説明

ケーシングの製造方法及び真空ポンプ

【課題】簡単な構成でロータ及びサイドプレートの損傷を抑制して真空ポンプの耐久性の低下を防止すること。
【解決手段】シリンダ室を形成するシリンダライナを金型に配置し、ケーシング本体を成形する溶湯を用いて鋳造し、シリンダライナを一体に鋳込む工程(ステップS2)と、シリンダライナ及びケーシング本体を一体に貫通し、シリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を加工する工程(ステップS3)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機により駆動される回転圧縮要素が摺動するシリンダ室を備えるケーシングの製造方法及びこのケーシングを備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動モータ等の駆動機に取り付けられるケーシングと、このケーシングのシリンダ室内に駆動機により回転する回転圧縮要素とを備えた真空ポンプが知られている。この種の真空ポンプでは、駆動機により回転圧縮要素をシリンダ室内で駆動することによって真空を得ることができ、例えば、自動車のエンジンルームに搭載されて、ブレーキ倍力装置を作動させるための真空を発生させるために使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、この種の真空ポンプは、設置スペースが大きく取れない事情から小型化が要請されており、例えば、ケーシング本体内にシリンダ室を形成するシリンダライナを圧入することにより、ケーシングの回転軸方向への寸法の小型化を図ることが想定される。
しかし、この構成では、周壁にシリンダ室に連通する吸気孔及び排気孔を加工するとともに、当該シリンダ室の内面に無電解めっき処理等による表面硬化処理が施されたシリンダライナを製造し、このシリンダライナをケーシング本体の孔部に圧入していた。このため、シリンダライナの圧入後に、吸気孔または排気孔の位置をケーシング本体の所定位置に合わせるための微調整が必要となるとともに、圧入の際に吸気孔または排気孔の縁部によりケーシング本体の一部にバリが発生することがあり、このバリを取る追加工が必要となり、作業工数が多くなるといった問題があった。
そこで、本発明は、軸方向への小型化を図るとともに、作業工数の低減を図ったケーシングの製造方法及びこのケーシングを備える真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、駆動機により駆動される回転圧縮要素が摺動するシリンダ室を備えるケーシングの製造方法において、前記シリンダ室を形成するシリンダライナを金型に配置し、ケーシング本体を成形する溶湯を用いて鋳造し、前記シリンダライナを一体に鋳込む工程と、前記シリンダライナ及び前記ケーシング本体を一体に貫通し、前記シリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を加工する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、ケーシング本体にシリンダライナを一体に鋳込んだ後に、このシリンダライナ及びケーシング本体を一体に貫通してシリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を加工するため、シリンダライナとケーシング本体との孔位置の調整作業や、ケーシング本体の追加工が不要となり、製造時の作業工数の低減を図ることができる。また、シリンダライナは、ケーシング本体に鋳込まれてケーシングが製造されるため、このケーシングの軸方向への小型化を図ることができる。
【0007】
この構成において、前記吸気孔及び前記排気孔が加工された前記シリンダライナの内周面を、当該シリンダライナよりも硬い金属で皮膜する工程を備えることを特徴とする。この構成によれば、ケーシング本体にシリンダライナを一体に鋳込んだケーシングであっても、硬度の高い摺動面を簡単に形成することができる。
【0008】
また、前記シリンダライナを鋳込む工程に先だって、前記シリンダライナの外周面に当該シリンダライナの回転及び抜けを防止する手段を成形する工程を備えたことを特徴とする。この構成によれば、シリンダライナとケーシング本体とで熱膨張係数の異なる金属を採用したとしても、回転及び抜けを防止する手段が予めシリンダライナの外周面に形成されているため、当該シリンダライナを圧入するものに比べて簡単にシリンダライナの回転及び抜けを防止できる。
【0009】
また、前記回転及び抜けを防止する手段として、前記シリンダライナの外周面にらせん溝を成形することを特徴とする。この構成によれば、回転及び抜けを防止したシリンダライナを簡単に作成することができる。
【0010】
また、本発明は、駆動機に取り付けられるケーシングを備え、このケーシング内に前記駆動機より駆動される回転圧縮要素が摺動するシリンダ室を備える真空ポンプにおいて、前記ケーシングは、鋳造されたケーシング本体に一体に鋳込まれて前記シリンダ室を形成するシリンダライナを備え、前記シリンダライナ及び前記ケーシング本体を一体に貫通し、前記シリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ケーシング本体にシリンダライナを一体に鋳込んだ後に、このシリンダライナ及びケーシング本体を一体に貫通してシリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を加工するため、シリンダライナとケーシング本体との孔位置の調整作業や、ケーシング本体の追加工が不要となり、製造時の作業工数の低減を図ることができる。また、シリンダライナは、ケーシング本体に鋳込まれてケーシングが製造されるため、このケーシングの軸方向への小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る真空ポンプを使用したブレーキ装置の概要図である。
【図2】真空ポンプの側部部分断面図である。
【図3】真空ポンプをその前側から見た図である。
【図4】ケーシングの製造手順を示すフローチャートである。
【図5】シリンダライナ外周面の形成された回転及び抜けを防止するらせん溝を示すケーシングの側部部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプ1を負圧源として使用したブレーキ装置100の概要図である。ブレーキ装置100は、例えば、自動車等の車両の左右の前輪に取り付けられたフロントブレーキ2A,2B、及び左右の後輪に取り付けられたリアブレーキ3A,3Bを備えている。これらの各ブレーキは、マスターシリンダ4とブレーキ配管9によりそれぞれ接続されており、マスターシリンダ4からブレーキ配管9を介して送られる油圧によって各ブレーキが作動する。
また、ブレーキ装置100は、ブレーキペダル5と連結されたブレーキブースター(ブレーキ倍力装置)6を備え、このブレーキブースター6には、空気配管8を介して、真空タンク7及び真空ポンプ1が直列に接続されている。ブレーキブースター6は、真空タンク7内の負圧を利用してブレーキペダル5の踏力を倍力するものであり、小さな踏力でマスターシリンダ4のピストン(図示せず)を移動させることにより、十分なブレーキングパワーを引き出せるようになっている。
真空ポンプ1は、車両のエンジンルーム内に配置され、真空タンク7内の空気を車両外部へ排出し、当該真空タンク7内を真空状態とする。なお、自動車等に用いる真空ポンプ1の使用範囲は、例えば、−60kPa〜−80kPaである。
【0014】
図2は、真空ポンプ1の側部部分断面図であり、図3は、図2の真空ポンプ1をその前側(同図中の右側)から見た図である。ただし、図3は、シリンダ室Sの構成を示すべく、ポンプカバー24,サイドプレート26等の部材を取り外した状態を図示している。なお、以下では、説明の便宜上、図2および図3の上部にそれぞれ矢印で示す方向が、真空ポンプ1の上下前後左右を示すものとして説明する。また、前後方向については軸方向、左右方向については幅方向ともいう。
【0015】
図2に示すように、真空ポンプ1は電動モータ(駆動機)10と、この電動モータ10を駆動源として作動するポンプ本体20とを備えており、これら電動モータ10及びポンプ本体20が一体に連結された状態で自動車等の車体に固定支持されている。
【0016】
電動モータ10は、略円筒形状に形成されたケース11の一方の端部(前端)の略中心からポンプ本体20側(前側)に向かって延びる出力軸(回転軸)12を有している。出力軸12は、ポンプ本体20を駆動する駆動軸として機能するものであり、前後方向に延びる回転中心X1を基準として回転する。出力軸12の先端部12Aはスプライン軸に形成されており、ポンプ本体20のロータ27の軸方向に貫通する軸孔27Aの一部に形成されたスプライン溝27Dと係合し、出力軸12とロータ27とが一体に回転可能に連結される。
電動モータ10は、電源(図示略)の投入により、出力軸12が、図3中の矢印R方向(反時計回り)に回転し、これによりロータ27を、回転中心X1を中心として同方向(矢印R方向)に回転させるようになっている。
【0017】
ケース11は、有底円筒形状に形成されたケース本体60と、このケース本体60の開口を塞ぐカバー体61とを備え、ケース本体60は、その周縁部60Aが外方に折り曲げて形成されている。カバー体61は、ケース本体60の開口と略同径に形成された円板部(壁面)61Aと、この円板部61Aの周縁に連なり、ケース本体60の内周面に嵌まる円筒部61Bと、この円筒部61Bの周縁を外方に折り曲げて形成した屈曲部61Cとを備えて一体に形成され、円板部61A及び円筒部61Bがケース本体60内に進入し、屈曲部61Cが、ケース本体60の周縁部60Aに当接して固定されている。これにより、電動モータ10には、ケース11の一方の端部(前端)が内側に窪み、ポンプ本体20がインロー嵌合により取り付けられる嵌合穴部63が形成される。
また、円板部61Aの略中央には、出力軸12が貫通する貫通孔61Dと、この貫通孔61Dの周囲にケース本体60の内側に延びる円環状のベアリング保持部61Eとが形成され、このベアリング保持部61Eの内周面61Fに、上記出力軸12の前方側を軸支するベアリング62の外輪が保持される。
【0018】
ポンプ本体20は、図2に示すように、電動モータ10のケース11の前側に形成された嵌合穴部63に嵌合されるケーシング本体22と、このケーシング本体22内に配置されてシリンダ室Sを形成するシリンダライナ23と、当該ケーシング本体22を前側から覆うポンプカバー24とを備えている。本実施形態ではケーシング本体22及びシリンダライナ23を備えて、真空ポンプ1のケーシング31を構成している。
【0019】
ケーシング本体22は、例えば、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属材料を用いて、図3に示すように、前側から見た形状が上記した回転中心X1を略中心とした上下方向に長い略矩形に形成されている。ケーシング本体22の上部には、このケーシング本体22に設けられたシリンダ室S内に連通する連通孔22Aが形成され、この連通孔22Aには吸込ニップル30が圧入されている。この吸込ニップル30は、図2に示すように、上向きに延びる直管であり、当該吸込ニップル30の一端30Aには、外部機器(例えば、真空タンク7(図1参照))から負圧空気を供給するための管またはチューブが接続される。
【0020】
ケーシング本体22には、前後方向に延びる軸心X2を基準とした孔部22Bが形成され、この孔部22Bに円筒状に形成されたシリンダライナ23が鋳込まれている。具体的には、シリンダライナ23を金型にセットした状態で、この金型に注湯することにより当該シリンダライナ23を一体に鋳込んだケーシング本体22(ケーシング31)が鋳造される。軸心X2は、上述の電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に対して平行で、かつ、図2に示すように、回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心している。本構成では、回転中心X1を中心とするロータ27の外周面27Bが、軸心X2を基準に形成されているシリンダライナ23の内周面23Aに接するように軸心X2が偏心されている。
【0021】
シリンダライナ23は、ロータ27と同一の金属材料(本実施形態では、鉄)で形成されており、このシリンダライナ23の内周面23Aには、例えば、硬質クロムめっき等の表面硬化処理が施され、内周面(摺動面)23Aの硬度が高められている。
本実施形態では、ケーシング本体22にシリンダライナ23を一体に鋳込むことにより、ケーシング本体22の前後方向の長さ範囲内でシリンダライナ23を収容することができるため、このシリンダライナ23がケーシング本体22から突出することが防止され、ケーシング本体22の小型化を図ることができる。
更に、ケーシング本体22はロータ27よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。これによれば、ロータ27及びベーン28が回転駆動した際に発生した熱がケーシング本体22に速やかに伝達できることにより、ケーシング本体22から十分に放熱することができる。
【0022】
シリンダライナ23には、上記したケーシング本体22の連通孔(吸気孔)22Aとシリンダ室S内とを繋ぐ開口(吸気孔)23Bが形成されており、吸込ニップル30を通じた空気は、連通孔22A,開口23Bを通じてシリンダ室S内に供給される。また、ケーシング本体22及びシリンダライナ23の下部には、これらケーシング本体22及びシリンダライナ23を貫通し、シリンダ室Sで圧縮された空気が排出される排気孔22C,23Cが設けられている。本実施形態では、これら連通孔22A、開口23Bと、排気孔22C,23Cとは、シリンダ室Sを挟んで同一の軸心上に配置されており、例えば、ケーシング本体22の上面側からの1回のドリル加工により形成することができる。
【0023】
シリンダライナ23の後端および前端には、それぞれシリンダ室Sの開口を塞ぐサイドプレート25,26が配設されている。これらサイドプレート25,26は、その直径がシリンダライナ23の内周面23Aの内径よりも大きく設定されており、ウェーブワッシャー25A,26Aにより付勢されて、シリンダライナ23の前端及び後端にそれぞれ押し付けられている。これにより、シリンダライナ23の内側は、吸込ニップル30に連なる開口23B及び排気孔23C,22Cを除いて、密閉されたシリンダ室Sが形成される。なお、ウェーブワッシャー25A,26Aの替わりにシールリングを設ける構成としても良い。
【0024】
シリンダ室Sには、ロータ27が配設されている。ロータ27は、電動モータ10の回転中心X1に沿って延びる円柱形状を有し、ポンプ本体20の駆動軸である出力軸12が挿通される軸孔27Aを有すると共に、この軸孔27Aから径方向に離れた位置に、複数のガイド溝27Cが軸孔27Aを中心とする等角度間隔で周方向に間隔を空けて設けられる。上記軸孔27Aの一部には、出力軸12の先端部12Aに設けられたスプライン軸に係合するスプライン溝27Dが形成され、ロータ27と出力軸12とがスプライン連結されるようになっている。
本実施形態では、ロータ27の前端面には、軸孔27Aの周囲に当該軸孔27Aよりも拡径した円柱状の凹部27Fが形成され、この凹部27F内に延出する出力軸12の先端にプッシュナット70が取り付けられ、このプッシュナット70により、ロータ27が出力軸12の先端側へ移動することが規制される。
【0025】
ロータ27の前後方向の長さは、シリンダライナ23のシリンダ室Sの長さ、すなわち、上述の2枚にサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しく設定され、ロータ27とサイドプレート25,26との間は略閉塞されている。
また、ロータ27の外径は、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bが、シリンダライナ23の内周面23Aのうちの右斜め下方に位置する部分と微小なクリアランスを保つように設定されている。これにより、サイドプレート25,26により区画されたシリンダ室S内は、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bと、シリンダライナ23の内周面23Aとの間には、三日月形状の空間が構成される。
【0026】
ロータ27には、三日月形状の空間を区画する複数(本例では5枚)のベーン28が設けられている。ベーン28は、板状に形成されていて、その前後方向の長さは、ロータ27と同様、2枚のサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しくなるように設定されている。これらベーン28は、ロータ27に設けられたガイド溝27Cから出没自在に配設されている。各ベーン28は、ロータ27の回転に伴い、遠心力によってガイド溝27Cに沿って外側へ突出し、その先端をシリンダライナ23の内周面23Aに当接させる。これにより、上述の三日月形状の空間は、相互に隣接する2枚のベーン28,28と、ロータ27の外周面27Bと、シリンダライナ23の内周面23Aとによって囲まれる5つの圧縮室Pに区画される。これら圧縮室Pは、出力軸12の回転に伴うロータ27の矢印R方向の回転に伴い、同方向に回転し、その容積が、開口23B近傍で大きく、一方、排気孔23Cで小さくなる。つまり、ロータ27,ベーン28の回転により、開口23Bから1つの圧縮室Pに吸入された空気は、ロータ27の回転に伴って回転しつつ圧縮されて、排気孔23Cから排出される。本構成では、ロータ27及び複数のベーン28を備えて回転圧縮要素を構成する。
【0027】
本構成では、シリンダライナ23は、図2に示すように、このシリンダライナ23の軸心X2が回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心してケーシング本体22に鋳込まれている。このため、ケーシング本体22内には、シリンダライナ23が偏心したのと反対の方向に大きなスペースを確保することができ、このスペースにはシリンダライナ23の周縁部に沿って、排気孔23C、22Cに連通する膨張室33が形成されている。
膨張室33は、シリンダライナ23の下方から出力軸12の上方に至るまで、当該シリンダライナ23の周縁部に沿った大きな閉空間として形成され、ポンプカバー24に形成された排気口24Aに連通している。この膨張室33に流入した圧縮空気は、当該膨張室33内で膨張、分散して当該膨張室33の隔壁にぶつかって乱反射する。これにより、圧縮空気の音エネルギが減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0028】
ポンプカバー24は、前側のサイドプレート26にウェーブワッシャー26Aを介して配置され、ケーシング本体22にボルト66で固定されている。ケーシング本体22の前面には、図3に示すように、シリンダライナ23や膨張室33を囲んでシール溝22Dが形成され、このシール溝22Dには環状のシール材67(図2)が配置されている。ポンプカバー24には、膨張室33に対応する位置に排気口24Aが設けてある。この排気口24Aは、膨張室33に流入した空気を機外(真空ポンプ1の外部)に排出するためのものであり、この排気口24Aは、機外からポンプ内への空気の逆流を防止するためのチェックバルブ29が取り付けられている。
【0029】
また、真空ポンプ1は、電動モータ10とポンプ本体20とを連結して構成されており、電動モータ10の出力軸12に連結されたロータ27及びベーン28がポンプ本体20のシリンダライナ23内で摺動する。このため、ポンプ本体20を電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に合わせて組み付けることが重要である。
このため、本実施形態では、電動モータ10は、ケース11の一端側に出力軸12の回転中心X1を中心とした嵌合穴部63が形成されている。一方、ケーシング本体22の背面には、図2に示すように、シリンダ室Sの周囲に後方へ突出した円筒状の嵌合部22Fが一体に形成されている。この嵌合部22Fは、電動モータ10の出力軸12の回転中心X1と同心に形成されており、電動モータ10の嵌合穴部63にインロー嵌合する外径に形成されている。これにより、本構成では、電動モータ10の嵌合穴部63にケーシング本体22の嵌合部22Fを嵌め込むだけで、簡単に中心位置を合わせることができ、電動モータ10とポンプ本体20との組み付け作業を容易に行うことができる。また、ケーシング本体22の背面には、嵌合部22Fの周囲にシール溝22Eが形成され、このシール溝22Eには環状のシール材35が配置されている。
【0030】
次に、上述した真空ポンプ1が備えるケーシング31の製造方法について説明する。図4は、ケーシング31の製造手順を示すフローチャートである。
まず、ケーシング31に用いられるシリンダライナ23の外周面にらせん溝(回転及び抜けを防止する手段)を成形する(ステップS1)。具体的には、図5に示すように、シリンダライナ23の外周面23Dにらせん状に延びた溝部23Eを複数成形する。この溝部23Eは、シリンダライナ23を鋳込んだ際に溶融金属が当該溝部23E内に侵入してアンカーとして機能し、シリンダライナ23の回転及び抜けを防止するものである。溝部23Eは、端部23Fを閉じて形成するのが望ましいが、当該溝部23E間のピッチを変更しても良い。このらせん状に延びた溝部23Eは、シリンダライナ23を旋盤のチャックに保持した状態で当該シリンダライナ23の外周面23Dに刃物(バイト)を当てることにより簡単に成形できる。また、シリンダライナ23の送り量を調整することで溝部23Eのピッチを簡単に変更することができる。なお、この実施形態では、成形が簡単である観点から、シリンダライナ23の外周面23Dにらせん状に延びた溝部23Eを成形したものを一例として説明しているが、これに限るものではなく、例えば、シリンダライナ23の外周面23Dにディンプル等の凹凸を付ける加工をしても良い。
【0031】
次に、シリンダライナ23を鋳込んだ状態でケーシング本体22を鋳造する(ステップS2)。具体的には、シリンダライナ23をダイカスト用金型(不図示)にセットし、この状態で金型内にアルミニウム等の溶融金属(溶湯)を注湯する。これにより、シリンダライナ23を一体に鋳込んだケーシング本体22が鋳造される。
次に、シリンダライナ23とケーシング本体22とを一体に機械加工する(ステップS3)。具体的には、吸気孔としてのケーシング本体22の連通孔22A、シリンダライナ23の開口23Bを一体に孔加工するとともに、ケーシング本体22の排気孔22C、シリンダライナ23の排気孔23Cを一体に孔加工する。本実施形態では、これら連通孔22A、開口23Bと、排気孔22C,23Cとは、シリンダ室Sを挟んで同一の軸心上に配置されているため、ケーシング本体22の上面側からの1回のドリル加工によりこれらを形成することができる。なお、これら孔加工の後、連通孔22A,開口23B及び排気孔22C,23Cの周囲に生じるバリ取りを行う。
シリンダライナ23の内周面23Aは、ロータ27及びベーン28が摺動する摺動面として機能するため、シリンダライナ23の内径を精度良く成形する必要がある。本実施形態では、シリンダライナ23をケーシング本体22に鋳込んでいるため、このシリンダライナ23は、鋳造する工程において高温の溶融金属と接触することにより熱膨張し、冷却する過程で熱収縮する。これにより、シリンダライナ23の内径が個体ごとにバラつきが生じるおそれがある。このため、鋳込まれたシリンダライナ23の内周面23Aを切削することで当該シリンダライナ23の内径を正確に規定寸法に合わせている。
【0032】
続いて、シリンダライナ23の内周面23Aをシリンダライナ23(鉄)よりも硬い金属で皮膜する表面処理を行う(ステップS4)。具体的には、シリンダライナ23の内周面23Aに硬質クロムめっきを施す。この場合、シリンダライナ23の内周面23Aを除いたケーシング本体22をマスキングした後、このケーシング本体ごと、クロムめっき槽に浸けて当該内周面23Aに硬質クロムめっきが施される。乾燥後に内周面23Aをバフ研磨等してシリンダライナ23の内径を正確に規定寸法に合わせる。
最後に、シリンダライナ23をマスキングし(ステップS5)、ケーシング本体22の表面に3価亜鉛メッキ処理を施して(ステップS6)終了する。
【0033】
以上、説明したように、本実施形態によれば、電動モータ10により駆動されるロータ27及びベーン28が摺動するシリンダ室Sを備えるケーシング31の製造方法において、シリンダ室Sを形成するシリンダライナ23を金型に配置し、ケーシング本体22を成形するアルミニウム溶湯を用いて鋳造し、シリンダライナ23を一体に鋳込む工程と、シリンダライナ23及びケーシング本体22を一体に貫通し、シリンダ室S内と連通する連通孔22A、開口23B及び排気孔22C,23Cを加工する工程とを備えたため、シリンダライナ23を一体に鋳込んだケーシング本体22を、一体に貫通してシリンダ室S内と連通する連通孔22A、開口23B及び排気孔22C,23Cを加工できる。このため、シリンダライナを圧入する工程で生じていたシリンダライナ23とケーシング本体22との孔位置の調整作業や、ケーシング本体22の追加工が不要となるため、シリンダライナを圧入するものと比べて製造時の作業工数の低減を図ることができる。また、シリンダライナ23は、ケーシング本体22に鋳込まれてケーシング31が製造されるため、このケーシング31の軸方向への小型化を図ることができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、開口23B及び排気孔23Cが加工されたシリンダライナ23の内周面23Aに硬質クロムめっき処理を施すため、ケーシング本体22にシリンダライナ23を一体に鋳込んだケーシング31であっても、硬度の高い摺動面を簡単に形成することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、シリンダライナ23を鋳込む工程に先だって、シリンダライナ23の外周面23Dに当該シリンダライナ23の回転及び抜けを防止する手段を成形する工程を備えたため、シリンダライナ23とケーシング本体22とで熱膨張係数の異なる金属を採用したとしても、シリンダライナを圧入するものに比べて、シリンダライナ23の回転及び抜けを防止する構成を簡素化できる。
【0036】
また、本実施形態によれば、回転及び抜けを防止する手段として、シリンダライナ23の外周面23Dにらせん状の溝部23Eを成形するため、回転及び抜けを防止したシリンダライナ23を簡単に作成することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、電動モータ10に取り付けられるケーシング31を備え、このケーシング31内に電動モータ10より駆動されるロータ27及びベーン28が摺動するシリンダ室Sを備える真空ポンプ1において、ケーシング31は、鋳造されたケーシング本体22に一体に鋳込まれてシリンダ室Sを形成するシリンダライナ23を備え、シリンダライナ23及びケーシング本体22を一体に貫通し、シリンダ室S内と連通する連通孔22A、開口23B及び排気孔22C,23Cを備えるため、回転軸方向への小型化を図ることができるとともに、シリンダライナを圧入するものと比べて製造時の作業工数の低減を図ることができる。
【0038】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 真空ポンプ
10 電動モータ(駆動機)
12 出力軸(回転軸)
22 ケーシング本体
22A 連通孔(吸気孔)
22B 孔部
22C 排気孔
23 シリンダライナ
23A 内周面
23B 開口(吸気孔)
23C 排気孔
23D 外周面
23E 溝部(らせん溝)
23F 端部
24 ポンプカバー
27 ロータ(回転圧縮要素)
28 ベーン(回転圧縮要素)
31 ケーシング
S シリンダ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機により駆動される回転圧縮要素が摺動するシリンダ室を備えるケーシングの製造方法において、
前記シリンダ室を形成するシリンダライナを金型に配置し、ケーシング本体を成形する溶湯を用いて鋳造し、前記シリンダライナを一体に鋳込む工程と、
前記シリンダライナ及び前記ケーシング本体を一体に貫通し、前記シリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を加工する工程と、を備えたことを特徴とするケーシングの製造方法。
【請求項2】
前記吸気孔及び前記排気孔が加工された前記シリンダライナの内周面を、当該シリンダライナよりも硬い金属で皮膜する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のケーシングの製造方法。
【請求項3】
前記シリンダライナを鋳込む工程に先だって、前記シリンダライナの外周面に当該シリンダライナの回転及び抜けを防止する手段を成形する工程を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のケーシングの製造方法。
【請求項4】
前記回転及び抜けを防止する手段として、前記シリンダライナの外周面にらせん溝を成形することを特徴とする請求項3に記載のケーシングの製造方法。
【請求項5】
駆動機に取り付けられるケーシングを備え、このケーシング内に前記駆動機より駆動される回転圧縮要素が摺動するシリンダ室を備える真空ポンプにおいて、
前記ケーシングは、鋳造されたケーシング本体に一体に鋳込まれて前記シリンダ室を形成するシリンダライナを備え、前記シリンダライナ及び前記ケーシング本体を一体に貫通し、前記シリンダ室内と連通する吸気孔及び排気孔を備えることを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167590(P2012−167590A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28481(P2011−28481)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(510063502)ナブテスコオートモーティブ株式会社 (34)
【出願人】(511038972)共和ダイカスト株式会社 (2)
【Fターム(参考)】