コモンモードノイズフィルタ
【課題】本発明は、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1〜第4のコイル導体11〜14と、前記第1のコイル導体11と前記第2のコイル導体12とを接続する第1の接続導体15と、前記第3のコイル導体13と前記第4のコイル導体14とを接続する第2の接続導体16とを備え、前記第1のコイル導体11と第3のコイル導体13とで第1のフィルタ23を構成し、前記第2のコイル導体12と第4のコイル導体14とで第2のフィルタ24を構成し、そして前記第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にし、さらに、前記第1、第2の接続導体15、16の長さを、コモンモード電流の特定の周波数の位相を0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたものである。
【解決手段】本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1〜第4のコイル導体11〜14と、前記第1のコイル導体11と前記第2のコイル導体12とを接続する第1の接続導体15と、前記第3のコイル導体13と前記第4のコイル導体14とを接続する第2の接続導体16とを備え、前記第1のコイル導体11と第3のコイル導体13とで第1のフィルタ23を構成し、前記第2のコイル導体12と第4のコイル導体14とで第2のフィルタ24を構成し、そして前記第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にし、さらに、前記第1、第2の接続導体15、16の長さを、コモンモード電流の特定の周波数の位相を0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用されるコモンモードノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のコモンモードノイズフィルタは、図12に示すように、第1〜第5の絶縁体層1a〜1eと、第2の絶縁体層1b上に形成された第1、第2のコイル導体2、3と、第3の絶縁体層1c上に形成された第3、第4のコイル導体4、5と、第1のコイル導体2と第2のコイル導体3とを接続する第1の接続導体6と、第3のコイル導体4と第4のコイル導体5とを接続する第2の接続導体7とを備えていた。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−181169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話等へのデジタルインターフェイスが搭載され、携帯電話で通信に使われる800MHz帯や2GHz帯近傍のコモンモードノイズ低減が望まれている。
【0006】
しかしながら、上記した従来のコモンモードノイズフィルタにおいては、第1の接続導体6、第2の接続導体7で単にコモンモードフィルタを2つ直列接続させた特性しか得られず、コモンモードノイズの減衰量が大きくとれないという課題を有していた。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、積層体と、この積層体の内部に形成された第1〜第4のコイル導体と、前記積層体の端部に設けられかつ前記第1〜第4のコイル導体の一端部にそれぞれ接続された第1〜第4の外部電極と、前記第1のコイル導体と前記第2のコイル導体とを接続する第1の接続導体と、前記第3のコイル導体と前記第4のコイル導体とを接続する第2の接続導体とを備え、前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とが磁気結合し、かつ前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1のコイル導体と第3のコイル導体とで第1のコモンモードフィルタを構成し、前記第2のコイル導体と第4のコイル導体とで第2のコモンモードフィルタを構成し、上面視にて少なくとも前記第1、第2の接続導体の一部を覆うような金属層を形成し、そして前記第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にし、グランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路においては、デファレンシャルモードの特性インピーダンスが第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと略同じとなるように構成され、さらに、前記第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたもので、この構成によれば、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体の接続点において、第2のコモンモードフィルタ側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができるため、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタは対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働き、これにより、等価的にLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、これにより、コモンモードノイズを大きく減衰させることができ、さらに、第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができるという作用効果を有するものである。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、第1、第2の接続導体を少なくとも1つの非磁性体層に形成するように構成したもので、この構成によれば、第1、第2の接続導体が磁性体にすべて覆われていないため、磁性体の透磁率の大きな周波数依存性により低周波でのインダクタ成分が大きくなりすぎるのを防止でき、これにより、ディファレンシャル特性の整合調整が容易になるという作用効果を有するものである。
【0011】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、金属層が上面視にて第1〜第4のコイル導体も覆うようにしたもので、この構成によれば、金属層と第1〜第4のコイル導体との間に大きな浮遊容量を発生させることができるため、高周波帯域のコモンモードノイズを大きく減衰させることができるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体との接続点の位相を、第2のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしているため、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体の接続点において、第2のコモンモードフィルタ側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができ、これにより、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタは対地間に接続された容量性素子として働くため、等価的にLCフィルタとして働き、この結果、大きなコモンモードの減衰が得られ、コモンモードノイズを大きく減衰させることができ、さらに、第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【図2】同コモンモードノイズフィルタの斜視図
【図3】同コモンモードノイズフィルタの等価回路図
【図4】図3における点Aから第1のコモンモードフィルタを見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図5】図3における点Aから第2のコモンモードフィルタを見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図6】図3における点Aから第1のコモンモードフィルタを見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図7】図3における点Aから第2のコモンモードフィルタを見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図8】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量と接続位相量との関係を示す図
【図9】同コモンモードノイズフィルタの他の例を示す分解斜視図
【図10】同コモンモードノイズフィルタの等価回路図
【図11】同コモンモードノイズフィルタの周波数と減衰量と接続位相量との関係を示す図
【図12】従来のコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図、図2は同コモンモードノイズフィルタの斜視図である。
【0016】
本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、図1、図2に示すように、積層体10と、この積層体10の内部に形成された第1〜第4のコイル導体11〜14と、前記第1のコイル導体11と前記第2のコイル導体12とを接続する第1の接続導体15と、前記第3のコイル導体13と前記第4のコイル導体14とを接続する第2の接続導体16とを備え、前記第1のコイル導体11と前記第3のコイル導体13とが磁気結合し、前記第2のコイル導体12と前記第4のコイル導体14とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にし、さらに、前記第1、第2の接続導体15、16の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタ23と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタ24と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたものである。
【0017】
上記構成において、前記第1〜第4のコイル導体11〜14は、積層体10の内部において、それぞれ銀等の導電材料を渦巻状にめっきまたは印刷することにより形成されている。そして、第1、第2のコイル導体11、12は、ともに第2の絶縁体層17bの上面に形成され、第3、第4のコイル導体13、14は、ともに第3の絶縁体層17cの上面に形成されている。
【0018】
さらに、前記第1〜第4のコイル導体11〜14の一端部11a〜14aには、それぞれ積層体10の端部に設けられた第1〜第4の外部電極18〜21と接続されている。
【0019】
また、第1のコイル導体11の他端部11b、第2のコイル導体12の他端部12bは、第1の絶縁体層17aに設けられた第1の接続導体15を介して接続されている。これにより、第1のコイル導体11と第2のコイル導体12は直列に接続され、1つのコイルを構成する。
【0020】
このとき、第1のコイル導体11の他端部11bと第1の接続導体15とは、第2の絶縁体層17bに形成された第1のビア電極22aを介して接続され、第2のコイル導体12の他端部12bと第1の接続導体15とは、第2の絶縁体層17bに形成された第2のビア電極22bを介して接続されている。
【0021】
さらに、前記第3のコイル導体13の他端部13b、第4のコイル導体14の他端部14bは、第4の絶縁体層17dの上面に設けられた第2の接続導体16を介して接続されている。これにより、第3のコイル導体13と第4のコイル導体14は直列に接続され、他の1つのコイルを構成する。
【0022】
このとき、第3のコイル導体13の他端部13bと第2の接続導体16とは、第4の絶縁体層17dに形成された第3のビア電極22cを介して接続され、第4のコイル導体14の他端部14bと第2の接続導体16とは、第4の絶縁体層17dに形成された第4のビア電極22dを介して接続されている。ここで、前記第1〜第4のビア電極22a〜22dは、第2の絶縁体層17b、第4の絶縁体層17dそれぞれの所定の2箇所に、レーザで孔あけ加工をし、この孔に銀を充填して形成する。
【0023】
なお、第1〜第4のコイル導体11〜14の渦巻きの中心部に磁性材料からなる磁性体部(図示せず)を設けてもよい。
【0024】
また、前記第1の接続導体15は、第1の絶縁体層17aの上面に、銀等の導電材料を蛇行状にめっきまたは印刷することにより形成されている。同様に、前記第2の接続導体16も、第4の絶縁体層17dの上面に、銀等の導電材料を蛇行状にめっきまたは印刷することにより形成されている。この第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16(位相線路)の長さは略同一であり、その長さは、所定の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタ23と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタ24と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さになっている。
【0025】
前記所望の周波数における位相量90度とは、所望の周波数での誘電材料や磁性材料で構成される積層体10内での真空中の波長を基準として波長短縮を考慮した有効的な波長で換算し、その有効波長の1/4の長さに相当する第1、第2の接続導体15、16で構成された場合に実現される。これは絶縁体層の種類やコモンモードノイズの減衰量を得たい周波数帯域によって変動する。
【0026】
そして、第1のコイル導体11と第3のコイル導体13とが磁気結合し、第2のコイル導体12と第4のコイル導体14とが磁気結合するようになっており、この構成により、図3に示すように、第1のコイル導体11と第3のコイル導体13からなる第1のコモンモードフィルタ23と、第2のコイル導体12と第4のコイル導体14からなる第2のコモンモードフィルタ24の2つのコモンモードフィルタが、第1、第2の接続導体15、16を介して直列接続される。
【0027】
なお、第1の接続導体15の下面には第1の絶縁体層17aが、第2の接続導体16の上面には第5の絶縁体層17eが設けられている。これらの第1〜第5の絶縁体層17a〜17eは、下から第1の絶縁体層17a、第2の絶縁体層17b、第3の絶縁体層17c、第4の絶縁体層17d、第5の絶縁体層17eの順に積層され、また、第2の絶縁体層17b、第3の絶縁体層17c、第4の絶縁体層17dは、Cu−Znフェライト等の非磁性材料によりシート状に構成され、第1の絶縁体層17a、第5の絶縁体層17eは、Ni−Cu−Znフェライト等の磁性材料によりシート状に構成されている。そして、第1〜第5の絶縁体層17a〜17eの枚数は、図1に示された枚数に限定されるものではない。
【0028】
このように、第1、第2の接続導体15、16の片側の面を非磁性体層に接するように構成すれば、第1、第2の接続導体15、16が磁性体にすべて覆われていないため、磁性体の透磁率の大きな周波数依存性により低周波でのインダクタ成分が大きくなりすぎるのを防止でき、これにより、ディファレンシャル特性の整合調整が容易になる。
【0029】
さらに、第1の絶縁体層17aの下面、第5の絶縁体層17eの上面にはそれぞれ金属層25が設けられている。そして、この金属層25は図3に示すように、グランドに接続される。そして、このグランドと第1、第2の接続導体15、16で伝送線路が構成される。
【0030】
この金属層25は、銀、銅等の導電材料をめっきまたは印刷することにより、あるいは金属板、金属箔を貼り付けることによりシート状に形成されている。そして、この金属層25はそれぞれ、その一部である2つの引出部25aのみが第1の絶縁体層17a、第5の絶縁体層17eの側面に露出している。また、金属層25は上面視または下面視により、第1、第2の接続導体15、16の少なくとも一部を覆うように配置されている。
【0031】
そして、この下方の金属層25の下面と上方の金属層25の上面にはNi−Cu−Znフェライト等の磁性材料からなる磁性体層26が設けられている。
【0032】
上記した構成により、積層体10が形成される。また、この積層体10の両端部には、積層体10の焼成後において、上述した第1〜第4の外部電極18〜21と、金属層25の引出部25aに接続された第5、第6の外部電極27、28とが設けられている。さらに、前記第1〜第6の外部電極18〜21、27、28は、積層体10の端面に銀を印刷することにより形成され、またこれらの表面にめっきによってニッケルめっき層を形成するとともに、このニッケルめっき層の表面にめっきによってすずやはんだ等の低融点金属めっき層を形成する。
【0033】
上記したように本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、第1のコモンモードフィルタ23と第1、第2の接続導体15、16の接続点において、第2のコモンモードフィルタ24側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができるため、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタ24は対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働き、これにより、等価的にLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、これにより、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるという効果が得られるものである。
【0034】
また、第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体15、16で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタ23、24の特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャルモードの特性インピーダンスを容易に整合させることができ、これにより、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができる。
【0035】
図4は、図3における点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート、図5は、図3における点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャートで、いずれも周波数を1MHzから1GHzまで変化させたものである。なお、図5で、1GHzの周波数において、第1のコモンモードフィルタ23と第1、第2の接続導体15、16との接続点Aの位相を、第2のコモンモードフィルタ24と第1、第2の接続導体15、16との接続点Bの位相よりそれぞれ0度(1GHzの1/4波長に比べてずっと短く殆ど1GHzにおいて位相の変化量が0度とみなせる場合。以下同様とする。)、30度、90度の位相変化量だけ第1、第2の接続導体15、16の長さを調整することにより変化させたものをそれぞれの場合について示している。
【0036】
図4、図5から明らかなように、第1、第2の接続導体15、16(位相線路)の長さを調整したことによる位相変化量に対して、ディファレンシャルモードのインピーダンスは1GHzまでほぼ整合が取れていることが分かる。
【0037】
図6は、図3における点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート、図7は、図3における点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャートで、いずれも周波数を1MHzから1GHzまで変化させたものである。なお、図7では、接続導体15、16の長さを調整して、周波数1GHzにおける点Aの位相の点Bの位相に対する変化量が0度、30度、90度のそれぞれの場合について示している。
【0038】
図6から明らかなように、点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たコモンモードのインピーダンスは周波数が上がると誘導性のインピーダンスで高インピーダンス状態へ推移し、1GHzではオープン状態であることが分かる。一方、図7からは、点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たコモンモードノイズのインピーダンスは、位相の変化量が0度の場合は1GHzでほぼオープン状態であるが、第1、第2の接続導体15、16の長さを調整し、位相の変化量を30度にすると容量性低インピーダンス方向へ移行し、90度の場合には1GHzでショート状態となることが分かる。
【0039】
以上のことから、第1、第2の接続導体15、16およびグランドで構成される伝送線路により、点Bに対する点Aの位相変化量を調整することで、点Aにおいて、コモンモードでは誘導性高インピーダンス状態の第1のコモンモードフィルタ23と、容量性低インピーダンス状態の第2のコモンモードフィルタ24が接続され、かつディファレンスモードでは第1のコモンモードフィルタ23、第2のコモンモードフィルタ24は整合が取れた状態で接続される。
【0040】
すなわち、本実施の形態の場合、コモンモードに対してのフィルタ作用として、第1のコモンモードフィルタ23は誘導性素子(インダクタ)として働き、そして、第1、第2の接続導体15、16及び接地された金属層25で構成された伝送線路と第2のコモンモードフィルタ24が直列接続された素子は、点Aからコモンモードフィルタ24側を見た場合における位相線路の位相量を0度から90度としたとき、対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働く。この場合、第1、第3の外部電極18、20側から見た本実施の形態のコモンモードフィルタは、等価的に2段のLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、さらに位相変化量を90度とした場合、対地間でのショート状態となりさらに減衰量が大きくなる作用を有する。一方、同様な見方をしたとき、従来の単純接続した2つのコモンモードフィルタの直列接続では、コモンモードに対して、等価的に1段のLフィルタとしか働かず、大きなコモンモードの減衰が得られない。
【0041】
図8は、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量の接続導体の長さを変えたときの位相量ごとの関係を示す図である。
【0042】
図8では、第1、第2の接続導体15、16の長さを、点Bの点Aに対する位相量変化量が30度、90度で変化するようにした場合、および比較例として、第1、第2の接続導体15、16の位相の変化量が0度となる場合を示している。
【0043】
図8から明らかなように、位相量を変化させたときのコモンモードノイズ減衰量は、0度すなわち2つのコモンモードフィルタを単純に接続した状態のコモンモードノイズ減衰量よりも大きくすることができることが分かる。
【0044】
なお、上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、金属層25が第1、第2の接続導体15、16の一部のみを覆うように配置したものについて説明したが、図9に示すように、金属層25が上面視にて第1〜第4のコイル導体11〜14も覆うようにしてもよい。
【0045】
この構成によれば、図10に示すように、金属層25と第1〜第4のコイル導体11〜14との間に大きな浮遊容量C0が発生するため、高周波帯域のコモンモードノイズを大きく減衰させることができる。
【0046】
図11は、図9におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量の接続導体の長さを変えたときの位相量ごとの関係を示す図である。
【0047】
図11において、第1、第2の接続導体15、16の長さを、1GHzの周波数で位相変化量が90度になるようにした場合かつ図9のように金属層25の面積を大きくした場合、および比較例として、第1、第2の接続導体15、16の位相が0度となる場合と、第1、第2の接続導体15、16の長さを、金属層25が第1、第2の接続導体15、16の一部のみを覆う状態で位相量変化が90度になるようにした場合を示している。
【0048】
図11から明らかなように、金属層25を上面視にて第1〜第4のコイル導体11〜14も覆うようにした場合、1GHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズを大きく減衰させることができることが分かる。
【0049】
また、上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、第1、第2の接続導体15、16を蛇行状としたが、スパイラル状としてもよく、さらに、第1、第2のコイル導体11、12を同一面上に形成し、第3、第4のコイル導体13、14を同一面上に形成したが、それぞれのコイル導体を別個の面に形成してもよい。
【0050】
そして、金属層25を第1、第2の接続導体15、16の外側(上方、下方)に位置させるようにしたが、第1の接続導体15と第1、第2のコイル導体11、12との間、第2の接続導体16と第3、第4のコイル導体13、14との間にそれぞれ位置させるようにしてもよい。
【0051】
さらにまた、金属層25を2枚形成したが、第1、第2のコイル導体11、12と第3、第4のコイル導体13、14との間に1枚形成するようにしてもよい。
【0052】
なお、第1、第2の接続導体15、16の片面を非磁性体層に接するように構成したが、両面を非磁性体層に接するように構成してもよい。この構成により、磁性体の透磁率の周波数依存の影響を受けないため、ディファレンシャルのモードの整合をより取り易くなる。
【0053】
そして、上述した一実施の形態において、点Bに対する点Aでの位相変化量が、コモンモードの周波数が1GHzで90度となる構成について説明したが、この構成でコモンモードの周波数を約1.3GHzとしたときの位相変化量は120度となる。すなわち、一実施の形態では、所望の周波数が1GHzのときの位相変化量が90度以下の場合を示したが、これは約1.3GHzでの位相変化量が120度以下の特性と同義である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るコモンモードノイズフィルタは、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるという効果を有するものであり、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器のノイズ対策として使用されるコモンモードノイズフィルタ等において有用となるものである。
【符号の説明】
【0055】
11 第1のコイル導体
12 第2のコイル導体
13 第3のコイル導体
14 第4のコイル導体
15 第1の接続導体
16 第2の接続導体
18〜21 第1〜第4の外部電極
23 第1のコモンモードフィルタ
24 第2のコモンモードフィルタ
25 金属層
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用されるコモンモードノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のコモンモードノイズフィルタは、図12に示すように、第1〜第5の絶縁体層1a〜1eと、第2の絶縁体層1b上に形成された第1、第2のコイル導体2、3と、第3の絶縁体層1c上に形成された第3、第4のコイル導体4、5と、第1のコイル導体2と第2のコイル導体3とを接続する第1の接続導体6と、第3のコイル導体4と第4のコイル導体5とを接続する第2の接続導体7とを備えていた。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−181169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話等へのデジタルインターフェイスが搭載され、携帯電話で通信に使われる800MHz帯や2GHz帯近傍のコモンモードノイズ低減が望まれている。
【0006】
しかしながら、上記した従来のコモンモードノイズフィルタにおいては、第1の接続導体6、第2の接続導体7で単にコモンモードフィルタを2つ直列接続させた特性しか得られず、コモンモードノイズの減衰量が大きくとれないという課題を有していた。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、積層体と、この積層体の内部に形成された第1〜第4のコイル導体と、前記積層体の端部に設けられかつ前記第1〜第4のコイル導体の一端部にそれぞれ接続された第1〜第4の外部電極と、前記第1のコイル導体と前記第2のコイル導体とを接続する第1の接続導体と、前記第3のコイル導体と前記第4のコイル導体とを接続する第2の接続導体とを備え、前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とが磁気結合し、かつ前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1のコイル導体と第3のコイル導体とで第1のコモンモードフィルタを構成し、前記第2のコイル導体と第4のコイル導体とで第2のコモンモードフィルタを構成し、上面視にて少なくとも前記第1、第2の接続導体の一部を覆うような金属層を形成し、そして前記第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にし、グランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路においては、デファレンシャルモードの特性インピーダンスが第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと略同じとなるように構成され、さらに、前記第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたもので、この構成によれば、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体の接続点において、第2のコモンモードフィルタ側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができるため、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタは対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働き、これにより、等価的にLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、これにより、コモンモードノイズを大きく減衰させることができ、さらに、第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができるという作用効果を有するものである。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、第1、第2の接続導体を少なくとも1つの非磁性体層に形成するように構成したもので、この構成によれば、第1、第2の接続導体が磁性体にすべて覆われていないため、磁性体の透磁率の大きな周波数依存性により低周波でのインダクタ成分が大きくなりすぎるのを防止でき、これにより、ディファレンシャル特性の整合調整が容易になるという作用効果を有するものである。
【0011】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、金属層が上面視にて第1〜第4のコイル導体も覆うようにしたもので、この構成によれば、金属層と第1〜第4のコイル導体との間に大きな浮遊容量を発生させることができるため、高周波帯域のコモンモードノイズを大きく減衰させることができるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体との接続点の位相を、第2のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしているため、第1のコモンモードフィルタと第1、第2の接続導体の接続点において、第2のコモンモードフィルタ側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができ、これにより、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタは対地間に接続された容量性素子として働くため、等価的にLCフィルタとして働き、この結果、大きなコモンモードの減衰が得られ、コモンモードノイズを大きく減衰させることができ、さらに、第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【図2】同コモンモードノイズフィルタの斜視図
【図3】同コモンモードノイズフィルタの等価回路図
【図4】図3における点Aから第1のコモンモードフィルタを見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図5】図3における点Aから第2のコモンモードフィルタを見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図6】図3における点Aから第1のコモンモードフィルタを見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図7】図3における点Aから第2のコモンモードフィルタを見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート
【図8】本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量と接続位相量との関係を示す図
【図9】同コモンモードノイズフィルタの他の例を示す分解斜視図
【図10】同コモンモードノイズフィルタの等価回路図
【図11】同コモンモードノイズフィルタの周波数と減衰量と接続位相量との関係を示す図
【図12】従来のコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図、図2は同コモンモードノイズフィルタの斜視図である。
【0016】
本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、図1、図2に示すように、積層体10と、この積層体10の内部に形成された第1〜第4のコイル導体11〜14と、前記第1のコイル導体11と前記第2のコイル導体12とを接続する第1の接続導体15と、前記第3のコイル導体13と前記第4のコイル導体14とを接続する第2の接続導体16とを備え、前記第1のコイル導体11と前記第3のコイル導体13とが磁気結合し、前記第2のコイル導体12と前記第4のコイル導体14とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にし、さらに、前記第1、第2の接続導体15、16の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタ23と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタ24と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたものである。
【0017】
上記構成において、前記第1〜第4のコイル導体11〜14は、積層体10の内部において、それぞれ銀等の導電材料を渦巻状にめっきまたは印刷することにより形成されている。そして、第1、第2のコイル導体11、12は、ともに第2の絶縁体層17bの上面に形成され、第3、第4のコイル導体13、14は、ともに第3の絶縁体層17cの上面に形成されている。
【0018】
さらに、前記第1〜第4のコイル導体11〜14の一端部11a〜14aには、それぞれ積層体10の端部に設けられた第1〜第4の外部電極18〜21と接続されている。
【0019】
また、第1のコイル導体11の他端部11b、第2のコイル導体12の他端部12bは、第1の絶縁体層17aに設けられた第1の接続導体15を介して接続されている。これにより、第1のコイル導体11と第2のコイル導体12は直列に接続され、1つのコイルを構成する。
【0020】
このとき、第1のコイル導体11の他端部11bと第1の接続導体15とは、第2の絶縁体層17bに形成された第1のビア電極22aを介して接続され、第2のコイル導体12の他端部12bと第1の接続導体15とは、第2の絶縁体層17bに形成された第2のビア電極22bを介して接続されている。
【0021】
さらに、前記第3のコイル導体13の他端部13b、第4のコイル導体14の他端部14bは、第4の絶縁体層17dの上面に設けられた第2の接続導体16を介して接続されている。これにより、第3のコイル導体13と第4のコイル導体14は直列に接続され、他の1つのコイルを構成する。
【0022】
このとき、第3のコイル導体13の他端部13bと第2の接続導体16とは、第4の絶縁体層17dに形成された第3のビア電極22cを介して接続され、第4のコイル導体14の他端部14bと第2の接続導体16とは、第4の絶縁体層17dに形成された第4のビア電極22dを介して接続されている。ここで、前記第1〜第4のビア電極22a〜22dは、第2の絶縁体層17b、第4の絶縁体層17dそれぞれの所定の2箇所に、レーザで孔あけ加工をし、この孔に銀を充填して形成する。
【0023】
なお、第1〜第4のコイル導体11〜14の渦巻きの中心部に磁性材料からなる磁性体部(図示せず)を設けてもよい。
【0024】
また、前記第1の接続導体15は、第1の絶縁体層17aの上面に、銀等の導電材料を蛇行状にめっきまたは印刷することにより形成されている。同様に、前記第2の接続導体16も、第4の絶縁体層17dの上面に、銀等の導電材料を蛇行状にめっきまたは印刷することにより形成されている。この第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16(位相線路)の長さは略同一であり、その長さは、所定の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタ23と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタ24と前記第1、第2の接続導体15、16との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さになっている。
【0025】
前記所望の周波数における位相量90度とは、所望の周波数での誘電材料や磁性材料で構成される積層体10内での真空中の波長を基準として波長短縮を考慮した有効的な波長で換算し、その有効波長の1/4の長さに相当する第1、第2の接続導体15、16で構成された場合に実現される。これは絶縁体層の種類やコモンモードノイズの減衰量を得たい周波数帯域によって変動する。
【0026】
そして、第1のコイル導体11と第3のコイル導体13とが磁気結合し、第2のコイル導体12と第4のコイル導体14とが磁気結合するようになっており、この構成により、図3に示すように、第1のコイル導体11と第3のコイル導体13からなる第1のコモンモードフィルタ23と、第2のコイル導体12と第4のコイル導体14からなる第2のコモンモードフィルタ24の2つのコモンモードフィルタが、第1、第2の接続導体15、16を介して直列接続される。
【0027】
なお、第1の接続導体15の下面には第1の絶縁体層17aが、第2の接続導体16の上面には第5の絶縁体層17eが設けられている。これらの第1〜第5の絶縁体層17a〜17eは、下から第1の絶縁体層17a、第2の絶縁体層17b、第3の絶縁体層17c、第4の絶縁体層17d、第5の絶縁体層17eの順に積層され、また、第2の絶縁体層17b、第3の絶縁体層17c、第4の絶縁体層17dは、Cu−Znフェライト等の非磁性材料によりシート状に構成され、第1の絶縁体層17a、第5の絶縁体層17eは、Ni−Cu−Znフェライト等の磁性材料によりシート状に構成されている。そして、第1〜第5の絶縁体層17a〜17eの枚数は、図1に示された枚数に限定されるものではない。
【0028】
このように、第1、第2の接続導体15、16の片側の面を非磁性体層に接するように構成すれば、第1、第2の接続導体15、16が磁性体にすべて覆われていないため、磁性体の透磁率の大きな周波数依存性により低周波でのインダクタ成分が大きくなりすぎるのを防止でき、これにより、ディファレンシャル特性の整合調整が容易になる。
【0029】
さらに、第1の絶縁体層17aの下面、第5の絶縁体層17eの上面にはそれぞれ金属層25が設けられている。そして、この金属層25は図3に示すように、グランドに接続される。そして、このグランドと第1、第2の接続導体15、16で伝送線路が構成される。
【0030】
この金属層25は、銀、銅等の導電材料をめっきまたは印刷することにより、あるいは金属板、金属箔を貼り付けることによりシート状に形成されている。そして、この金属層25はそれぞれ、その一部である2つの引出部25aのみが第1の絶縁体層17a、第5の絶縁体層17eの側面に露出している。また、金属層25は上面視または下面視により、第1、第2の接続導体15、16の少なくとも一部を覆うように配置されている。
【0031】
そして、この下方の金属層25の下面と上方の金属層25の上面にはNi−Cu−Znフェライト等の磁性材料からなる磁性体層26が設けられている。
【0032】
上記した構成により、積層体10が形成される。また、この積層体10の両端部には、積層体10の焼成後において、上述した第1〜第4の外部電極18〜21と、金属層25の引出部25aに接続された第5、第6の外部電極27、28とが設けられている。さらに、前記第1〜第6の外部電極18〜21、27、28は、積層体10の端面に銀を印刷することにより形成され、またこれらの表面にめっきによってニッケルめっき層を形成するとともに、このニッケルめっき層の表面にめっきによってすずやはんだ等の低融点金属めっき層を形成する。
【0033】
上記したように本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、第1のコモンモードフィルタ23と第1、第2の接続導体15、16の接続点において、第2のコモンモードフィルタ24側を見た場合でのコモンモードインピーダンスを誘導性高インピーダンス状態から容量性低インピーダンス状態とすることができるため、コモンモードに対しては第2のコモンモードフィルタ24は対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働き、これにより、等価的にLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、これにより、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるという効果が得られるものである。
【0034】
また、第1の接続導体15の長さと第2の接続導体16の長さを略同一にしており、かつグランドと第1、第2の接続導体15、16で構成される伝送線路のディファレンシャルモードの特性インピーダンスを第1、第2のコモンモードフィルタ23、24の特性インピーダンスと同じにしているため、ディファレンシャルモードの特性インピーダンスを容易に整合させることができ、これにより、ディファレンシャル信号の損失を少なくすることができる。
【0035】
図4は、図3における点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャート、図5は、図3における点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たディファレンシャルモードのインピーダンスを示すスミスチャートで、いずれも周波数を1MHzから1GHzまで変化させたものである。なお、図5で、1GHzの周波数において、第1のコモンモードフィルタ23と第1、第2の接続導体15、16との接続点Aの位相を、第2のコモンモードフィルタ24と第1、第2の接続導体15、16との接続点Bの位相よりそれぞれ0度(1GHzの1/4波長に比べてずっと短く殆ど1GHzにおいて位相の変化量が0度とみなせる場合。以下同様とする。)、30度、90度の位相変化量だけ第1、第2の接続導体15、16の長さを調整することにより変化させたものをそれぞれの場合について示している。
【0036】
図4、図5から明らかなように、第1、第2の接続導体15、16(位相線路)の長さを調整したことによる位相変化量に対して、ディファレンシャルモードのインピーダンスは1GHzまでほぼ整合が取れていることが分かる。
【0037】
図6は、図3における点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャート、図7は、図3における点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たコモンモードのインピーダンスを示すスミスチャートで、いずれも周波数を1MHzから1GHzまで変化させたものである。なお、図7では、接続導体15、16の長さを調整して、周波数1GHzにおける点Aの位相の点Bの位相に対する変化量が0度、30度、90度のそれぞれの場合について示している。
【0038】
図6から明らかなように、点Aから第1のコモンモードフィルタ23を見たコモンモードのインピーダンスは周波数が上がると誘導性のインピーダンスで高インピーダンス状態へ推移し、1GHzではオープン状態であることが分かる。一方、図7からは、点Aから第2のコモンモードフィルタ24を見たコモンモードノイズのインピーダンスは、位相の変化量が0度の場合は1GHzでほぼオープン状態であるが、第1、第2の接続導体15、16の長さを調整し、位相の変化量を30度にすると容量性低インピーダンス方向へ移行し、90度の場合には1GHzでショート状態となることが分かる。
【0039】
以上のことから、第1、第2の接続導体15、16およびグランドで構成される伝送線路により、点Bに対する点Aの位相変化量を調整することで、点Aにおいて、コモンモードでは誘導性高インピーダンス状態の第1のコモンモードフィルタ23と、容量性低インピーダンス状態の第2のコモンモードフィルタ24が接続され、かつディファレンスモードでは第1のコモンモードフィルタ23、第2のコモンモードフィルタ24は整合が取れた状態で接続される。
【0040】
すなわち、本実施の形態の場合、コモンモードに対してのフィルタ作用として、第1のコモンモードフィルタ23は誘導性素子(インダクタ)として働き、そして、第1、第2の接続導体15、16及び接地された金属層25で構成された伝送線路と第2のコモンモードフィルタ24が直列接続された素子は、点Aからコモンモードフィルタ24側を見た場合における位相線路の位相量を0度から90度としたとき、対地間に接続された容量性素子(キャパシタンス)として働く。この場合、第1、第3の外部電極18、20側から見た本実施の形態のコモンモードフィルタは、等価的に2段のLCフィルタとして働くため、大きなコモンモードの減衰が得られ、さらに位相変化量を90度とした場合、対地間でのショート状態となりさらに減衰量が大きくなる作用を有する。一方、同様な見方をしたとき、従来の単純接続した2つのコモンモードフィルタの直列接続では、コモンモードに対して、等価的に1段のLフィルタとしか働かず、大きなコモンモードの減衰が得られない。
【0041】
図8は、本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量の接続導体の長さを変えたときの位相量ごとの関係を示す図である。
【0042】
図8では、第1、第2の接続導体15、16の長さを、点Bの点Aに対する位相量変化量が30度、90度で変化するようにした場合、および比較例として、第1、第2の接続導体15、16の位相の変化量が0度となる場合を示している。
【0043】
図8から明らかなように、位相量を変化させたときのコモンモードノイズ減衰量は、0度すなわち2つのコモンモードフィルタを単純に接続した状態のコモンモードノイズ減衰量よりも大きくすることができることが分かる。
【0044】
なお、上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、金属層25が第1、第2の接続導体15、16の一部のみを覆うように配置したものについて説明したが、図9に示すように、金属層25が上面視にて第1〜第4のコイル導体11〜14も覆うようにしてもよい。
【0045】
この構成によれば、図10に示すように、金属層25と第1〜第4のコイル導体11〜14との間に大きな浮遊容量C0が発生するため、高周波帯域のコモンモードノイズを大きく減衰させることができる。
【0046】
図11は、図9におけるコモンモードノイズフィルタの周波数とコモンモード減衰量の接続導体の長さを変えたときの位相量ごとの関係を示す図である。
【0047】
図11において、第1、第2の接続導体15、16の長さを、1GHzの周波数で位相変化量が90度になるようにした場合かつ図9のように金属層25の面積を大きくした場合、および比較例として、第1、第2の接続導体15、16の位相が0度となる場合と、第1、第2の接続導体15、16の長さを、金属層25が第1、第2の接続導体15、16の一部のみを覆う状態で位相量変化が90度になるようにした場合を示している。
【0048】
図11から明らかなように、金属層25を上面視にて第1〜第4のコイル導体11〜14も覆うようにした場合、1GHz以上の高周波帯域でのコモンモードノイズを大きく減衰させることができることが分かる。
【0049】
また、上記した本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタにおいては、第1、第2の接続導体15、16を蛇行状としたが、スパイラル状としてもよく、さらに、第1、第2のコイル導体11、12を同一面上に形成し、第3、第4のコイル導体13、14を同一面上に形成したが、それぞれのコイル導体を別個の面に形成してもよい。
【0050】
そして、金属層25を第1、第2の接続導体15、16の外側(上方、下方)に位置させるようにしたが、第1の接続導体15と第1、第2のコイル導体11、12との間、第2の接続導体16と第3、第4のコイル導体13、14との間にそれぞれ位置させるようにしてもよい。
【0051】
さらにまた、金属層25を2枚形成したが、第1、第2のコイル導体11、12と第3、第4のコイル導体13、14との間に1枚形成するようにしてもよい。
【0052】
なお、第1、第2の接続導体15、16の片面を非磁性体層に接するように構成したが、両面を非磁性体層に接するように構成してもよい。この構成により、磁性体の透磁率の周波数依存の影響を受けないため、ディファレンシャルのモードの整合をより取り易くなる。
【0053】
そして、上述した一実施の形態において、点Bに対する点Aでの位相変化量が、コモンモードの周波数が1GHzで90度となる構成について説明したが、この構成でコモンモードの周波数を約1.3GHzとしたときの位相変化量は120度となる。すなわち、一実施の形態では、所望の周波数が1GHzのときの位相変化量が90度以下の場合を示したが、これは約1.3GHzでの位相変化量が120度以下の特性と同義である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るコモンモードノイズフィルタは、コモンモードノイズを大きく減衰させることができるという効果を有するものであり、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器のノイズ対策として使用されるコモンモードノイズフィルタ等において有用となるものである。
【符号の説明】
【0055】
11 第1のコイル導体
12 第2のコイル導体
13 第3のコイル導体
14 第4のコイル導体
15 第1の接続導体
16 第2の接続導体
18〜21 第1〜第4の外部電極
23 第1のコモンモードフィルタ
24 第2のコモンモードフィルタ
25 金属層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体と、この積層体の内部に形成された第1〜第4のコイル導体と、前記積層体の端部に設けられかつ前記第1〜第4のコイル導体の一端部にそれぞれ接続された第1〜第4の外部電極と、前記第1のコイル導体と前記第2のコイル導体とを接続する第1の接続導体と、前記第3のコイル導体と前記第4のコイル導体とを接続する第2の接続導体とを備え、前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とが磁気結合し、かつ前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1のコイル導体と第3のコイル導体とで第1のコモンモードフィルタを構成し、前記第2のコイル導体と第4のコイル導体とで第2のコモンモードフィルタを構成し、上面視にて少なくとも前記第1、第2の接続導体の一部を覆うような金属層を形成し、そして前記第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にし、グランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路においては、デファレンシャルモードの特性インピーダンスが第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと略同じとなるように構成され、さらに、前記第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたコモンモードノイズフィルタ。
【請求項2】
第1、第2の接続導体を少なくとも1つの非磁性体層に形成するようにした請求項1記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項3】
金属層が上面視にて第1〜第4のコイル導体も覆うようにした請求項1記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項1】
積層体と、この積層体の内部に形成された第1〜第4のコイル導体と、前記積層体の端部に設けられかつ前記第1〜第4のコイル導体の一端部にそれぞれ接続された第1〜第4の外部電極と、前記第1のコイル導体と前記第2のコイル導体とを接続する第1の接続導体と、前記第3のコイル導体と前記第4のコイル導体とを接続する第2の接続導体とを備え、前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とが磁気結合し、かつ前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とが磁気結合するようにそれぞれ上下方向に積層するとともに、前記第1のコイル導体と第3のコイル導体とで第1のコモンモードフィルタを構成し、前記第2のコイル導体と第4のコイル導体とで第2のコモンモードフィルタを構成し、上面視にて少なくとも前記第1、第2の接続導体の一部を覆うような金属層を形成し、そして前記第1の接続導体の長さと第2の接続導体の長さを略同一にし、グランドと第1、第2の接続導体で構成される伝送線路においては、デファレンシャルモードの特性インピーダンスが第1、第2のコモンモードフィルタの特性インピーダンスと略同じとなるように構成され、さらに、前記第1、第2の接続導体の長さを、所望の周波数において、前記第1のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相を、前記第2のコモンモードフィルタと前記第1、第2の接続導体との接続点の位相よりも0度より大きくかつ90度以下の位相量で変化させることができる長さとしたコモンモードノイズフィルタ。
【請求項2】
第1、第2の接続導体を少なくとも1つの非磁性体層に形成するようにした請求項1記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項3】
金属層が上面視にて第1〜第4のコイル導体も覆うようにした請求項1記載のコモンモードノイズフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−129665(P2012−129665A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277599(P2010−277599)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]