説明

コネクタ

【課題】端子金具のねじ止め板部を端子台にねじ止めする際に、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部の撓み変位で、ねじ止め板部を固定しているモールド樹脂部に割れが発生することを、安価に防止することができコネクタを提供すること。
【解決手段】端子金具10のねじ止め板部11の周囲を固定するモールド樹脂部からなるコネクタハウジング30の板部固定部31の内、ねじ止め板部11の端子台40への締結方向に位置する部位には、ねじ止め板部11の締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間31aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子台にねじ止めされる端子金具が一体成形されるコネクタハウジングに固定されているコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、端子台にねじ止めされる端子金具がコネクタハウジングに固定されているコネクタの従来例を示したものである。
【0003】
図4のコネクタ100は、下記特許文献1に開示されたもので、端子金具110と、樹脂製のコネクタハウジング120と、モールド樹脂部130と、を備える。
【0004】
端子金具110は、金属板のプレス成形品で、一端にねじ止め板部111を有すると共に、他端に電線接続部112を有する。
【0005】
ねじ止め板部111は、接続相手となる端子台210にねじ止めされる平板状の部分で、ボルト410の雄ねじ部411が挿通するネジ挿通孔111aが貫通形成されている。端子台210は、ねじ止め板部111が導通接続される金属製の台である。この端子台210には、ボルト410の雄ねじ部411が螺合する雌ねじ部211が装備されている。
【0006】
ねじ止め板部111は、ボルト410により端子台210に締結することで、端子台210に電気的に、且つ機械的に接続された状態になる。
【0007】
電線接続部112は、電線310の導体311が圧着接続される部位である。
【0008】
コネクタハウジング120は、端子金具110を収容する端子収容孔121を有している。そして、このコネクタハウジング120の外周には、コネクタハウジング120の周囲を覆って該コネクタハウジング120を外部から電磁遮蔽するシールドシェル140が装備される。
【0009】
また、端子金具110に接続される電線310には、電線310の周囲を覆って当該電線310を外部から電磁遮蔽するチューブ状のシールド編組150が装着される。
【0010】
シールド編組150のシールドシェル140側の端部は、シールドシェル140の端部に形成された筒状部141の外周に嵌合し、シールド編組150の外側から筒状部141に嵌合装着されるシールドリング160により筒状部141に固定される。
【0011】
モールド樹脂部130は、コネクタハウジング120の端子収容孔121内における端子金具110の周囲の隙間に充填されて、端子金具110をコネクタハウジング120に固定する。
【0012】
図4に示すように、モールド樹脂部130によりコネクタハウジング120に固定されているねじ止め板部111を端子台210に位置合わせすると、コネクタハウジング120自体は、端子台210側に配備された機器側シールドシェル510の筒部511に嵌合して位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−258070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1に開示のコネクタ100において、コネクタハウジング120が機器側シールドシェル510の筒部511により位置決めされている状態では、ねじ止め板部111と端子台210との間には、隙間S1が生じていることが一般的である。
【0015】
従って、ボルト410によってねじ止め板部111が端子台210に締結される際には、ねじ止め板部111に締結方向(図4の矢印Y1方向)の撓み変位が生じる。そして、このねじ止め板部111の撓み変位は、ねじ止め板部111の撓み方向に接触しているモールド樹脂部130やコネクタハウジング120に、締結方向の曲げ応力や剪断応力を作用させる。
【0016】
そして、ねじ止め板部111と端子台210との間の隙間S1が大きく、締結時におけるねじ止め板部111の撓み変位が大きくなる場合には、モールド樹脂部130やコネクタハウジング120に作用する曲げ応力や剪断応力が過大となって、モールド樹脂部130やコネクタハウジング120に割れが発生するおそれがあった。
【0017】
このような不都合の発生を防止するには、ねじ止め板部111と端子台210との間の隙間S1がより小さくなるように、コネクタ100の各構成部品の寸法精度を高精度化することが考えられるが、コネクタ100の各構成部品の寸法精度の高精度化は、部品の製造コストの高額化といった問題を招く。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消することに係り、端子金具のねじ止め板部を端子台にねじ止めする際に、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部の撓み変位で、ねじ止め板部を固定しているモールド樹脂部に割れが発生することを、安価に防止することができコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の前述した目的は、下記の構成により達成される。
(1)一端に接続相手となる端子台にねじ止めされるねじ止め板部を有すると共に他端に電線が接続される電線接続部を有する端子金具と、
前記端子金具及び前記電線を一体成形されたモールド樹脂部からなるコネクタハウジングと、
前記コネクタハウジングに外装されるシールドシェルと、
を備えるコネクタであって、
前記ねじ止め板部の周囲を固定する前記コネクタハウジングの板部固定部の内、前記ねじ止め板部の前記端子台への締結方向に位置する部位には、前記ねじ止め板部の前記締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間が備えられていることを特徴とするコネクタ。
【0020】
(2)前記コネクタハウジングの外周面には、環状の防水部材が設けられていることを特徴とする上記(1)に記載のコネクタ。
【0021】
上記(1)の構成によれば、ボルトによってねじ止め板部が接続相手の端子台に締結される際には、ねじ止め板部に締結方向の撓み変位が生じる。しかし、ねじ止め板部を固定しているコネクタハウジングの板部固定部の内、前記ねじ止め板部の前記端子台への締結方向に位置する部位には、前記ねじ止め板部の前記締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間が備えられている。
【0022】
そのため、ねじ止め板部に締結方向の撓み変位が生じても、ねじ止め板部からコネクタハウジングの板部固定部に、締結方向の曲げ応力や剪断応力が作用することがない。
【0023】
従って、端子金具のねじ止め板部を端子台にねじ止めする際に、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部の撓み変位で、コネクタハウジングに割れが発生することを、防止することができる。
【0024】
しかも、コネクタハウジングの板部固定部にねじ止め板部の撓み変位を許容する端子逃げ空間を備えた場合には、撓み変位の発生原因となっているねじ止め板部と端子台との間の隙間を低減させる必要がない。言い換えれば、ねじ止め板部と端子台との間の隙間を低減させるために、高額化を招く構成部品の高精度化を行う必要がない。
【0025】
従って、ねじ止め板部を固定しているコネクタハウジングに割れが発生することを、安価に防止することができる。
【0026】
上記(2)の構成によれば、ボルトによる締結の際に、コネクタハウジングが傾いて固定されても防水性が損なわれることがない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によるコネクタによれば、ボルトによってねじ止め板部が接続相手の端子台に締結される際には、ねじ止め板部に締結方向の撓み変位が生じる。しかし、ねじ止め板部を固定しているコネクタハウジングの板部固定部の内、前記ねじ止め板部の前記端子台への締結方向に位置する部位には、前記ねじ止め板部の前記締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間が備えられている。
【0028】
そのため、ねじ止め板部に締結方向の撓み変位が生じても、ねじ止め板部の撓み変位が端子逃げ空間で許容されねじ止め板部からコネクタハウジングの板部固定部に、締結方向の曲げ応力や剪断応力が作用することがない。
【0029】
しかも、ねじ止め板部の撓み変位の発生原因となっているねじ止め板部と端子台との間の隙間を、構成部品の高精度化によって低減させる必要もない。
【0030】
従って、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部の撓み変位で、コネクタハウジングに割れが発生することを、安価に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るコネクタの一実施形態の斜視図である。
【図2】図1に示したコネクタの正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】従来のコネクタの構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るコネクタの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図1〜図3は本発明に係るコネクタの一実施形態を示したもので、図1は本発明に係るコネクタの一実施形態の斜視図、図2は図1に示したコネクタの正面図、図3は図2のA−A断面図である。
【0034】
この一実施形態のコネクタ1は、複数(この実施形態では、2つ)の端子金具10と、これらの端子金具10を固定するモールド樹脂部からなるコネクタハウジング30と、コネクタハウジングに外装される金属製のシールドシェル20(21,22)とを備える。
【0035】
端子金具10は、金属板のプレス成形品で、一端にねじ止め板部11を有すると共に、他端に電線接続部12を有する。
【0036】
ねじ止め板部11は、接続相手となる端子台40にねじ止めされる平板状の部分で、ボルト410により端子台40に締結される。端子台40は、ねじ止め板部11が導通接続される金属製の台である。ねじ止め板部11は、ボルト410により端子台40に締結することで、端子台40に電気的に、且つ機械的に接続された状態になる。
【0037】
電線接続部12は、電線50の導体51が導通接続される部位である。
図示はしていないが、コネクタハウジング30の外部に露出する電線50には、電線50を外部から電磁遮蔽するために、チューブ状のシールド編組(不図示)が被せられる。
【0038】
シールドシェル20は、背面側の外壁を形成する第1シェル21と、前面側の外壁を形成する第2シェル22とを備えている。第1シェル21と第2シェル22は、ボルト71による締結により合体して、コネクタハウジング30を収容する空間を画成する。
【0039】
第1シェル21と第2シェル22との合体により形成されるシールドシェル20は、端子金具10に接続された電線50が挿通する筒部24を有している。この筒部24は、電線50に被せられたシールド編組の端部が被せられる。筒部24に被せられたシールド編組の端部は、筒部24の外周に装着されるシールドリング26により、筒部24の外周に固定される。
【0040】
シールドリング26は、2つの半割れ部材をボルト72により結合することで、筒部24の外周を締め付けるリング構造を形成する。
【0041】
コネクタハウジング30は、端子金具10及び電線50を一体にモールド成形されて端子金具10及び電線50を固定する絶縁性のモールド樹脂部からなる。
【0042】
本実施形態の場合、コネクタハウジング30は、ねじ止め板部11の周囲の隙間を埋めてねじ止め板部11の基端側の周囲を固定する板部固定部31と、電線接続部12の周囲の隙間を埋めて電線接続部12及び電線50の端部を固定する電線側固定部32とを備える。
【0043】
板部固定部31の外周面には溝70が形成され、この溝70には環状のパッキンからなる防水部材72が装着されている。そして、コネクタハウジング30が端子台40側のコネクタ嵌合部に嵌合した際に、コネクタ嵌合部に防水部材72が液密に圧接することで、防水性が保証されている。
【0044】
従って、ボルト410による締結の際に、コネクタハウジング30が傾いて固定されても防水性が損なわれることがない。
【0045】
本実施形態の場合、コネクタハウジング30の板部固定部31には、端子逃げ空間31aが備えられている。この端子逃げ空間31aは、板部固定部31の内、ねじ止め板部11の端子台40への締結方向(図3の矢印Y2方向)に位置する部位に備えられている。この端子逃げ空間31aは、ねじ止め板部11の締結方向への撓み変位を許容する空間である。
【0046】
更に、本実施形態の場合、ハウジング結合部60が設けられている。このハウジング結合部60は、図3に示すように、ねじ止め板部11を端子台40に位置決めした状態のときに、端子台40側の不図示のロック嵌合部と嵌合してコネクタハウジング30の抜け落ちを防止する。
【0047】
以上に説明した一実施形態のコネクタ1では、ボルト410によってねじ止め板部11が接続相手の端子台40に締結される際には、ねじ止め板部11と端子台40との間の隙間S2(図3参照)の分だけ、ねじ止め板部11に締結方向の撓み変位が生じる。しかし、ねじ止め板部11を固定しているコネクタハウジング30の板部固定部31の内、ねじ止め板部11の端子台40への締結方向に位置する部位には、ねじ止め板部11の締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間31aが備えられている。
【0048】
そのため、ねじ止め板部11に締結方向の撓み変位が生じても、ねじ止め板部11からコネクタハウジング30の板部固定部31に、締結方向の曲げ応力や剪断応力が作用することがない。
【0049】
従って、端子金具10のねじ止め板部11を端子台40にねじ止めする際に、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部11の撓み変位で、コネクタハウジング20に割れが発生することを、防止することができる。
【0050】
しかも、本実施形態のようにコネクタハウジング30の板部固定部31にねじ止め板部11の撓み変位を許容する端子逃げ空間31aを備えた場合には、撓み変位の発生原因となっているねじ止め板部11と端子台40との間の隙間S2を低減させる必要がない。言い換えれば、ねじ止め板部11と端子台40との間の隙間S2を低減させるために、高額化を招く構成部品の高精度化を行う必要がない。
【0051】
従って、ねじ止め板部11を固定しているコネクタハウジング30に割れが発生することを、安価に防止することができる。
【0052】
また、以上に説明した一実施形態のコネクタ1では、端子金具10のねじ止め板部11を端子台40にねじ止めする際に、ねじ止め時の締結力によるねじ止め板部11の撓み変位が、端子逃げ空間31a内でのねじ止め板部11の変位で済み、ねじ止め板部11の撓み変位によってハウジング結合部60に負荷が作用することを抑止することができる。
【0053】
従って、ねじ止め板部11の撓み変位に起因する負荷に耐えるためにハウジング結合部60の強度を増加させる必要がなく、ハウジング結合部60の小型化や軽量化を図ることができる。
【0054】
なお、本発明のコネクタは、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形、改良等が可能である。
【0055】
例えば、端子台側の不図示のロック嵌合部と嵌合してコネクタハウジングの抜け落ちを防止するハウジング結合部の装備位置は、モールド樹脂部に限るものではなく、コネクタハウジングに一体形成するようにしても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 コネクタ
10 端子金具
11 ねじ止め板部
12 電線接続部
20(21,22) シールドシェル
30 コネクタハウジング
31 板部固定部
31a 端子逃げ空間
40 端子台
60 ハウジング結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に接続相手となる端子台にねじ止めされるねじ止め板部を有すると共に他端に電線が接続される電線接続部を有する端子金具と、
前記端子金具及び前記電線を一体成形されたモールド樹脂部からなるコネクタハウジングと、
前記コネクタハウジングに外装されるシールドシェルと、
を備えるコネクタであって、
前記ねじ止め板部の周囲を固定する前記コネクタハウジングの板部固定部の内、前記ねじ止め板部の前記端子台への締結方向に位置する部位には、前記ねじ止め板部の前記締結方向への撓み変位を許容する端子逃げ空間が備えられていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記コネクタハウジングの外周面には、環状の防水部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−243558(P2012−243558A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112285(P2011−112285)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】