説明

コネクタ取付け構造

【課題】コネクタ取付け部のシール性能を確実なものにするとともに、コネクタにオイル漏れと見間違うようなミストや水が付着しないようにする。
【解決手段】両端に外部ケーブル用の外部コネクタ受口13と内部ケーブル用の内部コネクタ受口14とを備えるコネクタ10が、外形形状として変速機ケース1の貫通孔3に内側から挿通される挿通部15を有し、この挿通部の2つのリング溝に先端方向に向かって順次貫通孔3との間をシールするOリング52と、角リング54を備える。コネクタ取り付け時に角リング54が先に貫通孔3に進入してセンタリングされるので、Oリング52が貫通孔の入り口に引っ掛かって裂断するおそれがない。角リング54の存在によりOリング52の近傍にミストや水などが溜まらないので、シール性能に悪影響を受けず、オイル漏れとの見間違いも生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速機における変速機ケース内外の電気配線を連結するためのコネクタ取付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速機構制御のため変速機ケース内に配置されたソレノイドや各種センサが配線を通じて変速機ケース外部の制御部に接続される。この配線が変速機ケースのケース壁を通過する箇所においてオイル漏れが生じないように、従来、例えば特開2003-262265号公報に示されるように、配線を変速機ケース内側の内部ケーブルと変速機ケース外側の外部ケーブルとに分けるとともに、変速機ケースに取り付けたコネクタを介して内部ケーブルと外部ケーブルとを連結するようにしている。
コネクタは、基本形状が円筒形で変速機ケースに形成した貫通孔に挿入して取り付けられる。コネクタの外周には貫通孔に対応する部位にリング溝が形成され、リング溝にOリングを配置して変速機ケース内外を油密に遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-262265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Oリングは通常貫通孔における円筒状シール面の軸方向中間位置に設定されるので、シール面におけるOリング接触部よりケース外部側にミストや水などが蓄積され易く、シール性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、コネクタの本体は樹脂製の成型品とされるため、その断面に厚肉部があると成形の際にヒケが発生して設計どおりの正確な製品形状を得ることができない。
【0005】
この対策として一般には、図5に示されるように、コネクタ60の外周面にはリング溝18に隣接する肉抜き部62bをはじめとして多くの部分的な肉抜き部62a、62c等が設けられるが、上記のミストや水などは肉抜き部にも溜まり易いので、とくに貫通孔3の開口近傍の肉抜き部62bに溜まった場合には貫通孔3からのオイル漏れと見間違いするなどの紛らわしい現象も生じることがある。なお、図5の(a)はコネクタ60の外観斜視図、(b)はその断面図である。
さらに、コネクタ60の組み付け時に貫通孔3に対するセンタリングが取れていないままに組み付けると、コネクタ60のOリング52が断裂してしまうことがあり、この場合もシール性能に悪影響を及ぼすことになる。
図5中、1は変速機ケース、50はコネクタ60の端子ピン、Ciは内部ケーブル、9はコネクタ60と接続した内部ケーブルのコネクタであり、外部ケーブルおよびそのコネクタは省略してある。
【0006】
そこで本発明は上記の問題点に鑑み、変速機ケースへのコネクタ取付け部におけるシール性能を確実なものにするとともに、コネクタにオイル漏れと見間違うようなミストや水などの付着がないようにしたコネクタ取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、変速機ケース内外のケーブルを連結するためのコネクタの取付け構造であって、コネクタは、変速機ケースに形成された貫通孔に内側から挿通される挿通部を有し、該挿通部の外周に形成した第1のリング溝に貫通孔との間をシールするシールリングを備え、挿通部における第1のリング溝より挿通方向先端側で少なくとも一部が貫通孔内に位置するように設定した第2のリング溝に弾性リングを備えているものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シールリングの近傍に弾性リングが位置することにより、ミストや水などが溜まりにくいのでシールリングのシール性能に悪影響を及ぼすことが防止される。
そして、コネクタの変速機ケースへの取り付け時にはシールリングよりも先に弾性リングが貫通孔に進入してセンタリングされるので、シールリングが裂断するなどのおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態におけるコネクタを示す図である。
【図2】変速機ケースの貫通孔を示す断面図である。
【図3】Oリングと角リングが配置されたリング溝部分の拡大断面図である。
【図4】変速機ケースの貫通孔にコネクタを取り付けた状態を示す断面図である。
【図5】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態におけるコネクタを示し、(a)は外観斜視図、(b)は断面図である。図2はコネクタを取り付ける変速機ケースの貫通孔を示す断面図である。
変速機ケースに取り付けるコネクタ10は樹脂製の本体11と銅合金の端子ピン50とからなる。
コネクタ10の本体11は基本形状が円筒形で、とくに図1に示すように、内部に隔壁12を有して両端が開口し、外部ケーブルCoのコネクタ7(図4参照)を受け入れる上部の外部コネクタ受口13と、内部ケーブルCiのコネクタ9(図4参照)を受け入れる下部の内部コネクタ受口14になっている。端子ピン50は隔壁12に一体にモールドされ、隔壁12を軸方向に貫通して延びて外部コネクタ受口13および内部コネクタ受口14内に臨んでいる。
すなわち、外部コネクタ受口13は外部コネクタ(コネクタ7)と接続する外部接続部となり、内部コネクタ受口14は内部コネクタ(コネクタ9)と接続する内部接続部となる。
【0011】
本体11の外観形状は変速機ケース1の貫通孔3に挿通される挿通部15と、この挿通部15より大径で下方に延びる基部17と、挿通部15と基部17を結ぶ傾斜部16とからなっている。
基部17は挿通部15より短く、下端部の外周面には2面幅部26が切り欠かれて、その上部側との間に段差部27が形成されている。
基部17の側壁(外周)にはさらに把持部28とファスナ係合部30が設けられている。把持部28は周方向において2面幅部26の一方に対応させるとともに下端を段差部27に一致させて、2面幅部26より上に位置している。把持部28には下端(段差部27)に開口する軸方向の穴29が形成されている。
ファスナ係合部30は内部ケーブルCiのコネクタ9に設けられた不図示のファスナと係合して、コネクタ9の抜け止めを行う。
【0012】
挿通部15には基部17寄りにリング溝18が形成され、シール用のOリング52がリング溝18に嵌め込まれる。リング溝18の幅はOリング52の断面径d(図3参照)に対して余裕をもっており、Oリング52はリング溝18の幅内で軸方向にわずかに変位可能である。
さらに挿通部15には、Oリング52用のリング溝18の上側(挿通部15先端側)に隣接して、肉抜き部の代わりに、リング溝20が形成されて、後述する角リング54が当該リング溝20に嵌め込まれている。
【0013】
図3の拡大断面図に示すように、角リング54はリング溝20の溝幅に同一幅で嵌め込まれるとともに、リング外径の周面sが軸方向において挿通部15の外周面と平行な直線(すなわち、円筒面)となっている一方、リング内径側の周面は断面円弧となっている。リング外径の周面の軸方向両端の角部は滑らかに面取りされている。
リング溝18に嵌め込まれたOリング52は、自由状態でそのリング外径側の一部が挿通部15の外周面fよりも突出し、リング溝20に嵌め込まれた角リング54も周面sが挿通部15の外周面fより突出して、いずれも貫通孔3に挿通された際にはリング径方向に圧縮状態となる。Oリング52の突出量の方が角リング54の突出量よりも大きい。
【0014】
図1に戻って、リング溝20の上側にはさらに挿通位置確認用の確認溝22が形成され、確認溝22から挿通部15上端(先端)の間には外部ケーブルCoのコネクタキャップ8(図4参照)と噛み合うネジ溝24が螺旋状に形成されている。
さらに挿通部15の外周面には外部ケーブルCoのコネクタ7を外部コネクタ受口13に差し込む際の周方向の位置決めマーク32を設けてある。
図2に示すように、貫通孔3は変速機ケース1の内面から下方(内方)に所定量延びた筒状のコネクタ取付部2に形成され、変速機ケース外面側の外端から軸方向一定範囲の内壁がシール面4とされ、シール面4から内端までは末広がりの傾斜面5(円錐面)となっている。
【0015】
図4は変速機ケース1の貫通孔3にコネクタ10を取り付けた状態の断面を示している。
コネクタ10は貫通孔3に変速機ケース1の内側から本体11の挿通部15を挿入して取り付けられる。この際、位置決めマーク32を挿通部15の挿入マークとしても利用して、変速機ケース1に形成した指標に対向させるなどすれば、周方向の位置もあらかじめ設定した向きに合わせやすい。
挿入においては、Oリング52よりも先に角リング54が貫通孔3に進入し、これによりコネクタ10の挿通部15が貫通孔3に対してセンタリングされるので、続いてOリング52が貫通孔3に進入していく際に当該Oリング52が穴縁などに引っ掛かって断裂などすることはない。
【0016】
確認溝22が貫通孔3より外部に位置するまで挿通部15を挿入すると、Oリング52が貫通孔3のシール面4に接触する位置となり、これにより変速機ケース1内外が油密に遮断されることになる。
一方、リング溝20はその上側側壁(図3にgで示す)が変速機ケース1における貫通孔3の開口面近傍に位置し、好ましくは開口面の高さと整合するよう設定される。これにより、リング溝20に嵌め込まれた角リング54の周面sの少なくとも一部がシール面4に接触して、Oリング52と同様にシール機能を果たす。
貫通孔3の傾斜面5は、コネクタ10の挿通部15が許容範囲より外方へ出過ぎる場合にコネクタ10の傾斜部16と当接して規制するストッパとして機能する。
【0017】
なお、内部ケーブルCiのコネクタ9の内部コネクタ受口14への差し込み接続はコネクタ10の貫通孔3への挿通後でもよいし、コネクタ9を接続した状態でコネクタ10を貫通孔3に挿通してもよい。
コネクタ10が貫通孔3に挿通されて変速機ケース1に保持され、内部ケーブルCiのコネクタ9も接続された状態において、次に不図示のコントロールバルブユニットを変速機ケース1に取り付ける。
【0018】
コントロールバルブユニットは変速機ケース1の貫通孔3が形成された部位より下方に取り付けられ、あらかじめコネクタ10(本体11)の2面幅部26および把持部28に対応するホルダ40が取り付けてある。
ホルダ40は、コントロールバルブユニットが変速機ケース1に取り付けられた状態においてコネクタ10の2面幅部26を挟む枠壁41を備え、当該枠壁41の上縁がコネクタ10の段差部27と当接あるいはわずかな間隙をもって対向するよう設定されている。さらに一方の枠壁41の上縁からはコネクタ10の把持部28の穴29に係合するアーム43が上方へ延びている。
【0019】
したがって、コントロールバルブユニットを変速機ケース1に取り付けることにより、段差部27と対向する枠壁41がコネクタ10の変速機ケース1内方への抜けを阻止するとともに、把持部28の穴29に進入して係合するアーム43がコネクタ10の回転を規制して、コネクタ10が変速機ケース1に固定される。
なお、コネクタ10の挿通部15の外径と貫通孔3のシール面4の間は、摺接関係だけでなく、Oリング52によるシール機能が確保される限りで所定の間隙を有していてもよい。
【0020】
図4に仮想線で示すように、変速機ケース1に固定されたコネクタ10の外部コネクタ受口13に、コネクタキャップ付きの外部ケーブルCoのコネクタ7を差し込んで端子ピン50と接続するとともに、コネクタキャップ8を挿通部15に被せてネジ溝24にそって締め付けてコネクタ7の抜け止めを行う。これにより外部ケーブルCoと内部ケーブルCiの連結が完了する。
【0021】
本実施の形態では、リング溝18が発明における第1のリング溝に、リング溝20が第2のリング溝に該当する。また、Oリング52がシールリングに、角リング54が弾性リングに該当する。
【0022】
実施の形態は以上のように構成され、変速機ケース内外のケーブルを連結するためのコネクタ10が、変速機ケース1に形成された貫通孔3に内側から挿通される挿通部15を有し、該挿通部の外周に形成したリング溝18に貫通孔3との間をシールするOリング52を備え、さらに挿通部15におけるリング溝18より挿通方向先端側で少なくとも一部が貫通孔3内に位置するように設定したリング溝20に角リング54を備えているものとした。このため、従来ミストや水などが蓄積され易かったOリング52の近傍に角リング54が位置することになり、ミストや水などが溜まりにくいのでOリング52のシール性能に悪影響を及ぼすことが防止される。
また、コネクタ10の変速機ケース1への取り付け時にはOリング52よりも先に角リング54が貫通孔3に進入してセンタリングされるので、Oリング52が貫通孔3の入り口に引っ掛かって裂断するおそれもない。(請求項1に対応する効果)
【0023】
角リング54のリング外径が挿通部15の外周径より大きいので、ミストや水などのOリング52方向への浸入がとくに有効に阻止される。(請求項2に対応する効果)
また、角リング54はリング溝20の溝幅に同一幅で嵌め込まれるものとしたので、リング溝20自体にもミストや水などの溜まる余地がなくなった。そして、角リング54が挿通部15の外周面の一部のように見え、角リング54の周面にオイル漏れと見間違うようなミストや水などが現出することがない。(請求項3に対応する効果)
さらに、角リング54はリング外径の周面が円筒面をなすとともに、リング溝20の外側の側壁(g)が貫通孔3の外側開口面と整合するように設定することにより、コネクタ10の本体11や変速機ケース1の貫通孔3の誤差による寸法ばらつきでコネクタの位置が少々外側へずれて角リング54が貫通孔3からはみ出した場合でも、貫通孔3のシール面4との接触が確保され、安定したシール効果を保持する。(請求項4に対応する効果)
【0024】
なお実施の形態においては、外部接続部として外部ケーブルと接続するコネクタの外部コネクタ受口13を内部の隔壁12から端子ピン50が突出する雄型、また内部接続部として内部ケーブルと接続する内部コネクタ受口14も隔壁12から端子ピン50が突出する雄型としたが、外部接続部および内部接続部の雌雄の選択は任意であり、外部ケーブルおよび内部ケーブルのコネクタの種別に対応してそれぞれ雄型か雌型に構成すればよい。
また、弾性リングとしては、リング外径の周面を円筒面とした角リング54が最も好ましいが、これに限定されず、条件に応じてOリング52と同様の断面丸形状やその他の断面形状を採用することができる。
さらに、コネクタ10の取り付け位置からの抜け止めや回転方向の位置決めについては、コントロールバルブユニットに取り付けてあるホルダ40との係合によるものを例示したが、コネクタをボルト等により直接に、あるいはブラケットを介して間接に、変速機ケースに連結して抜け止め等を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 変速機ケース
2 コネクタ取付部
3 貫通孔
4 シール面
5 傾斜面
8 コネクタキャップ
9 コネクタ
10 コネクタ
11 本体
12 隔壁
13 外部コネクタ受口
14 内部コネクタ受口
15 挿通部
16 傾斜部
17 基部
18 リング溝(第1のリング溝)
20 リング溝(第2のリング溝)
22 確認溝
24 ネジ溝
26 2面幅部
27 段差部
28 把持部
29 穴
30 ファスナ係合部
32 位置決めマーク
40 ホルダ
41 枠壁
43 アーム
50 端子ピン
52 Oリング(シールリング)
54 角リング(弾性リング)
Co 外部ケーブル
Ci 内部ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケース内外のケーブルを連結するためのコネクタの取付け構造であって、
前記コネクタは、変速機ケースに形成された貫通孔に内側から挿通される挿通部を有し、
該挿通部の外周に形成した第1のリング溝に前記貫通孔との間をシールするシールリングを備え、
前記挿通部における前記第1のリング溝より挿通方向先端側で少なくとも一部が前記貫通孔内に位置するように設定した第2のリング溝に弾性リングを備えていることを特徴とするコネクタ取付け構造。
【請求項2】
前記弾性リングのリング外径が前記挿通部の外周径より大きいことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ取付け構造。
【請求項3】
前記弾性リングは前記第2のリング溝の溝幅に同一幅で嵌め込まれていることを特徴とする請求項2に記載のコネクタ取付け構造。
【請求項4】
前記弾性リングはリング外径の周面が円筒面をなし、前記第2のリング溝の外側の側壁が前記貫通孔の外側開口面と整合するように設定されていることを特徴とする請求項3に記載のコネクタ取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225377(P2012−225377A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91793(P2011−91793)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】