説明

クロメン化合物

【課題】単独化合物として黄色或いは中間色に発色するフォトクロミック化合物であって、良好なフォトクロミック特性を有し、光ラジカルにより重合硬化する組成物に添加されたときに場合において、該組成物の重合硬化を阻害することがなく、優れたフォトクロミック特性の硬化体を与えることができるフォトクロミック化合物を提供する。
【解決手段】下記式で示されるような、特定の位置に置換されてもよいビニル結合が存在するテトラヒドロナフタレンが縮環した2H−ベンゾ[h]クロメンを基本構造とし、かつ残るテトラヒドロナフタレン骨格に特定の置換基が結合しているクロメン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクロメン化合物、および該クロメン化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことである。この性質を有する化合物はフォトクロミック化合物と呼ばれ、フォトクロミックプラスチックレンズの材料として使用されている。
【0003】
このような用途に使用されるフォトクロミック化合物においては、(1)紫外線を照射する前の可視光領域での着色度(以下、初期着色という。)が低い、(2)紫外線を照射した時の着色度(以下、発色濃度と言う。)が高い、(3)紫外線を照射し始めてから発色濃度が飽和に達するまでの速度が速い(以下、発色感度が高いともいう。)、(4)紫外線の照射を止めてから元の状態に戻るまでの速度(以下、退色速度という。)が速い、(5)この可逆作用の繰り返し耐久性がよい、及び(6)使用されるホスト材料への分散性が高くなるように、硬化後にホスト材料となるモノマー組成物に高濃度に溶解するといった特性が求められている。
【0004】
また、フォトクロミックプラスチックレンズにおいては、発色状態の色調としてブラウン、アンバーといった中間色が好まれているため、当然のことながら、どのような色に発色するかは、フォトクロミック化合物にとってきわめて重要なファクターとなっている。
【0005】
単一化合物を用いて所望の色調が実現できない場合には、発色色調の異なる複数のフォトクロミック化合物を混合して色調を調整することになる。この場合には、調合される夫々の化合物の物性が優れるばかりでなく、全体としての(混合物としての)物性バランスも重要となる。
【0006】
色調調整上、単独化合物として黄色或いは中間色に発色するフォトクロミック化合物は重要であり、そのような化合物としては、下記式(A)で示されるクロメン化合物{単に化合物(A)ともいう。特許文献1参照}及び下記式(B)で示されるクロメン化合物{単に、化合物(B)ともいう。特許文献2参照}が知られている。そして、これらフォトクロミック化合物をラジカル重合性単量体中に溶解させた硬化性組成物を熱ラジカル重合により硬化させて成型する(注型重合する)ことにより、良好なフォトクロミック特性を有するフォトクロミックプラスチックレンズが得られている(特許文献1及び2参照)。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
前記特許文献1及び2で採用されている注型重合によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する方法(インマス“in mass”法或いは練りこみ法とも呼ばれる)は、代表的なフォトクロミックプラスチックレンズ製造方法の一つであるが、良好なフォトクロミック特性を得るために使用できる重合性単量体が限定されるという制約がある。
【0010】
近年、このような制約のないフォトクロミックプラスチックレンズの製造方法として、コーティング法が注目されている(特許文献3参照)。コーティング法では、フォトクロミック化合物を含有する重合硬化性組成物からなるコーティング剤をレンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化させてフォトクロミックコート層を形成することによりレンズ基材にフォトクロミック性を付与する。そのため、良好な塗膜密着性が得られれば、基材レンズに対する制約は原理的には存在しない。
【0011】
【特許文献1】米国特許第5783116号明細書
【特許文献2】国際公開第WO00/15628号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO03/011967号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
コーティング法においても、発色色調の調整に関しては練りこみ法と同様であり、単独化合物として黄色或いは中間色に発色するフォトクロミック化合物は重要である。ところが、前記化合物(A)及び化合物(B)をコーティング法に適用した場合には、良好なフォトクロミックコート層を得ることができないという問題があることが判明した。
【0013】
したがって、本発明は、コーティング法に問題なく適用できるフォトクロミック化合物であって、単独化合物として黄色或いは中間色に発色するフォトクロミック化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明が提供する、上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
【0015】
第一の発明は、下記式(1)で示されるクロメン化合物である。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R、R、RおよびRは、R、およびRの少なくとも1つが水素原子以外の基であるという条件の下に、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、またはハロゲン原子であり、RとR、あるいはRとRとは互いに連結して環を形成していてもよく、
、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、アミノ基、窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子で結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、またはハロゲノアルコキシ基であり、R、R、R、またはRが複数存在する場合には、2個のR、2個のR、2個のR、または2個のRが結合して環を形成していてもよく、
m、n、x、yは、それぞれR、R、R、Rの置換基の数を表し、mおよびnは、それぞれ0から4の整数であり、xおよびyは、それぞれ0から5の整数である。)。
【0018】
第二の発明は、重合性単量体及び前記式(1)で示されるクロメン化合物を含有するフォトクロミック硬化性組成物である。
【0019】
第三の発明は、第二の発明に更に光重合開始剤を含有してなるフォトクロミック硬化性組成物である。
【0020】
第四の発明は、その内部に前記式(1)で示されるクロメン化合物が分散した高分子成形体を構成部材として有するフォトクロミック光学物品である。
【0021】
第五の発明は、少なくとも1つの面の全部又は一部が前記式(1)で示されるクロメン化合物が分散した高分子膜で被覆された光学基材を構成部材として有する光学物品である。
【0022】
第六の発明は、前記高分子膜が第三の発明であるフォトクロミック硬化性組成物を光ラジカル重合により硬化させた高分子膜である光学物品である。
【0023】
前記式(1)に示される本発明のクロメン化合物は、前記化合物(A)及び前記化合物(B)と同様に、2H−ベンゾ[h]クロメンに、その5位の炭素と6位の炭素を共有する形で6員環が縮環した構造を基本構造として有している。しかしながら、本発明のクロメン化合物は、上記した従来の化合物とは異なり、前記6員環に結合する置換基が限定されている。そして、そのことにより、後述する効果に示されるような優れた効果を奏することが可能となっている。特許文献1及び2には、本発明のクロメン化合物を概念的に含む一般式が示されているが、本発明のクロメン化合物に相当する化合物は具体的に記載されておらず、本発明のクロメン化合物は新規なものである。
【発明の効果】
【0024】
コーティング法においてはコーティング剤に可溶なフォトクロミック化合物の量に限界があるため、十分な発色濃度を得るためには、例えば30〜50μmといった厚さのコーティング層を形成する必要がある。コーティング剤は液体であるため、レンズ基材のような曲面形状の表面上に塗布されたコーティング剤において、厚みムラなくこのような厚さを保ったまま硬化させるためには、硬化速度の速い光ラジカル重合を利用することが有利である。
【0025】
本発明者等の検討によれば、前記化合物(A)又は化合物(B)を含む光ラジカル重合性組成物に光照射して重合硬化させようとした場合、これら化合物は光ラジカル重合開始剤と反応し易く、重合性単量体の重合硬化を阻害するばかりでなく、それ自体が分解してしまいフォトクロミック性が著しく低下することが分かった。(このような現象は、恐らく重合開始剤の種類の違いによるものと考えられるが、熱ラジカル重合の時には起こらない)。
【0026】
これに対し、本発明のクロメン化合物は、前記したような化合物(A)及び化合物(B)と共通する基本構造(基本骨格)、即ち、2H−ベンゾ[h]クロメンに、その5位の炭素と6位の炭素を共有する形で6員環が縮環した構造(骨格)を有しているが、該6員環に結合する置換基が限定されている。そのため、優れたフォトクロミック特性を示すと同時に化合物の安定性が飛躍的に向上し、光ラジカル重合開始の共存下に光照射されても光ラジカル重合開始剤と反応し難くなり、良好なフォトクロミック特性を有するコート層を形成することができる。また、本発明のクロメン化合物は、例えば重合性単量体に添加して熱ラジカル重合によって硬化体とした場合においても、その硬化体のフォトクロミック特性の繰り返し耐久性が前記化合物(A)及び(B)を用いた場合よりも優れるという特徴を有する。つまり、本発明によれば、光ラジカル重合および熱ラジカル重合のいずれの方法によっても、良好なフォトクロミック光学物品を得ることができる。さらに、得られた光学物品は、優れたフォトクロミック特性を示す。
【0027】
本発明のクロメン化合物では、前記した基本構造(骨格)を有することに起因して発色色調やフォトクロミック特性の面では化合物(A)や化合物(B)に見られる効果と同様の効果を発現する。さらに、該基本構造(骨格)において、縮環している6員環に結合するビニル結合(二重結合)および特定の置換基の存在により、該6員環に存在する「ラジカルによる攻撃を受けやすい水素原子数が1もしくは0となり、安定性が向上したものと考えられる。特に、該6員環に、ラジカルにより反応し易いと考えられる二重結合を介して置換基を有することにより、安定性が向上する効果を発揮することは驚くべきことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明のクロメン化合物は、下記式(1)で示される。
【0029】
【化4】

【0030】
前記式(1)において、R、R、RおよびRは、それぞれ、(i)水素原子;(ii)ヒドロキシル基;(iii)アルキル基;(iv)シクロアルキル基;(v)アルコキシ基;(vi)アラルキル基;(vii)アラルコキシ基;(viii)アリール基;(ix)ハロゲン原子である。また、RとRとは互いに結合して(x)環を形成していてもよく、RとRとは互いに結合して(xi)環を形成していてもよい。但し、R、およびRの少なくとも1つは水素原子以外の基である必要がある。RとRの両方が水素原子である場合には、安定性が低下し、本発明の効果を得ることができない。効果の観点から、RとRの1つ以上が水素原子ではないことが必要であり、好ましくはRとRの両方が水素原子以外の基であることが望ましい。
【0031】
また、本発明のクロメン化合物は、基本構造(骨格)において、縮環している6員環の炭素原子とRとRとが結合している炭素原子とが、二重結合で結合していることが重要である。ラジカルと反応し易いと考えられる二重結合が前記位置にあったとしても、驚くべきことに、本発明のクロメン化合物は、重合性単量体と混合して光ラジカル重合、または熱ラジカル重合しても安定であり、優れたフォトクロミック特性を有する硬化体とすることができる。
【0032】
以下、上記各置換基の内、構造が一義的に定まらないものについて説明する。
【0033】
前記(iii)のアルキル基としては、特に限定はされないが、一般的には炭素数1〜9のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を挙げることができる。
【0034】
(iv)シクロアルキル基としては、特に限定はされないが、一般的には炭素数3〜12のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基を例示すると、シクロプロピル基、シクロブチル、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。
【0035】
(v)アルコキシ基としては特に限定されないが、一般的には炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0036】
(vi)アラルキル基としては特に制限されないが、一般的には炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基を例示すると、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0037】
(vii)アラルコキシ基としては、特に限定されないが炭素数6〜10のアラルコキシ基が好ましい。好適なアラルコキシ基を具体的に例示すると、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。
【0038】
(viii)アリール基としては、特に限定されないが、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、もしくは環を形成する原子数が4〜12の芳香族複素環基が好ましい。好適なアリール基を例示すると、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。また、該アリール基の1もしくは2以上の水素原子が、上述と同様のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基等の置換基で置換された置換アリール基も好適に用いることができる。
【0039】
(ix)ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を挙げることができる。これらの中でもフッ素原子、または塩素原子で置換されたものが好適である。
【0040】
また、RとRとが連結して形成する(x)環、或いはRとRとが連結して形成する(xi)環としては、環を形成する炭素数が3〜10である脂肪族炭化水素環であることが好ましい。さらに該環にはベンゼン、ナフタレン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素環が縮環していてもよい。また、該環は炭素数1〜5のアルキル基や炭素数1〜5のアルコキシ基を置換基として有していてもよく、その置換基の数は特に限定されないが、好適には0〜10であり、さらに好ましくは0〜4の置換基を有してもよい。特に好適な環を環基(RとRとが結合し、基本骨格と二重結合で結合する炭素原子(以下、単に「ビニル炭素原子」とする)を含有してなる2価の環基、或いはRとRとが結合する「6員環の炭素原子」をスピロ炭素とした2価の環基)の形で示せば、次のようなものを挙げることができる。なお、下記に示す環基において、最も下に位置する2つの結合手を有する炭素原子が、RとRとが結合する「ビニル炭素原子」、或いはRとRとが結合する「6員環の炭素原子」に相当する。
【0041】
【化5】

【0042】
前記式(1)において、R、R、R、およびRは、それぞれ独立には水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、アミノ基、窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子で結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、またはハロゲノアルコキシ基である。
【0043】
ここで、アルキル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子については、前述の置換基R〜Rと同様であり、好適な基についてもそこで例示したものと同じ基を挙げることができる。
【0044】
アミノ基は、一級アミノ基に限定されず、置換基を有する二級アミノ基や三級アミノ基であってもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基が代表的であり、これら置換基を有する置換アミノ基としては、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、またはジアリールアミノ基が挙げられる。このような置換アミノ基(二級アミノ基或いは三級アミノ基)の好適な具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;フェニルアミノ基等のアリールアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;などを挙げることできる。
【0045】
また、窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子で結合する複素環基としては、モルホリノ基、2,6−ジメチルモルホリノ基、ピペリジノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、2、2、6、6−テトラメチルピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基、インドリニル基を挙げることができる。なお、該複素環基のヘテロ原子である窒素原子は、基R、基R、基R、および基Rにおいて、“基本構造或いはそれに縮環する環”に結合するものである。
【0046】
ハロゲノアルキル基としては、前述のアルキル基の1または2以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子、あるいは臭素原子で置換されたものが挙げられる。これらの中でもフッ素原子で置換されたものが好適である。ハロゲノアルキル基として好適なものを例示すれば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基を挙げることができる。
【0047】
ハロゲノアルコシ基としては、前述のアルコキシ基の1または2以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子、あるいは臭素原子で置換されたものが好適であり、その中でもフッ素原子で置換されたものが特に好適である。ハロゲノアルコキシ基として特に好適なものを例示すれば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基を挙げることができる。
【0048】
前記式(1)において、m、n、x、yは、それぞれR、R、R、Rの置換基の数を表す。mおよびnは、それぞれ、0〜4の整数、好適には0〜2の整数であり、xおよびyは、それぞれ、0〜5の整数、好適には0〜2の整数である。
【0049】
また、R、R、R、またはRが複数存在する場合には、つまり、m、n、x、またはyが2以上である場合には、2個のR、2個のR、2個のR、または2個のRが結合して環を形成してもよい。この環は、環を形成する炭素数が3〜10である脂肪族炭化水素環、または酸素原子を含む複素環であることが好ましい。これら環を具体的に例示すれば、下記式(2)で示す環を挙げることができる。なお、下記式(2)において、X、およびYが結合しているベンゼン環は、基本構造において、R、R、R、またはRが結合するベンゼン環を示す。また、各々R、R、R、Rとして示される結合位置は、特に限定されず適宜選ぶことができる。
【0050】
【化6】

【0051】
(式中、X、Yは、それぞれ、O、または−C(R16)(R17)−であり、R16、R17は、それぞれ、水素原子、または炭素数1〜6のアルキル基であり、R10、R11、R12、R13、R14、またはR15は、それぞれ、水素原子、または炭素数1〜6のアルキル基であり、さらに、R10とR11、R12とR13、R13とR14、R14とR15、またはR16とR17は、一緒になって炭素数3〜6のシクロアルキル環を形成してもよい。)。好適に用いられる前記式(2)をより具体的に例示すると、下記のものを挙げることができる。なお、下記に示す環基のベンゼン環は、基本構造において、R、R、R、Rが結合するベンゼン環を示す。また、各々R、R、R、Rとして示される結合位置は、特に限定されず適宜選ぶことができる。
【0052】
【化7】

【0053】
本発明において特に好適なクロメン化合物を具体的に例示すれば、次のような化合物を挙げることができる。
【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
本発明のクロメン化合物は、一般に常温常圧で無色、あるいは淡黄色の固体または粘稠な液体として存在し、次の(I)〜(III)のような手段で確認できる。
【0059】
(I) プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定することにより、δ5.0〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づくピーク、δ0.5〜4.0ppm付近にアルキル基及びアルキレン基のプロトンに基づくピークが現れる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。
【0060】
(II) 元素分析によって相当する生成物の組成を決定することができる。
【0061】
(III) 13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)を測定することにより、δ110〜160ppm付近に芳香族炭化水素基の炭素に基づくピーク、δ80〜150ppm付近にアルケン及びアルキンの炭素に基づくピーク、δ20〜80ppm付近にアルキル基及びアルキレン基の炭素に基づくピークが現われる。
【0062】
本発明のクロメン化合物の合成法は、特に限定されないが、例えば以下に示すような方法により好適に製造することができる。即ち、下記式(3)で示されるナフトール誘導体と、下記式(4)で示されるプロパルギルアルコール誘導体を酸触媒存在下で反応させることにより、好適に製造することができる。
【0063】
先ず、下記式(3)で示されるナフトール誘導体について説明する。
【0064】
【化12】

【0065】
{式中、R、R、R、R、R、R6、m、およびnは、夫々前記式(1)におけるものと同義である。}。
【0066】
なお、前記式(3)で示されるナフトール誘導体は、特に制限されるものではないが、例えば
【0067】
【化13】

【0068】
(式中、Rは水酸基またはフェノール性保護基であり、R、R、m、nは、それぞれ前記式(1)中で示される基と同義である)
で示される化合物をp−トルエンスルホン酸、ポリリン酸等の酸存在下中、溶媒中で加熱することで下記式
【0069】
【化14】

【0070】
(式中、Rは水酸基またはフェノール性保護基であり、R、R、m、nは、それぞれ前記式(1)中で示される基と同義である)
を得、さらに、グリニアール試薬と反応させた後に酸によるビニル化反応を行い、必要に応じて置換基Rの脱保護を行うか、あるいはWittig反応を行い、その後必要に応じて置換基Rの脱保護を行うことにより直接目的物である前記式(3)で示されるナフトール誘導体を合成することができる。これら方法は、目的物である前記式(3)で示されるナフトール誘導体に応じて、より合成し易い方法を適宜選定してやればよい。
【0071】
次に、下記式(4)で示されるプロパギルアルコール誘導体について説明する。
【0072】
【化15】

【0073】
{式中、R、R、x、およびyは、夫々前記式(1)におけるものと同義である。}。
【0074】
なお、前記式(4)で示されるプロパルギルアルコール誘導体の合成は、特に限定されないが、例えば対応する構造のケトン誘導体とリチウムアセチリド、ナトリウムアセチリド等の金属アセチレン化合物とをジメチルスルホキシド、テトラヒドドフラン、ジメチルホルムアミド等の溶媒中で反応させることにより合成することができる。
【0075】
前記式(3)で示されるナフトール誘導体と前記式(4)で示されるプロパギルアルコール誘導体とを酸触媒存在下で反応させる場合、式(3)で示されるナフトール誘導体1モルに対し、式(4)で示されるプロパギルアルコール誘導体を0.5〜2モル、特に0.8〜1.5モル使用するのが好ましい。また、酸触媒としては硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、又は酸性アルミナ、シリカゲル等の固体酸を用いることができる。酸触媒の使用量は、前記式(3)で示されるナフトール誘導体と(4)で示されるプロパギルアルコール誘導体(反応基質)の総和100質量部に対して0.01〜200質量部の範囲とすればよい。反応は、溶媒の存在下に行うのが好ましく、溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、又はトルエンが使用される。反応は、通常0〜200℃、好適には溶媒の還流下で行われる。
【0076】
このような反応を行った後、得られた粗生成物から、シリカゲルカラム精製を行い、さらに必要に応じて再結晶することにより目的物を単離することができる。
【0077】
本発明のクロメン化合物は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶ける。このような溶媒に本発明のクロメン化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明である。そして、この溶液は、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると可逆的に速やかに元の無色にもどるという良好なフォトクロミック現象を示す。
【0078】
また、本発明のクロメン化合物は、高分子固体マトリックス中でも同様なフォトクロミック特性を示す。かかる対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明のクロメン化合物が均一に分散するものであればよく、好ましくは、熱可塑性樹脂、およびラジカル重合性単量体を含むラジカル重合硬化性組成物の硬化体を挙げることができる。なお、前記熱可塑性樹脂は、用途に応じて適宜配合してやればよい。また、前記ラジカル重合性単量体は、下記に示す通り、単官能単量体、または多官能単量体のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。
【0079】
熱可塑性樹脂として、光学的に好ましいものを例示すれば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、及びポリカーボネートを挙げることができる。
【0080】
また、前記ラジカル重合硬化性組成物に含まれるラジカル重合性多官能単量体として好適なものを示せば、下記(a)〜(d)に示されるものを挙げることができる。
【0081】
(a) エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4ーメタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等の多価アクリル酸及び多価メタクリル酸エステル化合物;
(b) ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等の多価アリル化合物;(c)1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;
(c) グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のアクリル酸エステル化合物及びメタクリル酸エステル化合物;及び
(d) ジビニルベンゼン。
【0082】
また、前記ラジカル重合硬化性組成物に含まれる他の単量体としては、下記(e)〜(i)に示されるものを挙げることができる。
【0083】
(e) アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;
(f) アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物;
(g) フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;
(h) メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物;及び
(i) スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン等のビニル化合物。
【0084】
本発明のクロメン化合物は、前記の重合性単量体等と混合することにより、フォトクロミック硬化性組成物とすることができ、該硬化性組成物を硬化させた硬化体(成形体)は、優れたフォトクロミック特性を示す。
【0085】
本発明のクロメン化合物は、単独で黄色若しくは中間色に発色し、良好なフォトクロミック特性を示すばかりでなく、安定性が極めて高いため、光ラジカル重合開始の共存下に光照射されても光ラジカル重合開始剤と反応し難い。このため、光ラジカル重合により硬化される硬化性組成物中に分散させても、硬化を阻害せず、良好なフォトクロミック特性を示す硬化体を与えることができる。したがって、コーティング法によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する際に使用するフォトクロミックコート剤の成分として極めて有用である。また、その安定性の高さに起因して、熱ラジカル重合により硬化するタイプの硬化性組成物に分散させて重合硬化させた場合においても、そのフォトクロミック特性の繰り返し耐久性が優れるという特徴も有する。したがって、練りこみ法によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する際の材料としてもその有用性は高い。
【0086】
本発明のクロメン化合物を前記ラジカル重合硬化性組成物、および光ラジカル開始剤と混合することにより、光ラジカル重合組成物(フォトクロミックコート剤)として、コーティング法により得られるフォトクロミックプラスチックレンズに適用する場合、これら重合成組成物(フォトクロミック硬化性組成物)の調製及び使用は、フォトクロミック化合物成分として本発明のクロメン化合物を使用する他は、従来と同様にして行うことができる。また、本発明のクロメン化合物を前記ラジカル重合硬化性組成物と混合することにより、熱重合性組成物(フォトクロミック硬化性組成物)として、練りこみ法によるフォトクロミックプラスチックレンズの製造原料とする場合も、従来と同様の方法により実施することができる。
【0087】
例えば、光ラジカル硬化性組成物とする場合には、前記したようなラジカル重合性多官能単量体を含むラジカル重合硬化性組成物100質量部に対して本発明のクロメン化合物を0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部添加し、更に光ラジカル重合開始剤を0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部添加すればよい。該組成物には、発色色調を調節するため、本発明のクロメン化合物以外のフォトクロミック化合物を配合することも勿論可能である。
【0088】
このとき使用する光ラジカル重合開始剤として好適なものを例示すれば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アエトフェノン4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、及び2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1を挙げることができる。
【0089】
このような光ラジカル硬化性組成物をフォトクロミックコート剤として使用する場合、好ましい組成に関しては、例えば国際公開第03/011967号パンフレットに記載されており、本発明のクロメン化合物を用いる場合もこれら特許文献の記載に準じて、組成の最適化を行えばよい。
【0090】
また、このようにして調製したフォトクロミックコート剤の施用についても、レンズ基材に適宜前処理を行った後、本発明のクロメン化合物を含むコート液をスピンコートし、窒素雰囲気中で光照射して硬化させればよい。レンズ基材の前処理としては、有機溶媒やアルカリ水溶液による表面洗浄、コロナ処理、プライマー処理が知られており、基材の種類に応じて適宜選択される。また、形成されたフォトクロミックコート層上には、必要に応じてハードコート層、反射防止層が形成される。
【0091】
本発明のクロメン化合物を用い、練りこみ法及びコーティング法以外の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを製造することもできる。例えば、前記した熱可塑性樹脂と本発明のクロメン化合物を溶融状態にて混練し、樹脂中に分散させ、成型する方法を採用することができる。また、本発明のフォトクロミック材を均一に分散させてなるポリマーフィルムをレンズ中にサンドウィッチする方法;本発明のクロメン化合物を例えばシリコーンオイル中に溶解させた溶液を調製し、得られた溶液とプラスチックレンズとを150〜200℃で接触させてプラスチックレンズマトリックス中に本発明のクロメン化合物を拡散・浸透させ、さらにその表面を硬化性物質で被覆する方法(含浸法)を採用することもできる。
【0092】
また、本発明のクロメン化合物は、フォトクロミックプラスチックレンズ以外の広範な用途に利用できる。例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などの種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレイ材料、光量計、装飾などの材料としても利用できる。
【0093】
なお、本発明のクロメン化合物を前記用途に使用する場合、所望とする発色色調とするために、他のフォトクロミック化合物と混合して使用することができる。
【0094】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
実施例1
下記のナフトール誘導体
【0096】
【化16】

【0097】
3.16g(10mmol)と、下記のプロパギルアルコール誘導体
【0098】
【化17】

【0099】
2.95g(11mmol)をトルエン150mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸を0.10g加えて還流温度で30分攪拌した。反応後、溶媒を除去し、シリカゲル上でのクロマトグラフィーにより精製することにより、白色粉末状の生成物を3.40g得た。
【0100】
この生成物の元素分析値はC:82.09%、H:6.06%、O:11.25%であって、C3934の計算値であるC:82.06%、H:6.05%、O:11.29%に良く一致した。
【0101】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ1.0〜4.5ppm付近にアルキレン基に基づく15Hのピーク、δ5.0〜δ9.0ppm付近にアロマティックなプロトン、およびアルケンのプロトンに基づく19Hのピークを示した。
【0102】
さらに、13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピーク、δ20〜60ppmにアルキルの炭素に基づくピークを示した。
【0103】
上記の結果から単離生成物は、下記構造式で示される化合物であることを確認した。
【0104】
【化18】

【0105】
実施例2〜13
実施例1と同様にして表1〜表4に示したクロメン化合物を合成した。得られた生成物について、実施例1と同様な構造確認の手段を用いて構造解析を行った。その結果、表1〜表4に示される構造式の化合物が得られたことが確認された。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
実施例14 2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセルユーシービー社、EB−1830)/グリシジルメタクリレートをそれぞれ50質量部/10質量部/10質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合したラジカル重合性単量体組成物90質量部に対して、実施例1で得られたクロメン化合物1質量部を添加し十分に混合した後に、重合開始剤であるCGI1800{1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:1)}を0.5質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、およびN−メチルジエタノールアミンを3質量部添加し、十分に混合することにより、光ラジカル重合硬化性組成物(フォトクロミック硬化性組成物)を調製した。
【0111】
次いで、上記方法で得られた組成物、約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材(CR39:アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120mW/cmのメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、塗膜を硬化させてフォトクロミックプラスチックレンズを作成した。
【0112】
得られたフォトクロミックプラスチックレンズのフォトクロミック硬化薄膜(膜厚40μm)の硬化状態を評価するために、塗膜表面をアセトンで湿らせた布で擦り、このレンズ基材に投影機を照射して、その投影面を観察評価した。硬化が良好であればアセトンにより表面は犯されないので表面に凹凸や傷は現れない。評価基準を以下に示す。
A:平坦であり、凹凸や傷はなく、硬化薄膜は十分に硬化している。
B:ごくわずかに微細な凹凸や傷がある。
C:部分的に凹凸や傷がある。
D:塗膜が溶解している。
【0113】
上述した方法で作製したフォトクロミックプラスチックレンズの硬化状態の評価はAであった。
【0114】
また、得られたフォトクロミックプラスチックレンズのフォトクロミック特性について、下記に示す項目を評価した。
【0115】
極大吸収波長(λmax): (株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の極大吸収波長である。該極大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0116】
発色濃度{ε(120)−ε(0)}: 前記極大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と上記ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0117】
退色半減期〔t1/2(min.)〕: 120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長における吸光度が{ε(120)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほど退色速度が速く、フォトクロミック性が優れているといえる。
【0118】
残存率={(A50/A0}、または(A200/A0)}: 光照射による発色の耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた重合体(試料)をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により50時間または200時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A50、またはA50)を測定し、(A50/A0}、または(A200/A0)の値を残存率とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
【0119】
これらの結果を表5に示した。
【0120】
実施例15〜26
クロメン化合物として実施例2〜13で得られた化合物を用いた以外は実施例14と同様にしてフォトクロミックプラスチックレンズを作成し、その特性を評価した。その結果をまとめて表5に示した。
【0121】
【表5】

【0122】
比較例1及び2
比較のために、下記式(A)、(B)
【0123】
【化19】

【0124】
【化20】

【0125】
で示される化合物を用いる他は実施例14と同様にしてフォトクロミックプラスチックレンズの作製を試みた(比較例1及び2)が、塗膜は硬化しなかった。また、比較例3および比較例4は光重合開始剤の添加量を増やして硬化を行った。化合物(B)を用いた比較例4においては部分的に硬化したが、そのフォトクロミック特性は乏しいものであった。これら結果を表6に示まとめた。
【0126】
【表6】

【0127】
実施例27〜39及び比較例5〜6
次に、練り込み法によるフォトクロミック硬化体の評価を次のようにして行った。即ち、先ず、実施例1で得られたクロメン化合物0.04質量部、テトラエチレングリコールジメタクリレート13質量部、2,2−ビス[4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン48質量部、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル2質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、グリシジルメタクリレート9質量部、及び重合開始剤として、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート1質量部を十分に混合し、熱ラジカル重合性組成物(フォトクロミック硬化性組成物)を調製した。次に、得られた組成物をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃で18時間かけ徐々に温度を上げ、90℃で2時間保持した。重合終了後、重合体を鋳型のガラス型から取り外した。得られた重合体(厚さ2mm)を試料とし、前述と同様の手法を用いてフォトクロミック特性を評価した。
【0128】
また、クロメン化合物として実施例2〜13で得られた化合物を用いた以外は上記と同様にしてフォトクロミック重合体を得、その特性を評価した。その結果をまとめて表7に示した。
【0129】
【表7】

【0130】
さらに比較のために、上記式(A)で示される化合物(比較例5)、および上記式(B)で示される化合物(比較例6)を用い同様にしてフォトクロミック重合体を得、その特性を評価した。その結果を表8に示した。
【0131】
【表8】

【0132】
練り込み方式におけるフォトクロミック硬化体の評価においても、実施例27〜39で得られた硬化体は、比較例5および比較例6ので得られた硬化体に比べてフォトクロミック特性の繰り返し耐久性が高い。また、実施例27〜39で得られた硬化体は、比較例5および比較例6で得られた硬化体に比べて退色半減期が短く(退色速度が速い)、この点でも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるクロメン化合物。
【化1】


(式中、R、R、R、およびRは、R、およびRの少なくとも1つが水素原子以外の基であるという条件の下に、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、またはハロゲン原子であり、RとR、あるいはRとRとは互いに連結して環を形成していてもよく、
、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、アミノ基、窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子で結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、またはハロゲノアルコキシ基であり、R、R、R、またはRが複数存在する場合には、2個のR、2個のR、2個のR、または2個のRが結合して環を形成していてもよく、
m、n、x、yは、それぞれR、R、R、Rの置換基の数を表し、mおよびnは、それぞれ、0から4の整数であり、xおよびyは、それぞれ、0から5の整数である。)
【請求項2】
重合性単量体及び請求項1に記載のクロメン化合物を含有するフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項3】
更に光重合開始剤を含有してなる請求項2に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項4】
その内部に請求項1に記載のクロメン化合物が分散した高分子成形体を構成部材として有するフォトクロミック光学物品。
【請求項5】
少なくとも1つの面の全部又は一部が請求項1に記載のクロメン化合物が分散した高分子膜で被覆された光学基材を構成部材として有する光学物品。
【請求項6】
前記高分子膜が請求項3に記載のフォトクロミック硬化性組成物を光ラジカル重合により硬化させた高分子膜である請求項5に記載の光学物品。

【公開番号】特開2009−120536(P2009−120536A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296464(P2007−296464)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】