説明

クロロシランを水素化する方法および装置

【課題】クロロシランを水素化する方法および装置を提供する。
【解決手段】クロロシランと接触する表面を有する反応室と、流れが直接通過することにより加熱され、クロロシランと接触する表面を有する加熱素子とを有し、その際、反応室および加熱素子はグラファイトからなる反応器中でクロロシランを水素化する方法において、第一工程で、反応室の表面および加熱素子の表面上に現場でSiC被覆が形成されるように、Si含有化合物ならびに水素を反応室の表面および加熱素子の表面と接触させ、かつ第二工程で、加熱素子を用いた反応室中でのクロロシラン/水素混合物の加熱によりクロロシランの水素化を行い、その際、第一工程を、第二工程における反応温度よりも高い反応温度で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロロシランを水素化する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロシランを>600℃の温度で水素化する方法は公知である。たとえば四塩化ケイ素(STC)からトリクロロシラン(TCS)への水素化は極めて重要である。というのも、半導体シリコンのCVD堆積の際に大量のSTCが副生物として生じ、STCをこの方法でふたたびTCS、つまり半導体シリコンのCVD堆積のための出発材料にすることができるからである。この方法はたとえばUS5422088(Burgie等)、US3933985(Rogers)、US4217334(Weigert等)、US4536642(Hamster等)により、ならびにこれらの刊行物に引用されている文献により記載されている。
【0003】
これらのすべての方法のためにグラファイトはその特別な機械的、電気的および化学的特性に基づいて反応器部材、絶縁材料および加熱素子のための構造材料として使用される。US3645686(Tucker)は、グラファイト電極の使用が不純物、たとえばホウ素、リン、ヒ素およびアンチモンを半導体製品へ導入しうることを認識した。EP0294047(McCormick)は、グラファイトと水素とが>500℃で接触することが炭化水素の形成につながり、該炭化水素が生成物への炭素を含有する不純物(メチルシラン)の導入につながる可能性があることを認識した。不純物の導入を回避するために、グラファイト部材を炭化ケイ素(SiC)で被覆することが提案された。その際、SiC層の堆積は公知のCVD法で、たとえばUS3459504(Bracken)またはDE2379258(Sirtl)に記載されているように行うことができる。
【0004】
US4668493、US4702960、US4373006、US4737348ならびにEP1454670は、SiCで被覆した炭素材料をベースとする反応器を記載しており、該反応器はクロロシランの存在下での高い温度での反応のために使用される。これらの認識から出発してDE4317905(Burgie等)はクロロシランを>600℃の温度で水素化するための改善された反応器を開発した。この刊行物は、SiC被覆した炭素繊維材料からなる反応室および加熱素子を記載している。該反応室を通ってクロロシラン/水素混合物が案内される。加熱素子は反応室の外部に配置されており、反応混合物と接触しない。反応混合物の加熱は反応室の壁を介して行われる。その際、加熱素子および反応器壁は、STCの水素化のために有利な800〜1200℃の温度を反応器中で維持するために、1600℃の温度に達する。従ってこの方法は反応のために必要とされるよりも高いエネルギー入力を必要とする。比較的高い反応器温度によりさらに不所望の効果、たとえば部材および加熱素子の高い熱的な負荷、水素、クロロシランおよびHClの化学的な攻撃による部材の腐食の増大ならびに不所望の箇所でのシリコンの堆積が現れる。
【特許文献1】US5422088
【特許文献2】US3933985
【特許文献3】US4217334
【特許文献4】US4536642
【特許文献5】US3645686
【特許文献6】EP0294047
【特許文献7】US3459504
【特許文献8】DE2379258
【特許文献9】US4668493
【特許文献10】US4702960、
【特許文献11】US4373006
【特許文献12】US4737348
【特許文献13】EP1454670
【特許文献14】DE4317905
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、反応への不純物の導入を回避し、かつこのような不純物を回避する公知の方法よりもエネルギー効率がよいか、または容易に取り扱うことができる、クロロシランの水素化法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は本発明により、クロロシランと接触する表面を有する反応室と、流れが直接通過することにより加熱され、クロロシランと接触する表面を有する加熱素子とを有し、その際、反応室および加熱素子はグラファイトからなる反応器中でクロロシランを水素化する方法において、第一工程で、反応室の表面および加熱素子の表面上に現場でSiC被覆が形成されるように、Si含有化合物ならびに水素を反応室の表面および加熱素子の表面と接触させ、かつ第二工程で、加熱素子を用いた反応室中でのクロロシラン/水素混合物の加熱によりクロロシランの水素化を行い、その際、第一工程を、第二工程における反応温度よりも高い反応温度で実施することを特徴とするクロロシランの水素化法より解決される。
【0007】
クロロシランとは本発明の意味では一般式RnSiCl4-n(式中、Rは同じであるか、または異なっており、かつ水素または有機基を表し、かつnは0、1、2または3である)の化合物であると理解すべきである。
【0008】
基Rは有利にはHまたはアルキル基Cn2n+1であり、特に有利には−Hまたは−CH3である。特に有利にはRは−Hである。有利にはnは0、1または2を表し、特に有利にはnは0を表す。
【0009】
従ってクロロシランは特に有利にはテトラクロロシランである。
【0010】
Si含有化合物とは本発明の意味では一般式X3Si−Y(式中、X=−H、−Clまたはアルキル基であり、かつY=H、Cl、−SiX3または−OSiX3である)の化合物であると理解すべきである。該化合物は有利にはクロロシランである。特に有利であるのは第二工程で出発材料として使用されるクロロシランである。
【0011】
本発明による方法により、相互に独立した公知の2つの方法、つまりグラファイト部材の被覆と、クロロシランの水素化とを反応器中で組み合わせることが可能になる。反応器を設計変更する必要なく、両方の方法工程を同一の反応器中で実施するので、付加的なコストは回避される。
【0012】
本発明による加熱素子とSi含有化合物とが直接接触することにより加熱素子、反応器壁および場合によりその他の内部構造物が反応器内部の反応帯域の範囲において現場で被覆される。
【0013】
この現場で形成されるSiC層は化学的に不活性な保護層を形成し、反応ガスが反応器表面もしくは加熱素子表面で化学的に攻撃することを減少し、かつ反応帯域の温度の低い範囲での不所望の副反応、たとえば炭化水素、メチルクロロシランの形成およびTCSからSTCへの逆形成を低減する。
【0014】
本発明による方法により1工程の方法、たとえばUS5422088またはUS4536642から公知の方法と比較して、より長い反応器寿命、よりわずかな汚染の導入ひいてはこれらと結びついて反応生成物のより高い純度ならびにより高い反応収率が可能となる。不純物、たとえばB化合物およびP化合物およびメチルクロロシランによる汚染がより少ないことはその後の、有利に蒸留により実施される反応生成物の精製工程に関してより少ない装置上およびエネルギー上のコストにつながる。
【0015】
第一工程ではSi含有化合物として有利にはクロロシラン(SiHzCl4-z)、ジシラン(Si2zCl6-z)、ジシロキサン(Si2OHzCl6-z)およびメチルクロロシランの群からの<250℃の温度で気化可能なシランを使用する(zは0〜6の整数を表す)。
【0016】
有利にはSi含有化合物として第一工程でシランを含有する副生物、たとえばトリクロロシラン合成から、またはジーメンス法による多結晶シリコンの堆積からのジクロロシランまたはミュラー・ロッコウの合成からのメチルクロロシランまたは前記の方法で生じる廃棄物、たとえばジシランまたはジシロキサンを含有する種々の高沸点フラクションを使用することができる。というのも、これらの化合物は廃棄処理しなくてならない代わりにこのようにして経済的に有利に利用されるからである。
【0017】
第一工程で必要とされる水素を有利には純粋な水素の形で使用する。しかし同様に、水素を水素含有排ガス、たとえばトリクロロシラン合成またはジーメンス法による多結晶シリコンの堆積の際に生じる排ガスの形で使用することも可能である。その際、さらにHClおよびクロロシランを含有している、これらの方法からの精製されていない水素を使用することが可能である。
【0018】
Si含有化合物および水素を2:1〜1:10のモル比で、有利には2:1〜1:2のモル比で反応器に供給する。
【0019】
部材の被覆は>1000℃の反応器温度で、有利には1000〜1600℃の温度範囲で行う。方法にとって重要なことは、この被覆工程における温度がその後の水素化工程における温度よりも高いことである。この方法工程は1〜20バールの圧力で、有利には1〜5バールの圧力で実施する。有利には第一工程を水素化反応よりも低い圧力で実施する。というのも、より低い圧力は層の形成のために有利に作用するからである。
【0020】
SiC被覆の形成は加熱素子の電気抵抗の変化により間接的に確認することができる。というのも、SiCは基材であるグラファイトよりも高い抵抗を有するからである。これにより加熱素子の電気抵抗を測定することによって被覆工程の調節および制御が可能になる。
【0021】
所望の層厚さに依存して反応パラメータを選択するが、反応パラメータとは有利には温度、反応器中の圧力、出発材料の組成および被覆時間(通常は1〜7日間)であると理解すべきである。
【0022】
第一工程におけるSiCによる現場での被覆が終了した後で、反応器をその後の第二工程の反応パラメータ、つまり水素化反応に合わせて技術的に設計変更することなく切り替えることができる。
【0023】
有利には反応器を水素化反応の間、被覆工程と同じ出発材料組成で運転する。たとえば被覆工程でSTCおよび純粋な水素を使用する場合、水素化工程で有利には同様にSTCおよび純粋な水素を使用する。
【0024】
水素化工程は有利には700〜1400℃の温度で、有利には900〜1200℃で行う。水素化工程は通常、圧力に依存するので、この反応は広い圧力範囲で、有利には5〜20バールで行うことができる。
【0025】
水素化工程は有利には先行する被覆工程よりも低い温度およびより高い圧力で実施する。
【0026】
水素化反応では被覆工程における出発材料とは異なる出発材料を使用することができる。有利にはSTC、クロロジシランまたはメチルトリクロロシランを使用する。特に有利には被覆工程および水素化反応において同一の出発材料を使用する。
【0027】
水素化生成物の純度の要求に応じてこの場合、種々の水素源を利用することができる。たとえば半導体の応用のためにTCSを製造するために、有利には純粋な水素またはTCS合成の、またはジーメンス法による多結晶シリコンの堆積の排ガスから精製された水素を使用する。
【0028】
出発材料であるクロロシランおよび水素は水素化工程で有利には水素が過剰で存在するような比率で使用する。特に有利であるのは1.5:1〜5:1の水素:クロロシランの比率である。
【0029】
従来技術と比較した本発明による方法の利点は、反応帯域から加熱素子をもはや空間的に分離する必要がないことである。このことにより建設コストが低くなり、かつ生成物への効率的なエネルギー入力が保証される。
【0030】
第一工程で生成物に接触する部材を適切に現場で被覆することにより、通常腐食性の雰囲気により攻撃されるすべての部材は保護層を備える。これは該当する部材の寿命の延長および目的生成物中への汚染の導入の低下につながる。というのも、グラファイト部材と反応ガスとの反応はもはや行われ得ないからである。第二工程における加熱素子および/またはグラファイト部材上でのケイ素の制御されない堆積は第一工程におけるSiCによる部材の被覆により反応器中での大きな温度変化の際にももはや以前は観察された部材の亀裂または破壊につながらない。
【0031】
さらにグラファイトの部材を現場で被覆することにより触媒される不所望の反応、たとえば反応帯域の温度の低い範囲でのTCSからSTCへの逆反応が回避される。というのも、SiCは触媒不活性であるからである。
【0032】
本発明はさらに、本発明による方法を実施する際に得られる反応器に関する。
【0033】
本発明による方法は有利にはたとえばUS4536642Aから公知であるような反応器中で実施する。有利に使用される反応器は図1に記載されている。該反応器はガス導入開口部(3)とガス排出開口部(4)とを有し、冷媒用の二重壁(2)の形の冷却部を備えた耐圧性で円筒形の金属ハウジング(1)ならびに前記開口部の間に配置され、流が直接通過することにより加熱される、対称的な多相の交流システム中で星形に接続された不活性の抵抗加熱器(11)からなり、前記加熱器は、一定の温度に達する面によって、加熱されたガスが貫流する空間を区切るか、または占有し、その際、すべての抵抗加熱器はハウジング内に直立して配置されており、かつ該加熱器の上端において相互に導電接続されており、ならびに該加熱器の下端においてそのつどハウジング(1)および冷却部(2)に対して絶縁された開口部(9)により床板を通って案内される給電線(6)を備えており、その際、抵抗加熱器(11)は、相互に接続された強制貫流管または円筒体からなっており、該管または円筒体はガス排出部(4)へつながる移行部を有する導電性の回収部に接続し、その際、ハウジング中の抵抗加熱器(11)の配置とガス排出開口部(4)との間に、電気的に加熱されないガス導管からなる熱交換ユニット(10)がはめ込まれており、かつ床板を通ってさらに温度測定装置(T/7)ならびに付加的なガス導入開口部(5)が反応器へと接続し、かつ金属ハウジング(1)および抵抗加熱器(11)もしくは熱交換ユニット(10)との間に高温断熱材(8)が存在する。
【0034】
本発明による反応器は特に、出発原料ガスまたは生成物ガスと接触する反応器の表面が現場で形成されるSiCからなる層を備えていることにより優れている。
【0035】
金属ハウジングのためにすべての装置構造において通例の耐熱および耐圧性のスチール、たとえば特殊鋼を使用することができる。
【0036】
冷媒としてすべての通例の冷媒、たとえば安価な冷却水を使用することができる。
【0037】
本発明による方法のために必要な高い温度は、金属ハウジングを保護するためにその内部に高温断熱材(8)を備えている。該断熱材は有利には耐熱性および耐食性の材料からなり、有利には層状に配置されているグラファイト不織布またはグラファイトシートからなる。そのつどの外側の層は有利には常に、特に良好に熱線を反射するグラファイトシートである。
【0038】
エネルギー使用をできる限り効率的に構成するために、反応器は熱交換帯域と反応帯域とに分割されている(図1、線A−Aの上部もしくは下部)。熱交換帯域内で熱交換器は有利には流れ出る熱い反応排ガス/生成物ガスと流入する冷たい出発原料ガスとの間で最適な熱交換が保証されるように配置されている。
【0039】
この場合、熱交換器は有利には不活性材料からなる。これは多数の直交流中に配置された穿孔を備えており、その際、穿孔の直径は1〜30mmの間で変化してよい。この場合、穿孔は<15mmであると有利であることが判明している。有利には熱交換器のためのグラファイト材料を使用する。
【0040】
熱交換器の効率を向上するために、熱交換器は個別の部材からなっていてもよく、これらの部材はこの場合、円筒形の全ユニットにまとめられている。全ユニットは1〜20のこのような部材からなることは有利であることが判明しており、これは直立配置および構成に基づいて無視することができるブラインド流により優れている。
【0041】
流れ出るガスは冷却されて反応器を離れ、その後の凝縮および熱交換帯域から流れる出発材料ガスに到達し、相応して予熱され、かつ均一に分配されて直接反応帯域へ到達し、該帯域で対称的に配置された加熱素子(11)と直接接触する。加熱素子はプレート、ラメラ、バーまたは管として構成され、付加的な半径方向の開口部を有しても有していなくてもよく、かつ5〜50の群として配置されていてもよい。
【0042】
現場で被覆をしない方法に対してより少ない数の加熱素子で十分である。というのも、加熱素子は被覆後により高い温度で運転することができるからである。接触面積が大きいことに基づいて加熱素子として、半径方向の穿孔を備えていてもよい管を使用することが有利であることが判明した。均一な温度分布を維持するために、加熱素子はそのあらかじめ確認された抵抗に基づいて、円形の加熱器中の抵抗の分布に対して対称的な配置となるように配置されている。
【0043】
加熱素子は電気的な抵抗加熱として構成されており、かつ熱交換器と同様に有利にはグラファイトまたは炭素ベースのその他の材料からなる。有利にはグラファイトを静水圧圧縮成形または押出成形された形で、または繊維強化グラファイト(CFC)の形で使用する。使用される材料の異なった多孔度は被覆工程により有利に均一化される。
【0044】
反応器の下方領域における付加的なガス導入開口部(5)を介して出発材料ガスを付加的に供給するための可能性が存在する。加熱素子への給電部は有利には冷却手段および電気的に絶縁された内部構造物(9)を備えている。これらの絶縁体は同様に化学的に不活性な材料からなる。これらはプラスチック、セラミックまたは石英からなっていてもよく、その際、有利にはPTFEおよび石英もしくは両方の材料の組合せを使用する。
【0045】
現場での被覆の間に反応を実施するために、正確に温度を把握することが極めて望ましい。このために、>1600℃の温度測定も可能であり、かつ反応帯域内で反応成分のガス温度を時間的な遅れなしに測定する測定システムが有利であることが判明している。この測定システムは反応帯域中に突出し、かつ化学的に攻撃されない不活性材料からなる。このような材料は有利には炭化ケイ素または窒化ケイ素をベースとする材料である。
【0046】
反応器中ではさらに、反応パラメータに有利に影響を与えることができるために、出発材料(クロロシランもしくは水素)のために、反応帯域への直接的な付加的な供給箇所が備えられている。このことにより、出発材料を直接、熱交換帯域を回避しながら反応空間に供給することが可能である。この方法は、熱交換システム中での堆積につながりうる、汚染されている出発材料を使用する場合に特に有利である。
【0047】
記載の反応器により、あらかじめ現場での被覆を行わない方法に対する本発明による方法の本質的な利点が明らかである。
【0048】
本発明による方法によれば反応器を公知の標準的な方法に対してより高い温度で運転することができ、その際、グラファイト部材への化学的な攻撃は行われない。このことによりたとえばSTCの水素化のため目的生成物TCSの収率は向上する。
【0049】
意外なことに、高い温度にもかかわらず現場で被覆した加熱素子および部材は公知の加熱素子よりも実質的に長い寿命を有することが判明した。分析調査において、水素、HClおよびクロロシランの攻撃によるグラファイトの腐食は実質的に低減されることが判明した。たとえばSTCの水素化の際に、グラファイトの反応により生じる反応生成物、たとえばメチルジクロロシランおよびメチルトリクロロシランの割合が極めて少ないことが判明した。
【0050】
加熱器または部材上のケイ素の不所望の堆積もまたもはや部材の破壊につながらない。というのも、ケイ素はSiC保護層を通過してグラファイトへ拡散しないからである。
【0051】
これは反応パラメータをさらに有利に設計するために利用することができる。反応器は大きな温度勾配を有しうるので、熱い反応ガスをより迅速に冷却することができる。このことにより温度の低い反応帯域での出発生成物への不所望の逆反応が回避され、かつ目的生成物の収率が向上する。これは、記載の反応器中での<700℃の反応温度の冷却時間が0.1秒よりも短い場合に特に有利に作用する。現場での被覆はこの場合にもまた有利であることが判明した。というのも、露出したグラファイト表面は逆反応をなお触媒するからである。たとえばSiCによる被覆は触媒不活性であることが判明した。
【0052】
図1は実施例でも使用した、本発明による反応器の1実施態様を示している。
【0053】
以下の例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0054】
例1
図1に記載の反応器中で第一工程としてクロロシラン/H2混合物による被覆を実施した。加熱素子の抵抗の変化により被覆の進行を制御した。まず反応器を150m3/hの水素流でわずかな過圧(1.5バール)で目的温度(1300℃)にした。その後、クロロシランを供給した。48時間以内に水素の処理量を1500m3/hに上昇させ、かつクロロシランを5t/hに上昇させた。この時間内に圧力も6バールに上昇させた。出発材料として四塩化ケイ素およびTCS合成からの精製水素を使用した。
【0055】
被覆は約72時間後に終了した。試験体を取り出し、かつ例3に記載されているようにその化学的な安定性に関して試験した。
【0056】
構造部材上のSiC層厚さは10〜100μmであった(局所的な堆積箇所における温度による)。IR分光分析により、これはSiCであることが判明した。
【0057】
例2
例1により被覆した反応器ならびに比較の目的で例1で使用したグラファイトからなるが、被覆されていない部材を有する反応器を以下の条件でSiCl4の水素化のために使用した:
反応器温度900℃、圧力5バール、モル比H2:SiCl4=2:1、SiCl4送入量8t/h。
【0058】
被覆されていない部材を有する反応器は6ヶ月に満たない運転時間で停止しなくてはならなかった。被覆した部材を有する反応器は12ヶ月後に停止した。運転時間の終了後に両方の反応器を比較して以下のことが確認された:
被覆されていない部材は著しい腐食を有しており、かつ廃棄処分しなくてはならなかった。被覆した部材は腐食をほとんど示さず、かつ次の使用のために再び使用することができた。
【0059】
被覆した反応器部材の寿命は、比較反応器の部材に対して2倍以上であった。
【0060】
生じたTCSの量あたりの比エネルギー消費量は約20%低減された。
【0061】
得られる反応生成物中の不純物の導入は劇的に減少した(メチルトリクロロシランは200ppmから約20ppm)。
【0062】
本発明による方法を実施した反応器中で、温度を問題なく1100℃まで制御することができ、ひいてはこの条件下で30%高いトリクロロシラン収率が達成された。
【0063】
例3
現場で被覆される試験体を反応器中で製造した(例1を参照のこと)。これらを他の試験体と比較する。
【0064】
このために図1に記載の反応器中へ種々の材料からなる試験体を導入し、SiCl4を水素化する条件下でその化学的な安定性を調べた(1000℃、H2:SiCl4=2:1、試験時間3ヶ月)。
【0065】
表面構造の変化ならびに試験体の質量損失から化学的な安定性を評価した。その結果は第1表にまとめられている。
【0066】
【表1】

【0067】
これらの化学的な安定性に関してSiCで前被覆した試験体と、本発明による方法の第一工程で製造した、現場で被覆した試験体との間に違いはみられなかった。グラファイトベースの部材に対してわずかな質量損失ひいてはより高い化学的安定性が観察された。グラファイトまたはグラファイト/グラファイト繊維からなる試験体も確かに部分的にSiC層を形成したが、しかし該層は不規則であったのでこれらの試験体は腐食した。特にSiC層と露出したグラファイト表面との間の接触箇所では材料の腐食は著しく、かつ部分的に亀裂が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による方法を実施するための本発明による装置を示す図
【符号の説明】
【0069】
1 ハウジング、 2 二重壁、 3 ガス導入開口部、 4 ガス排出開口部、 5 付加的なガス導入開口部、 6 給電線、 7 温度測定装置、 8 断熱材料、 9 絶縁された開口部、 10 熱交換ユニット、 11 加熱抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロシランと接触する表面を有する反応室と、流れが直接通過することにより加熱され、クロロシランと接触する表面を有する加熱素子とを有し、その際、反応室および加熱素子はグラファイトからなる反応器中でクロロシランを水素化する方法において、第一工程で、反応室の表面および加熱素子の表面上に現場でSiC被覆が形成されるように、Si含有化合物ならびに水素を反応室の表面および加熱素子の表面と接触させ、かつ第二工程で、加熱素子を用いた反応室中でのクロロシラン/水素混合物の加熱によりクロロシランの水素化を行い、その際、第一工程を、第二工程における反応温度よりも高い反応温度で実施することを特徴とするクロロシランの水素化法。
【請求項2】
クロロシランとして一般式RnSiCl4-n(式中、Rは同一であるか、または異なっており、かつ水素または有機基を表し、かつnは0、1、2または3である)の化合物を使用することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Si含有化合物として第一工程で一般式X3Si−Y(式中、X=−H、−Clまたはアルキル基であり、かつY=H、Cl、−SiX3または−OSiX3である)の化合物を使用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Si含有化合物として、トリクロロシラン合成からの、またはジーメンス法による多結晶シリコンの堆積からのシランを含有する副生物またはミュラー・ロッコウ合成からのメチルクロロシランまたは前記の方法で生じる廃棄物を使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
Si含有化合物および水素を2:1〜1:10のシラン:水素のモル比、有利には2:1〜1:2のモル比で反応器に供給することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
第一工程を>1000℃の反応温度、有利には1000〜1600℃の反応温度で実施することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第一工程を1〜20バールの圧力で、有利には1〜5バールの圧力で実施することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
第一工程を加熱素子の電気抵抗を測定することによって調節および制御することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
第二工程を有利に700〜1400℃の温度で、有利には900〜1200℃で行うことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
第二工程を第一工程よりも低い温度およびより高い圧力で実施することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
出発材料であるクロロシランおよび水素を第二工程で、水素が過剰で存在するような比率で、有利には1.5:1〜5:1の水素:クロロシランの比率で使用することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
第一工程および第二工程で同一の出発原料を使用することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ガス導入開口部(3)とガス排出開口部(4)とを有し、冷媒用の二重壁(2)の形の冷却部を備えた耐圧性で円筒形の金属ハウジング(1)ならびに前記開口部の間に配置され、流が直接通過することにより加熱される、対称的な多相の交流システム中で星形に接続された不活性の抵抗加熱器(11)からなり、前記加熱器は、一定の温度に達する面によって、加熱されたガスが貫流する空間を区切るか、または占有し、その際、すべての抵抗加熱器はハウジング内に直立して配置されており、かつ該加熱器の上端において相互に導電接続されており、ならびに該加熱器の下端においてそのつどハウジング(1)および冷却部(2)に対して絶縁された開口部(9)により床板を通って案内される給電線(6)を備えており、その際、抵抗加熱器(11)は、相互に接続された強制貫流管または円筒体からなっており、該管または円筒体はガス排出部(4)へつながる移行部を有する導電性の回収部に接続し、その際、ハウジング中の抵抗加熱器(11)の配置とガス排出開口部(4)との間に、電気的に加熱されないガス導管からなる熱交換ユニット(10)がはめ込まれており、かつ床板を通ってさらに温度測定装置(T/7)ならびに付加的なガス導入開口部(5)が反応器へと接続し、かつ金属ハウジング(1)および抵抗加熱器(11)もしくは熱交換ユニット(10)との間に高温断熱材(8)が存在する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法を実施するための装置。
【請求項14】
出発材料ガスまたは生成物ガスと接触する反応器の表面が現場で形成されるSiCからなる層を備えていることを特徴とする、請求項13記載の反応器。

【図1】
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【公開番号】特開2007−91587(P2007−91587A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267779(P2006−267779)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】