説明

コイルの製造装置及び製造方法

【課題】高精度かつ高能率での製造を可能にする。
【解決手段】複数の直管1の両端にU字管2を溶接してコイル3を製造する装置である。ワークセット治具24に位置決め保持された直管1と、この直管1の両端に仮付けされたU字管2の開先位置wに対して、被溶接管1、2の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズ15を用いてレーザ光13を照射することにより溶接を行うレーザ溶接ヘッド11を備える。
【効果】フィラーワイヤを使用することなく、高精度に、かつ高能率にコイルの製造が行えるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等で用いられる、直管の両端をU字管で連結した蛇管(以下、コイルという。)を高精度かつ高能率で製造する装置、及びこの製造装置を用いた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルのような蛇管の製造に際しては、直管同士を直列に溶接した長尺のチューブを折り曲げることで製造していた。しかしながら、前記チューブの肉厚が4mmを超えると、前記直管同士の溶接部を折り曲げることになった場合は、当該折り曲げ部にしわなどの損傷が発生したり、所定の形状に折り曲げることが困難である。
【0003】
そこで、コイルのように、肉厚が4mmを超える場合は、例えば180度エルボと直管を溶接することで製造していた(例えば特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載された発明のように、直管1と180度エルボやU字管2を連結することで、図8に示すようなコイル3を製造する場合、隣接する直管1の隣接する部分1aに対して垂直に溶接することが難しい。
【0004】
また、ボイラ等で用いられるコイルを製造するに際しては、管路抵抗、応力集中等を低減させるために、コイルの内面(特に直管とU字管との溶接部の内面)が限りなく平らであることが望まれる。
【0005】
直管とU字管との溶接部の内面の余盛りを安定して確保するためには、自動TIG溶接を採用することで可能になるが、全周に亘って良好な溶接品質を得るためには、図9に示すようなU型に開先形状を形成することが必要である(特許文献2)。また、TIG溶接の溶接速度は7cm/min程度であり、生産性が非常に悪い。さらに、厚肉管をTIG溶接する場合には、図10に示すような多層溶接が必要で、2パス目からはフィラーワイヤの添加が必要であり、内面の余盛り高さを増加させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−110426号公報
【特許文献2】特開平09−19767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、直管の両端をU字管で連結したコイルをTIG溶接により製造する場合は、U型に開先形状を形成する必要があり、また、生産性が非常に悪く、さらに、内面の余盛り高さを増加させるおそれがあるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコイルの製造装置は、
高精度かつ高能率での製造を可能にするために、
複数の直管の両端にU字管を溶接してコイルを製造する装置であって、
ワークセット治具に位置決め保持された直管と、この直管の両端に仮付けされたU字管の開先位置に対して、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを用いてレーザ光を照射することにより溶接を行うレーザ溶接ヘッドを備えたことを最も主要な特徴としている。
【0009】
本発明のコイルの製造装置では、ワークセット治具に位置決め保持した状態で、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズにレーザ光を照射してレーザ溶接するので、隣接する管の隣接する部分に対しての溶接が容易に行えるようになる。
【0010】
本発明のコイルの製造装置において、前記レーザ溶接ヘッドに、直管とU字管の前記開先位置を認識するカメラを備えさせた場合は、レーザ光の照射位置を正確に認識できるので、目外れなく安定した溶接が行えるようになる。
【0011】
また、本発明のコイルの製造装置において、予熱が必要な場合には、直管とU字管の前記開先位置を予熱処理する予熱装置を設ける。この予熱装置を、例えば直管の長手方向と直交する方向の断面が、U字管と外接する長円より5〜50mm大きい、長円形又は楕円形の高周波コイルを有する高周波予熱装置とすれば、高周波コイルでU字管を囲むようにして効率の良い予熱が行える。その際、予熱装置に直管及びU字管の温度を計測する非接触温度計が設けられていれば、予熱終了時点の溶接位置の温度が所定の温度であるか否かを正確に把握できるので望ましい。
【0012】
本発明のコイルの製造方法は、上記の本発明装置を使用して複数の直管の両端にU字管を溶接してコイルを製造する方法であって、
直管との両端に仮付けされたU字管を囲むように設置した高周波コイルにより、直管及びU字管を所定温度以上になるまで誘導加熱し、
この誘導加熱した直管とU字管の温度が所定温度になるのを確認した後、この確認した直管とU字管の間の開先位置に対して、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを用いてレーザ光を照射して溶接することを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、隣接する直管の隣接する部分に対してもレーザ溶接できるので、フィラーワイヤを使用することなく、高精度に、かつ高能率にコイルの製造が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】レーザ溶接時におけるI型の開先を示した図である。
【図2】レーザ溶接部の断面を写したマクロ写真であり、上側がパイプの外面、下側がパイプの内面である。
【図3】コイルの断面とレーザ溶接時の光軸軌跡を示した図である。
【図4】本発明に使用するレーザ溶接ヘッドの一例を説明する概略図である。
【図5】本発明に使用する予熱装置の一例を説明する概略図で、(a)は正面図、(b)は高周波コイル部の平面図である。
【図6】本発明に使用する予熱装置を用いてコイルを予熱する場合の状態を説明する図である。
【図7】本発明のコイル製造装置を構成するレーザ溶接装置と予熱装置の配置関係を示した図で、(a)は平面図、(b)は(a)の矢視A−A図、(c)は(a)の矢視B−B図である。
【図8】コイルを製造する場合に、隣接する直管の隣接する部分に対して垂直に溶接することが難しいことを説明する図で、(a)はコイルの正面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図9】TIG溶接時におけるU型の開先を示した図である。
【図10】TIG溶接時における多層溶接時の積層状態を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、高精度に、かつ高能率に、直管の両端をU字管で連結したコイルの製造を行うという目的を、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズにレーザ光を照射してレーザ溶接することで実現した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図7を用いて詳細に説明する。
レーザ溶接を採用すれば、肉厚が8mmの、直管の両端をU字管で連結したコイルであっても、図1に示すようなI型の簡単な開先wで、図2に示すような内面のビード高さの低い溶接を、70cm/minもの高速で行うことができる。
【0017】
しかしながら、前記コイルは、隣接する直管同士の間隔L(図8参照)が例えば88.9mmと接近しているので、図3に示すように、隣接する直管1の近接位置では、直管1同士の隣接する部分1aにレーザ光4を垂直に照射することが難しい。また、レーザ溶接では、レーザ光を小さい箇所に集光してエネルギー密度を高めて溶接するので、溶接位置を正確に認識することが必要になる。
【0018】
そこで、本発明では、直管1と、この直管1の両端に仮付けされたU字管2との溶接を、被溶接管1、2の管径dの2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを用いてレーザ光を照射することにより行うこととしている。
【0019】
このように、被溶接管1、2の管径dの2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを使用すれば、隣接する直管1の隣接する部分1aにもレーザ光を垂直に照射することができるようになる。
【0020】
このレーザ溶接ヘッド11は、例えば図4に示すように、レーザ発振器12から照射されたレーザ光13を平行光に変換するコリメートレンズ14、集光レンズ15を介して直管1とU字管2との溶接部の開先位置wに照射して、直管1とU字管2をレーザ溶接する構成である。
【0021】
また、図4の例では、コリメートレンズ14と集光レンズ15の間のレーザ光13の光軸上に、レーザ光13は透過するが可視光は反射するビームスプリッター16a、16bを配置して直管1とU字管2の前記開先位置wを映してカメラ17で撮像するようにしたものを示している。カメラ17及びビームスプリッター16aはレーザ溶接ヘッド11の外面に取付け固定されている。
【0022】
このように直管1とU字管2の開先位置wをカメラ17で撮像するようにした場合は、0.5mm程度に集光するレーザ光13の照射位置を正確に認識できるので、目外れなく安定したレーザ溶接が行えるようになる。
【0023】
さらに、図4の例では、レーザ溶接前に直管1とU字管2の開先位置wの温度を測定する非接触温度計18を備えているものを示している。このように非接触温度計18を備えさせれば、レーザ溶接する直管1とU字管2の開先位置wの温度が規定の温度に到達しているか否かを確認することができる。
【0024】
なお、図4中の19は前記カメラ17で写した画像の処理装置、20は前記画像処理装置19の画像、及び前記非接触温度計18で測定した温度を入力され、レーザ発振器12を制御するレーザコントローラ、21は前記画像処理装置19の画像を写すモニタである。
【0025】
ところで、レーザ溶接は、TIG溶接に比べて急速な加熱を行うので、被溶接材料が有する本来の性質を変化させやすい。従って、この変化を防止するためには、溶接に先立って被溶接材料を予熱することが望ましい。そして、この予熱により、急激な加熱・冷却による悪影響を緩和できるので、溶接割れの防止や適切な組織の確保などにも効果がある。
【0026】
そこで、本例では、図5に示すような、直管1とU字管2の開先位置wを予熱処理する予熱装置22を備えさせている。この予熱装置22として、本例では、直管1の長手方向と直交する方向の断面がU字管2と外接する長円より5〜50mm大きい長円形の高周波コイル22aを有する高周波予熱装置を示している。
【0027】
この高周波コイル22aのU字管2と外接する長円より大きくする距離は、5mm未満とすれば予熱に際してのセット時に高周波コイル22aがU字管2に接触し易くなる。一方、50mmを超えると高周波コイル22aと溶接部が離れすぎて所定温度に予熱することが難しくなる。従って、前記距離は5〜50mmとすることが望ましい。
【0028】
このような高周波コイル22aを使用すれば、高周波コイル22aがU字管2を囲むので、効率の良い予熱を行うことができる。その際、図5に示すように、予熱装置22に直管1及びU字管2の温度を計測する例えば放射温度計23を設けておけば、放射温度計23でモニタされる温度をフィードバックし、溶接位置の温度を正確に制御することができる。
【0029】
この予熱装置22は、図7に示すように、ワークセット治具24に位置決め保持された直管1とU字管2が並べられた延長線上の退避位置に位置させておき、予熱時に、予熱位置に移動した後上昇移動して予熱するように構成しておくことが望ましい。
【0030】
また、本例では、前記構成のレーザ溶接ヘッド11を移動(回転)自在に取付けたレーザ溶接装置31を、図7に示すように、ワークセット治具24に位置決め保持された、直管1とU字管2が並べられた方向と直交する方向の、前記直管1とU字管2の両側に2台、直管1とU字管2を挟むように配置している。そして、これら2台のレーザ溶接装置31を、前記直管1とU字管2が並べられた方向にそれぞれが移動自在なように設けている。
【0031】
このように配置した2台のレーザ溶接装置31を、直管1とU字管2が並べられた方向に移動させて、レーザ溶接ヘッド11を用いて直管1の両側から直管1とU字管2の接合部を1本ずつ連続的にレーザ溶接することで、短時間に、かつ高能率にコイル3を製造することができる。
【0032】
その際、直管1とU字管2を位置決め保持するワークセット治具24を、直管1の両端に仮付けされたU字管2の位置の入れ替えが可能なように、図7(c)に矢印で示すように、支点24aを中心に反転可能に構成しておくことが望ましい。なお、図7中の25は制御盤を示す。
【0033】
このようにしておけば、直管1の一方端部におけるU字管2との接合が完了した後、ワークセット治具24を反転するだけで、直管1の他方端部におけるU字管2との接合の準備が完了し、同様の操作で他方端部の接合を行うことができる。
【0034】
以上の構成からなる本発明のコイルの製造装置を用いた、本発明のコイルの製造方法について、以下に説明する。
【0035】
1)両端にU字管2を仮付した直管1をワークセット治具24にセットする。
2) ワークセット治具24にセットされた両端にU字管2を仮付した直管1のおおよその位置を制御盤25に入力する。
【0036】
3) 予熱が必要な場合は、予熱装置22を移動させ、予熱装置22を上昇して溶接部を高周波コイル22aで囲んで、プログラムに従って予熱(誘導加熱)する。
4) プログラムに従った予熱が終了すると、予熱装置22を下降し、退避位置まで移動させる。
【0037】
5) 2台のレーザ溶接ヘッド11を、それぞれ制御盤25に入力されたおおよその位置まで移動させた後、カメラ17で写した溶接位置を画像処理して確認し、正確な溶接位置座標を求める。
【0038】
6) その後、それぞれのレーザ溶接ヘッド11を、非接触温度計18でそれぞれの溶接部の温度を測定できる位置まで退避させ、それぞれの溶接部の温度を測定する。
【0039】
7) 溶接部の温度が所定の温度になっていることを確認した後は、それぞれのレーザ溶接ヘッド11を前記正確な溶接位置に移動させ、予めプログラムされた溶接条件に従ってレーザ溶接を行う。
【0040】
8) ワークセット治具24にセットされた両端にU字管2を仮付した直管1の一方端側の全てについて、上記3)〜7)の手順を繰り返す。
9) 直管1の一方端部におけるU字管2との接合が完了した後、ワークセット治具24を反転し、直管1の他方端部におけるU字管2との接合を同様に行う。
【0041】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0042】
例えば、上記例では予熱に際し、予熱装置22を昇降動させるものを示したが、両端にU字管2を仮付した直管1を保持したワークセット治具24を昇降動させても良い。
【0043】
また、前記溶接作業は自動で行うものに限らず、各工程を溶接士が確認しながら行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、隣接する管を溶接するものであれば、ボイラ等で用いられる、直管の両端をU字管で連結したコイル3の製造に限らない。
【符号の説明】
【0045】
1 直管
1a 隣接する部分
2 U字管
3 コイル
11 レーザ溶接ヘッド
13 レーザ光
15 集光レンズ
16a、16b ビームスプリッター
17 カメラ
22 予熱装置
22a 高周波コイル
23 放射温度計
24 ワークセット治具
24a 支点
31 レーザ溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直管の両端にU字管を溶接してコイルを製造する装置であって、
ワークセット治具に位置決め保持された直管と、この直管の両端に仮付けされたU字管の開先位置に対して、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを用いてレーザ光を照射することにより溶接を行うレーザ溶接ヘッドを備えたことを特徴とするコイルの製造装置。
【請求項2】
前記レーザ溶接ヘッドに、直管とU字管の前記開先位置を認識するカメラを備えさせたことを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造装置。
【請求項3】
前記レーザ溶接ヘッドは、前記溶接する直管とU字管が並べられた方向と直交する方向の前記直管の両側に2台、前記溶接する直管とU字管が並べられた方向にそれぞれが移動自在に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコイルの製造装置。
【請求項4】
直管とU字管の前記開先位置を予熱処理する予熱装置を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコイルの製造装置。
【請求項5】
前記予熱装置は、直管の長手方向と直交する方向の断面が、U字管と外接する長円より5〜50mm大きい、長円形又は楕円形の高周波コイルを有する高周波予熱装置であることを特徴とする請求項4に記載のコイルの製造装置。
【請求項6】
前記予熱装置には、直管及びU字管の温度を計測する非接触温度計が設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のコイルの製造装置。
【請求項7】
前記ワークセット治具が、直管の両端に仮付けされたU字管の位置の入れ替えが可能なように反転可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のコイルの製造装置。
【請求項8】
複数の直管の両端にU字管を溶接してコイルを製造する方法であって、
直管との両端に仮付けされたU字管を囲むように設置した高周波コイルにより、直管及びU字管を所定温度以上になるまで誘導加熱し、
この誘導加熱した直管とU字管の温度が所定温度になるのを確認した後、この確認した直管とU字管の間の開先位置に対して、被溶接管の管径の2倍以上の焦点距離を有する集光レンズを用いてレーザ光を照射して溶接することを特徴とするコイルの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−78986(P2011−78986A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230882(P2009−230882)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】