説明

グリース組成物、グリース封入軸受、自在継手および直動装置

【課題】高速高面圧などの過酷な摺動条件下での使用において、モリブデン非含有でも優れた低摩擦性を実現できるグリース組成物、および、このグリース組成物を封入してなる軸受、自在継手および直動装置を提供する。
【解決手段】グリース封入軸受1は、グリース組成物7が少なくとも転動体4の周囲に封入されてなり、このグリース組成物7は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤が、ニオブまたはニオブを含有する化合物を含むことを必須とし、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)などのジチオカルバミン酸塩、酢酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物、および、該グリース組成物を封入した軸受、自在継手、ボールねじ、直動装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から産業界で潤滑剤の高性能化を図る目的で、潤滑剤に種々の添加剤を配合し潤滑性を向上させる試みがなされている。軸受などが高速高面圧条件下で使用される場合、封入したグリース組成物の潤滑膜が破断しやすくなる。潤滑膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。このため、高速高面圧などの過酷条件下での運転においても優れた潤滑性を示すグリース組成物に対する要求がある。従来、このような高面圧条件下における摩擦を低減するため、有機金属系化合物などの極圧剤をグリース組成物に添加することがなされている。
【0003】
例えば、有機金属系化合物として、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(モリブデンジチオカーバメート)や、モリブデンジチオフォスフェートなどのモリブデン化合物を含む等速ジョイント用グリースが開示されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−197072号公報
【特許文献2】特開平10−147791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年において益々厳しくなっている高速高面圧の過酷条件下での使用においては、従来の添加剤では必ずしも充分とはいえず、さらに向上が望まれている。また、特許文献1や特許文献2に記載のモリブデン化合物は、PRTRの規制物質であり、環境保護の観点からもモリブデン化合物の使用量低減または使用自体が問題視されているため、モリブデン化合物に代わる低摩擦添加剤を開発することが望まれている。
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高速高面圧などの過酷な摺動条件下での使用において、モリブデン非含有でも優れた低摩擦性を実現できるグリース組成物、および、このグリース組成物を封入してなる軸受、自在継手および直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物であって、上記添加剤が、ニオブまたはニオブを含有する化合物を含むことを特徴とする。また、上記ニオブまたはニオブを含有する化合物の含有量が、上記基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする。
【0008】
上記添加剤が、ジチオカルバミン酸塩を含むことを特徴とする。上記ジチオカルバミン酸塩が、ジチオカルバミン酸の非金属塩であることを特徴とする。特に、上記ジチオカルバミン酸の非金属塩が、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)であることを特徴とする。また、上記ジチオカルバミン酸塩の含有量が、上記基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする。
【0009】
上記添加剤が、脂肪酸金属塩を含むことを特徴とする。また、上記脂肪酸金属塩が、酢酸の金属塩であることを特徴とする。また、上記脂肪酸金属塩の金属が、リチウム、ナトリウム、カルシウム、またはニッケルであることを特徴とする。また、上記脂肪酸金属塩の含有量が、上記基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜5重量部であることを特徴とする。
【0010】
上記基油が、高度精製油または鉱油であることを特徴とする。また、上記高度精製油の硫黄含有率が、0.1重量%未満であることを特徴とする。また、上記増ちょう剤が、ウレア化合物であることを特徴とする。
【0011】
本発明のグリース封入軸受は、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の自在継手は、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の直動装置は、案内部材に沿って直線移動し、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。また、上記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に上記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、上記両ねじ溝間に介在する複数のボールとを備えたボールねじであり、上記ボールの周囲に上記グリース組成物が封入されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のグリース組成物は、添加剤としてニオブまたはニオブを含有する化合物を含むので、高速高面圧などの過酷条件下での使用においても、モリブデン化合物を非含有でありながら優れた潤滑性を示し、耐摩耗性の向上および低摩擦化が図れる。また、添加剤としてジチオカルバミン酸塩を併用することで、より低摩擦化が図れる。加えて、添加剤として脂肪酸金属塩を併用することで、さらに低摩擦化が図れる。
【0015】
上記基油として高度精製油または鉱油の使用することで、潤滑性を維持しつつ低コスト化が図れる。また、上記増ちょう剤としてウレア化合物を使用することで、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れる。
【0016】
本発明のグリース封入軸受、自在継手、および直動装置は、本発明のグリース組成物を封入してなるので、高速高面圧条件下で使用しても、摺動面における摩擦係数が小さく摩耗も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のグリース封入軸受の一例として深溝玉軸受を示す断面図である。
【図2】本発明の自在継手の一例として等速ジョイントを示す断面図である。
【図3】本発明の直動装置の一例としてボールねじを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合して得られ、特に添加剤として、(1)ニオブ、または(2)ニオブを含有する化合物、を含むことを特徴としている。これらをグリース組成物に添加すると、摺動面においてニオブまたはニオブを含有する化合物が反応し酸化ニオブ被膜を生成し、この酸化ニオブ被膜により耐摩耗性の向上および低摩擦化が図れると考えられる。
【0019】
本発明で使用するニオブは、ニオブ単体であり、形状としては粉末状や粒状が挙げられる。ニオブは、その結晶構造が体心立方格子構造であり、密度8.57g/cm3の灰白色の遷移金属である。また、そのモース硬度が2.0(at20℃)の比較的軟らかい金属であり延性に富むので、極圧を受けると膜状になりやすい。このため、本発明で使用するニオブ粉末の粒子径としては、グリース中に分散できる粒径であればよい。具体的には、その粒子径が5〜500μmであることが好ましい。より好ましくは5〜300μmであり、特に好ましくは、5〜150μmである。
【0020】
本発明で使用するニオブを含有する化合物としては、例えば、ニオブジチオカーバメート、ニオブ・アルミニウム合金、ニオブ・ガリウム合金、ニオブ・ゲルマニウム合金、ニオブ・スズ合金、酸化ニオブ、ほう化ニオブ、炭化ニオブ、窒化ニオブ、硫化ニオブ、けい化ニオブ、テルル化ニオブ、窒化ニオブ、ペンタメトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタプロポキシニオブ、ペンタブトキシニオブなどが挙げられる。
【0021】
上記ニオブまたはニオブを含有する化合物の中で、耐熱耐久性に優れ、熱分解せず、極圧性効果が高いことから、ニオブ粉末を用いることが好ましい。
【0022】
ニオブまたはニオブを含有する化合物の配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して0.1〜20重量部とすることが好ましい。より好ましくは、ベースグリース100重量部に対して2〜15重量部である。配合割合が0.1重量部未満であると、高速高面圧条件下で十分な低摩擦化が図れないおそれがある。また、配合割合が20重量部をこえると、低摩擦化の効果の向上がそれ以上に望めない他、軸受などに使用する場合では回転時のトルクが大きくなって、発熱が増大し、回転障害を生じるなどのおそれがある。
【0023】
本発明では添加剤に、ジチオカルバミン酸塩を含むことが好ましい。上記ニオブまたはニオブを含有する化合物に加えて、ジチオカルバミン酸塩を併用することで、摺動面における低摩擦化の効果をさらに向上できる。摺動面において生成した酸化ニオブの上に、ニオブ含有化合物とジチオカルバミン酸塩とが吸着し、機械的剪断を受けて反応することにより、潤滑剤としての硫化ニオブを生成し、摺動面における低摩擦化が図れると考えられる。
【0024】
本発明で使用するジチオカルバミン酸塩としては、ジチオカルバミン酸の金属塩または非金属塩が挙げられる。ジチオカルバミン酸の金属塩としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオカルバミン酸ニッケル、ジアルキルジチオカルバミン酸銅、ジアルキルジチオカルバミン酸鉄、ジアルキルジチオカルバミン酸セレン、ジアルキルジチオカルバミン酸テルルなどが挙げられる。なお、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンについては、上述したように使用しないことが好ましいが、本発明では添加剤に必須成分としてニオブまたはニオブを含有する化合物を配合することで、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを使用する場合でもその配合量(併用量)を少なくできる。
【0025】
ジチオカルバミン酸の非金属塩としては、例えば、ジチオカルバミン酸のアンモニウム塩、アルキレンビスジチオカーバメートなどが挙げられる。アルキレンビスジチオカーバメートは、下記の化1で示される。アルキレンビスジチオカーバメートの市販品としては、バンダービルド社製バンルーブ7723(メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート))が挙げられる。
【0026】
【化1】

(式中、Rは一級または二級のアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基であり、nは1以上の整数である。)
【0027】
上記ジチオカルバミン酸塩の中で、硫化ニオブを生成させやすいことから、ジチオカルバミン酸の非金属塩であるアルキレンビスジチオカーバメートを用いることが好ましい。
【0028】
ジチオカルバミン酸塩の配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して0.1〜20重量部とすることが好ましい。より好ましくは、ベースグリース100重量部に対して2〜15重量部である。配合割合が0.1重量部未満であると、併用による低摩擦化の効果の向上が少ない。また、配合割合が20重量部をこえると、併用による低摩擦化の効果の向上がそれ以上に望めない。
【0029】
また、ジチオカルバミン酸塩を用いる場合、(1)ニオブまたはニオブを含有する化合物と、(2)ジチオカルバミン酸塩との配合重量比は、10:1〜1:10であり、好ましく3:1〜1:3である。重量比で2成分中の片方が、他方の10分の1未満または10倍をこえると、併用による低摩擦化の効果の向上が少ない。
【0030】
本発明では添加剤に、さらに、脂肪酸金属塩を含むことが好ましい。脂肪酸金属塩を併用することで、摺動面における低摩擦化の効果をさらに向上できる。脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸などが挙げられる。これらの中で、極圧性に優れることから、酢酸の金属塩を用いることが好ましい。また、金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム、またはニッケルであることが好ましい。
【0031】
脂肪酸金属塩の配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して0.5〜5重量部とすることが好ましい。配合割合が0.5重量部未満であると、併用による低摩擦化の効果の向上が少ない。また、配合割合が5重量部をこえると、上記ニオブまたはニオブを含有する化合物や、ジチオカルバミン酸塩の配合量が相対的に少なくなり、高速高面圧条件下で十分な低摩擦化が図れないおそれがある。
【0032】
本発明のグリース組成物は、必要に応じて上記以外の公知の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤として、例えば、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの防錆剤、アミン系、フェノール系化合物などの酸化防止剤、亜硝酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウムなどの腐食防止剤、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、脂肪酸アミド、脂肪酸、アミン、油脂類などの油性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上などが挙げられる。なお、これらは、単独または2種類以上組合せて添加できる。
【0033】
本発明のグリース組成物の基油は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、高度精製油、鉱油、動植物油、エステル系合成油、合成炭化水素油、リン酸エステル油、シリコーン油、フッ素油およびこれらの混合油などを使用できる。これらの中でも、潤滑性とコストを考慮した場合、高度精製油または鉱油の使用が好ましい。
【0034】
高度精製油は、例えば、減圧蒸留の残油から得られるスラッグワックスを接触水素化熱分解し、合成することにより得られる。また、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油などが挙げられる。高度精製油は、硫黄含有率が0.1重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.01重量%未満である。高度精製油の市販品としては、昭和シェル石油社製シェルハイバックオイルX46、X68などが挙げられる。また、鉱油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油などが挙げられる。
【0035】
本発明のグリース組成物の増ちょう剤は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れたウレア化合物の使用が好ましい。
【0036】
ウレア化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。ポリイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。また、モノアミン成分は、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミンを用いることができる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環族モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。芳香族モノアミンとしては、アニリン、p-トルイジンなどが挙げられる。
【0037】
これらのウレア化合物の中でも、上述の耐熱耐久性、摺動部への介入性と付着性に特に優れることから、ポリイソシアネート成分として芳香族ジイソシアネートを用い、モノアミン成分として脂肪族モノアミンおよび/または脂環族モノアミンを用いた、脂肪族ウレア化合物や脂環族ウレア化合物の使用が特に好ましい。
【0038】
基油にウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記の各添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。
【0039】
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40重量部、好ましくは3〜25重量部である。増ちょう剤の含有量が1重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0040】
本発明のグリース組成物は、高速高面圧などの過酷条件下で用いられる機械部品、例えば、軸受、自在継手、直動装置、ボールねじなどに封入するグリースとして使用できる。以下、これらについて説明する。
【0041】
本発明のグリース封入軸受を図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。グリース封入軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4は、保持器5により保持される。また、外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲に本発明のグリース組成物7が封入される。
【0042】
軸受として玉軸受について例示したが、本発明のグリース組成物は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの転がり軸受、または、滑り軸受の封入グリースとしても使用できる。
【0043】
本発明の自在継手を図2に基づいて説明する。図2は本発明の自在継手の一例としてツェッパ型等速ジョイントを示す一部切欠き断面図である。図2に示すように、等速ジョイント11は、外方部材(外輪ともいう)12の内面および球形の内方部材(内輪ともいう)13の外面に軸方向の六本のトラック溝14、15を等角度に形成し、そのトラック溝14、15間に組み込んだトルク伝達部材(ボールともいう)16をケージ17で支持し、このケージ17の外周を球面17aとし、かつ内周を内方部材13の外周に適合する球面17bとしている。また、外方部材12の外周とシャフト18の外周とをブーツ19で覆い、外方部材12と、内方部材13と、トラック溝14、15と、トルク伝達部材16と、ケージ17と、シャフト18とに囲まれた空間に本発明のグリース組成物20が封入されている。
【0044】
自在継手としてツェッパ型等速ジョイントについて例示したが、本発明のグリース組成物は、上記以外のバーフィールド型などの固定型等速ジョイント、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型、トリポード型等速ジョイントなどのスライド型等速ジョイント、または、クロスジョイントなどの不等速自在継手の封入グリースとしても使用できる。
【0045】
本発明の直動装置を図3に基づいて説明する。図3は本発明の直動装置の一例であるボールねじを示す断面図である。図3に示すように、本発明のボールねじは、案内部材であるねじ軸21の外周面に形成したねじ溝22と、ボールナット23の内周面に形成したねじ溝24の間に複数のボール25を介在させたものであり、ねじ軸21またはボールナット23の回転動力をボール25を介してボールナット23(またはねじ軸21)に伝達し、ボールナット23を軸方向に移動させるものである。ねじ軸21とボールナット23との間でボール25の周囲に本発明のグリース組成物が封入され、ボールねじ用シール部材26によってシールされている。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜実施例16および比較例1〜比較例5
表1に示す割合で、基油をジウレア系増ちょう剤(オクチルアミンまたはシクロヘキシルアミンを4,4'−ジフェニルメチルジイソシアネートと反応させて得られるジウレア化合物)で増ちょうさせたベースグリースを得た。このベースグリースに表1に記載の添加剤を混合し、3段ロールミルでミル処理を行なった後、脱泡しグリース組成物を得た。得られたグリース組成物について、以下に示すSRV摩擦摩耗試験に供し、摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
<SRV摩擦摩耗試験>
テストピース: ボール 直径10mm(SUJ2)
円盤プレート 直径24mm×7.85mm(SUJ2)
評価条件: 点接触最大面圧 1.45GPa、2.62GPa
周波数 10Hz
振幅 1.2mm
時間 30分間
試験温度 40℃
測定項目: 摩擦係数;(測定時間内で一定となった値)の平均値
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、各実施例は、モリブデン化合物を非含有でありながら低摩擦化が図れることが分かる。特に、ニオブ粉末とジチオカーバメート(メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート))とを併用することで、MoDTCを使用する場合(比較例5)と同等に低摩擦化が図れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のグリース組成物は、高速高面圧などの過酷条件下での使用においても、モリブデン化合物を非含有で優れた潤滑性を有する。このため、高速高面圧条件下で使用される、例えば、軸受、自在継手、直動装置、ボールねじなどの潤滑グリースとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 グリース封入軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
11 等速ジョイント
12 外方部材(外輪)
13 内方部材(内輪)
14、15 トラック溝
16 トルク伝達部材(ボール)
17 ケージ
18 シャフト
19 ブーツ
20 グリース
21 ねじ軸
22 ねじ溝
23 ボールナット
24 ねじ溝
25 ボール
26 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物であって、
前記添加剤が、ニオブまたはニオブを含有する化合物を含むことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記ニオブまたはニオブを含有する化合物の含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記添加剤が、ジチオカルバミン酸塩を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記ジチオカルバミン酸塩が、ジチオカルバミン酸の非金属塩であることを特徴とする請求項3記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記ジチオカルバミン酸の非金属塩が、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)であることを特徴とする請求項4記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記ジチオカルバミン酸塩の含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記添加剤が、脂肪酸金属塩を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩が、酢酸の金属塩であることを特徴とする請求項7記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸金属塩の金属が、リチウム、ナトリウム、カルシウム、またはニッケルであることを特徴とする請求項7または請求項8記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記脂肪酸金属塩の含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜5重量部であることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項11】
前記基油が、高度精製油または鉱油であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項12】
前記高度精製油の硫黄含有率が、0.1重量%未満であることを特徴とする請求項11記載のグリース組成物。
【請求項13】
前記増ちょう剤が、ウレア化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項14】
グリース組成物を封入してなるグリース封入軸受であって、前記グリース組成物が請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とするグリース封入軸受。
【請求項15】
グリース組成物を封入してなる自在継手であって、前記グリース組成物が請求項1ないし請求項13のいずれか一項載のグリース組成物であることを特徴とする自在継手。
【請求項16】
案内部材に沿って直線移動し、グリース組成物を封入してなる直動装置であって、前記グリース組成物は、請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とする直動装置。
【請求項17】
前記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に前記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、前記両ねじ溝間に介在する複数のボールとを備えたボールねじであり、前記ボールの周囲に前記グリース組成物が封入されてなることを特徴とする請求項16記載の直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132335(P2011−132335A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292249(P2009−292249)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】