説明

ケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置

【課題】ケーシングの推進を停止した後で再開するため、推進機のモータによりケーシングを回転させるときに、簡易な構成で大きなトルクを発生させ、一時的にトルクを増強できるようにする。
【解決手段】推進機の後方に延びたケーシング12の後端部の継手に着脱可能に取り付けられるワイヤドラム34と、ワイヤードラム34にケーシング12の回転方向と同じ方向に巻き付けられる第1のワイヤロープ44と、第1ワイヤーロープ44の巻き方向とは反対方向にワイヤードラム34に巻き付けられる第2のワイヤーロープ45と、第2ワイヤロープ45が巻き掛けられ、第2ワイヤーロープ45の方向を変えるために地面に対して固定された定滑車38と、第1ワイヤーロープ44の自由端と第2ワイヤーロープ45の自由端とが連結され、巻き上げ装置により引っ張れるようになした動滑車36と、からトルクアップ装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングなどの鋼管を地中に埋設する回転推進機に用いるトルクアップ装置に係り、特に、推進を一旦停止してから再開するときに、一時的に大きなトルクをかけることができるトルクアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下水道、ガス、電気ケーブルなどのライフライン埋設工事には、開削工法に替わって、立坑から管を水平に推進する非開削工法が普及している。この種の推進工法では、地表から掘削した立坑に推進機を入れて、この推進機でケーシングを回転させる同時に後端を押しながら推進していく。推進機には、アタッチメントとして、先端にカッタヘッドを有するケーシングが取り付けられており、カッタヘッドで土砂を掘り崩し、ブレードと送水した水で土砂を立坑に排出させる。そして、一定の距離を掘進したところで、ケーシングを継ぎ足ながら推進していく。
【0003】
また、水道、ガス等のライフラインとして地中に埋設されている埋設管は、経年により老朽化するので、適時に回収して新たな埋設管に交換する必要がある。また、埋設管が不要になった場合は、そのまま放置しないで回収する必要がある。このような既設埋設管を回収するために、古くは、埋設箇所を開削することで埋設管を掘り出していたが、近時は、回転推進工法を利用して、既設の埋設管の外側にケーシングを入れてから、埋設管を回収するようになってきている。この回転推進工法によれば、精度が良く、工事の効率も向上する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転推進機による工法では、ケーシングを推進する過程では、トルクに変動があったり、土質によってはケーシングの回転に大きなトルクが必要となる場合がある。
【0005】
ケーシングの推進を途中で停止し、しばらく間をおいてから、推進を再開するために再起動するときには、土圧がかかり特に大きなトルクが必要になる。状況によっては、駆動モータの容量不足のために、トルクが足りず、ケーシングの推進ができなくなる事態に発展する。このため、従来は、容量の大きなモータを備える大型の推進機を使用し、トルク不足にならないように対処していた。
【0006】
しかし、その反面で、推進の再開後は、ケーシングの回転に必要なトルクが低下するのか常であり、順調に推進しているときには、大容量のモータでなくても推進は十分に可能である。
【0007】
ところが、現実には、推進の再開時に必要なトルク出力を基準にして、大容量のモータを備えた大型推進機を用いる傾向があった。このため、大型推進機を入れるための立坑を大きく開削しなければならなくなったり、推進機の利用費用が増え、必要以上に工事コストが増大するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、ケーシングの推進を停止した後で再開するため、推進機のモータによりケーシングを回転させるときに、簡易な構成で大きなトルクを発生させ、一時的にトルクを増強することのできるトルクアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、ケーシングを非開削で地中に推進する推進機において、ケーシングを回転させるトルクを一時的に増強するためのトルクアップ装置であって、前記推進機の後方に延びたケーシング後端部の継手に着脱可能に取り付けられるワイヤドラムと、前記ワイヤードラムに前記ケーシングの回転方向と同じ方向に巻き付けられる第1のワイヤロープと、前記第1ワイヤーロープの巻き方向とは反対方向に前記ワイヤードラムに巻き付けられる第2のワイヤーロープと、前記第2ワイヤロープが巻き掛けられ、前記第2ワイヤーロープの方向を変えるために固定された定滑車と、前記第1ワイヤーロープの自由端と前記第2ワイヤーロープの自由端とが連結され、巻き上げ装置により引っ張れるようになした動滑車と、からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、好ましくは、前記ワイヤードラムには、第1ワイヤーロープがドラム胴の中央から推進方向に向かって巻きが増す右巻きに、第2ワイヤーロープがドラム胴の中央から推進反対方向に向かって巻きが増す左巻きにそれぞれ3〜5回巻き付けられる。
【0011】
また、本発明では、前記巻き上げ装置には移動式クレーンを用られ、前記移動式クレーンのフックに前記定滑車を吊るようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケーシングの推進を停止した後で再開するときに、推進機のモータによりケーシングを回転させるために、簡易な構成で大きなトルクを一次的に加えることができるので、必要以上の大型の推進機を用いる必要がなくなり、工事コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による回転推進工法機に用いるトルクアップ装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1において、参照番号10は、非開削でケーシングを地中に推進する工法で用られる回転推進機を示す。地表からは立坑50が掘られ、推進機10は、この立坑50内に設置される。
【0014】
回転推進機10は、ケーシング12を回転させながら推進力を与えて、ケーシング12を推進していく機械である。回転推進機10の本体は、ベースとなるガイドフレーム14の上に移動可能に設置されている。回転推進機10の上下左右の四隅には、推進力を発生する油圧シリンダ16が配設されている。回転推進機10から後方には、推進力がケーシング12に与えるときの反力を受けるため反力受けロッド18が延びており、立坑50の壁面に固定されている。
【0015】
回転推進機10には、ケーシング12を回転させるためのトルクを発生する油圧モータ20が設けられている。ケーシング12の先端にはカッターヘッド22が設けられており、ケーシング12の内部には、螺旋状にブレード24(内巻き羽根)が溶接されている。カッタヘッド22は、ケーシング12とともに回転し推力が加えられるようになっている。なお、ケーシング12は、推進が延びるにしたがって、1本づつ継ぎ足しながら推進作業が行われる。
【0016】
本実施形態では、回転推進機10でケーシング12を推進していく工事において、ケーシングの継ぎ足し作業時や夜間に推進を途中で停止した後、ケーシング12を再起動させる時は、初期に大きな起動トルクが必要で、この時必要な起動トルクを増強するために、次のようなトルクアップ装置が構成されている。
【0017】
図1において、参照番号30でトルクアップ装置の全体を示す。
このトルクアップ装置30は、移動式クレーンを利用する実施形態である。参照番号31は、図示しない移動式クレーンのブームから垂下しているワイヤーロープである。このワイヤーロープ31によって滑車ブロック32が吊られており、この滑車ブロック32には、クレーンフック33が取り付けられている。
【0018】
この実施形態では、トルクアップ装置30は、ケーシング12と連結されるワイヤドラム34と、移動式クレーンによって吊られる動滑車36と、地面に対して固定された定滑車38とを含む。
【0019】
以下、トルクアップ装置30の構成について詳細に説明する。
推進に伴って継ぎ足されるケーシング12の最後尾は回転推進機10の後方にある。図2に示すように、ワイヤドラム34は、最後尾のケーシング12aの継手部40に着脱可能に取り付けられる。この場合、継手部40およびワイヤドラム34にはピン穴が41、42があけられており、ワイヤドラム34は継手部40に対して図示しないピンにより結合される。
【0020】
図2に示すように、ワイヤドラム34には、二本のワイヤロープ44、45が互いに逆巻きの方向になるように巻き付けられている。このうち、第1ワイヤーロープ44は、ケーシング12の回転方向と同じ方向の右巻きに巻かれている。この場合、第1ワイヤーロープ44は、ワイヤドラム34の中央から推進方向に向かって右巻きに巻きが増していく。
【0021】
これに対して、第2ワイヤーロープ45の方は、ワイヤドラム34の中央から推進方向とは逆方向に左巻きに巻きが増していく。
なお、ワイヤードラム34にそれぞれ巻かれる第1ワイヤーロープ44、第2ワイヤーロープ45は、3〜5回巻き付ければ十分である。
【0022】
次に、図3は、図2のワイヤドラム34を後方からみた図である。
ワイヤドラム34の下には、定滑車38がアンカーボルト46によって地面に固定されている。この定滑車38には、第2ワイヤーロープ45が巻き掛けられている。すなわち、ワイヤドラム34に巻かれてから下に向かって引き出された第2ワイヤーロープ45は、定滑車38を交わして方向を上に向けて延び、その自由端は第3のワイヤーロープ48の一端にシャックル49を介して連結されている。この第3のワイヤーロープ48は、クレーンフック33に吊られた動滑車36に掛けられているワイヤである。
【0023】
他方、ワイヤドラム34に巻かれてから上に向かって引き出された第1ワイヤーロープ44の自由端は、シャックル50を介して第3のワイヤーロープ48の他端に連結されている。
【0024】
本実施形態によるトルクアップ装置は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
【0025】
回転推進機10でケーシング12を順調に推進しているときには、トルクアップ装置30は必要とはされない。図1に示すのは、推進を途中で停止し、しばらく間をおいてから、推進を再開するためにトルクアップ装置30を組み付けした回転推進機10である。
そこで、移動式クレーンのブームから垂下するクレーンフック33に動滑車36を取り付けるともに、図1に示すようにトルクアップ装置30を組み立てる。
【0026】
図4に示すように、移動式クレーンで動滑車36を吊り上げると、ワイヤドラム34にケーシング12を推進するときの回転方向と同じ方向にトルクがかかることになる。
すなわち、動滑車36が吊り上げられると、ワイヤドラム34にそれぞれ巻かれている第1ワイヤーロープ44および第2ワイヤーロープ45が上に引っ張られる。このうち、第1ワイヤーロープ44は、鉛直上方に引っ張られるとワイヤドラム34を図4において右回りに回転させられるように巻かれている。そして、第2ワイヤーロープ45の方は、定滑車38を介することにより、同じくワイヤドラム45を右回りに回転させるように巻かれている。したがって、クレーンで動滑車36を上に吊り上げることにより、それぞれ第1ワイヤーロープ44と第2ワイヤーロープ45によって、ワイヤドラム45を右回りに回転させるトルクT1、T2が発生することになる。
【0027】
このトルクT1、T2は、回転推進機10がもともと備えている油圧モータ20等の出力トルクに上乗せされてケーシング12に加わるので、特に大容量の動力源を必要としないばかりか、滑車とワイヤーロープを組み合わせた簡易な構成により、推進再開時に限ってケーシング12にかけるトルクを一時的に増強することができる。そして、当然のことながら、ワイヤドラム34に加えられるトルクT1、T2の大きさは、回転推進機10の仕様、油圧モータ10の容量とは無関係に増強することができることになる。このため、再開時のトルクに合わせて必要以上に大型の推進機を用いなければならなかった従来とは異なり、通常の推進に必要な容量を油圧モータ10が備えていれば、回転推進機10で推進工事を円滑に進めることができる。なお、この実施形態では、増強するトルクの大きさは、クレーンの吊上容量の範囲で、クレーンの荷重計を使って管理することができる。
【0028】
また、本実施形態のように、第1ワイヤーロープ44と第2ワイヤーロープ45をワイヤドラム34に逆方向に巻いた上で、動滑車36と固定滑車38を組み合わせることで、左右対称に均等に引っ張ることができるので、ケーシング12やケーシング12を保持している回転推進機10に無理に片寄った力が加わることなく、安定して起動トルクをかけることができる。
【0029】
さらに、トルクアップ装置30では、第1ワイヤーロープ44と第2ワイヤーロープ45がそれぞれ3〜5巻程度巻かれていれば、ケーシング12に高トルクでの初期回転を与えるには必要十分である。通常、3〜5回回転させたところで、地盤からのフリクションが切れるので、全部巻き上げたところで、以後は、回転推進機10の油圧モータ20でケーシング12を回転させて通常の推進工程に移行することができる。その場合、ケーシング12の継手部40からピンを外してワイヤドラム34を抜き取るだけで済むので、推進工程へ円滑に移行することができる。
【0030】
以上、本発明によるトルクアップ装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、移動式クレーンをホイスト等の巻き上げ手段によって代替することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による回転推進機に用いるトルクアップ装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】同トルクアップ装置のドラムを示す側面図である。
【図3】同トルクアップ装置を後方からみた正面図である。
【図4】同トルクアップ装置の作用を説明する正面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 回転推進機
12 ケーシング
22 カッタヘッド
24 内巻き羽根
30 トルクアップ装置
32 滑車ブロック
33 クレーンフック
34 ワイヤドラム
36 動滑車
38 定滑車
40 継手部
44 第1ワイヤロープ
45 第2ワイヤロープ
48 第3ワイヤロープ
50 立坑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングを非開削で地中に推進する推進機において、ケーシングを回転させるトルクを一時的に増強するためのトルクアップ装置であって、
前記推進機の後方に延びたケーシング後端部の継手に着脱可能に取り付けられるワイヤドラムと、
前記ワイヤードラムに前記ケーシングの回転方向と同じ方向に巻き付けられる第1のワイヤロープと、
前記第1ワイヤーロープの巻き方向とは反対方向に前記ワイヤードラムに巻き付けられる第2のワイヤーロープと、
前記第2ワイヤロープが巻き掛けられ、前記第2ワイヤーロープの方向を変えるために固定された定滑車と、
前記第1ワイヤーロープの自由端と前記第2ワイヤーロープの自由端とが連結され、巻き上げ装置により引っ張れるようになした動滑車と、
からなることを特徴とするケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置。
【請求項2】
前記第1ワイヤーロープの自由端と前記第2ワイヤーロープの自由端とを連結する第3のワイヤーロープを前記動滑車に巻き掛けるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置。
【請求項3】
前記ワイヤードラムには、第1ワイヤーロープがドラム胴の中央から推進方向に向かって巻きが増す右巻きに、第2ワイヤーロープがドラム胴の中央から推進反対方向に向かって巻きが増す左巻きにそれぞれ3〜5回巻き付けられることを特徴とする請求項1に記載のケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置。
【請求項4】
前記巻き上げ装置には移動式クレーンを用い、前記移動式クレーンのフックに前記定滑車を吊るようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置。
【請求項5】
前記動滑車を引張する力を前記移動式クレーンの荷重計で管理することを特徴とする請求項4に記載のケーシング回転推進機に用いるトルクアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138461(P2009−138461A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317157(P2007−317157)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000177416)三和機材株式会社 (144)
【Fターム(参考)】