説明

グロメットの止水構造の製造方法、および、グロメットの止水構造

【課題】高い止水性能を有するグロメットの止水構造を実現できる技術を提供する。
【解決手段】成型充填剤20を電線群90ワイヤハーネスが内挿されたグロメットを加熱して、成型充填剤20の頭部222を溶融させて、流動化した充填剤2を電線群90の周囲に巡らせるとともに、電線群90中に挿通された成型充填剤20の仕切板を溶融させて、流動化した充填剤2を電線群90の電線間の隙間に浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浸水領域と非浸水領域とを区分するパネル(例えば、自動車などの車両内において、エンジンルームなどの浸水領域と、車室内の非浸水領域とを区分する車体パネル)に形成された貫通孔を貫通させるワイヤハーネスに装着するグロメットの止水技術に関する。
【背景技術】
【0002】
浸水領域と非浸水領域とを区分するパネル(例えば、車体パネル)に、多数の電線が束ねられたワイヤハーネス(W/H)を挿通させる場合には、車体パネルに形成された貫通孔にゴム等の止水材によって成形されたグロメットを装着し、このグロメットの内部を通してワイヤハーネスを車体パネルに挿通させる。
【0003】
グロメットは、一般に、拡径した車体装着部と、その縮径端に連続させた円筒形状の電線挿通部とを備えている。車体装着部が車体パネルに形成された貫通孔の内周縁に係止されることにより、貫通孔とグロメットとの間が止水(防水)される。一方、グロメット内の止水(防水)は、電線挿通部の内壁にワイヤハーネスが密着して挿通されることにより実現される。ただし、電線挿通部の内壁をワイヤハーネスに密着させるだけでは、電線群間の隙間や、グロメットの電線挿通部の内壁と電線群との間のわずかな隙間からの浸水を止められない。そこで、従来から、この隙間を止水するための技術が各種提案されている。
【0004】
例えば特許文献1においては、従来技術として、スペーサーを用いて電線間の隙間をシールする技術が提案されている。すなわち、ここに説明されている技術によると、ワイヤハーネスの挿通方向と直交する方向に樹脂成型品からなるスペーサーを配置し、スペーサーで電線群を広げて電線間に隙間を形成する。そして、スペーサーを取り付けたワイヤハーネスをグロメットに挿入し、スペーサーにより形成されている電線間の隙間にシール剤を充填してこの隙間をシールする。
【0005】
また例えば、特許文献1には、熱硬化性樹脂粉末を押し固めて形成した止水材を用いて電線間の隙間をシールする技術が提案されている。すなわち、特許文献1に記載の技術によると、熱硬化性樹脂粉末を押し固めて形成した止水剤をワイヤハーネスの電線群中に配置し、その止水剤を配置したワイヤハーネスをグロメットに挿通する。そして、グロメットを熱硬化性樹脂粉末が溶融する温度で加熱して止水材を溶融させることにより止水剤を電線群間の隙間に充填させて当該隙間をシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−136113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の各技術においては、一定の止水効果が得られるものの、完全な止水性能を実現できるとまでは言い難く、特に、グロメットの電線挿通部の内壁と電線群との間のわずかな隙間からの浸水を防止することが難しかった。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、電線挿通部の内壁と電線群との間のわずかな隙間からの浸水をも防止できる、高い止水性能を有するグロメットの止水構造を実現できる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の態様は、浸水領域の内と外とを仕切る車体パネルに形成された貫通孔を貫通させるワイヤハーネスに装着するグロメットの止水構造の製造方法であって、a)加熱により溶融して流動性をもち冷却により硬化する性質を有する固形の充填剤を、途中に肉薄のくびれ部分が形成され、前記くびれ部分の先に肉厚の頭部が形成された仕切板が、中心部から放射状に複数個突出した形状に成型した成型充填剤を、電線群を集束して形成される前記ワイヤハーネスにおける前記グロメットの取付領域の前記電線群中に、前記中心部を前記電線群の中央に位置させるとともに前記電線群の電線間に前記仕切板を挿通させて前記頭部を前記電線群の外側に突出させた状態で配置する工程と、b)前記電線群中に前記成型充填剤を配置した前記ワイヤハーネスに、前記グロメットを外嵌する工程と、c)前記ワイヤハーネスが内挿された前記グロメットを加熱して、前記仕切板の前記くびれ部分を溶解させて前記頭部を前記仕切板の基部から分離させ、分離した前記頭部を溶融させて、流動化した充填剤を前記電線群の周囲に巡らせるとともに、前記電線間に挿通された前記仕切板の前記基部を溶融させて、流動化した充填剤を前記電線群間の隙間に浸透させる工程と、を備える。
【0010】
第2の態様に係るグロメットの止水構造の製造方法は、第1の態様に係るグロメットの止水構造の製造方法であって、前記複数の仕切板が、先端に行くにしたがって薄くなる先薄形状に形成された基部、を備え、前記基部の先端に前記頭部が形成される。
【0011】
第3の態様に係るグロメットの止水構造の製造方法は、第1または第2に係るグロメットの止水構造の製造方法であって、前記充填剤が、EVA系樹脂組成物からなる。
【0012】
この発明の第4の態様は、グロメットの止水構造であって、第1から第3のいずれかに係るグロメットの止水構造の製造方法で製造される。
【発明の効果】
【0013】
第1の態様によると、ワイヤハーネスが内挿されたグロメットを加熱して、成型充填剤の頭部を溶融させて、流動化した充填剤を電線群の周囲に巡らせるとともに、電線間に挿通された成型充填剤の仕切板の基部を溶融させて、流動化した充填剤を電線群間の隙間に浸透させる。この構成によると、電線間の隙間と、電線群とグロメット内壁との間の隙間との両方が適切に止水されるので、グロメットを確実に止水することができる。
【0014】
第2の態様によると、成型充填剤の仕切板において、先端に行くにしたがって薄くなる先薄形状に形成された基部の先端に頭部が形成される。この構成によると、ワイヤハーネスが内挿されたグロメットを加熱した際に、基部と頭部との継目の部分を速やかに溶融させることができる。したがって、電線群の周囲に充填剤を確実に巡らすことができ、電線群とグロメット内壁との間の隙間を確実に止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ワイヤハーネスが挿通されていない状態のグロメットの断面図である。
【図2】ワイヤハーネスが挿通され、止水されている状態のグロメットの断面図である。
【図3】成型充填剤の斜視図である。
【図4】電線群の中に配置された成型充填剤を示す図である。
【図5】拡径されたグロメットが外嵌された電線群の断面の様子を示す斜視図である。
【図6】加熱の初期段階における電線群の断面の様子を模式的に示す図である。
【図7】加熱が進んだ段階における電線群の断面の様子を模式的に示す図である。
【図8】成型充填剤が配置されたワイヤハーネスのグロメット取付領域に発泡シートが巻かれた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1.グロメット>
グロメット1の構成について図1、図2を参照しながら説明する。図1はワイヤハーネス900が挿通されていない状態のグロメット1の断面図であり、図2はワイヤハーネス900が挿通され、止水されている状態のグロメット1の断面図である。
【0017】
グロメット1は、エラストマー(例えば、熱硬化性エラストマー)などの弾力性のある止水性部材から構成される。グロメット1は、先端にいくにしたがって拡径した断面円形状の車体装着部11と、車体装着部11の縮径端と連続した円筒形状の電線挿通部12とを備える。
【0018】
車体装着部11の拡径端の側外周部にはその周方向に沿って係止溝111が形成されており、係止溝111が車体パネルに形成される貫通孔の周縁に係止することによって、グロメット1が車体パネルに装着される。
【0019】
電線挿通部12の内壁は、ワイヤハーネス(W/H)900を構成する一群の電線9(電線群90)の外周に密着する。すなわち、電線挿通部12の内径は、ワイヤハーネス900の外径(すなわち、束ねられた電線群90の外接円の径)よりも小さく、内部に挿通されたワイヤハーネス900を、弾性力で外周側から締め付ける。電線挿通部12が密着するワイヤハーネス900の領域(すなわち、ワイヤハーネス900におけるグロメット1の取付領域)を、以下「グロメット取付領域T」という。
【0020】
ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの全部、あるいは少なくとも一部の領域は止水領域とされ、止水領域には充填材2が充填される。図2の例では、グロメット取付領域Tの全体が止水領域とされ、グロメット取付領域Tの全体に充填材2が充填されている。以下に説明する方法により製造された止水構造によると、止水領域における電線群90の電線間の隙間、および、止水領域における電線群90と電線挿通部12の内壁との間の隙間にまで確実に充填剤2が充填された確実な止水構造が実現される。
【0021】
<2.成型充填剤20>
この発明の実施の形態に係るグロメット1の止水構造の製造には成型充填剤20が用いられる。成型充填剤20の構成について、図3を参照しながら説明する。図3は、成型充填剤20の斜視図である。
【0022】
成型充填剤20は、加熱により溶融して流動性をもち冷却により硬化する性質を有する固形の充填剤2を、所定形状に成型したものである。充填剤2としては、例えば、EVA系樹脂組成物(例えば、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPPM)、熱可塑性樹脂の粉末(例えばエポキシ樹脂の粉末)などを用いることができる。ただし、充填剤2として熱可塑性樹脂の粉末を用いる場合、当該粉末は、熱可塑性樹脂を溶融温度で溶融した後に硬化させて固形させた後に粉末にしたものではなく、未硬化及び半硬化状態の熱硬化性樹脂を粉末にしたものを用いる必要がある。
【0023】
次に、成型充填剤20の形状について説明する。成型充填剤20は、円柱状の芯部21と、芯部21から周方向に一定角度をあけて放射状に突出した仕切板22を備えた形状とされる。なお、図3においては、8個の仕切板22が形成されているが、仕切板22の個数はこれに限らない。後述するように、隣接する仕切板22の間であって、芯部21の周囲の空間は、電線9を収容する電線収容空間Vとして機能する。
【0024】
仕切板22は、途中に肉薄の部分(側面視において細く狭まった部分)(以下「くびれ部分」という)223が形成され、くびれ部分223の先に肉厚の部分(側面視において大径の部分)(以下「頭部」という)222が形成された形状とされる。具体的には、仕切板22は、先端に行くにしたがって細くなる先薄の板形状に形成された基部221と、基部221の先端に形成された頭部222とを備えた形状とされ、基部221と頭部222との継ぎ目にくびれ部分223が形成されることになる。頭部222は、電線挿通方向xと直行する断面の形状が卵形に形成される。
【0025】
なお、成型充填剤20の長尺方向に沿った長さ(長尺幅)は、止水領域の幅と同じか、それよりも短いものとなっている。また、成型充填剤20の外径は、グロメット1の電線挿通部12の内径より若干大きく形成されている。
【0026】
<3.グロメット1の止水構造の製造方法>
成型充填剤20を用いたグロメット1の止水構造の製造方法に係る一連の工程について説明する。
【0027】
<第1工程>
はじめに、成型充填剤20を、ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの電線群90中に配置する(第1工程)。第1工程について図4を参照しながら具体的に説明する。図4は、電線群90の中に配置された成型充填剤20を示す図である。ただし、図4においては、電線群90の内部に配置された成型充填剤20の様子を示すために、電線群90を充填材封入体20の端の位置で切断して示している。
【0028】
第1工程は、作業者が次の作業を行うことによってなされる。すなわち、作業者は、ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの電線群90を押し広げて、電線挿通方向xと直交する方向から、成型充填剤20の長尺方向が電線挿通方向xに沿うような姿勢で、電線群90の中に成型充填剤20を入れる。ここで、作業者は、芯部21が電線群90の中央部にくるように位置させるとともに、成型充填剤20の外周全体に電線9を略均等に位置させ、この状態で電線9を成型充填剤20の各仕切板22の間の隙間に分散して押し込み、各電線収容空間Vに均等に挿入する。電線群90を構成する複数の電線9は、複数の電線収容空間Vにできるだけ満遍なく分散されて収容されることが好ましい。
【0029】
すると、成型充填剤20は、ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tに、図4に示される状態(すなわち、その芯部21が電線群90の中央に位置するとともに、電線群90の電線間に仕切板22が挿通し、頭部222が電線群90の外側に突出した状態)で配置される。成型充填剤20がこのような状態で配置されることによって、成型充填剤20に形成される複数の電線収容空間Vに、電線群90を構成する複数の電線9が収容されることになる。
【0030】
<第2工程>
続いて、グロメット1を、ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tに外嵌する(第2工程)。第2工程について図5を参照しながら具体的に説明する。図5は、拡径されたグロメット1が外嵌された電線群90の断面の様子を示す斜視図である。
【0031】
第2工程は、作業者が次の作業を行うことによってなされる。すなわち、作業者は、拡張機等を用いてグロメット1を拡径させ、拡径されたグロメット1にワイヤハーネス900を挿通する。そして、ワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tを、グロメット1の電線挿通部12内に位置させる。ただし、グロメット取付領域Tの電線群90中には、成型充填剤20が配置されている。すなわち、成型充填剤20が配置されている電線群90の領域が、拡径されたグロメット1の電線挿通部12内におかれることになる。
【0032】
<第3工程>
続いて、ワイヤハーネス900が内挿されたグロメット1を、成型充填剤20が溶融する温度まで加熱する(第3工程)。第3工程について図6、図7を参照しながら具体的に説明する。図6は、加熱の初期段階における電線群90の断面の様子を模式的に示す図である。図7は、加熱が進んだ段階における電線群90の断面の様子を模式的に示す図である。
【0033】
第3工程は、作業者が次の作業を行うことによって行われる。すなわち、作業者は、ワイヤハーネス900が内挿されたグロメット1の電線挿通部12を円筒状のヒータの内部に挿入し、ヒータでグロメット1の電線挿通部12を加熱する。
【0034】
グロメット1の電線挿通部12が加熱されると、電線挿通部12の内側にある成型充填剤20が溶融する。上述したとおり、成型充填剤20の仕切板22は、くびれ部分223の先に大径の頭部222が形成された形状とされている。したがって、グロメット1の加熱が開始されると、基部221と頭部222との継ぎ目であるくびれ部分223がはじめに溶融する。すると、頭部222が、基部221から分離して、溶融しながら電線群90の周囲を巡り、これによって、電線群90の周囲に流動化した充填剤2が巡ることになる(図6に示される状態)。一方、基部221も先端から順に溶解がはじまり、これによって、電線群90の電線間の隙間に流動化した充填剤2が浸透することになる。したがって、加熱が進むと、電線群90の電線間の隙間と、電線群90の周囲とに充填剤2が充填されることになる。
【0035】
成型充填剤20が半分ほど溶解した段階で、作業者は、拡張機によるグロメット1の拡径を解除する。すると、電線挿通部12の弾性回復力によって、拡径されたグロメット1が元の状態に縮径する。すると、電線挿通部12の内壁が電線群90の外周に当接して弾性回復力により電線群90を締め付ける。電線群90の周囲は、溶融した充填剤2に包まれているので、電線群90の外周と電線挿通部12の内壁との間の隙間は充填剤2に隈無く埋められることになる(図7に示される状態)。
【0036】
溶融した充填剤2は自然冷却によって所定時間が経過した後に硬化する。これによって、電線群90の電線間の隙間と、電線群90とグロメット1の内壁との間の隙間とが、そこに充填された充填剤2により止水されることになる。
【0037】
<4.効果>
上記の実施の形態によると、ワイヤハーネス900が内挿されたグロメット1を加熱して、成型充填剤20の頭部222を溶融させて、流動化した充填剤2を電線群90の周囲に巡らせるとともに、電線群90中に挿通された成型充填剤20の仕切板22を溶融させて、流動化した充填剤2を電線群90の電線間の隙間に浸透させる。この構成によると、電線群90の電線間の隙間と、電線群90とグロメット内壁との間の隙間との両方が適切に止水されるので、グロメット1を確実に止水することができる。
【0038】
また、上記の実施の形態によると、成型充填剤20の仕切板22において、先端に行くにしたがって薄くなる先薄形状に形成された基部221の先端に頭部222が形成される。この構成によると、ワイヤハーネス900が内挿されたグロメット1を加熱した際に、基部211と頭部222との継目の部分を速やかに溶融させることができる。したがって、電線群90の周囲に充填剤2を確実に巡らすことができ、電線群90とグロメット内壁との間の隙間を確実に止水することができる。
【0039】
<5.変形例>
上記の実施の形態において、頭部222の断面の径を、電線収容空間Vに収容された状態における電線9と電線9との間の平均的な離間距離よりも大きくなるように成形してもよい。このように成形しておけば、成型充填剤20の加熱により頭部222が基部221から分離した際に、頭部222が電線収容空間Vに収容された電線9と電線9との間にそのまま落ちてしまうという事態を確実に回避して、頭部222に確実に電線群90の周囲を巡らせることができる。
【0040】
また、上記の実施の形態においては、グロメット1の拡径を解除する前にグロメット1の加熱を開始していたが、グロメット1の拡径を解除した後にグロメット1の加熱を開始する構成としてもよい。この場合も、加熱が開始されると、仕切板22のくびれ部分223が最初に溶融することにより頭部222が基部221から分離し、分離した頭部222が、グロメット1が外周から締め付ける圧力を受けて電線群90の周囲に均等に巡ることになる。なお、この場合、グロメット1の拡径を解除した際に、成型充填剤20の仕切板22の先端部分が折れ落ちる可能性がある。例えば、くびれ部分223が折れて、頭部222が基部221から分離する可能性がある。ここで、グロメット取付領域Tに配置された成型充填剤20は、仕切板22の先端が電線群90の外側に突出した状態となっているため(図4、図5参照)、グロメット1の拡径を解除した際に折れた仕切板22の先端部分は電線群90の周囲に被さるように倒れ込むことになる。したがって、グロメット1の加熱を開始すると、電線群90の周囲に被さるように倒れ込んでいる仕切板22の折れた部分(例えば、基部221から分離した頭部222)が融解することにより、電線群90の周囲に流動化した充填剤2が巡ることになる。
【0041】
このように、グロメット1の拡径を解除した後にグロメット1の加熱を開始する構成としても、電線群90の電線間の隙間と、電線群90の周囲とに充填剤2を確実に充填することができる。ひいては、グロメット1を確実に止水することができる。
【0042】
また、上記の実施の形態において、第1工程の後であって第2工程を行う前に(すなわち、成型充填剤20をワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの電線群90中に配置した後であって、グロメット1をワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tに外嵌する前に)、成型充填剤20が配置されたワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの周囲に、発泡体により構成されるシート(発泡シート3)を巻く構成としてもよい。
【0043】
図8は、成型充填剤20が配置されたワイヤハーネス900のグロメット取付領域に発泡シート3が巻かれた状態を示す図である。ただし、図8においては、電線群90を充填材封入体20の端の位置で切断して示している。
【0044】
発泡シート3として、例えば、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等の半独立気泡構造を有する発泡体のシートを用いることができる。
【0045】
発泡シート3を巻き付ける工程は、作業者が例えば次の作業を行うことによって行われる。すなわち、作業者は、まず発泡シート3にシリコンを塗布する。続いて、シリコンを塗布した発泡シート3を、成型充填剤20が配置されたワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの周囲に巻き付ける。そして、テープ31によって発泡シート3を固定する。ただし、発泡シート3を巻き付ける方法は必ずしも上記のものでなくともよい。
【0046】
成型充填剤20が配置されたワイヤハーネス900のグロメット取付領域Tの周囲に巻かれた発泡シート3は、グロメット1の拡張が解除された際に、電線挿通部12の弾性回復力により電線群90の周囲に圧接される。すなわち、電線群90の周囲(具体的には、グロメット取付領域Tの周囲)は発泡シート3によりシールされる。これによって、加熱工程において溶融した充填剤2がグロメット取付領域Tの外側に流出することを防止できる。
【0047】
なお、発泡シート3を巻く場合、ワイヤハーネス900内に配置されている成型充填剤20の仕切板22の先端部分が折れてしまわないように、発泡シート3をきつく締め付けずに軽く巻いておくことが好ましい。ただし、発泡シート3は発泡体により構成されているため、発泡シート3の巻きが甘くても、グロメット1の拡張が解除されると、電線挿通部12の弾性回復力により発泡シート3は電線群90の周囲に圧接され、発泡シート3は電線群90の周囲(具体的には、グロメット取付領域Tの周囲)を確実にシールする。すなわち、発泡シート3の巻きが甘くともシール性に問題はなく、充填剤2がグロメット取付領域Tの外側に流出することを防止できる。
【符号の説明】
【0048】
1 グロメット
2 充填剤
9 電線
20 成型充填剤
21 芯部
22 仕切板
221 基部
222 頭部
223 くびれ部分
90 電線群
900 ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸水領域の内と外とを仕切る車体パネルに形成された貫通孔を貫通させるワイヤハーネスに装着するグロメットの止水構造の製造方法であって、
a)加熱により溶融して流動性をもち冷却により硬化する性質を有する固形の充填剤を、途中に肉薄のくびれ部分が形成され、前記くびれ部分の先に肉厚の頭部が形成された仕切板が、中心部から放射状に複数個突出した形状に成型した成型充填剤を、電線群を集束して形成される前記ワイヤハーネスにおける前記グロメットの取付領域の前記電線群中に、前記中心部を前記電線群の中央に位置させるとともに前記電線群の電線間に前記仕切板を挿通させて前記頭部を前記電線群の外側に突出させた状態で配置する工程と、
b)前記電線群中に前記成型充填剤を配置した前記ワイヤハーネスに、前記グロメットを外嵌する工程と、
c)前記ワイヤハーネスが内挿された前記グロメットを加熱して、前記仕切板の前記くびれ部分を溶解させて前記頭部を前記仕切板の基部から分離させ、分離した前記頭部を溶融させて、流動化した充填剤を前記電線群の周囲に巡らせるとともに、前記電線間に挿通された前記仕切板の前記基部を溶融させて、流動化した充填剤を前記電線群間の隙間に浸透させる工程と、
を備えるグロメットの止水構造の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグロメットの止水構造の製造方法であって、
前記複数の仕切板が、
先端に行くにしたがって薄くなる先薄形状に形成された基部、
を備え、
前記基部の先端に前記頭部が形成されることを特徴とするグロメットの止水構造の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のグロメットの止水構造の製造方法であって、
前記充填剤が、EVA系樹脂組成物からなることを特徴とするグロメットの止水構造の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法で製造されたグロメットの止水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−33271(P2012−33271A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169022(P2010−169022)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】