説明

コンタクトレンズ及びその製造方法

【課題】従来方法に比べて、変形や劣化が低減され、かつ、表面に耐久性が高い親水性被膜を有するコンタクトレンズおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】親水性高分子を含む粘性溶液を、成形型へ塗布および乾燥して、親水性高分子で構成された外層を形成させる工程;親水性モノマーを含む溶液を、外層を形成させた成形型へ塗布して、親水性モノマー塗布層を内層として形成させる工程;コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を、内層を形成させた成形型へ注入した後、成形型を嵌合し、かつ、前記親水性モノマーおよび前記コンタクトレンズ基材モノマーを重合させることにより、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズ成形物を得る工程を含む、プラスチック製のコンタクトレンズ用成形型を用いてコンタクトレンズを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性表面を有するコンタクトレンズ及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ヒドロキシエチルメタクリレートやビニルピロリドン等の親水性モノマーを主成分とした含水性ソフトコンタクトレンズは装用感に優れるものの酸素透過性は低く、長時間の装用には適していない。そこで酸素透過性を向上させたものとして、シリコン含有モノマーを主成分とするコンタクトレンズが開発された。
【0003】
しかし、シリコン含有モノマーを主成分とするコンタクトレンズは、表面撥水性が強く、レンズ表面の水濡れ性、保水性、タンパク質や脂質に対する耐汚染性といった、連続装用に対して解決すべき問題を抱えている。そこで、表面撥水性が弱いシリコン含有モノマーを主成分としたコンタクトレンズが望まれていた。
【0004】
シリコン含有モノマーを主成分としたコンタクトレンズの強度な表面撥水性を回避する方法として、表面処理によるレンズ表面の親水性化がある。例えば、グラフト重合反応を利用したものとして、プラズマ処理を施したコンタクトレンズ基材表面に親水性モノマーをグラフト重合させて親水性を付与する方法(特許文献1参照)、親水性モノマーを乾式処理により表面グラフト重合する方法(特許文献2参照)、シリコンを含むハイドロゲルに低温プラズマ処理し、酸素雰囲気下に曝し、且つ100℃以上の温度において親水性モノマー水溶液中に浸漬処理する方法(特許文献3参照)が開示されている。さらに、コンタクトレンズ基材をメタンと湿潤空気のプラズマ重合処理後、非重合性ガスによりプラズマ処理する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、形成後のコンタクトレンズに表面処理を施すのではなく、コンタクトレンズを形成する成形型に予め親水性被膜を塗布し、それを用いてコンタクトレンズを形成することで親水性被膜をコンタクトレンズ表面に転写し、表面を親水性化する方法がある。例えば、成形面を離型性および親水性を有するポリマーで被覆したコンタクトレンズ成形用型内で(メタ)アクリル酸エステルと架橋性モノマーを主成分とするモノマー混合物を共重合してコンタクトレンズ形状の共重合体を製造した後、その表面をプラズマ処理する方法(特許文献5参照)、成形型表面の少なくとも一部にエキシマ光を照射後、コンタクトレンズ材料中の重合成分との相互作用によってコンタクトレンズ表面に固定可能な化合物又は該化合物の溶液を均一に塗布し、塗布後の成形型を用いてコンタクトレンズを得る方法(特許文献6参照)、コーティング剤を成形型表面に塗布し、その成形型内で、物品形成用材料を共重合して物品を形成する方法(特許文献7参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−49251号公報
【特許文献2】特開平8−319329号公報
【特許文献3】特開2003−215509号公報
【特許文献4】特開2007−70405号公報
【特許文献5】特開平7−266443号公報
【特許文献6】特開2003−1647号公報
【特許文献7】特表2005−520703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの方法においても問題がある。
表面処理によるレンズ表面の親水性化方法について、特許文献1〜4に記載の方法は、いずれも形成されたコンタクトレンズに対し親水性化処理を施すものであり、コンタクトレンズ基材にストレスが発生し、変形や劣化が生じることが予測される。また、これらの方法は、極めて大がかりな装置が必要であること、被膜を形成させるための条件設定が煩雑であることなどの問題点を有している。
【0008】
それに対して、成形型に親水性被膜を塗布する方法について、特許文献5〜7に記載の方法は、大がかりな装置を必要とせず、かつ、設定条件は限られている。しかし、これらのうち特許文献5および6に記載の方法は、成形面への被膜形成において、成形型と被膜の親和性を向上させるため、成形型表面へのプラズマ処理あるいは、エキシマ光照射を施しているため、成形型と被膜の密着性は著しく強く、コンタクトレンズを成形型より離型することが極めて困難となる。また、仮に離型が行えたとしても、過度の物理的な力を要することとなり、その結果、コンタクトレンズに変形や劣化が発生するなど、光学的特性に悪影響を及ぼすことが危惧される。したがって、特許文献5および6に記載の方法では、表面処理によるレンズ表面の親水性化方法において生じる、コンタクトレンズの変形や劣化の問題は改善されない。
【0009】
一方、特許文献7において開示された方法によれば、コンタクトレンズの変形や劣化を回避できる。しかし、コンタクトレンズ基材と親水性ポリマー層との接着界面については考慮されておらず、共重合性官能基を有しない親水性ポリマーは、界面において、その一部がコンタクトレンズ中に埋設されているに過ぎない。このため、特許文献7に記載の方法により得られたコンタクトレンズは、親水性被膜とコンタクトレンズ基材との密着性、すなわち、親水性被膜の耐久性が実用に耐えうるものではない。
【0010】
そこで本発明者は、上記課題、すなわち、従来方法に比べて、変形や劣化が低減され、かつ、表面に耐久性が高い親水性被膜を有するコンタクトレンズおよびその製造方法を提供することを、本発明が解決しようとする課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、インモールド製法によって、成形型から離型し易く、かつ、表面に耐久性が高い親水性被膜を有するコンタクトレンズを製造する方法の開発を試みた。鋭意検討した結果、成形型に対し親和性の高い第1の親水性高分子を含む粘性溶液を成形型に塗布および乾燥させ、次いでその上に親水性モノマーを含む溶液を塗布した後にコンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を注入し、次いでこれらのモノマーの共重合および成形を実施することにより、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズを得ることに本発明者は成功した。このようにして得たコンタクトレンズは、インモールド製法において、親水性被膜を成形型表面に形成する際、プラズマ照射等の物理的処理を必要とせず、さらには、コンタクトレンズ形成後に表面改質処理を施すことなく、耐久性に優れた親水性表面を有するものであった。本発明は、上記知見によって完成されたものである。
【0012】
したがって、本発明によれば、プラスチック製のコンタクトレンズ用成形型を用いてコンタクトレンズを製造する方法であって;
(1)第1の親水性高分子を含む粘性溶液を、前記成形型の雄型および雌型へ塗布および乾燥して、前記第1の親水性高分子で構成された外層を形成させる工程;
(2)親水性モノマーを含む溶液を、前記工程(1)によって外層を形成させた成形型の雄型および雌形へ塗布して、親水性モノマー塗布層を内層として形成させる工程;
(3)コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を、前記工程(2)によって内層を形成させた成形型の雌型へ注入した後、前記成形型の雄型および雌型を嵌合し、かつ、前記親水性モノマーおよび前記コンタクトレンズ基材モノマーを重合させることにより、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズ成形物を得る工程;および
(4)前記工程(3)によって得られたコンタクトレンズ成形物を成形型より離型させてコンタクトレンズを得る工程
を含む、前記方法が提供される。
好ましくは、前記親水性モノマーを含む溶液が、第2の親水性高分子を含む。
好ましくは、前記親水性モノマーの一部が、前記コンタクトレンズ基材モノマーの一部と同一である。
【0013】
本発明の別の側面によれば、本発明の方法によって得られる、コンタクトレンズが提供される。
【0014】
本発明の別の側面によれば、第1の親水性高分子で構成された外層;
前記外層下における親水性モノマー重合体で構成された内層;および、
前記内層下におけるコンタクトレンズ基材モノマー重合体
を含む、コンタクトレンズが提供される。
好ましくは、前記親水性モノマーの一部が、前記コンタクトレンズ基材モノマーの一部と同一である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、インモールド製法による簡素化された処理方法にて、表面に親水性を付与したコンタクトレンズを得ることが可能である。また、成形型よりコンタクトレンズを離型する際、過度な物理的な力を必要としないため、得られるコンタクトレンズの光学的特性への悪影響を抑止することが可能である。本発明の方法によれば、保水性、耐汚染性に優れた親水性被膜をコンタクトレンズ基材上に形成することが可能である。
【0016】
本発明のコンタクトレンズは、親水性被膜とコンタクトレンズ基材の界面における屈折率の差を低減することが可能なものであり、装用時の視力矯正性を向上させることが期待できる。さらには、親水性被膜とコンタクトレンズ基材の膨潤率を同一とすることで、コンタクトレンズの膨潤時における歪みを抑止することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の方法は、プラスチック製のコンタクトレンズ用成形型を用いてコンタクトレンズを製造する方法に関する。本発明の方法によって得られるコンタクトレンズは、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズである。
【0018】
本発明の方法は、第1の親水性高分子を含む粘性溶液を、プラスチック製のコンタクトレンズ用成形型の雄型および雌型へ塗布および乾燥して、前記第1の親水性高分子で構成された外層を形成させる工程(工程(1)ともよぶ)を含む。工程(1)によって形成された外層は親水性高分子で構成された親水性の層である。したがって、本発明の方法によって得られるコンタクトレンズは、親水性の層を外層として有することにより、レンズ表面に親水性被膜が付与される。
【0019】
使用する第1の親水性高分子は外層形成後も親水性を失わないものであれば特に制限されないが、たとえば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメタクリロイルオキシホスホリルコリン(MPCポリマー)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシメチルセルロース(HEMC)、ポリクオタニウム−11、ポリクオタニウム−33、ポリクオタニウム−49といった合成高分子類や、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、セリシンといった天然高分子類などが挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して用いることができる。成形型表面への伸張性および塗布後の密着性の観点から、本発明の方法で好ましく用いられるのは合成高分子類であり、より好ましくはメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキメチルセルロースなどのセルロース誘導体である。
【0020】
第1の親水性高分子を溶解する際に用いられる溶媒は、第1の親水性高分子を溶解可能なものであれば特に制限されないが、たとえば、水、有機溶媒が挙げられ、これらを単独または混合して用いることが可能である。
【0021】
第1の親水性高分子を適当な溶媒に溶解して得た溶液には粘性がある。該溶液が粘性を有していることにより、該溶液の成形型への密着性が向上し、プラズマ照射やコロナ放電などの物理的処理がなくとも、均一な親水性高分子膜をプラスチック製の成形型表面に形成することが可能である。プラズマ照射等の物理的処理を施さないことで、親水性被膜と成形型の密着性が低減され、コンタクトレンズと成形型の離型を容易に行うことができる。したがって、本発明の方法の工程(1)を実施すれば、従来技術にあるような、コンタクトレンズを成形型から離型する際に生じるレンズの歪みを回避することができ、さらにこのことを原因とする光学的特性への悪影響を防止することができる。
【0022】
工程(1)においてプラスチック製のコンタクトレンズ用成形型の雄型および雌型へ塗布される溶液の粘度は、好ましくは300〜1500mPa・sであり、より好ましくは500〜1000mPa・sである。上記溶液へ粘性を付与する方法は特に制限されないが、たとえば、第1の親水性高分子の添加量を調節することにより実施できる。たとえば、第1の親水性高分子の添加量を0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%に調節することにより、溶液に粘性を付与することができる。ただし、第1の親水性高分子の添加量が0.1重量%より少ない場合、溶液の粘性が得られないため成形型への密着性が悪くなり、親水性被膜の外層を形成できない可能性がある。また、第1の親水性高分子の添加量が20重量%を超えた場合は、溶液粘度が非常に強まり、塗布性が悪く均一な親水性被膜の外層が形成できない可能性がある。
【0023】
本発明の方法で用いられるプラスチック製のコンタクトレンズ用成形型は、コンタクトレンズをインモールド製法によって製造する際に用いられる成形型であれば特に制限されず、これまでに使用されている種々のものが使用可能である。成形型の雄型および雌型は、当業界における成形型に用いられている意味のものであり、通常、雄型は凸状型、雌型は凹状型をしている。
【0024】
工程(1)において、第1の親水性高分子を含む粘性溶液を、前記成形型の雄型および雌型へ塗布する方法としては特に制限されないが、たとえば、スピンコーティングによる方法、スプレーによる方法、ディッピングによる方法、パッド印刷による方法等が挙げられる。好ましくは、形成される親水性被膜の膜厚を制御するのに適している、スピンコーティングによる方法またはパッド印刷による方法である。より好ましくは、成形型の形状を考慮し、雄型はパッド印刷、雌型はスピンコーティングによる方法とすることで、より均一な塗布を行うことが可能となる。これらの方法により形成された親水性被膜の膜厚は、得られるコンタクトレンズの光学特性を考慮し、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
【0025】
成形型の雄型および雌型へ塗布された溶液の液体部を乾燥する方法は通常の液体乾燥法を適用することができ、特に制限されないが、たとえば、乾燥機等により連続的に50〜100℃の温度範囲で液体部を除去する。この乾燥態様において、第1の親水性高分子で構成された外層を成形型に形成させるために、第1の親水性高分子を溶解する溶媒の沸点は100℃以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の方法は、工程(1)の後に、親水性モノマーを含む溶液を、工程(1)によって外層を形成させた成形型の雄型および雌形へ塗布して、親水性モノマー塗布層を内層として形成させる工程(工程(2)ともよぶ)を含む。工程(1)で形成された外層を構成する第1の親水性高分子は、工程(2)で形成される親水性モノマー塗布層(内層)に対してアンカー的な役割を果たす。一方、外層と成形型表面との間は粘着しているにすぎない。したがって、外層と内層との接着性は、外層と成形型表面との接着性に比べて強固である。この接着性の相違により、離型時に、外層である親水性高分子層はコンタクトレンズ側と接着することとなり、二層からなるコンタクトレンズが形成される。
【0027】
親水性モノマーを含む溶液は、重合性の親水性モノマーの他に多官能性の架橋成分などを混合させて調製することができる。
【0028】
親水性モノマーは特に制限されないが、たとえば、(メタ)アクリル基含有モノマーおよびビニル基含有モノマーを挙げることができる。具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセロールメタクリレート、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルホルムアミド、N−ビニルホルムアミドなどが挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
親水性モノマーを含む溶液には、多官能性の架橋成分が添加されていることが好ましい。多官能性の架橋成分としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエリチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系架橋剤、アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、ジアリルエーテル、N,N−ジアリルメラミン、ジビニルベンゼン等のビニル系架橋剤が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
配合する親水性モノマーの総量は全重合成分に対して50〜99重量%が好ましく、より好ましくは60〜95重量%である。添加する多官能性の架橋成分は全重合成分に対し1〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜40重量%である。親水性モノマーの総量が50%未満であり、かつ、多官能性の架橋成分総量が50重量%以上であると、親水性被膜を形成する重合体の架橋密度が高まることで膨潤率が低くなるため、親水性被膜内に水分が吸収されにくく、コンタクトレンズ表面に好適な水分が付与されない傾向にある。また、重合性親水性モノマー総量が99重量%である場合、親水性被膜の膨潤率とコンタクトレンズ基材の膨潤率に差が生じる傾向にある。したがって、所望の膨潤率に合わせて、多官能性の架橋成分の配合量を適宜調整するといい。
【0031】
親水性モノマー溶液に第2の親水性高分子を添加することにより、得られる混合溶液を成形型への塗布に適した粘度に調整することが可能となる。また、親水性モノマーを硬化して得られる親水性被膜の内層に親水性高分子が存在すると、いわゆる相互侵入網目構造(IPN)が形成されることとなり、コンタクトレンズ表面の保水性や耐汚染性が向上する傾向にある。
【0032】
第2の親水性高分子は、第1の親水性高分子として使用でき るものとして列挙したものの中から適宜選択して用いることができる。第2の親水性高分子と第1の親水性高分子とは、全部または一部が同一であってもよく、全く相違するものであってもよい。本発明の方法で好ましく用いられる第2の親水性高分子は合成高分子類であり、より好ましくはポリビニルピロリドン、ポリクオタニウム、メチルセルロースであり、これらを単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
第2の親水性高分子の添加量としては、好ましくは0.1〜20重量%であり、より好ましくは1〜10重量%である。添加量が0.1重量%より少ない場合、形成される親水性被膜の保水性が十分でないため、乾燥が生じやすい。また、20重量%を超えた場合、親水性被膜の内層を重合し硬化する際、ポリマー形成の妨げとなるため、良好な親水性被膜が形成されにくい傾向にある。また、粘度が増加するため、均一な被膜を形成できない可能性がある。
【0034】
親水性モノマーを含む溶液は、工程(1)で用いられる第1の親水性高分子を含む粘性溶液と同程度の粘性があることが好ましく、たとえば、粘度が300〜1500mPa・sであるのが好ましく、500〜1000mPa・sであるのがより好ましい。
【0035】
なお、後述するように、親水性モノマーを含む溶液は、重合開始剤などを含み、工程(3)において共重合反応に供される。
【0036】
親水性モノマーを含む溶液へ眼科用薬剤の水溶液を添加してもよい。眼科用薬剤を使用した場合、眼科用薬剤は装用時に薬効を発揮できるのに十分な量を含有していればよい。
【0037】
工程(1)によって外層を形成させた成形型の雄型および雌形への親水性モノマーを含む溶液の塗布は、工程(1)において、第1の親水性高分子を含む粘性溶液を成形型の雄型および雌型へ塗布する方法を参照して実施できる。親水性モノマーを含む溶液の成形型への塗布により親水性モノマー塗布層が形成される。この親水性モノマー塗布層は、後述する親水性モノマーの重合反応により、本発明の方法により得られる外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズの内層となる。そこで、本明細書では、親水性モノマーの重合体で構成される層だけでなく、上記親水性モノマー塗布層についても内層と総称する。
【0038】
本発明の方法は、コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を、工程(2)によって内層を形成させた成形型の雌型へ注入した後、前記成形型の雄型および雌型を嵌合し、かつ、前記親水性モノマーおよび前記コンタクトレンズ基材モノマーを重合させることにより、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズ成形物を得る工程(工程(3)ともよぶ)を含む。
【0039】
本発明の方法によって得られるコンタクトレンズは、工程(3)で用いるコンタクトレンズ基材モノマーを変えることによって、種々の態様を取り得る。たとえば、シリコン含有モノマーおよび/またポリシロキサンマクロマーを構成成分とする、いわゆる疎水性表面を有するコンタクトレンズの態様を採ることができ、好ましくはシリコン含有モノマーおよび/またポリシロキサンマクロマーと重合性親水性モノマーを構成成分とする、いわゆるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの態様を採り得る。
【0040】
本発明の方法によって得られるコンタクトレンズがシリコン含有モノマーを構成成分として得られる、いわゆる疎水性表面を有するコンタクトレンズの態様を採る場合、工程(3)で用いられるコンタクトレンズ基材モノマーは、シリコン含有(メタ)アクリレートおよびポリシロキサンマクロマーの少なくとも1種を含み、これらを適宜混合したものとすることもできる。コンタクトレンズ基材モノマーは、工程(2)で用いられる親水性モノマーと共重合可能なものであることが好ましい。
【0041】
シリコン含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート]、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート]、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキシプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルジメチルメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルジメチルエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン等の直鎖状、分岐状または環状のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
また、ポリシロキサンマクロマーは、一般式(1)で示される。
【化1】

一般式(1)
(式中Xは独立して、水素原子、水酸基、メチル基、CH=CH−または、下記一般式(2)のエチレン性不飽和の重合性基を示す。
【化2】

一般式(2)
(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、nは2〜5の整数である。)
ただし、両方のXが水素原子、水酸基またはメチル基であることはない。R、R、RおよびRはそれぞれ同一又は異なるメチル基、又はトリメチルシロキシ基を表わし、mは10〜150の整数である。)
【0043】
ポリシロキサンマクロマーの具体例としては、α−モノ(メタクリロキシメチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(メタクリロキシメチル)ポリジメチルシロキサン、α−モノ(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−モノ(3−メタクリロキシブチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(3−メタクリロキシブチル)ポリジメチルシロキサン、α−モノビニルポリジメチルシロキサン、α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサンが挙げられるが、好ましくは、α,ω−ジ(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンである。
【0044】
コンタクトレンズ基材モノマーの一部として重合性の親水性モノマーを1種または2種以上含むことが可能である。コンタクトレンズ基材モノマーとして用いられる親水性モノマーは工程(2)で用いられる親水性モノマーと全部または一部が同一であってもよく、互いに相違していてもよい。
【0045】
コンタクトレンズ基材モノマーとして用いられる親水性モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル基含有モノマー及びビニル基含有モノマーを用いることができる。具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセロールメタクリレート、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルホルムアミド、N−ビニルホルムアミドが挙げられる。コンタクトレンズ基材モノマーの一部が親水性モノマーであることによって、得られるコンタクトレンズに適度な親水性と柔軟性を付与することが可能となるため、装着者にとって装用感の向上が期待できる。
【0046】
本発明の方法の好ましい態様では、コンタクトレンズ基材モノマーに含まれる親水性モノマーの全部または一部と工程(2)で用いられる親水性モノマーの全部または一部とが同一である。コンタクトレンズ基材の親水性成分として用いる重合性親水性モノマーと、被膜形成用の重合性親水性モノマーが同一であることにより、コンタクトレンズ基材と親水性被膜との共重合性が向上し、より強固に結合することとなるため、耐久性に優れる親水性被膜を形成することが可能となる。また、コンタクトレンズ基材の膨潤率と親水性被膜の膨潤率が同一となることで、膨潤率の相違により生じる不正膨潤が原因となる歪みが抑止され、さらには、コンタクトレンズ基材と親水性被膜の界面における屈折率の相違も抑制されるため、得られるコンタクトレンズの光学特性の向上にも繋がり得る。
【0047】
コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液は、前記シリコン含有(メタ)アクリレート、ポリシロキサンマクロマー、親水性モノマーのほかに、コンタクトレンズの製造に一般的に用いられる、これらと共重合可能なモノマーを適宜混合することにより調製できる。溶液の調製の際に、コンタクトレンズ基材モノマーと相溶性の溶媒を用いてもよい。
【0048】
工程(3)では、コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を、通常用いられる方法を用いて、工程(2)によって内層を形成させた成形型の雌型へ注入する。当業界の技術常識として、コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を成形型の雄型へ注入するのは困難であることから、成形型の雌型へ注入する。したがって、「成形型の雌型へ注入する」ことは、工程(3)を不要に限定するものではない。
【0049】
工程(3)では、コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を成形型の雌型へ注入した後、成形型の雄型および雌型を通常用いられる態様で嵌合し、かつ、工程(2)で用いた親水性モノマーおよび上記コンタクトレンズ基材モノマーを重合させる。工程(2)で用いた親水性モノマーの共重合とコンタクトレンズ基材モノマーの共重合とを並行して進行させることで、得られるコンタクトレンズの内層、すなわち親水性被膜部とコンタクトレンズ基材部の密着性を向上させることができる。
【0050】
共重合反応は特に制限されないが、たとえば、溶液中にラジカル重合開始剤や光増感剤を添加し、これらに依存する共重合に適した条件で実施することができる。ラジカル重合開始剤としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス酪酸ジメチル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などのアゾ系重合開始剤、ジイソブチリールパーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4−ターシャリーブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーヘキシルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーブチルパーオキシネオデカノエート、ターシャリーヘキシルパーオキシピバレート、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−ヘキサノイル)パーオキシヘキサン、ターシャリーヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシイソブチレート、ターシャリーヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、ターシャリーブチルパーオキシマレイン酸、ターシャリーブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ターシャリーブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、ターシャリーヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ターシャリーブチルパーオキシ酢酸、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物系重合開始剤がある。
【0051】
本発明の方法では、工程(2)で用いる親水性モノマーおよび工程(3)で用いるコンタクトレンズ基材モノマーを同時的に共重合させることから、これらの共重合反応に用いるラジカル重合開始剤は同種であることが好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量は特に制限されないが、たとえば、共重合体成分100重量%に対して0.001〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0052】
本発明の方法は、工程(3)によって得られたコンタクトレンズ成形物を成形型より離型させてコンタクトレンズを得る工程(工程(4)ともよぶ)を含む。この際、過剰な物理的応力をかけずとも、コンタクトレンズ成形物を成形型より離型させることができる。結果として、表面に耐久性が高い親水性被膜を有しつつ、成形型の離型の際に生じる変形や劣化が極端に小さいコンタクトレンズが得られる。
【0053】
本発明の方法は、工程(1)〜(4)を順に実施することが好ましいが、その間に洗浄工程などの本発明の方法によって得られるコンタクトレンズの物理的・化学的特性に悪影響をもたらさない程度の種々の工程を実施することが可能である。
【0054】
本発明の別の態様として、本発明の方法によって得られるコンタクトレンズがある。このようなコンタクトレンズは、第1の親水性高分子で構成された外層;
該外層下における親水性モノマー重合体で構成された内層;および、該内層下におけるコンタクトレンズ基材モノマー重合体という構造を採り得る。
【0055】
以下、本発明の好ましい実施例を説明するが、この実施例は本発明の理解のために提供されるものであって、本発明の範囲がかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
1.評価方法
コンタクトレンズの評価方法として、以下の試験、評価基準を採用した。
【0057】
[溶液粘度]
粘度測定器RB−80L(東機産業株式会社製)を用い、粘度を測定した。
【0058】
[透明性]
表面処理を施したコンタクトレンズを目視にて評価した。
○:完全透明。
×:一部白濁(乳白色)あり。
【0059】
[水濡れ性1]
表面処理を施したコンタクトレンズを37±2℃の生理食塩水に24時間浸漬し、その後取り出したときの表面の水濡れ性を目視にて評価した。
○:全体的に良好な水濡れ性を示している。
△:部分的に水弾きが確認される。
×:全体的に水弾きが確認される。
【0060】
[接触角1]
上記の通り水濡れ性1の評価を終了したコンタクトレンズについて、表面の水分を拭き取った後に、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液滴法にて接触角の測定を行った。
【0061】
[保水性1]
表面処理を施したコンタクトレンズを37±2℃の生理食塩水に24時間浸漬し、表面の水分を拭き取った後に大気中室温においてレンズ重量を測定した。その後一定時間経過ごとのレンズ重量を重量変化がなくなるまで測定した。浸漬後のレンズ重量と、一定時間経過後のレンズ重量との差分を蒸発した水分量とし、この蒸発した水分量と含水量とから、下記式(1)に従って、レンズ中の水分残存率を算出し、その値を保水性の評価として用いた。
式(1):水分残存率(%)=100−{蒸発水分量(g)/レンズ含水量(g)×100}
また、その結果から、測定20分経過時の水分残存率を以下の基準により評価した。
○:レンズ中の水分残存率が25%以上である。
×:レンズ中の水分残存率が25%未満である。
【0062】
[水濡れ性2]
表面処理を施したコンタクトレンズを専用の洗浄剤(オプティフリー/アルコン株式会社製)を用い、手指により30回の擦り洗いを行った後、水濡れ性1と同様の方法にて評価した。
○:全体的に良好な水濡れ性を示している。
△:部分的に水弾きが確認される。
×:全体的に水弾きが確認される。
【0063】
[接触角2]
上記の通り水濡れ性2の評価を終了したコンタクトレンズについて、表面の水分を拭き取った後に、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液滴法にて洗浄後の接触角の測定を行った。
【0064】
[保水性2]
表面処理を施したコンタクトレンズを専用の洗浄剤(オプティフリー/アルコン株式会社製)を用い、手指により30回の擦り洗いを行った後、保水性1と同様の重量測定を行い、下記式(2)に従って、レンズ中の水分残存率を算出し、その値を保水性の評価として用いた。
式(2):水分残存率(%)=100−{蒸発水分量(g)/レンズ含水量(g)×100}
また、その結果から、測定20分経過時の水分残存率を以下の基準により評価した。
○:レンズ中の水分残存率が25%以上である。
×:レンズ中の水分残存率が25%未満である。
【0065】
[耐久性]
手指により30回の擦り洗いを行った後の接触角測定結果[接触角2]について、擦り洗い前の[接触角1]との差を耐久性の評価として用いた。
○:接触角の差が+10°未満
△:接触角の差が+10°以上30°未満
×:接触角の差が30°以上
【0066】
[不正膨潤評価]
表面処理を施したコンタクトレンズを膨潤後、径の最長部において切断し、幅1.0mmの短冊を作製した。投影機プロファイル・プロジェクタ(ニコン株式会社製)を用い、短冊を横方向から見た際の変形(カール(内巻き)、反り(外巻き))の発生有無の確認を行った。(○以上であれば、装用可能である。)
◎:カール、反りなし
○:わずかにカール、反りあり
△:やや大きなカール、反りあり
×:コンタクトレンズの状態でカール、反り発生あり
【0067】
[サンプルレンズの調整]
(サンプルレンズA)
α,ω−ジ(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(FM−7725 チッソ株式会社製)30重量%、n−ブチルビニルエーテル(NBVE 日本カーバイド工業株式会社製)30重量%、N−ビニルピロリドン(NVP)30重量%、トリデシルメタクリレート(TDMA)10重量%を量り込み、各成分が均一になるように室温にて30分攪拌した後に、重合開始剤としてターシャリーブチルパーオキシデカノエート(t−BuND)をモノマー混合溶液100重量%に対し0.5重量%添加した。
【0068】
(サンプルレンズB)
α,ω−ジ(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(FM−7725 チッソ株式会社製)30重量%、n−ブチルビニルエーテル(NBVE 日本カーバイド工業株式会社製)30重量%、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)30重量%、トリデシルメタクリレート(TDMA)10重量%を量り込み、各成分が均一になるように室温にて30分攪拌した後に、重合開始剤としてターシャリーブチルパーオキシデカノエート(t−BuND)をモノマー混合溶液100重量%に対し0.5重量%添加した。
【0069】
2.成形型の親水性被膜形成及びコンタクトレンズ製造
(1)例1
80℃の100mL超純水にヒドロキシプロピルメチルセルロース(60SH−50 信越化学工業社製)5.0(g)を量り込み、室温にて1時間攪拌した。得られた水溶液をポリプロピレン製のコンタクトレンズ用成形型の雌型に30μL滴下し、スピンコーター 1H−DX2(ミカサ株式会社製)にて約7000rpmで20秒スピンさせ塗布した。また、ポリプロピレン製のコンタクトレンズ用成形型の雄型にパッド印刷 hermetic611(株式会社第一メカテック社製)にて塗布した。各々、50℃恒温にて5時間乾燥させ、親水性被膜の外層を形成した。
【0070】
次いで、N−ビニルピロリドン(NVP 日本触媒株式会社製)80重量%、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA 三菱レイヨン株式会社製)20重量%からなる親水性モノマー混合溶液100重量%に対し、ポリビニルピロリドン(K−90 五協産業株式会社製)を1.0重量%量り込み、各成分が均一になるように室温にて30分攪拌した後に、重合開始剤としてターシャリーブチルパーオキシデカノエート(t−BuND)を0.5重量%添加し、さらに室温にて30分攪拌した。得られた親水性高分子を含む重合性親水性モノマー溶液を、親水性高分子を塗布したポリプロピレン製のコンタクトレンズ用成形型の雌型に30μL滴下し、スピンコーター 1H−DX2(ミカサ株式会社製)にて約7000rpmで20秒スピンさせ塗布し、また、ポリプロピレン製のコンタクトレンズ用成形型の雄型にパッド印刷 hermetic611(株式会社第一メカテック社製)にて塗布し、各々親水性被膜の内層を形成し、二層からなる親水性被膜で被覆されたコンタクトレンズ用成形型を作製した。この成形型を用いて上記にて調整した、サンプルレンズA用モノマーを注入し、窒素雰囲気下、70℃で10時間加温し、コンタクトレンズを得た。
【0071】
(2)例2〜8
表1に示す配合量で、親水性被膜の外層及び内層形成用溶液を調整し、雄型、雌型各々に塗布した後、上記にて調整した、サンプルレンズ用モノマーのAあるいはBを注入し、窒素雰囲気下、70℃で10時間加温し、コンタクトレンズを得た。塗布は、スピンコーティング 1H−DX2(ミカサ株式会社製)あるいは、パッド印刷 hermetic611(株式会社第一メカテック社製)を用いて行った。スピンコーティング条件及び、外層塗布後の被膜乾燥条件は、例1に示すのと同一条件である。
【0072】
得られたコンタクトレンズを40℃恒温のエタノール:純水=80:20からなる溶液中に3時間浸漬し、未反応部の抽出を行った後、リン酸緩衝液(PBS)中に移しコンタクトレンズ中のエタノールを除去し、目的のコンタクトレンズを得た。得られたコンタクトレンズについて透明性、水濡れ性、接触角、保水性の評価を上記方法にて行った。
【0073】
(3)例9
親水性被膜の外層を形成するための親水性高分子の塗布を行わずに、内層を形成する親水性化合物混合溶液を塗布した以外は、例1に示すのと同様の方法にて処理を行い、その後、上記にて調整した、サンプルレンズA用モノマーを注入し、窒素雰囲気下、70℃で10時間加温し、コンタクトレンズを得た。得られたコンタクトレンズについて上記評価を行った。
【0074】
例9では、親水性被膜の外層が形成されていないため、内層となる重合性親水性モノマー混合溶液を塗布することができず、得られたコンタクトレンズの表面は撥水性を示した。
【0075】
(4)例10
親水性被膜の外層を形成後、内層となる親水性化合物混合溶液を塗布せずにコンタクトレンズを製造した以外は、例1に示すのと同様の方法にて処理を行い、その後、上記にて調整した、サンプルレンズA用モノマーを注入し、窒素雰囲気下、70℃で10時間加温し、コンタクトレンズを得た。得られたコンタクトレンズについて上記評価を行った。
【0076】
例10では透明性、水濡れ性に対して初期値では好結果を示したが、内層となる重合性親水性モノマー混合溶液が塗布されておらず、親水性被膜とコンタクトレンズの密着性が低いため擦り洗いサイクル試験後の接触角および保水性が低い結果となった。
【0077】
(5)例11
親水性被膜の内層を形成する親水性化合物混合溶液に親水性高分子を添加せずに塗布した以外は、例1に示すのと同様の方法にて処理を行い、その後、上記にて調整した、サンプルレンズA用モノマーを注入し、窒素雰囲気下、70℃で10時間加温し、コンタクトレンズを得た。得られたコンタクトレンズについて上記評価を行った。
【0078】
例11では、内層となる重合性親水性モノマー混合溶液に親水性高分子を添加していないため、表面の親水性には優れるものの、保水性が低い結果となった。
【0079】
得られた結果を以下に表1に示すが、例9〜11と比較して、例1〜8では、透明性、水濡れ性、接触角、保水性の測定において、手指による30回の擦り洗い前後での測定値は安定しており、耐久性に対しても良好な結果を示した。
HPMC;ヒドロキシメチルセルロース(60SH−50/信越化学工業)
MC;メチルセルロース(SM/信越化学工業)
HEMC;ヒドロキシエチルメチルセルロース(SEB/信越化学工業)
PVA;ポリビニルアルコール(JMR10−H/日本酢ビ・ポバール)
PVP;ポリビニルピロリドン(K−90/五協産業)
PQ−11;ポリオクタニウム−11(H.C.ポリマー1S(M)/大阪有機化学工業)
【0080】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製のコンタクトレンズ用成形型を用いてコンタクトレンズを製造する方法であって;
(1)第1の親水性高分子を含む粘性溶液を、前記成形型の雄型および雌型へ塗布および乾燥して、前記第1の親水性高分子で構成された外層を形成させる工程;
(2)親水性モノマーを含む溶液を、前記工程(1)によって外層を形成させた成形型の雄型および雌形へ塗布して、親水性モノマー塗布層を内層として形成させる工程;
(3)コンタクトレンズ基材モノマーを含む溶液を、前記工程(2)によって内層を形成させた成形型の雌型へ注入した後、前記成形型の雄型および雌型を嵌合し、かつ、前記親水性モノマーおよび前記コンタクトレンズ基材モノマーを重合させることにより、外層および内層の二層をコンタクトレンズ基材上に形成させたコンタクトレンズ成形物を得る工程;および
(4)前記工程(3)によって得られたコンタクトレンズ成形物を成形型より離型させてコンタクトレンズを得る工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記親水性モノマーを含む溶液が、第2の親水性高分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親水性モノマーの一部が、前記コンタクトレンズ基材モノマーの一部と同一である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって得られる、コンタクトレンズ。
【請求項5】
第1の親水性高分子で構成された外層;
前記外層下における親水性モノマー重合体で構成された内層;および、
前記内層下におけるコンタクトレンズ基材モノマー重合体
を含む、コンタクトレンズ。
【請求項6】
前記親水性モノマーの一部が、前記コンタクトレンズ基材モノマーの一部と同一である、請求項5に記載のコンタクトレンズ。




【公開番号】特開2012−37647(P2012−37647A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176247(P2010−176247)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000131245)株式会社シード (30)
【Fターム(参考)】