説明

クロロプレン系重合体組成物、接着剤組成物、並びにクロロプレン系重合体組成物の製造方法

【課題】淡色の色相で耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物を提供すること。
【解決手段】クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン及びこれと共重合可能な単量体100質量部を、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下で、乳化重合して得られうるクロロプレン系重合体組成物とすることで、淡色の色相で耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物とすることができる。このクロロプレン系重合体組成物は接着剤として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロロプレン系重合体組成物、接着剤組成物、並びにクロロプレン系重合体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン系重合体は、溶剤型接着剤の原料等として好適に用いられている。クロロプレン系重合体は、クロロプレン単量体を、乳化剤の存在下で乳化重合することで得られうるものである。乳化剤としては、重合終了後の凍結凝固乾燥時に良好な強度を持ち、フィルム等の乾燥時にも過度の収縮や破損等が少ない等といった観点から、ロジン酸やロジン酸塩等が好適に用いられている。勿論、それ以外にも、ポリビニルアルコール等のノニオン系乳化剤や、4級アンモニウム塩等といったカチオン乳化剤等が用いられている。
【0003】
しかし、クロロプレン系重合体やこれを用いた接着剤等は、黄色や茶色に変色してしまう等といった問題がある。かかる問題を解決せんとしたものとして、例えば、特許文献1には、クロロプレン又はクロロプレン及びこれと共重合可能な単量体との混合物を水性ラジカル乳化重合する際に、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩とともに、付加重合及び/又は付加重合後高分子反応により導入されたスルホン酸基及び/又は硫酸エステル基を含有する水溶性高分子を分散剤として用いる技術等が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−269116号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤等とした際の接着性能を有しつつ、淡色の色相で耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体とする技術についてはまだ改善の余地が十分にある。そこで、本発明は、淡色の色相で耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明は、クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体100質量部を、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下で、乳化重合して得られうるクロロプレン系重合体組成物を提供する。これにより淡色の色相で耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物とすることができる。
そして、乳化分散剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルフォン酸塩及びアルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩から選ばれる一種類以上の化合物の合計0.05〜1.0質量部を用いてクロロプレン系重合体組成物を得ることができる。これにより、淡色の色相で耐光変色性に優れ、かつ接着性能にも優れたクロロプレン系重合体組成物とすることができる。
更に、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤及びフェノール老化防止剤から選ばれる一種類以上の化合物を添加したクロロプレン系重合体組成物とすることができる。かかるクロロプレン系重合体組成物とすることで耐光変色性を更に向上させることができる。
また、本発明は、これらのクロロプレン系重合体組成物と、有機溶剤と、を少なくとも含有する接着剤組成物を提供する。かかる接着剤組成物とすることで、淡色の色相で耐光変色性に優れた接着剤組成物とすることができる。
そして、本発明は、クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体100質量部を、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下に乳化重合することを少なくとも行うクロロプレン系重合体組成物の製造方法を提供する。更に、乳化重合の際に、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤及びフェノール老化防止剤から選ばれる一種類以上の化合物を添加することが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、淡色の色相を持ち耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について以下に説明するが、以下は本発明の一例であり、これらに限定して解釈されるものではない。本発明に係るクロロプレン系重合体組成物は、クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体100質量部を、乳化剤として色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下で、乳化重合して得られうるクロロプレン系重合体組成物である。
【0009】
本発明で用いることができるクロロプレン系重合体は、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンという。)の単独重合体、又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体との共重合体をいう。
【0010】
クロロプレン単量体と共重合可能な他の単量体については、その種類は限定されないが、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸や、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸のエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸のエステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート類や、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられ、必要に応じて2種類以上を併用することも可能である。
【0011】
ロジン酸としては、その種類は限定されないが、例えば、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸や、ピマール酸、ジヒドロピマール酸、イソピマール酸やセコデヒドロアビエチン酸等の樹脂酸の単成分あるいはこれらの混合物が挙げられる。また、オレイン酸、ステアリン酸、オクタデセン酸等の脂肪酸が含まれてもよい。
【0012】
ロジン酸の金属塩としては、その種類は限定されないが、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が上げられる。好適には、取り扱いが容易である等の観点からナトリウム塩やカリウム塩を用いることが望ましい。
【0013】
淡色化ロジン酸は、例えば、ロジン酸を水素化反応及び/又は不均化反応に供し、次いで精製することで得ることができる。淡色化ロジン酸塩についても同様にして得ることができる。本発明では、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸(淡色化ロジン酸塩)であればよく、ロジン酸(ロジン酸塩)の淡色化の方法については限定されず、適宜に好適な方法によって淡色化することができる。
【0014】
水素化反応の方法は、公知の方法で行なうことができ、特に限定されない。例えば、水素化触媒の存在下に水素加圧下で、未精製のロジン酸やロジン酸塩を加熱して行なうことができる。水素化触媒としては、特に限定されず、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ素化鉄等のヨウ化物等の公知のものを用いることができる。触媒は通常0.01〜5質量%、水素化圧は50〜200kg/cm程度で、反応温度は100〜300℃である。
【0015】
不均化反応の方法は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。例えば、不均化触媒の存在下に水素を供給することなく、前述の未精製のロジン酸やロジン酸塩を加熱して行なうことができる。不均化触媒としては、特に限定されず、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ素化鉄等の公知のものを用いることができる。触媒は、通常0.01〜5質量%、水素化圧は50〜200kg/cm程度で、反応温度は100〜300℃である。
【0016】
そして、水素化反応及び/又は不均化反応させた未精製のロジン酸やロジン酸塩から、不けん化物や高分子量物等の不純物を除去する精製工程を行なう。この精製方法は公知の方法で行うことができ、例えば、蒸留や再結晶や抽出等の操作により行うことができる。工業的には、温度200〜300℃、圧力1〜10mmHgの条件下での蒸留がよく使用される。
【0017】
淡色化ロジン酸や淡色化ロジン酸塩は、クロロプレン系単量体を乳化重合する際の乳化剤として用いうるものであり、クロロプレン系重合体の着色を抑えるためには色調ハーゼンが200以下であることが必要である。好ましくは150以下である。なお、色調ハーゼンとは、白金−コバルト・カラー法またはAPHA法とも呼ばれ、ASTM D1209に準じて測定される。ASTM D−154に準じたガードナー色数等より厚い液層を用いて行われるため、色の淡いロジン酸(ロジン酸塩)の評価をより正確に行うことができる。なお、この淡色化ロジン酸(ロジン酸塩)のガードナー色数値は1以下とすることができる。
【0018】
淡色化ロジン酸や淡色化ロジン酸塩の添加量は、クロロプレン単量体100質量部、またはクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な他の単量体の合計100質量部に対して合計で0.1〜10質量部の範囲がよく、好ましくは1〜7質量部の範囲がよい。0.1質量部未満ではクロロプレン単量体の安定な重合が不可能であり、10質量部を越えて添加してしまうとクロロプレン系重合体を含む接着剤の接着性能が悪くなる恐れがある。
【0019】
そして、乳化分散剤を添加してもよい。乳化分散剤は、各工程におけるクロロプレン系重合体の安定性を保持するために用いることができ、その種類は特に限定されない。一般には、乳化分散剤としては芳香族ナフタレンホルマリン縮合物等が用られている。しかし、クロロプレン系重合体の着色を更に効果的に抑制するためには、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルフォン酸塩及びアルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩の中から選ばれる1種類以上の化合物を使用することが好ましい。
【0020】
乳化分散剤としては、具体的には、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム等が挙げられる。
なお、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩は、直鎖型と側鎖型があるが、環境への影響の観点から、直鎖型のものを使用することがより好ましい。
【0021】
乳化分散剤の添加量は限定されないが、クロロプレン単量体100質量部、またはクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な他の単量体の合計100質量部に対して、合計で0.05〜1.0質量部であることがよい。かかる数値範囲とすることで、十分な安定性を有しながら、接着剤とした際に優れた接着性能を有するクロロプレン系重合体とすることができる。
【0022】
重合反応の触媒としては、過硫酸カリウム等の無機過酸化物、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類等の有機過酸化物等を挙げることができる。これらの中でも、安定した重合反応を行なうことができる観点等から、過硫酸カリウムを用いることが好ましい。触媒は、0.1〜5質量%の水溶液で使用することが好ましい。
【0023】
触媒の活性を向上させるために、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、酸化鉄(II)、アントラキノン、β−スルフォン酸ナトリウム、フォルムアミジンスルフォン酸、L−アスコルビン酸等を添加することができる。
【0024】
連鎖移動剤は、クロロプレン系重合体の製造に通常用いられうるものであればよく、その種類は限定されない。例えば、n−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタンやn−オクチルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルム等の連鎖移動剤を用いることができる。
【0025】
重合禁止剤は、クロロプレン系重合体の製造に用いられうるものであればよく、その種類は限定されない。例えば、チオジフェニルアミン、ジエチルハイドロキシルアミン、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ハイドロキノンメチルエーテル等の重合禁止剤を使用することができる。
【0026】
最終重合率は特に限定されず、適宜に決定することができるが、最終重合率の下限値は、55%以上であることが好ましく、上限値は95%以下とすることが好ましい。55%以上とすることで実用において好適な接着強度を得ることができ、95%以下とすることで溶剤に不要なゲルの生成を抑制することができるため、接着剤として好適に用いることができる。なお、重合率は、下記式によって算出することができる。
【0027】
【数1】



【0028】
そして、これら連鎖移動剤の種類や使用量や重合率等の制御を行うことにより、クロロプレン系重合体のムーニー粘度等も制御することができる。
【0029】
重合温度は、反応を制御しやすい等の観点から0〜55℃の範囲であることが望ましい。重合反応をより円滑かつ安全に行なう観点からは、重合温度の下限値を5℃以上、上限値を45℃以下とすることが望ましい。そして、接着剤としての接着特性を更に向上させるためには、重合温度の下限値を10℃以上、上限値は20℃以下とすることが更に望ましい。
【0030】
クロロプレン系重合体は、クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な単量体を、前述した乳化剤、分散剤、触媒や連鎖移動剤の存在下で乳化重合させ、目的とする重合率に達した際に重合禁止剤を添加して得られるものである。得られたクロロプレン系重合体は、スチームフラッシュ法や濃縮法により高温下にさらして未反応の単量体等を除去する。単量体等が除去されたクロロプレン系重合体はアルカリ性であるため、酢酸水溶液等を添加してpHを中性に調整し、凍結凝固や塩析等の方法で仕上げ処理をしてシート状またはチップ状等の成形品とする。
【0031】
更に、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤やフェノール老化防止剤から選ばれる1種類以上の化合物を添加することが好ましい。これにより、クロロプレン系重合体の耐光変色性を更に向上させることができる。
【0032】
ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール、2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチルフェノール等が挙げられる。
【0033】
ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤の添加量は、クロロプレン系重合体100質量部に対して0.01〜1.0質量部の範囲が好ましい。0.01質量部未満では、添加に伴う耐光変色抑制効果が得られない場合があり、1.0質量部を越えて添加してしまうとクロロプレン系重合体を含む接着剤の接着性能が悪くなる恐れがある。
【0034】
ヒンダードアミン光安定剤としては、例えば、N,N´,N´´,N´´´−テトラキス−[4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル]−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N´−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペルジンエタノールの重合物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)セバケート等が挙げられる。
【0035】
ヒンダードアミン光安定剤の添加量としては、クロロプレン系重合体100質量部に対して0.01〜1.0質量部の範囲が好ましい。0.01質量部未満では、添加に伴う耐光変色抑制効果が得られない場合があり、1.0質量部を越えて添加してしまうとクロロプレン系重合体を含む接着剤の接着性能が悪くなる恐れがある。
【0036】
フェノール老化防止剤としては、例えば、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N´−ヘキサン−1,6−ジイルビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル、ジエチル[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ホスホネート、3,3´,3´´,5,5´,5´´−ヘキサ−t−ブチル−a,a´,a´´−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)ポロピオネート]等が挙げられる。
【0037】
フェノール老化防止剤の添加量としては、クロロプレン系重合体に対して0.01〜1.5質量部の添加が好ましい。0.01質量部未満では、添加に伴う耐光変色抑制効果が得られない場合があり、1.5質量部を越えて添加してしまうとクロロプレン系重合体を含む接着剤の接着性能が悪くなる恐れがある。
【0038】
ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤及びフェノール老化防止剤の添加する工程は特に限定されるものではなく、重合前の単量体に添加してもよいし、重合により得られたクロロプレン系重合体に添加する工程等であってもよい。更に、クロロプレン系重合体への分散状態を向上させるという観点から、クロロプレン単量体に溶解させてクロロプレン系重合体とした後に、未反応のクロロプレン単量体と共に脱気除去する方法や、これら添加剤を界面活性剤と共にエマルジョン化したものをクロロプレン系重合体ラテックスに添加する方法が好ましい。
【0039】
本発明のクロロプレン系重合体組成物は、有機溶剤に溶解させて接着剤組成物とすることができる。有機溶剤の種類は限定されず、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン、酢酸イソプロピルや酢酸エチル等の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤は単独または複数種類を混合して用いてもよい。更に、メタクリル酸メチル等のアクリル系単量体をグラフト重合させてグラフト型接着剤等として用いることもできる。
【0040】
更に、亜鉛華やマグネシア等の金属酸化剤、フェノール系樹脂、ロジン樹脂、クマロン樹脂や石油樹脂等の粘着付与樹脂、ホルムアルデヒドキャッチャー剤、各種充填剤等を、接着剤組成物に添加することができる。
【0041】
本発明で得られうる接着剤組成物の用途等は限定されず、紙、木材、布、皮、ジャージ、革、レザー、ゴム、プラスチック、フォーム、陶器、ガラス、モルタル、セメント系材料、セラミック、金属等といった種々の部材の接着に用いることができる。更には、同種のみならず異種の部材の接着にも用いることができるので好適である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。これらの実施例は本発明を限定するものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0043】
[実施例1]
クロロプレン系重合体の製造
内容積5リットルの反応器を用い、窒素気流下で、水120質量部、色調ハーゼン150以下の淡色ロジン(「パインクリスタルKR−85」、荒川化学社製)4.0質量部、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム0.3質量部(「ネオペレックスG−65」、花王社製)、その他添加剤として水酸化ナトリウム0.8質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.3質量部を仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100質量部とn−ドデシルメルカプタン0.1質量部を加えた。過硫酸カリウム0.1質量部を触媒として用いて窒素雰囲気下10℃で重合させ、最終重合率が70%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止し、減圧下で未反応単量体を除去した。
得られたクロロプレン系重合体には析出物発生等の異常は見られなかった。このクロロプレン系重合体を希酢酸にてpHを7に調整した。ここにおいても凝固物発生等の異常は見られなかった。凍結凝固乾燥法により、クロロプレン系重合体のシートを得た。
【0044】
色相b値
得られたクロロプレン系重合体のシートを、測色試験装置(日本電色工業社製、「Z−Σ80色差計」)を用いて色調検査を実施した。色相b値は(+)側で黄色度合いを、(−)側で青色度合いを示すものであり、2.5以下の値を示したものを合格とした。
【0045】
耐光性
得られたクロロプレン系重合体のシートに、キセノンウェザーメータにてブラックパネル温度63℃で15時間照射したあとの外観変色具合を確認した。薄い黄色を「○」、濃い黄色を「△」で示した。
【0046】
グラフト型接着剤の製造
内容積10Lの反応器を用い、クロロプレン系重合体100質量部、トルエン400質量部、メチルエチルケトン200質量部、メタクリル酸メチル60質量部に、ベンゾイルパーオキサイド0.5質量部を加えて、80℃でグラフト重合を実施した。5時間後にフェノチアジンを加えて15℃に冷却し重合を終了した。重合率は35%であった。
【0047】
色調
得られたグラフト型接着剤溶液をガラス瓶に入れ目視にて色調を観察した。ほぼ透明を「◎」、薄い黄色を「○」、濃い黄色を「△」とした。
【0048】
タック
得られたグラフト接着剤溶液を23℃、50RH%の条件下で、刷毛でセロハンに塗布し、5分放置後の粘着性を指感評価した。粘着感良好を「○」、不良を「×」とした。
【0049】
接着剥離強度
帆布(25×150mm)2枚それぞれに接着剤を200g/m塗布し、オープンタイムを30分とりハンドローラーで5往復した。セットタイム3時間後の初期強度及び10日後の常態強度を200mm/minの引張速度で測定した。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様にクロロプレン単量体を乳化重合させ、未反応単量体を除去する前に、老化防止剤としての2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(「スミライザーBHT」、住友化学社製)0.1質量部、紫外線吸収剤としての2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール(「チヌビン326」、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)0.15質量部及び光安定剤としてのビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)セバケート(「チヌビン770」、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)0.15質量部の混合乳濁液を加えた。その後実施例1と同様に減圧下で未反応単量体を除去し、pH調整、凍結凝固乾燥を行いクロロプレン系重合体のシートを得た。実施例1と同様に評価を行った。
【0051】
[実施例3]
実施例1における分散剤のドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムを、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム(「ペレックスSSH」、花王社製)に変えてクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0052】
[実施例4]
実施例1における分散剤のドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムを、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルフォン酸ナトリウム(「エマール20C」、花王社製)に変えてクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0053】
[実施例5]
実施例2における老化防止剤の2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを2,2−メチレンビス−4−エチル−6−t−ブチルフェノール(「ノクラックNS−5」、大内新興化学工業社製)に、紫外線吸収剤の2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノールを2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノール(「チヌビン328」、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)に、光安定剤のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペルジル)セバケートをビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ブチルマロネート(「チヌビン144」、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)にそれぞれ変えてクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0054】
[実施例6]
実施例2における分散剤のドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムを、β−ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(「デモールNL」、花王社製)に変えてクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0055】
[実施例7〜9]
ロジン酸の処方量を変えて夫々表1に示す条件でクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0056】
[実施例10]
単量体についてクロロプレン単量体と2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンを用いて表1に示す条件で共重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0057】
[実施例11、12]
分散剤の処方量を変えて夫々表1に示す条件でクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0058】
[比較例1]
実施例2において、乳化剤の淡色ロジンを通常の不均化ロジン(「ロンジス3R」、荒川化学社製)に変えてクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0059】
[比較例2]
乳化剤の淡色ロジンの処方量を0.4質量部に変えて表2に示す条件でクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0060】
[比較例3]
乳化剤の淡色ロジンの処方量を7.1質量部に変えて表2に示す条件でクロロプレン系重合体を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0061】
これらの結果を表1、表2に示す。
【0062】
【表1】



【0063】
【表2】



【0064】
表1に示された結果からわかるように、淡色化ロジンを0.5質量部(実施例7)〜7.0質量部(実施例9)用いて得られうるクロロプレン系重合体はいずれも色相b値や耐光性等が良好であった(実施例1〜12)。
一方、表2に示された結果からわかるように、淡色化ロジンを用いない比較例1や、淡色化ロジンの処方量が0.4質量部である比較例2や、7.1質量部である比較例3等はいずれも色相b値や耐光性等が悪い結果となった(比較例1〜3)。
以上より、本発明によれば、淡色の色相を持ち耐光変色性に優れたクロロプレン系重合体組成物とでき、接着剤組成物としても好適に用い得ることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体100質量部を、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下で、乳化重合して得られうるクロロプレン系重合体組成物。
【請求項2】
更に、乳化分散剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルフォン酸塩及びアルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩から選ばれる一種類以上の化合物の合計0.05〜1.0質量部を用いて得られうることを特徴とする請求項1記載のクロロプレン系重合体組成物。
【請求項3】
更に、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤及びフェノール老化防止剤から選ばれる一種類以上の化合物を添加して得られうることを特徴とする請求項1又は2記載のクロロプレン系重合体組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のクロロプレン系重合体組成物と、有機溶剤と、を少なくとも含有すること特徴とする接着剤組成物。
【請求項5】
クロロプレン単量体及び/又はクロロプレン単量体とこれと共重合可能な他の単量体100質量部を、色調ハーゼンが200以下の淡色化ロジン酸及び/又は淡色化ロジン酸塩0.5〜7質量部の存在下で、乳化重合することを少なくとも行うクロロプレン系重合体組成物の製造方法。
【請求項6】
前記乳化重合の際に、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤及びフェノール老化防止剤から選ばれる一種類以上の化合物を添加することを特徴とする請求項5記載のクロロプレン系重合体組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−191182(P2009−191182A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33994(P2008−33994)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】