説明

グラビア製版ロール及びその製造方法

【課題】
本発明は、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無な表面強化被覆層を具備するとともに耐刷力に優れた新規なグラビア製版ロール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆するニッケル又はその合金のメッキ層と、を含み、前記ニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理することによってその硬度を向上させてなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムメッキを用いることなく、充分な強度を有する表面強化被覆層を具備することができるようにしたグラビア製版ロール及びその製造方法に関し、特にクロムメッキ層の代替としてニッケル又はその合金のメッキ層を設けるようにしたグラビア製版ロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷では、版母材に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。一般的なグラビア製版ロールにおいては、アルミニウムや鉄などの金属製中空ロール(版母材)又はCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)等のプラスチック製中空ロール(版母材)の表面に版面形成用の銅メッキ層(版材)を設け、該銅メッキ層にエッチング法又は電子彫刻法によって製版情報に応じ多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビア製版ロールの耐刷力を増すためのクロムメッキによって硬質のクロム層を形成して表面強化被覆層とし、製版(版面の製作)が完了する。しかし、クロムメッキ工程においては毒性の高い六価クロムを用いているために、作業の安全維持を図るために余分なコストがかかる他、公害発生の問題もあり、クロム層に替わる表面強化被覆層の出現が待望されているのが現状である。
【0003】
クロムメッキに替わるメッキ方法としては、電解メッキ又は無電解メッキによってニッケル又はその合金のメッキ層を形成する方法があり、下記に示す特許文献1〜7等の文献が知られている。
【特許文献1】特開2005−256170号
【特許文献2】特開2005−146411号
【特許文献3】特許第2937426号
【特許文献4】特許第3333561号
【特許文献5】特許第3826651号
【特許文献6】米国特許第6200450号
【特許文献7】米国特許第6372118号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記した従来技術の問題点に鑑み、クロムメッキ方法に替わる新規なメッキ方法を開発すべく種々のメッキ溶液をあらたに調製して多数の実験を重ねた結果、ニッケル又はその合金のメッキが有力なクロムメッキ代替メッキとなりうると考えて研究を進めたところ、得られたニッケル又はその合金のメッキ層の強度が十分ではなく、その強度を向上をすべく種々研究を重ねた結果、過熱水蒸気による加熱処理を利用することによって、従来のクロム層に匹敵する強度を有しかつ毒性はなく公害発生の心配も全くない表面強化被覆層を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無な表面強化被覆層を具備するとともに耐刷力に優れた新規なグラビア製版ロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のグラビア製版ロールは、版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆するニッケル又はその合金のメッキ層と、を含み、前記ニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理することによってその硬度を向上させてなることを特徴とする。
【0007】
前記ニッケル又はその合金のメッキ層は、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されるものである。
【0008】
本発明のグラビア製版ロールの製造方法は、版母材を準備する工程と、該版母材の表面に銅メッキ層を形成する銅メッキ工程と、該銅メッキ層の表面に多数のグラビアセルを形成するグラビアセル形成工程と、該グラビアセルが形成された銅メッキ層の表面に電解メッキ又は無電解メッキによってニッケル又はその合金のメッキ層を形成するニッケルメッキ工程と、前記ニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理する加熱処理工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
前記加熱処理されたニッケル又はその合金のメッキ層の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに含むことによって、ニッケル又はその合金のメッキ層の硬度がさらに向上させることができる。冷水は常温水を用いればよく、温水は40℃〜100℃程度の加熱水を用いればよい。洗浄時間は30秒〜10分程度で十分である。
【0010】
前記過熱水蒸気による加熱処理の条件を100℃を超え400℃以下、1分〜1時間とするのが好ましい。
【0011】
本発明のグラビア製版ロールにおいては、前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、及び前記ニッケル又はその合金のメッキ層の厚さが0.1〜15μmであるのが好適である。
【0012】
前記グラビアセルの形成は、エッチング法又は電子彫刻法によって行えばよいが、エッチング法が好適である。ここでエッチング法は版母材の銅メッキ層に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセルを形成する方法である。電子彫刻法は、デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ版母材の銅メッキ層表面にグラビアセルを彫刻する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグラビア製版ロールによれば、表面強化被覆層として過熱水蒸気によって加熱処理したニッケル又はその合金のメッキ層を用いることにより、クロムメッキ工程を省略することができるので、毒性の高い六価クロムを用いることがなくなり、作業の安全性を図るための余分なコストが不要で、公害発生の心配も全くなく、しかも過熱水蒸気によって加熱処理したニッケル又はその合金のメッキ層はクロム層に匹敵する強度を有し耐刷力にも優れるという大きな効果を奏するものである。本発明のグラビア製版ロールの製造方法によれば、本発明のグラビア製版ロールを公害発生の心配も全くなく有効に製造できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0015】
本発明のグラビア製版ロールの製造方法について図1及び図2を用いて説明する。図1は本発明のグラビア製版ロールの製造工程を模式的に示す説明図で、(a)は版母材の全体断面図、(b)は版母材の表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は版母材の銅メッキ層にグラビアセルを形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は版母材の銅メッキ層表面にニッケル又はその合金のメッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、及び(e)はニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気による加熱処理によってその硬度を向上させた状態を示す部分拡大断面図である。図2は本発明のグラビア製版ロールの製造方法を示すフローチャートである。
【0016】
図1(a)において、符号10は版母材で、アルミニウムや鉄などの金属製中空ロール又はCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)等のプラスチック製中空ロールが用いられる(図2のステップ100)。該版母材10の表面には銅メッキ処理によって銅メッキ層12が形成される(図1(b)及び図2のステップ102)。
【0017】
該銅メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)14が形成される(図1(c)及び図2のステップ104)。グラビアセル14の形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセル14を形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセル14を彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。
【0018】
次に、前記グラビアセル14を形成した銅メッキ層12(グラビアセル14を含む)の表面にニッケル又はその合金のメッキ層16を形成する(図1(d)及び図2のステップ106)。ニッケル合金メッキ層16の形成方法としては、電解メッキ又は無電解メッキ方法が適用される。
【0019】
続いて、前記ニッケル又はその合金のメッキ層16に対して過熱水蒸気による加熱処理を行うことにより硬度の向上したニッケル又はその合金のメッキ層18とする(図1(e)及び図2のステップ108)。
【0020】
上記硬度の向上したニッケル又はその合金のメッキ層18を表面強化被覆層として作用させることによって、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無となるとともに耐刷力に優れたグラビア製版ロール10aを得ることができる。
【0021】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、前記ニッケル又はその合金のメッキ層の厚さが0.1〜15μmであることが好適である。前記ニッケル又はその合金のメッキ層の厚さとしては、さらに好ましくは1〜10μm、最も好ましくは3〜10μmである。
【0022】
前記ニッケル又はその合金のメッキ層を形成するために用いられる電解メッキ方法又は無電解メッキ方法は公知の方法を適用すればよい。
このニッケル又はその合金のメッキ層16は光輝性及び高反射性を有し、析出した状態でビッカース硬度700〜900の範囲の硬度を有し、過熱水蒸気による加熱処理をするとビッカース硬度1000〜1100の硬度を有する。この熱処理は100℃を超え400℃以下で1分〜1時間程度行えばよい。また、このニッケル合金メッキ層は、析出したままで高い耐熱性、耐腐食性、耐磨耗性を有する。被覆は非多孔性であり、クラックが入っていない。この過熱水蒸気による加熱処理を行ったニッケル又はその合金のメッキ層は、クロム、硬質クロム、及びクロム合金の代替品になることができる利点がある。
【実施例】
【0023】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0024】
(実施例1)
円周760mm、面長1100mm、面積83.6dm2の版母材(アルミ中空ロール)について、ブーメランライン(株式会社シンク・ラボラトリー製グラビア製版ロール製造装置)を用いて下記する銅メッキ層の形成及びエッチング処理までを行った。まず、版母材(アルミ中空ロール)をメッキ槽に装着し、陽極室をコンピューターシステムによる自動スライド装置で20mmまで中空ロールに近接させ、メッキ溶液をオーバーフローさせ、中空ロールを全没させて18A/dm2、6.0Vで80μmの銅メッキ層を形成した。メッキ時間は20分、メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を4H研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて12分間研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。
【0025】
上記形成した銅メッキ層に感光膜(サーマルレジスト:TSER−2104E4)を塗布(フオンテインコーター)、乾燥した。得られた感光膜の膜厚は膜厚計(FILLMETRICS社製F20、松下テクノトレーデイング社販売)で計ったところ、4μmであった。ついで、画像をレーザー露光し現像した。上記レーザー露光は、Laser Stream FXを用い露光条件5分/m2/10Wで所定のパターン露光を行った。また、上記現像は、TLD現像液(株式会社シンク・ラボラトリー製現像液)を用い、現像液希釈比率(原液1:水7)で、24℃60秒間行い、所定のパターンを形成した。このパターンを乾燥(バーニング)してレジスト画像を形成した。
【0026】
さらに、シリンダーエッチングを行ってグラビアセルからなる画像を彫り込み、その後レジスト画像を取り除くことにより印刷版を形成した。このとき、グラビアセルの深度を12μmとしてシリンダーを作製した。上記エッチングは、銅濃度60g/L、塩酸濃度35g/L、温度37℃、時間70秒の条件でスプレー方式によって行った。
【0027】
上記したシリンダー印刷版に対して下記の無電解メッキ液に浸漬して版面に厚さ8μmの被膜を形成した。
塩化ニッケル 30g/L
次亜燐酸ナトリウム 10k/L
ヒドロキシ酢酸ナトリウム 50g/L
炭化珪素粉末 5g/L
温度 90℃
pH 5
得られた被膜のビッカース硬度は713であった。続いて、前記被膜の表面をサンドペーパーで研磨した後に、過熱水蒸気を用いて300℃で10分間の加熱処理を行い、その被膜のビッカース硬度を測定したところ1016であった。
【0028】
さらに、作成された上記グラビアシリンダーに対して印刷インキとしてシアンインキザーンカップ粘度18秒(サカタインクス社製水性インクスーパーラミピュア藍800PR−5)を適用しOPP(Oriented Polypropylene Film:2軸延伸ポリプロピレンフィルム)を用いて印刷テスト(印刷速度:120m/分)を行った。得られた印刷物は版カブリがなく、50,000mの長さまで印刷できた。パターンの精度は変化がなかった。また、エッチングされた銅メッキシリンダーに対するニッケル又はその合金のメッキ層の密着性は問題がなかった。この本発明のグラビアシリンダーのハイライト部からシャドウ部のグラデーションは、常法に従って作製したクロムメッキグラビアシリンダーと変わらなかったことからインキ転移性は問題ないと判断される。この結果として、ニッケル合金メッキ層及び二酸化珪素被膜からなる表面強化被覆層は従来のクロム層に匹敵する性能を有し、クロム層代替品として充分使用できることを確認した。
【0029】
(実施例2)
実施例1における無電解メッキに代えて下記の電解メッキを、液温55℃、時間6分、電流密度4A/dm2の条件で行い、厚さ5μmのニッケルメッキ層を形成した以外は実施例1と同様にグラビアシリンダーを作成した。その被膜のビッカース硬度を測定したところ実施例1と同様であった。続いて、このグラビアシリンダーを用いて実施例1と同様に印刷テストを行ったところ、実施例1と同様にニッケル又はその合金のメッキ層からなる表面強化被覆層は従来のクロム層に匹敵する性能を有し、クロム層代替品として充分使用できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のグラビア製版ロールの製造工程を模式的に示す説明図で、(a)は版母材の全体断面図、(b)は版母材の表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は版母材の銅メッキ層にグラビアセルを形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は版母材の銅メッキ層表面にニッケル又はその合金のメッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、及び(e)はニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理した状態を示す部分拡大断面図である。
【図2】本発明のグラビア製版ロールの製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
10:版母材(中空ロール)、10a:グラビア製版ロール、12:銅メッキ層、14:グラビアセル、16:ニッケル又はその合金のメッキ層、18:過熱水蒸気によって加熱処理したニッケル又はその合金のメッキ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆するニッケル又はその合金のメッキ層と、を含み、前記ニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理することによってその硬度を向上させてなることを特徴とするグラビア製版ロール。
【請求項2】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、及び前記ニッケル又はその合金のメッキ層の厚さが0.1〜15μmであることを特徴とする請求項1記載のグラビア製版ロール。
【請求項3】
前記ニッケル又はその合金のメッキ層が、電解メッキ又は無電解メッキによって形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のグラビア製版ロール。
【請求項4】
版母材を準備する工程と、該版母材の表面に銅メッキ層を形成する銅メッキ工程と、該銅メッキ層の表面に多数のグラビアセルを形成するグラビアセル形成工程と、該グラビアセルが形成された銅メッキ層の表面に電解メッキ又は無電解メッキによってニッケル又はその合金のメッキ層を形成するニッケルメッキ工程と、前記ニッケル又はその合金のメッキ層を過熱水蒸気によって加熱処理する加熱処理工程とを含むことを特徴とするグラビア製版ロールの製造方法。
【請求項5】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、及び前記ニッケル又はその合金のメッキ層の厚さが0.1〜15μmであることを特徴とする請求項4記載のグラビア製版ロールの製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理されたニッケル又はその合金のメッキ層の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする請求項4又は5記載のグラビア製版ロールの製造方法。
【請求項7】
前記過熱水蒸気による加熱処理の条件を100℃を超え400℃以下、1分〜1時間とすることを特徴とするグラビア製版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−111149(P2008−111149A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293862(P2006−293862)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000131625)株式会社シンク・ラボラトリー (52)
【Fターム(参考)】