説明

ケトン化合物を用いた2級アルコール又はジケトン化合物の製法

【課題】高価かつ有害な金属水素化物又は金属塩を用いることなく、かつ、従来法のよう
に不活性ガス雰囲気下に制限されずに、ケトン化合物を原料として、2級アルコール又は
ジケトン化合物を合成する新規な還元反応を提供すること。
【解決手段】ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の電子を
含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い、ケトン化合物を溶媒
中において、還元させて2級アルコール又はジケトン化合物を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトン化合物の還元反応による2級アルコール又はジケトン化合物の製法に
関する。
【背景技術】
【0002】
アリール基(または/ないし)アルキル基を含む2級アルコールおよびジケトンは、医
薬品、色素などの中間化合物として広く使われており、それら化合物を、環境にやさしい
安全な方法で合成することが必要である。
【0003】
ケトン化合物の還元反応による2級アルコールの合成には、NaBH,LiBH
LiAlH、およびZn(BHなどのホウ素、アルミニウムを含む金属水素化物
が還元剤として機能することが知られている。しかし、該金属水素化物は、高価かつ有害
であり、さらに、これらの金属水素化物は、水分の存在を極度に嫌い、乾燥雰囲気及び水
分を含まない乾燥溶媒中でしか使用できないという欠点がある。他に、ポリメチルヒドロ
シロキサンを触媒量のフッ化テトラブチルアンモニウムの存在下で反応させてケトンのカ
ルボニル基を還元してアルコール化合物を得る方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
1970年にH.B.Bartlらは、12CaO・7Al(以下、「C12A
7」と記す)結晶が2分子を含む単位胞にある66個の酸素イオンの内の2個が、結晶中
に存在するケージ(籠)内空間に「フリー酸素」として包接されているという、特異な結
晶構造を持つことを示した(非特許文献1)。以降、このフリー酸素イオンが種々の陰イ
オンで置換できることが明らかにされた。特に、強い還元雰囲気にC12A7を保持する
と、すべてのフリー酸素を電子で置き換えることができる。フリー酸素を電子で置き換え
たC12A7:e−は、エレクトライドとみなすことができる。
【0005】
エレクトライド化合物は、J.L.Dyeがはじめて提案した概念であり(非特許文献
2)、クラウンエーテルを陽イオンとして、電子を陰イオンとした化合物などではじめて
実現した。エレクトライドは、陽イオンとして含まれる電子のホッピングにより電気伝導
性を示すことが知られている。その後、いくつかの有機エレクトライドが見出されたが、
これらの化合物は、いずれも、マイナス100℃程度以下の低温でのみ安定であり、空気
や水と反応する著しく不安定な化合物である。
【0006】
本発明者らは、電気伝導性C12A7及び同型化合物とその製造法に関する発明を特許
出願した(特許文献2)。また、C12A7単結晶をアルカリ金属又はアルカリ土類金属
蒸気中で、高温でアニールすること、C12A7単結晶にArなどの不活性イオンをイオ
ン打ち込みすること、または、還元雰囲気で、融液から直接C12A7単結晶を固化する
ことで、10S/cm以下の電気伝導度を有するC12A7化合物が得られることを見
出し、これらに関する発明を特許出願した(特許文献3)。さらに、C12A7単結晶を
チタン金属(Ti)蒸気中でアニールし、金属電気伝導性を示すC12A7を得ることに
成功し、その製法及び電子放出材料としてのその用途に関する発明を特許出願した(特許
文献4)。
【0007】
これらの良電気伝導性を示すC12A7化合物は、該化合物中のフリー酸素イオンがほ
とんど全て電子で置換されたものであり、実質的に[Ca24Al2864]4+(4e
)と記述され、無機エレクトライド化合物とみなすことができる(非特許文献3)。
【0008】
C12A7エレクトライドに包接される電子は、陽イオンと緩く結合しているために、
電場印加または化学的な手段により、外部に取り出すことができる。外部に取り出された
電子は、還元反応に用いることができると考えられるが、C12A7エレクトライドに包
接される電子を直接、還元反応に応用した例は知られていない。
【0009】
【非特許文献1】H.B.Bartl,T,Scheller and N.Jarhrb Mineral Monatsh 1970,35,547−552
【非特許文献2】F.J.Tehan,B.L. Barrett,J.L.Dye J.Am.Chem.Socity 96、7203-7208(1974)
【非特許文献3】S.Matsuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Tanaka and H.Hosono,Science,301,626−629(2003)
【特許文献1】特開平10−87530号公報
【特許文献2】WO2005/000741
【特許文献3】特開2004−26608号公報
【特許文献4】特願2005−339538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、合成反応に高価かつ有害な金属水素化物又は金属塩を用いることなく
、かつ、従来法のように反応雰囲気が不活性ガス雰囲気下に制限されずに、ケトン化合物
を原料として、2級アルコール又はジケトン化合物を合成する新規な還元反応を提供する
ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、電気伝導性を示すC12
A7エレクトライドを還元剤として用いると、空気下においても、水、有機溶媒、又は水
−有機混合溶媒中でケトン化合物の還元反応が進行することを見出した。
【0012】
本発明は、ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の電子を
含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式1の化合
物1で示されるケトン化合物を水、有機溶媒、又は水―有機溶媒の混合溶媒中において還
元させて下記反応式1の化合物2で示される2級アルコールを合成することを特徴とする
2級アルコールの製法、である。
【0013】
(反応式1)
【化4】

ただし、R及びRは、アリール基及びアルキル基から選ばれる官能基であり、R及び
の少なくとも一方は、アリール基を含む。
【0014】
また、本発明は、ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の
電子を含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式2
の化合物3で示されるアリールケトン化合物(アントロンanthron)を水―有機溶媒の混
合溶媒中において2量化させて下記反応式2の化合物4で示されるジアントロンを合成す
ることを特徴とするジアントロンの製法、である。
【0015】
(反応式2)
【化5】

【0016】
さらに、本発明は、ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下
の電子を含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式
3の化合物5で示される炭素2重結合を含むケトン化合物(カルコンchalcone)を水―有
機溶媒の混合溶媒中において2量化させて下記反応式3の化合物6及び化合物7で示され
るジカルコンを合成することを特徴とするジカルコン混合物の製法、である。
【0017】
(反応式3)
【化6】

【0018】
[12CaO・7Al(C12A7)エレクトライドの定義]
C12A7の結晶構造には、2分子から構成される単位胞当たり、12個のケージ(籠
)が存在し、そのうちの2個のケージに酸素イオン(O2−)が包接されている。該酸素
イオンは、電子で部分的又は完全に置換することができる。完全に置換した場合の電子濃
度は、2.3×1021cm−3である。本発明において、包接された酸素イオンを、電
子で部分的(1×1019個電子cm−3以上2.3×1021個電子cm−3未満)又
は完全(2.3×1021個電子cm−3)に置換した化合物をC12A7エレクトライ
ド(C12A7:e)と定義する。
【0019】
C12A7エレクトライドは、化学当量組成のC12A7を、Ca金属蒸気中で、70
0℃付近でアニールする、あるいは、Ti金属蒸気中で、1100℃付近でアニールする
ことで、得ることができる。アニール時間により、C12A7中の電子濃度は多くなる。
Ti金属蒸気処理の場合は、24時間程度アニールすれば、3mm厚の単結晶C12A7
でも、理論的最大電子濃度(2.3×1021cm−3)を有するC12A7エレクトライ
ドを得ることができる。また、化学当量組成のC12A7融液を還元雰囲気中で固化して
も良い。還元雰囲気中の固化で得られたC12A7エレクトライドの濃度は、1021
-3未満である。また、ArイオンをC12A7に高濃度にイオン打ち込みすること
によってもC12A7エレクトライドを作成できる。得られたC12A7エレクトライド
中の電子濃度は、2.8eVにピークを有する光吸収帯の強度から求めることができる。
電子濃度が小さいときは、電子スピン共鳴吸収帯の強度からも、電子濃度を求めることが
できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法により、合成反応に高価かつ有害な金属水素化物又は金属塩を用いること
なく、かつ、従来法のように反応雰囲気が不活性ガス雰囲気下に制限されずに、短時間か
つ容易な操作でケトン化合物を原料として、2級アルコール又はジケトン化合物を合成す
ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のケトン化合物の還元方法(以下、「本発明の方法」という)について詳
細に説明する。本発明の方法は、ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021
cm-3以下の電子を含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い
、ケトン化合物を水、有機溶媒、又は水―有機溶媒の混合溶媒中において、ケトン化合物
のカルボニル基C=OをCH−OHに変換して2級アルコールを合成する方法である。
ケトン化合物は下記の式で示される化合物1を用いる。
【0022】
【化7】

R及びRが、アリール基及びアルキル基から選ばれる官能基であり、少なくともR及
びRの少なくとも一方は、アリール基である。好ましくは、R及びRは、メチル基、
フェニル基、フェニルシアノ基、又はフェニルメトキシ基から選ばれる1種である。ただ
し、R及びRが、同時にメチル基であるケトン化合物を除く。具体的には、p−シアノ
・メチル・ケトン、ジp―メトキシ・ケトン、ジフェニル・ケトンなどが挙げられる。例
えば、ケトン化合物としてp−シアノフェニル・メチル・ケトンを用いた場合は、還元反
応により、p−シアノフェニル・メチル・アルコールを生成することができる。
【0023】
また、本発明は、ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の
電子を含む12CaO・7Alエレクトライドを還元剤として用い、ケトン基以外
に他の活性基(炭素2重結合など)を含むケトン化合物を溶媒中において2量化してジケ
トンを合成する方法である。
【0024】
ケトン基以外に他の活性基を含むケトン化合物としては、下記の式で示されるアリール
ケトン化合物3(アントロン;9,10−ジヒドロアントラセン-9-オン)又は炭素2重結合
を含むケトン化合物5(カルコン;ベンジリデンアセトフェノン)を用いる。活性基を含
むケトン化合物として、アントロン又はカルコンを用いた場合には、ジアントロン又はジ
カルコンを生成することができる。
【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
還元剤として用いるC12A7エレクトライドは、粉末、固体焼結体、固体結晶など、
その形状はいずれでもよい。粉末のC12A7エレクトライドは、化学当量組成のC12
A7粉末をCa金属蒸気中又はTi金属蒸気中でアニールすればよい。また、固体焼結体
のC12A7エレクトライドは、化学当量組成のC12A7融液を還元雰囲気中で固化す
れば良い。また、固体単結晶のC12A7エレクトライドは、C12A7単結晶をCa金
属蒸気中又はTi金属蒸気中でアニールすればよい。還元反応速度を大きくするために、
固体試料は粉末に加工することが最適である。粉末加工は、乳鉢中での粉砕、ジェットミ
ルによる粉砕などを用いることができる。
【0028】
還元が容易なケトン化合物に対しては、C12A7中の電子の50%ほどが還元反応に
使われるので、電子濃度の高いC12A7エレクトライドほど望ましい。しかし、電子濃
度の少ないエレクトライドでも、投入量を増加すれば、ケトンの還元反応をすることがで
きる。電子濃度は1019cm-3〜2.3×1021cm-3であるが、より好ましくは
1020cm-3〜2.3×1021cm-3である。融液を還元雰囲気で固化して、直接
得られるC12A7エレクトライドの電子濃度は1019cm-3以上であり、該低電子
濃度エレクトライドもケトンの還元剤として有効である。
【0029】
ケトンの還元による2級アルコールの生成反応では、溶媒に水、メタノール、エタノー
ル、プロパノールなどのアルコール類やテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチ
ルエーテルなどのエーテル類、クロロホルムや塩化メチレン、ベンゼン、トルエン、N,
N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒や、これらの混合有機
溶媒又は水−有機溶媒の混合溶媒が用いることができるが、環境面からは、水のみ、又は
水を含む有機溶媒の混合溶媒が好ましい。有機溶媒の容量割合(有機溶媒/水+有機溶媒
)が増加すると還元反応速度が小さくなり、該割合は、0以上80以下が望ましい。
【0030】
一方、ケトン化合物の2量化反応では、水のみの溶媒では、反応が進行しないので、水
−有機溶媒の混合溶媒を用いる。有機溶媒としては、CHCN、Et-OH、t−Bu
−OH、ジオキサン(HO−CHCH−OH)、テトラヒドロフラン(THF)など
を用いることができる。アントロンの2量化反応においては、副産物を生じない点で、C
CNが適している。また、カルコンの2量化反応においては、収率が高い点で、テト
ラヒドロフラン(THF)が適している。
【0031】
ケトンの還元反応及び2量化反応のいずれにおいても、ケトン化合物に対するC12A
7エレクトライドの使用量(C12A7/ケトン化合物)は、重量比で2〜20倍程度で
あることが好ましい。2倍未満では、還元反応速度が小さくなり、また、20倍超では、
溶液の粘度が増加して、スムースな撹拌がしにくくなる。より好ましくは、5〜15倍程
度である。本発明の方法においては、C12A7エレクトライドに含まれる電子は還元反
応において放出されてその電子がケトン化合物と反応するので、触媒は、特に必要としな
い。
【0032】
還元反応の圧力は、常圧、加圧、減圧の何れであってもよく、空気中、不活性雰
囲気のいずれでもよいが、生産性の点からは1気圧の空気雰囲気下が好ましい。反応
温度については、反応温度の上昇と共に還元反応速度は速くなるので、生産性の点で
は高温が望ましいが、100℃を超えると副反応などにより収率が低下するので10
0℃以下が好ましい。一方、反応操作が簡便に行える面では、室温が望ましい。0℃
未満では、水が凍って しまう。好ましくは、25℃以上、100℃以下、より好ま
しくは50℃以上、100℃以下である。還元反応時間は、ケトン化合物の種類及び
反応温度などに依存するが、15時間から96時間程度で還元反応は完結する。
【0033】
他の活性基を含むケトンの2量化反応では、酸素ガスを含む大気中でもジケトンの生成
は可能である。しかし、大気中では、該活性基が酸化された副産物が生成するので、ジケ
トン化合物を選択的に合成するためには、不活性ガス雰囲気がより好ましい。不活性ガス
雰囲気としては、経済的な面で窒素ガス雰囲気が適している。
【0034】
好ましくは、単結晶C12A7エレクトライド又は多結晶エレクトライドを乳鉢で粉砕
し、平均粒径約10μmの粉末にして還元剤とする。該粉末をケトン化合物に加え、上記
のような条件で、溶媒中で攪拌混合する。次いで、後処理として反応溶液から生成物を抽
出する。抽出方法は、反応溶液からの抽出方法として採用される公知の方法でよい。
【0035】
すなわち、例えば、反応溶液に塩酸を加えた後、例えば、酢酸エチルを加えて、生成物
を抽出する。該抽出プロセスを3回程度繰り返した後、重曹水及び食塩水で生成物を洗浄
し、硫酸マグネシウムを加えて、水を吸着させ、水分を除く。次に、硫酸マグネシウムを
ろ別し、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製する。最終生成
化合物は、化学的前処理とカラムクロマトグラフィーにより分離できる。該化合物の同定
及び原料からの変換率は、Hの核磁気共鳴スペクトルから求めることができる。
【0036】
ケトンの2量化反応の変換率は、溶媒の種類及び反応雰囲気のガスの種類に依存するが
、40〜60%程度の範囲である。また、副生成物の生成の有無、化学構造も溶媒の種類
及び反応雰囲気のガスの種類に依存する。例えば、アントロンを2量化して、ジアントロ
ンを生成する反応では、シアノメタンを溶媒として、乾燥窒素雰囲気で反応させると、副
生成物は生成されず、ジアントロンのみが生成さる。しかし、空気中で反応させると、ア
ントロンが酸化された下記の式[化10]で示すアントラキノンが、変換率30%程度で
生成される。また、溶媒として、ジオキサンを用いると、アントロンとジオキサンが結合
した下記の式[化11]で示す副生成物が、変換率20%程度で、生成する。
【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
以下に、実施例により、本発明をより詳細に説明する。
(C12A7エレクトライドの調製)
電子濃度が約2×1021cm−3のC12A7エレクトライドを準備した。このC1
2A7エレクトライドは以下の方法で製造した。チョコラルスキー法で作成したC12A
7単結晶インゴットから、10mm×10mm×3mmの板を切り出し、Ti金属と共に
、石英管中に真空封入した。該石英管を、電気炉に入れ、1100℃に24時間保持した
後空冷した。得られたC12A7エレクトライドの電子濃度は、該エレクトライドの光反
射スペクトルを光吸収スペクトルに変換し、2.8eVの吸収バンドの強度から求めた。
この単結晶C12A7エレクトライドを乳鉢で粉砕し、平均粒径約10μmの粉末を得た

【実施例1】
【0040】
(2級アルコールの合成)
表1に記載した原料(化合物1)として、No.1のR及びR基を有するケトン化合
物10mgと、C12A7エレクトライド196mgと、溶媒(水:ジオキサン=1:4
)5mLとを容量10mLのナスフラスコに入れ、大気中開放状態で、表1に記載した反
応時間、反応温度で撹拌混合しながら反応させて反応溶液を形成した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
次に、反応溶液を容量50mLのナスフラスコに移し、塩酸(1N、7mL)を加えた
後、酢酸エチル(20mL)を加えて、生成物を抽出した。該抽出プロセスを3回繰り返
した後、重曹水及び食塩水で生成物を洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて、水を吸着させ
、水分を除いた。次に、硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を留去し、カラムクロマトグラ
フィー(シリカゲル)で精製し、純度98%超の化合物を得た。化合物の同定は、H
核磁気共鳴スペクトルで行った。生成物(化合物2)を表2に示す。化合物は、表2にの
RRHC−OHで示される2級アルコールであった。精製した2級アルコールの収率は
59%であった。
【実施例2】
【0044】
原料(化合物1)として、表1のNo.2のR及びR1基を有するケトン化合物を用い、
エレクトライドの量及び反応時間を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同じ条件で
反応させ、表2のRRHC−OHで示される2級アルコールが得られた。収率は3%で
あった。
【実施例3】
【0045】
原料(化合物1)として、表1のNo.3のR及びR基を有するケトン化合物を用い、
エレクトライドの量及び反応時間を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同じ条件で
反応させ、表2のRRHC−OHで示される2級アルコールが得られた。収率は57%
であった。
【実施例4】
【0046】
(ジアントロンの合成)
アントロン10mgと、C12A7エレクトライド164mgを水とシアノメタン(1
:4)混合溶媒に入れ、容量10mLのナスフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気で、12時
間、100℃で撹拌しながら反応させて反応溶液を形成した。
【0047】
次に、反応溶液を容量50ミリリッタ(mL)のナスフラスコに移し、塩酸(1N、7
mL)を加えた後、酢酸エチル(20mL)を加えて、生成物を抽出した。該抽出プロセ
スを3回繰り返した後、重曹水及び食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて、水を吸
着させ、水分を除いた。次に、硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を留去し、カラムクロマ
トグラフィー(シリカゲル)で精製し、純度98%超の化合物を得た。化合物の同定は、
の核磁気共鳴スペクトルで行った。化合物は、ジアントロンであった。生成物の重量
から求めた収率は、45%であった。
【実施例5】
【0048】
(ジカルコンの合成)
カルコン100mgと、C12A7エレクトライド1200mgを水とTHF(1:4
)混合溶媒に入れ、容量10mLのナスフラスコ中で、窒素ガス雰囲気で、18時間、2
5℃の条件で撹拌しながら反応させて反応溶液を形成した。
【0049】
次に、反応溶液を容量50mLのナスフラスコに移し、塩酸(1N、7mL)を加えた
後、酢酸エチル(20mL)を加えて、生成物を抽出した。該抽出プロセスを3回繰り返
した後、重曹水及び食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて、水を吸着させ、水分を
除いた。次に、硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(
シリカゲル)で精製し、化合物を得た。化合物の同定は、Hの核磁気共鳴スペクトルで
行った。化合物は、化合物6及び化合物7で示されるジカルコン混合物であった。生成物
の重量から求めたそれぞれの収率は、化合物6は、5%、化合物7は、23%であった。

[比較例1]
【0050】
C12A7エレクトライドの代わりに、電子を含まない化学当量組成のC12A7粉末
を用いた以外は、実施例1と同じ条件で反応させた。反応後もケトン化合物のみが検出さ
れ、還元反応は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、薬剤の中間化合物などとして使用される2級アルコールまたはジケトンを高
効率、短時間で合成する方法を提供するものである。また、重金属などの触媒を必要とし
ない水溶媒中または、水と有機溶媒との混合溶媒中での反応であり、有害な物質を必要と
しない環境性に優れた、安全な合成法を提供する。また、大気中、室温での反応が可能で
あることから、安価な合成法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の電子を含む12Ca
O・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式1の化合物1で示され
るケトン化合物を水、有機溶媒、又は水―有機溶媒の混合溶媒中において還元させて下記
反応式1の化合物2で示される2級アルコールを合成することを特徴とする2級アルコー
ルの製法。
(反応式1)
【化1】

ただし、R及びRは、アリール基及びアルキル基から選ばれる官能基であり、R及びR
の少なくとも一方は、アリール基を含む。
【請求項2】
R及びRは、メチル基、フェニル基、フェニルシアノ基、又はフェニルメトキシ基から
選ばれる1種(ただし、R及びRが、同時にメチル基であるケトン化合物を除く。)で
あることを特徴とする請求項1記載の2級アルコールの製法。
【請求項3】
該有機溶媒、又は該混合溶媒の有機溶媒が、ジオキサンであることを特徴とする請求項1
記載の2級アルコールの製法。
【請求項4】
ケトン化合物に対する12CaO・7Alエレクトライドの使用量(12CaO・
7Al/ケトン化合物)が重量比で2〜20倍であることを特徴とする請求項1記
載の2級アルコールの製法。
【請求項5】
反応雰囲気が空気中であることを特徴とする請求1記載の2級アルコールの製法。
【請求項6】
ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の電子を含む12Ca
O・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式2の化合物3で示され
るアリールケトン化合物(アントロン)を水―有機溶媒の混合溶媒中において2量化させ
て下記反応式2の化合物4で示されるジアントロンを合成することを特徴とするジアント
ロンの製法。
(反応式2)
【化2】

【請求項7】
有機溶媒は、CHCN,Et-OH,t−Bu−OH、又はジオキサン(HO−CH
CH−OH)のうちから選ばれることを特徴とする請求項6記載のジアントロンの製法

【請求項8】
反応雰囲気が不活性ガス中であることを特徴とする請求項6記載のジアントロンの製法。
【請求項9】
ケージ内に、1019cm-3以上、2.3×1021cm-3以下の電子を含む12Ca
O・7Alエレクトライドを還元剤として用い、下記反応式3の化合物5で示され
る炭素2重結合を含むケトン化合物(カルコン)を水―有機溶媒の混合溶媒中において2
量化させて下記反応式3の化合物6及び化合物7で示されるジカルコンを合成することを
特徴とするジカルコン混合物の製法。
(反応式3)
【化3】

【請求項10】
有機溶媒がテトラヒドロフラン(THF)であることを特徴とする請求項9記載のジカル
コンの製法。

【公開番号】特開2008−214302(P2008−214302A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56820(P2007−56820)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】