説明

コネクタ用電気接点材料とその製造方法およびコネクタ用電気接点

【課題】安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料を製造する技術を提供する。
【解決手段】基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を形成する金属層形成工程と、金属層形成工程後に形成された酸化物層を除去する酸化物層除去工程と、酸化物層が除去された金属層の表面を酸化処理(または水酸化処理)して導電性酸化物層(または導電性水酸化物層)を形成する導電性酸化物層(または導電性水酸化物層)形成工程とを有しているコネクタ用電気接点材料の製造方法。基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層が形成されており、金属層の上に導電性酸化物層または導電性水酸化物層が形成されているコネクタ用電気接点材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用電気接点材料とその製造方法およびコネクタ用電気接点に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、コネクタ用電気接点材料としては銅(Cu)合金が主に用いられているが、Cu合金は表面に不導体や高い電気抵抗率の酸化皮膜が形成されることにより、接触抵抗の上昇を引き起こして、接続機能の信頼性を低下させる恐れがある。
【0003】
そこで、通常は、Cu合金の表面に耐食性に優れ、酸化されにくい金属のめっき層、具体的には、例えば金(Au)めっきや銀(Ag)めっきなどの貴金属めっき層を形成させて、接触抵抗の上昇を抑制し接続機能の信頼性を高めることが行われている。
【0004】
しかし、これらの貴金属めっきはコストが高いため、一般的には、安価でありながら比較的高い耐食性を有する錫(Sn)めっきなどが用いられている。ただし、Snめっきは軟らかいため、摩耗して接触抵抗が上昇する恐れがある。また、端子挿入時の挿入力が高くなるという欠点がある。
【0005】
このような問題点に対処する技術として、コネクタ用電気接点材料の最表面にCuSn合金層を形成する技術(例えば特許文献1)、最表面にSnまたはSn合金層を形成し、その下側にCu−Snを主体とする金属間化合物を含む合金層を形成する技術(例えば特許文献2)、Sn系めっき層の上にAgSn合金層を形成する技術(例えば特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−267418号公報
【特許文献2】特開2011−12350号公報
【特許文献3】特開2011−26677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの技術をもってしても、上記した問題点を充分に解決できているとは言えず、安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載の発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、各請求項毎に本発明を説明する。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層形成工程後に形成された酸化物層を除去する酸化物層除去工程と、
前記酸化物層が除去された前記金属層の表面を酸化処理して、導電性酸化物層を形成する導電性酸化物層形成工程と
を有していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0010】
本発明者は、上記課題の解決について種々の実験と検討を行う中で、基材上にNiSn合金層やCuSn合金層を形成し、その表面に形成されている不導体の酸化物層を除去した後、酸化処理を施すことにより、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料が得られることが分かった。
【0011】
即ち、基材上にNiSn合金層を形成した場合、この合金層の表面には不導体であるNiOおよびSnOの酸化物層が形成されるが、この酸化物層を除去して酸化処理を施すと、先の不導体である酸化物層とは異なるNiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物の導電性酸化物層が最表面に形成される。
【0012】
また、基材上にCuSn合金層を形成した場合、この合金層の表面には不導体であるCuOおよびSnOの酸化物層が形成されるが、この酸化物層を除去して酸化処理を施すと、先の不導体である酸化物層とは異なるCuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物の導電性酸化物層が最表面に形成される。
【0013】
このような導電性酸化物は一旦形成されるとそれ以上酸化が進行しないため、長期間に亘って導電性を維持することができ、安定して低い接触抵抗を得ることができる。そして、NiSn合金層やCuSn合金層は硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。
【0014】
そして、本発明者はさらに検討を進めた結果、上記のような酸化物層の除去後の導電性酸化物の形成の効果は、NiSn合金層やCuSn合金層に限られるものではなく、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層においても同様の効果が得られることが分かり、本発明を完成するに至った。
【0015】
本請求項の発明によれば、金属層の形成、酸化物層の除去、酸化処理といういずれも極めて簡便な手段を用いて導電性酸化物層の形成を行っているため、安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料を得ることができ、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、高温環境下や振動下で安定した接触抵抗のコネクタを安価に提供することができる。
【0016】
なお、「導電性酸化物層形成工程」における酸化処理の方法としては、加熱による酸化処理の他に液体による酸化処理を採用することもできる。また、自然酸化でもよい。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層形成工程後に形成された酸化物層を除去する酸化物層除去工程と、
前記酸化物層が除去された前記金属層の表面を水酸化処理して、導電性水酸化物層を形成する導電性水酸化物層形成工程と
を有していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0018】
本発明者がさらに実験、検討を進めたところ、不導体の酸化物層が除去された金属層の表面を陽極酸化法等を用いて水酸化処理することにより、Ni(OH)、Cu(OH)やSn(OH)などの導電性水酸化物が形成されることが分かった。
【0019】
このような導電性水酸化物は長期間に亘って導電性を維持することができ、安定して低い接触抵抗を得ることができる。また、水酸化処理は、前記した酸化処理と同様に工業的に確立された手段である。その結果、前記したと同様に、安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料を得ることができ、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、高温環境下や振動下で安定した接触抵抗のコネクタを安価に提供することができる。
【0020】
なお、「導電性水酸化物層形成工程」における水酸化処理の方法としては、例えば、アルカリ溶液(例えば、KOH、NHOH)中での陽極酸化法を挙げることができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、
前記金属層形成工程が、NiSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性酸化物層形成工程が、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0022】
前記したように、金属層としては、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を採用することができるが、これらの内でも、特にNiSn合金は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。
【0023】
そして、このNiSn合金を用い、表面の酸化物層を除去して酸化処理を施すことにより、この合金層の最表面に、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を、導電性酸化物層として形成することができる。
【0024】
NiO(x≠1)、SnO(y≠1)の各々は、それぞれ優れた導電性を有する化合物であるが、本請求項の発明のように双方の化合物が存在する場合、相乗的にキャリアが増加するため、より導電性を向上させることができる。
【0025】
請求項4に記載の発明は、
前記金属層形成工程が、CuSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性酸化物層形成工程が、CuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0026】
前記したように、金属層としては、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を採用することができるが、これらの内でも、特にCuSn合金は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。
【0027】
そして、CuSn合金層を用い、表面の酸化物層を除去して酸化処理を施すことにより、この合金層の最表面に、CuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を、導電性酸化物層として形成することができる。
【0028】
CuO(x≠1)、SnO(y≠1)の各々は、それぞれ優れた導電性を有する化合物であるが、本請求項の発明のように双方の化合物が存在する場合、相乗的にキャリアが増加するため、より導電性を向上させることができる。
【0029】
請求項5に記載の発明は、
前記金属層形成工程が、NiSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性水酸化物層形成工程が、Ni(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項2に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0030】
前記した通り、NiSn合金は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、このNiSn合金を用い、表面の酸化物層を除去して水酸化処理を施すことにより、この合金層の最表面に、Ni(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を、導電性水酸化物層として形成することができ、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持することができる。
【0031】
請求項6に記載の発明は、
前記金属層形成工程が、CuSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性水酸化物層形成工程が、Cu(OH)とSn(OH)の混合物またはCu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項2に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0032】
前記した通り、CuSn合金は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、このCuSn合金を用い、表面の酸化物層を除去して水酸化処理を施すことにより、この合金層の最表面に、Cu(OH)とSn(OH)の混合物、または、Cu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を、導電性水酸化物層として形成することができ、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持することができる。
【0033】
請求項7に記載の発明は、
前記NiSn合金層を形成する工程が、合金めっき浴を用いてNiSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項3または請求項5に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0034】
合金めっき浴を用いることにより、容易にNiSn合金層を形成することができる。
【0035】
請求項8に記載の発明は、
前記CuSn合金層を形成する工程が、合金めっき浴を用いてCuSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項4または請求項6に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0036】
合金めっき浴を用いることにより、容易にCuSn合金層を形成することができる。
【0037】
請求項9に記載の発明は、
前記NiSn合金層を形成する工程が、Ni層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してNiSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項3または請求項5に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0038】
Ni層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してNiSn合金層を形成することにより、所望する比率のNiSn合金層を容易に形成することができる。
【0039】
請求項10に記載の発明は、
前記CuSn合金層を形成する工程が、Cu層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してCuSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項4または請求項6に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0040】
Cu層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してCuSn合金層を形成することにより、所望する比率のCuSn合金層を容易に形成することができる。
【0041】
請求項11に記載の発明は、
前記Ni層、Sn層を電気めっき法により形成することを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0042】
Ni層、Sn層を電気めっき法により形成することにより、比較的安いコストで純度が高いNi層、Sn層を形成することができる。
【0043】
請求項12に記載の発明は、
前記Cu層、Sn層を電気めっき法により形成することを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0044】
Cu層、Sn層を電気めっき法により形成することにより、比較的安いコストで純度が高いCu層、Sn層を形成することができる。
【0045】
請求項13に記載の発明は、
前記Ni層、Sn層を蒸着法により形成することを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0046】
Ni層、Sn層を蒸着法により形成することにより、膜厚みの制御が優れたNi層、Sn層を形成することができる。
【0047】
請求項14に記載の発明は、
前記Cu層、Sn層を蒸着法により形成することを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0048】
Cu層、Sn層を蒸着法により形成することにより、膜厚みの制御が優れたCu層、Sn層を形成することができる。
【0049】
請求項15に記載の発明は、
前記NiSn合金層またはCuSn合金層の形成に先立って、前記基材上にNi層を設けることを特徴とする請求項2ないし請求項14のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0050】
めっきの膨れや剥がれなどを防止する為の拡散バリア層として、基材上にNi層を設けることにより、NiSn合金層やCuSn合金層と下地金属との密着性を向上させることができ、加工性も向上させることができる。Ni層を設ける具体的な手段としては、例えば、めっき法を挙げることができる。
【0051】
請求項16に記載の発明は、
前記酸化物層除去工程が、酸あるいはアルカリによるエッチング、電解エッチング、ドライエッチングまたは機械研磨により酸化物層を除去する工程であることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0052】
酸やアルカリによるエッチング、電解エッチング、ドライエッチング、機械研磨の技術は既に確立された技術であり、既存の設備を用いて容易に酸化物層を除去することができる。
【0053】
請求項17に記載の発明は、
前記酸化物層除去工程が、Snめっき剥離液により酸化物層を除去する工程であることを特徴とする請求項2ないし請求項15のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0054】
最表面にSnが存在している場合には不導体であるSnOが生成されるが、Snめっき剥離液を用いることにより、容易に酸化物層を除去することができる。
【0055】
請求項18に記載の発明は、
前記基材が、Cu、Al、Feまたはこれらの合金であることを特徴とする請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法である。
【0056】
Cu、Al、Feまたはこれらの合金は、導電性や成形性に優れると共に、バネ性にも優れているため、コネクタ用電気接点材料の基材として好ましい。
【0057】
請求項19に記載の発明は、
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層が形成されており、
前記金属層の上に導電性酸化物層または導電性水酸化物層が形成されている
ことを特徴とするコネクタ用電気接点材料である。
【0058】
前記したように、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層の上に導電性酸化物層や導電性水酸化物層が形成されていることにより、長期に亘って導電性を維持することができ、安定して低い接触抵抗を得ることができる。また、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。
【0059】
請求項20に記載の発明は、
前記金属層が、NiSn合金層であり、
前記導電性酸化物層が、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料である。
【0060】
前記したように、NiSn合金層は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、NiSn合金層の上に形成されるNiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物の導電性酸化物は、導電性向上の効果が大きいため好ましい。
【0061】
請求項21に記載の発明は、
前記金属層が、CuSn合金層であり、
前記導電性酸化物層が、CuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料である。
【0062】
前記したように、CuSn合金層は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、CuSn合金層の上に形成されるCuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物の導電性酸化物は、導電性向上の効果が大きいため好ましい。
【0063】
請求項22に記載の発明は、
前記金属層が、NiSn合金層であり、
前記導電性水酸化物層が、Ni(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料である。
【0064】
前記したように、NiSn合金層は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、NiSn合金層の上に形成されるNi(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物の導電性水酸化物は、導電性向上の効果が大きいため好ましい。
【0065】
請求項23に記載の発明は、
前記金属層が、CuSn合金層であり、
前記導電性水酸化物層が、Cu(OH)とSn(OH)の混合物またはCu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料である。
【0066】
前記したように、CuSn合金層は、硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる。そして、CuSn合金層の上に形成されるCu(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物の導電性水酸化物は、導電性向上の効果が大きいため好ましい。
【0067】
請求項24に記載の発明は、
前記基材と前記NiSn合金層またはCuSn合金層との間に、Ni層が設けられている
ことを特徴とする請求項20ないし請求項23のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料である。
【0068】
前記したように、拡散バリア層としてのNi層が基材上に設けられていると、NiSn合金層やCuSn合金層と下地金属との密着性が向上すると共に、加工性が向上するため好ましい。
【0069】
請求項25に記載の発明は、
請求項19ないし請求項24のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料を用いて形成されていることを特徴とするコネクタ用電気接点である。
【0070】
これらのコネクタ用電気接点材料を用いることにより、安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点を提供することができる。そして、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、高温環境下や振動下で安定した接触抵抗のコネクタを提供することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、安価でありながら、安定した接触抵抗を長期間に亘って維持して電気的信頼性および耐久性に優れると共に、端子挿入時の挿入力が充分に小さいコネクタ用電気接点材料を得ることができ、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、高温環境下や振動下で安定した接触抵抗のコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料の製造方法を説明するフローである。
【図3】実施例1のNiSn合金層を形成する手順を説明する図である。
【図4】実施例1の酸化物層除去の前後におけるコネクタ用電気接点材料の接触抵抗の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1の加熱処理の前後におけるコネクタ用電気接点材料の接触抵抗の測定結果を示す図である。
【図6】実施例1の各工程におけるコネクタ用電気接点材料の構成および接触抵抗を示す図である。
【図7】実施例2のコネクタ用電気接点材料の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】実施例2の酸化物層除去の前後および加熱処理後のコネクタ用電気接点材料の接触抵抗の測定結果を示す図である。
【図9】本発明の他の実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料の製造方法を説明するフローである。
【図10】実施例3のCuSn合金層を形成する手順を説明する図である。
【図11】実施例3の酸化物層除去の前後におけるコネクタ用電気接点材料の接触抵抗の測定結果を示す図である。
【図12】実施例3の加熱処理の前後におけるコネクタ用電気接点材料の接触抵抗の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0074】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態は、合金層としてNiSn合金層を形成した場合の実施の形態である。
【0075】
1.コネクタ用電気接点材料の構成
はじめにコネクタ用電気接点材料の構成について説明する。図1は本実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料の構成を模式的に示す断面図である。図1において、1は基材、2は拡散バリア層、3は金属層、4は導電性酸化物層または導電性水酸化物層である。
【0076】
(1)基材
基材1としては、導電性および成形性に優れると共に、バネ性にも優れた材料が好ましく、具体的には、Cu、Al、Feまたはこれらの合金が好ましく用いられる。厚みとしては、0.2〜2mm程度が好ましい。また、円柱型の端子が用いられる場合もある。
【0077】
めっきの膨れや剥がれなどを防止する為に、必要に応じて、基材1の表面に拡散バリア層2を設けてもよい。拡散バリア層2としては、例えばNi層が好ましく用いられ、厚みとしては、0.5〜5μm程度が好ましい。
【0078】
(2)金属層
金属層3は、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層である。なお、合金層の場合、酸化物層を除去した後、酸化処理することにより導電性酸化物層を形成することができる合金であれば、金属元素の比率は特に限定されないが、例えばNiSn合金層の場合、NiSn合金層やNiSn合金層などが好ましく用いられる。厚みとしては、0.1〜5μm程度が好ましい。
【0079】
(3)導電性酸化物層または導電性水酸化物層
(3−1)導電性酸化物層
導電性酸化物層4は、金属層3の酸化物であり、例えば、NiO(x≠1)(具体的には、例えばNiO1.5即ちNiなど)、SnO(y≠1)(具体的には、例えばSnOなど)、ZnO、CuO、CuAlO、Inなどを挙げることができる。そして、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)との混合物として、具体的には、例えばNiSnO、Ni(SnOなどを挙げることができる。また、NiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物などを用いることもできる。厚みとしては1〜200nm程度が好ましく、1〜50nm程度であるとより好ましい。
【0080】
(3−2)導電性水酸化物層
導電性水酸化物層4は、金属層3の水酸化物であり、例えば、Ni(OH)やSn(OH)など、また、Ni(OH)とSn(OH)との混合物やNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物として、例えばNi[Sn(OH)]、Ni[Sn(OH)などを挙げることができる。厚みとしては1〜200nm程度が好ましく、1〜50nm程度であるとより好ましい。
【0081】
2.コネクタ用電気接点材料の製造方法
次に、金属層3がNiSn合金層である場合を例に採り、コネクタ用電気接点材料の製造方法について、図2に示すフローに基づき説明する。
【0082】
図2に示すように、本実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料は、拡散バリア層2が設けられた基材1上に、NiSn合金属3の形成、SnOやNiO酸化物層の除去、導電性酸化物層または導電性水酸化物層4の形成を行うことにより製造される。
【0083】
(1)NiSn合金層の形成工程
NiSn合金層3は、以下の(イ)〜(ニ)に示す方法のいずれかを適宜選択、採用することにより形成される。
【0084】
(イ)合金めっき浴により直接NiSn合金の電気めっきを行う。
【0085】
(ロ)電気めっきによりNiめっきおよびSnめっきを行い、Ni層とSn層とを積層した後、加熱処理することによりNiSn合金層を形成する。なお、このとき、Ni層およびSn層の形成順序はいずれが先であってもよい。
【0086】
(ハ)蒸着によりNi層とSn層とを積層した後、加熱処理することによりNiSn合金層を形成する。なお、このとき、Ni層およびSn層の形成順序はいずれが先であってもよい。
【0087】
(ニ)蒸着により直接NiSn合金層を形成する。
【0088】
(2)酸化物層の除去工程
次に、酸やアルカリによるウエットエッチング、電解液を用いた電解エッチング、ドライエッチングまたは機械研磨により、NiSn合金層3の表面に生成しているNiO、SnOなどを含む酸化物層(酸化皮膜)を除去する。また、表面にSnが残存している場合にはSnOが生成される恐れがあるため、Snめっき剥離液を用いてこのSnを除去する。
【0089】
(3)導電性酸化物層または導電性水酸化物層の形成工程
次に、酸化皮膜が除去されたNiSn合金層3の表面を酸化処理または水酸化処理することによって、NiSn合金層3の表面に導電性酸化物層または導電性水酸化物層4を形成する。具体的な酸化処理の方法としては、加熱による酸化処理、液体による酸化処理、自然酸化による酸化処理のいずれの方法も採用することができる。また、具体的な水酸化処理の方法としては、KOH水溶液中で陽極酸化を行う方法や、NiSO、NHOH水溶液中での陽極酸化処理などを挙げることができる。
【0090】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、合金層としてCuSn合金層を形成した場合の実施の形態である。
【0091】
1.コネクタ用電気接点材料の構成
本実施の形態におけるコネクタ用電気接点材料は、上記の第1の実施の形態と同様に、図1に示す構成のコネクタ用電気接点材料を使用することができる。
【0092】
(1)基材
前記と同様に、基材1としては、導電性および成形性に優れると共に、バネ性にも優れた材料が好ましく、具体的には、Cu、Al、Feまたはこれらの合金が好ましく用いられる。厚みとしては、0.2〜2mm程度が好ましい。また、円柱型の端子が用いられる場合もある。
【0093】
めっきの膨れや剥がれなどを防止する為に、必要に応じて、基材1の表面に拡散バリア層2を設けてもよい。拡散バリア層2としては、例えばNi層が好ましく用いられ、厚みとしては、0.5〜5μm程度が好ましい。
【0094】
(2)金属層
本実施の形態における金属層3はCuSn合金層であり、前記と同様に、酸化物層を除去した後、酸化処理することにより導電性酸化物層を形成することができる合金であれば、金属元素の比率は特に限定されないが、CuSn合金層などが好ましく用いられる。厚みとしては、0.1〜5μm程度が好ましい。
【0095】
(3)導電性酸化物層または導電性水酸化物層
(3−1)導電性酸化物層
導電性酸化物層4は、金属層3の酸化物であり、例えば、CuO(x≠1)(具体的には、例えばCuOなど)、SnO(y≠1)(具体的には、例えばSnOなど)、ZnO、CuO、CuAlO、Inなどを挙げることができる。また、CuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物などを用いることもできる。厚みとしては1〜200nm程度が好ましく、1〜50nm程度であるとより好ましい。
【0096】
(3−2)導電性水酸化物層
導電性水酸化物層4は、金属層3の水酸化物であり、例えば、Cu(OH)やSn(OH)など、また、Cu(OH)とSn(OH)との混合物やCu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を挙げることができる。厚みとしては1〜200nm程度が好ましく、1〜50nm程度であるとより好ましい。
【0097】
2.コネクタ用電気接点材料の製造方法
次に、金属層3がCuSn合金層である場合におけるコネクタ用電気接点材料の製造方法について、図9に示すフローに基づき説明する。
【0098】
図9に示すように、本実施の形態に係るコネクタ用電気接点材料は、拡散バリア層2が設けられた基材1上に、CuSn合金属3の形成、SnOやCuO酸化物層の除去、導電性酸化物層または導電性水酸化物層4の形成を行うことにより製造される。
【0099】
(1)CuSn合金層の形成工程
CuSn合金層3は、以下の(イ)〜(ニ)に示す方法のいずれかを適宜選択、採用することにより形成される。
【0100】
(イ)合金めっき浴により直接CuSn合金の電気めっきを行う。
【0101】
(ロ)電気めっきによりCuめっきおよびSnめっきを行い、Cu層とSn層とを積層した後、加熱処理することによりCuSn合金層を形成する。なお、このとき、Cu層およびSn層の形成順序はいずれが先であってもよい。
【0102】
(ハ)蒸着によりCu層とSn層とを積層した後、加熱処理することによりCuSn合金層を形成する。なお、このとき、Cu層およびSn層の形成順序はいずれが先であってもよい。
【0103】
(ニ)蒸着により直接CuSn合金層を形成する。
【0104】
(2)酸化物層の除去工程
次に、酸やアルカリによるウエットエッチング、電解液を用いた電解エッチング、ドライエッチングまたは機械研磨により、CuSn合金層3の表面に生成しているCuO、SnOなどを含む酸化物層(酸化皮膜)を除去する。また、表面にSnが残存している場合にはSnOが生成される恐れがあるため、Snめっき剥離液を用いてこのSnを除去する。
【0105】
(3)導電性酸化物層または導電性水酸化物層の形成工程
次に、酸化皮膜が除去されたCuSn合金層3の表面を酸化処理または水酸化処理することによって、CuSn合金層3の表面に導電性酸化物層または導電性水酸化物層4を形成する。具体的な酸化処理の方法としては、加熱による酸化処理、液体による酸化処理、自然酸化による酸化処理のいずれの方法も採用することができる。また、具体的な水酸化処理の方法としては、KOH水溶液中で陽極酸化を行う方法や、NiSO、NHOH水溶液中での陽極酸化処理などを挙げることができる。
【実施例】
【0106】
(実施例1)
本実施例は、NiSn合金層上に導電性酸化物層を形成した例であり、以下に示す工程に従って、コネクタ用電気接点材料の作製を行った。
【0107】
1.NiSn合金層の形成
図3に示す手順に従って、黄銅製の基材上にNiSn合金層を形成した。
【0108】
(1)Ni層の形成
まず、黄銅製の基材上に、以下に示す条件で電気めっきを施し、厚み2μmのNi層を形成した(図3(a)参照)。
【0109】
(イ)めっき浴の構成
硫酸ニッケル 265g/L
塩化ニッケル 45g/L
ホウ酸 40g/L
光沢剤
(ロ)電流密度 0.5A/dm
(ハ)温度 50℃
【0110】
(2)Sn層の形成
次に、Ni層の上に、以下に示す条件で電気めっきを施し、厚み6.6μmのSn層を形成した(図3(a)参照)。
【0111】
(イ)めっき浴の構成
硫酸第1錫 40g/L
硫酸 100g/L
光沢剤
(ロ)電流密度 0.5A/dm
(ハ)温度 20℃
【0112】
(3)熱処理
次に、200℃で216hr(9日)熱処理を行い、図3(b)に示すようにNiSn合金層を形成した。
【0113】
2.NiSn合金層の組成分析
(1)分析方法
X線回折、EDXによりNiSn合金層の組成分析を行った。またXPSにより表面の組成分析を行った。
【0114】
(2)分析結果
組成分析により、NiSn合金層にはNiSnが形成されていることが分かった。また、表面には酸化物層として、主にSnOが形成されており、Niは金属結合として存在していることが分かった。
【0115】
3.酸化物層の除去
次に、ドライエッチングによりNiSn合金層の表面の酸化物層を除去した。
【0116】
4.接触抵抗の測定(酸化物層の除去の確認)
酸化物層の除去の前後における接触抵抗を測定した。
【0117】
(1)測定方法
半径3mmの金めっきエンボスを用い、荷重を変えて金めっきエンボスと接触させたときの各荷重における接触抵抗を4端子法を用いて測定した(F−R試験)(N=3)。なお、通電電流を10mA、最大荷重を40Nとした。
【0118】
(2)測定結果
測定結果を図4に示す。図4に示すように、酸化物層の除去前のサンプル(処理前01、02、03)に比べて、酸化物層の除去後のサンプル(エッチング処理01、02、03)は接触抵抗が大きく低下しており、不導体である酸化物層が充分に除去されていることが確認された。
【0119】
5.導電性酸化物層の形成
次に、160℃、120hrの加熱処理を施し、表面に導電性酸化物層を形成した。
【0120】
6.導電性酸化物層の組成分析
(1)分析方法
XPSにより加熱処理後の表面の組成分析を行った。
【0121】
(2)分析結果
組成分析により、最表面にはNi、Sn、Oが検出され、Ni、Sn比一定の酸化物が形成されていることが分かった。そして、Niは酸化物NiO(具体的には、Ni)または金属結合として存在しており、Snは主に酸化物SnO(具体的には、SnO)または金属結合として存在していることが分かった。
【0122】
7.接触抵抗の測定
加熱処理の前後における接触抵抗を、前記と同様にして測定した(N=3)。測定結果を図5に示す。図5に示すように、加熱処理の前後において接触抵抗の変化は小さい。これは、NiSn合金層の表面には導電性酸化物層が形成されているためである。
【0123】
図6に、各工程における断面構成(a)と、荷重10Nで測定したときの接触抵抗(b)を示す。なお、図6には、参考としてAuめっき品を併せて記載した。
【0124】
図6(b)に示すように、本実施例においては、NiSn合金層の形成前では1.1mΩであった接触抵抗が、NiSn合金層の形成後には34.0mΩと大きく上昇している。これは、NiSn合金層の表面に不導体であるSnOが形成されているためである。
【0125】
そして、ドライエッチングによりSnOが除去されることにより、接触抵抗は34.0mΩから2.3mΩへと大きく低下している。
【0126】
そして、この低下した接触抵抗は、熱処理後においても1.7mΩと上昇していない。これは、NiSn合金層の表面に、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物の導電性酸化物層が形成されているためである。
【0127】
この接触抵抗値は、金メッキでの接触抵抗値に比べて若干高いものの、コネクタ接点としての抵抗値としては遜色のない値であり、高価な金メッキを行っている従来の端子に対する安価な代替材料として採用できることを示している。そして、このようなコネクタ用電気接点材料を用いることにより、接触抵抗が充分に小さく安定した耐久性の良いコネクタを得ることができる。
【0128】
(実施例2)
本実施例においては、以下に示す工程に従ってコネクタ用電気接点材料の作製を行った。
【0129】
1.NiSn合金層の形成
厚み5μmのNi層が形成された黄銅製基板(ハルセル基板)を基材として、以下に示す条件でNiSn合金めっきを施して、厚み0.3μmのNiSn合金層を形成した(図7参照)。
【0130】
(イ)めっき浴の構成
塩化錫(SnCl・2HO) 0.125mol/L
塩化ニッケル(NiCl・6HO) 0.125mol/L
0.5mol/L
グリシン 0.25mol/L
(ロ)電流密度 0.5A/dm
(ハ)温度 50℃
【0131】
2.酸化物層の除去
次に、塩酸に5分浸漬することにより、NiSn合金層の表面の酸化物層を除去した。
【0132】
3.導電性酸化物層の形成
次に、160℃、120hrの加熱処理を施し、表面に導電性酸化物層を形成した。
【0133】
4.接触抵抗の測定
酸化物層の除去および導電性酸化物層の形成の前後において、それぞれ上記と同様にして接触抵抗の測定を行った。結果を図8に示す。
【0134】
図8に示す結果より、NiSn金属層を形成しただけでは接触抵抗が高く、コネクタ用電気接点材料として不適格な材料が、塩酸処理により表面の酸化物を除去することにより接触抵抗が低下し、さらに加熱処理を行っても、導電性酸化物層が形成されるために抵抗値が上昇せず、好適なコネクタ用電気接点材料となることが分かる。
【0135】
(実施例3)
本実施例は、CuSn合金層上に導電性酸化物層を形成した例であり、以下に示す工程に従って、コネクタ用電気接点材料の作製を行った。
【0136】
1.CuSn合金層の形成
図10に示す手順に従って、黄銅製の基材上にCuSn合金層を形成した。
【0137】
(1)Ni層の形成
まず、黄銅製の基材上に、以下に示す条件で電気めっきを施し、厚み2μmのNi層を形成した(図10(a)参照)。
【0138】
(イ)めっき浴の構成
硫酸ニッケル 265g/L
塩化ニッケル 45g/L
ホウ酸 40g/L
光沢剤
(ロ)電流密度 0.5A/dm
(ハ)温度 50℃
【0139】
(2)Cu層の形成
次に、Ni層の上に、以下に示す条件で電気めっきを施し、厚み1μmのCu層を形成した(図10(a)参照)。
【0140】
(イ)めっき浴の構成
硫酸銅 180g/L
硫酸 80g/L
塩素イオン 40mL/L
(ロ)電流密度 1A/dm
(ハ)温度 20℃
【0141】
(3)Sn層の形成
次に、Cu層の上に、以下に示す条件で電気めっきを施し、厚み2μmのSn層を形成した(図10(a)参照)。
【0142】
(イ)めっき浴の構成
硫酸第1錫 40g/L
硫酸 100g/L
光沢剤
(ロ)電流密度 0.5A/dm
(ハ)温度 20℃
【0143】
(3)熱処理
次に、300℃で3分間の熱処理を行い、図10(b)に示すようにCuSn合金層を形成した。
【0144】
2.CuSn合金層の組成分析
(1)分析方法
X線回折、EDXによりCuSn合金層の組成分析を行った。またXPSにより表面の組成分析を行った。
【0145】
(2)分析結果
組成分析により、CuSn合金層にはCuSnが形成されていることが分かった。また、表面には酸化物層として、主にSnOが形成されており、Cuは金属結合として存在していることが分かった。
【0146】
3.酸化物層の除去
次に、硫酸に5分間浸漬することによりCuSn合金層の表面の酸化物層を除去した。
【0147】
4.接触抵抗の測定(酸化物層の除去の確認)
酸化物層の除去の前後における接触抵抗を測定した。
【0148】
(1)測定方法
半径3mmの金めっきエンボスを用い、荷重を変えて金めっきエンボスと接触させたときの各荷重における接触抵抗を4端子法を用いて測定した(F−R試験)(N=3)。なお、通電電流を10mA、最大荷重を40Nとした。
【0149】
(2)測定結果
測定結果を図11に示す。図11に示すように、酸化物層の除去前(酸処理前)のサンプルに比べて、酸化物層の除去後(酸処理後)のサンプルは接触抵抗が大きく低下しており、不導体である酸化物層が充分に除去されていることが確認された。
【0150】
5.導電性酸化物層の形成
次に、160℃、120hrの加熱処理を施し、表面に導電性酸化物層を形成した。
【0151】
6.導電性酸化物層の組成分析
(1)分析方法
XPSにより加熱処理後の表面の組成分析を行った。
【0152】
(2)分析結果
組成分析により、最表面にはCu、Sn、Oが検出され、Cu、Sn比一定の酸化物が形成されていることが分かった。そして、Cuは酸化物CuO(具体的には、CuO)または金属結合として存在しており、Snは主に酸化物SnO(具体的には、SnO)または金属結合として存在していることが分かった。
【0153】
7.接触抵抗の測定
加熱処理の前後における接触抵抗を、前記と同様にして測定した(N=3)。測定結果を図12に示す。図12に示すように、加熱処理の前後において接触抵抗の変化は小さい。これは、CuSn合金層の表面には導電性酸化物層が形成されているためである。
【0154】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0155】
1 基材
2 拡散バリア層
3 金属層
4 導電性酸化物層または導電性水酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層形成工程後に形成された酸化物層を除去する酸化物層除去工程と、
前記酸化物層が除去された前記金属層の表面を酸化処理して、導電性酸化物層を形成する導電性酸化物層形成工程と
を有していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項2】
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層形成工程後に形成された酸化物層を除去する酸化物層除去工程と、
前記酸化物層が除去された前記金属層の表面を水酸化処理して、導電性水酸化物層を形成する導電性水酸化物層形成工程と
を有していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項3】
前記金属層形成工程が、NiSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性酸化物層形成工程が、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項4】
前記金属層形成工程が、CuSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性酸化物層形成工程が、CuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項5】
前記金属層形成工程が、NiSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性水酸化物層形成工程が、Ni(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項2に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属層形成工程が、CuSn合金層を形成する工程であり、
前記導電性水酸化物層形成工程が、Cu(OH)とSn(OH)の混合物またはCu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物を形成する工程である
ことを特徴とする請求項2に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項7】
前記NiSn合金層を形成する工程が、合金めっき浴を用いてNiSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項3または請求項5に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項8】
前記CuSn合金層を形成する工程が、合金めっき浴を用いてCuSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項4または請求項6に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項9】
前記NiSn合金層を形成する工程が、Ni層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してNiSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項3または請求項5に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項10】
前記CuSn合金層を形成する工程が、Cu層、Sn層をそれぞれ1層以上積層した後、熱処理してCuSn合金層を形成する工程であることを特徴とする請求項4または請求項6に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項11】
前記Ni層、Sn層を電気めっき法により形成することを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項12】
前記Cu層、Sn層を電気めっき法により形成することを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項13】
前記Ni層、Sn層を蒸着法により形成することを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項14】
前記Cu層、Sn層を蒸着法により形成することを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項15】
前記NiSn合金層またはCuSn合金層の形成に先立って、前記基材上にNi層を設けることを特徴とする請求項2ないし請求項14のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項16】
前記酸化物層除去工程が、酸あるいはアルカリによるエッチング、電解エッチング、ドライエッチングまたは機械研磨により酸化物層を除去する工程であることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項17】
前記酸化物層除去工程が、Snめっき剥離液により酸化物層を除去する工程であることを特徴とする請求項2ないし請求項15のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項18】
前記基材が、Cu、Al、Feまたはこれらの合金であることを特徴とする請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項19】
基材上に、Ni、Sn、Al、Zn、Cu、Inまたはこれらの合金からなる金属層が形成されており、
前記金属層の上に導電性酸化物層または導電性水酸化物層が形成されている
ことを特徴とするコネクタ用電気接点材料。
【請求項20】
前記金属層が、NiSn合金層であり、
前記導電性酸化物層が、NiO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはNiO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項21】
前記金属層が、CuSn合金層であり、
前記導電性酸化物層が、CuO(x≠1)とSnO(y≠1)の混合物またはCuO(x≠1)およびSnO(y≠1)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項22】
前記金属層が、NiSn合金層であり、
前記導電性水酸化物層が、Ni(OH)とSn(OH)の混合物またはNi(OH)およびSn(OH)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項23】
前記金属層が、CuSn合金層であり、
前記導電性水酸化物層が、Cu(OH)とSn(OH)の混合物またはCu(OH)およびSn(OH)より形成される化合物である
ことを特徴とする請求項19に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項24】
前記基材と前記NiSn合金層またはCuSn合金層との間に、Ni層が設けられている
ことを特徴とする請求項20ないし請求項23のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項25】
請求項19ないし請求項24のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料を用いて形成されていることを特徴とするコネクタ用電気接点。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−237055(P2012−237055A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24271(P2012−24271)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】