説明

コラーゲン修飾リポソームからなる化粧料基剤およびそれを含有する皮膚化粧料

【課題】
コラーゲン本来が有する3重らせん構造を損なわず、肌への親和性、ならびに貯留性を向上させ、皮膚化粧料として用いた際の肌の水分保持能の向上、ならびに結合水量の向上を図り、より効果的に保湿効果を発揮させる。
【解決手段】
3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン修飾リポソームからなる化粧料基剤およびそれを含有する皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コラーゲンとは我々の体を構成している繊維状タンパク質のことであり、皮膚組織の中では真皮の主成分がコラーゲンである。正常な皮膚のコラーゲンは、いわゆる肌での支柱のような役割をしており、表皮をしっかりと支えており、肌の弾力性やハリをもたらしている。このコラーゲンは、3重らせん構造をしており、その構造形状により、水分保持能が非常に高く、また結合水量も高いとされている。
【0003】
従来、このコラーゲンの高い水分保持能による保湿効果を期待し、多くの皮膚化粧料、ならびにサプリメント等が開発されているが、コラーゲンの平均分子量が約20万〜約40万と非常に高いため、各製剤への溶解性の向上、皮膚への浸透改善に対しては、加熱処理して溶解性を向上させたゼラチン、またはそのゼラチンを切断処理して得られる低分子ゼラチン(いわゆる加水分解コラーゲン)で対応されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takada, M., Yuzuriha, T., Katayama, K., Iwamoto, K., Sunamoto, J., Biochim. Biophys. Acta, 802, 237(1984)
【非特許文献2】Sunamoto, J., Iwamoto, K., Takada, M., Yuzuriha, T., Katayama, K., In Polymers in Medicine; Chillini, E., Giusti, P.A., Eds. Plenum Publishing Co. New York, 1984, p.157., Moellerfeld, J., Press, W., Ringsdorf,
【非特許文献3】Hamazaki, H., Sunamoto, J., J. Biochim. Biophys. Acta, 857, 265(1986),
【非特許文献4】Sunamoto, J., Sato, T., Taguchi, T., Hamazaki, H., Macromolecules, 25, 5567(1992)
【0005】
これらの論文は、いずれも疎水性の長鎖アルキル基あるいはコレステロールをプルランなどの多糖類に化学的に結合させ、これらの疎水基修飾多糖類とリポソームを混合することで、疎水性基がリポソーム膜に自発的に取り込まれ、疎水基修飾多糖類により被覆されたリポソームが調製されるというものである。これにより、リポソーム内包物の漏れが抑制され、安定化されるという技術である。また、この被覆によりリポソームの血中での安定性を計ることが可能になるというものである。しかしながら、コラーゲンに関して言えば、疎水性基をコラーゲン分子に導入する過程で加熱工程が入るため、コラーゲンの3重らせん構造は破壊されてしまうため、これらの論文に示される技術は適用されない。また、被覆方法及び目的も異なる。したがって、リポソームへの高分子物質の被覆という観点からは先行技術文献と言えるが、本特許とは被覆技術及びまたは目的において明らかに異なるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コラーゲン本来が有する3重らせん構造を損なわず、肌への親和性、ならびに貯留性を向上させ、皮膚化粧料として用いた際の肌の水分保持能の向上、ならびに結合水量の向上を図り、より効果的に保湿効果を発揮させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意研究を重ねた結果、3重らせん構造を維持したままの水溶性コラーゲンを角質層細胞間脂質構造と類似の二分子膜構造を有するリポソーム表面に吸着させたコラーゲン修飾リポソームを用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
(1) 3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。
(2) 3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンで表面修飾されたリポソームの水溶液とヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンを含むことを特徴とする(1)に記載の化粧料用基剤。
(3) 3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンがアテロコラーゲンであることを特徴とする(1)または(2)に記載の化粧料用基剤。
(4) 凍結乾燥したことを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の化粧料用基剤。
(5) (1)ないし(3)のいずれか1項に記載の化粧料用基剤を含むことを特徴とする皮膚化粧料。
(6) 凍結乾燥したことを特徴とする(5)に記載の皮膚化粧料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコラーゲン修飾リポソームは、水への溶解性や分散性向上のための化学処理などを行っておらず、3重らせん構造を維持した状態の水溶性コラーゲンをリポソームに吸着させたものであり、水分保持能の高い状態のコラーゲンを用いて肌に対する保水効果の優れた化粧料を提供することが可能となった。
【0010】
通常は、水溶性コラーゲンはその荷電状態によりヒアルロン酸と共存させることで複合体を形成してしまい、溶液が不均一な状態となり、それぞれの本来の保水機能が不全化されてしまう。しかし本発明によれば、予め表面電荷をコントロールしたリポソームに水溶性コラーゲンを吸着させることで、水溶性コラーゲンの構造を安定に保つことができ、ヒアルロン酸や加水分解エラスチンとの共存下で前述した複合体を形成すること無く、均一安定な組成物を得ることが可能となった。
【0011】
また、コラーゲンが有する3重らせん構造を維持するためには、水溶液、ゲル、エマルションといった自由水が存在している剤型については、コラーゲンの変性温度(魚類:20−30℃、哺乳類:36−38℃)以下で製造、保管がなされることでその安定化が計れる。一方、凍結乾燥することで自由水を0%ととし、変性温度以上においても3重らせん構造を維持でき、使用時に水溶液を添加して凍結乾燥組成物を分散し、肌に塗布して、その後は変性温度以下で保管・維持する、使用時調製タイプでもコラーゲン3重らせん構造を安定化した製剤として使用出来る。ここで、コラーゲンの3重らせん構造は、自由水の存在により変性温度以上でその構造が崩壊し、ゼラチンとなるが、たとえ水が存在していてもそれが結合水である限りは、変性温度以上でも3重らせん構造が崩壊することはない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の化粧料用基剤のコラーゲン修飾リポソームは、予め表面電荷をコントロールしたリポソームに水溶性コラーゲンを吸着させて表面処理したものである。
【0013】
リポソームの表面電荷を+にコントロールするには、リポソーム膜の主成分であるホスファチジルコリン(表面電荷は0)に+荷電を有するホスファチジルエタノールアミン、ジアルキルエーテルアンモニウム塩等を添加し、+荷電にコントロールしたリポソームを得る。
【0014】
また、リポソームの表面電荷を−にコントロールするには、リポソーム膜の主成分であるホスファチジルコリン(表面電荷は0)に−荷電を有するジセチルリン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸等を添加し、−荷電にコントロールしたリポソームを得る。
【0015】
リポソームの表面に吸着させる水溶性コラーゲンの電荷をコントロールするには、酵素処理することにより+荷電を有するコラーゲンが得られ、アルカリ処理することにより−荷電を有するコラーゲンが得られる。
【0016】
リポソームの分子量は、平均で、約1万〜約300万の間で適宜選択すればよい。
【0017】
リポソームの表面に吸着させる水溶性コラーゲンは、リポソーム:コラーゲン=1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.1〜1:10、のモル比で吸着させればよい。
【0018】
本発明で使用する水溶性コラーゲンは、水への溶解性や分散性向上のための化学処理などを行わない、3重らせん構造を維持した状態のコラーゲンである。水溶性コラーゲンの分子量は約20万〜約40万が好ましい。さらにコラーゲン分子の両末端にあるテロペプタイドを除去したアテロコラーゲンが、テロペプチドによりまれに生じるアレルギー反応を排除する上で好ましい。
【0019】
通常は、製造・保管の煩雑性及び水への溶解性の向上のため、加熱処理したゼラチンや本来のコラーゲンの分子量を化学または酵素処理などで切り、低分子化されたものが用いられているのが殆どであるが、本発明で用いる水溶性コラーゲンは、コラーゲン本来の3重らせん構造を維持した状態のものを使用するため、水分保持能が高い。
【0020】
本発明におけるリポソームとは、リン脂質と水とを混合して得られるリン脂質の単層あるいは複数層からなる閉鎖小胞体であり、細胞との親和性が高い。リポソームの膜形成基材としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然もしくは合成のリン脂質または水素添加リン脂質、コレステロール類、たとえばコレステロール、コレステロールのアルキルエステル、フィトステロール、フィトステロールのアルキルエステル、グリセロ糖脂質、セチルガラクトサイドの如きアシルグルコシド、ジセチルリン酸、ジアルキル型合成界面活性剤、N-アシル-スフィンゴシン又はその硫酸エステル、N-アシルスフィンゴ糖脂質、N-高級アシルグルタチオンの一種または二種以上の混合物があげられる。この他、リポソームの安定化もしくは相転移温度の改善のために多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸等を必要に応じて配合できる。
【0021】
なお、リポソームに、親水性薬効成分及びまたは親油性薬効成分を内包させてもよい。親水性薬効成分や親油性薬効成分としては、例えば、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン剤、色素、およびタンパク質類を挙げることができる。
【0022】
リポソームの製造方法としては、超音波法、エタノール注入法、コール酸除去法、逆相蒸発法、エクストルーダー法、マイクロフルイダイザー法等を挙げることができる。
【0023】
さらに、高い保湿効果を有するヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンと共存させることで、水分保持能力に優れた高機能保水化粧料の作製が可能となり、これにより、乾燥肌に起因するシワ、肌のターンオーバーの調節も可能となる。
【0024】
エラスチンは、コラーゲンとともに、項靱帯、血管、皮膚等の結合組織にある重要なタンパク質であるが、水にはほとんど溶解しない性質を有する。本発明における加水分解エラスチンとは、項靱帯等を酵素処理またはシュウ酸処理することで水への溶解性を向上させた加水分解エラスチンである。
【0025】
本発明では、上述したコラーゲン修飾リポソームあるいは、コラーゲン修飾リポソームにヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンを配合した化粧料用基剤を配合して、皮膚化粧料とすることができる。
【0026】
本発明の皮膚化粧料としては、特に限定されないが、例えば、美容液、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗顔料、マッサージ料、リキッドファンデーション、乳化ファンデーションやパウダーファンデーション等を含むメイクアップ化粧料などの化粧品、ならびにボディ用化粧料を挙げることができる。
【0027】
本発明の皮膚化粧料において、コラーゲン修飾リポソームの配合基準としては、皮膚化粧料中に0.001〜10wt%であり、好ましくは0.01〜5wt%である。
【0028】
本発明の皮膚化粧料において、コラーゲン修飾リポソームとヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンの配合比率については、任意の割合で使用されるが、ヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンの総配合割合については、皮膚化粧料あたり0.001〜10wt%が好ましく、0.005〜1wt%がより好ましい。配合量がこれを超えると、水への分散性が困難となり、分離、変色、あるいは変臭などの安定性、さらには皮膚化粧料としての官能に悪影響を及ぼす可能性があり、好ましくない。
上記した必須成分の他に、通常の化粧料に配合される成分、例えば、油脂類、炭化水素、ロウ類、脂肪酸、合成エステル類等、アルコール類、粉体、界面活性剤、増粘剤剤、高分子化合物、ゲル化剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤、色素、顔料、防腐剤、香料、薬剤または水等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。
【0029】
油脂類としては、ホホバ油、ヒマシ油、オリーブ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、ミンク油、タートル油等が挙げられる。
【0030】
炭化水素類としては、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン等が挙げられる。
【0031】
ロウ類としては、ミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリラロウ等が挙げられる。
【0032】
脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0033】
合成エステル類としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、モノステアリン酸プロピレングリコール、乳酸ミリスチル、リンゴ酸イソステアリル、モノステアリン酸グリセリン、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0034】
油脂類、炭化水素、ロウ類、脂肪酸、合成エステル類は、通常あわせて皮膚化粧料あたり0〜30w/w%の割合で配合される。
【0035】
アルコール類としては、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。アルコール類は、通常皮膚化粧料あたり0〜25 w/w%の割合で配合される。
【0036】
界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、ピログルタミン酸イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ジアルキルスルホコハク酸、臭化セチルピリジニウム、塩化-n-オクタデシルトリメチルアンモニウム、モノアルキルリン酸、N-アシルスルタミン酸、N-アシルグルタミン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン還元ラノリン、シュガーエステル等が挙げられる。界面活性剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜10w/w%の割合で配合される。
【0037】
増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、メチルポリシロキサン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、カラギーンナン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。増粘剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0038】
保湿剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ピログルタミン酸、アセチルグルタミン酸、プロシアニジン等が挙げられる。保湿剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜25%の割合で配合される。
【0039】
防腐剤としては、安息香酸、サリチル酸、デヒドロ酢酸あるいはそれらの塩類、パラオキシ安息香酸エステル類のフェノール類、トリクロサンハロカルバン等が挙げられる。防腐剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜0.3w/w%の割合で配合される。
【0040】
香料は、通常化粧料に使用するものであればどのような香料を用いてもよい。
【0041】
顔料としては、酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、タルク等が挙げられる。顔料は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0042】
薬剤としては、小麦胚芽油、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンE、アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムあるいはナトリウム、D-パントテールアルコール、グリチルリチン酸ジカリウム、グルタチオン、UV吸収剤、キレート剤、植物抽出物、微生物代謝物/抽出物等が挙げられる。薬剤は、通常皮膚化粧料あたり0〜5w/w%の割合で配合される。
【0043】
水としては、水道水、ミネラルウォーター、かん水、海水、海洋深層水、超純水、極地氷由来水、含鉱水、精製水等が挙げられる。水は任意の割合で配合される。
【0044】
また、本発明の海洋深層水とは、表面海水が沈降していて層を形成しているもので低温、清浄で栄養塩に富む固有水であり、その取水海域は1000〜4000m、好ましくは2000〜3000mであり、取水深度は250〜500m、好ましくは300〜400mである。
【0045】
海洋深層水は、多くのミネラルを含有していることから、保湿性に優れ、また、浸透感に優れていることから、化粧料に配合させている有効成分の皮膚内への浸透を促すと考えられる。
【0046】
本発明の皮膚化粧料の剤形は任意であり、例えば、可溶化系乳化剤形あるいは分散型の剤形をとることがある。
【0047】
本発明において、コラーゲンの変性温度以上で保管するためには、上述の化粧料用基剤や皮膚化粧料を凍結乾燥すればよい。凍結乾燥法とは、三重点以下の圧力で相変化が個液平衡線上で生じ、水分は固相(氷)から昇華によって直接気化除去され、水分除去、すなわち乾燥がなされることをさす。このような昇華による脱水乾燥法を真空凍結乾燥と呼ぶが、この方法を用いることにより、水の存在下で温度により変性しやすい有効成分を安定化することが可能となる。本発明においては、コラーゲン修飾リポソーム水溶液を凍結乾燥することで水分を除去した固形分からなる製剤を調製し、使用時に水溶液を添加して振とうし、コラーゲン修飾リポソームの均一分散液を得る。顔の気になる部分等に塗布した後、分散液は20℃以下の条件下に保存する。このようにすることで、3重らせん構造を有するコラーゲンを安定的に供給出来、またリポソームの浸透過程に伴って、コラーゲンの皮膚角質層への吸収も同時に図ることが可能となる。
【0048】
以下に、本発明の実施例および試験例を示す。
【0049】
なお、本実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
水溶性コラーゲンを修飾したリポソーム水溶液
0.9wt%の卵黄レシチンからなるリポソーム水溶液をエクストルーダー法(M.J.Hope, M.B.Bally, G.Webb and P.R.Cullis, Biochim.Biophys.Acta, vol.812, 55(1985))にて調製した。このリポソーム膜は、卵黄レシチン:コレステロール:ジセチルリン酸=4:4:2(モル比)で構成され、pH7.0にて−に荷電していた。このリポソームの平均的な分子量は約50万〜約100万であった。18℃にて、この水溶液と中性にて+荷電を有するアテロコラーゲン0.5wt%水溶液を1:5の比率で、攪拌しながら前述したリポソーム水溶液に分子量約30万のアテロコラーゲン水溶液を滴下し、さらに1時間分散機にて攪拌することで、水溶性コラーゲンを修飾したリポソーム水溶液を得た。5℃で保管した。
【実施例2】
【0051】
水溶性コラーゲンを修飾したリポソーム水溶液
1.2wt%の卵黄レシチンからなるリポソーム水溶液をエクストルーダー法(M.J.Hope, M.B.Bally, G.Webb and P.R.Cullis, Biochim.Biophys.Acta, vol.812, 55(1985))にて調製した。このリポソーム膜は、卵黄レシチン:コレステロール:ホスファチジルエタノールアミン=4:4:2(モル比)で構成され、pH7.0にて+に荷電していた。このリポソームの平均的な分子量は約50万〜約100万であった。18℃にて、この水溶液と中性にて−荷電を有する分子量約30万のアテロコラーゲン0.5wt%水溶液を2:5の比率で、攪拌しながら前述したリポソーム水溶液にアテロコラーゲン水溶液を滴下し、さらに1時間分散機にて攪拌することで、水溶性コラーゲンを修飾したリポソーム水溶液を得た。5℃で保管した。
【実施例3】
【0052】
水溶性コラーゲンを表面修飾したリポソームとヒアルロン酸、加水分解エラスチンからなる凍結乾燥製剤
実施例1で得た水溶性コラーゲンを表面修飾したリポソーム水溶液40重量部に、
17℃にて、0.5wt%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液10重量部を滴下し、次いで0.1wt%加水分解エラスチン水溶液50重量部を滴下し、同温度でさらに30分攪拌した。この溶液90重量部にマンニトール10重量部を攪拌しながら溶解した。得られた溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥組成物を得た。この組成物に水を添加して水溶性コラーゲンを表面修飾したリポソームとヒアルロン酸、加水分解エラスチンからなる水溶液を得たが、通常観察されるコラーゲンとヒアルロン酸ナトリウムの複合体による沈殿は生じないことが分かった。
【0053】
この凍結乾燥組成物の水溶性コラーゲンの3重らせん構造の安定性を45℃にて観察した。3重らせん構造の安定性確認はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び変性温度以下で保存の同一サンプルの粘度との比較(3重らせん構造が崩壊すると粘度の低下が生じる)にて行った。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果より、凍結乾燥組成物の安定性は明らかに優れており、十分に製品化に耐えうるレベルであることが分かった。
【実施例4】
【0056】
水溶性コラーゲンを表面修飾したリポソーム美容液
卵黄レシチン(1.5wt%)、コレステロール(0.3wt%)、ジセチルリン酸(0.2wt%)、オレイン酸(0.5wt%)、ステアリルアルコール(0.3wt%)、ステアリン酸グリセリン(2.0wt%)、アルギニン(0.7wt%)、1,3−ブチレングリコール(5wt%)、ジプロピレングリコール(2wt%)、グリセリン(3wt%)、トウモロコシ油(1.5wt%)、アボカド油(1wt%)、オレイン酸ポリグリセリル−5(0.5wt%)及び精製水(100wt%に調整)からなるリポソーム美容液をLLC法(T.Kaneko and H.Sagitani, Colloids & Surfaces, vol.69, 125(1992))で調製した。15℃にて、この美容液80重量部に0.5wt%の+の荷電を有するアテロコラーゲン水溶液10重量部を攪拌下で滴下し、10分間攪拌を継続し、次いで0.5%ヒアルロン酸ナトリウム10重量部を攪拌下で滴下し、さらに10分間攪拌を継続して目的の美容液を得た。顕微鏡観察の結果、通常観察されるコラーゲンとヒアルロン酸ナトリウムの複合体は生じていないことが分かった。
【0057】
試験例1
コラーゲンの角質層への吸収能試験
実施例1で得た水溶性コラーゲンを表面修飾したリポソーム水溶液と同一濃度(0.083wt%)のコラーゲン水溶液を用いてヒト皮膚角質層へのコラーゲンの吸収性を試験した。n数は8名で、アセトン/エーテル(1/1)溶液で処理した上腕内測に試料を塗布し、パッチ判で閉塞下15時間後に採取し、測定を行った。
角質層へ吸収されたコラーゲンの定量法:塗布15時間後に精製水とエタノールで皮膚上に残ったサンプルを拭き取り、テープストリッピング法により角質層を採取した(2−5層、6−10層と11−15層をそれぞれ集めて測定サンプルとした)。採取したテープのうち1枚目は除去し、2枚目以降を測定試料とした。採取したテープの水溶性成分を回収し、成分中のヒドロキシプロリン含量を測定し、コラーゲンに換算して吸収量を算出した(未塗布のコントロール部のヒドロキシプロリン量を測定し、ブランクとした)。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果より、コラーゲンは水溶液ではほとんど角質層に吸収されないが、リポソームに吸着させることにより、角質層への吸収が促進されることが分かった。
【0060】
試験例2
実施例2の水溶液の保湿能試験
実験条件は以下の通りである。
(実験条件)
上腕内側をSDS溶液で処理して荒れ肌を形成させ、その2日後に各サンプルを朝晩一回ずつ塗布し始めて、測定を開始した
n=6名で、20±1℃/40±5RH%に制御した部屋に被験者を30分静置した後に角質水分量を測定した。測定結果を表2に示す。測定機器:Skin Surface Hygrometer [SKICON-200](角層水分量をμSの単位で測定)
【0061】
【表3】

【0062】
表3より、実施例2の水溶液はコントロール部より明らかに荒れ肌改善効果が高いことが分かった。
【0063】
試験例3
実施例4の美容液の肌のハリ回復効果
実験条件は以下の通りである。
(実験条件)
上腕内側をアセトン/エーテル(1/1)溶液で処理して(3日間のインターバルで2回処理)荒れ肌を形成させ、その翌日から各サンプルを朝晩一回ずつ塗布し始めて、測定を開始した。n=8名で、20±1℃/40±5RH%に制御した部屋に被験者を60分以上静置した後に肌の粘性を測定した。その結果を表3に示す。測定機器:Dermal Torque Meter(Dia-Stron社製) DTM値(Ur/Ue)が1に近いほど肌の粘性が高く、戻りが良いことを示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4より、実施例4の美容液は有意差をもってコントロールよりハリの素早い回復を促すことが出来ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の化粧料用基剤は、水溶性コラーゲンの構造を安定に保つことができ、ヒアルロン酸や加水分解エラスチンとの共存下でも複合体を形成することがなく、好適な皮膚化粧料とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンで表面修飾されたリポソームの水溶液からなることを特徴とする化粧料用基剤。
【請求項2】
3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンで表面修飾されたリポソームの水溶液とヒアルロン酸および/または加水分解エラスチンを含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧料用基剤。
【請求項3】
3重らせん構造を有する水溶性コラーゲンがアテロコラーゲンであることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧料用基剤。
【請求項4】
凍結乾燥したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化粧料用基剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の化粧料用基剤を含むことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項6】
凍結乾燥したことを特徴とする請求項5に記載の皮膚化粧料。

【公開番号】特開2011−79745(P2011−79745A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230825(P2009−230825)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(399005976)株式会社フェース (2)
【Fターム(参考)】