コンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法
【課題】非破壊により、コンクリート1中の鉄筋3の腐食を定量的に検査することが可能なコンクリート1内の鉄筋3の腐食程度の非破壊検査方法を提供すること。
【解決手段】鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts:前記発信から受信までの時間、Te:定数、Z:1以上の任意の正数
【解決手段】鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts:前記発信から受信までの時間、Te:定数、Z:1以上の任意の正数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法に係る。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−3288号公報
【0003】
近年、高度成長期に建設されたトンネルや橋などのコンクリート構造物1(図15)の劣化が深刻となっており、コンクリート構造物1の維持管理が社会的に重要な課題となってきている。構造部の劣化現象の中でも特にコンクリート構造物1内の鉄筋3の腐食が深刻である。
【0004】
図15にその模様を示す。図15(a)は鉄筋3が腐食していない健全なコンクリート構造物1の模式図である。図15(b)は鉄筋3が腐食した場合のコンクリート構造物1の模式図である。鉄筋3が腐食した場合、鉄筋の体積が膨張する。このため、鉄筋周辺にクラック7が発生する。鉄筋3の腐食が進行すると、コンクリートが剥離し最終的には同図に示されているようにコンクリートが剥落する。この状態ではコンクリート構図物1としての強度を保てなくなり、早急な補修が必要となる。剥離箇所は目視もしくはハンマー等の打撃によって、剥落箇所は目視によって確認できるため、補修は剥離・剥落箇所周辺のみに実施されている場合が多い。
【0005】
鉄筋3の腐食探知に使用されている代表的な手法として(ASTM C876)に規定されている自然電位法がある。その測定模様を図16に示す。まず人為的にコンクリートを除き鉄筋3の一部を露出させる。その後電極Aを鉄筋3の露出した部分に取り付ける。電極Bはコンクリート構造物表面2に設置される。自然電位計測器9は電極Aと電極B間の電位を計測する。その測定値によって鉄筋3の腐食を検査する。
【0006】
また、超音波を利用して、コンクリート構造物の劣化部を測定診断する技術が開発され、そのための市販装置も存在する。本発明者は巨視的探知理論および技術を確立し確度の高いコンクリート内部探査用装置を開発した(特許文献1)。
超音波による測定原理を図17に示す。送信探触子12および受信探触子13をコンクリート構造物表面2に設置し、超音波21を発生させる。受信された波形を演算部18にて処理し、その結果を表示部20に表示する。
【0007】
ところで、鉄筋の腐食によりコンクリートが剥離・剥落した箇所は補修する必要がある。補修範囲としては剥離・剥落箇所周辺のみに実施されているのが現状である。しかし、コンクリートが剥離・剥落していなくとも鉄筋が腐食している場合は大変多く観測されている。そのため補修してから1〜3年後に再びコンクリートが剥離・剥落する事例が多い。このため補修に要するコストは膨大なものとなっている。
【0008】
鉄筋の腐食を計測する自然電位法(ASTM C876)においては、
(1)90%以上の確率で腐食なし
(2)不確定
(3)90%以上の確率で腐食あり
という判断であり、非常に曖昧で、定性的かつ腐食の有無の判断しかできない。
【0009】
適切な腐食範囲を知るためには初期〜中程度の腐食の検査も必要である。また、自然電位法での測定のためには電極を直接鉄筋に取り付けることが必要である。そのため人為的に鉄筋を露出させる必要があり、非破壊検査ではない。人為的にコンクリートに穴をあけるため、その位置から水が浸入し鉄筋腐食が発生するという懸念もある。
【0010】
また、超音波法を使用すれば鉄筋深さdoやコンクリート厚さ等の計測は可能であるが鉄筋の腐食の検査はできない、という問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、非破壊により、コンクリート中の鉄筋の腐食を定量的に検査することが可能なコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、
前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、
前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、
前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、
前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Ts:前記発信から受信までの時間
Te:定数
Z:1以上の任意の正数
【0013】
請求項2に係る発明は、SuaとSubと大小を比較することにより鉄筋の腐食程度を検査することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Sua:健全な鉄筋の場合のSu
Sub:検査対象におけるSu
【0014】
請求項3に係る発明は、L0/d0≧10とすることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
d0:鉄筋深さ
【0015】
請求項4に係る発明は、Tsを次式により求めることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Ts=2×(d0/cosθ)×(1/Vc)+(L0−2d0・tanθ)×(1/VR)
θ:発信角度
Vc:コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【0016】
請求項5に係る発明は、複数の測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを求めることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非破壊により、コンクリート中の鉄筋の腐食を定量的に検査することが可能なコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法が可能となる。
<作用>
【0018】
超音波法によるコンクリート構造物中の鉄筋腐食程度の非破壊検査を実施するために、送信探触子および受信探触子を距離Lo離して鉄筋上に設置し、送信探触子から超音波を発信し受信探蝕子にて伝播してきた波形fo(t)を受信し、時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出し、fp(t)のスペクトルS(f)を算出し、スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smを算出し、スペクトルピーク周波数Smの規格化された強度を算出し、規格化された強度のZ分の1の値を算出し、算出されたZ分の1の強度に対するスペクトル周波数Suを計算し、それぞれの測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを評価する、ことによりコンクリート構造物中の鉄筋腐食程度の非破壊検査を行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について図面を参照して説明する。本発明は超音波法により従来は不可能であった鉄筋3の腐食程度の計測を可能とした手法である。
【0020】
<I波形収集およびスペクトル算出までの基本的処理フローチャート>
図1に波形収集およびスペクトル算出までの本発明の基本的処理フローチャートを示す。本フローチャートに沿って説明を行う。
【0021】
(STEP1)
送信探触子12および受信探触子13を、距離Lo離して鉄筋3上に設置する。その模様を図2に示す。図2(a)が側面図、図2(b)が上面図である。探触子間距離Loは、鉄筋深さdoに比べ、十分長くとることが好ましい。例えば、L0/d0≧10とすることが好ましい。
【0022】
(STEP2)
送信探触子12から超音波を発信し、受信探触子13にて、伝播してきた波形fo(t)を受信する。図2(a)において、送信探触子12から受信探触子13までの超音波伝播経路を示している。送信探触子12から発信された超音波はコンクリート中を伝播し鉄筋3に入射する。鉄筋3に入射した超音波は同図に示されているように、鉄筋3を伝播する。伝播してきた超音波は最終的には受信探触子13にて受信される。受信波形の例を図4に示す。図4に示されている横軸の時間Tsは、図2において、送信探触子12から超音波が発信され、受信探触子13で伝播波が受信されるまでの時間である。その詳細を以下に述べる。
【0023】
図3は、超音波の伝播経路に関する詳細図面である。図3に示されているように、送信探触子12から発信された超音波はコンクリート内部を伝播する。その中で角度θを伴った超音波が鉄筋3に入射する。このときの伝播波をコンクリート伝播波23と呼称する。送信探触子12から鉄筋3までの伝播距離をL1とし、L1に対応する伝播時間をTcと呼称する。鉄筋に入射した超音波は鉄筋中を伝播する。そして入射時と同様に角度θにて受信探触子13で受信される。受信探触子と鉄筋との距離をL1とし、L1に対応する伝播時間をTcと呼称する。また、鉄筋中を伝播する距離をL2とし、L2に対応する伝播時間をTRとする。
【0024】
送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの距離Lsは以下の式にて表すことができる。
Ls=2L1+L2 (1)
L1=d0/cosθ (2)
L2=L0−2 d0tan(θ) (3)
(d0:鉄筋深さ、L0:探触子開距離)
【0025】
また、送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsは、以下の式にて表すことができる。
Ts=2Tc十 TR (4)
Tc=(d0/cosθ)×(1/Vc) (5)
TR=(L0−2d0tanθ)×(1/VR) (6)
Vc: コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【0026】
本発明では式(4)により、送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsを算出することが必要である。式(4)における変数はコンクリート中での音速Vc、鉄筋中での音速VR、そして角度θである。鉄の音速は約5900m/sであることが知られている。しかしコンクリート中に埋設されている鉄筋の音速は上記値より小さくなることがわかっている。本実施例では試験片での計測により求めている。
コンクリート中での音速Vc、鉄筋中での音速VRは実験により求められる。その模様を図5に示す。図5(a)に示されているように送信探触子を12および受信探触子13を鉄筋3の両端に設置する。
【0027】
また、コンクリート中での音速Vcを求めるため、同様に、送受信探触子を図5に示されているように設置する。この状態において超音波を送信し、受信された波形を図5(b)、(c)に示す。図5(b)は鉄筋を伝播してきた波形を示し、時間T20が最初に受信された時間に相当する。図5(b)はコンクリートを伝播してきた波形を示し、時間T30が最初に受信された時間に相当する。
【0028】
鉄筋中での音速VR、コンクリート中での音速Vc、は以下の式で計算される。
VR = L10/T20 (7)
Vc= L10/T30 (8)
【0029】
本実施例ではコンクリート中での音速Vcは4300m/s、鉄筋中での音速VRは5400m/sであった。
本実施例では図4に示されている時間Tsの算出が重要となる。式(4)で未知数なのは角度θである。そこで角度θに対する時間Tsの変化を図6に示す。ここでは探触子間距離Loは300mm、鉄筋の深さd0は30mm、コンクリート中での音速Vcは4300m/s、鉄筋中での音速VRは5400m/sとしている。
【0030】
図6に示されているように、角度θが大きくなるにつれて送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsは小さくなっている。本実施例では角度θが45度である時の伝播時間を採用して説明を行う。
また、図3に示されているように、コンクリート内および鉄筋内で超音波は伝播する。一方、探触子間距離Loが大きくなるにつれて、コンクリート内での超音波の伝播時間は、鉄筋内部での超音波の伝播時間と比較し、相対的に小さくなる。そこで、説明の便宜上、受信探触子13により受信される伝播波を、以降、実鉄筋伝播波と呼称する。
【0031】
(STEP3)
受信波形fo(t)において、時間t=Ts〜Te 間の波形fp(t)を抽出する。抽出した模様を図7に示す。ここで時間Tsは式4にて計算される。Teは実鉄筋伝播波形全体を抽出するために設定される定数値である。その値は鉄筋深度、鉄筋径、鉄筋種別、コンクリート表面粗さなどの条件によって変わる。従ってこれらの条件設定しておいて予め経験的、実験的に求めておくことができる。
【0032】
(STEP4)
FFTをもちいて、抽出された波形fp(t)のスペクトルS(f)を算出する。その模様を図8に示す。
図8はFFTを用いて図7の波形を周波数領域へ変換したスぺクトルSa(f)を表している。
以上までが本発明の基本的処理内容である。変換したスペクトルの評価方法の実施例を後述する。
【0033】
<II波形信号処理方法>
[II−1]腐食した鉄筋での超音波伝播模様と超音波に及ぼす影響
図9は腐食した鉄筋4における超音波伝搬の模様を示す。図9(b)では、腐食した鉄筋4内部にて超音波が散乱する模様を示している。これら散乱現象により入射した超音波の減衰が発生する。とくに高い周波数成分波の減衰が顕著となる。この腐食した鉄筋に対し、図1のフローチャートにしたがって受信波形のスペクトルを得る。その模様を図10に示す。スペクトルSa(f)は、鉄筋腐食のない場合の受信波形に対応する。また、スペクトルSb(f)は鉄筋が腐食している場合の受信波形に対応している。スペクトルSb(f)は高域の周波数において減衰か激しいことがわかる。
【0034】
[II−2]スペクトルの判断方法
上記したスペクトルの特微量を算出し鉄筋の腐食程度を判定する方法について説明を行う。
図10にその模様を示す。まずスペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smを算出する。スペクトルSa(f)、Sb(f)に対しては、スペクトルピーク周波数Sma、Smbが算出される。そして、各スペクトルピーク周波数Sma、Smbの規格化された強度Poを計算する。
Sa(f)のスペクトルピーク周波数Smaを規格化された強度1とする(1=Sma/Sma)。Sa(f)は鉄筋腐食がない場合に対応しているためである。Sb(f)のスペクトルピーク周波数Smbに対する規格化された強度PoをPsc(=Sma/Smb)とする。
【0035】
次に図10に示されているように上記規格化された強度(1、Psc)に対してZ分の1に相当する強度を計算する。規格化強度1に対してはZ分の1の強度となり規格化強度Pscに対してはPsc/Zとなる。なお、本実施例ではZ=10として説明を行う。
【0036】
上記で算出された10分の1に相当する強度に対するスペクトル周波数Suを計算する。その結果、スペクトルSa(f)におけるスペクトル周波数SuはSua、スペクトルSb(f)では周波数Subが得られる。
上記値が鉄筋腐食程度を示している。周波数Suaより周波数Subは大変小さいためSb(f)のスペクトルに対応している鉄筋は腐食していると判定される。
【0037】
[II−3]具体的測定・判定例
図11(a)は実際のコンクリート構造物表面2の模式図である。鉄筋の真上および周辺部にクラック7が観察される部分を領域Dとする。鉄筋真上に1本のみクラック7が観察できる部分を領域C、まったくクラック7が観察できない部分を領域BおよびAとする。また、各領域でのコンクリート構造物の断面図を図11(b)から(e)に示す。図11(b)はA領域での断面図を示している。鉄筋3は腐食していない健全な状態である。図11(c)はB領域での断面図を示している。鉄筋3が軽微な腐食状態にあり、クラック7が鉄筋3から発生しているものの、コンクリート構造物表面2までにはクラックが達していない。図11(d)はC領域での断面図を示している。鉄筋3が中程度の腐食状態にあり、クラック7がコンクリート構造物表面2まで達している。また、鉄筋周辺に腐食部5が存在する。
【0038】
図11(e)はD領域の断面図を示している。鉄筋3が重度の腐食状態にあり、3本のクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している。また、鉄筋周辺に腐食部5が顕著に存在する。ここで述べた健全部とは鉄筋が腐食していない状態を示し、軽微な腐食とは、クラック7が鉄筋から発生しているがコンクリート構造物表面2まで達していない状態を示し、中程度の腐食とは、鉄筋3から発生しているクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している状態を示し、また、重度の腐食とは多数のクラック7が鉄筋3から発生しており、そのクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している状態を示す。
【0039】
図12は、図11に示されたコンクリート構造物表面2に対し実際に測定を行う方法を示している。表面状態を考慮し本実施例では測定位置mを7個に分けている。D領域では測定位置1、C領域では測定位置2、B領域では測定位置3,4、A領域では測定位置5,6,7である。探触子間距離Loは、それぞれの測定位置において同じ値とする。
【0040】
各測定位置において上記した[II−2]項にのっとり、スペクトル周波数Suを算出する。算出した値を、横軸が測定位置m、縦軸が規格化されたスペクトル周波数Suoとしてグラフ化する。その結果を図13に示す。本実施例では規格化する際に使用する基準値は、鉄筋腐食のない実波形伝播波Sa(f)に対応する周波数Su、つまり図10に示されている周波数Suaとする。従って、図13の縦軸の1は、周波数SuaをSuaで割り算した値、つまり1となる。
【0041】
図13に示されているように、測定位置が1,2,3と大きくなるにつれて規格化されたスペクトル周波数Suoが高くなってゆくのが観測できる。健全部である測定位置5,6,7では、規格化されたスペクトル周波数Suoが1となり飽和状態となる。この状態を安定状態と呼称する。この安定状態となっている測定位置では鉄筋は健全であると判断できる。
【0042】
図12に示されるように測定位置mを決め、測定位置mにおいて順番に測定を行い図13のグラフを作成すれば、鉄筋が健全である領域を非破壊で検査可能である。図13の縦軸に示されている値、ε1、ε2について説明を行う。図13の縦軸において、縦軸値が1である、もしくは1にほぼ一致する測定位置において鉄筋は健全であると判断できる。1未満〜ε1の範囲対応する測定位置においては、鉄筋は軽微な腐食であると判断できる。また、図11の縦軸において、ε1〜ε2の範囲に対応する測定位置においては、鉄筋は中程度の腐食であること、さらに、ε2〜0では、鉄筋は重度の腐食であることを判定できる。ε1、ε2は数々の実験および現場計測によって見出した値である。ε1は0.6、ε2は0.3近辺である。
上記のように本発明によれば、超音波をもちいてコンクリート構造物1の鉄筋3の腐食状態を、例えば、健全、軽微の腐食、中程度の腐食、重度の腐食 の4段階に分けての判別が可能である。
【0043】
[II−4]応用計測例
探触子間距離Loは通常30cmから40cm程度で設定される。一方、図14に示したように、探触子間距離Loを1から2mに設定する方法が考えられる。図14では複数の探触子をメッシュ状に配置しているように見えるが、実際には1本の鉄筋に対して一対の送受信探触子を配置する。そして測定が終了したのち隣の鉄筋に送受信探触子を移動させ測定を実施する。上記測定を図14において上下方向および左右方向にて実施する。その測定波形を本発明による方法によって解析を実施すれば、広範囲な鉄筋の腐食程度を知ることが可能となる。
【0044】
上記実施例によれば以下の数々の効果が得られる。
1.コンクリート構造物の鉄筋腐食を非破壊で検査することが可能である。
2.鉄筋の腐食度合いを、例えば、健全、軽微の腐食、中程度の腐食、重度の腐食 の4段階に分けての非破壊検査が可能である。
3.鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合は、目視ではクラックの観察が不可能であるが、本手法を用いれば鉄筋腐食を非破壊で検査することが可能である。
4.鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合は、目視ではクラックの観察が不可能である。そのため従来では補修工事の対象外であった。そのため補修工事を実施してから1,2年後に再びコンクリートの剥落、クラックの発生が起こり、再度補修工事を行うことを強いられてきた。そのため保守コストが膨大な額となっていた。本発明を用いれば鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合でも鉄筋の腐食程度を非破壊で検査することができ、真に適切な補修範囲を選定し補修工事が実行できる。そのため保守コストを大幅に減少させることが可能である。
5.従来はコンクリート構造物表面のコンクリートが剥離してから補修するのが常であった。補修範囲は剥離部のみか、または剥離部周辺を少々含む程度であった。しかし、コンクリートの剥離が発生しなくとも鉄筋の腐食は進行しており、コンクリート構造物全体としての耐力が減退してゆく。この耐力が大幅に減退した場合には、コンクリート構造物の、−一部損壊、地中構造物であれば一部損壊により道路陥没、地上建築物の傾斜などなど、さまざまな影響が発生し、社会問題化する可能性がある。本発明を用いれば、コンクリートが剥離していなくても鉄筋の腐食程度を非破壊で検査することが可能である。本手法をもちいて定期的にコンクリート構造物の検査・補修を行えば、従来に比較して格段とコンクリート構造物全体の耐力を維持できる。
6.従来行われている補修方法は、鉄筋深さ以上までコンクリートを掘削し新たに鉄筋を配置するなど大掛かりなものであり、コストも大幅に必要であった。本発明を用いれば鉄筋の腐食程度が非破壊で計測できるため、鉄筋腐食程度に応じた適切な補修工法を選択でき、補修コストの削減が可能となる。
7.地震、施工不良によりコンクリート構造物に強い応力が加わった場合にもクラックが発生する。この場合、鉄筋からクラックが発生することが多い。鉄筋は健全であるのにコンクリート構造物表面では目視でクラックが観測される,クラックが発生しているため数年、数十年後には鉄筋が腐食する可能性が高いが補修方法としては簡易な方法、たとえばコンクリート表面の止水処理、で十分である。しかし従来では鉄筋の腐食が検知できなかったため、上記場合でも本格的な補修が施されてきた。本発明を用いれば、クラックが発生していても鉄筋が腐食していないことが非破壊で計測できるため、簡易な補修方法を選択でき、補修・保守コストの大幅な減少となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】波形収集、および、抽出された波形のスペクトルを算出するまでの本実施例での基本的処理のフローチャートである。
【図2】送信探触子と受信探触子の配置図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【図3】超音波の伝播経路図を示す概念図である。
【図4】受信波形f0(t)である。
【図5】音速測定の模式図である。(a)は音速測定時での探触子は一途である。(b)は鉄筋伝播波形である。(c)はコンクリート伝播波形である。
【図6】角度θに対する伝播時間の変化を示すグラフである。
【図7】抽出した実鉄筋伝播波形fp(t)を示す図である。
【図8】実鉄筋伝播波形fp(t)のスペクトル図である。
【図9】腐食した鉄筋での計測模式図および鉄筋内部での散乱の模様を示す概念図である。
【図10】周波数Sua、Subを求める模式図である。
【図11】測定を行う鉄筋近辺の腐食度合いを示す模式図である。
【図12】測定位置mを示す模式図である。
【図13】各測定位置mでの規格化されたスペクトル州は巣Suoを示すグラフである。
【図14】応用測定例を示す概念図である。
【図15】鉄筋腐食によるコンクリート剥離の模様を示す概念図である。
【図16】自然電位法での計測模様を示す概念図である。
【図17】超音波計測の測定ブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
1:コンクリート構造物
2:コンクリート構造物表面
3:鉄筋
4:腐食した鉄筋
5:腐食部
6;コンクリートの剥離
7:クラック
8:コンクリート試験片
9:自然電位計測機
10:電極A
11:電極B
12:送信探触子
13:受信探触子
14:電圧発生器
15:受信機
16:圧電素子
17:接触媒体
18:制御部
19:演算部
20:表示部
21:超音波
22:鉄筋伝播波
23:コンクリート伝播波
24:超資波伝播経路
25:垂線
26:角度θ
27:実鉄筋伝播波
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法に係る。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−3288号公報
【0003】
近年、高度成長期に建設されたトンネルや橋などのコンクリート構造物1(図15)の劣化が深刻となっており、コンクリート構造物1の維持管理が社会的に重要な課題となってきている。構造部の劣化現象の中でも特にコンクリート構造物1内の鉄筋3の腐食が深刻である。
【0004】
図15にその模様を示す。図15(a)は鉄筋3が腐食していない健全なコンクリート構造物1の模式図である。図15(b)は鉄筋3が腐食した場合のコンクリート構造物1の模式図である。鉄筋3が腐食した場合、鉄筋の体積が膨張する。このため、鉄筋周辺にクラック7が発生する。鉄筋3の腐食が進行すると、コンクリートが剥離し最終的には同図に示されているようにコンクリートが剥落する。この状態ではコンクリート構図物1としての強度を保てなくなり、早急な補修が必要となる。剥離箇所は目視もしくはハンマー等の打撃によって、剥落箇所は目視によって確認できるため、補修は剥離・剥落箇所周辺のみに実施されている場合が多い。
【0005】
鉄筋3の腐食探知に使用されている代表的な手法として(ASTM C876)に規定されている自然電位法がある。その測定模様を図16に示す。まず人為的にコンクリートを除き鉄筋3の一部を露出させる。その後電極Aを鉄筋3の露出した部分に取り付ける。電極Bはコンクリート構造物表面2に設置される。自然電位計測器9は電極Aと電極B間の電位を計測する。その測定値によって鉄筋3の腐食を検査する。
【0006】
また、超音波を利用して、コンクリート構造物の劣化部を測定診断する技術が開発され、そのための市販装置も存在する。本発明者は巨視的探知理論および技術を確立し確度の高いコンクリート内部探査用装置を開発した(特許文献1)。
超音波による測定原理を図17に示す。送信探触子12および受信探触子13をコンクリート構造物表面2に設置し、超音波21を発生させる。受信された波形を演算部18にて処理し、その結果を表示部20に表示する。
【0007】
ところで、鉄筋の腐食によりコンクリートが剥離・剥落した箇所は補修する必要がある。補修範囲としては剥離・剥落箇所周辺のみに実施されているのが現状である。しかし、コンクリートが剥離・剥落していなくとも鉄筋が腐食している場合は大変多く観測されている。そのため補修してから1〜3年後に再びコンクリートが剥離・剥落する事例が多い。このため補修に要するコストは膨大なものとなっている。
【0008】
鉄筋の腐食を計測する自然電位法(ASTM C876)においては、
(1)90%以上の確率で腐食なし
(2)不確定
(3)90%以上の確率で腐食あり
という判断であり、非常に曖昧で、定性的かつ腐食の有無の判断しかできない。
【0009】
適切な腐食範囲を知るためには初期〜中程度の腐食の検査も必要である。また、自然電位法での測定のためには電極を直接鉄筋に取り付けることが必要である。そのため人為的に鉄筋を露出させる必要があり、非破壊検査ではない。人為的にコンクリートに穴をあけるため、その位置から水が浸入し鉄筋腐食が発生するという懸念もある。
【0010】
また、超音波法を使用すれば鉄筋深さdoやコンクリート厚さ等の計測は可能であるが鉄筋の腐食の検査はできない、という問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、非破壊により、コンクリート中の鉄筋の腐食を定量的に検査することが可能なコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、
前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、
前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、
前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、
前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Ts:前記発信から受信までの時間
Te:定数
Z:1以上の任意の正数
【0013】
請求項2に係る発明は、SuaとSubと大小を比較することにより鉄筋の腐食程度を検査することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Sua:健全な鉄筋の場合のSu
Sub:検査対象におけるSu
【0014】
請求項3に係る発明は、L0/d0≧10とすることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
d0:鉄筋深さ
【0015】
請求項4に係る発明は、Tsを次式により求めることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
Ts=2×(d0/cosθ)×(1/Vc)+(L0−2d0・tanθ)×(1/VR)
θ:発信角度
Vc:コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【0016】
請求項5に係る発明は、複数の測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを求めることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非破壊により、コンクリート中の鉄筋の腐食を定量的に検査することが可能なコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法が可能となる。
<作用>
【0018】
超音波法によるコンクリート構造物中の鉄筋腐食程度の非破壊検査を実施するために、送信探触子および受信探触子を距離Lo離して鉄筋上に設置し、送信探触子から超音波を発信し受信探蝕子にて伝播してきた波形fo(t)を受信し、時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出し、fp(t)のスペクトルS(f)を算出し、スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smを算出し、スペクトルピーク周波数Smの規格化された強度を算出し、規格化された強度のZ分の1の値を算出し、算出されたZ分の1の強度に対するスペクトル周波数Suを計算し、それぞれの測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを評価する、ことによりコンクリート構造物中の鉄筋腐食程度の非破壊検査を行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について図面を参照して説明する。本発明は超音波法により従来は不可能であった鉄筋3の腐食程度の計測を可能とした手法である。
【0020】
<I波形収集およびスペクトル算出までの基本的処理フローチャート>
図1に波形収集およびスペクトル算出までの本発明の基本的処理フローチャートを示す。本フローチャートに沿って説明を行う。
【0021】
(STEP1)
送信探触子12および受信探触子13を、距離Lo離して鉄筋3上に設置する。その模様を図2に示す。図2(a)が側面図、図2(b)が上面図である。探触子間距離Loは、鉄筋深さdoに比べ、十分長くとることが好ましい。例えば、L0/d0≧10とすることが好ましい。
【0022】
(STEP2)
送信探触子12から超音波を発信し、受信探触子13にて、伝播してきた波形fo(t)を受信する。図2(a)において、送信探触子12から受信探触子13までの超音波伝播経路を示している。送信探触子12から発信された超音波はコンクリート中を伝播し鉄筋3に入射する。鉄筋3に入射した超音波は同図に示されているように、鉄筋3を伝播する。伝播してきた超音波は最終的には受信探触子13にて受信される。受信波形の例を図4に示す。図4に示されている横軸の時間Tsは、図2において、送信探触子12から超音波が発信され、受信探触子13で伝播波が受信されるまでの時間である。その詳細を以下に述べる。
【0023】
図3は、超音波の伝播経路に関する詳細図面である。図3に示されているように、送信探触子12から発信された超音波はコンクリート内部を伝播する。その中で角度θを伴った超音波が鉄筋3に入射する。このときの伝播波をコンクリート伝播波23と呼称する。送信探触子12から鉄筋3までの伝播距離をL1とし、L1に対応する伝播時間をTcと呼称する。鉄筋に入射した超音波は鉄筋中を伝播する。そして入射時と同様に角度θにて受信探触子13で受信される。受信探触子と鉄筋との距離をL1とし、L1に対応する伝播時間をTcと呼称する。また、鉄筋中を伝播する距離をL2とし、L2に対応する伝播時間をTRとする。
【0024】
送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの距離Lsは以下の式にて表すことができる。
Ls=2L1+L2 (1)
L1=d0/cosθ (2)
L2=L0−2 d0tan(θ) (3)
(d0:鉄筋深さ、L0:探触子開距離)
【0025】
また、送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsは、以下の式にて表すことができる。
Ts=2Tc十 TR (4)
Tc=(d0/cosθ)×(1/Vc) (5)
TR=(L0−2d0tanθ)×(1/VR) (6)
Vc: コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【0026】
本発明では式(4)により、送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsを算出することが必要である。式(4)における変数はコンクリート中での音速Vc、鉄筋中での音速VR、そして角度θである。鉄の音速は約5900m/sであることが知られている。しかしコンクリート中に埋設されている鉄筋の音速は上記値より小さくなることがわかっている。本実施例では試験片での計測により求めている。
コンクリート中での音速Vc、鉄筋中での音速VRは実験により求められる。その模様を図5に示す。図5(a)に示されているように送信探触子を12および受信探触子13を鉄筋3の両端に設置する。
【0027】
また、コンクリート中での音速Vcを求めるため、同様に、送受信探触子を図5に示されているように設置する。この状態において超音波を送信し、受信された波形を図5(b)、(c)に示す。図5(b)は鉄筋を伝播してきた波形を示し、時間T20が最初に受信された時間に相当する。図5(b)はコンクリートを伝播してきた波形を示し、時間T30が最初に受信された時間に相当する。
【0028】
鉄筋中での音速VR、コンクリート中での音速Vc、は以下の式で計算される。
VR = L10/T20 (7)
Vc= L10/T30 (8)
【0029】
本実施例ではコンクリート中での音速Vcは4300m/s、鉄筋中での音速VRは5400m/sであった。
本実施例では図4に示されている時間Tsの算出が重要となる。式(4)で未知数なのは角度θである。そこで角度θに対する時間Tsの変化を図6に示す。ここでは探触子間距離Loは300mm、鉄筋の深さd0は30mm、コンクリート中での音速Vcは4300m/s、鉄筋中での音速VRは5400m/sとしている。
【0030】
図6に示されているように、角度θが大きくなるにつれて送信探触子12から送信された超音波が受信探触子13に受信されるまでの時間Tsは小さくなっている。本実施例では角度θが45度である時の伝播時間を採用して説明を行う。
また、図3に示されているように、コンクリート内および鉄筋内で超音波は伝播する。一方、探触子間距離Loが大きくなるにつれて、コンクリート内での超音波の伝播時間は、鉄筋内部での超音波の伝播時間と比較し、相対的に小さくなる。そこで、説明の便宜上、受信探触子13により受信される伝播波を、以降、実鉄筋伝播波と呼称する。
【0031】
(STEP3)
受信波形fo(t)において、時間t=Ts〜Te 間の波形fp(t)を抽出する。抽出した模様を図7に示す。ここで時間Tsは式4にて計算される。Teは実鉄筋伝播波形全体を抽出するために設定される定数値である。その値は鉄筋深度、鉄筋径、鉄筋種別、コンクリート表面粗さなどの条件によって変わる。従ってこれらの条件設定しておいて予め経験的、実験的に求めておくことができる。
【0032】
(STEP4)
FFTをもちいて、抽出された波形fp(t)のスペクトルS(f)を算出する。その模様を図8に示す。
図8はFFTを用いて図7の波形を周波数領域へ変換したスぺクトルSa(f)を表している。
以上までが本発明の基本的処理内容である。変換したスペクトルの評価方法の実施例を後述する。
【0033】
<II波形信号処理方法>
[II−1]腐食した鉄筋での超音波伝播模様と超音波に及ぼす影響
図9は腐食した鉄筋4における超音波伝搬の模様を示す。図9(b)では、腐食した鉄筋4内部にて超音波が散乱する模様を示している。これら散乱現象により入射した超音波の減衰が発生する。とくに高い周波数成分波の減衰が顕著となる。この腐食した鉄筋に対し、図1のフローチャートにしたがって受信波形のスペクトルを得る。その模様を図10に示す。スペクトルSa(f)は、鉄筋腐食のない場合の受信波形に対応する。また、スペクトルSb(f)は鉄筋が腐食している場合の受信波形に対応している。スペクトルSb(f)は高域の周波数において減衰か激しいことがわかる。
【0034】
[II−2]スペクトルの判断方法
上記したスペクトルの特微量を算出し鉄筋の腐食程度を判定する方法について説明を行う。
図10にその模様を示す。まずスペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smを算出する。スペクトルSa(f)、Sb(f)に対しては、スペクトルピーク周波数Sma、Smbが算出される。そして、各スペクトルピーク周波数Sma、Smbの規格化された強度Poを計算する。
Sa(f)のスペクトルピーク周波数Smaを規格化された強度1とする(1=Sma/Sma)。Sa(f)は鉄筋腐食がない場合に対応しているためである。Sb(f)のスペクトルピーク周波数Smbに対する規格化された強度PoをPsc(=Sma/Smb)とする。
【0035】
次に図10に示されているように上記規格化された強度(1、Psc)に対してZ分の1に相当する強度を計算する。規格化強度1に対してはZ分の1の強度となり規格化強度Pscに対してはPsc/Zとなる。なお、本実施例ではZ=10として説明を行う。
【0036】
上記で算出された10分の1に相当する強度に対するスペクトル周波数Suを計算する。その結果、スペクトルSa(f)におけるスペクトル周波数SuはSua、スペクトルSb(f)では周波数Subが得られる。
上記値が鉄筋腐食程度を示している。周波数Suaより周波数Subは大変小さいためSb(f)のスペクトルに対応している鉄筋は腐食していると判定される。
【0037】
[II−3]具体的測定・判定例
図11(a)は実際のコンクリート構造物表面2の模式図である。鉄筋の真上および周辺部にクラック7が観察される部分を領域Dとする。鉄筋真上に1本のみクラック7が観察できる部分を領域C、まったくクラック7が観察できない部分を領域BおよびAとする。また、各領域でのコンクリート構造物の断面図を図11(b)から(e)に示す。図11(b)はA領域での断面図を示している。鉄筋3は腐食していない健全な状態である。図11(c)はB領域での断面図を示している。鉄筋3が軽微な腐食状態にあり、クラック7が鉄筋3から発生しているものの、コンクリート構造物表面2までにはクラックが達していない。図11(d)はC領域での断面図を示している。鉄筋3が中程度の腐食状態にあり、クラック7がコンクリート構造物表面2まで達している。また、鉄筋周辺に腐食部5が存在する。
【0038】
図11(e)はD領域の断面図を示している。鉄筋3が重度の腐食状態にあり、3本のクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している。また、鉄筋周辺に腐食部5が顕著に存在する。ここで述べた健全部とは鉄筋が腐食していない状態を示し、軽微な腐食とは、クラック7が鉄筋から発生しているがコンクリート構造物表面2まで達していない状態を示し、中程度の腐食とは、鉄筋3から発生しているクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している状態を示し、また、重度の腐食とは多数のクラック7が鉄筋3から発生しており、そのクラック7がコンクリート構造物表面2まで達している状態を示す。
【0039】
図12は、図11に示されたコンクリート構造物表面2に対し実際に測定を行う方法を示している。表面状態を考慮し本実施例では測定位置mを7個に分けている。D領域では測定位置1、C領域では測定位置2、B領域では測定位置3,4、A領域では測定位置5,6,7である。探触子間距離Loは、それぞれの測定位置において同じ値とする。
【0040】
各測定位置において上記した[II−2]項にのっとり、スペクトル周波数Suを算出する。算出した値を、横軸が測定位置m、縦軸が規格化されたスペクトル周波数Suoとしてグラフ化する。その結果を図13に示す。本実施例では規格化する際に使用する基準値は、鉄筋腐食のない実波形伝播波Sa(f)に対応する周波数Su、つまり図10に示されている周波数Suaとする。従って、図13の縦軸の1は、周波数SuaをSuaで割り算した値、つまり1となる。
【0041】
図13に示されているように、測定位置が1,2,3と大きくなるにつれて規格化されたスペクトル周波数Suoが高くなってゆくのが観測できる。健全部である測定位置5,6,7では、規格化されたスペクトル周波数Suoが1となり飽和状態となる。この状態を安定状態と呼称する。この安定状態となっている測定位置では鉄筋は健全であると判断できる。
【0042】
図12に示されるように測定位置mを決め、測定位置mにおいて順番に測定を行い図13のグラフを作成すれば、鉄筋が健全である領域を非破壊で検査可能である。図13の縦軸に示されている値、ε1、ε2について説明を行う。図13の縦軸において、縦軸値が1である、もしくは1にほぼ一致する測定位置において鉄筋は健全であると判断できる。1未満〜ε1の範囲対応する測定位置においては、鉄筋は軽微な腐食であると判断できる。また、図11の縦軸において、ε1〜ε2の範囲に対応する測定位置においては、鉄筋は中程度の腐食であること、さらに、ε2〜0では、鉄筋は重度の腐食であることを判定できる。ε1、ε2は数々の実験および現場計測によって見出した値である。ε1は0.6、ε2は0.3近辺である。
上記のように本発明によれば、超音波をもちいてコンクリート構造物1の鉄筋3の腐食状態を、例えば、健全、軽微の腐食、中程度の腐食、重度の腐食 の4段階に分けての判別が可能である。
【0043】
[II−4]応用計測例
探触子間距離Loは通常30cmから40cm程度で設定される。一方、図14に示したように、探触子間距離Loを1から2mに設定する方法が考えられる。図14では複数の探触子をメッシュ状に配置しているように見えるが、実際には1本の鉄筋に対して一対の送受信探触子を配置する。そして測定が終了したのち隣の鉄筋に送受信探触子を移動させ測定を実施する。上記測定を図14において上下方向および左右方向にて実施する。その測定波形を本発明による方法によって解析を実施すれば、広範囲な鉄筋の腐食程度を知ることが可能となる。
【0044】
上記実施例によれば以下の数々の効果が得られる。
1.コンクリート構造物の鉄筋腐食を非破壊で検査することが可能である。
2.鉄筋の腐食度合いを、例えば、健全、軽微の腐食、中程度の腐食、重度の腐食 の4段階に分けての非破壊検査が可能である。
3.鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合は、目視ではクラックの観察が不可能であるが、本手法を用いれば鉄筋腐食を非破壊で検査することが可能である。
4.鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合は、目視ではクラックの観察が不可能である。そのため従来では補修工事の対象外であった。そのため補修工事を実施してから1,2年後に再びコンクリートの剥落、クラックの発生が起こり、再度補修工事を行うことを強いられてきた。そのため保守コストが膨大な額となっていた。本発明を用いれば鉄筋から成長するクラックがコンクリート構造物表面まで達していない場合でも鉄筋の腐食程度を非破壊で検査することができ、真に適切な補修範囲を選定し補修工事が実行できる。そのため保守コストを大幅に減少させることが可能である。
5.従来はコンクリート構造物表面のコンクリートが剥離してから補修するのが常であった。補修範囲は剥離部のみか、または剥離部周辺を少々含む程度であった。しかし、コンクリートの剥離が発生しなくとも鉄筋の腐食は進行しており、コンクリート構造物全体としての耐力が減退してゆく。この耐力が大幅に減退した場合には、コンクリート構造物の、−一部損壊、地中構造物であれば一部損壊により道路陥没、地上建築物の傾斜などなど、さまざまな影響が発生し、社会問題化する可能性がある。本発明を用いれば、コンクリートが剥離していなくても鉄筋の腐食程度を非破壊で検査することが可能である。本手法をもちいて定期的にコンクリート構造物の検査・補修を行えば、従来に比較して格段とコンクリート構造物全体の耐力を維持できる。
6.従来行われている補修方法は、鉄筋深さ以上までコンクリートを掘削し新たに鉄筋を配置するなど大掛かりなものであり、コストも大幅に必要であった。本発明を用いれば鉄筋の腐食程度が非破壊で計測できるため、鉄筋腐食程度に応じた適切な補修工法を選択でき、補修コストの削減が可能となる。
7.地震、施工不良によりコンクリート構造物に強い応力が加わった場合にもクラックが発生する。この場合、鉄筋からクラックが発生することが多い。鉄筋は健全であるのにコンクリート構造物表面では目視でクラックが観測される,クラックが発生しているため数年、数十年後には鉄筋が腐食する可能性が高いが補修方法としては簡易な方法、たとえばコンクリート表面の止水処理、で十分である。しかし従来では鉄筋の腐食が検知できなかったため、上記場合でも本格的な補修が施されてきた。本発明を用いれば、クラックが発生していても鉄筋が腐食していないことが非破壊で計測できるため、簡易な補修方法を選択でき、補修・保守コストの大幅な減少となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】波形収集、および、抽出された波形のスペクトルを算出するまでの本実施例での基本的処理のフローチャートである。
【図2】送信探触子と受信探触子の配置図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【図3】超音波の伝播経路図を示す概念図である。
【図4】受信波形f0(t)である。
【図5】音速測定の模式図である。(a)は音速測定時での探触子は一途である。(b)は鉄筋伝播波形である。(c)はコンクリート伝播波形である。
【図6】角度θに対する伝播時間の変化を示すグラフである。
【図7】抽出した実鉄筋伝播波形fp(t)を示す図である。
【図8】実鉄筋伝播波形fp(t)のスペクトル図である。
【図9】腐食した鉄筋での計測模式図および鉄筋内部での散乱の模様を示す概念図である。
【図10】周波数Sua、Subを求める模式図である。
【図11】測定を行う鉄筋近辺の腐食度合いを示す模式図である。
【図12】測定位置mを示す模式図である。
【図13】各測定位置mでの規格化されたスペクトル州は巣Suoを示すグラフである。
【図14】応用測定例を示す概念図である。
【図15】鉄筋腐食によるコンクリート剥離の模様を示す概念図である。
【図16】自然電位法での計測模様を示す概念図である。
【図17】超音波計測の測定ブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
1:コンクリート構造物
2:コンクリート構造物表面
3:鉄筋
4:腐食した鉄筋
5:腐食部
6;コンクリートの剥離
7:クラック
8:コンクリート試験片
9:自然電位計測機
10:電極A
11:電極B
12:送信探触子
13:受信探触子
14:電圧発生器
15:受信機
16:圧電素子
17:接触媒体
18:制御部
19:演算部
20:表示部
21:超音波
22:鉄筋伝播波
23:コンクリート伝播波
24:超資波伝播経路
25:垂線
26:角度θ
27:実鉄筋伝播波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、
前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、
前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、
前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、
前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts:前記発信から受信までの時間
Te:定数
Z:1以上の任意の正数
【請求項2】
Sub/Suaを求めることにより鉄筋の腐食程度を定量的に表すことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Sua:健全な鉄筋の場合のSu
Sub:検査対象におけるSu
【請求項3】
L0/d0≧10とすることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
d0:鉄筋深さ
【請求項4】
Tsを次式により求めることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts=2×(d0/cosθ)×(1/Vc)+(L0−2d0・tanθ)×(1/VR)
θ:発信角度
Vc:コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【請求項5】
複数の測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを求めることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
【請求項1】
鉄筋コンクリート内の鉄筋の上に、送信探触子と受信探触子とを距離L0離して設置するステップ、
前記送信探触子から超音波を発信し、前記受信探触子において伝播波形fo(t)を受信するステップ、
前記伝播波形fo(t)から時間t=Ts〜Te間の波形fp(t)を抽出するステップ、
前記波形fp(t)から周波数関数のスペクトルS(f)を求めるステップ、
前記スペクトルS(f)のスペクトルピーク周波数Smの規格化されたピーク強度の1/Zとなる点に対応する周波数Suを求めるステップ、
を有することを特徴とするコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts:前記発信から受信までの時間
Te:定数
Z:1以上の任意の正数
【請求項2】
Sub/Suaを求めることにより鉄筋の腐食程度を定量的に表すことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Sua:健全な鉄筋の場合のSu
Sub:検査対象におけるSu
【請求項3】
L0/d0≧10とすることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
d0:鉄筋深さ
【請求項4】
Tsを次式により求めることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
Ts=2×(d0/cosθ)×(1/Vc)+(L0−2d0・tanθ)×(1/VR)
θ:発信角度
Vc:コンクリート中での音速
VR:鉄筋中での音速
【請求項5】
複数の測定位置mにおいてスペクトル周波数Suを求めることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のコンクリート構造物内の鉄筋腐食程度の非破壊検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−2923(P2008−2923A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172088(P2006−172088)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000100942)アイレック技建株式会社 (45)
【出願人】(594179177)株式会社エッチアンドビーシステム (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000100942)アイレック技建株式会社 (45)
【出願人】(594179177)株式会社エッチアンドビーシステム (5)
【Fターム(参考)】
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