グランザイムB阻害のための組成物および方法
本発明は、分泌型タンパク質であるセルピンa3nがグランザイムBに結合してその活性を阻害するという発見に関連する。本発明は、このように、グランザイムB阻害性のセルピンをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、グランザイムB阻害性セルピンまたはグランザイムB阻害性セルピンをコードするポリヌクレオチドを含む薬学的組成物、グランザイムB阻害性セルピンを投与することによって免疫抑制を必要とす患者を処置するための方法、およびグランザイムB阻害性セルピンを発現する細胞(たとえば、膵島細胞)を移植する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
細胞障害性Tリンパ球(CTLs)は、浸潤性のウイルスおよび細胞内病原体に対して実質的な保護を提供する。しかし、これらの細胞が身体自体に対して害を引き起こしうる病原性の状況が存在する:例には、中でも、自己免疫疾患(真正1型糖尿病、関節リウマチ、ヴェーゲナー肉芽腫症、および多発性硬化症)、移植片(たとえば、膵島細胞)拒絶、および移植片対宿主病、炎症性血管疾患が含まれる。
【0002】
CTL媒介殺細胞の主要なメカニズムはグランザイムB(granzyme B)経路である。CTLが標的細胞と接触すると、CTLはパーフォリンおよびグランザイムBが含まれる細胞障害性分子の「致死的な打撃」を送達し、それによってアポトーシスによる標的細胞の死が起こる。簡単に説明すると、CTL-グランザイムB経路は、CTL溶解性顆粒において貯蔵されたグランザイムBおよびパーフォリンの標的細胞方向へのカルシウム依存的放出を伴う。マンノース-6リン酸化(M6P)タンパク質であるグランザイムBは、標的細胞表面上のその受容体であるマンノース-6ホスフェート/インスリン様増殖因子-II(M6P/IGF-II)受容体に結合して、パーフォリンと共にエンドサイトーシスによって標的細胞に取り込まれる。標的細胞の内部に入ると、グランザイムBはエンドサイトーシス小胞に留まり、パーフォリンまたは他の溶解物質(たとえば、アデノウイルス)によって細胞質に放出されるまで、アポトーシスを媒介することができない。細胞質に入ると、セリンプロテイナーゼであるグランザイムBは、アスパラギン酸残基でプロカスパーゼを切断して、それらを活性化して、DNA断片化およびアポトーシス細胞死に至るカスパーゼカスケードを開始させる。
【0003】
セルトリ細胞は、移植片破壊に関する自己、同種異系、およびさらに異種免疫メカニズムから膵島を保護する。自己免疫性糖尿病モデルであるNODマウスモデルにおける、セルトリ細胞媒介性の膵島保護は、セルトリ細胞によって分泌されるTGF-βに帰因する。TGF-βは、T細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、およびB細胞活性と共に、多くの前炎症性サイトカインの発現を抑制することができる抗炎症性サイトカインである。齧歯類精巣から単離されたセルトリ細胞と膵島の同時移植は、同種異系および自己免疫による移植片破壊メカニズムからの膵島の保護に成功している。しかし、本発明の前までは、セルトリ細胞がこの偉業をどのようにして達成したかはあまり理解されていなかった。
【0004】
したがって、これらの細胞を伴う病原性状態の処置が成功するためにはCTL活性を阻害するための方法を発見することが不可欠である。そのような方法は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病、または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患の処置において用いることができ、移植された組織を拒絶から保護することができる。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明者らが分泌型グランザイムB阻害性セルピンとしてセルピンa3nを同定したことに基づき、本発明は、免疫抑制を必要とする患者の処置のための方法、そのような患者の処置において有用な組成物、および細胞を患者に移植するための方法を提供する。したがって、第1の局面において、本発明は免疫抑制を必要とする患者(たとえば、糖尿病、関節リウマチ、もしくは本明細書において記載される任意の自己免疫障害のような自己免疫障害、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患を有する患者、または移植された臓器、たとえば心臓、肝臓、腎臓、膵臓、もしくは肺の一部であってもよい移植された細胞を受けた患者)を処置するための方法を提供する。方法には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片を含む組成物の、患者の免疫応答(たとえば、細胞障害性Tリンパ球によって媒介される免疫応答)を減少させるために十分な量の治療的有効量を患者に投与する段階が含まれる。グランザイムB阻害性セルピンは、分泌型タンパク質であってもよい。
【0006】
第2の局面において、本発明は、細胞(たとえば、膵島細胞、ヒト細胞、幹細胞、ブタ細胞、ブロックマン体(Brockmann body)のような魚類細胞)が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nまたは改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む第一の細胞を含む組成物を提供する段階、および組成物を哺乳動物に導入する段階を含む、細胞を哺乳動物(たとえば、ヒト)に移植するための方法を提供する。組成物にはさらに、第二の細胞(たとえば、膵島細胞)が含まれてもよい。細胞は、移植された臓器(たとえば、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺)における細胞であってもよい。細胞にはさらに、第二のポリペプチド(たとえば、ヒトインスリンのようなインスリン)をコードする第二の異種ポリヌクレオチドが含まれてもよい。
【0007】
第3の局面において、本発明は、細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含む細胞(たとえば、ヒト細胞、ブタ細胞、膵島細胞、幹細胞のような哺乳動物細胞、ブロックマン体のような魚類細胞)を含む組成物を提供する。ポリヌクレオチド配列はプロモーターに機能的に連結させてもよい。組成物にはさらに、移植のための第二の細胞(たとえば、膵島細胞)が含まれてもよい。
【0008】
第4の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片と、薬学的に許容される担体(たとえば、非経口投与または静脈内投与にとって適している)とを含む薬学的組成物を提供する。
【0009】
第5の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0010】
第6の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクター(たとえば、ウイルスベクター)を含む組成物を提供する。
【0011】
第7の局面において、本発明は、セルピンまたは断片がトランスジェニック動物の少なくとも1つの組織(たとえば、心または膵組織)においてポリヌクレオチドを発現することができるプロモーターに機能的に連結している、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト動物(たとえば、ブタまたは魚)を提供する。トランスジェニック動物にはさらに、第二の異種ポリヌクレオチド(たとえば、ポリヌクレオチドはヒトインスリンをコードする)が含まれてもよい。
【0012】
第8の局面において、本発明は、トランスジェニック動物(たとえば、ブタまたは魚)からの組織を患者(たとえば、ヒト)に移植するための方法を提供する。方法には、第7の局面のトランスジェニック動物からの組織(たとえば、心または膵組織、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺を含む組織、膵島細胞を含む組織)を含む組成物を提供する段階、および組成物を患者に導入する段階が含まれる。
【0013】
「グランザイムB阻害性セルピン」とは、セルピンa3n(SEQ ID NO:2;図8を参照されたい)またはセルピンa3nをコードするポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1;図8を参照されたい)とハイブリダイズする(たとえば、ストリンジェントな条件で)ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%配列同一性を有するポリペプチドであって、哺乳動物のグランザイムB活性(たとえば、ヒトグランザイムB(SEQ ID NO:3;図8を参照されたい))を阻害するポリペプチドを意味する。さらに、グランザイムB阻害性セルピンという用語は、グランザイムBを阻害する(たとえば、グランザイムBに特異的に結合することによって)ように改変された他の任意のセルピンタンパク質を含む。改変には、反応中心ループ(RCL)の代わりに、グランザイムB阻害(たとえば、結合)活性をセルピンに付与する異種RCL(たとえば、セルピンa3nのRCL)を用いることが含まれてもよい。1つの態様において、ヒトα1-アンチキモトリプシンは、マウスセルピンa3nのRCLを含むように改変される。この定義から具体的に除外されるのは、SPI-6およびPI-9、ならびにSPI-6またはPI-9と85%、90%、95%、98%、99%またはそれより大きい相同性を有する配列である。グランザイムB阻害性セルピンには、任意の生物、たとえばラット、ブタ、ヒト、またはマウスのような哺乳動物からの相同体およびゼノログが含まれてもよく、そのような相同体およびゼノログに由来する配列を有するセルピンが含まれてもよい。本発明の任意の局面において、グランザイムB阻害性セルピンは、細胞(たとえば、哺乳動物細胞)によって産生される場合、分泌型タンパク質(たとえば、分泌のためにポリペプチドを標的とする配列を含む)となりうる。
【0014】
「グランザイムB阻害性セルピン断片」とは、それが由来する完全長のグランザイムB阻害性セルピンのグランザイムB阻害活性の少なくとも1%、好ましくは5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%、または100%でさえ保持するグランザイムB阻害性セルピンのアミノ酸少なくとも4個の断片を意味する。グランザイムB阻害活性は、本明細書に記述されるように測定してもよい。特定の態様において、グランザイムB阻害性セルピン断片は、グランザイムB阻害性RCLを含む。
【0015】
「セルピン」とは、セリンプロテアーゼ阻害剤を意味する。セルピンには、マウスα1-アンチトリプシン(またはα1-プロテアーゼ阻害剤)ファミリー、α1-アンチトリプシンおよびα1-アンチキモトリプシンのようなヒトセルピン、およびそのようなタンパク質の相同体またはゼノログが含まれる。セルピンは、たとえばラット、ブタ、酵母、および線虫(C. elegans)を含む生物において見いだされる。セルピンは、それを通して標的セリンプロテアーゼに対する特異性が媒介される反応中心ループ(RCL)を有してもよい。
【0016】
「断片」は、アミノ酸少なくとも4個であり、完全長のポリペプチドの生物活性(たとえば、グランザイムB結合)の少なくとも一部分を含むポリペプチドの一部を意味する。好ましくは、断片は、完全長のポリペプチドの活性の少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、または99%を保持する。
【0017】
「改変された」とは、分子(たとえば、ポリペプチド)に対する任意の変化を意味する。たとえばポリペプチドの改変には、挿入、欠失、もしくはアミノ酸置換のような変異が含まれ、またはメチル化もしくは酸化のような側鎖アミノ酸残基に対する改変が含まれる。
【0018】
「グランザイムB阻害性反応中心ループ」または「グランザイムB阻害性RCL」とは、セルピンのグランザイムBに対して特異性を付与するアミノ酸の短い枝(たとえば、アミノ酸19個)が含まれるセルピンの領域を意味する。例としてのグランザイムB阻害性RCL
は、セルピンa3n配列内に含まれる。グランザイムB阻害性RCLとグランザイムBとのあいだの共有結合は、グランザイムBによるRCLの切断後に形成する可能性があり、それによってグランザイムBの非可逆的な不活化が起こる。特異的RCLのグランザイムB阻害活性は、本明細書に記述の方法を用いて決定されてもよい(たとえば、グランザイムBをIEDP-pNAと混合して、グランザイムB阻害性RCLを含むポリペプチドの存在下および非存在下で、グランザイムBによるIEDP-pNAの切断を比較する段階によって)。グランザイムB阻害活性において重要な特異的残基は、たとえば、Sun et al. (J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))によって記述されるように当技術分野において標準的な変異誘発技術を用いて同定される可能性があり、そのような方法を用いて、新規グランザイムB阻害性RCLが同定される可能性がある。
【0019】
「グランザイムB阻害」とは、グランザイムB活性を少なくとも5%、好ましくは10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%または100%でさえ低減させることを意味する。グランザイムB活性は、当技術分野において公知の任意の数の方法を用いて測定してもよい。そのような1つの方法には、グランザイムBの切断部位を含むパラニトロアナリドに共役させたイソロイシン/グルタメート/プロリン/アスパルテート(IEPD-pNA)とグランザイムBとを混合する段階が含まれる。グランザイムBによるIEPD-pNAの切断によって、IEPDと着色産物であるpNAとが生成され、その吸光度を405 nmで測定することができ、吸光度はアッセイにおけるグランザイムB酵素活性の量と比例する。分子(たとえば、セルピンのようなポリペプチド)は、グランザイムBの活性部位に特異的に結合することによって、グランザイムBを阻害する可能性がある。グランザイムB活性の測定はまた、殺細胞アッセイ(たとえば本明細書において記述されるアッセイ)を用いて行うことができる。
【0020】
「特異的に結合する」とは、もう1つの分子(たとえば、第二のポリペプチド)を認識して結合するが、試料、たとえば本来ポリペプチドが含まれる生体試料における他の分子を実質的に認識せず、結合しない化合物(たとえば、第一のポリペプチド)または抗体を意味する。
【0021】
「プロモーター」は、転写を指示するために十分な最小の配列を意味する。同様に、プロモーター依存的遺伝子発現を細胞タイプ特異的、組織特異的、時間特異的、または外部シグナルもしくは物質によって誘導可能となるように制御可能にするために十分であるプロモーター要素も本発明に含まれる;そのような要素は、本来の遺伝子の5'、3'、またはイントロン配列領域に存在してもよい。「機能的に連結した」とは、適当な分子(たとえば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合した場合に遺伝子発現を許容するように、遺伝子と1つまたは複数の調節配列とが接続されていることを意味する。
【0022】
「薬学的に許容される担体」は、それが投与される化合物または細胞の治療特性を保持しながら、処置される哺乳動物に対して生理的に許容される担体を意味する。1つの例としての薬学的に許容される担体は、生理食塩液である。他の生理的に許容される担体およびその製剤は、当業者に公知であり、本明細書においておよび、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciences, (18th edition), ed. A. Gennaro, 1990, Mack Publishing Company, Easton, Penn.において記述されている。
【0023】
「処置する」とは、疾患または疾患に関連した症状の処置または予防のために薬学的組成物を投与することを意味する。
【0024】
「CTL媒介疾患」は、CTL細胞が細胞を死滅させるように不適切に標的とする疾患を意味する。CTL媒介疾患は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病)、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、または移植の状況であってもよい。
【0025】
「移植のための細胞」とは、患者(たとえば、ヒト)に提供される可能性がある任意の細胞を意味する。移植にとって適した細胞には、患者からの細胞、もう1つの動物から採取した細胞(たとえば、同じ種または異なる種の動物から採取した細胞)、または死体ドナーから採取した細胞が含まれてもよい。本発明において特に有用な細胞には、膵島細胞が含まれ、これらの細胞の特に有用な起源には、魚、ブタ、およびヒトが含まれる。
【0026】
「自己免疫障害」とは、哺乳動物の免疫系が哺乳動物自身の組織に対する液性もしくは細胞性免疫応答を開始する、または炎症を起こすことなく適切な細胞の生存を防止するその組織における内因性の異常を有する障害を指す。
【0027】
自己免疫疾患の例には、糖尿病、関節リウマチ、炎症性神経変性疾患(たとえば、多発性硬化症)、紅斑性狼瘡、重症筋無力症、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、橋本病、グレーヴス病、シェーグレン症候群、多腺性内分泌不全、白斑、末梢ニューロパシー、移植片対宿主病、自己免疫性I型多腺性症候群、急性糸球体腎炎、アジソン病、成人発症型特発性副甲状腺機能低下症(AOIH)、全脱毛、筋萎縮性側索硬化症、強直性脊椎炎、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、ベーチェット病、セリアック病、慢性活動型肝炎、CREST症候群、皮膚筋炎、拡張型心筋症、好酸球増多-筋痛症候群、後天性表皮水疱症(EBA)、巨細胞性動脈炎、グッドパスチャー症候群、ギヤン-バレー症候群、ヘモクロマトーシス、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、特発性IgA腎症、インスリン依存型真性糖尿病(IDDM)、若年性関節リウマチ、ランバート-イートン症候群、線状IgA皮膚症、心筋炎、ナルコレプシー、壊死性脈管炎、新生児狼瘡症候群(NLE)、ネフローゼ症候群、類天疱瘡、天疱瘡、多発筋炎、原発性硬化性胆管炎、乾癬、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、ライター症候群、スティフマン症候群、および甲状腺炎が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0028】
「炎症性血管疾患」とは、血管組織の炎症に関連する任意の状態を意味する。そのような疾患は、内皮細胞アポトーシスの増加またはグランザイムBアポトーシス経路によって媒介される可能性がある。例としての炎症性血管疾患には、アテローム性動脈硬化症、髄膜炎、側頭動脈炎、移植血管疾患、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、大動脈瘤、髄膜炎、および側頭動脈炎が含まれる。
【0029】
「炎症性ニューロン疾患」とは、神経組織(たとえば、ニューロン)の炎症に関連する任意の状態を意味する。特定の場合において、そのような疾患は、グランザイムBアポトーシス経路によって媒介される可能性がある。炎症性ニューロン疾患には、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、プリオン病(たとえば、クロイツフェルト-ヤコブ病およびスクレイピー)、およびアルツハイマー病が含まれる。
【0030】
「患者における免疫応答を減少させるために十分な」とは、患者に投与した場合に、少なくとも1つの免疫応答(たとえば、CTL媒介殺細胞)を5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれより多く低減させる能力を有する組成物(たとえば、免疫抑制活性を有する組成物)の量である。
【0031】
「免疫抑制活性」とは、少なくとも1つの免疫応答(たとえば、CTL媒介殺細胞)の低減を意味する。低減は、少なくとも2%、5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれより多くてもよい。
【0032】
本発明の他の特徴および長所は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病、関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または移植を有する患者のような免疫抑制を必要とする患者を処置するための組成物および方法を特徴とする。組成物には、セルピンa3nをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、および免疫抑制治療を必要とする患者の処置において有用な薬学的組成物が含まれる。
【0034】
本研究において、本発明者らは、移植片破壊における主な免疫エフェクターメカニズムであるアポトーシス標的細胞死に至るグランザイムB経路を遮断することによって、CTL殺細胞を阻害するセルトリ細胞によって分泌される因子であるセルピンa3nの新規活性を同定した。1つの可能性は、セルトリ細胞がM6P/I GF-II受容体に関するリガンドの分泌を通してグランザイムB媒介アポトーシスを阻害することであった。しかし、セルトリ細胞条件培地(SCCM)は、M6P/IGF-II受容体細胞表面発現に対して効果を示さず、SCCMもグランザイムB結合または取り込みを妨害せず、SCCMの阻害作用がグランザイムBタンパク質分解活性に対する直接効果に起因する可能性が現れた。本明細書において示されるように、マウスセルトリ細胞によって分泌される因子であるセルピンa3nは、グランザイムBとの直接相互作用によって、ヒトおよびマウスグランザイムB酵素活性の双方を有効に低減した。
【0035】
以下に詳しく記述するように、ヒトグランザイムBをマウスSCCMと共にインキュベートすると、グランザイムBを含む安定な複合体を形成する。グランザイムB複合体は、SDSおよび熱誘発性の変性に対して抵抗性であり、セリンプロテイナーゼ阻害剤(セルピン)を含む複合体と一致する。グランザイムBとの複合体には、SPI-6が含まれず、このことはセルトリ細胞によって分泌されるもう1つのセルピンがグランザイムBと相互作用してSDS安定性の複合体を形成するはずであることを示した。実際に、複合体のMALDI-TOF質量分析により、グランザイムBに結合した因子として、異なるセルピンであるセルピンa3nが明白に同定された。Jurkat細胞におけるセルピンa3nのクローニングおよび発現により、このタンパク質が、グランザイムBに結合してその活性を阻害することが確認された。これは、PI-9またはSPI-6以外のセルピンがグランザイムBを阻害する初めての知見である。さらに、セルピンa3nは、PI-9またはSPI-6とは異なり、分泌型タンパク質である。
【0036】
セルトリ細胞によって分泌される新規グランザイム阻害剤に関する知見は、それによってセルトリ細胞が同種異系、自己および異種免疫破壊メカニズムから膵島移植片を保護するメカニズムの理解に寄与する。分泌型セルピンa3nは、グランザイムB活性およびグランザイムB媒介殺細胞を有効に阻害し、このメカニズムは、宿主細胞媒介免疫応答を遮断するための強力かつ新規アプローチを表す。したがって、本発明は、セルピンを提供することによって、同種異系および異種移植、および同時移植のための方法と共に、免疫抑制の他の型を提供する。
【0037】
グランザイムB
グランザイムBは、グランザイムファミリーの重要なメンバーである。グランザイムBおよびパーフォリンは、ウイルス感染症および抗腫瘍免疫においてNK細胞およびCTLによる標的殺細胞を媒介するエフェクター分子である。パーフォリンは、グランザイムBの細胞流入を媒介することから、グランザイムB活性にとって通常必要である;しかし、グランザイムB基質が細胞外に存在する多くの場合が存在し、これらの場合、パーフォリンは必要ではない(Choy et al., Arterioscler. Thromb. Vase. Biol. 24:2245-2250 (2004))。この経路の調節障害は、特定のヒト疾患およびマウスにおける遺伝子異常に関連する(Russell et al., Annu. Rev. Immunol. 20:323-370 (2002))。グランザイムBおよびパーフォリンは、相乗的に作用して、標的細胞に対して細胞障害効果を発揮する。グランザイムBの標的細胞への送達の基礎となるメカニズムは、パーフォリンによって作製された膜貫通孔(Yagita et al., Adv. Immunol. 51 :215-242 (1992))、非特異的な電荷相互作用(Shi et al., J. Immunol. 174:5456-5461 (2005))、および/または陽イオン非依存的マンノース6-P受容体媒介エンドサイトーシス(Motyka et al., Cell 103:491-500 (2000))を必然的に伴う可能性がある。内皮細胞アポトーシスはCTL細胞によって媒介される。グランザイムBはこのプロセスに関係しており、このように、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎のような炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、および移植血管疾患のような臓器移植に関連する疾患に関わっている可能性がある(Choy et al., Arterioscler. Thromb. Vase. Biol. 24:2245-2250 (2004);Choy et al., Am. J. Transplant. 5:494-499 (2005))。さらに、調節性T細胞は、腫瘍に対する反応を阻害するためにグランザイムBを利用する。
【0038】
タンパク質セルピンファミリー
セルピンa3nは、ヒトα1-アンチキモトリプシン(SERPINA3)と高い程度の相同性を有するセルピンの多重遺伝子ファミリーメンバーである。ヒトにおいて、α1-アンチキモトリプシンをコードする単一の遺伝子が存在するが、繰り返し重複事象によって、マウスにおいて近縁の遺伝子14個のクラスタが出現した(Forsyth et al., Genomics 81 :336-345 (2003))。これらの遺伝子の中で、セルピンa3nは、少なくともタンパク質の構造部分に関係する部分に関して、アンチキモトリプシンと最も高い程度の相同性(アミノ酸レベルで61%)を有する遺伝子である。その反応中心ループのアミノ酸配列に基づいて、セルピンa3nは、エラスターゼとして機能する可能性があると提唱された(Horvath et al., J. Mol. Evol. 59:488-497 (2004))。より最近の研究から、セルピンa3nがヒトアンチキモトリプシンとヒトアンチトリプシンの双方に対して基質特異性を共有し、キモトリプシン、トリプシン、カテプシンGおよびエラスターゼに結合してこれらを不活化することができることが示された(Horvath et al., J. Biol. Chem. 280:43168-43178 (2005))。本明細書において、本発明者らは、セルピンa3nがグランザイムBの阻害剤でもあることを示す。
【0039】
グランザイムBの既に特徴付けのなされた阻害剤PI-9およびSPI-6は、グランザイムB活性を遮断するために、反応中心ループのP1位に酸性残基を必要とする(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001);Sun et al., J. Biol. Chem. 272:15434-15441 (1997))。反応中心ループにおける他の残基、特に残基P4-P4'は、グランザイムとの相互作用にとって重要である(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177- 15184 (2001))。セルピンa3nの反応中心ループは酸性残基を含まないが、P1位でMetを示し、これはグランザイムBによって切断されうる(Poe et al., J. Biol. Chem. 266:98-103 (1991);Odake et al., Biochemistry 30:2217-2227 (1991))。その上、セルピンa3nのRCLにおける残基P4-P4'の多くは、PI-9反応中心ループのスキャニング変異誘発によって定義されるように、グランザイムB特異性と適合性である(Sun et al., J. Biol. Chem. 276: 15177- 15184 (2001))。
【0040】
セルピンa3nは、脳、精巣、肺、胸腺、および脾臓において高度に発現される(Horvath et al., J. Mol. Evol. 59:488-497 (2004))。精巣において、セルトリ細胞によって分泌されるセルピンa3nは、SPI-6と協調して局所産生されたグランザイムBの活性を調節するように作用する可能性がある(Hirst et al., Mol Hum. Reprod. 7:1133-1142(2001))。PI-9/SPI-6とセルピンa3nとの重要な差は、後者が分泌型ポリペプチドであるのに対し、PI-6およびSPI-6は細胞内である点である。
【0041】
以下に、セルピンa3nを含むSCCMによるCTL媒介細胞死の阻害を示す実験結果を詳述する。
【0042】
セルトリ細胞は、移植された膵島細胞をCTL媒介アポトーシス死から保護する
膵島と齧歯類精巣から単離したセルトリ細胞との同時移植により、異種、同種異系および自己免疫による移植片破壊メカニズムから膵島は保護される(Selawry et al., Cell Transplant. 2:123-129 (1993);Korbutt et al., Diabetes 46:317- 322 (1997);Takeda et al., Diabetologia 41:315-321 (1998);Korbutt et al., Diabetologia 43:474-480 (2000))。本発明の前までは、セルトリ細胞が膵島細胞を保護するメカニズムはあまりよく理解されていなかった。セルトリ細胞は、少なくとも部分的にCTL殺細胞の阻害を通して膵島細胞を保護することができ、実際にセルトリ細胞は、CTL-グランザイムB経路を遮断するタンパク質を発現して、それによってアポトーシス細胞死を防止することが見いだされている。たとえば、セルトリ細胞は、グランザイムBのM6P/IGF-IIデス受容体のリガンドであるM6P-糖タンパク質およびIGF-IIを分泌する(O'Brien et al., Biol. Reprod. 49:1055-1065 (1993);Tsuruta et al., Biol. Reprod. 63:1006-1013 (2000))。セルトリ細胞において発現されるM6P-糖タンパク質には、プロサポシン、プロカテプシンL、およびトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)が含まれる(O'Brien et al., Biol, reprod. 49: 1055-1065 (1993);Russell et al., The Sertoli Cell, Clearwater, Florida: Cache River Press (1993))。特にTGF-βは、NODマウスにおける膵島のセルトリ細胞媒介性保護に関係する免疫抑制物質である(Suarez-Pinzon et al., Diabetes 49:1810-1818(2000))。これらのタンパク質は、受容体をダウンレギュレートまたは遮断して、それによってグランザイムBの取り込みを防止して、その後の標的細胞の殺細胞を防止する。
【0043】
本明細書において記述されるように、グランザイムB媒介アポトーシスに及ぼすSCCMの効果を調べたところ、セルトリ細胞は、グランザイムB媒介アポトーシスを低減させる安定な複合体の形成を通してグランザイムB酵素活性を阻害する因子を分泌することが見いだされた。この因子は、セルピンの特徴を示したが、マウスセリンプロテイナーゼ阻害剤-6(SPI-6)ではなく、マウスグランザイムBの阻害剤であった。質量分析により、この因子は新しく新規であるグランザイムBの阻害剤、セルピンa3nとして同定された。
【0044】
セルトリ細胞条件培地は、グランザイムB媒介殺細胞に影響を及ぼす。
本発明者らは最初に、SCCMがCTL媒介殺細胞から標的細胞を保護できるか否かを試験した。3H-チミジン標識L1210細胞は、C57 CTL細胞株によって処置するとアポトーシス細胞死(%特異的3Hチミジン放出)を受けた。C57 CTL細胞株による殺細胞は、Fasリガンドよりはむしろ主にグランザイムBの結果である(データは示していない)。SCCMによるL細胞の処置は、CTL殺細胞を有意に低減させた(図1A)。
【0045】
SCCMがグランザイムB媒介殺細胞経路に影響を及ぼすか否かを査定するために、精製グランザイムBを用いる殺細胞アッセイを行った。TUNEL分析によって査定すると、標的細胞のグランザイムB処置によって、用量依存的なDNAの断片化および細胞死が起こった。しかし、SCCMの存在下では、標的細胞におけるグランザイムB媒介DNA断片化は劇的に低減された(図1B)。DNA断片化の低減は、120 ng/mlに等しい、またはそれより高い用量のグランザイムBにおいて有意であることが見いだされた(p<0.05)。
【0046】
セルトリ細胞条件培地は、グランザイムB酵素活性を阻害する。
本発明者らは、M6P/IGF-II受容体発現またはグランザイムB取り込みに及ぼすSCCMの有意な効果を見いださなかった(図2A〜2D)。このように、標的細胞の殺細胞に関して観察された阻害は、グランザイムBタンパク質分解活性に影響を及ぼすSCCMに起因するか否かを決定した。実際に、ヒトグランザイムBをSCCMと共にプレインキュベートすると、グランザイムB活性の有意な低減(83%減少)が起こったが、グランザイムBを対照HAM F10培地と共にインキュベートしても阻害は観察されなかった(図3A)。CTL脱顆粒材料から得たマウスグランザイムBについても類似の結果が観察された(図3B)。
【0047】
グランザイムBは、セルトリ細胞によって分泌される因子によって共有的に改変される。
グランザイムBがセルトリ細胞から分泌される因子によって改変されるか否かを査定するために、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした後、これをSDS-PAGEおよび抗グランザイムB抗体によるウェスタンブロッティングによって分解した。図4Aにおいて示されるように、対照試料(グランザイムB単独およびHAM F10対照培地と共にインキュベートしたグランザイムB)は、分子量約32 lDaのバンドを示し、分子量約54 kDaの第二のバンドも同様に観察され、これはグランザイムBのグリコシル化型に対応した。グランザイムBをSCCMと共にインキュベートすると、分子量約78 kDaの新しい免疫反応性バンドが出現し、このようにグランザイムBとSCCMにおけるこれまで未知の因子との安定な複合体が形成されることを示している。本発明者らは、この因子はセリンプロテイナーゼ阻害剤またはセルピンではないかと疑った。セルピンは、SDSおよび熱変性に対して抵抗性で、その同源のプロテイナーゼに実質的に非可逆的に結合することが知られており、この特性は、このクラスのプロテイナーゼ阻害剤において独自であると考えられている(Potempa et al., J. Biol. Chem. 269:15957-15960 (1994))。本発明の前までは、安定な複合体の形成を通してグランザイムB酵素活性を阻害することが知られているセリンプロテイナーゼ阻害剤は、マウスSPI-6およびヒトPI-9であった。セルトリ細胞は、マウスおよびヒト精巣においてそれぞれ、SPI-6およびPI-9を発現することが示されている(Bladergroen et al., J. Immunol. 3218-3225 (2001);Hirst et al., Mol. Hum. Reprod. 7:1133-1142 (2001))。SPI-6がSCCMにおけるグランザイムBの結合および阻害の原因であるか否かを決定するために、SPI-6を認識する抗体によるウェスタンブロッティングを行った。この実験は、SCCMまたはグランザイムBとの複合体においてSPI-6が検出されないことを示した。分子量42 kDaの免疫反応性のバンドは陽性対照に存在した(C57マウスCTLからの総細胞溶解物)(図4B)。図4Cは、剥離させて抗グランザイムB抗体によって再プロービングした、同じゲルにおけるグランザイムB複合体の位置を示す。これらのデータは、SCCMにおいてグランザイムBと共に形成する複合体においてSPI-6が観察されないことを示している。
【0048】
マウスセルトリ細胞によって分泌される新規グランザイムB阻害剤の同定
精製グランザイムBをセルトリ細胞条件培地と共にインキュベートした際に形成される複合体の特徴を調べるために、抗グランザイムB抗体によって免疫沈降させた高分子量複合体のMALDI-TOF質量分析を行った。そのペプチドマスフィンガープリントに基づいて、複合体において2つのタンパク質が同定された(表1):ヒトグランザイムBおよびマウスセルピンa3n(同様にspi2.2としても知られる)、セリンプロテイナーゼ阻害剤。セルピンa3n(47 kDa)およびヒトグランザイムB(32 kDa)の予想分子量は、実際に、見かけの分子量約78 kDaの観察された共有結合へテロ二量体複合体と適合性である。
【0049】
【表1】
【0050】
同定された全てのセルピンにおいて、同源のプロテアーゼと相互作用する本発明の部分は、反応中心ループ(RCL)である(Whisstock et al., Trends Biochem. Sci. 23:63-67 (1998))。表2は、セルピンa3nのRCL(P4-P4'アミノ酸)と他の2つのセルピン、すなわちマウスおよびヒトにおいてそれぞれ、グランザイムBに結合してこれを不活化するマウスSPI-6およびヒトPI-9のアミノ酸配列を示す(SEQ ID NO:16〜18)。セルピンa3n配列をPI-9と直接比較して、グランザイムBに対する結合と適合性の保存された残基およびアミノ酸置換を同定した(Sun et al, J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001)に従って)。
【0051】
【表2】
灰色のセルは、グランザイムBに関する仮説上の切断部位(P1-P1'残基のあいだ)を示す。記号「-」は、PI-9のスキャニング変異誘発によって査定した場合にグランザイムBに対する結合に負の影響を及ぼす、セルピンa3nにおけるアミノ酸置換(PI-9に関して)を示す(Sun et al., J. Biol. Chem. 272:15434-15441 (1997));「=」は保存された残基である;「+」は、グランザイムB結合および切断と適合性である(P1)または増加させる(P2およびP1')ことが示されているセルピンa3nにおける保存的アミノ酸置換を示す;「NI」はグランザイムB結合にとって重要ではない残基を示す。
【0052】
グランザイムBは、AspまたはGlu残基で基質を選択的に切断するが(Thornberry et al., J. Biol. Chem. 272:17907- 17911 (1997);Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))、これは同様にMet残基の後でも切断する(Poe et al., J. Biol. Chem. 266:98-103 (1991);Odake et al., Biochemistry 30:2217-2227 (1991))。したがって、セルピンa3nのRCLにおけるMet(表2)は、グランザイムBによるセルピン切断にとって必要なP1残基を表す可能性がある。セルピンa3nの反応中心ループにおける他の残基が、PI-9との相互作用にとってグランザイムBに関してこれまでに定義された選択性で保存される(または少なくとも適合性である)ことは注目に値する(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))(表2)。
【0053】
セルピンa3nはインビトロでグランザイムBと共有結合複合体を形成する。
本発明者らは次に、RT-PCRによってマウス肝総RNAからセルピンa3n cDNAをクローニングした。抗セルピンa3n抗体を入手できなかったため、検出を促進するためにセルピンC末端でHAタグを付加した。組み換え型タンパク質をインビトロで転写/翻訳して、精製グランザイムBに対するその結合能を試験した。図5Aおよび5Bにおいて示されるように、グランザイムBをインビトロ合成セルピンに加えたところ、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした場合に観察される複合体と類似のセルピンa3nとグランザイムBとの高分子量複合体が形成された。組み換え型セルピンによって形成された複合体の分子量がわずかに低いこと(セルトリ細胞によって分泌されたセルピンによって形成された複合体と比較して)は、セルピンのグリコシル化の欠如による可能性がある。これらのデータは、セルピンa3nがグランザイムBに結合するセルトリ細胞によって分泌されるタンパク質であることを確認した。
【0054】
Jurkat細胞において発現されたセルピンa3nは培地に分泌され、グランザイムB活性を阻害する。
次に、本発明者らはJurkat細胞においてセルピンa3nを発現させて、高いトランスジーン発現を有する安定なクローンを選択した。図6Aは、これらのクローンの1つ、SerE12-HAにおけるセルピンa3nの発現と共に培養培地へのその分泌を示す。SerE12-HAクローンからの培養培地を精製ヒトグランザイムBと共にインキュベートすると、セルピンa3nとグランザイムBとの高分子量複合体が形成された(図6B)。予想されるように、SerE12-HA条件培地はまた、グランザイムB酵素活性を用量依存的に阻害した(図6C)。
【0055】
セルピンa3nはT細胞媒介またはグランザイムB媒介細胞死に対してニューロンを保護する。
本発明者らはまた、Tリンパ球が軸索およびニューロンの病理をインビトロで媒介することができること、およびセルピンa3nがCTL媒介細胞死からニューロンを保護することを決定した。培養ヒト胎児ニューロンを、成人ドナーの末梢血(同種異系)または同じ胎児標本の脾臓(同系)のいずれかから単離したTリンパ球によって処置した。抗CD3処置によって活性化されると、Tリンパ球はニューロンを大量に殺した(しかし、不活化されると殺さなかった)。同時培養の24時間までに、90%より多くのニューロンが変性した。その上、T細胞は軸索周囲で凝集し、微小管関連タンパク質-2(MAP-2、ニューロンマーカー)の急速な消失およびその後のニューロンの死亡が起こった。ニューロンのT細胞媒介殺細胞は、同種異系または同系のいずれでも起こり、活性化T細胞を必要とするが、いかなる外因性の抗原の存在も必要としなかった。このように、活性化Tリンパ球は、それらが有意な数でCNSに浸潤すると、軸索およびニューロンの完全性に顕著に影響を及ぼしうる。
【0056】
グランザイムBはT細胞媒介神経変性において主要な役割を果たしうることが既に示されていることから、セルピンa3nについて可能性がある神経保護作用を調べた。活性化T細胞を、セルピンa3nを分泌するJurkat細胞からの上清、または対照(濃縮AIMV、濃縮Jurkat細胞上清、または濃縮F8上清)と共に2時間インキュベートした。次にT細胞をヒトニューロンと共に培養した。24時間後、ニューロン生存率の定量的分析を行った。ニューロンの60%から90%が組み換え型グランザイムB、活性化T細胞単独との同時培養、または対照上清による前処置において失われる。対照的に、セルピンa3nによって前処置した活性化T細胞との同時培養では、失われたニューロンは30%に過ぎなかった。このように、セルピンa3nは神経保護物質となりえて、したがって炎症性のニューロン障害(たとえば、本明細書において記述される障害)の処置において有用となる可能性がある。
【0057】
材料および方法
以下の方法を用いて上記の実験を行った。
【0058】
動物、細胞株、および試薬。雄性BALB/cマウス(University of Alberta, Edmonton, Alberta, Canada)をセルトリ細胞ドナーとして用いた。
【0059】
L細胞(C3Hマウス線維芽細胞株)を、10%FBS、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン(P/S)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Life Technologies, Burlington, Ontario)において生育させた。マウスリンパ球性白血病L1210細胞を、20 mM HEPES、50 U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、1 mMピルビン酸ナトリウム(Life Technologies)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(Sigma, St. Louis, MO)、および10%FBSを添加したRPMI 1640培地において維持した。C57細胞(B6マウスCTL細胞株)を、BALB/cまたはC3Hマウス脾細胞によって刺激したB6マウスの脾臓から単離された脾細胞から生成した。C57細胞を10%FBS、10-4 M 2-メルカプトエタノール、100μg/ml P/S、20 mM Hepes、および80単位/mlヒト組み換え型IL2(RHFM)を添加したRPMI 1640(Life Technologies)において生育させた。細胞を濃度5×105個/mlで維持して、放射線照射BALB/cまたはC3H脾細胞(2500 rad)によって1(C57)対14(脾細胞)の比で1週間に1回刺激した。
【0060】
ヒトグランザイムBを、Caputo et al., Proteins 35:415-424 (1999)において記述されるようにYT INDY細胞の細胞溶解顆粒から精製した。ヒト複製欠損アデノウイルス(Adv)は、既に記述されているように調製した(Bett et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91:8802-8806(1994))。マウス脱顆粒グランザイムB材料を、既に記述されているように(Sipione et al., J. Immunol. 174:3212-9 (2005))、固定した抗マウスCD3ε抗体(クローン145-2C1 1, BD Biosciences Pharmingen, San Diego, Calif.)によって刺激したCTL細胞から調製した。
【0061】
マウスセルトリ細胞の単離およびセルトリ細胞条件培地の調製。9〜12日齢の雄性BALB/cマウスドナーから精巣を単離して、氷中で0.5%BSA(Sigma)を含むHBSSに入れた。精巣を刻んでコラゲナーゼ(1 mg/ml;Sigma V型)によって37℃の振とう水浴中で6分間消化した。組織をHBSSによって3回洗浄した後、シリコン処理した250 mlフラスコにおいて、1 mmol/EGTAおよび0.5%BSA(Sigma)を含むカルシウムを含まない培地においてDNアーゼ(0.4 mg/ml、Boehringer Mannheim, Laval, Canada)およびトリプシン(1 mg/ml、Boehringer)によって37℃の振とう水浴中でさらに6分間消化した。2回目の消化後、細胞をHBSSによって洗浄して、500μmナイロンメッシュによって濾過した後、さらに3回洗浄してから播種した。細胞の生存率を、トリパンブルー排除によって決定した。培養におけるGATA-4陽性セルトリ細胞および平滑筋α-アクチン陽性の管周囲筋様体細胞の数を、既に記述されているように(Dufour Gene Ther. 11:694-700 (2004))、マウスモノクローナル抗GATA-4(1:50;Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, Calif.)およびマウスモノクローナル抗平滑筋αアクチン(1:50;DakoCytomation, Carpinteria, Calif.)を用いて免疫組織化学によって決定した。それぞれの調製物において、細胞少なくとも500個を計数した。
【0062】
条件培地の調製に関して、0.5%BSA(セルトリ細胞条件培地をウェスタンブロット分析のために調製する場合にはBSAを加えなかった)、100 U/mlペニシリンおよび100 U/mlストレプトマイシンを添加した無血清HAM F10培養培地30 mlにおいて、セルトリ細胞を5×107個の濃度で播種した。細胞を組織培養処置プレートにおいて37℃および5%CO2で3日間培養した。次に、上清を回収して、2000 RPMで各5分間2回遠心して、細胞の破片を除去した。次に、得られたセルトリ細胞条件培地(SCCM)をAmicon YM-10 Centricon装置(分子量カットオフ10 kDa;Fisher Scientific, Ottawa, Ontario)によって7000 RPM(4℃)で90分間濃縮して容積を3 ml(10倍濃縮)とした。0.5%BSAを含むまたは含まない無血清HAM F10を同様に濃縮して、これを対照培地として用いた。タンパク質濃度は、Bradfordタンパク質アッセイ(BioRad Laboratories, Hercules, Calif.)によって決定した。SCCMは使用するまで4℃で保存した。
【0063】
CTL殺細胞アッセイ。3H-チミジン標識L1210細胞を、HAM F10対照培地またはSCCMと共に37℃で1時間プレインキュベートした。次に、C57エフェクター細胞をL1210細胞と10:1の比率(エフェクター対標的細胞比)で混合して、37℃で3時間インキュベートした。3時間インキュベーション後、標的およびエフェクター細胞の試料を、3H-チミジン放出の定量のために調製した。試料溶解緩衝液(1%Triton-X、200μl)を、試料を含む各エッペンドルフチューブに加えて、チューブをボルテックス機械を用いて1分間混合した。次いで、チューブを1400 RPMで4℃で10分間遠心した。上清を液体シンチレーションバイアルに移して水溶性の計数シンチラントを加えた。次に、3Hチミジン放出量を決定するために試料をβカウンターに入れた。試料あたりの%特異的3H-チミジン放出は、以下のように計算した:[(試料のカウント[標的およびエフェクター]−自然発生カウント[標的単独])/(総カウント−自然発生カウント)]×100。
【0064】
グランザイムB媒介アポトーシスおよびTUNELアッセイ。線維芽細胞L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで播種して、濃縮SCCMまたはHAM F10(対照)25μlと共に37℃で30分間プレインキュベートした。ヒトグランザイムBの増加濃度および100 pfu/ウェルのアデノウイルス、アデノウイルス単独、またはグランザイムB単独を細胞に加えた。細胞を37℃で3時間インキュベートして、2%FBSを添加したリン酸緩衝生理食塩液(PBS)によって洗浄し、2%パラホルムアルデヒドおよび1%FBSによって4℃で終夜固定した。TdT媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイを用いて、グランザイムBと共にインキュベートした場合に標的細胞において起こるアポトーシスの顕著な特色であるDNA断片化の量を測定した。終夜の固定技法の後、L細胞をPBS/2%FBSによって3回洗浄して、0.1%サポニンのPBS溶液によって室温で1時間透過性にした。次に、細胞をPBS/2%FBSによって3回洗浄して、TUNELミックス(20μl、Roche Diagnostic, Laval, Quebec)と共に37℃で1.5時間インキュベートした。PBS/2%FBSにおいて2回洗浄後、細胞をPBS/2%FBSにおいて浮遊させて、蛍光活性化セルソーター(FACS、FACScan, BD Biosciences)によって分析して、TUNEL陽性細胞数の百分率を誘導した。
【0065】
マンノース-6ホスフェート受容体発現およびグランザイムBの取り込み。L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで播種して、SCCMまたはHAM F10対照培地と共に37℃で1時間プレインキュベートした。CI-MPRおよびCD-MPR染色に関して、L細胞をPBS(0.1%BSA、対照)、そのいずれもがマウスタンパク質と交叉反応する(Motyka et al., Cell 103:491-500 (2000))ウサギ抗ウシCI-MPR(1/500、William Brown, Cornell University)、またはウサギ抗ヒトCD-MPR(1/100、William Sly, Saint Louis University)と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC、1/100、Jackson, Mississauga, Ontario)に共役させたヤギ抗ウサギ抗体と共に4℃で20分間インキュベートした。次に、細胞を2%FBSを添加したPBSによって洗浄して、2%パラホルムアルデヒドおよび1%FBS(180μl)を含むPBSにおいて4℃で終夜固定した。次に、後の細胞をPBS/2%FBSによって数回洗浄後、蛍光活性化セルソーター(FACS scan, BD Biosciences)によって獲得および分析した。
【0066】
グランザイムB結合および取り込みを検出するために、L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで加えてSCCMまたはHAM F10対照培地と共に37℃で1時間プレインキュベートした。L細胞に対するグランザイムB結合に関して、細胞をPBS(0.1%BSA)およびAlexa 488(Molecular Probes)に共役させたグランザイムBと共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を、上記のようにPBSによって洗浄して固定した後、FACS分析を行った。グランザイムBのL細胞への取り込みに関して、細胞をDMEM(0.1%BSA)およびAlexa 488に共役させたグランザイムBと共に37℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を0.1%BSAを含むDMEMによって洗浄して、固定し、FACSによって分析した。
【0067】
グランザイムB酵素活性アッセイ。パラニトロアナリドに共役させたイソロイシン/グルタメート/プロリン/アスパルテート(IEPD-pNA)は、グランザイムBの切断部位を含む。IEPD-pNAがグランザイムBによって切断されると、これはIEPDおよび着色産物であるpNAを産生し、その吸光度を405 nmで測定して、アッセイにおけるグランザイムB酵素活性の量と比例すると仮定することができる。
【0068】
ヒト精製グランザイムBおよびマウスCTL脱顆粒グランザイムBを、96ウェルプレートにおいてPBS/2%FBS、HAM F10培地、またはSCCMと共に37℃で30分間インキュベートした。次に、既に記述されているように(Ewen et al., J. Immunol. Methods 276:89-101 (2003))グランザイムB酵素活性を測定した。簡単に説明すると、50 mM HEPES、pH 7.5、10%(w/v)ショ糖、0.05%(w/v)CHAPS、5 mM DTTおよび200μMアセチル-Ile-Glu-Pro-Asp-パラニトロアニリド(Ac-IEPD-pNA)(Kamiya Biomedical, Seattle, Wash.)を含む反応混合物を試料に加えた。次に、プレートを37℃で5時間インキュベートした。Ac-IEPD-pNAの加水分解をゼロ時点、およびその後1時間毎に、Multiskan Ascent分光光度計(Thermo Lab- System, Helsinki, Finland)を用いて405 nmで測定した。
【0069】
グランザイムBおよびSPI-6のウェスタンブロッティング。グランザイムB(36 ng)を濃縮SCCM(BSAを含まない)40μlと共に、同量の濃縮HAM F10培地、またはPBSと共に37℃で2時間インキュベートした。SDS試料緩衝液を試料に加えて、次にこれを100℃で5分間の加熱によって変性させた。タンパク質を10%SDS-ポリアクリルアミドゲルにおいて30 mA/ゲルで1.5時間分離して、PVDFメンブレン(Millipore, Bedford, Mass)に転写した。
【0070】
グランザイムBの免疫学的検出は、マウスモノクローナル抗ヒトグランザイムB抗体(クローン2C5, 1:500 dilution, Santa Cruz, Santa Cruz, Calif)によって行った。用いた第二抗体は、抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:3000、Bio Rad, Mississauga, Ontario)であった。SPI-6免疫学的検出は、異なる2つの抗体、すなわちSPI-6と交叉反応することが知られている(Bladergroen et al., J. Immunol. 3218-3225 (2001);Medema et al., J. Exp. Med. 194:657-667 (2001))ウサギ抗マウスSPI-6抗体(1:5000希釈、Dr. J.P. Medema Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlandsの厚意による提供)、マウス抗ヒトPI-9抗体(P19-17、8.5μg/ml, Alexis Biochemicals, San Diego, Calif.)によって行った。抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:20000、Bio Rad)または抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:3000、Bio Rad)をそれぞれ、二次抗体として用いた。免疫反応性バンドの検出はECL Plus(Amersham Biosciences, Piscataway, N.J.)によって行った。表記の場合、PVDFメンブレンを、2%SDSおよび100 mM 2-メルカプトエタノールを含む62.5 mM トリス-HCl(pH 6.7)によって、60℃の振とう水浴中で30分間剥離させた後、異なる抗体によって再プロービングした。
【0071】
グランザイムB免疫沈降およびセルピン-グランザイムB複合体の特徴付け。ヒトグランザイムB(1μg)を、上記のように予め濃縮したSCCM 1mlと共に37℃で2時間インキュベートした。1%NP-40および0.5%デオキシコール酸ナトリウムを含むPBS(結合緩衝液)1 mlならびにプロテインG-セファロース(2 mgプロテインG/ml排出培地;Amersham Biosciences Corp., Piscataway, N.J., USA)100μlを4℃で1時間加えることによって、試料の予め洗浄を行った。グランザイムBの免疫沈降はモノクローナル抗ヒトグランザイムB抗体(クローン 2C5、Santa Cruz, Calif)と共に4℃で終夜インキュベートした後に、プロテインG-セファロースと共に4℃で3時間インキュベートすることによって行った。免疫沈降物を結合緩衝液によって3回洗浄して、PBSによって4回洗浄し、SDS試料緩衝液に浮遊させて、100℃で10分間変性させた。免疫沈降させたタンパク質をSDS-PAGEによって分離して、ゲルにおけるタンパク質バンドをクーマシーブルーR染色によって顕色した。免疫沈降の前後に採取した試料の少量を同じゲルにおいて泳動させて、PVDFメンブレンに転写した。グランザイムBのウェスタンブロットは、上記のように行い、ゲルのクーマシーブルー染色によって顕色されたバンドのパターンと比較した。ウェスタンブロットにおいて高分子量の免疫反応性バンドにマッチするバンドをゲルから切除して、Institute for Biomolecular Design (IBD, University of Alberta, Canada)においてMALDI-TOF質量分析によって分析した。簡単に説明すると、自動インゲルトリプシン消化をMass Prep Station (Micromass, UK)において行った。ゲル小片を脱染色して還元し(DTT)、アルキル化して(ヨードアセトアミド)、トリプシンによって消化し(Sequencing Grage, Promega)、得られたペプチドをゲルから抽出して、LC/MS/MSによって分析した。LC/MS/MSは、Q-ToF-2質量分析計(Waters, USA)に連結したCapLC HPLC(Waters, USA)において行った。トリプシンペプチドをPicofrit逆相毛細管カラム(5ミクロン、BioBasic C18、孔径300Å、75μm ID×10 cm、先端15μm)(New Objectives, Mass., USA)において水/アセトニトリル線形勾配(0.2%ギ酸)を用いて、インラインPepMapカラム(C18、300μm ID×5 mm)(LC Packings, Calif, USA)をローディング/脱塩カラムとして用いて分離した。
【0072】
生成されたMS/MSデータからのタンパク質同定は、www.matrixscience.comのMascot search engine (Mascot Daemon, Matrix Science, UK)を用いて、ストリンジェンシー0.6 DaでNCBI非重複データベースを検索することによって行った。検索パラメータには、システインのカルバミドメチル化、おそらくメチオニンの酸化、およびペプチドあたり1個の切断が起こらないことが含まれた。
【0073】
セルピンa3nのクローニングおよび発現。血液凝集素(HA)タグセルピンa3n(セルピンa3n-HA)は、Superscript II and Platinum Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen, Carlsbad, Calif, USA)を用いて、製造元の説明書に従って、マウス肝総RNAからRT-PCRによってクローニングした。セルピンa3n cDNAを、以下の特異的プライマー
によって増幅した。その後のクローニングのために、フォワードプライマーには、BamHI制限部位が含まれ、リバースプライマーには、XhoI制限部位が含まれた。リバースプライマーにはまた、セルピンのカルボキシ末端でHAタグをコードする短い配列が含まれた。cDNAをBamHIおよびXhoI制限酵素によって消化して、pcDNA3ベクター(Invitrogen)にクローニングした。
【0074】
Jurkat細胞にセルピンa3n-HA-pcDNA3を電気穿孔して、クローン拡大のためにネオマイシン耐性細胞1個をFACSによってソーティングした。トランスフェクトクローンにおけるセルピンa3n-HAの発現は、抗-HA抗体(クローンHA.11, 1 : 1000, Covance Research Products, Cumberland, Va., USA)によるイムノブロッティングによって確認した。
【0075】
ヒトグランザイムBに対するセルピンa3n-HAのインビトロ結合。放射標識(35S-メチオニン)セルピンa3n-HAタンパク質をTNT(登録商標)Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega, Madison, Wise, USA)を用いて、製造元の説明書に従ってインビトロで産生した。DNA 1μgを各反応に用いた。反応容積2 mlを、PBSにおいて精製ヒトグランザイムBと共に室温で30分間インキュベートした。次に、試料をSDS-PAGEによって分解して、オートラジオグラフィーによって可視化して、先に示されたようにグランザイムBに関してイムノブロットした。
【0076】
セルピンa3n含有培地の調製。セルピンa3n-HAを発現するJurkat細胞クローンおよびpcDNA3ベクターをトランスフェクトさせた対照細胞を、Opti-MEM I(Invitrogen)において5×106個/mlで終夜インキュベートした。先に記述されたように、Amicon YM-10 Centriconフィルターを用いて細胞条件培地を当初の容積の1/5に濃縮して、実験のために直ちに用いた。
【0077】
ヒト胎児ニューロンの調製。成人ヒト脳標本からニューロンを単離してその生存を維持することは可能ではないことから、ヒト胎児ニューロンを培養ニューロン毒性試験の標的として用いた。治療的妊娠中絶によって得られた標本からヒト胎児ニューロンを培養した。標本の妊娠週は、15〜20週の範囲である。ニューロンを得るために、脳組織を細切して断片にした。次に、浮遊液を濾過して遠心した。沈降物をPBSに浮遊させて、栄養補給培地において最後に洗浄した後、細胞をT-75フラスコに播種した。ニューロン濃縮培養物を得るために、フラスコにおける細胞を、分裂する星状細胞を殺すために、シトシンアラビノシドによって処置した。このようにして、純度が90%を超えて、星状細胞5%未満のニューロン培養物を生成して、これを16ウェルLab-tekスライドガラスに播種した。Tリンパ球を、成人健康ドナーの末梢血からFicoll-Hypaque遠心によって単離して、無血清AIM-V培地に浮遊させた。T細胞を活性化するために、抗-CD3抗体(OKT3)1μg/mlを3日間のあいだ1回加えた。任意の接着している単球から浮遊細胞を除去して、細胞毒性の試験に関して固定された密度を用いた。非活性化T細胞をOKT3の非存在下で調製する。これらの細胞を遠心に供して、浮遊細胞を3日後に回収した。OKT3処置の開始後3日目に回収した浮遊細胞のフローサイトメトリー分析は、CD3+ T細胞が全細胞集団の90%より多くを構成することを示した;これらは細胞比約60%CD4+および40%CD8+である。Bリンパ球(CD19+)およびNK細胞(CD56+)は、浮遊細胞集団の残りを構成する;単球(CD14+)は検出されない。NK細胞は集団の<3%を構成することが見いだされる。非活性化および活性化リンパ球集団のあいだの様々な細胞サブセットの比率に有意差を認めない。
【0078】
統計学。独立した2群のあいだの統計学的有意性を、対応のあるStudent t-検定によって計算した。p<0.05の値は有意であると見なされた。
【0079】
グランザイムB阻害性セルピンをコードするポリヌクレオチドを含む細胞。
本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む細胞を提供する。分子生物学の当業者は、本発明の細胞を提供するために広く多様な任意の細胞系を用いてもよいことを理解するであろう。細胞には、たとえば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞(たとえば、Sf21細胞)、または哺乳動物細胞(たとえば、ブロックマン体、セルトリ、膵島、NIH 3T3、HeLa、またはCOS細胞)のような真核細胞が含まれてもよい。そのような細胞は、広範囲の供給源(たとえば、American Type Culture Collection, Rockland, Md.;同様に、たとえばAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2000;PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, ed., H. A. Ehrlich, Stockton Press, N.Y.;およびYap and McGee, Nucl. Acids Res. 19:4294 (1991)を参照されたい)から入手可能である。形質転換法またはトランスフェクション法、および望ましければ発現媒体の選択は、選択される宿主系に依存するであろう。形質転換およびトランスフェクション法は、たとえばAusubel et al.(前記)において記述されている;発現媒体は、たとえばCloning Vectors: A Laboratory Manual (P. H. Pouwels et al., 1985, Supp. 1987)において提供される方法から選択してもよい。
【0080】
組成物の1つまたは複数の細胞に、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする異種ポリヌクレオチドが含まれる細胞の組成物が本発明によって提供される。1つの例において、本発明の組成物には、セルトリ細胞および膵島細胞が含まれる。本実施例において、細胞の1つまたは複数は、グランザイムB阻害剤セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害剤セルピンを発現してもよい。本発明の特定の態様において、細胞はセルピンa3nを発現して分泌する。本発明の細胞および細胞組成物は、さらなる異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。1つの態様において、非ヒト細胞(たとえば、ブタ細胞)は、2つの異種ポリヌクレオチド、グランザイムB阻害性セルピンをコードする1つのポリヌクレオチドと、ヒトインスリンをコードする第二のポリペプチド、とを含むように変化させてもよい。そのような細胞は、たとえば糖尿病(たとえば、I型糖尿病)のような疾患を有する患者(たとえば、ヒト)に細胞を導入することによって、本発明の方法において用いてもよい。
【0081】
新規グランザイムB阻害性セルピンの生成
グランザイムB阻害活性を有するキメラポリペプチドを、当技術分野において標準的な分子生物学的技術(たとえば、Ausubel et al、前記において記述される技術)を用いて、本発明の組成物および方法から生成してもよい。
【0082】
先に記述したように、セルピンa3nは、ヒトα1-アンチキモトリプシン(SERPINA3)と高度の相同性を有するセルピンの多重遺伝子ファミリーメンバーである。これらのセルピンの相互作用は、主に反応中心ループ(たとえば、グランザイムBに関するセルピンa3nの特異性)を通して媒介される;したがって、グランザイムBに特異的に結合するキメラセルピンポリペプチド(たとえば、キメラヒトα1-アンチキモトリプシンポリペプチド)を生成することが可能である。グランザイムB阻害活性は、当技術分野において公知の方法または本明細書に記述の方法を用いてアッセイすることができる。たとえばポリペプチドの抗原性(ヒト患者に投与した場合のポリペプチドに対する抗原性)を減少させるために、本発明の方法を用いてそのようなキメラポリペプチドを産生することが望ましくなりうる。1つの例において、セルピンa3nの反応中心ループ配列を含むヒトα1-アンチキモトリプシンポリペプチドを生成することができる。一定の態様において、新規グランザイムB阻害性セルピンは、細胞(たとえば、グランザイムB阻害性セルピンを産生する細胞)からの分泌にセルピンを標的化する配列を含む。そのような配列は当技術分野において公知であり、これには、セルピンa3nに存在するアミノ末端分泌配列が含まれる。
【0083】
グランザイムB阻害性セルピンの断片もまた、本発明の方法および組成物において有用となる可能性がある。特に有用な断片には、セルピンa3n RCLを有する断片が含まれてもよい。当技術分野において公知の方法または本明細書に記述される方法を用いて、セルピン断片のグランザイムB阻害活性をアッセイしてもよい。
【0084】
グランザイムB阻害性セルピンポリヌクレオチドおよびポリペプチドを用いる治療法
本発明には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)のような免疫抑制物質を用いることによって免疫抑制治療を必要とする患者を処置する方法が含まれる。
【0085】
グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)または免疫抑制活性を示すグランザイムB結合断片もしくはその類似体は、本発明において特に有用であると見なされる。そのようなポリペプチドは、たとえば、糖尿病を有する個体における膵島細胞のCTL媒介殺細胞を減少させるために治療物質として用いてもよい。免疫抑制剤または免疫機能を低減させる物質を用いて処置される可能性がある他の免疫障害は、本明細書において記述され、これには急性炎症、関節リウマチ、アレルギー反応、喘息反応、炎症性腸疾患(たとえば、クローン病および潰瘍性大腸炎)、移植の拒絶、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、および再狭窄が含まれる。
【0086】
免疫障害(たとえば、糖尿病または関節リウマチのような本明細書において記述される任意の自己免疫障害)、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患に起因する疾患、または細胞(たとえば、臓器)移植に起因する疾患の処置または予防は、たとえばグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を適当な細胞(たとえば、膵島細胞)に送達することによってグランザイムBの活性を低減させることによって達成される。
【0087】
組み換え型グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの、可能性があるまたは実際の疾患罹患組織または移植組織(たとえば、注射によって)のいずれかの部位への直接投与またはたとえば自己免疫疾患(たとえば、糖尿病または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、もしくは炎症性ニューロン疾患の処置のための全身投与は、当技術分野において公知のまたは本明細書において記述される任意の従来の組み換え型タンパク質投与技術に従って行うことができる。実際の用量は、個々の患者の体格および健康を含む当業者に公知の多数の要因に依存するが、一般的に1日あたり0.1 mg〜100 mgを含む範囲を、任意の薬学的に許容される製剤で成人に投与する。そのような製剤は本明細書において記述される。
【0088】
遺伝子治療
遺伝子治療は、患者においてグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現させるためのもう1つの治療アプローチである。たとえばセルピンa3n、セルピンa3nの生物活性断片、またはセルピンa3n融合タンパク質をコードする異種核酸分子を対象標的細胞に送達することができる。核酸分子は、それらが細胞に取り込まれうる形で、および免疫応答を抑制するために十分なタンパク質レベルが産生されうるように、それらの細胞(たとえば、膵島細胞)に送達されなければならない。
【0089】
ウイルス(たとえば、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)ベクターを形質導入することは、その高い感染効率ならびに安定な組み込みおよび発現のために、体細胞遺伝子治療のために用いることができる(たとえば、Cayouette et al., Hum. Gene Ther. 8:423-430 (1997);Kido et al., Curr. Eye Res. 15:833-844 (1996);Bloomer et al., J. Virology 71 :6641-6649 (1997);Naldini et al., Science 272:263-267 (1996);およびMiyoshi et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 94:10319-10323 (1997)を参照されたい)。たとえば、完全長の遺伝子またはその一部をレトロウイルスベクターにクローニングして、その内因性のプロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、または対象標的細胞タイプ(たとえば、セルトリ細胞または膵島細胞)において特異的に発現されるプロモーターから発現を駆動することができる。用いることができる他のウイルスベクターには、たとえば、ワクシニアウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、またはエプスタイン-バーウイルスのようなヘルペスウイルスが含まれる(同様に、たとえばMiller, Human Gene Therapy 15-14 (1990);Friedman, Science 244:1275-1281 (1989);Eglitis et al., BioTechniques 6:608-614 (1988);Tolstoshev et al., Curr. Opin. Biotechnol. 1 :55-61 (1990);Sharp, Lancet 337: 1277-1278 (1991);Cornetta et al., Nuc. Acid Res. Mol. Biol. 36:311-322 (1987);Anderson, Science 226:401-409 (1984);Moen, Blood Cells 17:407-416 (1991);Miller et al., Biotechnology 7:980-990 (1989);Le Gal La Salle et al., Science 259:988-990 (1993);およびJohnson, Chest 107:77S-83S(1995)を参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発され、臨床の状況において用いられている(Rosenberg et al., N. Engl. J. Med. 323:370 (1990);U.S. Patent No. 5,399,346)。
【0090】
非ウイルスアプローチはまた、患者の標的細胞に治療的核酸を導入するために用いることができる。たとえば、核酸分子(たとえば、セルピンa3nまたはその断片のようなグランザイムB阻害剤セルピンをコードする)を、リポフェクション(Feigner et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84:7413 (1987);Ono et al., Neurosci. Lett. 17:259 (1990);Brigham et al., Am. J. Med. Sci. 298:278 (1989);Staubinger et al., Meth. Enzymol. 101 :512 (1983)))、アシアロオロソムコイド-ポリリジン共役体(Wu et al., J. Biol. Chem. 263: 14621 (1988);Wu et al., J. Biol. Chem. 264:16985 (1989))の存在下で核酸を投与することによって、または手術条件下でマイクロインジェクションによって(Wolff et al., Science 247:1465 (1990))細胞に導入することができる。好ましくは、核酸はリポソームおよびプロタミンと併用して投与される。
【0091】
遺伝子移入はまた、インビトロでトランスフェクションを含む非ウイルス手段を用いて行われうる。そのような方法には、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、電気穿孔、およびプロトプラスト融合を用いることが含まれる。リポソームはまた、DNAを細胞に送達するためにおそらく有益となりうる。患者の罹患組織に正常な遺伝子を移植することはまた、エクスビボで培養可能な細胞タイプ(たとえば、自家または異種初代培養細胞またはその子孫)に正常な核酸を移入する段階、およびその後細胞(またはその子孫)を標的組織に注射する段階によっても行うことができる。
【0092】
遺伝子治療法において用いるためのcDNA発現は、任意の適したプロモーター(たとえば、ヒトサイトメガロウイルスCMVの前初期プロモーター)から指示され、任意の適当な哺乳動物調節要素によって制御されうる。誘導型発現が望ましい場合、構成的に活性なプロモーター(たとえば、グリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GPDH)プロモーター)に共役させたテトラサイクリン反応性最小必須CMVプロモーターのような誘導型プロモーターを用いてもよい。そのような系は、たとえばグランザイムB阻害性セルピンの高レベル発現が細胞(たとえば、膵島細胞)において最初望ましいが、何らかの時間後では低レベル発現が望ましい場合に有用となるであろう。たとえば免疫抑制が望ましい組織または空間領域にグランザイムB阻害性セルピン発現を制限することが望ましいかも知れない。1つの例において、膵島細胞において遺伝子発現を選択的に指示することが知られているエンハンサーを用いて、セルピンa3nをコードする核酸の発現を指示することができる。用いられるエンハンサーには、組織または細胞特異的エンハンサーとしての特徴を有するエンハンサーが含まれうる。または、ゲノムクローンを治療的構築物として用いる場合、同源の調節配列、または望ましければ先に記述された任意のプロモーターまたは調節要素を含む、異種起源に由来する調節配列によって調節が媒介されうる。
【0093】
望ましい遺伝子治療様式は、望ましい効果を増強および持続させながら、細胞内で複製するようにポリヌクレオチドを提供することである。このように、ポリヌクレオチドは、対応する遺伝子の天然のプロモーター、標的細胞において実質的に活性である異種プロモーター、または適した物質によって誘導されうる異種プロモーターのような適したプロモーターに機能的に連結される。
【0094】
トランスジェニック動物
本発明にはまた、外因性のグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニック動物(たとえば、マウス、ラット、ブタ、および魚)を用いることも含まれる。そのような動物は、患者に移植するための組織または細胞源として用いてもよい。特に有用であるのは、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンを発現するトランスジェニックブタの膵島細胞またはトランスジェニック魚からのブロックマン体である。1つの例において、グランザイムB阻害性セルピン(セルピンa3n)およびヒトインスリンの双方を発現する非ヒト動物(たとえば、ブタ)からの細胞を、糖尿病の処置において患者に移植のために用いてもよい。
【0095】
トランスジーンの構築は、Ausubel et al(前記)において記述される技術のような、任意の適した遺伝子操作技術を用いて行うことができる。トランスジーンの構築およびトランスフェクションまたは形質転換のための発現構築物全般に関する多くの技術が公知であり、開示の構築物のために用いてもよい。
【0096】
当業者は、所望の組織においてポリヌクレオチドの発現を指示するプロモーターが選択されることを認識するであろう。たとえば、先に記したように、本明細書に記述の核酸配列の発現を調節する任意のプロモーターを本発明の発現構築物において用いることができる。当業者は、転写調節要素のモジュール特性およびエンハンサーのようないくつかの調節要素の機能の位置依存性がないことにより、たとえば再配列、いくつかの要素または外来配列の欠失、および可能であれば異種要素の挿入のような改変が作製されることを承知しているであろう。その位置および機能を決定するために遺伝子の調節要素を切り離すために、多数の技術が利用可能である。そのような情報は、望ましければ要素の改変を指示するために用いることができる。しかし、遺伝子の転写調節要素の無傷の領域を用いることが望ましい。適したトランスジーン構築物が作製された後、この構築物を胚細胞に導入するために任意の適した技術を用いることができる。
【0097】
トランスジェニック実験にとって適した動物は、Taconic(Germantown, N.Y.)のような標準的な販売元から得ることができる。当業者はまた、トランスジェニックマウスまたはラットを作製する方法を知っているであろう。トランスジェニックブタは、Velander et al. (Proc. Natl. Acad. Sci USA 89, 12003-12007 (1992))において記述される方法を用いて産生してもよい。
【0098】
グランザイムB活性を減少させるための薬学的組成物。
本発明には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)またはそのグランザイムB阻害性断片を、免疫抑制治療を必要とする患者の処置のために投与することが含まれる。その製造法によらず、任意のグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nまたはそのグランザイムB結合断片)の投与は、たとえば自己免疫障害(たとえば、糖尿病または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患において起こる望ましくない、または過剰なCTL活性を有する患者においてグランザイムB阻害性生物活性を提供する可能性がある。
【0099】
たとえば、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を、患者、たとえばヒトに直接または当技術分野で公知の任意の薬学的に許容される担体もしくは塩と併用して投与することができる。薬学的に許容される塩には、非毒性の酸付加塩または薬学産業において一般的に用いられる金属錯体が含まれてもよい。酸付加塩の例には、酢酸、乳酸、パモ酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、パルミチン酸、スベリン酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはトリフルオロ酢酸等のような有機酸;タンニン酸、カルボキシメチルセルロース等のような重合酸;および塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等のような無機酸が含まれる。金属錯体には、亜鉛、鉄等が含まれる。1つの例示的な薬学的に許容される担体は、生理食塩液である。他の生理的に許容される担体およびその製剤は、当業者に公知であり、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, (19th edition), ed. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, PAにおいて記述されている。
【0100】
グランザイムB阻害性セルピンポリペプチド、ポリヌクレオチド、もしくはその断片、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量の薬学的製剤は、経口、非経口(たとえば、筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下注射)、または投与経路に適合させた薬学的に許容される担体との混合物において他の任意の経路で投与することができる。
【0101】
製剤を作製するために当技術分野において周知の方法は、たとえばRemington 's Pharmaceutical Sciences, (19th edition), ed. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだされる。経口での使用が意図される組成物は、薬学的組成物の製造に関して当技術分野において公知の任意の方法に従って、固体または液体剤形で調製されてもよい。組成物は、任意で、より味のよい調製物を提供するために、甘味料、着香料、着色料、香料、および/または保存剤を含んでもよい。経口投与のための固体投与剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、および顆粒剤が含まれる。そのような固体剤形において、活性化合物を少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される担体または賦形剤と混合する。これらには、たとえば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、ショ糖、デンプン、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、またはカオリンのような不活性希釈剤が含まれてもよい。結合剤、緩衝剤、および/または潤滑剤(たとえば、ステアリン酸マグネシウム)も同様に用いてもよい。錠剤および丸剤はさらに腸溶コーティングによって調製することができる。
【0102】
経口投与のための液体投与剤形には、薬学的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、および軟ゼラチンカプセルが含まれる。これらの剤形は、水または油性培地のような当技術分野において一般的に用いられる不活性希釈剤を含む。そのような不活性希釈剤のほかに、組成物にはまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤のような補助剤が含まれうる。
【0103】
非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁剤、または乳剤が含まれる。適した媒体の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、ゼラチン、水素添加ナファレン(naphalenes)、およびオレイン酸エチルのような注射用有機エステルが含まれる。そのような製剤はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤のような補助剤を含んでもよい。生体適合性の成体分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーを用いて、化合物の放出を制御してもよい。本発明のタンパク質のための他のおそらく有用な非経口送達系には、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型注入系、およびリポソームが含まれる。
【0104】
液体製剤は、たとえば細菌除去フィルターを通して濾過することによって、滅菌物質を組成物に組み入れることによって、または組成物を放射線照射もしくは加熱することによって滅菌することができる。または、それらは、使用直前に滅菌水または他のいくつかの滅菌注射用媒体に溶解することができる滅菌の固体組成物の剤形で製造することもできる。
【0105】
本発明の組成物における活性成分の量は変化させることができる。当業者は、正確な個々の用量を、投与されるタンパク質、投与時間、投与経路、製剤の性質、排泄速度、被験者の状態の性質、患者の年齢、体重、健康、および性別を含む多様な要因に応じていくぶん調節してもよいと認識するであろう。一般的に、約0.1μg/kg〜100 mg/kg体重の用量レベルを1回用量として、または複数回に分割して毎日投与する。望ましくは全般的な用量範囲は、250μg/kg〜5.0 mg/kg体重/日である。様々な投与経路の異なる効率を考慮して、必要な用量の広い変更が予想される。たとえば、経口投与は一般的に、静脈内注射による投与より高い用量レベルを必要とすると予想されるであろう。これらの用量レベルにおける変更は、当技術分野において周知である、最適化のための標準的な経験的ルーチンを用いて調節することができる。一般的に、正確な治療的有効量は、上記で同定された因子を考慮して主治医によって決定されるであろう。
【0106】
グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはそのようなポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを含む任意の媒体は、たとえばU.S. Patent No. 5,672,659およびU.S. Patent No. 5,595,760において記述されるような徐放性組成物において投与することができる。即時放出または徐放性組成物のいずれを用いるかは、処置される状態のタイプに依存する。状態が急性または亜急性障害からなる場合、即時放出による処置が長期間放出組成物より好ましいであろう。または、予防的もしくは長期間の処置の場合、徐放性組成物が一般的に好ましいであろう。
【0107】
たとえばセルピンa3nポリペプチド、セルピンa3nポリヌクレオチド、またはその断片を含む薬学的組成物は、任意の適した方法で調製することができる。タンパク質または治療化合物は、天然に存在する起源から単離されうる、組み換えによって産生されうる、合成的に産生されうる、またはこれらの方法の組み合わせによって産生されうる。短いペプチドの合成は当技術分野において周知である。たとえば、Stewart et al., Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Co., 2nd ed., 1984)を参照されたい。
【0108】
細胞の移植
本発明はまた、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nを発現する細胞)をコードするポリヌクレオチドを含む細胞を移植することによって免疫抑制を必要とする患者を処置するための方法を提供する。本発明の方法には、同種異系(同じ種の遺伝的に異なるメンバー間)、自家(生物自身の細胞または組織の移植)、同系(同じ種の遺伝的に同一のメンバー間(たとえば一卵性双生児))、または異種(異なる種のメンバー間)移植が含まれてもよい。本発明の方法には、たとえば、患者に膵島細胞、および膵島細胞と第二の細胞(たとえば、グランザイムB阻害性セルピンを発現するセルトリ細胞)とを含む細胞の組み合わせを投与する段階が含まれる。免疫抑制を必要とする患者に本発明の細胞を移植することによって、関節リウマチのような自己免疫障害の処置をもたらす可能性がある免疫反応の減少が起こり、または糖尿病の場合には膵島細胞のような同時移植されたインスリン産生細胞を、望ましくない免疫応答から保護するように作用する可能性があるであろう。他の態様において、移植された細胞は、炎症性血管疾患または炎症性ニューロン疾患の処置をもたらす可能性がある。細胞は、少なくとも1つの免疫応答の低減をもたらすために適した量で免疫抑制を必要とする患者に導入される。細胞は、それによって細胞の少なくとも一部が生存したまま残る患者内の所望の位置への細胞の送達が起こる、任意の適した経路によって患者に投与することができる。患者への投与後に、少なくとも約5%、望ましくは少なくとも約10%、より望ましくは少なくとも約20%、さらにより望ましくは少なくとも約30%、さらにより望ましくは少なくとも約40%、および最も望ましくは少なくとも約50%またはそれより多くの細胞が生存したままであることが望ましい。患者に投与後の細胞の生存期間は、数時間たとえば24時間、から数日もの短さから数週間から数ヶ月間もの長さとなりうる。多くの自己免疫障害の慢性的な特性により、移植された細胞は移植後数ヶ月または数年生存したまままであることが望ましい。移植された細胞は、緩衝生理食塩液のような生理的に適合性の担体において投与されうる。
【0109】
これらの投与法を行うために、本発明の細胞を患者への細胞の注射または移植による導入を促進する送達装置に挿入することができる。そのような送達装置には、レシピエント患者の体内に細胞および液体を注射するためのチューブ、たとえばカテーテルが含まれる。
【0110】
好ましい態様において、チューブはさらに、それを通して本発明の細胞を、望ましい位置(たとえば、腎嚢、肝臓、網嚢)で患者に導入することができる針または複数の針を有する。多数のタイプの細胞が移植される態様において、注射の際に、異なる細胞タイプを異なる状態(異なる培地のような)で維持することが望ましいであろう。
【0111】
本発明の方法において用いられる細胞は、異なる剤形でそのような送達装置に挿入することができる。たとえば、細胞は、溶液中に浮遊させることができ、またはそのような送達装置に含まれる支持マトリクス(たとえば、アルギネートマイクロカプセル)に抱埋することができる。好ましくは、溶液には、その中で本発明の細胞が生存したままである薬学的に許容される担体または希釈剤が含まれる。薬学的に許容される担体および希釈剤には、生理食塩液、水性緩衝液、溶媒、および/または分散培地が含まれる。そのような担体および希釈剤を用いることは、当技術分野において周知である。溶液は好ましくは滅菌で流動性である。好ましくは、溶液は、製造および保存条件で安定であり、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸またはチメロサルを用いることによって、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存される。本発明において用いられる溶液は、薬学的に許容される担体または希釈剤、および必要に応じて他の成分において本明細書に開示の細胞を組み入れることによって調製することができる。
【0112】
その中に本発明の細胞が組み入れられるまたは抱埋される支持マトリクスには、レシピエント適合性であって、レシピエントに対して有害でない産物に分解するマトリクスが含まれる。天然および/または合成の生体分解性のマトリクスは、そのようなマトリクスの例である。天然の生体分解性のマトリクスには、たとえばコラーゲンマトリクスおよびアルギネートビーズが含まれる。合成の生体分解性のマトリクスには、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような合成ポリマーが含まれる。これらのマトリクスは、インビボで細胞の支持および保護を提供する。
【0113】
患者に導入する前に、細胞をさらに、免疫学的拒絶を阻害するように改変することができる。たとえば、移植された細胞の拒絶を阻害して、移植レシピエントにおける免疫学的非応答性を達成するために、本発明の方法には、患者に導入する前に細胞の表面上で免疫原性抗原を変化させることが含まれうる。細胞上の1つまたは複数の免疫原性抗原を変化させるこの段階は、単独で、または患者におけるCTL細胞活性を阻害する物質の患者への投与と併用して行うことができる。または、移植された細胞の拒絶の阻害は、移植された細胞の表面上の免疫原性抗原を予め変化させないで、患者のT細胞活性を阻害する物質(たとえば、セルピンa3nまたは本明細書において記述される他の免疫抑制剤)を患者に投与することによって行われうる。CTL細胞活性を阻害する物質は、患者内でCTL細胞の除去(たとえば隔離)もしくは破壊が起こる、または患者内でCTL細胞機能を阻害する物質であると定義される。CTL細胞は、患者においてなおも存在してもよいが、それらが増殖できないように、またはエフェクター機能(たとえば、サイトカイン産生、細胞障害性など)を誘発するもしくは行うことができないように非機能的状態で存在する。T細胞活性を阻害する物質はまた、未成熟T細胞(たとえば胸腺細胞)の活性または成熟を阻害してもよい。レシピエント患者においてT細胞活性を阻害するために用いられる好ましい物質は、正常な免疫機能を阻害または妨害する免疫抑制剤である。例としての免疫抑制剤は、シクロスポリンAである。用いることができる他の免疫抑制剤には、タクロリムス(FK506、Prograff)、シロリムス(Rapamune)、ダクリズマブ、ミコフェノレートモフェチル(RS-61443、CellCept)、またはCTL細胞に対して特異的な抗体(たとえば、モノクローナル抗体)が含まれる。1つの態様において、免疫抑制剤は、少なくとも1つの他の治療物質と共に投与される。投与することができるさらなる治療物質には、ステロイド(たとえば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、およびデキサメタゾンのようなグルココルチコイド)、化学療法剤(たとえば、アザチオプリンおよびシクロホスファミド)、およびモノクローナル抗体が含まれる。もう1つの態様において、免疫抑制剤は、ステロイドおよび化学療法剤の双方と併用して投与される。適した免疫抑制剤が市販されている。
【0114】
移植のための細胞源
生きている膵島ドナー。現在の膵島移植プロトコールは、移植のための膵島源として死体膵臓ドナーに依存している(Shapiro et al., Immunol. Rev. 196:219-236 (2003))。現在のところ、膵島単離および移植のために利用できる死体膵臓のプールは限られており、糖尿病の処置のために膵島移植を広く用いることができるためには、代わりの起源が望ましい。いくつかの施設は、生きているドナーを用いて同時膵腎移植に成功した(Gruessner et al., Transplant. Proc. 30:282 (1998);Benedetti et al., Transplantation 67:915-918 (1999);Zielinski et al., Transplantation 76:547-552 (2003))。この技法は、糖尿病レシピエントに移植するために生きているドナー膵臓の一部を切除することを必然的に伴う。この技術は膵島移植に拡大される可能性がある。生きているドナーからの臓器の調達は、生きているドナーから単離された臓器の質が、脳死ドナーから単離された臓器と比較して大きく改善されるはずであることから有利である(Gruessner et al., Transplantation 61 : 1265-1268 (1996))。さらに、ドナーが生きている親類である場合には、ドナーとレシピエントとのHLA一致が起こりうる。より近縁の免疫学的マッチを得ることによって、必要な免疫抑制剤の量を低減させる可能性があり、移植された臓器の機能および寿命が改善される可能性がある(Cicalese et al., Int. Surg. 84:305-312 (1999))。最後に、臓器調達のそのようなアプローチは、待ち時間を低減させる長所を提供し、移植リストに載っている患者の死亡率をおそらく低減させる長所を提供する。
【0115】
β細胞株。可能性があるもう1つの組織源は膵臓β細胞株である(Efrat et al., Ann. N. Y. Acad. Sci 875:286-293 (1999))。β細胞株は、腫瘍発生的に形質転換されている不死化β細胞の作製を必要とする。たとえば、βTC細胞株は、それによってインスリン遺伝子エンハンサー-プロモーター領域によって駆動されるSV40 T抗原を保有するトランスジェニックマウスが遺伝性のβ細胞腫瘍を発症する、トランスジェニック技術を用いて作製されている(Hanahan, D., Nature 315: 115-122 (1985);Efrat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:9037-9041 (1988);Miyazaki et al., Endocrinology 127:126-132 (1990);Hamaguchi et al., Diabetes 40:842-849 (1991))。マウスβ細胞株は、生理的刺激に反応して正常な膵島と同等量のインスリンを産生して放出すると報告されている(Efrat et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 875:286-293 (1999))。これらの細胞株はまた、糖尿病マウスにおける血糖症を正常にする(Efrat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3576-3580 (1995))。
【0116】
幹細胞。1型糖尿病患者に移植するための可能性がある1つのインスリン分泌組織源は、幹細胞に由来する可能性がある(Street et al., Curr. Top. Dev. Biol. 58: 111-136 (2003))。幹細胞は、体内の多くの細胞タイプを生成することができる自己再生要素である。それらは、成人および胎児組織において見いだされるが、最も広い発達能を有する幹細胞は、哺乳動物の胚の初期段階に由来し、胚幹細胞(ES)と呼ばれる。ES細胞は、膵島様構造を含む異なる多くの細胞タイプにインビトロで分化することが示されている(Wiles et al., Development 111:259-267 (1991);Rohwedel et al., Dev. Biol. 164:87-101 (1994);Wobus et al., Differentiation 48: 173- 182 (1991);Dani et al, J. Cell Sci. 110(Pt 11): 1279-1285 (1997);Okabe et al, Mech. Dev. 59:89-102 (1996);Abe et al, Exp. Cell Res. 229:27-34 (1996))。Lumelskyらは、ニューロンを産生するために用いる戦略によって膵島様構造の発生が起こるであろうという仮説に基づいて操作して、ニューロン幹細胞マーカーであるネスチンを発現する細胞が濃縮される条件で、インビトロでマウスES細胞を培養した(Lumelsky et al., Science 292:1389-1394 (2001))。これらのネスチン陽性細胞は、膵島に形態学的に類似の構造にさらに分化した。さらなる試験は、当初のプロトコールに基づいて改善して、糖尿病動物における低血糖症を矯正できる細胞を産生することが可能である(Hori et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 99: 16105-16110 (2002);Blyszczuk et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:998-1003 (2003))。インスリン産生クラスタはまた、ヒトES細胞から得ることができる(Segev et al., Stem Cells 22:265-274 (2004))。これらのクラスタはインスリン、グルカゴン、およびソマトスタチンを発現する。いくつかのグループが、内分泌ホルモンを発現する成人膵管構造に由来する幹細胞の単離および分化の成功を報告している(Peck et al., Diabetes 44:10A(1995);Cornelius, Horm. Metab Res. 29:271-277 (1997);Ramiya et al., Nat. Med. 6:278-282 (2000);Bonner-Weir et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 97:7999-8004 (2000);Rooman, Diabetologia 43:907-914 (2000);Gmyr et al., Cell Transplant. 10: 109-121 (2001))。現在、管、腺房、および膵島細胞は、分化、トランス分化(通常従わない経路に沿って分化)、または内分泌細胞になる可能性を有する細胞に脱分化することができる細胞集団を含む可能性がある(Peck et al., Transpl. Immunol. 12:259-272 (2004))。これらの成人幹細胞を、多細胞の膵島様構造の濃縮のために培養して、これをインビボでさらに成熟させる(Peck et al., Transpl. Immunol. 12:259-272 (2004))。これらの膵島様構造は、1週間以内にNODマウスにおいて糖尿病状態を逆転させることができ(Ramiya et al., Nat. Med. 6:278-282 (2000))、これらのNODマウスにおいて、自己免疫再発の発生はなかった。
【0117】
異種移植。たとえば動物からヒトへの1つの種からの組織のもう1つの種への異種移植または移植は、膵島移植において直面している組織供給問題に対して可能性がある解決策を提供する。ブタおよびウシ細胞と共に魚のブロックマン体は全て、ヒト膵島移植のための可能性がある組織源である(Korbutt et al., Annals New York Academy of Sciences 831 :294-303 (1997);Marchetti et al., Diabetes 44:375-381 (1995);Wright et al., Cell Transplant. 10: 125-143 (2001))。たとえば、膵島移植のための組織源としてブタを用いることは、安価であって、容易に入手可能で、倫理的に許容されるという長所を提供し、病原体を含まない環境に収容するこができ、およびそれらの膵島は、ヒト膵島と類似の形態学的および生理的特徴を示す(Binette et al, Ann. N. Y. Acad. Sci 944:47-61 (2001))。ブタインスリンはまた、ヒトインスリンと構造的に類似であり、何十年ものあいだ1型糖尿病の処置のために用いられている。または、ヒトインスリンを発現するトランスジェニックブタもまた、本発明の方法において有用である。さらに、成体ブタの膵島は、壊れやすく、組織培養において維持することが難しく、グルコースに対するインスリン分泌反応が不良であることから(Ricordi et al., Surgery 107:688-694 (1990);van Deijnen et al., Cell Tissue Res. 267: 139-146 (1992);Korsgren et al., Diabetologia 34:379-386(1991))新生仔ブタ膵島は、ヒトに最終的に移植するための最善の候補である(Korbutt et al., Ann. N. Y. Acad. Sci 831 :294-303 (1997))。しかし新生仔ブタ膵島は、多数単離することができ、インビトロおよびインビボでの生育能を示し、グルコースチャレンジに対して優れた応答能を示し、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる(Korbutt et al., J. Clin. Invest 97:2119-2129 (1996))。
【0118】
最後に、魚のブロックマン体を用いることは、それらが冗長な単離技法を必要とせず、容易に顕微解剖できるという点において新生仔ブタ膵島に対して長所を有する(Yang et al., Cell Transplant. 4:621-628 (1995))。魚のブロックマン体は、新生仔ブタ膵島と同様に、超急性拒絶を受ける。グランザイムB阻害性セルピンを用いることによって、この超急性拒絶は克服される可能性がある。魚のブロックマン体の微小封入は可能であることが示されており、封入されたブロックマン体は、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる(Yang et al., Transplantation 64:28-32 (1997))。さらに、ヒト集団におそらく伝搬されうる魚のブロックマン体における内因性のレトロウイルスは同定されていない。
【0119】
ヒトにおける異種移植片の超急性拒絶の問題は、広い臨床応用性に対する主要な障害を呈することから、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を産生するようにトランスジェニック改変された細胞の異種移植、またはその1つがグランザイムB阻害性セルピンを発現する2つの細胞タイプの移植は、この障害を克服するために用いられる可能性がある。
【0120】
併用治療。
本発明の任意の方法、たとえば処置法または移植法は、当技術分野において公知であるさらなる治療(たとえば、免疫抑制治療)と併用して行ってもよい。併用治療において用いられる可能性がある免疫抑制物質の例には、シクロスポリン、プレドニゾン、アザチオプリン、タクロリムス(FK506)、ミコフェノレートモフェチル、シロリムス、OKT3、ATGAM、サイモグロブリン、およびモノクローナル抗体が含まれる。1つの態様において、免疫抑制治療を必要とする患者は、関節リウマチのような自己免疫疾患を有し、本発明の処置および移植法は、当技術分野において公知の処置(たとえば、メソトレキセート、エタネルセプト、レミケード)と組み合わせてもよい。
【0121】
以下の実施例は、本発明を制限するのではなくて説明すると意図される。
【0122】
実施例1
霊長類に対するブタ心臓の異種移植
グランザイムB阻害活性(たとえば、セルピンa3nの活性)を用いて、移植された臓器の免疫拒絶が克服される可能性がある。たとえばブタから移植された臓器を用いる異種移植は、心臓のような容易に入手可能な臓器源を提供することができる;しかし、臓器の免疫拒絶は、臨床で幅広く採択されるための主要な障害となっている。本発明の方法を用いることによって、この障害は克服される可能性がある。この目的のため、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現するように操作されたトランスジェニックブタは、たとえばVelander et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 12003-12007 (1992))において記述されるように、当技術分野において公知の方法を用いて作製してもよい。トランスジーンには、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子に機能的に連結したプロモーターが含まれ、プロモーターは心臓の心組織における発現を駆動することができる。
【0123】
ブタ心臓(たとえば、セルピンa3nトランスジェニックブタからの)の患者、たとえばヒヒのような霊長類への移植は、Schmoeckel et al. (Transplantation 65: 1570-1577 (1998))によって記述されている。
【0124】
したがって、患者における免疫応答を低減させるために十分なレベルでグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現する移植された心臓は、セルピン、たとえばセルピンa3nの産生が移植された心臓近傍のCTL細胞の殺細胞活性を減少させることから、免疫拒絶を回避する可能性がある。全ての組織および臓器における免疫応答を減少させる全身性の免疫抑制治療の投与とは異なり、移植された心臓は、必要とされる場所で免疫応答を局所的に低減させるであろう。これによって、全身治療を受ける患者(たとえば、感染症に対するより大きい感受性)と比較して副作用がより少なくなる可能性がある。
【0125】
実施例2
セルピンa3nを発現するブタ膵島細胞の移植。ブタ膵島細胞は、糖尿病の処置のための移植において特に有用となる可能性がある。先に記したように、壊れやすく、組織培養において維持することが難しく、グルコースに対するインスリン分泌反応が不良である成体ブタ膵島(Ricordi et al., Surgery 107:688-694 (1990);van Deijnen et al., Cell Tissue Res. 267:139-146 (1992);Korsgren et al., Diabetologia 34:379-386 (1991))と比較して、新生仔ブタ膵島はヒトに最終的に移植するための最善の候補である(Korbutt et al., Annals New York Academy of Sciences 831 :294-303 (1997))。
【0126】
新生仔ブタ膵島の単離および生育は、Korbutt et al. (J. Clin. Invest 97:2119-2129 (1996))によって記述されるように行ってもよい。このようにして調製された細胞は、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニックブタに由来するか、または野生型のブタからの細胞を単離後トランスフェクトさせて(たとえば、レトロウイルスベクターのような当技術分野において標準的なトランスフェクション技術を用いて)セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンを発現する細胞を生成してもよい。次に、細胞をKorbuttら、前記において記述されるように移植することができる。ブタ膵島の霊長類への移植は当技術分野において公知であり、Komoda et al. (Xenotransplantation 12:209-216 (2005))において記述されている。典型的に、細胞は、患者の肝臓、膵臓、または網嚢に移植される。セルピンa3n発現膵島細胞を用いることは、移植された細胞が宿主によって確実に拒絶されないようにして、外因性または全身性の免疫抑制処置の必要性を低減または消失させる可能性がある。
【0127】
実施例3
セルピンa3nを発現する魚膵島細胞の移植
糖尿病を処置するために移植において魚ブロックマン体を用いることは、それらが冗長な技法を行うことなく単離できるという点において有用である;同様に、ヒトに対して伝搬可能な内因性のレトロウイルスは魚において同定されていない。魚ブロックマン体の微小封入は可能であり、封入されたブロックマン体は、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる。しかし、野生型魚ブロックマン体は、ヒトにおける超急性免疫拒絶を受けやすく、ブロックマン体における内因性のインスリンは、ヒトにおける糖尿病の処置に関してヒトまたはブタインスリンより適していない。先の実施例におけるように、そのようなインスリンを必要とする患者の処置においてこれらの制限を克服するために、本発明の方法を用いてもよい。この目的のため、2つの外因性の遺伝子、すなわち(1)グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする遺伝子、および(2)ヒトインスリンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニック魚を作製してもよい。ブロックマン体における発現を駆動させることができる、これらの2つの遺伝子のそれぞれに機能的に連結したプロモーターを選択する。
【0128】
上記のトランスジェニック魚からのブロックマン体は、Yang et al.(Cell Transplant. 4:621-628 (1995))において記述されるように、顕微解剖することができる。次に、これらの細胞を患者(たとえば、哺乳動物の肝臓または膵臓)に移植する。移植された細胞は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現して、それによって、細胞に対する免疫応答を低減させ、次に、これが移植された細胞の免疫拒絶を防止する可能性がある。免疫応答の低減は、移植された細胞領域に限定されて、それによって望ましくない副作用の可能性を低減させる。
【0129】
他の態様
2005年9月29日に提出された米国特許仮出願第60/721,799号を含む、本明細書において言及した全ての特許、特許出願、および刊行物は、それぞれの独立した特許、特許出願、または刊行物が具体的におよび個々に参照により組み入れられることが示されているのと同じ程度に参照により本明細書に組み入れられる。
【0130】
前述の説明から、様々な用途および条件にそれを取り入れるために、変更および改変を本明細書に記述の本発明に行ってもよいことは明らかである。そのような態様も同様に以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】図1Aおよび1Bは、セルトリ細胞条件培地(SCCM)がグランザイムB媒介殺細胞を低減させることを示すグラフである。図1Aは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でCTL細胞株と共に3時間インキュベートした後のL細胞からの3H-チミジン放出を示す。図1Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で24、120、または600 ng/mlグランザイムBおよびアデノウイルスと共に3時間インキュベートした後のL細胞のTUNEL標識を示す。データは、SCCMの異なる調製物について行った少なくとも3つの異なる実験の平均値±SEMとして示す。星印(*)は、SCCMによる処置による殺細胞の有意な低減(p<0.05)を示す。
【図2】図2A〜2Dは、SCCMが、マンノース-6ホスフェート受容体(MPR)発現またはグランザイムB(grB)取り込みに対して効果を有しないことを示すグラフである。図2Aおよび2Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で1時間インキュベーション後のL細胞におけるMPR発現の陽イオン非依存(CI)および陽イオン依存(CD)型を示す。MPR発現は、CI-およびCD-MPRに対して特異的な抗体を用いた後にFITC共役二次抗体とのインキュベーションおよびフローサイトメトリー分析によって決定した。図2Cおよび2Dは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で1時間インキュベーション後のL細胞におけるグランザイムBの結合および取り込みを示す。グランザイムBは、フローサイトメトリー分析を通してのL細胞における結合および取り込みの決定のために、Alexa 488に共役させた。データは、相対的平均蛍光強度(MFI)(図2Bおよび2D)として、または%陽性細胞(図2Aおよび2C)として表記する。データは、SCCMの異なる調製物について実施した少なくとも3回の独立した実験の平均値±SEMとして示す。
【図3】図3Aおよび3Bは、SCCMがグランザイムB酵素活性を低減させることを示すグラフである。図3Aは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でグランザイムBの異なる3つの濃度(24、120、または600 ng/ml)でのヒト精製グランザイムBによるIEPD-pNAの切断を示す。図3Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でのマウスCTL脱顆粒グランザイムBによるIEPD-pNAの切断を示す。グランザイムBによるIEPD-pNAの切断によって、pNAの放出が起こり、その吸光度を405 nmで測定する。データは、SCCMの異なる調製物について実施した少なくとも3回の異なる実験の平均値±SEMとして示す。星印(*)は、SCCMによる処置時の活性の有意な低減(p<0.05)を示す。
【図4】図4A〜4Cは、グランザイムBが、(i)培養セルトリ細胞によって分泌された、(ii)SPI-6ではない、因子によって共有的に改変されていることを示すウェスタンブロットの画像である。図4A〜4Cは、HAM対照培地、SCCMまたはPBSと共に2時間インキュベートしたグランザイムBのウェスタンブロットを示す。図4Aは、抗グランザイムB抗体による検出を示す。各レーンは以下の通りである:1)HAM、2)SCCM、3)HAM+グランザイムB、4)SCCM+グランザイムB、5)グランザイムB。矢印は、SCCMおよびグランザイムBによってレーン4に現れる高分子量のバンドを示す。図4Bは、抗SPI-6抗体を用いるウェスタンブロットを示す。図4Cは、剥離させて抗グランザイムB抗体によって再プロービングした図4Bと同じブロットを示す。図4Bおよび4Cにおけるそれぞれのレーンは、以下の通りである。1)HAM、2)SCCM、3)HAM+グランザイムB、4)SCCM+グランザイムB、5)グランザイムB、6)マウスCTL溶解物。矢印は、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした場合に現れるが、抗SPI-6抗体によって検出されない高分子量複合体を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、セルピンa3nがインビトロでグランザイムBと複合体を形成することを示すウェスタンブロットの画像である。図5Aは、ヒトグランザイムB(300 ng)またはPBSと共にインキュベートした、インビトロ翻訳/転写されたおよび35S-放射標識されたセルピンa3n-HAのSDS-PAGEおよびオートラジオグラフィーを示す。各レーンは以下の通りである。1)35S-セルピンa3n-HA+PBS、2)35S-セルピンa3n-HA+grB、3)網赤血球溶解物+grB。図5Bは、ヒトグランザイムB(85 ng)またはPBSと共にインビトロで翻訳/転写されたセルピンa3n-HAをインキュベートした後のグランザイムBイムノブロットを示す。各レーンは以下の通りである。1)セルピンa3n-HA+PBS、2)セルピンa3n-HA+grB、3)網赤血球溶解物+grB、4)網赤血球溶解物。示したデータは独立した3回の実験の代表である。
【図6】図6Aおよび6Bは、トランスフェクトされたJurkat細胞が、グランザイムBに結合するセルピンa3nを分泌することを示すウェスタンブロットの画像である。図6Aは、Jurkat細胞におけるセルピンa3n-HAの発現を示す。安定なトランスフェクト細胞(クローンSerE12-HA)5×106個をOPTI-MEM I培地1 mlにおいて終夜インキュベートした。細胞溶解物(L)および条件培地(CM)におけるセルピンa3nを、抗-HA抗体とのイムノブロッティングによって検出した。図6Bは、培養培地に分泌されたセルピンa3n-HAがヒトグランザイムBと複合体を形成したことを示している。精製ヒトグランザイムBをJurkat細胞、pcDNA3-トランスフェクト細胞、またはSerE12-HA細胞から回収した培地と共に37℃で2時間インキュベートした。セルピンa3n-グランザイムB複合体の形成をSDS-PAGEおよび抗グランザイムB抗体によるイムノブロッティングによって検出した。図6Cは、セルピンa3n-HAがグランザイムB酵素活性を阻害することを示すグラフである。グランザイムB(212 ng)をSerE12-HA細胞またはpcDNA3-トランスフェクト細胞からの条件培地の増加量と共に37℃で1時間プレインキュベートした後、グランザイムB活性を測定した。データは、pcDNA3-トランスフェクト細胞の培地と共にプレインキュベートしたグランザイムB活性の百分率として表記して、3つ組で行った独立した3回の実験の平均値±標準偏差である。
【図7】抗-CD3活性化T細胞または組み換え型グランザイムBに曝露後のニューロンの生存に関する定量的分析を示すグラフである。活性化T細胞のみと同時培養した後に残っている、または異なる条件(濃縮(×5)AIMV、濃縮Jurkat細胞上清、濃縮F8上清、またはセルピンa3nを含む濃縮Jurkat細胞上清)で2時間前処置した後に残っているMAP-2陽性ニューロンの数を示す。ニューロンのほぼ60%が、組み換え型グランザイムBまたは活性化T細胞単独との同時培養において失われる。セルピンa3nによって前処置した活性化T細胞との同時培養では、ニューロンの30%が失われたに過ぎなかった。*p<0.01、Tukeyのpost-hoc検定による一元配置ANOVA。Unact=非活性化T細胞、ACT=活性化T細胞;p.t.=前処置。
【図8】セルピンa3nのポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1)およびポリペプチド(SEQ ID NO:2)配列、グランザイムBのポリペプチド配列(SEQ ID NO:3)、ならびにセルピンa3n反応中心ループ(SEQ ID NO:4)のポリペプチド配列を示す。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
細胞障害性Tリンパ球(CTLs)は、浸潤性のウイルスおよび細胞内病原体に対して実質的な保護を提供する。しかし、これらの細胞が身体自体に対して害を引き起こしうる病原性の状況が存在する:例には、中でも、自己免疫疾患(真正1型糖尿病、関節リウマチ、ヴェーゲナー肉芽腫症、および多発性硬化症)、移植片(たとえば、膵島細胞)拒絶、および移植片対宿主病、炎症性血管疾患が含まれる。
【0002】
CTL媒介殺細胞の主要なメカニズムはグランザイムB(granzyme B)経路である。CTLが標的細胞と接触すると、CTLはパーフォリンおよびグランザイムBが含まれる細胞障害性分子の「致死的な打撃」を送達し、それによってアポトーシスによる標的細胞の死が起こる。簡単に説明すると、CTL-グランザイムB経路は、CTL溶解性顆粒において貯蔵されたグランザイムBおよびパーフォリンの標的細胞方向へのカルシウム依存的放出を伴う。マンノース-6リン酸化(M6P)タンパク質であるグランザイムBは、標的細胞表面上のその受容体であるマンノース-6ホスフェート/インスリン様増殖因子-II(M6P/IGF-II)受容体に結合して、パーフォリンと共にエンドサイトーシスによって標的細胞に取り込まれる。標的細胞の内部に入ると、グランザイムBはエンドサイトーシス小胞に留まり、パーフォリンまたは他の溶解物質(たとえば、アデノウイルス)によって細胞質に放出されるまで、アポトーシスを媒介することができない。細胞質に入ると、セリンプロテイナーゼであるグランザイムBは、アスパラギン酸残基でプロカスパーゼを切断して、それらを活性化して、DNA断片化およびアポトーシス細胞死に至るカスパーゼカスケードを開始させる。
【0003】
セルトリ細胞は、移植片破壊に関する自己、同種異系、およびさらに異種免疫メカニズムから膵島を保護する。自己免疫性糖尿病モデルであるNODマウスモデルにおける、セルトリ細胞媒介性の膵島保護は、セルトリ細胞によって分泌されるTGF-βに帰因する。TGF-βは、T細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、およびB細胞活性と共に、多くの前炎症性サイトカインの発現を抑制することができる抗炎症性サイトカインである。齧歯類精巣から単離されたセルトリ細胞と膵島の同時移植は、同種異系および自己免疫による移植片破壊メカニズムからの膵島の保護に成功している。しかし、本発明の前までは、セルトリ細胞がこの偉業をどのようにして達成したかはあまり理解されていなかった。
【0004】
したがって、これらの細胞を伴う病原性状態の処置が成功するためにはCTL活性を阻害するための方法を発見することが不可欠である。そのような方法は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病、または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患の処置において用いることができ、移植された組織を拒絶から保護することができる。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明者らが分泌型グランザイムB阻害性セルピンとしてセルピンa3nを同定したことに基づき、本発明は、免疫抑制を必要とする患者の処置のための方法、そのような患者の処置において有用な組成物、および細胞を患者に移植するための方法を提供する。したがって、第1の局面において、本発明は免疫抑制を必要とする患者(たとえば、糖尿病、関節リウマチ、もしくは本明細書において記載される任意の自己免疫障害のような自己免疫障害、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患を有する患者、または移植された臓器、たとえば心臓、肝臓、腎臓、膵臓、もしくは肺の一部であってもよい移植された細胞を受けた患者)を処置するための方法を提供する。方法には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片を含む組成物の、患者の免疫応答(たとえば、細胞障害性Tリンパ球によって媒介される免疫応答)を減少させるために十分な量の治療的有効量を患者に投与する段階が含まれる。グランザイムB阻害性セルピンは、分泌型タンパク質であってもよい。
【0006】
第2の局面において、本発明は、細胞(たとえば、膵島細胞、ヒト細胞、幹細胞、ブタ細胞、ブロックマン体(Brockmann body)のような魚類細胞)が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nまたは改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む第一の細胞を含む組成物を提供する段階、および組成物を哺乳動物に導入する段階を含む、細胞を哺乳動物(たとえば、ヒト)に移植するための方法を提供する。組成物にはさらに、第二の細胞(たとえば、膵島細胞)が含まれてもよい。細胞は、移植された臓器(たとえば、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺)における細胞であってもよい。細胞にはさらに、第二のポリペプチド(たとえば、ヒトインスリンのようなインスリン)をコードする第二の異種ポリヌクレオチドが含まれてもよい。
【0007】
第3の局面において、本発明は、細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含む細胞(たとえば、ヒト細胞、ブタ細胞、膵島細胞、幹細胞のような哺乳動物細胞、ブロックマン体のような魚類細胞)を含む組成物を提供する。ポリヌクレオチド配列はプロモーターに機能的に連結させてもよい。組成物にはさらに、移植のための第二の細胞(たとえば、膵島細胞)が含まれてもよい。
【0008】
第4の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片と、薬学的に許容される担体(たとえば、非経口投与または静脈内投与にとって適している)とを含む薬学的組成物を提供する。
【0009】
第5の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n、または改変ヒトα1-アンチキモトリプシン)、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供する。
【0010】
第6の局面において、本発明は、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクター(たとえば、ウイルスベクター)を含む組成物を提供する。
【0011】
第7の局面において、本発明は、セルピンまたは断片がトランスジェニック動物の少なくとも1つの組織(たとえば、心または膵組織)においてポリヌクレオチドを発現することができるプロモーターに機能的に連結している、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト動物(たとえば、ブタまたは魚)を提供する。トランスジェニック動物にはさらに、第二の異種ポリヌクレオチド(たとえば、ポリヌクレオチドはヒトインスリンをコードする)が含まれてもよい。
【0012】
第8の局面において、本発明は、トランスジェニック動物(たとえば、ブタまたは魚)からの組織を患者(たとえば、ヒト)に移植するための方法を提供する。方法には、第7の局面のトランスジェニック動物からの組織(たとえば、心または膵組織、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺を含む組織、膵島細胞を含む組織)を含む組成物を提供する段階、および組成物を患者に導入する段階が含まれる。
【0013】
「グランザイムB阻害性セルピン」とは、セルピンa3n(SEQ ID NO:2;図8を参照されたい)またはセルピンa3nをコードするポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1;図8を参照されたい)とハイブリダイズする(たとえば、ストリンジェントな条件で)ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%配列同一性を有するポリペプチドであって、哺乳動物のグランザイムB活性(たとえば、ヒトグランザイムB(SEQ ID NO:3;図8を参照されたい))を阻害するポリペプチドを意味する。さらに、グランザイムB阻害性セルピンという用語は、グランザイムBを阻害する(たとえば、グランザイムBに特異的に結合することによって)ように改変された他の任意のセルピンタンパク質を含む。改変には、反応中心ループ(RCL)の代わりに、グランザイムB阻害(たとえば、結合)活性をセルピンに付与する異種RCL(たとえば、セルピンa3nのRCL)を用いることが含まれてもよい。1つの態様において、ヒトα1-アンチキモトリプシンは、マウスセルピンa3nのRCLを含むように改変される。この定義から具体的に除外されるのは、SPI-6およびPI-9、ならびにSPI-6またはPI-9と85%、90%、95%、98%、99%またはそれより大きい相同性を有する配列である。グランザイムB阻害性セルピンには、任意の生物、たとえばラット、ブタ、ヒト、またはマウスのような哺乳動物からの相同体およびゼノログが含まれてもよく、そのような相同体およびゼノログに由来する配列を有するセルピンが含まれてもよい。本発明の任意の局面において、グランザイムB阻害性セルピンは、細胞(たとえば、哺乳動物細胞)によって産生される場合、分泌型タンパク質(たとえば、分泌のためにポリペプチドを標的とする配列を含む)となりうる。
【0014】
「グランザイムB阻害性セルピン断片」とは、それが由来する完全長のグランザイムB阻害性セルピンのグランザイムB阻害活性の少なくとも1%、好ましくは5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%、または100%でさえ保持するグランザイムB阻害性セルピンのアミノ酸少なくとも4個の断片を意味する。グランザイムB阻害活性は、本明細書に記述されるように測定してもよい。特定の態様において、グランザイムB阻害性セルピン断片は、グランザイムB阻害性RCLを含む。
【0015】
「セルピン」とは、セリンプロテアーゼ阻害剤を意味する。セルピンには、マウスα1-アンチトリプシン(またはα1-プロテアーゼ阻害剤)ファミリー、α1-アンチトリプシンおよびα1-アンチキモトリプシンのようなヒトセルピン、およびそのようなタンパク質の相同体またはゼノログが含まれる。セルピンは、たとえばラット、ブタ、酵母、および線虫(C. elegans)を含む生物において見いだされる。セルピンは、それを通して標的セリンプロテアーゼに対する特異性が媒介される反応中心ループ(RCL)を有してもよい。
【0016】
「断片」は、アミノ酸少なくとも4個であり、完全長のポリペプチドの生物活性(たとえば、グランザイムB結合)の少なくとも一部分を含むポリペプチドの一部を意味する。好ましくは、断片は、完全長のポリペプチドの活性の少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、または99%を保持する。
【0017】
「改変された」とは、分子(たとえば、ポリペプチド)に対する任意の変化を意味する。たとえばポリペプチドの改変には、挿入、欠失、もしくはアミノ酸置換のような変異が含まれ、またはメチル化もしくは酸化のような側鎖アミノ酸残基に対する改変が含まれる。
【0018】
「グランザイムB阻害性反応中心ループ」または「グランザイムB阻害性RCL」とは、セルピンのグランザイムBに対して特異性を付与するアミノ酸の短い枝(たとえば、アミノ酸19個)が含まれるセルピンの領域を意味する。例としてのグランザイムB阻害性RCL
は、セルピンa3n配列内に含まれる。グランザイムB阻害性RCLとグランザイムBとのあいだの共有結合は、グランザイムBによるRCLの切断後に形成する可能性があり、それによってグランザイムBの非可逆的な不活化が起こる。特異的RCLのグランザイムB阻害活性は、本明細書に記述の方法を用いて決定されてもよい(たとえば、グランザイムBをIEDP-pNAと混合して、グランザイムB阻害性RCLを含むポリペプチドの存在下および非存在下で、グランザイムBによるIEDP-pNAの切断を比較する段階によって)。グランザイムB阻害活性において重要な特異的残基は、たとえば、Sun et al. (J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))によって記述されるように当技術分野において標準的な変異誘発技術を用いて同定される可能性があり、そのような方法を用いて、新規グランザイムB阻害性RCLが同定される可能性がある。
【0019】
「グランザイムB阻害」とは、グランザイムB活性を少なくとも5%、好ましくは10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%または100%でさえ低減させることを意味する。グランザイムB活性は、当技術分野において公知の任意の数の方法を用いて測定してもよい。そのような1つの方法には、グランザイムBの切断部位を含むパラニトロアナリドに共役させたイソロイシン/グルタメート/プロリン/アスパルテート(IEPD-pNA)とグランザイムBとを混合する段階が含まれる。グランザイムBによるIEPD-pNAの切断によって、IEPDと着色産物であるpNAとが生成され、その吸光度を405 nmで測定することができ、吸光度はアッセイにおけるグランザイムB酵素活性の量と比例する。分子(たとえば、セルピンのようなポリペプチド)は、グランザイムBの活性部位に特異的に結合することによって、グランザイムBを阻害する可能性がある。グランザイムB活性の測定はまた、殺細胞アッセイ(たとえば本明細書において記述されるアッセイ)を用いて行うことができる。
【0020】
「特異的に結合する」とは、もう1つの分子(たとえば、第二のポリペプチド)を認識して結合するが、試料、たとえば本来ポリペプチドが含まれる生体試料における他の分子を実質的に認識せず、結合しない化合物(たとえば、第一のポリペプチド)または抗体を意味する。
【0021】
「プロモーター」は、転写を指示するために十分な最小の配列を意味する。同様に、プロモーター依存的遺伝子発現を細胞タイプ特異的、組織特異的、時間特異的、または外部シグナルもしくは物質によって誘導可能となるように制御可能にするために十分であるプロモーター要素も本発明に含まれる;そのような要素は、本来の遺伝子の5'、3'、またはイントロン配列領域に存在してもよい。「機能的に連結した」とは、適当な分子(たとえば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合した場合に遺伝子発現を許容するように、遺伝子と1つまたは複数の調節配列とが接続されていることを意味する。
【0022】
「薬学的に許容される担体」は、それが投与される化合物または細胞の治療特性を保持しながら、処置される哺乳動物に対して生理的に許容される担体を意味する。1つの例としての薬学的に許容される担体は、生理食塩液である。他の生理的に許容される担体およびその製剤は、当業者に公知であり、本明細書においておよび、たとえばRemington's Pharmaceutical Sciences, (18th edition), ed. A. Gennaro, 1990, Mack Publishing Company, Easton, Penn.において記述されている。
【0023】
「処置する」とは、疾患または疾患に関連した症状の処置または予防のために薬学的組成物を投与することを意味する。
【0024】
「CTL媒介疾患」は、CTL細胞が細胞を死滅させるように不適切に標的とする疾患を意味する。CTL媒介疾患は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病)、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、または移植の状況であってもよい。
【0025】
「移植のための細胞」とは、患者(たとえば、ヒト)に提供される可能性がある任意の細胞を意味する。移植にとって適した細胞には、患者からの細胞、もう1つの動物から採取した細胞(たとえば、同じ種または異なる種の動物から採取した細胞)、または死体ドナーから採取した細胞が含まれてもよい。本発明において特に有用な細胞には、膵島細胞が含まれ、これらの細胞の特に有用な起源には、魚、ブタ、およびヒトが含まれる。
【0026】
「自己免疫障害」とは、哺乳動物の免疫系が哺乳動物自身の組織に対する液性もしくは細胞性免疫応答を開始する、または炎症を起こすことなく適切な細胞の生存を防止するその組織における内因性の異常を有する障害を指す。
【0027】
自己免疫疾患の例には、糖尿病、関節リウマチ、炎症性神経変性疾患(たとえば、多発性硬化症)、紅斑性狼瘡、重症筋無力症、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、橋本病、グレーヴス病、シェーグレン症候群、多腺性内分泌不全、白斑、末梢ニューロパシー、移植片対宿主病、自己免疫性I型多腺性症候群、急性糸球体腎炎、アジソン病、成人発症型特発性副甲状腺機能低下症(AOIH)、全脱毛、筋萎縮性側索硬化症、強直性脊椎炎、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、ベーチェット病、セリアック病、慢性活動型肝炎、CREST症候群、皮膚筋炎、拡張型心筋症、好酸球増多-筋痛症候群、後天性表皮水疱症(EBA)、巨細胞性動脈炎、グッドパスチャー症候群、ギヤン-バレー症候群、ヘモクロマトーシス、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、特発性IgA腎症、インスリン依存型真性糖尿病(IDDM)、若年性関節リウマチ、ランバート-イートン症候群、線状IgA皮膚症、心筋炎、ナルコレプシー、壊死性脈管炎、新生児狼瘡症候群(NLE)、ネフローゼ症候群、類天疱瘡、天疱瘡、多発筋炎、原発性硬化性胆管炎、乾癬、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、ライター症候群、スティフマン症候群、および甲状腺炎が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0028】
「炎症性血管疾患」とは、血管組織の炎症に関連する任意の状態を意味する。そのような疾患は、内皮細胞アポトーシスの増加またはグランザイムBアポトーシス経路によって媒介される可能性がある。例としての炎症性血管疾患には、アテローム性動脈硬化症、髄膜炎、側頭動脈炎、移植血管疾患、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、大動脈瘤、髄膜炎、および側頭動脈炎が含まれる。
【0029】
「炎症性ニューロン疾患」とは、神経組織(たとえば、ニューロン)の炎症に関連する任意の状態を意味する。特定の場合において、そのような疾患は、グランザイムBアポトーシス経路によって媒介される可能性がある。炎症性ニューロン疾患には、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、プリオン病(たとえば、クロイツフェルト-ヤコブ病およびスクレイピー)、およびアルツハイマー病が含まれる。
【0030】
「患者における免疫応答を減少させるために十分な」とは、患者に投与した場合に、少なくとも1つの免疫応答(たとえば、CTL媒介殺細胞)を5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれより多く低減させる能力を有する組成物(たとえば、免疫抑制活性を有する組成物)の量である。
【0031】
「免疫抑制活性」とは、少なくとも1つの免疫応答(たとえば、CTL媒介殺細胞)の低減を意味する。低減は、少なくとも2%、5%、10%、25%、50%、75%、90%、95%、97%、98%、99%またはそれより多くてもよい。
【0032】
本発明の他の特徴および長所は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、自己免疫障害(たとえば、糖尿病、関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または移植を有する患者のような免疫抑制を必要とする患者を処置するための組成物および方法を特徴とする。組成物には、セルピンa3nをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、および免疫抑制治療を必要とする患者の処置において有用な薬学的組成物が含まれる。
【0034】
本研究において、本発明者らは、移植片破壊における主な免疫エフェクターメカニズムであるアポトーシス標的細胞死に至るグランザイムB経路を遮断することによって、CTL殺細胞を阻害するセルトリ細胞によって分泌される因子であるセルピンa3nの新規活性を同定した。1つの可能性は、セルトリ細胞がM6P/I GF-II受容体に関するリガンドの分泌を通してグランザイムB媒介アポトーシスを阻害することであった。しかし、セルトリ細胞条件培地(SCCM)は、M6P/IGF-II受容体細胞表面発現に対して効果を示さず、SCCMもグランザイムB結合または取り込みを妨害せず、SCCMの阻害作用がグランザイムBタンパク質分解活性に対する直接効果に起因する可能性が現れた。本明細書において示されるように、マウスセルトリ細胞によって分泌される因子であるセルピンa3nは、グランザイムBとの直接相互作用によって、ヒトおよびマウスグランザイムB酵素活性の双方を有効に低減した。
【0035】
以下に詳しく記述するように、ヒトグランザイムBをマウスSCCMと共にインキュベートすると、グランザイムBを含む安定な複合体を形成する。グランザイムB複合体は、SDSおよび熱誘発性の変性に対して抵抗性であり、セリンプロテイナーゼ阻害剤(セルピン)を含む複合体と一致する。グランザイムBとの複合体には、SPI-6が含まれず、このことはセルトリ細胞によって分泌されるもう1つのセルピンがグランザイムBと相互作用してSDS安定性の複合体を形成するはずであることを示した。実際に、複合体のMALDI-TOF質量分析により、グランザイムBに結合した因子として、異なるセルピンであるセルピンa3nが明白に同定された。Jurkat細胞におけるセルピンa3nのクローニングおよび発現により、このタンパク質が、グランザイムBに結合してその活性を阻害することが確認された。これは、PI-9またはSPI-6以外のセルピンがグランザイムBを阻害する初めての知見である。さらに、セルピンa3nは、PI-9またはSPI-6とは異なり、分泌型タンパク質である。
【0036】
セルトリ細胞によって分泌される新規グランザイム阻害剤に関する知見は、それによってセルトリ細胞が同種異系、自己および異種免疫破壊メカニズムから膵島移植片を保護するメカニズムの理解に寄与する。分泌型セルピンa3nは、グランザイムB活性およびグランザイムB媒介殺細胞を有効に阻害し、このメカニズムは、宿主細胞媒介免疫応答を遮断するための強力かつ新規アプローチを表す。したがって、本発明は、セルピンを提供することによって、同種異系および異種移植、および同時移植のための方法と共に、免疫抑制の他の型を提供する。
【0037】
グランザイムB
グランザイムBは、グランザイムファミリーの重要なメンバーである。グランザイムBおよびパーフォリンは、ウイルス感染症および抗腫瘍免疫においてNK細胞およびCTLによる標的殺細胞を媒介するエフェクター分子である。パーフォリンは、グランザイムBの細胞流入を媒介することから、グランザイムB活性にとって通常必要である;しかし、グランザイムB基質が細胞外に存在する多くの場合が存在し、これらの場合、パーフォリンは必要ではない(Choy et al., Arterioscler. Thromb. Vase. Biol. 24:2245-2250 (2004))。この経路の調節障害は、特定のヒト疾患およびマウスにおける遺伝子異常に関連する(Russell et al., Annu. Rev. Immunol. 20:323-370 (2002))。グランザイムBおよびパーフォリンは、相乗的に作用して、標的細胞に対して細胞障害効果を発揮する。グランザイムBの標的細胞への送達の基礎となるメカニズムは、パーフォリンによって作製された膜貫通孔(Yagita et al., Adv. Immunol. 51 :215-242 (1992))、非特異的な電荷相互作用(Shi et al., J. Immunol. 174:5456-5461 (2005))、および/または陽イオン非依存的マンノース6-P受容体媒介エンドサイトーシス(Motyka et al., Cell 103:491-500 (2000))を必然的に伴う可能性がある。内皮細胞アポトーシスはCTL細胞によって媒介される。グランザイムBはこのプロセスに関係しており、このように、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎のような炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、および移植血管疾患のような臓器移植に関連する疾患に関わっている可能性がある(Choy et al., Arterioscler. Thromb. Vase. Biol. 24:2245-2250 (2004);Choy et al., Am. J. Transplant. 5:494-499 (2005))。さらに、調節性T細胞は、腫瘍に対する反応を阻害するためにグランザイムBを利用する。
【0038】
タンパク質セルピンファミリー
セルピンa3nは、ヒトα1-アンチキモトリプシン(SERPINA3)と高い程度の相同性を有するセルピンの多重遺伝子ファミリーメンバーである。ヒトにおいて、α1-アンチキモトリプシンをコードする単一の遺伝子が存在するが、繰り返し重複事象によって、マウスにおいて近縁の遺伝子14個のクラスタが出現した(Forsyth et al., Genomics 81 :336-345 (2003))。これらの遺伝子の中で、セルピンa3nは、少なくともタンパク質の構造部分に関係する部分に関して、アンチキモトリプシンと最も高い程度の相同性(アミノ酸レベルで61%)を有する遺伝子である。その反応中心ループのアミノ酸配列に基づいて、セルピンa3nは、エラスターゼとして機能する可能性があると提唱された(Horvath et al., J. Mol. Evol. 59:488-497 (2004))。より最近の研究から、セルピンa3nがヒトアンチキモトリプシンとヒトアンチトリプシンの双方に対して基質特異性を共有し、キモトリプシン、トリプシン、カテプシンGおよびエラスターゼに結合してこれらを不活化することができることが示された(Horvath et al., J. Biol. Chem. 280:43168-43178 (2005))。本明細書において、本発明者らは、セルピンa3nがグランザイムBの阻害剤でもあることを示す。
【0039】
グランザイムBの既に特徴付けのなされた阻害剤PI-9およびSPI-6は、グランザイムB活性を遮断するために、反応中心ループのP1位に酸性残基を必要とする(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001);Sun et al., J. Biol. Chem. 272:15434-15441 (1997))。反応中心ループにおける他の残基、特に残基P4-P4'は、グランザイムとの相互作用にとって重要である(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177- 15184 (2001))。セルピンa3nの反応中心ループは酸性残基を含まないが、P1位でMetを示し、これはグランザイムBによって切断されうる(Poe et al., J. Biol. Chem. 266:98-103 (1991);Odake et al., Biochemistry 30:2217-2227 (1991))。その上、セルピンa3nのRCLにおける残基P4-P4'の多くは、PI-9反応中心ループのスキャニング変異誘発によって定義されるように、グランザイムB特異性と適合性である(Sun et al., J. Biol. Chem. 276: 15177- 15184 (2001))。
【0040】
セルピンa3nは、脳、精巣、肺、胸腺、および脾臓において高度に発現される(Horvath et al., J. Mol. Evol. 59:488-497 (2004))。精巣において、セルトリ細胞によって分泌されるセルピンa3nは、SPI-6と協調して局所産生されたグランザイムBの活性を調節するように作用する可能性がある(Hirst et al., Mol Hum. Reprod. 7:1133-1142(2001))。PI-9/SPI-6とセルピンa3nとの重要な差は、後者が分泌型ポリペプチドであるのに対し、PI-6およびSPI-6は細胞内である点である。
【0041】
以下に、セルピンa3nを含むSCCMによるCTL媒介細胞死の阻害を示す実験結果を詳述する。
【0042】
セルトリ細胞は、移植された膵島細胞をCTL媒介アポトーシス死から保護する
膵島と齧歯類精巣から単離したセルトリ細胞との同時移植により、異種、同種異系および自己免疫による移植片破壊メカニズムから膵島は保護される(Selawry et al., Cell Transplant. 2:123-129 (1993);Korbutt et al., Diabetes 46:317- 322 (1997);Takeda et al., Diabetologia 41:315-321 (1998);Korbutt et al., Diabetologia 43:474-480 (2000))。本発明の前までは、セルトリ細胞が膵島細胞を保護するメカニズムはあまりよく理解されていなかった。セルトリ細胞は、少なくとも部分的にCTL殺細胞の阻害を通して膵島細胞を保護することができ、実際にセルトリ細胞は、CTL-グランザイムB経路を遮断するタンパク質を発現して、それによってアポトーシス細胞死を防止することが見いだされている。たとえば、セルトリ細胞は、グランザイムBのM6P/IGF-IIデス受容体のリガンドであるM6P-糖タンパク質およびIGF-IIを分泌する(O'Brien et al., Biol. Reprod. 49:1055-1065 (1993);Tsuruta et al., Biol. Reprod. 63:1006-1013 (2000))。セルトリ細胞において発現されるM6P-糖タンパク質には、プロサポシン、プロカテプシンL、およびトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)が含まれる(O'Brien et al., Biol, reprod. 49: 1055-1065 (1993);Russell et al., The Sertoli Cell, Clearwater, Florida: Cache River Press (1993))。特にTGF-βは、NODマウスにおける膵島のセルトリ細胞媒介性保護に関係する免疫抑制物質である(Suarez-Pinzon et al., Diabetes 49:1810-1818(2000))。これらのタンパク質は、受容体をダウンレギュレートまたは遮断して、それによってグランザイムBの取り込みを防止して、その後の標的細胞の殺細胞を防止する。
【0043】
本明細書において記述されるように、グランザイムB媒介アポトーシスに及ぼすSCCMの効果を調べたところ、セルトリ細胞は、グランザイムB媒介アポトーシスを低減させる安定な複合体の形成を通してグランザイムB酵素活性を阻害する因子を分泌することが見いだされた。この因子は、セルピンの特徴を示したが、マウスセリンプロテイナーゼ阻害剤-6(SPI-6)ではなく、マウスグランザイムBの阻害剤であった。質量分析により、この因子は新しく新規であるグランザイムBの阻害剤、セルピンa3nとして同定された。
【0044】
セルトリ細胞条件培地は、グランザイムB媒介殺細胞に影響を及ぼす。
本発明者らは最初に、SCCMがCTL媒介殺細胞から標的細胞を保護できるか否かを試験した。3H-チミジン標識L1210細胞は、C57 CTL細胞株によって処置するとアポトーシス細胞死(%特異的3Hチミジン放出)を受けた。C57 CTL細胞株による殺細胞は、Fasリガンドよりはむしろ主にグランザイムBの結果である(データは示していない)。SCCMによるL細胞の処置は、CTL殺細胞を有意に低減させた(図1A)。
【0045】
SCCMがグランザイムB媒介殺細胞経路に影響を及ぼすか否かを査定するために、精製グランザイムBを用いる殺細胞アッセイを行った。TUNEL分析によって査定すると、標的細胞のグランザイムB処置によって、用量依存的なDNAの断片化および細胞死が起こった。しかし、SCCMの存在下では、標的細胞におけるグランザイムB媒介DNA断片化は劇的に低減された(図1B)。DNA断片化の低減は、120 ng/mlに等しい、またはそれより高い用量のグランザイムBにおいて有意であることが見いだされた(p<0.05)。
【0046】
セルトリ細胞条件培地は、グランザイムB酵素活性を阻害する。
本発明者らは、M6P/IGF-II受容体発現またはグランザイムB取り込みに及ぼすSCCMの有意な効果を見いださなかった(図2A〜2D)。このように、標的細胞の殺細胞に関して観察された阻害は、グランザイムBタンパク質分解活性に影響を及ぼすSCCMに起因するか否かを決定した。実際に、ヒトグランザイムBをSCCMと共にプレインキュベートすると、グランザイムB活性の有意な低減(83%減少)が起こったが、グランザイムBを対照HAM F10培地と共にインキュベートしても阻害は観察されなかった(図3A)。CTL脱顆粒材料から得たマウスグランザイムBについても類似の結果が観察された(図3B)。
【0047】
グランザイムBは、セルトリ細胞によって分泌される因子によって共有的に改変される。
グランザイムBがセルトリ細胞から分泌される因子によって改変されるか否かを査定するために、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした後、これをSDS-PAGEおよび抗グランザイムB抗体によるウェスタンブロッティングによって分解した。図4Aにおいて示されるように、対照試料(グランザイムB単独およびHAM F10対照培地と共にインキュベートしたグランザイムB)は、分子量約32 lDaのバンドを示し、分子量約54 kDaの第二のバンドも同様に観察され、これはグランザイムBのグリコシル化型に対応した。グランザイムBをSCCMと共にインキュベートすると、分子量約78 kDaの新しい免疫反応性バンドが出現し、このようにグランザイムBとSCCMにおけるこれまで未知の因子との安定な複合体が形成されることを示している。本発明者らは、この因子はセリンプロテイナーゼ阻害剤またはセルピンではないかと疑った。セルピンは、SDSおよび熱変性に対して抵抗性で、その同源のプロテイナーゼに実質的に非可逆的に結合することが知られており、この特性は、このクラスのプロテイナーゼ阻害剤において独自であると考えられている(Potempa et al., J. Biol. Chem. 269:15957-15960 (1994))。本発明の前までは、安定な複合体の形成を通してグランザイムB酵素活性を阻害することが知られているセリンプロテイナーゼ阻害剤は、マウスSPI-6およびヒトPI-9であった。セルトリ細胞は、マウスおよびヒト精巣においてそれぞれ、SPI-6およびPI-9を発現することが示されている(Bladergroen et al., J. Immunol. 3218-3225 (2001);Hirst et al., Mol. Hum. Reprod. 7:1133-1142 (2001))。SPI-6がSCCMにおけるグランザイムBの結合および阻害の原因であるか否かを決定するために、SPI-6を認識する抗体によるウェスタンブロッティングを行った。この実験は、SCCMまたはグランザイムBとの複合体においてSPI-6が検出されないことを示した。分子量42 kDaの免疫反応性のバンドは陽性対照に存在した(C57マウスCTLからの総細胞溶解物)(図4B)。図4Cは、剥離させて抗グランザイムB抗体によって再プロービングした、同じゲルにおけるグランザイムB複合体の位置を示す。これらのデータは、SCCMにおいてグランザイムBと共に形成する複合体においてSPI-6が観察されないことを示している。
【0048】
マウスセルトリ細胞によって分泌される新規グランザイムB阻害剤の同定
精製グランザイムBをセルトリ細胞条件培地と共にインキュベートした際に形成される複合体の特徴を調べるために、抗グランザイムB抗体によって免疫沈降させた高分子量複合体のMALDI-TOF質量分析を行った。そのペプチドマスフィンガープリントに基づいて、複合体において2つのタンパク質が同定された(表1):ヒトグランザイムBおよびマウスセルピンa3n(同様にspi2.2としても知られる)、セリンプロテイナーゼ阻害剤。セルピンa3n(47 kDa)およびヒトグランザイムB(32 kDa)の予想分子量は、実際に、見かけの分子量約78 kDaの観察された共有結合へテロ二量体複合体と適合性である。
【0049】
【表1】
【0050】
同定された全てのセルピンにおいて、同源のプロテアーゼと相互作用する本発明の部分は、反応中心ループ(RCL)である(Whisstock et al., Trends Biochem. Sci. 23:63-67 (1998))。表2は、セルピンa3nのRCL(P4-P4'アミノ酸)と他の2つのセルピン、すなわちマウスおよびヒトにおいてそれぞれ、グランザイムBに結合してこれを不活化するマウスSPI-6およびヒトPI-9のアミノ酸配列を示す(SEQ ID NO:16〜18)。セルピンa3n配列をPI-9と直接比較して、グランザイムBに対する結合と適合性の保存された残基およびアミノ酸置換を同定した(Sun et al, J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001)に従って)。
【0051】
【表2】
灰色のセルは、グランザイムBに関する仮説上の切断部位(P1-P1'残基のあいだ)を示す。記号「-」は、PI-9のスキャニング変異誘発によって査定した場合にグランザイムBに対する結合に負の影響を及ぼす、セルピンa3nにおけるアミノ酸置換(PI-9に関して)を示す(Sun et al., J. Biol. Chem. 272:15434-15441 (1997));「=」は保存された残基である;「+」は、グランザイムB結合および切断と適合性である(P1)または増加させる(P2およびP1')ことが示されているセルピンa3nにおける保存的アミノ酸置換を示す;「NI」はグランザイムB結合にとって重要ではない残基を示す。
【0052】
グランザイムBは、AspまたはGlu残基で基質を選択的に切断するが(Thornberry et al., J. Biol. Chem. 272:17907- 17911 (1997);Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))、これは同様にMet残基の後でも切断する(Poe et al., J. Biol. Chem. 266:98-103 (1991);Odake et al., Biochemistry 30:2217-2227 (1991))。したがって、セルピンa3nのRCLにおけるMet(表2)は、グランザイムBによるセルピン切断にとって必要なP1残基を表す可能性がある。セルピンa3nの反応中心ループにおける他の残基が、PI-9との相互作用にとってグランザイムBに関してこれまでに定義された選択性で保存される(または少なくとも適合性である)ことは注目に値する(Sun et al., J. Biol. Chem. 276:15177-15184 (2001))(表2)。
【0053】
セルピンa3nはインビトロでグランザイムBと共有結合複合体を形成する。
本発明者らは次に、RT-PCRによってマウス肝総RNAからセルピンa3n cDNAをクローニングした。抗セルピンa3n抗体を入手できなかったため、検出を促進するためにセルピンC末端でHAタグを付加した。組み換え型タンパク質をインビトロで転写/翻訳して、精製グランザイムBに対するその結合能を試験した。図5Aおよび5Bにおいて示されるように、グランザイムBをインビトロ合成セルピンに加えたところ、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした場合に観察される複合体と類似のセルピンa3nとグランザイムBとの高分子量複合体が形成された。組み換え型セルピンによって形成された複合体の分子量がわずかに低いこと(セルトリ細胞によって分泌されたセルピンによって形成された複合体と比較して)は、セルピンのグリコシル化の欠如による可能性がある。これらのデータは、セルピンa3nがグランザイムBに結合するセルトリ細胞によって分泌されるタンパク質であることを確認した。
【0054】
Jurkat細胞において発現されたセルピンa3nは培地に分泌され、グランザイムB活性を阻害する。
次に、本発明者らはJurkat細胞においてセルピンa3nを発現させて、高いトランスジーン発現を有する安定なクローンを選択した。図6Aは、これらのクローンの1つ、SerE12-HAにおけるセルピンa3nの発現と共に培養培地へのその分泌を示す。SerE12-HAクローンからの培養培地を精製ヒトグランザイムBと共にインキュベートすると、セルピンa3nとグランザイムBとの高分子量複合体が形成された(図6B)。予想されるように、SerE12-HA条件培地はまた、グランザイムB酵素活性を用量依存的に阻害した(図6C)。
【0055】
セルピンa3nはT細胞媒介またはグランザイムB媒介細胞死に対してニューロンを保護する。
本発明者らはまた、Tリンパ球が軸索およびニューロンの病理をインビトロで媒介することができること、およびセルピンa3nがCTL媒介細胞死からニューロンを保護することを決定した。培養ヒト胎児ニューロンを、成人ドナーの末梢血(同種異系)または同じ胎児標本の脾臓(同系)のいずれかから単離したTリンパ球によって処置した。抗CD3処置によって活性化されると、Tリンパ球はニューロンを大量に殺した(しかし、不活化されると殺さなかった)。同時培養の24時間までに、90%より多くのニューロンが変性した。その上、T細胞は軸索周囲で凝集し、微小管関連タンパク質-2(MAP-2、ニューロンマーカー)の急速な消失およびその後のニューロンの死亡が起こった。ニューロンのT細胞媒介殺細胞は、同種異系または同系のいずれでも起こり、活性化T細胞を必要とするが、いかなる外因性の抗原の存在も必要としなかった。このように、活性化Tリンパ球は、それらが有意な数でCNSに浸潤すると、軸索およびニューロンの完全性に顕著に影響を及ぼしうる。
【0056】
グランザイムBはT細胞媒介神経変性において主要な役割を果たしうることが既に示されていることから、セルピンa3nについて可能性がある神経保護作用を調べた。活性化T細胞を、セルピンa3nを分泌するJurkat細胞からの上清、または対照(濃縮AIMV、濃縮Jurkat細胞上清、または濃縮F8上清)と共に2時間インキュベートした。次にT細胞をヒトニューロンと共に培養した。24時間後、ニューロン生存率の定量的分析を行った。ニューロンの60%から90%が組み換え型グランザイムB、活性化T細胞単独との同時培養、または対照上清による前処置において失われる。対照的に、セルピンa3nによって前処置した活性化T細胞との同時培養では、失われたニューロンは30%に過ぎなかった。このように、セルピンa3nは神経保護物質となりえて、したがって炎症性のニューロン障害(たとえば、本明細書において記述される障害)の処置において有用となる可能性がある。
【0057】
材料および方法
以下の方法を用いて上記の実験を行った。
【0058】
動物、細胞株、および試薬。雄性BALB/cマウス(University of Alberta, Edmonton, Alberta, Canada)をセルトリ細胞ドナーとして用いた。
【0059】
L細胞(C3Hマウス線維芽細胞株)を、10%FBS、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン(P/S)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Life Technologies, Burlington, Ontario)において生育させた。マウスリンパ球性白血病L1210細胞を、20 mM HEPES、50 U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、1 mMピルビン酸ナトリウム(Life Technologies)、0.1 mM 2-メルカプトエタノール(Sigma, St. Louis, MO)、および10%FBSを添加したRPMI 1640培地において維持した。C57細胞(B6マウスCTL細胞株)を、BALB/cまたはC3Hマウス脾細胞によって刺激したB6マウスの脾臓から単離された脾細胞から生成した。C57細胞を10%FBS、10-4 M 2-メルカプトエタノール、100μg/ml P/S、20 mM Hepes、および80単位/mlヒト組み換え型IL2(RHFM)を添加したRPMI 1640(Life Technologies)において生育させた。細胞を濃度5×105個/mlで維持して、放射線照射BALB/cまたはC3H脾細胞(2500 rad)によって1(C57)対14(脾細胞)の比で1週間に1回刺激した。
【0060】
ヒトグランザイムBを、Caputo et al., Proteins 35:415-424 (1999)において記述されるようにYT INDY細胞の細胞溶解顆粒から精製した。ヒト複製欠損アデノウイルス(Adv)は、既に記述されているように調製した(Bett et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91:8802-8806(1994))。マウス脱顆粒グランザイムB材料を、既に記述されているように(Sipione et al., J. Immunol. 174:3212-9 (2005))、固定した抗マウスCD3ε抗体(クローン145-2C1 1, BD Biosciences Pharmingen, San Diego, Calif.)によって刺激したCTL細胞から調製した。
【0061】
マウスセルトリ細胞の単離およびセルトリ細胞条件培地の調製。9〜12日齢の雄性BALB/cマウスドナーから精巣を単離して、氷中で0.5%BSA(Sigma)を含むHBSSに入れた。精巣を刻んでコラゲナーゼ(1 mg/ml;Sigma V型)によって37℃の振とう水浴中で6分間消化した。組織をHBSSによって3回洗浄した後、シリコン処理した250 mlフラスコにおいて、1 mmol/EGTAおよび0.5%BSA(Sigma)を含むカルシウムを含まない培地においてDNアーゼ(0.4 mg/ml、Boehringer Mannheim, Laval, Canada)およびトリプシン(1 mg/ml、Boehringer)によって37℃の振とう水浴中でさらに6分間消化した。2回目の消化後、細胞をHBSSによって洗浄して、500μmナイロンメッシュによって濾過した後、さらに3回洗浄してから播種した。細胞の生存率を、トリパンブルー排除によって決定した。培養におけるGATA-4陽性セルトリ細胞および平滑筋α-アクチン陽性の管周囲筋様体細胞の数を、既に記述されているように(Dufour Gene Ther. 11:694-700 (2004))、マウスモノクローナル抗GATA-4(1:50;Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, Calif.)およびマウスモノクローナル抗平滑筋αアクチン(1:50;DakoCytomation, Carpinteria, Calif.)を用いて免疫組織化学によって決定した。それぞれの調製物において、細胞少なくとも500個を計数した。
【0062】
条件培地の調製に関して、0.5%BSA(セルトリ細胞条件培地をウェスタンブロット分析のために調製する場合にはBSAを加えなかった)、100 U/mlペニシリンおよび100 U/mlストレプトマイシンを添加した無血清HAM F10培養培地30 mlにおいて、セルトリ細胞を5×107個の濃度で播種した。細胞を組織培養処置プレートにおいて37℃および5%CO2で3日間培養した。次に、上清を回収して、2000 RPMで各5分間2回遠心して、細胞の破片を除去した。次に、得られたセルトリ細胞条件培地(SCCM)をAmicon YM-10 Centricon装置(分子量カットオフ10 kDa;Fisher Scientific, Ottawa, Ontario)によって7000 RPM(4℃)で90分間濃縮して容積を3 ml(10倍濃縮)とした。0.5%BSAを含むまたは含まない無血清HAM F10を同様に濃縮して、これを対照培地として用いた。タンパク質濃度は、Bradfordタンパク質アッセイ(BioRad Laboratories, Hercules, Calif.)によって決定した。SCCMは使用するまで4℃で保存した。
【0063】
CTL殺細胞アッセイ。3H-チミジン標識L1210細胞を、HAM F10対照培地またはSCCMと共に37℃で1時間プレインキュベートした。次に、C57エフェクター細胞をL1210細胞と10:1の比率(エフェクター対標的細胞比)で混合して、37℃で3時間インキュベートした。3時間インキュベーション後、標的およびエフェクター細胞の試料を、3H-チミジン放出の定量のために調製した。試料溶解緩衝液(1%Triton-X、200μl)を、試料を含む各エッペンドルフチューブに加えて、チューブをボルテックス機械を用いて1分間混合した。次いで、チューブを1400 RPMで4℃で10分間遠心した。上清を液体シンチレーションバイアルに移して水溶性の計数シンチラントを加えた。次に、3Hチミジン放出量を決定するために試料をβカウンターに入れた。試料あたりの%特異的3H-チミジン放出は、以下のように計算した:[(試料のカウント[標的およびエフェクター]−自然発生カウント[標的単独])/(総カウント−自然発生カウント)]×100。
【0064】
グランザイムB媒介アポトーシスおよびTUNELアッセイ。線維芽細胞L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで播種して、濃縮SCCMまたはHAM F10(対照)25μlと共に37℃で30分間プレインキュベートした。ヒトグランザイムBの増加濃度および100 pfu/ウェルのアデノウイルス、アデノウイルス単独、またはグランザイムB単独を細胞に加えた。細胞を37℃で3時間インキュベートして、2%FBSを添加したリン酸緩衝生理食塩液(PBS)によって洗浄し、2%パラホルムアルデヒドおよび1%FBSによって4℃で終夜固定した。TdT媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイを用いて、グランザイムBと共にインキュベートした場合に標的細胞において起こるアポトーシスの顕著な特色であるDNA断片化の量を測定した。終夜の固定技法の後、L細胞をPBS/2%FBSによって3回洗浄して、0.1%サポニンのPBS溶液によって室温で1時間透過性にした。次に、細胞をPBS/2%FBSによって3回洗浄して、TUNELミックス(20μl、Roche Diagnostic, Laval, Quebec)と共に37℃で1.5時間インキュベートした。PBS/2%FBSにおいて2回洗浄後、細胞をPBS/2%FBSにおいて浮遊させて、蛍光活性化セルソーター(FACS、FACScan, BD Biosciences)によって分析して、TUNEL陽性細胞数の百分率を誘導した。
【0065】
マンノース-6ホスフェート受容体発現およびグランザイムBの取り込み。L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで播種して、SCCMまたはHAM F10対照培地と共に37℃で1時間プレインキュベートした。CI-MPRおよびCD-MPR染色に関して、L細胞をPBS(0.1%BSA、対照)、そのいずれもがマウスタンパク質と交叉反応する(Motyka et al., Cell 103:491-500 (2000))ウサギ抗ウシCI-MPR(1/500、William Brown, Cornell University)、またはウサギ抗ヒトCD-MPR(1/100、William Sly, Saint Louis University)と共に4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC、1/100、Jackson, Mississauga, Ontario)に共役させたヤギ抗ウサギ抗体と共に4℃で20分間インキュベートした。次に、細胞を2%FBSを添加したPBSによって洗浄して、2%パラホルムアルデヒドおよび1%FBS(180μl)を含むPBSにおいて4℃で終夜固定した。次に、後の細胞をPBS/2%FBSによって数回洗浄後、蛍光活性化セルソーター(FACS scan, BD Biosciences)によって獲得および分析した。
【0066】
グランザイムB結合および取り込みを検出するために、L細胞を96ウェルプレートに濃度2×105個/ウェルで加えてSCCMまたはHAM F10対照培地と共に37℃で1時間プレインキュベートした。L細胞に対するグランザイムB結合に関して、細胞をPBS(0.1%BSA)およびAlexa 488(Molecular Probes)に共役させたグランザイムBと共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を、上記のようにPBSによって洗浄して固定した後、FACS分析を行った。グランザイムBのL細胞への取り込みに関して、細胞をDMEM(0.1%BSA)およびAlexa 488に共役させたグランザイムBと共に37℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を0.1%BSAを含むDMEMによって洗浄して、固定し、FACSによって分析した。
【0067】
グランザイムB酵素活性アッセイ。パラニトロアナリドに共役させたイソロイシン/グルタメート/プロリン/アスパルテート(IEPD-pNA)は、グランザイムBの切断部位を含む。IEPD-pNAがグランザイムBによって切断されると、これはIEPDおよび着色産物であるpNAを産生し、その吸光度を405 nmで測定して、アッセイにおけるグランザイムB酵素活性の量と比例すると仮定することができる。
【0068】
ヒト精製グランザイムBおよびマウスCTL脱顆粒グランザイムBを、96ウェルプレートにおいてPBS/2%FBS、HAM F10培地、またはSCCMと共に37℃で30分間インキュベートした。次に、既に記述されているように(Ewen et al., J. Immunol. Methods 276:89-101 (2003))グランザイムB酵素活性を測定した。簡単に説明すると、50 mM HEPES、pH 7.5、10%(w/v)ショ糖、0.05%(w/v)CHAPS、5 mM DTTおよび200μMアセチル-Ile-Glu-Pro-Asp-パラニトロアニリド(Ac-IEPD-pNA)(Kamiya Biomedical, Seattle, Wash.)を含む反応混合物を試料に加えた。次に、プレートを37℃で5時間インキュベートした。Ac-IEPD-pNAの加水分解をゼロ時点、およびその後1時間毎に、Multiskan Ascent分光光度計(Thermo Lab- System, Helsinki, Finland)を用いて405 nmで測定した。
【0069】
グランザイムBおよびSPI-6のウェスタンブロッティング。グランザイムB(36 ng)を濃縮SCCM(BSAを含まない)40μlと共に、同量の濃縮HAM F10培地、またはPBSと共に37℃で2時間インキュベートした。SDS試料緩衝液を試料に加えて、次にこれを100℃で5分間の加熱によって変性させた。タンパク質を10%SDS-ポリアクリルアミドゲルにおいて30 mA/ゲルで1.5時間分離して、PVDFメンブレン(Millipore, Bedford, Mass)に転写した。
【0070】
グランザイムBの免疫学的検出は、マウスモノクローナル抗ヒトグランザイムB抗体(クローン2C5, 1:500 dilution, Santa Cruz, Santa Cruz, Calif)によって行った。用いた第二抗体は、抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:3000、Bio Rad, Mississauga, Ontario)であった。SPI-6免疫学的検出は、異なる2つの抗体、すなわちSPI-6と交叉反応することが知られている(Bladergroen et al., J. Immunol. 3218-3225 (2001);Medema et al., J. Exp. Med. 194:657-667 (2001))ウサギ抗マウスSPI-6抗体(1:5000希釈、Dr. J.P. Medema Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlandsの厚意による提供)、マウス抗ヒトPI-9抗体(P19-17、8.5μg/ml, Alexis Biochemicals, San Diego, Calif.)によって行った。抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:20000、Bio Rad)または抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗体(1:3000、Bio Rad)をそれぞれ、二次抗体として用いた。免疫反応性バンドの検出はECL Plus(Amersham Biosciences, Piscataway, N.J.)によって行った。表記の場合、PVDFメンブレンを、2%SDSおよび100 mM 2-メルカプトエタノールを含む62.5 mM トリス-HCl(pH 6.7)によって、60℃の振とう水浴中で30分間剥離させた後、異なる抗体によって再プロービングした。
【0071】
グランザイムB免疫沈降およびセルピン-グランザイムB複合体の特徴付け。ヒトグランザイムB(1μg)を、上記のように予め濃縮したSCCM 1mlと共に37℃で2時間インキュベートした。1%NP-40および0.5%デオキシコール酸ナトリウムを含むPBS(結合緩衝液)1 mlならびにプロテインG-セファロース(2 mgプロテインG/ml排出培地;Amersham Biosciences Corp., Piscataway, N.J., USA)100μlを4℃で1時間加えることによって、試料の予め洗浄を行った。グランザイムBの免疫沈降はモノクローナル抗ヒトグランザイムB抗体(クローン 2C5、Santa Cruz, Calif)と共に4℃で終夜インキュベートした後に、プロテインG-セファロースと共に4℃で3時間インキュベートすることによって行った。免疫沈降物を結合緩衝液によって3回洗浄して、PBSによって4回洗浄し、SDS試料緩衝液に浮遊させて、100℃で10分間変性させた。免疫沈降させたタンパク質をSDS-PAGEによって分離して、ゲルにおけるタンパク質バンドをクーマシーブルーR染色によって顕色した。免疫沈降の前後に採取した試料の少量を同じゲルにおいて泳動させて、PVDFメンブレンに転写した。グランザイムBのウェスタンブロットは、上記のように行い、ゲルのクーマシーブルー染色によって顕色されたバンドのパターンと比較した。ウェスタンブロットにおいて高分子量の免疫反応性バンドにマッチするバンドをゲルから切除して、Institute for Biomolecular Design (IBD, University of Alberta, Canada)においてMALDI-TOF質量分析によって分析した。簡単に説明すると、自動インゲルトリプシン消化をMass Prep Station (Micromass, UK)において行った。ゲル小片を脱染色して還元し(DTT)、アルキル化して(ヨードアセトアミド)、トリプシンによって消化し(Sequencing Grage, Promega)、得られたペプチドをゲルから抽出して、LC/MS/MSによって分析した。LC/MS/MSは、Q-ToF-2質量分析計(Waters, USA)に連結したCapLC HPLC(Waters, USA)において行った。トリプシンペプチドをPicofrit逆相毛細管カラム(5ミクロン、BioBasic C18、孔径300Å、75μm ID×10 cm、先端15μm)(New Objectives, Mass., USA)において水/アセトニトリル線形勾配(0.2%ギ酸)を用いて、インラインPepMapカラム(C18、300μm ID×5 mm)(LC Packings, Calif, USA)をローディング/脱塩カラムとして用いて分離した。
【0072】
生成されたMS/MSデータからのタンパク質同定は、www.matrixscience.comのMascot search engine (Mascot Daemon, Matrix Science, UK)を用いて、ストリンジェンシー0.6 DaでNCBI非重複データベースを検索することによって行った。検索パラメータには、システインのカルバミドメチル化、おそらくメチオニンの酸化、およびペプチドあたり1個の切断が起こらないことが含まれた。
【0073】
セルピンa3nのクローニングおよび発現。血液凝集素(HA)タグセルピンa3n(セルピンa3n-HA)は、Superscript II and Platinum Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen, Carlsbad, Calif, USA)を用いて、製造元の説明書に従って、マウス肝総RNAからRT-PCRによってクローニングした。セルピンa3n cDNAを、以下の特異的プライマー
によって増幅した。その後のクローニングのために、フォワードプライマーには、BamHI制限部位が含まれ、リバースプライマーには、XhoI制限部位が含まれた。リバースプライマーにはまた、セルピンのカルボキシ末端でHAタグをコードする短い配列が含まれた。cDNAをBamHIおよびXhoI制限酵素によって消化して、pcDNA3ベクター(Invitrogen)にクローニングした。
【0074】
Jurkat細胞にセルピンa3n-HA-pcDNA3を電気穿孔して、クローン拡大のためにネオマイシン耐性細胞1個をFACSによってソーティングした。トランスフェクトクローンにおけるセルピンa3n-HAの発現は、抗-HA抗体(クローンHA.11, 1 : 1000, Covance Research Products, Cumberland, Va., USA)によるイムノブロッティングによって確認した。
【0075】
ヒトグランザイムBに対するセルピンa3n-HAのインビトロ結合。放射標識(35S-メチオニン)セルピンa3n-HAタンパク質をTNT(登録商標)Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega, Madison, Wise, USA)を用いて、製造元の説明書に従ってインビトロで産生した。DNA 1μgを各反応に用いた。反応容積2 mlを、PBSにおいて精製ヒトグランザイムBと共に室温で30分間インキュベートした。次に、試料をSDS-PAGEによって分解して、オートラジオグラフィーによって可視化して、先に示されたようにグランザイムBに関してイムノブロットした。
【0076】
セルピンa3n含有培地の調製。セルピンa3n-HAを発現するJurkat細胞クローンおよびpcDNA3ベクターをトランスフェクトさせた対照細胞を、Opti-MEM I(Invitrogen)において5×106個/mlで終夜インキュベートした。先に記述されたように、Amicon YM-10 Centriconフィルターを用いて細胞条件培地を当初の容積の1/5に濃縮して、実験のために直ちに用いた。
【0077】
ヒト胎児ニューロンの調製。成人ヒト脳標本からニューロンを単離してその生存を維持することは可能ではないことから、ヒト胎児ニューロンを培養ニューロン毒性試験の標的として用いた。治療的妊娠中絶によって得られた標本からヒト胎児ニューロンを培養した。標本の妊娠週は、15〜20週の範囲である。ニューロンを得るために、脳組織を細切して断片にした。次に、浮遊液を濾過して遠心した。沈降物をPBSに浮遊させて、栄養補給培地において最後に洗浄した後、細胞をT-75フラスコに播種した。ニューロン濃縮培養物を得るために、フラスコにおける細胞を、分裂する星状細胞を殺すために、シトシンアラビノシドによって処置した。このようにして、純度が90%を超えて、星状細胞5%未満のニューロン培養物を生成して、これを16ウェルLab-tekスライドガラスに播種した。Tリンパ球を、成人健康ドナーの末梢血からFicoll-Hypaque遠心によって単離して、無血清AIM-V培地に浮遊させた。T細胞を活性化するために、抗-CD3抗体(OKT3)1μg/mlを3日間のあいだ1回加えた。任意の接着している単球から浮遊細胞を除去して、細胞毒性の試験に関して固定された密度を用いた。非活性化T細胞をOKT3の非存在下で調製する。これらの細胞を遠心に供して、浮遊細胞を3日後に回収した。OKT3処置の開始後3日目に回収した浮遊細胞のフローサイトメトリー分析は、CD3+ T細胞が全細胞集団の90%より多くを構成することを示した;これらは細胞比約60%CD4+および40%CD8+である。Bリンパ球(CD19+)およびNK細胞(CD56+)は、浮遊細胞集団の残りを構成する;単球(CD14+)は検出されない。NK細胞は集団の<3%を構成することが見いだされる。非活性化および活性化リンパ球集団のあいだの様々な細胞サブセットの比率に有意差を認めない。
【0078】
統計学。独立した2群のあいだの統計学的有意性を、対応のあるStudent t-検定によって計算した。p<0.05の値は有意であると見なされた。
【0079】
グランザイムB阻害性セルピンをコードするポリヌクレオチドを含む細胞。
本発明は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする異種ポリヌクレオチドを含む細胞を提供する。分子生物学の当業者は、本発明の細胞を提供するために広く多様な任意の細胞系を用いてもよいことを理解するであろう。細胞には、たとえば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞(たとえば、Sf21細胞)、または哺乳動物細胞(たとえば、ブロックマン体、セルトリ、膵島、NIH 3T3、HeLa、またはCOS細胞)のような真核細胞が含まれてもよい。そのような細胞は、広範囲の供給源(たとえば、American Type Culture Collection, Rockland, Md.;同様に、たとえばAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2000;PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, ed., H. A. Ehrlich, Stockton Press, N.Y.;およびYap and McGee, Nucl. Acids Res. 19:4294 (1991)を参照されたい)から入手可能である。形質転換法またはトランスフェクション法、および望ましければ発現媒体の選択は、選択される宿主系に依存するであろう。形質転換およびトランスフェクション法は、たとえばAusubel et al.(前記)において記述されている;発現媒体は、たとえばCloning Vectors: A Laboratory Manual (P. H. Pouwels et al., 1985, Supp. 1987)において提供される方法から選択してもよい。
【0080】
組成物の1つまたは複数の細胞に、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする異種ポリヌクレオチドが含まれる細胞の組成物が本発明によって提供される。1つの例において、本発明の組成物には、セルトリ細胞および膵島細胞が含まれる。本実施例において、細胞の1つまたは複数は、グランザイムB阻害剤セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害剤セルピンを発現してもよい。本発明の特定の態様において、細胞はセルピンa3nを発現して分泌する。本発明の細胞および細胞組成物は、さらなる異種ポリヌクレオチドを含んでもよい。1つの態様において、非ヒト細胞(たとえば、ブタ細胞)は、2つの異種ポリヌクレオチド、グランザイムB阻害性セルピンをコードする1つのポリヌクレオチドと、ヒトインスリンをコードする第二のポリペプチド、とを含むように変化させてもよい。そのような細胞は、たとえば糖尿病(たとえば、I型糖尿病)のような疾患を有する患者(たとえば、ヒト)に細胞を導入することによって、本発明の方法において用いてもよい。
【0081】
新規グランザイムB阻害性セルピンの生成
グランザイムB阻害活性を有するキメラポリペプチドを、当技術分野において標準的な分子生物学的技術(たとえば、Ausubel et al、前記において記述される技術)を用いて、本発明の組成物および方法から生成してもよい。
【0082】
先に記述したように、セルピンa3nは、ヒトα1-アンチキモトリプシン(SERPINA3)と高度の相同性を有するセルピンの多重遺伝子ファミリーメンバーである。これらのセルピンの相互作用は、主に反応中心ループ(たとえば、グランザイムBに関するセルピンa3nの特異性)を通して媒介される;したがって、グランザイムBに特異的に結合するキメラセルピンポリペプチド(たとえば、キメラヒトα1-アンチキモトリプシンポリペプチド)を生成することが可能である。グランザイムB阻害活性は、当技術分野において公知の方法または本明細書に記述の方法を用いてアッセイすることができる。たとえばポリペプチドの抗原性(ヒト患者に投与した場合のポリペプチドに対する抗原性)を減少させるために、本発明の方法を用いてそのようなキメラポリペプチドを産生することが望ましくなりうる。1つの例において、セルピンa3nの反応中心ループ配列を含むヒトα1-アンチキモトリプシンポリペプチドを生成することができる。一定の態様において、新規グランザイムB阻害性セルピンは、細胞(たとえば、グランザイムB阻害性セルピンを産生する細胞)からの分泌にセルピンを標的化する配列を含む。そのような配列は当技術分野において公知であり、これには、セルピンa3nに存在するアミノ末端分泌配列が含まれる。
【0083】
グランザイムB阻害性セルピンの断片もまた、本発明の方法および組成物において有用となる可能性がある。特に有用な断片には、セルピンa3n RCLを有する断片が含まれてもよい。当技術分野において公知の方法または本明細書に記述される方法を用いて、セルピン断片のグランザイムB阻害活性をアッセイしてもよい。
【0084】
グランザイムB阻害性セルピンポリヌクレオチドおよびポリペプチドを用いる治療法
本発明には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)のような免疫抑制物質を用いることによって免疫抑制治療を必要とする患者を処置する方法が含まれる。
【0085】
グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)または免疫抑制活性を示すグランザイムB結合断片もしくはその類似体は、本発明において特に有用であると見なされる。そのようなポリペプチドは、たとえば、糖尿病を有する個体における膵島細胞のCTL媒介殺細胞を減少させるために治療物質として用いてもよい。免疫抑制剤または免疫機能を低減させる物質を用いて処置される可能性がある他の免疫障害は、本明細書において記述され、これには急性炎症、関節リウマチ、アレルギー反応、喘息反応、炎症性腸疾患(たとえば、クローン病および潰瘍性大腸炎)、移植の拒絶、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患、および再狭窄が含まれる。
【0086】
免疫障害(たとえば、糖尿病または関節リウマチのような本明細書において記述される任意の自己免疫障害)、炎症性血管疾患、炎症性ニューロン疾患に起因する疾患、または細胞(たとえば、臓器)移植に起因する疾患の処置または予防は、たとえばグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を適当な細胞(たとえば、膵島細胞)に送達することによってグランザイムBの活性を低減させることによって達成される。
【0087】
組み換え型グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの、可能性があるまたは実際の疾患罹患組織または移植組織(たとえば、注射によって)のいずれかの部位への直接投与またはたとえば自己免疫疾患(たとえば、糖尿病または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、もしくは炎症性ニューロン疾患の処置のための全身投与は、当技術分野において公知のまたは本明細書において記述される任意の従来の組み換え型タンパク質投与技術に従って行うことができる。実際の用量は、個々の患者の体格および健康を含む当業者に公知の多数の要因に依存するが、一般的に1日あたり0.1 mg〜100 mgを含む範囲を、任意の薬学的に許容される製剤で成人に投与する。そのような製剤は本明細書において記述される。
【0088】
遺伝子治療
遺伝子治療は、患者においてグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現させるためのもう1つの治療アプローチである。たとえばセルピンa3n、セルピンa3nの生物活性断片、またはセルピンa3n融合タンパク質をコードする異種核酸分子を対象標的細胞に送達することができる。核酸分子は、それらが細胞に取り込まれうる形で、および免疫応答を抑制するために十分なタンパク質レベルが産生されうるように、それらの細胞(たとえば、膵島細胞)に送達されなければならない。
【0089】
ウイルス(たとえば、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)ベクターを形質導入することは、その高い感染効率ならびに安定な組み込みおよび発現のために、体細胞遺伝子治療のために用いることができる(たとえば、Cayouette et al., Hum. Gene Ther. 8:423-430 (1997);Kido et al., Curr. Eye Res. 15:833-844 (1996);Bloomer et al., J. Virology 71 :6641-6649 (1997);Naldini et al., Science 272:263-267 (1996);およびMiyoshi et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 94:10319-10323 (1997)を参照されたい)。たとえば、完全長の遺伝子またはその一部をレトロウイルスベクターにクローニングして、その内因性のプロモーターから、レトロウイルス長末端反復から、または対象標的細胞タイプ(たとえば、セルトリ細胞または膵島細胞)において特異的に発現されるプロモーターから発現を駆動することができる。用いることができる他のウイルスベクターには、たとえば、ワクシニアウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、またはエプスタイン-バーウイルスのようなヘルペスウイルスが含まれる(同様に、たとえばMiller, Human Gene Therapy 15-14 (1990);Friedman, Science 244:1275-1281 (1989);Eglitis et al., BioTechniques 6:608-614 (1988);Tolstoshev et al., Curr. Opin. Biotechnol. 1 :55-61 (1990);Sharp, Lancet 337: 1277-1278 (1991);Cornetta et al., Nuc. Acid Res. Mol. Biol. 36:311-322 (1987);Anderson, Science 226:401-409 (1984);Moen, Blood Cells 17:407-416 (1991);Miller et al., Biotechnology 7:980-990 (1989);Le Gal La Salle et al., Science 259:988-990 (1993);およびJohnson, Chest 107:77S-83S(1995)を参照されたい)。レトロウイルスベクターは特に十分に開発され、臨床の状況において用いられている(Rosenberg et al., N. Engl. J. Med. 323:370 (1990);U.S. Patent No. 5,399,346)。
【0090】
非ウイルスアプローチはまた、患者の標的細胞に治療的核酸を導入するために用いることができる。たとえば、核酸分子(たとえば、セルピンa3nまたはその断片のようなグランザイムB阻害剤セルピンをコードする)を、リポフェクション(Feigner et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 84:7413 (1987);Ono et al., Neurosci. Lett. 17:259 (1990);Brigham et al., Am. J. Med. Sci. 298:278 (1989);Staubinger et al., Meth. Enzymol. 101 :512 (1983)))、アシアロオロソムコイド-ポリリジン共役体(Wu et al., J. Biol. Chem. 263: 14621 (1988);Wu et al., J. Biol. Chem. 264:16985 (1989))の存在下で核酸を投与することによって、または手術条件下でマイクロインジェクションによって(Wolff et al., Science 247:1465 (1990))細胞に導入することができる。好ましくは、核酸はリポソームおよびプロタミンと併用して投与される。
【0091】
遺伝子移入はまた、インビトロでトランスフェクションを含む非ウイルス手段を用いて行われうる。そのような方法には、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、電気穿孔、およびプロトプラスト融合を用いることが含まれる。リポソームはまた、DNAを細胞に送達するためにおそらく有益となりうる。患者の罹患組織に正常な遺伝子を移植することはまた、エクスビボで培養可能な細胞タイプ(たとえば、自家または異種初代培養細胞またはその子孫)に正常な核酸を移入する段階、およびその後細胞(またはその子孫)を標的組織に注射する段階によっても行うことができる。
【0092】
遺伝子治療法において用いるためのcDNA発現は、任意の適したプロモーター(たとえば、ヒトサイトメガロウイルスCMVの前初期プロモーター)から指示され、任意の適当な哺乳動物調節要素によって制御されうる。誘導型発現が望ましい場合、構成的に活性なプロモーター(たとえば、グリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GPDH)プロモーター)に共役させたテトラサイクリン反応性最小必須CMVプロモーターのような誘導型プロモーターを用いてもよい。そのような系は、たとえばグランザイムB阻害性セルピンの高レベル発現が細胞(たとえば、膵島細胞)において最初望ましいが、何らかの時間後では低レベル発現が望ましい場合に有用となるであろう。たとえば免疫抑制が望ましい組織または空間領域にグランザイムB阻害性セルピン発現を制限することが望ましいかも知れない。1つの例において、膵島細胞において遺伝子発現を選択的に指示することが知られているエンハンサーを用いて、セルピンa3nをコードする核酸の発現を指示することができる。用いられるエンハンサーには、組織または細胞特異的エンハンサーとしての特徴を有するエンハンサーが含まれうる。または、ゲノムクローンを治療的構築物として用いる場合、同源の調節配列、または望ましければ先に記述された任意のプロモーターまたは調節要素を含む、異種起源に由来する調節配列によって調節が媒介されうる。
【0093】
望ましい遺伝子治療様式は、望ましい効果を増強および持続させながら、細胞内で複製するようにポリヌクレオチドを提供することである。このように、ポリヌクレオチドは、対応する遺伝子の天然のプロモーター、標的細胞において実質的に活性である異種プロモーター、または適した物質によって誘導されうる異種プロモーターのような適したプロモーターに機能的に連結される。
【0094】
トランスジェニック動物
本発明にはまた、外因性のグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニック動物(たとえば、マウス、ラット、ブタ、および魚)を用いることも含まれる。そのような動物は、患者に移植するための組織または細胞源として用いてもよい。特に有用であるのは、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンを発現するトランスジェニックブタの膵島細胞またはトランスジェニック魚からのブロックマン体である。1つの例において、グランザイムB阻害性セルピン(セルピンa3n)およびヒトインスリンの双方を発現する非ヒト動物(たとえば、ブタ)からの細胞を、糖尿病の処置において患者に移植のために用いてもよい。
【0095】
トランスジーンの構築は、Ausubel et al(前記)において記述される技術のような、任意の適した遺伝子操作技術を用いて行うことができる。トランスジーンの構築およびトランスフェクションまたは形質転換のための発現構築物全般に関する多くの技術が公知であり、開示の構築物のために用いてもよい。
【0096】
当業者は、所望の組織においてポリヌクレオチドの発現を指示するプロモーターが選択されることを認識するであろう。たとえば、先に記したように、本明細書に記述の核酸配列の発現を調節する任意のプロモーターを本発明の発現構築物において用いることができる。当業者は、転写調節要素のモジュール特性およびエンハンサーのようないくつかの調節要素の機能の位置依存性がないことにより、たとえば再配列、いくつかの要素または外来配列の欠失、および可能であれば異種要素の挿入のような改変が作製されることを承知しているであろう。その位置および機能を決定するために遺伝子の調節要素を切り離すために、多数の技術が利用可能である。そのような情報は、望ましければ要素の改変を指示するために用いることができる。しかし、遺伝子の転写調節要素の無傷の領域を用いることが望ましい。適したトランスジーン構築物が作製された後、この構築物を胚細胞に導入するために任意の適した技術を用いることができる。
【0097】
トランスジェニック実験にとって適した動物は、Taconic(Germantown, N.Y.)のような標準的な販売元から得ることができる。当業者はまた、トランスジェニックマウスまたはラットを作製する方法を知っているであろう。トランスジェニックブタは、Velander et al. (Proc. Natl. Acad. Sci USA 89, 12003-12007 (1992))において記述される方法を用いて産生してもよい。
【0098】
グランザイムB活性を減少させるための薬学的組成物。
本発明には、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)またはそのグランザイムB阻害性断片を、免疫抑制治療を必要とする患者の処置のために投与することが含まれる。その製造法によらず、任意のグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nまたはそのグランザイムB結合断片)の投与は、たとえば自己免疫障害(たとえば、糖尿病または関節リウマチ)、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患において起こる望ましくない、または過剰なCTL活性を有する患者においてグランザイムB阻害性生物活性を提供する可能性がある。
【0099】
たとえば、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を、患者、たとえばヒトに直接または当技術分野で公知の任意の薬学的に許容される担体もしくは塩と併用して投与することができる。薬学的に許容される塩には、非毒性の酸付加塩または薬学産業において一般的に用いられる金属錯体が含まれてもよい。酸付加塩の例には、酢酸、乳酸、パモ酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、パルミチン酸、スベリン酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはトリフルオロ酢酸等のような有機酸;タンニン酸、カルボキシメチルセルロース等のような重合酸;および塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等のような無機酸が含まれる。金属錯体には、亜鉛、鉄等が含まれる。1つの例示的な薬学的に許容される担体は、生理食塩液である。他の生理的に許容される担体およびその製剤は、当業者に公知であり、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, (19th edition), ed. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, PAにおいて記述されている。
【0100】
グランザイムB阻害性セルピンポリペプチド、ポリヌクレオチド、もしくはその断片、またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量の薬学的製剤は、経口、非経口(たとえば、筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下注射)、または投与経路に適合させた薬学的に許容される担体との混合物において他の任意の経路で投与することができる。
【0101】
製剤を作製するために当技術分野において周知の方法は、たとえばRemington 's Pharmaceutical Sciences, (19th edition), ed. A. Gennaro, 1995, Mack Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだされる。経口での使用が意図される組成物は、薬学的組成物の製造に関して当技術分野において公知の任意の方法に従って、固体または液体剤形で調製されてもよい。組成物は、任意で、より味のよい調製物を提供するために、甘味料、着香料、着色料、香料、および/または保存剤を含んでもよい。経口投与のための固体投与剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、および顆粒剤が含まれる。そのような固体剤形において、活性化合物を少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される担体または賦形剤と混合する。これらには、たとえば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、ショ糖、デンプン、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、またはカオリンのような不活性希釈剤が含まれてもよい。結合剤、緩衝剤、および/または潤滑剤(たとえば、ステアリン酸マグネシウム)も同様に用いてもよい。錠剤および丸剤はさらに腸溶コーティングによって調製することができる。
【0102】
経口投与のための液体投与剤形には、薬学的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、および軟ゼラチンカプセルが含まれる。これらの剤形は、水または油性培地のような当技術分野において一般的に用いられる不活性希釈剤を含む。そのような不活性希釈剤のほかに、組成物にはまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤のような補助剤が含まれうる。
【0103】
非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液または非水溶液、懸濁剤、または乳剤が含まれる。適した媒体の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、ゼラチン、水素添加ナファレン(naphalenes)、およびオレイン酸エチルのような注射用有機エステルが含まれる。そのような製剤はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤のような補助剤を含んでもよい。生体適合性の成体分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーを用いて、化合物の放出を制御してもよい。本発明のタンパク質のための他のおそらく有用な非経口送達系には、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型注入系、およびリポソームが含まれる。
【0104】
液体製剤は、たとえば細菌除去フィルターを通して濾過することによって、滅菌物質を組成物に組み入れることによって、または組成物を放射線照射もしくは加熱することによって滅菌することができる。または、それらは、使用直前に滅菌水または他のいくつかの滅菌注射用媒体に溶解することができる滅菌の固体組成物の剤形で製造することもできる。
【0105】
本発明の組成物における活性成分の量は変化させることができる。当業者は、正確な個々の用量を、投与されるタンパク質、投与時間、投与経路、製剤の性質、排泄速度、被験者の状態の性質、患者の年齢、体重、健康、および性別を含む多様な要因に応じていくぶん調節してもよいと認識するであろう。一般的に、約0.1μg/kg〜100 mg/kg体重の用量レベルを1回用量として、または複数回に分割して毎日投与する。望ましくは全般的な用量範囲は、250μg/kg〜5.0 mg/kg体重/日である。様々な投与経路の異なる効率を考慮して、必要な用量の広い変更が予想される。たとえば、経口投与は一般的に、静脈内注射による投与より高い用量レベルを必要とすると予想されるであろう。これらの用量レベルにおける変更は、当技術分野において周知である、最適化のための標準的な経験的ルーチンを用いて調節することができる。一般的に、正確な治療的有効量は、上記で同定された因子を考慮して主治医によって決定されるであろう。
【0106】
グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)ポリペプチド、ポリヌクレオチド、またはそのようなポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを含む任意の媒体は、たとえばU.S. Patent No. 5,672,659およびU.S. Patent No. 5,595,760において記述されるような徐放性組成物において投与することができる。即時放出または徐放性組成物のいずれを用いるかは、処置される状態のタイプに依存する。状態が急性または亜急性障害からなる場合、即時放出による処置が長期間放出組成物より好ましいであろう。または、予防的もしくは長期間の処置の場合、徐放性組成物が一般的に好ましいであろう。
【0107】
たとえばセルピンa3nポリペプチド、セルピンa3nポリヌクレオチド、またはその断片を含む薬学的組成物は、任意の適した方法で調製することができる。タンパク質または治療化合物は、天然に存在する起源から単離されうる、組み換えによって産生されうる、合成的に産生されうる、またはこれらの方法の組み合わせによって産生されうる。短いペプチドの合成は当技術分野において周知である。たとえば、Stewart et al., Solid Phase Peptide Synthesis (Pierce Chemical Co., 2nd ed., 1984)を参照されたい。
【0108】
細胞の移植
本発明はまた、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3nを発現する細胞)をコードするポリヌクレオチドを含む細胞を移植することによって免疫抑制を必要とする患者を処置するための方法を提供する。本発明の方法には、同種異系(同じ種の遺伝的に異なるメンバー間)、自家(生物自身の細胞または組織の移植)、同系(同じ種の遺伝的に同一のメンバー間(たとえば一卵性双生児))、または異種(異なる種のメンバー間)移植が含まれてもよい。本発明の方法には、たとえば、患者に膵島細胞、および膵島細胞と第二の細胞(たとえば、グランザイムB阻害性セルピンを発現するセルトリ細胞)とを含む細胞の組み合わせを投与する段階が含まれる。免疫抑制を必要とする患者に本発明の細胞を移植することによって、関節リウマチのような自己免疫障害の処置をもたらす可能性がある免疫反応の減少が起こり、または糖尿病の場合には膵島細胞のような同時移植されたインスリン産生細胞を、望ましくない免疫応答から保護するように作用する可能性があるであろう。他の態様において、移植された細胞は、炎症性血管疾患または炎症性ニューロン疾患の処置をもたらす可能性がある。細胞は、少なくとも1つの免疫応答の低減をもたらすために適した量で免疫抑制を必要とする患者に導入される。細胞は、それによって細胞の少なくとも一部が生存したまま残る患者内の所望の位置への細胞の送達が起こる、任意の適した経路によって患者に投与することができる。患者への投与後に、少なくとも約5%、望ましくは少なくとも約10%、より望ましくは少なくとも約20%、さらにより望ましくは少なくとも約30%、さらにより望ましくは少なくとも約40%、および最も望ましくは少なくとも約50%またはそれより多くの細胞が生存したままであることが望ましい。患者に投与後の細胞の生存期間は、数時間たとえば24時間、から数日もの短さから数週間から数ヶ月間もの長さとなりうる。多くの自己免疫障害の慢性的な特性により、移植された細胞は移植後数ヶ月または数年生存したまままであることが望ましい。移植された細胞は、緩衝生理食塩液のような生理的に適合性の担体において投与されうる。
【0109】
これらの投与法を行うために、本発明の細胞を患者への細胞の注射または移植による導入を促進する送達装置に挿入することができる。そのような送達装置には、レシピエント患者の体内に細胞および液体を注射するためのチューブ、たとえばカテーテルが含まれる。
【0110】
好ましい態様において、チューブはさらに、それを通して本発明の細胞を、望ましい位置(たとえば、腎嚢、肝臓、網嚢)で患者に導入することができる針または複数の針を有する。多数のタイプの細胞が移植される態様において、注射の際に、異なる細胞タイプを異なる状態(異なる培地のような)で維持することが望ましいであろう。
【0111】
本発明の方法において用いられる細胞は、異なる剤形でそのような送達装置に挿入することができる。たとえば、細胞は、溶液中に浮遊させることができ、またはそのような送達装置に含まれる支持マトリクス(たとえば、アルギネートマイクロカプセル)に抱埋することができる。好ましくは、溶液には、その中で本発明の細胞が生存したままである薬学的に許容される担体または希釈剤が含まれる。薬学的に許容される担体および希釈剤には、生理食塩液、水性緩衝液、溶媒、および/または分散培地が含まれる。そのような担体および希釈剤を用いることは、当技術分野において周知である。溶液は好ましくは滅菌で流動性である。好ましくは、溶液は、製造および保存条件で安定であり、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸またはチメロサルを用いることによって、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存される。本発明において用いられる溶液は、薬学的に許容される担体または希釈剤、および必要に応じて他の成分において本明細書に開示の細胞を組み入れることによって調製することができる。
【0112】
その中に本発明の細胞が組み入れられるまたは抱埋される支持マトリクスには、レシピエント適合性であって、レシピエントに対して有害でない産物に分解するマトリクスが含まれる。天然および/または合成の生体分解性のマトリクスは、そのようなマトリクスの例である。天然の生体分解性のマトリクスには、たとえばコラーゲンマトリクスおよびアルギネートビーズが含まれる。合成の生体分解性のマトリクスには、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような合成ポリマーが含まれる。これらのマトリクスは、インビボで細胞の支持および保護を提供する。
【0113】
患者に導入する前に、細胞をさらに、免疫学的拒絶を阻害するように改変することができる。たとえば、移植された細胞の拒絶を阻害して、移植レシピエントにおける免疫学的非応答性を達成するために、本発明の方法には、患者に導入する前に細胞の表面上で免疫原性抗原を変化させることが含まれうる。細胞上の1つまたは複数の免疫原性抗原を変化させるこの段階は、単独で、または患者におけるCTL細胞活性を阻害する物質の患者への投与と併用して行うことができる。または、移植された細胞の拒絶の阻害は、移植された細胞の表面上の免疫原性抗原を予め変化させないで、患者のT細胞活性を阻害する物質(たとえば、セルピンa3nまたは本明細書において記述される他の免疫抑制剤)を患者に投与することによって行われうる。CTL細胞活性を阻害する物質は、患者内でCTL細胞の除去(たとえば隔離)もしくは破壊が起こる、または患者内でCTL細胞機能を阻害する物質であると定義される。CTL細胞は、患者においてなおも存在してもよいが、それらが増殖できないように、またはエフェクター機能(たとえば、サイトカイン産生、細胞障害性など)を誘発するもしくは行うことができないように非機能的状態で存在する。T細胞活性を阻害する物質はまた、未成熟T細胞(たとえば胸腺細胞)の活性または成熟を阻害してもよい。レシピエント患者においてT細胞活性を阻害するために用いられる好ましい物質は、正常な免疫機能を阻害または妨害する免疫抑制剤である。例としての免疫抑制剤は、シクロスポリンAである。用いることができる他の免疫抑制剤には、タクロリムス(FK506、Prograff)、シロリムス(Rapamune)、ダクリズマブ、ミコフェノレートモフェチル(RS-61443、CellCept)、またはCTL細胞に対して特異的な抗体(たとえば、モノクローナル抗体)が含まれる。1つの態様において、免疫抑制剤は、少なくとも1つの他の治療物質と共に投与される。投与することができるさらなる治療物質には、ステロイド(たとえば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、およびデキサメタゾンのようなグルココルチコイド)、化学療法剤(たとえば、アザチオプリンおよびシクロホスファミド)、およびモノクローナル抗体が含まれる。もう1つの態様において、免疫抑制剤は、ステロイドおよび化学療法剤の双方と併用して投与される。適した免疫抑制剤が市販されている。
【0114】
移植のための細胞源
生きている膵島ドナー。現在の膵島移植プロトコールは、移植のための膵島源として死体膵臓ドナーに依存している(Shapiro et al., Immunol. Rev. 196:219-236 (2003))。現在のところ、膵島単離および移植のために利用できる死体膵臓のプールは限られており、糖尿病の処置のために膵島移植を広く用いることができるためには、代わりの起源が望ましい。いくつかの施設は、生きているドナーを用いて同時膵腎移植に成功した(Gruessner et al., Transplant. Proc. 30:282 (1998);Benedetti et al., Transplantation 67:915-918 (1999);Zielinski et al., Transplantation 76:547-552 (2003))。この技法は、糖尿病レシピエントに移植するために生きているドナー膵臓の一部を切除することを必然的に伴う。この技術は膵島移植に拡大される可能性がある。生きているドナーからの臓器の調達は、生きているドナーから単離された臓器の質が、脳死ドナーから単離された臓器と比較して大きく改善されるはずであることから有利である(Gruessner et al., Transplantation 61 : 1265-1268 (1996))。さらに、ドナーが生きている親類である場合には、ドナーとレシピエントとのHLA一致が起こりうる。より近縁の免疫学的マッチを得ることによって、必要な免疫抑制剤の量を低減させる可能性があり、移植された臓器の機能および寿命が改善される可能性がある(Cicalese et al., Int. Surg. 84:305-312 (1999))。最後に、臓器調達のそのようなアプローチは、待ち時間を低減させる長所を提供し、移植リストに載っている患者の死亡率をおそらく低減させる長所を提供する。
【0115】
β細胞株。可能性があるもう1つの組織源は膵臓β細胞株である(Efrat et al., Ann. N. Y. Acad. Sci 875:286-293 (1999))。β細胞株は、腫瘍発生的に形質転換されている不死化β細胞の作製を必要とする。たとえば、βTC細胞株は、それによってインスリン遺伝子エンハンサー-プロモーター領域によって駆動されるSV40 T抗原を保有するトランスジェニックマウスが遺伝性のβ細胞腫瘍を発症する、トランスジェニック技術を用いて作製されている(Hanahan, D., Nature 315: 115-122 (1985);Efrat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:9037-9041 (1988);Miyazaki et al., Endocrinology 127:126-132 (1990);Hamaguchi et al., Diabetes 40:842-849 (1991))。マウスβ細胞株は、生理的刺激に反応して正常な膵島と同等量のインスリンを産生して放出すると報告されている(Efrat et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 875:286-293 (1999))。これらの細胞株はまた、糖尿病マウスにおける血糖症を正常にする(Efrat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3576-3580 (1995))。
【0116】
幹細胞。1型糖尿病患者に移植するための可能性がある1つのインスリン分泌組織源は、幹細胞に由来する可能性がある(Street et al., Curr. Top. Dev. Biol. 58: 111-136 (2003))。幹細胞は、体内の多くの細胞タイプを生成することができる自己再生要素である。それらは、成人および胎児組織において見いだされるが、最も広い発達能を有する幹細胞は、哺乳動物の胚の初期段階に由来し、胚幹細胞(ES)と呼ばれる。ES細胞は、膵島様構造を含む異なる多くの細胞タイプにインビトロで分化することが示されている(Wiles et al., Development 111:259-267 (1991);Rohwedel et al., Dev. Biol. 164:87-101 (1994);Wobus et al., Differentiation 48: 173- 182 (1991);Dani et al, J. Cell Sci. 110(Pt 11): 1279-1285 (1997);Okabe et al, Mech. Dev. 59:89-102 (1996);Abe et al, Exp. Cell Res. 229:27-34 (1996))。Lumelskyらは、ニューロンを産生するために用いる戦略によって膵島様構造の発生が起こるであろうという仮説に基づいて操作して、ニューロン幹細胞マーカーであるネスチンを発現する細胞が濃縮される条件で、インビトロでマウスES細胞を培養した(Lumelsky et al., Science 292:1389-1394 (2001))。これらのネスチン陽性細胞は、膵島に形態学的に類似の構造にさらに分化した。さらなる試験は、当初のプロトコールに基づいて改善して、糖尿病動物における低血糖症を矯正できる細胞を産生することが可能である(Hori et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 99: 16105-16110 (2002);Blyszczuk et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:998-1003 (2003))。インスリン産生クラスタはまた、ヒトES細胞から得ることができる(Segev et al., Stem Cells 22:265-274 (2004))。これらのクラスタはインスリン、グルカゴン、およびソマトスタチンを発現する。いくつかのグループが、内分泌ホルモンを発現する成人膵管構造に由来する幹細胞の単離および分化の成功を報告している(Peck et al., Diabetes 44:10A(1995);Cornelius, Horm. Metab Res. 29:271-277 (1997);Ramiya et al., Nat. Med. 6:278-282 (2000);Bonner-Weir et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 97:7999-8004 (2000);Rooman, Diabetologia 43:907-914 (2000);Gmyr et al., Cell Transplant. 10: 109-121 (2001))。現在、管、腺房、および膵島細胞は、分化、トランス分化(通常従わない経路に沿って分化)、または内分泌細胞になる可能性を有する細胞に脱分化することができる細胞集団を含む可能性がある(Peck et al., Transpl. Immunol. 12:259-272 (2004))。これらの成人幹細胞を、多細胞の膵島様構造の濃縮のために培養して、これをインビボでさらに成熟させる(Peck et al., Transpl. Immunol. 12:259-272 (2004))。これらの膵島様構造は、1週間以内にNODマウスにおいて糖尿病状態を逆転させることができ(Ramiya et al., Nat. Med. 6:278-282 (2000))、これらのNODマウスにおいて、自己免疫再発の発生はなかった。
【0117】
異種移植。たとえば動物からヒトへの1つの種からの組織のもう1つの種への異種移植または移植は、膵島移植において直面している組織供給問題に対して可能性がある解決策を提供する。ブタおよびウシ細胞と共に魚のブロックマン体は全て、ヒト膵島移植のための可能性がある組織源である(Korbutt et al., Annals New York Academy of Sciences 831 :294-303 (1997);Marchetti et al., Diabetes 44:375-381 (1995);Wright et al., Cell Transplant. 10: 125-143 (2001))。たとえば、膵島移植のための組織源としてブタを用いることは、安価であって、容易に入手可能で、倫理的に許容されるという長所を提供し、病原体を含まない環境に収容するこができ、およびそれらの膵島は、ヒト膵島と類似の形態学的および生理的特徴を示す(Binette et al, Ann. N. Y. Acad. Sci 944:47-61 (2001))。ブタインスリンはまた、ヒトインスリンと構造的に類似であり、何十年ものあいだ1型糖尿病の処置のために用いられている。または、ヒトインスリンを発現するトランスジェニックブタもまた、本発明の方法において有用である。さらに、成体ブタの膵島は、壊れやすく、組織培養において維持することが難しく、グルコースに対するインスリン分泌反応が不良であることから(Ricordi et al., Surgery 107:688-694 (1990);van Deijnen et al., Cell Tissue Res. 267: 139-146 (1992);Korsgren et al., Diabetologia 34:379-386(1991))新生仔ブタ膵島は、ヒトに最終的に移植するための最善の候補である(Korbutt et al., Ann. N. Y. Acad. Sci 831 :294-303 (1997))。しかし新生仔ブタ膵島は、多数単離することができ、インビトロおよびインビボでの生育能を示し、グルコースチャレンジに対して優れた応答能を示し、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる(Korbutt et al., J. Clin. Invest 97:2119-2129 (1996))。
【0118】
最後に、魚のブロックマン体を用いることは、それらが冗長な単離技法を必要とせず、容易に顕微解剖できるという点において新生仔ブタ膵島に対して長所を有する(Yang et al., Cell Transplant. 4:621-628 (1995))。魚のブロックマン体は、新生仔ブタ膵島と同様に、超急性拒絶を受ける。グランザイムB阻害性セルピンを用いることによって、この超急性拒絶は克服される可能性がある。魚のブロックマン体の微小封入は可能であることが示されており、封入されたブロックマン体は、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる(Yang et al., Transplantation 64:28-32 (1997))。さらに、ヒト集団におそらく伝搬されうる魚のブロックマン体における内因性のレトロウイルスは同定されていない。
【0119】
ヒトにおける異種移植片の超急性拒絶の問題は、広い臨床応用性に対する主要な障害を呈することから、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を産生するようにトランスジェニック改変された細胞の異種移植、またはその1つがグランザイムB阻害性セルピンを発現する2つの細胞タイプの移植は、この障害を克服するために用いられる可能性がある。
【0120】
併用治療。
本発明の任意の方法、たとえば処置法または移植法は、当技術分野において公知であるさらなる治療(たとえば、免疫抑制治療)と併用して行ってもよい。併用治療において用いられる可能性がある免疫抑制物質の例には、シクロスポリン、プレドニゾン、アザチオプリン、タクロリムス(FK506)、ミコフェノレートモフェチル、シロリムス、OKT3、ATGAM、サイモグロブリン、およびモノクローナル抗体が含まれる。1つの態様において、免疫抑制治療を必要とする患者は、関節リウマチのような自己免疫疾患を有し、本発明の処置および移植法は、当技術分野において公知の処置(たとえば、メソトレキセート、エタネルセプト、レミケード)と組み合わせてもよい。
【0121】
以下の実施例は、本発明を制限するのではなくて説明すると意図される。
【0122】
実施例1
霊長類に対するブタ心臓の異種移植
グランザイムB阻害活性(たとえば、セルピンa3nの活性)を用いて、移植された臓器の免疫拒絶が克服される可能性がある。たとえばブタから移植された臓器を用いる異種移植は、心臓のような容易に入手可能な臓器源を提供することができる;しかし、臓器の免疫拒絶は、臨床で幅広く採択されるための主要な障害となっている。本発明の方法を用いることによって、この障害は克服される可能性がある。この目的のため、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現するように操作されたトランスジェニックブタは、たとえばVelander et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 12003-12007 (1992))において記述されるように、当技術分野において公知の方法を用いて作製してもよい。トランスジーンには、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子に機能的に連結したプロモーターが含まれ、プロモーターは心臓の心組織における発現を駆動することができる。
【0123】
ブタ心臓(たとえば、セルピンa3nトランスジェニックブタからの)の患者、たとえばヒヒのような霊長類への移植は、Schmoeckel et al. (Transplantation 65: 1570-1577 (1998))によって記述されている。
【0124】
したがって、患者における免疫応答を低減させるために十分なレベルでグランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現する移植された心臓は、セルピン、たとえばセルピンa3nの産生が移植された心臓近傍のCTL細胞の殺細胞活性を減少させることから、免疫拒絶を回避する可能性がある。全ての組織および臓器における免疫応答を減少させる全身性の免疫抑制治療の投与とは異なり、移植された心臓は、必要とされる場所で免疫応答を局所的に低減させるであろう。これによって、全身治療を受ける患者(たとえば、感染症に対するより大きい感受性)と比較して副作用がより少なくなる可能性がある。
【0125】
実施例2
セルピンa3nを発現するブタ膵島細胞の移植。ブタ膵島細胞は、糖尿病の処置のための移植において特に有用となる可能性がある。先に記したように、壊れやすく、組織培養において維持することが難しく、グルコースに対するインスリン分泌反応が不良である成体ブタ膵島(Ricordi et al., Surgery 107:688-694 (1990);van Deijnen et al., Cell Tissue Res. 267:139-146 (1992);Korsgren et al., Diabetologia 34:379-386 (1991))と比較して、新生仔ブタ膵島はヒトに最終的に移植するための最善の候補である(Korbutt et al., Annals New York Academy of Sciences 831 :294-303 (1997))。
【0126】
新生仔ブタ膵島の単離および生育は、Korbutt et al. (J. Clin. Invest 97:2119-2129 (1996))によって記述されるように行ってもよい。このようにして調製された細胞は、セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニックブタに由来するか、または野生型のブタからの細胞を単離後トランスフェクトさせて(たとえば、レトロウイルスベクターのような当技術分野において標準的なトランスフェクション技術を用いて)セルピンa3nのようなグランザイムB阻害性セルピンを発現する細胞を生成してもよい。次に、細胞をKorbuttら、前記において記述されるように移植することができる。ブタ膵島の霊長類への移植は当技術分野において公知であり、Komoda et al. (Xenotransplantation 12:209-216 (2005))において記述されている。典型的に、細胞は、患者の肝臓、膵臓、または網嚢に移植される。セルピンa3n発現膵島細胞を用いることは、移植された細胞が宿主によって確実に拒絶されないようにして、外因性または全身性の免疫抑制処置の必要性を低減または消失させる可能性がある。
【0127】
実施例3
セルピンa3nを発現する魚膵島細胞の移植
糖尿病を処置するために移植において魚ブロックマン体を用いることは、それらが冗長な技法を行うことなく単離できるという点において有用である;同様に、ヒトに対して伝搬可能な内因性のレトロウイルスは魚において同定されていない。魚ブロックマン体の微小封入は可能であり、封入されたブロックマン体は、糖尿病マウスにおいて正常血糖を回復することができる。しかし、野生型魚ブロックマン体は、ヒトにおける超急性免疫拒絶を受けやすく、ブロックマン体における内因性のインスリンは、ヒトにおける糖尿病の処置に関してヒトまたはブタインスリンより適していない。先の実施例におけるように、そのようなインスリンを必要とする患者の処置においてこれらの制限を克服するために、本発明の方法を用いてもよい。この目的のため、2つの外因性の遺伝子、すなわち(1)グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)をコードする遺伝子、および(2)ヒトインスリンをコードする遺伝子を発現するトランスジェニック魚を作製してもよい。ブロックマン体における発現を駆動させることができる、これらの2つの遺伝子のそれぞれに機能的に連結したプロモーターを選択する。
【0128】
上記のトランスジェニック魚からのブロックマン体は、Yang et al.(Cell Transplant. 4:621-628 (1995))において記述されるように、顕微解剖することができる。次に、これらの細胞を患者(たとえば、哺乳動物の肝臓または膵臓)に移植する。移植された細胞は、グランザイムB阻害性セルピン(たとえば、セルピンa3n)を発現して、それによって、細胞に対する免疫応答を低減させ、次に、これが移植された細胞の免疫拒絶を防止する可能性がある。免疫応答の低減は、移植された細胞領域に限定されて、それによって望ましくない副作用の可能性を低減させる。
【0129】
他の態様
2005年9月29日に提出された米国特許仮出願第60/721,799号を含む、本明細書において言及した全ての特許、特許出願、および刊行物は、それぞれの独立した特許、特許出願、または刊行物が具体的におよび個々に参照により組み入れられることが示されているのと同じ程度に参照により本明細書に組み入れられる。
【0130】
前述の説明から、様々な用途および条件にそれを取り入れるために、変更および改変を本明細書に記述の本発明に行ってもよいことは明らかである。そのような態様も同様に以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】図1Aおよび1Bは、セルトリ細胞条件培地(SCCM)がグランザイムB媒介殺細胞を低減させることを示すグラフである。図1Aは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でCTL細胞株と共に3時間インキュベートした後のL細胞からの3H-チミジン放出を示す。図1Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で24、120、または600 ng/mlグランザイムBおよびアデノウイルスと共に3時間インキュベートした後のL細胞のTUNEL標識を示す。データは、SCCMの異なる調製物について行った少なくとも3つの異なる実験の平均値±SEMとして示す。星印(*)は、SCCMによる処置による殺細胞の有意な低減(p<0.05)を示す。
【図2】図2A〜2Dは、SCCMが、マンノース-6ホスフェート受容体(MPR)発現またはグランザイムB(grB)取り込みに対して効果を有しないことを示すグラフである。図2Aおよび2Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で1時間インキュベーション後のL細胞におけるMPR発現の陽イオン非依存(CI)および陽イオン依存(CD)型を示す。MPR発現は、CI-およびCD-MPRに対して特異的な抗体を用いた後にFITC共役二次抗体とのインキュベーションおよびフローサイトメトリー分析によって決定した。図2Cおよび2Dは、HAM対照培地またはSCCMの存在下で1時間インキュベーション後のL細胞におけるグランザイムBの結合および取り込みを示す。グランザイムBは、フローサイトメトリー分析を通してのL細胞における結合および取り込みの決定のために、Alexa 488に共役させた。データは、相対的平均蛍光強度(MFI)(図2Bおよび2D)として、または%陽性細胞(図2Aおよび2C)として表記する。データは、SCCMの異なる調製物について実施した少なくとも3回の独立した実験の平均値±SEMとして示す。
【図3】図3Aおよび3Bは、SCCMがグランザイムB酵素活性を低減させることを示すグラフである。図3Aは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でグランザイムBの異なる3つの濃度(24、120、または600 ng/ml)でのヒト精製グランザイムBによるIEPD-pNAの切断を示す。図3Bは、HAM対照培地またはSCCMの存在下でのマウスCTL脱顆粒グランザイムBによるIEPD-pNAの切断を示す。グランザイムBによるIEPD-pNAの切断によって、pNAの放出が起こり、その吸光度を405 nmで測定する。データは、SCCMの異なる調製物について実施した少なくとも3回の異なる実験の平均値±SEMとして示す。星印(*)は、SCCMによる処置時の活性の有意な低減(p<0.05)を示す。
【図4】図4A〜4Cは、グランザイムBが、(i)培養セルトリ細胞によって分泌された、(ii)SPI-6ではない、因子によって共有的に改変されていることを示すウェスタンブロットの画像である。図4A〜4Cは、HAM対照培地、SCCMまたはPBSと共に2時間インキュベートしたグランザイムBのウェスタンブロットを示す。図4Aは、抗グランザイムB抗体による検出を示す。各レーンは以下の通りである:1)HAM、2)SCCM、3)HAM+グランザイムB、4)SCCM+グランザイムB、5)グランザイムB。矢印は、SCCMおよびグランザイムBによってレーン4に現れる高分子量のバンドを示す。図4Bは、抗SPI-6抗体を用いるウェスタンブロットを示す。図4Cは、剥離させて抗グランザイムB抗体によって再プロービングした図4Bと同じブロットを示す。図4Bおよび4Cにおけるそれぞれのレーンは、以下の通りである。1)HAM、2)SCCM、3)HAM+グランザイムB、4)SCCM+グランザイムB、5)グランザイムB、6)マウスCTL溶解物。矢印は、グランザイムBをSCCMと共にインキュベートした場合に現れるが、抗SPI-6抗体によって検出されない高分子量複合体を示す。
【図5】図5Aおよび5Bは、セルピンa3nがインビトロでグランザイムBと複合体を形成することを示すウェスタンブロットの画像である。図5Aは、ヒトグランザイムB(300 ng)またはPBSと共にインキュベートした、インビトロ翻訳/転写されたおよび35S-放射標識されたセルピンa3n-HAのSDS-PAGEおよびオートラジオグラフィーを示す。各レーンは以下の通りである。1)35S-セルピンa3n-HA+PBS、2)35S-セルピンa3n-HA+grB、3)網赤血球溶解物+grB。図5Bは、ヒトグランザイムB(85 ng)またはPBSと共にインビトロで翻訳/転写されたセルピンa3n-HAをインキュベートした後のグランザイムBイムノブロットを示す。各レーンは以下の通りである。1)セルピンa3n-HA+PBS、2)セルピンa3n-HA+grB、3)網赤血球溶解物+grB、4)網赤血球溶解物。示したデータは独立した3回の実験の代表である。
【図6】図6Aおよび6Bは、トランスフェクトされたJurkat細胞が、グランザイムBに結合するセルピンa3nを分泌することを示すウェスタンブロットの画像である。図6Aは、Jurkat細胞におけるセルピンa3n-HAの発現を示す。安定なトランスフェクト細胞(クローンSerE12-HA)5×106個をOPTI-MEM I培地1 mlにおいて終夜インキュベートした。細胞溶解物(L)および条件培地(CM)におけるセルピンa3nを、抗-HA抗体とのイムノブロッティングによって検出した。図6Bは、培養培地に分泌されたセルピンa3n-HAがヒトグランザイムBと複合体を形成したことを示している。精製ヒトグランザイムBをJurkat細胞、pcDNA3-トランスフェクト細胞、またはSerE12-HA細胞から回収した培地と共に37℃で2時間インキュベートした。セルピンa3n-グランザイムB複合体の形成をSDS-PAGEおよび抗グランザイムB抗体によるイムノブロッティングによって検出した。図6Cは、セルピンa3n-HAがグランザイムB酵素活性を阻害することを示すグラフである。グランザイムB(212 ng)をSerE12-HA細胞またはpcDNA3-トランスフェクト細胞からの条件培地の増加量と共に37℃で1時間プレインキュベートした後、グランザイムB活性を測定した。データは、pcDNA3-トランスフェクト細胞の培地と共にプレインキュベートしたグランザイムB活性の百分率として表記して、3つ組で行った独立した3回の実験の平均値±標準偏差である。
【図7】抗-CD3活性化T細胞または組み換え型グランザイムBに曝露後のニューロンの生存に関する定量的分析を示すグラフである。活性化T細胞のみと同時培養した後に残っている、または異なる条件(濃縮(×5)AIMV、濃縮Jurkat細胞上清、濃縮F8上清、またはセルピンa3nを含む濃縮Jurkat細胞上清)で2時間前処置した後に残っているMAP-2陽性ニューロンの数を示す。ニューロンのほぼ60%が、組み換え型グランザイムBまたは活性化T細胞単独との同時培養において失われる。セルピンa3nによって前処置した活性化T細胞との同時培養では、ニューロンの30%が失われたに過ぎなかった。*p<0.01、Tukeyのpost-hoc検定による一元配置ANOVA。Unact=非活性化T細胞、ACT=活性化T細胞;p.t.=前処置。
【図8】セルピンa3nのポリヌクレオチド(SEQ ID NO:1)およびポリペプチド(SEQ ID NO:2)配列、グランザイムBのポリペプチド配列(SEQ ID NO:3)、ならびにセルピンa3n反応中心ループ(SEQ ID NO:4)のポリペプチド配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の免疫応答を減少させるために十分な量のグランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片を含む組成物の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、免疫抑制を必要とする患者を処置するための方法。
【請求項2】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が自己免疫障害、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
自己免疫障害が糖尿病または関節リウマチである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
免疫応答が細胞障害性Tリンパ球によって媒介される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者が移植された細胞のレシピエントである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞が移植された臓器における細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
臓器が心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の段階を含む、哺乳動物に細胞を移植するための方法:
(a)細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む第一の細胞を含む組成物を提供する段階;および
(b)該組成物を該哺乳動物に導入する段階。
【請求項10】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
第一の細胞が膵島細胞、ヒト細胞、幹細胞、ブタ細胞、または魚類細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
魚類細胞がブロックマン体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
組成物が第二の細胞をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項15】
第二の細胞が膵島細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞が移植された臓器における細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項17】
臓器が、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
細胞が第二のポリペプチドをコードする第二の異種ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項19】
第二のポリペプチドがインスリンである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む組成物。
【請求項21】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
ポリヌクレオチド配列がプロモーターに機能的に連結している、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
細胞が哺乳動物細胞、膵島細胞、または魚類細胞である、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
哺乳動物細胞がヒト細胞またはブタ細胞である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
移植のための第二の細胞をさらに含む、請求項20記載の組成物。
【請求項26】
第二の細胞が膵島細胞である、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項28】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項29】
担体が非経口または静脈内投与に適している、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項30】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項31】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項30記載の薬学的組成物。
【請求項32】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、組成物。
【請求項33】
ベクターがウイルスベクターである、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
セルピンまたはその断片がトランスジェニック動物の少なくとも1つの組織においてポリヌクレオチドを発現することができるプロモーターに機能的に連結している、
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項35】
動物がブタまたは魚である、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項36】
第二の異種ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項37】
第二のポリヌクレオチドがヒトインスリンをコードする、請求項36記載のトランスジェニック動物。
【請求項38】
組織が心組織または膵組織である、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項39】
以下の段階を含む、トランスジェニック動物からの組織を患者に移植するための方法:
(a)請求項34記載のトランスジェニック動物からの組織を含む組成物を提供する段階;および
(b)該組成物を該患者に導入する段階。
【請求項40】
トランスジェニック動物がブタである、請求項39記載の方法。
【請求項41】
組織が心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺を含む、請求項39記載の方法。
【請求項42】
組織が膵島細胞を含む、請求項39記載の方法。
【請求項43】
患者がヒトである、請求項39記載の方法。
【請求項1】
患者の免疫応答を減少させるために十分な量のグランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片を含む組成物の治療的有効量を患者に投与する段階を含む、免疫抑制を必要とする患者を処置するための方法。
【請求項2】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が自己免疫障害、炎症性血管疾患、または炎症性ニューロン疾患を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
自己免疫障害が糖尿病または関節リウマチである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
免疫応答が細胞障害性Tリンパ球によって媒介される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者が移植された細胞のレシピエントである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞が移植された臓器における細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
臓器が心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の段階を含む、哺乳動物に細胞を移植するための方法:
(a)細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む第一の細胞を含む組成物を提供する段階;および
(b)該組成物を該哺乳動物に導入する段階。
【請求項10】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
第一の細胞が膵島細胞、ヒト細胞、幹細胞、ブタ細胞、または魚類細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
魚類細胞がブロックマン体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
組成物が第二の細胞をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項15】
第二の細胞が膵島細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞が移植された臓器における細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項17】
臓器が、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
細胞が第二のポリペプチドをコードする第二の異種ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項19】
第二のポリペプチドがインスリンである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞が真核細胞である、グランザイムB阻害性セルピンまたはそのグランザイムB阻害性断片をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含む細胞を含む組成物。
【請求項21】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
ポリヌクレオチド配列がプロモーターに機能的に連結している、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
細胞が哺乳動物細胞、膵島細胞、または魚類細胞である、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
哺乳動物細胞がヒト細胞またはブタ細胞である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
移植のための第二の細胞をさらに含む、請求項20記載の組成物。
【請求項26】
第二の細胞が膵島細胞である、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項28】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項29】
担体が非経口または静脈内投与に適している、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項30】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項31】
セルピンがセルピンa3nまたは改変ヒトα1アンチキモトリプシンである、請求項30記載の薬学的組成物。
【請求項32】
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、組成物。
【請求項33】
ベクターがウイルスベクターである、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
セルピンまたはその断片がトランスジェニック動物の少なくとも1つの組織においてポリヌクレオチドを発現することができるプロモーターに機能的に連結している、
グランザイムB阻害性セルピン、またはそのグランザイムB阻害性断片をコードする第一の異種ポリヌクレオチドを含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項35】
動物がブタまたは魚である、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項36】
第二の異種ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項37】
第二のポリヌクレオチドがヒトインスリンをコードする、請求項36記載のトランスジェニック動物。
【請求項38】
組織が心組織または膵組織である、請求項34記載のトランスジェニック動物。
【請求項39】
以下の段階を含む、トランスジェニック動物からの組織を患者に移植するための方法:
(a)請求項34記載のトランスジェニック動物からの組織を含む組成物を提供する段階;および
(b)該組成物を該患者に導入する段階。
【請求項40】
トランスジェニック動物がブタである、請求項39記載の方法。
【請求項41】
組織が心臓、肝臓、腎臓、膵臓、または肺を含む、請求項39記載の方法。
【請求項42】
組織が膵島細胞を含む、請求項39記載の方法。
【請求項43】
患者がヒトである、請求項39記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2009−509979(P2009−509979A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532546(P2008−532546)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001582
【国際公開番号】WO2007/036028
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508090619)ユニバーシティ オブ アルバータ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001582
【国際公開番号】WO2007/036028
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508090619)ユニバーシティ オブ アルバータ (1)
【Fターム(参考)】
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