説明

コンクリートのトレーサビリティ管理方法及び管理装置

【課題】生成されたコンクリートの生成時間や性状を含む情報をトンネル外において一元的に管理するとともに、生成されたコンクリートとシールド掘進機によって打設されたコンクリートの位置情報とを対応付け、コンクリートの使用履歴を過去に遡って容易に確認可能なトレーサビリティ管理方法及び管理装置を提供する。
【解決手段】コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報をコンクリート生成のたびに順次記憶し、コンクリートの生成時間及び性状情報をトンネル掘進装置側から出力されるトンネル掘進機の位置情報と対応させて記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの品質管理に関し、特にトンネル掘進機によって打設される覆工コンクリートのトレーサビリティ管理方法及び管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネル工事においては、シールド掘進機の胴体前側(切羽側)に回転可能に設けられた掘削機構により地山の掘削を行いつつ、胴体後側(坑口側)に設けられた打設機構により地山周面に対して逐次コンクリートを打設する工法が採用されつつある。
当該工法に採用されるシールド掘進機は、概略、円筒形の胴体と、胴体の前部に回転可能に設けられたカッターと、胴体の内部後側(テール)において、胴体内部に設けられたエレクター機構によって組み付けられた内型枠の外周面と地山の表面とからなる空間内にコンクリートを圧送する妻枠装置とを備える。
妻枠装置は、シールド掘進機の掘進動作(シールドジャッキの伸び動作)と連動してコンクリートを内型枠の外周面と地山の表面とからなる空間に圧送する機構であり、当該妻枠装置により圧送,打設されるコンクリートには、土圧,地下水圧に対する十分な強度を担保することが要求される。
このようなことから覆工コンクリート用のコンクリートは、トンネルの坑内、又は、地表面のようなシールド掘進機から可能な限り近い位置に建設されたバッチャープラントによって生成されたフレッシュな状態のコンクリートが用いられる。
しかしながら、上記従来の工法にあっては、コンクリートが生成される場所とシールド掘進機が進行する場所とが離れた場所にあること等の障害から、バッチャープラントによって逐次生成されるコンクリートと、シールド掘進機の坑内における位置とを対応付けて管理する手法が確立されておらず、例えばシールド掘進機が何らかの事情によって停止した場合等には、生成したコンクリートの使用可能時間(可使時間)を過ぎたコンクリートが覆工コンクリートとして使用される可能性があり、トンネル完成後の強度不足等の品質上の問題が生じる虞がある。
また、近年、構造物の品質管理に対する意識の高まりから、生成したコンクリートがトンネル全長の如何なる場所に打設されたのかを把握すべきとの要望も強く、生成したコンクリートの使用履歴(トレーサビリティ)を確保することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−157739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、生成されたコンクリートの生成時間や性状を含む情報をトンネル外において一元的に管理するとともに、生成されたコンクリートとシールド掘進機によって打設されたコンクリートの位置情報とを対応付け、コンクリートの使用履歴を過去に遡って容易に確認可能なトレーサビリティ管理方法及び管理装置を提供し、さらに、完成後のトンネルの品質低下を確実に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の第一の形態として、コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートをトンネル掘進装置に供給し、トンネル掘進後の地山の表面にコンクリートを覆工するトンネル掘進工法におけるコンクリートのトレーサビリティ管理方法であって、コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報をコンクリート生成のたびに順次記憶し、コンクリートの生成時間及び性状情報をトンネル掘進装置側から出力される位置情報と対応させて記憶する形態とした。
当該形態により、コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報と、トンネル内におけるトンネル掘進装置の位置情報を的確に把握することができる。
さらに、コンクリートの生成時間及び性状情報がトンネル内のトンネル掘進機の位置情報と対応して記録されることから、コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートがトンネルの如何なる場所に使用されたかを容易に把握することができる。
また、本発明の第二の形態として、コンクリートの生成時間に基づいて算出されるコンクリートの可使時間と、トンネル掘進装置側から出力される位置情報に基づいて算出されるコンクリートが打設されるまでの作業完了時間とに基づいて可使時間に達するまでの余裕時間を算出し、当該余裕時間に基づいてコンクリートをトンネル掘進装置から排出する形態とした。
本形態によれば、可使時間と作業完了時間から可使時間に達するまでの余裕時間が算出されることにより、トンネル外においてコンクリートが可使時間に達するまでの時間を逐一確認することが可能となる。
また、余裕時間に基づいてコンクリートをトンネル掘進装置から排出することから、可使時間が経過したコンクリートが地山の表面に打設されることがなくなり、トンネル完成後の品質低下を確実に防止することが可能となる。
また、上記第一の形態と対応する第一の構成として、コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートをトンネル掘進装置に供給し、トンネル掘進後の地山の表面にコンクリートを覆工するトンネル掘進工法におけるコンクリートのトレーサビリティ管理装置であって、生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報をコンクリート生成のたびに順次記憶するコンクリート側制御装置と、トンネル掘進装置の位置情報を中央制御装置に出力する掘進機側制御装置とを備え、中央制御装置が、コンクリート側制御装置及び掘進機側制御装置と通信手段を介して相互に接続され、コンクリート側制御装置から順次出力されるコンクリートの生成時間及び性状情報と掘進機側制御装置から出力される位置情報とを対応させて記憶する構成とした。
本構成によれば、前記第一の形態における発明から生じる効果と同様の効果を得ることができる。
また、上記第二の形態と対応する第二の構成として、中央制御装置は、コンクリートの生成時間に基づいてコンクリートの可使時間を算出する可使時間算出手段と、掘進機側制御装置から送信される位置情報に基づいて前記コンクリートが打設されるまでの作業完了時間を算出する作業完了時間算出手段と、可使時間と作業完了時間とに基づいて可使時間に達するまでの余裕時間を算出する余裕時間算出手段とを備え、余裕時間に基づいてコンクリートを排出する構成とした。
本構成によれば、前記第二の形態における発明から生じる効果と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】シールド掘進機1の概略断面図である。
【図2】妻枠装置22の部分拡大図である。
【図3】中央制御装置100の接続状態を示すブロック図である。
【図4】中央制御装置100によって出力される一覧の例である。
【図5】中央制御装置100による処理のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、シールド掘進機1の全体構成を示す概略断面図である。
同図を用いて、シールド掘進機1の構造、掘進方法及びコンクリートの打設方法の概略について説明する。同図において、トンネルTを掘進する装置としてのシールド掘進機1は、地山2から加わる土圧,地下水圧に対して内部を保護する胴体4内に設けられる推進機構と、胴体4の前側(切羽側)で地山の掘削を行う掘削機構5と、胴体4の後側(テール側)で覆工コンクリートの打設を行う打設機構6とを有する。
シールド掘進機1は、胴体4で地山を保持しつつ、前側の掘削機構5で地山2の掘削を行いながら、後側の打設機構6でコンクリートを打設する装置であって、掘削、推進、打設の動作が連動して行われることによりトンネルを構築する。
【0008】
シールド掘進機1の胴体4は、地山2の表面と対向する後方開放のスキンプレート3を有し、スキンプレート3の前方が隔壁7によって閉塞される。なお、シールド掘進機1の前側とは、シールド掘進機1が地山2を掘削して進む方向であり、掘削機構5が設けられる方向である。
隔壁7よりも前側には、掘削機構5が設けられる。掘削機構5は、筒形状のカッターヘッド11と、カッターヘッド11の前側に設けられる複数のカッタービット12と、カッターヘッド11の後側から延長する回転軸8により構成される。
カッターヘッド11は、回転軸8と接続される図外の駆動源が駆動することにより回転動作する円盤体であって、カッターヘッド11の前側に設けられる複数のカッタービット12により切羽面が掘削される。回転軸8は、カッターヘッド11の中心においてカッターヘッド11の後側から延長して隔壁7を貫通する軸体であって、図外の駆動源と伝達機構を介して接続される。
【0009】
また、カッターヘッド11の後側には、スキンプレート3の前端部と隔壁7及びカッターヘッド11の後面とにより囲まれる空間であるチャンバ13が形成される。
チャンバ13は、カッターヘッド11の回転動作によって取り込まれる掘削土を貯留するための空間であり、チャンバ13に貯留された掘削土はスクリューコンベア14によって坑口E側に排出される。
【0010】
スクリューコンベア14は、外筒、スクリューシャフト、スクリュー、モータ等により構成され、チャンバ13の下端部からシールド掘進機1の後側に向かって、漸次上方へ立ち上がるように設けられる。スクリューコンベア14は、チャンバ13内に露出する一方の端部から掘削土を取り込み、取り込んだ掘削土を連結体16を介して接続される排泥管15に搬送する。
排泥管15は、スクリューコンベア14の後端部から後側に向かって水平に延長する配管であり、図外の水供給装置により泥土状となった掘削土を坑口E側に排出する。
なお、本例においては、いわゆる土圧式のシールド掘進機を例として説明するが、これに限られるものではなく、泥水式のシールド掘進機であってもよい。泥水式のシールド掘進機にあっては、スクリューコンベア14に替えて排泥管が採用される。
【0011】
胴体4を構成するスキンプレート3の後端部(テール)には、トンネルTの延長方向に沿って複数の内型枠10が配置される。
内型枠10は、地山2の内周面に対して所定間隔離間して設けられる型部材であって、例えば掘削対象のトンネルTの縦断面が真円状である場合には、トンネルTの円周方向に沿って例えば8分割された弧状の内型枠10が採用される。
内型枠10は、地山2の表面及び内型枠10の外周面によって形成される空間内に覆工コンクリート17が打設されたときに加わるプレス圧を支持する機能、充填された充填材の養生期間中に地山2から加わる土圧,地下水圧を支持する機能、及び、後述のシールドジャッキ9が伸長することによるシールド掘進機1の推進力を伝達する機能を担う。
【0012】
シールド掘進機1の胴体4を構成するスキンプレート3の内周面には、推進機構としてのシールドジャッキ9が円周方向に沿って複数設けられる。シールドジャッキ9は、油圧シリンダーとピストンとからなり、油圧シリンダーの駆動によりピストンが移動し、シールドジャッキ9が伸長する。シールドジャッキ9の先端面9Aは前述の内型枠10の前端面と当接しており、シールドジャッキ9の伸長に伴って内型枠10の前端面を押圧し、その反力によってシールド掘進機1が切羽方向へ前進する。
即ち、シールド掘進機1は、胴体の前側に設けられた掘削機構5を駆動させつつシールドジャッキ9を伸長させることにより、カッタービット12を切羽面に押し当て、掘削土の量に応じた距離だけ前進する。また、シールドジャッキ9のストローク量は、ストローク計9Bによって計測され、ストローク計9Bからの出力信号が後述のシールド制御装置41に対して逐次出力される。
【0013】
複数の内型枠10は、エレクター装置42によって組み付けられる。エレクター装置42は、当該エレクター装置42の後方から図外の搬送手段によって搬送される内型枠10を保持し、シールド掘進機1が進行するたびにスキンプレート3のテールにおいて複数の内型枠10を円環状に組み付ける装置である。
組み付けられた内型枠10は、既打設のコンクリート17の養生期間経過後にエレクター装置42よりも後方に設けられた図外の脱型装置により取り外され、搬送手段を介して再びエレクター装置42側に搬送される。そして、エレクター装置42によって円環状に組み付けられた内型枠10の外周面と地山2の表面とにより形成される空間内には、打設機構6によってコンクリート17が打設される。
【0014】
打設機構6は、シールド掘進機1の後方において、バッチャープラント60によって生成されたコンクリートを前側に圧送する複数のコンクリートポンプ18と、コンクリートポンプ18の駆動によりコンクリートを前側に供給する圧送管19と、圧送管19を経て供給されるコンクリートを内型枠10の外周面と地山2の表面とにより形成される空間内に打設する妻枠装置22とから構成される。
【0015】
複数のコンクリートポンプ18は、坑内に設けられたシールド制御装置41からの出力信号により所定の圧力でコンクリートを圧送する装置である。コンクリートポンプ18に対しては、地表面G上に建設されるバッチャープラント60によって生成されたコンクリートが、アジテータートラック44によって供給される。アジテータートラック44は、コンクリートポンプ18までトンネル内を移動可能であり、トンネル内を往復することによりバッチャープラント60によって生成されたコンクリートを順次コンクリートポンプ18まで搬送する。
【0016】
妻枠装置22は、前述の圧送管19を経て搬送されたコンクリートをスキンプレート3の円周方向に分岐して供給する打設配管21と、当該打設配管21と接続され、前後方向に延長する打設配管23と、打設配管23の流路中に設けられる三方バルブ25と、打設配管23と並行して設けられ、前後方向に伸縮自在な妻枠ジャッキ22Aと、妻枠ジャッキ22Aの先端部に設けられた妻枠22Bとから構成される。
妻枠ジャッキ22Aは、内型枠10の外周面と地山2の表面とにより形成される空間内に打設されるコンクリートの圧力に応じてバネの如く伸縮動作するジャッキであり、空間内のコンクリートの圧力が一定の圧力以上に高まることにより徐々に収縮する。
【0017】
図2は、妻枠装置22の部分拡大図である。
打設配管23は、打設配管21と妻枠22Bに内蔵された流路23Aとに連通し、打設配管21から供給されるコンクリートが流路23Aを介して妻枠22Bの打設口23Bから吐出される。打設口23Bは、前述のシールドジャッキ9の先端面9Aよりも、内型枠10二つ分(2リング分)後方に位置し、打設配管21や打設配管23或いは妻枠22B内に設けられた打設圧力計の計測値が一定の圧力となるようにトンネルTの延長方向にコンクリートを吐出する。
また、打設配管23には、三方バルブ25が設けられ、三方バルブ25と接続される排出配管26がコンクリート排出用配管28と接続される。
三方バルブ25は、後述のシールド制御装置41からの出力信号により駆動するバルブであって、内部を通過するコンクリートの流出方向を打設口23B側又は排出配管26側へ切り替えることにより可使時間が経過したコンクリートを排出する。
コンクリート排出用配管28は、排出配管26を介して排出されるコンクリートを坑口E側に排出する配管であって、スキンプレート3の円周方向に沿って複数配置される妻枠装置22から延長する各排出配管26と接続される。コンクリート排出用配管28は、シールド掘進機1の後方のコンクリートポンプ18の位置まで延長し、アジテータートラック44に積み替えられた後に坑外に搬送される。
【0018】
妻枠22Bは、内型枠10の外周面とスキンプレート3のテールの内周面との間に位置する型枠であって、妻枠ジャッキ22Aの伸長動作に伴って、前後方向に移動可能である。また、前述のとおり、内部には打設配管23と接続される流路23Aを有し、打設配管21、打設配管23及び当該流路23Aを経たコンクリートが先端部に開設された打設口23Bから地山2側に吐出される。
妻枠22Bには、例えば積層されたステンレスの板バネからなるシール部27が取り付けられ、打設口23Bから吐出されたコンクリートが内型枠10の外周面及びテール3Aによって形成される空間から胴体4内部に侵入することを阻止する。
【0019】
上記構成からなる妻枠装置22は、地山2の表面及び内型枠10の外周面によって形成される空間内にコンクリートを密実化した状態で打設する。
具体的には、コンクリートポンプ18により打設圧力及び打設量を調整しながら、地山2の表面及び内型枠10の外周面によって形成される空間に対してコンクリートを常に一定の圧力となるように吐出することにより密実化した状態で打設する。
つまり、本発明に係るシールド掘進機1は、掘進と覆工とを並行して行うことができる装置であって、シールド掘進機1が通過した地山2の表面には、その進行方向に沿って地山2の表面を覆う覆工コンクリート層が連続して形成される。
【0020】
図1に戻って、シールド掘進機1に対して供給されるコンクリートを生成する設備について説明する。シールド掘進機1の発進地点となる坑口Eの地表面Gには、コンクリートの管理、及び、シールド掘進機1のオペレーション管理を司る管理室50と、管理室50の近傍に位置するバッチャープラント60とが併設される。
管理室50内には、バッチャープラント60内の制御装置101、及び、トンネルT内に設けられたシールド制御装置41と通信手段を介して相互に接続される中央制御装置100が設置される。ここで通信手段としては、有線,無線の種別を問わず、地表面G側に設置される中央制御装置100及び制御装置101と、トンネルT内に設置されるシールド制御装置41との相互通信が可能な形態であれば良く、坑内に図外の中継機器を設けてもよい。なお、管理室50をトンネル坑内に設けてもよい。
中央制御装置100は、CPU,ROM,RAM等によって構成される記憶部100A,演算処理部100Bとを有するいわゆるコンピュータであって、バッチャープラント60に設けられる制御装置101、及び、トンネルT内のシールド制御装置41から出力される情報に基づいて処理結果を表示画面102に出力,表示する。
【0021】
バッチャープラント60は、コンクリートの材料となる骨材を貯蓄するサイロや、サイロ内の骨材を搬送するためのベルトコンベア、材料を混練するスクリューやコンクリートポンプ等を備えるコンクリート生成施設であって、中央制御装置100からの出力に基づいてコンクリートを生成するとともに、練り上がったコンクリートの生成時間、各種の性状をコンクリートの所定単位ごとに記録し、中央制御装置100に出力する制御装置101を備える。
バッチャープラント60によって生成されたコンクリートは図外の搬送手段によって坑内へ搬送され、坑内に配備されたアジテータートラック44によってシールド掘進機1のコンクリートポンプ18に供給される。以下、コンクリートのトレーサビリティ管理方法について説明する。
【0022】
図3は、トンネルTの外に設置される中央制御装置100及び制御装置101と、トンネル内に設置されるシールド制御装置41との接続状態を示すブロック図である。
同図において制御装置101は、図外の記録領域にバッチャープラント60によって順次生成されるコンクリートの生成時間及び性状情報を所定単位ごとに順次記録する。
ここで、性状情報とは、例えば、コンクリートの生成量、コンクリート配合割合、電流値等であり、所定単位のコンクリートごとにこれらの性状が対応付けて記録される。
また、本例において所定単位とは例えば1mであって、バッチャープラント60によって1mのコンクリートが生成されるたびにコンクリートの生成時間及び性状情報を記録する。
制御装置101は、コンクリートの生成時間及び性状情報を記憶するとともに、順次、中央制御装置100に対してコンクリートの生成時間及び性状情報が含まれるコンクリート生成データを送信する。
【0023】
中央制御装置100は、記憶部100Aと演算処理部100Bとを備え、制御装置101から順次送信される上述のコンクリート生成データ、及び、シールド制御装置41から順次送信されるシールド掘進機1の位置データに基づいて、生成されたコンクリートの生成時間や性状、可使時間、或いは、生成されたコンクリートが将来的に打設されるであろう想定打設位置や想定作業時間等を表示画面102上に一覧表として表示する。
【0024】
シールド制御装置41は、中央制御装置100からの出力に基づいて、シールド掘進機1の動作全般を制御する装置であって、当該シールド制御装置41には、シールド掘進機1の位置情報を得るためのストローク計9Bを始めとして、カッターヘッド11の回転トルクを計測する図外のトルク計、打設配管21内の打設圧力を計測する図外の打設圧力計等からの信号が出力され、出力された信号に基づいて、カッターヘッド11の駆動機構、コンクリートの打設圧力や打設量を制御する。
また、各計測機から出力された情報は中央制御装置100に対してデータとして送信され、シールド制御装置41は、特にストローク計9Bの出力信号から生成されたシールド掘進機1の位置データを所定のストローク(例えば300ストローク)ごとに中央制御装置100に対して送信する。中央制御装置100は、当該位置データが送信されるたびに、記憶手段100Aに格納されたコンクリート生成データを読み込み、コンクリートの生成時間及び性状情報と、シールド掘進機1の位置情報と対応させ、コンクリートの想定打設位置や想定作業時間を算出する。
【0025】
図4は、中央制御装置100が制御装置101及びシールド制御装置41から送信されたコンクリート生成データ及び位置データに基づいて表示画面102に出力した一覧表の一例を示す。なお、説明の簡略化のため一覧表に記載された数値は、トンネルTの掘削工事において実際に表示された一覧とは異なる数値とする。
まず、「打設番号」とは制御装置101から出力されるコンクリート生成データの送信順序に対応して演算処理部100Bによって順次決定される番号であって、作業者に対する視認性向上のために付される番号である。よって、必ずしも番号を付す必要はない。
「生成時間」とは、各コンクリートが練り上がった時刻であり、本例におけるバッチャープラント60の制御装置101は、例えば15分おきにコンクリートを生成し、生成が完了するたびに中央制御装置100に対してコンクリートの生成時間及び性状情報が含まれるコンクリート生成データを送信する。
また、「生成量」とは、1ユニット当たりのコンクリートの量であり、前述のとおり本例においては1mとして設定してある。
また、「配合」とはコンクリートの配合パターンを示す数値であって、トンネルTの掘削工事にあっては、地山の土質,地下水の量,気象条件等によって複数種類の配合パターンが設定される。
本例においては、打設番号1〜Nの全てが配合パターン「1」のコンクリートであることが看取できるが、配合パターンは任意である。
また、「電流値」とは、コンクリート生成時に測定されたコンクリートを練るためのミキサーの駆動に要した電流値であり、その電流の大小で間接的にコンクリートの粘性,堅さを把握することができる。
また、「可使時間」とは、コンクリートが使用可能な制限時刻を示し、演算処理部100Bが各コンクリートの生成時間に対応する制限時刻を演算して「可使時間」として表示する。即ち、演算処理部100Bが可使時間算出手段として機能する。
なお、本例において、「可使時間」は、「生成時間」から4時間経過後の時刻として予め設定されており、制御装置101から生成時間情報を含むコンクリート生成データが送信された時点で算出される。
なお、「生成時間」と「可使時間」とを必ずしも対応させる必要はなく、例えば打設番号1〜4までのコンクリートにおいて、10:00から10:30までに生成されたコンクリート(打設番号1,2)の可使時間を同一の可使時間(例えば14:00)として換算し、10:30以降、かつ、11:00前までに生成されたコンクリート(打設番号3,4)の可使時間を同一の可使時間(例えば14:30)として換算してもよい。
【0026】
「打設時掘削リング」とは、シールドジャッキ9のストローク量を基準として、シールド掘進機1の現在の位置情報を示す値であり、シールドジャッキ9よりも後方に位置する妻枠22Bからコンクリートが吐出される時点のシールドジャッキ9の先端面9Aの位置を示す。
本例においては、例えば打設番号1のコンクリートが生成されたときにシールドジャッキ9の先端面9Aは、101リング目の前端面に位置し、かつ、ストローク量が「0」であることが看取できる。また、本例においては、1リングの延長方向長さは、1200mmとして設定され、シールド掘進機1が1リング分進行するのに掛かる時間は1時間である。
【0027】
「想定打設位置」とは、シールド掘進機1の掘進と並行して前述の掘削機構5によって打設されるコンクリートの想定位置を示す。
「想定打設位置」は、演算処理部100Bによって、前述の「打設時掘削リング」即ち、シールドジャッキ9の先端面9Aの位置情報(掘進情報)から算出される。即ち、演算処理部100Bが、想定打設位置設定手段として機能する。
以下、「打設時掘削リング」と「想定打設位置」との関係を図2を用いて説明する。
【0028】
同図において、シールドジャッキ9の先端面9Aは坑口Eから数えて101番目の内型枠10(R101)の前端面と当接する。そして、当該状態におけるシールドジャッキ9のストローク量は0であり、この状態からシールドジャッキ9を徐々にストロークさせることにより102番目の内型枠10(R102)を掘削する直前の状態である。
この状態において、妻枠22Bの打設口23Bは、シールドジャッキ9の先端面9Aよりも2リング分後方に位置する。従って、演算処理部100Bは、ストローク計9Bからの出力に基づいてシールド制御装置41によって生成される「打設時掘削リング」の位置データに基づいて「想定打設位置」を算出する。
つまり、シールドジャッキ9の先端面9AがR101の前端面に当接する場合の「想定打設位置」は、先端面9Aよりも2リング分後側のR100の後端部、かつ、ストローク量0の位置として算出される。また、「想定打設位置」は、シールド掘進機1が掘進するごとに延長される圧送管19の長さや、既に生成が完了し、圧送管19や打設配管21内に存在するコンクリートの量に応じて補正,調整される。
なお、「想定打設位置」のストローク量とは、シールド掘進機1の掘進に連動して収縮する妻枠ジャッキ22Aの収縮量であって、妻枠ジャッキ22Aの収縮はシールドジャッキ9の伸長と略連動するため、誤差を考慮しないことを条件としてシールドジャッキ9及び妻枠ジャッキ22Aのストローク量は同一の値となる。また、シールドジャッキ9と妻枠ジャッキ22Aのズレ量は、シールド掘進機1に固有の値であり、使用する掘進機に変更がない限りズレ量が変化することはない。
【0029】
図4に戻り、「想定作業時間」とはバッチャープラント60によって生成されたコンクリートが打設想定位置に打設されるまでの作業完了予定時間であり、演算処理部100Bにより、予め規定されるシールド掘進機1の単位時間当たりの掘進距離(掘進性能)、及び、バッチャープラント60からアジテータートラック44への搬送時間、コンクリート17がコンクリートポンプ18から打設配管21、打設配管23を経て打設口23Bから吐出されるまでの時間から算出される。即ち、演算処理部100Bは、作業完了時間算出手段として機能する。
「余裕時間」とは、演算処理部100Bにより、コンクリートの「可使時間」と「想定作業時間」とから算出される可使時間に達するまでの残り時間であって、「可使時間」から「想定作業時間」を減じることにより算出される。即ち、演算処理部100Bは、余裕時間算出手段として機能する。
【0030】
図5は、中央制御装置100による処理のフローチャートを示す。
中央制御装置100は、S100においてシールド掘進機1の掘進が開始されたかを判定する。当該判定は、中央制御装置100に接続された図外の入力手段から作業者により掘進開始の操作が行われたか否かにより行われる。判定がYESの場合、S101に移行し、NOの場合S100をループする。
中央制御装置100は、S101においてシールド制御装置41から位置データを受信したかを判定する。当該位置データは、前述のとおりシールドジャッキ9のストローク量が所定のストローク量に達するたびに逐次送信されるデータである。判定がYESの場合、S102に移行し、NOの場合、受信待ちの状態となりS101をループする。
中央制御装置100は、S102において記憶部100Aにコンクリート生成データが格納されているかを判定する。判定がYESの場合、S103に移行し、NOの場合、受信待ちの状態となりS102をループする。
なお、S101において位置データを受信し、かつ、S102においてコンクリート生成データが存在しないという状態は、シールド掘進機1の進行に対応する十分な量のコンクリートが生成されていないという状態であるので、中央制御装置100はバッチャープラント60の制御装置101に対してコンクリートの生成指示信号を出力する。
中央制御装置100は、S103において、S101において受信したシールド掘進機1の位置データと、記憶部100Aに格納されたコンクリート生成データのうち最も早く記憶されたコンクリート生成データを抽出し、生成されたコンクリートと想定打設位置及び余裕時間等を対応付け、S104に移行する。
中央制御装置100は、S104において、S103にて算出された余裕時間と、予め設定された規定時間とを比較し、余裕時間が規定時間よりも長いときはS105に移行し、短いときはS106に移行する。
ここで、規定時間とは余裕時間の閾値であって、打設想定位置の誤差、打設想定位置から算出される想定作業時間の誤差を考慮して設定される。例えば規定時間を30分として設定した場合、余裕時間が30分よりも長ければ打設作業完了までに十分な時間が確保されているものとみなしてS105に移行し、余裕時間が30分よりも短ければ打設作業完了までに十分な時間が確保されていないものとみなしてS106に移行する。
なお、閾値としての規定時間を設定せずに、余裕時間が「0」又は負の値となったときにS106に移行するものとしてもよい。
【0031】
中央制御装置100は、S105において図4に示すように、一つのコンクリートに対する打設番号から余裕時間までの各項目を表示し、S101にループする。
以上、S101からS105までの処理が、シールド制御装置41から位置データが送信されるたびに、即ち、シールド掘進機1が進行するたびに繰り返されることにより、コンクリートの生成時間、性状情報及び打設位置とを常に対応させることが可能となり、図4に示すように、例えば打設番号1番からN番にわたってトンネルT内に打設されるコンクリートの性状及び位置情報を容易に記録、確認することができる。つまり、コンクリートのトレーサビリティを確保できる。
【0032】
中央制御装置100は、S106においてコンクリート排出処理を実行し、一回の処理を終了する。以下、コンクリート排出処理について説明する。コンクリートの排出処理は、前述のS104で説明したように、余裕時間が規定時間を下回った場合や、余裕時間が「0」又は負の値となった場合に実行される処理動作である。
当該処理動作が実行される場合としては、シールド掘進機1の進行が何らかの事情により中断し、中断が継続している間に既に生成されたコンクリートの可使時間が経過してしまうような場合が想定される。
上記のような場合において中央制御装置100は、S106においてシールド制御装置41に対して排出処理信号を出力する。シールド制御装置41は、排出処理信号が入力されたことに基づいてシールド掘進機1の進行を停止するとともに、三方バルブ25を排出配管26側へ切り替え、可使時間が経過したコンクリートを排出するのに必要な時間コンクリートポンプ18を駆動する。
コンクリートポンプ18の駆動により、打設配管21、打設配管23を経て供給されるコンクリートは、排出配管26及びコンクリート排出用配管28を経由してシールド掘進機1の外へ排出される。
シールド制御装置41は、可使時間が経過したコンクリートの排出動作終了後に、中央制御装置100に対して排出終了信号を出力する。中央制御装置100は、排出終了信号の入力に基づいてバッチャープラント60の制御装置101に対してコンクリートの生成指示信号を出力しバッチャープラント60によって新たなコンクリートが生成される。
そして、中央制御装置100は、新たなコンクリートを生成するのに必要な時間が経過したときに、シールド制御装置41に対して掘進再開信号を出力し、シールド掘進機1の掘進を再開させる。
以上説明したように、上記排出処理においては、シールド制御装置41側から位置データが送信された時点で可使時間が経過したコンクリートが存在する場合に、当該コンクリートを排出する動作を実行するため、シールド掘進機1の進行が何らかの原因によって停止又は遅延したような場合であっても、停止又は遅延中に可使時間が経過して品質が劣化したコンクリートを打設するようなことがなく、トンネルT完成後の強度不足等の品質低下を確実に防止することができる。
【0033】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではない。特に、上記実施形態においては、掘削と覆工とを並行して行うシールド掘進機1を例として説明したが、これに限られるものではなくコンクリートを打設して地山に覆工コンクリートを形成する掘進機であれば本発明を適用可能である。
また、上記実施の形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0034】
1 シールド掘進機、2 地山、3 スキンプレート、4 胴体、5 掘削機構、
6 打設機構、7 隔壁、8 回転軸、9 シールドジャッキ、10 内型枠、
11 カッターヘッド、13 チャンバ、14 スクリューコンベア、15 排泥管、
17 コンクリート、18 コンクリートポンプ、19 圧送管、21 打設配管、
22 妻枠装置、22A 妻枠ジャッキ、22B 妻枠、23 打設配管、
25 三方バルブ、26 排出配管、28 コンクリート排出用配管、
41 シールド制御装置、60 バッチャープラント、
100 中央制御装置、101 制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートをトンネル掘進装置に供給し、
トンネル掘進後の地山の表面に前記コンクリートを覆工するトンネル掘進工法におけるコンクリートのトレーサビリティ管理方法であって、
前記コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報をコンクリート生成のたびに順次記憶し、
前記コンクリートの生成時間及び性状情報を前記トンネル掘進装置側から出力される位置情報と対応させて記憶することを特徴とするトレーサビリティ管理方法。
【請求項2】
前記コンクリートの生成時間に基づいて算出されるコンクリートの可使時間と、
前記トンネル掘進装置側から出力される位置情報に基づいて算出される前記コンクリートが打設されるまでの作業完了時間とに基づいて可使時間に達するまでの余裕時間を算出し、
当該余裕時間に基づいて前記コンクリートを前記トンネル掘進装置から排出することを特徴とする請求項1に記載のトレーサビリティ管理方法。
【請求項3】
コンクリート製造設備によって生成されたコンクリートをトンネル掘進装置に供給し、
トンネル掘進後の地山の表面に前記コンクリートを覆工するトンネル掘進工法におけるコンクリートのトレーサビリティ管理装置であって、
生成されたコンクリートの生成時間及び性状情報をコンクリート生成のたびに順次記憶するコンクリート側制御装置と、
前記トンネル掘進装置の位置情報を中央制御装置に出力する掘進機側制御装置とを備え、
前記中央制御装置が、前記コンクリート側制御装置及び前記掘進機側制御装置と通信手段を介して相互に接続され、前記コンクリート側制御装置から順次出力されるコンクリートの生成時間及び性状情報と前記掘進機側制御装置から出力される位置情報とを対応させて記憶することを特徴とするトレーサビリティ管理装置。
【請求項4】
前記中央制御装置は、前記コンクリートの生成時間に基づいてコンクリートの可使時間を算出する可使時間算出手段と、
前記掘進機側制御装置から送信される位置情報に基づいて前記コンクリートが打設されるまでの作業完了時間を算出する作業完了時間算出手段と、
前記可使時間と作業完了時間とに基づいて可使時間に達するまでの余裕時間を算出する余裕時間算出手段とを備え、
前記余裕時間に基づいて前記コンクリートを排出することを特徴とする請求項3に記載のトレーサビリティ管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236631(P2011−236631A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108584(P2010−108584)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】