説明

コラーゲン可溶化剤

【課題】 コラーゲン本来の保湿性能等を十分保持し、特に未変性の水溶性コラーゲンをpH5.5〜8.5において安定に可溶化するコラーゲン可溶化剤を提供する
【解決手段】 アルギニン(A)及び/又はその塩(A’)、並びに一般式(1)で表されるアシルアルギニンエステル(B)及び/又はその塩(B’)を含有することを特徴とするコラーゲン可溶化剤。
【化3】


式中、R1は水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン可溶化剤、及び該コラーゲン可溶化剤とコラーゲンを含有してなるコラーゲン含有溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは皮膚などの結合組織を構成する主要タンパク質である。動物組織から酸によって抽出された酸可溶性コラーゲンや、ペプシンなどの酵素によってテロペプチド部分を加水分解したアテロコラーゲンなどのいわゆる未変性の水溶性コラーゲンは皮膚に対して保湿作用を有し、皮膚や毛髪を健康に保つ効果があることが古くから知られている。したがってこれら未変性コラーゲンを化粧品や人体用洗浄剤に配合することは古くから試みられ実用化されている。
【0003】
しかしながら、未変性コラーゲンは高分子量であるため溶解性が悪く、特に等電点(pI)が7〜9.5であるため、通常の化粧品や洗浄料のpHとして好ましい5.5〜8.5程度では凝集沈殿を起こすという欠点があるため、その利用範囲はきわめて限定されたものである。
【0004】
従来の未変性コラーゲンの用途としては、pH5以下の希薄な化粧水として使用するか、凝集沈殿しても目立たないクリーム状の非透明系などに限られていた。このような事情により、コラーゲンの用途を拡大するために、コラーゲン分子に化学的又は酵素的修飾を加えたり、加水分解による低分子量化などの方法によって、水溶性を増加させたり、等電点を移動させて透明に溶解するpH領域を中性付近にする試みや、加水分解によって低分子量ポリペプチドにする試みがなされ、サクシニル化コラーゲン、エチルエステル化コラーゲン及びメチルエステル化コラーゲンなどの修飾コラーゲン(特許文献1)、並びに低分子量ポリペプチド及びゼラチン化コラーゲン(特許文献2)等が変性コラーゲンとして提案されている。また、これらのアシル化コラーゲン及びアシル化分解コラーゲンを洗浄料や化粧品に使用することが提案されている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−28947号公報
【特許文献2】特開平1−204998号公報
【特許文献3】特開昭61−60714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の変性コラーゲンは、水溶性は増すもののコラーゲン本来の保湿性能は損なわれていることが多い、また修飾という工程を経ることによって価格が高くなるという問題点があった。また、加水分解されたコラーゲンについては、コラーゲンを原料にしているというだけであり、その構造も機能も、もはやコラーゲンとは言い得ないものとなっている。しかしながら、現実にはコラーゲンを意識的に加水分解している場合のほか、製法上実質的に分解してしまって、3重らせん構造を有していないものまでがアテロコラーゲンとして市場に出回っていることも事実である。このようなものは水溶性に優れていることは事実であるがコラーゲン本来の保湿性能という観点から見れば効果の損なわれたものである。前記のアシル化コラーゲン及びアシル化分解コラーゲンは、洗浄剤基材あるいは乳化剤として提案されているが、コラーゲンの有していた天然保湿剤としての機能はほとんど失われている。すなわち、従来の技術では、未変性コラーゲンを、pHが5.5〜8.5の中性付近において高濃度に安定に溶解させることは困難とされていた。本発明の目的は、未変性コラーゲンをpH5.5〜8.5において安定に溶解するコラーゲン可溶化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の特徴は、コラーゲンの可溶化剤であって、アルギニン(A)及び/またはその塩(A’)並びに一般式(1)で表されるアシルアルギニンエステル(B)及び/又はその塩(B’)を含有することを特徴とする可溶化剤;並びに前記可溶化剤及びコラーゲンを含有してなるコラーゲン含有溶液である。
【0008】
【化2】

【0009】
式中、R1は水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコラーゲン可溶化剤は、未変性コラーゲン又は変性コラーゲンをpH5.5〜8.5において安定に水に可溶化することができ、かつ、得られたコラーゲン含有溶液は保存安定性に優れており、コラーゲンの3重らせん構造が保持されやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の可溶化剤で可溶化できるコラーゲンとしては、未変性コラーゲン(酸可溶性コラーゲン等)並びに変性コラーゲン(酵素分解コラーゲン、熱分解コラーゲン及びアルカリ分解コラーゲン等)のいずれもが対象となるが、好ましくは未変性コラーゲンである。コラーゲンはヒト細胞由来コラーゲン、牛由来コラーゲン、豚由来コラーゲン、魚類由来コラーゲン及び遺伝子組換えコラーゲン等が挙げられるが、特に限りはない。従って、本発明におけるコラーゲン含有溶液は、未変性コラーゲン含有溶液(酸可溶性コラーゲン含有溶液等)並びに変性コラーゲン含有溶液(酵素分解コラーゲン含有溶液、熱分解コラーゲン含有溶液及びアルカリ分解コラーゲン含有溶液等)のいずれであってもよく、好ましくは未変性コラーゲン含有溶液(酸可溶性コラーゲン含有溶液等)である。
【0012】
本発明におけるコラーゲンの可溶化とは、コラーゲンが透明に均一溶解した状態のことを指し、コラーゲン含有溶液を目視で観察して「溶け残りが確認されない」ことをもって可溶化したと判断できるが、測定装置で判断する方法としては、例えば、20℃での濁度が20mg/L以下、好ましくは15mg/L以下であることで判断することができる。濁度は、積分球式光電光度法、散乱光測定法又は透過光測定法等により測定でき、好ましいのは積分球式光電光度法(JIS K0101−1998、9.4.積分球濁度)である。
【0013】
本発明のコラーゲン可溶化剤の構成成分の1つであるアルギニン(A)及び/又はその塩(A’)としては、市販品が使用でき、アルギニン(A)のみ、アルギニン塩(A’)のみ、又はこれらの併用のいずれであってもよい。アルギニン(A)とアルギニン塩(A’)を併用する場合の併用割合は特に限定されない。
【0014】
アルギニン塩(A’)としては、無機酸塩及び有機酸塩が挙げられる。無機酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩及び炭酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、りんご酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩及びその誘導体の塩、アスパラギン酸塩及びその誘導体の塩、グリコール酸塩、並びにピロリドンカルボン酸塩等が挙げられ、これらはいずれの光学異性体も使用することができる。また、アルギニンは、L体、D体又はラセミ体のいずれのものであってもよく、コラーゲンの安定性と、入手の容易さの観点から、塩が好ましく、特にL−アルギニン塩酸塩が好ましい。
【0015】
本発明のコラーゲン可溶化剤の構成成分の1つであるアシルアルギニンエステル(B)及び/又はその塩(B’)としては、アシルアルギニンエステル(B)のみ、アシルアルギニンエステル塩(B’)、又はこれらの併用のいずれであってもよく、併用する場合の併用割合は特に限定されない。
【0016】
アシルアルギニンエステル(B)を表す一般式(1)において、R1で示されるヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基等の炭化水素基、並びにアルキロキシアルキル基、アシルオキシアルキル基及びアシルアミノアルキル基等のヘテロ原子含有炭化水素基が挙げられる。
【0017】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基及びエイコシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、デセニル基及びオクタデセニル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基及びナフチル基等が挙げられる。アルキルアリールとしては、メチルフェニル基、エチルフェニル基、オクチルフェニル基及びノニルフェニル基等が挙げられる。アリールアルキル基としては、ベンジル基及びフェニルエチル基等が挙げられる。アルキロキシアルキル基としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基及びメトキシブチル基等が挙げられる。アシルオキシアルキル基としては、ホルミルオキシメチル基、アセチルオキシメチル基、アセチルオキシエチル基、アセチルオキシドデシル基及びアセチルオキシオクタデシル基等が挙げられる。アシルアミノアルキル基としては、アセチルアミノメチル基、アセチルアミノエチル基、アセチルアミノドデシル基、アセチルアミノオクタデシル基及びラウロイルアミノメチル基等が挙げられる。R1のうち、コラーゲンの安定化の観点から、好ましいのは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0018】
一般式(1)におけるR2は、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の炭化水素基であり、前記R1で例示した基と同様の基が挙げられる。R2のうち、コラーゲンの安定化の観点から、好ましいのは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0019】
一般式(1)で表されるアシルアルギニンエステル(B)の具体例としては、N−α−アセチルアルギニンメチルエステル、N−α−アセチルアルギニンエチルエステル、N−α−アセチルアルギニンブチルエステル、N−α−ベンゾイルアルギニンエチルエステル、N−α−ヤシ油脂肪酸アシルアルギニンエチルエステル、N−α−ラウロイルアルギニンエチルエステル、N−ミリストイル−L−アルギニンエチル、N−パルミトイル−L−アルギニンエチル、N−ステアロイル−L−アルギニンエチル、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アルギニンプロピル、N−ラウロイル−L−アルギニンプロピル、N−ミリストイル−L−アルギニンプロピル、N−パルミトイル−L−アルギニンプロピル、N−ステアロイル−L−アルギニンプロピル、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アルギニンブチル、N−ラウロイル−L−アルギニンブチル、N−ミリストイル−L−アルギニンブチル、N−パルミトイル−L−アルギニンブチル及びN−ステアロイル−L−アルギニンブチル等が挙げられる。これらのうち、コラーゲンの安定化の観点から、N−α−アセチルアルギニンメチルエステル及びN−α−アセチルアルギニンエチルエステルが好ましい。アシルアルギニンエステル(B)の市販品としては、N−α−ベンゾイルアルギニンエチルエステル(エムピーバイオジャパン社製)等が挙げられる。
【0020】
アシルアルギニンエステルの塩(B’)としては、前記のアルギニン塩(A’)で例示された塩と同様のものが挙げられる。
【0021】
本発明におけるアシルアルギニンエステル(B)及びその塩(B’)は、アミノ酸の通常のエステル化反応を利用して得ることができ、具体的には、N−α−アシルアルギニン及びアルコール[一般式(1)におけるR2を炭化水素基とするアルコール]とをエステル化することによって得ることができ、塩はさらに対応する酸で中和することによって得ることができる。エステル化の触媒としては、メタンスルホン酸又は塩化チオニル等の酸触媒が好適に用いられる。反応温度は80℃〜120℃が好ましい。得られた粗生成物は、必要により通常の精製(濃縮、抽出、再結晶及び/又は乾燥等)を行って精製品を得ることができる。
【0022】
本発明の可溶化剤は、コラーゲン含有溶液のpH調整のためのpH緩衝剤を含有していてもよい。本発明のコラーゲン可溶化剤を使用して得られるコラーゲン含有溶液のpHは、コラーゲンの安定化の観点から、通常4.5〜9.0であり、好ましくは5.5〜8.5である。pHが4.5より低い場合、化粧品等への配合が困難となり、9.0より高い場合、コラーゲンの本来の機能が失われるため好ましくない。
【0023】
pH緩衝剤としては、リン酸緩衝液及びグッド緩衝液などが利用できる。グッド緩衝液としては、グリシン、グリシルグリシン、トリス−塩酸塩、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸[MESと略記]、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−エタンスルホン酸[HEPESと略記]、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸[TESと略記]、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸[MOPSと略記]、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)[PIPESと略記]、3−(N’N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸[DIPSOと略記]及びN−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸[TAPSと略記]等が挙げられる。
【0024】
本発明のコラーゲン可溶化剤は、本発明の効果を損なわない限り、さらに無機塩類、有機塩類、界面活性剤及びその他の添加剤を含有していてもよい。
【0025】
無機塩類としては、塩化ナトリウム及び塩化カリウム等、有機塩類としては酢酸アンモニウム等が挙げられ、入手のしやすさの観点で塩化ナトリウムが好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられるが、コラーゲンの安定化の観点からノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては市販の活性剤が使用でき、例えば、TWEEN20及びTWEEN80(以上、和光純薬工業製)等、並びにトライトンX−100(和光純薬工業製)等が挙げられる。
【0027】
その他の添加剤としては、可溶化を妨げず、コラーゲンを安定化させることができる範囲内において、油分(オリーブ油、ホホバ油及びラノリン等)、炭化水素類(流動パラフィン及びスクワラン等)、アルコール類(エタノール、セタノール及びラノリンアルコール等)、グリコール類(エチレングリコール及びプロピレングリコール等)等や、色素、顔料、香料、防腐剤及び抗菌剤などを適宜配合することができる。
【0028】
本発明の可溶化剤は、さらに水で希釈されていてもよい。水としては、イオン交換水、蒸留水又は水道水等が使用できる。
【0029】
本発明の可溶化剤において、前記(A)、(A’)、(B)、(B’)、pH緩衝剤、無機塩類、有機塩類、界面活性剤及びその他の添加剤のそれぞれの好ましい含有量は以下の通りである。
【0030】
(A)及び(A’)の合計の含有量は、可溶化剤の固形分中の好ましくは10〜98%、さらに好ましくは15〜90%である。なお、「固形分」とは、水以外の成分を表す。また、(B)及び(B’)の合計の含有量は、可溶化剤の固形分中の好ましくは2〜90%、さらに好ましくは10〜85%である。
【0031】
(A)及び(A’)と、(B)及び(B’)の重量比[(A)及び(A’)の合計/(B)及び(B’)]は、コラーゲン可溶化及び3重らせん構造安定化の観点から、好ましくは0.2〜20、さらに好ましくは1〜10である。
【0032】
また、(A)、(A’)、(B)及び(B’)の合計の含有量は、可溶化剤の固形分中の好ましくは50〜100重量%であり、さらに好ましくは60〜100重量%である。
【0033】
本発明の可溶化剤におけるpH緩衝剤の含有量は、可溶化剤が希釈されてコラーゲン含有溶液となった場合のpHが4.5〜9となるような含有量であれば特に限定されないが、好ましくは、コラーゲン含有溶液中の濃度が100mM以下、さらに好ましくは10mM〜100mMとなるような含有量であり、可溶化剤の固形分中の重量%では好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
【0034】
可溶化剤の固形分中の界面活性剤の含有量は、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下が好ましい。無機塩類又は有機塩類の含有量は、可溶化剤の固形分中の好ましくは10重量%以下である。水の含有量は、好ましくは可溶化剤中の50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0035】
本発明の可溶化剤は、上記の成分を常温又は加温(好ましくは30℃以下)して均一に混合することによって製造することができる。本発明の可溶化剤の形状は特に限定されず、粉末状、溶融液状又は水溶液状のいずれであってもよい。希釈し易いという観点から、好ましいのは水溶液状である。
【0036】
本発明の他の実施態様であるコラーゲン含有溶液は、前記可溶化剤及びコラーゲンを含有してなる。また、コラーゲン含有溶液は、通常は水を含有する。
【0037】
コラーゲン含有溶液の重量に基づくコラーゲンの濃度は、0.01〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。0.01重量%以上であればコラーゲンの持つ機能が発揮し易くなり、5重量%以下であれば粘度が高すぎることがなく、ハンドリング性が著しく低下することがないので好ましい。
【0038】
また、コラーゲン含有溶液の重量に基づく(A)及び(A’)の合計の含有量は、好ましくは1〜10重量%であり、(B)及び(B’)の合計の含有量は、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0039】
また、コラーゲンの重量に対する(A)及び(A’)の合計重量は、好ましくは5〜1000倍、さらに好ましくは10〜100倍である。10倍以上であれば、可溶化効果をより十分に発揮しやすく、100倍以下であればコストの観点から好ましい。コラーゲンの重量に対する(B)及び(B’)の合計重量は、好ましくは0.4〜200倍、さらに好ましくは1〜100倍である。0.4倍以上であれば、コラーゲンの3重らせん構造の安定化効果をより十分に発揮しやすく、200倍以下であればコストの観点から好ましい。
コラーゲン含有溶液におけるpH緩衝剤の濃度は、前述のように100mM以下が好ましい。コラーゲン含有溶液における界面活性剤の含有量は、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0040】
コラーゲン含有溶液における無機塩類又は有機塩類の含有量は、好ましくは3重量%以下であり、塩化ナトリウムの場合は生理的な条件(0.9重量%程度)がさらに好ましい。
【0041】
コラーゲン含有溶液における水の含有量は、好ましくはコラーゲン含有溶液中の50〜97重量%、さらに好ましくは60〜95重量%である。
【0042】
コラーゲン含有溶液の調製方法としては、可溶化を目的とするコラーゲンに本発明のコラーゲン可溶化剤を4℃〜20℃で前記の好ましい濃度になるように添加し、均一に撹拌して混合することで達成できるが、コラーゲンの安定化の観点から可溶化剤にコラーゲンを添加する方法がより好ましい。なお、コラーゲンに本発明の可溶化剤を添加する場合は、可溶化剤の構成成分を別々に添加してもよい。
【0043】
本発明のコラーゲン含有溶液は、中性pH領域でコラーゲンを使用する用途であれば特に制限はないが、コラーゲン本来の機能を維持することができるので、化粧品(化粧水、美容液及び保湿クリーム等)並びに、全身洗浄料(洗顔料、ボディシャンプー及び入浴剤等)等に特に使用できる。
【0044】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下特に定めない限り、%は重量%を示す。
【0045】
製造例1
<N−α−アセチルアルギニンエチルエステル(B−1)の製造>
500mL容のコルベンに、N−α−アセチルアルギニン(エムピーバイオジャパン社製)12.6g(0.05当量)、メタンスルホン酸1g及びエタノール92g(2当量)を加え、マグネチックスターラーで20℃で均一混合した後、80℃で5時間加熱撹拌し、エバポレーターで濃縮後、水から再結晶し、減圧乾燥(60℃、20Pa)して、N−α−アセチルアルギニンエチルエステル(B−1)を得た。(収率88%)
【0046】
実施例1〜9、比較例1〜6
<コラーゲン可溶化剤の調製>
200mLのガラス製ビーカーに、アルギニン塩(A’)としてのアルギニン塩酸塩(A’−1)を表1記載の量(g)、アシルアルギニンエステル(B)としての前記(B−1)又はN−α−ベンゾイルアルギニンエチルエステル(B−2)(エムピーバイオ株式会社製)を表1記載の量(g)、界面活性剤としてのTWEEN80(和光純薬工業製)を表1記載の量(g)及び比較品を表1記載の量(g)を秤取し、緩衝剤としてのトリス−塩酸塩(pH7.0、但し実施例8はpH5.5、実施例9はpH8.5)の濃度が50mMとなるように、トリス−塩酸塩及びイオン交換水を加えて全量を100gとなるようにして充分に攪拌混合した。なお、比較品としてはラウリル硫酸ナトリウム、尿素及び塩酸グアニジンを使用した。
【0047】
<コラーゲン含有溶液の調製>
以下の成分を含むコラーゲン含有溶液を調製した。
実施例1〜9及び比較例1〜6の可溶化剤に、牛皮膚由来コラーゲン(イーエムディー・バイオサイエンス社製)を表1記載の濃度(%)となるように添加し、20℃でマグネチックスターラーを用いて撹拌溶解させた。
【0048】
【表1】

【0049】
<コラーゲン可溶化剤の可溶化効果の評価>
実施例1〜9および比較例1〜6のコラーゲン可溶化剤の可溶化効果の評価を、それぞれのコラーゲン含有溶液の外観を目視で評価した。判定基準は以下の通りである。
○:溶け残りが確認されない
×:明らかに溶け残りが確認される
【0050】
<コラーゲン含有溶液中のコラーゲンの3重らせん構造の残存率の測定方法:円二色性分光光度法>
6mL容のガラス製スクリュー管に上記実施例1〜9及び比較例1〜4のコラーゲン含有溶液を0.5mL分注し、50mMのトリス−塩酸水溶液(実施例1〜7及び比較例1〜4はpH7.0、実施例8はpH5.5、実施例9はpH8.5)を4.5mL加えて撹拌し、均一溶解させた。この水溶液をセル長1mmのセルに入れ、円二色性分光光度計(日本分光株式会社製、J−820)で222nmにおけるCD(Circular Dichloismの略で円二色性を示す)を測定した。なお、コラーゲンを含まない溶液でベースラインを測定した。本測定法では、コラーゲンの3重らせん構造の濃度とCD値は相関する。コラーゲン含有溶液調製直後(25℃)と、4℃と25℃で1週間静置保存した後に、各試料溶液についてCD値を測定した。溶液調製直後のCD値及び各温度で保存後のCD値と、pH3の酢酸水溶液に同濃度のコラーゲンを溶解した直後の水溶液のCD値との比を百分率で表してコラーゲンの3重らせん構造の残存率(%)とした。結果を表2に示す。比較例5及び比較例6はコラーゲンが可溶化しなかったので測定することができなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、比較例5及び比較例6はコラーゲンを可溶化することができなかった。比較例1〜3では、コラーゲンを可溶化できるが、可溶化直後でコラーゲンの3重らせん構造が消失している。比較例4は、コラーゲンを可溶化できるが、4℃で1週間保存した場合、らせん構造の残存率がかなり低下した。一方、本発明の可溶化剤を添加した実施例1〜9では、初期の残存率が高く、しかも4℃での経時的な残存率の減少も少ない。また、25℃で保存した場合、比較例4では顕著に残存率が低下するが、本発明の可溶化剤では、コラーゲンの3重らせん構造をほとんど維持できることが認められた。25℃での保存安定性に優れていることは、コラーゲン含有溶液の保管が常温で可能であることを示しており、従来は必要であった冷蔵保管を必ずしも必要としないという有利な効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のコラーゲン可溶化剤は、中性pH領域でコラーゲンの本来の機能を維持することができるので、化粧品(化粧水、美容液及び保湿ゲル等)並びに全身洗浄料(洗顔料、ボディシャンプー及び入浴剤等)等に使用できる。また、本発明のコラーゲン含有溶液は、細胞工学用途(細胞培養用足場材料及び細胞組織用接着剤等)にも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニン(A)及び/又はその塩(A’)、並びに一般式(1)で表されるアシルアルギニンエステル(B)及び/又はその塩(B’)を含有することを特徴とするコラーゲン可溶化剤。
【化1】

[式中、R1は水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基、R2はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項2】
コラーゲンが未変性のコラーゲンである請求項1に記載のコラーゲン可溶化剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか記載のコラーゲン可溶化剤及びコラーゲンを含有してなるコラーゲン含有溶液。
【請求項4】
コラーゲン含有溶液の重量に基づいて、コラーゲンを0.01〜5重量%含有する請求項3記載のコラーゲン含有溶液。
【請求項5】
コラーゲン含有溶液のpHが5.5〜8.5である請求項3又は4記載のコラーゲン含有溶液。

【公開番号】特開2009−203413(P2009−203413A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49407(P2008−49407)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】