説明

コラーゲン産生促進剤、それを含む皮膚外用組成物および化粧料

【課題】効率的に生産でき、かつ安全性の高い、優れたI型コラーゲンの産生促進剤、およびそれを含む外用剤および化粧料を提供することにある。
【解決手段】本発明によるコラーゲン産生促進剤は、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燕窩の酵素分解物を有効成分とするコラーゲン産生促進剤に関する。詳しくは本発明は、皮膚真皮繊維芽細胞におけるI型コラーゲン産生を促進する、コラーゲン産生促進剤に関する。さらに本発明は、その有効成分である燕窩の酵素分解物を含む、皮膚外用組成物および化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
肌荒れやしわ、肌のたるみ、張りの低下等の肌のトラブルは、特に女性にとって重大な関心事である。これらの肌のトラブルは、通常、環境的な要因や、老化といった加齢に伴う要因、さらにはストレスなどの心理的要因などにより引き起こされると考えられている。特に、近年の紫外線の増大や、エアコンの多用などに伴う生活環境の乾燥化などによる肌に悪影響を及ぼす環境的要因は増大しつつあると言える。
【0003】
皮膚組織は、表皮、真皮、皮下組織からなる。真皮には、コラーゲンやヒアルロン酸が多く含まれ、皮膚の保水性や弾力性に大きく関与している。コラーゲンやヒアルロン酸は、真皮中に存在する真皮繊維芽細胞が産生することが知られている。
【0004】
コラーゲンはヒトの生体内に存在するタンパク質のうち約30%を占め、その70%が真皮に存在すると言われている。真皮に存在するコラーゲンとしては、I型コラーゲンやIII型コラーゲンが含まれるが、主要なものはI型コラーゲンである。
【0005】
従来、肌の張りやツヤの向上、シワの予防改善を目的として、コラーゲンを配合した化粧料を外用で使用し、皮膚にコラーゲンを直接補う方法が多用されてきた。しかしながら、外用でコラーゲンを補った場合、皮膚真皮におけるコラーゲン量を増加させることは困難であったため、肌の張りやツヤの向上、シワの予防改善のためには、必ずしも十分とは言えなかった。
【0006】
皮膚が紫外線を含む光に曝されると、真皮の細胞外マトリックスの大半を占めるコラーゲンが顕著に減少し、その線維束の乱れが生じることが知られている。このため、真皮のコラーゲン量を増加させることは、シワの改善や防止などに有用であるとされている(非特許文献1(「機能性化粧品素材の開発のための実験法」(芋皮玄爾 監修)、2007年発行、シーエムシー出版、第45〜47頁))。またここには、中波紫外線(UVB)の照射によって、真皮繊維芽細胞のコラーゲン合成が大きく低下することが示されている。ここには、I型コラーゲン合成促進剤の例として、ビタミンC誘導体、乳清成分などが例示されている。
【0007】
一方、文献(非特許文献2(Akiko Kojima-Yuasa, et al., Fragrance Journal, April, 2009, No. 346 (Vol.37, No. 4), pp.103-))には、コラーゲン産生能の低下を抑制することは、QOLの向上改善に有用であり、皮膚におけるコラーゲン量の低下は、シワやたるみなどの原因となることが示されている。
【0008】
I型コラーゲンの産生促進剤としては、これまでに、特定の植物由来成分に着目してそれを利用したものが多く報告されている(例えば、特開2008−105984号公報(特許文献1)や、WO2004/085429(特許文献2))。
【0009】
燕窩は、アナツバメが自らの唾液を糸状にして作る巣であり、その成分としては、糖タンパク質を多く含み、脂質は殆ど含まれないことが知られている。燕窩は、従来、中華料理における食用素材や、漢方薬の原料などに使用されている。近年では、燕窩を原料に用いた健康食品なども開発されているが、外用剤や化粧料のような外用用途への適用例はまだ僅かしか知られていない。
【0010】
特開2003−95961号公報(特許文献3)には、燕窩の酵素分解物を用いた経口用の美肌促進剤が開示されている。しかしながら、ここには、経口用途のみが示されているに過ぎず、外用用途への利用可能性については何ら記載も示唆もされていない。またここでの効果は、肌のしっとり感の向上や、キメの細かな肌を得ることであって、肌の張りやツヤの向上や、シワの改善を伴う、I型コラーゲンの産生促進能については、何ら記載されていない。
【0011】
WO99/022709(特許文献4)には、燕窩の含水溶剤抽出物、特に熱水抽出物を含む化粧料が開示されている。この化粧料は、スキンケア用途に使用でき、外用用途で使用するものである。またここには、燕窩の含水抽出物が、皮膚細胞におけるコラーゲン合成促進効果を示すことも開示されている。しかしながら、ここで使用される抽出物は、燕窩を熱水抽出して、固形分を除去したものであり、燕窩全体を酵素処理してそのまま使用する燕窩酵素分解物とは、明らかに異なるものである。また効果に関しても、本発明者等の考える限り、改善の余地があると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−105984号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/085429
【特許文献3】特開2003−95961号公報
【特許文献4】国際公開WO99/022709
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「機能性化粧品素材の開発のための実験法」(芋皮玄爾 監修)、2007年発行、シーエムシー出版、第45〜47頁
【非特許文献2】Akiko Kojima-Yuasa, et al., Fragrance Journal, April, 2009, No. 346 (Vol.37, No. 4), pp.103-
【発明の概要】
【0014】
本発明者等は今般、燕窩の酵素分解物が、皮膚真皮繊維芽細胞におけるI型コラーゲンの優れた産生促進効果を有することを見出した。この効果は、燕窩の熱水抽出物に見られた効果よりも顕著なものであり、また、酵素分解をより進めた酵素分解物において、その効果はより顕著であった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0015】
よって本発明は、効率的に生産でき、かつ安全性の高い、優れたI型コラーゲンの産生促進剤、およびそれを含む外用剤および化粧料の提供をその目的とする。
【0016】
本発明によるコラーゲン産生促進剤は、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。
【0017】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記酵素分解物は、プロテアーゼによる分解物である。
【0018】
本発明の一つのより好ましい態様によれば、前記酵素分解物の分子量は、70〜200,000である。
【0019】
本発明の一つのさらに好ましい態様によれば、前記酵素分解物の平均分子量は、300〜15,000である。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるコラーゲン産生促進剤は、皮膚真皮繊維芽細胞におけるI型コラーゲン産生を促進するためのものである。
【0021】
本発明の別の態様によれば、本発明によるコラーゲン産生促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物が提供される。好ましくはこの組成物は、スキンケアに用いられ、より好ましくは、肌の張りとツヤの向上、およびシワの防止もしくは改善に用いられる。
【0022】
本発明の別のより好ましい態様によれば、本発明による皮膚外用組成物は、化粧料である。
【0023】
本発明によれば、燕窩の酵素分解物を有効成分として使用することで、ヒト皮膚真皮線維芽細胞のコラーゲンの産生を、従来に比べて顕著に促進させることができる。またこの真皮線維芽細胞のコラーゲンの産生促進能に基づいて、酵素分解物を皮膚外用用途または化粧料用途に使用することで、肌の張り(弾力性)を向上させ、肌のツヤを向上させ、さらには、シワを予防または低減させることができる。さらに日焼け後の肌においてコラーゲン合成が低下したような状態の肌においてコラーゲン産生を促進して、肌の張りやツヤの向上や、シワの改善を行うことができる。このようにして本発明によれば、消費者のQOLの向上を図ることができる。また、使用される酵素分解物は、食用素材としても周知な燕窩を使用するため、安全性が高く、消費者にも受け入れられやすいものである。さらに酵素分解物は、燕窩をそのまま酵素処理して得ることができるため、効率的に製造でき、また製造コストも低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】燕窩サンプル中のシアル酸量の測定結果を示すグラフである。
【図2】燕窩サンプル中のタンパク質量の測定結果を示すグラフである。
【図3】GPC−HPLCによる燕窩酵素分解物1の測定結果を示すグラフである。
【図4】GPC−HPLCによる燕窩酵素分解物2の測定結果を示すグラフである。
【図5】コラーゲンの産生促進能の測定結果を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0025】
有効成分
本発明によるコラーゲン産生促進剤は、前記したように、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。
【0026】
酵素分解物の原料である燕窩は、アナツバメが自らの唾液を糸状にして作る巣であり、その成分としては、糖タンパク質を多く含み、脂質はほとんど含まれていない。ここでアナツバメとは、アマツバメ科(Apodidae)のアナツバメ属(Collocalia)に属するツバメ類のことであり、例えば、Apodidae Collocalia francicaApodidae Collocalia salanganaApodidae Collocalia fuciphagaApodidae Collocalia inexpectataApodidae Collocalia vestitaApodidae Collocalia esculentaApodidae Collocalia maximusなどが挙げられる。
【0027】
本発明において、燕窩は、市販品を使用できる。一般に市販されている燕窩には、毛や糞等の汚れを取り除いて洗浄しただけのものから、燕窩のクズを集めて漂白と洗浄を繰り返して成形したものまで、様々な種類があるが、本発明で用いる燕窩は、前処理において過度の洗浄や漂白等が行われていない燕窩を用いることが好ましい。
【0028】
燕窩の酵素分解物とは、燕窩を酵素反応を適用して分解し、得られたものを意味し、燕窩またはその処理物を、プロテアーゼやプロテアーゼを含む複合酵素等を用いて分解することにより得ることができる。ここで分解処理に使用する酵素としては、好ましくはプロテアーゼであり、より好ましくはパンクレアチンである。
【0029】
燕窩の酵素分解物は、通常、まず加熱殺菌処理を施した後、水中にて酵素処理に付すことによって行うことができる。殺菌処理の条件は、慣用の加熱殺菌条件を適宜参考にして設定することができ、酵素処理の条件も、使用する酵素の種類や、燕窩の状態に応じて適宜設定することができる。
より具体的な例を挙げれば、燕窩の酵素分解物は、以下のようにして調製することができる。
【0030】
例えば、粉砕した燕窩に、その質量の10〜50倍の水を加えて膨潤させた後、60〜130℃で、5秒〜30分間加熱殺菌処理する。その後、適量の酵素をそのまま添加して、酵素の至適pH、至適温度で0.5〜48時間酵素反応を行なう。酵素反応終了後、加熱処理等により酵素を失活させ、反応液を濾過して不溶物を除去することにより、燕窩の酵素分解物を得ることができる。また、この酵素分解物は、必要に応じて乾燥して粉末化してもよい。なお、上記の各工程においては、適宜pH調整、脱色、脱臭等の操作を行なってもよい。
【0031】
別の例として、燕窩の処理物を酵素分解する場合には、粒径2mm以下、好ましくは150μm以下に粉砕した燕窩に、その質量の10〜100倍の水を加えて、1〜60℃、0.5〜48時間静置または撹拌して膨潤させた後、60〜130℃、5秒〜30分間加熱殺菌処理し、必要に応じて濾過して、得られた溶液を、上記と同様にして酵素処理に付すことにより、燕窩の酵素分解物を得ることができる。
【0032】
酵素分解物の調製法において、酵素反応の時間が長いほど、タンパク質の分解が進み、より低分子のタンパク質を含む、酵素分解物が得られることとなる。本発明においては、酵素反応時間を、0.5〜48時間、好ましくは3〜36時間、より好ましくは約24時間程度として、酵素反応をより進行させた酵素分解物が好ましい。
【0033】
このようにして得られる燕窩の酵素分解物の分子量は70〜200,000が好ましく、70〜180,000がより好ましい。さらに好ましくは、分子量は、70〜150,000であり、さらにより好ましくは、70〜120,000である。
【0034】
また燕窩の酵素分解物の平均分子量(重量平均分子量)は、300〜100,000が望ましく、300〜70,000が好ましい。より好ましくは、平均分子量は、300〜50,000であり、さらに好ましくは300〜30,000であり、さらにより好ましくは300〜20,000であり、特に好ましくは300〜15,000である。
【0035】
皮膚外用組成物
本発明によるコラーゲン産生促進剤は、単独でそのままでも使用することができるが、化粧料、医薬品、医薬部外品などの種々の皮膚外用組成物に添加剤として含有させることができ、コラーゲン産生促進効果を有する組成物を得ることができる。得られた組成物は、スキンケア、好ましくは、肌の張りとツヤの向上、およびシワの防止もしくは改善に有効に使用することができる。
【0036】
本発明による有効成分である燕窩の酵素分解物は、ヒト皮膚真皮繊維芽細胞におけるI型コラーゲンの産生促進活性を有する(後述する実施例の試験結果)。
【0037】
したがって、本発明において、コラーゲンの産生促進活性とは、ヒト皮膚真皮の繊維芽細胞のI型コラーゲンの産生能を促進または改善する作用を意味し、これにより、ヒト皮膚真皮においてコラーゲン量が増大し得ることを意味する。真皮のコラーゲン量を増加させることによって、シワの改善や防止効果が得られ、また、肌の張り(弾力性)を向上させ、また肌のツヤを向上させることができることは、当業者にとり周知のことである(例えば、前述の文献(「機能性化粧品素材の開発のための実験法」(芋皮玄爾 監修)、2007年発行、シーエムシー出版、第45〜47頁(非特許文献1))や、文献(Akiko Kojima-Yuasa, et al., Fragrance Journal, April, 2009, No. 346 (Vol.37, No. 4), pp.103-(非特許文献2))などにこの点が明確に示されている。したがって、本発明による有効成分が、真皮におけるコラーゲン産生促進活性を有することが確認されていることから、本発明による有効成分が、スキンケア、好ましくは、肌の張りとツヤの向上、およびシワの防止もしくは改善に有効であることは明らかである。
【0038】
なお、本明細書において、肌の張りやツヤ、シワなどの肌もしくは皮膚の状態の「予防または改善」とは、該状態の、調節、進行の遅延、緩和、発症予防、再発予防、抑制などを包含する意味で使用される。
【0039】
よって前記したように、本発明の別の態様によれば、本発明によるコラーゲン産生促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物が提供される。好ましくは、皮膚外用組成物は、医薬品、医薬部外品、または化粧料として提供され、より好ましくは、化粧料として提供される。
【0040】
本発明による皮膚外用組成物(特に化粧料)において、有効成分である燕窩酵素分解物の含有量(乾物換算)は、特に制限はなく、組成物の形態により異なるが、一般には固形分として、0.001〜20重量%、好ましくは0.005〜5重量%の範囲であり、組成物の形態に応じて適宜変更することができる。
【0041】
あるいは、本発明による皮膚外用組成物における燕窩酵素分解物の含有量(乾物換算)は、1日当り0.01mg以上、より好ましくは0.01mg〜2mg、1平方cmあたりの皮膚に適用できるように含むことが好ましい。
【0042】
本発明による皮膚外用組成物は、有効成分を含み、かつコラーゲンの産生促進効果を損なわない限りにおいて、本発明による促進剤は、他の任意成分をさらに含んでなることができる。このような任意成分としては、例えば、皮膚外用剤や化粧料に慣用されている各種成分、例えば、保湿剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、界面活性剤、緩衝剤、乳化剤、安定化剤、増粘剤、酸化防止剤、防腐防菌剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、抗炎症剤、水、ペプチド、糖アルコール類、酵素類、植物エキス類、抗酸化物質類、タルク、クレイ、花粉、パールなどが挙げられる。
【0043】
ここで保湿剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等の酸性ムコ多糖類、アミノ酸、コラーゲン、エラスチンなどが挙げられる。
【0044】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0045】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリストリール、ジペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0046】
糖類としては、例えば、グルコース、マルトース、ラクトース、D−グルクロン酸、サッカロース、D−ソルビット、ソルビタン、セルロース、デンプンなどの糖類、オリゴ糖類、多糖類およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0047】
本発明による皮膚外用組成物は、燕窩酵素分解物を含むコラーゲン産生促進剤およびこれらの任意成分を、公知の方法に従って適宜配合し調整することによって、ローション、乳液、クリーム、保湿液、パック剤、化粧水、洗顔料、ボディローション、ボディクリームなどの種々の化粧料において慣用の製品形態とすることができる。本発明による皮膚外用組成物は、さらに、ファウンデーション類、リップスティック、アイシャドウ、頬紅などのメーキャップ化粧品や、日焼け止め用製品や防臭化粧品などの薬用化粧品、シャンプーやヘアリンス、整髪料などの頭髪用化粧品、皮膚洗浄剤や浴剤の浴用化粧品などとして用いてもよい。
【0048】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の有効成分である酵素分解物の有効量を、ヒトを含む哺乳動物の皮膚に適用することを含んでなる、皮膚におけるコラーゲンの産生促進方法が提供される。なおここで「有効量」とは、適用によって、体内における所望の領域において、コラーゲンの産生促進活性を発揮しうるのに十分な量である。
【0049】
さらに本発明のさらに別の一つの態様によれば、本発明の有効成分の有効量を、ヒトを含む哺乳動物の皮膚に適用することを含んでなる、スキンケア方法が提供される。同様に、本発明の有効成分の有効量を、ヒトを含む哺乳動物の皮膚に適用することを含んでなる、肌の張りとツヤを向上させ、シワを防止もしくは改善する方法も提供される。なおここで「有効量」とは、所望の効果が得られるのに十分な量である。
【0050】
なお本明細書において、「約」および「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。例えば、所定の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内の変動を許容し得ることを意味する。
【実施例】
【0051】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
(1) 燕窩サンプルの調製
(1-1) 燕窩酵素分解物1
市販の無漂白の燕窩を粉砕機で粉砕して、100メッシュパス(粒径150μm以下)の燕窩粉末を得、この燕窩粉末に、約50倍量(質量)の水を加えて5℃で20時間膨潤させた後、121℃、15分間加熱殺菌処理した。
【0053】
得られた処理液を冷却した後、pHを調整し、燕窩粉末に対して2質量%の量のプロテアーゼ含有酵素(商品名「パンクレアチンF」、天野製薬株式会社製)を添加して、45℃で3時間反応させた。
【0054】
この酵素反応液をpH7.0に調整した後、90℃で5分間加熱して酵素を失活させて、濾過し、濾液を回収した。この濾液を濃縮後、凍結乾燥して、「燕窩酵素分解物1」を得た。
【0055】
(1-2) 燕窩酵素分解物2
酵素反応の時間を24時間とした以外は、前記(1-1)項の酵素分解物1と同様に行い、「燕窩酵素分解物2」を得た。
【0056】
(1-3) 燕窩熱水抽出物(比較例)
市販の無漂白の燕窩(乾燥物)40gを粉砕機で粉砕し、この粉砕物を、1000mlの蒸留水に加えて、加熱還流下にて2時間抽出処理を行った。加熱還流後、静置した後、上清を分取して濾過し、濾液を回収した。残渣についてはさらに、上記と同様に1000mlの蒸留水に加えて、加熱還流下にて再抽出処理を行った後、固形物残渣を濾過により除去し、濾液を回収した。得られている濾液(抽出液)を併せ、減圧下にて濃縮し、得られた濃縮物を凍結乾燥して、黄白色の「燕窩熱水抽出物」(比較例)を得た。
【0057】
(2) 燕窩サンプルの分析
得られた各燕窩サンプル(燕窩酵素分解物1、燕窩酵素分解物2および燕窩熱水抽出物)中のシアル酸量とタンパク質量とを下記のようにして測定した。
シアル酸の量は、各試料を酸加水分解後に高速液体クロマトグラフィーにて遊離N−アセチルノイラミン酸として測定した。
タンパク質の量は、Brad ford法に基づくBio Rad社のプロテインアッセイキットを使用して測定した。
【0058】
結果は、図1および図2に示される通りであった。
【0059】
次に、燕窩酵素分解物1および燕窩酵素分解物2に含まれるタンパク質の分子量およびその分布を測定するため、下記のような条件にて、GPCによる分析を行った。
【0060】
[HPLCの測定条件]
・カラム: Shodex Asahipak GS320HQ (φ7.6×300mm)
・カラム温度: 35℃
・移動相: 50mM CHCOONH pH6.7
・流速: 0.4ml/min
・試料注入量: 10μl
・検出器: 紫外分光検出器(UV220nmにて測定)
[使用した分子量マーカー]
・BSA MW 66,000
・Gly-gly MW 132.1
・Gly-gly-gly MW 189.17
・L-Asparaginic acid MW133.1
・DL-Asparaginic acid MW 150.1
・N-Acetylneuraminic acid MW 309.3
【0061】
測定結果は、図3および図4に示される通りであった。
【0062】
さらに、燕窩酵素分解物に含まれるタンパク質の分子量について、ウエスタンブロッド法を使用して評価した。具体的には、まず、前記した測定法に従い、燕窩酵素分解物中のタンパク質の量を確認した。燕窩酵素分解物由来のタンパク質(100μg)を、SDS−PAGEを用いて、10〜15%のポリアクリルアミドにより分離した。ゲルに展開したタンパク質をImmuno-blot PVDF膜(Polyvinylidene difluoride、Bio-Lad Lab社より入手)に転写した。PVDF膜を3%スキムミルクと0.1% Tween-20を含むPBS中にて、1時間ブロッキングし、視覚的に判定した。
なお、タンパク質の分子量の評価にあたっては、公知文献(Guo, C. T., Suzuki Y., et al., Antiviral Res. 70, pp.140-146 (2006) に示されているデータも参考にした。
【0063】
これらの結果から、燕窩酵素分解物中に含まれるタンパク質分子量は、約70〜120,000程度(なお評価条件によっては、上限値は200,000程度となる場合がある)の範囲で存在することがわかった。
【0064】
さらに、得られた結果から、燕窩酵素分解物1におけるタンパク質の平均分子量は、約55,000であるとわかった。また、燕窩酵素分解物2におけるタンパク質の平均分子量は、約33,000であるとわかった。
【0065】
(3) コラーゲンの産生促進能の測定
正常ヒト皮膚真皮線維芽細胞(KF−4109、クラボウ社より入手)を、0.5%仔牛血清(FBS)含有DMEM培地(SIGMAより入手)を用いて、96穴プレートに2×10cellsの細胞密度にて播種した。播種24時間後、所定の濃度の各燕窩サンプルを含有した0.5%FBS含有DMEM培地と交換し、さらに24時間培養した。
なおポジティブコントロール(P.C.)として、アスコルビン酸リン酸マグネシウム(VC−PMg)を使用した。
【0066】
培養後、培地上清を回収し、上清中のI型コラーゲン量をELISA法により測定した。なお、ELISA法では、一次抗体に、Anti-Human Collagen Type I 抗体(Rabit)を用い、二次抗体にヒストファインPO(Rabit)を用い、さらに発色剤には、2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)を用い、マイクロプレートリーダーにて405nmの吸光度を測定した。
培地中のI型コラーゲン量は、全細胞のタンパク質量で培地中のI型コラーゲン量を除することによって単位タンパク質量当たりのI型コラーゲン産生量として算出した。
【0067】
結果は図5に示される通りであった。
結果から、燕窩の酵素分解物が、ヒト皮膚真皮線維芽細胞のI型コラーゲン産生を有意に増加させることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燕窩の酵素分解物を有効成分とする、コラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
酵素分解物がプロテアーゼによる分解物である、請求項1に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
酵素分解物の分子量が、70〜200,000である、請求項1または2に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項4】
酵素分解物の平均分子量が、300〜15,000である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項5】
皮膚真皮繊維芽細胞におけるI型コラーゲン産生を促進するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のコラーゲン産生促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物。
【請求項7】
スキンケアに用いられる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
肌の張りとツヤの向上、およびシワの予防もしくは改善に用いられる、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
化粧料である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−6331(P2011−6331A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148754(P2009−148754)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】