説明

クロスヘッド・エンジンを潤滑する方法

【課題】本発明の目的は、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油で潤滑する方法を提供することである。
【解決手段】本発明によれば、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油組成物で潤滑する方法が提供され;前記潤滑油組成物は:
・少なくとも40質量%の潤滑粘度の油;
・少なくとも1つの洗浄剤;
・少なくとも1つの分散剤;及び
・少なくとも1つの耐摩耗添加剤を含み;
前記潤滑油組成物が10〜55、好ましくは20〜45 mg KOH/gのTBN(ASTM D 2896-98を用いて測定される)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロスヘッド・エンジンを潤滑する方法に関するものである。詳細には、本発明は船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油で潤滑する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおいて、シリンダ・ライナー及びクランクケースは、それぞれシリンダー油及びシステム油を用いて、別々に潤滑される。シリンダー油は内壁及びピストン・リング・パックを潤滑し、腐食及び機械的摩耗を制御する。システム油はクランク軸及びクロスヘッドを潤滑する(主軸受、クロスヘッド軸受、カム軸を潤滑し、ピストン・アンダークラウン(undercrown)を冷却し、腐食からクランクケースを保護する)。典型的なシリンダー油は100℃で19.0 cStの粘度及び70〜100 mg KOH/gの全塩基価(ASTM D 2896-98)を有するが、典型的なシステム油は100℃で11.5 cStの粘度及び5 mg KOH/gの全塩基価(ASTM D 2896-98)を有する。2つの異なる油の使用は、船舶のオペレータが2つの異なる油を購入及び保管する必要があることを意味する。さらに、船舶のオペレータは正しい油がディーゼルエンジンの正しい部分に使用されることを確認する必要がある。したがって、同じ油を用いて、シリンダ・ライナー及びクランクケースを潤滑できることが望まれている。
システム油は軸受胴における金属の腐食を防止でき、汚染水の存在下でクランクケースにおける錆を防止できる必要がある。システム油は、また軸受の適切な流体潤滑を提供し、過激な圧力条件下で軸受及びギアに摩耗保護を与えるのに十分な耐摩耗システムを有する必要がある。一方、シリンダー潤滑油は、酸性の燃焼生成物を中和することができ、スカッフィングを防止するためにシリンダ・ライナーの潤滑を与え、潤滑油がピストン・リング・パック上の沈着物を生成しないように熱的に安定である必要がる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油で潤滑する方法を提供することである。前記潤滑油は、明らかにシリンダ・ライナー及びクランクケースの両方に対して十分な潤滑を与える必要があろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油組成物で潤滑する方法が提供され;前記潤滑油組成物は:
・少なくとも40質量%の潤滑粘度の油;
・少なくとも1つの洗浄剤;
・少なくとも1つの分散剤;及び
・少なくとも1つの耐摩耗添加剤を含み;
前記潤滑油組成物は10〜55、好ましくは20〜45 mg KOH/gのTBN(ASTM D 2896-98を用いて測定される)を有する。
驚いたことに、本発明者らは、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースの両方を同じ潤滑油で潤滑できることを見出した。したがって、船舶のオペレータは、シリンダ・ライナー及びクランクケースのための潤滑油のタンクを1つ必要とするだけであり、2つのオイル間の混同も生じないため、ロジスティックス、コスト及び安全性を改善する。さらに、本発明は、シリンダ・ライナー及びクランクケースは1つの潤滑油で潤滑されるようにエンジン製造業者が船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンの設計を改めることを可能にする。
潤滑油組成物は、好ましくは100℃で15〜21 cStの粘度を有する。
潤滑油組成物は、好ましくはフェノール、スルホン酸、サリチル酸及びカルボン酸から選択される少なくとも2つの界面活性剤を含む少なくとも1つの過塩基性ハイブリッド/複合洗浄剤を含む。潤滑油組成物は、好ましくはフェノール、スルホン酸及びサリチル酸から調製される過塩基性ハイブリッド/複合洗浄剤を含む。潤滑油組成物は、好ましくはまた過塩基性フェナート洗浄剤を含む。
船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンは50 ppm〜4.0%よりも多いの範囲の硫黄濃度を有する重油を燃料とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
(潤滑粘度の油)
潤滑粘度の油(潤滑油とも呼ばれる)は、船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンの潤滑に適する油であればいずれでもよい。潤滑油は、動物油でも植物油でも鉱油でも適する。潤滑油は、ナフテン系基油、パラフィン系基油または混合基油のような石油から誘導された潤滑油が適する。あるいは、潤滑油は合成潤滑油でもよい。適する合成潤滑油には、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケートのようなジエステル及びトリデシルアジペートを含む合成エステル潤滑油、または例えば液体ポリイソブテン及びポリα-オレフィンのような高分子炭化水素潤滑油が含まれる。通常、鉱油が使用される。潤滑油は、一般的には組成物の60質量%より多く、典型的には70質量%より多い割合を構成し、典型的には100℃における動粘度が2〜40 mm2/秒、例えば3〜15 mm2/秒で、粘度指数が80〜100、例えば90〜95である。
別の種類の潤滑油は、精製プロセスにより、高温及び中程度の圧力下において水素の存在下で中程度及び重質蒸留物フラクションに更に分解される水素添加分解油である。水素添加分解油は、典型的には100℃における動粘度が2〜40 mm2/秒、例えば3〜15 mm2/秒で、粘度指数が典型的には100〜110の範囲で、例えば105〜108である。
本明細書において使用されている“ブライトストック”という用語は、一般的には100℃における動粘度が28〜36 mm2/秒である真空残油から溶媒抽出され、アスファルトが除去された生成物であり、典型的には組成物の質量に対して30質量%未満、好ましくは20質量%未満、更に好ましくは15質量%未満、最も好ましくは10質量%未満、例えば5質量%未満の割合で使用される基油を意味する。
最も好ましくは、潤滑粘度の油は、潤滑油組成物において、潤滑油組成物の質量に対して50質量%より多く、更に好ましくは60質量%より多く存在する。
【0006】
(洗浄剤)
潤滑油組成物は少なくとも1つの洗浄剤を含む。洗浄剤は、エンジン内における、例えば高温ワニス及びラッカー沈着物のようなピストン沈着物の形成を減少させる添加剤であり、酸を中和させる性質を有し、懸濁液中に微粉状の固体を保持しうる。それは、界面活性剤とも呼ばれる酸性の有機化合物の金属塩である金属“石鹸”を基剤とする。
洗浄剤は、長い疎水性の尾部を有する極性頭部を含む。極性頭部は界面活性剤の金属塩を含む。過剰量の、酸化物または水酸化物のような金属化合物を二酸化炭素のような酸性ガスと反応させて、金属塩基(例えば、カーボネート)ミセルの外部層として中和された洗浄剤を含む過塩基性洗浄剤を形成することにより多量の金属塩基が含まれる。
金属は、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム及びマグネシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属でもよい。カルシウムが好ましい。
界面活性剤は、サリチレート、スルホネート、カルボキシレート、フェネート、チオホスフェートまたはナフテネートでもよい。金属サリチレートが好ましい金属塩である。
洗浄剤は、カルシウムアルキルフェネート及びカルシウムアルキルサリチレートのような2種以上の金属界面活性剤の混合物から調製される複合/ハイブリッド洗浄剤でもよい。そのような複合洗浄剤は、例えばフェネート及びサリチレートのような界面活性剤基が過塩基化工程で添加されるハイブリッド物質である。複合洗浄剤の例は文献に記載されている(例えば、第WO 97/46643号、第WO 97/46644号、第WO 97/46645号、第WO 97/46646号及び第WO 97/46647号を参照されたい)。
潤滑油組成物は、好ましくは、フェノール、スルホン酸、サリチル酸及びカルボン酸から選択される少なくとも2つの界面活性剤を含む少なくとも1つの過塩基性ハイブリッド/複合洗浄剤を含む。潤滑油組成物は、好ましくは、フェノール、スルホン酸及びサリチル酸から調製される過塩基性ハイブリッド/複合洗浄剤を含む。潤滑油組成物は、好ましくはまた過塩基性フェナート洗浄剤を含む。
【0007】
金属洗浄剤の界面活性剤系のための界面活性剤は、例えば、芳香族環上の置換基として、1種以上のヒドロカルビル基を含む。本明細書において使用されている“ヒドロカルビル”という用語は、問題となる基が、主として水素及び炭素原子からなり、炭素原子により分子の残りに結合しているが、基の実質的に炭化水素であるという特徴を十分には失わない割合のその他の原子または基の存在は排除しないことを意味する。本発明に従って使用する界面活性剤中のヒドロカルビル基は、脂肪族基、好ましくはアルキルまたはアルキレン基、特にアルキル基(直鎖状でも分岐状でもよい)であるのが有利である。界面活性剤中の炭素原子の総数は、少なくとも所望の油溶性に影響を及ぼすのに十分であるべきである。アルキル基は5〜100個、好ましくは9〜30個、更に好ましくは14〜20個の炭素原子を含むのが有利である。2種以上のアルキル基が存在する場合には、全てのアルキル基における炭素原子の平均数は、適する油溶性を確実にするために9以上であるのが好ましい。
洗浄剤は硫化されていてもいなくてもよく、化学的に修飾されていても、及び/または追加の置換基を含んでもよい。適する硫化方法は当業者には公知である。
洗浄剤は、当業者に公知のホウ酸塩化方法を用いてホウ酸塩化されてもよい。
好ましくは、洗浄剤のTBNは、50〜500、好ましくは100〜400、更に好ましくは150〜350である。
洗浄剤は、潤滑油組成物の質量に対して0.5〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは5〜19質量%の割合で使用しうる。
【0008】
(分散剤)
潤滑油組成物は、少なくとも1つの分散剤を含む。分散剤は、潤滑油における主要な機能が洗浄剤系による酸の中和を促進することである潤滑油組成物の添加剤である。
注目すべき種類の分散剤は、金属を含む灰形成物質に対して、燃焼時に実質的に灰を形成しない非金属有機物質を意味する“無灰”である。無灰分散剤は極性頭部を有する長鎖炭化水素を含み、極性は、例えばO、PまたはN原子の包含から誘導される。炭化水素は、例えば40〜500個の炭素原子を有する、油溶性を提供する親油性基である。したがって、無灰分散剤は、分散される粒子と結合しうる官能基を有する油溶性高分子炭化水素主鎖を含む。
無灰分散剤の例は、ポリイソブテン琥珀酸無水物のようなスクシニミド、及びホウ酸塩化されているまたはされていないポリアミン縮合生成物である。
分散剤は、潤滑油組成物の質量に対して0〜10.0質量%、好ましくは0.5〜6.0質量%、更に好ましくは1.0〜5.0質量%の割合で使用しうる。
【0009】
(耐摩耗添加剤)
潤滑油組成物は少なくとも1つの耐摩耗添加剤を含む。ジヒドロカルビルジチオリン酸の金属塩は既知の種類の耐摩耗添加剤を構成する。ジヒドロカルビルジチオリン酸の金属塩の金属は、アルカリまたはアルカリ土類金属でもよいし、アルミニウム、鉛、錫、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅でもよい。亜鉛塩が好ましく、好ましくは潤滑油組成物の総質量に対して0.1〜1.5質量%、好ましくは0.5〜1.3質量%の範囲である。それらは、通常1又は2種以上のアルコールまたはフェノールをP2S5と反応させることによりまずジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次いで形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより公知の技術に従って調製しうる。例えば、ジチオリン酸は第一及び第二アルコールの混合物を反応させることにより製造しうる。あるいは、全てが第二であるヒドロカルビル基と、全てが第一であるヒドロカルビル基の両方を含む複数のジチオリン酸も調製されうる。亜鉛塩の形成には、塩基性または中性の亜鉛化合物が使用されうるが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が最も一般的に使用される。市販の添加剤は、中和反応において過剰の塩基性亜鉛化合物を使用するためにしばしば過剰の亜鉛を含む。
好ましいジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下式により表しうる。
[(RO)(R1O)P(S)S]2Zn
(式中、R及びR1は、同種または異種の1〜18個、好ましくは2〜12個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール及び環状脂肪族基のような基が含まれる。)2〜8個の炭素原子のアルキル基がR及びR1として特に好ましい。したがって、基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルである。油溶性であるためには、ジチオリン酸における(すなわち、R及びR1における)炭素原子の総数は一般的には5又は6以上であろう。したがって、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含みうる。
【0010】
耐摩耗添加剤は、潤滑油組成物の質量に対して0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜1.3質量%、更に好ましくは0.3〜0.8質量%の割合で使用しうる。
潤滑油組成物を形成するのに潤滑粘度の油(または基油)に同時に添加しうる1又は2種以上の添加剤を含む、1又は2種以上の添加剤パッケージまたは濃縮物を調製することが必要不可欠ではないが望ましい。添加剤パッケージの潤滑油への溶解は、溶媒により及び穏やかな加熱を伴う(必要不可欠ではない)混合により容易になりうる。添加剤パッケージは、典型的には、添加剤パッケージを所定量の潤滑油基剤と組み合わせた場合に、所望の濃度を提供するために適量の添加剤を含むように、及び/または最終配合物中で意図する機能を実施するように配合されるであろう。添加剤パッケージは、添加剤パッケージに対して例えば、2.5〜90質量%、好ましくは5〜75質量%、最も好ましくは8〜60質量%の、適する割合の添加剤である活性成分を含み、残りは基油である。
最終配合物は、典型的には約5〜40質量%の添加剤パッケージを含み、残りは基油である。
本明細書において使用されている“活性成分”という用語は、希釈剤ではない添加剤物質を意味する。
本明細書において使用されている“油溶性”という用語は、必ずしも、化合物または添加剤が全ての割合で基油中に溶解しうることを示すわけではない。しかしながら、例えば、油が使用される環境で意図する効果を示すのに十分な程度に油中で溶解しうることを意味する。更に、その他の添加剤の追加の混合が、所望に応じて特定の添加剤のより多量の混合も許容しうる。
本発明の潤滑油組成物は、混合の前後で化学的に同一であってもなくても定義された個別の(すなわち、個々の)成分を含む。
以下の実施例を参照にして、本発明をほんの一例として説明する。
【実施例】
【0011】
(実施例)
以下の潤滑油組成物を調製した。
【表1】

【0012】
本発明の潤滑油組成物を市販のシステム油(Infineum UK Ltdから入手可能なInfineum M7040)及び市販のシリンダー油(Infineum UK Ltdから入手可能なInfineum M7089)と比較した。結果を以下に示す。
【表2】

【0013】
上記表に示したように、併用シリンダー油及びシステム油は錆制御及び沈着物制御に関して市販のシステム油と同等か、又はそれよりもよい結果を達成する。それは摩耗制御に関してより悪い結果となるが、その結果は十分である。上記表に示したように、併用シリンダー油及びシステム油は腐食摩耗、高温耐性及び沈着物制御に関して市販のシリンダー油よりもよい結果を達成する。併用シリンダー油及びシステム油は、したがって船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンのシリンダー及びクランクケースの両方での使用に適している。
Bolnes試験はBolnesクロスヘッド・エンジン(一気筒2ストロークエンジン、Bolnes 3DNL)を用い、校正し、安定化し、約3.5%の硫黄を含む燃料で実施した。Bolnesエンジンスピードは500 rpmであり、潤滑油供給量は1.00 g/kwhである。各潤滑油組成物を96時間試験した。試験条件は、その期間の間シリンダ・ライナーの腐食摩耗を生じさせるように定めた。摩耗は、シリンダ・ライナーでの具体的な校正箇所でμmで測定した。平均記録摩耗を報告する。記録された結果が低ければ低いほど、シリンダ・ライナーの摩耗は少なくなる。
Bolnes試験に関して、併用シリンダー油及びシステム油は先に報告された異なるベースストックを含んでいたことが分かっている。ベースストックは25.00%のブライトストック、0.10%のSN150及び59.50%のSN600を含み、100℃で17.78 cStの粘度及び43.11 mg KOH/gの塩基価を有した。
【0014】
パネルコークス器試験は、油が、エンジン特性に影響を及ぼすかもしれない沈着物を分解するか、残すかを見るために加熱した試験パネルに潤滑油組成物をスプラッシュする(splashing)ことを含む。試験はYoshida Kagaku Kikai社(大阪、日本)によって供給されるパネルコークス器試験器(モデルPK-S)を使用した。試験は、オイルバスにより100℃の温度に潤滑油組成物を加熱することにより始めた。アルミニウム合金からなる試験パネル(アセトン及びヘプタンを用いて洗浄し、質量を測定した)を、エンジン潤滑油組成物の上に配置し、電熱素子を用いて320℃に加熱した。両温度が安定化したとき、油かき(splasher)は非連続モードで加熱された試験パネル上にガスエンジン潤滑油組成物をスプラッシュした(油かきは油を15分間スプラッシュし、次いで45秒間停止した)。非連続のスプラッシュは、1時間にわたって行われ、その後試験を停止し、すべて冷却され、次いでアルミニウム試験パネルの質量を測り、目視で評価した。試験の前後のアルミニウム試験パネルの質量の差(mgで表される)は沈着物の質量である。この試験は、ピストン上の沈着物生成を防止する潤滑油組成物の能力をシミュレートするために使用される。パネルは、また潤滑油沈着物によって生じる変色に関して、ADDSのVideo-Cotateurを用いて電子光学式評価機によって評価した。価値評価が高ければ高いほど、パネルはきれいである。
【0015】
HFRR、すなわち高周波往復リグ試験は、境界潤滑条件下での潤滑油の摩耗試験のためのコンピュータ制御往復振動摩擦及び摩耗試験システムである。電磁バイブレータは小さな振幅で鋼球を振動させ、固定鋼ディスクに対して10Nの負荷で圧力をかける。固定されたディスクが電気的に加熱される温度が低ければ低いほど、試験下で潤滑油を低く固定する。温度は80℃から380℃に15分で上昇する。摩擦係数は温度に対して測定した。摩擦係数は、温度が上昇すると、油の粘度の減少によって、油形成破壊(oil form breakdown)が始まる温度まで、減少する。この時点で、摩擦係数は再び増加し始める。摩擦係数が最小である温度を測定し、この温度が高ければ高いほど、スカッフィング摩耗に対するシリンダ・ライナーを保護する点で、油は優れている。
熱管試験は潤滑油の高温安定性を評価する。油滴を、加熱した細いガラス毛管の内側に空気で押し、潤滑油の薄膜酸化安定性をガラス管上のラッカー形成の程度によって測定し、生じた管の色を0〜10のスケールで評価した。0の評価は深刻な沈着物形成を示し、10の評価は試験の終了時点できれいなガラス管を意味する。この方法はSAEペーパー840262に記載されている。管のラッカー形成の程度は油の高温安定性を反映し、使用時にエンジンの高温領域において沈着物を形成する傾向を反映する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用ディーゼル・クロスヘッド・エンジンにおけるシリンダ・ライナー及びクランクケースを同じ潤滑油組成物で潤滑する方法であって、前記潤滑油組成物が:
・少なくとも40質量%の潤滑粘度の油;
・少なくとも1つの洗浄剤;
・少なくとも1つの分散剤;及び
・少なくとも1つの耐摩耗添加剤を含み;
前記潤滑油組成物が10〜55 mg KOH/gのTBN(ASTM D 2896-98を用いて測定される)を有する、前記方法。
【請求項2】
前記潤滑油組成物が20〜45 mg KOH/g、好ましくは30〜45 mg KOH/g、最も好ましくは35〜45 mg KOH/gのTBN(ASTM D 2896-98を用いて測定される)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
洗浄剤がフェノール、スルホン酸、サリチル酸及びカルボン酸から選択される界面活性剤を含む複合/ハイブリッド洗浄剤である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
洗浄剤がフェノール、スルホン酸及びサリチル酸を含む複合/ハイブリッド洗浄剤である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
潤滑油組成物がフェナート洗浄剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
潤滑油組成物が100℃で15〜21 cSt、好ましくは16〜18 cStの動粘性率を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
潤滑油組成物の分散剤が無灰スクシンイミドである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
耐摩耗添加剤がジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2006−328403(P2006−328403A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146647(P2006−146647)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】