ゲル粒子生成器具及びこれを用いたゲル粒子測定装置
【課題】ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながらゲル粒子を生成する。
【解決手段】試料Sが注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セル1と、この試料セル1内に予め収容され且つ試料S中の目的物質と反応してゲル化する試薬2と、試料セル1に予め収容され且つ注入された試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するように混合溶液Wを撹拌する撹拌部材3と、試料セル1内に前記試薬2及び撹拌部材3が収容された状態で試料セル1の開口を密封すると共に密封後に試薬セル1内に試料Sが注入可能な密封部材4とを備え、試料セル1内に試料Sが注入された時点で撹拌部材3による撹拌動作を開始し、前記混合溶液W全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させる。
【解決手段】試料Sが注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セル1と、この試料セル1内に予め収容され且つ試料S中の目的物質と反応してゲル化する試薬2と、試料セル1に予め収容され且つ注入された試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するように混合溶液Wを撹拌する撹拌部材3と、試料セル1内に前記試薬2及び撹拌部材3が収容された状態で試料セル1の開口を密封すると共に密封後に試薬セル1内に試料Sが注入可能な密封部材4とを備え、試料セル1内に試料Sが注入された時点で撹拌部材3による撹拌動作を開始し、前記混合溶液W全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化反応によって測定対象の試料中のエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成する上で有効なゲル粒子生成器具及びこれを用いたゲル粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(細胞内毒素)と呼ばれるものは、主としてグラム染色に染まらない(グラム陰性)細菌類の菌体の破片で、その成分はリポポリサッカライドと呼ばれる脂質多糖類具体的には、リピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質と多糖鎖が2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)を介して結合したリポ多糖(LPS)であるが、そこに含まれるリピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質構造部分が、細胞の受容体と結合して炎症を引き起こし、多くの場合様々な重篤な臨床症状を引き起こす。このように、エンドトキシンは、敗血症や菌血症という致死率の高い臨床症状の原因となる物質であるため、体内に入ったエンドトキシンの推定をすることは臨床的に要求の高いことである。
また、医薬品(注射剤等)や医療用具(血管カテーテル等)はエンドトキシンによる汚染がないこと(パイロジェンフリー)が重要であり、細菌を用いて調製した医薬品(組み換えタンパク質、遺伝子治療に用いるDNA等)ではエンドトキシンを完全に除去することが不可欠になっている。
【0003】
このエンドトキシンの除去確認、あるいは救急医学における計測は、測定試料数の多さばかりでなく、救命治療という目的にかなった迅速性が求められている。
敗血症などの治療のため、エンドトキシン値を計ろうとする研究は古くよりなされ、カブトガニ(Limulus)のアメーバ状血球成分に含まれる因子群が、エンドトキシンに特異的に反応し、ゲル化することが発見されてから、このリムルスの水解物(Limulus Amebocyte Lysate;LAL試薬又はリムルス試薬)を用いてエンドトキシンの定量をする試みがなされている。
【0004】
最初にリムルス試薬を使った測定法は、単に試料となる患者の血漿を混合して静置し、一定時間後に転倒してゲル化の有無を溶液が固まることで確認し、ゲル化を起こすための最大希釈率でエンドトキシン量を推定する所謂ゲル化法と呼ばれるものであった。
その後、ゲル化反応の過程における濁度増加に着目し、光学的な計測方法を用いた濁度計で、ゲル化反応に伴う濁度変化によりエンドトキシン濃度を測定する比濁時間分析法が知られている。
また、リムルス試薬による反応過程の最終段階でコアギュロゲン(Coagulogen)がコアグリン(Coagulin)に転換するゲル化反応を合成基質の発色反応に置き換えた発色合成基質法も既に知られている。これは、凝固過程における凝固前駆物質(コアギュロゲン:Coagulogen)の代わりに発色合成基質(Boc-Leu-Bly-Arg-p-ニトロアリニド)を加えることにより、その加水分解でp-ニトロアニリンが遊離され、その黄色発色の比色によりエンドトキシン濃度を測定するものである。
【0005】
更に、従来におけるゲル化反応測定装置若しくはこれに関連する測定装置としては、例えば特許文献1,2に示すものが挙げられる。
特許文献1は、ゲル化反応測定装置に関するものではないが、血中の血小板が凝集して塊として成長する過程につき、血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものであり、試料セル内の試料に対してレーザ光源からの照射光を照射させ、血小板で90度側方に散乱した散乱光の一部を光検出器にて検出し、この検出結果に基づいて血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものである。
また、特許文献2は、比濁時間分析法を用いたゲル化反応測定装置に関するものであり、検体(試料)とリムルス試薬とを混合させた混合液の透過光強度の経時変化を測定し、所定時間における変化量から検体のエンドトキシン濃度を測定するものである。
【0006】
更に、ゲル化反応を利用した測定技術は、前述したエンドトキシンのみならず、β−D−グルカン(β−D−glucan)などの測定にも利用される。
β−D−グルカン(β−D−glucan)は真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。このβ−D−グルカンを測定することにより、カンジダやアスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、まれな真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどで有効である。
このβ−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによってゲル化することが利用されており、上述したゲル化法や比濁時間分析法、発色合成基質法によって測定される。
エンドトキシンやβ−D−グルカンの測定手法には共通点があり、例えば略同様の測定ハードウェアを用い、カブトガニの血球抽出成分中からFactor G成分を除くことによりエンドトキシンに選択的なゲル化反応や発色反応が測定でき、また、試料中のエンドトキシンに前処理により不活性化することにより、β−D−グルカンに選択的なゲル化反応や発色反応を測定することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特許第3199850号公報(実施例,図1)
【特許文献2】特開2004−93536号公報(発明の実施の形態,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のゲル化法、比濁時間分析法及び発色合成基質法にあっては、次のような不具合がある。
ゲル化法及び比濁時間分析法は、いずれもゲルが生成するのに低濃度では約90分以上という長時間を要する。すなわち、反応溶液のゲル化時間は、測定対象の試料中の目的物質の濃度に比例するが、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に感度の点から正確なゲル化開始時間などが検出できないため、ゲル化終了までの時間から反応量を算出してゲル化時間の目安としている。
例えば比濁時間分析法を例に挙げると、比濁時間分析法は、変化の始まる最初のレベルと変化の行き着くレベルとについては分かるが、夫々の変化の始まる時間や終わりの時間が分かり難く、最初と最後のレベルの間の一定レベルの変化(濁度の増加)を測ることで、ゲル化全体の変化観察に換えるという定量法として確立されたものである。しかし、低濃度のエンドトキシンになると、系全体のゲル化が遷延し、それにつれて観測する濁度変化も遅くなることから測り難くなり、その分、感度が必然的に鈍くなってしまう。
従って、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に救急を要する場合や多数の検体を測定するのに適した方法とは言い難い。更に、比濁時間分析法ではエンドトキシンとは無関係の非特異的濁りが生ずることがあり、測定精度に欠ける懸念がある。また、ゲル化法の測定限界濃度は3pg/ml、比濁時間分析法の測定限界濃度は1pg/ml程度である。
尚、ゲル化反応測定装置に適用される比濁時間分析法として、仮に特許文献1に示す散乱測光法を適用したとしても、ゲル化全体の変化観察に換えた定量法である以上、上述した問題は解決し得ない。
一方、発色合成基質法はゲル化法及び比濁時間分析法に比べて測定時間が約30分程度と短時間であるが、偽陽性反応が生ずる場合があり、特異度の高い測定を行うことが難しく、また、測定準備が煩雑であり、測定限界濃度も3pg/mlと比濁時間分析法に劣る。
【0009】
本発明は、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながらゲル粒子を生成することができるゲル粒子生成器具及びこれを用いたゲル粒子測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するゲル粒子生成器具であって、試料が注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セルと、この試料セル内に予め収容され且つ試料中の目的物質と反応してゲル化する試薬と、前記試料セルに予め収容され且つ注入された試料及び前記試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌部材と、前記試料セル内に前記試薬及び前記撹拌部材が収容された状態で前記試料セルの開口を密封すると共に密封後に試薬セル内に試料が注入可能な密封部材とを備え、試料セル内に試料が注入された時点で撹拌部材による撹拌動作を開始し、前記混合溶液全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたことを特徴とするゲル粒子生成器具である。
請求項2に係る発明は、請求項1に係るゲル粒子生成器具において、試薬セルの開口縁に取り付けられて密封部材を保持する保持カバーを有することを特徴とするゲル粒子生成器具である。
【0011】
請求項3に係る発明は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、予め決められた測定ステージに配設され且つ試料セル内に試料が注入された請求項1に係るゲル粒子生成器具と、前記測定ステージのうち試料セル外部に設けられ、試料セル内の撹拌部材を回転させることで試料及び試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌駆動手段と、前記試料セルの透過部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源と、このコヒーレント光源からの光のうち前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液を通過した光を検出する光検出手段と、この光検出手段の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段と、この光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項4に係る発明は、請求項3に係るゲル粒子測定装置において、ゲル粒子生成器具の試料セルは一方から他方にかけて光が透過する透過部を有し、前記光検出手段は前記試料セルの透過部の外部でコヒーレント光源の反対側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液中を透過した光を検出するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項5に係る発明は、請求項4に係るゲル粒子測定装置において、光検出手段と試料セルとの間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段に向かう成分が除去される散乱光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項6に係る発明は、請求項3ないし5いずれかに係るゲル粒子測定装置において、測定ステージに配設された資料セル全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながら、ゲル粒子を生成することができる。
請求項2に係る発明によれば、試薬セルの開口縁から密封部材が不必要に外れることを有効に防止することができる。
請求項3に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながら、ゲル粒子を生成することが可能になることから、ゲル粒子の生成状態を正確に計測することができる。
請求項4に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、光検出手段にて試料及び試薬からなる混合溶液の透過光を検出し、この検出出力に基づいてゲル粒子の生成状態を判別するようにしたので、光検出手段にて散乱光を検出する方式に比べて、ゲル粒子の生成状態を高感度に計測することができる。
請求項5に係る発明によれば、光検出手段での検出精度をより向上させることができ、その分、ゲル粒子の生成状態を高感度に計測することができる。
請求項6に係る発明は、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、温度の変化に伴うゲル化反応への影響を有効に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
◎実施の形態の概要
図1(a)は本発明が適用された実施の形態に係るゲル粒子生成器具の概要を示す説明図である。
同図において、ゲル粒子生成器具11は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するものであって、試料Sが注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セル1と、この試料セル1内に予め収容され且つ試料S中の目的物質と反応してゲル化する試薬2と、前記試料セル1に予め収容され且つ注入された試料S及び前記試薬2からなる混合溶液W(図1(b)参照)全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液Wを撹拌する撹拌部材3と、前記試料セル1内に前記試薬2及び前記撹拌部材3が収容された状態で前記試料セル1の開口を密封すると共に密封後に試料セル1内に試料Sが注入可能な密封部材4とを備え、試料セル1内に試料Sが注入された時点で撹拌部材3による撹拌動作を開始し、前記混合溶液W全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたものである。
【0014】
このような技術的手段において、本件の目的物質は、所定の試薬2との間でゲル化反応し、ゲル粒子が生成されるものであれば広く含む。例えばエンドトキシンやβ−D−グルカンが挙げられるが、これ以外に、血液の凝固反応や抗原抗体反応もゲル化反応に相当するものであるから、これらのゲル化反応に至る試料S中の成分も本件の目的物質になり得る。
また、試料セル1は、全てが透過性部材で構成されていてもよいが、これに限られるものではなく、光が透過する部分に少なくとも透過部を有していればよい。その構成材料としては、ガラスであってもよいし、樹脂であってもよい。また、その形状についても断面円形、矩形を始めとする多角形等適宜選定して差し支えなく、断面形状も全て均一である必要は必ずしもなく、一部にくびれ部などを設けて差し支えない。
更に、試薬2としては、試料S中の目的物質との間でゲル化反応(凝集反応)を起こすものであれば適宜選定して差し支えなく、凍結乾燥粉末などの固体でもよいし、液体でもよい。
更にまた、撹拌部材3としては、試料セル1内に内蔵され、試料S及び試薬2からなる混合溶液Wに対して撹拌作用を与えるものであれば広く含む。例えば磁性を有する撹拌棒を用い、外部にこれを駆動するための撹拌駆動手段12(図1(b)参照)を設けるようにすればよい。
【0015】
また、密封部材4は試料セル1内に、撹拌部材3及び試薬2を収容した状態で密封するものであればよく、例えばゴム等の栓材が広く用いられる。
そして、試料セル1への試料Sの注入については、例えば注入器等を使用して密封部材4に針を刺し、所定量の試料Sを注入するようにすればよい。この場合、試料S注入後は密封部材4の微小孔はその弾性変形にて塞がれることから、密封部材4の密封性は良好に保たれる。
更に、ゲル粒子生成器具11の好ましい態様としては、試料セル1の開口縁に取り付けられて密封部材4を保持する保持カバー5を有するものが挙げられる。
ここで、保持カバー5としては、試料セル1に対して着脱自在とし、密封部材4から試料Sを注入する際に試料セル1から一旦取り外すようにしてもよいが、試料Sの注入操作性を簡易に行うという観点からすれば、一部に密封部材4に面して孔部5aを有し、保持カバー5を取り外すことなく、前記孔部5aを利用して試料Sを注入することが好ましい。
【0016】
また、図1(b)は本発明が適用された実施の形態に係るゲル粒子測定装置の概要を示す説明図である。
同図において、ゲル粒子測定装置は、ゲル化反応によって試料S中の目的物質を粒子化して測定するものであって、予め決められた測定ステージに配設され且つ試料セル1内に試料Sが注入されたゲル粒子生成器具11と、前記測定ステージのうち試料セル1外部に設けられ、試料セル1内の撹拌部材3を回転させることで試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液Wを撹拌する撹拌駆動手段12と、前記試料セル1の透過部の外部に設けられ、前記試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液Wに対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源13と、このコヒーレント光源13からの光Bmのうち前記試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液Wを通過した光Bmを検出する光検出手段14と、この光検出手段14の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段15と、この光変動計測手段15の計測結果に基づいて前記混合溶液W内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段16とを備えたものである。
【0017】
このような技術的手段において、ゲル粒子生成器具11としては上述した態様のものが用いられる。
また、撹拌駆動手段12としては、ゲル粒子生成器具11の撹拌部材3を駆動するものが必要であり、例えば撹拌部材3が磁性を有する撹拌棒であれば、回転磁石を回転させることで前記撹拌棒に回転力を与えるようにする方式が挙げられる。ここで、撹拌駆動手段12による撹拌部材3の撹拌の程度は、試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するものであることを要する。
更に、コヒーレント光源13はコヒーレントな光を照射するものであればレーザ光源によるレーザ光に限られず、例えばナトリウムランプの光のような単色光をピンホールに通すことによっても作成可能である。
更にまた、光検出手段14としては、コヒーレント光源からの光のうち試料S及び試薬2からなる混合溶液Wを通過し、混合溶液W中で生成されたゲル粒子を透過した透過光又はゲル粒子にて散乱された散乱光を検出するものであればよい。
また、光変動計測手段15は光検出手段14の検出出力に基づいて光の変動成分を計測するものであり、例えば検出出力を平均化又はスムージングすると共にフィルタリング化する手法が挙げられる。
更に、ゲル粒子生成判別手段16としては、ゲル粒子の生成状態を判別するものを広く含む。
ここで、ゲル粒子の生成状態とは、ゲル粒子の生成開始(出現)時点、生成過程の変化、生成終了時点、生成量などを広く含むものである。
そして、「ゲル粒子の生成状態を判別する」とは、ゲル粒子の生成状態に関する情報を直接判別することは勿論、ゲル粒子の生成状態に基づいて判別可能な情報(例えば目的物質の定量情報)を判別することも含むものである。
特に、ゲル粒子の生成開始時点を判別するには、光変動計測手段15の計測結果に基づいて光の減衰変化点がゲル粒子の出現タイミングと判別するようにすればよい。
【0018】
また、ゲル粒子生成器具11の配設箇所については、測定条件を一定に保つという観点からすれば、試料セル1全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段18を備える態様が好ましい。
ここで、温度調節手段18としては例えば恒温槽が挙げられる。
更に、光検出手段14としては、コヒーレント光源13からの光のうち試料S及び試薬2からなる混合溶液W中を透過する透過光を主として検出するものが好ましい。
この透過光検出方式は、散乱光検出方式に比べて以下の利点を有する。
(1)透過光成分は散乱光成分よりもともと多い。つまり、光検出手段14が透過光検出方式を採用した態様では、ゲル粒子で散乱した散乱光の一部が迷光として光検出手段14に検出される可能性があるが、検出出力の大部分が透過光成分であることから、迷光成分が一部に含まれていても影響が少ない。
(2)試料セル1の容器構造として、散乱光検出方式では、減衰の少ない容器厚の薄い特殊な容器構造を採用することを要するが、透過光検出方式ではこのような制約はない。
(3)コヒーレント光源13のレイアウトの設置精度については、透過光検出方式の方がラフでよい。
【0019】
特に、透過光検出方式を採用する際の好ましい態様としては、光検出手段14と試料セル1との間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段14に向かう成分が除去される散乱光除去手段17を備えている態様が挙げられる。
ここで、散乱光除去手段17の代表的態様としては、散乱光成分をカットして透過光成分のみを通過させる偏光フィルタが挙げられる。
そして、光検出手段14が透過光検出方式を採用した態様では、ゲル粒子で散乱した散乱光の一部が迷光として光検出手段14に検出される可能性があるが、迷光成分による影響を回避するという観点からすれば、光変動計測手段15にて補正することも考えられるが、本態様であれば、簡単な構成で迷光成分を確実に除去する点で好ましい。
また、光変動計測手段15による計測結果を目視するという観点からすれば、光変動計測手段15による計測結果が表示される表示手段19を備えていることが好ましい。
【0020】
次に、図1(a)に示すゲル粒子生成器具の作動について説明する。
先ず、ゲル化反応を図2(a)に模式的に示す。
同図において、試料Sの目的物質Stに対し特異的に反応する試薬2が存在すると、試料S中の目的物質Stの濃度に依存した割合にて、その目的物質Stが試薬2と特異的に反応する現象が起こる。この反応過程において、試薬2は、目的物質Stの刺激を受けて所定の因子が活性化し、これに起因して所定の酵素が活性化するタイミングで例えば水溶性のタンパク質が酵素による分解反応にて不溶性のタンパク質に転換し、ゲル粒子Gの出現に至ることが起こる。
より具体的には、エンドトキシンを例に挙げて、エンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示すと、図3の通りである。
同図において、(1)に示すエンドトキシンの刺激がリムルス試薬に伝わると、先ず(2)に示すように、因子C(Factor C)が活性化されて活性化因子C(Activated Factor C)となり、次いで、活性化因子Cの作用により、(3)に示すように、因子B(Factor B)が活性化されて活性化因子B(Activated Factor B)になる。この後、活性化因子Bの作用により、(4)に示すように、Pro-Clotting酵素がClotting酵素になり、(5)に示すように、このClotting酵素がCoagulogen(水溶性タンパク質)を分解してCoagulin(不溶性タンパク質)に生成する。このCoagulin(不溶性タンパク質)は撹拌により全体のゲル化が阻害されるとゲル粒子Gとして出現し、静置すると(6)に示すように、重合化・ゲル化する。
つまり、試料Sの目的物質Stがエンドトキシンである場合には、混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与えることで混合溶液W全体のゲル化を阻害しつつ、この状態で、リムルス試薬2にエンドトキシンの刺激が伝わると、Clotting酵素の周りにCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gを産出させることが可能であり、Coagulin(不溶性タンパク質)がゲル粒子Gとして生成された後に、ゲル粒子Gが順次生成される反応過程を経ることが理解される。
また、リムルス試薬2にエンドトキシンの刺激が伝わる速度(リムルス反応速度)はエンドトキシン濃度に依存的であり、エンドトキシン濃度が高い程リムルス反応速度が速く、Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングが早いことが見出された。
よって、光変化(例えば透過光変化)を精度良く検出するようにすれば、ゲル粒子Gの生成開始点として前記Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングを把握することは可能であり、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の測定原理の基本である。
このようなゲル粒子測定装置の測定原理は、例えば従前のゲル化法や比濁時間分析法の測定原理(リムルス試薬2による反応過程において、静置した条件下、活性化された酵素の影響で最終的にゲル化するに至り、このゲル化した状態を濁度により測定する態様)とは全く相違するものである。
【0021】
ここで、例えば透過光検出方式を用いたゲル粒子測定装置の測定原理を図2(b)に模式的に示す。
本実施の形態のゲル粒子測定装置では、図2(b)の工程Iに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子がない場合には、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm1はゲル粒子によって遮られることがないため、その透過光Bm1の透過光度は略一定に保たれる(図2(c)I工程P1参照)。
そして、図2(b)の工程IIに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子Gが生成開始し始めた場合、例えばエンドトキシンの場合のCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gが産出し始めると、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm2は産出されたCoagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの存在によって一部遮られるため、その透過光Bm2の透過光度は略一定のレベルから減衰傾向に変化しようとする(図2(c)II工程P2参照)。
この後、図2(b)の工程IIIに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子Gの生成が次第に進行していく場合には、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm3は順次生成される多くのゲル粒子Gの存在によって遮られるため、その透過光Bm3の透過光度は減衰変化点P2を境に順次減衰していく(図2(c)III工程P3参照)。
【0022】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明をより詳細に説明する。
◎実施の形態1
本実施の形態1に係るゲル粒子測定装置は、ゲル粒子生成器具100(図4参照)を有し、例えば試料の目的物質としてのエンドトキシンの濃度をリムルス試薬を用いたゲル化反応にて測定するものである。
―ゲル粒子生成器具―
本実施の形態において、ゲル粒子生成器具100は、例えば図4(a)(b)に示すように、エンドトキシンを含む試料が注入される試料セル101を有する。
この試料セル101は、例えばガラス材料にて一体的に成形され且つ上部が開口した横断面円形の有底の筒体からなり、その上部にフランジ部102を形成すると共に、このフランジ部102の下部にくびれ部103を形成し、フランジ部102及びくびれ部103には小径孔部104を形成し、この小径孔部104より大径の大径空間部105を内部に形成したものである。
そして、この試料セル101内には、エンドトキシンを含む試料とゲル化反応を生ずる試薬106が例えば凍結乾燥粉末状にて予め無菌的に収容されると共に、磁性材料を用いた撹拌棒107が予め収容される。
更に、この試料セル101の小径孔部104にはゴム等の弾性材料からなる密封栓108が嵌め込まれている。この密封栓108は断面略T字状に成形されており、その頭部108aが試料セル101のフランジ部102に載置され、その脚部108bが小径孔部104に密接した状態で挿入されている。尚、密封栓108の脚部108bの一部には切欠108cが設けられている。
更にまた、試料セル101のフランジ部102及び密封栓108の頭部108aは例えばアルミニウム製のキャップ状の保持カバー109で覆われ、この保持カバー109は試料セル101のフランジ部102の周壁に嵌り込み、密封栓108を外側から抱き込み保持するようになっている。そして、この保持カバー109の例えば中央には密封栓108の頭部108aに面して孔部109aが形成されている。
【0023】
この種のゲル粒子生成器具100は、図4及び図5に示すように、試料セル101の小径孔部104を開放した状態で試薬106及び撹拌棒107を収容し、この状態で、試料セル101の小径孔部104を密封栓108で密封すると共に、この密封栓108を保持カバー109で覆うようにしたものである。
このようなゲル粒子生成器具100は、ゲル粒子測定装置の付属品や測定キットとしてユーザーに供給される。
そして、本態様のゲル粒子生成器具100の試料セル101への試料Sの導入法としては、例えば保持カバー109の孔部109aを利用して密封栓108に注射針のような穿孔具にて穿孔し、この穿孔を通じて注入器110にて試料Sを注入するようにしたものが挙げられる。更に、試料Sの導入を容易に行うため、試料セル101内が大気圧に対して所定の負圧レベルを保つように密封栓108の密封仕様を設定してもよい。
【0024】
―ゲル粒子測定装置―
本実施の形態において、ゲル粒子測定装置は図6(a)(b)に示すように構成されている。
同図において、ゲル粒子生成器具100は、予め決められた測定ステージに設置されるが、本実施の形態では、恒温槽115内に配置されて試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wを一定の恒温環境(例えば37℃)下におき、測定条件を一定にするようになっている。
また、符号120は試料セル101内の混合溶液Wを撹拌するために試料セル101内の磁性撹拌棒107を駆動する撹拌駆動装置であり、例えば混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与え、混合溶液Wを均一に撹拌しながら混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するようになっている。
特に、本例では、撹拌駆動装置120は、試料セル100内の底壁に内蔵された磁性体からなる撹拌棒(スターラーバー)107に対して磁力による撹拌力を作用させる撹拌駆動源(マグネチックスターラー)として構成されている。
【0025】
更に、符号130は試料セル101の側周壁の一方側に設けられ且つコヒーレントな光を照射するレーザ光源であり、140は試料セル101を挟んでレーザ光源130の反対側に設けられてレーザ光源130からの透過光Bを検出する透過光検出器である。この透過光検出器140としては例えばフォトダイオードなどの光学部品を広く用いることができる。
本実施の形態では、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmは、図6(b)に示すように、試料セル101の略直径部分を横切る経路に沿って照射されており、その光径は生成されるゲル粒子径(例えば0.5〜20μm程度)に対して十分に大きい値(例えば1mm程度)に設定される。
一方、透過光検出器140はレーザ光源130からの透過光Bmの光束領域を検出可能な検出面を有し、透過光検出器140の検出精度は、透過光Bmの通過面積内に存在する1ないし数個のゲル粒子の有無による透過光量変化を検出可能な程度に設定される。
更に、本実施の形態では、試料セル101と透過光検出器140との間に偏光フィルタ150が配設されている。この偏光フィルタ150は、レーザ光源130からの光Bmのうち混合溶液W内にて生成されたゲル粒子Gによって散乱した散乱光で透過光検出器140に向かう成分の迷光を除去するものである。この偏光フィルタ150による迷光除去原理は、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmがゲル粒子Gで散乱すると、その散乱光の位相がずれることを利用し、透過光Bmの位相以外の位相成分の迷光成分をカットするようにしたものである。
尚、レーザ光源130、透過光検出器140と試料セル101との間には光路や照射光径を決定する上で必要に応じて集光レンズ、ミラー等の光学部品を配置してもよいことは勿論である。
【0026】
符号160は透過光検出器140からの検出出力を取り込み、例えば図7に示すデータ解析処理を実行するデータ解析装置、170はデータ解析装置160で解析された解析結果を表示するディスプレイである。
このデータ解析装置160はCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースなどを含むコンピュータシステムにて構成されており、例えばROM内に図7に示すデータ解析処理プログラムを予め格納しておき、透過光検出器140からの検出出力に基づいてCPUにてデータ解析処理プログラムを実行するものである。
尚、透過光検出器140からの検出出力は例えば図示外の増幅器により電流電圧変換された後、AD変換器によりAD変換され、データ解析装置160に取り込まれる。
【0027】
次に、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の作動について説明する。
本実施の形態において、図6(a)(b)に示すゲル粒子生成器具100の試料セル101にエンドトキシンを含む試料Sを注入した後、図示外のスタートスイッチをオン操作すると、ゲル粒子測定装置による測定シーケンスが開始される。
この測定シーケンスは、撹拌駆動装置120にて撹拌棒107が回転され、試料セル101内の試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを撹拌する。このため、混合溶液W全体が均一に撹拌されると共に、混合溶液W全体としてはゲル化することが抑制される。
更に、測定シーケンスは、レーザ光源130から光Bmを照射し、試料セル101内の混合溶液Wを通過した透過光Bmを透過光検出器140にて検出すると共に、透過光検出器140の検出出力をデータ解析装置160に取り込む。
【0028】
一方、試料セル101内では、リムルス試薬にエンドトキシンの刺激が伝わり、図3に示すようなリムルス反応が起こり、混合溶液W全体のゲル化が抑制された状態で、ゲル粒子Gが順次生成されていく。
本実施の形態では、レーザ光源130からの光Bmの通過面積内にゲル粒子Gが例えば1個生成されたタイミングがゲル粒子Gの生成開始点として把握されており、透過光Bmの減衰変化点のタイミングになるものである。
このような反応過程において、データ解析装置160は、例えば図7に示すように、透過光検出器140からの検出出力を透過光量データ(デジタルデータ)として読み込んだ後、平均化・フィルタリング化処理を行って透過光量データの変動成分を計測する。
次いで、透過光量データの変動成分に基づいて透過光Bmの減衰変化点(図2のP2に相当)を抽出し、予め規定されている検量線を参照することによって試料Sのエンドトキシン濃度(ETX濃度)を決定し、ディスプレイ170に表示する。
本例では、検量線は、エンドトキシン濃度(ETX濃度)と透過光Bmの減衰変化点に至るまでの時間閾値との関係を示すものであり、透過光Bmの減衰変化点の時間と検量線との相関に基づいてエンドトキシン濃度(ETX濃度)が決定される。また、ディスプレイ170にはエンドトキシン濃度(ETX濃度)以外に、透過光量データの時系列データ、透過光量データの変動成分の時系列計測データなどのデータが切り換え表示されるようになっている。
尚、検量線の作成法については後述する実施例にて具体例を示す。
【0029】
このように、本実施の形態においては、ゲル粒子測定装置は、試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを所定の恒温環境下で撹拌し、混合溶液W中に産生するCoagulin粒子からなるゲル粒子Gの出現によって透過光Bmが一部遮られて減光することを検出し、ゲル化の開始時期を捉えようとするものである。
特に、本例では、透過光検出器140の検出精度を高感度にするため、レーザ光というコヒーレントで強い光を利用し、また、微細な変化を検出するために、低濃度での変化では特に散乱した迷光がCoagulin粒子からなるゲル粒子Gに当たって位相がずれることを利用し、偏光フィルタ150にて迷光成分が除去されることから、透過光検出器140にはレーザ光源130からの透過光成分だけが入射することになり、その分、透過光変化が正確に検出される。
【0030】
◎比較の形態
また、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の性能を評価する上で図8(a)(b)に示す比較の形態に係るゲル粒子測定装置と対比する。
同図において、比較の形態に係るゲル粒子測定装置は、ゲル粒子生成器具200(試料セル201内に試薬、撹拌棒207を予め収容した態様)の試料セル201内にエンドトキシンを含む試料Sを注入し、これらの混合溶液Wを撹拌駆動装置220にて駆動される撹拌棒207にて撹拌すると共に、レーザ光源230からの光Bm’を混合溶液W内に照射し、リムルス反応にて生成されるゲル粒子Gにて側方に散乱した散乱光の一部を光検出器240にて検出し、この光検出器240の検出出力をデータ解析装置260に取り込み、ゲル粒子Gの産生時期を演算処理するものである。
この比較の形態に係るゲル粒子測定装置によれば、もともと散乱光は透過光に比べて割合が少なく、その一部しか計測できないため、出来る限り散乱光の減衰を抑えることが必要になる。そこで、この比較の形態にあっては、散乱光の減衰を防ぐために、厳密な光学回路が必要で、図8(b)に示すように、試料セル201の混合溶液Wの表面で直角な位置関係となる入射、散乱反射角度を得るようにレーザ光源230及び光検出器240を設置し、散乱光を計測することが必要であった。このため、試料セル201も減衰の少ない容器厚kの薄い特殊な容器構造を採用しなければならず、また、レーザ光源230、光検出器240の設置精度を極めて高くせざるを得ない。
この点、本実施の形態では、透過光成分は多くもともと確保することができるばかりか、試料セル101の容器構造として特に特殊な構造を施さずに、容器厚の厚い丈夫なものを使用することができ、また、試料セル101に対するレーザ光源130、透過光検出器140の設置も試料セル101の略直径方向に向けて直線上に対向させればよく、試料セル101の交換に伴う設置精度をある程度ラフにすることも可能である。
【0031】
◎変形形態
本実施の形態では、一検体(試料S)分のゲル粒子生成器具100に対するゲル粒子測定装置を示しているが、複数の検体(試料)を同時に処理するという要請下では、例えば複数のゲル粒子生成器具100の試料セル101を一体化したマルチ試料セルを用意し、各試料セルに対応して夫々レーザ光源130、透過光検出器140を配置し、複数の検体(試料)を同時に測定できるようにすればよい。
更に、実施の形態1では、測定対象の物質をエンドトキシンとするものが開示されているが、これに限られるものではなく、例えば同じ測定ハードウェアで、かつ、同様ないしは類似のリムルス試薬を用い、測定対象の物質をβ−D−グルカンとすることも可能である。
【実施例】
【0032】
◎実施例1
本実施例は、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置をより具現化したものである。
ここで、実施例の条件は以下の通りである。
・レーザ光源130:赤色光又は緑色光
・透過光検出器140:フォトダイオード
・撹拌棒(スターラーバー)107の回転数:1000rpm
・恒温条件:37℃
本実施例では、様々なエンドトキシン濃度(10・1・0.1pg/ml)を添加したときのリムルス試薬に対して、ゲル粒子測定装置で透過光度の変化を調べたものである。
図9は、10pg/mlは2回、1pg/ml、0.1pg/mlの夫々の時間経過を追った透過光度をプロットしたものである。
同図において、各条件の透過光度の変化は、いずれも略一定のレベルを維持する部分がある時間になって減衰低下する傾向を示している。この透過光度の減衰変化点はゲル粒子の生成開始点(ゲル化開始時間)に相当し、ゲル化開始時による減光を意味するものと想定される。
このゲル化開始時を求めるため、本実施例では、図9のグラフにおいて、マニュアルで、一定透過光度の部分を近似した直線と透過光度が減衰傾斜していく変化部分を近似した直線との交点を求め、夫々ゲル化開始時間(反応時間)t1(10)、t2(10)、t(1)、t(0.1)を求めた。
本例では、10pg/ml:t1(10)=16(min.)
t2(10)=19(min.)
1pg/ml:t(1)=28(min.)
0.1pg/ml:t(0.1)=70(min.)
であった。
【0033】
ちなみに、和光純薬工業株式会社製の比濁時間分析法を採用したエンドトキシンキット(ゲル化反応測定装置)を用い、エンドトキシン濃度とゲル化時間とを調べたところ、以下のような結果が得られた。
エンドトキシン濃度(pg/ml) ゲル化時間(min.)
0.1 123.7
0.5 56.3
1.0 41.8
10.0 18.0
【0034】
更に、本実施例では、図9のグラフから求めたゲル化開始時間t1(10)、t2(10)、t(1)、t(0.1)の値を用いて検量線を作成するようにした(図10参照)。
本実施例の検量線は、X軸をエンドトキシン濃度であるETX濃度(log変換)、Y軸をゲル化開始時間(log変換)とすると、直線関係が得られ、相関係数−0.9804という高い相関が示され、この検量線の有用性が証明される。
【0035】
◎実施例2
本実施例は、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置をより具現化したものである。
ここで、実施例の条件は実施例1と同様以下の通りである。
・レーザ光源130:赤色光又は緑色光
・透過光検出器140:フォトダイオード
・撹拌棒(スターラーバー)107の回転数:1000rpm
・恒温条件:37℃
特に、本実施例では、様々なエンドトキシン濃度(10−1、10−2、10−3、10−4、10−5unit(但し、1pg=7×10−3unit))を添加したときのリムルス試薬に対して、ゲル粒子測定装置で透過光度の変化を調べたものである。
図11は、夫々のエンドトキシン濃度につき2回の夫々の時間経過を追った透過光度をプロットしたものである。尚、図11において、エンドトキシン濃度10−1(◇)のデータは他のデータに重なっているため、目視できない状態である。
更に、本実施例では、図11のグラフから求めたゲル化開始時間の値(本例ではエンドトキシン濃度10−1、10−2、10−3、10−4unitのデータを使用)を用いて検量線を作成したところ、図12に示す結果が得られた。
本実施例の検量線は、X軸をエンドトキシン濃度であるETX濃度(log変換)、Y軸をゲル化開始時間(log変換)とすると、直線関係が得られ、相関係数 ―0.993 という高い相関が示され、この検量線の有用性が証明される。
特に、本実施例では、エンドトキシン濃度が低い箇所での検量線が正確に得られることが確認された。
【0036】
◎実施例3
実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具100を用い、ゲル粒子の生成状態の一例を図13に示す。
同図において、No.1は、本実施例に係るゲル粒子生成器具に試薬と水からなる混合溶液を撹拌棒にて予め決められた時間( 約20分 )撹拌した状態を示す。No.2は、本実施例に係るゲル粒子生成器具に試薬とエンドトキシン濃度が10pg/mlからなる混合溶液を撹拌棒にて予め決められた時間撹拌した状態を示す。No.3(比較例)は、No.2と同様な混合溶液を比濁時間法を用いて計測した状態を示す。
このとき、本実施例のゲル粒子生成器具によるゲル粒子の生成状態は、比較例の溶液全体がゲル化したものに比べてより濁度の高いゲル粒子が出現していることが理解される。尚、No.2では、ゲル粒子が混合溶液の下方側に偏っているが、これは撮影する際に撹拌棒の回転を停止させたために、生成されたゲル粒子が沈殿したものと思料される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、リムルス試薬を用いたエンドトキシンやβ−D−グルカンなどを測定対象とするゲル粒子測定装置を始め、ゲル化反応によってゲル粒子が生成可能な目的物質を測定対象とする測定装置に広く適用される。
例えば血液凝固反応や抗原抗体反応において適用することが可能である。
―血液凝固反応(図14)―
血漿中のプロトロンビンは、様々な血液凝固因子の活性化を経てトロンビンとなり、フィブリンが凝集する。
この点について補足すると、血漿の凝固系は、以下の開始期、増幅期、伝播期を経て進行する。
<開始期>
(外因性経路)
血液凝固カスケードにおいて、細胞が傷害を受けると、組織因子が第VIIa因子(第VII因子が活性化したもの)と結合する。
ここで、第VIIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、第IXa因子は第X因子を活性化して第Xa因子とする。
(内因性経路)
血液が負に帯電した固体(例えば、岩石や砂)に触れると、プレカリクレインと高分子量キニノゲンが第XII因子を活性化し、第XIIa因子とする。また、第XIIa因子は第XI因子を活性化して第XIa因子とする。また、第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。
<増幅期>
トロンビンは第XI因子を活性化して第XIa因子とする。第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、トロンビン自体も第V因子と第VIII因子を活性化させてそれぞれ第Va因子、第VIIIa因子とする。さらにトロンビンは血小板を活性化して、第XIa因子、第Va因子、第VIIIa因子を血小板表面に結合させる。
<伝播期>
血小板表面に結合した第VIIIa因子と第IXa因子は第X因子を活性化して血小板表面に結合させる。また、血小板表面に結合した第Xa因子と第XIa因子はプロトロンビンを次々とトロンビンに変化させる。更に、大量のトロンビンが血漿中のフィブリノーゲンを分解してフィブリンモノマーにする。フィブリンモノマーは第XIII因子によって架橋されてフィブリンポリマーとなり、他の血球を巻き込んで血餅(かさぶた)となる。
【0038】
これは生体においては血液凝固で傷口をふさぐなど有用な反応であるが、一方微小な凝集塊が血流中に発生すると、血栓となり様々な微小血管をふさいで脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓など重篤な臨床症状を引き起こす。よって、臨床的に‘凝集の起こしやすさ’を求めることは、この発生を予知する上で重要なこととなる。従来凝集時間の延長は、‘血が止まらない’という心配のもとに測られていたが、‘血が固まりやすい’ことは測る方法が確立されていない。それを適当な希釈された血漿と、一定量の凝集を促進する試薬(例えばADP・コラーゲン・エピネフリンなど)と混合することで、凝集の程度を測ることが、この粒子計測の方法で可能と予想される。
このため、本例では、試料セル101内に磁性撹拌棒107と共に、一定量のADP等を無菌的に入れて、凍結乾燥などの処理を行ったゲル粒子生成器具100を作成することで、臨床現場において適宜に希釈した血漿を、上部の密封栓108を通して導入し、凝集塊の発生時間を実施の形態1と同様なゲル粒子測定装置で測ることで、凝集能の程度を測ることが可能となる。
【0039】
―抗原抗体反応(図15)―
図15(a)に示すように、様々な抗原300に対する特異抗体310は、会合することで不溶性の沈殿としてその抗原300の不活性化を促し、生体の防御作用を担っている。一方この現象を利用して、特異抗体310をあらかじめ用意しておけば、発生する沈殿は存在する抗原300の量に比例することから、様々な抗原300を定量する方法が考案されている。しかし、沈殿させる(または抗原抗体の会合を促進する)には時間がかかるため、様々な検出法や鋭敏な検出装置が開発されてきた。抗原抗体反応の沈殿形成をゲル化の粒子形成と捉えると、粒子を安定に形成させ、それを計測するゲル粒子測定装置及びゲル粒子生成器具は応用可能と考えられる。
とりわけ、図15(b)に示すように、抗体330を樹脂等のミクロビーズ320等に結合させ、そのビーズ表面にて抗原300との間で抗原抗体反応を起こさせるタイプの検出反応には、粒子形成のパターンが変化することで捉えることは容易であり、その方法にも応用できる。
そのため、ゲル粒子生成器具100の試料セル101には、磁性撹拌棒107と共に、一定量の抗体330またはミクロビーズ320に結合させた抗体溶液を無菌的に入れておく。この場合、抗体330の活性を保持する必要から、凍結乾燥ではなく溶液として保存する方がよいと思われる。測定を行う場合には、一定に希釈した血漿など検液を、上部の密封栓108を通して導入し、抗原抗体反応による凝集塊の発生速度を、例えば実施の形態1のゲル粒子測定装置で測る。特に、ゲル粒子生成の速度として捉えるため、透過光の減少速度を計測する。
【0040】
実施の形態1で示したエンドトキシン活性反応、血液凝固反応、抗原抗体反応の3つの使用方法で共通することは、水に均一に溶けている分子が会合し、不溶性の粒子になる反応を捉えて、定量しようとするものであるが、可溶性から不溶性になるとき、反応の偏り(反応の中心となる酵素などの廻りに反応分子が局部的に不足する)現象が生じる。正しく反応を進め、その速度を測るためには、この偏りが理論的には‘0(ゼロ)’でなければならない。その解決法が、‘撹拌する’ということになる。この測定法の中心は、溶液を均一に撹拌し、粒子形成を安定に行わせる事を意図したことにある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)は本発明が適用されるゲル粒子生成器具の実施の形態の概要を示す説明図、(b)は(a)に示すゲル粒子生成器具を用いたゲル粒子測定装置の実施の形態の概要を示す説明図である。
【図2】(a)はゲル化反応を模式的に示す説明図、(b)はゲル化反応の進行工程I〜IIIを示す説明図、(c)はゲル化反応の進行工程における反応時間と透過光度との関係を示す説明図である。
【図3】リムルス試薬を用いた際のエンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)は実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具を示す分解斜視図、(b)はその断面説明図である。
【図5】実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具の構築方法及び試料の導入方法を示す説明図である。
【図6】(a)は実施の形態1に係るゲル粒子測定装置の正面説明図、(b)は(a)中B方向から見た平面説明図である。
【図7】実施の形態1に係るゲル粒子測定装置のデータ解析処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】(a)は比較の形態に係るゲル粒子測定装置の一例を示す説明図、(b)は(a)中B方向から見た平面説明図である。
【図9】実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて様々なエンドトキシン濃度(ETX濃度)について反応時間毎の透過光度を測定した結果を示すグラフ図である。
【図10】図9に示すグラフ図を用いた検量線作成例を示す説明図である。
【図11】実施例2に係るゲル粒子測定装置を用いて様々なエンドトキシン濃度(ETX濃度)について反応時間毎の透過光度を測定した結果を示すグラフ図である。
【図12】図11に示すグラフ図を用いた検量線作成例を示す説明図である。
【図13】実施例3に係るゲル粒子測定装置で用いられるゲル粒子生成器具でのゲル粒子の生成状態の一例を示す説明図である。
【図14】血液凝固反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【図15】(a)(b)は抗原抗体反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…試料セル,2…試薬,3…撹拌部材,4…密封部材,5…保持カバー,5a…孔部,11…ゲル粒子生成器具,12…撹拌駆動手段,13…コヒーレント光源,14…光検出手段,15…光変動計測手段,16…ゲル粒子生成判別手段,17…散乱光除去手段,18…温度調節手段,19…表示手段,S…試料,W…混合溶液,Bm…光
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化反応によって測定対象の試料中のエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成する上で有効なゲル粒子生成器具及びこれを用いたゲル粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(細胞内毒素)と呼ばれるものは、主としてグラム染色に染まらない(グラム陰性)細菌類の菌体の破片で、その成分はリポポリサッカライドと呼ばれる脂質多糖類具体的には、リピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質と多糖鎖が2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)を介して結合したリポ多糖(LPS)であるが、そこに含まれるリピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質構造部分が、細胞の受容体と結合して炎症を引き起こし、多くの場合様々な重篤な臨床症状を引き起こす。このように、エンドトキシンは、敗血症や菌血症という致死率の高い臨床症状の原因となる物質であるため、体内に入ったエンドトキシンの推定をすることは臨床的に要求の高いことである。
また、医薬品(注射剤等)や医療用具(血管カテーテル等)はエンドトキシンによる汚染がないこと(パイロジェンフリー)が重要であり、細菌を用いて調製した医薬品(組み換えタンパク質、遺伝子治療に用いるDNA等)ではエンドトキシンを完全に除去することが不可欠になっている。
【0003】
このエンドトキシンの除去確認、あるいは救急医学における計測は、測定試料数の多さばかりでなく、救命治療という目的にかなった迅速性が求められている。
敗血症などの治療のため、エンドトキシン値を計ろうとする研究は古くよりなされ、カブトガニ(Limulus)のアメーバ状血球成分に含まれる因子群が、エンドトキシンに特異的に反応し、ゲル化することが発見されてから、このリムルスの水解物(Limulus Amebocyte Lysate;LAL試薬又はリムルス試薬)を用いてエンドトキシンの定量をする試みがなされている。
【0004】
最初にリムルス試薬を使った測定法は、単に試料となる患者の血漿を混合して静置し、一定時間後に転倒してゲル化の有無を溶液が固まることで確認し、ゲル化を起こすための最大希釈率でエンドトキシン量を推定する所謂ゲル化法と呼ばれるものであった。
その後、ゲル化反応の過程における濁度増加に着目し、光学的な計測方法を用いた濁度計で、ゲル化反応に伴う濁度変化によりエンドトキシン濃度を測定する比濁時間分析法が知られている。
また、リムルス試薬による反応過程の最終段階でコアギュロゲン(Coagulogen)がコアグリン(Coagulin)に転換するゲル化反応を合成基質の発色反応に置き換えた発色合成基質法も既に知られている。これは、凝固過程における凝固前駆物質(コアギュロゲン:Coagulogen)の代わりに発色合成基質(Boc-Leu-Bly-Arg-p-ニトロアリニド)を加えることにより、その加水分解でp-ニトロアニリンが遊離され、その黄色発色の比色によりエンドトキシン濃度を測定するものである。
【0005】
更に、従来におけるゲル化反応測定装置若しくはこれに関連する測定装置としては、例えば特許文献1,2に示すものが挙げられる。
特許文献1は、ゲル化反応測定装置に関するものではないが、血中の血小板が凝集して塊として成長する過程につき、血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものであり、試料セル内の試料に対してレーザ光源からの照射光を照射させ、血小板で90度側方に散乱した散乱光の一部を光検出器にて検出し、この検出結果に基づいて血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものである。
また、特許文献2は、比濁時間分析法を用いたゲル化反応測定装置に関するものであり、検体(試料)とリムルス試薬とを混合させた混合液の透過光強度の経時変化を測定し、所定時間における変化量から検体のエンドトキシン濃度を測定するものである。
【0006】
更に、ゲル化反応を利用した測定技術は、前述したエンドトキシンのみならず、β−D−グルカン(β−D−glucan)などの測定にも利用される。
β−D−グルカン(β−D−glucan)は真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。このβ−D−グルカンを測定することにより、カンジダやアスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、まれな真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどで有効である。
このβ−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによってゲル化することが利用されており、上述したゲル化法や比濁時間分析法、発色合成基質法によって測定される。
エンドトキシンやβ−D−グルカンの測定手法には共通点があり、例えば略同様の測定ハードウェアを用い、カブトガニの血球抽出成分中からFactor G成分を除くことによりエンドトキシンに選択的なゲル化反応や発色反応が測定でき、また、試料中のエンドトキシンに前処理により不活性化することにより、β−D−グルカンに選択的なゲル化反応や発色反応を測定することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特許第3199850号公報(実施例,図1)
【特許文献2】特開2004−93536号公報(発明の実施の形態,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のゲル化法、比濁時間分析法及び発色合成基質法にあっては、次のような不具合がある。
ゲル化法及び比濁時間分析法は、いずれもゲルが生成するのに低濃度では約90分以上という長時間を要する。すなわち、反応溶液のゲル化時間は、測定対象の試料中の目的物質の濃度に比例するが、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に感度の点から正確なゲル化開始時間などが検出できないため、ゲル化終了までの時間から反応量を算出してゲル化時間の目安としている。
例えば比濁時間分析法を例に挙げると、比濁時間分析法は、変化の始まる最初のレベルと変化の行き着くレベルとについては分かるが、夫々の変化の始まる時間や終わりの時間が分かり難く、最初と最後のレベルの間の一定レベルの変化(濁度の増加)を測ることで、ゲル化全体の変化観察に換えるという定量法として確立されたものである。しかし、低濃度のエンドトキシンになると、系全体のゲル化が遷延し、それにつれて観測する濁度変化も遅くなることから測り難くなり、その分、感度が必然的に鈍くなってしまう。
従って、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に救急を要する場合や多数の検体を測定するのに適した方法とは言い難い。更に、比濁時間分析法ではエンドトキシンとは無関係の非特異的濁りが生ずることがあり、測定精度に欠ける懸念がある。また、ゲル化法の測定限界濃度は3pg/ml、比濁時間分析法の測定限界濃度は1pg/ml程度である。
尚、ゲル化反応測定装置に適用される比濁時間分析法として、仮に特許文献1に示す散乱測光法を適用したとしても、ゲル化全体の変化観察に換えた定量法である以上、上述した問題は解決し得ない。
一方、発色合成基質法はゲル化法及び比濁時間分析法に比べて測定時間が約30分程度と短時間であるが、偽陽性反応が生ずる場合があり、特異度の高い測定を行うことが難しく、また、測定準備が煩雑であり、測定限界濃度も3pg/mlと比濁時間分析法に劣る。
【0009】
本発明は、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながらゲル粒子を生成することができるゲル粒子生成器具及びこれを用いたゲル粒子測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するゲル粒子生成器具であって、試料が注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セルと、この試料セル内に予め収容され且つ試料中の目的物質と反応してゲル化する試薬と、前記試料セルに予め収容され且つ注入された試料及び前記試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌部材と、前記試料セル内に前記試薬及び前記撹拌部材が収容された状態で前記試料セルの開口を密封すると共に密封後に試薬セル内に試料が注入可能な密封部材とを備え、試料セル内に試料が注入された時点で撹拌部材による撹拌動作を開始し、前記混合溶液全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたことを特徴とするゲル粒子生成器具である。
請求項2に係る発明は、請求項1に係るゲル粒子生成器具において、試薬セルの開口縁に取り付けられて密封部材を保持する保持カバーを有することを特徴とするゲル粒子生成器具である。
【0011】
請求項3に係る発明は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、予め決められた測定ステージに配設され且つ試料セル内に試料が注入された請求項1に係るゲル粒子生成器具と、前記測定ステージのうち試料セル外部に設けられ、試料セル内の撹拌部材を回転させることで試料及び試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌駆動手段と、前記試料セルの透過部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源と、このコヒーレント光源からの光のうち前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液を通過した光を検出する光検出手段と、この光検出手段の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段と、この光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項4に係る発明は、請求項3に係るゲル粒子測定装置において、ゲル粒子生成器具の試料セルは一方から他方にかけて光が透過する透過部を有し、前記光検出手段は前記試料セルの透過部の外部でコヒーレント光源の反対側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液中を透過した光を検出するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項5に係る発明は、請求項4に係るゲル粒子測定装置において、光検出手段と試料セルとの間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段に向かう成分が除去される散乱光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項6に係る発明は、請求項3ないし5いずれかに係るゲル粒子測定装置において、測定ステージに配設された資料セル全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながら、ゲル粒子を生成することができる。
請求項2に係る発明によれば、試薬セルの開口縁から密封部材が不必要に外れることを有効に防止することができる。
請求項3に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル化反応を均一に且つ安定的に生じさせながら、ゲル粒子を生成することが可能になることから、ゲル粒子の生成状態を正確に計測することができる。
請求項4に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、光検出手段にて試料及び試薬からなる混合溶液の透過光を検出し、この検出出力に基づいてゲル粒子の生成状態を判別するようにしたので、光検出手段にて散乱光を検出する方式に比べて、ゲル粒子の生成状態を高感度に計測することができる。
請求項5に係る発明によれば、光検出手段での検出精度をより向上させることができ、その分、ゲル粒子の生成状態を高感度に計測することができる。
請求項6に係る発明は、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、温度の変化に伴うゲル化反応への影響を有効に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
◎実施の形態の概要
図1(a)は本発明が適用された実施の形態に係るゲル粒子生成器具の概要を示す説明図である。
同図において、ゲル粒子生成器具11は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するものであって、試料Sが注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セル1と、この試料セル1内に予め収容され且つ試料S中の目的物質と反応してゲル化する試薬2と、前記試料セル1に予め収容され且つ注入された試料S及び前記試薬2からなる混合溶液W(図1(b)参照)全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液Wを撹拌する撹拌部材3と、前記試料セル1内に前記試薬2及び前記撹拌部材3が収容された状態で前記試料セル1の開口を密封すると共に密封後に試料セル1内に試料Sが注入可能な密封部材4とを備え、試料セル1内に試料Sが注入された時点で撹拌部材3による撹拌動作を開始し、前記混合溶液W全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたものである。
【0014】
このような技術的手段において、本件の目的物質は、所定の試薬2との間でゲル化反応し、ゲル粒子が生成されるものであれば広く含む。例えばエンドトキシンやβ−D−グルカンが挙げられるが、これ以外に、血液の凝固反応や抗原抗体反応もゲル化反応に相当するものであるから、これらのゲル化反応に至る試料S中の成分も本件の目的物質になり得る。
また、試料セル1は、全てが透過性部材で構成されていてもよいが、これに限られるものではなく、光が透過する部分に少なくとも透過部を有していればよい。その構成材料としては、ガラスであってもよいし、樹脂であってもよい。また、その形状についても断面円形、矩形を始めとする多角形等適宜選定して差し支えなく、断面形状も全て均一である必要は必ずしもなく、一部にくびれ部などを設けて差し支えない。
更に、試薬2としては、試料S中の目的物質との間でゲル化反応(凝集反応)を起こすものであれば適宜選定して差し支えなく、凍結乾燥粉末などの固体でもよいし、液体でもよい。
更にまた、撹拌部材3としては、試料セル1内に内蔵され、試料S及び試薬2からなる混合溶液Wに対して撹拌作用を与えるものであれば広く含む。例えば磁性を有する撹拌棒を用い、外部にこれを駆動するための撹拌駆動手段12(図1(b)参照)を設けるようにすればよい。
【0015】
また、密封部材4は試料セル1内に、撹拌部材3及び試薬2を収容した状態で密封するものであればよく、例えばゴム等の栓材が広く用いられる。
そして、試料セル1への試料Sの注入については、例えば注入器等を使用して密封部材4に針を刺し、所定量の試料Sを注入するようにすればよい。この場合、試料S注入後は密封部材4の微小孔はその弾性変形にて塞がれることから、密封部材4の密封性は良好に保たれる。
更に、ゲル粒子生成器具11の好ましい態様としては、試料セル1の開口縁に取り付けられて密封部材4を保持する保持カバー5を有するものが挙げられる。
ここで、保持カバー5としては、試料セル1に対して着脱自在とし、密封部材4から試料Sを注入する際に試料セル1から一旦取り外すようにしてもよいが、試料Sの注入操作性を簡易に行うという観点からすれば、一部に密封部材4に面して孔部5aを有し、保持カバー5を取り外すことなく、前記孔部5aを利用して試料Sを注入することが好ましい。
【0016】
また、図1(b)は本発明が適用された実施の形態に係るゲル粒子測定装置の概要を示す説明図である。
同図において、ゲル粒子測定装置は、ゲル化反応によって試料S中の目的物質を粒子化して測定するものであって、予め決められた測定ステージに配設され且つ試料セル1内に試料Sが注入されたゲル粒子生成器具11と、前記測定ステージのうち試料セル1外部に設けられ、試料セル1内の撹拌部材3を回転させることで試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液Wを撹拌する撹拌駆動手段12と、前記試料セル1の透過部の外部に設けられ、前記試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液Wに対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源13と、このコヒーレント光源13からの光Bmのうち前記試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液Wを通過した光Bmを検出する光検出手段14と、この光検出手段14の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段15と、この光変動計測手段15の計測結果に基づいて前記混合溶液W内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段16とを備えたものである。
【0017】
このような技術的手段において、ゲル粒子生成器具11としては上述した態様のものが用いられる。
また、撹拌駆動手段12としては、ゲル粒子生成器具11の撹拌部材3を駆動するものが必要であり、例えば撹拌部材3が磁性を有する撹拌棒であれば、回転磁石を回転させることで前記撹拌棒に回転力を与えるようにする方式が挙げられる。ここで、撹拌駆動手段12による撹拌部材3の撹拌の程度は、試料セル1内の試料S及び試薬2からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するものであることを要する。
更に、コヒーレント光源13はコヒーレントな光を照射するものであればレーザ光源によるレーザ光に限られず、例えばナトリウムランプの光のような単色光をピンホールに通すことによっても作成可能である。
更にまた、光検出手段14としては、コヒーレント光源からの光のうち試料S及び試薬2からなる混合溶液Wを通過し、混合溶液W中で生成されたゲル粒子を透過した透過光又はゲル粒子にて散乱された散乱光を検出するものであればよい。
また、光変動計測手段15は光検出手段14の検出出力に基づいて光の変動成分を計測するものであり、例えば検出出力を平均化又はスムージングすると共にフィルタリング化する手法が挙げられる。
更に、ゲル粒子生成判別手段16としては、ゲル粒子の生成状態を判別するものを広く含む。
ここで、ゲル粒子の生成状態とは、ゲル粒子の生成開始(出現)時点、生成過程の変化、生成終了時点、生成量などを広く含むものである。
そして、「ゲル粒子の生成状態を判別する」とは、ゲル粒子の生成状態に関する情報を直接判別することは勿論、ゲル粒子の生成状態に基づいて判別可能な情報(例えば目的物質の定量情報)を判別することも含むものである。
特に、ゲル粒子の生成開始時点を判別するには、光変動計測手段15の計測結果に基づいて光の減衰変化点がゲル粒子の出現タイミングと判別するようにすればよい。
【0018】
また、ゲル粒子生成器具11の配設箇所については、測定条件を一定に保つという観点からすれば、試料セル1全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段18を備える態様が好ましい。
ここで、温度調節手段18としては例えば恒温槽が挙げられる。
更に、光検出手段14としては、コヒーレント光源13からの光のうち試料S及び試薬2からなる混合溶液W中を透過する透過光を主として検出するものが好ましい。
この透過光検出方式は、散乱光検出方式に比べて以下の利点を有する。
(1)透過光成分は散乱光成分よりもともと多い。つまり、光検出手段14が透過光検出方式を採用した態様では、ゲル粒子で散乱した散乱光の一部が迷光として光検出手段14に検出される可能性があるが、検出出力の大部分が透過光成分であることから、迷光成分が一部に含まれていても影響が少ない。
(2)試料セル1の容器構造として、散乱光検出方式では、減衰の少ない容器厚の薄い特殊な容器構造を採用することを要するが、透過光検出方式ではこのような制約はない。
(3)コヒーレント光源13のレイアウトの設置精度については、透過光検出方式の方がラフでよい。
【0019】
特に、透過光検出方式を採用する際の好ましい態様としては、光検出手段14と試料セル1との間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段14に向かう成分が除去される散乱光除去手段17を備えている態様が挙げられる。
ここで、散乱光除去手段17の代表的態様としては、散乱光成分をカットして透過光成分のみを通過させる偏光フィルタが挙げられる。
そして、光検出手段14が透過光検出方式を採用した態様では、ゲル粒子で散乱した散乱光の一部が迷光として光検出手段14に検出される可能性があるが、迷光成分による影響を回避するという観点からすれば、光変動計測手段15にて補正することも考えられるが、本態様であれば、簡単な構成で迷光成分を確実に除去する点で好ましい。
また、光変動計測手段15による計測結果を目視するという観点からすれば、光変動計測手段15による計測結果が表示される表示手段19を備えていることが好ましい。
【0020】
次に、図1(a)に示すゲル粒子生成器具の作動について説明する。
先ず、ゲル化反応を図2(a)に模式的に示す。
同図において、試料Sの目的物質Stに対し特異的に反応する試薬2が存在すると、試料S中の目的物質Stの濃度に依存した割合にて、その目的物質Stが試薬2と特異的に反応する現象が起こる。この反応過程において、試薬2は、目的物質Stの刺激を受けて所定の因子が活性化し、これに起因して所定の酵素が活性化するタイミングで例えば水溶性のタンパク質が酵素による分解反応にて不溶性のタンパク質に転換し、ゲル粒子Gの出現に至ることが起こる。
より具体的には、エンドトキシンを例に挙げて、エンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示すと、図3の通りである。
同図において、(1)に示すエンドトキシンの刺激がリムルス試薬に伝わると、先ず(2)に示すように、因子C(Factor C)が活性化されて活性化因子C(Activated Factor C)となり、次いで、活性化因子Cの作用により、(3)に示すように、因子B(Factor B)が活性化されて活性化因子B(Activated Factor B)になる。この後、活性化因子Bの作用により、(4)に示すように、Pro-Clotting酵素がClotting酵素になり、(5)に示すように、このClotting酵素がCoagulogen(水溶性タンパク質)を分解してCoagulin(不溶性タンパク質)に生成する。このCoagulin(不溶性タンパク質)は撹拌により全体のゲル化が阻害されるとゲル粒子Gとして出現し、静置すると(6)に示すように、重合化・ゲル化する。
つまり、試料Sの目的物質Stがエンドトキシンである場合には、混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与えることで混合溶液W全体のゲル化を阻害しつつ、この状態で、リムルス試薬2にエンドトキシンの刺激が伝わると、Clotting酵素の周りにCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gを産出させることが可能であり、Coagulin(不溶性タンパク質)がゲル粒子Gとして生成された後に、ゲル粒子Gが順次生成される反応過程を経ることが理解される。
また、リムルス試薬2にエンドトキシンの刺激が伝わる速度(リムルス反応速度)はエンドトキシン濃度に依存的であり、エンドトキシン濃度が高い程リムルス反応速度が速く、Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングが早いことが見出された。
よって、光変化(例えば透過光変化)を精度良く検出するようにすれば、ゲル粒子Gの生成開始点として前記Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングを把握することは可能であり、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の測定原理の基本である。
このようなゲル粒子測定装置の測定原理は、例えば従前のゲル化法や比濁時間分析法の測定原理(リムルス試薬2による反応過程において、静置した条件下、活性化された酵素の影響で最終的にゲル化するに至り、このゲル化した状態を濁度により測定する態様)とは全く相違するものである。
【0021】
ここで、例えば透過光検出方式を用いたゲル粒子測定装置の測定原理を図2(b)に模式的に示す。
本実施の形態のゲル粒子測定装置では、図2(b)の工程Iに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子がない場合には、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm1はゲル粒子によって遮られることがないため、その透過光Bm1の透過光度は略一定に保たれる(図2(c)I工程P1参照)。
そして、図2(b)の工程IIに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子Gが生成開始し始めた場合、例えばエンドトキシンの場合のCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gが産出し始めると、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm2は産出されたCoagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの存在によって一部遮られるため、その透過光Bm2の透過光度は略一定のレベルから減衰傾向に変化しようとする(図2(c)II工程P2参照)。
この後、図2(b)の工程IIIに示すように、試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wにゲル粒子Gの生成が次第に進行していく場合には、図示外のコヒーレント光源から透過光Bm3は順次生成される多くのゲル粒子Gの存在によって遮られるため、その透過光Bm3の透過光度は減衰変化点P2を境に順次減衰していく(図2(c)III工程P3参照)。
【0022】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明をより詳細に説明する。
◎実施の形態1
本実施の形態1に係るゲル粒子測定装置は、ゲル粒子生成器具100(図4参照)を有し、例えば試料の目的物質としてのエンドトキシンの濃度をリムルス試薬を用いたゲル化反応にて測定するものである。
―ゲル粒子生成器具―
本実施の形態において、ゲル粒子生成器具100は、例えば図4(a)(b)に示すように、エンドトキシンを含む試料が注入される試料セル101を有する。
この試料セル101は、例えばガラス材料にて一体的に成形され且つ上部が開口した横断面円形の有底の筒体からなり、その上部にフランジ部102を形成すると共に、このフランジ部102の下部にくびれ部103を形成し、フランジ部102及びくびれ部103には小径孔部104を形成し、この小径孔部104より大径の大径空間部105を内部に形成したものである。
そして、この試料セル101内には、エンドトキシンを含む試料とゲル化反応を生ずる試薬106が例えば凍結乾燥粉末状にて予め無菌的に収容されると共に、磁性材料を用いた撹拌棒107が予め収容される。
更に、この試料セル101の小径孔部104にはゴム等の弾性材料からなる密封栓108が嵌め込まれている。この密封栓108は断面略T字状に成形されており、その頭部108aが試料セル101のフランジ部102に載置され、その脚部108bが小径孔部104に密接した状態で挿入されている。尚、密封栓108の脚部108bの一部には切欠108cが設けられている。
更にまた、試料セル101のフランジ部102及び密封栓108の頭部108aは例えばアルミニウム製のキャップ状の保持カバー109で覆われ、この保持カバー109は試料セル101のフランジ部102の周壁に嵌り込み、密封栓108を外側から抱き込み保持するようになっている。そして、この保持カバー109の例えば中央には密封栓108の頭部108aに面して孔部109aが形成されている。
【0023】
この種のゲル粒子生成器具100は、図4及び図5に示すように、試料セル101の小径孔部104を開放した状態で試薬106及び撹拌棒107を収容し、この状態で、試料セル101の小径孔部104を密封栓108で密封すると共に、この密封栓108を保持カバー109で覆うようにしたものである。
このようなゲル粒子生成器具100は、ゲル粒子測定装置の付属品や測定キットとしてユーザーに供給される。
そして、本態様のゲル粒子生成器具100の試料セル101への試料Sの導入法としては、例えば保持カバー109の孔部109aを利用して密封栓108に注射針のような穿孔具にて穿孔し、この穿孔を通じて注入器110にて試料Sを注入するようにしたものが挙げられる。更に、試料Sの導入を容易に行うため、試料セル101内が大気圧に対して所定の負圧レベルを保つように密封栓108の密封仕様を設定してもよい。
【0024】
―ゲル粒子測定装置―
本実施の形態において、ゲル粒子測定装置は図6(a)(b)に示すように構成されている。
同図において、ゲル粒子生成器具100は、予め決められた測定ステージに設置されるが、本実施の形態では、恒温槽115内に配置されて試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wを一定の恒温環境(例えば37℃)下におき、測定条件を一定にするようになっている。
また、符号120は試料セル101内の混合溶液Wを撹拌するために試料セル101内の磁性撹拌棒107を駆動する撹拌駆動装置であり、例えば混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与え、混合溶液Wを均一に撹拌しながら混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するようになっている。
特に、本例では、撹拌駆動装置120は、試料セル100内の底壁に内蔵された磁性体からなる撹拌棒(スターラーバー)107に対して磁力による撹拌力を作用させる撹拌駆動源(マグネチックスターラー)として構成されている。
【0025】
更に、符号130は試料セル101の側周壁の一方側に設けられ且つコヒーレントな光を照射するレーザ光源であり、140は試料セル101を挟んでレーザ光源130の反対側に設けられてレーザ光源130からの透過光Bを検出する透過光検出器である。この透過光検出器140としては例えばフォトダイオードなどの光学部品を広く用いることができる。
本実施の形態では、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmは、図6(b)に示すように、試料セル101の略直径部分を横切る経路に沿って照射されており、その光径は生成されるゲル粒子径(例えば0.5〜20μm程度)に対して十分に大きい値(例えば1mm程度)に設定される。
一方、透過光検出器140はレーザ光源130からの透過光Bmの光束領域を検出可能な検出面を有し、透過光検出器140の検出精度は、透過光Bmの通過面積内に存在する1ないし数個のゲル粒子の有無による透過光量変化を検出可能な程度に設定される。
更に、本実施の形態では、試料セル101と透過光検出器140との間に偏光フィルタ150が配設されている。この偏光フィルタ150は、レーザ光源130からの光Bmのうち混合溶液W内にて生成されたゲル粒子Gによって散乱した散乱光で透過光検出器140に向かう成分の迷光を除去するものである。この偏光フィルタ150による迷光除去原理は、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmがゲル粒子Gで散乱すると、その散乱光の位相がずれることを利用し、透過光Bmの位相以外の位相成分の迷光成分をカットするようにしたものである。
尚、レーザ光源130、透過光検出器140と試料セル101との間には光路や照射光径を決定する上で必要に応じて集光レンズ、ミラー等の光学部品を配置してもよいことは勿論である。
【0026】
符号160は透過光検出器140からの検出出力を取り込み、例えば図7に示すデータ解析処理を実行するデータ解析装置、170はデータ解析装置160で解析された解析結果を表示するディスプレイである。
このデータ解析装置160はCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースなどを含むコンピュータシステムにて構成されており、例えばROM内に図7に示すデータ解析処理プログラムを予め格納しておき、透過光検出器140からの検出出力に基づいてCPUにてデータ解析処理プログラムを実行するものである。
尚、透過光検出器140からの検出出力は例えば図示外の増幅器により電流電圧変換された後、AD変換器によりAD変換され、データ解析装置160に取り込まれる。
【0027】
次に、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の作動について説明する。
本実施の形態において、図6(a)(b)に示すゲル粒子生成器具100の試料セル101にエンドトキシンを含む試料Sを注入した後、図示外のスタートスイッチをオン操作すると、ゲル粒子測定装置による測定シーケンスが開始される。
この測定シーケンスは、撹拌駆動装置120にて撹拌棒107が回転され、試料セル101内の試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを撹拌する。このため、混合溶液W全体が均一に撹拌されると共に、混合溶液W全体としてはゲル化することが抑制される。
更に、測定シーケンスは、レーザ光源130から光Bmを照射し、試料セル101内の混合溶液Wを通過した透過光Bmを透過光検出器140にて検出すると共に、透過光検出器140の検出出力をデータ解析装置160に取り込む。
【0028】
一方、試料セル101内では、リムルス試薬にエンドトキシンの刺激が伝わり、図3に示すようなリムルス反応が起こり、混合溶液W全体のゲル化が抑制された状態で、ゲル粒子Gが順次生成されていく。
本実施の形態では、レーザ光源130からの光Bmの通過面積内にゲル粒子Gが例えば1個生成されたタイミングがゲル粒子Gの生成開始点として把握されており、透過光Bmの減衰変化点のタイミングになるものである。
このような反応過程において、データ解析装置160は、例えば図7に示すように、透過光検出器140からの検出出力を透過光量データ(デジタルデータ)として読み込んだ後、平均化・フィルタリング化処理を行って透過光量データの変動成分を計測する。
次いで、透過光量データの変動成分に基づいて透過光Bmの減衰変化点(図2のP2に相当)を抽出し、予め規定されている検量線を参照することによって試料Sのエンドトキシン濃度(ETX濃度)を決定し、ディスプレイ170に表示する。
本例では、検量線は、エンドトキシン濃度(ETX濃度)と透過光Bmの減衰変化点に至るまでの時間閾値との関係を示すものであり、透過光Bmの減衰変化点の時間と検量線との相関に基づいてエンドトキシン濃度(ETX濃度)が決定される。また、ディスプレイ170にはエンドトキシン濃度(ETX濃度)以外に、透過光量データの時系列データ、透過光量データの変動成分の時系列計測データなどのデータが切り換え表示されるようになっている。
尚、検量線の作成法については後述する実施例にて具体例を示す。
【0029】
このように、本実施の形態においては、ゲル粒子測定装置は、試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを所定の恒温環境下で撹拌し、混合溶液W中に産生するCoagulin粒子からなるゲル粒子Gの出現によって透過光Bmが一部遮られて減光することを検出し、ゲル化の開始時期を捉えようとするものである。
特に、本例では、透過光検出器140の検出精度を高感度にするため、レーザ光というコヒーレントで強い光を利用し、また、微細な変化を検出するために、低濃度での変化では特に散乱した迷光がCoagulin粒子からなるゲル粒子Gに当たって位相がずれることを利用し、偏光フィルタ150にて迷光成分が除去されることから、透過光検出器140にはレーザ光源130からの透過光成分だけが入射することになり、その分、透過光変化が正確に検出される。
【0030】
◎比較の形態
また、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の性能を評価する上で図8(a)(b)に示す比較の形態に係るゲル粒子測定装置と対比する。
同図において、比較の形態に係るゲル粒子測定装置は、ゲル粒子生成器具200(試料セル201内に試薬、撹拌棒207を予め収容した態様)の試料セル201内にエンドトキシンを含む試料Sを注入し、これらの混合溶液Wを撹拌駆動装置220にて駆動される撹拌棒207にて撹拌すると共に、レーザ光源230からの光Bm’を混合溶液W内に照射し、リムルス反応にて生成されるゲル粒子Gにて側方に散乱した散乱光の一部を光検出器240にて検出し、この光検出器240の検出出力をデータ解析装置260に取り込み、ゲル粒子Gの産生時期を演算処理するものである。
この比較の形態に係るゲル粒子測定装置によれば、もともと散乱光は透過光に比べて割合が少なく、その一部しか計測できないため、出来る限り散乱光の減衰を抑えることが必要になる。そこで、この比較の形態にあっては、散乱光の減衰を防ぐために、厳密な光学回路が必要で、図8(b)に示すように、試料セル201の混合溶液Wの表面で直角な位置関係となる入射、散乱反射角度を得るようにレーザ光源230及び光検出器240を設置し、散乱光を計測することが必要であった。このため、試料セル201も減衰の少ない容器厚kの薄い特殊な容器構造を採用しなければならず、また、レーザ光源230、光検出器240の設置精度を極めて高くせざるを得ない。
この点、本実施の形態では、透過光成分は多くもともと確保することができるばかりか、試料セル101の容器構造として特に特殊な構造を施さずに、容器厚の厚い丈夫なものを使用することができ、また、試料セル101に対するレーザ光源130、透過光検出器140の設置も試料セル101の略直径方向に向けて直線上に対向させればよく、試料セル101の交換に伴う設置精度をある程度ラフにすることも可能である。
【0031】
◎変形形態
本実施の形態では、一検体(試料S)分のゲル粒子生成器具100に対するゲル粒子測定装置を示しているが、複数の検体(試料)を同時に処理するという要請下では、例えば複数のゲル粒子生成器具100の試料セル101を一体化したマルチ試料セルを用意し、各試料セルに対応して夫々レーザ光源130、透過光検出器140を配置し、複数の検体(試料)を同時に測定できるようにすればよい。
更に、実施の形態1では、測定対象の物質をエンドトキシンとするものが開示されているが、これに限られるものではなく、例えば同じ測定ハードウェアで、かつ、同様ないしは類似のリムルス試薬を用い、測定対象の物質をβ−D−グルカンとすることも可能である。
【実施例】
【0032】
◎実施例1
本実施例は、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置をより具現化したものである。
ここで、実施例の条件は以下の通りである。
・レーザ光源130:赤色光又は緑色光
・透過光検出器140:フォトダイオード
・撹拌棒(スターラーバー)107の回転数:1000rpm
・恒温条件:37℃
本実施例では、様々なエンドトキシン濃度(10・1・0.1pg/ml)を添加したときのリムルス試薬に対して、ゲル粒子測定装置で透過光度の変化を調べたものである。
図9は、10pg/mlは2回、1pg/ml、0.1pg/mlの夫々の時間経過を追った透過光度をプロットしたものである。
同図において、各条件の透過光度の変化は、いずれも略一定のレベルを維持する部分がある時間になって減衰低下する傾向を示している。この透過光度の減衰変化点はゲル粒子の生成開始点(ゲル化開始時間)に相当し、ゲル化開始時による減光を意味するものと想定される。
このゲル化開始時を求めるため、本実施例では、図9のグラフにおいて、マニュアルで、一定透過光度の部分を近似した直線と透過光度が減衰傾斜していく変化部分を近似した直線との交点を求め、夫々ゲル化開始時間(反応時間)t1(10)、t2(10)、t(1)、t(0.1)を求めた。
本例では、10pg/ml:t1(10)=16(min.)
t2(10)=19(min.)
1pg/ml:t(1)=28(min.)
0.1pg/ml:t(0.1)=70(min.)
であった。
【0033】
ちなみに、和光純薬工業株式会社製の比濁時間分析法を採用したエンドトキシンキット(ゲル化反応測定装置)を用い、エンドトキシン濃度とゲル化時間とを調べたところ、以下のような結果が得られた。
エンドトキシン濃度(pg/ml) ゲル化時間(min.)
0.1 123.7
0.5 56.3
1.0 41.8
10.0 18.0
【0034】
更に、本実施例では、図9のグラフから求めたゲル化開始時間t1(10)、t2(10)、t(1)、t(0.1)の値を用いて検量線を作成するようにした(図10参照)。
本実施例の検量線は、X軸をエンドトキシン濃度であるETX濃度(log変換)、Y軸をゲル化開始時間(log変換)とすると、直線関係が得られ、相関係数−0.9804という高い相関が示され、この検量線の有用性が証明される。
【0035】
◎実施例2
本実施例は、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置をより具現化したものである。
ここで、実施例の条件は実施例1と同様以下の通りである。
・レーザ光源130:赤色光又は緑色光
・透過光検出器140:フォトダイオード
・撹拌棒(スターラーバー)107の回転数:1000rpm
・恒温条件:37℃
特に、本実施例では、様々なエンドトキシン濃度(10−1、10−2、10−3、10−4、10−5unit(但し、1pg=7×10−3unit))を添加したときのリムルス試薬に対して、ゲル粒子測定装置で透過光度の変化を調べたものである。
図11は、夫々のエンドトキシン濃度につき2回の夫々の時間経過を追った透過光度をプロットしたものである。尚、図11において、エンドトキシン濃度10−1(◇)のデータは他のデータに重なっているため、目視できない状態である。
更に、本実施例では、図11のグラフから求めたゲル化開始時間の値(本例ではエンドトキシン濃度10−1、10−2、10−3、10−4unitのデータを使用)を用いて検量線を作成したところ、図12に示す結果が得られた。
本実施例の検量線は、X軸をエンドトキシン濃度であるETX濃度(log変換)、Y軸をゲル化開始時間(log変換)とすると、直線関係が得られ、相関係数 ―0.993 という高い相関が示され、この検量線の有用性が証明される。
特に、本実施例では、エンドトキシン濃度が低い箇所での検量線が正確に得られることが確認された。
【0036】
◎実施例3
実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具100を用い、ゲル粒子の生成状態の一例を図13に示す。
同図において、No.1は、本実施例に係るゲル粒子生成器具に試薬と水からなる混合溶液を撹拌棒にて予め決められた時間( 約20分 )撹拌した状態を示す。No.2は、本実施例に係るゲル粒子生成器具に試薬とエンドトキシン濃度が10pg/mlからなる混合溶液を撹拌棒にて予め決められた時間撹拌した状態を示す。No.3(比較例)は、No.2と同様な混合溶液を比濁時間法を用いて計測した状態を示す。
このとき、本実施例のゲル粒子生成器具によるゲル粒子の生成状態は、比較例の溶液全体がゲル化したものに比べてより濁度の高いゲル粒子が出現していることが理解される。尚、No.2では、ゲル粒子が混合溶液の下方側に偏っているが、これは撮影する際に撹拌棒の回転を停止させたために、生成されたゲル粒子が沈殿したものと思料される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、リムルス試薬を用いたエンドトキシンやβ−D−グルカンなどを測定対象とするゲル粒子測定装置を始め、ゲル化反応によってゲル粒子が生成可能な目的物質を測定対象とする測定装置に広く適用される。
例えば血液凝固反応や抗原抗体反応において適用することが可能である。
―血液凝固反応(図14)―
血漿中のプロトロンビンは、様々な血液凝固因子の活性化を経てトロンビンとなり、フィブリンが凝集する。
この点について補足すると、血漿の凝固系は、以下の開始期、増幅期、伝播期を経て進行する。
<開始期>
(外因性経路)
血液凝固カスケードにおいて、細胞が傷害を受けると、組織因子が第VIIa因子(第VII因子が活性化したもの)と結合する。
ここで、第VIIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、第IXa因子は第X因子を活性化して第Xa因子とする。
(内因性経路)
血液が負に帯電した固体(例えば、岩石や砂)に触れると、プレカリクレインと高分子量キニノゲンが第XII因子を活性化し、第XIIa因子とする。また、第XIIa因子は第XI因子を活性化して第XIa因子とする。また、第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。
<増幅期>
トロンビンは第XI因子を活性化して第XIa因子とする。第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、トロンビン自体も第V因子と第VIII因子を活性化させてそれぞれ第Va因子、第VIIIa因子とする。さらにトロンビンは血小板を活性化して、第XIa因子、第Va因子、第VIIIa因子を血小板表面に結合させる。
<伝播期>
血小板表面に結合した第VIIIa因子と第IXa因子は第X因子を活性化して血小板表面に結合させる。また、血小板表面に結合した第Xa因子と第XIa因子はプロトロンビンを次々とトロンビンに変化させる。更に、大量のトロンビンが血漿中のフィブリノーゲンを分解してフィブリンモノマーにする。フィブリンモノマーは第XIII因子によって架橋されてフィブリンポリマーとなり、他の血球を巻き込んで血餅(かさぶた)となる。
【0038】
これは生体においては血液凝固で傷口をふさぐなど有用な反応であるが、一方微小な凝集塊が血流中に発生すると、血栓となり様々な微小血管をふさいで脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓など重篤な臨床症状を引き起こす。よって、臨床的に‘凝集の起こしやすさ’を求めることは、この発生を予知する上で重要なこととなる。従来凝集時間の延長は、‘血が止まらない’という心配のもとに測られていたが、‘血が固まりやすい’ことは測る方法が確立されていない。それを適当な希釈された血漿と、一定量の凝集を促進する試薬(例えばADP・コラーゲン・エピネフリンなど)と混合することで、凝集の程度を測ることが、この粒子計測の方法で可能と予想される。
このため、本例では、試料セル101内に磁性撹拌棒107と共に、一定量のADP等を無菌的に入れて、凍結乾燥などの処理を行ったゲル粒子生成器具100を作成することで、臨床現場において適宜に希釈した血漿を、上部の密封栓108を通して導入し、凝集塊の発生時間を実施の形態1と同様なゲル粒子測定装置で測ることで、凝集能の程度を測ることが可能となる。
【0039】
―抗原抗体反応(図15)―
図15(a)に示すように、様々な抗原300に対する特異抗体310は、会合することで不溶性の沈殿としてその抗原300の不活性化を促し、生体の防御作用を担っている。一方この現象を利用して、特異抗体310をあらかじめ用意しておけば、発生する沈殿は存在する抗原300の量に比例することから、様々な抗原300を定量する方法が考案されている。しかし、沈殿させる(または抗原抗体の会合を促進する)には時間がかかるため、様々な検出法や鋭敏な検出装置が開発されてきた。抗原抗体反応の沈殿形成をゲル化の粒子形成と捉えると、粒子を安定に形成させ、それを計測するゲル粒子測定装置及びゲル粒子生成器具は応用可能と考えられる。
とりわけ、図15(b)に示すように、抗体330を樹脂等のミクロビーズ320等に結合させ、そのビーズ表面にて抗原300との間で抗原抗体反応を起こさせるタイプの検出反応には、粒子形成のパターンが変化することで捉えることは容易であり、その方法にも応用できる。
そのため、ゲル粒子生成器具100の試料セル101には、磁性撹拌棒107と共に、一定量の抗体330またはミクロビーズ320に結合させた抗体溶液を無菌的に入れておく。この場合、抗体330の活性を保持する必要から、凍結乾燥ではなく溶液として保存する方がよいと思われる。測定を行う場合には、一定に希釈した血漿など検液を、上部の密封栓108を通して導入し、抗原抗体反応による凝集塊の発生速度を、例えば実施の形態1のゲル粒子測定装置で測る。特に、ゲル粒子生成の速度として捉えるため、透過光の減少速度を計測する。
【0040】
実施の形態1で示したエンドトキシン活性反応、血液凝固反応、抗原抗体反応の3つの使用方法で共通することは、水に均一に溶けている分子が会合し、不溶性の粒子になる反応を捉えて、定量しようとするものであるが、可溶性から不溶性になるとき、反応の偏り(反応の中心となる酵素などの廻りに反応分子が局部的に不足する)現象が生じる。正しく反応を進め、その速度を測るためには、この偏りが理論的には‘0(ゼロ)’でなければならない。その解決法が、‘撹拌する’ということになる。この測定法の中心は、溶液を均一に撹拌し、粒子形成を安定に行わせる事を意図したことにある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)は本発明が適用されるゲル粒子生成器具の実施の形態の概要を示す説明図、(b)は(a)に示すゲル粒子生成器具を用いたゲル粒子測定装置の実施の形態の概要を示す説明図である。
【図2】(a)はゲル化反応を模式的に示す説明図、(b)はゲル化反応の進行工程I〜IIIを示す説明図、(c)はゲル化反応の進行工程における反応時間と透過光度との関係を示す説明図である。
【図3】リムルス試薬を用いた際のエンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)は実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具を示す分解斜視図、(b)はその断面説明図である。
【図5】実施の形態1で用いられるゲル粒子生成器具の構築方法及び試料の導入方法を示す説明図である。
【図6】(a)は実施の形態1に係るゲル粒子測定装置の正面説明図、(b)は(a)中B方向から見た平面説明図である。
【図7】実施の形態1に係るゲル粒子測定装置のデータ解析処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】(a)は比較の形態に係るゲル粒子測定装置の一例を示す説明図、(b)は(a)中B方向から見た平面説明図である。
【図9】実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて様々なエンドトキシン濃度(ETX濃度)について反応時間毎の透過光度を測定した結果を示すグラフ図である。
【図10】図9に示すグラフ図を用いた検量線作成例を示す説明図である。
【図11】実施例2に係るゲル粒子測定装置を用いて様々なエンドトキシン濃度(ETX濃度)について反応時間毎の透過光度を測定した結果を示すグラフ図である。
【図12】図11に示すグラフ図を用いた検量線作成例を示す説明図である。
【図13】実施例3に係るゲル粒子測定装置で用いられるゲル粒子生成器具でのゲル粒子の生成状態の一例を示す説明図である。
【図14】血液凝固反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【図15】(a)(b)は抗原抗体反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1…試料セル,2…試薬,3…撹拌部材,4…密封部材,5…保持カバー,5a…孔部,11…ゲル粒子生成器具,12…撹拌駆動手段,13…コヒーレント光源,14…光検出手段,15…光変動計測手段,16…ゲル粒子生成判別手段,17…散乱光除去手段,18…温度調節手段,19…表示手段,S…試料,W…混合溶液,Bm…光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するゲル粒子生成器具であって、
試料が注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セルと、
この試料セル内に予め収容され且つ試料中の目的物質と反応してゲル化する試薬と、
前記試料セルに予め収容され且つ注入された試料及び前記試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌部材と、
前記試料セル内に前記試薬及び前記撹拌部材が収容された状態で前記試料セルの開口を密封すると共に密封後に試薬セル内に試料が注入可能な密封部材とを備え、
試料セル内に試料が注入された時点で撹拌部材による撹拌動作を開始し、前記混合溶液全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたことを特徴とするゲル粒子生成器具。
【請求項2】
請求項1記載のゲル粒子生成器具において、
試薬セルの開口縁に取り付けられて密封部材を保持する保持カバーを有することを特徴とするゲル粒子生成器具。
【請求項3】
ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、
予め決められた測定ステージに配設され且つ試薬セル内に試料が注入された請求項1記載のゲル粒子生成器具と、
前記測定ステージのうち試料セル外部に設けられ、試料セル内の撹拌部材を回転させることで試料及び試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌駆動手段と、
前記試料セルの透過部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源と、
このコヒーレント光源からの光のうち前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液を通過した光を検出する光検出手段と、
この光検出手段の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段と、
この光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項4】
請求項3記載のゲル粒子測定装置において、
ゲル粒子生成器具の試料セルは一方から他方にかけて光が透過する透過部を有し、
前記光検出手段は前記試料セルの透過部の外部でコヒーレント光源の反対側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液中を透過した光を検出するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項5】
請求項4記載のゲル粒子測定装置において、
光検出手段と試料セルとの間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段に向かう成分が除去される散乱光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項6】
請求項3ないし5いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
測定ステージに配設された資料セル全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項1】
ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に用いられ、ゲル粒子を生成するゲル粒子生成器具であって、
試料が注入収容されると共に少なくとも一部に光が透過する透過部を有する筒状の試料セルと、
この試料セル内に予め収容され且つ試料中の目的物質と反応してゲル化する試薬と、
前記試料セルに予め収容され且つ注入された試料及び前記試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌部材と、
前記試料セル内に前記試薬及び前記撹拌部材が収容された状態で前記試料セルの開口を密封すると共に密封後に試薬セル内に試料が注入可能な密封部材とを備え、
試料セル内に試料が注入された時点で撹拌部材による撹拌動作を開始し、前記混合溶液全体がゲル化するのを抑制した状態でゲル粒子を生成させるようにしたことを特徴とするゲル粒子生成器具。
【請求項2】
請求項1記載のゲル粒子生成器具において、
試薬セルの開口縁に取り付けられて密封部材を保持する保持カバーを有することを特徴とするゲル粒子生成器具。
【請求項3】
ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、
予め決められた測定ステージに配設され且つ試薬セル内に試料が注入された請求項1記載のゲル粒子生成器具と、
前記測定ステージのうち試料セル外部に設けられ、試料セル内の撹拌部材を回転させることで試料及び試薬からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌駆動手段と、
前記試料セルの透過部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させるコヒーレント光源と、
このコヒーレント光源からの光のうち前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液を通過した光を検出する光検出手段と、
この光検出手段の検出出力に基づいて光変動成分を計測する光変動計測手段と、
この光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項4】
請求項3記載のゲル粒子測定装置において、
ゲル粒子生成器具の試料セルは一方から他方にかけて光が透過する透過部を有し、
前記光検出手段は前記試料セルの透過部の外部でコヒーレント光源の反対側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬からなる混合溶液中を透過した光を検出するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項5】
請求項4記載のゲル粒子測定装置において、
光検出手段と試料セルとの間には、ゲル粒子で散乱した位相のずれた散乱光のうち光検出手段に向かう成分が除去される散乱光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項6】
請求項3ないし5いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
測定ステージに配設された資料セル全体が予め決められた一定の温度に保たれるように温度調節可能な温度調節手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−85276(P2010−85276A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255410(P2008−255410)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(508084272)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(508084272)
【Fターム(参考)】
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