説明

ケト化合物の立体選択的還元に用いる酸化還元酵素

本発明は、ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元し、補因子の存在下において上記ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法であって、(a)配列番号1、6および8に示されるアミノ酸配列の何れか1つの配列のアミノ酸と少なくとも70%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも55%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも75%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(f)配列番号7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも50%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、または、(g)配列番号129に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも72%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、からなる酸化還元酵素を用いることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法であり、ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法に関する。さらに本発明は、ケト化合物をキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に還元するときに用いる新規な酸化還元酵素に関する。
【0002】
光学活性ヒドロキシ化合物は、薬理活性のある化合物、芳香剤、フェロモン、農薬および酵素阻害剤の合成に幅広く応用できる有用なキラル合成子(chiron)である。将来、おそらくラセミ化合物は医薬品としてほとんど使われなくなるため、キラル化合物およびキラル合成技術の需要の増加が、とりわけ製薬業界において注目されている。
【0003】
プロキラルケト化合物の不斉還元は立体選択性触媒の分野であり、その中で生体触媒は、化学触媒に対する強力な競合技術である。化学的な不斉水素付加では、毒性が強く環境に有害である重金属触媒を使用する必要がある。また、大量の有機溶媒だけでなく、過度で、そのためエネルギーを大量消費する反応条件も必要となる。さらには、これらの方法には、副反応が生じ、エナンチオマー過剰率が不十分であるという特徴が頻繁にみられる。
【0004】
現実には、全ての個体内で、プロキラルケト化合物からヒドロキシ化合物への還元およびその逆の反応が、多くの生化学的経路において、一次代謝および二次代謝のいずれにおいても起こっており、様々なタイプの第二級アルコール脱水素酵素および酸化還元酵素による触媒反応が起こっている。通常、これらの酵素は補因子依存性である。
【0005】
プロキラルケト化合物をキラルヒドロキシ化合物に還元するために生体触媒を用いる基本的な実行可能性は、モデルシステムに基づきこれまでに繰り返し示されてきており、そこでは、単離した酸化還元酵素および様々な全細胞生体内変換システム(whole-cell biotransformation systems)が研究に用いられている。その結果、反応条件が穏やかであり、副生成物が生成されず、また、ときには極めて優れたエナンチオマー過剰率を達成できる点において、本生体触媒のアプローチは、本質的に利点があることが明らかになっている。
【0006】
生成物の単離に関してはもとより、達成できるエナンチオマー過剰率、分解産物および副生成物の形成に関しても、単離した酵素を使用する方法は、全細胞系も含めた方法よりも有利である。さらに、全細胞処理を利用するには、特定の設備およびノウハウが必要であるため、必ずしも全ての化学企業に利用可能というわけではない。
【0007】
近年、有機溶媒を用いた水/有機二相システムにおける単離酸化還元酵素の使用は、効率が極めて高く経済的であり、かつ高濃度(>5%)でも使用可能であることが、実証できてきている。還元されるケト化合物は、通常は水に難溶であるが、上述したシステムにおいては、還元されるケト化合物は有機溶媒とともに有機相を形成している。また、有機溶媒そのものを、部分的に用いずに済ますことができる。この場合には、有機相は、還元されるケト化合物により形成されている(DE10119274、DE10327454.4、DE10337401.9、DE10300335.5)。補酵素の再生は、同時に起こる第2級アルコールの酸化によって達成される。このために、多くの場合には、安価な水混和2−プロパノールが用いられる。
【0008】
エナンチオ選択性が高く、適したR−およびS−特異的酸化還元酵素および脱水素酵素の例としては:
カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)由来のカルボニル還元酵素(CPCR)(US5,523,223およびUS5,763,236(Enzyme Microb Technol. 1993 Nov;15(11):950-8))およびピキア・カプスラタ(Pichia capsulata)のカルボニル還元酵素(DE10327454.4)。ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)由来のカルボニル還元酵素(RECR)(US5,523,223)、ノルカルディア・フスカ(Norcardia fusca)のカルボニル還元酵素(Biosci. Biotechnol. Biochem.,63(10) (1999), pp.1721-1729)、(Appl Microbiol Biotechnol. 2003 Sep;62(4): 380-6. Epub 2003 Apr 26)、およびロドコッカス・ルバー(Rhodococcus ruber)のカルボニル還元酵素(J Org Chem. 2003 Jan 24;68(2):402-6.)。
【0009】
ラクトバシルス属(ラクトバシルス・ケフィア(Lactobacillus kefir)(US5200335)、ラクトバシルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(DE19610984A1)(Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2000 Dec;56 Pt 12:1696-8)、ラクトバシルス・ミノール(Lactobacillus minor)(DE10119274)、またはシュードモナス(Pseudomonas)(US05385833)(Appl Microbiol Biotechnol. 2002 Aug;59(4-5):483-7. Epub 2002 Jun 26.,J. Org. Chem. 1992, 57, 1532))由来のR−特異的第2級アルコール脱水素酵素。
【0010】
しかしながら、現在知られている酵素では、ケト化合物の立体選択的還元に関する市場のポテンシャル全体を生かすには到底十分ではない。一方、このことは、各酵素が、温度安定性および溶媒安定性はもとより、基質範囲、至適pH条件について、大きな性質の違いがあるという事実により説明できる。これらの違いはしばしば、各酵素がお互いに補完している。そのため、比較的に類似した相同な酵素であっても、ある特定の基質について全く異なる変換様式を示すことがある。一方、記載されているほとんど全ての酵素がクローン化されておらず、十分な量まで大量発現させられるものではない。このことは、これらの酵素が産業利用できるものではないことを意味している。酵素による不斉水素付加の合成ポテンシャルを可能な限り広範囲に生かすために、可能な限り幅広く異なる産業に利用し得る酸化還元酵素であり、有機溶媒を含む水/有機二相システムにおける使用に適している酸化還元酵素の製品ラインを保有していることが必須である。
【0011】
本発明の内容は、ケト化合物を対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法に加えて、大腸菌(Escherichia coli)(>500units/g E.coliウェットバイオマス)において優れた発現性を有していることはもとより、水/有機二相システムにおいて安定性に優れていることを特徴とする、複数の新規な、エナンチオ選択的R−およびS−特異的酸化還元酵素である。
【0012】
本発明に係る酸化還元酵素は、
(a)配列番号1、6および8に示されるアミノ酸配列の何れか1つの配列のアミノ酸と少なくとも70%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも55%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも75%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(f)配列番号7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも50%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、または
(g)配列番号129に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも72%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、からなることを特徴としている。
【0013】
配列番号1に示されるポリペプチドは、酵母、特にロドトルラ(Rhodotorula)属の酵母、特にロドトルラ・ムシラギノサ(Rhodotorula mucilaginosa)から得ることができる。
【0014】
本発明のさらなる内容は、配列番号9に示される核酸配列であり、この核酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。
【0015】
ロドトルラ・ムシラギノサ由来の酸化還元酵素は、例えば、2−オクタノンをS−2−オクタノールに還元し、2−オクタノールの二つの鏡像異性体のうちからS−2−オクタノールを優先的に酸化する。ロドトルラ・ムシラギノサ由来の酸化還元酵素は、例えば、SDS−ゲルにより決定される分子量が30±2kDaであるホモダイマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは、7.0から8.0までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは、8.5から10.0までの範囲内である。ロドトルラ・ムシラギノサ由来の酸化還元酵素は、優れた温度安定性およびpH安定性を示し、pHが5.5から10までの範囲内にあり温度が35℃以下においては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。さらには、ロドトルラ・ムシラギノサ由来の酸化還元酵素は、有機溶媒中で高い安定性を示す。
【0016】
配列番号2または配列番号8に示されるポリペプチドは、酵母、特にピキア属、カンヂダ属、パチソレン(Pachysolen)属、デバロミセス(Debaromyces)属またはイッサチェンキア(Issatschenkia)属の酵母、特にピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)DSMZ3316またはカンジダ・ネモデンドラ(Candida nemodendra)DSMZ70647から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号10に示される核酸配列および配列番号16に示される核酸配列であり、これらの核酸配列は、それぞれ、配列番号2および配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードしている。この酸化還元酵素は、2−ブタノンをR−2−ブタノールに優先的に還元し、2−ブタノールの二つの鏡像異性体のうちからR−2−ブタノールを優先的に酸化する。
【0017】
ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素は、R−2−オクタノールよりもR−2−ブタノールおよび2−プロパノールに対して極めて高い活性を示し、さらにこの酵素は、2−オクタノンよりもアセトンおよび2−ブタノンに対して極めて高い活性を示す。
【0018】
一方、カンジダ・ネモデンドラ由来の酸化還元酵素は、R−2−ブタノール、2−プロパノールおよびR−2−オクタノールの何れに対しても同じような活性を示し、さらにこの酵素は、2−オクタノンに対してほぼ同様の活性を示す。
【0019】
ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が27±2kDaであるホモダイマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは5.0から6.0までの範囲内であり、酸化反応における至適pHは7.5から10までの範囲内である。ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素は、優れたpH安定性および溶媒安定性を示し、pHが5.5から10までの範囲内にあっては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0020】
カンジダ・ネモデンドラ由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が27±2kDaであるホモダイマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHはpH6であり、酸化反応の至適pHは10から11までの範囲内である。カンジダ・ネモデンドラ由来の酸化還元酵素は、優れたpH安定性および溶媒安定性を示し、pHが6.5から9.5までの範囲内にあっては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0021】
配列番号3または配列番号7に示されるポリペプチドは、酵母、特にピキア属およびカンジダ属の酵母、特にピキア・スティピディス(Pichia stipidis)DSMZ3651およびピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)DSMZ70391から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号11に示される核酸配列および配列番号15に示される核酸配列であり、これらの核酸配列はそれぞれ、配列番号3および配列番号7に示されるポリペプチドをコードしている。
【0022】
ピキア属およびカンジダ属の酵母由来のカルボニル還元酵素は、配列番号3に示されるアミノ酸配列と少なくとも65%が一致しているかまたは配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも50%が一致しており、2−オクタノンをS−2−オクタノールに優先的に還元し、2−オクタノールの二つの鏡像異性体のうちからS−2−オクタノールを優先的に酸化する。これらの酵素はとりわけ、4−ハロアセト酢酸エステルをR−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに還元することに適している。
【0023】
ピキア・スティピディス由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が36±2kDaであるホモダイマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは5.5から6.5までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは6.5から8.0までの範囲内である。ピキア・スティピディス由来の酸化還元酵素は、優れたpH安定性および溶媒安定性を示し、pHが5.5から10までの範囲内にあっては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0024】
ピキア・トレハロフィラ由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が36±2kDaであるホモマー(homomer)である。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは7から7.5までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは7から8までの範囲内である。
【0025】
配列番号4に示されるポリペプチドは、ロイコノストック(Leuconostoc)綱の細菌、特にロイコノストック・カルノサム(Leuconostoc carnosum)DSMZ5576から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号12に示される核酸配列であり、この核酸配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。このポリペプチドは、とりわけ、2−オクタノンからR−2−オクタノールへの還元およびR−2−オクタノールの酸化に適している。本ポリペプチドはまた、4−ハロアセト酢酸エステルをS−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに還元することにも非常に適している。
【0026】
ロイコノストック・カルノサム由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が27±2kDaであるホモダイマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは5.0から6.0までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは6.0から9.0までの範囲内である。ロイコノストック・カルノサム由来の酸化還元酵素は、優れた温度安定性、pH安定性および溶媒安定性を示し、pHが4.5から10までの範囲内であり温度が35℃以下においては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0027】
配列番号5に示されるポリペプチドは、アクチノバクテリア(Actinobacteria)綱の細菌、特にミクロバクテリウム(Microbacterium)綱の細菌、特にミクロバクテリウム・スピーシーズ(Microbacterium spec.)DSMZ20028から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号13に示される核酸配列であり、この核酸配列は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。このポリペプチドは、2−オクタノンからS−2−オクタノールへの還元に非常に適しており、また2−オクタノールの二つの鏡像異性体のうちからS−2−オクタノールを優先的に酸化することに非常に適している。本ポリペプチドはまた、4−ハロアセト酢酸エステルをR−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに還元することにも非常に適している。
【0028】
ミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028由来の酸化還元酵素は、例えば、SDS−ゲルにより決定した分子量が35±2kDaであるホモテトラマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは6.0から7.5までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは7.5から9.5までの範囲内である。ミクロバクテリウム・スピーシーズ由来の酸化還元酵素は、優れた温度安定性、pH安定性および溶媒安定性を示し、pHが4.5から10までの範囲内であり温度が50℃以下においては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0029】
配列番号6に示されるポリペプチドは、アクチノバクテリア綱の細菌、特にゴルドニア(Gordonia)綱の細菌、特にゴルドニア・ルブリペルティンクタ(Gordonia rubripertincta)DSMZ43570から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号14に示される核酸配列であり、この核酸配列は、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。このポリペプチドは、2−オクタノンからS−2−オクタノールへの還元に非常に適しており、また2−オクタノールの二つの鏡像異性体のうちからS−2−オクタノールを優先的に酸化することに非常に適している。本ポリペプチドはまた、4−ハロアセト酢酸エステルをR−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに還元することにも非常に適している。
【0030】
ゴルドニア・ルブリペルティンクタDSMZ43570由来の酸化還元酵素は、SDS−ゲルにより決定した分子量が41±3kDaであるホモマーである。上記酸化還元酵素における還元反応の至適pHは4.5から5.5までの範囲内であり、酸化反応の至適pHは7.5から9.5までの範囲内である。ゴルドニア・ルブリペルティンクタDSMZ43570由来の酸化還元酵素は、優れた温度安定性、pH安定性および溶媒安定性を示し、pHが4.5から10までの範囲内であり温度が55℃以下においては、インキュベーションが数時間にわたっても、失活はわずかである。
【0031】
配列番号129に示されるポリペプチドは、酵母、特にロデロミセス(Lodderomyces)属の酵母、特にロデロミセス・エロンギスポラス(Lodderomyces elongisporus)DSMZ70320から得ることができる。本発明のさらなる内容は、配列番号130に示される核酸配列であり、この核酸配列は、配列番号129に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。このポリペプチドは、2−オクタノンからS−2−オクタノールへの還元に非常に適しており、また2−オクタノールの二つの鏡像異性体のうちからS−2−オクタノールを優先的に酸化することに非常に適している。本ポリペプチドはまた、4−ハロアセト酢酸エステルをR−4−ハロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルに還元することにも非常に適している。
【0032】
さらに本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示されるアミノ酸配列からなる酸化還元酵素またはこれらのホモログであり、N側末端またはC側末端においてさらなるポリペプチドとペプチド性に連結している酸化還元酵素を表すことを特徴とする融合タンパク質に関する。融合タンパク質は、例えば、他のタンパク質の中から、より容易に分離でき、組み換えにより大量に発現させることができる。
【0033】
さらに本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示される酸化還元酵素またはこれらのホモログに特異的に結合する抗体に関する。これらの抗体の産生は、適切な哺乳動物の免疫化およびその後の抗体の回収という公知の方法により行われる。抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
【0034】
アミノ酸配列の比較は、例えば、EMBL,GenBankなどのDNAデータベースのみならずSWISS−PROT、PIRなどのタンパク質データベースを用い、インターネットを介して、FASTAプログラムまたはBLASTプログラムにより実施できる。
【0035】
以上の実施により、BLAST(Basic Local Alignement Search Tool)(Altschul et al. 1990, Proc. Natl. Acd. Sci. USA. 87: 2264-2268)アルゴリズムの手法により最適なアラインメントを決定できる。ベースとして、配列の類似性を評価するスコアリングマトリックスとしてPAM30マトリックスを用いた(Dayhoff; M.O., Schwarz, R.M., Orcutt, B.C. 1978. "A model of evolutionary change in Proteins" in "Atlas of Protein Sequence and structure" 5(3) M.O. Dayhoff (ed) 345-352, National Biomedical Research foundation)。
【0036】
さらに、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり26以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0037】
本発明のさらなる内容は、MPATLRLDK(配列番号17)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、QALAAPSNLAPKA(配列番号18)のアミノ酸配列をC末端に含み、および/または、VEIIKTQVQD(配列番号19)、KVAIITGGASGIGL(配列番号20)、SCYVTPEG(配列番号21)、TDFKVDGG(配列番号22)、VMFNNAGIMH(配列番号23)およびVHAREGIRIN(配列番号24)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0038】
さらに、本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり15以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0039】
本発明のさらなる内容は、MAYNFTNKVA(配列番号25)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、TTLLVDGGYTAQ(配列番号26)のアミノ酸配列をC末端に含み、および/または、EYKEAAFTN(配列番号27)、NKVAIITGGISGIGLA(配列番号28)、DVNLNGVFS(配列番号29)、HYCASKGGV(配列番号30)、NCINPGYI(配列番号31)およびLHPMGRLGE(配列番号32)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0040】
さらに、本発明は、配列番号3に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり15以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0041】
本発明のさらなる内容は、MSIPATQYGFV(配列番号33)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、SAYEGRVVFKP(配列番号34)のアミノ酸配列をC末端に含み、および/または、CHSDLHAIY(配列番号35)、GYQQYLLVE(配列番号36)、TFDTCQKYV(配列番号37)、LLTPYHAM(配列番号38)、LVSKGKVKP(配列番号39)、GAGGLGVNG(配列番号40)、IQIAKAFGAT(配列番号41)およびLGSFWGTS(配列番号42)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0042】
さらに、本発明は、配列番号4に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり18以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0043】
本発明のさらなる内容は、MTDRLKNKVA(配列番号43)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、AEFVVDGGYLAQ(配列番号44)のアミノ酸配列をC末端に含み、および/または、VVITGRRAN(配列番号45)、GGASIINMS(配列番号46)、TQTPMGHI(配列番号47)およびGYIKTPLVDG(配列番号48)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0044】
さらに、本発明は、配列番号5に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり18以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0045】
本発明のさらなる内容は、MKALQYTKIGS(配列番号49)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、LAAGTVRGRAVIVP(配列番号50)のアミノ酸配列をC末端に含み、CHSDEFVMSLSE(配列番号51)、VYGPWGCGRC(配列番号52)、VSLTDAGLTPYHA(配列番号53)、LRAVSAATVIAL(配列番号54)およびDFVGADPTI(配列番号55)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0046】
同様に、本発明は、配列番号6に示されるアミノ酸配列の断片であり、1断片あたり26以上のアミノ酸からなる複数の断片を表していることを特徴とするタンパク質断片に関する。
【0047】
本発明のさらなる内容は、MKAIQIIQ(配列番号56)のアミノ酸配列をN末端に含み、および/または、DLRGRAVVVP(配列番号57)のアミノ酸配列をC末端に含み、および/または、TAAGACHSD(配列番号58)、TPYHAIKPSLP(配列番号59)、DFVGLQPT(配列番号60)、VYGAWGCG(配列番号61)、DDARHLVP(配列番号62)、MTLGHEGA(配列番号63)およびGGLGHVGIQLLRHL(配列番号64)の内部部分配列の何れか一つを含んでいる、微生物のカルボニル脱水素酵素に関する。
【0048】
さらに、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示されるカルボニル還元酵素またはこれらのホモログをコードする1つまたは複数の核酸配列を含むクローニングベクターに関する。また、本発明は、カルボニル還元酵素の他に、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素またはグルコース脱水素酵素などのNAD(P)の再生に適した酵素をコードしているクローニングベクター、を含んでいる。
【0049】
さらに、本発明は、細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞または哺乳動物細胞にある発現ベクターであり、かつ、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示されるカルボニル還元酵素またはこれらのホモログをコードし、適当な手段により発現制御配列とつながっている核酸配列を含んでいる発現ベクターに関する。さらに、本発明は、上記の発現ベクターによって形質転換またはトランスフェクトされている細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞または哺乳動物細胞である組換え宿主細胞、および、上記組換え宿主細胞を培養することによりカルボニル還元酵素を取得するための生成方法に関する。
【0050】
適したクローニングベクターとしては、例えば、ppCR−Script、pCMV−Script、pBluescript(Stratagene)、pDrive cloning Vector(Quiagen、ヒルデン、ドイツ)、pS Blue、pET Blue、pET LIC−vectors(Novagen、マディソン、米国)およびTA−PCR cloning vector(Invitrogen、カールスルーエ、ドイツ)である。
【0051】
適した発現ベクターとしては、例えば、pKK223−3、pTrc99a、pUC、pTZ、pSK、pBluescript、pGEM、pQE、pET、PHUB、pPLc、pKC30、pRM1/pRM9、pTrxFus、pAS1、pGEx、pMALまたはpTrxである。
【0052】
適した発現制御配列としては、例えば、trp−lac(tac)プロモータ、trp−lac(trc)プロモータ、lacプロモータ、T7プロモータまたはλpLプロモータである。
【0053】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示される酸化還元酵素またはそれらのホモログは、上述した組換え大腸菌を培養し、各酸化還元酵素の発現を誘導し、その後10時間から18時間後に、超音波処理、球状のミル内のグラスビーズによる湿式研削(wet grinding)(Retsch、GmbH、Haan Germany 10min、24Hz)または高圧ホモジェナイザーにより、細胞を破砕する、といった方法により得ることができる。得られた細胞抽出物は、直接使用してもよく、またはさらに精製してもよい。このために、細胞抽出物を例えば遠心分離し、得られた上清は、例えば、Q−Sepharose Fast Flow(登録商標)(Pharmacia)を用いたイオン交換クロマトグラフィーなどによるイオン交換クロマトグラフィーに供される。
【0054】
さらに、本発明は、ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法で、補因子の存在下において上記ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法であって、
(a)配列番号1、6および8に示されるアミノ酸配列の何れか1つの配列のアミノ酸と少なくとも70%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも55%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも75%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(f)配列番号7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも50%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、または
(g)配列番号129に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも72%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
からなる酸化還元酵素を用いることを特徴とする方法、に関する。
【0055】
本発明に係る方法のさらに好ましい形態は、上記ケト化合物は下記一般式Iで表され、
−C(O)−R ・・(I)
は、
(1)直鎖状または分枝鎖状である、−(C−C20)−アルキル基、
(2)直鎖状または分枝鎖状であり4以下の二重結合を有していてもよい、−(C−C20)−アルケニル基、
(3)直鎖状または分枝鎖状であり4以下の三重結合を有していてもよい、−(C−C20)−アルキニル基、
(4)−(C−C14)−アリール基、
(5)−(C−C)−アルキル−(C−C14)−アリール基、
(6)非置換であるか、または−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている−(C−C14)−複素環、または、
(7)−(C−C)−シクロアルキル基、
の何れか1つを表し、上記(1)から(7)の構成は、非置換であるか、または互いに独立に−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されており、
は、
(8)直鎖状または分枝鎖状である、−(C−C)−アルキル基、
(9)直鎖状または分枝鎖状であり3以下の二重結合を有していてもよい、−(C−C)−アルケニル基、
(10)直鎖状または分枝鎖状であり2以下の三重結合を有していてもよい、−(C−C)−アルキニル基、または、
(11)直鎖状または分枝鎖状であり、かつ、非置換であるか、または−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている、−(C−C10)−アルキル−C(O)−O−(C−C)−アルキル基、
の何れか1つを表し、上記(8)から(11)の構成は、非置換であるか、または互いに独立に−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている、ことを含んでいる。
【0056】
さらに、本発明は、ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法で、補因子の存在下において上記ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法であって、
(a)配列番号9、10、11、12、13、14、15、16および130からなる群より選択される1つの核酸配列によりコードされている酸化還元酵素、または
(b)上記(a)に記載されている核酸配列の1つに高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列の相補鎖の核酸配列によりコードされている酸化還元酵素、
を用いることを特徴とする方法に関する。
【0057】
用語「アリール」は、6から14個の炭素原子を環に含む芳香族炭素部分であることが理解される。−(C−C14)−アリール部分としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基などのナフチル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基および4−ビフェニリル基などのビフェニリル基、アントリル基またはフルオレニル基が挙げられる。アリール部分としては、ビフェニリル部分、ナフチル部分、および、特にフェニル部分が好ましい。用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素の族から選択される元素であることが理解される。用語「−(C−C20)−アルキル」は、炭素鎖が直鎖状または分枝鎖状であり、1から20個の炭素原子を含む炭化水素部分であることが理解され、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tertブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノネニル基またはデカニル基が挙げられる。用語「−(C)−アルキル」は、共有結合であることが理解される。
【0058】
用語「−(C−C)−シクロアルキル」は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはシクロヘプチル基などの環状炭化水素部分であることが理解される。
【0059】
用語「−(C−C14)−複素環」は、単環式または二環式で、部分的または完全に飽和している五員環から十四員環の複素環を表している。N、OおよびSがヘテロ原子の例である。用語「−(C−C14)−複素環」の例としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、テトラゾール、1,2,3,5−オキサチアジアゾール−2−オキシド、トリアゾロン、オキサジアゾロン、イソオキサゾロン、オキサジアゾリジネジオン、Fまたは−CNまたは−CFまたは−C(O)−O−(C−C)アルキルで置換したトリアゾール、3−ヒドロキシピロ−2,4−ジオン、5−オキソ−1,2,4−チアジアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、インドール、イソインドール、インダゾール、フタラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、カルボリン、および上記複素環のベンズ−アネレート化(benz-anellated)またはシクロペンタ−もしくはシクロヘキサ−もしくはシクロヘプタ−アネレート化誘導体(anellated derivative)、由来の部分が挙げられる。2−または3−ピロリル基、4−または5−フェニル−2−ピロリル基などのフェニルピロリル基、2−フリル基、2−チエニル基、4−イミダゾリル基、1−メチル−2−、−4−または−5−イミダゾリル基などのメチルイミダゾリル基、1,3−チアゾール−2−イル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−、3−または4−ピリジル−N−オキシド、2−ピラジニル基、2−、4−または5−ピリミジニル基、2−、3−または5−インドリル基、1−メチル、5−メチル、5−メトキシ−、5−ベンジロキシ−、5−クロロ−または4,5−ジメチル−2−インドリル基などの置換2−インドリル基、1−ベンジル−2−または−3−インドリル基、4,5,6,7−テトラヒドロ−2−インドリル基、シクロヘプタ[b]−5−ピロリル基、2−、3−または4−キノリル基、1−、3−または4−イソキノリル基、1−オキソ−1,2−ジヒドロ−3−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、2−ベンゾフラニル基、2−ベンゾ−チエニル基、2−ベンゾオキサゾリル基またはベンゾチアゾリル基またはジヒドロピリジニル基、2−または3−(N−メチルピロリジニル)基などのピロリジニル基、ピペラジニル基、モルフォリニル基、チオモルフォリニル基、テトラヒドロチエニル基、またはベンゾジオキソラニル基が特に好ましい。
【0060】
式Iの化合物としては、例えば、4−クロロアセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、8−クロロ−6−オキソオクタン酸エチル、3−オキソ吉草酸エチル、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、2−オキソ吉草酸エチル、2−オキソ−4−フェニル酪酸エチル、ピルビン酸エチル、フェニルグリオキシル酸エチル、1−フェニル−2−プロパノン、2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オン、アセトフェノン、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ブタノン、1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オン、2,5−ヘキサンジオン、1,4−ジクロロ−2−ブタノン、アセトキシアセトン、塩化フェナシル、4−臭化アセト酢酸エチル、1,1−ジクロロアセトン、1,1,3−トリクロロアセトン、または1−塩化アセトンが好ましい。
【0061】
本発明に係る方法においては、酸化還元酵素を、完全に精製した状態または部分的に精製した状態で用いることができ、または、本発明に係る酸化還元酵素を有する細胞を用いて本発明の方法を実行することができる。それにより、使用する細胞を、そのままの状態、透過性にした状態または溶解した状態で提供できる。配列番号1、2、3、4、5、6、7、8もしくは129に示される酸化還元酵素またはそのホモログのクローン化酸化還元酵素をそれぞれ用いることが好ましい。
【0062】
変換に用いる式Iに示される化合物1kgあたり、5.000から1000万Uの酸化還元酵素が使用される(上限はない)。1Uの酵素ユニットは、式Iに示される化合物を1分間あたりに1μmol変換するために必要な酵素量に相当する。
【0063】
酵素還元そのものは穏やかな条件化で進行するため、生成されたアルコールがさらに反応することはない。本発明に係る方法によれば、生成されるキラルアルコールの滞留時間が長く、生成されるキラルアルコールが通常95%以上のエナンチオマー純度を示し、用いるケト化合物の量と対比したときの収率がよい。
【0064】
本発明に係る方法において、用いるカルボニル化合物の量は、全体の量に対して、3%から50%までであり、好ましくは5%から40%までであり、特に好ましくは10%から30%までである。
【0065】
さらに、本発明の好ましい実施形態は、還元の過程で形成されるNADまたはNADPを、補基質を用いてそれぞれNADHまたはNADPHに継続的に還元することを特徴とする。
【0066】
その際に、用いる補基質としては、エタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ヘプタノール、2−オクタノールまたはシクロヘキサノールなどの第1級および第2級アルコールが好ましい。
【0067】
上記補基質が反応して、対応するアルデヒドまたはケトンが生じ、また、酸化還元酵素およびNADまたはNADPを利用してNADHまたはNADPHをそれぞれ生じさせる。その結果、NADHまたはNADPHがそれぞれ再生される。その結果、再生に用いる補基質の割合は、全体量の5から95体積%濃度の範囲である。
【0068】
補因子を再生するために、アルコール脱水素酵素をさらに添加することができる。適したNADH依存性アルコール脱水素酵素は、例えば、パン酵母、カンジダ・ボイジニ(Candida boidinii)、カンジダ・パラプシロシス、またはピキア・カプスラタから得ることができる。さらに適したNADPH依存性アルコール脱水素酵素は、ラクトバシルス・ブレビス(DE19610984A1)、ラクトバシルス・ミノール(DE10119274)、シュードモナス(US5,385,833)、またはサーモアナエロビウム・ブロッキ(Thermoanaerobium brockii)が保持している。これらのアルコール脱水素酵素の適した補基質は、上述のように、エタノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、2−ブタノール、2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−オクタノールまたはシクロヘキサノールなどの第二級アルコールが挙げられる。
【0069】
さらに、例えばNADまたはNADP依存性ギ酸脱水素酵素を用いると、効率的に補因子を再生することができる(Tishkov et al., J. Biotechnol. Bioeng. [1999] 64, 187-193, Pilot-scale production and isolation of recombinant NAD and NADP specific Formate dehydrogenase)。ギ酸脱水素酵素の適した補基質としては、例えば、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウムまたはギ酸カルシウムなどのギ酸塩が挙げられる。しかしながら、本発明に係る方法は、このように脱水素酵素を追加することなく実施されることが好ましく、すなわち、基質に連動した補酵素の再生が行われる。
【0070】
酵素還元が進行する反応混合液の水相部分は、例えば、5から10までのpH値、好ましくは6から9までのpH値である、リン酸カリウム緩衝液、トリス/HCl緩衝液またはトリエタノールアミン緩衝液などの緩衝液を含んでいることが好ましい。さらに、緩衝液は、酵素を安定化し活性化するために、例えば、亜鉛イオンまたはマグネシウムイオンなどのイオンを含んでいてもよい。
【0071】
本発明に係る方法を実施している間、温度は適切に10℃から70℃、好ましくは20℃から40℃までの範囲内にある。
【0072】
本発明に係る方法のさらに好ましい実施形態においては、水と混和しない有機溶媒、または限られた量しか水と混和しない有機溶媒の存在下で、酵素による変換がなされる。上記溶媒としては、例えば、対称もしくは非対称のジ(C−C)アルキルエーテル、直鎖状もしくは分枝鎖状アルカンまたはシクロアルカン、または同時に補基質にもなる水溶性第二級アルコール、などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、tertブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、酢酸ブチル、ヘプタン、ヘキサン、2−オクタノール、2−ヘプタノール、4−メチル−2−ペンタノールまたはシクロヘキサンが好ましい。溶媒は、同時に、補因子の再生のための補基質として働くこともできる。
【0073】
水不溶性の溶媒および補基質をそれぞれ用いると、反応バッチ(batch)は、水相と有機相とからなる。基質はその溶解度にしたがって、有機相と水相との間に分布する。有機相は、反応ボリューム全体に対して、通常5%から95%の割合を占め、好ましくは10%から90%の割合を占める。二つの液相の間に生じる面が大きくなるように、二つの液相を機械的に混合することが好ましい。また本実施形態においては、上述したように、酵素還元の間に形成されるNADまたはNADPのそれぞれを、補基質を用いて、再びNADHまたはNADPHにそれぞれ還元できる。
【0074】
水相中の補因子NADHまたはNADPHの濃度は、通常0.001mMから1mMまでの範囲内であり、0.01mMから0.1mMまでの範囲内が好ましい。
【0075】
本発明に係る方法において、酸化還元酵素/脱水素酵素の安定剤をさらに用いることができる。適した安定剤としては、例えば、グリセロール、ソルビトール、1,4−DL−ジチオスレイトール(DTT)またはジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0076】
本発明に係る方法は、例えば、ガラスまたは金属で作られている閉反応ベッセル(vessel)中で実施される。このために、各成分を別個に反応ベッセルに移し入れ、例えば窒素または空気などの雰囲気下で攪拌する。反応時間は、1時間から48時間の範囲内であり、とりわけ2時間から24時間の範囲内である。
【0077】
次いで、反応混合物を処理する。このために、水相を分離し、有機相を濾過する。水相をもう一度抽出してもよく、有機相のようにさらに処理してもよい。その後に濾過した有機相から溶媒を蒸発させてもよい。
【0078】
また、本発明は、式IIで表されるキラルヒドロキシ化合物を取得する方法であって、
R1−C(OH)−R2 (II)
およびRは上述の通りであり、
(a)配列番号1、2、3、4、5、6、7、8および129に示される本発明に係る酸化還元酵素ならびにそのホモログの何れか1つ、NAD(P)および水の存在下で、式IIのラセミ化合物を含む混合物をインキュベートし、それにより式IIのヒドロキシ化合物のエナンチオマーが対応するケト化合物およびNAD(P)Hに変換され、かつ
(b)残存する式IIのヒドロキシ化合物のエナンチオマーを単離する、
ことを特徴とする方法に関する。
【0079】
配列番号1、3、5、6、7および129に示されるカルボニル還元酵素を用いると、対応するキラルR−ヒドロキシ化合物が優先的に得られる。配列番号2、4および8に示されるカルボニル還元酵素を用いると、対応するキラルS−ヒドロキシ化合物が優先的に得られる。
【0080】
反応条件は、式Iのケト化合物をエナンチオ特異的に還元する上述した方法と基本的には同じである。しかしながら、式IIの化合物のラセミ混合物から式Iのケト化合物をエナンチオ選択的に還元する代わりに、式IIのヒドロキシ化合物の一方のエナンチオマーのみをエナンチオ選択的に対応するケト化合物に酸化する。それにより、式IIのヒドロキシ化合物のもう一方のエナンチオマーが残り、単離できる。さらに、エタノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、2−ブタノール、2−ペンタノールまたは2−オクタノールなど補基質として用いたアルコールの代わりに、アセトンなど、これらのアルコールに対応するケトンが、NADの再生プロセスに用いられる。例えば、アセトンおよびNAD(P)Hは、本発明に係る酸化還元酵素または追加した脱水素酵素により、NADおよびイソプロパノールに変換される。
【0081】
本発明の好ましい実施形態は、以下の実施例によりさらに詳細に説明される。
【0082】
〔実施例1:生物の培養およびカルボニル還元酵素活性のスクリーニング〕
スクリーニングとして、酵母菌株であるロドトルラ・ムシラギノサDSMZ70825、ピキア・ファリノサDSMZ3316、カンジダ・ネモデンドラDSMZ70647、ピキア・スティピディスDSMZ3651、ピキア・トレハロフィラDSMZ70391、およびロデロミセス・エロンギスポラスDSMZ70320を以下の培地において培養した。この培地には、酵母エキス(3)、麦芽エキス(3)、ペプトン(5)、およびグルコース(10)が含まれている(カッコ内に示した数値は、いずれも、g/lを示す)。この培地を121℃で滅菌した。また、上記酵母を、それ以上pH調節をすることなく、25℃で1分間につき160回転(rpm)する攪拌機において培養した。
【0083】
ロイコノストック・カルノサムDSMZ5576を、以下の培地において培養した。この培地には、グルコース(20)、酵母エキス(5)、肉エキス(10)、クエン酸水素二アンモニウム(2)、酢酸ナトリウム(5)、硫酸マグネシウム(0.2)、硫酸マンガン(0.05)、およびリン酸水素二カリウム(2)が含まれている。この培地を121℃で滅菌した。また、上記菌株を、それ以上pH調節をすることなく、またさらなる酸素の供給もせずに、30℃で培養した。
【0084】
ミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028を、酵母エキス(3)およびトリプチカーゼ大豆粉(30)を含む培地において、30℃で1分間につき160回転(rpm)させながら培養した。
【0085】
ゴルドニア・ルブリペルティンクタDSMZ43570を、酵母エキス(4)、グルコース(4)、麦芽エキス(10)、および炭酸カルシウム(2)を含む培地において、37℃で1分間につき160回転(rpm)させながら培養した。
【0086】
次に、800μmの分解バッファー(100mMトリエタノールアミン(TEA)、pH=7.0)によって再懸濁した125mgの細胞を、球状のミル(Retsch社製)において、1gのグラスビーズと混合し、4℃で10分間分解した。12,000rpmで2分間遠心分離した後に得られる上清(溶解物)を、以下に示す活性スクリーニングにおいて、エナンチオマー過剰率(ee−評価)を測定するために用いた。また、基質として、2−ブタノン、2−オクタノン、4−クロロアセト酢酸エチル、アセトフェノン、または2−オキソ−4−フェニル酪酸エチルのような種々のケトンを用いた。
【0087】
活性スクリーニングのバッチ:
860μl 0.1M KHPO/KPO、pH=7.0、1mM MgCl
20μl NADPHまたはNADH(10mM)
20μl 溶解物
100μl 基質(100mM)
340nmを1分間で反応を追跡した(pursued)。
【0088】
ee−評価測定のバッチ:
20μl 溶解物
100μl NADPHまたはNADH(50mM)
60μl 基質(100mM)
24時間後(h)、ee−測定のバッチを、例えばクロロホルムを用いて抽出した。また、エナンチオマー過剰率をガスクロマトグラフィー(GC)によって測定した。なお、エナンチオマー過剰率は次のとおりに算出される:
ee(%)=((R‐アルコール−S‐アルコール)/(R‐アルコール+S‐アルコール))×100
【0089】
【表1】

【0090】
ここで、DSMZは、Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen、Mascheroder Weg 1b,38124ブラウンシュワイクを表す。酵素単位の定義として:1Uは、1分間に1μmolの基質を変換させるために必要とされる酵素の量に相当する。
【0091】
〔実施例2:NAD(P)H依存性微生物酸化還元酵素の分離および精製〕
NAD(P)H依存性微生物酸化還元酵素を分離するために、実施例1において記載したように微生物を培養した。定常期に達した後、この微生物の細胞を集菌し、遠心分離によって培地から分離した。酵素の放出は、グラスビーズにより湿式研削することによって生じるが、その他の分解方法によって放出してもよい。このため、例えば、100gの湿潤細胞集団を、400mlの分解バッファー(100mMトリエタノールアミン、1mM MgCl、pH=7.0)によって懸濁し、加圧型細胞破壊装置によってホモジェナイズした。
【0092】
次に、遠心分離(7,000rpm)により得られた粗抽出物を、さらにFPLC(fast protein liquid chromatography:高速タンパク質液体クロマトグラフィー)によって精製した。
【0093】
本発明に係るすべての酸化還元酵素は、例えば、Q−Sepharose Fast Flow(Pharmacia社製)またはUnoQ(Biorad社製,ミュンヘン,ドイツ)を用いたイオン交換クロマトグラフィー、Octyl−Sepharose Fast FlowまたはButyl−Sepharose Fast Flow(Pharmacia社製)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー、セラミックヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびゲル・パーミエーションの様々な組み合わせによって精製されてもよい。
【0094】
〔実施例2a:ピキア・ファリノサDSMZ3316由来のNADH依存性酸化還元酵素の精製〕
タンパク質分離のために、遠心分離後に得られるピキア・ファリノサDSMZ3316の溶解物を、100mMトリエタノールアミンバッファー(pH=7.0、1M(NHSO)によって平衡化されたButyl−Sepharose FF−カラムに直接のせ、直線塩勾配を下げることによって溶出した。酸化還元酵素含有分画を混合し、限外ろ過法(排除限界は10kDaである)によって適当な量に濃縮した。
【0095】
次に、酸化還元酵素の濃縮した分画を、さらにUnoQによって精製した。また、この酸化還元酵素を、50mMリン酸カリウムバッファー(pH=7.0)によって平衡化されたUnoQ‐カラム(Biorad社製)に直接のせ、直線塩勾配を上昇させることによって溶出した。このため、酸化還元酵素は結合することなく0M NaClで溶出されたが、その一方、不純物の大部分は結合され、高い塩濃度で溶出された。
【0096】
また、第3の精製工程を、セラミックヒドロキシルアパタイトカラム(Pharmacia社製)を用いて行った。酸化還元酵素を、10mMリン酸カリウムバッファー(1mM MgCl、pH=6.8)によって平衡化されたカラムにのせ、より高いバッファー濃度(400mMリン酸カリウムバッファー、1mM MgCl2、pH=6.8)によって溶出した。このとき、酸化還元酵素は80−100mMのリン酸カリウムバッファーにおいて溶出された。
【0097】
その結果、得られた精製酸化還元酵素の分子量を、ゲル・パーミエーション(Superdex200HR;Pharmacia社製,100mMトリエタノールアミン,pH=7、0.15M NaCl)によって決定した。また、分子量スタンダードとして、カタラーゼ(232kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、アルブミン(69.8kDa)、およびオボアルブミン(49.4kDa)を用いた。
【0098】
以下の表2に、得られた結果をまとめている。
【0099】
【表2】

【0100】
酸化還元酵素の酵素活性を、実施例1(活性スクリーニングのバッチ)によるテストシステムにおいて決定した。また、タンパク質量の測定は、ローリーら、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、193(1951):265−275、またはピーターソンら、アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、100(1979):201−220に準拠して実施した。タンパク質量に対する酵素活性指数は比活性度を与えるものであり、1分間あたりの1μmolの酵素の変換は1ユニット(U)に相当する。
【0101】
〔実施例2b:ミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028由来のNADH依存性酸化還元酵素の精製〕
タンパク質分離のために、遠心分離後に得られるミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028の溶解物を、50mMリン酸カリウムバッファー(pH=7.0)によって平衡化されたQ−Sepharose FF−カラムにのせ、直線塩勾配を上昇させることによって溶出した。これにより、酸化還元酵素は0.6〜0.8MのNaClで溶出された。酸化還元酵素含有分画を混合し、限外ろ過法(排除限界は10kDaである)によって適当な量に濃縮した。
【0102】
次に、酸化還元酵素の濃縮した分画を、さらにUnoQによって精製した。また、この酸化還元酵素を、50mMリン酸カリウムバッファー(pH=7.0)によって平衡化されたUnoQ‐カラム(Biorad社製)に直接のせ、直線塩勾配を上昇させることによって溶出した。これにより、酸化還元酵素は0.2〜0.25M NaClにおいて溶出された。
【0103】
また、第3の精製工程を、セラミックヒドロキシルアパタイトカラム(Pharmacia社製)を用いて行った。ミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028由来の酸化還元酵素を、10mMリン酸カリウムバッファー(1mM MgCl、pH=6.8)によって平衡化されたカラムにのせ、より高いバッファー濃度(400mMリン酸カリウムバッファー、1mM MgCl2、pH=6.8)によって溶出した。このとき、酸化還元酵素は80−100mMリン酸カリウムバッファーにおいて溶出された。その後、得られた精製酸化還元酵素の分子量を、実施例2aにおいて記載したように決定した。
【0104】
以下の表3に、得られた結果をまとめている。
【0105】
【表3】

【0106】
〔実施例3:本発明に係る酸化還元酵素のN−末端配列の決定〕
10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)におけるゲル・パーミエーションの後、実施例2に従って酵素調製物を分離し、ポリビニリデンジフルオライド膜(PVDF−膜)に転写した。
【0107】
顕著なバンドについて、エドマン分解(Procise492(PE−Biosystem社製))によるN−末端配列決定を行った。
【0108】
〔実施例4:酵母から単離されたエナンチオ選択的アルコール脱水素酵素の一般的なクローニング技術〕
マニアティスおよびサンブルックによる“モルキュラー・クローニング”(Molecular Cloning)に記載の方法によって、染色体DNAを抽出した。ここで得られる核酸は、縮重プライマーによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための鋳型として機能する。このとき、5’−プライマーはアミノ酸配列(配列番号66;72;80)に由来し、3’−プライマーはアミノ酸配列(配列番号67;73,81)に由来する。なお、上記配列は生物に対して特異的な遺伝コード(配列番号68;69;74;75;82;83)を含んでいる。
【0109】
増幅は、PCRバッファー〔67mM Tris−HCl(pH8.3)、16mM(NHSO、115mM MgCl、0.01%Tween20〕、0.2mMデオキシリボヌクレオチド3リン酸混合物(dNTPs)、40pMolの各プライマー、および2.5U BioTherm Starポリメラーゼ(Genecraft社製,Ludingshausen,ドイツ)〕により実施した。BioTherm Starポリメラーゼの活性化(8分95℃)および、それに続く45〜50サイクルのタッチダウンPCRの後、この反応物を4℃に冷却し、すべてのPCRバッチを、分析のため1%アガロースゲルにアプライした。
【0110】
ポリメラーゼ連鎖反応により得られる特異的なフラグメントを、TAクローニングベクターpCR2.1(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)にライゲーションし、ABI DNAシーケンサーを用いて、プライマーM13rev(配列番号65)およびプライマーM13uni(配列番号128)によって配列決定した。
【0111】
遺伝子をコードする配列の5’末端および3’末端領域を、RACE法(rapid amplification of cDNA ends)によって決定した。特異的なフラグメントの核酸配列に基づいて、3’−RACEおよび5’−RACEのためのオリゴヌクレオチドを設計した。細胞から調製した全RNAは、3’−RACEシステム(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)を用いた一本鎖cDNAを合成するための鋳型として機能する。次いで、3’−RACEオリゴヌクレオチド(配列番号76;77;84;85)よる特異的なcDNAの増幅および再増幅を行う。次に、分析のためにバッチを1%アガロースゲルにアプライする。欠損している3’側隣接配列情報を保持する特異的なフラグメントを単離し、TAクローニングベクターpCR2.1にライゲーションして、配列決定した。
【0112】
コーディングおよび非コーディング5’末端配列を、5’−RACEシステム(invitrogen社製)を用いて決定した。このために、すでに得られている全RNAのmRNAを、オリゴdT−セルロース(NEB社製、ベバリー、米国)を用いて濃縮し、遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド(配列番号70;71;78;79;86;87)を用いた一本鎖cDNAの合成に使用した。この後の、特異的cDNAの増幅および再増幅により、分析のためにpCR2.1TAクローニングベクター(invitrogen社製)につなぐフラグメントが形成される。上記フラグメントを有するプラスミドを、ABI DNAシーケンサーを用いて分析した。これにより、遺伝子の5’側末端に関する欠損している配列情報が得られる。
【0113】
【表4】

【0114】
次に、全長遺伝子(配列番号9;10;11)をコードしている配列に基づいて、適当な発現システムに上記DNA領域をクローニングするための特異的なプライマーを設計した。このため、例えば、5’プライマーに、NdeIの認識配列、またはSphIもしくはBamHIの認識配列をそれぞれ修飾付加し、また3’−プライマーに、HindIIIの認識配列を修飾付加した(配列番号89;90;91;92;93;94;95;96)。
【0115】
その後のPCRにおいて、染色体DNAは鋳型として機能する。それぞれの酸化還元酵素をコードしているDNA領域を、Platinum pfx ポリメラーゼ(invitrogen社製)を用いて増幅した。1%アガロースゲルで精製した後、得られたPCR産物を、適当なDNAエンドヌクレアーゼによって処理し、pET21aベクター(Novagen社製,マディソン、米国)のバックボーン、またはpQE70ベクター(Qiagen社製,ヒルデン、ドイツ)のバックボーンそれぞれにライゲーションした。なお、このバックボーンは、同一のエンドヌクレアーゼにより処理されている。
【0116】
配列を決定した後、形成した発現コンストラクトは、発現菌株BL21Star(Invitrogen社製)またはRB791(E.coli genetic stock社製,エール,米国),それぞれに組み込まれる。
【0117】
〔実施例4a:酵母ピキア・ファリノサ由来のエナンチオ選択的酸化還元酵素のクローニング〕
ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素をクローニングするために、例えばマニアティスおよびサンブルックによる“モルキュラー・クローニング”に記載された方法に従って、染色体DNAを、ピキア・ファリノサの新たな細胞から抽出した。これにより得られた核酸は、オリゴヌクレオチド配列番号74;75を用いたタッチダウンPCRのための鋳型として機能する。PCRサイクラー(BioRad社製,ハーキュリーズ、米国)においてBiotherm Starポリメラーゼを8分間活性化した後、下記の30温度サイクルを、特異的DNAフラグメントを同定するためにプログラムした。
94℃ 45秒
60℃−0.5℃/サイクル 45秒
68℃ 2分
上記サイクルに次いで、増幅シグナルを別の20サイクルによって増幅した。
94℃ 40秒
52℃ 40秒
72℃ 1分。
【0118】
1%アガロースゲルにおいてすべての反応バッチを分別した後、550bpの大きさがある特異的フラグメントが検出された。上記フラグメントをゲルから溶出し、pCR2.1TAベクター(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)にライゲーションした。形成したプラスミドpCR2.1−PF550の配列決定を行った。
【0119】
550bpの長さがある遺伝子フラグメントの配列解析により、174アミノ酸残基のオープン・リーディング・フレームが明らかになった。なお、ここでは、N末端および内部ペプチドの2つの配列フラグメントが検出される可能性がある。
【0120】
521bpの長さがあるフラグメントのヌクレオチド配列に基づいて、3’RACE(配列番号76;77)および5’RACE(配列番号78;79;88)のためのオリゴヌクレオチドを設計した。cDNA合成反応のために、ピキア・ファリノサ細胞由来の全RNAを次のように調製した。
【0121】
まず、600mgの新たな細胞を、2.5mlの氷冷LETSバッファー中で再懸濁した。硝酸で洗浄して3mlフェノール(pH7.0)により平衡化した5ml(約20g)のグラスビーズを、上記細胞の懸濁液に加えた。また、すべてのバッチをそれぞれの場合において30秒間、全部で10分間ボルテックスし、その後30秒間氷で冷やした。次に、5mlの氷冷LETSバッファーを加え、再度十分にボルテックスした。上記細胞の懸濁液を、11,000g、4℃で5分間遠心分離した。これにより、水相を復元し、同量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(24:24:1)により2回抽出した。その後に、クロロホルムによる抽出を行った。最後の抽出の後、全RNAを、1/10量の5M LiClを加えることによって4時間、−20℃で沈殿させた。3’RACEシステム(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)を用いて、一本鎖cDNAの合成を行った。次に、特異的cDNAを反応物において、オリゴヌクレオチド配列番号76およびAUAP(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)によって増幅した。すなわち、67mM Tris−HCl(pH8.3)、16mM (NHSO、115mM MgCl,0.01%Tween20]、0.2mMデオキシヌクレオチド三リン酸混合物(dNTPs),10pMolの各プライマーおよび2.5U BioTherm Starポリメラーゼ(Genecraft社製,Ludingshausen,ドイツ)を用いて、以下の30温度サイクルにより合成する。この温度サイクルとは:94℃で40秒,55℃で40秒,72℃で1分である。
【0122】
PCRシグナルは、プライマー配列番号77およびプライマーUAP(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)を用いて、nestedPCRによって増幅させた。このときの条件は、30温度サイクル:94℃で40秒,55℃で40秒,72℃で50秒であった。その結果、約400bpの大きさがある特異的なDNAフラグメントが得られた。また、このフラグメントを、1%アガロースゲルから単離した後、pCR2.1ベクター(Invitrogen社製)にライゲーションした。382bpの長さがあるDNA領域の配列解析により、ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素をコードするcDNAの、終止コドンまでの3’伸長部分およびポリ−Aループに関する配列情報が得られる。5’RACE反応のために、ピキア・ファリノサ細胞から調製した5μgの全RNAを使用した。遺伝子特異的cDNAの合成は、5’RACEシステム(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)およびオリゴヌクレオチド配列番号78を用いて行った。結果として生じる遺伝子特異的cDNAに対してホモポリマーdCTP付加反応を行った。次いで、PCR[67mM Tris−HCl(pH8.3),16mM (NHSO,115mM MgCl,0.01%Tween20]、0.2mMデオキシヌクレオチド3リン酸混合物(dNTPs),20pMolプライマー配列番号79およびプライマーAAP(Invitrogen社製),2.5U BioTherm Star ポリメラーゼ(Genecraft社製,Ludingshausen,ドイツ)によりcDNAを増幅した。このときの反応条件としては、35温度サイクル:94℃で45秒,54℃で45秒,72℃で1分30秒に従って行った。PCRシグナルを、プライマー配列番号88およびプライマーUAP(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)を用いて、nestedPCRによって増幅した。このときの条件は、30温度サイクル:94℃で40秒,55℃で40秒,72℃で1分であった。これにより、約350bpの大きさの特異的なDNAフラグメントが生じ、このフラグメントを1%アガロースゲルから溶出した後にベクターpCR2.1(Invitrogen社製)にライゲーションした。352bpの長さがあるDNA領域の配列解析により、アルコール脱水素酵素/還元酵素をコードするcDNAの5’末端に関する配列情報が得られる。
【0123】
このように、タンパク質をコードするDNA領域は、全長765bp(配列番号10)であり、254アミノ酸(配列番号2)のオープン・リーディング・フレームを有する。ピキア・ファリノサ細胞の染色体DNAを、ポリメラーゼ連鎖反応[50mM KCl;10mM MgSO;0.2mM dNTPミックス、10mM Tris−HCl,(pH8.0)、20pMolプライマー配列番号91、またはそれぞれ20pMolプライマー配列番号92、20pMolプライマー配列番号93、および2UのPlatinum pfx ポリメラーゼ(Invitrogen社製)]における全長DNAの生成のための鋳型として用いた。このときの温度サイクルは:
サイクル1 94℃, 2分
サイクル2×30 94℃, 15秒
56℃, 20秒
68℃, 1分15秒。
【0124】
1%アガロースゲルで精製した後、得られたPCR産物を、NdeIおよびHindIIIによって処理するか、またはSphIおよびHindIIIによってそれぞれ処理した。また、上記産物を、ベクターpET21a(Novagen社製,マディソン,米国)またはpQE70(Qiagen社製,ヒルデン,ドイツ)のバックボーンにそれぞれライゲーションした。なお、これらのバックボーンは同一のエンドヌクレアーゼにより処理されている。2μlのライゲーションバッチを用いてE.coli Top10F’細胞を形質転換した後、アンピシリン耐性コロニーのプラスミドDNAについて、エンドヌクレアーゼNdeIまたはSphIおよびHindIIIのそれぞれの限定解析によって、ライゲーション反応の正確さをチェックした。インサートがポジティブだったベクターのDNAを用いて、発現菌株BL21 Star(Invitrogen社製)およびRB791(E.coli genetic Stock社製,エール,米国)それぞれを形質転換した。
【0125】
〔実施例5:細菌から分離されるエナンチオ選択的酸化還元酵素の一般的なクローニング技術〕
マニアティスおよびサンブルックによる“モルキュラー・クローニング”に記載された方法によって、ゲノムDNAを抽出した。これにより得られた核酸は、縮重プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の鋳型として機能する。このとき、5’プライマーはアミノ酸配列(配列番号104;112)に由来し、3’プライマーはアミノ酸配列(配列番号105;113)に由来する。なお、これらは生物の特異的な遺伝子コード(配列番号106;107;114;115)を含んでいる。
【0126】
PCRバッファー[67mM Tris−HCl(pH8.3),16mM(NHSO,115mM MgCl,0.01%Tween20],0.2mMデオキシヌクレオチド三リン酸混合物(dNTPs),各40pMolのプライマー、および2.5U BioTherm Star ポリメラーゼ(Genecraft社製,Ludingshausen,ドイツ)]を用いて増幅を行った。BioTherm Star ポリメラーゼを活性化(8分、95℃)した後、45−50サイクルのタッチダウンPCRに続けて、反応物を4℃まで冷却し、分析のためにすべてのPCRバッチを1%アガロースゲルにアプライした。
【0127】
ポリメラーゼ連鎖反応により得られる特異的なフラグメントを、TA−クローニングベクターpCR2.1(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)にライゲーションし、プライマーM13rev(配列番号65)およびM13uni(配列番号128)を用いてABI DNAシーケンサーにより配列決定を行った。
【0128】
遺伝子コード配列の5’末端および3’末端領域は、インバースポリメラーゼ連鎖反応(iPCR)を用いて決定される。特異的な内部フラグメントの核酸配列に基づいて、オリゴヌクレオチド配列番号100;101;102;103;108;109;110;111;116;117;118;119を設計した。ゲノムDNAを、制限酵素によって分解し、より小さなDNA領域が環状化できるように再ライゲーション反応に用いる。ついで、上記再ライゲーション反応の混合物は、iPCRおよびプライマー配列番号100;102;108;110;116;118の鋳型として用いられる。PCRシグナルを、プライマー配列番号101;103;109;111;117;119により、nestedPCRによって増幅する。これにより得られた特異的フラグメントを、1%アガロースゲルから溶出した後、ベクターpCR2.1(Invitrogen社製)にライゲーションする。
【0129】
このように、このフラグメントを含むベクターpCR2.1の配列解析により、アルコール脱水素酵素/酸化還元酵素遺伝子の3’および5’側領域に関する欠損している配列情報が得られる。
【0130】
【表5】

【0131】
全長遺伝子(配列番号12;13;14)をコードする配列に基づいて、適切な発現システムへ上記DNA領域をクローニングするための特異的なプライマーを設計する。このとき、5’プライマーにはNdeIの認識配列、またはSphIもしくはBamHIの認識配列が修飾付加され、3’プライマーにはHindIIIの認識配列が修飾付加される(配列番号120;121;122;123;124;125;126;127)。
【0132】
ゲノムDNAから全長DNAを増幅した後、発現ベクターへの制限およびライゲーションを、実施例3に記載したように行う。この全長DNAはタンパク質をコードしている。形成した発現コンストラクトを用いて、発現菌株BL21 Star(Invitrogen社製)またはRB791(E.coli genetic stock社製,エール,USA)のそれぞれを形質転換する。
【0133】
〔実施例5a:ミクロバクテリウム・スピーシーズ由来のエナンチオ選択的アルコール脱水素酵素/還元酵素のクローニング〕
ミクロバクテリウムsp由来の酸化還元酵素をクローニングするために、例えばマニアティスおよびサンブルックによる“モルキュラー・クローニング”に記載された方法によって、ゲノムDNAをミクロバクテリウムspの新たな細胞から抽出した。これにより得られる核酸は、30pMolの各オリゴヌクレオチド配列番号106,107を用いたPCRの鋳型として機能した。PCRサイクラー(BioRad社製,ハーキュリーズ,米国)においてBiotherm Starポリメラーゼを10分間活性化させた後、特異的なDNAフラグメントを同定するために、以下の30温度サイクルをプログラムした:
94℃ 50秒
60℃ 1分
72℃ 1分
1%アガロースゲルにおいてすべての反応バッチを分別した後、約1,000bpの大きさの特異的なフラグメントが検出された。上記フラグメントをゲルから溶出し、pCR2.1 TA−ベクター(Invitrogen社製,カールスルーエ、ドイツ)にライゲーションした。形成したプラスミドpCR2.1−Ms1000の配列決定を行った。
【0134】
1002bpの長さがある遺伝子フラグメントの配列解析は、N−末端および内部ペプチドの2つの配列断片が検出される可能性のある334アミノ酸残基のオープン・リーディング・フレームを示した。
【0135】
1002bpの長さがあるフラグメントのヌクレオチド配列に基づいて、インバースPCR(iPCR)のためのオリゴヌクレオチド(配列番号108;109;110;111)を設計した。
【0136】
ミクロバクテリウムspの細胞由来のゲノムDNA(2.5μg)を、50μlバッチにおいて20Uの制限酵素SacIによって25分間処理した。すべてのバッチをフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)抽出した後、1/10volの3M 酢酸Na(pH5.2)および2.5volのエタノールによって沈殿させた。このように分解されたDNAを25μlのHOに移した。また、このうちの5μl(200ng)および2UのT4リガーゼ(Fermentas社製)を用いて、総量40μlでの再ライゲーション反応を行った。その後、再ライゲーションされたゲノムDNA(2μl=20ng)を、iPCR[67mM Tris−HCl(pH8.3),16mM (NHSO,115mM MgCl,0.01%Tween20],0.2mMデオキシヌクレオチド3リン酸混合物(dNTPs),30pMolの各プライマー(配列番号108;110)、および2.5U BioTherm Starポリメラーゼ(Genecraft社製,Ludingshausen,ドイツ)]に使用した。上記増幅を、以下のサイクルにより実施した:
サイクル1 95℃, 10分
サイクル2×30 95℃, 1分
56℃, 1分
72℃, 2分
増幅シグナルを、オリゴヌクレオチド配列番号109および配列番号111を用いたnestedPCRにおいて増幅した。
【0137】
次に、増幅反応物を4℃まで冷却し、1%アガロースゲルに全体としてアプライした。これにより、約1,000bpの大きさがある特異的なフラグメントが得られた。その後、このフラグメントをゲルから溶出し、pCR2.1ベクター(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)にライゲーションさせた。
【0138】
このフラグメントを含んでいるプラスミドの配列解析により、5’および3’側の隣接配列に関する情報が得られる。タンパク質をコードするDNA部分は、終止コドンで終結する全長1,044bpの領域(配列番号13)であり、347アミノ酸(配列番号5)のオープン・リーディング・フレームを示す。
【0139】
GC−Rich PCRシステム(Roche社製,マンハイム,ドイツ)および30pMolのオリゴヌクレオチド配列番号123または配列番号124のそれぞれと、30pMolのオリゴヌクレオチド配列番号125とを用いた、タンパク質をコードする全長DNA生成のポリメラーゼ連鎖反応における鋳型として、ミクロバクテリウムsp細胞のゲノムDNAを用いた。このときの温度サイクルは:
サイクル1 95℃,3分
サイクル2×30 95℃,30秒
59℃,30秒
72℃,45秒。
【0140】
1%アガロースゲルを用いて精製した後、得られたPCR産物を、NdeIおよびHindIII、またはSphIおよびHindIIIにより処理した。また、このPCR産物を、ベクターpET21a(Novagen社製,マディソン,米国)またはpQE32(Qiagen社製,ヒルデン,ドイツ)それぞれのバックボーンにライゲーションした。なお、これらのバックボーンは、それぞれ同一のエンドヌクレアーゼによって処理されている。2μlのライゲーションバッチを用いてE.coli Top10F’細胞を形質転換した後、アンピシリン耐性コロニーのプラスミドDNAについて、エンドヌクレアーゼNdeIまたはSphIおよびHindIIIのそれぞれによる限定解析により、ライゲーション反応の正確さをチェックした。インサートがポジティブであったベクターのDNAを用いて、発現菌株BL21 Star(Invitrogen社製)およびRB791(E.coli genetic Stock社製,エール,米国)のそれぞれを形質転換した。
【0141】
〔実施例6:E.coliにおける組換えアルコール脱水素酵素/還元酵素の発現〕
発現コンストラクトによって形質転換されている大腸菌BL21 Star(Invitrogen社製,カールスルーエ,ドイツ)およびRB791(E.coli genteic stock社製,エール,米国)を、アンピシリン(50μg/ml)およびカルベニシリン(50μg/ml)を含む200mlのLB−培地(1%トリプトン,0.5%酵母エキス,1%NaCl)において、550nmで測定される吸光度が0.5に達するまで培養した。0.1mMの濃度のイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を添加することにより、組換えタンパク質の発現を誘導する。8時間または16時間後、それぞれにおいて、25℃、220rpmで誘導した細胞を回収し、−20°Cにおいて凍結した。活性試験のために、10mgの細胞を500μlのTEAバッファー(100mM、pH7.0)および500μlのグラスビーズと共に混合し、球状ミルを用いて10分間分解した。これにより得られた溶解物を、その後希釈状態において、各測定のために用いた。活性試験を次のように構成した:TEAバッファー(100mM、pH7.0)を870μl、NAD(P)Hを160μg、希釈した細胞溶解物を10μl。反応混合物に100mMの基質溶液を100μl添加することにより、反応を開始した。
【0142】
【表6】

【0143】
〔実施例7:組換え酸化還元酵素の特徴づけ〕
7a:至適pH
表4に記載した緩衝液を調製した。それぞれにおける各緩衝液成分の濃度は50mMである。
【0144】
【表7】

【0145】
測定バッチ(30℃)の至適pH還元:
表3に記載の緩衝液系 870μl
10mM NAD(P)H 20μl
希釈酵素 10μl
およそ2分から3分間のインキュベーションを行い、次いで、
基質溶液(100mM) 100μl
を添加した。
【0146】
酸化還元酵素に応じて、基質として2−ブタノンまたは2−オクタノンを用いた。340nmを1分間で反応を追跡した。至適pHを決定するために、表4に記載した各緩衝液における酵素反応を解析した。酸化反応の至適pHを決定するために、NAD(P)を補因子として用い、2−プロパノールまたは2−オクタノールを基質として用いた。
【0147】
本発明に係る酸化還元酵素についての結果を表5にまとめた。
【0148】
【表8】

【0149】
7b:pH安定性
表4に記載した緩衝液系に組換え酸化還元酵素を保持し、この組換え酸化還元酵素の活性の決定を行った。このために、pH範囲が4から11までの異なる緩衝液(50mM)を調製し、実施例4に従って調製した酸化還元酵素をこの緩衝液を用いて希釈した。30分、60分、および120分間インキュベートした後、バッチから10μl取り出して、これを用いて実施例1に従って活性テストを行った。
【0150】
初期値は、50mM、pH=7のリン酸カリウム緩衝液に酵素を希釈(1:20)した直後に取得した測定値である。与条件下において、上記値はおよそ0.70/分の消失変化を表し、この値を100%値としてセットし、続けて測定した全ての値をこの値との関連で評価した。
【0151】
表6には、本発明に係る酸化還元酵素において、インキュベーションを120分間続けても酵素が初期値の50%以上を示したpHの範囲をまとめている。
【0152】
【表9】

【0153】
7c:至適温度
至適テスト温度を決定するために、本発明に係る酸化還元酵素の酵素活性を、15℃から70℃の温度範囲における標準測定バッチ中で測定した。
【0154】
決定した至適温度を表7にまとめている。
【0155】
【表10】

【0156】
7d:温度安定性
実施例5cに記載した手法と類似の手法により、15℃から70℃の範囲における温度安定性を決定した。このために、本発明に係る酸化還元酵素を希釈したものを、それぞれにおいて各温度にて60分間および180分間インキュベートし、次いで上述したテストバッチをもちいて30℃で測定した。表8には、本発明に係る酸化還元酵素において、インキュベーションを120分間続けても酵素が初期活性の50%以上を示した温度の範囲をまとめている。
【0157】
【表11】

【0158】
7e:基質範囲
複数のケトンおよびアルコールを用いて還元反応および酸化反応の酵素活性を測定し、本発明に係る酸化還元酵素の基質範囲を決定した。このために、実施例1に準拠した標準測定バッチを様々な基質とともに用いた。
【0159】
全ての酵素について、アセト酢酸メチルを用いたときの活性を100%としてセットし、これとの関連で他の全ての基質について評価した。
【0160】
【表12】

【0161】
7f:水/有機二相システムにおける安定性
水/有機二相システムにおける新規酸化還元酵素の安定性を測定するために、実施例6(組換え発現由来)において得られた溶解物を、各酸化還元酵素に適した水性緩衝液に希釈(約10U/ml緩衝液)した。次いで、水と混和しない同ボリュームの有機溶媒を、緩衝液で希釈した酸化還元酵素に加えた。そしてそのバッチを常に十分に混合し続けながら(サーモミキサで170rpm)室温でインキュベートした。24時間インキュベートした後、水相からそれぞれ10μlを取り出し、これを用いて標準テストバッチ(100mM リン酸カリウム緩衝液(KPP)、pH=7、0.2mM NAD(P)H、10mM 基質)における酵素活性を決定した。この場合にもまた、緩衝液に希釈した直後の初期値を100%としてセットし、これとの関連で他の全ての値を評価した。
【0162】
【表13】

【0163】
【表14】

【0164】
〔実施例8:調製変換(preparative conversion)〕
8a:ロドトルラ・ムシラギノサ由来の酸化還元酵素を用いた(3S)−3−ヒドロキシペンタン酸メチルの合成
調製バッチとして、緩衝液(100mM TEA,pH=7、1mM ZnCl、10%グリセロール)を25ml、4−メチル−2−ペンタノールを375ml、3−オキソペンタン酸メチルを100ml、NADを100mgおよびロドトルラ・ムシラギノサDSMZ70825由来の組換え酸化還元酵素を37kU含む混合物を、常に十分に混合し続けながら室温で24時間インキュベートした。24時間後、使用した3−オキソペンタン酸メチルの97%が、(3S)−3−ヒドロキシペンタン酸メチルに還元されていた。次いで、生成物を含んでいる4−メチル−2−ペンタノール相を水相から分離し、濾過し、生成物である(3S)−3−ヒドロキシペンタン酸メチルを蒸留により得た。
【0165】
この方法により、生成物である(3S)−3−ヒドロキシペンタン酸メチルが、>99%の純度、>99.5%のエナンチオマー過剰率で大量に得られた。
【0166】
8b:ピキア・ファリノサ由来の酸化還元酵素を用いた(2R)−1−クロロプロパン−2−オールの合成
変換反応のために、緩衝液(100mM TEA,pH=7、1mM MgCl、10%グリセロール)を80ml、2−プロパノールを15ml、クロロアセトンを5ml、NADを10mgおよびピキア・ファリノサDSMZ3316由来の組換え酸化還元酵素を2kU含む混合物を、常に十分に混合し続けながら室温で24時間インキュベートした。24時間後、使用したクロロアセトンは完全に、(2R)−1−クロロプロパン−2−オールに還元されていた。次いで、反応混合物を酢酸エチルにより抽出し、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、未精製の生成物を得た。この方法により生成された(2R)−1−クロロプロパン−2−オールは、エナンチオマー過剰率が>99%であった。
【0167】
8c:ピキア・スティピディス由来の酸化還元酵素を用いた(R)−2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オールの合成
変換反応のために、緩衝液(100mM リン酸カリウム,pH=8.5、1mM MgCl、10%グリセロール)を20ml、80mlの4−メチル−2−ペンタノールに溶解した2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オンを20g、NADを10mgおよびピキア・スティピディスDSMZ3651由来の組換え酸化還元酵素を20000U含む混合物を、常に十分に混合し続けながら室温で24時間インキュベートした。24時間後、使用した2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オンの99%以上が還元されていた。次いで、生成物を含んでいる4−メチル−2−ペンタノール相を水相から分離し、濾過し、生成物である(R)−2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オールを蒸留により得た。
【0168】
この方法により、生成物である(R)−2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−オールが、>98%の純度、>99.9%のエナンチオマー過剰率で大量に得られた。
【0169】
8d:ロイコノストック・カルノサム由来の酸化還元酵素を用いた(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの合成
変換反応のために、緩衝液(100mM TEA,pH=7、1mM MgCl)を8mL、イソプロパノールを24ml、4−クロロアセト酢酸エチルを8ml、NADPを2mgおよびロイコノストック・カルノサムDSMZ5576由来の組換え酸化還元酵素を6.7kU(=6ml)含む混合物を、常に十分に混合し続けながら室温で24時間インキュベートした。24時間後、使用した4−クロロアセト酢酸エチルの99%以上が、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルに還元されていた。ロータリーエバポレータを用いて2−プロパノールの第一の除去を行い、反応混合物を再処理した。次いで、反応混合物を酢酸エチルにより抽出し、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去し、未精製の生成物を得た。この方法により得られる未精製の生成物(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルは、エナンチオマー過剰率が>99.5%であった。
【0170】
8e:ミクロバクテリウム・スピーシーズ由来の酸化還元酵素を用いた(1S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オールの合成
変換反応のために、緩衝液(100mM TEA,pH=7、10%グリセロール、1mM ZnCl)を1mL、4−メチル−2−ペンタノールを3ml、1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オンを1ml、NADを2mgおよびミクロバクテリウム・スピーシーズDSMZ20028由来の組換え酸化還元酵素を0.7kU含む混合物を、常に十分に混合し続けながら室温で24時間インキュベートした。24時間後、使用した1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オンの90%以上が、(1S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オールに還元されていた。次いで、生成物を含んでいる4−メチル−2−ペンタノール相を水相から分離し、濾過し、生成物である(1S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オールを蒸留により得た。この方法により得られた未精製の生成物(1S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン−1−オールは、エナンチオマー過剰率が>99.5%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法で、補因子の存在下において上記ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法であって、
(a)配列番号1、6および8に示されるアミノ酸配列の何れか1つの配列のアミノ酸と少なくとも70%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも55%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも75%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(f)配列番号7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも50%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、または
(g)配列番号129に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも72%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
からなる酸化還元酵素を用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記ケト化合物は下記一般式Iで表され、
−C(O)−R ・・(I)
は、
(1)直鎖状または分枝鎖状である、−(C−C20)−アルキル基、
(2)直鎖状または分枝鎖状であり4以下の二重結合を有していてもよい、−(C−C20)−アルケニル基、
(3)直鎖状または分枝鎖状であり4以下の三重結合を有していてもよい、−(C−C20)−アルキニル基、
(4)−(C−C14)−アリール基、
(5)−(C−C)−アルキル−(C−C14)−アリール基、
(6)非置換であるか、または−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている−(C−C14)−複素環、または、
(7)−(C−C)−シクロアルキル基、
の何れか1つを表し、上記(1)から(7)の構成は、非置換であるか、または互いに独立に−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されており、
は、
(8)直鎖状または分枝鎖状である、−(C−C)−アルキル基、
(9)直鎖状または分枝鎖状であり3以下の二重結合を有していてもよい、−(C−C)−アルケニル基、
(10)直鎖状または分枝鎖状であり2以下の三重結合を有していてもよい、−(C−C)−アルキニル基、または、
(11)直鎖状または分枝鎖状であり、かつ、非置換であるか、または−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている、−(C−C10)−アルキル−C(O)−O−(C−C)−アルキル基、
の何れか1つを表し、上記(8)から(11)の構成は、非置換であるか、または互いに独立に−OH、ハロゲン、−NOおよび/または−NHにより1、2もしくは3回置換されている、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ケト化合物を、対応するキラルヒドロキシ化合物にエナンチオ選択的に酵素還元する方法で、補因子の存在下において上記ケト化合物を酸化還元酵素によって還元する方法であって、
(a)配列番号9、10、11、12、13、14、15、16および130からなる群より選択される1つの核酸配列によりコードされている酸化還元酵素、または
(b)上記(a)に記載されている核酸配列の何れか1つに高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列の相補鎖の核酸配列によりコードされている酸化還元酵素、
を用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の方法に使用する酸化還元酵素であって、
(a)配列番号1、6および8に示されるアミノ酸配列の何れか1つの配列のアミノ酸と少なくとも70%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも55%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも75%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(e)配列番号5に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも65%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
(f)配列番号7に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも50%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、または
(g)配列番号129に示されるアミノ酸配列のアミノ酸と少なくとも72%のアミノ酸が同一であるアミノ酸配列、
からなることを特徴とする酸化還元酵素。

【公表番号】特表2009−502148(P2009−502148A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523190(P2008−523190)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007150
【国際公開番号】WO2007/012428
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(506371316)アイイーピー ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】