説明

コネクタ

【課題】本係止位置でのスペーサの保持力を損なうことなく、スペーサの移動量を小さくできるコネクタを提供する。
【解決手段】スペーサ20とコネクタハウジング10の間に、係脱可能に形成された仮係止部51と仮係止受部52とからなる仮係止構造50と、係脱可能に形成された本係止部61と本係止受部62とからなる本係止構造60とを、それぞれ別の箇所に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサを用いて端子金具のハウジングからの脱落を防止するコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内をスライドするスペーサに端子金具を係合させ、端子金具がハウジングから脱落することを防止するコネクタとして、特許文献1に記載されているものが提案されている。
【0003】
特許文献1のコネクタ101は、図9に示すように、コネクタハウジング110内に複数の端子金具(図示せず)がそれぞれ収容される端子収容室112を備えている。また、コネクタハウジング110には、端子収容室112に交差しつつ、コネクタハウジング110側面に開口するスペーサ収容部113が設けられている。スペーサ収容部113には、スペーサ120が挿嵌され、挿嵌されたスペーサ120に端子金具が係合し、端子収容室112からの脱落が阻止されている。
【0004】
スペーサ120とコネクタハウジング110との間には、コネクタハウジング110内に設定された仮係止位置と本係止位置のそれぞれの位置に、スペーサ120を保持することが可能な係止構造170が設けられている。
【0005】
係止構造170は、仮係止突起152と本係止突起162、および弾性係合部161とで構成されている。仮係止突起152と本係止突起162は、端子収容室112の側壁に、挿入方向に沿って同一直線上に配置され、スペーサ収容部113に向かって突出している。スペーサ120の側面には、仮係止突起152と本係止突起162のそれぞれと係合可能な弾性係合部161が設けられている。そして、図9の下方からスペーサ収容部113内にスペーサ120が挿入され、弾性係合部161が、スペーサ120とともに移動することで、仮係止突起152と本係止突起162のどちらかに係合し、スペーサ120が仮係止位置、または本係止位置に保持される。
【0006】
端子金具を端子収容室112内に収容する際には、まずコネクタハウジング110の下側面に開口するスペーサ挿入口113aを通じてスペーサ120をスペーサ収容部113に挿入し、スペーサ収容部113内に設定された仮係止位置に仮保持する。次に、端子金具を端子収容室112に挿入した後で、スペーサ120を本係止位置に移動させ、スペーサ120に端子金具を係止させる。
【0007】
コネクタの近年の傾向として、端子金具の小型化と集約化が求められており、端子収容室内に端子金具を係止、保持するランス構造を設けることは、非常に困難になっている。そこで、前述の従来のコネクタのように、スペーサを用いて端子金具を端子収容室内に係止、保持する手法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−123570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述したコネクタ101の係止構造170では、スペーサ120が移動する際に、コネクタハウジング110の仮係止突起152と本係止突起162が同一直線上に配置され、弾性係合部161が仮係止突起152から隣接する本係止突起162に移動することでスペーサ120が本係止位置に保持される構造であるため、スペーサ120の移動量を小さくするために仮係止位置と本係止位置とを近接させた場合には、本係止突起162の機械的強度が弱まり、本係止位置での十分な保持力を得ることが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を考慮し、本係止位置でのスペーサの保持力を損なうことなく、スペーサの移動量を小さくできるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、内部に端子金具が挿入される端子収容室と、該端子収容室に該端子金具を挿入する方向に対して側方から該端子収容室に交差するスペーサ収容室とを備えるコネクタハウジングと、該スペーサ収容室に挿入されるスペーサとを備え、該スペーサと該コネクタハウジングのいずれか一方に仮係止部と、該スペーサと該コネクタハウジングの他方に該仮係止部と係脱可能に形成された仮係止受部とからなる仮係止構造と、該スペーサと該コネクタハウジングのいずれか一方に本係止部と、該スペーサと該コネクタハウジングの他方に該本係止部と係脱可能に形成された本係止受部とからなる本係止構造とが、それぞれ別の箇所に設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のコネクタにおいて、前記仮係止部と前記仮係止受部とが、前記端子金具を前記端子収容室に挿入する端子挿通方向に面して係合するように形成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1、または請求項2に記載のコネクタにおいて、前記仮係止部は、可撓性を備え、スペーサ挿入方向に沿って面した壁面に沿って撓む弾性腕部と、該弾性腕の先端にに沿って突没可能に形成された係止部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、仮係止構造と本係止構造とを別々に設けることで、仮係止構造と本係止構造のそれぞれを設置するために必要な寸法を十分に確保することができるため、要求されるスペーサの保持力を損なうことなく確保できるとともに、要求されるスペーサの移動量が微少であっても任意に設定することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、端子挿通方向は、端子金具を配置するために十分な寸法が確保されているため、仮係止部と仮係止受部とが、端子挿通方向に面して係合するように形成することで、コネクタハウジングの外形寸法を大きくしてスペースを確保することなく、仮係止構造を配置することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、端子挿通方向は、端子金具を配置するために十分な寸法が確保されているため、弾性腕部が撓み、係止部が突没するためのスペースをコネクタハウジングの外形寸法を大きくして確保することなく、仮係止構造を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態を示し、コネクタハウジングの正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、図1のII−II線に沿った分解断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、スペーサを仮係止した状態における図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、スペーサを本係止した状態における図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、コネクタハウジングを相手側ハウジングに嵌合した状態における図1のII−II線に沿った断面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示し、スペーサの正面側斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態を示し、スペーサの背面側斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態の別態様を示し、係止部の要部拡大斜視図である。
【図9】従来のコネクタを示し、(a)はスペーサを仮係止した状態を示す断面図、(b)はスペーサを本係止した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1〜図5は本発明の一実施形態を示し、図1はコネクタハウジングの正面図、図2は図1のII−II線に沿った分解断面図、図3はスペーサを仮係止した状態における図1のIII−III線に沿った断面図、図4はスペーサを本係止した状態における図1のIII−III線に沿った断面図、図5はコネクタハウジングを相手側ハウジングに嵌合した状態における図1のII−II線に沿った断面図、図6はスペーサの正面側斜視図、図7はスペーサの背面側斜視図である。
【0020】
本実施形態のコネクタ1を構成する雌側コネクタ2は、コネクタハウジング10とスペーサ20と、端子金具30とで、構成されている。
【0021】
コネクタハウジング10は、インナハウジング10Aとアウタハウジング10Bと、シール材40とで構成されている。
【0022】
インナハウジング10Aは、略直方体状の本体部分11内部に複数の端子金具30が挿入される端子収容室12と、内部にスペーサ20が挿嵌されるスペーサ収容室13と、係止腕14とが設けられている。端子収容室12は、単純な貫通孔として、端子金具30が後端側から前端側に挿通可能に形成されている。スペーサ収容室13は、端子収容室12に端子金具30を挿入する方向に対して側方から、端子収容室12に交差するように形成されている。係止腕14は、インナハウジング10Aの後端に後方に向かって延設され、先端に係止突起14aが設けられている。
【0023】
スペーサ収容室13に挿嵌されるスペーサ20は、スペーサ収容室13内に設定された仮係止位置と本係止位置で係止され、保持されるように構成されている。また、スペーサ20には、端子金具30が挿通される端子挿通孔21が設けられている。
【0024】
スペーサ20には、端子金具30が挿通される端子挿通孔21が設けられている。また、スペーサ20には、挿嵌されるスペーサ収容室13との間に、仮係止構造と本係止構造とがそれぞれ別の箇所に設けられ、スペーサ収容室13内に設定された仮係止位置と本係止位置で係止、保持される。
【0025】
仮係止構造50は、スペーサ20に設けられた仮係止部51と、インナハウジング10Aに設けられ、仮係止部51と係脱可能に形成された仮係止受部52とで構成されている。また、仮係止部51と仮係止受部52とは、端子金具30を端子収容室12に挿入する端子挿通方向(雌側コネクタ2と雄側コネクタ3とを組付ける方向)に面して係合するように配置されている。
【0026】
仮係止部51は、スペーサ20のスペーサ挿入方向に沿って面した壁面20aに、図の下方に向かって延設され、壁面20aと端子挿通方向に沿って撓む弾性腕部51aと、弾性腕部51aの先端に形成された仮係止突起(係止部)51bとで構成されている。また、仮係止部51は、スペーサ20の両壁面20aの正面側と背面側の計4箇所に配置されている。
【0027】
仮係止受部52は、インナハウジング10Aの本体部分11の側面11bに端子挿通方向に沿って形成される矩形溝11cの下側側壁に設定されている。また、仮係止受部52は、仮係止部51に対応するインナハウジング10Aの側面11bのそれぞれに左右2箇所、計4箇所に配置されている。
【0028】
本係止構造60は、スペーサ20に設けられた本係止部61と、スペーサ収容室13にスペーサ20を収容するスペーサ収容口13a近傍に設けられ、本係止部61と係脱可能に形成された本係止受部62とで構成されている。また、本係止部61と本係止受部62とは、端子挿通方向に面して係合するように配置されている。
【0029】
本係止部61は、スペーサ20のスペーサ収容室13への挿入方向における後端面20bに略U字状に垂下され、U字状の底部61aに本係止突起61bが形成されている。また、本係止部61は、スペーサ20の両壁面20aの正面側と背面側のそれぞれに左右2箇所、計4箇所に配置されている。
【0030】
アウタハウジング10Bは、筒形状を有する周壁15と、周壁15の後端側を閉止する底壁16とで構成され、周壁15と底壁16とで形成される内部空間は、インナハウジング10Aが収容されるインナ収容室17に設定されている。また、底壁16には、端子金具30が貫通する底通孔18と、インナハウジング10Aの係止腕14が挿入されつつ、係止腕14先端に設けられた係止突起14aと係合可能に形成された係合受部19が形成されている。
【0031】
端子金具30は、保持係止部31を備え、本係止位置に変位したスペーサ20に保持係止部31が係合することで、端子金具30は端子収容室12内に保持される。
【0032】
シール材40は、弾力性のある柔軟な素材をモールド成型することによって、アウタハウジング10Bの底壁16内面側に一体に成形されている。また、シール材40には、端子金具30が貫通する貫通孔41と、インナハウジング10Aの係止腕14が挿入される腕孔42が形成されている。
【0033】
上記構成において、雌側コネクタ2を組立てる手順として、まず、インナハウジング10Aにスペーサ20を組付け、仮係止位置に保持する。ここで、仮係止部51の弾性腕部51aが端子挿通方向に撓んで仮係止突起51bが仮係止受部52に係合する。次に、係止腕14先端を、シール材40の貫通孔41と、アウタハウジング10Bの底通孔18とを挿通させ、インナハウジング10Aの後端面11aとアウタハウジング10Bの底壁16との間に、シール材40を圧縮、狭持した状態で、先端の係止突起14aを係合受部19に係合させる。
【0034】
スペーサ20を仮係止位置に保持した状態のままで、アウタハウジング10Bの底壁16外面側から挿入し、底通孔18と貫通孔41を通じて、端子金具30を端子収容室12に配設する。次に、端子金具30を端子収容室12内に配置した状態で、スペーサ20を仮係止位置から本係止位置に移動させて、スペーサ20を端子金具30に係合させ、端子金具30を端子収容室12内に保持し、雌側コネクタ2の組立てが完了する。スペーサ20を仮係止位置から本係止位置に移動させる際に、仮係止突起51bが仮係止受部52から離間し、本係止部61のU字状の底部61aが撓んで本係止突起61bが本係止受部62に係合する。
【0035】
そして、インナハウジング10Aとアウタハウジング10Bとの間に形成される空間に、相手側コネクタとなる雄側コネクタ3を挿入することで、雄側コネクタ3の開口端内面3aにシール材40が密着し、コネクタハウジング10と雄側コネクタ3との間の水密性が発揮される。
【0036】
以上のように、本実施形態のコネクタ1によれば、仮係止構造50と本係止構造60とを別々に設けることで、仮係止構造50と本係止構造60のそれぞれを設置するために必要な寸法を十分に確保することができるため、要求されるスペーサ20の保持力を損なうことなく確保できるとともに、要求されるスペーサ20の移動量が微少であっても任意に設定することができる。
【0037】
また、端子挿通方向は、端子金具30を配置するために十分な寸法が確保されているため、仮係止部51と仮係止受部52とが、端子挿通方向に面して係合するように形成することで、コネクタハウジング10の外形寸法を大きくするなどして、設置するためのスペースを確保しなくても、仮係止構造50を配置することができる。
【0038】
端子挿通方向は、端子金具30を配置するために十分な寸法が確保されているため、弾性腕部51aが撓み、仮係止突起51bが突没するためのスペースをコネクタハウジング10の外形寸法を大きくして確保することなく、仮係止構造50を配置することができる。
【0039】
端子挿通方向は、端子金具30を配置するために十分な寸法が確保されているため、本係止部61と本係止受部62とが、端子挿通方向に面して係合するように形成することで、コネクタハウジング10の外形寸法を大きくしてスペースを確保することなく、本係止構造60を配置することができる。
【0040】
本係止構造60がスペーサ収容口13a近傍に配置されることで、スペーサ20の本係止解除操作を容易に行なうことができる。
【0041】
なお、仮係止構造50と本係止構造60のそれぞれが所定の4箇所に設けられているが、各係止構造を複数配設することで、要求される各パーツの寸法精度を下げることができ、製造コストの削減を行なうことができる。
【0042】
また、各係止構造を1つずつ配置した場合には、係止構造を配置するためのスペースを削減できるので、コネクタ全体の小型化を行なうことができる。
【0043】
上記実施形態の本係止構造60では、略U字形状の本係止部61がスペーサ20の後端面20bから垂下する構成であったが、本別態様では、略L字形状の本係止部61Aが後端面20bから垂下し、撓む構成である点が異なる。本係止受部62と仮係止構造50の構成は、上記実施形態と同様である。
【0044】
このような態様においても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1…コネクタ
10…コネクタハウジング
12…端子収容室
13…スペーサ収容室
13a…スペーサ収容口
20…スペーサ
20a…壁面
30…端子金具
50…仮係止構造
51…仮係止部
51a…弾性腕部
51b…係止部
52…仮係止受部
60…本係止構造
61…本係止部
62…本係止受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に端子金具が挿入される端子収容室と、
該端子収容室に該端子金具を挿入する方向に対して側方から該端子収容室に交差するスペーサ収容室とを備えるコネクタハウジングと、
該スペーサ収容室に挿入されるスペーサとを備え、
該スペーサと該コネクタハウジングのいずれか一方に仮係止部と、該スペーサと該コネクタハウジングの他方に該仮係止部と係脱可能に形成された仮係止受部とからなる仮係止構造と、
該スペーサと該コネクタハウジングのいずれか一方に本係止部と、該スペーサと該コネクタハウジングの他方に該本係止部と係脱可能に形成された本係止受部とからなる本係止構造とが、それぞれ別の箇所に設けられていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタにおいて、
前記仮係止部と前記仮係止受部とが、前記端子金具を前記端子収容室に挿入する端子挿通方向に面して係合するように形成されたことを特徴とするコネクタ。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載のコネクタにおいて、
前記仮係止部は、
可撓性を備え、スペーサ挿入方向に沿って面した壁面に沿って撓む弾性腕部と、
該弾性腕の先端に端子挿通方向に沿って突没可能に形成された係止部とを備えたことを特徴とするコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−228139(P2011−228139A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97352(P2010−97352)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】