ7を作動させて原料液もしくは濃縮液をクロスフロー型膜4に供給し、第1の濾液出口弁13を開放するとともに抜出しポンプ15を作動させて、連続的に濾禍する。さらに、クロスフロー型膜4から排出された濃縮液を、戻り管6を介して貯槽3に戻して濃縮液を循環させる。
次いで、濃縮工程において、供給ポンプ2を停止して貯槽3への新たな原料液の供給を止める。そして、供給を停止したままの状態で更に濃縮液を循環させてクロスフロー型膜4で濾過して貯槽3のレベルを下げて濃縮液中の懸濁物を更に濃縮する。
次いで、排出工程において、排出弁19を開き、排出管20を介して、懸濁物が濃縮された残存する濃縮液を排出する。
濃縮液排出後には、クロスフロー型膜4を洗浄して再生する。このように膜を再生することで、継続的に高い濾過速度を維持できる。
濾過工程においては、貯槽3の液レベルを一定に制御するために、液面調節計9によって供給ポンプ2の作動を制御している。具体的には、貯槽3の所定のレベルに設置した液面調節計9により、貯槽3が所定の液レベルになっているときには供給ポンプ2の作動を停止させ、所定の液面より低くなったときには供給ポンプ2を作動させて新たな原料液を供給するようになっている。
なお、貯槽3の液レベルは、貯槽3内での経時的な懸濁物濃度増加による濾過速度低下を考慮し、濾過時間や濾過装置の特性から決定することが好ましい。
濃縮工程においては、濃縮に伴って濃縮液の粘度が上昇し、循環ポンプ7の吐出圧力が上昇するが、クロスフロー型膜4の使用最大耐圧差を超えないように循環ポンプ7の流量を調節すればよい。
この濾過方法を行う濾過装置1のクロスフロー型膜4としては、平膜、スパイラル膜、中空糸膜などいずれの種類であってもよいが、装置サイズに対して濾過面積を大きく取れる点で中空糸膜が好ましい。中空糸膜を用いた場合、循環による圧力損失が大きいので、最終的に排出される濃縮液中の懸濁物濃度をより高くしたいときには、内径の大きな中空糸膜又は長さの短い中空糸膜を選択することが好ましい。
この濾過方法で濾過できる原料液としては、例えば、食品分野における飲料水、化学工業分野における工業製品、生化学分野における培養液、バイオリアクターの反応液などが挙げられる。これらの中でも、非ニュートン流体で、濃縮に伴って粘性などの物性が大きく変化するものであり、濾過される懸濁物が微生物であるもの、具体的には、微生物触媒による反応液がとりわけ適している。中でも微生物触媒によって製造されたアクリルアミド水溶液に好適である。
特に、固定化していない微生物触媒を用いて製造されたアクリルアミド水溶液には、固定化していない微生物、即ちミクロンオーダーの懸濁物が含まれており、その分離方法として、クロスフロー膜を用いることが好ましいため、本発明の方法が有用である。
ここで、「固定化していない微生物触媒」とは、微生物の菌体膜が直接反応液に接触するような触媒であり、包括固定化、即ちポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、寒天、ゼラチン、アルギン酸等の高分子物質で、菌体を包み込む包括固定化方法を行っていない触媒を意味する。
即ち、微生物を培養し、必要に応じて洗浄等を施した微生物菌体そのもの、あるいは微生物菌体をグルタルアルデヒドなどの多官能基を有する物質により架橋あるいは凝集させた架橋法、または菌体をガラスビーズや樹脂、シリカゲル等に化学的に結合させた担体結合法等の包括法ではない固定化方法で固定化したものも含む。
アクリルアミドを製造し得る微生物触媒には種種あるが、例えば、バチルス(Bacillus)属、バクテリジューム(Bacteridium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属およびブレビバクテリウム(Brevibacterium)属(特公昭62−21519号参照)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属およびノカルジア(Nocardia)属(特公昭56−17918号参照)、シュードモナス(Pseudomonas)属(特公昭59−37951号参照)、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属(特公平4−4873号参照)、ロドコッカス(Rhodococcus)属(特公平4−4873号、特公平6−55148号、特公平7−40948号参照)、アクロモバクター(Achromobacter)属(特開平6−225780号参照)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属(特開平9−275978号参照)等の微生物種が好ましい。さらには、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌がより好ましい。
また、上記した微生物由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を取得し、そのまま、あるいは人為的に改良し、任意の宿主に該遺伝子を導入しても良い。
例えば、アクロモバクター(Achromobacter)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10770(FERM P−14756)(特開平8−266277号参照)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10822(FERM BP−5785)(特開平9−275978号参照)又はロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種のニトリルヒドラターゼ(特開平4−211379号参照)で形質転換した微生物等を挙げることができる。
微生物触媒を用いてアクリルアミドを製造する方法についても、種々考えられるが、水性溶媒中にて原料であるアクリロニトリルを溶解させ、前記微生物触媒を添加すればよい。反応方法、様式等は、その製造目的や微生物触媒各々により最適化した条件で行えばよい。
以上説明した濾過方法では、濾過工程後に濃縮工程を有しており、この濃縮工程では新たな原料液を供給せずに濾過するから、短時間で濃縮液中の懸濁物を高濃度に濃縮できる。したがって、濾過時間を短縮しつつ、濾過後の濃縮液を高濃度化できる。ここで、本発明における濾過時間とは、濾過工程および濃縮工程で要した時間の総和である。
なお、本発明は、上述した実施形態例に限定されない。例えば、濃縮工程と排出工程との間に、貯槽のレベルを一定に保つように純水などの置換液を貯槽に供給しつつ濾過する液置換工程を有してもよい。濃縮工程と排出工程との間に液置換工程を有していれば、排出工程で排出される濃縮液中の成分、即ち原料液がアクリルアミド水溶液である場合にはアクリルアミドの量を低減することができ、廃棄物量の低減をはかると共に、濾液中に回収されるアクリルアミド収率の増大をはかることができる。また、本発明において液置換した場合には、濃縮工程により濃縮液の量が低減されているため、置換液量を削減できる。
液置換工程を有する場合には、排出工程前に、液置換した濃縮液をさらに濃縮することもできる。
置換液としては、懸濁物を含まないか懸濁物が極めて少ない液体が用いられるが、後処理等を考慮すると、通常は原料液を構成する溶媒の1種あるいはその混合物、溶液などが用いられる。水が使用できれば経済性や安全面からより好ましい。
また、濾過工程において、新たな原料液が一定速度で貯槽に供給されている場合には、液面調節計を用いずに、濾液移送管に設けられた弁を調節するなどして濾液の排出速度を調節することで、貯槽のレベルを一定に保ってもよい。
また、上述した濾過方法の具体例では、濾過装置はクロスフロー型膜が1つであったが、クロスフロー型膜が並列に2つ以上設置されてもよい。クロスフロー型膜が並列に2つ以上設置されていれば、濾過工程及び濃縮工程を行うクロスフロー型膜と、膜再生工程を行うクロスフロー型膜とを切り替えて使用できるので、長期間の連続濾過が可能になる。
更には、本発明を用いると懸濁液濃度がより低い状態で短時間に連続濾過できるため、懸濁物が微生物触媒である場合、微生物に与えるストレスが少なくなり、結果として、微生物から発生し濾液に混入してしまう不純物の量が低減でき、得られる濾液の品質が向上するという特筆すべき結果も得られた。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
(1)原料液の調製
微生物触媒として、ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドクロス J−1株(Rhodococcus rhodochrous J−1(FERM BP−1478))(特公平6−55148号公報に記載)を用い、原料である水とアクリロニトリルとを反応させて、50質量%のアクリルアミド水溶液を500kg調製し、これを原料液とした。
その際に使用した微生物触媒の量は乾燥菌体の質量換算で50gであり、50質量%アクリルアミド水溶液中の微生物触媒の濃度は、乾燥菌体の質量換算で0.01質量%(100ppm)であった。
(2)クロスフロー型膜
この例で使用したクロスフロー型膜は以下の仕様のものである。
株式会社クラレ製、内圧式中空糸膜モジュール(ラボモジュール)
エレメント形式:MLE7101
中空糸内径/外径:1.0mm/0.6mm
分離特性(90%カット):0.02μm
最高膜内外差圧(使用最大耐圧差):294kPa
中空糸長さ:1m
中空糸本数(モジュール):126本
有効膜面積:0.24m
(3)濾過工程
上述したクロスフロー型膜を備えた図1に示す濾過装置1を用い、まず、原料液5kgを貯槽3に導入し、次に、原料液を循環しながら循環流量が100kg/時間になるように循環ポンプ7の流量を調節した。この調節の際、第1の濾液出口弁13および第2の濾液出口弁17を閉じておいて濾液が排出しないようにした。また、この時の貯槽3の液レベルに液面調節計9を設定した。
次に、第1の濾液出口弁13を開け、抜出しポンプ15を作動させて濾液の流量が10kg/時間になるように調節して濾過を開始した。それと同時に、貯槽3の液面調節計9を起動させて供給ポンプ2を制御し、貯槽3の液レベルが一定になるように原料液を供給した。
そして、48時間で原料液を480kg濾過した後、一旦濾過を停止した。この濾過によって、貯槽3内の微生物触媒濃度は1質量%まで濃縮された。循環圧力(循環圧力調節計11が指示する圧力)は、濾過開始直後は約0.14MPaであり、濾過終了時には約0.23MPaまで増加した。濾液出口圧力(濾液出口圧力計12が指示する圧力)は0.03MPaから0.02MPaで推移しており、抜出しポンプ15によって殆ど吸引されておらず、濾過速度にはまだ余裕があった。
(4)濃縮工程、排出工程
貯槽3の液面調節計9を停止させて新たな原料液の供給を停止するとともに、循環圧力調節計11を用いて循環圧力が0.25MPaを超えないように循環ポンプ7の流量を自動調節させて濃縮工程を開始した。この時、第2の濾過出口弁17を全開にして濾液を排出した。
20分後、循環ポンプ7を停止し、排出管20を介して濃縮された濃縮液を廃棄した。廃棄した濃縮液の量は1.7kgであり、濃縮液中の微生物触媒濃度は約2.9質量%であった。なお、濃縮工程における循環流量は、濃縮開始直後は100kg/時間であったが、濃縮終了直前では約30kg/時間にまで低下した。
この例では、48時間20分という時間で微生物触媒濃度を約2.9質量%まで高濃度化できた。
また、得られた濾液は、無色透明であった。
表1は、実施例1と、以下に示す実施例2及び各比較例との比較を示している。なお、表中の「○」は、好適な値である実施例1および実施例2の各値にそれぞれ付し、「×」は、各比較例において、対応する実施例と比較して不適な値にそれぞれ付している。

(比較例1)
(4)の濃縮工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして原料液を濾過した。
(4´)排出工程
貯槽3の液面調節計9を停止させて新たな原料液の供給を停止するとともに、循環ポンプ7を停止し、排出管20を介して濃縮された濃縮液を廃棄した。廃棄した濃縮液の量は5.0kgであり、濃縮液中の微生物触媒濃度は約1.0質量%であった。
なお、得られた濾液は、無色透明であった。
(比較例2)
(3)濾過工程を以下のようにし、濃縮工程を省略したこと以外は、実施例1と同様にして原料液を濾過した。
(3´)濾過工程
まず、原料液1.7kgを貯槽3に張込み、次に、原料液を循環しながら循環流量が100kg/時間になるように循環ポンプ7の流量を調節した。この調節の際、第1の濾液出口弁13および第2の濾液出口弁17を閉じておいて濾液が排出しないようにした。また、この時の貯槽3内の液レベルを液面調節計9に設定した。
次に、第1の濾液出口弁13を開け、抜出しポンプ15を作動させて濾液の流量が10kg/時間になるように調節して濾過を開始した。それと同時に、貯槽3の液面調節計9を起動させて、貯槽3の液レベルが一定になるように原料液を供給した。
約20時間後、濾液出口圧力がほぼ大気圧(0.01MPa以下)となったため、第2の濾液出口弁17を全開にし、これ以降の濾過速度は成り行きにした。次に、循環圧力調節計11を用いて循環圧力が0.25MPaを超えないように循環ポンプ7の流量を自動調節させて濃縮液を循環させた。そして、約85時間後に480kgの原料液の濾過を終了した。
この濾過工程では、濾過開始から20時間以降の濾過速度は10kg/時間から徐々に減少し、濾過終了直前では約3kg/時間にまで低下した。
貯槽3内の微生物触媒濃度は実施例1と同様に2.9質量%まで濃縮されたものの、濾過時間は大幅に長くなった。
なお、得られた濾液は、透明であったが、やや赤く着色していた。
【実施例2】
実施例1と同様にして濃縮液を更に濃縮した後、純水で液置換してから、濃縮液を廃棄した。
その際の液置換においては、まず、濃縮停止後、液面調節計9の設定レベルを濃縮後のレベルに設定し、この液面調節計9が純水供給ポンプ(図示せず)を制御するように切り替えた。次に、第2の濾液出口弁17を全開にするとともに、循環圧力調節計11を用いて循環圧力が0.25MPaを超えないように循環ポンプ7の流量を自動調節させて液置換を開始した。
そして、5kgの純水を貯槽3へ供給した時点で液置換を終了し、続いて、液置換された濃縮液を廃棄した。濃縮液の量は1.7kgであり、懸濁液中の微生物触媒濃度は約2.9質量%であった。また、濃縮液中のアクリルアミド濃度は約3質量%であった。
なお、得られた濾液は、無色透明であった。
(比較例3)
比較例1と同様にして得られた濃縮液を、液置換を以下のようにしたこと以外は、実施例2と同様にして原料液を濾過した。
その際の液置換においては、まず、濾過終了後、液面調節計9の設定レベルはそのままで、液面調節計9が純水供給ポンプを制御するように切り替えた。次に、第1の濾液出口弁13を全開にするとともに、抜出しポンプ15を用いて濾液の流量が10kg/時間になるように調節して液置換した。
5kgの純水にて液置換し、濃縮液を廃棄した。濃縮液の量は5.0kgであり、懸濁液中の微生物触媒濃度は約1.0質量%であった。また、濃縮液中のアクリルアミド濃度は約19質量%であった。
なお、得られた濾液は、無色透明であった。
(比較例4)
比較例2と同様にして得られた濃縮液を、実施例2と同様にして原料液を濾過した。
そして、5kgの純水を貯槽3へ供給した時点で液置換を終了し、続いて、液置換された濃縮液を廃棄した。濃縮液の量は1.7kgであり、濃縮液中の微生物触媒濃度は約2.9質量%であった。また、濃縮液中のアクリルアミド濃度は約3質量%であった。
なお、得られた濾液は、透明であったが、やや赤く着色していた。
実施例1,2は、濃縮工程を有していたので、短時間で濃縮液を高濃度に濃縮できた。さらに、実施例2では、液置換したので、廃棄した濃縮液中のアクリルアミド濃度が低く、廃棄物処理負担が少なく且つアクリルアミド損出も少ない経済的に非常に効率が良いプロセスとなった。
一方、比較例1は、濃縮工程を有していなかったので、廃棄した濃縮液量が多く、その中の微生物濃度は低く、アクリルアミド含量は高かった。即ち、廃棄物処理負担が大きく、アクリルアミド損出も大きい。比較例2では廃棄物処理量は低く押さえたものの、濃縮液量を実施例1と同様にまで達するのに要した濾過時間が長く、かつ濾液がやや着色し、アクリルアミドの品質が低下した。
また、比較例3は、濃縮工程を有さずに液置換をしたので、廃棄した濃縮液量が多くまた、その中の微生物触媒濃度も低かった。更に廃棄した濃縮液中のアクリルアミド濃度が高かく、経済的にも好ましくない結果となった。比較例4では、濃縮液量を実施例1と同様にまで達するのに要した濾過時間が長く、かつ濾液がやや着色し、アクリルアミドの品質が低下した。
【産業上の利用の可能性】
本発明のクロスフロー型膜による濾過方法は、原料液もしくは該原料液が濃縮された濃縮液を循環供給するための、貯槽と循環ポンプとを備えたクロスフロー型膜による濾過方法であって、前記貯槽内における液面のレベルが一定になるように、前記貯槽に新たな前記原料液を供給しながら、前記クロスフロー型膜により前記原料液もしくは濃縮液を連続的に濾過する濾過工程と、前記貯槽への新たな原料液の供給を止めた状態で、更に、濾過を継続して前記貯槽内における液面のレベルを下げながら濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程後に、残存する濃縮液を排出する排出工程とを有するので、濾過時間を短縮しつつ、濾過後の濃縮液を高濃度化できる。さらに、濃縮液を高濃度化できることから、より小型の濾過装置にて長時間連続的に濾過できる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液もしくは該原料液が濃縮された濃縮液を循環供給するための、貯槽と循環ポンプとを備えたクロスフロー型膜による濾過方法であって、
前記貯槽内における液面のレベルが一定になるように、前記貯槽に新たな前記原料液を供給しながら、前記クロスフロー型膜により前記原料液もしくは濃縮液を連続的に濾過する濾過工程と、
前記貯槽への新たな原料液の供給を止めた状態で、更に、濾過を継続して前記貯槽内における液面のレベルを下げながら濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程後に、残存する濃縮液を排出する排出工程と、を有する。
【請求項2】
請求項1記載のクロスフロー型膜による濾過方法であって、さらに、
前記濃縮工程と前記排出工程との間に、前記貯槽内における液面のレベルを一定に保つように、置換液を貯槽に供給しつつ濾過する液置換工程を有する。
【請求項3】
請求項1記載のクロスフロー型膜による濾過方法であって、
前記クロスフロー型膜は、中空糸膜である。
【請求項4】
請求項1記載のクロスフロー型膜による濾過方法であって、
前記クロスフロー型膜で濾過される原料液中の懸濁物は、微生物である。
【請求項5】
請求項1記載のクロスフロー型膜による濾過方法であって、
前記原料液は、微生物菌体を含むアクリルアミド水溶液である。
【請求項6】
アクリルアミドの製造方法であって、
請求項5記載のクロスフロー型膜による濾過方法を含む分離工程を有する。

【国際公開番号】WO2004/089518
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505210(P2005−505210)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004534
【国際出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】